説明

弁体研磨装置

【課題】弁類の弁体の研磨作業において、職人的な技術や熟練を必要とすることなく、作業者によって仕上がりの状態にばらつきが生じない弁体研磨装置を提供する。
【解決手段】本発明の弁体研磨装置10は、安全弁の弁体41のシール面を研磨するための装置であって、定盤11と、定盤11の一方の面11aに載設されたガラス板12と、定盤11の一方の面11aに立設された支柱13と、支柱13に支持部15を介して固定され、押圧手段を備えた本体14と、本体14と定盤11の一方の面11aに配された弁体41との間に介在させ、本体14からの力を弁体41に加えるための球体16とを備えてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全弁などの弁類の内部の部品である弁体の研磨を行う研磨装置に関し、さらに詳しくは、定盤、弁体固定冶具、弁体固定ハンドルなどから構成される弁体研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水、ガス、油などの流体を貯えるためのタンクなどの容器には、その内部圧力が規定以上の圧力になった場合、それ以上の圧力の上昇を防止し、容器の破損を防止するために、安全弁などの弁類が設けられている。この安全弁は、その内部部品として、一方のシール面(着座面)を有する弁体と、その弁体を着座させる他方のシール面(弁座面)を有する弁座形成体とを備えている。この安全弁は、弁体のシール面と弁座形成体のシール面の間を開いて開状態(規定圧力(設定圧力)以下では閉状態)になることによって、上記の流体を容器外へ逃がすことにより、容器内の圧力を規定圧力まで圧力を降下させる。
【0003】
このような安全弁は、経年劣化などにより、規定圧力以下においても開状態となる現象(出流れ)が発生することがある。このような現象は、安全弁の弁体において、そのシール面の平滑度が損なわれることにより、弁体と弁座形成体との密着性が悪くなることに起因している。
そこで、このような現象が発生した場合、従来、安全弁の内部から弁体を取り出し、作業員の手作業によって、その弁体のシール面を研磨することが行われていた。すなわち、作業員が弁体を直接、手で保持して回転させながら、ステンレス鋼製の定盤上に設置した研磨紙や研磨剤により、その弁体のシール面を研磨し、そのシール面を平滑にすることが行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、作業員の手作業による弁体の研磨作業には、職人的な技術や熟練が要求されるため、作業者によって仕上がりの状態(シール面の平滑性)にばらつきが生じるという問題があった。
なお、本件出願人は、これまでに、弁体の研磨装置に関する知見を有していなかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、弁類の弁体の研磨作業において、職人的な技術や熟練を必要とすることなく、作業者によって仕上がりの状態にばらつきが生じない弁体研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の弁体研磨装置は、弁類の弁体のシール面を研磨するための弁体研磨装置であって、定盤と、該定盤の一方の面に立設された支柱と、該支柱に支持部を介して固定され、押圧手段を備えた本体と、該本体と前記定盤の一方の面に配された弁体との間に介在され、前記本体からの押圧力を前記弁体に加えるための球体とを備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の弁体研磨装置によれば、定盤の一方の面上にフィルム研磨材を載置するか、あるいは、研磨剤を塗布し、これらフィルム研磨材あるいは研磨剤上に弁体を配置し、さらに、弁体の凹部に嵌合した球体を介して、本体と弁体を接続することにより、本体の中心軸と、弁体の中心軸とが多少ずれていても、本体により弁体に対して均等に押圧力を加えることができるので、弁体を手で回転させても、そのシール面の研磨作業にばらつきが生じない。したがって、本発明の弁体研磨装置を用いた弁体の研磨作業によれば、作業者の技量や熟練を必要とすることがなく、本体の中心軸と弁体の中心軸の位置合わせなどの非常に手間がかかる作業を省略することができるため作業効率が向上するとともに、常に弁体のシール面をほぼ均一な平滑面に仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の弁体研磨装置の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0009】
図1は、本発明の弁体研磨装置の一実施形態を示す概略斜視図である。図2は、本発明の弁体研磨装置の一実施形態を示し、(a)は概略平面図、(b)は一部断面の概略正面図である。図3は、本発明の弁体研磨装置の一実施形態を構成する本体の概略断面図である。
本実施形態の弁体研磨装置10は、定盤11と、この定盤11の一方の面11aに載設されたガラス板12と、定盤11の一方の面11aに立設された支柱13と、この支柱13に支持部15を介して固定され、押圧手段を備えた本体14と、この本体14と定盤11の一方の面11aに配された弁体との間に介在させ、本体14からの押圧力を弁体に加えるための球体16とから概略構成されている。
【0010】
定盤11は、ステンレス鋼などの耐食性に優れる鋼材からなる円盤状の基材である。
定盤11は、その一方の面11aの中央部にガラス板12を嵌脱可能に嵌合するための凹部11bが設けられている。この凹部11bは、その深さが、ここにガラス板12を嵌合した場合、ガラス板12の外周面の少なくとも一部が露出するように形成されている。これにより、ガラス板12は、定盤11の一方の面11aに、その面よりも突出した状態で固定され、ガラス板12の表面12aと、定盤11の一方の面11aとは同一面上に配されておらず、両者の間には段差が設けられている。
【0011】
また、定盤11の外縁部には、その厚み方向に貫通し、支柱13を固定するためのネジ孔11cが穿設されている。
さらに、定盤11の外縁部には、その厚み方向に貫通し、球体15を一時的に載置することが可能な複数の貫通孔11dが等間隔に穿設されている。
【0012】
支柱13は、ステンレス鋼などの耐食性に優れる鋼材からなる円柱状の部材である。
支柱13は、定盤11に設けられたネジ孔11cに支柱13の一端部に設けられたネジ部13aが螺合されることにより、定盤11の一方の面11aに対して垂直に固定されている。
【0013】
本体14は、主として、ステンレス鋼などの耐食性に優れる鋼材からなる部材から構成されている。
本体14は、支柱13に本体14を固定するための支持部15と、ガラス板12の表面12aに弁体を固定するためのホルダ部17とから概略構成されている。また、本体14は、支持部15を介して、支柱13に沿って移動可能に固定することができるようになっている。
【0014】
ホルダ部17は、円筒状のホルダ18と、この内部に収納されたコイルスプリング19と、コイルスプリング19内に挿通された状態でホルダ18内に収納され、ネジ無しの六角ボルト状の部材からなる押圧部材20と、ホルダ18の一端側(図1〜3においてホルダ18の上端側)に設けられた擦り合わせ圧力調整ハンドル(以下、「圧力調整ハンドル」と略す。)21とから概略構成されている。
【0015】
また、ホルダ18の一端には、ホルダキャップ22が嵌合されている。また、ホルダ18内には、その他端側(図1〜3においてホルダ18の下端側)に、コイルスプリング19をホルダ18内に固定するためのスプリングガイド23が設けられている。また、ホルダキャップ22には、その厚み方向に貫通するネジ孔22aが穿設されている。このネジ孔22aに、圧力調整ハンドル21と一体化されたネジ部材24を螺合することにより、ネジ部材24の先端がホルダ18内の押圧部材20の頭部20aに当接するようになっている。また、押圧部材20の先端は、ホルダ18の他端側に設けられ、上記の球体16を緩嵌する(緩く嵌合する)ための凹部29aが設けられた固定部材29に当接している。
【0016】
このように、弁体研磨装置10において、ホルダ18、コイルスプリング19、押圧部材20、圧力調整ハンドル21、ホルダキャップ22、スプリングガイド23、ネジ部材24などから構成される押圧手段を用いて、弁体の研磨に際して、圧力調整ハンドル21のねじ込み度合いを調整することにより、ガラス板12の表面12aに、弁体を、その長手方向に沿う軸を中心として回転可能に固定するための押圧力を調整することができる。
【0017】
支持部15は、支柱13を挿通するための挿通孔25aを有する挿通部材25と、ホルダ18の他端に嵌合、接続され、押圧部材20の先端部を挿通する円筒状の円筒部材26と、挿通部材25と円筒部材26を、それぞれの長手方向(図1〜3において紙面の上下方向)の中心軸が平行となるように接続する接続部材27と、挿通部材25の側面に設けられた高さ調整ハンドル28とから概略構成されている。また、ホルダ18に円筒部材26を嵌合することにより、円筒部材26は、その長手方向の中心軸が、ホルダ18の長手方向(図1〜3において紙面の上下方向)の中心軸と平行になるように配置されている。さらに、円筒部材26内には、ホルダ18の他端側が開口した凹部29aが設けられた固定部材29が嵌合されており、その凹部29aの長手方向の中心軸が、ホルダ18の長手方向の中心軸と平行になっている。また、挿通部材25には、その側面から挿通孔25aまで貫通するネジ孔25bが穿設されている。このネジ孔25bに、高さ調整ハンドル28と一体化されたネジ部材30を螺合することにより、ネジ部材30の先端が挿通孔25a内の支柱13の側面に当接し、支柱13に対して、本体14が固定されるようになっている。
【0018】
これにより、挿通部材25の挿通孔25aに、支柱13を挿通することにより、本体14を、定盤11の一方の面11aに対して垂直な方向において、任意の位置に固定することができる。
【0019】
球体16は、ステンレス鋼などの耐食性に優れるとともに、比較的硬度の高い部材からなるものである。
球体16の大きさは限定されるものではなく、固定部材29の凹部29aの開口径、および、研磨処理の対象となる弁体の大きさ、すなわち、弁体に設けられ、球体16を緩嵌するための凹部の開口径の大きさに応じて、適宜調整される。
【0020】
なお、この弁体研磨装置10は、弁体の研磨作業に際して、定盤11、ガラス板12、支柱13、本体14などの構成要素を組み立てて使用される。言い換えれば、この弁体研磨装置10は、弁体の研磨作業を行わない場合、分解して小型化して保管することができる。したがって、この弁体研磨装置10は、携帯性にも優れている。
【0021】
次に、図1、2および4を参照して、この実施形態の弁体研磨装置の作用について、弁体の研磨を行う場合を例に挙げて説明する。
図4は、この実施形態の弁体研磨装置を用いた弁体の研磨方法を示す概略斜視図である。
「弁体研磨装置の組み立て」
先ず、定盤11のネジ孔11cに、支柱13のネジ部13aを螺合し、定盤11の一方の面11aに支柱13を立設する。
次いで、定盤11の凹部11bにガラス板12を嵌合し、定盤11の一方の面11aにガラス板12を固定する。
次いで、支持部15の挿通部材25の挿通孔25aに支柱13を挿通した後、高さ調整ハンドル28を回し、定盤11の一方の面11aと所定の間隔を置いて、支柱13に本体14を仮固定し、弁体研磨装置10の組み立てを完了する。なお、支柱13に本体14を仮固定する位置は、定盤11の一方の面11a上に後述するフィルム研磨材40、弁体41、球体16を順に配置する際に、作業の妨げとならない位置とする。
【0022】
「弁体の研磨方法」
次いで、ガラス板12の表面12a上に、所定の大きさに成形したフィルム研磨材40を載置する。
フィルム研磨材40としては、特に限定されず、一般的に精密機器部品などの研磨に用いられるフィルム状の研磨材が用いられるが、例えば、厚みが均一なポリエステルフィルムに、高分子系合成接着剤を用いて、酸化アルミニウム(Al)などの超微粒子からなる研磨材を塗布してなるフィルム研磨材が挙げられる。
【0023】
次いで、本体14の円筒部材26の直下となるように、ガラス板12上のフィルム研磨材40上に、弁体41を配置する。この時、フィルム研磨材40に、弁体41のシール面(研磨処理の対象となる面)が接するように、弁体41を配置する。
次いで、フィルム研磨材40上の弁体41の凹部41aに、球体16の一部を嵌合する。
なお、この弁体研磨装置10によって研磨処理可能される弁体41は、ステンレス鋼などの耐食性に優れるとともに、比較的硬度の高い材質からなる円筒状の部品であり、安全弁、減圧弁、逆止弁、調整弁などの弁類の内部部品である。また、この弁体41は、そのシール面と対向する側の端部に、少なくとも球体16の一部を緩嵌する(緩く嵌合する)ことができる凹部が設けられている弁体である。なお、この実施形態では、弁体41は円筒状の部材であるから、その貫通孔41aが凹部の役割を果たす。
【0024】
次いで、高さ調整ハンドル28を回して本体14の固定を解除し、本体14を下げて、円筒部材26内の固定部材29の凹部29aに、弁体41上の球体16の一部を嵌合する。この時、弁体41の中心軸と、固定部材29の中心軸とが一致していなければ、弁体41の位置を変えるなどして一致させる。
次いで、高さ調整ハンドル28を回して、支柱13に本体14を固定する。この時、弁体41には、本体14の重さのみが加えられるようにすれば十分であり、本体14を押圧するなどして、弁体41に余分な力を加える必要はない。
【0025】
次いで、圧力調整ハンドル21を回し、球体16を介して本体14により弁体41を押圧し、弁体41のシール面をフィルム研磨材40に押し当てる。この時、本体14による弁体41に対する押圧力を大きくし過ぎないようにすることが好ましく、具体的には、本体14による押圧力を、弁体41を抑えたまま、フィルム研磨材40上にて、弁体41をその中心軸周りに回転することができる程度の力とする。
【0026】
次いで、弁体41を把持し、フィルム研磨材40上にて、弁体41をその中心軸周りに回転させることにより、弁体41のシール面を研磨する。
なお、弁体41のシール面を所定の粗さ(平滑度)とするためには、粒度が粗いフィルム研磨材40による研磨から開始して、次第に、粒度が細かいフィルム研磨材40による研磨へと移行する。
【0027】
以上説明したように、この実施形態の弁体研磨装置10によれば、定盤11の一方の面11a上にフィルム研磨材40を載置し、そのフィルム研磨材40上に弁体41を配置し、その弁体41の凹部41aに嵌合した球体16を介して、本体14により弁体41に対して均等に押圧力を加えることができる。なぜならば、球体16を介して、本体14と弁体41を接続することにより、本体14の中心軸と、弁体41の中心軸とが多少ずれていても、本体14により弁体41に対して均等に押圧力を加えることができるからである。したがって、この状態で弁体41を手で回転させても、そのシール面の研磨作業にばらつきが生じない。
したがって、この弁体研磨装置10を用いた弁体41の研磨作業によれば、作業者の技量や熟練を必要とすることがなく、本体14の中心軸と弁体41の中心軸の位置合わせなどの非常に手間がかかる作業を省略することができるため作業効率が向上するとともに、常に弁体41のシール面をほぼ均一な平滑面に仕上げることができる。
【0028】
また、この弁体研磨装置10では、ガラス板12は、本体14からの押圧力により破損するおそれや、弁体41の研磨作業による摩耗により平坦度が損なわれるおそれがあるが、そのような不具合が生じた場合には、定盤11からガラス板12を脱離して、新しいものと交換することができる。したがって、ガラス板12の表面12aの平坦度を保つことができる。
【0029】
なお、この実施形態では、フィルム研磨材40を用いて弁体41を研磨する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明にあっては、フィルム研磨材の替わりに、超微粒子からなる研磨材を含むペースト状などの研磨剤を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の弁体研磨装置は、球体を嵌合するために、そのシール面と対向する側の端部に凹部が設けられた弁体であれば、その他の形状に依ることなく、シール面を研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の弁体研磨装置の一実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の弁体研磨装置の一実施形態を示し、(a)は概略平面図、(b)は一部断面の概略正面図である。
【図3】本発明の弁体研磨装置の一実施形態を構成する本体の概略断面図である。
【図4】本発明の一実施形態の弁体研磨装置を用いた弁体の研磨方法を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
10・・・弁体研磨装置、11・・・定盤、12・・・ガラス板、13・・・支柱、14・・・本体、15・・・支持部、16・・・球体、17・・・ホルダ部、18・・・ホルダ、19・・・コイルスプリング、20・・・押圧部材、21・・・擦り合わせ圧力調整ハンドル、22・・・ホルダキャップ、23・・・スプリングガイド、24・・・ネジ部材、25・・・挿通部材、26・・・円筒部材、27・・・接続部材、28・・・高さ調整ハンドル、29・・・固定部材、30・・・ネジ部材、40・・・フィルム研磨材、41・・・弁体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁類の弁体のシール面を研磨するための弁体研磨装置であって、
定盤と、該定盤の一方の面に立設された支柱と、該支柱に支持部を介して固定され、押圧手段を備えた本体と、該本体と前記定盤の一方の面に配された弁体との間に介在され、前記本体からの押圧力を前記弁体に加えるための球体とを備えてなることを特徴とする弁体研磨装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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