説明

弁装置およびそれを用いた流体制御弁

【課題】精密仕上げ加工が不要であり、製造コストを増加させることなく、油密性を向上させ、信頼性の高い弁部構造を実現する。
【解決手段】ボディBに設けたテーパ面状のボディシートB2に、ニードルNの先端部2に形成したテーパ面状のシート面3を着座させる弁部1において、ニードルNの先端部2外周に環状溝21を形成して、その先端側にシート面3を含む薄肉のフランジ部4を形成する。ニードルNの着座時にフランジ部4が弾性変形して、ボディシートB2に密着し、隙間を低減するので、高精度な加工を行うことなく、油密性を向上して漏れを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーパ形状の弁体と座面からなる弁部が流路を開閉する弁装置、詳しくは、弁部の油密性を高めた弁装置およびそれを用いた流体制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
図16に一例として、内燃機関の燃料噴射弁の弁部構造を示す。図16(b)に示す燃料噴射弁のノズル部100は、図16(a)に拡大して示すように、ボディ101の先端部内周に、テーパ状のボディシート面102を有しており、ニードル103先端のテーパ状のシート面104のなす角度を、ボディシート面102のなす角度よりも大とし傾斜を緩やかにすることで、ニードルエッジ105がボディシート面102に着座してシールする構成となっている。
【0003】
この弁部構造は、ニードルエッジ105が当接する位置での線状シールとなるために、シート面の真円度と面粗度が油密性に大きく影響する。特に近年、車両から排出されるHC量に関する規制がより厳しくなる傾向にあることから、弁部の油密性を向上させて、燃料漏れ量を最小限とすることが要求されている、そこで、一般には、所定のテーパ形状に研削加工した後、さらにシート表面の仕上げ加工により真円度を向上させ、油密性を高めることが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、円錐状砥石を使用して、ボディの弁座に着座するニードル先端のシート部を形成する加工方法が開示されている。特許文献1の方法では、ニードルの上端をフレキシブルチャックにて保持し、ガイドに案内されたニードル先端を円錐状砥石に対向させている。円錐状砥石は、ニードルのシート面に対応する円錐面を有し、スピンドルを回転させてニードルに回転運動を与え、円錐面の凸部でシート面の凸部を除去する。この時、加工中にニードルと円錐状砥石を離間させて、接触状態を変えることにより削り残しを少なくしている。
【0005】
一方、弁部形状を改良することによって、シール構造を調整可能としたものがある。例えば、特許文献2には、弁体の円錐形状の弁シール面を、角度の異なる2つの領域に分割し、2つのシール縁部を互いに隣接して配置した燃料噴射弁が開示されている。2つのシール縁部の間には移行域が形成され、弁体閉鎖時の弁座径は、規定されずに移行域に配置されることになる。また、その上流側に形成したアンダカット状の切欠きと角度差によって、弁体の摩耗が増大した時に、弁座径が移行域を移動するようになっている。
【0006】
また、特許文献3には、ニードルバルブが着座するバルブボディの弁座となる部分を、バルブボディと別体の弁座部材とし、ニードルバルブよりヤング率の小さい材料にて構成することが記載されている。これにより、ニードルバルブのテーパ面に設けたシート部が摩耗するのを抑制し、バルブボディとのシール性を確保しやすくなるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−105370号公報
【特許文献2】特表2002−535537号公報
【特許文献3】特開2003−65189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示される方法は、総型砥石を用いた精密仕上げ加工(シートホーニング)であるため、装置構成が大掛かりになりやすい。また、所望の精度を得るために、高度な位置決め制御が必要となるが、真円度や面粗度の改善には限界がある。このように、弁部の加工精度を向上させる方法は、加工に手間がかかり、製造コストが増加する問題がある。
【0009】
特許文献2に開示される弁部構造は、弁体のシール面に、近接する2つのシール縁部とアンダカット状の切欠きを有する複雑な形状であり、加工が容易ではない。特許文献3に開示される弁部構造は、弁ボディ内周の所定位置に段差を設けて、別体の弁座部材を接合する必要があり、部品点数・製造工数が増加する。また、弁座部材のヤング率が低く摩耗しやすいため、例えばニードルバルブの軸ずれや回転等によりシート位置がずれると隙間が生じるおそれがある。
【0010】
そこで、本願発明は、弁部を、精密仕上げ加工のための大掛かりな装置が不要であり、弁部形状の複雑化や、部品点数の増加、製造工数の増加等による製造コストの増加を抑制しながら、油密性を向上させ、信頼性の高い弁部構造を実現する弁装置、さらにはそれを用いた燃料噴射弁を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に記載の弁装置は、円筒状の弁ボディ内を流路とし、上記弁ボディ端部に設けられたテーパ面状の座面に、上記弁ボディ内を摺動する弁体の先端部に設けられたテーパ面状の弁体シート面が当接して流路を閉鎖する弁部を有しており、該弁部は、上記弁体の先端部に、着座時に上記弁ボディの上記座面と上記弁体シート面の隙間が減少するように弾性変形する弾性変形部を設けることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に記載の弁装置において、上記弾性変形部は、上記弁体シート面の外周縁部の全周に形成される。
【0013】
本発明の請求項3に記載の弁装置において、上記弾性変形部は、上記弁体の本体外周に形成した環状溝によって、該環状溝より先端側に形成され、上記弁体シート面の一部をなすフランジ部である。
【0014】
本発明の請求項4に記載の弁装置において、上記弾性変形部は、上記弁体シート面から先端側に突出形成され、上記弁体シート面の一部をなす環状突起である。
【0015】
本発明の請求項5に記載の弁装置において、上記弾性変形部は、上記弁体の先端部に続く一部を縮径して形成した小径軸部である。
【0016】
本発明の請求項6に記載の発明は、これら請求項1ないし5の弁装置を用い、高圧流体が流通する流体流路に上記弁部を設置して上記流体流路の開閉を行なうことを特徴とする流体制御弁である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1の弁装置によれば、弁体シート面が、弁ボディの座面に着座した時に、両者の間に隙間が生じても、着座時に加わる荷重によって弾性変形部が容易に変形し、隙間を低減する。これにより、弁部の密着性が向上し、油密性を高めることができるので、閉弁時の流体漏れを防止する効果が高い。また、高度な加工精度が要求されず、大掛かりな装置が不要となるので、製作コストを大幅に削減できる。したがって、弁部の油密シール性と生産性を両立させることができ、信頼性の高い弁装置を安価に実現できる。
【0018】
本発明の請求項2のように、具体的には、弁体シート面を含む外周縁部をたわみ変形または圧縮変形可能な形状に形成して、弾性変形部とすることができる。この時、弾性変形部を外周縁部の全周に形成することで、着座時にその一部が確実に座面に接触し、容易に弾性変形して隙間を小さくすることができる。また、荷重を緩和して塑性変形を防止し、弁部の耐久性を向上させることができる。
【0019】
本発明の請求項3のように、より具体的には、弁体の先端外周縁部をフランジ状に形成して、弾性変形部とすることができる。弁体シート面のエッジ部近傍に、弾性変形可能なフランジ部を設けることで、座面に当接した時に容易にたわみ変形するので、弁体シート面と座面との密着性を良好にすることができる。
【0020】
本発明の請求項4のように、あるいは、弁体の先端外周縁部に微細な突起を環状に形成して、弾性変形部とすることができる。弁体シート面のエッジ部近傍に、弾性変形可能な環状突起を設けることで、座面に当接した時に容易に圧縮変形するので、弁体シート面と座面との密着性を良好にすることができる。
【0021】
本発明の請求項5のように、あるいは、弁体の本体の一部を小径の軸状に形成して、弾性変形部とすることができる。この時、小径軸部に続く先端部はフローティング可能となり、小径軸部が座面に当接してたわみ変形するとともに、先端部が座面に倣うように変位して隙間を低減する。これにより、弁体シート面と座面との密着性を良好にすることができる。
【0022】
本発明の請求項6のように、これら弁装置は高圧流体を制御する流体制御弁、例えば内燃機関の燃料噴射弁の弁部に好適に利用することができ、油密性を向上させる。したがって、燃料の噴射圧力がより高くなる傾向にあっても、燃料漏れを防止して、制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の第1実施形態における弁装置の主要部構成を示す図である。
【図2】(a)は、本発明が適用される燃料噴射弁の全体構成を示す縦断面図、(b)はニードルの全体構成図、(c)はボディの全体構成図である。
【図3】(a)は、本発明が適用される燃料噴射弁の弁部構成を示す模式的な断面図、(b)は、ニードルとボディの真円度プロファイルを重ねて示す図、(c)は、最大隙間幅の調査結果を示す図である。
【図4】(a)は、第1実施形態における弁部の詳細構成を示す図、(b)は、その主要部のたわみを説明するための図である。
【図5】第1実施形態の構成において、目標たわみ量となるニードルの先端部形状を説明するための図である。
【図6】(a)、(b)は、第1実施形態の構成における効果を説明するための図である。
【図7】(a)〜(c)は、本発明の第2実施形態における弁装置の主要部構成を示す図である。
【図8】(a)は、第2実施形態における弁部の詳細構成を示す図、(b)は、その主要部のたわみを説明するための図である。
【図9】第2実施形態の構成において、目標たわみ量となるニードルの先端部形状を説明するための図である。
【図10】(a)〜(c)は、本発明の第3実施形態における弁装置の主要部構成を示す図である。
【図11】(a)は、第3実施形態における弁部の詳細構成を示す図、(b)は、その主要部のたわみを説明するための図である。
【図12】第3実施形態の構成において、目標たわみ量となるニードルの先端部形状を説明するための図である。
【図13】(a)は、本発明の効果を確認するために行った有限要素法でのシミュレーション解析方法を説明するための図、(b)はその解析結果を示す図である。
【図14】(a)、(b)は、有限要素法でのシミュレーション解析結果を示す図である。
【図15】本発明の構成による油密性向上効果を、従来構成と比較して示す図である。
【図16】従来の加工装置の構成を示す全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態を、図面により詳細に説明する。図1〜6は、本発明の第1実施形態であり、図1は、第1実施形態における弁装置の主要部構成を示す図、図2は、弁装置が適用される流体制御弁の一例である内燃機関の燃料噴射弁の全体構成図である。図3〜5は、弁部の詳細構成とその設定方法を説明するための図、図6は、第1実施形態における弁装置の効果を説明するための図である。まず、図2により、弁装置が適用される燃料噴射弁Iの弁部1構造について説明する。
【0025】
図2(a)において、燃料噴射弁Iは、筒状ハウジングHの下端部に固定した筒状部材H1内に、弁体となるニードルNを摺動可能に保持し、筒状部材H1の下端部に、弁ボディとなるボディBを固定して、先端に弁部1を有する弁装置としての燃料噴射ノズルを形成している。ボディBは概略筒状で、その筒内にニードルNの先端部2(図の下端部)が挿通保持されている。ニードルNの基端部(図の上端部)外周には、筒状の電磁コイルH2が配設されており、ハウジングHの上端部外周に突設したコネクタH3を介して外部の通電制御装置に接続される。ハウジングHの筒内は、流路としての燃料流路となっており、外部の燃料供給通路から、上端開口部に装着されるフィルタ部材Fを通過して、燃料が内部に流入する。
【0026】
図2(b)に示すように、筒状のニードルNは、内部をハウジングHの筒内に連通する燃料流路としており、下端部筒壁に設けた複数の開口N1を介して、ボディB内空間と連通している。ニードルNの上端部は、やや肉厚の大径部N2となり、筒状部材H1に対して摺動可能に配置されてニードルNを位置決め保持している。ニードルNの先端部2外周面は、弁体シート面としてのシート面3となるもので、下方へ向けて縮径するテーパ面状に加工されている。このニードルNの先端部2形状は、本発明の特徴部分であり、詳細を後述する。
【0027】
一方、図2(c)に示すように、ボディBは、下端部に噴孔プレートB1が溶接固定され、その直上の下端内周面を、座面となるボディシートB2として、下方へ向けて縮径するテーパ面状に加工している。図2(a)において、ニードルNは上端側に配置されるスプリングH4によって下方に付勢され、先端のシート面3が、ボディシートB2に着座して、燃料流路を閉鎖するようになっている。電磁コイルH2に通電すると、ニードルNがスプリングH4のばね力に抗して上方に吸引駆動され、先端のシート面3が、ボディシートB2から離座して、燃料が噴射される。
【0028】
この時、図1(b)に示すように、ニードルNのシート面3とボディBのボディシートB2は、テーパ面の角度に差を持たせてあり、ニードルNのシート面3を、ボディシートB2に対して傾斜がわずかに緩やかとなるように設定している。これにより、ニードルNのシート面3先端側において、ボディシートB2との間に隙間が形成され、シート面3上端側のエッジ部31全周が、ボディシートB2に密着して、油密シールする構造となっている。すなわち、ニードルNの昇降とともに、シート面3がボディシートB2に着座または離座して燃料流路を開閉する弁部1が形成される。
【0029】
この弁部1からの燃料漏れを防止するために、一般には、エッジ部31近傍のシート面3と、ボディシートB2のエッジ部31着座範囲の加工精度を高めることが行われる。従来、シール部N3の加工は、例えば、ニードルNのシート面3とボディBのボディシートB2を、予め所定の概略形状に切削し、必要により荒研削を行った後、さらに仕上げ加工を行うが、上述したように、総型砥石を用いるシートホーニングは装置が大型で加工に手間がかかる上、真円度や面粗度の向上にも限界がある。
【0030】
そこで本発明は、ニードルNのシート面3とボディBのボディシートB2からなる弁部1において、ニードルNのシート面3を含む先端部2形状を工夫することにより、ボディBのボディシートB2との密着性を向上させ、油密シールを行うための新たな構造を提案するものである。すなわち、ニードルNの先端部2に弾性変形部を設け、着座時に、この弾性変形部が、ボディBとシート面3の隙間を低減するように弾性変形することで、油密シール性を確保する。具体的には、弾性変形部の構成例として、以下の3つが挙げられる。
1)構成A:ニードルNのシート面3外周縁部のフランジ部4
2)構成B:ニードルN先端部2の小径軸部5
3)構成C:ニードルNのシート面3外周縁部の環状突起6
【0031】
図1の第1実施形態は、上記1)の構成Aの弾性変形部について説明するものである。図1(a)は、弁部1の拡大図であり、ニードルNの先端部2は、テーパ面状のシート面3が、ボディBのテーパ面状のボディシートB2に着座するようになっている。一方、ニードルNの先端部2は、エッジ部31直上位置において、外周面の全周を所定の一定深さで切り欠いて、微細な環状溝41を形成している。これにより、ニードルNの先端部2は、環状溝41形成位置に対応する一部がやや小径となり、この小径部21より先端側の、エッジ部31を含む薄肉の外周縁部が、弾性変形部としてのフランジ部4を形成する。
【0032】
図1(b)のように、フランジ部4は、テーパ面状の下端面が、ニードルNのシート面3の一部をなして、対向するボディシートB2に着座するようになっている。ここで、シート面3またはボディシートB2の真円度や面粗度が目標値より低いと、シート面3のエッジ部31とボディシートB2が全周で密着せず、隙間が生じて燃料漏れが生じることになる。また、エッジ部31やボディシートB2の一部に過度の荷重が加わると、摩耗が生じて耐久性を低下させるおそれがある。
【0033】
この時、図1(a)中に点線で示すように、薄肉のフランジ部4を有する本実施形態の構成では、ニードルNの先端部2において、フランジ部4の一部がボディシートB2に押圧されると、容易にたわみ変形してボディシートB2に密着する。すなわち、フランジ部4が、エッジ部31とボディシートB2の隙間を埋めるように弾性変形し、シート面3の全周でボディシートB2に当接して、密着性を向上させる。これにより、エッジ部31とボディシートB2の真円度を向上させるために、高精度な仕上げ加工が不要になり、生産性よく高性能な弁部1構造を実現する。
【0034】
具体的には、フランジ部4の形状と材質によって、たわみ量が決まるので、弁部1を構成するニードルNとボディBの仕様に応じて、必要なたわみ量が得られるように、フランジ部4の形状を決定すればよい。一般には、図1(b)に示すフランジ部4の厚さ(フランジ厚さ;h)が薄いほど、また、環状溝41の深さ(溝深さ;p)が深いほどたわみやすくなる。ただし、フランジ部4の厚さhが薄くなると強度が低下し、厚くなると所望のたわみ量とするために環状溝41が深くなって、加工に手間がかかる。したがって、フランジ部4の強度が確保できる範囲で、環状溝41の加工性等を考慮して、フランジ部4を形成するとよい。
【0035】
また、図1(b)、(c)に示すように、環状溝41の高さ(溝高さ;t)を比較的小さく設定して、フランジ部4に対向するストッパ部43を形成することができる。ストッパ部43は、フランジ部4がたわみ変形する時に、その先端部42が当接する環状溝41のエッジ部からなる。環状溝41の高さtは、フランジ部4が塑性変形に至らない範囲で、弾性変形により必要なたわみ量が得られるように、適宜設定される。これにより、例えば、ニードルNのエッジ部31の一部に過度の荷重が加わっても、フランジ部4のたわみ量をストッパ部43で規定することで、塑性変形を防止することができる。
【0036】
より具体的には、目標たわみ量に対して、ニードルNの材質と環状溝41の配置によって決まるフランジ部4の弾性変形量が適合するように、フランジ部4の形状を設定するとよい。次に、図3〜5により、この詳細を説明する。図3(a)は、ニードルNのシート面3が、ボディシートB2に着座した時の、当接状態を模式的に示す断面図である。研削加工後の仕上げ加工を行わない場合、シート面3およびボディシートB2の真円度が低いために、両者1の輪郭形状が一致せず、隙間が生じることになる。そこで、この隙間の状態を複数の弁部1について真円度測定器を用いて調べた。
【0037】
図3(b)は、その一例について、ニードルNのシート面3とボディシートB2の真円度プロファイルを組み合わせたもので、図3(a)に示すように、円周の2箇所で当接し、その両側に隙間A、Bが生じている。図3(c)は、この最大隙間幅を、各サンプルについて、それぞれ調査した結果であり、最大隙間幅の平均は、0.23μmであった。この結果から、最大隙間幅の2倍、すなわち、約0.5μmをフランジ部4の目標変形量に設定する。
【0038】
図4により、フランジ部4のたわみ量が、この目標変形量となる条件を検討する。図4(a)に示す弁体1の先端部2断面において、フランジ部4の半径をa、フランジ部4の厚さをhとする。また、フランジ部4直上の小径部21の半径をbとすると、フランジ部4の深さ(=環状溝41の深さ;p)は、a−bである。この時、円筒軸(小径部21)の外周に円盤(フランジ部4)が固定され、フランジ部4の外周が、ボディシートB2に接触して支持されているモデルを考える。
【0039】
弁体1の着座により、フランジ部4の外周全体に荷重Wが作用している場合、図4(b)に示すように、フランジ部4に生じるたわみwは、一般に、以下の関係式(1)で表すことができる。
たわみw=W/Z1*(Z2+Z3)・・・(1)
ここで、
Z1=8*PI()*D*((1+ν)+(1‐ν)*(b^2/a^2))
Z2=((3+ν)/2+(1‐ν)/2*b^2/a^2+(1‐ν)*b^2/a^2*LN(b/a))*(a^2−b^2)
Z3=(2*b^2−2*(1+ν)*b^2*LN(b/a)+((1+ν)+(1‐ν)*b^2/a^2)*b^2)LN(b/a)
とする。
【0040】
ただし、Dは円盤(フランジ部4)の曲げ剛性であり、下記式(2)で与えられる。
D=E*h^3/(12*(1‐ν^2))・・・(2)
また、これら式中、
a^2=a2
LN=loge
PI()=π
a;フランジ半径
b;軸半径
h;フランジ厚さ
ν;ポアソン比
W;荷重
E;ヤング率
である。
【0041】
さらに、(1)、(2)式より、フランジ部4の厚さhは、以下の(3)式で表される。
h=(Z4*(Z2+Z3))^(1/3) ・・・(3)
ただし、
Z4=12*(1-ν^2)/E/(8*PI()*((1+ν)+(1‐ν)*b^2/a^2))*W/w*(Z2+Z3)
である。
【0042】
そこで、上記(3)式を用いて、目標たわみ量;w=0.5μmを達成するための、フランジ部4の具体的形状を検討した。本発明の弁装置が適用される燃料噴射弁Iは、図2に示したガソリンエンジンのインジェクタであり、弁部1を構成するニードルNのフランジ部4の半径a=0.0016mとし、その他の条件を以下のように設定した。ニードルNの円筒軸(小径部21)の半径;bを変更した時の、フランジ深さ(フランジ部4を形成する環状溝21の深さ);a−bに対する、フランジ厚さ(フランジ部4の平均の厚さ);hの関係を求めて、図5に示した。
目標たわみ;w=0.5μm
フランジ半径;a=0.0016m
ポアソン比;ν=0.3
荷重;W=6.95N
ヤング率; E=2E+11Pa
【0043】
図5に示すように、フランジ深さ(a−b)とフランジ厚さhは比例関係にあり、例えば、フランジ深さ(a−b)が0.2mm、フランジ厚さ(平均)hが0.06mmとなることで、目標とするたわみw=0.5μmが得られる。また、フランジ深さ(a−b)がより深ければ、目標たわみ量となるフランジ部hはより厚くなる。つまり、フランジ部4および環状溝21の形状を、フランジ深さ(a−b)とフランジ厚さhが、図5の関係を満足するように設定することで、着座時にフランジ部4を弾性変形させることができる。
【0044】
図6に、第1実施形態のニードルN形状による効果を示す。図6(a)は、ニードルNがフランジ部4を有する第1実施形態の形状と、フランジ部4を有しない従来形状において、ボディシートB2に着座した時の接触長さを比較して示したものである。図示の例では、第1実施形態の形状における接触長さが、従来形状の接触長さの4/3倍に増大しており、フランジ部4が弾性変形することで、ボディシートB2との密着性が向上していることがわかる。その一方、図6(b)に示すように、ボディシートB2に作用する面圧は低減しており、接触面積の増加により荷重が緩和されることがわかる。
【0045】
次に、図7の第2実施形態により、上記2)の構成Bの弾性変形部について説明する。図7(b)は、本実施形態における弁部1の拡大図であり、第1実施形態と同様に、ニードルNの先端部2は、テーパ面状のシート面3が、ボディBのテーパ面状のボディシートB2に着座するようになっている。本実施形態の特徴は、ニードルNの先端部2が、エッジ部31直上位置において、外周面の全周を所定の深さで大きく切り欠いて環状溝44を形成し、その内方に、弾性変形部となる小径軸部5を形成したことにある。これにより、小径軸部5より先端側の、エッジ部31およびシート面3を含むテーパ部全体が、フローティング部51を形成して、小径軸部5の弾性変形に伴って、ボディシートB2上を摺動可能となる。
【0046】
図7(a)において、本実施形態のニードルNは、先端部2のフローティング部51下端面が、ニードルNのシート面3として、対向するボディシートB2に当接する。ここで、弁部1の加工精度が低いとシート面3とボディシートB2が密着せずに、隙間が生じることになるが、本実施形態では、フローティング部51の一部がボディシートB2に押圧されると、図7(c)に示すように、小径軸部5が容易にたわみ変形する。この時、図中に矢印で示すように、フローティング部51がボディシートB2上を摺動し、隙間が低減してボディシートB2に密着する位置まで変位する。小径軸部5は、フローティング部51の変位を吸収するように弾性変形するので、弁部1の動作を損なうことなく、密着性を向上することができる。
【0047】
具体的には、着座時に小径軸部5が弾性変形し、所定のたわみ量が得られるように、弁部1を構成するニードルNとボディBの仕様に応じて、小径軸部5の形状を決定すればよい。一般には、小径軸部5の径(軸径;d)が小さく、また、小径軸部5の長さ(軸長さ;L)が長いほどたわみやすくなるが、強度が低下しやすい。また、小径軸部5の径dが大きければ強度は向上するものの、所望のたわみ量とするために、より長くする必要があるため、環状溝44の加工に手間がかかる。したがって、小径軸部5の強度が確保できる範囲で、その加工性等を考慮して、小径軸部5の形状を決定するとよい。
【0048】
また、第1実施形態と同様に、小径軸部5の過度のたわみ変形時に、フローティング部51の外周フランジ部52が当接するストッパ部43を形成するように、環状溝44の形状を設定することもできる。なお、本実施形態では、フローティング部51は弾性変形しないため、フローティング部51は、外周フランジ部52の厚さ(フランジ厚さ;h)を、例えば必要な剛性が得られるように、比較的厚く設定することができる。あるいは、外周フランジ部52を、たわみ変形可能に形成することも可能であり、小径軸部5の弾性変形との組み合わせにより、さらに密着性が向上する。この場合は、外周フランジ部52と小径軸部5との組み合わせで、所望のたわみ量が得られればよい。
【0049】
より具体的には、目標たわみ量に対して、ニードルNの材質と小径軸部5の形状によって弾性変形量が適合するように、小径軸部5の形状を設定するとよい。次に、図8により、この詳細を説明する。本実施形態においても、図3(c)の結果から、最大隙間幅の2倍、すなわち、約0.5μmを目標変形量に設定する。図8に示すニードルNの先端部2(径D)において、小径軸部5の軸径をd、小径軸部5の軸長さをLとする。円筒軸である小径軸部5に、円盤状のフローティング部51が固定され、その外周の1点が、ボディシートB2に接触して支持された場合について考える。
【0050】
前提条件として、小径軸部5以外は変形がないものとすると、たわみwは、一般に、下記の関係式(4)により求められる。
たわみw=W*l*L^2/(2*E*I)・・・(4)
式中、Iは慣性モーメントであり、下記式(5)で表される。
I=PI()*d^4/64・・・(5)
ただし、
L^2=L2
PI()=π
d;軸径
L;軸長さ
l;円盤半径
W;荷重
E;ヤング率
である。
【0051】
さらに、上記式(4)、(5)より、小径軸部5の長さLは、以下の式(6)で表される。
L=(w*2*E*(PI()*d^4/64)/(W*l))^(1/2)・・・(6)
そこで、上記第1実施形態と同様のガソリンインジェクタについて、目標たわみ量;w=0.5μmを達成するための、小径軸部5形状を検討した。以下の条件において、小径軸部5の長さLと小径軸部5の径dの関係を求めて、図9に示した。
フローティング部51(円盤)半径;l=0.0016m
荷重;W=6.95N
ヤング率; E=2E+11Pa
【0052】
図9に示すように、所望のたわみを得るための小径軸部5の長さLは、小径軸部5の径dのほぼ2乗となり、例えば、小径軸部5の長さLを1.0mm、小径軸部5の径dを1.0mmとすることで、目標とするたわみw=0.5μmが得られる。また、小径軸部5の径dが大きくなるほど、目標たわみ量となる小径軸部5の長さLはより長くなる。したがって、これらが図9の関係を満足するように設定することで、着座時に小径軸部5の弾性変形によりフローティング部51を変位させ、密着性を向上させることができる。
【0053】
次に、図10の第3実施形態により、上記3)の構成Cの弾性変形部について説明する。図10(b)は、本実施形態における弁部1の拡大図であり、第1実施形態と同様に、ニードルNの先端部2は、テーパ面状のシート面3が、ボディBのテーパ面状のボディシートB2に着座するようになっている。本実施形態の特徴は、シート面3が、エッジ部31近傍の外周縁部から下方に突出する微小突起を全周に形成して、弾性変形部となる環状突起6を形成したことにある。ここでは、エッジ部31を含む外周縁部に、ボディシートB2側へ向けて突出する環状突起6を形成する。
【0054】
図10(a)に示すように、本実施形態の環状突起6は、下端面の全周が、ニードルNのシート面3の一部をなすテーパ面をなして、対向するボディシートB2に当接する。この時、シート面3またはボディシートB2の加工精度が低いと、シート面3とボディシートB2が密着せずに、隙間が生じることになる。本実施形態では、環状突起6の一部がボディシートB2に押圧されると、環状突起6が容易に圧縮変形するので、ボディシートB2面に密着して隙間が低減されて、密着性を向上することができる。
【0055】
具体的には、着座時に環状突起6が弾性変形し、所定の変形量が得られるように、弁部1を構成するニードルNとボディBの仕様に応じて、環状突起6の形状を決定すればよい。一般には、環状突起6の長さ(突起長さ:L´)が長いほど、また、環状突起6の幅(突起幅)が小さいほど、弾性変形しやすくなるが、強度が低下しやすく加工が難しくなる。したがって、環状突起6の強度が確保できる範囲で、その加工性等を考慮して、環状突起6の形状を決定するとよい。
【0056】
より具体的には、目標変形量に対して、ニードルNの材質と環状突起6の形状によって弾性変形量が適合するように、環状突起6の形状を設定するとよい。次に、図11により、この詳細を説明する。本実施形態においても、図3(c)の結果から、最大隙間幅の2倍、すなわち、約0.5μmを目標変形量に設定する。図11に示すニードルNの先端部2において、環状突起6の長さをL´、環状突起6の外径をa´、内径をb´とすると、環状突起6の幅は(a´−b´)/2である。弁体1の着座により、シート面3の全周に設置された環状突起6が、ボディシートB2に接し、荷重Wにより、環状突起6が弾性変形する場合、環状突起6に作用する応力σとひずみεを考える。
【0057】
環状突起6が弾性変形する範囲において、環状突起6に作用する応力σは、単位面積に作用する力であるから、環状突起6の断面積(突起面積)をAとすれば、一般に、下記関係式(7)で表される。
σ=W/A・・・(7)
A=(a´^2−b´^2)/4*PI()
ここで、応力σとひずみεは、ヤング率をEとする時、σ=ε*Eである。また、ひずみεは、環状突起6が縮んだ時の長さ(縮み長さ)をΔlとすれば、ε=Δl/L´である。
σ=ε*E ε=Δl/L´・・・(8)´
【0058】
これらの関係を用いると、環状突起6の長さL´は、一般に、下記式(9)により求められる。
突起高さ L´=Δl*E/(W/A)・・・(9)
ただし、
a^2=a2
PI()=π
a´;外径
b´;内径
L´;突起高さ
Δl;突起縮み長さ
σ;応力
ε;ひずみ
W;荷重
E;ヤング率
である。
【0059】
そこで、上記第1実施形態と同様のガソリンインジェクタについて、目標とする変形量;Δl=0.5μmを達成するための、環状突起6形状を検討した。以下の条件において、環状突起6の長さL´と環状突起6の幅(a´−b´)/2の関係を求めて、図12に示した。
環状突起6の外径a´=0.0032m
突起縮み長さΔl=0.5μm
荷重;W=6.95N
ヤング率; E=2E+11Pa
【0060】
図12に示すように、所望の変形量を得るための環状突起6の長さL´は、環状突起6の幅とほぼ比例関係にあり、例えば、の環状突起6の長さを0.3mm、突起幅を0.002mmとすることで、目標とする変形量0.5μmが得られる。また、突起幅を大きくするほど、環状突起6をより長くする必要がある。したがって、これらが図12の関係を満足するように設定することで、着座時に環状突起6を圧縮変形させて、密着性を向上させることができる。
【0061】
図13は、本発明の効果を確認するために、有限要素法でのシミュレーションにより、非線形静解析を行った結果であり、上記関係式による計算結果と比較して示す。図13(b)に示すように、先端部外周に環状溝を形成したニードルN形状において、環状溝形成位置の円筒軸径(X1)と、先端部外周のフランジ高さ(X2)を、上記第1実施形態の形状となるように設定した。このニードルNをボディBと組み合わせたガソリンインジェクタI用の弁部1の軸対象モデルについて、ニードルNに所定の面圧(スプリングセット荷重+燃圧に相当)を作用させた場合の変位分布を図13(a)に示した。
【0062】
また、同様にして、円筒軸径(X1)と、先端部外周のフランジ高さ(X2)を、上記第1実施形態の形状となるように設定したニードルN、環状溝を形成しない従来形状のニードルについても、シミュレーションによる非線形静解析を行った。図14(a)、(b)にそれぞれの結果を、上記関係式による計算結果と比較して示す。図14(b)の従来形状と比較して明らかなように、図13(a)の第1実施形態の弁部1は、ニードルNの中心部が大きく変位しており、外周のフランジ部4との変位差が−0.26μmとなって、ボディシートB2に当接するフランジ部4が弾性変形可能な形状であることを示している。
【0063】
図14(a)の第1実施形態の弁部1は、ニードルNの中心部が、さらに大きく変位しており、外周フランジ部52との変位差は−0.48μmで、小径軸部5の弾性変形が可能であることがわかる。このように、本発明の構成によれば、ニードルNの弾性変形により、ボディシートB2との隙間を減少する効果が期待できる。
【0064】
図15は、上記第1〜3実施形態のニードルNを用いた弁部1を実際に試作し、従来形状のニードルを用いた弁部に対する油密性の向上効果を示したものである。ここで、油密性の測定は、ボディシートB2に対するニードルNを回転位置を変更しながら行い、その振れ幅を矢印で示した。図示するように、従来の弁部は、回転位置によって油密性が大きく変動しており、ニードルNのシート面3またはボディシートB2の真円度、面粗度の影響で品質が安定しないことがわかる。これに対して、本発明の構成では、回転位置によらず、油密性の低減効果が得られ、ニードルNの弾性変形部が、燃料漏れの防止に大きく寄与していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の弁装置は、燃料噴射弁の弁部に限らず、燃料噴射装置、燃料供給装置に用いられる各種油圧制御弁、流量制御弁等、テーパ形状の弁体シート面と座面を有する弁部であれば、いずれにも効果を発揮する。また、燃料以外にも各種高圧流体の流路開閉用の弁装置を備える流体制御弁に利用することができ、弁部の密着性を向上して、閉弁時の漏れを防止する同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0066】
I 燃料噴射弁
B ボディ(弁ボディ)
B1 噴孔プレート
B2 ボディシート(座面)
N ニードル(弁体)
N1 ニードル(弁体)
N2 大径部
1 弁部
2 先端部
21 小径部
3 シート面
31 エッジ部
4 フランジ部
41 環状溝
42 先端部
43 ストッパ部
5 小径軸部
51 フローティング部
52 外周フランジ部
6 環状突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の弁ボディ内を流路とし、上記弁ボディ端部に設けられたテーパ面状の座面に、上記弁ボディ内を摺動する弁体の先端部に設けられたテーパ面状の弁体シート面が当接して流路を閉鎖する弁部を有しており、該弁部は、上記弁体の先端部に、着座時に上記弁ボディの上記座面と上記弁体の上記弁体シート面の隙間が減少するように弾性変形する弾性変形部を設けることを特徴とする弁装置。
【請求項2】
上記弾性変形部は、上記弁体シート面外周縁部の全周に形成される請求項1記載の弁装置。
【請求項3】
上記弾性変形部は、上記弾性変形部は、上記弁体の本体外周に形成した環状溝によって、該環状溝より先端側に形成され、上記弁体シート面の一部をなすフランジ部である請求項2記載の弁装置。
【請求項4】
上記弾性変形部は、上記弁体シート面から先端側に突出形成され、上記弁体シート面の一部をなす環状突起である請求項2記載の弁装置。
【請求項5】
上記弾性変形部は、上記弁体の先端部に続く一部を縮径して形成した小径軸部である請求項1記載の弁装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の弁装置を用い、高圧流体が流通する流体流路に上記弁部を設置して上記流体流路の開閉を行なうことを特徴とする流体制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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