説明

弁装置

【課題】 電気的に弁の操作を行うことができる弁装置において、電磁石を用いずに小型化を達成し、さらに弁の駆動機構の配設の自由度が高い構成を提供する。
【解決手段】 第2のワイヤアクチュエータ109に通電して収縮させると、係合ピン108が矢印111の方向の付勢力に抗して軸110の回りに回動し、係合ピン108がシリンダ104内から退避し、ヘッドピン106の大径部106bから外れる。係合ピン108の係合が解除されることにより、バネ105の付勢力によってヘッドピン106がZ軸方向と逆方向へ移動し、その結果、ヘッドピン106の先端106aがダイヤフラム102の凸部102aの裏側を押す。これにより、ダイヤフラム102が下方へ凸となるように変形し、ダイヤフラム102中心部分の凸部102aが流入ポート101aに当接してそれを閉塞する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体や流体の流路に設けられる弁装置に係り、特に、小型化を達成し設計の自由度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
流路の途中に配置される弁装置を電気的に制御する構成として、例えば特許文献1に記載された構成が知られている。特許文献1には、バネの付勢力と電磁石により操作されるラッチ機構との組み合わせにより、弁が開放状態または閉塞状態で保持される構成が記載されている。このような弁装置では、電磁石への通電を停止してもラッチ機構により弁の開放状態または閉塞状態が保持されるから、電力消費量を低減することができるという利点がある。
【0003】
【特許文献1】特開2001−132419
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている弁の駆動機構は、電磁石のためのスペースが必要になるとともに構造が複雑になるため小型化に不利である。また、電磁石を配置する位置がラッチ機構のごく近傍に制限されるので、弁の駆動機構の設計に制約が生じていた。
【0005】
したがって、本発明は、ラッチ機構により弁の開放状態または閉塞状態が保持されて電力消費量を低減することができるのは勿論のこと、電磁石が不要で小型化を達成することができ、さらに各部の駆動機構の設計の自由度が高い弁装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の弁装置は、一側部に流入ポートおよび排出ポートが設けられ他側部に柔軟性を有するダイヤフラムが設けられた弁室と、ダイヤフラムに対して接近離間可能に設けられ、同ダイヤフラムを押圧することで流入ポートおよび排出ポートの少なくともいずれか一方を同ダイヤフラムで閉塞させる押圧手段と、この押圧手段をダイヤフラム側へ付勢する第1の付勢手段と、温度に応じて伸縮することにより押圧手段を付勢手段の付勢力に抗してダイヤフラムと逆方向へ移動させる第1の線状アクチュエータと、押圧手段に対して接近離間可能に設けられるとともに同押圧手段に係脱自在に係合し、押圧手段がダイヤフラムと逆方向へ移動したときに押圧手段と係合して同押圧手段をその位置に保持する係合手段と、この係合手段を押圧手段側へ付勢する第2の付勢手段と、温度に応じて伸縮することにより係合手段を第2の付勢手段の付勢力に抗して押圧手段から離間させる第2の線状アクチュエータとを備え、第1、第2の線状アクチュエータへ通電することでそれらの伸縮状態を変化させることにより弁の開閉を制御することを特徴としている。
【0007】
本発明では、押圧手段が第1の付勢手段によってダイヤフラムを押圧して変形させ、ダイヤフラムが弁室の一側部に設けられた流入ポートおよび/または排出ポートを閉塞する。これにより、流体は弁装置を流通できない状態となる。次に、第1の線状アクチュエータに通電することでその温度を変化させると、第1の線状アクチュエータの長さが変化し、押圧手段を第1の付勢手段の付勢力に抗してダイヤフラムと逆方向へ移動させる。すると、第2の付勢手段により付勢された係合手段が押圧手段側へ移動して係合し、押圧手段はその位置で保持される。これにより、流入ポートおよび排出ポートが開放され、流体は弁装置を流通できる状態となる。また、その状態において、第1の線状アクチュエータへの通電を停止する。次いで、第2の線状アクチュエータに通電してその温度を変化させると、第2の線状アクチュエータの長さが変化し、係合手段を第2の付勢手段の付勢力に抗して押圧手段から離間させる。これにより、押圧手段は、第1の付勢手段の付勢力によりダイヤフラム側へ移動し、ダイヤフラムを押圧して流入ポートおよび/または排出ポートを閉塞する。また、その状態において、第2の線状アクチュエータへの通電を停止する。
【0008】
したがって、本発明では、第1、第2のアクチュエータへの通電を停止した状態で弁装置を開放状態または閉塞状態に保持することができるから、消費電力を低減することができる。また、本発明では、押圧手段および係合手段を第1、第2の線状アクチュエータの伸縮により移動させるから、電磁石が不要であることは勿論のこと、その形状が線状であるため弁装置の各部の隙間に配置することができる。したがって、本発明によれば、弁装置の小型化を図ることができるとともに、各部の駆動機構の自由な設計が可能となる。
【0009】
線状アクチュエータとしては、形状記憶合金のワイヤを用いることが好ましい。形状記憶合金のワイヤは、通電することでジュール熱により昇温して収縮し、収縮による変位がアクチュエータとしての作用となる。また、線状アクチュエータとして、折り曲げ可能な柔軟性(可撓性)を有する材質のものを採用することが好ましい。この場合、線状アクチュエータを装置の各部の隙間を縫うようにして2次元ないし3次元的に引き回して配置することができ、弁を操作するための駆動力を伝達させる機構の設計に高い自由度を得ることができる。特に、ガイドローラを介して線状アクチュエータを3次元的に屈曲させて展開することで、少ないスペースで大きな変位長を確保することができる。このことは、装置の小型化を追求しつつ、同時に押圧手段や係合手段等の可動部材の可動範囲(ストローク)を大きく確保し、また可動方向を自由に設定したい場合に有利となる。
【0010】
ところで、弁の閉塞状態においてダイヤフラムと弁座との間に大きな隙間が存在すると、そこに多量の流体が滞留する。流体が腐食性のあるものや変質し易いものであると、この滞留した流体が弁の材料にダメージを与えたり、次の弁の開放時に変質した流体が搬送する流体中に混じるといった不都合が生じる。そこで、弁室内には、ダイヤフラムと対向する位置に弁座を設け、この弁座を、ダイヤフラムと対向する側へ向かうに従って軸断面積が減少する断面形状にすること好適である。このような態様によれば、弁座の形状が押圧部材によって変形するダイヤフラムの形状に沿ったものとなり、両者の間の空間が小さくなる。したがって、その空間に滞留する流体に起因する上記のような不都合を軽減することができる。また、弁座の中央部に、流入ポートおよび排出ポートの一方を形成し、その周辺部に流入ポートおよび排出ポートの他方を形成することも好ましい態様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、押圧手段および係合手段を第1、第2の線状アクチュエータの伸縮により移動させるから、電磁石が不要であることは勿論のこと、その形状が線状であるため弁装置の各部の隙間に配置することができ、したがって、弁装置の小型化を図ることができるとともに、各部の駆動機構の自由な設計が可能となる等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.実施形態の概要
(1)弁装置の構成
まず、実施形態の概要を説明し、概略の構成および動作原理について説明する。図1は、本発明を利用した弁装置を概念的に示した断面図であり、(A)は弁が開放状態の図、(B)は弁が閉塞状態の図である。図1に示す弁装置100は、内部にダイヤフラム102および弁室101を備えた弁機能部103と、内部に円筒空間を備えたシリンダ104とから概略構成されている。シリンダ104内には、ヘッドピン(押圧部材)106が軸線方向に摺動自在に収容されている。
【0013】
シリンダ104の端部には、その開口部を閉塞する蓋104aが取り付けられ、蓋104aとヘッドピン106との間には、ヘッドピン106を図中Z軸方向と逆方向に付勢するコイルバネ(第1の付勢部材)105が配置されている。ヘッドピン106は、図中下方から第1小径部106a、大径部106b、第2小径部106cが成形された略円柱形状をなし、第2小径部106cにコイルバネ105が嵌合させられ、大径部106bがシリンダ104内で摺動する。また、シリンダ104の他端部には孔104dが形成され、孔104dから突出した第1小径部106aの先端がダイヤフラム102を押圧する。また、第2小径部106cの端部には、コイルバネ105の付勢力に抗してヘッドピン106をZ軸方向に移動させる第1のワイヤアクチュエータ(第1の線状アクチュエータ)107の端部が接続されている。
【0014】
シリンダ104の外周部には、L字状をなす係合ピン(係合手段)108の一端部が軸110によって回動自在に支持されている。係合ピン108の他端部は、シリンダ104側へ向けて屈曲し、シリンダ104に形成した孔104bからシリンダ104の内部に出没自在とされている。係合ピン108の側面は、図示しないコイルバネ(第2の付勢部材)によって図中矢印111方向に押圧されている。係合ピン108の先端がシリンダ104内に突出することで、ヘッドピン106の大径部106bの端面に係合し、ヘッドピン106に加わるバネ105の付勢力に抗してその位置で保持する(図1(A)に示す状態)。また、係合ピン108の他端部側には、係合ピン108を回動させてヘッドピン106との係合状態を解除する第2のワイヤアクチュエータ(第2の線状アクチュエータ)109の端部が接続されている。
【0015】
第1のワイヤアクチュエータ107および第2のワイヤアクチュエータ109は、通電することで、ジュール熱により自己発熱し、その熱により形状記憶機能が発現する。この例では、通電により所定の割合で収縮する形状記憶合金を利用して人口筋肉等の用途に開発された繊維状のアクチュエータ(例えば、トキ・コーポレーション株式会社のバイオメタル(登録商標))を使用する。この繊維状のアクチュエータは、柔軟性があり、屈曲して配置した場合であってもアクチュエータとして機能する。なお、ワイヤアクチュエータは、通電による方法に限るものではなく、温風を当てたり近接したヒータで加熱といった方法で収縮させることもできる。
【0016】
弁室101は、ダイヤフラム102によって内部の1側面(図中Z軸方向の壁)を有し、ダイヤフラム102に対向する側に略円錐形状の弁座112を備えている。ダイヤフラム102は、ゴム等の弾性部材で構成された円板状のもので、中央部に弁座112側へ突出する凸部102aを有している。弁座112の中心部には、外部から弁室101内に気体や流体等の流体を流入させるための流入ポート101aが形成され、流入ポート101aから離間した箇所には、弁室101内に流入した流体が外部に排出される排出ポート101bが形成されている。
【0017】
(2)弁装置の動作
図1(A)に示す状態は、弁機能部103が開放状態であり、流入ポート101から流入した流体は、弁室101内を通過し、排出ポート101bから排出される。この開放状態において、ヘッドピン106は、バネ105によって図中のZ軸方向と逆方向(下方)に付勢されているが、係合ピン108がヘッドピン106の大径部に係合しているので、その方向に移動することができない。
【0018】
図1(A)に示す状態において、第2のワイヤアクチュエータ109に通電し、それを収縮させると、係合ピン108が矢印111の方向の付勢力に抗して軸110の回りに回動し、それにより図1(B)に示すように、係合ピン108がシリンダ104内から退避し、ヘッドピン106の大径部106bから外れる。係合ピン108の係合が解除されることにより、バネ105の付勢力によってヘッドピン106がZ軸方向と逆方向へ移動し、その結果、ヘッドピン106の先端106aがダイヤフラム102の凸部102aの裏側を押す。これにより、図1(B)に示すように、ダイヤフラム102が下方へ凸となるように変形し、ダイヤフラム102中心部分の凸部102aが流入ポート101aに当接してそれを閉塞する。こうして、弁機能部103の閉塞状態が得られ、この状態は、第2のワイヤアクチュエータ109への通電を停止しても維持される。
【0019】
図1(B)の弁の閉塞状態から図1(A)の弁の開放状態に移るには、第1のワイヤアクチュエータ107に通電し、それを収縮させる。第1のワイヤアクチュエータ107が収縮すると、ヘッドピン106がZ軸方向(上方)に移動し、それに伴ってバネ105が圧縮され、同時にヘッドピン106の先端がダイヤフラム102から離れ、流入ポート101aの閉塞状態が解除される。そして、図1(A)に示す位置までバネ105の圧縮が進んだ段階で、係合ピン108がコイルバネによる矢印111方向への付勢力によってシリンダ104内に突出するように回動する。そして、その先端部がシリンダ104内に突出することで、ヘッドピン106に係合し、図1(A)に示す係合状態が得られる。この係合状態となると、第1のワイヤアクチュエータ107への通電を停止しても、ヘッドピン106がそれ以上Z軸方向と逆方向(下方)に移動することはなく、弁機能部103の開放状態が維持される。このようにして、弁の開放状態(A)と閉塞状態(B)を電気的に制御することができる。
【0020】
上記実施形態によれば、第1、第2のワイヤアクチュエータ107,109への通電を停止した状態で弁装置を開放状態または閉塞状態に保持することができるから、消費電力を低減することができる。また、ヘッドピン106および係合ピン108を第1、第2のワイヤアクチュエータ107,109の収縮により移動させるから、電磁石が不要であることは勿論のこと、その形状が線状であるため弁装置の各部の隙間に配置することができる。そのような構成および作用、効果については、具体的な実施例の説明で詳細に説明する。
【0021】
2.具体的な実施形態
(1)ワイヤアクチュエータの張設構造
以上は本実施形態における弁装置の概略の構成および動作の説明である。次に、本実施形態における弁装置のより具体的な構造、特に、ワイヤアクチュエータの張設構造等について図2〜図7を参照して詳細に説明する。図2は、本発明を利用した弁装置における駆動部の概要を示す斜視図であり、図3は図2の駆動部の分解図である。
【0022】
図2および図3に示すように、駆動部300は、第1フレーム301と第2フレーム302との間にシリンダ303が挟持された基本構造を有する。シリンダ303は略直方体状をなし、その両側面の全長に亘って軸線方向に延在する4つの溝303a,303b,303c(3つのみ示す)が形成されている。また、シリンダ303の内部には、円筒空間303dが形成され、円筒空間303dの上端開口部の一部は蓋304によって閉塞されている。この蓋304には、上記溝303a,…と連続する4つの溝304a,304b,304c(3つのみ示す)が形成されている。
【0023】
第1フレーム301は略コ字状をなし、その内側部301aは、シリンダ303の溝303aおよび蓋304の溝304aに嵌合させられている。同様に、内側部301aに対向する内側部301bが溝304bおよび溝303bに嵌合させられ、これによって、内側部301aと内側部301bとの間にシリンダ303と蓋304が挟持されている。また、第2フレーム302は、第1フレーム301と同形同大に形成され、その内側部302aは、シリンダ303の溝303cに嵌合するとともに蓋304の溝304cに嵌合している。同様に、内側部302aに対向する内側部302bがシリンダ303および蓋304の図示しない溝に嵌合し、これによって、内側部302aと内側部302bとの間にシリンダ303と蓋304が挟持されている。
【0024】
また、第1フレーム301と第2フレーム302との間には、ガイドローラ307,308,309,310が回転自在に挟持されている。各ガイドローラ307,…は同形同大であり、ガイドローラ307を例にとって説明すると、軸307a、円周溝307cが形成されたドラム307bにより構成されている。なお、図中符号302cは、軸307aを回転自在に支持する孔である。これら各ガイドローラ307,…には、後に詳述する第1のワイヤアクチュエータ(第1の線状アクチュエータ)404が巻回されている。第1のワイヤアクチュエータ404、および後述する第2のワイヤアクチュエータ(第2の線状アクチュエータ)501は、トキ・コーポレーション株式会社のバイオメタル(登録商標)を使用する。
【0025】
シリンダ303の両側面には、上記溝303aと直交する支持溝303eが形成されている。支持溝303eには、略コ字状のストッパ311が嵌合させられ、その屈曲した先端部311aは、第1フレーム301の支持孔301cに嵌合させられている。またストッパ311の他方の先端部も同様にシリンダ303および第1フレーム301の支持溝に嵌合させられている。そして、ストッパ311は、その状態でロウ付けまたは接着によってシリンダ303に固定され、これにより、第1フレーム301がシリンダ303から抜けないようになっている。
【0026】
シリンダ303の内部には、円筒空間303dが形成されてそこにヘッドピン305が軸線方向へ摺動自在に収容されている。なお、図3では図示のためにヘッドピン305をシリンダ303の外に記載してある。ヘッドピン305は、図中下側から第1小径部305a、大径部305b、第2小径部305cが成形された略円柱形状をなしている。シリンダ303の蓋304とヘッドピン305との間には、コイルバネ601(図6のみに示す)が配置されている。コイルバネ601は第2小径部305cに嵌合させられ、大径部305bがシリンダ303の円筒空間303d内で摺動する。シリンダ303の下端部には孔303m(図4、図5参照)が形成され、孔303mから第1小径部305aが突出している。第2小径部305cには、孔305dが形成され、そこに第1のワイヤアクチュエータ404が挿通されている。
【0027】
シリンダ303の側面には、アーム312が軸312aによって回動自在に支持されている。アーム312の一端部には、アーム312と直交する方向に突出する係合ピン(係合手段)313が取り付けられるとともに、第2のワイヤアクチュエータ501(図2、図5参照)を挿通させた孔312cが形成されている。以下、アーム312の構成について詳述する。
【0028】
シリンダ303の一側面には、架台303f,303gが突出して一体形成され、架台303f,303gには、軸孔303hがそれぞれ形成されている。架台303f,303gの間には、アーム312が嵌合させられ、アーム312の一端部に軸孔303hに挿通させた軸312aが挿通されることにより、アーム312は軸312aの回りに回動可能とされている。
【0029】
アーム312には、円形の座ぐり312bが形成され、そこにコイルバネ314の一端部が収容されている。コイルバネ314の他端部は、シリンダ303に固定された略コ字状のバネ押え315により押圧されている。すなわち、バネ押え315の端部で屈曲した両側部315a,315bは、架台303f,303gに形成された溝部303j,303kに嵌合させられ、そこでロウ付けや接着により固定されている。このような構成により、コイルバネ314は、バネ押え315とアーム312との間で圧縮され、アーム312をシリンダ303の方向に付勢する。この付勢力は、係合ピン313をシリンダ303に形成された孔303iからシリンダ303内の円筒空間303dに突出させる付勢力として働く。
【0030】
バネ押え315は絶縁材料で構成され、その頂部には、ガイド溝315c,315dが形成されている。そして、図2に示すように、第2のワイヤアクチュエータ501は、後述する電極321→ガイド溝315d→孔312c→ガイド溝315c→電極322と掛け渡されて張設されている。この場合において、第2のワイヤアクチュエータ501が非通電状態で収縮していない状態では、コイルバネ314の付勢力によってアーム312がシリンダ303側に押圧される。通電が行われ、第2のワイヤアクチュエータ501が収縮すると、バネ押え315のガイド溝315c,315dを支点として、孔312cに図中Y軸方向と反対方向への張力成分が発生し、アーム312を軸312aを中心に回動させる力が加わる。この構成によれば、図中Y軸方向の寸法が小さくても係合ピン313の可動範囲を効率良く確保することができる。
【0031】
次に、第1フレーム301は絶縁材料で構成され、その片面には、電極317,318が取り付けられた電極板316がビス319,320によって取り付けられている。電極317,318は、第1のワイヤアクチュエータ404に電流を流すための電極であり、通電時において両電極間には、適当なDCあるいはAC電圧が加えられる。ビス319,320を挿通させているビス孔316a,316bは長孔に形成され、図中上下方向に電極板316を移動させることができるようになっている。これにより、電極板316を第1フレーム301に対して上下させ、第1のワイヤアクチュエータ404の張り具合を調整することができる。
【0032】
第2フレーム302も絶縁材料で構成され、その片面には、電極321,322が取り付けられた電極板320がビス323,324によって取り付けられている。電極321,322は、第2のワイヤアクチュエータに電流を流すための電極であり、通電時において両電極間には、適当なDCあるいはAC電圧が加えられる。ビス323,324を通すためのビス孔320a,320bは長孔に形成され、図中上下方向に電極板320を動かすことができる寸法の余裕があり、このビス孔の余裕を利用することで、電極板320を移動させることができるようになっている。これにより、電極板320を第2フレーム302に対して上下させ、第2のワイヤアクチュエータ501の張り具合を調整することができる。
【0033】
次に、第1のワイヤアクチュエータ404の展開状態(引き回しの状態)について説明する。図4は、本実施形態における弁装置の完全な組立状態を示す平断面図である。図4には、弁装置の外装構造をなす略直方体状の上側ケース401と下側ケース402とが上下に嵌着され、その内部に図2および図3に示した駆動部300と、この駆動部300によって駆動されるダイヤフラム406が収容された弁機能部400が示されている。なお、図4では、第1のワイヤアクチュエータ404の展開状態と弁機能部400を主として説明するために、それ以外の構成の大半を省略している。
【0034】
図4に示すように、第1のワイヤアクチュエータ404は、一端が電極317に固定され、そこから、ガイドローラ309→ガイドローラ308→ヘッドピン305の孔305d(図3、図4参照)→ガイドローラ307→ガイドローラ310に掛けられ、他端が電極318に固定されている。
【0035】
電極317と318との間で通電を行うと、第1のワイヤアクチュエータ404に電流が流れ、抵抗加熱により第1のワイヤアクチュエータ404自体が発熱して収縮する。各ガイドローラ308,…は回転自在であるので、この第1のワイヤアクチュエータ404の収縮は、全体において抵抗無くスムーズに行われ、それにより、シリンダ303内においてヘッドピン305が図中上方(Z軸方向)に引っ張られる。こうして、シリンダ303の内部円筒空間304dにおいて、ヘッドピン305をコイルバネ601ない付勢手段に抗して上方に引き上げる駆動力が発生する。
【0036】
図4に示すような第1のワイヤアクチュエータ404の展開状態は、第1のワイヤアクチュエータ404を折り返して配置しているので、狭い占有空間(展開空間)でありながら、その収縮時のストロークを長く確保することができる。この際、回転自在なガイドローラ308,…によって折り返し構造を維持しているので、全体の動き(収縮)をスムーズに伝達することができる。また、ヘッドピン305は、単滑車と同じ作用により引っ張られるので、ワイヤアクチュエータ404の収縮力の2倍の力をヘッドピン305に加えることができる。
【0037】
図5は、第2のワイヤアクチュエータの展開状態および駆動部300の外観を示す斜視図であり、図2に示す駆動部300を斜め後方の下側から見た斜視図である。図5に示すように、第2のワイヤアクチュエータ501は、その一端が電極322に固定され、そこからバネ押え315の頂部のガイド溝315c→アーム312の孔312c→バネ押え315の頂部のガイド溝315d→と順に掛け渡され、他端が電極321に固定されている。この展開構造においては、バネ押え315の高さ(図中のY軸方向の寸法)によって、アーム312をシリンダ303から斜めに離れる方向に引っ張る力がアーム312に働く。しかも、第2のワイヤアクチュエータ501の展開長を確保できるので、アーム312の可動範囲を大きく確保することができる。つまり、第2のワイヤアクチュエータ501の展開を3次元的に行うことで、図中のY軸方向の寸法を大きくしなくても、図3の係合ピン313の可動範囲を大きく確保することができる。
【0038】
(2)弁機能部の構成
次に、弁機能部400の構成を説明する。弁機能部400は下側ケース402に設けられている。上側ケース401の下端面と下側ケース402の上端面には、円形の溝401a,402aが相対向して形成され、これら溝401a,402aに、ダイヤフラム406に形成した凸条406bが嵌合している。下側ケース402の中央部には、円錐状をなす弁座409が形成され、弁座409の中央には、下方へ向けて突出する流入ポート407が形成されている。また、弁座409の流入ポート407から離間した箇所には、排出ポート408が形成されている。ダイヤフラム406の下面中央部には、流入ポート407に当接する凸部406aが形成されている。
【0039】
図4においては、ヘッドピン305によってダイヤフラム406が図中下方に押圧され、それによりダイヤフラム406が変形してその中心部の凸部406aが流入ポート407を塞いでいる状態が示されている。この閉塞状態において、ダイヤフラム406は、円錐状(略椀状)の弁座409に沿うように変形する。このため、ダイヤフラム406と弁座409との間の隙間410の容積を小さくすることができる。
【0040】
また、図4に示す状態において、第1のワイヤアクチュエータ404が収縮すると、ヘッドピン305がシリンダ303内に引き上げられ、ヘッドピン305がダイヤフラム406を押圧した状態が解除され、流入ポート407が開放される。流入ポート407が開放されることで、排出ポート408との間で流路が確保され、弁の開放状態を得ることができる。なお、ダイヤフラム406は、ゴム以外の弾性材料、例えば変形可能な樹脂や薄い金属によって構成することも可能である。なお、ヘッドピン305が上方に後退した状態(弁が開放状態)で、ダイヤフラム406と円錐状の弁座409との間の隙間が拡大し、そこが弁室となる。
【0041】
(3)弁装置の動作
図6は、図2および図5に示す駆動装置300をX軸方向から見た一部破砕断面図である。図6には、シリンダ303内に収められたヘッドピン305が、付勢手段であるコイルバネ601によって、Z軸方向と反対方向に付勢され、かつ係合ピン313に係合されることにより、コイルバネ601の付勢力に抗して位置が保持されている状態が示されている。
【0042】
図6に示す状態において、第2のワイヤアクチュエータ501に通電し、それを収縮させると、バネ押え315の頂部が支点となり、孔312cにY軸成分およびZ軸成分の張力が第2のワイヤアクチュエータ501から作用する。この力により、軸312aを支点としてアーム312がY軸方向と逆方向に回動し、係合ピン313が係合ピン侵入口303iから抜け、同時に係合ピン313のヘッドピン305への係合状態が解除される。この結果、ヘッドピン305のZ軸方向と逆方向への移動を規制するものがなくなり、バネ601の付勢力により、ヘッドピン305は同方向に移動し、ヘッドピン305先端の第1小径部305aが突出する。ヘッドピン305が突出してダイヤフラム406を押圧することにより、ダイヤフラム406が弁座409の流入ポート407を閉塞する。なお、ヘッドピン305が突出した後は、第2のワイヤアクチュエータ501への通電を停止する。この場合、アーム312はコイルバネ314の付勢力によってヘッドピン305側へ回動し、係合ピン313の先端がヘッドピン305の大径部305bに当接する。
【0043】
ヘッドピン305を元に戻す(弁を開放状態にする)には、第1のワイヤアクチュエータ404への通電を行う。これにより、第1のワイヤアクチュエータ404が収縮し、バネ601の付勢力に抗してヘッドピン305がシリンダ303内においてZ軸方向に移動する。そして、係合ピン313に第1小径部305aが達すると、大径部305bに係合ピン313が係合する。その後、第1のワイヤアクチュエータ404への通電を停止する。
【0044】
上記実施形態においては、第1、第2のワイヤアクチュエータ404,501を用い、それらを折り返しあるいは屈曲させて張設しているから、小型化を達成しつつ第1、第2のワイヤアクチュエータ404,501の可動範囲を大きく確保することができる。また、第1のワイヤアクチュエータ404を、上記のようにシリンダ303等の各部材の隙間を縫うように張設したり、第2のワイヤアクチュエータ501のように3次元的に張設することができるので、設計の自由度が向上する。
【0045】
(4)安全機構
以上が弁の構造に関する説明であるが、停電等に起因する電源遮断時の安全機構について以下に説明する。本実施形態の弁装置は、弁の開動作または閉動作において電源電力が必要であり、開状態の維持および閉状態の維持には、電力を必要としない。つまり、停電により電源部の出力電圧が低下、あるいは出力停止になった場合、その時の弁の状態がそのまま維持されてしまう。しかしながら、弁装置が利用されるシステムによっては、停電時に弁を自動閉鎖する設定としたい場合等もある。
【0046】
そこで、電源電圧低下時に弁を自動閉鎖する機構の一例を説明する。図7は、弁を自動閉鎖する機構を示すブロック図である。この例においては、電源部701の出力電圧は、電圧検出部702を介して制御部704に供給され、制御部704は、弁の開閉を指示する弁開閉制御信号に基づいて、電源部701から送られてきた電圧を弁制御電圧として、弁装置705に出力する。弁装置705は、上記実施形態の構成のものが使用される。一方、電源部701の電力は、キャパシタ703に蓄えられ、キャパシタ703は、蓄えた電力を制御部704に供給可能となっている。
【0047】
電圧検出部702は、電源701の出力電圧を監視し、その値が所定のレベルを下回った場合に、その旨の異常検出信号を制御部704に送る。電圧検出部702から異常検出信号が出力されない状態では、制御部704は、電源部701から供給される電力により弁装置705の開閉制御を行う。電源部701の出力電圧が低下し、その値が所定のレベルを下回ると、それが電圧検出部702によって検出され、異常検出信号が電圧検出部702から制御部704に出力される。この異常検出信号を受けると、制御部704は、電力供給源を電源装置701からキャパシタ703に切り換えるとともに、キャパシタ703に蓄積された電力を利用して、弁装置705に対して弁を閉鎖する旨の弁制御電圧を出力する。この結果、弁装置705は強制的に閉鎖状態となる。例えば、図2〜図6の実施形態の例でいえば、第2のワイヤアクチュエータ501に通電が行われ、強制的に弁が閉鎖状態となる。このようにして、停電等により電源電圧の低下が発生した場合に、自動的に弁を閉鎖することができる。なお、以上は弁を自動的に閉鎖する例であるが、逆に弁を自動的に開放するように構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、流体の流れを電気的に制御する種々の弁装置に適用することができ、特に、小型燃料電池への燃料ガスおよび酸化性ガスの供給のための弁装置など、特に、小型化の要望が強い弁装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】発明を利用した弁装置を概念的に示した断面図である。
【図2】発明を利用した弁装置における駆動部の概要を示す斜視図である。
【図3】図2の駆動部の分解図である。
【図4】実施形態における弁装置の断面構造を示す断面図である。
【図5】第2のワイヤアクチュエータの展開状態および駆動部の外観を示す斜視図である。
【図6】発明を利用した弁装置における駆動部の一部破砕断面図である。
【図7】実施形態の安全機構を制御するための制御ブロック図である。
【符号の説明】
【0050】
100…弁装置、101a…流入ポート、101b…排出ポート、101…弁室、102…ダイヤフラム、102a…凸部、103…弁機能部、104…シリンダ、105…バネ、106…ヘッドピン、107…第1のワイヤアクチュエータ、108…係合ピン、109…第2のワイヤアクチュエータ、110…軸、111…係合ピン108の付勢方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一側部に流入ポートおよび排出ポートが設けられ他側部に柔軟性を有するダイヤフラムが設けられた弁室と、前記ダイヤフラムに対して接近離間可能に設けられ、同ダイヤフラムを押圧することで前記流入ポートおよび前記排出ポートの少なくともいずれか一方を同ダイヤフラムで閉塞させる押圧手段と、この押圧手段を前記ダイヤフラム側へ付勢する第1の付勢手段と、温度に応じて伸縮することにより前記押圧手段を前記付勢手段の付勢力に抗して前記ダイヤフラムと逆方向へ移動させる第1の線状アクチュエータと、前記押圧手段に対して接近離間可能に設けられるとともに同押圧手段に係脱自在に係合し、前記押圧手段が前記ダイヤフラムと逆方向へ移動したときに前記押圧手段と係合して同押圧手段をその位置に保持する係合手段と、この係合手段を前記押圧手段側へ付勢する第2の付勢手段と、温度に応じて伸縮することにより前記係合手段を前記第2の付勢手段の付勢力に抗して前記押圧手段から離間させる第2の線状アクチュエータとを備え、前記第1、第2の線状アクチュエータへ通電することでそれらの伸縮状態を変化させることにより弁の開閉を制御することを特徴とする弁装置。
【請求項2】
前記弁室内には、前記ダイヤフラムと対向する位置に弁座が設けられ、この弁座は、前記一側部側へ向かうに従って軸断面積が減少する断面形状とされ、かつ、その中央部に、前記流入ポートおよび排出ポートの一方が形成され、周辺部に前記流入ポートおよび排出ポートの他方が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−78028(P2007−78028A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263999(P2005−263999)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000107642)スター精密株式会社 (253)
【Fターム(参考)】