説明

【課題】弁において、弁体と弁座とを固着しにくくし、長期間使用する場合でも、所望の圧力または所望の圧力に近い圧力で良好に開弁させることである。
【解決手段】ゴム等の弾性材製の弁体本体38に、弁座34に設けた突出部42を押し付けることにより、閉弁させる。弁座34を有するケーシング30において、突出部42の周囲に存在する角部にストッパ44を固定する。ストッパ44の軸方向片面を、弁体本体38に固定した摺動体40の軸方向他面に隙間を介して対向させる。ストッパ44は、弁座34に対する弁体本体38の、弁座34と弁体本体38との食い込みによる変位を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁体を弁座に押し付けることより閉弁する弁に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への負担が少ない等から、燃料電池を使用することが考えられ、一部で実用化されている。燃料電池は、燃料電池スタックを備える。この燃料電池スタックは、例えばアノード側電極、電解質膜およびカソード側電極から成る膜−電極アセンブリ(MEA)とセパレータとを1組の燃料電池セルとして、これを複数組積層した燃料電池セル積層体により構成している。すなわち、各燃料電池セルは、高分子イオン交換膜から成る電解質膜の一方の面にアノード側電極を、他方の面にカソード側電極を、それぞれ配置して、さらに両側にセパレータを設けることにより構成している。そして、このような燃料電池セルを複数組積層し、さらに集電板、絶縁板およびエンドプレートで狭持することにより、高電圧を発生する燃料電池スタックを構成する。
【0003】
このような燃料電池では、アノード側電極に燃料ガス、例えば水素を含むガスを供給すると共に、カソード側電極に、酸化ガス、例えば空気を供給する。これにより、燃料ガスおよび酸化ガスが電気化学反応に供されて、起電力を発生し、カソード側電極では、水が生成される。
【0004】
また、燃料電池スタックに燃料ガスを供給するために燃料ガス供給流路を設けるとともに、燃料ガス供給流路の上流部に高圧水素タンク等の燃料ガス供給手段を設けている。また、燃料ガス供給流路において、燃料ガス供給手段よりも下流側に、電磁開閉弁および減圧弁を使用することが考えられている。
【0005】
例えば、特許文献1には、高圧水素タンクに設ける水素ガス用減圧装置に減圧弁を設けることが記載されている。また、この減圧弁では、弁座をポリイミド樹脂から形成するとともに、弁座に着座可能な弁体をSUS316Lにて形成し、さらに、弁体の表面にPVDコーティングによりTiNからなる低摩擦係数膜を形成している。また、特許文献1には、この低摩擦係数膜として、非晶質硬質炭素膜であるダイヤモンド状炭素薄膜(DLC)や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはテトラフルオロエチレン(TFE)による低摩擦係数膜でもよいことが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−23975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された構造の場合には、燃料ガス供給流路において、燃料ガス供給手段よりも下流側に設ける弁において、弁体と弁座との、互いに押し付けあう相手部材に対する食い込みによる変位を規制することは考慮されていない。このため、例えば、弁体をゴム等の変形しやすい材料により造る場合に、弁体が弁座に固着して、使用開始初期時に開弁させるために加える圧力を弁に付与したのでは、弁が開弁しない可能性がある。このように弁体が弁座に固着した場合、弁に加える開弁用の圧力の上昇に対して開弁応答性が悪化したり、開弁するのに必要な圧力が使用開始初期時の場合よりも大きくなる可能性がある。また、このように弁体が弁座に固着する問題は、特に、弁がリリーフ弁である場合に生じやすい。
【0008】
例えば、燃料電池システムの燃料ガス供給流路において、燃料ガス供給手段よりも下流側には、リリーフ弁を設けて、リリーフ弁よりもガスの下流側に存在する部品が高圧により故障しないようにしている。リリーフ弁は、例えば、ばね等の弾力付与手段により弁体を弁座に押し付けることにより閉弁し、所定以上の圧力が弁体に加わることにより、弁体が弾力付与手段の弾力に抗して変位して開弁する機能を有する。リリーフ弁は、使用年数が多くなるほど開弁する確率が高くなる傾向となる。ただし、リリーフ弁が閉弁状態のまま長期間維持されると、リリーフ弁の弁体と弁座とが固着して、使用開始初期時点で開弁させるのに必要な圧力である、初期開弁設定圧よりも十分に高い圧力が加わらないと、開弁しない可能性がある。
【0009】
図5は、燃料ガス供給流路において、燃料ガス供給手段側のガス供給圧を徐々に上昇させる場合に、リリーフ弁よりもガス下流側の圧力と時間との関係の1例を表す線図である。図5において、点線は使用開始初期時の圧力を表しており、実線は使用開始から長期間経過後の圧力を表している。図5から明らかなように、長期間経過後は、リリーフ弁よりもガス下流側の圧力が使用開始初期時よりも図5に示すH分高くなることから、リリーフ弁が初期開弁設定圧よりも十分に高い圧力が加わらないと開弁しない可能性がある。また、図5から、長期間経過後では、使用開始初期時の場合に比べて、圧力上昇時にリリーフ弁が開弁するまでに、時間遅れがある(応答性が悪い)可能性があることが分かる。
【0010】
このように、リリーフ弁が初期開弁設定圧よりも十分に高い圧力でないと開弁しない原因として、主に次の2の原因がある。第1の原因として、弁体と弁座を有する部材との摺動部の摩擦が大きいことがある。また、第2の原因として、弁体が弁座に固着することがある。第2の原因は、弁体がゴム等の弾性材製である場合に特に生じやすい。すなわち、長期間の使用により、ゴム等の弾性材製の弁体がへたり、閉弁時に弁座に設けられた突出部等の一部が弁座に食い込んだ場合に、その食い込みによる弁体のくぼみが開弁時でも十分に復元しきらない可能性がある。この場合、弁体と弁座との食い込み量が徐々に大きくなり、閉弁時での弁体と弁座との接触面積が大きくなる。そして、この接触面積が大きくなると、弁体が弁座から離れにくくなり、著しい場合には、弁体が弁座に固着したままとなり、大きな圧力が加わらないと開弁しない可能性がある。
【0011】
このように弁体が弁座に固着する可能性を考慮して、燃料ガス供給流路においてリリーフ弁よりもガス下流側に存在する部品に正常時に加わる圧力とこの部品の耐圧との間に、大きなマージンを確保することにより、この部品の耐久性を確保することが考えられている。例えば、リリーフ弁よりも下流側の部品の耐圧を大きくすることが考えられる。ただし、この下流側の部品の耐圧を高くすることが難しい場合もある。例えば、燃料電池システムのように、リリーフ弁よりもガス下流側の部品である燃料電池スタックは、平板状の部材を複数個積層することにより構成することが考えられている。この場合には、燃料電池スタックの耐圧を高くすることに対して、構造上限界がある。このようにリリーフ弁よりも下流側の部品の耐圧を高くすることに対して、構造上限界がある場合には、上記のマージンを大きくするために、燃料ガス供給手段による燃料ガスの供給圧力を十分に低くする必要がある。ただし、燃料ガスの供給圧力を低くすることは、燃料電池システムの高性能化を図ることに対して、妨げとなる可能性があり、好ましくない。
【0012】
本発明は、上記の第2の原因に着目して、弁において、弁体と弁座とを固着しにくくし、長期間使用する場合でも、所望の圧力または所望の圧力に近い圧力で良好に開弁させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る弁は、弁体を弁座に押し付けることより閉弁する弁であって、弁座を有する部材に直接または他の部材を介して固定されたストッパを備え、ストッパは、弁体または弁体に固定された部材に対向して、弁座に対する弁体の食い込みによる変位を規制することを特徴とする弁である。
【0014】
また、好ましくは、流路内の圧力が所定値を超える場合に開弁して、流路内の圧力を所定値以下に規制するリリーフ弁とする。
【0015】
また、より好ましくは、弁体のうち、少なくとも弁座と対向する部分は、ゴム等の弾性材製とし、弁座に設けられた突出部を弁体に対向させるとともに、弁座を有する部材において、突出部の周囲に存在する部分にストッパを固定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る弁によれば、長期間の使用により、弁体がへたり、弁座に設けられた突出部等の弁座の一部が弁体に食い込んでも、ストッパと弁体または弁体に固定された部材とが突き当たることにより、弁座と弁体との食い込みを規制できる。このため、食い込み部分での弁座と弁体との接触面積を小さく制限して、弁体のへたりにかかわらず、弁座から弁体を離れやすくできる。この結果、弁体と弁座とを固着しにくくして、長期間使用する場合でも、所望の圧力または所望の圧力に近い圧力で良好に開弁させることができる。
【0017】
また、流路内の圧力が所定値を超える場合に開弁して、流路内の圧力を所定値以下に規制するリリーフ弁とする構成によれば、本発明の構成を備えることにより得られる本発明の効果がより顕著になる。すなわち、リリーフ弁は、圧力が所定値以上でしか開弁せず、正常時には、弁体が弁座に押し付けられる閉弁状態となるため、閉弁状態の時間は長い。このため、本発明の場合と異なり、ストッパを備えない場合には、リリーフ弁において、弁体と弁座とがより固着しやすくなる。このため、弁をリリーフ弁とする構成によれば、ストッパを備えるという本発明の構成を備えることにより、長期間使用する場合でも、所望の圧力または所望の圧力に近い圧力で良好に開弁させることができるという本発明により得られる効果がより顕著になる。
【0018】
また、弁体のうち、少なくとも弁座と対向する部分は、ゴム等の弾性材製とし、弁座に設けられた突出部を弁体に対向させるとともに、弁座を有する部材において、突出部の周囲に存在する部分にストッパを固定する構成によれば、本発明の構成を備えることにより得られる本発明の効果がより顕著になる。すなわち、弁体がゴム等の弾性材製であり、弁座に設けられた突出部を弁体に押し付けることにより閉弁する場合には、弁体を合成樹脂製とする場合に比べて、弁体がへたりやすく、閉弁時の食い込みがより生じやすい。このため、本発明の場合と異なり、ストッパを備えない場合には、弁体と弁座とがより固着しやすい。これに対して、弁体のうち、少なくとも弁座と対向する部分は、ゴム等の弾性材製とし、弁座に設けられた突出部を弁体に対向させるとともに、弁座を有する部材において、突出部の周囲に存在する部分にストッパを固定する構成によれば、長期間使用する場合でも、所望の圧力または所望の圧力に近い圧力で良好に開弁させることができるという本発明により得られる効果がより顕著になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下において、図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。図1から図4は、本発明の実施の形態の1例を示している。図1は、本実施の形態の弁であるリリーフ弁28を使用する燃料電池システム10の略構成図である。
【0020】
燃料電池システム10は、燃料電池車に搭載して使用するもので、燃料電池スタック12を有する。この燃料電池スタック12は、複数の燃料電池セルを積層した燃料電池セル積層体とすると共に、燃料電池セル積層体の積層方向両端部に、集電板と、エンドプレートとを設けている。そして、燃料電池セル積層体と集電板とエンドプレートとをタイロッド、ナット等で締め付けている。なお、集電板とエンドプレートとの間に絶縁板を設けることもできる。
【0021】
各燃料電池セルの詳細図は省略するが、例えば、平板状の電解質膜をそれぞれが平板状のアノード側電極およびカソード側電極により狭持して成る膜−アセンブリと、その両側の平板状のセパレータとを備えたものとする。また、アノード側電極には燃料ガスである水素ガスを供給可能とし、カソード側電極には酸化ガスである空気を供給可能としている。そして、アノード側電極で触媒反応により発生した水素イオンを、電解質膜を介してカソード側電極まで移動させ、カソード側電極で酸素と電気化学反応を起こさせることにより、水を生成する。アノード側電極からカソード側電極へ図示しない外部回路を通じて電子を移動させることにより起電力を発生する。
【0022】
燃料ガスである水素ガスを燃料電池スタック12に供給するために、燃料ガス供給流路14を設けている。燃料ガス供給手段である高圧水素タンク等の水素ガス供給装置Tから燃料ガス供給流路14に供給された水素ガスは、電磁開閉弁16および減圧弁18等を介して燃料電池スタック12に供給される。燃料電池スタック12のアノード側電極側の燃料ガス流路に供給され、電気化学反応に供された後の水素ガス系ガスは、燃料電池スタック12から燃料ガス系排出流路20に排出された後、気液分離器22を介して図示しない排気排水弁から排出される。燃料ガス系排出流路20に循環路24を接続するとともに、循環路24の途中に水素ポンプ26を設けている。水素ポンプ26は、循環路24に送られた水素ガス系ガスを昇圧し、循環路24を通じて水素ガス系ガスを燃料ガス供給流路14に戻す機能を有する。
【0023】
なお、図示は省略するが、酸化ガスである空気を燃料電池スタック12に供給するために、酸化ガス供給流路を設けている。また、酸化ガス供給流路のガス上流部に酸化ガス供給手段であるエアコンプレッサを設けている。エアコンプレッサから吐出された空気は、加湿器を介して燃料電池スタックのカソード電極側の酸化ガス流路に供給され、水素ガスとの電気化学反応に供された後、燃料電池スタック12から酸化ガス系排出流路を通じて排出される。酸化ガス系排出流路に排出された酸化ガス系ガスは、上記の水素ガス系ガスとともに希釈器に送られて、水素ガス系ガスの水素濃度を低下させた後、外部に排出される。
【0024】
特に、本実施の形態の場合、燃料ガス供給流路14において、減圧弁18よりも下流側で、循環路24との合流部よりもガスの上流側に、弁であるリリーフ弁28を設けている。リリーフ弁28は、燃料ガス供給流路14内の圧力が所定値を超える場合に開弁して、燃料ガス供給流路14内の圧力を所定値以下に規制する機能を有する。
【0025】
図2は、リリーフ弁28の具体的構造の部分断面図を示している。リリーフ弁28は、金属製のケーシング30と、ケーシング30の内部に設けた弁体32と、ケーシング30の内側に一体形成した弁座34とを備える。ケーシング30の一端側(図2の上端側)は、燃料ガス供給流路14(図1参照)に通じさせている。また、ケーシング30の他端側(図2の下端側)に設けられた図示しない塞ぎ部と、弁座34との間に、弾力付与手段であるコイルばね36を設けている。コイルばね36は、弁体32に、弁座34に押し付ける方向の弾力を付与している。
【0026】
弁体32は、平板状の弁体本体38と、弁体本体38に一体に固定された有底円筒状の摺動体40とを備える。弁体本体38は、ゴム等の弾性材製である。また、摺動体40は、金属または合成樹脂により造っている。好ましくは、摺動体40を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等の合成樹脂等の、金属よりも摩擦抵抗係数の低い材料により造っている。また、弁座34は、先端が尖った形状を有する環状の突出部42を備える。突出部42は、弁体本体38に対向させている。また、摺動体40を構成する底板部の外周寄り部分で、弁体本体38から外径側に外れた部分の円周方向複数個所に、軸方向両側を通じさせる通孔46を形成している。
【0027】
特に、本実施の形態の場合には、弁座34と一体の部材である、すなわち、弁座34を有するケーシング30のうち、突出部42の周囲に存在する角部に、ストッパ44を固定している。ストッパ44は、弁体本体38よりも剛性の高い金属等の材料により、断面矩形状で全体を円筒状に造っている。そして、ストッパ44の軸方向片面(図2の下面)を、摺動体40の外周部の軸方向他面(図2の上面)に隙間50(図3参照)を介して対向させることにより、弁座34に対する弁体32の、弁体本体38と突出部42との食い込みによる変位を規制している。
【0028】
このようなリリーフ弁28は、燃料ガス供給流路14(図1)内の水素ガスの圧力が所定値を超えた場合に、弁体32をコイルばね36の弾力に抗して図2の下方に変位させる。これにより、燃料ガス供給流路14内から水素ガスが、弁体本体38の周囲から、摺動体40に形成した通孔46を通じてコイルばね36が存在する空間48内に送られる。そして、この空間48を通じて、図示しないリリーフ弁用排出流路に排出される。リリーフ弁用排出流路は、例えば、図示しない逆止弁等を介して水素ガス供給装置T(図1)等に接続している。
【0029】
このようなリリーフ弁28は、図3、図4に示すようにして、ストッパ44により、弁座34に対する弁体32の、弁座34と弁体32との食い込みによる変位を規制する。まず、図3に示すように、リリーフ弁28の使用開始初期の状態では、弁体本体38のへたりがなく、リリーフ弁28の閉弁状態でも、ストッパ44の軸方向片面(図3の下面)と摺動体40の軸方向他面(図3の上面)との間に隙間50が存在する。これに対して、長期間の使用により弁体本体38にへたりが生じた、使用開始から長期間を経過した場合には、図4に示すように、弁座34の突出部42が弁体本体38に食い込んで、弁体本体38が図4の上方に変位した状態で、ストッパ44の軸方向片面(図4の下面)が摺動体40の軸方向他面(図4の上面)に突き当たる。これにより、弁体本体38がそれ以上図4の上方へ変位することが阻止され、弁体32の変位が規制される。
【0030】
このような本実施の形態の弁であるリリーフ弁28によれば、長期間の使用により、弁体本体38がへたり、弁座34に設けられた突出部42が弁体本体38に食い込んでも、ストッパ44と摺動体40とが突き当たることにより、弁座34と弁体本体38との食い込みを規制できる。このため、食い込み部分での弁座34と弁体本体38との接触面積を小さく制限でき、弁体本体38のへたりにかかわらず、弁座34から弁体32を離れやすくできる。この結果、弁体32と弁座34とを固着しにくくして、長期間使用する場合でも、所望の圧力または所望の圧力に近い圧力で良好に開弁させることができる。すなわち、上記の図5に示したリリーフ弁下流側のガス流路の圧力に関して、長期間使用後のガス流路の圧力と、使用開始初期のガス流路の圧力との差であるH(図5)を十分に小さくできる。また、本実施の形態によれば、ストッパ44は、安価な材料により単純な構造で得られるため、過度なコスト上昇を抑制できる。
【0031】
また、本実施の形態の弁は、燃料ガス供給流路14内の圧力が所定値を超える場合に開弁して、燃料ガス供給流路14内の圧力を所定値以下に規制するリリーフ弁28としているので、本実施の形態の効果がより顕著になる。すなわち、リリーフ弁28は、圧力が所定値を超える場合しか開弁せず、正常時には、弁体32が弁座34に押し付けられる閉弁状態となるため、閉弁状態の時間は長い。このため、本実施の形態の場合と異なり、ストッパ44を備えない場合には、リリーフ弁28において、弁体32と弁座34とがより固着しやすくなる。このため、弁をリリーフ弁28とする本実施の形態の構成によれば、ストッパ44を備えるという本実施の形態の構成を備えることにより、長期間使用する場合でも、所望の圧力または所望の圧力に近い圧力で良好に開弁させることができるという本実施の形態により得られる効果がより顕著になる。
【0032】
また、本実施の形態によれば、弁体32のうち、弁座34と対向する弁体本体38をゴム等の弾性材製とし、弁座34に設けられた突出部42を弁体本体38に対向させるとともに、ケーシング30において、突出部42の周囲に存在する部分にストッパ44を固定するので、本実施の形態の効果がより顕著になる。すなわち、弁体本体38がゴム等の弾性材製であり、弁座34に設けられた突出部42を弁体本体38に押し付けることにより閉弁する場合には、弁体を合成樹脂製とする場合に比べて、弁体本体38がへたりやすく、閉弁時の食い込みがより生じやすい。このため、本実施の形態の場合と異なり、ストッパ44を備えない場合には、弁体本体38と弁座34とがより固着しやすい。これに対して、弁体32のうち、弁体本体38をゴム等の弾性材製とし、弁座34に設けられた突出部42を弁体本体38に対向させるとともに、ケーシング30において、突出部42の周囲に存在する部分にストッパ44を固定する本実施の形態の構成によれば、長期間使用する場合でも、所望の圧力または所望の圧力に近い圧力で良好に開弁させることができるという本実施の形態により得られる効果がより顕著になる。また、弁体本体38を安価なゴム製とすることで、リリーフ弁28のコストを低減できる。
【0033】
また、摺動体40を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等の合成樹脂等の、金属よりも摩擦抵抗係数の低い材料により造る場合には、摺動体40を構成する摺動筒部の外周面と、ケーシング30の内周面との摺動部の摩擦抵抗を小さくできる。このため、ケーシング30に対して弁体32を円滑に摺動変位させることができ、燃料ガス供給流路14内の圧力上昇に対して、円滑に開弁させることができ、開弁応答性のさらなる向上を図れる。
【0034】
なお、摺動体40を金属により造る場合でも、摺動体40の摺動面である摺動筒部の外周面に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)等のフッ素系、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等の合成樹脂等をコーティングしたり、TiN、CrN等の低摩擦係数膜をPVDコーティング等の表面処理によりコーティングしたり、ダイヤモンド状炭素薄膜(DLC)を低摩擦係数膜としてコーティングすることによっても、上記と同様に、開弁応答性の向上を図れるという効果を得られる。
【0035】
また、ケーシング30の内面の、少なくとも摺動体40の摺動筒部と摺動する部分に、PTFE、TFE等のフッ素系、PPS等の合成樹脂等をコーティングしたり、TiN、CrN等の低摩擦係数膜をPVDコーティング等の表面処理によりコーティングしたり、DLCを低摩擦係数膜としてコーティングすることによっても、上記と同様に、開弁応答性の向上を図れるという効果を得られる。
【0036】
さらに、より好ましくは、ケーシング30の内面の、摺動体40の摺動筒部と摺動する部分、および、突出部42を含む連続部の表面全体(図2の斜格子で示した部分の表面全体)に、上記のフッ素系、PPS等の合成樹脂等をコーティングしたり、TiN、CrN等の低摩擦係数膜をPVDコーティング等の表面処理によりコーティングしたり、DLCを低摩擦係数膜としてコーティングすることもできる。この場合には、コーティングする場合のマスキング部分を少なくできるか、またはなくすことができて、生産性の向上を図れる。しかも、このようなより好ましい構成を採用した場合には、弁座34の一部である突出部42を、弁体本体38からより離れやすくできる。このため、リリーフ弁28を長期間使用する場合でも、より有効に、所望の圧力または所望の圧力に近い圧力で良好に開弁させることができる。
【0037】
例えば、従来構造においては、リリーフ弁28の閉弁時において、ゴム等の弾性材製の弁体本体38に金属製の弁座34部分が食い込んだ状態等で張り付くことにより、長期間使用時にリリーフ弁28が所望の圧力で開弁しない可能性があるという不都合がある。これに対して、上記のより好ましい構成によれば、このような不都合をなくせる。本発明者が行った実験によれば、金属製のケーシング30において、突出部42を含む部分に上記のフッ素系等の低摩擦係数膜をコーティングすることにより、弁座34とゴム製の弁体本体38との引き離しに要する力を、突出部42を含む部分に低摩擦係数膜をコーティングしない場合に比べて小さくできることを確認できた。このように、弁座を含む部分に摺動時の摩擦を低減する低摩擦係数膜をコーティングする構成は、本実施の形態の場合と異なり、ストッパを備えない構成においても、弁座とゴム製の弁体との引き離しに要する力を小さくできるという効果を得られる。
【0038】
なお、本発明において、ストッパ44の形状および材料は、上記の本実施の形態の構造に限定するものではない。例えば、ストッパ44の断面形状は矩形状に限定せず種々の形状を採用できる。また、ストッパは、本実施の形態のように円筒状に形成したものに限定せず、例えば、断面円弧状に形成して、ケーシング30の摺動体40と対向する部分の円周方向複数個所等に複数個のストッパを配置することもできる。
【0039】
なお、ストッパは、弁座を有する部材に直接ではなく、他の部材を介して固定することもできる。また、ストッパは、弁体に直接対向させるのではなく、弁体に固定された部材に対向させてもよい。また、ストッパを構成する材料は、金属以外でも、弁体のうち、弁座を押し付ける部材(本実施の形態の場合は弁体本体38)を構成する材料よりも剛性の高い材料であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態の1例の弁であるリリーフ弁を使用する燃料電池システムの基本構成を示す図である。
【図2】図1のリリーフ弁の具体的構造を示す、部分断面図である。
【図3】使用開始初期においての、図2のA部拡大断面図である。
【図4】使用開始から長期間経過後の、図3に対応する図である。
【図5】従来構造のリリーフ弁を長期間使用した場合に、リリーフ弁下流側のガス流路の圧力が使用開始初期時よりも上昇する可能性があることを説明するための線図である。
【符号の説明】
【0041】
10 燃料電池システム、12 燃料電池スタック、14 燃料ガス供給流路、16 電磁開閉弁、18 減圧弁、20 燃料ガス系排出流路、22 気液分離器、24 循環路、26 水素ポンプ、28 リリーフ弁、30 ケーシング、32 弁体、34 弁座、36 コイルばね、38 弁体本体、40 摺動体、42 突出部、44 ストッパ、46 通孔、48 空間、50 隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体を弁座に押し付けることより閉弁する弁であって、
弁座を有する部材に直接または他の部材を介して固定されたストッパを備え、
ストッパは、弁体または弁体に固定された部材に対向して、弁座に対する弁体の食い込みによる変位を規制することを特徴とする弁。
【請求項2】
請求項1に記載の弁において、
流路内の圧力が所定値を超える場合に開弁して、流路内の圧力を所定値以下に規制するリリーフ弁であることを特徴とする弁。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の弁において、
弁体のうち、少なくとも弁座と対向する部分は、弾性材製であり、
弁座に設けられた突出部を弁体に対向させるとともに、弁座を有する部材において、突出部の周囲に存在する部分にストッパを固定していることを特徴とする弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−164025(P2008−164025A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352989(P2006−352989)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】