説明

引き戸の取付構造、引き戸及び収納装置

【課題】引き戸を工具を用いることなく筐体等に簡単にセットできるようにした引き戸の取付構造を実現する。
【解決手段】引き戸2の上端側及び下端側にそれぞれ上滑動部材であるスライダ21及び下滑動部材である車輪22を設け、これらスライダ21及び車輪22をそれぞれ上レール15a及び下レール16aに係り合わせて引き戸2を取り付けるにあたり、スライダ21を、その一部に設定した滑動部21cが引き戸2の上端よりも上方に突出することとなる突出位置及び当該滑動部21cが引き戸2内にほぼ没入することとなる待機位置との間で背反的に移動可能かつその移動動作のみによって移動先に係留可能に構成しておき、スライダ21を待機位置に係留した状態で車輪22を下レール16aに係り合わせ、その状態でスライダ21を上動動作により使用位置に係留して、当該スライダ21の滑動部21cを上レール15aに係り合わせ得るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き戸のレールへの取付作業の簡素化を図り、収納空間の奥行き内寸も極力広く確保できるようにした引き戸の取付構造、引き戸及び収納装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の引き戸は、上端側及び下端側にそれぞれスライダ及び車輪を配し、これらスライダ及び車輪を収納装置等の筐体の上レール及び下レールに係り合わせて、当該筐体にスライド可能に取り付けるようにしているのが通例である。
【0003】
その取付に係る構造や方法としては、特許文献1に示すように、引き戸の上端部にスライダを突没可能に配し、このスライダを上レールに適切に係り合う高さ位置に移動させてねじにより固定するようにしたものや、図8に示すように、引き戸aに固定したスライダbを上レールcに設けた孔dに一時的に深く呑み込ませた後、スライダbが上レールcから外れない範囲で引き戸aを落とし込んで下端側に位置する図示しない車輪を下レールに係り合わせる方法(所謂けんどん方式)、さらには、図9に示すように、引き戸eに固定したスライダfに予め上レール部材gを係り合わせ、この上レール部材gとともに引き戸eを筐体Hの所定の取付位置に移動させて、その位置で上レール部材gを筐体hに固定する方法などが採用されている。
【特許文献1】実開昭47−12038号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1のものでは、引き戸を所定位置に移動させてスライダを適宜位置に突出させた状態で背面側から工具を用いてビス止めする作業が必要になるため、作業性が極めて悪いという問題がある。また、図8に示すけんどん方式も、引き戸a全体を持ち上げかつ傾けた状態でスライダb及び図示しない車輪を上レールc及び図示しない下レールに順次係り合わせる作業を行わなければならないため、作業が極めて煩雑である。さらに図9に示す方法では、上レール部材gを複数の引き戸eに係り合わせたまま引き戸eを所定位置に移動させ、さらにその状態を保って上レール部材gを筐体hに工具を用いて固定しなければならないので、作業にさらに熟練が必要になるという問題がある。そして、工具を用いてビス止めする構造であると、メンテナンス時などに一時的に引き戸を外す際にも再度工具を使って作業を行う必要があり、逐一面倒な作業を強いられることになる。
【0005】
一方、収納力の観点からすると、図8に示したけんどん方式は、落とし込んだ際に引き戸aの上端とレール部材c´の下面との間に隙間が生じることを極力避けるべく、一時的に引き戸aの厚みを受容するレール巾L1をレール部材c´に確保しなければならず、複数枚の引き戸aを取り付ける際にはレール部材c´の奥行き寸法が累積的に増大して収納空間Sの奥行き内寸(したがって収納装置の内容積)が狭められるという問題がある。また、このものはレール部材c´の前方にレール隠しkを設けて、レール隠しkの奥にレール部材c´を隠蔽しているが、この点もレール隠しkの奥行き寸法L2分だけ収納空間Sの奥行き内寸ひいては収納装置の内容積が狭められる要因となる。図9に示したように予め上レール部材gを引き戸eに係り合わせる方法は、上レール部材gが前方に露出して意匠的に煩雑となるし、この場合にレール隠しを採用してレール隠しの奥にレール部材を配置すれば、やはり図8に示したけんどん方式におけると同様、奥行き内寸ひいては収納装置の内容積を狭める要因を持ち込むことになる。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、先ずもって引き戸を筐体等に簡単にセットできるようにし、収納空間の内空の確保にも繋がるようにした、新規有用な引き戸の取付構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0008】
すなわち、本発明に係る引き戸の取付構造は、引き戸の上端側及び下端側にそれぞれ上滑動部材及び下滑動部材を設け、これら両滑動部材をそれぞれ上レール及び下レールに係り合わせて引き戸を取り付けるにあたり、上滑動部材を、その一部に設定した滑動部が引き戸の上端よりも上方に突出することとなる突出位置及び当該滑動部が引き戸内にほぼ没入することとなる待機位置との間で背反的に移動可能かつその移動動作のみによって移動先に係留可能に構成しておき、上滑動部材を待機位置に係留した状態で下滑動部材を下レールに係り合わせ、その状態で上滑動部材を上動動作により使用位置に係留して、当該上滑動部材の滑動部を上レールに係り合わせ得るように構成したことを特徴とする。
【0009】
このように、上滑動部材を、少なくとも引き戸に対して上動可能かつその上動動作のみによって滑動部を引き戸の上端よりも上方に突出させる使用位置に係留させ得るように構成すると、引き戸を所定位置に配置し、上滑動部材を上動動作させるだけで、滑動部が上レールに係り合う使用位置に上滑動部材を係留させて引き戸のセットを完了することができる。このため、引き戸の背面側から工具等を用いて固定する操作や、けんどんのような煩わしい操作、更には引き戸を上レールとともに筐体等に取り付ける操作が不要であり、引き戸の取付作業を格段に簡素化することができる。
【0010】
また、上滑動部材を、滑動部が引き戸内にほぼ没入することとなる待機位置に仮保持させ得ることで、引き戸の取付前に上滑動部材を引き戸に付帯させておくことができるので、出荷時や搬送時、組立時などに別途に部品管理を行う必要がなく、また、引き戸をレール等と干渉させることなく所定位置に配置し、その状態で直ちに上滑動部材を引き出すことができるので、引き戸の取付時に上滑動部材を別途準備する煩わしさも解消することができる。
【0011】
そして、上滑動部材を、待機位置から使用位置に、また使用位置から待機位置に、それぞれ背反的に移動させて移動先に係留可能としているので、初期取付時は勿論のこと、メンテナンス時など一旦引き戸を取り外す場合等も含めて、上記と同様の作用効果の下に使い勝手を有効に向上させることができる。
【0012】
上記の係留動作を簡素な構造で有効に実現するためには、上滑動部材は、弾性変形部を有し、この弾性変形部を一時的に弾性変形させて引き戸に係留させ得るようにしていることが好適である。
【0013】
具体的な実施の態様としては、弾性変形部は、樹脂バネにより変形可能な舌片と、その舌片の基端側に形成されて引き戸への係留部となる爪と、その舌片の先端側に形成した係留解除用の操作部とを備えているものが挙げられる。
【0014】
引き戸の良好な作動を確保するためには、上滑動部材の使用位置で、弾性変形部の爪の下向面が引き戸の上向面に弾性的に係留し、その弾性反発力で上滑動部材の一部に設定した上向面が引き戸の下向面に突き当たるように構成していることが望ましい。
【0015】
引き戸を極力前面側に配置して当該引き戸を取り付けた収納装置における収納空間の奥行き内寸を極力広く確保し、内容積を有効に増大させるためには、上滑動部材の滑動部を引き戸の肉厚よりも薄肉とし、上レールを引き戸の肉厚よりも巾狭かつ上滑動部材の滑動部の肉厚よりも巾広となる寸法関係に設定しておくことが好ましい。
【0016】
同様に、引き戸を極力前面側に配置して当該引き戸を取り付けた収納装置における収納空間の奥行き内寸を極力広く確保し、内容積を有効に増大させるためには、上滑動部材の滑動部を、引き戸に係留された状態で当該引き戸の厚み方向背面側へ変位した部位に位置づけておくことが好適である。
【0017】
上レールの前面側に当該上レールの前方への露出を防ぐレール隠しを設ける場合にも、引き戸を極力前面側に配置して当該引き戸を取り付けた収納装置における収納空間の奥行き内寸を極力広く確保し、内容積を有効に増大させるためには、レール隠しに近い引き戸のうち上滑動部材の滑動部よりも前方に位置する部位をレール隠しの下方に潜り込ませて配置していることが効果的である。
【0018】
引き戸の動作の安定化と部品点数の削減とに有効に資するためには、下滑動部材のうち下レールと係り合う滑動部を、上滑動部材の滑動部とほぼ同じ肉厚とし、かつ引き戸に対してほぼ同じ奥行き位置に設けておくことが好都合である。
【0019】
本発明は、以上のような取付構造であるから、上記の上滑動部材を採用した引き戸を既存のレールに適用しても取付、メンテナンス時の効果を有効に得ることができ、また、上記の取付構造によって引き戸を収納空間を開閉する位置に取り付けた収納装置においては、収納力を有効に向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る引き戸の取付構造は、以上説明した構成であるから、出荷時や搬送、組立時などに引き戸の構成部品である上滑動部材を別管理する煩わしさを解消すると同時に、工具を用いることなく引き戸を筐体等に簡単にセットすることが可能となる。また、メンテナンス時などにも都度工具を用いることなく引き戸を筐体等から簡単に取り外す構成が容易に採用可能であり、収納空間の奥行き内寸を拡張する効果も容易に得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る引き戸の取付構造を適用した収納装置を示しており、図2はその引き戸取付部分の部分縦断面図である。この収納装置は、頂板11、底板12、左右の側板13及び背板14を備え前面側に収納空間Sを開放した板金製の筐体1に、上レール部材15及び下レール部材16を設け、これら上レール部材15及び下レール部材16に、上滑動部材たるスライダ21及び下滑動部材たる車輪22を介して複数枚の引き戸2を引き違い可能に配したものである。
【0023】
具体的に説明すると、上レール部材15は、図2及び図3に示すように、下面に3条の平行な上レール15aを有する樹脂製のもので、筐体1の頂板11の一部を構成する前面側の上框に設けた下向き凹状のレール取付部11aにねじにより取り付けられて、取付状態で下面15bがその内奥に隣接する頂板11の下面11bとほぼ面一となるように設定されている。この上レール部材15の前方には、下面17bを上レール部材15の下面15bとほぼ面一とするレール隠し17が頂板11と一体的に設けてある。つまり、上レール部材15は、内奥に隣接する頂板11の下面11bと前方に隣接するレール隠し17の下面17bとの間に形成される溝状の前記レール取付部11aに嵌め込まれる形で取り付けられる。
【0024】
また、下レール部材16は、図2に示すように、上面に3条の平行な下レール16aを有する樹脂製のもので、筐体1の底板12の一部を構成する前面側の下框に設けた上向き凹状のレール取付部12aにねじにより取り付けられて、取付状態で上面16bがその内奥に隣接する底板12の上面12bとほぼ面一となるように設定されている。この下レール部材16の前方には、上面18bを下レール部材16の上面16bとほぼ面一とするレール隠し18が底板12と一体的に設けてある。つまり、下レール部材16は、内奥に隣接する底板12の上面12bと前方に隣接するレール隠し18の上面18bとの間に形成される溝状の前記レール取付部12aに嵌め込まれる形で取り付けられる。
【0025】
一方、引き戸2は、図2〜図4に示すように、上フレーム23及び下フレーム24を含む枠体に面板25を取り付けたもので、下フレーム24の巾方向2箇所に設定した車輪保持部に回転自在に車輪22を取り付け、上フレーム23の巾方向2箇所に設定したスライダ保持部にスライダ21を着脱可能に取り付けている。
【0026】
スライダ21は樹脂製のもので、スライダ本体21aの一部に引き戸2に対して係脱可能な弾性変形部21bを有し、スライダ本体21aの上端側に引き戸2の肉厚よりも薄肉な板状の滑動部21cを設けたものである。弾性変形部21bは、スライダ本体21aに設けた開口21ax内に片持ち的に配置されて樹脂バネにより変形可能な舌片21b1と、その舌片21b1の基端側に突設されて引き戸2への係留部となる爪21b2と、その舌片21b1の先端側に突設した係留解除用の操作部21b3とを備えており、操作部21b3を押圧操作することによって、弾性力に抗して舌片21b1を撓ませ、爪21b2を開口21ax内に没入する方向に移動させ得るようにしている。
【0027】
一方、引き戸2の上フレーム23のうちスライダ保持部となる部位には、下面にスライダ本体21aを比較的緊密に挿入可能なスライダ挿入窓23aが開口し、その上方における裏面の上下2箇所に係合窓23b、23cが開口し、更に上面にスライダ21の滑動部21cを突没させるための突没窓23dが引き戸2の裏面側に変位させて開口している。そして、図5(a)及び図6(a)にそれぞれ矢印に沿ってスライダ21を下方から上フレーム23のスライダ挿入窓23aに挿入したときに、図5(b)及び図6(b)に示す待機位置で舌片21b1が一時的に弾性変形して爪21b2が上フレーム23の内空部に入り込んだ後に復元して下側の係合窓23bに係り合い、このときスライダ21は未だ滑動部21cをほぼ引き戸2内に没入させた状態にあり、スライダ21はこのような待機位置で引き戸2に係留、保持されるようにしている。また、この位置から操作部21b3を操作して舌片21b1を一時的に弾性変形させ、爪21b2を押し込んだ後にさらに上動させることによって、図5(c)及び図6(c)に示すように舌片21b1が復元して爪21b2が上側の係合窓23cに係り合ったときに、スライダ21は滑動部21cを突没窓23dを介して引き戸2から上方に突出させる使用位置で引き戸2に係留、保持されるようにしている。この使用位置で、図5(c)及び図6(c)に示すように弾性変形部21bの爪21b2の下向面21xが引き戸2を構成する上フレーム23の係合窓23cの上向面23xに係留して弾性反発力により突っ張り、その弾性反発力でスライダ21の肩部及び下端鍔部にそれぞれ設定した上向面21y、21zが引き戸2を構成する上フレーム23の上壁の下向面23y及び底壁の下向面23zに突き当たった状態となるようにしている。そして、この位置からさらに操作部21b3を操作して爪21b2と係合窓23cとの係り合いを解除し、スライダ21を下動させることによって、爪21b2が下側の係合窓23bに係り合った際にスライダ21が再び待機位置に係留されるようにしている。
【0028】
すなわち、この実施形態は、待機位置から使用位置に、また使用位置から待機位置に、それぞれスライダ21を背反的に移動させて移動先の位置に係留させることができるものであり、さらに待機位置から操作部21b3を押圧して下動させれば、スライダ21を引き戸2から完全に離脱させることも可能なものとなっている。
【0029】
以上において、図2及び図7に示すように上レール部材15の上レール15aのレール巾L3は、引き戸2を構成する上フレーム23の肉厚L4よりも巾狭かつスライダ21の滑動部21cの肉厚L5よりも巾広となる寸法関係に設定され、また、図2に示す下レール部材16の下レール16aのレール巾も同様、引き戸2を構成する下フレーム24の肉厚よりも巾狭かつ車輪22のうち下レール16aに係り合う滑動部22cの肉厚よりも巾広となる寸法すなわちL3に設定されている。この車輪22の滑動部22cの肉厚は、スライダ21の滑動部21cの肉厚と等厚であるL5に設定されており、かつ引き戸2に対してほぼ同じ奥行き位置に設けてある。
【0030】
したがって、図2に想像線及び矢印で示すように引き戸2を、ほぼ起立させた状態で筐体1の開口より挿入して、引き戸2の下端側に設けた車輪22を下レール16aに係り合わせ、その状態で引き戸2の上端側に配したスライダ21を上動させれば、スライダ21を引き戸2の上端よりも上方に突出した使用位置に係留して、スライダ21の滑動部21cを上レール15aに係り合わせ、引き戸2の取り付けを完了することができる。図2では3枚の引き戸2が重合状態にあるが、スライダ21を操作する際に適宜引き戸2をずらして操作を行うことができるのは言うまでもない。
【0031】
また、このようにスライダ21を引き戸2に係留させた際に、スライダ21は図7に示すように引き戸2の厚み方向背面側へ変位した状態となり(換言すれば引き戸2はスライダ21や上レール15aよりも前方に変位した状態となり)、レール隠し17に近い位置の引き戸2(つまり最前面に配置される引き戸2)のうちスライダ21の滑動部21cよりも前方に位置する部位2mの一部が、レール隠し15の下方に潜り込んだ状態となるように設定している。
【0032】
以上のように、本実施形態の取付構造は、引き戸2の上端側及び下端側にそれぞれ上滑動部材であるスライダ21及び下滑動部材である車輪22を設け、これらスライダ21及び車輪22をそれぞれ上レール15a及び下レール16aに係り合わせて引き戸2を取り付けるにあたり、スライダ21を、少なくとも引き戸2に対して上動可能かつその上動動作のみによって滑動部21cを引き戸2の上端よりも上方に突出させる使用位置に係留させ得るようにしている。そして、車輪22を下レール16aに係り合わせ、その状態でスライダ21を上動動作により使用位置に係留して、当該スライダ21の滑動部21cを上レール15aに係り合わせ得るようにしたものである。
【0033】
このように、引き戸2を所定位置に配置し、上滑動部材であるスライダ21を上動動作させるだけで、滑動部21cが上レール15aに係り合う使用位置に係留して引き戸2のセットを完了することができるので、引き戸の背面側から工具等を用いて固定する操作や、けんどんのような煩わしい操作、更には引き戸を上レールとともに筐体等に取り付ける操作が不要であり、引き戸2の取付作業を格段に簡素化することができる。
【0034】
また、スライダ21を、滑動部21cが引き戸2内にほぼ没入することとなる待機位置に仮保持させ得るようにしており、引き戸2の取付前にスライダ21を引き戸2に付帯させておくことができるので、出荷時や搬送時、組立時などに別途に部品管理を行う必要がなく、また、引き戸2をレール等と干渉させることなく所定位置に配置し、その状態で直ちにスライダ21を引き出すことができるので、引き戸2の取付時にスライダ21を別途準備する煩わしさも解消することができる。
【0035】
また、スライダ21を、待機位置から使用位置に、また使用位置から待機位置に、それぞれ背反的に移動させて移動先に係留可能としているので、初期取付時は勿論のこと、メンテナンス時など一旦引き戸2を取り外す場合等も含めて、上記と同様の作用効果の下に使い勝手を有効に向上させることができる。
【0036】
そして、スライダ21は、弾性変形部21bを有し、この弾性変形部21bを一時的に弾性変形させて引き戸2に係留させ得るようにしているので、スライダ21を移動させるだけで所定位置に係留させるという初期の動作及びそのために必要な構造を有効に実現することができる。
【0037】
弾性変形部21bの具体的構造としては、樹脂バネにより変形可能な舌片21b1と、その舌片21b1の基端側に形成されて引き戸2への係留部となる爪21b2と、その舌片21b1の先端側に形成した係留解除用の操作部21b3とを備えているので、爪21b2は舌片21b1の基端側に形成されることにより一旦係留したならば引き戸2から外れにくい状態を得ることができ、操作部21b3は舌片21b1の先端側に形成されることにより小さい操作力でも舌片21b1を適切に変形させて爪21b2の係留解除を行うことができる。
【0038】
さらに、スライダ21の使用位置で、弾性変形部21bの爪21b2の下向面21xが引き戸2の上向面23xに弾性的に係留し、その弾性反発力でスライダ21の一部に設定した上向面21y、21zが引き戸2の下向面23y、23zに突き当たるように構成しているので、使用位置でスライダ21のガタつきを抑えて、引き戸2にブレの少ない適切な取付状態及び作動状態を実現することができる。
【0039】
一方、図7に示したように、スライダ21の滑動部21cの肉厚L5は引き戸2の肉厚L4よりも薄肉であり、上レール15aのレール巾L3は引き戸2の肉厚L4よりも巾狭かつスライダ21の滑動部21cの肉厚L5よりも巾広となる寸法関係に設定されていて、本実施形態の構造においては上レール15aは図8の従来例のようには引き戸2の肉厚L4を受容する必要がなく、レール巾L3が巾狭なもので足りる(つまり、L3<L1)ので、特に複数枚の引き戸2を引き違い可能に配する上で、レール部材15全体の奥行き寸法を抑え、各引き戸2をより前面側に出して密接に重合させて配置することができる。すなわち、引き戸2が前面側に位置するほど筐体1の収納空間Sの奥行き内寸が広くとれるので、収納装置の内容量を有効に増大させることができる。
【0040】
加えて、図7に示したように、スライダ21の滑動部21cが、引き戸2に係留された状態で当該引き戸2の厚み方向背面側へ変位した部位に位置づけられるので、図8に示したごとく引き戸の厚み方向中心部に滑動部を位置づける場合に比して、この点でも引き戸2を全体的に極力前面側に位置づけることができ、これにより収納空間Sの奥行き内寸をより広く確保して、収納装置の内容量を有効に増大させることができる。
【0041】
また、図7に示したように、上レール15aの前面側に少なくとも当該上レール15aの前方への露出を防ぐレール隠し17を設けているので、意匠的な外観を良好に保つことができ、さらに、このレール隠し17に近い引き戸2のうちスライダ21の滑動部21cよりも前方に位置する部位2mをレール隠し17の下方に潜り込ませて配置しているので、図8に示したようにレール隠し17の奥に引き戸2が配置される場合に比して、レール隠し17の奥行き寸法分がそのまま収納空間Sの奥行き内寸に影響を及ぼすということがなくなり(つまり潜り込んで重合する分だけ奥行き内寸が大きくなることになり)、この点でも引き戸2を全体的に極力前面側に位置づけて収納空間Sの奥行き内寸を確保し、収納装置の内容量を有効に増大させることができる。
【0042】
さらにまた、車輪22のうち下レール16aと係り合う滑動部22cをスライダ21の滑動部21cとほぼ同じ肉厚とし、かつ引き戸2に対してほぼ同じ奥行き位置に設けているので、上下の滑動部21c、22cのバランスが保てて引き戸2の動作が安定するとともに、上下のレール部材17、18が上下対称な断面形状となって部品の共用化を図ることも可能となる。
【0043】
そして、本実施形態の引き戸2は、以上のような上滑動部材たるスライダ21を備えることによって、取り付けやメンテナンスの便が向上するほか、既存のレールにも有効に適用が可能となり、また、本実施形態の収納装置は、以上の取付構造を通じて引き戸2を取り付ける構造とすることによって、収納力を有効に高めることが可能となる。
【0044】
なお、上滑動部材に車輪を採用したり、下滑動部材にスライダを採用するなど、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態に係る収納装置の斜視図。
【図2】図1のレール部分を示す部分拡大縦断面図。
【図3】同実施形態に係る引き戸の取付構造を示す斜視図。
【図4】同実施形態の上滑動部材であるスライダの引き戸への係留構造を示す部分拡大斜視図。
【図5】同実施形態に係るスライダの機能を説明するための側断面図。
【図6】同背面図。
【図7】同実施形態の作用説明図。
【図8】従来の引き戸の取付方法を示す図。
【図9】従来の引き戸の他の取付方法を示す図。
【符号の説明】
【0046】
1…筐体
2…引き戸
15a…上レール
16a…下レール
17…レール隠し
21…上滑動部材(スライダ)
21b…弾性変形部
21b1…舌片
21b2…爪
21b3…操作部
21c…滑動部
21x…爪の下向面
21y、21z…スライダの上向面
22…下滑動部材(車輪)
22c…滑動部
23x…引き戸の上向面
23y、23z…引き戸の下向面
L3…レール巾
L4…引き戸の肉厚
L5…スライダの肉厚


【特許請求の範囲】
【請求項1】
引き戸の上端側及び下端側にそれぞれ上滑動部材及び下滑動部材を設け、これら両滑動部材をそれぞれ上レール及び下レールに係り合わせて引き戸を取り付けるようにしたものであって、
上滑動部材を、その一部に設定した滑動部が引き戸の上端よりも上方に突出することとなる突出位置及び当該滑動部が引き戸内にほぼ没入することとなる待機位置との間で背反的に移動可能かつその移動動作のみによって移動先に係留可能に構成しておき、上滑動部材を待機位置に係留した状態で下滑動部材を下レールに係り合わせ、その状態で上滑動部材を上動動作により使用位置に移動、係留して、当該上滑動部材の滑動部を上レールに係り合わせ得るように構成したことを特徴とする引き戸の取付構造。
【請求項2】
上滑動部材は、弾性変形部を有し、この弾性変形部を一時的に弾性変形させて引き戸に係留させ得るようにしている請求項1記載の引き戸の取付構造。
【請求項3】
弾性変形部は、樹脂バネにより変形可能な舌片と、その舌片の基端側に形成されて引き戸への係留部となる爪と、その舌片の先端側に形成した係留解除用の操作部とを備えている請求項2記載の引き戸の取付構造。
【請求項4】
上滑動部材の使用位置で、弾性変形部の爪の下向面が引き戸の上向面に弾性的に係留し、その弾性反発力で上滑動部材の一部に設定した上向面が引き戸の下向面に突き当たるように構成している請求項2又は3記載の引き戸の取付構造。
【請求項5】
上滑動部材の滑動部は引き戸の肉厚よりも薄肉であり、上レールは引き戸の肉厚よりも巾狭かつ上滑動部材の滑動部の肉厚よりも巾広となる寸法関係に設定されている請求項1〜4記載の引き戸の取付構造。
【請求項6】
上滑動部材の滑動部が、引き戸に係留された状態で当該引き戸の厚み方向背面側へ変位した部位に位置づけられる請求項5記載の引き戸の取付構造。
【請求項7】
上レールの前面側に少なくとも当該上レールの前方への露出を防ぐレール隠しを設け、このレール隠しに近い引き戸のうち上滑動部材の滑動部よりも前方に位置する部位をレール隠しの下方に潜り込ませて配置している請求項6記載の引き戸の取付構造。
【請求項8】
下滑動部材のうち下レールと係り合う滑動部を、上滑動部材の滑動部とほぼ同じ肉厚とし、かつ引き戸に対してほぼ同じ奥行き位置に設けている請求項5〜7記載の引き戸の取付構造。
【請求項9】
請求項1〜8記載の取付構造に係る上滑動部材を備えたことを特徴とする引き戸。
【請求項10】
請求項1〜9記載の取付構造によって引き戸を収納空間を開閉する位置に取り付けたことを特徴とする収納装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−30298(P2009−30298A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194387(P2007−194387)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】