引張破断伸び向上方法
【課題】樹脂部品を構成する樹脂材料の種類を問わず、一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着してなる樹脂溶着体の引張破断伸びを向上させる。
【解決手段】溶着予定端面を含む端部同士で形成される主溶着部と、該主溶着部の両側にはみ出したバリ部とからなる溶着部を形成するように、一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着し、バリ部を、樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させる。好ましい溶着法は熱板溶着法である。
【解決手段】溶着予定端面を含む端部同士で形成される主溶着部と、該主溶着部の両側にはみ出したバリ部とからなる溶着部を形成するように、一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着し、バリ部を、樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させる。好ましい溶着法は熱板溶着法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着してなる溶着体の引張破断伸びを向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品は、金属や木材のような腐食がなく、安価で軽量である特徴を有するために、様々な分野で用いられている。また、リサイクルによって地球資源を節約するために、樹脂成形品の大部分は熱可塑性樹脂から形成されている。そして、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法が用いられ、成形機及び金型構造の進歩により、複雑な形状の樹脂成形品も容易に成形できるようになっている。
【0003】
しかしながら、複雑な形状の成形品を一度の成形によって製造することは、困難な場合がある。また、成形品の一部を異種の樹脂から形成する必要がある場合も多い。このような場合には、複数の樹脂部品をそれぞれ成形し、その後、溶着によって一体化することが行われている。
【0004】
樹脂部品の溶着は、溶着しようとする一対の樹脂部品の溶着予定端面を加熱し、少なくとも一方の溶着予定端面を溶融させた状態で両者を圧着し、その状態で冷却することによって行われる。そして、溶着予定端面を加熱する方法としては、加熱された熱板を用いる方法、一対の成形品同士を圧接させた状態で振動させ摩擦熱により加熱する方法等が知られ、それぞれ、熱板溶着法、振動溶着法と称されている。また、超音波振動を用いて振動させる方法は、超音波溶着法とも称されている。
【0005】
このうち熱板溶着法は、樹脂部品の軟化点以上に加熱された熱板の表面に溶着しようとする一対の成形品の溶着予定端面を接触させて溶融させ、熱板を待避させてから一対の成形品の溶着予定端面同士を圧着し、その状態で冷却する方法である。この熱板溶着法は設備が単純であり、また容易に溶着できるので、特に広く用いられている(特許文献1、2)。
【0006】
上記のような溶着法はいずれの方法であっても、より強固に一対の樹脂部品が溶着することが求められている。例えば、樹脂溶着体に対して強い力が加わっても容易に破断しないように高い引張破断伸びを備えること等が求められている。
【0007】
上記樹脂溶着体の物性改善としては、材料変更による改善が考えられるが、用途に応じて使用する樹脂材料が決まってしまう場合も多い。したがって、樹脂材料の種類を問わず一対の樹脂部品を溶着させた樹脂溶着体の引張破断伸び等を改善する技術が特に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−198143号公報
【特許文献2】特開2002−28977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、樹脂部品を構成する樹脂材料の種類を問わず、一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着してなる樹脂溶着体の引張破断伸びを向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、溶着部が、溶着予定端面を含む端部同士で形成される主溶着部と、該主溶着部の両側にはみ出したバリ部とからなり、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着してなる樹脂溶着体の引張破断伸び向上方法であって、溶着部は、前記溶着予定端面を含む端部同士で形成される主溶着部と、該主溶着部の両側面側にはみ出したバリ部とからなり、前記バリ部を、前記樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることを特徴とする引張破断伸び向上方法。
【0012】
(2) 前記バリ部と前記主溶着部との分岐点又は分岐線から前記バリ部と前記樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線までの最短長さが25μm以上であることを特徴とする(1)に記載の引張破断伸び向上方法。
【0013】
(3) 前記樹脂部品は、結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂部品である(1)又は(2)に記載の引張破断伸び向上方法。
【0014】
(4) 前記溶着は、前記溶着予定端面を加熱し、前記樹脂部品の前記溶着予定端面を含む端部に溶融層を形成した状態で、前記樹脂部品に形成された前記溶融層を互いに圧着することにより溶着する方法であって、前記溶融層は、溶融層端面から、溶融層と未溶融層との界面に向かって温度が連続的に低下していき、前記圧着は、前記溶融層中の前記樹脂部品を構成する樹脂の溶融開始温度(Tml)+0℃からTml+30℃の部分まで前記溶融層同士を互いに重ね合わせる圧着であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の引張破断伸び向上方法。
【0015】
(5) 前記溶着予定端面を加熱する加熱時間は20秒以上であり、前記溶着予定端面を加熱する加熱温度は溶融開始温度+80℃から分解温度−10℃であることを特徴とする(4)に記載の引張破断伸び向上方法。
【0016】
(6) 溶着代の決定を、前記溶融層中の前記溶融層端面から所定の位置までの距離と、前記所定の位置での温度と、の関係を、伝熱計算により得られる前記溶融層の温度分布から求める伝熱計算工程と、前記伝熱計算工程で得られた関係と、前記樹脂の溶融開始温度と、から前記溶融層の厚みを導出する溶融層厚み導出工程と、を含む方法により行うことを特徴とする(4)又は(5)に記載の引張破断伸び向上方法。
【0017】
(7) 前記樹脂部品がポリアセタール系樹脂組成物からなることを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載の引張破断伸び向上方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶着部が、溶着予定端面を含む端部同士で形成される主溶着部と、該主溶着部の両側にはみ出したバリ部とからなり、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることで、樹脂溶着体の引張破断伸びが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】熱板溶着法による一対の樹脂部品の溶着方法を示す図である。
【図2】伝熱計算により得られる溶融層の温度分布を示す図である。
【図3】伝熱計算の結果をもとに導出される溶融層厚みと熱板に溶着予定端面を接触させる時間(加熱時間)との関係を示す図である。
【図4】樹脂部品の端部に形成される溶融層を示す図である。
【図5】溶着工程を示す図である。
【図6】引張破断伸びと、溶着界面温度と、加熱時間との関係を示す図である。
【図7】(a)実施例で用いた樹脂部品を表す図である。(b)実施例の溶着体を示す図である。
【図8】引張破断伸びと側面バリ密着長さとの関係を示す図である。
【図9】実施例の溶融層の温度分布を示す図である。
【図10】実施例の加熱時間と溶融層厚みとの関係を示す図である。
【図11】実施例の溶着界面温度と、引張破断伸びとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
本発明の樹脂溶着体の引張破断伸び向上方法は、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させるものであれば特に限定されない。樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着する樹脂部品の溶着方法として、例えば熱板溶着法が挙げられる。熱板溶着とは、溶着可能な2つの樹脂部品の溶着予定端面を加熱し、一対の樹脂部品の端部に溶融層を形成した状態で、2つの樹脂部品の溶融層を互いに圧着することにより溶着する方法である。以下、2つの溶着可能な同種の樹脂部品を溶着する場合における熱板溶着法による溶着方法を例に、本発明の引張破断伸び向上方法について説明する。なお、具体的な樹脂溶着体の引張破断伸び向上方法の一例については、実施例にて詳述する。
【0022】
熱板溶着を用いた一対の樹脂部品の溶着方法としては、例えば、接合準備工程と、加熱工程と、溶着工程と、冷却工程と、を備える溶着方法が挙げられる。
【0023】
<接合準備工程>
「接合準備工程」は、所定の樹脂材料からなる樹脂部品を作製し、溶着のための熱板溶着装置等に、上記樹脂部品を取り付ける工程である。
【0024】
[樹脂材料]
一対の樹脂部品に含まれる樹脂の種類は特に限定されない。樹脂部品としては、従来公知の樹脂を含むものを使用することができる。特に引張破断伸びの向上が求められる樹脂溶着体として、結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂部品により形成される樹脂溶着体が挙げられる。結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これらの中でも特にポリアセタール樹脂を含む樹脂部品に対して本発明の引張破断伸び向上方法は好ましく適用することができる。
【0025】
なお、一対の樹脂部品は、互いに突き当てて溶着可能であれば、同じ樹脂材料からなる樹脂部品であっても、異なる樹脂材料からなる樹脂部品であってもよい。また、一対の樹脂部品は同じ形状でもよく、異なる形状であってもよい。
【0026】
[成形工程]
先ず、上記の樹脂材料を所望の形状に成形し樹脂部品を作製する。成形方法は特に限定されないが、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。また、成形して得られる樹脂部品は、溶着予定端面を備えることが必要である。溶着予定端面は、一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着可能なように設けられる。溶着予定端面を備える樹脂部品を成形しやすい成形方法としては、射出成形が挙げられる。射出成形であれば、複雑な構造を形成するための樹脂部品であっても容易に成形することができるからである。
【0027】
[取り付け工程]
一対の樹脂部品を溶着させるために、溶着させるための装置等に取り付ける工程である。樹脂部品を取り付ける熱板溶着装置等は従来公知のものを使用することができる。例えば、図1(a)に示すような、上治具11と下治具12とを備えた熱板溶着装置1を挙げることができる。上記のような成形法により樹脂材料を成形することで得られた樹脂部品のうち一方の樹脂部品2を上治具11に取り付け、他方の樹脂部品3を下治具12に取り付ける。上治具11及び下治具12にそれぞれ樹脂部品2、3が保持されていれば取り付ける方法は特に限定されない。
【0028】
一対の樹脂部品を突き当てて溶着させやすいように、樹脂部品2の溶着予定端面21と樹脂部品3の溶着予定端面31とが対向するように取り付ける。また、熱板13を樹脂部品2の溶着予定端面21と樹脂部品3の溶着予定端面31との間に挿入可能なように、樹脂部品の端部間には所定の空間がある。
【0029】
また、樹脂部品2の溶着予定端面21が、樹脂部品2の中でY方向に最も低い位置になり、溶着予定端面21がX方向に水平になるように取り付ける。そして、樹脂部品3の溶着予定端面31が、樹脂部品3の中でY方向に最も高い位置になり、溶着予定端面31がX方向に水平になるように取り付ける。樹脂部品2と樹脂部品3とは、横ずれなく正対した状態で保持されていないと溶着予定部分が均一に溶着されず、良質な樹脂溶着体が得られない。
【0030】
<加熱工程>
加熱工程は、樹脂部品2、3の溶着予定端面21、31を加熱し、2つの樹脂成形品2、3の溶着予定部分に溶融層22、32を形成する工程である。以下、図1(b)を用いて加熱工程について説明する。
【0031】
図1(b)に示すように、予め所定の温度まで加熱された熱板13が、上治具11に保持された樹脂部品2と、下治具12に保持された樹脂部品3との間に位置するように、熱板13をX方向に水平移動する。
【0032】
次いで、樹脂部品2、3を保持したまま上治具11及び下治具12を±Y方向に移動させることが可能な昇降手段(図示せず)により、樹脂部品2を保持した上治具11を−Y方向に移動させ、樹脂部品3を保持した下治具12を+Y方向に移動させる。そして、熱板13に溶着予定端面21、溶着予定端面31を接触させ、端部に溶融層22、32を形成させる。
【0033】
[加熱条件]
溶着予定端面21、31の加熱条件は特に限定されず、熱板13の温度、熱板13と溶着予定端面21、31との接触時間は、溶着させる樹脂部品を構成する樹脂材料の溶融開始温度等の物性に基づいて適宜変更して実施する。例えば、以下のようにして加熱条件を設定することで、本発明の効果を高めることができる。
【0034】
溶融層22、32中の溶融層端面23、33から所定の位置までのY方向の距離と、所定の位置での温度と、の関係を、伝熱計算により得られる溶融層の温度分布から求める伝熱計算工程と、上記伝熱計算工程で得られた関係と、樹脂の溶融開始温度と、から溶融層の厚みを導出する溶融層厚み導出工程と、を含む方法により溶着代を決定し、決定した溶着代が得られるような加熱条件に設定する方法が挙げられる。
【0035】
具体的には、熱板に溶着予定端面を接触させる時間(加熱時間)を所定の加熱時間x1に設定し、熱板13の温度を所定の温度に設定した場合における、溶融層22、32中の溶融層端面23、33から所定の位置までのY方向の距離と、所定の位置での温度との関係を、伝熱計算により得られる溶融層の温度分布から導出する。さらに、加熱時間をx2、x3と変更し(x1<x2<x3)、上記と同様にして関係式を導出する。導出した結果は図2のようになる。後述する通り、溶融層22、32は、溶融層端面23、33から、溶融層と未溶融層との界面5に向かって温度が連続的に低下する。
【0036】
溶融層と未溶融層との境界は、上記所定の位置の温度が樹脂材料の溶融開始温度と等しくなる位置である。図2中に破線で示した温度が樹脂材料の溶融開始温度(Tml)である。図2中の実線と破線との交点が溶融層厚みになることから、溶融層厚みと加熱時間との関係が求まる(図3)。
【0037】
以上より、溶融層22、32の厚み、溶融層22、32の温度分布が得られる。この結果と以下の点を考慮して加熱条件を決定することができる。
【0038】
本発明は、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることが特徴である。密着力の程度は、特に限定されない。また、後述する通り、バリ部と樹脂部品の側面との密着面積は大きい方が好ましいため、溶着後には大きいバリ部が形成される方が好ましい傾向にある。上記の通り使用する樹脂材料の種類にもよるが、溶着予定端面21、31と熱板13との接触により形成される溶融層22、32の一部がバリ部となることから、樹脂部品2、3の端部において溶融層22、32はより厚く形成されることが好ましい。溶融層22、32を好ましい厚みにするためには、充分な温度に熱した熱板13を用い、溶着予定端面21、31と熱板13とを接触させる時間を一定の水準以上にすることが好ましい。一定の水準以上とは、使用する樹脂材料にもよるが、溶着予定端面21、31と熱板13との接触時間が20秒以上であれば、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させやすいため好ましい。
【0039】
また、充分に熱した熱板の温度とは、溶融開始温度(Tml)+80℃から分解温度−10℃である。熱板13を上記温度範囲の温度を持つように熱して用いることで、溶着予定端面21、31の温度が上がり過ぎ樹脂が発泡し過ぎない程度に熱することができる一方で、樹脂部品2、3の端部に対して充分に熱を加え、充分な厚みを持つ溶融層22、32を形成することができる。なお、溶融開始温度とは、DSC曲線において、融解に対応して得られるピーク上の点のうち該点への接線が基線に交わる点における温度を指す。
【0040】
溶着予定端面21、31が高温になり過ぎて樹脂が発泡しない範囲で且つ充分な厚みの溶融層を形成するためには、熱板13の温度を上記の好ましい範囲に設定し、加熱時間を20秒以上且つ著しく発泡しない時間に設定することが好ましい。
【0041】
後述する通り、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させるためには溶着代も重要になる。上記のように充分に熱した熱板13を用い、溶着予定端面21、31と熱板13とを充分な時間接触させ、充分な厚みの溶融層22、32を形成することで、溶着代の設定幅も広くなり、よりバリ部を樹脂部品の側面に密着させやすくなる。なお、溶着代とは、溶融層22、32中で、溶融層22、32が溶着の際に互いに重なり合う部分のことを指す。
【0042】
溶融層22形成後の樹脂部品2を図4に示した。溶融層22が形成された段階で、溶着予定端面21は、バリとして排出された状態にある(図示せず)。溶融層22中では溶融層端面23、33の温度が最も高い。この溶融層端面23での温度をTml+tmax(℃)とする。樹脂部品3についても同様に考えることができる。また、溶融層22中では溶融層と未溶融層との界面5が最も温度が低い。この溶融層22中で最も温度の低い部分である界面5の温度は用いた樹脂材料の溶融開始温度でありTml(℃)となる。また、図5に示すように溶着の際に溶融層22、32の一部(図5の斜線部)は溶着代であり、互いに重なり合う。互いに重なる部分のほとんどはバリとして排出されバリ部6を形成する。バリとして排出されなかった部分は主溶着部7になる。溶融層22、32中のバリとして排出されるか又は主溶着部を形成する予定の部分(溶着代)の中で最も温度の低い部分をTml+t(℃)とする。このTml+t(℃)が溶着界面温度である。
【0043】
溶着の際に溶融層22、32同士が重なり合うと、溶融層22、32中で最も温度の高い溶融層端面23、33からバリとして排出され始め、溶融層22、32同士を互いに重ね合わせ続けると、溶融層22、32中の温度の高い部分から順にバリとして排出され続け、最後に溶融層22、32中のTml+tの部分又はこの温度の直前の部分までバリとして排出される。このTml+tがバリ部6の樹脂部品の側面への密着しやすさに影響する。即ち、溶融層22、32の中で互いに重なり合う部分が、溶融層22、32中のどの温度の部分までであるかによってバリ部6の樹脂部品2、3の側面への密着のしやすさが異なる。溶融層は温度によって粘度が異なり、溶融層22、32中のTml+t部分での粘度がバリ部6の樹脂部品への密着のしやすさに影響を与えるからである。
【0044】
バリ部を樹脂部品2、3の側面へ密着させるために好ましいTml+tの範囲は、使用する樹脂材料により異なるが、およそ、Tml+0℃からTml+30℃である。したがって、溶着予定端面21、31と熱板13とを接触させて、溶融層22、32を形成する際には、溶融層中に上記温度範囲に含まれるような温度を持つ部分が形成されるように加熱することが好ましい。より好ましい温度範囲は、Tml+0℃からTml+20℃である。Tml+20℃以下といったより低めの温度範囲で行なうことは、引張破断伸びのような短期物性には影響しないが、クリープ破壊等の長期耐久性における寿命低下を引き起こす原因となるミクロボイドが溶着部から排除されることから、さらに好ましいと言える。また、過剰突き当てになり、樹脂溶着体の物性の低下を防ぐ観点からは、溶着界面温度(Tml+t)は、樹脂部品の材料である樹脂材料の融点以上に設定することが好ましい。
【0045】
バリ部6と樹脂部品2、3の側面との密着面積が大きくなるようにするためには、溶着予定端面21、31と熱板13とを充分な時間接触させて、充分な厚みの溶融層22、32を形成する必要がある。上記好ましい接触時間20秒以上であれば、溶着代をTml+t(℃)をTml+0℃からTml+30℃の部分までに設定しても、溶着予定端面21、31からTml+t(℃)の位置まで充分な厚みがあり、充分な量のバリを排出し、且つ樹脂部品の側面との密着面積を大きくすることができる。
【0046】
上記溶着予定端面21、31と熱板13との接触時間は、熱板13の温度にもよるが、上記接触時間20秒以上とは、熱板の温度を上述の好ましい範囲であるTml+80℃から分解温度−10℃に設定した場合の好ましい接触時間である。なお、溶融層22、32は、溶着させやすいように、ある程、形を保っていなければならない。このため熱板13の温度が使用する樹脂材料の分解温度を超えた場合、もしくは加熱温度が長すぎる場合は発泡してしまうため好ましくない。一方、熱板の温度が低すぎると溶融層が全く形成されない場合、所望の位置まで溶融層が形成されない場合等の問題が発生するおそれがあるため、熱板13の温度はおよそ上記の範囲に限られる。
【0047】
なお、従来公知の糸引き対策を行うことが好ましく、従来公知の糸引き対策としては、フッ素樹脂シートを熱板13と溶着予定端面21、31との間に挟む対策が挙げられる。
【0048】
<溶着工程>
溶着工程は、一対の樹脂部品2、3の溶融層22、32を互いに圧着することにより溶着する工程である。図1を用いて溶着工程について説明する。
【0049】
図1(c)に示すように、溶着予定端面21、31が、熱板13により充分加熱され所望の溶融層22、32が形成されたところで、昇降手段(図示せず)により、樹脂部品2を保持した上治具11を+Y方向に移動させ、樹脂部品3を保持した下治具12を−Y方向に移動させ、溶融層端面23、33と熱板13とを引き離す。そして、熱板13が溶融層端面23と溶融層端面33との間から外れるように移動する。
【0050】
次いで、樹脂部品2を保持した上治具11を−Y方向に移動させ、樹脂部品3を保持した下治具12を+Y方向に移動させる。この移動により、溶融層22と溶融層32とが接近していき、溶融層端面23と溶融層端面33とが接する。その後、溶融層22と32とがこの突き当てにより重なり、最後に溶融層22、32の重なり部分のほとんどがバリとして排出されバリ部6を形成する。バリとして排出されない溶融層22、23は主溶着部7を形成する。なお、溶着する際、溶融層22、32のどの部分まで突き当てにより重ねるかは、伝熱計算により得られる温度分布を用いて決めることが好ましい。
【0051】
溶着工程での溶着代は、バリ部6の樹脂部品2、3の側面への密着しやすさに影響するため重要である。本発明の効果が高まるような溶着代は、上述した通り、加熱条件を好ましいものにする必要がある。
【0052】
なお、結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂部品は、溶融層と固化層との弾性率差が大きいため、過剰突き当てになりやすい。しかし、本発明の方法を用いれば、過剰突き当てになり引張破断伸びが低下することを抑えることができる。また、過剰突き当てにならないということは、溶着部に大きな負荷がかかり、歪が残ることでクリープ破壊等の長期的な物性低下を引き起こすといった問題が無いことを意味し、安定して優れたクリープ破壊寿命を示す。
【0053】
<冷却工程>
冷却工程は、溶着部を冷却して接合した樹脂溶着体を取り出す工程である。図1に基づいて冷却工程を説明する。
【0054】
図1(d)に示すように、樹脂部品2、3を溶着後、溶着部が固まるまで放置する。上治具11をY方向、下治具12を−Y方向に移動させ、下治具12に残された樹脂溶着体を取り出す。
【0055】
<樹脂溶着体>
本発明は、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることが特徴である。本発明で問題となる引張破断伸びは、材料の降伏応力に近い、もしくは降伏応力を超えるひずみを樹脂溶着体にかけた場合の引張破断伸びである。詳細な測定条件は実施例に記載した。上記のような引張ひずみを樹脂溶着体にかけると、バリ部と主溶着部との分岐線又は分岐点を破壊起点8として破壊する(図5)。溶着後にバリ部と樹脂部品の側面との密着する面積が大きいほど引張破断伸びが向上する。これは、引張応力が樹脂溶着体にかかると、先ず、バリ基点9に応力が集中し、樹脂部品の側面に密着したバリが、バリ基点9から破壊起点8まで徐々に剥がれる。バリが、破壊起点8まで剥がれると破壊起点に応力が集中する。このように、破壊起点へ応力が集中することを遅延させることができるからである。
【0056】
ここで、「バリ基点」とは、上記バリ部が樹脂部品の側面を沿うように密着して形成されるが、樹脂部品の側面とバリ部とが離れる分岐点又は分岐線をいう。なお、上記バリ部が樹脂部品の側面に沿うように貼り付いて形成されない場合には、主溶着部とバリ部との分岐点又は分岐線、即ち破壊起点がバリ基点になってしまい、上記のような破壊起点への応力集中を遅延させる効果は得られないため、引張破断伸びを向上させることはできない。
【0057】
引張破断伸び、溶着界面温度、加熱時間には、図6に示すような関係が見られる。「溶着界面温度」とは、一対の樹脂部品の溶融層中で、溶融層が重なり合う部分以外の部分の中の最も温度の高い部分である。即ち溶着代の中で最も低い温度(Tml+t)を指す。
【0058】
図6に示される曲線y1は、加熱時間がx1の場合の曲線であり、曲線y2は加熱時間がx2の場合の曲線であり、曲線y3は加熱時間がx3場合の曲線である。各曲線の最も溶着界面温度の高い点が溶融層端面にあたる。y1は加熱時間が少なく、加熱時間が不十分な場合の曲線である。その結果、曲線y1は溶着界面温度の最大値が曲線y2、y3と比べて低い。曲線y2と曲線y3とは、上記の通り充分に熱板により加熱した場合である。加熱時間が長くなると溶融層の溶融層端面側での樹脂の発泡が顕著になる。この樹脂の発泡した部分(ボイド)が主溶着部に残ると、主溶着部は非常に弱くなる。したがって、溶融層中の樹脂の発泡した部分は、全てバリとして排出する必要がある。図6に示される曲線の点線部分では、上記のようにして主溶着部にボイドが生じることによる引張破断伸びの低下を示す部分である。加熱時間の長いy3の方が、溶融層中により熱が浸透する。溶融層中に熱が浸透すると、その分、溶融層中の温度が高まり、結果として、溶着予定端面から最適な溶着界面温度の位置までがより離れ、バリの排出量も多くなり本発明の効果が高まる。
【0059】
各曲線で溶融層端面の温度と実際に溶着させる溶着界面温度との差が大きいほど溶着代が大きくなる。溶着代が大きくなることは、溶融層中でバリとして排出される量が多くなることを意味しており、上記の通りバリとして排出される量が多い方が、本発明の効果を高めやすいので好ましい。しかしながら、溶着代が大きい場合であっても、溶着界面温度が低くなりすぎると、引張破断伸びは減少し始める。これは、溶融層中で比較的温度の低い部分がバリとして排出されたとしても、この低温部分は高粘度であるため樹脂部品の側面に密着しない傾向にあるからである。
【0060】
上記の通り、充分な加熱時間で一対の樹脂部品の端部に溶融層を形成する必要がある。充分な加熱時間で溶融層を形成することで、溶融層中の溶着予定端面から適切な粘度の位置までの厚みが厚くなり、充分な量のバリが排出され本発明の効果が高まるからである。「充分な加熱時間」とは、使用する樹脂材料の種類によっても異なるが、上記の通りおよそ20秒から30秒である。加熱時間が30秒以上になると樹脂の発泡が顕著になり、主溶着部にボイドが生じることによる強度不足が生じるため好ましくない。
【0061】
使用する樹脂材料にもよるが、バリ部と主溶着部との分岐点又は分岐線からバリ部と樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線までの最短長さ(図5中のZ)が25μm以上であれば、引張破断伸びが充分に向上するので好ましい。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
<実施例1>
[接合準備工程]
樹脂材料として溶融開始温度158℃のポリアセタール(ポリプラスチックス社製「ジュラコン(登録商標)M90−44」)を用い、下記の成形条件で射出成形を行うことにより、図7(a)に示すような一対の樹脂部品を作製した。なお、一対の樹脂部品の形状は同じであり、図7(a)には、一方の樹脂部品のみを示した。
(成形条件)
成形機:ROBOSHOT α−50C(FUNUC社製)
シリンダー温度:(ノズル)200℃−200℃−180℃−160℃(ホッパー)
射出速度:10mm/s
保圧力:60MPa
射出時間+保圧時間:15秒
冷却時間:10秒
スクリュー回転数:100rpm
スクリュー背圧:4MPa
金型温度:80℃
【0063】
上記ポリアセタールの溶融開始温度を、示差走査熱量計(「DSC7」、パーキンエルマー社製)を用い、試料重量7mg、昇温開始温度30℃、昇温終了温度200℃、昇温速度10℃/分、雰囲気が大気中の条件でDSC曲線を作成した。得られたDSC曲線から溶融開始温度を求めた。溶融開始温度は158℃であった。
【0064】
上記ポリアセタールの分解温度を、熱天秤測定を行うことにより求めた。具体的には、装置(「TG/DTA6200」、SII−NT社製)を用い、試料重量10mg、昇温開始温度30℃、昇温速度10℃/分、雰囲気が大気中の条件で求めた。分解温度は280℃であった。なお、分解温度は、ベースラインを延長した直線と、分解後の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線の交点の温度である。
【0065】
上記一対の樹脂部品を熱板溶着装置(中森工業社製「PW−1」)に取り付けた。
【0066】
[加熱工程]
上記熱板溶着装置を用いて、予め260℃に加熱しておいた熱板に溶着予定端面を30秒間接触させ、樹脂部品に溶融層を形成した。
【0067】
[溶着工程]
熱板から溶着予定端面を離した後、一対の樹脂部品同士を位置制御で溶着した。溶着代設定条件は、伝熱計算によって求めた溶着界面温度が173℃になる位置で制御した。
【0068】
[冷却工程]
上記圧着の終了後15秒間放置した後、上記熱板溶着装置から溶着させた樹脂部品を取り出した。図7(b)に示すような樹脂溶着体が得られた。バリ部と主溶着部との分岐点又は分岐線からバリ部と樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線までの最短長さは210μmであった。
【0069】
<実施例2>
熱板に溶着予定端面を接触させる時間(加熱時間)を20秒、溶着界面温度が171℃になる位置制御に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。バリ部と主溶着部との分岐点又は分岐線からバリ部と樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線までの最短長さ(側面バリ密着長さ)は120μmであった。
【0070】
<実施例3>
加熱時間を20秒、溶着界面温度が177℃になる位置制御に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。側面バリ密着長さは80μmであった。
【0071】
<実施例4>
加熱時間を20秒、溶着界面温度が165℃になる位置制御に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。側面バリ密着長さは25μmであった。
【0072】
<実施例5>
加熱時間を20秒、溶着界面温度が160℃になる位置制御に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。側面バリ密着長さは25μmであった。
【0073】
<比較例1>
加熱時間を20秒、溶着界面温度が153℃になる位置制御に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。側面バリ密着長さは0μmであった。
<評価1>
実施例1から5の樹脂溶着体、及び比較例1の樹脂溶着体について、下記の条件にて引張破断伸びを測定した。引張破断伸びと側面バリ密着長さとの関係を図8に示した。
[測定条件]
試験機:テンシロンRTC−1325A(オリエンテック社製)
チャック間距離:80mm
試験速度:10mm/min
伸び計算:(引張移動量/チャック間距離)×100
【0074】
実施例1から5の結果と、比較例1の結果と、から明らかなように、バリが樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着することで引張破断伸びが向上することが確認された。また、側面バリ密着長さが長いほうが、引張破断伸びが向上することが確認された。
【0075】
<参考例1>
[接合準備工程]
実施例1と同様の方法で一対の樹脂部品を作製した。
【0076】
上記一対の樹脂部品を熱板溶着装置(中森工業社製「PW−1」)に取り付けた。
【0077】
[加熱工程]
上記熱板溶着装置を用いて、予め260℃に加熱しておいた熱板に溶着予定端面を20秒間接触させ、樹脂部品に溶融層を形成した。また、溶融層の厚みを、溶融後一旦冷却させた樹脂部品の断面のUVエッチング後のSEM写真から測定したところ片側成形品で0.85mmであった。
【0078】
<参考例2>
熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は参考例1と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは0.54mmであった。
【0079】
<参考例3>
熱板に溶着予定端面を30秒接触させた以外は参考例1と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは1.16mmであった。
【0080】
<参考例4>
熱板を予め270℃に加熱した以外は参考例1と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは0.91mmであった。
【0081】
<参考例5>
熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は参考例4と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは0.62mmであった。
【0082】
<参考例6>
熱板に溶着予定端面を30秒接触させた以外は参考例4と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは1.21mmであった。
【0083】
<参考例7>
熱板を予め280℃に加熱した以外は参考例1と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは1.01mmであった。
【0084】
<参考例8>
熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は参考例7と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは0.69mmであった。
【0085】
<参考例9>
熱板に溶着予定端面を30秒接触させた以外は参考例7と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは1.33mmであった。
【0086】
以上の参考例1から9の結果を表1にまとめた。表1には、熱板の温度の条件、加熱時間の条件、溶融層厚みの実測値、伝熱計算により求めた溶融層厚みを示した。
【0087】
【表1】
【0088】
<評価2>
一次元伝熱計算を行い溶融層の温度分布を求めた。横軸を熱板からの距離、縦軸に温度として、溶融層の温度分布の結果を図9に示した。さらに、用いた樹脂材料の溶融開始温度(158℃)を破線で示した。溶融開始温度以上の温度を持つ部分については溶融していると考えられ、各直線と上記破線との交点まで溶融していることが推測される。このようにして加熱時間と溶融層厚みとの関係を求めた。結果を図10に示した。そして、図10中には、参考例1から参考例9の結果をプロットした。すると、各プロットは、予想された線上に存在することが確認された。即ち、一次元伝熱計算で溶融層厚みを予測できる。
【0089】
溶融層厚み、溶融層の温度分布は、バリの樹脂部品側面への密着しやすさに関係する。上記のように伝熱計算から求めた溶融層の温度分布から適切な溶着代を求めることで樹脂溶着体の引張破断伸びをさらに向上させやすくなる。
【0090】
<比較例2>
溶着界面温度が164℃となる溶着代を設定し、熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。
【0091】
<比較例3>
溶着界面温度が158℃となる溶着代を設定し、熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。
【0092】
<比較例4>
溶着界面温度が151℃となる溶着代を設定し、熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。
【0093】
<実施例6>
溶着界面温度が189℃となる溶着代を設定し、熱板に溶着予定端面を20秒接触させた以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。
【0094】
<実施例7>
溶着界面温度が183℃となる溶着代を設定し、熱板に溶着予定端面を20秒接触させた以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。
【0095】
<実施例8>
溶着界面温度が187℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0096】
<実施例9>
溶着界面温度が182℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0097】
<実施例10>
溶着界面温度が177℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0098】
<実施例11>
溶着界面温度が168℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0099】
<実施例12>
溶着界面温度が163℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0100】
<実施例13>
溶着界面温度が159℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0101】
<比較例5>
溶着界面温度が154℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0102】
<比較例6>
溶着界面温度が149℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0103】
実施例6から実施例13、比較例2から比較例4について、実施例1と同様の方法で引張破断伸びを測定し、横軸に溶着界面温度、縦軸に引張破断伸びとして図11に実施例1から実施例13、比較例1から比較例4をプロットし、加熱時間毎に結んだ。
【0104】
また、実施例1から13、比較例1から6の加熱時間の条件、溶着界面温度の条件、側面のバリの密着長さについて表2にまとめた。
【0105】
【表2】
【0106】
図11から明らかなように、溶着時間10秒では、充分な溶融層を形成させることができず、加熱時間20秒以上で充分な溶融層が形成されることが確認された。さらに加熱時間を30秒にすることで溶融層に充分な熱が浸透し本発明の効果がさらに高まることが確認された。
【0107】
溶着界面温度を使用した樹脂材料の溶融開始温度(158℃)+0℃から溶融開始温度+30℃の範囲にすることで本発明の効果が高まることが確認された。
【0108】
以上の通り、溶着界面温度は、例えば、上記伝熱計算から求めた温度分布より予測可能であるため、本発明の効果が高まる条件を容易に予測することができる。
【0109】
特に実施例1、実施例9から実施例11では、溶着部位外から破壊する程、伸度が高まることが確認された。
【符号の説明】
【0110】
1 熱板溶着装置
11 上治具
12 下治具
13 熱板
2、3 樹脂部品
21、31 溶着予定端面
22、32 溶融層
23、33 溶融層端面
5 溶融層と未溶融層との界面
6 バリ部
7 主溶着部
8 破壊起点(バリ部と溶着部との分岐点又は分岐線)
9 バリ基点(バリ部と樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線)
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着してなる溶着体の引張破断伸びを向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品は、金属や木材のような腐食がなく、安価で軽量である特徴を有するために、様々な分野で用いられている。また、リサイクルによって地球資源を節約するために、樹脂成形品の大部分は熱可塑性樹脂から形成されている。そして、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法が用いられ、成形機及び金型構造の進歩により、複雑な形状の樹脂成形品も容易に成形できるようになっている。
【0003】
しかしながら、複雑な形状の成形品を一度の成形によって製造することは、困難な場合がある。また、成形品の一部を異種の樹脂から形成する必要がある場合も多い。このような場合には、複数の樹脂部品をそれぞれ成形し、その後、溶着によって一体化することが行われている。
【0004】
樹脂部品の溶着は、溶着しようとする一対の樹脂部品の溶着予定端面を加熱し、少なくとも一方の溶着予定端面を溶融させた状態で両者を圧着し、その状態で冷却することによって行われる。そして、溶着予定端面を加熱する方法としては、加熱された熱板を用いる方法、一対の成形品同士を圧接させた状態で振動させ摩擦熱により加熱する方法等が知られ、それぞれ、熱板溶着法、振動溶着法と称されている。また、超音波振動を用いて振動させる方法は、超音波溶着法とも称されている。
【0005】
このうち熱板溶着法は、樹脂部品の軟化点以上に加熱された熱板の表面に溶着しようとする一対の成形品の溶着予定端面を接触させて溶融させ、熱板を待避させてから一対の成形品の溶着予定端面同士を圧着し、その状態で冷却する方法である。この熱板溶着法は設備が単純であり、また容易に溶着できるので、特に広く用いられている(特許文献1、2)。
【0006】
上記のような溶着法はいずれの方法であっても、より強固に一対の樹脂部品が溶着することが求められている。例えば、樹脂溶着体に対して強い力が加わっても容易に破断しないように高い引張破断伸びを備えること等が求められている。
【0007】
上記樹脂溶着体の物性改善としては、材料変更による改善が考えられるが、用途に応じて使用する樹脂材料が決まってしまう場合も多い。したがって、樹脂材料の種類を問わず一対の樹脂部品を溶着させた樹脂溶着体の引張破断伸び等を改善する技術が特に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−198143号公報
【特許文献2】特開2002−28977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、樹脂部品を構成する樹脂材料の種類を問わず、一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着してなる樹脂溶着体の引張破断伸びを向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、溶着部が、溶着予定端面を含む端部同士で形成される主溶着部と、該主溶着部の両側にはみ出したバリ部とからなり、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着してなる樹脂溶着体の引張破断伸び向上方法であって、溶着部は、前記溶着予定端面を含む端部同士で形成される主溶着部と、該主溶着部の両側面側にはみ出したバリ部とからなり、前記バリ部を、前記樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることを特徴とする引張破断伸び向上方法。
【0012】
(2) 前記バリ部と前記主溶着部との分岐点又は分岐線から前記バリ部と前記樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線までの最短長さが25μm以上であることを特徴とする(1)に記載の引張破断伸び向上方法。
【0013】
(3) 前記樹脂部品は、結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂部品である(1)又は(2)に記載の引張破断伸び向上方法。
【0014】
(4) 前記溶着は、前記溶着予定端面を加熱し、前記樹脂部品の前記溶着予定端面を含む端部に溶融層を形成した状態で、前記樹脂部品に形成された前記溶融層を互いに圧着することにより溶着する方法であって、前記溶融層は、溶融層端面から、溶融層と未溶融層との界面に向かって温度が連続的に低下していき、前記圧着は、前記溶融層中の前記樹脂部品を構成する樹脂の溶融開始温度(Tml)+0℃からTml+30℃の部分まで前記溶融層同士を互いに重ね合わせる圧着であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の引張破断伸び向上方法。
【0015】
(5) 前記溶着予定端面を加熱する加熱時間は20秒以上であり、前記溶着予定端面を加熱する加熱温度は溶融開始温度+80℃から分解温度−10℃であることを特徴とする(4)に記載の引張破断伸び向上方法。
【0016】
(6) 溶着代の決定を、前記溶融層中の前記溶融層端面から所定の位置までの距離と、前記所定の位置での温度と、の関係を、伝熱計算により得られる前記溶融層の温度分布から求める伝熱計算工程と、前記伝熱計算工程で得られた関係と、前記樹脂の溶融開始温度と、から前記溶融層の厚みを導出する溶融層厚み導出工程と、を含む方法により行うことを特徴とする(4)又は(5)に記載の引張破断伸び向上方法。
【0017】
(7) 前記樹脂部品がポリアセタール系樹脂組成物からなることを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載の引張破断伸び向上方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶着部が、溶着予定端面を含む端部同士で形成される主溶着部と、該主溶着部の両側にはみ出したバリ部とからなり、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることで、樹脂溶着体の引張破断伸びが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】熱板溶着法による一対の樹脂部品の溶着方法を示す図である。
【図2】伝熱計算により得られる溶融層の温度分布を示す図である。
【図3】伝熱計算の結果をもとに導出される溶融層厚みと熱板に溶着予定端面を接触させる時間(加熱時間)との関係を示す図である。
【図4】樹脂部品の端部に形成される溶融層を示す図である。
【図5】溶着工程を示す図である。
【図6】引張破断伸びと、溶着界面温度と、加熱時間との関係を示す図である。
【図7】(a)実施例で用いた樹脂部品を表す図である。(b)実施例の溶着体を示す図である。
【図8】引張破断伸びと側面バリ密着長さとの関係を示す図である。
【図9】実施例の溶融層の温度分布を示す図である。
【図10】実施例の加熱時間と溶融層厚みとの関係を示す図である。
【図11】実施例の溶着界面温度と、引張破断伸びとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
本発明の樹脂溶着体の引張破断伸び向上方法は、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させるものであれば特に限定されない。樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着する樹脂部品の溶着方法として、例えば熱板溶着法が挙げられる。熱板溶着とは、溶着可能な2つの樹脂部品の溶着予定端面を加熱し、一対の樹脂部品の端部に溶融層を形成した状態で、2つの樹脂部品の溶融層を互いに圧着することにより溶着する方法である。以下、2つの溶着可能な同種の樹脂部品を溶着する場合における熱板溶着法による溶着方法を例に、本発明の引張破断伸び向上方法について説明する。なお、具体的な樹脂溶着体の引張破断伸び向上方法の一例については、実施例にて詳述する。
【0022】
熱板溶着を用いた一対の樹脂部品の溶着方法としては、例えば、接合準備工程と、加熱工程と、溶着工程と、冷却工程と、を備える溶着方法が挙げられる。
【0023】
<接合準備工程>
「接合準備工程」は、所定の樹脂材料からなる樹脂部品を作製し、溶着のための熱板溶着装置等に、上記樹脂部品を取り付ける工程である。
【0024】
[樹脂材料]
一対の樹脂部品に含まれる樹脂の種類は特に限定されない。樹脂部品としては、従来公知の樹脂を含むものを使用することができる。特に引張破断伸びの向上が求められる樹脂溶着体として、結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂部品により形成される樹脂溶着体が挙げられる。結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これらの中でも特にポリアセタール樹脂を含む樹脂部品に対して本発明の引張破断伸び向上方法は好ましく適用することができる。
【0025】
なお、一対の樹脂部品は、互いに突き当てて溶着可能であれば、同じ樹脂材料からなる樹脂部品であっても、異なる樹脂材料からなる樹脂部品であってもよい。また、一対の樹脂部品は同じ形状でもよく、異なる形状であってもよい。
【0026】
[成形工程]
先ず、上記の樹脂材料を所望の形状に成形し樹脂部品を作製する。成形方法は特に限定されないが、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。また、成形して得られる樹脂部品は、溶着予定端面を備えることが必要である。溶着予定端面は、一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着可能なように設けられる。溶着予定端面を備える樹脂部品を成形しやすい成形方法としては、射出成形が挙げられる。射出成形であれば、複雑な構造を形成するための樹脂部品であっても容易に成形することができるからである。
【0027】
[取り付け工程]
一対の樹脂部品を溶着させるために、溶着させるための装置等に取り付ける工程である。樹脂部品を取り付ける熱板溶着装置等は従来公知のものを使用することができる。例えば、図1(a)に示すような、上治具11と下治具12とを備えた熱板溶着装置1を挙げることができる。上記のような成形法により樹脂材料を成形することで得られた樹脂部品のうち一方の樹脂部品2を上治具11に取り付け、他方の樹脂部品3を下治具12に取り付ける。上治具11及び下治具12にそれぞれ樹脂部品2、3が保持されていれば取り付ける方法は特に限定されない。
【0028】
一対の樹脂部品を突き当てて溶着させやすいように、樹脂部品2の溶着予定端面21と樹脂部品3の溶着予定端面31とが対向するように取り付ける。また、熱板13を樹脂部品2の溶着予定端面21と樹脂部品3の溶着予定端面31との間に挿入可能なように、樹脂部品の端部間には所定の空間がある。
【0029】
また、樹脂部品2の溶着予定端面21が、樹脂部品2の中でY方向に最も低い位置になり、溶着予定端面21がX方向に水平になるように取り付ける。そして、樹脂部品3の溶着予定端面31が、樹脂部品3の中でY方向に最も高い位置になり、溶着予定端面31がX方向に水平になるように取り付ける。樹脂部品2と樹脂部品3とは、横ずれなく正対した状態で保持されていないと溶着予定部分が均一に溶着されず、良質な樹脂溶着体が得られない。
【0030】
<加熱工程>
加熱工程は、樹脂部品2、3の溶着予定端面21、31を加熱し、2つの樹脂成形品2、3の溶着予定部分に溶融層22、32を形成する工程である。以下、図1(b)を用いて加熱工程について説明する。
【0031】
図1(b)に示すように、予め所定の温度まで加熱された熱板13が、上治具11に保持された樹脂部品2と、下治具12に保持された樹脂部品3との間に位置するように、熱板13をX方向に水平移動する。
【0032】
次いで、樹脂部品2、3を保持したまま上治具11及び下治具12を±Y方向に移動させることが可能な昇降手段(図示せず)により、樹脂部品2を保持した上治具11を−Y方向に移動させ、樹脂部品3を保持した下治具12を+Y方向に移動させる。そして、熱板13に溶着予定端面21、溶着予定端面31を接触させ、端部に溶融層22、32を形成させる。
【0033】
[加熱条件]
溶着予定端面21、31の加熱条件は特に限定されず、熱板13の温度、熱板13と溶着予定端面21、31との接触時間は、溶着させる樹脂部品を構成する樹脂材料の溶融開始温度等の物性に基づいて適宜変更して実施する。例えば、以下のようにして加熱条件を設定することで、本発明の効果を高めることができる。
【0034】
溶融層22、32中の溶融層端面23、33から所定の位置までのY方向の距離と、所定の位置での温度と、の関係を、伝熱計算により得られる溶融層の温度分布から求める伝熱計算工程と、上記伝熱計算工程で得られた関係と、樹脂の溶融開始温度と、から溶融層の厚みを導出する溶融層厚み導出工程と、を含む方法により溶着代を決定し、決定した溶着代が得られるような加熱条件に設定する方法が挙げられる。
【0035】
具体的には、熱板に溶着予定端面を接触させる時間(加熱時間)を所定の加熱時間x1に設定し、熱板13の温度を所定の温度に設定した場合における、溶融層22、32中の溶融層端面23、33から所定の位置までのY方向の距離と、所定の位置での温度との関係を、伝熱計算により得られる溶融層の温度分布から導出する。さらに、加熱時間をx2、x3と変更し(x1<x2<x3)、上記と同様にして関係式を導出する。導出した結果は図2のようになる。後述する通り、溶融層22、32は、溶融層端面23、33から、溶融層と未溶融層との界面5に向かって温度が連続的に低下する。
【0036】
溶融層と未溶融層との境界は、上記所定の位置の温度が樹脂材料の溶融開始温度と等しくなる位置である。図2中に破線で示した温度が樹脂材料の溶融開始温度(Tml)である。図2中の実線と破線との交点が溶融層厚みになることから、溶融層厚みと加熱時間との関係が求まる(図3)。
【0037】
以上より、溶融層22、32の厚み、溶融層22、32の温度分布が得られる。この結果と以下の点を考慮して加熱条件を決定することができる。
【0038】
本発明は、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることが特徴である。密着力の程度は、特に限定されない。また、後述する通り、バリ部と樹脂部品の側面との密着面積は大きい方が好ましいため、溶着後には大きいバリ部が形成される方が好ましい傾向にある。上記の通り使用する樹脂材料の種類にもよるが、溶着予定端面21、31と熱板13との接触により形成される溶融層22、32の一部がバリ部となることから、樹脂部品2、3の端部において溶融層22、32はより厚く形成されることが好ましい。溶融層22、32を好ましい厚みにするためには、充分な温度に熱した熱板13を用い、溶着予定端面21、31と熱板13とを接触させる時間を一定の水準以上にすることが好ましい。一定の水準以上とは、使用する樹脂材料にもよるが、溶着予定端面21、31と熱板13との接触時間が20秒以上であれば、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させやすいため好ましい。
【0039】
また、充分に熱した熱板の温度とは、溶融開始温度(Tml)+80℃から分解温度−10℃である。熱板13を上記温度範囲の温度を持つように熱して用いることで、溶着予定端面21、31の温度が上がり過ぎ樹脂が発泡し過ぎない程度に熱することができる一方で、樹脂部品2、3の端部に対して充分に熱を加え、充分な厚みを持つ溶融層22、32を形成することができる。なお、溶融開始温度とは、DSC曲線において、融解に対応して得られるピーク上の点のうち該点への接線が基線に交わる点における温度を指す。
【0040】
溶着予定端面21、31が高温になり過ぎて樹脂が発泡しない範囲で且つ充分な厚みの溶融層を形成するためには、熱板13の温度を上記の好ましい範囲に設定し、加熱時間を20秒以上且つ著しく発泡しない時間に設定することが好ましい。
【0041】
後述する通り、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させるためには溶着代も重要になる。上記のように充分に熱した熱板13を用い、溶着予定端面21、31と熱板13とを充分な時間接触させ、充分な厚みの溶融層22、32を形成することで、溶着代の設定幅も広くなり、よりバリ部を樹脂部品の側面に密着させやすくなる。なお、溶着代とは、溶融層22、32中で、溶融層22、32が溶着の際に互いに重なり合う部分のことを指す。
【0042】
溶融層22形成後の樹脂部品2を図4に示した。溶融層22が形成された段階で、溶着予定端面21は、バリとして排出された状態にある(図示せず)。溶融層22中では溶融層端面23、33の温度が最も高い。この溶融層端面23での温度をTml+tmax(℃)とする。樹脂部品3についても同様に考えることができる。また、溶融層22中では溶融層と未溶融層との界面5が最も温度が低い。この溶融層22中で最も温度の低い部分である界面5の温度は用いた樹脂材料の溶融開始温度でありTml(℃)となる。また、図5に示すように溶着の際に溶融層22、32の一部(図5の斜線部)は溶着代であり、互いに重なり合う。互いに重なる部分のほとんどはバリとして排出されバリ部6を形成する。バリとして排出されなかった部分は主溶着部7になる。溶融層22、32中のバリとして排出されるか又は主溶着部を形成する予定の部分(溶着代)の中で最も温度の低い部分をTml+t(℃)とする。このTml+t(℃)が溶着界面温度である。
【0043】
溶着の際に溶融層22、32同士が重なり合うと、溶融層22、32中で最も温度の高い溶融層端面23、33からバリとして排出され始め、溶融層22、32同士を互いに重ね合わせ続けると、溶融層22、32中の温度の高い部分から順にバリとして排出され続け、最後に溶融層22、32中のTml+tの部分又はこの温度の直前の部分までバリとして排出される。このTml+tがバリ部6の樹脂部品の側面への密着しやすさに影響する。即ち、溶融層22、32の中で互いに重なり合う部分が、溶融層22、32中のどの温度の部分までであるかによってバリ部6の樹脂部品2、3の側面への密着のしやすさが異なる。溶融層は温度によって粘度が異なり、溶融層22、32中のTml+t部分での粘度がバリ部6の樹脂部品への密着のしやすさに影響を与えるからである。
【0044】
バリ部を樹脂部品2、3の側面へ密着させるために好ましいTml+tの範囲は、使用する樹脂材料により異なるが、およそ、Tml+0℃からTml+30℃である。したがって、溶着予定端面21、31と熱板13とを接触させて、溶融層22、32を形成する際には、溶融層中に上記温度範囲に含まれるような温度を持つ部分が形成されるように加熱することが好ましい。より好ましい温度範囲は、Tml+0℃からTml+20℃である。Tml+20℃以下といったより低めの温度範囲で行なうことは、引張破断伸びのような短期物性には影響しないが、クリープ破壊等の長期耐久性における寿命低下を引き起こす原因となるミクロボイドが溶着部から排除されることから、さらに好ましいと言える。また、過剰突き当てになり、樹脂溶着体の物性の低下を防ぐ観点からは、溶着界面温度(Tml+t)は、樹脂部品の材料である樹脂材料の融点以上に設定することが好ましい。
【0045】
バリ部6と樹脂部品2、3の側面との密着面積が大きくなるようにするためには、溶着予定端面21、31と熱板13とを充分な時間接触させて、充分な厚みの溶融層22、32を形成する必要がある。上記好ましい接触時間20秒以上であれば、溶着代をTml+t(℃)をTml+0℃からTml+30℃の部分までに設定しても、溶着予定端面21、31からTml+t(℃)の位置まで充分な厚みがあり、充分な量のバリを排出し、且つ樹脂部品の側面との密着面積を大きくすることができる。
【0046】
上記溶着予定端面21、31と熱板13との接触時間は、熱板13の温度にもよるが、上記接触時間20秒以上とは、熱板の温度を上述の好ましい範囲であるTml+80℃から分解温度−10℃に設定した場合の好ましい接触時間である。なお、溶融層22、32は、溶着させやすいように、ある程、形を保っていなければならない。このため熱板13の温度が使用する樹脂材料の分解温度を超えた場合、もしくは加熱温度が長すぎる場合は発泡してしまうため好ましくない。一方、熱板の温度が低すぎると溶融層が全く形成されない場合、所望の位置まで溶融層が形成されない場合等の問題が発生するおそれがあるため、熱板13の温度はおよそ上記の範囲に限られる。
【0047】
なお、従来公知の糸引き対策を行うことが好ましく、従来公知の糸引き対策としては、フッ素樹脂シートを熱板13と溶着予定端面21、31との間に挟む対策が挙げられる。
【0048】
<溶着工程>
溶着工程は、一対の樹脂部品2、3の溶融層22、32を互いに圧着することにより溶着する工程である。図1を用いて溶着工程について説明する。
【0049】
図1(c)に示すように、溶着予定端面21、31が、熱板13により充分加熱され所望の溶融層22、32が形成されたところで、昇降手段(図示せず)により、樹脂部品2を保持した上治具11を+Y方向に移動させ、樹脂部品3を保持した下治具12を−Y方向に移動させ、溶融層端面23、33と熱板13とを引き離す。そして、熱板13が溶融層端面23と溶融層端面33との間から外れるように移動する。
【0050】
次いで、樹脂部品2を保持した上治具11を−Y方向に移動させ、樹脂部品3を保持した下治具12を+Y方向に移動させる。この移動により、溶融層22と溶融層32とが接近していき、溶融層端面23と溶融層端面33とが接する。その後、溶融層22と32とがこの突き当てにより重なり、最後に溶融層22、32の重なり部分のほとんどがバリとして排出されバリ部6を形成する。バリとして排出されない溶融層22、23は主溶着部7を形成する。なお、溶着する際、溶融層22、32のどの部分まで突き当てにより重ねるかは、伝熱計算により得られる温度分布を用いて決めることが好ましい。
【0051】
溶着工程での溶着代は、バリ部6の樹脂部品2、3の側面への密着しやすさに影響するため重要である。本発明の効果が高まるような溶着代は、上述した通り、加熱条件を好ましいものにする必要がある。
【0052】
なお、結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂部品は、溶融層と固化層との弾性率差が大きいため、過剰突き当てになりやすい。しかし、本発明の方法を用いれば、過剰突き当てになり引張破断伸びが低下することを抑えることができる。また、過剰突き当てにならないということは、溶着部に大きな負荷がかかり、歪が残ることでクリープ破壊等の長期的な物性低下を引き起こすといった問題が無いことを意味し、安定して優れたクリープ破壊寿命を示す。
【0053】
<冷却工程>
冷却工程は、溶着部を冷却して接合した樹脂溶着体を取り出す工程である。図1に基づいて冷却工程を説明する。
【0054】
図1(d)に示すように、樹脂部品2、3を溶着後、溶着部が固まるまで放置する。上治具11をY方向、下治具12を−Y方向に移動させ、下治具12に残された樹脂溶着体を取り出す。
【0055】
<樹脂溶着体>
本発明は、バリ部を樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることが特徴である。本発明で問題となる引張破断伸びは、材料の降伏応力に近い、もしくは降伏応力を超えるひずみを樹脂溶着体にかけた場合の引張破断伸びである。詳細な測定条件は実施例に記載した。上記のような引張ひずみを樹脂溶着体にかけると、バリ部と主溶着部との分岐線又は分岐点を破壊起点8として破壊する(図5)。溶着後にバリ部と樹脂部品の側面との密着する面積が大きいほど引張破断伸びが向上する。これは、引張応力が樹脂溶着体にかかると、先ず、バリ基点9に応力が集中し、樹脂部品の側面に密着したバリが、バリ基点9から破壊起点8まで徐々に剥がれる。バリが、破壊起点8まで剥がれると破壊起点に応力が集中する。このように、破壊起点へ応力が集中することを遅延させることができるからである。
【0056】
ここで、「バリ基点」とは、上記バリ部が樹脂部品の側面を沿うように密着して形成されるが、樹脂部品の側面とバリ部とが離れる分岐点又は分岐線をいう。なお、上記バリ部が樹脂部品の側面に沿うように貼り付いて形成されない場合には、主溶着部とバリ部との分岐点又は分岐線、即ち破壊起点がバリ基点になってしまい、上記のような破壊起点への応力集中を遅延させる効果は得られないため、引張破断伸びを向上させることはできない。
【0057】
引張破断伸び、溶着界面温度、加熱時間には、図6に示すような関係が見られる。「溶着界面温度」とは、一対の樹脂部品の溶融層中で、溶融層が重なり合う部分以外の部分の中の最も温度の高い部分である。即ち溶着代の中で最も低い温度(Tml+t)を指す。
【0058】
図6に示される曲線y1は、加熱時間がx1の場合の曲線であり、曲線y2は加熱時間がx2の場合の曲線であり、曲線y3は加熱時間がx3場合の曲線である。各曲線の最も溶着界面温度の高い点が溶融層端面にあたる。y1は加熱時間が少なく、加熱時間が不十分な場合の曲線である。その結果、曲線y1は溶着界面温度の最大値が曲線y2、y3と比べて低い。曲線y2と曲線y3とは、上記の通り充分に熱板により加熱した場合である。加熱時間が長くなると溶融層の溶融層端面側での樹脂の発泡が顕著になる。この樹脂の発泡した部分(ボイド)が主溶着部に残ると、主溶着部は非常に弱くなる。したがって、溶融層中の樹脂の発泡した部分は、全てバリとして排出する必要がある。図6に示される曲線の点線部分では、上記のようにして主溶着部にボイドが生じることによる引張破断伸びの低下を示す部分である。加熱時間の長いy3の方が、溶融層中により熱が浸透する。溶融層中に熱が浸透すると、その分、溶融層中の温度が高まり、結果として、溶着予定端面から最適な溶着界面温度の位置までがより離れ、バリの排出量も多くなり本発明の効果が高まる。
【0059】
各曲線で溶融層端面の温度と実際に溶着させる溶着界面温度との差が大きいほど溶着代が大きくなる。溶着代が大きくなることは、溶融層中でバリとして排出される量が多くなることを意味しており、上記の通りバリとして排出される量が多い方が、本発明の効果を高めやすいので好ましい。しかしながら、溶着代が大きい場合であっても、溶着界面温度が低くなりすぎると、引張破断伸びは減少し始める。これは、溶融層中で比較的温度の低い部分がバリとして排出されたとしても、この低温部分は高粘度であるため樹脂部品の側面に密着しない傾向にあるからである。
【0060】
上記の通り、充分な加熱時間で一対の樹脂部品の端部に溶融層を形成する必要がある。充分な加熱時間で溶融層を形成することで、溶融層中の溶着予定端面から適切な粘度の位置までの厚みが厚くなり、充分な量のバリが排出され本発明の効果が高まるからである。「充分な加熱時間」とは、使用する樹脂材料の種類によっても異なるが、上記の通りおよそ20秒から30秒である。加熱時間が30秒以上になると樹脂の発泡が顕著になり、主溶着部にボイドが生じることによる強度不足が生じるため好ましくない。
【0061】
使用する樹脂材料にもよるが、バリ部と主溶着部との分岐点又は分岐線からバリ部と樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線までの最短長さ(図5中のZ)が25μm以上であれば、引張破断伸びが充分に向上するので好ましい。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
<実施例1>
[接合準備工程]
樹脂材料として溶融開始温度158℃のポリアセタール(ポリプラスチックス社製「ジュラコン(登録商標)M90−44」)を用い、下記の成形条件で射出成形を行うことにより、図7(a)に示すような一対の樹脂部品を作製した。なお、一対の樹脂部品の形状は同じであり、図7(a)には、一方の樹脂部品のみを示した。
(成形条件)
成形機:ROBOSHOT α−50C(FUNUC社製)
シリンダー温度:(ノズル)200℃−200℃−180℃−160℃(ホッパー)
射出速度:10mm/s
保圧力:60MPa
射出時間+保圧時間:15秒
冷却時間:10秒
スクリュー回転数:100rpm
スクリュー背圧:4MPa
金型温度:80℃
【0063】
上記ポリアセタールの溶融開始温度を、示差走査熱量計(「DSC7」、パーキンエルマー社製)を用い、試料重量7mg、昇温開始温度30℃、昇温終了温度200℃、昇温速度10℃/分、雰囲気が大気中の条件でDSC曲線を作成した。得られたDSC曲線から溶融開始温度を求めた。溶融開始温度は158℃であった。
【0064】
上記ポリアセタールの分解温度を、熱天秤測定を行うことにより求めた。具体的には、装置(「TG/DTA6200」、SII−NT社製)を用い、試料重量10mg、昇温開始温度30℃、昇温速度10℃/分、雰囲気が大気中の条件で求めた。分解温度は280℃であった。なお、分解温度は、ベースラインを延長した直線と、分解後の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線の交点の温度である。
【0065】
上記一対の樹脂部品を熱板溶着装置(中森工業社製「PW−1」)に取り付けた。
【0066】
[加熱工程]
上記熱板溶着装置を用いて、予め260℃に加熱しておいた熱板に溶着予定端面を30秒間接触させ、樹脂部品に溶融層を形成した。
【0067】
[溶着工程]
熱板から溶着予定端面を離した後、一対の樹脂部品同士を位置制御で溶着した。溶着代設定条件は、伝熱計算によって求めた溶着界面温度が173℃になる位置で制御した。
【0068】
[冷却工程]
上記圧着の終了後15秒間放置した後、上記熱板溶着装置から溶着させた樹脂部品を取り出した。図7(b)に示すような樹脂溶着体が得られた。バリ部と主溶着部との分岐点又は分岐線からバリ部と樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線までの最短長さは210μmであった。
【0069】
<実施例2>
熱板に溶着予定端面を接触させる時間(加熱時間)を20秒、溶着界面温度が171℃になる位置制御に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。バリ部と主溶着部との分岐点又は分岐線からバリ部と樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線までの最短長さ(側面バリ密着長さ)は120μmであった。
【0070】
<実施例3>
加熱時間を20秒、溶着界面温度が177℃になる位置制御に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。側面バリ密着長さは80μmであった。
【0071】
<実施例4>
加熱時間を20秒、溶着界面温度が165℃になる位置制御に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。側面バリ密着長さは25μmであった。
【0072】
<実施例5>
加熱時間を20秒、溶着界面温度が160℃になる位置制御に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。側面バリ密着長さは25μmであった。
【0073】
<比較例1>
加熱時間を20秒、溶着界面温度が153℃になる位置制御に変更した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。側面バリ密着長さは0μmであった。
<評価1>
実施例1から5の樹脂溶着体、及び比較例1の樹脂溶着体について、下記の条件にて引張破断伸びを測定した。引張破断伸びと側面バリ密着長さとの関係を図8に示した。
[測定条件]
試験機:テンシロンRTC−1325A(オリエンテック社製)
チャック間距離:80mm
試験速度:10mm/min
伸び計算:(引張移動量/チャック間距離)×100
【0074】
実施例1から5の結果と、比較例1の結果と、から明らかなように、バリが樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着することで引張破断伸びが向上することが確認された。また、側面バリ密着長さが長いほうが、引張破断伸びが向上することが確認された。
【0075】
<参考例1>
[接合準備工程]
実施例1と同様の方法で一対の樹脂部品を作製した。
【0076】
上記一対の樹脂部品を熱板溶着装置(中森工業社製「PW−1」)に取り付けた。
【0077】
[加熱工程]
上記熱板溶着装置を用いて、予め260℃に加熱しておいた熱板に溶着予定端面を20秒間接触させ、樹脂部品に溶融層を形成した。また、溶融層の厚みを、溶融後一旦冷却させた樹脂部品の断面のUVエッチング後のSEM写真から測定したところ片側成形品で0.85mmであった。
【0078】
<参考例2>
熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は参考例1と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは0.54mmであった。
【0079】
<参考例3>
熱板に溶着予定端面を30秒接触させた以外は参考例1と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは1.16mmであった。
【0080】
<参考例4>
熱板を予め270℃に加熱した以外は参考例1と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは0.91mmであった。
【0081】
<参考例5>
熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は参考例4と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは0.62mmであった。
【0082】
<参考例6>
熱板に溶着予定端面を30秒接触させた以外は参考例4と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは1.21mmであった。
【0083】
<参考例7>
熱板を予め280℃に加熱した以外は参考例1と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは1.01mmであった。
【0084】
<参考例8>
熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は参考例7と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは0.69mmであった。
【0085】
<参考例9>
熱板に溶着予定端面を30秒接触させた以外は参考例7と同様の方法で樹脂部品に溶融層を形成した。なお、参考例1と同様の方法で測定した溶融層厚みは1.33mmであった。
【0086】
以上の参考例1から9の結果を表1にまとめた。表1には、熱板の温度の条件、加熱時間の条件、溶融層厚みの実測値、伝熱計算により求めた溶融層厚みを示した。
【0087】
【表1】
【0088】
<評価2>
一次元伝熱計算を行い溶融層の温度分布を求めた。横軸を熱板からの距離、縦軸に温度として、溶融層の温度分布の結果を図9に示した。さらに、用いた樹脂材料の溶融開始温度(158℃)を破線で示した。溶融開始温度以上の温度を持つ部分については溶融していると考えられ、各直線と上記破線との交点まで溶融していることが推測される。このようにして加熱時間と溶融層厚みとの関係を求めた。結果を図10に示した。そして、図10中には、参考例1から参考例9の結果をプロットした。すると、各プロットは、予想された線上に存在することが確認された。即ち、一次元伝熱計算で溶融層厚みを予測できる。
【0089】
溶融層厚み、溶融層の温度分布は、バリの樹脂部品側面への密着しやすさに関係する。上記のように伝熱計算から求めた溶融層の温度分布から適切な溶着代を求めることで樹脂溶着体の引張破断伸びをさらに向上させやすくなる。
【0090】
<比較例2>
溶着界面温度が164℃となる溶着代を設定し、熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。
【0091】
<比較例3>
溶着界面温度が158℃となる溶着代を設定し、熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。
【0092】
<比較例4>
溶着界面温度が151℃となる溶着代を設定し、熱板に溶着予定端面を10秒接触させた以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。
【0093】
<実施例6>
溶着界面温度が189℃となる溶着代を設定し、熱板に溶着予定端面を20秒接触させた以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。
【0094】
<実施例7>
溶着界面温度が183℃となる溶着代を設定し、熱板に溶着予定端面を20秒接触させた以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。
【0095】
<実施例8>
溶着界面温度が187℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0096】
<実施例9>
溶着界面温度が182℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0097】
<実施例10>
溶着界面温度が177℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0098】
<実施例11>
溶着界面温度が168℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0099】
<実施例12>
溶着界面温度が163℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0100】
<実施例13>
溶着界面温度が159℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0101】
<比較例5>
溶着界面温度が154℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0102】
<比較例6>
溶着界面温度が149℃の条件で溶着代を設定した以外は実施例1と同様の方法で樹脂溶着体を作製した。なお、実施例1と同様に熱板に溶着予定端面を30秒接触させた。
【0103】
実施例6から実施例13、比較例2から比較例4について、実施例1と同様の方法で引張破断伸びを測定し、横軸に溶着界面温度、縦軸に引張破断伸びとして図11に実施例1から実施例13、比較例1から比較例4をプロットし、加熱時間毎に結んだ。
【0104】
また、実施例1から13、比較例1から6の加熱時間の条件、溶着界面温度の条件、側面のバリの密着長さについて表2にまとめた。
【0105】
【表2】
【0106】
図11から明らかなように、溶着時間10秒では、充分な溶融層を形成させることができず、加熱時間20秒以上で充分な溶融層が形成されることが確認された。さらに加熱時間を30秒にすることで溶融層に充分な熱が浸透し本発明の効果がさらに高まることが確認された。
【0107】
溶着界面温度を使用した樹脂材料の溶融開始温度(158℃)+0℃から溶融開始温度+30℃の範囲にすることで本発明の効果が高まることが確認された。
【0108】
以上の通り、溶着界面温度は、例えば、上記伝熱計算から求めた温度分布より予測可能であるため、本発明の効果が高まる条件を容易に予測することができる。
【0109】
特に実施例1、実施例9から実施例11では、溶着部位外から破壊する程、伸度が高まることが確認された。
【符号の説明】
【0110】
1 熱板溶着装置
11 上治具
12 下治具
13 熱板
2、3 樹脂部品
21、31 溶着予定端面
22、32 溶融層
23、33 溶融層端面
5 溶融層と未溶融層との界面
6 バリ部
7 主溶着部
8 破壊起点(バリ部と溶着部との分岐点又は分岐線)
9 バリ基点(バリ部と樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着してなる樹脂溶着体の引張破断伸び向上方法であって、
溶着部は、前記溶着予定端面を含む端部同士で形成される主溶着部と、該主溶着部の両側面側にはみ出したバリ部とからなり、
前記バリ部を、前記樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることを特徴とする引張破断伸び向上方法。
【請求項2】
前記バリ部と前記主溶着部との分岐点又は分岐線から前記バリ部と前記樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線までの最短長さが25μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の引張破断伸び向上方法。
【請求項3】
前記樹脂部品は、結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂部品である請求項1又は2に記載の引張破断伸び向上方法。
【請求項4】
前記溶着は、前記溶着予定端面を加熱し、前記樹脂部品の前記溶着予定端面を含む端部に溶融層を形成した状態で、前記樹脂部品に形成された前記溶融層を互いに圧着することにより溶着する方法であって、
前記溶融層は、溶融層端面から、溶融層と未溶融層との界面に向かって温度が連続的に低下していき、
前記圧着は、前記溶融層中の前記樹脂部品を構成する樹脂の溶融開始温度(Tml)+0℃からTml+30℃の部分まで前記溶融層同士を互いに重ね合わせる圧着であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の引張破断伸び向上方法。
【請求項5】
前記溶着予定端面を加熱する加熱時間は20秒以上であり、
前記溶着予定端面を加熱する加熱温度は溶融開始温度+80℃から分解温度−10℃であることを特徴とする請求項4に記載の引張破断伸び向上方法。
【請求項6】
溶着代の決定を、前記溶融層中の前記溶融層端面から所定の位置までの距離と、前記所定の位置での温度と、の関係を、伝熱計算により得られる前記溶融層の温度分布から求める伝熱計算工程と、
前記伝熱計算工程で得られた関係と、前記樹脂の溶融開始温度と、から前記溶融層の厚みを導出する溶融層厚み導出工程と、を含む方法により行うことを特徴とする請求項4又は5に記載の引張破断伸び向上方法。
【請求項7】
前記樹脂部品がポリアセタール系樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の引張破断伸び向上方法。
【請求項1】
一対の樹脂部品の溶着予定端面同士を突き当てて溶着してなる樹脂溶着体の引張破断伸び向上方法であって、
溶着部は、前記溶着予定端面を含む端部同士で形成される主溶着部と、該主溶着部の両側面側にはみ出したバリ部とからなり、
前記バリ部を、前記樹脂部品の側面の少なくとも一部に密着させることを特徴とする引張破断伸び向上方法。
【請求項2】
前記バリ部と前記主溶着部との分岐点又は分岐線から前記バリ部と前記樹脂部品の側面との分岐点又は分岐線までの最短長さが25μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の引張破断伸び向上方法。
【請求項3】
前記樹脂部品は、結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂部品である請求項1又は2に記載の引張破断伸び向上方法。
【請求項4】
前記溶着は、前記溶着予定端面を加熱し、前記樹脂部品の前記溶着予定端面を含む端部に溶融層を形成した状態で、前記樹脂部品に形成された前記溶融層を互いに圧着することにより溶着する方法であって、
前記溶融層は、溶融層端面から、溶融層と未溶融層との界面に向かって温度が連続的に低下していき、
前記圧着は、前記溶融層中の前記樹脂部品を構成する樹脂の溶融開始温度(Tml)+0℃からTml+30℃の部分まで前記溶融層同士を互いに重ね合わせる圧着であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の引張破断伸び向上方法。
【請求項5】
前記溶着予定端面を加熱する加熱時間は20秒以上であり、
前記溶着予定端面を加熱する加熱温度は溶融開始温度+80℃から分解温度−10℃であることを特徴とする請求項4に記載の引張破断伸び向上方法。
【請求項6】
溶着代の決定を、前記溶融層中の前記溶融層端面から所定の位置までの距離と、前記所定の位置での温度と、の関係を、伝熱計算により得られる前記溶融層の温度分布から求める伝熱計算工程と、
前記伝熱計算工程で得られた関係と、前記樹脂の溶融開始温度と、から前記溶融層の厚みを導出する溶融層厚み導出工程と、を含む方法により行うことを特徴とする請求項4又は5に記載の引張破断伸び向上方法。
【請求項7】
前記樹脂部品がポリアセタール系樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の引張破断伸び向上方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−214660(P2010−214660A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61874(P2009−61874)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】
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