説明

引戸の引き手構造

【課題】壁部の壁面に沿って納められる引戸の引き手の操作性を阻害することなく、該引戸の薄肉化を可能とするとともに、該引戸の見栄えを向上し得る引戸の引き手構造を提供する。
【解決手段】壁部1の壁面2に沿って納められ、該壁部に形成された開口部opを開閉するための引戸10における引き手構造であって、前記引戸の一側部11には、壁面側に向けて開口した第1引き手凹部21と、反壁面側に向けて開口した第2引き手凹部22とが、当該引戸の幅方向に沿って互いに隣接して設けられており、前記引戸の第2引き手凹部を、前記開口部の開口縁4近傍の壁面2aに略重合させ、かつ、該引戸の第1引き手凹部を、該開口縁近傍の壁面に重合させることなく、前記開口部に略重合させたときには、該引戸の第1引き手凹部の開口が前記開口部側に露出する構造としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁部の壁面に沿って納められ、該壁部に形成された開口部を開閉するための引戸における引き手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の開口部を開閉するための引戸としては、壁部に設けられた戸袋内に収納される(引き込まれる)タイプ(例えば、下記特許文献1参照)や、壁部に設けられた袖壁(控え壁)に収納されるタイプが知られている。
このような戸袋や袖壁に収納されるタイプの引戸では、これら収納部を壁部に設ける必要があり、施工性の観点から改善が望まれており、また、開口枠等が目立ち易く、見栄えが良くないといった問題があった。
そこで、近時においては、壁部に戸袋や袖壁等を設けずに、該壁部の壁面に沿って納められる、いわゆるアウトセット型の引戸が提案されている(例えば、下記特許文献2参照)。このようなアウトセット型の引戸は、施工が簡易であり、また、開口枠等が目立たず、さらに、回動式の開閉扉から引戸へのリフォームも可能であるという利点を有している。
【0003】
ところで、上記のような引戸は、該引戸を幅方向に沿って引き手等を操作することで、開口部の開閉がなされる。
従来の引き手構造としては、例えば、下記特許文献1では、引戸の一側部に付設され、該引戸の厚み方向両側に向けて開口した手掛け部を有した横断面が略H形状の引き手の構造が開示されている。
また、下記特許文献2では、引戸の厚み方向両側から突出するようにして、該引戸の両面に付設された手掛かり部を引き手とした構造が開示されている。
上記したような戸袋や袖壁等に納められる引戸では、壁厚内に引戸が納められるため、その引き手等が目立たず、上述のような引き手構造としても、それほど見栄えが悪くなるといった問題はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−225998号公報(図3参照)
【特許文献2】特開2007−85073号公報(図6参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したようなアウトセット型の引戸では、壁面に沿って納められる構造、すなわち、壁面の手前側(壁部の開口部の手前側)に外付けされたような構造となるので、該引戸が目立ち易く、また、その引き手も目立ち易くなる。
このようなアウトセット型の引戸に、上記した前者の引き手構造を採用すれば、引戸の厚み方向両側に向けて開口する手掛け部を、手掛かり代を十分に確保して両側部に設ける必要があり、その結果、引戸の厚さを、比較的、厚くする必要がある。従って、該引戸の壁面からの出幅が大きくなり、見栄えが悪くなるという問題があった。また、後者の引き手構造を採用すれば、引戸自体を薄くすることは可能ではあるが、手掛かり部自体が引戸の両面から突出するため、該手掛かり部が目立ち、見栄えが悪くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、壁部の壁面に沿って納められる引戸の引き手の操作性を阻害することなく、該引戸の薄肉化を可能とするとともに、該引戸の見栄えを向上し得る引戸の引き手構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明に係る引戸の引き手構造は、壁部の壁面に沿って納められ、該壁部に形成された開口部を開閉するための引戸における引き手構造であって、前記引戸の一側部には、壁面側に向けて開口した第1引き手凹部と、反壁面側に向けて開口した第2引き手凹部とが、当該引戸の幅方向に沿って互いに隣接して設けられており、前記引戸の第2引き手凹部を、前記開口部の開口縁近傍の壁面に略重合させ、かつ、該引戸の第1引き手凹部を、該開口縁近傍の壁面に重合させることなく、前記開口部に略重合させたときには、該引戸の第1引き手凹部の開口が前記開口部側に露出する構造としていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る前記引戸の引き手構造においては、前記第1引き手凹部及び第2引き手凹部を、それぞれ横断面形状が略コ字形状とされたものとするとともに、前記引戸の略厚み内において形成されたものとしてもよい。
【0009】
本発明に係る前記いずれかの引戸の引き手構造においては、前記引戸を、一枚からなる片引き式の片引戸とし、前記第2引き手凹部と前記第1引き手凹部とを戸先側からこの順にそれぞれ設け、当該片引戸が全閉状態とされたときには、前記第2引き手凹部が前記開口部の戸先側開口縁近傍の壁面に略重合する構造としてもよい。
上記構成とされた引戸の引き手構造においては、当該片引戸が全開状態とされたときには、当該片引戸の壁面側の面における、前記第1引き手凹部の戸尻側近傍面と、前記開口部の戸尻側開口縁近傍の壁面とが対面する構造としてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る前記引戸の引き手構造は、前記引戸の第2引き手凹部を、前記開口部の開口縁近傍の壁面に略重合させ、かつ、該引戸の第1引き手凹部を、該開口縁近傍の壁面に重合させることなく、前記開口部に略重合させたときには、該引戸の第1引き手凹部の開口が前記開口部側に露出する構造とされている。従って、壁部に設けられた開口部を挟んで、その両側から引戸の引き手の操作を容易に行うことができる。すなわち、上記壁面に沿って配された引戸に、その壁面側の手前側において対面した際には、反壁面側に向けて開口した上記第2引き手凹部をして、その引き手操作が可能となる一方、逆側において前記引戸に対面した際には、壁面側に向けて開口した上記第1引き手凹部をして、その引き手操作が可能となる。
【0011】
また、壁面側に向けて開口した上記第1引き手凹部と、反壁面側に向けて開口した上記第2引き手凹部とは、互いに隣接して設けられているので、上記した従来の引き手構造のように、引戸の厚み方向両側に向けて開口する手掛け部を有した引き手構造と比べて、引戸の厚みを薄くすることができる。すなわち、十分な手掛かり代を引戸の幅方向同じ部位において両側に形成するものと比べて、壁面側に向けて開口した第1引き手凹部と、反壁面側に向けて開口した第2引き手凹部とを、互いに隣接させて設けることで、引戸の両面における手掛かり代を確保しつつも、引戸の厚みを薄くすることができる。
さらに、これら各引き手凹部は、上記した従来の引き手構造のように、引戸の両面から突出するように設けられた手掛かり部ではなく、凹部とされているので、これら引き手凹部が目立ち難く、該引戸の見栄えを向上させることができる。
【0012】
本発明に係る前記引戸の引き手構造において、前記第1引き手凹部及び第2引き手凹部を、それぞれ横断面形状が略コ字形状とされたものとするとともに、前記引戸の略厚み内において形成されたものとすれば、例えば、凹湾曲形状のものと比べて、手掛かり性が良く、また、引戸の略厚み内において形成されているので、当該引戸自体を、効率的に薄く形成することができる。これにより、引戸の見栄えをより向上させることができる。
【0013】
本発明に係る前記いずれかの引戸の引き手構造において、前記引戸を、一枚からなる片引き式の片引戸とし、前記第2引き手凹部と前記第1引き手凹部とを戸先側からこの順にそれぞれ設け、当該片引戸が全閉状態とされたときには、前記第2引き手凹部が前記開口部の戸先側開口縁近傍の壁面に略重合する構造とすれば、当該片引戸が全閉状態において、上記壁面に沿って配された片引戸に、その壁面側の手前側において対面した際には、反壁面側に向けて開口した上記第2引き手凹部をして、その引き手操作が可能となる一方、逆側において前記引戸に対面した際には、壁面側に向けて開口した上記第1引き手凹部をして、その引き手操作が可能となる。これにより、上記同様、引き手の操作性を阻害することなく、当該片引戸を薄くできるとともに、引き手が目立たず、当該片引戸の見栄えを向上させることができる。
また、全閉状態において、当該片引戸の一側部に設けられた上記第2引き手凹部が前記開口部の戸先側開口縁近傍の壁面に略重合する構造とされているので、上記壁面の手前側から見た場合には、開口部が完全に閉塞されて露出せず、当該片引戸の納まりの見栄えを向上させることができる。
【0014】
上記片引き式とされた引戸の引き手構造において、当該片引戸が全開状態とされたときには、当該片引戸の壁面側の面における、前記第1引き手凹部の戸尻側近傍面と、前記開口部の戸尻側開口縁近傍の壁面とが対面する構造とすれば、当該片引戸が全開状態では、前記開口部の開口縁から開口部の内方空間側に向けて、両引き手凹部が露出するようにして存在した状態とされる。
従って、当該片引戸が全開状態において、上記同様、上記壁面に沿って配された片引戸に、その壁面側の手前側において対面した際には、反壁面側に向けて開口した上記第2引き手凹部をして、その引き手操作が可能となる一方、逆側において前記引戸に対面した際には、壁面側に向けて開口した上記第1引き手凹部をして、その引き手操作が可能となる。これにより、上記同様、引き手の操作性を阻害することなく、当該片引戸を薄くできるとともに、引き手が目立たず、当該片引戸の見栄えを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)、(b)は、いずれも本発明に係る引戸の引き手構造の一実施形態を模式的に示し、(a)は、図2(b)におけるX1部を拡大して示す概略横断面図、(b)は、図2(a)におけるY1部を、図2(b)におけるZ1方向から見た状態を示す概略拡大正面図である。
【図2】(a)、(b)は、いずれも同引き手構造を用いた引戸の一例を模式的に示し、(a)は、概略正面図、(b)は、(a)におけるW−W線矢視概略拡大横断面図である。
【図3】(a)、(b)は、いずれも同引き手構造を模式的に示し、(a)は、図2(b)において、全開状態とされた引戸のX2部を拡大して示す概略横断面図、(b)は、全開状態とされた引戸の図2(a)におけるY2部を、図2(b)におけるZ2方向から見た状態を示す概略拡大背面図である。
【図4】(a)、(b)は、いずれも本発明に係る引戸の引き手構造の他の実施形態を模式的に示し、(a)は、図2(b)に対応させた概略拡大横断面図、(b)は、(a)の全閉状態から引戸を全開させた状態を示す概略拡大横断面図である。
【図5】(a)〜(c)は、いずれも同引き手構造を模式的に示し、(a)は、図4(a)におけるX3部を拡大して示す概略横断面図、(b)は、図4(b)におけるX4部を拡大して示す概略横断面図、(c)は、図4(b)におけるX5部を拡大して示す概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1〜図3は、第1実施形態に係る引戸の引き手構造を示し、該引き手構造を説明するための説明図である。
尚、以下の各実施形態では、壁部の壁面に沿って配された引戸が存在する側の空間側を、手前側とし、その逆側、すなわち、当該引戸によって開閉される開口部の奥側の空間(隣室空間或いは収納空間など)側を、背面側として説明する。
また、図2では、全閉状態の引戸を実線で示し、全開状態の引戸を二点鎖線で示している。
【0017】
本実施形態に係る引き手構造は、図2(a)に示すように、住居等の内壁1に開設された開口部opを閉塞或いは開放する一枚からなる片引き式の片引戸10に適用した例を示している。
該片引戸10は、内壁1の手前側壁面2に沿って納められる構造とされた、いわゆるアウトセット型の納め構造によって納められており、戸先側側部11の途中部位に設けられた後記する引き手部材20をして、その開閉がなされる。
上記片引戸10は、その上端部が上吊レール7の吊下げランナー7aに固定、連結されている。この上吊レール7の長手方向両端部には、当該片引戸10のストッパー部材としてのエンドストッパー7b,7bがそれぞれ設けられている。
尚、図2において、符号8は、上記上吊レール7の手前側及び両端部を覆い隠す化粧幕板である。
【0018】
また、該片引戸10の下端部には、床面に向けて開口したガイド凹溝15が設けられており、該ガイド凹溝15には、床面から立設されたガイドピン6が遊挿されている。
上記のように納められた片引戸10は、吊下げランナー7aが上記上吊レール7に沿ってスライドするとともに、上記ガイド凹溝15が上記ガイドピン6にガイド、規制されて、開閉動作がなされる。
また、当該片引戸10の戸先側側部11の上端部が、戸先側の上記エンドストッパー7bに当接、規制されて、全閉状態とされる一方、当該片引戸10の戸尻側側部14の上端部が、戸尻側の上記エンドストッパー7bに当接、規制されて、全開状態とされる。
【0019】
尚、当該片引戸10の全閉状態及び全開状態の位置を規制するためのストッパー部材としては、上記したエンドストッパー7b,7bに代えて、例えば、ガイド凹溝15の長手方向両端部に、エンドストッパーを設けて、上記ガイドピン6が、これらに当接することで、全閉状態及び全開状態の位置を規制する態様としてもよい。
或いは、上記した態様に代えて、図2(a)の二点鎖線で示すように、床面に設けたエンドストッパー9,9を採用するようにしてもよい。このような引戸の全閉状態及び全開状態の位置を規制するためのストッパー部材としては、適宜、公知のものが採用可能である。
また、図例では、上吊り式の引戸を示しているが、当該引戸の下端部に、床面に設けられた床レールに沿って転動する戸車等を設ける一方、当該引戸の上端部に、天井部或いは天枠等に設けられたガイドレール(ガイド凹溝)にガイド、規制されるガイドピン或いはガイド片等を設けた、いわゆる下荷重式の引戸としてもよい。
【0020】
上記引き手部材20は、図1(b)に示すように、上記片引戸10の戸先側側部11の途中部位を切り欠いて形成された凹所に嵌め込まれており、例えば、金属材料や硬質の合成樹脂材料等から製されている。
この引き手部材20は、図1(a)、(b)に示すように、横断面形状が略コ字形状とされ、当該片引戸10の高さ方向に沿って長尺形状とされた第1引き手凹部21と、第2引き手凹部22とを備えている。
上記第1引き手凹部21は、手前側壁面2側に向けて開口している一方、上記第2引き手凹部22は、手前側、すなわち、反手前側壁面2側に向けて開口している。
これら各引き手凹部21,22は、互いに隣接して設けられており、上記第2引き手凹部22が戸先側に設けられている一方、上記第1引き手凹部21が、該第2引き手凹部22の戸尻側に隣接して設けられている。
【0021】
また、上記各引き手凹部21,22は、当該片引戸10の略厚み内において、形成されている。換言すれば、上記引き手部材20の手前面と、当該片引戸10の手前面12とが略面一状とされ、かつ、上記引き手部材20の背面と、当該片引戸10の背面13とが略面一状とされており、上記第1引き手凹部21は、該引き手部材20の背面から手前面に向けて凹設されている一方、上記第2引き手凹部22は、該引き手部材20の手前面から背面に向けて凹設されている。
このような各引き手凹部21,22の凹設深さは、当該引き手部材20を操作する際の手掛かり代を有した深さとすればよく、例えば、それぞれ10mm程度〜25mm程度としてもよい。また、これら引き手凹部21,22の凹設深さに合わせて、当該片引戸10の厚みを薄くすることができる。すなわち、これら引き手凹部21,22の底部の厚さに、上記凹設深さを加えた程度の厚さのものとでき、例えば、12mm程度〜30mm程度の薄厚状のものとできる。
また、この引き手部材20は、図1(b)に示すように、該引き手部材20の戸先側端面と、当該片引戸10の戸先側側部11の端面とが略面一状となるように、上記片引戸10の戸先側側部11に形成された切欠凹所に嵌め込まれている。
【0022】
尚、図例では、片引戸10の戸先側側部11の途中部位を切り欠いて嵌め込んだ引き手部材20を例示しているが、例えば、当該片引戸10の戸先側側部11の高さ方向の全長に亘って、上記引き手部材20を設けるような態様としてもよい。
また、図例では、横断面形状が略コ字形状とされた第1引き手凹部21及び第2引き手凹部22を示しているが、例えば、横断面形状が三角形状とされたものや、凹湾曲形状(半円形状)とされたもの等、どのような形状のものとしてもよい。
さらに、このような引き手部材20を別部材として設ける態様に代えて、当該片引戸10の戸先側側部11を刳り抜くようにして、或いは、凹溝を形成するようにして、上記したような各引き手凹部を形成するような態様としてもよい。
【0023】
次に、上記構成とされた片引戸10における引き手構造について、図1及び図3に基づいて説明する。
図1に示すように、上記片引戸10が全閉状態とされた際には、上記引き手部材20の第2引き手凹部22に相当する部位が、上記内壁1に設けられた開口部opの戸先側開口縁4近傍の手前側壁面2aに略重合する一方、上記引き手部材20の第1引き手凹部21に相当する部位が、該手前側壁面2aに重合することなく、開口部opに略重合する。
換言すれば、図1(a)、(b)に示すように、当該片引戸10の上記第2引き手凹部22の幅に略相当する戸先側側部11の部位が、戸先側開口縁4近傍の手前側壁面2aに略重合した状態とされる一方、その戸先側側部11の部位に連接する戸尻側の部位が、上記第1引き手凹部21を含んで、背面側から見た状態では、背面側壁面3(図2(b)参照)に重合することなく露出した状態、すなわち、開口部opに略重合した状態となる。
この状態では、上記第1引き手凹部21の開口が、開口部op側に露出した状態とされており、手前側からは、上記第2引き手凹部22をして、当該片引戸10の引き手操作が可能とされている一方、背面側からは、上記第1引き手凹部21をして、当該片引戸10の引き手操作が可能とされている。
【0024】
一方、図3に示すように、上記片引戸10が全開状態とされた際には、上記引き手部材20の第2引き手凹部22及び第1引き手凹部21に相当する部位が、上記内壁1に設けられた開口部opの戸尻側開口縁5近傍の手前側壁面2bに重合することなく、開口部opに略重合し、当該片引戸10の背面13における、第1引き手凹部21の戸尻側近傍面13aと、戸尻側開口縁5近傍の手前側壁面2bとが対面している。
換言すれば、図3(a)、(b)に示すように、当該片引戸10の上記引き手部材20の幅に略相当する戸先側側部11の部位が、背面側から見た状態では、背面側壁面3に重合することなく露出した状態、すなわち、開口部opに略重合した状態となる。
この状態では、上記同様、上記第1引き手凹部21の開口が、開口部op側に露出した状態とされており、手前側からは、上記第2引き手凹部22をして、当該片引戸10の引き手操作が可能とされている一方、背面側からは、上記第1引き手凹部21をして、当該片引戸10の引き手操作が可能とされている。
【0025】
以上のように、本実施形態に係る引き手構造を用いた片引戸10によれば、上述のように、内壁1に設けられた開口部opを挟んで、その両側から当該片引戸10の引き手部材20の操作を容易に行うことができる。
また、手前側壁面2側に向けて開口した上記第1引き手凹部21と、反壁面側に向けて開口した上記第2引き手凹部22とは、互いに隣接して設けられているので、上記した従来の引き手構造のように、引戸の厚み方向両側に向けて開口する手掛け部を有した引き手構造と比べて、当該片引戸10の厚みを、上記したように薄くすることができる。
さらに、これら各引き手凹部21,22は、上記した従来の引き手構造のように、引戸の両面から突出するように設けられた手掛かり部ではなく、凹部とされているので、これら引き手凹部21,22が目立ち難く、該片引戸10の見栄えを向上させることができる。
【0026】
また、上記第1引き手凹部21及び第2引き手凹部22は、それぞれ横断面形状が略コ字形状とされ、当該片引戸10の略厚み内において形成されているので、例えば、凹湾曲形状のものや三角形状とされたものと比べて、手掛かり性が良く、また、片引戸10の略厚み内において形成されているので、上記したように、当該片引戸10自体を、効率的に薄く形成することができる。これにより、片引戸10の見栄えをより向上させることができる。すなわち、当該片引戸10の手前側壁面2からの出幅を小さくすることができる。
さらに、当該片引戸10が全閉状態においては、当該片引戸10の戸先側側部11に設けられた上記第2引き手凹部22に相当する部位が、上記開口部opの戸先側開口縁4近傍の手前側壁面2aに略重合する構造とされているので、上記手前側壁面2の手前側から見た場合には、開口部opが完全に閉塞されて露出せず、当該片引戸10の納まりの見栄えを向上させることができる。
【0027】
次に、本発明に係る他の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図4及び図5は、第2実施形態に係る引戸の引き手構造を示し、該引き手構造を説明するための説明図である。
尚、上記第1実施形態との相違点について主に説明し、同様の構成については、同一符号を付し、その説明を省略或いは簡略に説明する。
また、図5(b)、(c)では、内壁を二点鎖線で示している。
【0028】
本実施形態に係る引き手構造は、図4に示すように、住居等の内壁1に開設された開口部opを閉塞或いは開放する二枚の引戸10A,10Aからなる引分け式の引分戸に適用した例を示している。
これら引分戸を構成する各引戸10A,10Aは、上記第1実施形態と同様、アウトセット型の納め構造によって納められている。
また、各引戸10A,10Aの戸先側側部11,11には、それぞれ引き手部材20A,20Aが設けられている。
これら各引戸10A,10Aは、上記第1実施形態において説明したように、上吊り式或いは下荷重式とされて、その開閉が可能とされている。
また、図示を省略しているが、図4(a)に示す全閉状態、及び図4(b)に示す全開状態の位置を規制するための上記同様のストッパー部材を備えている。
【0029】
また、上記各引戸10A,10Aは、図4(a)に示すように、戸先側側部11,11同士が突き合わせられた状態が全閉状態とされ、この状態では、各引戸10A,10Aの戸尻側側部14,14が、それぞれに対応した開口部opの戸尻側縁部5,5近傍の手前側壁面2b,2b(図5(b)、(c)参照)に重合している。
【0030】
上記引き手部材20A,20Aは、図5(a)に示すように、各引戸10A,10Aのそれぞれ戸先側側部11,11の途中部位を切り欠いて形成された上記同様の凹所に嵌め込まれており、高さ方向や形状等は、上記第1実施形態で説明した引き手部材20と略同様であるが、以下の点が大きく異なる。
すなわち、本実施形態では、各引戸10A,10Aのそれぞれ戸先側に、手前側壁面2側に向けて開口した第1引き手凹部21A,21Aが設けられている一方、それぞれの第2引き手凹部22A,22Aが、上記第1引き手凹部21A,21Aのそれぞれ戸尻側に隣接して設けられている。つまり、戸先側から戸尻側に向けて、第1引き手凹部21Aと、第2引き手凹部22Aとが、それぞれの引戸10A,10Aに設けられている。
【0031】
次に、上記構成とされた引分戸10A,10Aにおける引き手構造について、図5に基づいて説明する。
図5(a)に示すように、上記各引戸10A,10Aが突き合わせられて全閉状態とされた際には、上記各引戸10A,10Aのそれぞれ第1引き手凹部21A,21Aが背面側に向けて開口している一方、上記各引戸10A,10Aのそれぞれ第2引き手凹部22A,22Aが手前側に向けて開口している。
この状態では、各引戸10A,10Aは、手前側からは、上記各第2引き手凹部22A,22Aをして、引き手操作が可能とされている一方、背面側からは、上記各第1引き手凹部21A,21Aをして、引き手操作が可能とされている。
【0032】
一方、図5(b)、(c)に示すように、上記各引戸10A,10Aが全開状態とされた際には、上記各引き手部材20A,20Aのそれぞれ第2引き手凹部22A,22Aに相当する部位が、上記内壁1に設けられた開口部opの戸尻側開口縁5近傍の手前側壁面2b,2bにそれぞれ略重合する一方、上記各引き手部材20A,20Aのそれぞれ第1引き手凹部21A,21Aに相当する部位が、それぞれに対応した手前側壁面2b,2bに重合することなく、開口部opに略重合する。
換言すれば、当該各引戸10A,10Aの上記各第2引き手凹部22A,22Aの幅に略相当する戸先側側部11の部位が、それぞれに対応する戸尻側開口縁5近傍の手前側壁面2b,2bに略重合した状態とされる一方、その戸先側の部位に連接する戸先側の部位が、上記各第1引き手凹部21A,21Aを含んで、背面側から見た状態では、それぞれに対応する戸尻側開口縁5近傍の背面3,3に重合することなく、それぞれ露出した状態、すなわち、開口部opに略重合した状態となる。
【0033】
この状態では、上記各第1引き手凹部21A,21Aの開口が、開口部op側に露出した状態とされており、手前側からは、上記各第2引き手凹部22A,22Aをして、各引戸10A,10Aの引き手操作が可能とされている一方、背面側からは、上記各第1引き手凹部21A,21Aをして、各引戸10A,10Aの引き手操作が可能とされている。
以上のように、本実施形態に係る引き手構造を用いた引分戸10A,10Aによれば、上記第1実施形態と同様、各引戸10A,10Aの各引き手部材20A,20Aの操作を容易に行うことができるとともに、これら各引戸10A,10Aを薄肉化でき、さらに、これら各引戸10A,10Aの見栄えを向上させることができる。
【0034】
尚、上記各実施形態では、本発明に係る引き手構造を、一枚からなる片引戸、或いは二枚からなる引分戸に適用した例を示しているが、壁部の壁面に沿って納められる構造とされた種々の引戸の引き手部に適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 内壁(壁部)
2 壁部の手前側壁面(壁面)
2a 戸先側開口縁近傍の手前側壁面
2b 戸尻側開口縁近傍の手前側壁面
4 戸先側開口縁(開口縁)
5 戸尻側開口縁(開口縁)
10 片引戸(引戸)
10A 引戸
11 戸先側側部(引戸の一側部)
13a 第1引き手凹部の戸尻側近傍面
21,21A 第1引き手凹部
22,22A 第2引き手凹部
op 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁部の壁面に沿って納められ、該壁部に形成された開口部を開閉するための引戸における引き手構造であって、
前記引戸の一側部には、壁面側に向けて開口した第1引き手凹部と、反壁面側に向けて開口した第2引き手凹部とが、当該引戸の幅方向に沿って互いに隣接して設けられており、
前記引戸の第2引き手凹部を、前記開口部の開口縁近傍の壁面に略重合させ、かつ、該引戸の第1引き手凹部を、該開口縁近傍の壁面に重合させることなく、前記開口部に略重合させたときには、該引戸の第1引き手凹部の開口が前記開口部側に露出する構造としていることを特徴とする引戸の引き手構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1引き手凹部及び第2引き手凹部は、それぞれ横断面形状が略コ字形状とされるとともに、前記引戸の略厚み内において形成されていることを特徴とする引戸の引き手構造。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記引戸は、一枚からなる片引き式の片引戸であり、前記第2引き手凹部と前記第1引き手凹部とが戸先側からこの順にそれぞれ設けられており、
当該片引戸が全閉状態とされたときには、前記第2引き手凹部が前記開口部の戸先側開口縁近傍の壁面に略重合する構造とされていることを特徴とする引戸の引き手構造。
【請求項4】
請求項3において、
当該片引戸が全開状態とされたときには、当該片引戸の壁面側の面における、前記第1引き手凹部の戸尻側近傍面と、前記開口部の戸尻側開口縁近傍の壁面とが対面する構造とされていることを特徴とする引戸の引き手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−196301(P2010−196301A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40290(P2009−40290)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】