説明

弗化炭素類の分解装置

【課題】環境に有害な弗化炭素ガスを簡単な処法で完全に且つ経済的に分解し無害化する。
【解決手段】パーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンの気体を、炭素質固体材料とアルカリ土類金属化合物とからなる反応剤に、300℃以上の温度で且つ20vol.%以下(0%を含まず)の気体酸素の存在下で接触させることからなる弗化炭素類の分解法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弗化炭素類とりわけ炭素数が1〜5程度のパーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンを効率よく分解する方法およびそのための簡易な装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開平6−293501号公報(特許文献1)は、アプリケータ内でマイクロ波をあててマグネタイトを発熱させ、この発熱状態にあるマグネタイトにフロンガスを接触させることによってフロンを分解する方法を開示する。また、特開平7−024255号公報(特許文献2)は、炭素質材料とアルカリ土類金属の酸化物または塩類とからなる混合物にマイクロ波を照射して発熱させ、この発熱状態にある混合物にフロンガスを接触させることによってフロンを分解する方法を開示する。
【特許文献1】特開平6−293501号公報
【特許文献2】特開平7−024255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記の公報に記載のフロン分解法は、いずれもマイクロ波を利用するものであるから、高価なマイクロ波発生装置を必要とし且つ反応容器もマイクロ波がよく透過する耐熱材質に制限されるという問題があった。マイクロ波がよく透過する耐熱材料にはセラミックス系のものがあるが、これらはフッ素と反応して材質が劣化するものが多い。したがって、工業的に安価に且つ安定してフロン分解を行うにはいま一つ問題があった。
【0004】
そこで、マイクロ波によらずにフロンを分解する技術として、同一出願人に係る平成7年特許願第28619号において、非酸化性雰囲気中において加熱された炭素質材料とアルカリ土類金属化合物を含有する物質にフロンガスを接触させて反応させるフロン分解法を提案した。この先願方法によれば、電気ヒーターを用いた通常の加熱炉を用いてもフロンを分解できるという利点があり、当明細書に記載されているようにR−113等のクロロフルオロカーボン類を効率よく分解できる。
【0005】
しかし、その後の試験研究によると、この先願方法によってあらゆる種類の弗化炭素類が分解できる訳ではなく、該先願明細書には記載のないパーフルオロカーボンやハイドロフルオロカーボン等の塩素基を持たない弗化炭素類に対しては分解効率が必ずしも良好ではないことが判明した。
【0006】
したがって、本発明は、パーフルオロカーボンやハイドロフルオロカーボン等の塩素基を持たない弗化炭素類を効率よく分解する工業的方法の開発を課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題は、パーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンの気体を、炭素質固体材料とアルカリ土類金属化合物とからなる反応剤に、300℃以上の温度で且つ20vol.%以下(0%を含まず)の気体酸素の存在下で接触させることによって解決できることがわかった。
【0008】
より具体的には、炭素質固体材料とアルカリ土類金属化合物とからなる反応剤を装填した反応容器内に、パーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンを含む被処理ガスを連続的または間欠的に搬送すると共に、反応後の排ガスを該反応容器から連続的または間欠的に排出させ、そのさい、該被処理ガス中の酸素濃度が20vol.%以下となるように反応容器内に入る前の被処理ガスに酸素を含有させること、および該パーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンが分解するに必要な熱を反応容器の外側から反応帯域に伝達するかまたは反応容器の内側から反応帯域に伝達することにより、当該弗化炭素ガスを効率よく分解することができることがわかった。
【0009】
また、本発明法では排ガス中にCOが共存することがある。この場合、排ガス中のCOをCO2に酸化処理する工程を設けるのがよい。さらに本発明法では反応容器を構成する材料としては耐熱合金や耐食合金例えばステンレス鋼やニッケル基合金などを使用することができるし、フッ素や弗化水素に耐えるものであればセラミックス(例えば弗化アルミニウムを用いたセラミックス)も使用できる。そして、炉内雰囲気の温度を所要の温度に維持できる炉内にこの反応容器を設置し、炉内の熱を容器壁を通じて容器内の反応剤に伝達させることができる。
【0010】
さらに本発明によれば、前記の分解法を好適に実施する装置として、炭素質固体材料とアルカリ土類金属化合物とからなる反応剤を装填した反応容器と、この反応容器内に通ずるように設けられた被処理ガス導入口と、該反応容器内から反応後のガスを排出するように設けられたガス排出口と、この反応容器を収容する炉と、この炉内の雰囲気温度を300℃以上に高めるための熱源と、前記の被処理ガス導入口と弗化炭素含有ガス源とを接続する管路と、さらに必要に応じて前記のガス排出口に連通するように配管接続された排ガス酸化器と、からなる弗化炭素類の分解装置を提供する。反応容器は前記のように耐熱合金または耐食合金で構成したものが使用することができる。弗化炭素含有ガス源としては適量の酸素が含有している例えば半導体製造工程で発生する弗化炭素含有ガスが適用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるとパーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンが簡単な処法で完全に分解することができ、分解したフッ素も無害物として固定できる。このため、本発明の弗化炭素類の分解法は、分解装置の簡易さ、分解効率の高さ、分解生成物の後処理の簡易性および反応剤の廉価性の点でこれまでのものにはない効果を奏し、とくに、半導体製造工程で発生する使用済パーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンの分解に多大の貢献ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、炭素数が1〜5、好ましくは炭素数が1〜3のパーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンを分解する方法であり、分解したフッ素は反応剤に吸収され、分解した炭素(更には水素)は排ガス中に移行する。本発明で好適に分解処理できるパーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンとしては、例えば常温で容易に気化させることができる(窒素ガス等の不活性ガスを同伴することによって気化するものを含む)ところの、CF4、C26、C38、C−C48等、またはCHF3、CH22、C2HF5、C224等がある。
【0013】
これらの分解反応を行わせるには、パーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンの気体を、炭素質固体材料とアルカリ土類金属化合物とからなる反応剤に、300℃以上の温度で且つ20vol.%以下(0%を含まず)の気体酸素の存在下で接触させることが肝要である。
【0014】
ここで、反応剤を構成する一方の材料である炭素質固体材料としては、コークス粉、チャー炭、石炭、生ピッチ、木炭、活性炭、カーボンブラックからなる群から選ばれる一種または二種以上を使用することができ、その形態としては粉状のものが好ましい。反応剤を構成する他方の材料であるアルカリ土類金属化合物としては、カルシウム、マグネシウム、 バリウムまたはストロンチウムの酸化物、カルシウム、マグネシウム、バリウムまたはストロンチウムの水酸化物、およびカルシウム、マグネシウム、バリウムまたはストロンチウムの炭酸塩または硝酸塩からなる群から選ばれた一種または二種以上の化合物を使用することができ、好ましくは、カルシウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩があり、これらのうち、生石灰、消石灰、石灰石が取扱いが容易である点で有利である。
【0015】
これらの反応剤は、粉状または粒状の炭素質固体材料と粉状または粒状のアルカリ土類金属化合物をそのまま反応容器に装填して使用することもできるが、粉状の炭素質固体材料と粉状のアルカリ土類金属化合物を混合し、この混合物を取扱易い大きさの粒状物に造粒したものであるのがよい。これによって、炭素とアルカリ土類金属化合物が互いに近接した状態となり且つ反応剤の比表面積(単位重量当りの表面積)が大きくなって被処理ガスとの接触の機会を大きくすることができる。造粒にあたっては水または有機バインダーを使用し、その造粒物を乾燥もしくは焼成することにより、充分な強度と気孔率を有する造粒品とすることもできる。このような造粒品を製造する過程で、原料として使用した炭素質固体材料または粉状のアルカリ土類金属化合物がその形態および化合物の種類が他のものに変化することがあっても、造粒品中に固体炭素とアルカリ土類金属成分が所要の割合で存在している限り、本発明の分解反応に寄与することができる。
【0016】
例えば炭素質固体材料としてチャー炭を、そしてアルカリ土類金属化合物として消石灰を原料とし、これらの粉体を所要の割合で配合し、水を加えて混練したあと、取扱い易い大きさの粒径例えば1〜10mm、好ましくは1〜5mmに造粒し、これを非酸化性雰囲気下で焼成(例えば500〜850℃で焼成)してペレットとした場合、この焼成の過程でチャー炭中の揮発成分は殆んど除去され、また消石灰は完全に酸化カルシウムに変化するので、炭素(C)と酸化カルシウム(CaO)を主成分とした純度の高いペレットが得られる。このようにして得られるCとCaOからなる反応剤は充分な強度を有し且つ比表面積の大きな多孔質となるので、本発明法の実施に好適に使用できる。
【0017】
反応剤を構成する炭素質固体材料とアルカリ土類金属化合物の相対割合は、使用するこれらの材料や化合物の種類にもよるが、本発明者らの経験によると、両者の重量比で言えば、半々か後者の方が多めの方がよい。炭素質固体材料中の炭素(C)と、アルカリ土類金属化合物中のアルカリ土類金属(M)の酸化物(MO)とのモル比で言えば、C/MOのモル比=0.9〜2.3、好ましくは0.9〜1.9、さらに好ましくは1.4〜1.9である。
【0018】
一般に、パーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンは、クロロフルオロカーボンやハイドロクロロフルオロカーボンに比べてより安定な化合物であるから、分解が容易ではないと考えられている。しかし、パーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンを本発明に従う反応剤に酸素の存在下で300℃以上の温度で接触させると効率よく分解させることができる。必要な温度の下限はパーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンの種類によって異なる。必要な温度を維持すれば、酸素が存在しない場合にも或る程度分解するが、分解効率が悪い。他方、クロロフルオロカーボン等の塩素含有のフロンガスの場合には、同じ反応剤を用いて同じように分解処理を行っても、酸素の存在はそれほど寄与することなく、非酸化性雰囲気の方がより分解が進行する現象が見られる。
【0019】
したがって、本発明法では被処理ガス中に適量の酸素ガスが存在することが不可欠であり、その酸素濃度は低くても或る程度の効果が現れるが、5vol.%以上であるのがよい。しかし、20vol.%を超えるような高濃度の酸素量となると、反応剤中の炭素の消費が多くなり、また分解反応を促進する効果も飽和するようになる。したがって、被処理ガス中の酸素濃度は0.5〜20vol.%、好ましくは2〜15vol.%、さらに好ましくは、5〜10vol.%とするのがよい。この酸素の存在によりパーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンの分解が効率よく進行する理由については現在のところ必ずしも明らかではない。なお被処理ガス中の酸素源としては空気を用いることができる。場合によってはCO2の酸素を酸素源とすることもできる。
【0020】
この反応剤にパーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボン(以下、PFCまたはHFCと略称するか、又は単に弗化炭素と言うこともある)を接触させるには、不活性ガス例えば窒素ガスをキャリヤとして反応剤に連続的または間欠的に供給するようにするのが便宜である。この場合、弗化炭素は不活性ガスで希釈されるが、不活性ガスは熱を運び去る働きをするが、反応には実質的に関与しない。本明細書において被処理ガス中の酸素濃度とは、かような不活性キャリヤガスを含む場合には、かようなガスを含む全ガス量中の酸素濃度を意味する。
【0021】
図1は、本発明法を実施する装置の一例を示したものである。図中の1は金属製の反応容器(管)であり、この中に炭素質固体材料とアルカリ土類金属化合物とからなる反応剤2が装填される。図例のものは管状の反応容器1を縦型にしたものであり、反応剤2は容器内に固定した通気性床3の上に装填されている。反応容器1の金属管としてはステンレス鋼またはニッケル基合金からなる管を使用することができる。
【0022】
反応容器1は加熱炉4内に設置される。図示の加熱炉4は、通電により発熱する発熱体を用いた電気ヒーター5を熱源としたもので、この電気ヒーター5によって炉内雰囲気6の温度が所要の温度に昇温し、この炉内の熱が金属製反応容器壁を介して反応剤2に伝達される。炉内雰囲気6の温度を所要の温度に高めることができるものであれば、熱源としては電気ヒーターに限られるものではない。例えば燃焼排ガスなどの高温ガスを熱源とすることもできる。
【0023】
このようにして加熱炉4内に設置される反応容器1には被処理ガス導入口7が設けられ、この被処理ガス導入口7はPFCまたはHFCを入れた弗化炭素容器8に配管接続される。弗化炭素容器8は必要に応じて加熱手段9により間接加熱できるようにしておき、この加熱により弗化炭素容器8内のガス圧を高める。また、容器8からのガス放出管10には流量調整弁11を介装する。図1の実施例では、弗化炭素容器8に加えて、酸素ガスボンベ12と窒素ガスボンベ13を別置きし、これらから、酸素ガスと窒素ガスをそれぞれ流量調整弁14、15を介装したガス放出管16、17を経ていったんガスヘッダー18に導くと共にこのヘッダー18に弗化炭素を導くことにより、弗化炭素ガスに酸素ガスを添加すると共にキャリヤとしての窒素ガスを混合し、このヘッダー18で混合された被処理ガスをガス供給管19を経て反応容器1の被処理ガス導入口7に送り込むようにしてある。
【0024】
なおこの例に限らず、弗化炭素、窒素および酸素を予め混合してなる混合ガスを一つの容器内に準備し、この混合ガスを直接的に被処理ガス導入口7に送り込むようにしてもよいし、弗化炭素容器8に窒素ガスを送り込み、この窒素ガスによって弗化炭素を容器から強制的に送り出し、その放出管路に酸素ガスを添加するようにしてもよい。いずれにしても、酸素ガス導入管を容器8自身または容器8から被処理ガス導入7に至るまでの配管に接続するようにする。
【0025】
他方、反応容器1のガス排出口20には排ガス管路21が接続され、この排ガス管路21はハロゲン吸収ビン22に接続され、このビン22にガス放出管23が取付けられている。また、排ガス管路21にはサンプリング管24が取付けられ、このサンプリング管24でサンブリングされた排ガスはガス分析器25に送られる。
【0026】
図2は、反応容器1から出る排ガスの排ガス管路21に、排ガス酸化装置26を接続した例を示したものである。排ガス酸化装置26はこの中を通過する排ガスの実質的全量が触媒層27を通過するようにしたものであり、触媒層27にはCOからCO2への酸化反応を促進する酸化触媒が装填してある。この触媒としては、白金、パラジウム等のような貴金属触媒を耐熱性の担体に担持させたものや、ホプカライト触媒が使用できる。また、この排ガス酸化装置26に入る前の排ガスに酸素を添加するための酸素導入管28が接続してあり、この酸素導入管28の流量調節弁29によって、酸素源30からの排ガスへの酸素添加量を調節する。なお、この酸素を導入する位置よりも上流側の排ガス管路21に窒素ガス34を導入する管路35を設け、この管路35から窒素ガス34を排ガス中の混合することにより排ガス中のCO濃度を低くしてから酸素を導入するようにすると、排ガス中のCO濃度が高くなった場合にも、酸素導入位置でCOがCO2に燃焼するような現象を抑制することができる。排ガスに添加する酸素源30として空気を用いることもできる。排ガス酸化装置26を通過した排ガスは、図1と同様の経路でハロゲン吸収ビン22に送られる。
【0027】
図1および図2の装置において、反応容器1内の反応剤2には加熱炉4内の雰囲気温度が容器壁を通じて伝達されるが、分解反応や反応剤中の炭素の酸化反応等の反応による熱収支と、導入ガスと排出ガスによって出入する熱容量の収支によって温度が変化するが、図示のように、反応剤2のほぼ中心に挿入された温度センサー(熱電対)31によって、反応帯域の温度を温度測定器32で検出し続け、この温度が所定の温度に維持されるように、熱源5からの供給熱量を制御する。また、加熱炉4内の炉内雰囲気6の温度も温度センサー33によって検出しその検出値に基づいて加熱炉自体の温度制御も適宜行う。
【0028】
このようにして、被処理ガス中のPFCまたはHFCはほぼ完全に(100%近い分解率)で分解し、分解したフッ素は反応剤中のアルカリ土類金属と反応してフッ化アルカリ土類金属となり、排ガス中にはこれらの弗化炭素類およびフッ素は残存しなくなる。また排ガス酸化装置26によって排ガス中のCOの全てをCO2に酸化させることができる。
【0029】
図3は、半導体製造工程で使用された使用済PFCまたはHFCを本発明によって分解処理する場合の例を示したものである。半導体製造工程から出る使用済PFCまたはHFCは、通常は酸素と窒素を含有した弗化炭素として取り出される。この酸素含有弗化炭素37は一般に管路38を経てルーチンな処理工程36に送られている。本発明の適用にさいし、この弗化炭素供給管38を反応容器1の被処理ガス導入口7に接続する。図示の例では、該供給管38から三方弁39を介して分岐管40を取付け、この分岐管40を被処理ガス導入口7に接続したものである。そして、この分岐管40に窒素ガス供給管41を連結し、窒素ガス源42から窒素ガスを分岐管40内に流量可変に圧送できるようにしてある。これにより、三方弁39を切り換えたさいに、分岐管40の側に原料ガスが流れ難くても、窒素ガス源42から必要量の窒素ガスを送気することにより、原料ガスを被処理ガス導入口7に向けて実質的に同一流量で搬送することができる。
【0030】
前記の使用済PFCまたはHFCは通常は酸素および窒素を含有したガスとして取り出され、しかも、この使用済ガス中の酸素含有量は20容量%を超えることは通常はない。したがって、半導体製造工程で排出する使用済PFCまたはHFCの分解処理に対して、本発明法は非常に有利である。
【0031】
図4と図5は、反応容器1の内部に加熱源を設置して、容器の内部から反応剤2に熱を伝達するようにした本発明例を示したものである。両図において、44は反応容器1を取り巻く耐熱性の炉材、7は容器への被処理ガス導入口、20は容器からのガス排出口である。
【0032】
図4の場合には、反応剤2の充填層の内部に、通電により発熱する発熱体43を配置したものであり、発熱体43は耐食耐熱性のカバーで被覆してある。本例によると、反応剤2の充填層内部から熱が伝達されるので、反応剤を所望の温度まで高めるための昇温速度を高めることができまた熱損失も少なくなる。
【0033】
図5の場合には、反応容器1の内部を、反応剤2の充填層と加熱層に分け、容器1内に導入された被処理ガスは加熱層を経てから反応剤充填層に流れるようにしたものである。加熱層では、通電により発熱する発熱体46を容器蓋45に取付けてある。被処理ガスは加熱層を通過するさいに熱を付与されると共に反応剤2にも熱が伝達される。本例では、容器内に電気ヒーターを入れたので、熱の利用効率が高くなると共に発熱体46が反応剤や反応後のガスに接触しないので劣化が少ないという利点がある。
【0034】
図6は、加熱源をもつ反応容器1に導入する前の被処理ガスと、反応容器2から出た排ガスとを熱交換するための熱交換器48を配置した本発明例を示したものである。この熱交換器48を配置することにより、排ガスが有する顕熱を被処理ガスに付与することにより、熱の回収が図られるので、加熱源の熱消費を低くすることができる。
【0035】
上に説明した本発明装置の場合、装填した反応剤が消耗し尽きると、分解反応は終了する。この反応終点は排ガス中に弗化炭素類若しくはその他のフッ素化合物が検出され始めた時点をもって知ることができる。反応が終了すれば、装置の稼働を停止し、新たに反応剤を装填して反応を開始するというバッチ方式で、同一装置で順次弗化炭素類の分解を行うことができる。このバッチ方式を連続化するために、複数の同様の装置を並設し、一方の装置が稼働している間に他の装置の反応剤の入れ換えを行ない、一方の装置が停止したときに他方の装置にガス流路を切り替えるという複塔切替方式を採用こともできる。また、反応容器内への反応剤の連続または断続供給と使用済反応剤の反応容器内からの連続または断続排出ができるようにしたものを使用すれば、同一装置で長時間連続稼働ができる。
【0036】
図7は、後記の比較例と同じく、塩素を構成成分とするトリクロロ−トリフルオロエタン(CFC)を、CFCの濃度:10vol.%、ガス流量:0.15リットル/分、反応剤のC/CaOのモル比:1.67、反応剤最高温度:800℃として、被処理ガス中の酸素濃度が0%の場合と10%の場合について分解処理したさいの、CFCの流入量とCFC分解率の関係を示したものである。ここで、CFCの分解率は後述のとおりのものであり、CFCの流入量は表示の分解率になるまでに反応容器に流入したCFCの積算量(g)である。図7の結果から、塩素を構成成分とする塩化弗化炭素の分解処理では、被処理ガス中に酸素が含有されると分解率は急激に低下することがわかる。
【0037】
一方、図8は、後記の実施例1と同じく、パーフルオロエタン(PFC)を、PFCの濃度:10vol.%、ガス流量:0.15リットル/分、反応剤のC/CaOのモル比:1.67、反応剤最高温度:800℃として、被処理ガス中の酸素濃度が0%の場合と10%の場合について分解処理したさいの、PFCの流入量とPFC分解率の関係を示したものである。すなわち、図8のものは、分解に供するガスとしてトリクロロ−トリフルオロエタンをパーフルオロエタンに代えた以外は、図7のものと同じ反応条件である。図8では、図7のものとは逆に、被処理ガス中に酸素が含有されないと分解率は急激に低下することがわかる。
【0038】
図9は、加熱方式を実施例のように電気ヒーター加熱とした場合と、これとは別にマイクロ波加熱とした場合のパーフルオロエタン(PFC)の分解率の違いを示したものである。反応条件としては、いずれの場合も、弗化炭素の濃度:10vol.%、ガス流量:0.15リットル/分、酸素濃度:10vol.%、反応剤のC/CaOのモル比:1.67とし、マイクロ波加熱は後記実施例の反応管をマイクロ波透過性のセラミックス材料で構成し、これをマイクロ波を照射するアプリケータ内に設置した以外は、後記実施例と同じ容量の反応装置としたものである。
【0039】
図9の結果に見られるように、電気ヒーター加熱の場合には、反応管内の反応剤最高温度は800℃に始終維持され、PFCの積算流入量が40g程度になるまでは分解率が100%近い値となり、該流入量が55g程度となったところで分解率は95%に低下した。他方、マイクロ波加熱の場合には、PFCの積算流入量が20g程度のところで分解率が低下し始め、反応剤温度も800℃を維持できなくなり、その後は分解率、反応剤温度も急激に低下した。すなわちPFCの積算流入量が29gの時点で分解率95%、反応剤温度600℃となり、その後は両値とも急激に低下し、分解処理は実効を示さなくなった。このことは、マイクロ波加熱の場合には、被処理ガスに酸素が含まれると反応剤(特に炭素)が酸化し、マイクロ波加熱では反応剤温度を意図する温度に長時間維持できなくなるからであろうと推察される。
【実施例】
【0040】
〔実施例1〕
図1に示したものと同じ原理の装置を使用して本発明法を実施した。すなわち通電により発熱する発熱体(カンタル合金を使用)を装着した管状炉(電気容量20KW)の軸中心に沿って、内径28mm、長さ1000mmのオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)からなる反応管を貫通させ、この反応管内の炉中心部に、原料としてチャー炭と消石灰を用いて作製した粒状の反応剤100gを装填した。この反応剤は、粒度250μm以下のチャー炭と粒度250μm以下の消石灰を重量比で1対3の割合で配合し、ヘンシエルミキサーで混合し水を添加して造粒したあと、110℃で4時間の乾燥処理し、窒素雰囲気中で800℃で8時間の熱処理を行って脱水焼成し、得られた焼成品を1.4〜4.0mmのものに整粒したもの(ペレット)である。原料のチャー炭は、固定炭素78%、揮発分9%、灰分3%、水分10%のものを使用し、原料の消石灰はJISR9001の規格品を使用した。製造されたペレットを分析したところ、この反応剤ペレットは炭素(C)と酸化カルシウム(CaO)が主成分であり、C/CaOのモル比は1.67であった。この反応剤の装填中心部に熱電対を挿入し、反応の間、反応剤の温度を計測した。
【0041】
分解に供する弗化炭素としてパーフルオロエタン(C26)を使用し、図1に示したように、このパーフルオロエタンに酸素ガスを添加すると共に、窒素ガスをキャリヤとして前記の反応管に導入した。そのさい、この被処理ガスの流量は0.15リットル/分の一定として、酸素ガスの添加量だけを変えた5例の試験(No.1〜5)を行った。どの例でも、被処理ガス中の弗化炭素の量は10vol.%の一定とした。いずれの例でも被処理ガスの導入にさいしては、発熱体への通電を開始し、反応剤の中心部の温度が800℃となったことを確かめた上で行なった。反応の間は、反応剤の中心部(反応剤の嵩のうち最も高温となる部位)に挿入した熱電対で計測される温度が800℃で維持されるように管状炉の通電量を制御した。反応のあいだ維持したこの温度のことを以後に「反応剤最高温度」と呼ぶ。
【0042】
反応管から排出される排ガスの一部は図1に示したようにサンプリングし続けてガス分析器に導き、残部は苛性ソーダ溶液を入れたフッ素吸収ビンを通じたあと系外に排出した。排ガスの分析は、排ガス中に含まれる弗化炭素、その他のフッ素化合物、O2、N2、CO2、COについて行った。弗化炭素、O2、N2、CO2についてはガスクロマトグラフイを使用し、COについてはCOガス検知管を使用し、そしてその他のフッ素化合物についてはイオンクロマトグラフイを用いた。
【0043】
各試験(No.1〜5)の反応条件と反応結果を表1に示した。表1において、反応結果の欄に示した30分後の分解率、弗化炭素の分解量、反応剤のCaO消費率は、次のようにして求めたものである。
【0044】
〔30分後の分解率%〕
反応開始から30分経過した時点の排ガスサンプルから、排ガス中に残存している弗化炭素量を測定し、被処理ガス中の弗化炭素に対する排ガス中の弗化炭素の100分率をもって表した。
【0045】
〔弗化炭素の分解量(g)〕
反応終点までに分解した弗化炭素の量である。反応終点は分解率が95%に低下した時点とした。実際には、30分毎の排ガス分析値から、30分毎の分解率を求め、各30分間に流入した弗化炭素量にそのときの分解率を掛けた値をその30分間の分解量とし、反応開始から分解率が95%に低下する時点までの分解量の積算値をもって、弗化炭素の分解量(g)とした。
【0046】
〔反応剤のCaO消費率%〕
前記の反応終点に至るまでに消費した反応剤中のCaO量の百分率である。CaOの消費はCaF2の生成で起きると仮定し、反応終点までに分解した弗化炭素中のフッ素量の積算値と、排ガス中に検出されるフッ素量の積算値とから、Caに固定されたフッ素量の積算値を求め、反応終点までに消費したCaO量を算出した。
【0047】
表1の結果から、被処理ガス中の酸素濃度が0%のNo.1では、30分後の分解率はほぼ100%に達しているが、反応終点までに分解した弗化炭素の分解量は13gであったところ、No.2〜4のように酸素濃度が高くなるにつれて、30分後の分解率は同じく100%に達するとともに、反応終点までに分解した弗化炭素の分解量は31、51、52gと増大していることがわかる。No.5のように更に酸素濃度が高くなると、反応終点までの弗化炭素分解量はやや低下するようになる。また、No.3および4のCO測定に見られるように、酸素添加量が多い方のNo.4はNo.3のものよりも排ガス中のCO量が多くなっている。
【0048】
〔実施例2〕
被処理ガス中の酸素濃度を5vol.%の一定とし、C/CaOのモル比を変えた反応剤を使用した以外は、実施例1と同様の試験(No.6〜9)を行った。反応剤のC/CaOのモル比は、チャー炭と消石灰の配合量を変えて、実施例1と同様にして製造したペレットを分析し、ペレット中のC量、CaO量を測定し、これらの測定値から求めたものである。試験結果を表1に併記した。この結果から、パーフルオロエタンの反応終点までの分解量はC/CaOのモル比によって影響を受けることがわかる。本例ではC/CaOのモル比が約1.7付近で最も良好な成績が得られていることがわかる。
【0049】
〔実施例3〕
パーフルオロエタンに代えてパーフルオロメタンを使用した以外は実施例1と同様の試験を行なった。そのさい酸素濃度を0%(No.10)と10%(No.11)と変化させた。試験結果を表1に併記したが、本例でも反応終点までの分解量は酸素の添加によって顕著に増大することがわかる。
【0050】
〔実施例4〕
パーフルオロエタンに代えてトリフルオロメタン(CHF3)を使用した以外は実施例1と同様の試験を行なった。そのさい、弗化炭素濃度と酸素濃度はいずれも5vol.%の一定とし、ガス流量は0.12リットル/分とし、反応剤はC/CaOのモル=1.67のものを使用し、反応剤最高温度を変えた(No.12〜17)。その結果を表1に示したが、反応剤最高温度が400℃未満では30分後の分解率が低いのに対し、400℃以上となるとほぼ100%の分解率が得られることがわかる。
【0051】
〔比較例〕
塩素を構成成分とするトリクロロ−トリフルオロエタンを実施例1と同様の分解処理に供した。その反応条件と反応結果を表1に併記した。この場合には、被処理ガス中に酸素が存在しない方(比較例No.1)が分解量が多くなり、酸素が存在すると(比較例No.2)分解量はむしろ低下した。
【0052】
〔実施例5〕
実施例1および2の試験No.3と同一の反応条件でパーフルオロエタンを分解処理したが、そのさいの排ガス(CO濃度:20%)に、図2に示したように、窒素を添加したあと酸素を添加したうえで、排ガス酸化装置26に導き、触媒層27を通過させた(試験No.18)。窒素添加量は5.0リットル/分、酸素添加量は1.5リットル/分であり、触媒はアルミナに白金を0.5%担持させた市販品(日揮化学株式会社製)を使用した。その結果を表1に示したが、排ガス中のCO濃度は0%となった。
【0053】
〔実施例6〕
反応温度を700℃とした以外は実施例1の試験No.3と同一の反応条件でパーフルオロエタンを分解処理した(試験No.19)。反応結果を表1に示したが、800℃のNo.3に比べて成績は若干劣るが、それでも充分な分解が行われた。
【0054】
〔実施例7〕
トリフルオロメタン(CHF3)に代えて、1,1,1,2 テトラフルオロエタン(C224)を使用した以外は、実施例4と同様の試験を行った(試験No.20)。そのさい反応剤最高温度は350℃とした。その結果を表1に示したが、350℃でも100%近い分解率が得られた。
【0055】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明法を実施する装置の一例を示した機器配置系統図である。
【図2】本発明法を実施する装置の排ガス経路部の他の例を示した機器配置系統図である。
【図3】本発明法を実施する被処理ガス導入部の他の例を示した機器配置系統図である。
【図4】本発明法に従い反応剤を反応容器内から加熱する例を示す反応容器部の略断面図である。
【図5】本発明法に従い反応剤を反応容器内から加熱する他の例を示す反応容器部の略断面図である。
【図6】本発明の実施にさいし、反応容器に入る前の被処理ガスと反応容器を出た排ガスを熱交換する例を示す図である。
【図7】トリクロロ−トリフルオロエタン(CFC)を、被処理ガス中の酸素濃度が0%の場合と10%の場合について分解処理したさいの、CFCの流入量とCFC分解率の関係を示した図である。
【図8】パーフルオロエタン(PFC)を、被処理ガス中の酸素濃度が0%の場合と10%の場合について分解処理したさいの、PFCの流入量とPFC分解率の関係を示した図である。
【図9】反応剤の加熱方式を電気ヒーター加熱とした場合と、マイクロ波加熱とした場合のパーフルオロエタン(PFC)の分解率の違いを示した図である。
【符号の説明】
【0057】
1 反応容器
2 反応剤
3 通気性床
4 加熱炉
5 電気ヒーター
6 加熱炉の炉内雰囲気
7 被処理ガス導入口
8 弗化炭素源
12 酸素ガス源
13、34、42 窒素ガス源
19 40 被処理ガス導入管路
20 ガス排出口
21 排ガス管路
26 排ガス酸化器
27 酸化触媒
43、46 通電により発熱する発熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンと濃度20vol.%以下の酸素を含む被処理ガスの分解装置であって、炭素質固体材料とアルカリ土類金属化合物とからなる反応剤を装填した金属製の反応容器と、この反応容器内に通ずるように設けられた被処理ガス導入口と、該反応容器内から反応後のガスを排出するように設けられたガス排出口と、この反応容器を収容する炉と、この炉内の雰囲気温度を300℃以上に高めるための通電により発熱する発熱体を用いた電気ヒーターと、前記の被処理ガス導入口と被処理ガス源とを接続する管路と、からなる弗化炭素類の分解装置。
【請求項2】
パーフルオロカーボンまたはハイドロフルオロカーボンと濃度20vol.%以下の酸素を含む被処理ガスの分解装置であって、炭素質固体材料とアルカリ土類金属化合物とからなる反応剤を装填した金属製の反応容器と、この反応容器内に通ずるように設けられた被処理ガス導入口と、該反応容器内から反応後のガスを排出するように設けられたガス排出口と、この反応容器を収容する炉と、この炉内の雰囲気温度を300℃以上に高めるための通電により発熱する発熱体を用いた電気ヒーターと、前記の被処理ガス導入口と被処理ガス源とを接続する管路と、前記のガス排出口に連通するように配管接続された排ガス酸化器と、からなる弗化炭素類の分解装置。
【請求項3】
前記被処理ガス源は、半導体製造工程で発生するものである請求項1または2に記載の弗化炭素類の分解装置。
【請求項4】
前記反応容器に導入する前の被処理ガスと、該反応容器から出た排ガスとを熱交換する熱交換器が配置された、請求項1〜3のいずれかに記載の弗化炭素類の分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−7219(P2006−7219A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208786(P2005−208786)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【分割の表示】特願平8−192691の分割
【原出願日】平成8年7月4日(1996.7.4)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【出願人】(000224802)同和鉄粉工業株式会社 (96)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】