説明

張り剛性評価圧子モデル、その圧子モデルを使用した張り剛性解析装置及び解析方法

【課題】パネル部品の張り剛性解析に最適な張り剛性評価圧子モデルと、これを使用して張り剛性を高精度に解析する張り剛性解析装置及び解析方法を提供する。
【解決手段】パネル部品の形状データを作成するパネル形状データ作成部1と、該パネル形状データ作成部で作成したパネル形状データをメッシュ分割して有限要素法解析を実行するパネル形状モデルを作成するパネル形状モデル作成部5と、前記パネル形状データ作成部で作成したパネル形状データに対して、剛体板と該剛体板のパネル部品の荷重負荷部に対向する面に、植立した複数のビーム要素とで構成される張り剛性評価圧子モデルを作成する圧子モデル作成部7と、該圧子モデル作成部で作成した張り剛性評価圧子モデルの剛体板に前記荷重負荷部に対して面垂直方向に変位を与えて張り剛性解析を行う張り剛性解析部8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の張り剛性有限要素法(FEM)解析において、評価圧子のモデル化方法に関するもので、特にドア、フードなど自動車パネル部品の張り剛性実測における荷重変位曲線、飛び移り現象を有限要素法解析において高精度に再現する有限要素法用張り剛性評価圧子モデル、その圧子モデルを使用した張り剛性解析装置及び解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に自動車など車両の軽量化を実現するため、ドアやフードなど自動車アウター部品においても薄肉軽量化のニーズが高まっている。しかしながら、パネル部品の薄肉化は部品剛性の低下を招き、人が触れたときにパネルが容易に変形したり,パネルがベコベコと音を立てるなどの現象が発生したりし易くなる。これにより、自動車の品質感が大きく損なわれることから、自動車メーカーにとって張り剛性の確保と部品軽量化の両立が大きな課題となっている。
【0003】
外板部品の張り剛性を事前にCAE(Computer Aided Engineering)で予測し、部品設計に反映する手法は、各自動車メーカーで検討されており、次期車において薄肉化が可能か否か、判断するツールとして活用されている。しかし、ある基準値に対する合否判定という定量的な判断が要求される場合、その計算精度についてはまだ十分とは言えない場合が多い。そのため、実車での検証段階になってから、張り剛性不足が明らかになり、急遽樹脂製の補強材を追加したり、材料変更、部品追加等の対策を余儀なくされたりする場合がある。そのようなトライアンドエラーの低減に対し、張り剛性のCAE予測精度の向上は必要であり、以下に示すような検討がされてきた。
【0004】
特許文献1においては、パネルのある点における最大曲率と最小曲率の和が一定となるような曲面の構造設計方法について記載されているが、インナー等の補強部品を組んだ場合、張り剛性の挙動が変わることが考えられる。また、CAEによる解析手法ではないため、任意の場所における荷重変位曲線を算出することは出来ないため、張り剛性の基準値に対する合否判定は不可能である。
【0005】
また、特許文献2には、アルミ合金製ルーフパネルにおいて、張り剛性と素材の板厚、ヤング率、曲率半径の関係を導き出したものであり、単純な2方向曲率をもつ部品たとえばルーフやフードにのみ適用が可能と考えられる。ドア、フェンダー、バックドアなどの複雑な曲面を持つ部品に対してはこの方法の適用は困難である。また、この方法も、インナー等の補強部品を組んだ場合、張り剛性の挙動が変わることが考えられる。そのため、実車段階における性能を予測するものではない。
【0006】
特許文献3には、荷重負荷時のたわみ面積、測定点の板厚、曲率より、張り剛性を予測する内容であり、インナー等の補強部品との接合点(マスチック)の影響も考慮されている。ただし、点で荷重を与えるため、手押し官能評価と比較すると、点で押す場合と面押しではたわみ拡大挙動が異なることから、実態と合わない場合も考えられる。また、インナー等の補強部品自体の剛性が考慮されていないので、実測値と乖離することが考えられ、やはり、張り剛性の基準値に対する合否判定に関しての精度は不十分であると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3229399号公報
【特許文献2】特開2004−17682号公報
【特許文献3】特開2007−33067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、点に荷重負荷を与える解析方法は、手押しによる官能評価とは方法が異なり、張り剛性への影響因子であるたわみの拡がり方が異なることは明確である。そのため、荷重変位曲線の形状も変わり、合否判定の精度に影響を与える場合がある。また、実際の部品では飛び移り座屈現象は起こらないことが絶対条件であるが、点負荷荷重ではこの飛び移り現象を捉えにくく、実車段階での手押し官能評価により初めて起きる場合も考えられた。
【0009】
手押し官能評価のCAEでの再現の観点では、ある領域、例えば手のひらが接触する領域の節点群に等分布荷重をかける解析は可能であるが、荷重方向が計算初期に設定した方向で進むため、パネルのたわみ拡大につれて荷重負荷方向とパネル面の垂直関係が成立しなくなることが考えられ、実態と合わない。また、荷重増分計算となるため、荷重が落ち込む現象を再現できないことから、飛び移り現象を予測しきれない問題も有する。
【0010】
また、圧子をソリッド要素でモデル化する場合は、荷重負荷の増大により圧子が壊滅し計算が進まなくなる場合、および、接触問題から計算が進まなくなること、計算時間が増加しやすい問題があった。
そこで、本発明は、上記従来例の課題に着目してなされたものであり、パネル部品の張り剛性解析に最適な張り剛性評価圧子モデルを提供するとともに、張り剛性を高精度に解析することができる張り剛性解析装置及び解析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の一の形態に係る有限要素法用張り剛性評価圧子モデルは、パネル部品の張り剛性を有限要素法で解析する際に、前記パネル部品の荷重負荷部に接触させる圧子モデルであって、剛体板と、該剛体板のパネル部品の荷重負荷部に対向する面に、植立した複数のビーム要素とでモデル化したことを特徴としている。
また、本発明の一の形態に係るパネル部品張り剛性解析装置は、パネル部品の形状データを作成するパネル形状データ作成部と、該パネル形状データ作成部で作成したパネル形状データをメッシュ分割して有限要素法解析を実行するパネル形状モデルを作成する形状モデル作成部と、前記パネル形状データ作成部で作成したパネル形状データに対して、剛体板と該剛体板のパネル部品の荷重負荷部に対向する面に、植立した複数のビーム要素とで構成される張り剛性評価圧子モデルを、当該荷重負荷部に対して前記ビーム要素が面垂直方向となるように作成する圧子モデル作成部と、該圧子モデル作成部で作成した張り剛性評価圧子モデルの剛体板に前記荷重負荷部に対して面垂直方向に変位を与えて張り剛性解析を行う張り剛性解析部とを備えていることを特徴としている。
【0012】
また、本発明の一の形態に係るパネル部品張り剛性解析方法は、パネル部品の形状データをパネル形状データ作成部で形成するパネル形状データ作成ステップと、該パネル形状データ作成ステップで作成したパネル形状データを形状モデル作成部で、メッシュ分割して有限要素法解析を実行する形状モデルを作成する形状モデル作成ステップと、前記パネル形状データ作成ステップで作成したパネル形状データに対して、圧子モデル作成部で、剛体板と該剛体板のパネル部品の荷重負荷部に対向する面に、植立した複数のビーム要素とで構成される張り剛性評価圧子モデルを、当該荷重負荷部に対して前記ビーム要素が面垂直方向となるように作成する圧子モデル作成ステップと、該圧子モデル作成ステップで作成した張り剛性評価圧子モデルの剛体板に、張り剛性解析部で、前記荷重負荷部に対して面垂直方向に変位を与えて張り剛性解析を行う張り剛性解析ステップとを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の張り剛性評価圧子モデル、これを使用したパネル部品張り剛性解析装置及び張り剛性解析方法によれば、手押しによる官能評価を再現でき、荷重が落ち込む飛び移り現象を再現し、さらに計算の安定性も高いCAE張り剛性予測が可能である。
この結果、実際にパネル部品を作製することなく、CAE上で張り剛性評価が可能になるため、部品試作後のトライアンドエラーにかかる工数の大幅な低減が可能となるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のシステム構成図である。
【図2】パネル形状モデルの荷重負荷部における有限要素法用張り剛性評価圧子モデルを含む外観を示す鳥瞰図である。
【図3】有限要素法用張り剛性評価圧子モデルの断面模式図である。
【図4】図1の張り剛性解析装置で実行する張り剛性解析処理手順を示すフローチャートである。
【図5】パネル部品の張り剛性評価部位を示す正面図である。
【図6】パネル部品の使用材料の真応力−真塑性歪み線図である。
【図7】張り剛性解析結果の荷重・変位曲線を示す特性線図である。
【図8】従来の張り剛性試験装置を示す斜視図である。
【図9】図8の張り剛性試験装置に適用する圧子を示す図であって、(a)は鋼製圧子、(b)は軟質ゴム製圧子である。
【図10】鋼製圧子と手押しとの荷重・変位曲線を示す特性線図である。
【図11】軟質ゴム圧子と手押しとの荷重・変位曲線を示す特性線図である。
【図12】パネル形状モデルの荷重負荷部における従来の軟質ゴム圧子モデルを含む外観を示す鳥瞰図である。
【図13】従来の軟質ゴム圧子モデルを示す断面模式図である。
【図14】本発明の有限要素法用張り剛性評価圧子モデルと従来の軟質ゴム圧子モデルとを使用した場合の荷重に対するパネルの変形(撓み)分布を示す図である。
【図15】本発明の有限要素法用張り剛性評価圧子モデルと従来の軟質ゴム圧子モデルとを使用した場合の荷重・変位曲線を示す特性線図である。
【図16】プレス成形したパネル部品の張り剛性を実測する場合の解析ステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明のシステム構成図であって、パネル形状データ作成部としてのCAD装置1と有限要素法解析装置2とでCAEを構成している。
CAD装置1は、本発明の対象とする自動車のドアやフードなどの有限要素法で張り剛性を解析する対象となる薄肉パネル部品の例えば面データと呼ばれるデジタルデータの形状データを作成し、作成した薄肉パネル部品のパネル形状データを有限要素法解析装置2に供給する。
【0016】
この有限要素法解析装置2は、例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置を含んで構成されている。また、有限要素法解析装置2は、CAD装置1で形成した薄肉パネル部品のパネル形状データをパネル形状モデルとして格納するパネル形状データ格納部3と、このパネル形状データ格納部3に格納されたパネル形状データをメッシュ分割して有限要素法解析を実行するパネル形状モデル4を作成するパネル形状モデル作成部5と、このパネル形状モデル作成部5で作成したパネル形状モデルに対する張り剛性評価圧子モデル6を作成し、パネル形状モデル4への荷重負荷計算を行う圧子モデル作成部7と、この圧子モデル作成部7で作成した張り剛性評価圧子モデル6にパネル形状モデルの荷重負荷部に対して面垂直方向に変位を与えて張り剛性解析を行う張り剛性解析部8と、この張り剛性解析部8での解析結果を表示する表示部9と、データを入力するデータ入力部10とを備えている。
【0017】
ここで、パネル形状モデル作成部5で作成するメッシュサイズは特に限定されないが、計算時間の適正化およびデータの精度の観点から、5〜10mmが好適である。
一方、有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6の評価を行うために、以下の試験を行った。
先ず、従来例の実際のパネル部品を使用して圧子形状を評価する。すなわち、図8に示すように、板厚0.7mmの引張強さTS340MPa級のBH鋼板(焼付け硬化型鋼板)を353mm角のカマボコ形状(曲率半径R1200mm)の金型でプレス成形したモデルパネル21を測定対象とし、このモデルパネル21の凸面側中央部を、手のひらで押す場合と、圧子で押す場合との双方について、押し込んだ際の荷重をロードセル22で検出し、モデルパネル21の変位量を変位計23で検出し、検出結果を記録装置24で記録した。ここで、使用圧子としては、図9(a)に示すように、円柱部25の先端に取り付けた50Rの円板状の鋼製圧子26と、図9(b)に示すように、円柱部27の先端に円板部28を形成し、この円板部28の下面に手押し面積と同一の接触面積を持つ軟質ゴム製圧子29(45mmφ×16mmh)とを使用した。
【0018】
鋼製圧子26の場合には、モデルパネル21に対して点接触となり、通常の有限要素法張り剛性解析の場合と同等となるが、変位・荷重曲線は図10に示すように、実線図示の手押し(官能評価)による特性曲線L0に対して破線図示の特性曲線L1で示すように変位が小さい領域で大きな乖離が生じている。これは、手押しによる荷重負荷が面当たりで行われているためであり、荷重負荷面積を実態に合わせた解析が必要になることを示している。
【0019】
これに対して、軟質ゴム製圧子29では、変位・荷重曲線が図11に示すように、実線図示の手押し(官能評価)による特性曲線L0に対して点線図示の特性曲線L2で示すように略等しくなり、手押しの結果を再現している。
上記結果から、実際の張り剛性評価を示す手押し評価を精度良く再現する有限要素法用張り剛性評価圧子モデルとして軟質ゴム製圧子29を適用することが好ましいことがわかる。
【0020】
ところで、軟質ゴム製圧子29を有限要素法用張り剛性評価圧子モデル化する際、従来は図12及び図13に示すように、単純にソリッド要素により分割する方法が使用される。ソリッド要素には、実測で使用される圧子材質を再現する弾性係数を与える。この際の弾性挙動は線形、非線形を問わない。
ドアパネルモデルにおける有限要素法張り剛性解析処理で、圧子最上面の節点全てにモデルパネルの面に対し垂直方向の変位を与えることで、変位の増加とともにパネルのたわみが拡大し、そのときの反力(荷重)を算出する。
【0021】
材料データとしては、板厚0.75mmの降伏強度YP244MPa、引張り強さTS340MPa、EI42%のBH(焼付け硬化型)鋼板を2%引張後、170℃×20分熱処理し、引張試験を行って測定した図6に示す真応力−真塑性ひずみ線図を使用した。
ここで、2%ひずみ付与は、プレス成形により導入されるひずみを、熱処理は塗装焼付け時の熱処理をそれぞれ想定しており、最終的な部品の特性を模擬するために行った。このときのパネルのたわみ分布は図14に示すようになり、荷重と荷重変位曲線の関係は、図15で●印の特性線で示す結果が得られた。
【0022】
ただし、ゴムの材質が軟質(弾性係数が小)になるほどすなわち手のひらの弾性係数に近づけるほどソリッド要素の変形が顕著になり、図14に示すように、荷重60Nを超えたときに、圧子が破壊するなどの現象が発生し、図15でも●印の特性線で示すように、計算が途中で停止してしまい収束しない場合があった。
このように、計算停止することなく、パネル部品の張り剛性を有限要素法解析により求める圧子モデルとしては、ソリッド要素よりも剛体板とビーム要素とを用いることが良いことがわかる。
【0023】
また、圧子モデル作成部7で作成される有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6は、図2及び図3に示すように、パネル形状モデル4の荷重負荷部に対して平行に対向する例えば円形の剛体板11と、この剛体板11のパネル部品の荷重負荷部に対向する面から荷重負荷部に対して面垂直方向に延長する複数のビーム要素12とで構成されている。各ビーム要素12の長さについては制限されず、任意の長さに設定することができる。また、ビーム要素12とパネル部品との結合は、パネル部品のメッシュの節点、メッシュ要素の何れと結合してもよいが、モデル構築の時間などの効率を考慮するとメッシュの節点及びメッシュ要素の何れかに統一することが望ましい。
【0024】
また、張り剛性解析部8では、先ず、パネル形状モデル4及び有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6に対して材料データを決定する。ここで、パネル形状モデル4の材料データとしては板厚、応力歪み線図、降伏強度が挙げられ、これらの材料データをデータ入力部10から入力する。また、有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6についてはビーム要素の材料としてヤング率を設定する。剛体板については、変形しないものとして、設定されている。さらに、張り剛性解析部8ではパネル形状モデル4及び圧子モデル6の材料データの決定が完了すると、有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6の剛体板11に、パネル形状モデル4の荷重負荷部に対して面垂直方向へ変位を与えて反力(荷重)を算出する有限要素法の張り剛性解析を行い、反力(荷重)と変位を算出する。ここで、有限要素法の張り剛性解析は、基本的には静的陰解法で解くが、飛び移り現象が激しい場合には動的陽解法を適用して解くことができる。
【0025】
この有限要素法解析装置2では、図4に示す解析処理を実行する。
先ず、ステップS1で、CAD装置1からパネル形状データを読込んでハードディスク、フラッシュメモリ等のパネル形状データ格納部に記憶し、記憶されたパネル形状データをメッシュ分割して有限要素法解析を実行するパネル形状モデル4を作成する。
次いで、ステップS2に移行して、剛体板11と複数のビーム要素12とで構成されるメッシュ化された有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6を作成する。
【0026】
次いで、ステップS3に移行して、作成したパネル形状モデル4及び有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6の材料データを設定する。
次いで、ステップS4に移行して、有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6の剛体板11の中心部にパネル形状モデル4の荷重負荷部に対して面垂直方向に変位を与え、この変位を増加させながら反力(荷重)を算出することを繰り返して、反力(荷重)と変位とを演算し、張り剛性解析処理を終了する。計算データは演算結果として表示部9に表示することができる。
【実施例】
【0027】
実車のフロントドア組み付け部品(アウター、インナー、補強部材を組み付けたドアパネル)において、張り剛性測定を行った。
CAD装置1で、図5((1)位置)に示すようなパネル部品のパネル形状データを作成する。
次いで、有限要素法解析装置2で図4に示す張り剛性解析処理を実行することにより、CAD装置1からパネル形状データを読込んでパネル形状データ格納部3に記憶し、記憶したパネル形状データをメッシュ分割して有限要素法解析を実行する図2に示すパネル形状モデル4を作成する(ステップS1)。
【0028】
次いで、同様にメッシュ分割された図3に示す剛体板11及びビーム要素12で構成される有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6を作成し、そのビーム要素12をパネル部品のメッシュの節点、メッシュ要素の何れかに結合する(ステップS2)。
次いで、パネル形状モデル4に対して材料データを決定する。この材料データとしては、板厚0.75mmの降伏強度YP244MPa,引張強さTS340MPa,EI42%のBH鋼板(焼付け硬化型鋼板)をひずみ量2%引張り後、170℃×20分熱処理し、再度引張試験を行って測定した図6に示す真応力−真塑性歪み線図を使用した。ここで、2%ひずみ付与はプレス成形により導入されるひずみを、熱処理は塗装焼付け時の熱処理をそれぞれ想定しており、最終的な部品の特性を模擬するために行った。
また、有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6についてもビーム要素12のヤング率:206MPaを設定する(ステップS3)。
【0029】
次いで、図5に示す(1)の位置において、張り剛性解析処理を実施する。
そして、張り剛性解析処理を実行して、有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6の剛体板11の中心部にパネル形状モデル4の荷重負荷部に対して面垂直方向に変位を与え、反力(荷重)を算出することを繰り返して、反力(荷重)と変位とを算出する(ステップS4)。このときの荷重・変位特性線は、図7で図示(○印)のように、実線図示の実測値によく一致した特性を得ることができ、変位も目標とする4.0mmまで計算することができた。このときの解析計算時間は61分40秒であった。
これに対して、ソリッドモデルを用いて解析した場合には、図7に示すように、変位量2.5mm付近で計算が停止し、また実測値を精度良く再現することはできないことがわかった。
【0030】
なお、CADデータはDassault Systemes(ダッソー システムズ)製CATIA Ver5を使用して作成した。さらにAltair Engineering(アルテア エンジニアリング)製HyperMesh Ver9を使用し、メッシュを作成し、パネル形状のメッシュサイズは10mmとした。解析はLSTC(エルエスティーシー、Livermore Software Technology Corporationの略)製LS−DYNA ver9.71を使用し、ドアが閉まる際のロック部を完全拘束して実施した。
次に、自動車のドア部品1体あたり(測定点数12点)の張り剛性測定所要日数(day)を比較した結果を、表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1中、従来(実測)の場合には、図16に示すように、先ず、ステップS11でプレス成形用金型を作製し、次いでステップS12でプレス成形を行って実際にパネル部品を形成し、次いでステップS13で、形成したパネル部品を組付け(ヘム加工・溶接等)てからステップS14で圧子によって荷重・変位曲線を測定するか又は手押しによる官能評価判定を行うことになる。
【0033】
従来(CAE)ソリッドは、軟質ゴム製圧子によるソリッドモデルを使用した有限要素法張り剛性解析を行った場合を示し、本発明(CAE)ビームは、剛体板11及びビーム要素12で圧子モデル6を構成して有限要素法張り剛性解析を行った場合を示す。
この表1で、工程1は図4のステップS1、図16のステップS11が対応し、工程2は図4のステップS2、図16のステップS12が対応し、工程3は図4のステップS3、図16のステップS13が対応し、工程4は図4のステップS4及び図16のステップS14が対応している。
【0034】
この表1から明らかなように、実測では、全構成部品のプレス成形用に金型を作製する必要があり、多大な工数を要する。その一方で、CAEではCADデータ、有限要素法用モデルの作成のみで良いため、準備に掛かる工数は少ない。ただし、ソリッド要素モデルでは計算がうまく行かないケースがあり、解析条件の調整等で時間を要する。これらの工数の差は、繰り返しの検討を行う(部品形状を変更し、再度張り剛性評価)際にさらに顕著となる。
【0035】
以上より、本発明による方式が、計算の精度、効率の面で最も優れていることが分かる。そのため、性能検証を効率よく進めることが可能である。
また、実測を行う従来例では、検討対象となる部品形状が決定した後、外板部品を構成する部品全て(アウター、インナー、補強材等)の金型を作製し、プレス成形の後、組み付けを行う。それにより対象の組み付け部品を作製し、圧子や手押しによる評価を行うことになる。この方法では、金型作製や部品組み付けのために、多大なコストや時間を費やすこと、および、不具合が有った場合に部品形状の変更などの対策をとることが困難となってしまう。
【0036】
しかしながら、本発明の実施形態によると、有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6を剛体板11とビーム要素12とで構成し、この有限要素法用張り剛性評価圧子モデル6を使用して有限要素法張り剛性解析を行うことにより、実際に物を造ることなく、CAEでの性能予測を高精度に実施することが可能となる。本発明を用いることにより、自動車の設計段階で性能を予測することが可能となるため、張り剛性が不足するケースがあっても、有限要素法解析装置2上で対策を立て、その効果の検証が可能となる。実車を試作する前のトライアンドエラーをバーチャルに行えるため、工期短縮およびコストダウンの効果が見込まれる。
【符号の説明】
【0037】
1…CAD装置、2…有限要素法解析装置、3…パネル形状データ格納部、4…パネル形状モデル、5…パネル形状モデル作成部、6…有限要素法用張り剛性評価圧子モデル、7…圧子モデル作成部、8…張り剛性解析部、9…表示部、10…データ入力部、11…剛体板、12…ビーム要素、21…モデルパネル、22…ロードセル、23…変位計、24…記録装置、25…円柱部、26…鋼製圧子、27…円柱部、28…円板部、29…軟質ゴム製圧子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル部品の張り剛性を有限要素法で解析する際に、前記パネル部品の荷重負荷部に接触させる圧子モデルであって、
剛体板と、該剛体板のパネル部品の荷重負荷部に対向する面に、植立した複数のビーム要素とでモデル化したことを特徴とする有限要素法用張り剛性評価圧子モデル。
【請求項2】
パネル部品の形状データを作成するパネル形状データ作成部と、
該パネル形状データ作成部で作成したパネル形状データをメッシュ分割して有限要素法解析を実行するパネル形状モデルを作成するパネル形状モデル作成部と、
前記パネル形状データ作成部で作成したパネル形状データに対して、剛体板と該剛体板のパネル部品の荷重負荷部に対向する面に、植立した複数のビーム要素とで構成される張り剛性評価圧子モデルを、当該荷重負荷部に対して前記ビーム要素が面垂直方向となるように作成する圧子モデル作成部と、
該圧子モデル作成部で作成した張り剛性評価圧子モデルの剛体板に前記荷重負荷部に対して面垂直方向に変位を与えて張り剛性解析を行う張り剛性解析部と
を備えていることを特徴とするパネル部品張り剛性解析装置。
【請求項3】
パネル部品の形状データをパネル形状データ作成部で形成するパネル形状データ作成ステップと、
該パネル形状データ作成ステップで作成したパネル形状データをパネル形状モデル作成部で、メッシュ分割して有限要素法解析を実行するパネル形状モデルを作成するパネル形状モデル作成ステップと、
前記パネル形状データ作成ステップで作成したパネル形状データに対して、圧子モデル作成部で、剛体板と該剛体板のパネル部品の荷重負荷部に対向する面に、植立した複数のビーム要素とで構成される張り剛性評価圧子モデルを当該荷重負荷部に対して前記ビーム要素が面垂直方向となるように作成する圧子モデル作成ステップと、
該圧子モデル作成ステップで作成した張り剛性評価圧子モデルの剛体板に、張り剛性解析部で、前記荷重負荷部に対して面垂直方向に変位を与えて張り剛性解析を行う張り剛性解析ステップと
を備えていることを特徴とするパネル部品張り剛性解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図5】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−122948(P2012−122948A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275786(P2010−275786)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】