説明

張り合わせ法に基づくマルチ神経電極アレイ

【課題】従来の技術では、超小型の測定探針を構成出来ないため複数・立体的構造の測定探針を作れず、微細かつ自然な環境下における観察を阻害するという問題があった。
【解決手段】 本発明によれば、微細加工技術と3次元集積化技術による脳波測定用の測定探針を構成した張り合わせ法に基づくマルチ神経電極アレイを提供できる。具体的には、生体内探針のための神経電極において誤神経電極をシリコンで構成し、その表面に各種センサーを貼り合わせ構成した事を特徴とするマルチ神経アレイが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳神経科学の新たな領域を開拓するための脳測定用のセンサに関し、具体的には、マルチチップボンディグ技術を用いて各種センサを多元的/立体的に用いた高機能集積化神経インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい脳機能解明のための測定手法が発明され、脳・神経科学の発展に大きく寄与している。しかしながらより微細かつ詳細な現象解明のための手法として、測定探針を脳内に挿して深部脳波を観察する従来からの手法が用いられている。この測定探針はタングステンなどの棒を研究者自らが手作業で先端を機械、電解研磨して作製しており、実験の効率、再現性を損なう大きな原因となっている。またより詳細な現象を観察するためにひとつの測定探針に所望の位置に複数の測定部を有する測定探針の製作が強く望まれている。
【0003】
このため、超小型の測定探針を構成するため、測定探針と同一シリコン基板上に回路を形成して処理、無線で送信するシステムの提案などがある。(例えば、特許文献1参照)しかしながら同一のシリコン基板では異なるプロセスで作製するセンサなどを容易に搭載できないという問題がある。さらに従来技術では測定の際に、電極を固定するために猿などの実験動物を拘束具によって束縛し苦痛を与えている。このため、自然な環境下における観察をすることが困難であるなどの問題がある。
【特許文献1】特許平11−243217
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来の技術では、超小型の測定探針を構成出来ないため複数・立体的構造の測定探針を作れず、微細かつ自然な環境下における観察を阻害するという問題があった。
【0005】
本発明は、微細加工技術と3次元集積化技術による脳波測定用の測定探針を構成した張り合わせ法に基づくマルチ神経電極アレイを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、生体内探針のための神経電極において誤神経電極をシリコンで構成し、その表面に各種センサーを貼り合わせし、その表面を生体適合性樹脂で被覆した構造を特徴とするマルチ神経アレイが得られる。
【0007】
本発明によれば、マルチ神経電極アレイ上に配された前記センサー信号を処理する信号処理回路と、信号処理回路に接続された生体適合性フレキシブルケーブルとその上に配されシステムの動作を制御する主制御回路とで更にシステム化したマルチ神経アレイが得られる。
【0008】
また、本発明によれば、前記フレキシブルケーブルの他端をリング状とし電磁波送受信機能を持つコイル状とした事を特徴とするマルチ神経電極アレイが得られる。
【0009】
また、本発明によれば、前記マルチ神経アレイは、マルチ神経アレイを頭蓋骨の硬膜を貫通するための強度を有するステンレススチールパイプ内に挿入した構造を特徴とするマルチ神経電極アレイが得られる。
【0010】
また、本発明によれば、前記信号処理回路は、信号を増幅するための増幅器、加減算するためのマルチプレクター、デジタルアナログコンバータから成ることを特徴とするマルチ神経電極アレイが得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、超微細加工技術と半導体技術による多点記録シリコン微小電極と、生体適合性フレキシブルケーブルとを用い、双方をマルチチップボンディングで一体構造に構成したので実用に適する超微細の測定探針を得られるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施の形態による張り合わせ法に基づくマルチ神経電極アレイの概略構成を示す図である。図1を参照すると、マルチ神経電極1が立体的に構成されており、その基部に信号処理回路2が処理される。信号処理回路2には生体適合性フレキシブルケーブル3か接続されている。マルチ神経電極1内には複数のセンサーが配され、各センサー出力が信号処理回路2で信号処理される。信号処理回路2内には、例えば、前記信号を増幅する為の増幅器、加減算するためのマルチプレクターおよびDAコンバータ(デジタルアナログコンバータ)などが組み込まれる。信号処理回路2の出力は生体適合性フレキシブルケーブル3に送られるが、この生体適合性フレキシブルケーブル内3には主制御回路4が配置され、さらに前記マルチ神経電極1や前記信号処理回路2への電力供給、動作コントロールを行っている。また生体適合性フレキシブルケーブル3の他端はコイル状に巻かれ、二次コイル5を形成している。制御回路4はこの二次コイル5への信号供給機能をもあわせ持ち、信号処理回路2の信号出力を二次コイル5からの発信信号へと変換する動作を行う。二次コイル5より発せられた電磁波は体外に配された一次コイル(非開示)により検知され、測定データとして計測される。測定データとして計測、処理されるシステムは本発明の本質ではないので特に開示、説明は行わない。次に、図2には信号処理回路2とマルチ神経電極1を構成するシリコン基盤との結合において主要となるボンディングの様子を示す。マルチ神経電極1はシリコンで形成され、その中にセンサーを内蔵するが(詳細は後述)、そのシリコン基板上にセンサー信号を処理するLSIを配したボンディングの様子を示す。上段は実際の接合面の断面図であり、下段はその抵抗測定グラフである。
【0013】
ボンディングの断面写真から厚さ20umのLSIチップが、バンプによってシリコン基盤上に密着されている事が判る。この際重要となるものが接触抵抗であるが、下段によると抵抗一電流特性は良好で、その抵抗値は約3オームである。この値は微細な信号であるセンサー信号の処理を取り扱う上記LSIチップにとって障害となる値ではない。シリコン基盤上には酸化シリコン層が形成されているが、バンプ部においてその絶緑が破壊される。
次に図3にマルチ神経電極1を構成するマイクロ電極の構造を示す。前述したように全体はシリコンで作られ、マイクロマシンの超微細加工技術で図3の形に加工される。更にその表面に各種センサーが記録部6として貼り付けられ電気的な配線がパターニングされる。マイクロ電極の概略寸法は全体長4cm、縦・横各200umで、先端部1mmが針状となっている。マイクロ電極の具体的な写真を図4に示す。センサー部と先端部以外はステンレススチールパイプ7で保護される構造となっている。図8はセンサーが8チャンネルのものを示す。
実際の測定装置では前記マイクロ電極が多数立体位置されて、図1のマルチ神経電極アレイ概念図に示すようなマルチ神経電極1を構成する。実際の写真を図5に示す。図5ではマイクロ電極が5×5の配置で立体的に構成されている。この結果、センサーとしては200チャンネルの出力を得る事が可能となる。
図6はこのマルチ神経電極アレイを生体に実装する時のマイクロ電極試験系の図である。硬膜を貫通する穴のためのステンレス製パイプ7、位置コントロールのためのマニピュレータ8、アンプへ接続するためのステンレス鋼リード線9および増幅器へのコネクタ10からなる。生体内に実装する場合において、意図された深度までに硬膜物質を透過するのに十分な強度が必要で、ステンレススチールパイプ7の保護でその機能が達成されている。図7は神経信号測定データの図であり、具体的には本発明によるマルチ神経電極アレイを用いて測定した日本猿の運動野からの脳膜である。ノイズの振幅はほぼ10マイクロVであり、プリモート領域において2秒間隔で信号の強度が大きく変化しているが、これは神経の集積的活動を示している。
【0014】
今回の測定では神経信号を受ける部分の入力インピーダンス40Kオームのものを用いたが、入力インピーダンスが1Mオームないし2Mオームのものも可能である。この場合、激しい神経スパイクの観測が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明に係る張り合わせ法に基づくマルチ神経電極アレイは、従来得ることができなかった脳皮質の深さ方向も含めた3次元的、立体的な脳波分布を得ることができるようになる。さらに、他の応用として血流量センサーなども搭載することによって新しい角度からの脳機能解明のためのデータを得ることができるようになり、脳神経治療の分野を広げることが出来る。また実験に際しては実験動物から拘束具をはずすことが可能となり、従来はできなかった自由な環境における実験動物の脳機能解明ができるようになる。
【0016】
さらに本発明による張り合わせ法に基づくマルチ神経電極アレイをインプラントに用いることにより、パーキンソン病や癲癇などの脳疾病や半身不随の患者の治療のためにも用いることができる。癲癇などの発作を神経インプラントが検知すると直ちに刺激信号を発して発作を抑える。さらに半身不随の患者のためには神経インプラントで患者の思考を解釈して義手や義足さらにはコンピュータなどの操作を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態によるマルチ神経電極アレイ概念図である。
【図2】生体適合性樹脂を用いたLSIの測定探針へのボンディングの様子
【図3】マイクロ電極構造
【図4】マイクロ電極写真
【図5】本発明を用いた多元的/立体的マルチ神経電極アレイ
【図6】マイクロ電極試験系
【図7】本発明によるマルチ神経電極アレイを用いて測定した日本猿の運動野からの脳波
【符号の説明】
【0018】
1 マルチ神経電極
2 信号処理回路
3 生体適合フレキシブルケーブル
4 主制御回路
5 二次コイル
6 記録部
7 ステンレススチールパイプ
8 マニピュレータ
9 ステンレス鋼リード線
10 コネクタ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内探針のための神経電極において、該神経電極をシリコンで構成し、その表面に各種センサーを貼り合わせし、その表面を生体適合性樹脂で被覆した構造を特徴とするマルチ神経アレイ。
【請求項2】
前記請求項1記載のマルチ神経電極アレイにおいて、該マルチ神経電極アレイ上に配された前記センサーの信号を処理する信号処理回路と、該信号処理回路に接続された生体適合性フレキシブルケーブルと該フレキシブルケーブル上に配されシステムの動作を制御する主制御回路とで構成した事を特徴とするマルチ神経アレイ。
【請求項3】
前記フレキシブルケーブルの他端をリング状とし電磁波送受信機能を持つコイル状とした事を特徴とする請求項2記載のマルチ神経電極アレイ。
【請求項4】
前記マルチ神経アレイは、マルチ神経アレイを頭蓋骨の硬膜を貫通するための強度を有するステンレススチールパイプ内に挿入した構造を特徴とする請求項1乃至3記載のマルチ神経電極アレイ。
【請求項5】
前記信号処理回路は、信号を増幅するための増幅器、加減算するためのマルチプレクター、デジタルアナログコンバータから成ることを特徴とする請求項2記載のマルチ神経電極アレイ。







【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−68403(P2006−68403A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257789(P2004−257789)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月1日 社団法人応用物理学会発行の「2004年(平成16年)秋季 第65回 応用物理学会学術講演会講演予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】