説明

張力付加装置および張力付加方法

【課題】 製造コストを低下することのできる張力付加装置および張力付加方法を提供する。
【解決手段】 本発明の張力付加装置1は、中空状の押出製品17に張力を付加する張力付加装置であって、押出製品17の内側から外側に向かって荷重を付加することにより押出製品17を保持するためのチャック3を備えている。また、本発明の張力付加装置1は、チャック3と係合し、かつ押出製品17の押出方向に対して平行にスライド可能な操作軸2をさらに備えている。操作軸2のスライドにより、チャック3は押出製品17に荷重を付加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は張力付加装置および張力付加方法に関し、より特定的には、筒状の被押出材に張力を付加する張力付加装置および張力付加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な金属加工法の一つである押出加工法とは、コンテナの収容孔内に収容した金属ビレットをラムにて押圧することにより、ダイスの押出口を通じて押し出して、所望の断面形状を呈する押出製品を得る加工法である。押出製品の寸法精度を向上し、安定的に押出加工を行なうために、従来の押出加工法においては、張力付加装置を用いて押出口から出てきた押出製品をチャックし、外部の方向へ押出製品に張力を付加しながら押し出す方法が採られている。このような押出加工法は、たとえば特開平4−138817号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
図6(a),(b)は、従来の押出加工法を工程順に示す断面図である。図6(a),(b)を参照して、押出装置120は、コンテナ111と、ラム109と、ダイス113とを備えている。コンテナ111は、収容孔112を有しており、収容孔112内に金属ビレット117が収容されている。コンテナ111の後方(図6(a)中右側)には、コンテナ111と接した状態でラム109が配置されている。ラム109は、金属ビレット117を前方(図6(a)中左側)に押し出すように押圧するためのものである。コンテナ111の前方には、ダイス113およびダイステム107が配置されている。ダイス113は、金属ビレット117を押し出すための押出口114を有している。押出口114は、押出製品127の断面形状に形成されている。なお、中央に穴のある製品を製造する場合には、押出口114にマンドレルが挿入された状態で押出成形が行なわれる。
【0004】
従来の押出装置120においては、たとえばAl(アルミニウム)などの金属ビレット117が加熱され、コンテナ111の収容孔112内に収容される。そして、収容孔112内に収容された金属ビレット117が、その後方から油圧シリンダ(図示なし)などによって駆動されるラム109の前進作動によって押圧される。これによって、ダイス113の押出口114を通じて、押出口114およびマンドレルの形状に対応した断面形状を有する押出製品127が、ラム109の前進方向、言い換えればラム109の金属ビレット117に対する押圧方向と同一の方向に向かって、連続的に押し出される。
【0005】
押出製品127は、ダイス113を出た直後にダイステム107内において保持され、その状態で張力付加装置101により一定張力で外部の方向(図5中左方向)に引っ張られる。押出製品127の保持は、チャック装置102によって押出製品127を挟むことで行われる。このように、ダイス113を出た直後に押出製品127を保持することで、押出製品127の先端部分に生じる寸法不良部分の長さをなるべく小さくしている。
【特許文献1】特開平4−138817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような従来の張力付加装置101では、押出製品127が中空状の場合、押出製品127を外径側から挟むことにより保持することが考えられる。しかしながら、コンテナ111の内側に入り込むダイステム107の強度を確保するためにダイステム107の肉厚を大きくとろうとすると、押出製品127が中空状の場合、押出製品127とダイステム107との間に隙間がない状態で押出製品127は押し出される。押出製品127とダイステム107との間に隙間がないと、押出製品127に対してその外径側から荷重を付加することはできないため、押出製品127がダイステム107を出てから保持せざるを得なかった。これにより、押出製品127がダイステム107内を通過する間にその寸法精度が悪化し、押出製品127の先端部分に生じる寸法不良部分の長さが、ダイステム107の長さ分だけ長くなっていた。その結果、廃棄する寸法不良部分の割合が増大し、製造コストが増大するという問題が生じていた。
【0007】
したがって、本発明の目的は、製造コストを低下することのできる張力付加装置および張力付加方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の張力付加装置は、中空状の被押出材に張力を付加する張力付加装置であって、被押出材の内側から外側に向かって荷重を付加することにより被押出材を保持するための保持部材を備えている。
【0009】
本発明の張力付加方法は、中空状の被押出材に張力を付加する張力付加方法であって、被押出材の内側から外側に向かって荷重を付加することにより被押出材を保持した状態で、被押出材に張力を付加する。
【0010】
本発明の張力付加装置および張力付加方法によれば、筒状の被押出材を保持する際、被押出材に対してその内側から荷重を付加することのみで被押出材を保持することができる。これにより、ダイステム内において筒状の被押出材を保持することができるので、被押出材に生じる寸法不良部分の長さを短くできる。その結果、廃棄する寸法不良部分が減少し、製造コストを低下することができる。
【0011】
本発明の張力付加装置において好ましくは、保持部材と係合し、かつ被押出材の押出方向に、保持部材に対して相対的にスライド可能な軸をさらに備えている。軸の相対的なスライドにより、保持部材は被押出し材に荷重を付加する。
【0012】
これにより、軸をスライドさせることで被押出材に対する保持部材の荷重の付加を制御することができる。
【0013】
本発明の張力付加装置において好ましくは、保持部材と接触し、保持部材を固定するための固定部材をさらに備えている。被押出材を感知した際に固定部材が保持部材から外れ、それにより保持部材の固定を解除する。
【0014】
これにより、被押出材がない場合に保持部材が誤動作をすることを防止できる。また、被押出材がある場合には、被押出材を感知して固定部材が外れるので、保持部材は被押出材を保持することができる。
【0015】
本発明の張力付加装置において好ましくは、保持部材を取り囲み、ダイステムの内壁面に接触するための外周部材をさらに備えている。
【0016】
これにより、ダイステム内における保持部材の位置を固定することができるので、保持部材が被押出材に付加する荷重を均一にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の張力付加装置および張力付加方法によれば、筒状の被押出材を保持する際、被押出材に対してその内側から荷重を付加することのみで被押出材を保持することができる。これにより、ダイステム内において筒状の被押出材を保持することができるので、被押出材に生じる寸法不良部分の長さを短くできる。その結果、廃棄する寸法不良部分が減少し、製造コストを低下することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態における張力付加装置の構造を示す断面図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態の張力付加装置1は、軸としての操作軸2と、保持部材としてのチャック3と、固定部材としてのロック4と、外周部材としての外筒5とを備えている。操作軸2は、図1中横方向(以下、軸方向)に延びた円筒状であり、先端部分(図1中左端)に向かってその直径が連続的に増加している。すなわち、操作軸2は、その先端部分にテーパ部2aを有している。操作軸2は軸方向にスライド可能である。
【0021】
操作軸2の外径側には円周上にチャック3が配置されている。チャック3は、図1中左方向から見た場合に、たとえば弧状の端面形状を有している。また、チャック3の先端部分3aは、テーパ部2aと係合している。操作軸2のスライドによってテーパ部2aと先端部分3aとの係合位置が変化し、それによって、先端部分3aは図1中上下方向(以下、径方向)に移動する。また、チャック3は、先端部分3aから離れた外径側の所定の位置に、突起部分3bを有している。
【0022】
チャック3の外径側にはロック4が配置されている。ロック4は、軸方向に延びた円筒状である。ロック4は、内径側の所定の位置に段差部分4aを有している。段差部分4aと突起部分3bとは互いに接触している。ロック4は、段差部分4aを通じてチャック3を内径側に押し付けており、これによって、チャック3を外径方向に移動しないように固定している。また、ロック4は軸方向にスライド可能である。ロック4のスライドによって段差部分4aが突起部分3bから外れ、チャック3が外径方向に移動可能になる。
【0023】
ロック4の外径側には外筒5が配置されている。外筒5は、軸方向に延びた円筒状である。ロック4は、操作軸2、チャック3、およびロック4の各々を取り囲んでいる。外筒5は、外径側の先端部分に突起部分5aを有している。突起部分5aは、ダイステムの内壁面に接触する部分である。
【0024】
続いて、本実施の形態における張力付加装置の動作について説明する。
【0025】
図2〜図5は、本発明の一実施の形態における張力付加装置の動作を示す断面図である。
【0026】
図2を参照して、図示しない押出装置のダイスから、中空状の被押出材としての筒状の押出製品17が押し出されている。ダイステム7は、図2中横方向に延びた円筒状である。押出製品17は、図2中右方向(以下、押出方向)へ向かってダイステム7に平行に押し出されている。
【0027】
本実施の形態の張力付加装置1は、ダイステム7内に配置されている。外筒5の突起部分5aは、ダイステム7の内壁面に接触している。これにより、操作軸2と、押出製品17の押出方向とが互いに平行となるので、操作軸2およびロック4のスライド方向と、押出製品17の押出方向とが互いに平行となる。
【0028】
図3を参照して、押出加工が進行すると、押出製品17は押出方向に進行し、ロック4の先端部分4bに接触する。そして、ロック4を押出方向へ押す。これによって、ロック4は押出製品17を感知し、矢印で示す方向にスライドする。ロック4がスライドすると、ロック4の段差部分4aがチャック3の突起部分3bから離れ、チャック3の固定が解除される。
【0029】
図4を参照して、チャック3の固定が解除された後で、操作軸2を矢印で示す方向にスライドさせる(引っ張る)と、テーパ部2aの径の大きい部分と先端部分3aとが係合し、チャック3が矢印で示す方向(外径方向)へ移動する。これにより、チャック3は押出製品17の内側から外側に向かって荷重を付加し、この荷重のみで押出製品17を保持する。押出製品17を保持した状態で、張力付加装置1を図4中右方向へ移動することによって押出製品17に張力を付加する。ここで、操作軸2とチャック3とはテーパ状の係合面で係合しているので、操作軸2のスライド位置により、押出製品17に付加する荷重の大きさを調節することができる。
【0030】
図5を参照して、押出製品17の保持を解除する場合には、操作軸2を矢印で示す方向(押出方向と反対方向)にスライドさせる。すると、テーパ部2aの径の小さい部分と先端部分3aとが係合し、チャック3が矢印で示す方向(内径方向)へ移動する。以上のようにして、本実施の形態の張力付加装置1は押出製品17に張力を付加する。
【0031】
本実施の形態の張力付加装置1は、中空状の押出製品17に張力を付加する張力付加装置であって、押出製品17の内側から外側に向かって荷重を付加することのみにより押出製品17を保持するためのチャック3を備えている。
【0032】
本実施の形態の張力付加方法は、中空状の押出製品17に張力を付加する張力付加方法であって、押出製品17の内側から外側に向かって荷重を付加することのみにより押出製品17を保持した状態で、押出製品17に張力を付加する。
【0033】
本実施の形態の張力付加装置1および張力付加方法によれば、押出製品17を保持する際、押出製品17に対してその内側から荷重を付加することのみで押出製品17を保持することができる。これにより、ダイステム7内において押出製品17を保持することができるので、押出製品17に生じる寸法不良部分の長さを短くできる。その結果、廃棄する寸法不良部分が減少し、製造コストを低下することができる。
【0034】
実際に、本実施の形態における張力付加装置1および張力付加方法によれば、7mの円筒状の押出製品を製造する際に廃棄していた寸法不良部分の長さを、従来の1mから250mmに減少することができた。
【0035】
本実施の形態の張力付加装置1は、チャック3と係合し、かつ押出製品17の押出方向に、チャック3に対して相対的にスライド可能な操作軸2をさらに備えている。操作軸2のスライドにより、チャック3は押出製品17に荷重を付加する。
【0036】
これにより、操作軸2をスライドさせることで押出製品17に対するチャック3の荷重の付加を制御することができる。
【0037】
本実施の形態の張力付加装置1は、チャック3と接触し、チャック3を固定するためのロック4をさらに備えている。押出製品17を感知した際にロック4がチャック3から外れ、それによりチャック3の固定を解除する。
【0038】
これにより、押出製品17がない場合にチャック3が誤動作をすることを防止できる。また、押出製品17がある場合には、押出製品17を感知してロック4が外れるので、チャック3は押出製品17を保持することができる。なお、押出製品17を感知する方法として、押出製品17を電気的に感知してもよい。また、固定部材としてシリンダなどを用いて、チャック3の外径側から押出方向に対し垂直にチャック3を押すことでチャック3を固定してもよい。
【0039】
本実施の形態の張力付加装置1は、チャック3を取り囲み、ダイステム7の内壁面に接触するための外筒5をさらに備えている。
【0040】
これにより、ダイステム7内におけるチャック3の位置を固定することができるので、チャック3が押出製品17に付加する荷重を均一にすることができる。
【0041】
なお、中空状の被押出材は、その中空部にチャック3を挿入することでチャックできればよく、被押出材の外形および中空部の断面形状は、円形、楕円形、または多角形のいずれでもよい。被押出材の外形および中空部の断面形状が特に円形の場合には、断面形状の対称性が高いため、楕円形や多角形の場合と比べて付加する荷重を容易に均一化することができる。
【0042】
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施の形態における張力付加装置の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態における張力付加装置の第1動作を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における張力付加装置の第2動作を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態における張力付加装置の第3動作を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態における張力付加装置の第4動作を示す断面図である。
【図6】(a)従来の押出加工法の第1工程を示す断面図である。(b)従来の押出加工法の第2工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1,101 張力付加装置、2 操作軸、2a テーパ部、3 チャック、3a,4b 先端部分、3b,5a 突起部分、4 ロック、4a 段差部分、5 外筒、7,107 ダイステム、17,127 押出製品、102 チャック装置、109 ラム、111 コンテナ、112 収容孔、113 ダイス、114 押出口、117 金属ビレット、120 押出装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状の被押出材に張力を付加する張力付加装置であって、
前記被押出材の内側から外側に向かって荷重を付加することにより前記被押出材を保持するための保持部材を備える、張力付加装置。
【請求項2】
前記保持部材と係合し、かつ前記被押出材の押出方向に、前記保持部材に対して相対的にスライド可能な軸をさらに備え、
前記保持部材に対し相対的な前記軸のスライドにより、前記保持部材は前記被押出し材に荷重を付加する、請求項1に記載の張力付加装置。
【請求項3】
前記保持部材と接触し、前記保持部材を固定するための固定部材をさらに備え、
前記被押出材を感知した際に前記固定部材が前記保持部材から外れ、それにより前記保持部材の固定を解除する、請求項1または2に記載の張力付加装置。
【請求項4】
前記保持部材を取り囲み、ダイステムの内壁面に接触するための外周部材をさらに備える、請求項1〜3のいずれかに記載の張力付加装置。
【請求項5】
中空状の被押出材に張力を付加する張力付加方法であって、
前記被押出材の内側から外側に向かって荷重を付加することにより前記被押出材を保持した状態で、前記被押出材に張力を付加する、張力付加方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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