説明

張力制御装置及びオフセット輪転印刷機

【課題】湿し水、ドライヤー、クーリング装置を有しない印刷機で、通常印刷時では印刷品質を一定に保ち、張力外乱発生時では損紙の発生を抑制することを可能とする張力制御装置及びオフセット輪転印刷機を提供する。
【解決手段】印刷ウェブ上に印刷する一つまたは複数の印刷ユニットの最上流印刷ユニットの上流と最下流印刷ユニットの下流に設けられ張力を計測する手段と、計測結果に基づいて張力が所定値に近づくように印刷ウェブの搬送速度の制御量を算出する手段と、搬送速度の制御量に基づいて搬送速度を制御する手段と、を備え、且つ、最上流印刷ユニットの上流では前記搬送速度を制御する手段を張力を計測する手段の上流に備え、最下流印刷ユニットの下流では前記搬送速度を制御する手段を張力を計測する手段の下流に備えたことを特徴とする張力制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的な印刷ウェブを所定の搬送路に沿って搬送しつつ印刷ウェブ上に印刷を行うオフセット輪転印刷機において、印刷ウェブの張力を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット輪転印刷機は印刷ウェブを蛇行せずに搬送させる為、印刷ウェブの張力を調整、制御する装置が必要である。その為、数多くの方法や装置(例えば特許文献1、2)が開示されている。
【0003】
図1は、従来のオフセット輪転印刷機に備えられた張力を制御する装置の一例を示す概略図で、張力を制御する装置としてはダンサーローラを用いた制御装置が挙げられる。図1に示す張力制御装置を備えたオフセット輪転印刷機では、印刷用紙100が、給紙部101からインフィード部103を介して下流の印刷ユニット104に矢印102で示される方向に搬送される。印刷ユニット104の上流に設けられたにインフィード部103では、上下にフリーで動くダンサーローラ111を搬送中の印刷用紙100aで宙吊りにし、ポテンショメータ(張力の緩み側を検出)112による位置検知によりドラッグローラ制御部113によってドラッグローラ107のフィードバック制御を行うものである。
印刷用紙100は、印刷ユニット104、および、更に下流の印刷ユニット106に搬送されるが、張力を調整する機構は、一般的にはこれ以降には設けられていない。
【0004】
また、特許文献1に示される印刷装置は、ダンサーローラを有する張力制御機構を巻き出し部の直後と複数の印刷ユニット間にのみに設け、最終の印刷ユニット後には配置していない。また特許文献2に示される印刷装置は、ウェブ張力の大きさ応じてよりダンサーローラをエアシリンダで駆動してウェブの張りや弛みがなくなるように調整する張力制御機構を、巻き出し部の直後と巻き取り部の直前に設けている。
上記文献に示されるものは、例えば紙継ぎ時など比較的大きな張力外乱が発生した場合においては、ダンサーローラで張力変化分をある程度は吸収できるようになっているが、張力変化が大きいため完全には吸収できず、変化した張力が印刷ユニット以降に伝播してしまい、例えば折精度といった印刷品質や例えばカットオフコントローラといった付帯設備に影響を与え、損紙が発生してしまう原因となる。
【0005】
一方、印刷機の技術として近年では水なし印刷技術やUV印刷技術が一般的に用いられるようになってきて、湿し水やドライヤー、クーリング装置がなくなり、それらの影響による用紙の伸縮が小さくなり、通常印刷時の張力の安定性は高まっている傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−69455号公報
【特許文献2】特開2010−222118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記従来の張力外乱といった問題点、及び湿し水、ドライヤー、クーリング装置を有しない水なしUV印刷技術や水なしEB印刷技術へ移行していくことを鑑みてなされたものであり、通常印刷時では印刷品質を一定に保ち、張力外乱発生時では損紙の発生を抑制することを可能とする張力制御装置及び張力制御装置を備えたオフセット輪転印刷機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明の請求項1に記載の発明は、所定の搬送路に沿って搬送される帯状の印刷ウェブ上に印刷を行うオフセット輪転印刷機に設けられた張力制御装置であって、
印刷ウェブ上に印刷する一つまたは複数の印刷ユニットの最上流印刷ユニットの上流と最下流印刷ユニットの下流に設けられ張力を計測する手段と、
計測結果に基づいて張力が所定値に近づくように印刷ウェブの搬送速度の制御量を算出する手段と、
搬送速度の制御量に基づいて搬送速度を制御する手段と、を備え、且つ、
最上流印刷ユニットの上流では前記搬送速度を制御する手段を張力を計測する手段の上流に備え、最下流印刷ユニットの下流では前記搬送速度を制御する手段を張力を計測する手段の下流に備えたことを特徴とする張力制御装置である。
【0009】
本発明の請求項2に記載の発明は、所定の搬送路に沿って搬送される帯状の印刷ウェブ上に印刷を行うオフセット輪転印刷機に設けられた張力制御装置であって、
印刷ウェブ上に印刷する一つまたは複数の印刷ユニットのそれぞれの上流と下流に設けられ、張力を計測する手段と、
計測結果に基づいて張力が所定値に近づくように印刷ウェブの搬送速度の制御量を算出する手段と、
搬送速度の制御量に基づいて搬送速度を制御する手段と、を備え、且つ、
印刷ユニットの上流では前記搬送速度を制御する手段を張力を計測する手段の上流に備え、最下流印刷ユニットの下流では前記搬送速度を制御する手段を張力を計測する手段の下流に備えたことを特徴とする張力制御装置である。
【0010】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の張力制御装置を備え、印刷ウェブに熱エネルギーを与える手段を有しないことを特徴とするオフセット輪転印刷機である。
【0011】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の張力制御装置を備え、湿し水供給手段を有しないことを特徴とするオフセット輪転印刷機である。
【0012】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の張力制御装置を備え、UV硬化インキを用いて印刷することを特徴とするオフセット輪転印刷機である。
【0013】
本発明の請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の張力制御装置を備え、EB硬化インキを用いて印刷することを特徴とするオフセット輪転印刷機である。
【0014】
本発明の請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の張力制御装置を備え、水なしUV硬化インキを用いて印刷することを特徴とするオフセット輪転印刷機である。
【0015】
本発明の請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の張力制御装置を備え、水なしEB硬化インキを用いて印刷することを特徴とするオフセット輪転印刷機である。
【0016】
本発明の請求項9に記載の発明は、請求項2に記載の張力制御装置を備えたことを特徴とするオフセット輪転印刷機である。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明による張力制御装置によれば、通常印刷時では印刷品質を一定に保ち、紙継ぎ等の張力外乱発生時でも張力変動を小さく抑えることが可能となる。また、その結果、本発明による張力制御装置を備えたオフセット輪転印刷機によれば、紙継ぎ時などの張力変動に起因して発生する不良を軽減し、損紙の発生を抑制することができる。
【0018】
更に、印刷ウェブに熱エネルギーを与える手段を有しないオフセット輪転印刷機に適用することによって、上記効果が得られると同時に、印刷ユニット間の張力制御装置を要しない構成であるため、簡単な構成で設備費用を安価に抑えることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来のオフセット輪転印刷機に備えられた張力を制御する装置の一例を示す図。
【図2】本発明に係る張力制御装置を備えたオフセット輪転印刷機の一例を示す概略構成図。
【図3】本発明に係る張力制御装置を、印刷ユニットが3つのオフセット輪転印刷機に備えた場合を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下にこの発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図2は本発明に係る張力制御装置を備えたオフセット輪転印刷機の一例を示す概略構成図である。図2に示すオフセット輪転印刷機は、帯状体印刷ウェブを供給する給紙装置1から連続的に給紙される印刷ウェブ10は、先ずインフィード部2にて張力制御され、印刷ユニット3a、3b、3cを通過する際に、印刷が施され、アウトフィード部4にて再び張力制御やウェブパス部5を通過する際に方向の変更などが行なわれた後、折機6により所定の形状に断裁され折り畳まれる。その後ベルトコンベアによってスタッカーバンドラー7に搬送され結束される。
【0022】
図2では印刷ユニットは3つの場合を例示したが、印刷ユニット数は限定されず、1つまたは複数であって色数によって増減される。
【0023】
図3は図2に示される本発明に係るオフセット輪転印刷機に備えられた張力制御装置の配置を示す図である。図3に示される張力制御装置は最上流印刷ユニットの上流と最下流印刷ユニットの下流に設けられた場合を示す図である。
【0024】
図3に示されるオフセット輪転印刷機の最上流印刷ユニット(この場合は印刷ユニット3aを示す)の上流には、張力を計測する手段である、フリーの状態で上下に動くダンサーローラ22aとダンサーローラの変動量を計測するポテンショメータ23aと、計測結果に基づいて張力が所定値に近づくように印刷ウェブの搬送速度の制御量を算出する手段である張力制御部24aと、算出された搬送速度の制御量に基づいて搬送速度を制御する手段である、無段変速装置25aと無段変速装置に繋がれたインフィードドラッグローラ21aと、を備えた張力制御制御装置が設けられている。このように最上流の印刷ユニット3aの上流では前記搬送速度を制御する手段である無段変速装置25aとインフィードドラッグローラ21aが、張力を計測する手段である、ダンサーローラ22aとダンサーローラの変動量を計測するポテンショメータ23aの上流に備えられている。
【0025】
一方、最下流印刷ユニット(この場合は印刷ユニット3cを示す)の下流には、フリーの状態で上下に動くダンサーローラ32とダンサーローラの変動量を計測するポテンショメータ33と、計測結果に基づいて張力が所定値に近づくように印刷ウェブの搬送速度の制御量を算出する張力制御部34と、算出された搬送速度の制御量に基づいて搬送速度を制御する手段である、無段変速装置35と無段変速装置に繋がれたインフィードドラッグローラ31と、を備えた張力制御制御装置が設けられている。このように最下流の印刷ユニット3cの下流では前記搬送速度を制御する手段である、無段変速装置35と無段変速装置に繋がれたインフィードドラッグローラ31が、張力を計測する手段であるダンサーローラ32とダンサーローラの変動量を計測するポテンショメータ33の下流に備えてい
る。
【0026】
近年のオフセット輪転印刷技術において、湿し水、ドライヤー、クーリング装置を有しない水なしUV印刷技術や水なしEB印刷技術への技術移行に伴って、印刷ウェブに熱エネルギーを与える手段を有しないオフセット輪転印刷機が多く用いられるようになってきた。このような印刷機では、印刷ユニット間の印刷ウェブの伸縮が従来よりも軽減されるため、図3に示すオフセット輪転印刷機を適用することが出来る。
【0027】
即ち、図3に示す張力制御装置を備えたオフセット輪転印刷機は、印刷ウェブに熱エネルギーを与える手段を有しないオフセット輪転印刷や、湿し水供給手段を有しないオフセット輪転印刷や、UV硬化インキを用いて印刷するオフセット輪転印刷や、EB硬化インキを用いて印刷するオフセット輪転印刷や、水なしUV硬化インキを用いて印刷するオフセット輪転印刷や、水なしEB硬化インキを用いて印刷するオフセット輪転印刷に適用することが出来る。
【0028】
図3に示される本発明に係る張力制御装置が備えられたオフセット輪転印刷機においては、例えば紙継ぎ時の張力外乱が発生した場合、基本的な動作は通常印刷時と同じ動作であり、張力の変動量に応じてダンサーローラが変動する。即ち、張力変動により印刷ウェブが伸縮した分をダンサーローラの変動で吸収する。本発明のようにインフィード部だけではなく、印刷ユニット以後のアウトフィードにも制御部を設ける2段構えにより、インフィード部で吸収しきれなかった変動を、アウトフィード部でも吸収し外乱を極力小さくして折機へ搬送することで印刷品質を保ち、損紙の発生を抑えることができる。即ち、印刷ユニット3dの下流に設けられたダンサーローラ32とドラッグローラ31を備えているため、搬送される印刷ウェブ10の張力を制御する作用があるため、紙継ぎ時などの張力変動があった場合でも、紙継ぎ時の張力変動に起因して発生する不良を軽減し、損紙の発生を抑制することができる。
【0029】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限り、広範囲に実施する事ができる。
【0030】
以上のように本発明による請求項1に記載の張力制御装置及び請求項3から8に記載のオフセット輪転印刷機によれば、湿し水やドライヤー及びクーリング装置のないオフセット輪転印刷において、通常印刷時では印刷品質を一定に保ち、更に張力外乱発生時の損紙の発生を抑制することが出来る。
【0031】
また、請求項2に記載の張力制御装置及び請求項9に記載のオフセット輪転印刷機によれば、湿し水やドライヤー及びクーリング装置を有するオフセット輪転印刷の場合でも、通常印刷時では印刷品質を一定に保ち、更に張力外乱発生時の損紙の発生を抑制することが出来る。
【符号の説明】
【0032】
1・・・給紙装置
2・・・インフィード部
3・・・印刷ユニット
3a、3b、3c・・・印刷ユニット
4・・・アウトフィード部
5・・・ウェブパス部
6・・・折機
7・・・スタッカーバンドラー
10・・・印刷ウェブ
21・・・インフィードドラッグローラ
22・・・インフィードダンサーローラ
23・・・インフィードポテンショメータ
24・・・張力制御部
25・・・無段変速装置
31・・・アウトフィードドラッグローラ
32・・・アウトフィードダンサーローラ
33・・・アウトフィードポテンショメータ
100・・・印刷用紙
100a・・搬送中の印刷用紙
101・・・給紙部
102・・・インフィード部
104・・・印刷ユニット
105・・・インフィード部
106・・・印刷ユニット
107・・・インフィード部
108・・・ドラッグローラ
109・・・ドラッグローラ
122・・・ダンサーローラ
123・・・ポテンショメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の搬送路に沿って搬送される帯状の印刷ウェブ上に印刷を行うオフセット輪転印刷機に設けられた張力制御装置であって、
印刷ウェブ上に印刷する一つまたは複数の印刷ユニットの最上流印刷ユニットの上流と最下流印刷ユニットの下流に設けられ張力を計測する手段と、
計測結果に基づいて張力が所定値に近づくように印刷ウェブの搬送速度の制御量を算出する手段と、
搬送速度の制御量に基づいて搬送速度を制御する手段と、を備え、且つ、
最上流印刷ユニットの上流では前記搬送速度を制御する手段を張力を計測する手段の上流に備え、最下流印刷ユニットの下流では前記搬送速度を制御する手段を張力を計測する手段の下流に備えたことを特徴とする張力制御装置。
【請求項2】
所定の搬送路に沿って搬送される帯状の印刷ウェブ上に印刷を行うオフセット輪転印刷機に設けられた張力制御装置であって、
印刷ウェブ上に印刷する一つまたは複数の印刷ユニットのそれぞれの上流と下流に設けられ、張力を計測する手段と、
計測結果に基づいて張力が所定値に近づくように印刷ウェブの搬送速度の制御量を算出する手段と、
搬送速度の制御量に基づいて搬送速度を制御する手段と、を備え、且つ、
印刷ユニットの上流では前記搬送速度を制御する手段を張力を計測する手段の上流に備え、最下流印刷ユニットの下流では前記搬送速度を制御する手段を張力を計測する手段の下流に備えたことを特徴とする張力制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の張力制御装置を備え、印刷ウェブに熱エネルギーを与える手段を有しないことを特徴とするオフセット輪転印刷機。
【請求項4】
請求項1に記載の張力制御装置を備え、湿し水供給手段を有しないことを特徴とするオフセット輪転印刷機。
【請求項5】
請求項1に記載の張力制御装置を備え、UV硬化インキを用いて印刷することを特徴とするオフセット輪転印刷機。
【請求項6】
請求項1に記載の張力制御装置を備え、EB硬化インキを用いて印刷することを特徴とするオフセット輪転印刷機。
【請求項7】
請求項1に記載の張力制御装置を備え、水なしUV硬化インキを用いて印刷することを特徴とするオフセット輪転印刷機。
【請求項8】
請求項1に記載の張力制御装置を備え、水なしEB硬化インキを用いて印刷することを特徴とするオフセット輪転印刷機。
【請求項9】
請求項2に記載の張力制御装置を備えたことを特徴とするオフセット輪転印刷機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−240296(P2012−240296A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112253(P2011−112253)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】