説明

張弦梁

【課題】上弦材と下弦材との接合部の設計を容易にするとともに、張弦梁のコストを低減する。
【解決手段】H型鋼からなる上弦材10と、平鋼からなり、上弦材10の両端部に接合される下弦材22と、上弦材10と下弦材22とを連結する束材25とを有する張弦梁1において、上弦材10の端部において、下フランジ13を上フランジ12およびウェブ11よりも短く形成するとともに、ウェブ11を軸直角方向からの側面視において下弦材22の材軸方向に沿って斜めに切断し、下弦材22の端部を上弦材10のウェブ11における斜めに切断された部位の下縁に溶接し、下弦材22との接合端27aを中心として下弦材22の引張方向に対して90度よりも大きな角度をなす方向に延在するように、斜め補剛材27を上弦材10のウェブ11と下弦材22とに溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成梁床構造の梁に好適な上弦材と下弦材とを有する張弦梁に関する。
【背景技術】
【0002】
運動施設やホールなど、大スパンの無柱空間を必要とする建築物では、屋根構造に張弦梁を採用するものが多い。張弦梁は、曲げ剛性と圧縮剛性とを持つ梁を上弦材とし、下弦材に引張材を用い、上弦材と下弦材とを束材を介して結合した混合構造の梁である。
【0003】
一方、鉄骨梁とコンクリート床スラブとを一体化した合成梁構造において、従来のH型鋼の梁に代えて張弦梁を用いた合成梁構造が知られている(特許文献1参照)。特許文献1の張弦梁は、図10に示すような構成とされている。すなわち、この張弦梁101では、上弦材110に小断面のH型鋼を用い、下弦材122に平鋼を用い、上弦材110の端部を下弦材122の角度に沿って斜めに切断し、上弦材110のウェブ111と下弦材122とが逆T字状となるように両者を溶接接合することで、使用鋼材量を大幅に削減するとともに、梁にH型鋼を用いた従来構造と同様の単純さを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−328631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、物流・商業・生産施設などの大スパンの合成梁構造を構成する張弦梁構造においては、上弦材と下弦材とが接合させる端部に非常に大きな力が作用する。そのため、接合部の剛性や部材同士の接合強度を大きくする必要がある。また、2つの部材を溶接するときの必要溶接長さは、溶接部に生じる応力の大きさと、溶接する部材のうち強度の低い方の母材の強度とに応じて決定される。
【0006】
ここで、特許文献1の発明においては、図10に示すように、上弦材110のウェブ111と下弦材122とを溶接接合することに加え、張弦梁101の端部に斜め(張弦梁101の架け渡し方向(以下、軸方向と称する。)に対して)に配置した補剛用の板状鋼板(以下、斜め補剛材127と称する。)を併用することで、上弦材110と下弦材122との接合部の剛性確保および両部材の接合強度を確保するようにしており、この斜め補剛材127が下弦材122の引張力の一部を負担することによって下弦材122に沿う溶接長を短縮させ得るようにしている。なお、梁端部のガセットプレート126は、張弦梁101(小梁)とこれに直交する大梁102とを接合するための部材であり、張弦梁101が受ける鉛直荷重のみを支持し、ガセットプレート126と下弦材122との図示しない溶接部は下弦材からの引張力の負担に寄与するものではない。
【0007】
ところが、特許文献1の発明では、白抜き矢印で示す下弦材122の引張方向(材軸方向)に対する斜め補剛材127の角度αが90度よりも小さくなっており、斜め補剛材127には圧縮抵抗力が生じている。そのため、斜め補剛材127の断面設計においては座屈の検討が必要になる。その結果、斜め補剛材127の板厚が十分な許容圧縮応力度を有していても、溶接長を確保するために部材長が長くなると、座屈に耐え得るようにより大きな板厚にせざるを得ないことがあり、このような場合にはコストアップを招く。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、上弦材と下弦材との接合部の設計を容易にするとともに、コストを低減することのできる張弦梁を提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、鉛直に延在するウェブ(11)の上下に上フランジ(12)および下フランジ(13)が配置された上弦材(10)と、平坦な上面(22u)を有し、前記上弦材の両端部に接合される下弦材(22)と、軸方向の中間位置にて前記上弦材と前記下弦材とを連結する少なくとも1つの束材(25)とを有する張弦梁(1)であって、前記上弦材の端部において、前記下フランジが軸方向について前記上フランジおよび前記ウェブよりも短く形成されるとともに、前記ウェブが軸直角方向からの側面視において前記下弦材の材軸方向に沿って斜めに切断され、前記下弦材の端部は、少なくとも前記上弦材のウェブにおける前記斜めに切断された部位の下縁に溶接され、前記上弦材のウェブと前記下弦材とに溶接される補剛材(27)を更に有し、当該補剛材が、前記下弦材との接合端(27a)を中心として前記下弦材の引張方向に対して90度よりも大きな角度をなす方向に延在するように構成する。
【0010】
このような構成とすることにより、斜めに延在する補剛材には引張抵抗力が生じるため、補剛材の断面設計において座屈の検討が不要になる。その結果、補剛材の板厚は、十分な許容引張応力度を有していれば、溶接長を確保するために部材長が長くなっても耐座屈のために大きな板厚にする必要がなく、コストを低減することができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明は、同様の張弦梁(1)であって、前記上弦材の端部において、前記下フランジが前記上フランジおよび前記ウェブよりも短く形成されるとともに、前記ウェブが軸直角方向からの側面視において前記下弦材の材軸方向に沿って斜めに切断され、前記下弦材の端部は、少なくとも前記上弦材のウェブにおける前記斜めに切断された部位の下縁に溶接され、前記上弦材は、第1の強度を有する素材(SS400)からなる上弦中央部材(15)と、前記第1の強度よりも大きな第2の強度を有する素材(SM490)からなり、前記上弦中央部材に接合されるとともに前記下弦材が溶接される一対の上弦端部材(16)とを有し、前記下弦材は、前記第1の強度よりも大きな第3の強度を有する素材(SM490)からなるように構成する。
【0012】
このような構成とすることにより、上弦材のウェブと下弦材との必要溶接長さを、上弦中央部材ではなく、より強度の大きい上弦端部材または下弦材の母材強度に応じて決定することができるため、上弦材の端部に補剛材を用いる場合に比べて必要溶接長さを短縮できる。また、上弦材のウェブと下弦材とを溶接するために補剛材を別途設ける必要を無くすこともできる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明は、同様の張弦梁(1)であって、前記上弦材の端部において、前記下フランジが前記上フランジおよび前記ウェブよりも短く形成されるとともに、前記ウェブが軸直角方向からの側面視において前記下弦材の材軸方向に沿う斜めの仮想線(L)よりも下方へ突出してガセットをなす突出部(17a)を有し、前記下弦材の端部は、前記上弦材のウェブを挟むように幅方向に2分されるとともに、少なくとも前記上弦材のウェブを挟む部分の上側および下側にて前記ウェブに溶接されるように構成する。なお、ガセットとはここでは張弦梁の支持に供される板材を云うものである。
【0014】
このような構成とすることにより、上弦材のウェブと下弦材との溶接ラインを上下2本とすることでき、溶接長を大幅に長くすることができる。そのため、必要溶接長さの決定要因となる上弦端部材の母材強度を低くすることが可能である。
【0015】
また、本発明の一側面によれば、前記上弦材は、一定断面の上弦中央部材(15)と、当該上弦中央部材の両端に接合される一対の上弦端部材(16)とを有する構成とすることができる。
【0016】
上弦材の断面は、突出部が形成されたことによって当該部位において中央部分と異なることになるが、この構成によれば、断面が一定の部位には汎用品のI型鋼(H型鋼)を用いることができるため、製造手間を少なくし、コストも削減できる。
【0017】
また、本発明の一側面によれば、前記上弦中央部材(15)と前記下弦材(16)とは、継手板(20)およびボルト・ナット(21)によるウェブ同士の連結により接合された構成とすることができる。
【0018】
上弦材が上弦中央部材と上弦端部材とを有する構成とした場合、上弦材と下弦材との必要溶接長さを短縮することができる反面、上弦中央部材と上弦端部材とを接合する必要が生じ、補剛材を用いる場合と比べて加工の手間や、接合検査等の品質管理の対象部が増えることになる。一方、上弦中央部材と上弦端部材との接合部に生じる応力は、圧縮軸力とせん断力が支配的であり、曲げモーメントは小さい。ここで、上弦中央部材と下弦材とを、ウェブのみを溶接して接合することも考えられるが、溶接接合の場合には、溶接開始部分および溶接終了部分に欠陥が生じ易いため、全周溶接とする必要が生じることがある。そこで、このような構成とすることにより、上弦中央部材と上弦端部材との接合を簡単にすることができる。
【発明の効果】
【0019】
このように本発明によれば、上弦材と下弦材との接合部の設計を容易にするとともに、部材を薄肉化し、または構成を簡単化することで、コストを低減できる張弦梁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る張弦梁の側面図
【図2】図1中のII断面図
【図3】図1中のIII部拡大図
【図4】第2実施形態に係る張弦梁の側面図
【図5】図3中のV部拡大図
【図6】第3実施形態に係る張弦梁の要部側面図
【図7】図6に示す張弦梁の要部下面図
【図8】変形例に係る張弦梁の要部下面図
【図9】第4実施形態に係る張弦梁の要部側面図
【図10】従来技術に係る張弦梁の要部側面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る張弦梁1のいくつかの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、第2実施形態以降においては、第1実施形態と同様の部材には同一の符号を付し、第1実施形態と重複する説明は省略する。
【0022】
≪第1実施形態≫
図1および図2に示すように、張弦梁1は、大梁2、2に設けられたスチフナ3に対し、継手板4を介して両端が接合されることで一対の大梁2、2間に架け渡される。以下、張弦梁1の架け渡し方向を軸方向と称する。張弦梁1は、2本以上が大梁2、2間に架け渡され、その上に配置される床版6を支持することで大スパンの合成梁床構造を構成する。なお、床版6が既設である場合に床版6の下方に張弦梁1を設け、張弦梁1を床版6の補強用として用いることも可能である。
【0023】
張弦梁1は、H型鋼からなり、鉛直に延在するウェブ11の上下に上フランジ12および下フランジ13が配置されて断面がI形状をなす上弦材10と、平鋼からなり、その上面22uおよび下面22lが断面視で水平な平坦面をなすとともに、その端部が上弦材10の両端部に接合される下弦材22と、上弦材10を軸方向に3等分した位置にて上弦材10と下弦材22とを上下方向に連結するH型鋼からなる2つの束材25とを有する。
【0024】
軸直角方向からの側面視(図1)において、直線状の上弦材10は、上面が水平面をなすように水平に配置される。一方、下弦材22は、2つの束材25の間にて水平に配置された直線状の中央部分23と、中央部分23の軸方向両側に一対に配置され、梁端へ向けて上向きに傾斜する直線状の軸端部分24とにより構成される。
【0025】
上弦材10および束材25に用いるH型鋼は、第1の強度を有するJIS規格の一般構造用熱間圧延鋼材(G3101、SS400)からなる。SS400の降伏強度(降伏点または耐力)は、245N/mm2(鋼材の厚さが16mm以下の場合)である。一方、下弦材22に用いる平鋼は、SS400よりも大きな第3の強度を有し、溶接にも適するJIS規格の溶接構造用圧延鋼材(G3106、SM490)からなる。SM490の降伏強度は、325N/mm2(鋼材の厚さが16mm以下の場合)である。
【0026】
図3にも示すように、上弦材10の端部において、下フランジ13が上フランジ12およびウェブ11よりも短く形成されるとともに、軸直角方向からの側面視においてウェブ11が下弦材22の軸端部分24の材軸方向に沿って斜めに切断されており、このウェブ11の斜めに切断された部位の下縁に下弦材22がT継手をなして溶接されている。ウェブ11と下弦材22との溶接は、連続溶接によって直線状のビード30が形成される隅肉溶接によりウェブ11の両側にて行われている。また、上弦材10における下フランジ13の軸方向両端部付近および束材25(図1)との2箇所の接合部には、上フランジ12と下フランジ13とを連結するスチフナ14が溶接されている。
【0027】
下弦材22の両端部の下面には、鉛直方向に延在して張弦梁1の支持に供されるガセットプレート26がT継手をなして溶接されている。ガセットプレート26と下弦材22との溶接は、連続溶接や断続溶接によって図示しないビードが形成される隅肉溶接によりガセットプレート26の両側にて行われている。そして、ガセットプレート26と大梁2、2のスチフナ3とが継手板4およびボルト・ナット5により接合されることにより、張弦梁1が大梁2に支持される。
【0028】
上弦材10における下弦材22との接合部には更に、斜めに延在し、上弦材10のウェブ11および上フランジ12と、下弦材22とに溶接される板状の斜め補剛材27が設けられている。斜め補剛材27は、上弦材10と同様に一般構造用熱間圧延鋼材(JIS G3101、SS400)からなり、下弦材22との接合端27aを中心として白抜き矢印で示す下弦材22の引張方向に対して90度よりも大きな角度θをなす方向に延在するように配置されている。つまり、斜め補剛材27は、下弦材22の引張力が黒塗り矢印で示す引張抵抗力を生じさせる向きに配置されている。また、斜め補剛材27とウェブ11との溶接は、連続溶接によって直線状のビード31が形成される隅肉溶接により斜め補剛材27の両側にて行われている。
【0029】
張弦梁1がこのような構成を有することにより、下弦材22の引張力は、ウェブ11との溶接部および斜め補剛材27を介して上弦材10に伝達する。つまり、ウェブ11における斜めに切断された部位の下縁の溶接部(ビード30)だけでなく、ウェブ11における斜め補剛材27との溶接部(ビード31)もが荷重伝達を行うため、必要な溶接長が確保される。また、斜め補剛材27には、下弦材22からの引張力により引張抵抗力が生じるため、斜め補剛材27の断面設計において座屈の検討が不要になる。その結果、斜め補剛材27の板厚は、十分な許容引張応力度を有していれば、溶接長を確保するために部材長が長くなっていたとしても耐座屈のために大きな板厚にする必要がなく、コストを低減することができる。
【0030】
≪第2実施形態≫
次に、図4および図5を参照して本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の張弦梁1も第1実施形態と同様に、鉛直に延在するウェブ11の上下に上フランジ12および下フランジ13が配置されてI形断面を呈する上弦材10と、平鋼からなり、その端部が上弦材10の両端部に接合される下弦材22と、上弦材10を軸方向に3等分した位置にて上弦材10および下弦材22を上下方向に連結するH型鋼からなる2つの束材25とを有する。
【0031】
一方、上弦材10は、一定断面を有するH型鋼からなる上弦中央部材15と、上弦中央部材15の軸方向両端に同軸に接合された一対の上弦端部材16とを有している。上弦端部材16は、H型鋼からなり、梁端側において下フランジ13が上フランジ12およびウェブ11よりも短く形成されるとともに、軸直角方向からの側面視においてウェブ11が下弦材22の軸端部分24の材軸方向に沿って斜めに切断されている。なお、上弦中央部材15と上弦端部材16とは、全周溶接による突合せ溶接により互いに接合されている。
【0032】
ここでは、上弦端部材16が下フランジ13を有しているが、下フランジ13を有しない形態、すなわち上弦端部材16と上弦中央部材15との境界線が、図5に想像線で示す位置、あるいは、ウェブ11における斜めに切断された部位が上弦端部材16に属する限りにおいてこれよりも梁端側の位置となる形態としてもよい。
【0033】
上弦中央部材15に用いるH型鋼は、第1の強度を有する一般構造用熱間圧延鋼材(JIS G3101、SS400)からなる。一方、上弦端部材16に用いるH型鋼、および下弦材22に用いる平鋼は、SS400よりも大きな第3(第2)の強度を有し、溶接にも適する溶接構造用圧延鋼材(JIS G3106、SM490)からなる。したがって、上弦端部材16のウェブ11と下弦材22とは、SM490同士の溶接となっている。なお、上弦端部材16に用いるH型鋼、および下弦材22に用いる平鋼は、SS400よりも大きな強度を有するものであれば、降伏強度が異なる別の素材からなっていてもよい。
【0034】
下弦材22の端部の下面には、鉛直方向に延在するガセットプレート26が溶接され、このガセットプレート26と大梁2、2のスチフナ3とが継手板4およびボルト・ナット5により接合されることにより、張弦梁1が大梁2に支持される。
【0035】
張弦梁1がこのような構成を有することにより、上弦材10のウェブ11と下弦材22との必要溶接長さは、上弦中央部材15ではなく、より強度が大きく下弦材22と同じ強度である上弦端部材16の母材強度に応じて決定されるため、上弦材10の端部がSS400からなる第1実施形態に比べて短縮される。そのため、上弦材10のウェブ11と下弦材22とを溶接するために斜め補剛材27を別途設ける必要が無い。なお、上弦材10の大部分を示す上弦中央部材15については、比較的強度が低くより安価なSS400を用いることにより、コストの低減が図られる。
【0036】
≪第3実施形態≫
次に、図6〜図8を参照して本発明の第3実施形態およびその変形例について説明する。本実施形態の張弦梁1も第1および第2実施形態と同様に、鉛直に延在するウェブ11の上下に上フランジ12および下フランジ13が配置されてI形断面を呈する上弦材10と、平鋼からなり、その端部が上弦材10の両端部に接合される下弦材22と、上弦材10および下弦材22を上下方向に連結するH型鋼からなる束材25とを有し、上弦材10は、一定断面を有するH型鋼からなる上弦中央部材15と、上弦中央部材15の軸方向両端に同軸に溶接により接合された一対の上弦端部材16とを有する。
【0037】
一方、本実施形態の上弦端部材16は、H型鋼を切断して形成されるのではなく、上フランジ12をなす平鋼18の下面に、ガセットを兼ねたウェブ11をなす平鋼17を溶接するとともに、ウェブ11の下縁に上フランジ12よりも短い下フランジ13をなす平鋼19を溶接して形成されており、軸端側において下フランジ13(平鋼19)が上フランジ12(平鋼18)およびウェブ11(平鋼17)よりも短く形成される点では第2実施形態と同様であるが、図6に示すように、ウェブ11をなす平鋼17が軸直角方向からの側面視において下弦材22の材軸方向に沿う斜めの仮想線Lよりも下方へ突出してガセットをなす突出部17aを有する点で第2実施形態と相違する。なお、上弦端部材16が下フランジ13(平鋼19)を有していなくてもよい点は、第2実施形態と同様である。
【0038】
上弦中央部材15に用いるH型鋼は、一般構造用熱間圧延鋼材(JIS G3101、SS400)からなり、上弦端部材16および下弦材22に用いる平鋼17〜19は、より降伏強度が大きく、溶接にも適する溶接構造用圧延鋼材(JIS G3106、SM490)からなる。なお、上弦端部材16の素材については、ウェブ11を構成する平鋼18のみがSM490からなり、他の部位を構成する平鋼17、19がSS400からなるような形態としてもよい。
【0039】
一方、図7に示すように、下弦材22をなす平鋼の端部にはスリット22aが形成されており、下弦材22は、上弦端部材16のウェブ11(平鋼18)を挟むように幅方向に2分されるとともに、上弦端部材16のウェブ11を挟む部分の上側および下側の隅部に沿って連続隅肉溶接によりウェブ11に溶接されている。
【0040】
張弦梁1がこのような構成を有することにより、上弦端部材16のウェブ11と下弦材22との溶接ライン(ビード30)を上下2本とすることでき、溶接長を大幅に長くすることが可能である。そのため、斜め補剛材27を無くすこと、あるいは必要溶接長さの決定要因となる上弦端部材16の母材強度を低くすることが可能である。また、上弦材10が一定断面の上弦中央部材15と一対の上弦端部材16とを有することにより、上弦中央部材15には汎用品のI型鋼(H型鋼)をそのまま用いることができるため、製造手間が少なくなり、コストも削減される。
【0041】
<変形例>
本変形例に係る張弦張りでは、図8に示すように、下弦材22が平行配置された2枚の平鋼22b、22cからなり、上弦端部材16のウェブ11(平鋼17)に溶接した状態で2枚の平鋼22b、22cの間にスリット22aが形成される点において第3実施形態と相違する。なお、上弦端部材16のウェブ11との接合部における下弦材22の全幅を第3実施形態と同一にした場合に下弦材22の許容引張応力度が不足するのであれば、2枚の平鋼22b、22cの合計幅が第3実施形態の平鋼の幅を同一となるように下弦材22の全幅を大きく、或いは平鋼22b、22cの厚さを大きくすればよい。
【0042】
下弦材22がこのように2枚の平鋼22b、22cからなる構成としても、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。また、下弦材22にスリット22aを形成する手間が省ける。
【0043】
≪第4実施形態≫
最後に、図9を参照して本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態の張弦梁1は、第2実施形態と同様の構成を有しており、上弦中央部材15と上弦端部材16との接合方式のみが異なる。つまり、第2実施形態では、溶接により上弦中央部材15と上弦端部材16とが接合されているのに対し、本実施形態では、継手板20およびボルト・ナット21によりウェブ11同士が接合されている。
【0044】
上弦材10が上弦中央部材15とより高強度素材からなる上弦端部材16とを有する構成とした場合、上弦材10と下弦材22との必要溶接長さを短縮して斜め補剛材27を省略できる反面、上弦中央部材15と上弦端部材16とを接合する必要が生じ、加工の手間や、接合検査等の品質管理の対象部が増えることになる。これに対し、このような構成により上弦中央部材15と上弦端部材16とを連結することにより、上弦中央部材15と上弦端部材16との接合を簡単にすることができる。なお、上弦中央部材15と上弦端部材16との接合部に作用する力は、圧縮軸力とせん断力が支配的であり、曲げモーメントは小さいため、フランジ同士を連結する必要はない。また、ウェブ11のみを溶接して上弦中央部材15と下弦材22とを接合した場合には、溶接開始部分および溶接終了部分に欠陥が生じ易いため、全周溶接が必要となることがあるが、本実施形態のように継手板20およびボルト・ナット21により連結することにより、フランジ同士の接合を省略することが可能となる。
【0045】
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、上弦材10にH型鋼を用いているが、I型鋼を用いてもよい。また、上記実施形態では、下弦材22に平鋼を用いているが、平坦な上面を有する他の断面形状の型鋼を用いてもよい。また、上記実施形態では、束材25が2箇所に配置されているが、1箇所や3箇所以上に配置してもよい。上記第4実施形態では、第2実施形態のように下弦材22の端部の下面にガセットプレート26が溶接されているが、第3実施形態のように上弦端部材16のウェブ11をなす平鋼17がガセットとしての突出部11aを有していてもよい。この他、各部材の具体的形状や、配置、数量などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、上記実施形態に示した本発明に係る張弦梁1の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 張弦梁
10 上弦材
11 ウェブ
12 上フランジ
13 下フランジ
15 上弦中央部材
16 上弦端部材
17 平鋼(ウェブ11)
17a 突出部
20 継手板
21 ボルト・ナット
22 下弦材
22u 上面
25 束材
27 斜め補剛材
27a 接合端
30 ビード
31 ビード
L 仮想線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直に延在するウェブの上下に上フランジおよび下フランジが配置された上弦材と、平坦な上面を有し、前記上弦材の両端部に接合される下弦材と、軸方向の中間位置にて前記上弦材と前記下弦材とを連結する少なくとも1つの束材とを有する張弦梁であって、
前記上弦材の端部において、前記下フランジが軸方向について前記上フランジおよび前記ウェブよりも短く形成されるとともに、前記ウェブが軸直角方向からの側面視において前記下弦材の材軸方向に沿って斜めに切断され、
前記下弦材の端部は、少なくとも前記上弦材のウェブにおける前記斜めに切断された部位の下縁に溶接され、
前記上弦材のウェブと前記下弦材とに溶接される補剛材を更に有し、当該補剛材が、前記下弦材との接合端を中心として前記下弦材の引張方向に対して90度よりも大きな角度をなす方向に延在することを特徴とする張弦梁。
【請求項2】
鉛直に延在するウェブの上下に上フランジおよび下フランジが配置された上弦材と、平坦な上面を有し、前記上弦材の両端部に接合される下弦材と、軸方向の中間位置にて前記上弦材と前記下弦材とを連結する少なくとも1つの束材とを有する張弦梁であって、
前記上弦材の端部において、前記下フランジが軸方向について前記上フランジおよび前記ウェブよりも短く形成されるとともに、前記ウェブが軸直角方向からの側面視において前記下弦材の材軸方向に沿って斜めに切断され、
前記下弦材の端部は、少なくとも前記上弦材のウェブにおける前記斜めに切断された部位の下縁に溶接され、
前記上弦材は、第1の強度を有する素材からなる上弦中央部材と、前記第1の強度よりも大きな第2の強度を有する素材からなり、前記上弦中央部材に接合されるとともに前記下弦材が溶接される一対の上弦端部材とを有し、
前記下弦材は、前記第1の強度よりも大きな第3の強度を有する素材からなることを特徴とする張弦梁。
【請求項3】
鉛直に延在するウェブの上下に上フランジおよび下フランジが配置された上弦材と、平坦な上面を有し、前記上弦材の両端部に接合される下弦材と、軸方向の中間位置にて前記上弦材と前記下弦材とを連結する少なくとも1つの束材とを有する張弦梁であって、
前記上弦材の端部において、前記下フランジが軸方向について前記上フランジおよび前記ウェブよりも短く形成されるとともに、前記ウェブが軸直角方向からの側面視において前記下弦材の材軸方向に沿う斜めの仮想線よりも下方へ突出してガセットをなす突出部を有し、
前記下弦材の端部は、前記上弦材のウェブを挟むように幅方向に2分されるとともに、少なくとも前記上弦材のウェブを挟む部分の上側および下側にて前記ウェブに溶接されたことを特徴とする張弦梁。
【請求項4】
前記上弦材は、一定断面の上弦中央部材と、当該上弦中央部材の両端に接合される一対の上弦端部材とを有することを特徴とする、請求項3に記載の張弦梁。
【請求項5】
前記上弦中央部材と前記下弦材とは、継手板およびボルト・ナットによるウェブ同士の連結により接合されたことを特徴とする、請求項2または請求項4に記載の張弦梁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−83087(P2013−83087A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223626(P2011−223626)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】