説明

強塩基性陰イオン交換樹脂、復水脱塩方法および復水脱塩装置

【課題】高純度の水質が要求される発電所における復水脱塩装置等における使用に好適な、陽イオン交換樹脂からの溶出物の吸着性能に優れ、かつプラントでの実使用に十分耐え得る強度を持つ陰イオン交換樹脂を提供する。
【解決手段】ゲル型樹脂であり、かつ、特定の方法で測定されるポリスチレンスルホン酸吸着量が0.25mmol/L−樹脂以上、平均粒径が300μm以上である強塩基性陰イオン交換樹脂。好ましくはBET比表面積が1m/g未満で、特定の方法で測定される吸光度が0.10以上0.44以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な強塩基性陰イオン交換樹脂と、この強塩基性陰イオン交換樹脂の使用方法、この強塩基性陰イオン交換樹脂を含む混床イオン交換樹脂と、この強塩基性陰イオン交換樹脂を用いた復水脱塩方法および復水脱塩装置に関するものである。詳しくは本発明は、発電所の復水脱塩装置等において、陽イオン交換樹脂との混床形態で使用する用途に好適な強塩基性陰イオン交換樹脂と、この強塩基性陰イオン交換樹脂の使用方法、この強塩基性陰イオン交換樹脂を含む混床イオン交換樹脂と、この強塩基性陰イオン交換樹脂を用いた復水脱塩方法および復水脱塩装置に関するものである。
【0002】
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂を高純度の水質が要求される発電所における復水脱塩装置等に使用することで、プラントの操業安定性を高めることができる。
【背景技術】
【0003】
ボイラーや発電設備においては、各種の熱水および常温水の脱塩処理や水質浄化処理が必要とされる。
例えば、原子力発電所には、PWR型(加圧水型)、BWR型(沸騰水型)の2種類の形式があるが、いずれにおいても冷却水の循環系にはイオン交換樹脂を充填した復水脱塩装置が設置されており、この復水脱塩装置による脱塩処理で配管等の金属製材料から溶出してくる懸濁性金属腐食生成物や、冷却水として使用される海水のリークにより混入する塩類を除去し、系統水の水質を高純度なものに維持している。
火力発電所においても、発電タービンを駆動させた後の蒸気を冷却して復水とし、この復水をリサイクルして使用するが、系内を循環する復水はイオン性不純物や懸濁性金属腐食生成物で汚染されるため、これらを除去するために復水脱塩装置が設置されている。
【0004】
ところで、イオン交換樹脂は、その構造的性質で大別すると、「ゲル型」「ポーラス(多孔性)型」に分けられ、それぞれに陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂がある。
【0005】
発電所の復水脱塩装置では、通常、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂が混床形態で使用されており、従来、それぞれの発電所の復水脱塩装置の形態に応じて様々な組み合わせの樹脂が提案されてきた。例えば、PWR型(加圧水型)原子力発電所においてはポーラス型陽イオン交換樹脂とポーラス型陰イオン交換樹脂の組み合わせ、BWR型(沸騰水型)原子力発電所においては、ゲル型陽イオン交換樹脂とゲル型陰イオン交換樹脂の組み合わせが主として使用されてきた。
【0006】
しかし、近年、プラントの設備・安全上の観点から、系統水の水質をより高純度に維持することが求められ、特に炉水中のイオン濃度、そのなかでも特に硫酸イオン濃度を管理することが重要になってきている。
この硫酸イオンの由来の多くは、発電所の復水脱塩装置に用いられる陽イオン交換樹脂である。すなわち、陽イオン交換樹脂からは母体構造の酸化劣化等により、分子量数百〜数万のポリスチレンスルホン酸が溶出し、このポリスチレンスルホン酸が処理水の硫酸イオン濃度を高める要因となる。
【0007】
このため、陽イオン交換樹脂を高架橋度として耐酸化性を高め、溶出する硫酸イオン量を低減する方法(例えば特許文献1、2)、また、イオン交換樹脂の配置法を工夫して陽イオン交換樹脂からの溶出物を陰イオン交換樹脂に吸着させる方法(例えば特許文献3、4)等が知られている。
また、陽イオン交換樹脂からの溶出物を吸着する能力を改善した陰イオン交換樹脂も提案されている(例えば特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−352283号公報
【特許文献2】特開2007−64646号公報
【特許文献3】特開2009−281873号公報
【特許文献4】特開2009−279519号公報
【特許文献5】特開2007−216094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献5等にみられるように、従来において種々開発・提供されてきた、陽イオン交換樹脂からの溶出物の吸着能を改善した陰イオン交換樹脂は、ポーラス型であるため、実用上強度に問題があった。即ち、ポーラス型イオン交換樹脂は、ゲル型イオン交換樹脂に比べて物理強度(樹脂の押し潰し強度)が低く、またイオン交換容量も小さいものである。
【0010】
このため、陽イオン交換樹脂からの溶出物の吸着性能に優れ、かつプラントでの実使用に十分耐え得る強度を持つ新規陰イオン交換樹脂の開発が望まれてきた。さらに、年々増大する水質の高純度化の要求に応えるためにも、陰イオン交換樹脂自体の更なる改善が求められているのが現状である。
【0011】
本発明は、上記の実情を鑑みて考案されたものであって、高純度の水質が要求される発電所における復水脱塩装置等における使用に好適な、陽イオン交換樹脂からの溶出物の吸着性能に優れ、かつプラントでの実使用に十分耐え得る強度を持つ新規陰イオン交換樹脂を提供するものである。本発明はまた、このような強塩基性陰イオン交換樹脂の使用方法、この強塩基性陰イオン交換樹脂を含む混床イオン交換樹脂と、この強塩基性陰イオン交換樹脂を用いた復水脱塩方法および復水脱塩装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のゲル型強塩基性陰イオン交換樹脂が上記課題を解決することができることを見出した。
即ち、本発明は以下の[1]〜[10]を要旨とする。
【0013】
[1] ゲル型樹脂であり、かつ、以下の方法で測定されるポリスチレンスルホン酸吸着量が0.25mmol/L−樹脂以上であって、平均粒径が300μm以上である、強塩基性陰イオン交換樹脂。
<ポリスチレンスルホン酸吸着量の測定方法>
東ソー有機化学(株)製ポリスチレンスルホン酸ナトリウム「ポリナスPS−1」を強酸性陽イオン交換樹脂に通液してH形とした後、H濃度として0.01mmol/Lに濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を調整する。
水酸化ナトリウム水溶液で処理してOH形に調整した強塩基性陰イオン交換樹脂をカラムに充填して水洗した後、濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を通液し、50%破過相当時のポリスチレンスルホン酸吸着量を求め、当該強塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸の吸着量とする。
【0014】
[2] 以下の方法で測定される比表面積が1m/g未満である、[1]に記載の強塩基性陰イオン交換樹脂。
<比表面積の測定方法>
強塩基性陰イオン交換樹脂を50℃の真空下で減圧加熱乾燥後、液体窒素下で吸着等温線(吸着ガス:クリプトン)を測定し、BETプロットを実施することで比表面積を算出する。
【0015】
[3] 以下の方法で測定される吸光度が0.10以上0.44以下である、[1]又は[2]に記載の強塩基性陰イオン交換樹脂。
<吸光度の測定方法>
検出器として積分球を使用した紫外・可視スペクトル測定装置において、スクリューキャップ付円筒セルに、強塩基性陰イオン交換樹脂を密に充填して、波長800nmの光の反射率を測定し、クベルカ−ムンク変換により吸光度を求める。別途、同セルに硫酸バリウムを充填して同様の測定、変換を実施し、算出した吸光度をセルの吸光度とする。セルに強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したときの吸光度からセルの吸光度を差し引いた値を、強塩基性陰イオン交換樹脂の吸光度として求める。
【0016】
[4] [1]ないし[3]のいずれかに記載の強塩基性陰イオン交換樹脂を陽イオン交換樹脂との混床形態で使用する、強塩基性陰イオン交換樹脂の使用方法。
【0017】
[5] [1]ないし[3]のいずれかに記載の強塩基性陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂とを含む、混床イオン交換樹脂。
【0018】
[6] 前記陽イオン交換樹脂の架橋度が8〜20重量%である、[5]に記載の混床イオン交換樹脂。
【0019】
[7] 発電所の復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する復水脱塩方法において、該イオン交換樹脂として[1]ないし[3]のいずれかに記載の強塩基性陰イオン交換樹脂を使用する、復水脱塩方法。
【0020】
[8] 発電所の復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する復水脱塩方法において、該イオン交換樹脂として[5]又は[6]に記載の混床イオン交換樹脂を使用する、復水脱塩方法。
【0021】
[9] 発電所の復水を脱塩処理するイオン交換樹脂塔を備える復水脱塩装置において、該イオン交換樹脂塔が[1]ないし[3]のいずれかに記載の強塩基性陰イオン交換樹脂を含む、復水脱塩装置。
【0022】
[10] 発電所の復水を脱塩処理するイオン交換樹脂塔を備える復水脱塩装置において、該イオン交換樹脂塔が[5]又は[6]に記載の混床イオン交換樹脂を含む、復水脱塩装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、ポーラス型と比べて体積当たりのイオン交換容量が大きく、物理強度(樹脂の押し潰し強度)も高いというゲル型樹脂の利点を持ちつつ、ポリスチレンスルホン酸等の陽イオン交換樹脂からの溶出物の吸着量が高いというポーラス型樹脂の利点も兼ね備えている。このため、本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、各種プラントでの使用において十分な強度を有し、また、これを陽イオン交換樹脂と併用することにより、陽イオン交換樹脂からのポリスチレンスルホン酸等の溶出物を効率的に吸着除去して処理水の水質を高めることができる。
従って、本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂を、高純度の水質が要求される発電所における復水脱塩装置等に使用することで、プラントの操業効率及びその安定性を十分に高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
[強塩基性陰イオン交換樹脂]
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、ゲル型樹脂であり、かつ、特定の方法で測定されるポリスチレンスルホン酸吸着量が0.25mmol/L−樹脂以上であって、平均粒径が300μm以上であることを特徴とする。
【0026】
前述の如く、イオン交換樹脂は、その構造的性質で大別すると、「ゲル型」「ポーラス(多孔性)型」の種類に分けられる。それらの判別方法としては、特開2009−279519号公報に記載されているように、目視において透明球はゲル型樹脂、不透明球はポーラス型樹脂として判別する方法がある。
【0027】
ゲル型樹脂は、ポーラス型と比べ、体積当たりのイオン交換容量が大きく、物理強度(樹脂の押し潰し強度)も高いという利点を有する。
一方で、ゲル型樹脂は一般に比表面積がポーラス型樹脂と比べて小さいので、通常の無機イオン(塩化物イオン等)を吸着するのには何ら問題がないが、高分子量の物質を吸着するには不利である。すなわち、前述の如く、陽イオン交換樹脂からは母体構造の酸化劣化等により、分子量数百〜数万のポリスチレンスルホン酸が溶出するが、これを吸着除去する能力は、ゲル型樹脂はポーラス型樹脂に比べて低い。
【0028】
本発明者は、鋭意検討の結果、ゲル型樹脂のイオン交換容量が大きく物理強度(樹脂の押し潰し強度)も高いという利点と、ポーラス型樹脂のポリスチレンスルホン酸の吸着能力が高いという利点をあわせもった樹脂を開発し、本発明に至った。
すなわち、一般的なゲル型樹脂は、スチレン等のモノビニル芳香族モノマーとジビニルベンゼン等の架橋性芳香族モノマーを懸濁重合等により共重合させて架橋共重合体を合成し、ここへ官能基を導入して製造される。一方で、ポーラス型樹脂の合成方法は各メーカーによって異なるものの、一般に、懸濁重合の際に不活性な物質(以下「多孔化剤」と称す場合がある。)を添加しておき、重合後にこれを除去する方法が採用されている。この多孔化剤とはすなわち、トルエン、ペンタノール、s−ブタノール、ヘプタン、イソオクタン等の有機溶媒、あるいは線状重合体の希釈物、具体的にはポリスチレンを溶解したトルエン等が挙げられる。この際、架橋度(モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの合計重量に対する架橋性芳香族モノマーの重量%)と、多孔化剤の種類とその添加量のバランスでポーラス部分の存在量が決定される。
本発明者は、スチレン等のモノビニル芳香族モノマーとジビニルベンゼン等の架橋性芳香族モノマーを重合させて架橋共重合体を合成する際に、一般的なポーラス型樹脂を合成する際に添加される上記のような多孔化剤を用い、その添加量を調整することで、ゲル型樹脂であって、かつポーラス型樹脂のポリスチレンスルホン酸の吸着能力が高いという利点をあわせもった強塩基性陰イオン交換樹脂の開発に至った。
【0029】
<ゲル型>
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、ゲル型であることを特徴とする。
【0030】
前述の通り、イオン交換樹脂はその構造的性質で大別すると、「ゲル型」「ポーラス型」の種類に分けられる。
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、ゲル型であることにより、ポーラス型樹脂に比べて、体積当たりのイオン交換容量が大きく、物理強度(押し潰し強度)が高いという特長を有する。
【0031】
<平均粒径>
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、平均粒径が300μm以上であることを特徴とする。
【0032】
強塩基性陰イオン交換樹脂の平均粒径が300μmより小さいと、樹脂充填層における通水時の圧力損失が大きくなり、送液に大容量のポンプが必要となったり、耐圧容器を使用することとなったりして、実用上不利となるため、平均粒径が300μm以上である必要がある。ただし、強塩基性陰イオン交換樹脂の平均粒径が大き過ぎると、体積あたりの表面積が小さくなりイオン交換の反応速度が低下する、あるいは樹脂の強度を維持することが難しくなるという問題がある。このため、強塩基性陰イオン交換樹脂の平均粒径は300〜1000μm、特に400〜800μmであることが好ましい。
なお、強塩基性陰イオン交換樹脂の平均粒径とは、後述の実施例の項に記載される方法で測定された値である。
【0033】
<ポリスチレンスルホン酸吸着量>
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、特定の方法で測定されるポリスチレンスルホン酸吸着量が0.25mmol/L−樹脂以上であることを特徴とする。
【0034】
強塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸吸着量が0.25mmol/L−樹脂未満では、陽イオン交換樹脂からの溶出物の吸着除去性能が不十分である。ポリスチレンスルホン酸吸着量が0.25mmol/L−樹脂以上であることにより、陽イオン交換樹脂からのポリスチレンスルホン酸等の溶出物を効率的に吸着除去して、処理水質を高めることができる。
【0035】
強塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸吸着量は、高い程好ましく、特に0.27mmol/L−樹脂以上、とりわけ0.29mmol/L−樹脂以上であることが好ましいが、ゲル型樹脂の物性上、このポリスチレンスルホン酸吸着量は通常0.5mmol/L−樹脂以下である。
【0036】
なお、強塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸吸着量は、より具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0037】
<比表面積>
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、比表面積が1m/g未満であることが好ましい。
【0038】
強塩基性陰イオン交換樹脂の比表面積が1m/g以上であるとその多孔性のために、樹脂の物理的強度(押し潰し強度)が低下する。強塩基性陰イオン交換樹脂の比表面積が1m/g未満であることにより、樹脂の物理的強度が確保され好ましい。また、強塩基性陰イオン交換樹脂の比表面積の下限については特に制限はないが、測定限界(通常0.01m/g)である。
【0039】
なお、強塩基性陰イオン交換樹脂の比表面積は、後述の実施例の項に記載される方法で測定された値である。
【0040】
<吸光度>
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、特定の方法で測定される吸光度(以下「特定吸光度」と称す場合がある。)が0.10〜0.44であることが好ましい。
【0041】
強塩基性陰イオン交換樹脂の特定吸光度が小さすぎるものは、透明性が低く、これは即ち、ゲル型というよりもポーラス型であることを示すことになる。一方、特定吸光度が大きいものは、ゲル型樹脂の透明性を有するが、特定吸光度が大き過ぎるとポリスチレンスルホン酸吸着量が低くなる。強塩基性陰イオン交換樹脂の特定吸光度が上記範囲であることにより、ポリスチレンスルホン酸吸着量と物理強度(樹脂の押し潰し強度)を十分なものとすることができ、好ましい。強塩基性陰イオン交換樹脂の特定吸光度は、より好ましくは0.20〜0.42、特に好ましくは0.30〜0.40である。
【0042】
なお、強塩基性陰イオン交換樹脂の特定吸光度は、より具体的には、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0043】
後述の実施例では、粒径を約600μmに調整したものを、特定吸光度測定の試料としているが、600μm以外の粒径(但し、均一粒径であること)の試料の場合は、当該試料の粒径Rμmと実測吸光度から下記式で求められる換算吸光度の値を特定吸光度とすればよい。
また、例えば、平均粒径(R)が450μm以下で均一性の高い粒径分布の陰イオン交換樹脂等、約600μmに粒度調整が困難な陰イオン交換樹脂は、以下の計算式を用いて、実測吸光度から、約600μmの整粒品の特定吸光度に補正することができる。
換算吸光度=実測吸光度×(600/R)
【0044】
<物理強度(樹脂の押し潰し強度)>
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される物理強度(樹脂の押し潰し強度)が350g/粒以上であることが、実用上の要求強度を満たす上で好ましい。この押し潰し強度は大きい程好ましく、より好ましくは400g/粒以上である。
【0045】
<その他の物性>
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される水分量が40〜60%であることが、イオン交換樹脂の脱塩性能を確保する点で好ましい。水分量が少な過ぎるとイオン交換樹脂内の物質拡散が抑制されるため、脱塩性が阻害され、多過ぎるとイオン交換樹脂の体積あたりの交換容量が低くなり脱塩能力が低下する。強塩基性陰イオン交換樹脂のより好ましい水分量は45〜55%である。
【0046】
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される中性塩分解能力が1.1meq/mL以上の陰イオン交換性能を有することが好ましい。この中性塩分解能力は大きいほど好ましく、より好ましくは1.2meq/mL以上である。
【0047】
<製造方法>
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂の製造方法は、本発明で規定されるポリスチレンスルホン酸吸着量と平均粒径を満たすゲル型強塩基性陰イオン交換樹脂を製造することができる方法であればよく、特に制限はないが、その具体的な一例を挙げると以下の通りである。
【0048】
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂の製造工程は、大きく分けて(a)重合工程、(b)ハロアルキル化工程、(c)アミノ化工程に分けられる。
【0049】
(a)重合工程においては、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの混合物(以下「モノマー混合物」と称す場合がある。)を共重合させて架橋共重合体を製造する際に、多孔化剤を添加して共重合を行う。
【0050】
モノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、ブロモスチレン等のハロゲン置換スチレン類が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。モノビニル芳香族モノマーとしては、中でも、スチレンまたはスチレンを主体とするモノマーが好ましい。
【0051】
また、架橋性芳香族モノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。架橋性芳香族モノマーとしては、中でも、ジビニルベンゼンが好ましい。なお、工業的に製造されるジビニルベンゼンは、通常、副生物であるエチルビニルベンゼン(エチルスチレン)を多量に含有しているが、本発明においてはこのようなジビニルベンゼンも使用できる。
【0052】
架橋性芳香族モノマーの使用量としては、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの混合物の重量に対して通常0.5〜30重量%、好ましくは2.5〜12重量%、更に好ましくは4〜10重量%である。架橋性芳香族モノマーの使用量が多く、架橋度が高くなるほど、得られる陰イオン交換樹脂のイオン交換基の導入量が低下する問題があり、一方、架橋度が低すぎると多孔化剤の効果がでにくくなり、また陰イオン交換樹脂粒子の押し潰し強度も低くなる傾向にある。
なお、架橋度の調整に後段の(b)ハロアルキル化工程において、ハロアルキル化の副反応としての後架橋反応を利用する方法もある。
【0053】
モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの共重合反応は、ラジカル重合開始剤を用いて公知の技術に基づいて行うことができる。
【0054】
ラジカル重合開始剤としては、過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等の1種又は2種以上が用いられ、その使用量は、通常、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの混合物の重量に対して0.05重量%以上、5重量%以下である。
【0055】
多孔化剤としては、前記モノマー混合物には溶解するが、得られる架橋共重合体は膨潤しない物質(以下、「貧溶媒」と称する場合がある。)、あるいは、前記モノマー混合物に溶解し、得られる架橋共重合体を膨潤させる物質(以下、「良溶媒」と称する場合がある。)を用いることができる。
【0056】
前記モノマー混合物には溶解するが得られる架橋共重合体は膨潤しない物質(貧溶媒)としては、具体的には、非水溶性の有機化合物を用いることができる。非水溶性の有機化合物としては、直鎖または分岐の炭化水素類、直鎖または分岐の非水溶性のアルコール類、ポリマー、コポリマーなどが挙げられる。直鎖または分岐の炭化水素類としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、イソオクタン、ガソリン、ミネラルオイルなどを挙げることができる。また、非水溶性のアルコール類としては、炭素数4以上でアルキル鎖が直鎖または分岐のアルコールを挙げることができ、例えばn−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、メチルイソブチルカルビノールなどが挙げられる。ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタンなどが挙げられる。また、ブロックコポリマーも使用することができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0057】
また、前記モノマー混合物に溶解し、かつ得られる架橋共重合体を膨潤させる物質(良溶媒)としては、具体的には、芳香族炭化水素類、例えば、トルエン、キシレン(オルト、メタ、パラ)、ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、ブロモベンゼン、アニリン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼンなどの、芳香環が置換されていてもよい芳香族炭化水素類を用いることができる。また、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類などを用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂の製造においては、上記多孔化剤としては、前記モノマー混合物には溶解するが得られる架橋共重合体は膨潤しない物質(貧溶媒)を用いることが、反応時の操作性、反応後の多孔化剤と架橋共重合体との分離性等において好ましい。貧溶媒の中でも、特に直鎖または分岐の炭化水素類が好ましく、中でも、ヘキサン、ヘプタン、オクタン類が好ましい。
【0059】
多孔化剤は、前記モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの混合物に対して、通常1重量%以上100重量%以下、好ましくは5重量%以上80重量%以下、より好ましくは10重量%以上60重量%以下の量で用いられる。多孔化剤の量が多いと、過度に多孔性のポリマーが生成して物理強度の低下を引き起こすので適当でなく、また、多孔化剤の量が少な過ぎるとポリスチレンスルホン酸吸着量が増加しない。即ち、本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂の製造においては、ゲル型の陰イオン交換樹脂の製造においては使用されていない多孔化剤を、通常のポーラス型の陰イオン交換樹脂の製造時の多孔化剤使用量よりも少なく用い、ポリスチレンスルホン酸吸着量を高めたゲル型陰イオン交換樹脂を製造する。
【0060】
一般に、ポーラス型陰イオン交換樹脂の製造においては、特公昭37−13792号公報中の実施例1及び実施例2に記載されているように、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの混合物に対する架橋性芳香族モノマーの使用量が12重量%以上の場合、多孔化剤は、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの混合物に対して50重量%以上使用される。
【0061】
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂の製造にあたっては、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの混合物に対する架橋性芳香族モノマーの使用量を12重量%以下にした場合、多孔化剤の使用量をモノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの混合物に対して50重量%以下とするのが好ましい。また、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの混合物に対する架橋性芳香族モノマーの使用量を10重量%以下にした場合、多孔化剤の使用量をモノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの混合物に対して60重量%以下とするのが好ましい。また、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの混合物に対する架橋性芳香族モノマーの使用量を8重量%以下にした場合、多孔化剤の使用量をモノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの混合物に対して70重量%以下とするのが好ましい。なお、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの混合物に対する架橋性芳香族モノマーの使用量や多孔化剤の使用量は、ポリスチレンスルホン酸吸着量が増加したゲル型陰イオン交換樹脂が得られる範囲において、後工程での取り扱いに必要な強度を満足する陰イオン交換樹脂が得られるように、最適な範囲を設定する必要がある。
【0062】
重合様式は、特に限定されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の種々の様式で重合を行うことができるが、このうち均一なビーズ状の共重合体が得られる懸濁重合法が好ましく採用される。懸濁重合法は、一般にこの種の共重合体の製造に使用される溶媒、分散安定剤等を用い、公知の反応条件を選択して行うことができる。
【0063】
なお、共重合反応における重合温度は、通常、室温(約18℃〜25℃)以上、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下である。重合温度が高すぎると解重合が併発し重合完結度がかえって低下する。重合温度が低すぎると重合完結度が不十分となる。
【0064】
また、重合雰囲気は、空気下もしくは不活性ガス下で実施可能であり、不活性ガスとしては窒素、二酸化炭素、アルゴン等が使用できる。また、特開2006−328290号公報に記載の重合法も好適に使用できる。また、均一粒径の架橋共重合体を得る公知の方法も好適に使用できる。例えば特開2002−35560号公報、特開2001−294602号公報、特開昭57−102905号公報、特開平3−249931号公報の方法が好適に使用できる。
前述の多孔化剤は、重合反応終了後、溶媒による洗浄あるいは加熱留去により反応系から除去して、架橋共重合体を得る。
【0065】
(b)ハロアルキル化工程は、(a)重合工程にて得られた架橋共重合体を膨潤状態で、フリーデル・クラフツ反応触媒の存在下、ハロアルキル化剤を反応させてハロアルキル化する工程である。
【0066】
架橋共重合体を膨潤させるためには、膨潤溶媒、例えばジクロロエタンを使用することができる。またハロアルキル化剤の種類によっては、ハロアルキル化剤のみで膨潤させることもできる。
【0067】
ハロアルキル化剤としては、クロロメチルメチルエーテル、塩化メチレン、ビス(クロロメチル)エーテル、塩化ビニル、ビス(クロロメチル)ベンゼン等のハロゲン化合物が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、より好ましいのはクロロメチルメチルエーテルである。
【0068】
ハロアルキル化剤の使用量は、架橋共重合体の架橋度、その他の条件により広い範囲から選ばれるが、少なくとも架橋共重合体を十分に膨潤させる量が好ましく、架橋共重合体に対して、通常1重量倍以上、好ましくは2重量倍以上であり、通常20重量倍以下、好ましくは10重量倍以下である。
【0069】
フリーデル・クラフツ反応触媒としては、塩化亜鉛、塩化鉄(III)、塩化スズ(IV)、塩化アルミニウム等のルイス酸触媒が挙げられる。これらの触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
また、フリーデル・クラフツ反応触媒の使用量は通常架橋共重合体の重量に対して0.001〜10倍量、好ましくは0.1〜2倍量、更に好ましくは0.2〜1倍量である。
【0071】
反応温度は、採用するフリーデル・クラフツ反応触媒の種類によっても異なるが、通常0℃以上で、55℃以下とすることが好ましい。
【0072】
上記ハロアルキル化反応を実施することにより、ハロアルキル化架橋共重合体を得ることができる。
【0073】
(c)アミノ化工程においては、(b)で得たハロアルキル化架橋共重合体にアミン化合物を反応させることにより、アミノ基を導入して陰イオン交換樹脂を製造するが、アミノ基の導入についても公知の方法を用いて実施することができる。
【0074】
例えば、ハロアルキル化架橋共重合体を溶媒中に懸濁させ、トリメチルアミンやジメチルエタノールアミンなどのアミン化合物と反応させる方法が挙げられる。このアミノ基導入反応の際に用いられる溶媒としては、例えば水、トルエン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジクロロエタン等の1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。アミノ化工程後は、公知の方法によって塩形を各種アニオン形に変えることによって陰イオン交換樹脂が得られる。塩形は、Cl形、OH形、炭酸形、硫酸形などが使用される。
【0075】
<使用方法>
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、その優れたポリスチレンスルホン酸吸着性能から、特に陽イオン交換樹脂との混床形態での使用に好適である。ただし、陽イオン交換樹脂との混床形態での使用に限らず、本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、その単独使用、その他の触媒樹脂との併用等、あらゆる形態で使用することができる。
【0076】
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂と併用する陽イオン交換樹脂としては、ゲル型及びポーラス型の強酸性陽イオン交換樹脂が挙げられる。好ましくは耐酸化性の高い、ゲル型の架橋度の高い陽イオン交換樹脂が使用され、その架橋度は好ましくは8〜20重量%、さらに好ましくは12〜16重量%のものが使用される。上記範囲内において、陽イオン交換樹脂の架橋度が前記下限値以上であると、陽イオン交換樹脂からの溶出物の溶出量が低減される傾向にある。なお、本発明において、使用する陽イオン交換樹脂は特に制限されないが、通常、スルホン酸基を交換基として有する強酸性陽イオン交換樹脂が用いられる。
【0077】
これらの陽イオン交換樹脂と本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂との使用割合は、用途に応じて適宜決定されるが、発電所の復水の脱塩処理においては、本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂の体積比率として1:5〜5:1、特に1:3〜3:1で使用するのが好適である。
【0078】
[復水脱塩方法および復水脱塩装置]
本発明の復水脱塩方法は、本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂を用いて原子力発電所、火力発電所等の発電所の復水を脱塩処理するものであり、本発明の復水脱塩装置は、本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂塔を備える発電所の復水脱塩装置である。
【0079】
本発明の復水脱塩方法および復水脱塩装置において、本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、好ましくは前述の陽イオン交換樹脂と、前述の使用割合で混床形態で用いられる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0081】
以下の実施例及び比較例における強塩基性陰イオン交換樹脂の各種物性の測定方法は以下の通りである。
【0082】
<平均粒径の測定方法>
平均粒径は、三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部編ダイヤイオン(登録商標)(イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル1)改訂4版第3刷(平成22年2月26日発行)第140〜142頁に記載される方法により算出した。
【0083】
<水分量の測定方法>
水分量は、前記三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部編ダイヤイオン(登録商標)(イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル1)改訂4版第3刷(平成22年2月26日発行)第131〜132頁に記載される方法により測定した。
【0084】
<中性塩分解能力の測定方法>
中性塩分解能力は、前記三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部編ダイヤイオン(登録商標)(イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル1)改訂4版第3刷(平成22年2月26日発行)第135〜137頁に記載される方法により測定した。
【0085】
<ポリスチレンスルホン酸吸着量の測定方法>
東ソー有機化学(株)製ポリスチレンスルホン酸ナトリウム「ポリナスPS−1」を強酸性カチオン樹脂に通液してH形とした後、水を添加してH濃度として0.01mmol/Lに希釈することにより、濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を調製した。
強塩基性陰イオン交換樹脂を水酸化ナトリウム水溶液で処理して塩形をOH形に調整した後、tap法(水を入れたメスシリンダーに樹脂を入れて、底部を軽くたたいて、これ以上沈まなくなった状態で体積を読み取る)にて10mLの樹脂を採取してカラムに充填後、樹脂由来の有機溶出成分がなくなるまで十分に水洗を実施した。
続いて上記の濃度調整したポリスチレンスルホン酸溶液をSV(空間速度)=20hr−1で通液し、UV検出器(波長225nm)で溶出するポリスチレンスルホン酸溶液の吸光度を測定し、破過曲線を記録した。前記濃度調整したポリスチレンスルホン酸溶液のUV吸光度に対して、溶出してきたポリスチレンスルホン酸溶液のUV吸光度が50%となったときまでに強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着されたポリスチレンスルホン酸の総吸着量を、ポリスチレンスルホン酸の吸着量として算出した。
【0086】
<比表面積の測定方法>
強塩基性陰イオン交換樹脂を50℃の真空下で減圧加熱乾燥後、液体窒素下で吸着等温線(吸着ガス:クリプトン)を測定し、BETプロットを実施することで比表面積を算出した。なお、吸着等温線はカンタークローム社製オートソーブ1MPを用いて測定した。
【0087】
<吸光度の測定方法>
検出器として積分球を使用した紫外・可視(UV−Vis)スペクトル測定装置(島津製作所製「UV2400PC」)において、スクリューキャップ付円筒セルに、サンプル(下記の方法に従って調製して、約600μmに粒度調整した湿潤状態の強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl形))を密に充填し、波長800nmの光の反射率を測定し、クベルカ−ムンク変換により吸光度を求めた。
なお、サンプル(粒径約600μmに粒度調整した湿潤状態の強塩基性陰イオン交換樹脂)は以下に示す方法で調整した。
即ち、強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl形)を600μmの篩にかけ、篩下(微粉)を取り除くとともに篩上の残留分を脱塩水で除去した。次に600μmの篩目に詰まった粒子を脱塩水の圧水でバットに回収した。この回収品を布に包み込み遠心分離して付着水分を除いた。遠心分離はかごの直径15cm、回転数3000rpmで7分間行った。
積分球は島津製作所製(検出器:ホトマル、内径:60mmφ、入口窓:12(W)×20(H)mm、出口窓:12(W)×24(H)mm、ホトマル窓:16mmφ、積分球の開口比:約11%)を使用した。ただし紫外・可視光の光路径は4mm×6mmである。スクリューキャップ付円筒セルは、GLサイエンス社製のスクリューキャップ付円筒セル(合成石英ガラス製、光路長:5mm、光路面のサイズ:22mmφ)を使用した。
また、スリット幅は5nmであった。装置のキャリブレーションは装置専用ホルダー(片開口27mmφ)に硫酸バリウムを詰めて、積分球の開口部にそのまま接触して行った。
反射率測定はサンプル(約600μmに粒度調整した湿潤状態の強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl形))を積分球の後方に設置して行った。なお、サンプルの背面には黒色板を配置した。反射率測定後付属ソフトにてクベルカ−ムンク変換を行い、吸光度を求めた。
別に、同セルに硫酸バリウム(和光純薬製、和光1級)を充填し同様の測定を実施し、この値をセル自体の反射率および吸光度とした。
セルに強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したときの吸光度からセルの吸光度を差し引いた値を強塩基性陰イオン交換樹脂の吸光度として算出した。なお測定は同一試料で3回以上を行い、平均値をとった。
【0088】
<押し潰し強度の測定方法>
強塩基性陰イオン交換樹脂に水酸化ナトリウム水溶液を通液して塩形をOH形に調整した後、上記の吸光度測定と同様にして600μmの篩にかけて回収し、粒径約600μmに粒度調整した粒子から数100個を採取し、さらにその中からランダムに60個の粒子を選び、シャチロンテスター又は同等品にて強度測定を行った。さらにその平均値をとることで、樹脂1粒あたりの物理強度(=押し潰し強度)とした。押し潰し強度は250g/粒より大きい方が好ましい。
【0089】
<実施例1>
モノマーとして、スチレン311gと純度57重量%のジビニルベンゼン51g(ジビニルベンゼン:29g、モノビニル芳香族モノマー:22g)を用い、更にイソオクタン181g、過酸化ジベンゾイル(純度75重量%、wet品)4.91gを混合してモノマー相とした。ポリビニルアルコール0.13重量%水溶液を水相とし、これと上記モノマー相を混合し、モノマー懸濁液を得た。該懸濁液を攪拌しながら75℃で6時間反応させ、その後80℃に昇温して3時間反応させて共重合体(1)を得た。
上記共重合体(1)100gを丸底フラスコに入れ、クロロメチルメチルエーテル500gを加え、共重合体を十分膨潤させた。その後、フリーデル・クラフツ反応触媒として塩化亜鉛50gを添加し、浴の温度を50℃にして攪拌しながら10時間反応させ、クロロメチル化共重合体(2)を得た。
上記クロロメチル化共重合体(2)150gを丸底フラスコに入れ、脱塩水319mL、トルエン256g、30重量%トリメチルアミン水溶液183mLを添加し、50℃で攪拌しながら8時間反応させて強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl形)(サンプルA)を得た。得られた強塩基性陰イオン交換樹脂の評価結果を表1に示す。
【0090】
<実施例2>
実施例1において、モノマー相をスチレン291g、純度57重量%のジビニルベンゼン48g(ジビニルベンゼン:27g、モノビニル芳香族モノマー:21g)、イソオクタン203g、過酸化ジベンゾイル(純度75重量%、wet品)4.54gの混合物とした以外は、実施例1と同様の方法で強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl形)(サンプルB)を得た。得られた強塩基性陰イオン交換樹脂の評価結果を表1に示す。
【0091】
<比較例1〜4>
比較例1〜4として、市販の強塩基性陰イオン交換樹脂、即ち、三菱化学(株)製「SA10DL」、同「PA316」、ロームアンドハース社製「IRA400J」、同「IRA900」を使用した。それぞれ同様の評価を実施した結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
<実施例3>
市販の強酸性陽イオン交換樹脂である、三菱化学(株)製「SK1B」(スルホン酸基を交換基として有するゲル型強酸性陽イオン交換樹脂、架橋度8重量%)を、tap法にて50mL採取した。同様に、実施例1で得られた強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl形)「サンプルA」を0.5mL採取し、両樹脂を300mL三角フラスコに投入した。さらに三角フラスコに100mLの超純水を投入した後、WATER BATH SHAKER MM−10(TAITEC社製)にセットし、水温80℃、100spmで20時間振盪した。上澄み液を回収し、UV−1600 GLP(島津製作所社製)で波長225nmにおける吸光度を測定した。結果を表2に示す。
なお、特開2001−293381号公報に記載されているように、波長225nmのUV吸光度を測定することにより、陽イオン交換樹脂から溶出するポリスチレンスルホン酸量を分析することができ、吸光度が大きい程溶出液(上澄み液)中のポリスチレンスルホン酸濃度が高いことを示す。このため、吸光度が低いほどポリスチレンスルホン酸が樹脂により除去されたこととなり好ましい。
【0094】
<実施例4>
実施例3において、強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl形)として、実施例2で得られた強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl形)「サンプルB」を用いた以外は同様の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0095】
<比較例5>
実施例3において、強塩基性陰イオン交換樹脂(Cl形)を使用せず、三菱化学(株)製「SK1B」のみで評価を実施した以外は同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
<評価>
表1および表2より、本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂からの溶出物の吸着性能に優れ、かつ実プラントでの使用に十分耐え得る強度を持つものであり、発電所の復水の脱塩処理に当たり、長期に亘り安定かつ効率的に処理を行えることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の強塩基性陰イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂からの溶出物吸着性能に優れ、かつ実プラントでの使用に十分耐え得る強度を持つものであり、高純度の水質が要求される発電所における復水脱塩装置等に好適に使用することができ、その産業上の利用可能性は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル型樹脂であり、かつ、以下の方法で測定されるポリスチレンスルホン酸吸着量が0.25mmol/L−樹脂以上であって、平均粒径が300μm以上である、強塩基性陰イオン交換樹脂。
<ポリスチレンスルホン酸吸着量の測定方法>
東ソー有機化学(株)製ポリスチレンスルホン酸ナトリウム「ポリナスPS−1」を強酸性陽イオン交換樹脂に通液してH形とした後、H濃度として0.01mmol/Lに濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を調製する。
水酸化ナトリウム水溶液で処理してOH形に調整した強塩基性陰イオン交換樹脂をカラムに充填して水洗した後、濃度調整したポリスチレンスルホン酸水溶液を通液し、50%破過相当時のポリスチレンスルホン酸吸着量を求め、当該強塩基性陰イオン交換樹脂のポリスチレンスルホン酸の吸着量とする。
【請求項2】
以下の方法で測定される比表面積が1m/g未満である、請求項1に記載の強塩基性陰イオン交換樹脂。
<比表面積の測定方法>
強塩基性陰イオン交換樹脂を50℃の真空下で減圧加熱乾燥後、液体窒素下で吸着等温線(吸着ガス:クリプトン)を測定し、BETプロットを実施することで比表面積を算出する。
【請求項3】
以下の方法で測定される吸光度が0.10以上0.44以下である、請求項1又は2に記載の強塩基性陰イオン交換樹脂。
<吸光度の測定方法>
検出器として積分球を使用した紫外・可視スペクトル測定装置において、スクリューキャップ付円筒セルに、強塩基性陰イオン交換樹脂を密に充填して、波長800nmの光の反射率を測定し、クベルカ−ムンク変換により吸光度を求める。別途、同セルに硫酸バリウムを充填して同様の測定、変換を実施し、算出した吸光度をセルの吸光度とする。セルに強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したときの吸光度からセルの吸光度を差し引いた値を、強塩基性陰イオン交換樹脂の吸光度として求める。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の強塩基性陰イオン交換樹脂を陽イオン交換樹脂との混床形態で使用する、強塩基性陰イオン交換樹脂の使用方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の強塩基性陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂とを含む、混床イオン交換樹脂。
【請求項6】
前記陽イオン交換樹脂の架橋度が8〜20重量%である、請求項5に記載の混床イオン交換樹脂。
【請求項7】
発電所の復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する復水脱塩方法において、該イオン交換樹脂として請求項1ないし3のいずれか1項に記載の強塩基性陰イオン交換樹脂を使用する、復水脱塩方法。
【請求項8】
発電所の復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する復水脱塩方法において、該イオン交換樹脂として請求項5又は6に記載の混床イオン交換樹脂を使用する、復水脱塩方法。
【請求項9】
発電所の復水を脱塩処理するイオン交換樹脂塔を備える復水脱塩装置において、該イオン交換樹脂塔が請求項1ないし3のいずれか1項に記載の強塩基性陰イオン交換樹脂を含む、復水脱塩装置。
【請求項10】
発電所の復水を脱塩処理するイオン交換樹脂塔を備える復水脱塩装置において、該イオン交換樹脂塔が請求項5又は6に記載の混床イオン交換樹脂を含む、復水脱塩装置。

【公開番号】特開2013−10097(P2013−10097A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−123381(P2012−123381)
【出願日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】