説明

強誘電性材料を特徴づける方法および装置

本発明は、強誘電性材料を特徴づける方法に関し、前記強誘電性材料のサンプルに電圧を印加するステップと、前記サンプルの中を流れる電流を測定するステップと、強誘電性材料の分極を特徴づける代表的なデータを提供するために、印加電圧信号および測定された電流の信号を共同で処理するステップとを有している。この方法は、更に、第1の周波数で大信号振幅を有する第1の電流成分、および第1の周波数より非常に大きい第2の周波数で第2の小信号振幅を有する第2の電流成分に対して、重ね合わせが実行可能なように、印加電圧を制御するステップと、局所的可逆分極効果および局所的不可逆分極効果と別々に関係する強磁性材料の特性を識別するステップとを有している。本発明は、科学的な計測装置および材料生産ラインで用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電性材料を特徴づける方法に関する。また、本発明は、この方法を実現する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電性材料は、電界E(V/m)の関数としての体積分極密度P(C/m)のヒステリシスループによって特徴づけられる。現在の特徴づけ計測器は、これらのループに特有の単純なパラメータを抽出するために用いられる。従来、これらのループは、残留分極(ゼロ電界における分極)、最大分極、抗電界(coercive field)およびバイアス電界によって記述されていた。
【0003】
しかし、ヒステリシスループの形状は、非常に複雑であり、材料内の印加電界の振幅、材料を生成するための処理、材料内の欠陥の存在、測定周波数などと密接に関係している。従って、判定が少数のパラメータだけに限られると、かなりの量の情報が隠される。
【0004】
理論的なモデルは、F. Preisachによって、Z. Phys. 94, 277 - 302 (1935)における"Uber die Magnetische Nachwirkung [On Magnetic Hysteresis]"と題された論文の中で、Preisach密度と呼ばれる、完全な切り換え密度によって、ヒステリシスループの形を完全に表現するために提唱された。
【0005】
このPreisach密度の正確な実験的判定は、例えばI. D. MayergoyzによってIEEE Trans. Magn. MAG-22, 603 - 608 (1986)における"Mathematical models of hysteresis"と題された論文の中で開示された数学的原理に依存する。
【0006】
この判定は、非常に多くの数のループ測定およびデータ処理を必要とする。現在、このPreisach密度を判定するために用いられる測定方法は、少数の測定値だけを用い、かつ、この密度の形式(form)については、事前の仮定に依存している。これらは解析法(analytical methods)と呼ばれる。
【0007】
強誘電性材料は、一般に、よい誘電体であり、その小信号動作は非線形である。この動作は、静止した電界の関数としての小信号キャパシタンスの「バタフライ」効果によって記述される。これらの効果は、Preisach密度によってモデル化することができないので、除去しなければならない。分極P(E)は、それゆえに、2つの効果、1つは局所的可逆のPrev(E)、もう1つは局所的不可逆のPirr(E)に分けなければならない(式1)。局所的可逆効果は、小信号キャパシタンスを測定することによって入手可能である。局所的不可逆効果のみ、Preisach密度によってモデル化することができる。これらの2つの効果の完全な分離は、現在の特徴づけ方法を用いては考えられない。
P(E)=Prev(E)+Pirr(E) (1)
【0008】
局所的不可逆分極は、強誘電分域切り換え状態(ferroelectric domain switching state)、換言すれば分域壁(domain wall)の位置を表している。分域壁変位は、ある動的な動作になりやすく、これは複雑な過渡現象を導入する。過渡現象は、Preisachモデルにおいては考慮に入れられないので、除去しなければならない。これらの過渡現象の除去は、現在の特徴づけ方法においては考えられない。
【非特許文献1】F. Preisach, "Uber die Magnetische Nachwirkung [On Magnetic Hysteresis]", Z. Phys. 94, 277 - 302 (1935)
【非特許文献2】I. D. Mayergoyz, "Mathematical models of hysteresis", IEEE Trans. Magn. MAG-22, 603 - 608 (1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、壁変位による局所的可逆現象および過渡現象を除去することを可能にする特徴づけの方法を提案することによって、これらの欠点を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、以下のステップを有する、強誘電性材料を特徴づける方法によって成し遂げられる。
この強誘電性材料のサンプルに電圧を印加するステップ
このサンプルの中を流れる電流を測定するステップ
印加電圧信号および測定された電流の信号を共同で処理して、強誘電性材料の分極を特徴づける代表的なデータを提供するステップ
【0011】
本発明によれば、この方法は、更に以下のステップを有している。
印加電圧をフィードバック制御して、第1の周波数で、いわゆる「大信号」の第1の振幅を有する第1の電流成分を、第1の周波数より非常に高い第2の周波数で、いわゆる「小信号」の第2の振幅を有する第2の電流成分上に重ね合わせるステップ
局所的可逆分極効果および局所的不可逆分極効果と別々に関係する強誘電性材料の特性を識別するステップ
【0012】
本発明は、局所的不可逆分極の完全な抽出、および分域壁変位のダイナミクスによる過渡現象の除去を可能にする計測を提案する。そこで、事前の仮定を必要としないPreisach密度の実験的判定が考えられる。この実験的Preisach密度は、強誘電性材料が印加電界の振幅とは無関係に特徴づけられることを可能にする。材料の疲労または局所的インプリント(imprint)現象のような、欠陥の存在による、ある現象の影響は、容易に観察される。
【0013】
本発明の別の態様は、本発明の方法を実現する、強誘電性材料を特徴づける装置を提案し、この装置は、以下の手段を備えている。
強誘電性材料のサンプルにAC電圧を印加する手段
このサンプルの中を流れる電流を測定する手段
印加電圧信号および測定された電流の信号を共同で処理して、強誘電性材料の分極を特徴づける代表的なデータを提供する手段
この装置は、更に以下の手段を備えていることを特徴とする。
印加電圧をフィードバック制御して、第1の周波数で、いわゆる「大信号」の第1の振幅を有する第1の電流成分を、第1の周波数より非常に高い第2の周波数で、いわゆる「小信号」の第2の振幅を有する第2の電流成分上に重ね合わせる手段
処理データから、局所的可逆分極効果および局所的不可逆分極効果と別々に関係する強誘電性材料の特性を抽出する手段
【0014】
本発明の他の利点および特徴は、全く本発明を限定するわけではない実施形態の詳細な説明および添付の図面を検討すれば明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図面を参照して、本発明の特徴づけ方法の原理を、特徴づけ装置の中でのその実現と同時に、以下で説明する。
【0016】
強誘電性材料を特徴づけるためには、サンプルの端子間に印加される電圧、および前記によって吸収される電流の測定が完全に制御されていることを保証する必要がある。発生器(generator)の内部インピーダンスにおける電圧降下を無視することができるときに、図1のような単純な仮想接地回路を用いることができる。
【0017】
本発明の特徴づけ方法においては、電圧のフィードバック制御が提供され、これにより高い電流吸収レベルが可能となっている。相互コンダクタンス演算増幅器の使用に基づくフィードバック制御の一例が、図2に示されている。
【0018】
従って、測定システムは、強誘電性サンプルの端子間に、ある電圧を印加する一方で、前記によって吸収される電流を測定することが可能となっている。この測定システムは、Preisach密度を判定するために用いられる計測の核心である。
【0019】
大信号低周波サイクルの間に測定された電流は、可逆および不可逆の効果を含む、全ての分極効果の原因である。
【0020】
局所的可逆効果は、大信号電圧上に、非常に低振幅だが高周波の正弦波信号を重ね合わせることによって、別々に測定することができる。そして、小信号キャパシタンスは、図3に示すように、同期検出によって同時に測定される。
【0021】
サンプルによって吸収される電流の式は、式2によって与えられる。この電流は、式3によって記述される、いくつかの効果に分けられ、これらは、局所的不可逆分極効果、局所的可逆効果および真空キャパシタンスによる効果(これもまた可逆である)である。
【0022】
【数1】

【0023】
電流は、電界の変化の方向に依存し、かつ電界が減少するとき、到達した最後の最大電界値Emaxに依存する。小信号キャパシタンスC(Emax,E)、試料の厚さh、サンプルの面積Sおよびサンプルの飽和分極Psatが現れる、電流の式(式4)は、式3から導き出される。量Hdec(Emax,E)は、有効分域切り換え密度(effective domain switching density)と呼ばれ、局所的不可逆効果を表している。
【0024】
【数2】

【0025】
式4は、分域壁変位のダイナミクスを組み込んでいない。電界の傾斜に中断があるとき、このダイナミクスは、極めて厄介な過渡現象の原因である。サンプルに印加される電界のグラフは区分的線形であり、これによりdE/dtを計算することが簡単になる。そして、最後(電界が方向を変えるとき)の過渡効果は、図4のような電圧平坦部によって除去される。これらの平坦部は、取得ステップを始める前に、分域壁ダイナミクスによる過渡現象が終わるまで待つことを可能にする。この方法は、Preisach密度の形(shape)への測定周波数の影響を実質的に除去することを可能にする。
【0026】
図5は、前記の論文"Mathematical models of hysteresis"の中に記載されているFORC法を用いて、有効分域切り換え密度の判定の間に集められた測定値を示している。このデータは、過渡効果の除去および局所的可逆効果の減算の後に得られる。
【0027】
Preisach密度N(X,Y)と、この有効分域切り換え密度との関係は、Mayergoyzによって与えられる(式5)。従って、図6に示すように、Preisach密度を、Emaxのさまざまな値に対して集められた図5のデータから計算することが可能である。
【0028】
【数3】

【0029】
もちろん、本発明は、ここまで説明してきた例に限定されず、本発明の範囲から逸脱することなく、これらの例に対して多くの変更をなすことは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来技術を表わす仮想接地回路を示している。
【図2】本発明の方法で用いられる、サンプルの端子間電圧のフィードバック制御の原理、および前記によって吸収される電流の測定を示している。
【図3】本発明の特徴づけ装置によって得られる、小信号キャパシタンス、強誘電性材料のサンプルによって吸収される電流、および、その端子間に印加される電圧の同時測定を示している。
【図4】サンプルによって吸収される電流、および、その端子間に印加される電圧の時間変化を示している(最後に平坦部を示している)。
【図5】本発明の特徴づけ装置によって得られる、(Emax,E)平面内にプロットされた有効分域切り換え密度を示している。
【図6】左上から見た図において(in a top left view)、実験的Preisach密度を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電性材料を特徴づける方法において、
この強誘電性材料のサンプルに電圧を印加するステップと、
同時にこのサンプルの小信号キャパシタンスを測定するステップと、
このサンプルの中を流れる電流を測定するステップと、
印加電圧信号、測定された電流の信号および小信号キャパシタンス信号を共同で処理して、強誘電性材料の分極を特徴づける代表的なデータを提供するステップと
を有していて、更に、
印加電圧をフィードバック制御して、第1の周波数で、いわゆる「大信号」の第1の振幅を有し、かつ最後に平坦部を有する第1の電流成分を、第1の周波数より非常に高い第2の周波数で、いわゆる「小信号」の第2の振幅を有する第2の電流成分上に重ね合わせるステップと、
局所的可逆分極効果および局所的不可逆分極効果と別々に関係する強誘電性材料の特性を識別するステップとを有していることを特徴とする方法。
【請求項2】
本発明の方法を実現する、強誘電性材料を特徴づける装置において、
この強誘電性材料のサンプルにAC電圧を印加する手段と、
このサンプルの中を流れる電流を測定する手段と、
このサンプルの小信号キャパシタンスを測定する手段と、
印加電圧信号、測定された電流の信号および小信号キャパシタンス信号を共同で処理して、強誘電性材料の分極を特徴づける代表的なデータを提供する手段と
を備えていて、更に、
印加電圧をフィードバック制御して、第1の周波数で、いわゆる「大信号」の第1の振幅を有し、かつ最後に平坦部を有する第1の電流成分を、第1の周波数より非常に高い第2の周波数で、いわゆる「小信号」の第2の振幅を有する第2の電流成分上に重ね合わせる手段と、
処理データから、局所的可逆分極効果および局所的不可逆分極効果と別々に関係する強誘電性材料の特性を抽出する手段とを備えていることを特徴とする装置。
【請求項3】
電圧フィードバック制御手段は、相互コンダクタンス演算増幅器を有していることを特徴とする請求項2に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−500575(P2006−500575A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539111(P2004−539111)
【出願日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【国際出願番号】PCT/FR2003/002729
【国際公開番号】WO2004/029638
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(500174661)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・レシェルシュ・サイエンティフィーク−セ・エン・エール・エス− (54)
【出願人】(505110653)
【Fターム(参考)】