説明

弾性栓体およびそれを備えた医療用キャップ

【課題】 熱可塑性エラストマー樹脂成分を含む弾性栓体であっても、プラスチック針等の穿刺針による針刺しの際の穿刺抵抗を低減し、これにより針刺しを容易に行うことが可能な弾性栓体およびそれを備えた医療用キャップを提供する。
【解決手段】本発明は、容器の開口を閉栓するための弾性栓体11であって、前記弾性栓体11の針刺面14の任意の位置に、穿刺針の針刺しを行うための凹部13が少なくとも1つ設けられており、前記凹部13の底面は平坦状であり、前記凹部13の開口縁部および底面は、前記穿刺針の最大径よりも大きく、かつ、当該凹部13に穿刺針の針刺しを行ったときに、当該凹部13の開口縁部が穿刺針に接触しない面積を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液容器、採血管、バイアル瓶等の容器の閉栓に用いられる弾性栓体およびそれを備えた医療用キャップに関する。特に、医療用プラスチック針等の穿刺針を容易に針刺しすることが可能な弾性栓体およびそれを備えた医療用キャップに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野に用いられる薬液ボトルや点滴用の輸液ボトル等の薬剤容器には、その開口を閉栓するための医療用キャップが設けられている。さらに、前記医療用キャップとしては、プラスチック針でその薬液を取り出せるようにするため、ゴム栓や、支持体の内側に弾性栓体(例えば、ゴムやエラストマー樹脂等)を設けたものが用いられている。また、この様な医療用キャップには、薬液や輸液の漏洩を防止したり、空気に触れることによる変質を防止するために、密閉性が求められている。
【0003】
前記の弾性栓体を用いた医療用キャップに於いては、支持体を薬剤容器の口部に溶着等することにより取り付けられる。そして、使用時には弾性栓体に、取り出し用チューブを備えたプラスチック針を突き刺し、薬剤容器を上側にし、医療用キャップを下側に配置することにより、当該取り出し用チューブを介して容器内の輸液を取り出す。
【0004】
ここで、従来の医療用キャップにおいては、前記プラスチック針の穿刺部の外径がステンレス針等と比べて大きいために、当該プラスチック針による針刺しの場合には、穿刺抵抗が大きく針刺しがしづらいという問題があった。このような問題に対し、下記特許文献1〜3では、口栓体(前記弾性栓体に対応)に穿刺針の穿刺用の凹部を設け、さらに凹部に穿刺針の挿入ガイド用の案内筒体を設けている。また、前記案内筒体の底部は、凹部の底面に沿って円錐状に形成されている。これらの特許文献によれば、前記のような構成を採用することにより、穿刺針としてプラスチック針を用いた場合にも針刺しを可能にすると共に、口栓体の変形や脱落の防止が図れるとの開示がなされている。
【0005】
しかし、特許文献1〜3に開示の輸液容器用口栓体の様に、凹部の底面を円錐状に形成すると、プラスチック針を口栓体に針刺しする際の穿刺抵抗が十分に低減できないという問題がある。即ち、図9(a)および9(b)に示すように、従来の口栓体102に於ける凹部103の大きさは穿刺針の最大径とほぼ同じ大きさであり、プラスチック針101の針刺しの際には、当該プラスチック針の押圧により口栓体102全体が撓み変形して凹部103が歪む。そのため、図9(c)に示すように、プラスチック針101の穿刺部104が口栓体102に埋入を始める、針刺しの初期の段階で、凹部103が歪んで当該穿刺部104に纏わり付く様に接触する。さらに、プラスチック針101の押圧が進み、基部105も口栓体102に埋入し始めると、口栓体102自体も歪み、その結果、当該基部105にも口栓体102が纏わり付く様に接触して摩擦抵抗が生じる。最後に、穿刺部104が口栓体102を貫通すると、針刺しが完了する(図9(d)参照)。この様に、従来の口栓体101であると、針刺しの際に、プラスチック針101に口栓体101が纏わり付く様に接触する結果、プラスチック針101に対し摩擦抵抗が生じ、この摩擦抵抗が穿刺抵抗となって、針刺しを容易に行えないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−220117号公報
【特許文献2】特開2003−339821号公報
【特許文献3】特開2004−49598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、熱可塑性エラストマー樹脂成分を含む弾性栓体であっても、プラスチック針等の穿刺針による針刺しの際の穿刺抵抗を低減し、これにより針刺しを容易に行うことが可能な弾性栓体およびそれを備えた医療用キャップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、弾性栓体およびそれを備えた医療用キャップについて検討した。その結果、下記構成を採用することにより、前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明に係る医療用キャップは、前記の課題を解決するために、容器の開口を閉栓するための弾性栓体であって、前記弾性栓体の針刺面の任意の位置に、穿刺針の針刺しを行うための凹部が少なくとも1つ設けられており、前記凹部の底面は、前記穿刺針の最大径以上の大きさを有し、前記凹部の開口縁部は前記穿刺針の最大径よりも大きく、かつ、前記凹部に前記穿刺針の針刺しを行ったときに、当該凹部の開口縁部が穿刺針の全周にわたり接触しないことを特徴とする。
【0010】
前記の構成によれば、弾性栓体の針刺面には、穿刺針による針刺しを行うための凹部が設けられている。さらに、凹部の底面は穿刺針の最大径以上の大きさを有している。そのため、針刺しの際に、穿刺針の押圧により凹部の底面が歪んでも、当該穿刺針に過度に接触して摩擦抵抗が生じるのを抑制する。その結果、穿刺抵抗の低減が図れ、従来の弾性栓体と比べて針刺しを容易に行うことができる。さらに、本発明は、前記凹部の開口縁部が穿刺針の最大径よりも大きく、かつ、針刺しを行ったときに、前記開口縁部が穿刺針の全周にわたって接触しない構造となっている。そのため、穿刺抵抗をさらに低減し、針刺しの容易性を一層向上させている。
【0011】
前記の構成に於いては、前記凹部の底面が平坦面であることが好ましい。
【0012】
また、前記の構成に於いては、前記凹部の底面が凹状の円錐面であり、水平面とのなす角度が0°より大きく、10°以下の傾斜を有することが好ましい。凹部の底面が凹状の円錐面の場合、穿刺針を弾性栓体に針刺しする際の穿刺抵抗が増大する。しかし、本発明に於いては凹部の開口縁部が穿刺針よりも大きいことに加えて、穿刺針による針刺しの際には、開口縁部が穿刺針の全周にわたって接触しない構造となっている。さらに、前記構成の通り、水平面とのなす角度も10°以下に設定されているので、針刺しの際に、穿刺針の押圧により凹部の底面が歪んでも、当該穿刺針に過度に接触して摩擦抵抗が生じるのを抑制することができる。
【0013】
また、前記の構成に於いては、前記凹部の底面が凹状の曲面であり、その曲率半径が7.3mm以上であることが好ましい。当該構成によれば、凹部の底面を、曲率半径が7.3mm以上の凹状の曲面にすることにより、針刺しの際に、穿刺針の押圧により凹部の底面が歪んでも、当該穿刺針に過度に接触して摩擦抵抗が生じるのを抑制することができる。
【0014】
また、前記の構成に於いては、熱可塑性エラストマー樹脂成分を含むことが好ましい。熱可塑性エラストマー樹脂成分を含む弾性栓体は、ゴムからなる弾性栓体と同じ硬度であっても、プラスチック針等による針刺しを行ったときの穿刺抵抗が大きい。これは、熱可塑性エラストマー樹脂の方が、ゴムよりも、プラスチック針等で穿刺するときの撓み変形量が大きいことに起因する。しかしながら、本発明の構成であると、凹部の底面が穿刺針の最大径以上の大きさで、平坦状に形成されており、さらに、針刺し時にも凹部の開口縁部や壁面が穿刺針に接触しない構造となっているので、前記のような熱可塑性エラストマー樹脂成分を含む弾性栓体であっても、穿刺針による針刺しを容易に行うことができる。
【0015】
本発明に係る医療用キャップは、前記の課題を解決するために、前記構成の弾性栓体と、当該弾性栓体を内部で保持する支持体とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の弾性栓体は、その針刺面の任意の位置に、穿刺針の針刺しを行うための凹部が少なくとも1つ設けられており、凹部の底面は穿刺針の最大径以上の大きさを有している。そのため、針刺しの際に、穿刺針の押圧により凹部の底面が歪んでも、当該穿刺針に過度に接触して摩擦抵抗が生じるのを抑制している。また、凹部の開口縁部も穿刺針の最大径より大きく、かつ、針刺しの際に、穿刺針に接触しない構造となっている。その結果、従来の弾性栓体と比べて、穿刺針の針刺しの際の穿刺抵抗を低減することができる。
【0017】
即ち、本発明によれば、例えば、熱可塑性エラストマー樹脂成分を含む弾性栓体であっても、プラスチック針等の穿刺針の針刺しの際の穿刺抵抗を低減し、針刺しを容易に行うことが可能な弾性栓体およびそれを備えた医療用キャップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の一形態に係る医療用キャップを説明するための断面模式図である。
【図2】前記医療用キャップにおける弾性栓体を模式的に示す断面模式図である。
【図3】前記弾性栓体における凹部を示す拡大断面図である。
【図4】前記弾性栓体を針刺面側からみた平面図である。
【図5】前記弾性栓体を接液面側からみた平面図である。
【図6】前記弾性栓体における凹部に穿刺針を針刺しする際の様子を表す断面模式図である。
【図7】本発明の他の弾性栓体を表す断面模式図であって、同図(a)は凹部がテーパー状に形成されている場合を表し、同図(b)は凹部の底面における縁部に環状溝が設けられている場合を表す。
【図8】本発明の他の弾性栓体を表す断面模式図であって、同図(a)は凹部が凹状の円錐面である場合を表し、同図(b)は凹部が凹状の曲面である場合を表す。
【図9】従来の弾性栓体(口栓体)における凹部に穿刺針を針刺しする際の様子を表す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、図1〜図8を参照しながら以下に説明する。但し、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にするために拡大又は縮小等して図示した部分がある。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係る医療用キャップ10は、弾性栓体11と、弾性栓体11の側周部22を針刺面14側から内壁で保持する上側枠部12aおよび接液面15側から内壁で保持する下側枠部12bを備えた支持体12とを有する構造である。前記「針刺面」とは、本実施の形態に係る医療用キャップ10が薬液ボトルや点滴に用いられる輸液ボトル等に装着され、薬液等を取り出す際に、穿刺針により針刺しが行われる面を意味する。また、「接液面」とは、薬液等が接する面を意味する。
【0021】
前記支持体12を構成する材料としては、合成樹脂のうち、医療用途としての安全性が確立されたものであれば足りる。中でも熱可塑性樹脂を用いるのが一般的である。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等の従来医療用途に用いられている樹脂が好ましいが、これらに限定されるものではない。また、プルトップ型の場合、上側枠部12aを構成する材料としては、例えば、熱可塑性エラストマーが好ましい。より具体的には、オレフィン系、スチレン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル系、ポリブタジエン系等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。更に、支持体12には着色剤等の任意の成分を添加してもよい。
【0022】
前記支持体12における上側枠部12aはプルトップ型の態様でもよい。また、本実施の形態に於いては、下側枠部12bはフランジを設けた態様であるが、本発明はこの態様に限定されるものではなく、当該フランジを適宜必要に応じて省略してもよい。さらに、上側枠部12aと下側枠部12bとが一体的に成形された支持体であってもよい、
【0023】
弾性栓体11の全体形状は円柱状からなる。弾性栓体11の直径dは特に限定されず、支持体12の内部に収容できる程度であればよい。通常は12mm〜40mmの範囲内で設定することができる。さらに、針刺面14の直径dおよび接液面15の直径dも適宜設定することができる。dおよびdは、通常は5mm〜30mmの範囲内で設定することができる。また、弾性栓体11の厚みtは特に限定されないが、通常は3mm〜10mmの範囲内で設定することができる。厚みtを3mm以上にすることにより、弾性栓体11全体の剛性が低下するのを防止することができる。その一方、厚みtを10mm以下にすることにより、穿刺針21による針刺しが困難になるのを防止することができる。但し、本発明はこの形状に限定されるものではなく、適宜必要に応じて任意の形状に変更可能である。
【0024】
弾性栓体11の針刺面14側には、弾性栓体11が支持体12から脱落するのを防止するための段差部17が設けられている(図2および図4参照)。さらに、弾性栓体11の接液面15側には、支持体との嵌合を可能にし、穿刺針21による針刺しの際の脱落を防止するための環状溝16が設けられている(図2および図5参照)。但し、弾性栓体11は、図2に示すような形態に限定されるものではなく、例えば、針刺面14および接液面15の両方ともフラットな面を有する形状であってもよい(但し、針刺面14において凹部が設けられている点を除く)。
【0025】
尚、前記穿刺針21としては特に限定されず、例えば、先端の穿刺部21aがテーパー状であり、それに続く基部21bが円筒状構造の瓶針等が挙げられる。また、穿刺針21の構成材料も特に限定されず、例えば、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、PC(ポリカーボネート)樹脂、PMMA(メタクリル)樹脂などの合成樹脂等を用いることができる。
【0026】
前記穿刺部21aの先端角度θは鋭角であって、特に限定されないが、通常は、20°〜60°の範囲内のものを用いることができる。また、穿刺針21の最大径としての基部21bの最大直径は特に限定されず、通常はφ3.5mm〜φ5.5mmのものが用いられる。
【0027】
また、弾性栓体11の針刺面14側には、穿刺針21の針刺しを行うための凹部13が針刺面14の中央に1つ設けられている(図2〜4参照)。さらに、前記針刺面14側には、複数の薬剤を混合調整する混注の際に、金属針による針刺しを行うための針刺部23が、凹部13とは別に設けられている(図2および図4参照)。当該針刺部23は金属針による針刺しを行うものであり、プラスチック針等と比較して外径が小さく、針刺しが比較的容易であるため、断面形状が円錐状のものを用いることができる。各針刺部23は、弾性栓体11の中心に設けられている凹部13よりも外側の同心円状に位置している。また、各針刺部23は相互に等間隔になるように設けられている。尚、本発明に於いては、凹部13を混注の際の金属針による針刺し用に用いることも可能である。この場合、前記針刺部23を設けることなく、凹部13を任意の位置に複数設ければよい。
【0028】
前記凹部13の底面18は平坦状であり、かつ、その大きさは穿刺針21の最大径と同一又はそれよりも大きい。また、凹部13の開口縁部20も穿刺針21の最大径より大きく、かつ、凹部13に針刺しを行った際に、当該開口縁部20が穿刺針21に接触しない程度の大きさを有している。より具体的には、図3に示すように、開口縁部20の直径rが穿刺針21の最大径よりも大きい構成となっている。このような構成を採用することにより、穿刺針21による針刺しを従来の弾性栓体と比較して、容易に行うことが可能になる。尚、穿刺針21による弾性栓体11への針刺しは、後述の通り、穿刺部21aが弾性栓体11を貫通し、基部21bが弾性栓体11内に埋入した状態で完了する。従って、本実施の形態に於いて、穿刺針21の最大径とは、基部21bの最大直径を意味する。
【0029】
また、針刺面14に凹部13を設けることにより、当該部分では厚みが薄くなるので、穿刺針21の針刺しを容易に行うことができる。ここで、穿刺針21の針刺しの容易性を向上させるという観点からは、弾性栓体11全体を薄くするという態様も考えられる。しかし、この態様の場合には、弾性栓体11全体の剛性が低下する。そのため、穿刺針21による針刺しの際には、当該穿刺針21の押圧により弾性栓体11が大きく撓むという問題がある。しかし、本実施の形態においては、針刺しを行う部分にのみ前記凹部13を設けるので、弾性栓体11の剛性を低下させることなく、針刺しを容易にすることができる。
【0030】
前記凹部13が穿刺抵抗を低減させるメカニズムは、次の通りである。即ち、図6(a)および6(b)に示すように、穿刺針21を凹部13の平坦状の底面18に位置させて、穿刺針21により弾性栓体11を押圧すると、弾性栓体11が変形して撓む。その後、図6(c)に示すように、当該穿刺針21の穿刺部21aが弾性栓体11に埋入を始める。さらに、穿刺針21の押圧を進めると、穿刺針21の基部21bも弾性栓体11に埋入を始める。これにより、弾性栓体11は歪むが、凹部13の開口縁部20は、針刺しの際に、穿刺針21に接触しない程度の大きさであるため、開口縁部20と基部21bの間で摩擦抵抗が生じるのを防止することができる。最後に、穿刺部21aが弾性栓体11を貫通して、接液面15側に表出し、基部21bが弾性栓体11内に埋入した状態になると、針刺しが完了する(図6(d)参照)。このように、凹部13として、その底面18が平坦状であり、針刺しの際に、開口縁部20が穿刺針21に接触しない程度の大きさを有する構成を採用することにより、従来の弾性栓体と比較して、穿刺抵抗の低減が図れ、針刺しの容易性を向上させることができる。
【0031】
凹部13の底面18における縁部19は曲面状となっていることが好ましい。この場合、針刺面14に対し垂直な断面における曲率半径は0.3mm〜3mmの範囲内が好ましく、0.4mm〜2mmの範囲内がより好ましく、0.5mm〜1mmの範囲内が特に好ましい。前記曲率半径を0.3mm以上にすることにより、穿刺針21による針刺しの際に、凹部13が穿刺針21の押圧により歪んでも、凹部13の壁面25が穿刺針21に向かって倒れ込まないように、その歪みを緩和することができる。その結果、凹部13の壁面25が穿刺針21に接触して摩擦抵抗が生じるのを防止し、穿刺針による針刺しを一層容易にすることができる。その一方、前記曲率半径を3mm以下にすることにより、凹部13の壁面25が緩やかではあるが垂直に近い傾斜面となって、当該凹部13と針刺面14との境界、即ち、開口縁部20が不明瞭になるのを避けることができる。尚、本実施の形態に於いては、縁部19が曲面状の場合を例にして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、底面18と壁面25とが、少なくとも鋭角を形成しなければよい。縁部が曲面状でない場合の態様については、後段にて詳述する。
【0032】
凹部13の深さhは、0.5mm〜3mmの範囲が好ましく、0.8mm〜2.5mmの範囲内がより好ましく、1mm〜2mmの範囲内が特に好ましい。前記深さhを0.5mm以上にすることにより、穿刺針21を貫通させるための実質的な厚みを低減し、針刺しの容易性の向上が図れる。その一方、前記深さhを3mm以下にすることにより、弾性栓体11の針刺しの部分における厚みが薄くなって、穿刺針21の針刺し後の保持性が低下するのを防止することができる。
【0033】
前記弾性栓体11は、穿刺針による針刺しが可能な材料からなるものであれば特に限定されない。そのような材料としては、例えば、ゴムや熱可塑性エラストマー樹脂が挙げられる。前記ゴムとしては特に限定されず、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレン−イソブチレンゴム等が例示できる。また、熱可塑性エラストマーとしては特に限定されず、例えば、オレフィン系、スチレン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル系、ポリブタジエン系等が例示できる。中でも共役ジエン系の熱可塑性エラストマーに水素添加した熱可塑性エラストマー(SEBS、SEPS、HSBR、SEBR、CEBC)が好適である。
【0034】
弾性栓体11の特性については特に限定されず、穿刺針21が貫通できる程度の硬度を有していればよい。また、通常の保管の際に容易に変形したり、破損したりしない程度の形状保持性を有するものが好ましい。弾性栓体11のA硬度は、JIS K6253に定義されたデュロメータ硬さ試験による測定に於いて、5度〜50度の範囲内が好ましく、10度〜40度の範囲内がより好ましく、30度〜40度の範囲内が特に好ましい。前記A硬度を5度以上にすることにより、穿刺針21を弾性栓体11に貫通させた状態で保持することができる。その一方、A硬度を50度以下にすることにより、穿刺針21の針刺部分から輸液等が液漏れするのを防止することができる。
【0035】
ここで、弾性栓体11が熱可塑性エラストマー樹脂成分を含む場合、その硬度がゴムからなる弾性栓体と同じであっても、熱可塑性エラストマー樹脂成分を含む弾性栓体の方が、プラスチック針等の針刺しを行ったときの穿刺抵抗が大きく、そのため針刺しがし難い。これは、熱可塑性エラストマー樹脂成分を含む場合、弾性栓体11の弾性率が高くなって、プラスチック針等の穿刺針で押圧穿刺する凹部が歪み、穿刺針に纏わり付くことに起因する。しかしながら、本実施の形態のように、凹部13は、その底面18が平坦状であり、かつ、針刺し時に開口縁部20や壁面25が穿刺針21に接触しない構造になっているので、熱可塑性エラストマー樹脂成分を含む弾性栓体であっても、穿刺針21による針刺しを容易にすることができる。
【0036】
尚、前記熱可塑性エラストマー樹脂は、ゴムに比べて極めて衛生的な素材であるが、使用する薬液によっては、弾性栓体11の接液面15に、ラミネート加工を行ってもよい。ラミネート加工には、支持体12又は取り付けるべき容器と同一種類の樹脂が一般に用いられる。これにより、薬液が接触する容器内や弾性栓体11の接液面15と同一又は類似した性質の材料とすることができる。
【0037】
また、弾性栓体11の製造方法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性エラストマー樹脂等を含む材料を圧潰しながら行うコンプレッション成形や射出成形により製造可能である。
【0038】
本実施の形態に係る医療用キャップは、例えば、薬液を針で取り出すタイプの容器に取り付けて用いることができる。具体的には、薬液を収容する本体部と薬液を針で取り出す取出部とを有した医療用ボトルや医療用バッグ等において、前記医療用キャップをその取出部として用いることが可能である。これにより、液洩れの防止や、針抜けに対する保持力を維持しながら、穿刺針の針刺しの際における穿刺抵抗を低減して、従来の医療用キャップよりも針刺しの容易性を向上させることができる。
【0039】
尚、本発明に係る弾性栓体および医療用キャップは、前記に示した態様に限定されるものではなく、当該発明の効果を奏する範囲で種々の変更が可能である。例えば、図7(a)および7(b)に示すような態様を採用することも可能である。
【0040】
即ち、図7(a)に示すように、弾性栓体の凹部31が、テーパー状の断面形状を有するものであってもよい。この態様の場合、底面18は、穿刺針21の最大径と同じ大きさにしてもよい。このような構造であっても、穿刺針21の針刺しの際に、当該穿刺針21に開口縁部20および壁面32が接触するのを防止し、穿刺抵抗の低減が図れる。また、凹部の壁面が底面に対して直角となる場合と比べて、金型による成形の容易性の向上も図れる。前記凹部31の底面18と壁面32のなす角αは、100°〜170°の範囲内であることが好ましく、より好ましくは115°〜155°であり、特に好ましくは130°〜140°である。
【0041】
また、図7(b)に示すように、凹部33における底面18の縁部に環状溝34を設けた態様であってもよい。このような構造であっても、穿刺針21の針刺しの際に、当該穿刺針21に開口縁部20および壁面32が接触するのを防止し、穿刺抵抗の低減が図れる。環状溝34の深さhは特に限定されないが、0.5mm〜2.5mmの範囲内が好ましく、より好ましくは1mm〜2mmであり、特に好ましくは1.2mm〜1.8mmである。また、環状溝34の溝幅wは特に限定されないが、0.2mm〜2mmの範囲内が好ましく、より好ましくは0.5mm〜1.8mmであり、特に好ましくは0.8mm〜1.5mmである。
【0042】
さらに、本発明に係る弾性栓体は、図8(a)に示すように、底面36が凹状の円錐面である凹部35を備えた態様であってもよい。このとき、底面36が水平面となす角度βは、0°より大きく10°以下であることが好ましく、0°より大きく5°以下であることがより好ましい。凹部35の底面36が凹状の円錐面の場合、穿刺針21を弾性栓体に針刺しする際の穿刺抵抗が増大するが、本発明に於いては凹部35の開口縁部20が穿刺針21の最大径よりも大きいことに加えて、穿刺針21による針刺しの際には、開口縁部20が穿刺針21の全周にわたって接触しない構造となっている。さらに、水平面とのなす角度も10°以下に設定されているので、針刺しの際に、穿刺針21の押圧により凹部35の底面36が歪んでも、当該穿刺針21に過度に接触して摩擦抵抗が生じるのを抑制することができる。また、底面36は、その中心方向に向かって、凹状の円錐面となっていることが好ましい。これにより、底面36の中心部に穿刺針21の針刺し位置をガイドさせることが可能になる。さらに、凹部35の底面36における縁部37は曲面状となっていてもよい。この場合、針刺面14に対し垂直な断面における曲率半径の数値範囲は、前述の場合と同様である。
【0043】
また、本発明に係る弾性栓体は、図8(b)に示すように、底面39が凹状の曲面である凹部38を備えた態様であってもよい。このとき、底面39の曲率半径Rは14.5mm以上あることが好ましい。曲率半径Rの上限については、底面39が平坦状でなければ特に限定されない。凹部38の底面を、曲率半径Rが14.5mm以上の凹状の曲面にすることにより、針刺しの際に、穿刺針21の押圧により凹部38の底面39が歪んでも、当該穿刺針21に過度に接触して摩擦抵抗が生じるのを抑制することができる。さらに、凹部38の底面39における縁部40は曲面状となっていてもよい。この場合、針刺面14に対し垂直な断面における曲率半径の数値範囲は、前述の場合と同様である。
【実施例】
【0044】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。
【0045】
(実施例1)
本実施例に於いては、前述の図1に示す構造の医療用キャップを用いた。支持体における上側枠部および下側枠部の材料としてはそれぞれポリプロピレンを用いた。また、弾性栓体の材料としてはスチレン系熱可塑性エラストマー(栓体用グレード)を用いた。さらに、支持体を成形するための成形機としては、日精樹脂工業(株)製の二色射出成形機(商品名;DC100−200)を使用した。
【0046】
本実施例で用いた弾性栓体の形状寸法は下記の通りである。
弾性栓体の直径d:23mm
針刺面の直径d:16.5mm
接液面の直径d:20mm
弾性栓体の厚みt:6mm
凹部の直径r:5mm
凹部の深さh:1mm
凹部の底面における縁部の曲率半径:1mm
硬度(JIS A):35度
【0047】
(実施例2)
本実施例に於いては、凹部に於ける底面の縁部が直角となった弾性栓体を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、本実施例に係る医療用キャップを作製した。
【0048】
本実施例で用いた弾性栓体の形状寸法は下記の通りである。
弾性栓体の直径d:23mm
針刺面の直径d:16.5mm
接液面の直径d:20mm
弾性栓体の厚みt:6mm
凹部の直径r:5mm
凹部の深さh:1mm
硬度(JIS A):35度
【0049】
(比較例1)
本比較例に於いては、断面形状が円錐状の凹部を有する弾性栓体を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、本比較例に係る医療用キャップを作製した。
【0050】
本比較例で用いた弾性栓体の形状寸法は下記の通りである。
弾性栓体の直径:23mm
針刺面の直径:16.5mm
接液面の直径:20mm
弾性栓体の厚み:6mm
凹部の直径:4.6mm
凹部の深さ:1mm
硬度(JIS A):35度
【0051】
(硬度(JIS−A)の測定)
前記実施例および比較例で用いた各弾性栓体のA硬度の前記測定値については、JIS−K6253に定義されたデュロメータ硬さ試験により測定したものである。
【0052】
(穿刺抵抗試験)
前記実施例および比較例で得られた医療用キャップに対し、オートクレーブにより110℃で30分間の滅菌処理を行った。その様な医療用キャップを20サンプル用意し、テルモ株式会社製テルフュージョン輸液セット(品番)TK−U200Lを穿刺針(瓶針)として用いて、それぞれの弾性栓体に針刺しを行い、そのときの穿刺抵抗を調べた。
【0053】
具体的には、各医療用キャップを引張圧縮試験機((株)今田製作所製、商品名;SV55)にセットし、それぞれの医療用キャップにおける弾性栓体の針刺面側に、前記試験機に取り付けた下記の穿刺針を垂直に突き刺した。穿刺針を突き刺す際の移動速度を200mm/minとし、穿刺針の基部が貫通するまでの間における貫通力(単位;N)を測定した。尚、穿刺針としては、穿刺部の長さが14mm、基部の長さが15mmのものを用いた。また、穿刺針の最大径(基部の最大直径)は4.6mmであった。結果を下記表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
(穿刺針の保持力試験)
前記実施例および比較例で得られた医療用キャップに対し、オートクレーブにより110℃で30分間の滅菌処理を行った。その様な医療用キャップを20サンプル用意し、穿刺抵抗試験で用いたのと同様の穿刺針をそれぞれ弾性栓体に刺したときの保持力について調べた。
【0056】
各医療用キャップを引張圧縮試験機((株)今田製作所製、商品名;SV55)にセットし、前記試験機に取り付けた前記穿刺針を、医療用キャップの弾性栓体に垂直に突き刺した。その後、穿刺針を200mm/minの速度で上昇させ、該穿刺針が弾性栓体から抜けるときの力(単位;N)を測定した。測定は、それぞれ最大値、最小値、平均値および標準偏差を求めた。結果を下記表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
(穿刺針の液漏れ試験)
前記実施例および比較例で得られた医療用キャップに対し、オートクレーブにより110℃で30分間の滅菌処理を行った。次に、各医療用キャップを試験用圧力缶体に取り付け、医療用キャップにおける弾性栓体の凹部にテルモ(株)製連結管(商品名;TC−00503B)の針刺しを行い、その状態で4時間放置した。その後、抜針し、弾性栓体の凹部からの液漏れの有無を調べた。結果を下記表3に示す。尚、検体数は300個とした。
【0059】
【表3】

【0060】
(結果)
前記表1〜3から明らかな通り、本実施例1および2に係る医療用キャップでは、穿刺針の保持力を維持すると共に、液漏れの発生を抑制しながら、穿刺針の針刺しを行う際の穿刺抵抗の低減を図ることができた。これに対し、比較例1に係る医療用キャップでは、穿刺針の保持力および液漏れについては良好であったが、穿刺抵抗が高かったことから、実施例1および2の医療用キャップと比較して、針刺しが容易ではなかった。
【符号の説明】
【0061】
10 医療用キャップ
11 弾性栓体
12 支持体
12a 上側枠部
12b 下側枠部
13、31、33、35、38 凹部
14 針刺面
15 接液面
16 環状溝
17 段差部
18、36、39 底面
19、37、40 縁部
20 開口縁部
21 穿刺針
21a 穿刺部
21b 基部
22 側周部
25、32 壁面
23 針刺部
34 環状溝



【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の開口を閉栓するための弾性栓体であって、
前記弾性栓体の針刺面の任意の位置に、穿刺針の針刺しを行うための凹部が少なくとも1つ設けられており、
前記凹部の底面は、前記穿刺針の最大径以上の大きさを有し、
前記凹部の開口縁部は前記穿刺針の最大径よりも大きく、かつ、前記凹部に前記穿刺針の針刺しを行ったときに、当該凹部の開口縁部が穿刺針の全周にわたり接触しない弾性栓体。
【請求項2】
前記凹部の底面が平坦面である請求項1に記載の弾性栓体。
【請求項3】
前記凹部の底面が凹状の円錐面であり、水平面とのなす角度が0°より大きく、10°以下の傾斜を有する請求項1に記載の弾性栓体。
【請求項4】
前記凹部の底面が凹状の曲面であり、その曲率半径が7.3mm以上である請求項1に記載の弾性栓体。
【請求項5】
熱可塑性エラストマー樹脂成分を含む請求項1又は2に記載の弾性栓体。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の弾性栓体と、当該弾性栓体を内部で保持する支持体とを有する医療用キャップ。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−461(P2013−461A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136576(P2011−136576)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000225278)内外化成株式会社 (27)
【Fターム(参考)】