説明

弾性波装置

【課題】高温下におかれたとしても、電気抵抗の増大や周波数特性の劣化を抑制することができ、かつ耐電力試験における特性の劣化を抑制することができる、弾性表面波装置を提供する。
【解決手段】圧電基板2上にIDT電極3が形成されており、IDT電極3が複数の金属膜を積層してなる積層金属膜からなり、該積層金属膜が、Al膜またはAl基合金からなる第1の金属膜3bと、第1の金属膜とは異なる金属もしくは合金からなる第2の金属膜3eと、第1,第2の金属膜間に配置されているCu膜3c及びTi膜3dを有し、Cu膜3c及びTi膜3dの内、Cu膜3cが第1の金属膜3b側に配置されている、弾性波装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば帯域フィルタや共振子などに用いられる弾性波装置に関し、より詳細には、IDT電極がAlもしくはAl合金からなる金属膜を含む積層金属膜からなる弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体通信機器のフィルタや共振子として弾性表面波装置が広く用いられている。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、図9に示す弾性表面波素子が開示されている。弾性表面波素子101では、圧電基板102上に、電極103が形成されている。電極103は、下方から、下部Ti層104、MoもしくはWまたはこれらの金属の合金からなる中間金属層105、上部Ti層106、AlもしくはAl合金からなる上部導電層107を順次積層してなる。ここでは、下部Ti層104の厚さが10nm〜30nm、中間金属層105の厚さが30nm〜65nm、上部Ti層106の厚さが10〜30nmとされている。それによって、耐電力性を高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−20134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の弾性表面波素子101では、上記特定の厚みの各金属層を積層することにより耐電力性が高められている。しかしながら、耐電力試験や、リフロー半田付けなどの高温雰囲気にさらされると、下部Ti層104及び上部Ti層106中のTiが隣接する金属層に拡散していた。そのため、Ti層の欠損が生じがちであった。その結果、上部Ti層106の下方に位置している中間金属層105中のMoもしくはWと、上方に位置している上部導電層107中のAlとが相互拡散しがちであった。よって、IDT電極の電極指の抵抗が高くなり、周波数特性が劣化するという問題があった。また、耐電力試験中においても、同様に、Ti層106がAl層107に拡散し周波数変動を起こすという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、高温にさらされたとしても、電極を形成している金属層間の拡散を防止することや、電極指の抵抗を低めることができ、かつ周波数特性及び耐電力性の劣化が生じ難い弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る弾性波装置は、圧電基板と、圧電基板上に形成されたIDT電極とを備える。IDT電極は、複数の金属膜を積層してなる積層金属膜からなる。この積層金属膜は、AlまたはAl基合金からなる第1の金属膜と、第1の金属膜とは異なる金属もしくは合金からなる第2の金属膜と、第1,第2の金属膜間に配置されているCu膜及びTi膜とを有する。Cu膜及びTi膜の内、Cu膜が第1の金属膜側に配置されている。
【0008】
本発明の弾性波装置のある特定の局面では、上記Al基合金が、Alを主体とし、Cu、Si、Mg、Ti、Ag、Ni、Zn、Au及びCrからなる群から選択された少なくとも1種の金属を含む。この場合には、弾性波装置の耐電力性を高めることができる。
【0009】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記第2の金属膜が、Pt、Au、Ag、Ta、W、Mo、Pd、Ni及びCrからなる群から選択された少なくとも1種の金属または該金属を主体とする合金からなる。この場合には、弾性波装置の耐電力性をより効果的に高めることができる。
【0010】
本発明に係る弾性波装置では、好ましくは、上記Ti膜の膜厚は弾性波の波長に対する波長比で1.5%以下とされ、その場合には、弾性波装置の周波数特性の低下をより一層抑制することができる。
【0011】
本発明に係る弾性波装置は、弾性表面波装置であってもよく、または弾性境界波装置であってもよい。弾性境界波装置の場合には、IDT電極を覆うように誘電体層がさらに備えられ、該誘電体層と圧電基板との界面を伝搬する弾性境界波を利用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る弾性波装置では、AlまたはAl基合金からなる第1の金属膜と、第1の金属膜とは異なる金属もしくは合金からなる第2の金属膜との間に、Cu膜及びTi膜が配置されており、Cu膜が第1の金属膜側に配置されている。このため、高温にさらされたとしても、第1の金属膜中のAlと、第2の金属膜を構成している金属との相互拡散を確実に抑制することができる。従って、周波数特性の劣化を抑制することができる。また、TiがAlへ拡散することを抑制することができるので、電極指の抵抗の劣化も生じ難く、耐電力試験における周波数変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の要部を示す部分正面断面図であり、(b)は、その電極構造を示す模式的平面図である。
【図2】第1の比較例の積層構造の正面断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の弾性波装置に相当する、圧電基板と積層金属膜とが積層されている積層構造の正面断面図である。
【図4】図2及び図3の各積層構造についての耐熱試験結果を示し、加熱条件とシート抵抗値との関係を示す図である。
【図5】第2の実施形態の弾性波装置を示す部分正面断面図である。
【図6】耐電力試験の試験方法を説明するための模式的平面図である。
【図7】本発明の一実施形態の弾性波装置の伝送特性を示す図である。
【図8】第2の実施形態の弾性波装置及び比較のために用意した第2の比較例の弾性波装置の耐電力試験の結果を示す図である。
【図9】従来の弾性表面波素子を説明するための正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0015】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の要部を示す部分正面断面図であり、(b)はその電極構造を示す平面図である。
【0016】
本実施形態の弾性波装置1は、弾性表面波を利用した弾性表面波装置である。
【0017】
弾性波装置1は、圧電基板2と、圧電基板2上に形成されたIDT電極3とを有する。圧電基板2は、本実施形態では、LiNbOからなる。圧電基板2は、LiTaOや水晶などの他の圧電単結晶により形成されていてもよい。また、圧電基板2は、PZTなどの圧電セラミックスにより形成されていてもよい。
【0018】
図1(b)に示すように、IDT電極3の弾性表面波伝搬方向両側に反射器4,5が形成されている。それによって、弾性波装置1では、弾性表面波共振子が構成されている。
【0019】
IDT電極3は、複数本の電極指を有する一対のくし歯電極を有する。一方のくし歯電極の複数本の電極指と、他方のくし歯電極の複数本の電極指とが互いに間挿し合っている。IDT電極3と反射器4,5とは、積層金属膜からなる。
【0020】
図1(a)に示すように、IDT電極3は、複数の金属膜を積層してなる積層金属膜からなる。より具体的には、IDT電極3は、上方から順にTi膜3a、AlCu合金膜3b、Cu膜3c、Ti膜3d、Pt膜3e及びNiCr膜3fをこの順序で積層した構造を有する。これらの各金属膜の厚みは以下の通りである。
【0021】
Ti膜3a=10nm、AlCu合金膜3b=130nm、Cu膜3c=10nm、Ti膜3d=10nm、Pt膜3e=40nm、NiCr膜3f=10nm。
【0022】
上記AlCu合金膜3bはAlを100重量%に対し、Cuを10重量%含む、Al基合金膜である。Al基合金とは、Alを主体とする合金をいう。
【0023】
NiCr膜3fは、IDT電極3のLiNbOからなる圧電基板2への密着性を高めるための密着層として設けられている。密着層は設けられずともよい。
【0024】
IDT電極3では、主たる電極層は、厚みが130nmのAlCu合金膜3bと、厚みが40nmのPt膜3eである。Pt膜3e及びAlCu合金膜3bが上記のようにIDT電極3の主たる電極層として形成されているため、所望の共振特性が得られる。すなわち、Pt及びAlCuによる質量負荷作用により、所望の共振特性が得られ、かつAlCu合金膜3bにより導電性が高められている。
【0025】
また、AlCu合金膜3bと、Pt膜3eとの間には、Cu膜3c及びTi膜3dが形成されている。
【0026】
上記Ti膜3a、AlCu合金膜3b、Cu膜3c、Ti膜3d、Pt膜3e及びNiCr膜3fは、蒸着法により成膜されている。
【0027】
すなわち、LiNbOを用意し、LiNbO基板上に、NiCr、Pt、Ti、Cu、AlCu合金、Tiを順に蒸着法により成膜することにより、IDT電極3を形成することができる。
【0028】
ところで、弾性波装置1では、IDT電極3を形成した後に、高温にさらされることがある。例えば、リフロー半田付けによりプリント基板等に実装されるに際し、270℃程度の高温にさらされることがある。従って、IDT電極3は、高温において劣化しないことが求められる。
【0029】
このような高温にさらされると、AlCu合金膜3b中のAlがPt膜3e側に拡散するおそれがある。また、PtがAlCu合金膜3b側に拡散するおそれもある。このような相互拡散を防止するために、拡散防止膜としてTi膜3dが形成されている。
【0030】
加えて、本実施形態では、Cu膜3cが、AlCu合金膜3b側に配置されている。このため、高温下において、TiのAlCu合金膜3bへの拡散を抑制することでTi膜3dの欠損を防ぎ、AlとPtの相互拡散を効果的に抑制することができる。
【0031】
すなわち、高温下において、薄いTi膜3d中のTiが、AlCu合金膜3bに拡散する。しかしながら、Cu膜3cにより、Tiの拡散が抑制される。従って、Ti膜3dが欠損し難い。従って、AlとPtとの相互拡散を確実に抑制することができる。よって、弾性波装置1の共振特性などの周波数特性の劣化を抑制することができる。また、耐電力試験中においても、Ti膜3d中のTiがAlCu合金膜3bに拡散することを抑制できるため、耐電力試験における周波数変動を抑制することができる。これを、具体的な実験例に基づき説明する。
【0032】
上記相互拡散抑制効果を確認するために、図3に示す積層構造を用意した。圧電基板としてのLiNbO基板12上に、上記実施形態と同様にして、ただしIDT電極ではなく、LiNbO基板12の上面の全面に積層金属膜を形成した。この積層金属膜では、上から順に、上記実施形態と同じ厚みのTi膜13a、AlCu合金膜13b、Cu膜13c、Ti膜13d、Pt膜13e、及びNiCr膜13fが積層されている。この積層金属膜の形成に際しては、LiNbO基板12上に、蒸着により各金属膜を順次成膜した。
【0033】
比較のために、図2に示す第1の比較例の積層構造を用意した。図2に示す第1の比較例の積層構造111では、LiNbO基板112上に、積層金属膜が形成されている。この積層金属膜は、上から順に、Ti膜113a、AlCu合金膜113b、Ti膜113c、Pt膜113d、及びNiCr膜113eを有する。これらの金属膜の厚みは、以下の通りである。
【0034】
Ti膜113aの厚み=10nm、AlCu合金膜113bの厚み=130nm、Ti膜113cの厚み=10nm、Pt膜113dの厚み=40nm、NiCr膜113eの厚み=10nm。AlCu合金及びNiCr合金については、上記第1の実施形態と同様の組成とした。
【0035】
上記のようにして得た図3の第1の実施形態に相当する積層構造及び図2に示した第1の比較例の積層構造を、260℃、320℃及び350℃の温度にそれぞれ2時間加熱し、積層金属膜のシート抵抗を渦電流式シート抵抗測定装置により測定した。結果を図4及び下記の表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
図4及び表1から明らかなように、第1の比較例の積層構造では、加熱前のシート抵抗が528.5mΩ/□であるのに対し、260℃及び320℃に2時間加熱すると、シート抵抗が324及び381mΩ/□に低下し、加熱によりシート抵抗がかなり低くなることがわかる。加えて、320℃を超え、350℃に2時間加熱すると、シート抵抗は3801mΩ/□と1桁以上高くなった。すなわち、従来例に相当する第1の比較例の積層構造では、加熱を施こさない、常温すなわち25℃程度の温度の雰囲気下から、260℃及び320℃まで温度が高くなると、シート抵抗がかなり変動し、加えて、360℃以上では、シート抵抗が著しく高くなることがわかる。
【0038】
これに対して、第1の実施形態のIDT電極に対応する図3の積層構造では、加熱なしの状態から、260℃及び320℃に2時間加熱したとしても、シート抵抗が若干低くなるだけであった。また、350℃の温度で2時間加熱しても、シート抵抗はわずかに高くなるだけであった。
【0039】
第1の比較例の積層構造において、シート抵抗が加熱により変動し、350℃以上で大きく劣化するのは以下の理由によると考えられる。
【0040】
すなわち、Ti膜113c中のTiがAlCu合金膜113bに拡散し、Ti膜113cに欠損が生じているためと考えられる。この欠損部分を介してAlCu合金膜113bと、Pt膜113dとの間でのAlとPtの相互拡散が生じ、シート抵抗が大きく劣化しているものと考えられる。すなわち、Ti膜113cが加熱下において拡散防止層として十分に機能していない。
【0041】
これに対して、上記実施形態に相当する図3に示した積層構造では、Cu膜13cが設けられているため、Ti膜13d中のTiのAlCu合金膜13b側への拡散が抑制されている。それによって、上記Ti膜13dでは欠損が抑制されていると考えられる。
【0042】
従って、350℃以上の高温プロセスにおかれたとしても、AlとPtとの相互拡散を効果的に抑制することができ、シート抵抗値の大幅な劣化を確実に防止することができる。
【0043】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置の要部を示す部分正面断面図である。
【0044】
本実施形態の弾性波装置21は、弾性表面波を利用した弾性表面波装置である。弾性波装置21は、LiNbOからなる圧電基板22を有する。圧電基板22上に、IDT電極23が形成されている。IDT電極23の弾性表面波伝搬方向両側に反射器が形成されている。このIDT電極と反射器とからなる電極構造は、図1(b)に示した弾性波装置1の場合と同様である。
【0045】
IDT電極23及び反射器は、複数の金属膜を積層してなる積層金属膜からなる。この積層金属膜の構造は、前述したIDT電極3と同様である。すなわち、上から順に、Ti膜23a、AlCu合金膜23b、Cu膜23c、Ti膜23d、Pt膜23e及びNiCr膜23fがこの順序で積層されている。
【0046】
第2の実施形態の弾性波装置21では、IDT電極23及び反射器を覆うように、温度特性改善膜24が形成されている。温度特性改善膜24は、酸化ケイ素からなる。また、温度特性改善膜24上に、保護膜25として窒化ケイ素膜が形成されている。
【0047】
第2の実施形態の弾性波装置21においても、IDT電極23において、AlCu合金膜23bと、Pt膜23eとの間において、Cu膜23c及びTi膜23dが積層されている。Cu膜23c及びTi膜23dの内、Cu膜23cがAlCu合金膜23b側に位置している。従って、第1の実施形態の場合と同様に、高温下におかれたとしても、Ti膜23dの欠損が生じ難いため、IDT電極の抵抗の変化及び上昇を抑制でき、かつ周波数特性の安定化を図ることができる。
【0048】
第2の実施形態についてのより具体的な実験例につき説明する。
【0049】
37°YカットX伝搬のLiNbOからなる圧電基板22を用意した後、IDT電極23及び反射器が形成される部分が開口部とされているレジストパターンを形成した。次に、蒸着法により、NiCr、Pt、Ti、Cu、AlCu合金及びTiをこの順序で順次成膜した。しかる後、リフトオフ法によりレジストパターンを除去し、IDT電極23及び反射器を形成した。各金属膜の厚みは以下の通りとした。
【0050】
Ti膜23a=10nm、AlCu合金膜23b=130nm、Cu膜23c=10nm、Ti膜23d=10nm、Pt膜23e=40nm、NiCr膜23f=10nm。
【0051】
次に、酸化ケイ素をスパッタリングにより成膜し、厚み620nmの酸化ケイ素膜を形成した。しかる後、スパッタリングにより、厚さ20nmの窒化ケイ素膜を形成した。このようにして、上記温度特性改善膜24及び保護膜25を形成した。
【0052】
なお、IDT電極に連なるように、外部との電気的接続のための電極パッドをIDT電極と同様の積層金属膜により形成した。また、この電極パッド部分に、開口部を有するように、温度特性改善膜24及び保護膜25を形成した。
【0053】
比較のために、Cu膜23cを成膜しなかったことを除いては、上記第2の実施形態と同様にして、第2の比較例の弾性波装置を得た。
【0054】
電極パッドにボンディングワイヤを接続し、図6に示すようにIDT電極に800mWの電力を投入し、耐電力試験を行った。図7は、第2の実施形態における耐電力試験のときの伝送特性を示す波形である。この波形における10dBFL位置、すなわち挿入損失が最小の部分に比べて挿入損失が10dB低い部分の周波数位置により耐電力性を評価した。
【0055】
耐電力試験については、800mWの電力を印加し続け、上記10dBFL位置の周波数の変化である10dBFL変化率を求めた。すなわち、10dBFL変化率={(試験時間tにおける10dBFL周波数−初期状態の10dBFL周波数)/初期状態の10dBFLの周波数}(ppm)を求めた。結果を図8に示す。また、比較のために用意した上記第2の比較例の耐電力試験結果も図8に併せて示す。
【0056】
図8から明らかなように、第2の比較例では、耐電力試験において、試験時間が経過するにつれて、10dBFL変化率が次第に大きくなっていくことがわかる。例えば、15時間では、10dBFL変化率は、2時間後の値の約8倍〜9倍程度と非常に大きくなっていることがわかる。
【0057】
これに対して、第2の実施形態の弾性波装置21では、15時間経過後においても、10dBFL変化率はほとんど変わっておらず、周波数特性がさほど変化していないことがわかる。
【0058】
これは、第2の比較例では、AlCu合金膜とPt膜との間のTi膜中のTiがAlCu合金膜側に拡散していることにより、周波数が高域側にシフトしているためと考えられる。すなわち、Ti膜の拡散により、AlCu合金中にTiが拡散したことによって、周波数特性が変化していると考えられる。
【0059】
これに対して、第2の実施形態では、AlCu合金膜23bと、Ti膜23dとの間にCu膜23cが設けられているため、Ti膜23d中のTiの拡散が抑制されている。このため、耐電力試験における周波数変化率を抑制することが可能とされている。従って、耐電力試験における周波数特性の劣化を抑制することができ、ひいては、耐電力性に優れた弾性波装置21を提供することができる。
【0060】
なお、第1,第2の実施形態では、AlCu合金膜により、第1の金属膜が形成されていたが、第1の金属膜は、AlCu合金だけでなく、Alに他の金属を添加してなる様々なAl基合金膜により形成することができる。すなわち、Alを主体とし、Cu、Si、Mg、Ti、Ag、Ni、Zn、Au及びCrからなる群から選択された少なくとも1種の金属を含む合金膜を用いることができる。また、第1の金属膜はAl膜により形成されていてもよい。
【0061】
他方、第2の金属膜は、Ptにより形成されていたが、Pt以外の他の金属または該金属を主体とする合金により形成されていてもよい。すなわち、第2の金属膜は、Pt、Au、Ag、Ta、W、Mo、Pd、Ni及びCrからなる群から選択された少なくとも1種の金属または該金属を主体とする合金により形成することができる。
【0062】
第1及び第2の金属膜が上記のような様々な金属もしくは合金により形成されている場合であっても、上記第1,第2の実施形態と同様に、Cu膜が第1の金属膜側に配置されていることにより、Tiの拡散によるTi膜の欠損を確実に抑制することができる。
【0063】
なお、上記AlまたはAl基合金からなる第1の金属膜と、第2の金属膜との間に配置されるTi膜の膜厚は、弾性波の波長に対する比である波長比で1.5%以下であることが望ましい。波長比が1.5%を超えると、弾性波装置や弾性境界波装置としての特性劣化が大きくなる。従って、波長比は1.5%以下であることが望ましい。
【0064】
第2の実施形態では、周波数温度係数TCFの絶対値を低めるために、酸化ケイ素により温度特性改善膜24が形成されている。
【0065】
また、上記保護膜25について、窒化ケイ素だけでなく酸化ケイ素、酸化タンタル、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、DLC(ダイアモンドライクカーボン)、酸化チタン、窒化チタン、炭化ケイ素などを用いてもよい。
【0066】
また、温度特性改善膜24や保護膜25は、複数の絶縁層を積層してなる積層膜により形成されていてもよい。
【0067】
さらに、第1,第2の実施形態では、最上部にTi膜3a,23aが設けられたが、Ti膜3a,23aは設けられずともよい。
【0068】
第1,第2の実施形態では、弾性表面波装置につき説明したが、本発明は、IDT電極を覆うように設けられた誘電体層をさらに備え、該誘電体層と圧電基板との界面を伝搬する弾性境界波を利用した弾性境界波装置にも適用することができる。
【0069】
また、共振子だけでなく、帯域フィルタや遅延線などの様々な弾性波デバイスに本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1…弾性波装置
2…圧電基板
3…IDT電極
3a…Ti膜
3b…AlCu合金膜
3c…Cu膜
3d…Ti膜
3e…Pt膜
3f…NiCr膜
4,5…反射器
12…LiNbO基板
13a…Ti膜
13b…AlCu合金膜
13c…Cu膜
13d…Ti膜
13e…Pt膜
13f…NiCr膜
21…弾性波装置
22…圧電基板
23…IDT電極
23a…Ti膜
23b…AlCu合金膜
23c…Cu膜
23d…Ti膜
23e…Pt膜
23f…NiCr膜
24…温度特性改善膜
25…保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成されたIDT電極とを備え、
前記IDT電極が、複数の金属膜を積層してなる積層金属膜からなり、該積層金属膜が、AlまたはAl基合金からなる第1の金属膜と、前記第1の金属膜とは異なる金属もしくは合金からなる第2の金属膜と、前記第1,第2の金属膜間に配置されているCu膜及びTi膜とを有し、Cu膜及びTi膜の内Cu膜が第1の金属膜側に配置されている、弾性波装置。
【請求項2】
前記Al基合金が、Alを主体とし、Cu、Si、Mg、Ti、Ag、Ni、Zn、Au及びCrからなる群から選択された少なくとも1種の金属を含む、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記第2の金属膜が、Pt、Au、Ag、Ta、W、Mo、Pd、Ni及びCrからなる群から選択された少なくとも1種の金属または該金属を主体とする合金からなる、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記Ti膜の膜厚が、弾性波の波長に対する波長比で1.5%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
弾性表面波装置である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記IDT電極を覆うように設けられた誘電体層をさらに備え、該誘電体層と圧電基板との界面を伝搬する弾性境界波を利用している弾性境界波装置である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−135469(P2011−135469A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294792(P2009−294792)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】