説明

弾性繊維用処理剤及びそれを用いて得られた弾性繊維

【課題】 解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性、編織加工時における風綿吸着の防止に優れる弾性繊維用油剤。
【解決手段】分散媒体としてシリコーン油、鉱物油及びエステル油より選ばれる少なくとも一種以上と、分散剤としてアミノ変性シリコーンと炭化水素基もしくはオキシアルキレン基を少なくとも分子中に一つ以上含むリン酸エステルとが該分散媒体/該アミノ変性シリコーンと該リン酸エステルの和=100/0.005〜100/20(重量比)の割合であって、該アミノ変性シリコーン/該リン酸エステル=100/0.005〜100/1500(重量比)の割合からなる該分散媒体と該分散剤の混合物中に、平均粒子径が0.01〜5μmの高級脂肪酸の金属塩が、該分散媒体と該分散剤の混合物100重量部当たり0.01〜10重量部の割合で分散されていることを特徴とする弾性繊維用処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性繊維用処理剤に関する。詳しくは、該処理剤を弾性繊維に付与することで、解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性に優れた弾性繊維が得られ、弾性繊維と綿糸を用いた編物や織物において、綿糸がこすれて生じた風綿の吸着が少なく編織の工程での弾性繊維の糸切れが起こらなくなるような弾性繊維用処理剤、及び該処理剤を用いて処理された弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性繊維の処理剤としていくつかの提案がなされている。特公平6−15745号公報、特開昭60−81374号公報、特公昭40−5557号公報、特公昭37−4586号公報には、膠着防止剤として高級脂肪酸の金属塩を処理剤に用いる方法が記載されている。特開平9−49167号公報、特開平7−173770号公報には、制電剤としてアルキルホスフェート金属塩とアルキルホスフェートアミン塩を処理剤に用いる方法が記載されている。特開平11−12950号公報には、シリコーンオイル、カルボキシアミド変性シリコーン、高級脂肪酸マグネシウム塩からなる処理剤が記載されている。
【特許文献1】特公平6−15745号公報
【特許文献2】特開昭60−81374号公報
【特許文献3】特公昭40−5557号公報
【特許文献4】特公昭37−4586号公報
【特許文献5】特開平9−49167号公報
【特許文献6】特開平7−173770号公報
【特許文献7】特開平11−12950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
チーズからの糸条の解舒性については、繊維間の膠着性が強過ぎて解舒性不良となり、糸切れが発生する場合と、繊維間の摩擦が低くて、チーズ捲形状が悪くなり、均一に糸条がチーズから解舒されないため、糸切れが発生する場合とがあり、後者の場合、解舒時の糸速度がより高速になったり、静電気が多いと更に糸切れが多くなる。
弾性繊維用処理剤は、シリコーン油、鉱物油およびエステル油などの疎水性のベース成分を用いているため、制電性が不十分である。
前述の高級脂肪酸の金属塩を用いた弾性繊維用処理剤は、糸条同士の膠着を防止する効果はあるが、繊維間の摩擦が低くて、チーズ捲形状に崩れを生じたり、静電気防止効果が充分でないため、解舒時に、糸切れが発生することがある。前述の特開平11−12950号公報に記載されているように、高級脂肪酸の金属塩の他にカルボキシアミド変性シリコーンを用いた処理剤でも静電気防止などにおいて充分な改善はなされない。又、高級脂肪酸の金属塩を用いた弾性繊維用処理剤は、高級脂肪酸の金属塩が経時的に分離、凝集、沈澱を生ずるなどして、分散安定性が良くない。
加工工程での操業性安定化には、平滑性が必要である。前述のアルキルホスフェート金属塩を用いた弾性繊維用処理剤は対金属の摩擦が高いため、加工工程において糸切れを生じたり、繊維間の摩擦が低くて、チーズ捲形状に崩れを生じたりするだけでなく、極性が強いため、疎水性成分からなる弾性繊維用処理剤のベース成分への溶解性が良くないこともあり、前述の特開平9−49167号公報、特開平7−173770号公報に記載されているようなアルキルホスフェート金属塩の他にアルキルホスフェートアミン塩を用いた処理剤でも、平滑性、チーズ捲形状、そしてベース成分への溶解性などにおいて充分な改善はなされない。
弾性繊維と綿糸を交編する場合、制電性が悪いと、発生静電気により風綿が弾性繊維に吸着して吸糸口に詰まり、吸糸口で糸切れが起こるため、たびたび清掃しなければいけない問題がある。本発明は、弾性繊維用処理剤として用いる場合に、アミノ変性シリコーンとリン酸エステルとを分散剤として用いることで、高級脂肪酸の金属塩の粒子径を小さくなるよう分散することが出来て、分散安定性が良好な処理剤が得られ、且つ、該処理剤を弾性繊維に付与することで、解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性に優れた弾性繊維が得られ、弾性繊維と綿糸の交編時に風綿吸着が少なく、細物弾性繊維(例えば、繊度が33dtex以下)と綿糸の高速編織加工(例えば、糸速度が100m/分以上)が可能となる弾性繊維用処理剤及び該処理剤を用いて処理された弾性繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、前記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、分散剤として特定のアミノ変性シリコーンと炭化水素基もしくはオキシアルキレン基を少なくとも分子中に一つ以上含むリン酸エステルとを所定割合で用いて、所定割合の高級脂肪酸の金属塩を平均粒子径が0.01〜5μmの範囲となるように制御して分散し、分散媒体、分散剤、及び分散された高級脂肪酸の金属塩の3つが所定割合からなる弾性繊維用処理剤を用いることにより、その処理剤中での分散安定性を改善し、更には弾性糸に解舒性、制電性、良好なチーズ捲形状、平滑性、綿糸との交編時の風綿吸着防止の効果を付与できることを見出したものである。
【0005】
本発明は、分散媒体としてシリコーン油、鉱物油及びエステル油より選ばれる少なくとも一種と、分散剤として下記式1で表されるアミノ変性シリコーンと炭化水素基もしくはオキシアルキレン基を少なくとも分子中に一つ以上含むリン酸エステルとが該分散媒体/該アミノ変性シリコーンと該リン酸エステルの和=100/0.005〜100/20(重量比)の割合であって、該アミノ変性シリコーン/該リン酸エステル=100/0.005〜100/1500(重量比)の割合からなる該分散媒体と該分散剤の混合物中に、平均粒子径が0.01〜5μmの高級脂肪酸の金属塩が、該分散媒体と該分散剤の混合物100重量部当たり0.01〜10重量部の割合で分散されていることを特徴とする弾性繊維用処理剤である。
(RSiO−[(RSiO]−[(R)SiO]l−SiR(R (式1)
(式中、RはHN(CH−、1価炭化水素基、アルコキシ基から選択される基、Rは1価炭化水素基又はアルコキシ基、Rは1価炭化水素基、HN(CH−、HN(CHNH(CH−から選択される基、RはHN(CH−、1価炭化水素基、アルニキシ基から選択される基、kは5〜10,000の正数、lは0もしくは0.1〜400の正数)
なお、上記式1中の−[(RSiO]−と−[(R)SiO]l−とは両基の結合位置関係を示すものではなく、単に分子中の両基の平均付加モル数を示すものである。従って、両基はランダムに結合していてもよくまたブロック状に結合していてもよい。
又、分散剤として用いられる該アミノ変性シリコーンと該リン酸エステルは所定割合で混合、中和して分散剤に用いることで、高級脂肪酸の金属塩の処理剤中での分散安定性を高め、更には弾性糸の解舒性、平滑性を高め、弾性糸に制電性、良好なチーズ捲形状、風綿吸着防止の効果を付与することができるため、該アミノ変性シリコーンに含まれるアミノ基のモル数とリン酸エステルに含まれる酸性水酸基のモル数の比は0.5〜1.5とすることが好ましい。
【0006】
本発明は、解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性、風綿吸着防止の効果を高めるために、上記処理剤100重量部に対し、ポリエーテル変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、シリコーンレジン、有機スルホン酸化合物、有機硫酸化合物、有機カルボン酸アミン、有機リン酸エステルアミン塩、アミノ変性シリコーンの有機リン酸エステル中和物の少なくとも一種を更に0.01〜15重量部含有させた弾性繊維用処理剤が好ましい。
【0007】
本発明の弾性繊維は、上記弾性繊維用処理剤が弾性繊維に対して0.1〜15重量%付与されていることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、平均粒子径が0.01〜5μmに分散された高級脂肪酸の金属塩を分散媒体と分散剤の混合物100重量部当たり0.01〜10重量部の割合で用いる。
高級脂肪酸の金属塩の割合が0.01重量部未満では、解舒性、平滑性の効果が不十分であり、10重量部を超えるとチーズ膠着防止効果が強くなり過ぎて、チーズ捲き形状が崩れ、形状不良となる。高級脂肪酸の金属塩の平均粒子径は、0.01〜5μm、好ましくは0.1〜1μmである。0.01μmより小さいと、処理剤の粘度が高くなり、取り扱い性が悪くなったり、膠着防止性が低下することがある。5μmより大きいと、処理剤中における分散性が悪くなり、弾性繊維の加工工程等において、編針やガイドとの摩擦が大きくなることがある。高級脂肪酸の金属塩としては、炭素数が8以上の脂肪酸を2価の金属やアルミニウムなどで中和した塩が用いられる。本発明に好適な高級脂肪酸の金属塩の具体例としては、オレイン酸Ca、パルミチン酸Mg、ステアリン酸Ca、ステアリン酸Mg、ステアリン酸Al、ステアリン酸Ba、ステアリン酸Zn、イソステアリン酸Mg、イソステアリン酸Baが例示できる。特に好ましくは、パルミチン酸Mg、ステアリン酸Ca、ステアリン酸Mg、ステアリン酸Ba、ステアリン酸Zn、ステアリン酸Alである。
【0009】
高級脂肪酸の金属塩は、例えばホモミキサー、コロイドミル、サンドミル、ビスコミル、ダイノーミル、コボールミル等のような高剪断性の混合または粉砕装置中で、平均粒子径については、特に限定はしないが、通常、市販されている平均粒子径が2〜200μm程度の該高級脂肪酸の金属塩を、処理剤のベース成分でもあるシリコーン油、鉱物油及びエステル油より選ばれる少なくとも一種以上を用いた分散媒体とアミノ変性シリコーンと炭化水素基もしくはオキシアルキレン基を少なくとも分子中に一つ以上含むリン酸エステルとからなる分散剤の混合物と共に、攪拌混合することにより調整できると共に、この処理により、高級脂肪酸の金属塩の平均粒子径を本発明にとって必要な0.01〜5μmに粉砕調整することができる。平均粒子径の調整は混合または粉砕装置の回転速度、攪拌羽根の形状及び処理時間を選定することにより行うことができる。経済性の面からより好ましい装置はビスコミル、ダイノーミル、またはコボールミルである。
【0010】
本発明では、分散媒体としてシリコーン油、鉱物油及びエステル油より選ばれる少なくとも一種以上と分散剤としてアミノ変性シリコーンと炭化水素基もしくはオキシアルキレン基を少なくとも分子中に一つ以上含むリン酸エステルとを使用し、該分散媒体/該分散剤=100/0.005〜100/20(重量比)の割合からなる該分散媒体と該分散剤の混合物100重量部に対し、高級脂肪酸の金属塩を0.01〜10重量部使用し、該分散媒体と該分散剤の混合物と、混合または粉砕装置で攪拌混合することにより、調整できると共に、この処理により、該高級脂肪酸の金属塩の平均粒子径を本発明にとって必要な0.01〜5μmに効率よく、粉砕調整することができる。
該分散媒体/該分散剤の重量比について、該分散剤の重量比が0.005重量部未満では、平均粒子径の微小化や微小化に伴う増粘の抑制などの分散効果が不十分であり、解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性、風綿吸着防止の効果も不十分となり、20を超えると本来の目的である分散効果に対し、過剰量となり、不経済である。
【0011】
本発明において、平均粒子径は、処理剤を分散媒体で希釈し、バッチセルを用いて粒度分布測定装置「LA−910」(堀場製作所製)により測定するか、デジタルマイクロスコープ「VH−7000」(キーエンス社製)で測定する。
【0012】
本発明で分散剤として用いられるアミノ変性シリコーンは、下記式1で表わされるアミノアルキル基含有オルガノポリシロキサンが好ましい。
(RSiO−[(RSiO]−[(R)SiO]l−SiR(R (式1)
(式中、RはHN(CH)−、1価炭化水素基、アルコキシ基から選択される基、Rは1価炭化水素基又はアルコキシ基、Rは1価炭化水素基、HN(CH−、HN(CHNH(CH−から選択される基、RはHN(CH−、1価炭化水素基、アルコキシ基から選択される基、kは5〜10,000の正数、lは0もしくは0.1〜400の正数)
上記式1中の−[(RSiO]−と−[(R)SiO]l−とは両基の結合位置関係を示すものではなく、単に分子中の両基の平均付加モル数を示すものである。従って、両基はランダムに結合していてもよくまたブロック状に結合していてもよい。
上記式1中、R、R、Rはそのうちの少なくとも一つ以上はHN(CH−及び/又はHN(CHNH(CH−であり、これらのアルキルアミノ基をリン酸エステルで中和することにより、処理剤中での高級脂肪酸の金属塩の分散安定性向上と平均粒子径を微小化する効果が得られる。
はHN(CH−、1価炭化水素基、アルコキシ基から選択される基を表し、好ましくはHN(CH−、メチル基、メトキシ基である。Rは1価炭化水素基又はアルコキシ基を表し、好ましくは、メチル基、メトキシ基である。Rは1価炭化水素基、HN(CH−、HN(CHNH(CH−から選択される基を表し、好ましくはメチル基、HN(CH−、HN(CHNH(CH−である。
はHN(CH−、1価炭化水素基、アルコキシ基から選択される基を表し、好ましくはHN(CH−、メチル基、メトキシ基である。
kとlの総和が5未満では、揮発性が問題となることがあり、kが10,000を超え、且つlが400を超える場合は、処理剤の粘度が高くなり、平滑性に悪影響を及ぼす。又、通常25℃における粘度が3〜30,000mm/Sで、アミン価が0.1〜200(KOH mg/g)の範囲にあるものが好ましい。粘度が3mm/S以下では揮発し易く、30,000mm/Sを超えると平滑性が悪くなる。より好ましくは3〜20,000mm/Sの範囲である。アミン価が0.1(KOH mg/g)以下では、高級脂肪酸の金属塩を微小分散して分散安定化する効果や、解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性、風綿吸着防止の効果が不十分であり、200(KOHmg/g)を超えると、分散媒体への溶解性が悪い。より好ましくは1〜160(KOHmg/g)である。
【0013】
本発明で分散剤として用いられるアミノ変性シリコーンとリン酸エステルの混合比は、アミノ変性シリコーン100(重量比)に対し、リン酸エステルが0.005〜1500(重量比)とすることが好ましい。更に好ましくは0.008〜1000(重量比)である。0.005(重量比)未満では、過剰なアミンが高級脂肪酸の金属塩と複分解を起し、高級脂肪酸の金属塩がもつ膠着防止の効果を阻害したり、皮膚障害を引き起こす可能性がある。1500(重量比)を越えると本来の目的であるアミノ基の中和に対し必要以上に酸性水酸基が過剰となり経済的でない。
【0014】
本発明で分散剤として用いられるアミノ変性シリコーンに含まれるアミノ基のモル数とリン酸エステルに含まれる酸性水酸基のモル数の比は0.5〜1.5で混合することが好ましい。更に好ましくは0.8〜1.2である。0.5より少ないと、本来の目的であるアミノ基の中和に対し必要以上に酸性水酸基が過剰となり経済的でない。1.5より多いと過剰なアミンが高級脂肪酸の金属塩と複分解を起し、高級脂肪酸の金属塩がもつ膠着防止の効果を阻害したり、皮膚障害を引き起こす可能性がある。
【0015】
本発明では分散剤として、炭化水素基もしくはオキシアルキレン基を少なくとも分子中に一つ以上含むリン酸エステルを用いる。本発明に用いられるリン酸エステルの炭化水素基として好ましくはその平均炭素数が1〜30の範囲にあり、分岐を有してもよい飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基もしくは環状脂肪族炭化水素基である。ベース成分への溶解性は直鎖状炭化水素基よりも、分岐を有する炭化水素基の方が良く、好ましい。本発明に用いられるリン酸エステルのオキシアルキレン基として好ましくはオキシエチレン、オキシプロピレン、オキシブチレンを1〜30個有するものである。分子中のオキシアルキレン基が30個を超えるとベース成分への溶解性が不足する。該リン酸エステルの具体例としては、モノメチルリン酸エステル、ジメチルリン酸エステル、トリメチルリン酸エステル、ブチルリン酸エステル、ヘキシルリン酸エステル、オクチルリン酸エステル、デシルリン酸エステル、ラウリルリン酸エステル、ミリスチルリン酸エステル、セチルリン酸エステル、ステアリルリン酸エステル、ベヘニルリン酸エステル、トリオクタコサニルリン酸エステル、オレイルリン酸エステル、2−エチルヘキシルリン酸エステル、イソオクチルリン酸エステル、イソデシルリン酸エステル、イソラウリルリン酸エステル、イソミリスチルリン酸エステル、イソセチルリン酸エステル、イソステアリルリン酸エステル、t−ブチルリン酸エステル、ベンジルリン酸エステル、オクチルフェニルリン酸エステル、シクロヘキシルリン酸エステル、ポリオキシエチレン5モル付加セチルリン酸エステル、ポリオキシエチレン15モル付加セチルリン酸エステル、ポリオキシエチレン7モル付加ポリオキシプロピレン3.5モル付加セカンダリーアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレン2モルポリオキシプロピレン5モルリン酸エステル等がある。
【0016】
本発明では分散剤として用いられるアミノ変性シリコーンのアミノ基を、同じく分散剤として用いられるリン酸エステルの酸性水酸基で中和してあるために処理剤自身の皮膚障害がないので安全であり、イソシアネートとの反応性がアミノ基よりも低いリン酸エステルの酸性水酸基で中和してあるため、アミノ基のイソシアネートへの反応性が残っており、糸表面のイソシアネートとアミノ基が反応して、糸同士の反応による膠着を防止することができる。又、アミノ基よりも反応性は劣るが、リン酸エステルの酸性水酸基もイソシアネートと反応して、糸同士の反応による膠着を防止することができる。このために弾性繊維をチーズとしたときの解舒性を向上することができる。
【0017】
本発明は、解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性、風綿吸着防止の効果を高めるために、上記処理剤100重量部に対し、ポリエーテル変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、シリコーンレジン、有機スルホン酸化合物、有機硫酸化合物、有機カルボン酸アミン、有機リン酸エステルアミン塩、アミノ変性シリコーンの有機リン酸エステル中和物の少なくとも一種を更に0.01〜15重量部更に含有させた弾性繊維用処理剤が好ましい。なお、ここでいうシリコーンレジンとは、化学式:RSiO1/2(式中、R、R、Rは一価炭化水素基である。)で示されるシロキサン単位と化学式:SiOで示されるシロキサン単位とからなるオルガノポリシロキサン樹脂、化学式:RSiO1/2(式中、R、R、Rは一価炭化水素基である。)で示されるシロキサン単位と化学式:SiOで示されるシロキサン単位及び化学式:RSiO3/2(式中、Rは一価炭化水素基である。)で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン樹脂、化学式.RSiO3/2(式中、Rは一価炭化水素基である。)で示されるシロキサン単位からなるオルガノポリシロキサン樹脂等のことである。
【0018】
本発明の処理剤には、解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性、風綿吸着防止の効果を高めるために、前述の成分以外に、従来の公知の変性シリコーン(アルキル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、リン酸変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン)や制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等、通常弾性繊維の処理剤に用いられる成分を配合することができる。
【0019】
本発明の処理剤の粘度は、好ましくは30℃における粘度が3〜30mm/Sである。3mm/S未満では処理剤の揮発が問題となり、30mm/Sを超えると平滑性に劣る場合がある。
【0020】
本発明の弾性繊維は、上記処理剤が弾性繊維に対して0.1〜15重量%付与されていることを特徴とする。0.1重量%より少ないと本発明の効果が充分でなく、15重量%を超えると不経済である。
【0021】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
なお具体例における、各特性の評価は次の方法に従って行った。
油剤の作用効果の評価法
【0022】
粘度:キャノンフェンスケ粘度計を用い、一定温度(例えば、25℃、30℃)における試料液の動粘度を求めた。
【0023】
アミン価:イソプロピルアルコール、キシレン/イソプロピルアルコール(1/1)混合等の溶剤に溶解した試料を、0.1N−HClエチレングリコール/イソプロピルアルコール溶液で自動電位差滴定装置(平沼社製COM−900)を使用して電位差滴定して、終点の滴定量(ml)を測定し、下式2よりアミン価を算出した。尚、アミン価とは試料1gを中和するのに要するHClと当量となるKOHのmg数で表されるものである。
アミン価(KOHmg/g)=(A×F×5.61)/W (式2)
(式2において、A=滴定量(ml)、F=0.1N−HClの力価、W=試料重量(g))
【0024】
ローラー静電気:図1において、解舒速度比測定機の解舒側に処理剤を付与した繊維のチーズ(1)をセットし、50m/分の周速で回転させ、チーズ上2cmのところにおいて、春日式電位差測定装置(2)で、回転を始めて1時間後の発生静電気を測定する。
【0025】
編成張力:図2において、チーズ(3)から縦取りした弾性糸(4)をコンペンセーター(5)を経てローラー(6)、編み針(7)を介して、Uゲージ(8)に付したローラー(9)を経て速度計(10)、巻き取りローラー(11)に連結する。速度計(10)での走行速度が定速(例えば、10m/分、100m/分)になるように巻き取りローラーの回転速度を調整して、巻き取りローラーに巻き取り、そのときの編成張力をUゲージ(8)で測定し、繊維/編み針間の摩擦(g)を計測する。走行糸条より1cmのところで春日式電位差測定装置(12)で発生静電気を測定する。
【0026】
繊維間摩擦係数(F/FμS):図3において、処理剤が付与された弾性繊維のモノフィラメントを50〜60cm程取り、一方の端に荷重T1(13)を吊り、ローラー(14)を介して、Uゲージ(15)にもう一方の端を掛けて定速(例えば、3cm/分)で引っ張り、そのときの2次張力T2をUゲージ(15)で測定し、式3により、繊維間摩擦係数を求める。
摩擦係数(F/FμS)=1/θ・ln(T2/T1) (式3)
(式3において、θ=2π、ln=自然対数、T1は22dtex当り1g)
【0027】
チーズ捲形状(捲き崩れ有無):評価に供する処理剤が付与されたモノフィラメントチーズ(巻き量400g)の捲形状にバルジや綾等の捲き崩れが有るか無いかを目視で確認した。
【0028】
風綿吸着試験法:図4においてチーズ(16)から20m/分の速度で弾性糸を出し、コンペンセーター(17)を経てローラー(18)から風綿の吸糸口(19)を経て巻取ローラー(20)で80m/分で巻取る。綿糸(21)は、ガイド(22)からローラー(23)と編針(24)を経て巻取ローラー(25)で80m/分の速度で巻取られる。風綿はローラー(23)と編針(24)の間で綿糸を1回撚りでこすり合わせて発生させる。60分間弾性繊維を走行させたときの吸糸口に集積する風綿の重量を測定する。弾性繊維及び綿糸は20℃、45%RHの雰囲気下で3日間調湿したものを用いた。測定雰囲気は20℃、45%RHで行った。吸糸口は、直径0.2mm、長さ10mm、その材質はアルミナである。
【0029】
解舒速度比:図5において、解舒速度比測定機の解舒側に処理剤を付与した繊維のチーズ(26)をセットし、巻き取り側に紙管(27)をセットする。巻き取り速度を一定速度にセットした後、ローラー(28)及び(29)を同時に起動させる。この状態では糸(30)に張力はほとんどかからないため、糸はチーズ上で膠着して離れないので、解舒点(31)は図5に示す状態にある。解舒速度を変えることによって、チーズからの糸(30)の解舒点(31)が変わるので、この点がチーズとローラーとの接点(32)と一致するように解舒速度を設定する。解舒速度比は式4によって求める。この値が小さいほど、解舒性が良いことを示す。
解舒速度比(%)=(巻取速度−解舒速度)÷解舒速度X100 (式4)
【0030】
分散安定性:処理剤を100mlのすり栓付き試験管に入れ、25℃にて1ヶ月間静置した後、処理剤の外観を観察し、下記の基準で評価した。
○:透明な層や沈澱が無い。 △:透明な層がある。 ×:沈澱がある。
【0031】
皮膚障害試験:各処理剤をアセトンに2重量%溶解させ、日本薬局方ガーゼを浸す。同ガーゼを30分間放置して乾燥させた後、一辺1.5cmに切り分けて、上腕裏側に貼布し、48時間保つ。48時間後に剥離し、30分間隔を空けて表1に基づき判定した。判定に対して表中のように採点を行い、これらの数値にそれを示した被研者数を乗じ、全被研者数で除して、各処理剤の平均の反応強度を算出した。各処理剤の平均の反応強度が0点から1点未満を○、1点以上2点未満を△、2点以上を×として評価した。
【0032】
【表1】

【0033】
表2又は表3に記載の成分を用いて各処理剤を下記のように調整した。
【0034】
処理剤−1の調製:25℃における粘度が5mm/sのシリコーン油97重量部、アミノ変性シリコーン(A−1)0.85重量部、リン酸エステル(B−1)0.15重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径20μm)2重量部を分散し、この液をビスコミルCVM−2(五十嵐機械社製)に通してステアリン酸マグネシウムを粉砕した。得られたステアリン酸マグネシウムの平均粒子径は0.5μmであった。
【0035】
処理剤−2の調製:40秒の流動パラフィン94重量部、アミノ変性シリコーン(A−2)0.9重量部、リン酸エステル(B−2)1.1重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径20μm)4重量部を分散し、この液をビスコミルCVM−2(五十嵐機械社製)に通してステアリン酸マグネシウムを粉砕した。得られたステアリン酸マグネシウムの平均粒子径は0.5μmであった。
【0036】
処理剤−3の調製:イソオクチルラウレート98.5重量部、アミノ変性シリコーン(A−1)0.42重量部、リン酸エステル(B−1)0.08重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径20μm)1重量部を分散し、この液をビスコミルCVM−2(五十嵐機械社製)に通してステアリン酸マグネシウムを粉砕した。得られたステアリン酸マグネシウムの平均粒子径は0.5μmであった。
【0037】
処理剤−4の調製:60秒の流動パラフィン33重量部、25℃における粘度が20mm/sのシリコーン油60重量部、アミノ変性シリコーン(A−3)1.995重量部、リン酸エステル(B−1)0.005重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径20μm)5重量部を分散し、この液をビスコミルCVM−2(五十嵐機械社製)に通してステアリン酸マグネシウムを粉砕した。得られたステアリン酸マグネシウムの平均粒子径は0.5μmであった。
【0038】
処理剤−5の調製:25℃における粘度が10mm/sのシリコーン油97重量部、アミノ変性シリコーン(A−4)0.96重量部、リン酸エステル(B−4)0.04重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径10μm)2重量部を分散し、この液をダイノーミルに通してステアリン酸マグネシウムを粉砕した。得られたステアリン酸マグネシウムの平均粒子径は0.3μmであった。
【0039】
処理剤−6の調製:イソオクチルラウレート98.5重量部、アミノ変性シリコーン(A−5)0.495重量部、リン酸エステル(B−3)0.005重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径10μm)1重量部を分散し、この液をダイノーミルに通してステアリン酸マグネシウムを粉砕した。得られたステアリン酸マグネシウムの平均粒子径は0.3μmであった。
【0040】
処理剤−7の調製:25℃における粘度が20mm/sのシリコーン油50重量部、50秒の流動パラフィン43重量部、アミノ変性シリコーン(A−6)1.78重量部、リン酸エステル(B−4)0.22重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径10μm)5重量部を分散し、この液をダイノーミルに通してステアリン酸マグネシウムを粉砕した。得られたステアリン酸マグネシウムの平均粒子径は0.3μmであった。
【0041】
【表2】

【0042】
表2において、k、l、R、R、R、Rは式1にて示されるものと同じ
PrA基:HN(CH
PrAEA基:HN(CHNH(CH
【0043】
【表3】

【0044】
平均粒子径の測定:デジタルマイクロスコープ「VH−7000」(キーエンス社製)により、20箇所の粒子径を測定し、その平均を算出した。
【0045】
実施例1〜12及び比較例1〜6
紡糸原液の調整:数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートをモル比率1:2で反応させ、次いで1,2−ジアミノプロパンのジメチルホルムアミド溶液を用いて鎖延長し、ポリマー濃度27%のジメチルホルムアミド溶液を得た。30℃での濃度は1500mPaSであった。
【実施例1】
【0046】
ポリウレタン紡糸原液を190℃のN気流中に吐出して乾式紡糸した。紡糸中走行糸に上記で調製した処理剤−1をオイリングローラーにより繊維に対して6重量%付与した後、毎分500mの速度でボビンに巻き取り、44dtexモノフィラメントチーズ(巻き量400g)を得た。得られたチーズを35℃、50%RHの雰囲気中に48時間放置して評価に供した。油剤性能の評価結果を表4及び表5に示した。
【実施例2】
【0047】
上記で調製した処理剤−2を付与した以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例3】
【0048】
上記で調製した処理剤−3を付与した以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例4】
【0049】
上記で調製した処理剤−4を付与した以外は、実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例5】
【0050】
実施例1の処理剤に、更にポリエーテル変性シリコーン〔信越化学工業社製、「KF−351」;粘度100mm/s(25℃)〕を0.3重量部添加した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例6】
【0051】
実施例1の処理剤に、更に両末端カルボキシ変性タイプのカルボキシ変性シリコーン(粘度140mm/s)を0.5重量部添加した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例7】
【0052】
実施例2の処理剤に、更にMQ比が1.0のシリコーンレジンを20重量部添加した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例8】
【0053】
実施例2の処理剤に、更にアルカンスルホネートNa塩を3重量部添加した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例9】
【0054】
実施例3の処理剤に、更にラウリルサルフェートトリエタノールアミン塩を3重量部添加した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例10】
【0055】
実施例3の処理剤に、更に2−エチルヘキシル酸ジエタノールアミン塩を3重量部添加した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例11】
【0056】
実施例4の処理剤に、更に2−エチルヘキシルホスフェートジエタノールアミン塩を3重量部添加した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例12】
【0057】
実施例4の処理剤に、更にアミノ変性シリコーン〔側鎖アミノ変性型のアミノ変性シリコーン、アミン価37KOHmg/g、粘度800mm/s(25℃)〕と2−エチルヘキシルホスフェートの中和塩を5重量部添加した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【比較例1】
【0058】
実施例1において、25℃における粘度が5mm/sのシリコーン油97重量部、アミノ変性シリコーン(A−1)0.85重量部、リン酸エステル(B−1)0.15重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径20μm)2重量部とからなる処理剤を付与した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【比較例2】
【0059】
実施例1において、40秒の流動パラフィン94重量部、アミノ変性シリコーン(A−2)2重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径20μm)4重量部とからなる処理剤を付与した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【比較例3】
【0060】
実施例1において、60秒の流動パラフィン33重量部、25℃における粘度が20mm/sのシリコーン油60重量部、リン酸エステル(B−1)2重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径20μm)5重量部とからなる処理剤を付与した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【比較例4】
【0061】
平均粒子径が20μmのステアリン酸マグネシウム4重量部を、40秒の流動パラフィン96重量部に分散し、この分散液をビスコミルCVM−2(五十嵐機械社製)に通してステアリン酸マグネシウムを粉砕した。得られたステアリン酸マグネシウムの平均粒子径は1.0μmであった。このようにして調整した処理剤を付与した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【比較例5】
【0062】
実施例1において、平均粒子径が2μmのステアリン酸マグネシウム1重量部、30秒の流動パラフィン99重量部とからなる処理剤を付与した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【比較例6】
【0063】
実施例1において、25℃における粘度が5mm/sのシリコーン油20重量部、60秒の流動パラフィン80重量部とからなる処理剤を付与した以外は、実施例1と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【0064】
表4及び表5の評価結果からわかるように、本発明の処理剤−1〜4を用いた実施例1〜12のチーズからの解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性、風綿吸着防止性は良好で、処理剤自身も沈澱や分離が無く、分散安定性に優れていた。一方、比較例1〜6は解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性、風綿吸着防止性が良くなく、処理剤自身の分散安定性が劣る。実施例1〜12では本発明の分散剤を用いて分散処理しているため、本発明の分散剤を用いずに分散処理した比較例4や分散処理をしていない比較例1〜3及び比較例5に比べ、平均粒子径がより小さく、長期における分散安定性に優れる。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
表6において、k、l、R、R、R、Rは式1にて示されるものと同じ
PrA基:HN(CH
PrAEA基=HN(CHNH(CH
【0069】
【表7】

【0070】
実施例13〜18及び比較例7〜12
紡糸原液の調整:
数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール100重量部と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート25重量部を70℃で反応させ、N,N’−ジメチルアセトアミド250重量部を加え冷却しながら反応混合物を溶解させた。1,2−ジアミノプロパン5重量部をN,N’−ジメチルアセトアミド184重量部に溶解させたものを添加した。この様にしてポリウレタン紡糸原液を得た。
【実施例13】
【0071】
ポリウレタン紡糸原液を2つの細孔を有する紡糸口金より190℃のN気流中に吐出して乾式紡糸した。紡糸中走行糸に上記で調整した処理剤−5をオイリングローラーにより繊維に対して6重量%付与した後、毎分400mの速度でボビンに巻き取り、22dtexマルチフィラメントのチーズ(巻き量400g)を得た。得られたチーズを35℃、50%RHの雰囲気中に48時間放置して評価に供した。油剤性能の評価結果を表8及び表9に示した。
【実施例14】
【0072】
上記で調整した処理剤−6を付与した以外は、実施例13と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例15】
【0073】
上記で調整した処理剤−7を付与した以外は、実施例13と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例16】
【0074】
実施例13の処理剤に、更に2−エチルヘキシルホスフェートジエタノールアミン塩を3重量部添加した以外は実施例13と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例17】
【0075】
実施例14の処理剤に、更にMQ比が1.0のシリコーンレジンを20重量部添加した以外は実施例13と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【実施例18】
【0076】
実施例15の処理剤に、更にポリエーテル変性シリコーン〔信越化学工業社製、「KF−351」;粘度100mm/s(25℃)〕を0.3重量部添加した以外は実施例13と同様にして、ポリウレタン弾性糸を紡糸し、チーズに巻き取った。
【比較例7】
【0077】
実施例13において、25℃における粘度が10mm/sのシリコーン油97重量部、アミノ変性シリコーン(A−4)0.96重量部、リン酸エステル(B−4)0.04重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径10μm)2重量部とからなる処理剤を付与した以外は、実施例13と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【比較例8】
【0078】
実施例13において、イソオクチルラウレート98.5重量部、アミノ変性シリコーン(A−5)0.5重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径10μm)1重量部とからなる処理剤を付与した以外は、実施例13と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【比較例9】
【0079】
実施例13において、25℃における粘度が20mm/sのシリコーン油50重量部、50秒の流動パラフィン43重量部、リン酸エステル(B−4)2重量部にステアリン酸マグネシウム(平均粒子径10μm)5重量部とからなる処理剤を付与した以外は、実施例13と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【比較例10】
【0080】
平均粒子径が10μmのステアリン酸マグネシウム2重量部を、25℃における粘度が10mm/sのシリコーン油98重量部に分散し、この分散液をダイノーミルに通してステアリン酸マグネシウムを粉砕した。得られたステアリン酸マグネシウムの平均粒子径は0.9μmであった。このようにして調整した処理剤を付与した以外は、実施例13と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【比較例11】
【0081】
実施例13において、平均粒子径が2μmのステアリン酸マグネシウム1重量部、60秒の流動パラフィン99重量部とからなる処理剤を付与した以外は、実施例13と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【比較例12】
【0082】
実施例13において、25℃における粘度が10mm/sのシリコーン油50重量部、40秒の流動パラフィン50重量部とからなる処理剤を付与した以外は、実施例13と同様にしてポリウレタン弾性糸を紡糸し、巻き取った。
【0083】
表8及び表9の評価結果からわかるように、本発明の処理剤−5〜7を用いた実施例13〜18のチーズからの解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性、風綿吸着防止性は良好で、処理剤自身も沈澱や分離が無く、分散安定性に優れていた。一方、比較例7〜12は解舒性、制電性、チーズ捲形状、平滑性、風綿吸着防止性が良くなく、処理剤自身の分散安定性が劣る。実施例13〜18では本発明の分散剤を用いて分散処理しているため、本発明の分散剤を用いずに分散処理した比較例10や分散処理をしていない比較例7〜9及び比較例11に比べ、平均粒子径がより小さく、長期における分散安定性に優れる。
【0084】
【表8】

【0085】
【表9】

【発明の効果】
【0086】
本発明の処理剤を用いることにより、良好な解舒性、安定した制電性、良好なチーズ捲形状、良好な平滑性を弾性繊維に与えることができ、又、弾性繊維と綿糸との交編時の風綿吸着が少ないことによる糸切れ回数の減少で、編織機の稼働率向上及び編織物品位を向上させることができる。
又、処理剤の平均粒子径を一定範囲とすることで、処理剤自身の分散安定性が向上する。更に、分散剤を用いることで、処理剤を効率よく粉砕調整でき、平均粒子径をより微小化し、処理剤の分散安定性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】ローラー静電気発生量の測定方法を説明する模式図。
【図2】編成張力の測定方法及び静電気発生量の測定方法を説明する模式図。
【図3】繊維間摩擦係数の測定方法を説明する模式図。
【図4】風綿吸着の測定方法を説明する模式図
【図5】解舒速度比の測定方法を説明する模式図。
【符号の説明】
【0088】
1 弾性繊維のチーズ
2 春日式電位差測定装置
3 弾性繊維のチーズ
4 糸
5 コンペンセーター
6 ローラー
7 編み針
8 Uゲージ
9 ローラー
10 速度計
11 巻き取りローラー
12 春日式電位差測定装置
13 荷重
14 ローラー
15 Uゲージ
16 弾性繊維のチーズ
17 コンペンセーター
18 ローラー
19 風綿の吸糸口
20 弾性繊維の巻取ローラー
21 綿糸
22 ガイド
23 ローラー
24 編針
25 綿糸の巻取ローラー
26 チーズ
27 巻き取り用紙管
28 ローラー
29 ローラー
30 走行糸条
31 解舒点
32 チーズとローラーの接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒体としてシリコーン油、鉱物油及びエステル油より選ばれる少なくとも一種と、分散剤としてアミノ変性シリコーンと炭化水素基もしくはオキシアルキレン基を少なくとも分子中に一つ以上含むリン酸エステルとが該分散媒体/該アミノ変性シリコーンと該リン酸エステルの和=100/0.005〜100/20(重量比)の割合であって、該アミノ変性シリコーン/該リン酸エステル=100/0.005〜100/1500(重量比)の割合からなる該分散媒体と該分散剤の混合物中に、平均粒子径が0.01〜5μmの高級脂肪酸の金属塩が、該分散媒体と該分散剤の混合物100重量部当たり0.01〜10重量部の割合で分散されていることを特徴とする弾性繊維用処理剤。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性繊維用処理剤100重量部に対して、ポリエーテル変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、シリコーンレジン、有機スルホン酸化合物、有機硫酸化合物、有機カルボン酸アミン、有機リン酸エステルアミン塩、アミノ変性シリコーンの有機リン酸エステル中和物の少なくとも一種が0.01〜15重量部更に添加されていることを特徴とする弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の弾性繊維用処理剤が弾性繊維に対して0.1〜15重量%付与されていることを特徴とする弾性繊維。
【請求項4】
アミノ変性シリコーンにおいて、該アミノ変性シリコーンが下記式1で表わされるアミノアルキル基含有オルガノポリシロキサンである請求項1記載の弾性繊維用処理剤。
(RSiO−[(RSiO]−[(R)SiO]l−SiR(R (式1)
(式中、RはHN(CH−、1価炭化水素基、アルコキシ基から選択される基、Rは1価炭化水素基又はアルコキシ基、Rは1価炭化水素基、HN(CH)−、HN(CHNH(CH−から選択される基、RはHN(CH−、1価炭化水素基、アルコキシ基から選択される基、kは5〜10,000の正数、lは0もしくは0.1〜400の正数)
【請求項5】
アミノ変性シリコーンに含まれるアミノ基のモル数とリン酸エステルに含まれる酸性水酸基のモル数の比が0.5〜1.5である請求項1記載の弾性繊維用処理剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−161253(P2006−161253A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382282(P2004−382282)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】