説明

弾性表面波素子片の製造方法、及び圧電体ウエハ

【課題】陽極酸化を行う工程を簡単化し、IDTに形成される陽極酸化膜よりも反射器に形成される陽極酸化膜の厚みを厚くすることができるSAW素子片の製造方法を提供する。
【解決手段】圧電基板12の一主面に構成したIDT14と当該IDT14を挟み込むように配置した反射器24とを備え、IDT14と反射器24との表面に陽極酸化膜32(32a,32b)を形成したSAW素子片10の製造方法であって、陽極酸化の工程においてIDT14に対して電流を供給するパターン電極の膜厚を、反射器24に電流を供給するパターン電極の膜厚よりも薄く設定して陽極酸化を行い、所定時間経過後に前記IDT14に対して電流を供給するパターン電極を完全に酸化させてIDT14に供給される電流を遮断し、その後も陽極酸化の工程を継続することで反射器24に対してのみ電流を供給するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子片の製造方法、及びこの製造方法によって製造される弾性表面波素子片を得るために好適な圧電体ウエハに係り、特に小型で高精度、高品質な弾性表面波素子片を製造するために好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信装置をはじめとする電子機器の小型化に伴い、これらの電子機器に搭載される弾性表面波(SAW:Surface acoustic wave)装置の小型化が強く要求されている。したがって、SAW装置は、主要な構成要素であるSAW素子片の小型化を図る必要がある。
【0003】
こうしたSAW素子片では、IDT(Interdigital transducer)と反射器との膜厚を厚くすることで、反射効率を増大させ、CI値の低減を図ることができることが知られている。そして、このような構成を採ることにより、反射器を構成する導体ストリップの本数を削減しても十分な反射効率を得ることができ、SAW素子片の小型化を図った場合であっても高いQ値を得ることができることが知られている。このため、電極にアルミやアルミを主成分とする合金を使用したSAW素子片では、電極間における短絡防止等の保護膜を兼ね、IDTと反射器との表面に陽極酸化によってアルミの酸化膜を形成することで、IDTと反射器との膜厚(質量)の確保が図られることが一般的である。
【0004】
しかし、上記のような構成のSAW素子片を製造する上では、次のような問題が生じることとなる。第1に、IDTの膜厚(陽極酸化膜の膜厚も含む)を厚くすると、成膜工程における膜厚のばらつきが大きくなるということ。第2に、膜厚が厚くなると膜厚の変動に対する周波数の変化、すなわち共振周波数の膜厚感度が大きくなるということ。第3に、膜厚のばらつきにより共振周波数のばらつきが大きくなった場合には、高精度・高品質な弾性表面波素子片を安定して製造することが困難となること等である。
【0005】
このような実状を鑑みて、IDTに形成する陽極酸化膜の膜厚は比較的薄くし、反射器に形成する陽極酸化膜の膜厚は厚くするという技術が開発され、特許文献1、2に開示されている。このような構成を採ることにより、小型で、高いQ値を得ることができ、高精度・高品質なSAW素子片を安定して製造することができるようになると考えられる。
【特許文献1】特開平6−164287号公報
【特許文献2】特開2000−76820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2に開示されている技術によれば確かに、小型で、高いQ値を得ることができ、高精度・高品質なSAW素子片を安定して製造することが可能となると考えられる。しかし、上記特許文献に開示されている技術はいずれも、2段階の陽極酸化を行ったり、電圧の異なる2つの電源を用意したりする必要があり、酸化膜形成工程が複雑だったり、酸化膜形成のための装置が大掛かりなものとなったりするという問題があった。
【0007】
そこで本発明では、陽極酸化を行う工程を簡単化し、かつIDTに形成される陽極酸化膜よりも反射器に形成される陽極酸化膜の厚みを厚いものとすることができるSAW素子片の製造方法、及びこの方法を用いてSAW素子片を製造するために好適な圧電体ウエハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る弾性表面波素子片の製造方法は、圧電基板の一主面に導電性物質によって構成したIDTと当該IDTを挟み込むように配置した反射器とを備え、前記IDTと反射器との表面に陽極酸化膜を形成した弾性表面波素子片の製造方法であって、陽極酸化の工程において前記IDTに対して電流を供給するパターン電極の膜厚を、前記反射器に電流を供給するパターン電極の膜厚よりも薄く設定して陽極酸化を行い、所定時間経過後に前記IDTに対して電流を供給するパターン電極を完全に酸化させてIDTに供給される電流を遮断し、その後も陽極酸化の工程を継続することで反射器に対してのみ電流を供給するようにしたことを特徴とする。
【0009】
このような方法により弾性表面波素子片を製造することによれば、1つの電源を用いて1回の陽極酸化工程を経るだけで、IDTと反射器とに形成される陽極酸化膜の膜厚に違いを持たせることが可能となる。すなわち、陽極酸化の工程において、IDTに対して電流を供給するパターン電極は、その膜厚を反射器に対して電流を供給するパターン電極よりも薄く設定されている。そして、陽極酸化は電極の周囲に酸化膜が形成されるだけでなく、電極本体も酸化される。このため、所定時間陽極酸化を実施することにより、IDTに対して電流を供給するパターン電極は完全に酸化され、IDTに供給される電流は遮断されることとなるが、反射器に対して電流を供給するパターン電極は反射器に対して電流を供給し続けることとなる。よって、陽極酸化の工程を中断させることなく、反射器の表面に形成される陽極酸化膜のみを厚膜化することができる。
【0010】
また、上記のような特徴を有する弾性表面波素子片の製造方法において、前記IDTに対して電流を供給するパターン電極の膜厚は、前記IDTの表面に形成を予定する陽極酸化膜の膜厚に応じて変化させるようにすると良い。
【0011】
IDTに対する陽極酸化膜の形成は、IDTに対して電流を供給するパターン電極が完全に酸化された時点で終了する。このため、パターン電極の膜厚を変化させることにより、IDT表面に形成される陽極酸化膜の膜厚を変化させることができる。
【0012】
また、上記目的を達成するための本発明に係る圧電体ウエハは、IDTと反射器とを備え、前記IDT及び前記反射器の表面に陽極酸化膜を形成した弾性表面波素子片を製造するための圧電体ウエハの構造であって、複数のIDTと、当該IDTに対応した複数の反射器と、陽極酸化の工程において前記IDT及び前記反射器に電流を供給する陽極を接続するための電極パッドと、前記反射器と前記電極パッドとを電気的に接続するパターン電極と、前記反射器と前記電極パッドとを電気的に接続するパターン電極よりも薄膜に形成され、前記IDTと前記電極パッドとを電気的に接続するパターン電極と、を前記圧電体ウエハの一主面に備えたことを特徴とする。
【0013】
圧電体ウエハの構造を上記のようなものとすることにより、1つの電源を用いて1回の陽極酸化工程を経るだけで、IDTと反射器とに形成される陽極酸化膜の膜厚に違いを持たせることが可能となる。すなわち、反射器と電極パッドとを電気的に接続するパターン電極よりも薄膜に形成されたIDTと電極パッドとを電気的に接続するパターン電極は、陽極酸化の工程において前記反射器と電極パッドとを電気的に接続するパターン電極よりも早く酸化されることとなる。パターン電極が完全に酸化された場合、これに接続されたIDT又は反射器に対する電流の供給が遮断されることとなり、それ以降の陽極酸化膜の形成は成されなくなる。このため、IDTの表面に形成される陽極酸化膜の膜厚は、反射器の表面に形成される陽極酸化膜の膜厚よりも薄いものとなる。
【0014】
また、上記目的を達成するための本発明に係る圧電体ウエハは、IDTと反射器とを備え、前記IDT及び前記反射器の表面に陽極酸化膜を形成した弾性表面波素子片を製造するための圧電体ウエハの構造であって、複数のIDTと、当該IDTに対応した複数の反射器と、陽極酸化の工程において前記IDT及び前記反射器に電流を供給する陽極を接続するための電極パッドと、前記反射器と前記電極パッドとを電気的に接続するパターン電極と、前記反射器と前記電極パッドとを電気的に接続するパターン電極よりも薄膜に形成され、前記反射器と前記IDTとを電気的に接続するパターン電極と、を前記圧電体ウエハの一主面に備えたことを特徴とするものであっても良い。
【0015】
上記のような構造の圧電体ウエハであっても、1つの電源を用いて1回の陽極酸化工程を経るだけで、IDTと反射器とに形成される陽極酸化膜の膜厚に違いを持たせることが可能となる。この場合、薄膜化されているのは反射器とIDTとを電気的に接続するパターン電極であるが、本構造の場合、当該パターン電極が、反射器を介してIDTに対して電流を供給するため、上記構造の圧電体ウエハと同様の作用・効果を得ることができる。
【0016】
さらに、上記のような構成の圧電体ウエハにおいて、前記薄膜に形成されるパターン電極の膜厚は、前記IDTの表面に形成することを予定する陽極酸化膜の膜厚の1/2とすることが望ましい。
【0017】
陽極酸化膜の形成は、電極本体を酸化する膜厚(量)の略2倍の膜厚で成される。したがって、薄膜に形成されるパターン電極の膜厚を、IDTの表面に形成することを予定する陽極酸化膜の膜厚の1/2とすることで、IDTには所望する膜厚の陽極酸化膜が形成されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のSAW素子片の製造方法、及びこの方法を用いてSAW素子片を製造するのに好適な圧電体ウエハに係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明に係る一部の形態であり、本発明の技術的範囲を拘束するものでは無い。
【0019】
まず、図1(A)を参照して、本発明のSAW素子片の製造方法によって製造されるSAW素子片について説明する。本方法によって製造されるSAW素子片10は、圧電基板12の一主面に電極膜を形成することによって構成される。
【0020】
前記圧電基板12は、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、水晶(SiO2)等種々選択することができるが、本実施形態の場合、周波数温度特性が良好とされる水晶を採用することとする。また、前記電極膜としては、導電性を有する部材であれば種々選択可能であるが、コスト面及び加工面で有利なアルミ(Al)、あるいはAlを主な原料とする合金を採用し、これを材料として形成することとする。
【0021】
圧電基板12の一主面に形成する電極膜には、IDT14と反射器24とがある。IDT14は、信号の入力と出力とを担う一対の櫛型電極16(16a,16b)から構成される電極である。櫛型電極16は、複数の電極指18とこの複数の電極指18を電気的に接続するバスバー20とから構成され、圧電基板12上には、前記電極指18が弾性表面波の伝搬方向と直交するように配置される。また、上述したように櫛型電極16は少なくとも一対でIDT14を構成することより、対となる櫛型電極16の電極指18が他方の櫛型電極16の電極指18と交互に噛合うように配置される。なお一般に、櫛型電極16の電極指18が互いに噛合う幅のことを交差指幅という。また、このような構成のIDT14には必要に応じて、櫛型電極16に対する信号の入出力を行うための電極パッド22が設けられる。
【0022】
これに対し反射器24は、複数の導体ストリップ26の両端をバスバー28によって接続した格子状の電極である。このような構成とされる反射器24が圧電基板12上に配置される場合、前記IDT14を挟み込むように対として配置される。なお反射器24の配置は、前記導体ストリップ26が、前記櫛型電極16の電極指18と平行になるような状態で成される。
【0023】
本製造方法によって製造されるSAW素子片10では、上記のような構成とした電極膜、すなわちIDT14と反射器24の表面上に保護膜を形成し、反射効率の向上を図る。電極膜上面に形成する保護膜としてはSiO膜や酸化膜等が一般的であるが、本実施形態の場合、アルミ電極を陽極酸化することによって得られる酸化アルミ膜(以下、陽極酸化膜という)を形成することとした。
【0024】
そして、本製造方法によって製造されるSAW素子片10では、前記IDT14の表面に形成する陽極酸化膜よりも、前記反射器24の表面に形成する陽極酸化膜の膜厚の方が厚くなるように形成される。
【0025】
ここで、陽極酸化による陽極酸化膜の形成を行う場合、図2に示すように、アルミ電極本体に形成される陽極酸化膜は、アルミ電極本体の表面を酸化すると共に、その酸化部の厚みと略同じ厚み分だけアルミ電極本体の外側に成膜される。このため、電極膜全体としての体積及び質量は増大することとなるが、酸化されていないアルミ電極本体の体積は縮小化されることとなる。
【0026】
したがって、図1(B)に断面の様子を示すように、同じ膜厚に形成したIDT14と反射器24とにそれぞれ異なる膜厚の陽極酸化膜(本実施形態ではIDT14に形成する陽極酸化膜32aよりも反射器24に形成する陽極酸化膜32bの方が厚膜)32を形成した場合には、図1(C)に示すような形態となる。
【0027】
すなわち、反射器24には陽極酸化膜32bが厚く形成されて体積及び質量が増大する一方で、アルミ電極本体30bの内部方向への酸化も進行することとなるため、アルミ電極本体30bの占める割合自体は小さくなるのである。
【0028】
このように構成されるSAW素子片10によれば、反射器24を構成する電極膜の質量が増大することに伴って反射器24の反射効率を高めることができる。これにより、反射器24の小型化、ひいてはSAW素子片10自体の小型化を図ることができる。
【0029】
次に、図3を参照して上述したSAW素子片10を製造するための圧電体ウエハ50について説明する。上述したSAW素子片10は、図3に示すような圧電体ウエハ基板52上に複数形成されたIDT及びこれに付随する反射器のといった単位で切り出されることにより形成される。
【0030】
本実施形態に係る圧電体ウエハ基板52上には、複数のIDT14(図4参照)及びそれぞれのIDT14に付随する反射器24(図4参照)によって構成されるブロック70が複数配置されている(ブロック群)。そして、前記ブロック群の上下には、上部共通電極(パターン電極)54と下部共通電極(パターン電極)56とが設けられており、上部共通電極54と下部共通電極56とは中間電極(パターン電極)58によって電気的導通が図られる構成とされている。また、前記上部共通電極54には電極パッド54aが形成されており、前記中間電極の一部には他の部分よりもその膜厚を薄く形成した薄膜部60が形成されている。
【0031】
また、前記上部共通電極54と下部共通電極56からはそれぞれ、SAW素子片10(図4参照)を構成するための反射器24と、IDT14とに接続される接続電極(パターン電極)62,64が設けられている。具体的には、上部共通電極54から延設された接続電極62は、各ブロック70に形成された反射器24に接続される構成とされており、下部共通電極56から延設された接続電極64は、各ブロック70に形成されたIDT14に接続される構成とされている。
【0032】
図4にブロック70の詳細な構成例を示し、IDT14及び反射器24に対する接続形態について説明する。図4に示すように、1つのブロック70には、複数(図4では6つ)のSAW素子片10を製造するためのIDT14と反射器24が設けられている。ここで、破線で示す範囲は図1に示したSAW素子片を構成する際の範囲を示し、一点鎖線で示す範囲は図3に示す1つのブロック70の範囲を示す。
【0033】
このように構成されたブロック70に対し、上部共通電極54から延設された接続電極62は、ブロック70を挟み込むように配置され、ブロック70内に形成された複数の反射器24に対して分配電極62aを介して接続されている。一方、下部共通電極56から延設された接続電極64は、ブロック70に配置されたSAW素子片10単位の電極群の中心に配置され、ブロック70内に形成された複数のIDT14を構成する櫛型電極16に対して、分配電極64aを介して接続されている。
【0034】
上記のような構成の圧電体ウエハ50によれば、反射器24、及びIDT14に対して陽極酸化膜を形成する際に、次のような作用を得ることができる。すなわち、上記構成の圧電体ウエハ50によれば、SAW素子片10を構成する反射器24に対する電圧の印加は、上部共通電極54、及び接続電極62を介して分配電極62aより成される。これに対し、IDT14に対する電圧の印加は、上部共通電極54、中間電極58、下部共通電極56、及び接続電極64を介して分配電極64aより成される。このため、中間電極58、下部共通電極56あるいは接続電極64に対する電流の供給が絶たれた場合には、電圧の印加は反射器24に対してのみ成されることとなる。ここで、本実施形態の圧電体ウエハ50では、中間電極58に薄膜部60を形成している。そして、陽極酸化を行うことによれば上述したように、アルミ電極本体も酸化され、その体積が減少する。したがって、陽極酸化によるアルミ電極の酸化膜厚が前記薄膜部60の膜厚に達した場合には、上部共通電極54から下部共通電極56への電流の通電が遮断され、電流は反射器24のみに供給されることとなり、上述したように、反射器24に対してのみ電圧の印加が成されることになる。よって、IDT14に対する陽極酸化膜の生成が終了した後も反射器24に対する陽極酸化膜の生成は続くこととなり、IDT14の表面に形成される陽極酸化膜よりも反射器24の表面に形成される陽極酸化膜の膜厚を厚くすることができるようになる。
【0035】
上記によれば、IDT14の表面に形成する陽極酸化膜の膜厚は、前記薄膜部60の膜厚に依存することとなる。そして図2に示したように、陽極酸化膜の膜厚は、アルミ電極本体が酸化される厚みの2倍程度となる。したがって、前記薄膜部60の厚みを、IDT14の表面に所望する陽極酸化膜の厚みの1/2程度とすることで、IDT14の表面に所望する厚みの陽極酸化膜を形成することが可能となる。なお、中間電極58に対する薄膜部60の形成は、ハーフエッチングの工程を経ることにより可能となる。
【0036】
すなわち図5に示すように、圧電体ウエハ基板の表面に蒸着やスパッタ等によりアルミ薄膜を形成し(図5(A))、当該アルミ薄膜の表面に対して前記薄膜部60を形成する部位に開口を有するレジスト膜を形成し(図5(B))、所定時間エッチングを行うことで薄膜化を図る(図5(C))。その後、前記レジスト膜を除去し、所望する電極のパターンに対応した新たなレジスト膜をアルミ薄膜の表面に形成し(図5(D))、エッチングを行って、電極のパターン形成を図り(図5(E))、不要となったレジスト膜を除去するようにすれば良い(図5(F))。なお、ハーフエッチングを行うに際しては当然、他の工程によっても良い。例えば、薄膜部及び所望する電極のパターンに対応した開口部を有するレジスト膜を用いて全体をハーフエッチングし、その後に電極のパターンに対応した部分のみさらにエッチングするというものなどであっても良い。また、薄膜部の形成は、中間電極にライン状の溝を形成するだけでも良い(例えば図7参照)。このような形態を採る場合、プラズマCVM等の技術によって部分的な薄膜化を図ることも可能である。
【0037】
以下、図6を参照して、陽極酸化膜の生成工程について説明する。
陽極酸化を行う際には、電源部120の陽極130を圧電体ウエハ基板52上に形成した上部共通電極54の電極パッド54aに接続し、陰極140に電極板150を接続する。そして、陽極130が接続された圧電体ウエハ50、及び陰極140が接続された電極板150は、電解槽100に貯留された陽極酸化液(電解液)110に浸漬される(図6(A))。ここで、陽極酸化液110としては、燐酸二水素アンモニウム水溶液やホウ酸アンモニウムのエチレングリコール飽和溶液、クエン酸やアジピン酸塩の水溶液等を挙げることができる。なお、図6には、圧電体ウエハ基板52に形成した上部共通電極54、下部共通電極56及び中間電極58の薄膜部60に対する陽極酸化処理の様子を示すものとする。
【0038】
上記のようにしてセットした圧電体ウエハ基板52上の電極膜及び電極板150に対して特定の電圧(例えば60V)で電流を流すと、電極膜の表面に対する陽極酸化膜32(32a,32b,32c)の形成が開始される(図6(B))。陽極酸化膜32の形成では上述したように、電極自体の体積(質量)を増すと共に、地金であるアルミ電極本体30(30a,30b,30c)も酸化される。このため、一定の時間陽極酸化を継続すると、薄膜部60が全て陽極酸化膜32c、すなわち酸化アルミとなる(図6(C))。酸化アルミは絶縁部材であるため、図6(C)に示すように、薄膜部60が全て酸化アルミとなった場合には上部共通電極54から下部共通電極56に対する通電が遮断されることとなる。このため、電流が遮断された下部共通電極56に対する陽極酸化膜32aの生成は停止し、通電状態が継続される上部共通電極54のみ陽極酸化膜32bの膜厚が成長することとなる(図6(D))。なお、陽極酸化によって成膜される陽極酸化膜の膜厚は、電圧の印加時間が十分であれば、電極に印加する電圧に依存することとなるため、電源部120から供給される電流の電圧は、反射器24(図6においては上部共通電極54)に所望する陽極酸化膜の膜厚を得るために必要とされる電圧に設定する。
【0039】
ここで、上述したように、上部共通電極54はSAW素子片10を構成する反射器24に接続されており、下部共通電極56はSAW素子片10を構成するIDT14に接続されている。したがって、上記のような陽極酸化膜の生成工程によって反射器24とIDT14とに陽極酸化膜を生成した場合には、その膜厚は、上部共通電極54と下部共通電極56との表面に形成された陽極酸化膜32b,32aの厚みに準ずるものとなる。したがって、上記のようにしてSAW素子片10を製造することによれば、1つの電源による一度の陽極酸化工程を経るだけで、IDT14に形成される陽極酸化膜32aよりも反射器24に形成される陽極酸化膜32bを厚膜に形成することが可能となる。よって、形成するSAW素子片10の反射効率を高め、高いQ値を維持したまま、素子片自体の小型化を図ることができる。
【0040】
なお、図3において上部共通電極54と下部共通電極56とは圧電体ウエハ基板52の両サイドに形成した2本の中間電極58で接続する構成としているが、図7に示すように、中間電極58を1本としても良い。このような構成とすることによれば、圧電体ウエハ基板52上に形成するブロック70の数を増やすことができる。すなわち、1つの圧電体ウエハ50から形成されるSAW素子片10の数を増大させることが可能となる。
【0041】
また、上記実施形態では薄膜部60の形成は、中間電極58としていたが、IDT14に対する電流の供給のみを遮断できる構成であればこれに限るものでは無い。具体的には、下部共通電極56やこれに設けられる接続電極64の基端部を薄膜部とする等である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】SAW素子片の製造方法によって製造されるSAW素子片の構造を示す図である。
【図2】アルミ電極を陽極酸化した場合における陽極酸化膜の形成状態を示す図である。
【図3】圧電体ウエハの構造を示す図である。
【図4】圧電体ウエハ基板上に形成したブロックの構成を示す図である。
【図5】薄肉部の形成方法を説明するための図である。
【図6】圧電体ウエハを陽極酸化する際の工程を示す図である。
【図7】圧電体ウエハの他の例を示す構造図である。
【符号の説明】
【0043】
10………弾性表面波素子片(SAW素子片)、12………圧電基板、14………IDT、24………反射器、30(30a,30b,32c)………アルミ電極本体、32(32a,32b,32c)………陽極酸化膜、50………圧電体ウエハ、52………圧電体ウエハ基板、54………上部共通電極、56………下部共通電極、58………中間電極、60………薄膜部、62………接続電極、64………接続電極、70………ブロック、100………電解槽、110………陽極酸化液、120………電源部、130………陽極、140………陰極、150………電極板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の一主面に導電性物質によって構成したIDTと当該IDTを挟み込むように配置した反射器とを備え、前記IDTと反射器との表面に陽極酸化膜を形成した弾性表面波素子片の製造方法であって、
陽極酸化の工程において前記IDTに対して電流を供給するパターン電極の膜厚を、前記反射器に電流を供給するパターン電極の膜厚よりも薄く設定して陽極酸化を行い、
所定時間経過後に前記IDTに対して電流を供給するパターン電極を完全に酸化させてIDTに供給される電流を遮断し、
その後も陽極酸化の工程を継続することで反射器に対してのみ電流を供給するようにしたことを特徴とする弾性表面波素子片の製造方法。
【請求項2】
前記IDTに対して電流を供給するパターン電極の膜厚は、前記IDTの表面に形成を予定する陽極酸化膜の膜厚に応じて変化させることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波素子片の製造方法。
【請求項3】
IDTと反射器とを備え、前記IDT及び前記反射器の表面に陽極酸化膜を形成した弾性表面波素子片を製造するための圧電体ウエハの構造であって、
複数のIDTと、
当該IDTに対応した複数の反射器と、
陽極酸化の工程において前記IDT及び前記反射器に電流を供給する陽極を接続するための電極パッドと、
前記反射器と前記電極パッドとを電気的に接続するパターン電極と、
前記反射器と前記電極パッドとを電気的に接続するパターン電極よりも薄膜に形成され、前記IDTと前記電極パッドとを電気的に接続するパターン電極と、
を前記圧電体ウエハの一主面に備えたことを特徴とする圧電体ウエハ。
【請求項4】
IDTと反射器とを備え、前記IDT及び前記反射器の表面に陽極酸化膜を形成した弾性表面波素子片を製造するための圧電体ウエハの構造であって、
複数のIDTと、
当該IDTに対応した複数の反射器と、
陽極酸化の工程において前記IDT及び前記反射器に電流を供給する陽極を接続するための電極パッドと、
前記反射器と前記電極パッドとを電気的に接続するパターン電極と、
前記反射器と前記電極パッドとを電気的に接続するパターン電極よりも薄膜に形成され、前記反射器と前記IDTとを電気的に接続するパターン電極と、
を前記圧電体ウエハの一主面に備えたことを特徴とする圧電体ウエハ。
【請求項5】
前記薄膜に形成されるパターン電極の膜厚は、前記IDTの表面に形成することを予定する陽極酸化膜の膜厚の1/2としたことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の圧電体ウエハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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