説明

形状加工を行う放電加工装置及び方法

【課題】形状加工を行う放電加工装置及び方法を提供する。
【解決手段】磁性体材料からなる軸状電極(1)を、所定の一軸(O1)周りに旋回運動させるように、前記一軸(O1)に対して円周方向に所定間隔で配設された前記複数の電磁石(3)を順次個別に励磁するステップと、パルス電源ユニットにより、前記軸状電極(1)と被加工物(4)との間に間歇的な電圧パルスを印加して繰り返し放電を発生させるステップと、被加工物(4)に所定形状の穴又は所定形状のキャビティを加工するステップとを具備する放電加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状加工を行う放電加工装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放電加工にて断面が複雑な形状の孔を明けるためには、柱状の電極側面を断面が目的の形状になるようにあらかじめ加工し、その電極にて加工物に放電加工を行うことで、電極側面形状を加工物に転写して加工を行っていた。その他、ワークテーブルを走査してワイヤーカット放電加工により所望の形状を作ることが行われていた。
しかしながら、このような従来技術の電極形状の転写による放電加工においては、次のような問題点が生じていた。
【0003】
(1)電極を成形する必要があるため、成形時間が必要となる。
(2)電極は消耗するため、孔加工毎にその成形時間が必要となる。
(3)小径孔では電極が細くなるため、電極成形が非常に困難となる。
(4)エッジが必要な形状の加工では、電極側面のエッジ部分はより多く消耗するため、転写された加工物側はエッジ形状が得られず、目的の形状を作ることが困難となる。
(5)奥に広くなるような形状(ラッパ形状など)の加工は不可能である。
【0004】
また、テーブルの走査による放電加工においては、次のような問題点が生じていた。
(1)高価な多数軸同時制御機構が必要である。
(2)スラッジを排出するような高速動作はできないため加工時間は長くなる。
以上のように、断面が複雑な形状の小径孔の加工や3次元形状の孔を安価に明けることが困難であった。
【0005】
一方、微細孔加工では、孔径が小さいと電極も細くなり曲がりやすくなるため、曲がらないようにする必要がある。このため、電極をガイドする機構が必須となり、電極とガイド間のクリアランスによって、クリアランス内で電極が不均一に振れ回る可能性があり、その分加工孔径がばらついてしまうという問題が生じていた。
【0006】
従来、穴加工等においては加工精度を向上させるために、特許文献1、2のように、磁界を利用してセンタリングする方法が用いられているが、充分な加工形状精度が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−279556号公報
【特許文献2】特開2008−534298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑み、形状加工を行う放電加工装置及び方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、磁性体材料からなる軸状電極(1)と、該軸状電極(1)をガイドさせる電極ガイド(2)と、所定の一軸(O1)に対して円周方向に所定間隔で配設された複数の電磁石(3)と、前記軸状電極(1)と被加工物(4)との間に間歇的な電圧パルスを印加して繰り返し放電を発生するパルス電源ユニットと、を具備する、被加工物(4)に所定形状の穴又は所定形状のキャビティを加工する放電加工装置において、前記軸状電極(1)を、前記電極ガイド(2)の内壁面(5)に沿って倣わせて、前記一軸(O1)周りの旋回運動させるように、前記複数の電磁石(3)を順次個別に励磁することを特徴とする放電加工装置である。これにより、極めて簡単な制御で、複雑な加工面を形成することができ、3次元形状を含めた複雑な形状の孔を安価に明けることができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記電極ガイド(2)の内壁面(5)が円筒面であって、孔径が40μm〜300μmの微細孔加工を行うことを特徴とする。
これにより、ガイドの孔の内壁面5に電極を引き寄せ、内壁面5に電極を沿わせることで、クリアランス内で電極が不均一に振れ回らないように規制することができ、加工精度を向上させることができる。電極はガイド内壁に沿ってふれ回るため、加工孔のばらつきも防止することができ、孔径を安定化する事ができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記電極ガイド(2)の内壁面(5)が前記電磁石(3)によって形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1又は2の発明において、前記電極ガイド(2)の内壁面(5)が前記電磁石(3)とは別体の非磁性体ガイドから構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれか1項記載の発明において、前記電極ガイド(2)の内壁面(5)が3次元曲面で構成されていることを特徴とする。
これにより、極めて簡単な制御で、複雑な3次元形状の加工面を安価に形成することができる。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1から5のいずれか1項記載の発明において、前記電磁石(3)と前記電極ガイド(2)を被加工物(4)の上面に設置し、被加工物(4)の下面にもさらに複数の補助電磁石(3’)を設置し、前記補助電磁石(3’)が前記軸状電極(1)の先端を吸引して被加工物(4)にラッパ状の孔を加工したことを特徴とする。
これにより、極めて簡単な制御で、複雑な加工面を形成することができ、3次元形状の孔を安価に明けることができる。
【0015】
請求項7の発明は、請求項1から6のいずれか1項記載の発明において、前記軸状電極(1)を、複数の前記電磁石(3)が順次吸引するように励磁して、前記電極ガイド(2)の内壁面(5)に沿って前記軸状電極(1)が旋回するようにしたことを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明は、請求項1から6のいずれか1項記載の発明において、前記軸状電極(1)を、複数の前記電磁石(3)に、それぞれ、所定の位相差を有するサイン波からなる作動電圧を順次与え、前記電極ガイド(2)の内壁面(5)に沿って前記軸状電極(1)が旋回するようにしたことを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明は、磁性体材料からなる軸状電極(1)を、電極ガイド(2)の内壁面(5)に沿って、所定の一軸(O1)周りに旋回運動させるように、前記一軸(O1)に対して円周方向に所定間隔で配設された前記複数の電磁石(3)を順次個別に励磁するステップと、パルス電源ユニットにより、前記軸状電極(1)と被加工物(4)との間に間歇的な電圧パルスを印加して繰り返し放電を発生させるステップと、被加工物(4)に所定形状の穴又は所定形状のキャビティを加工するステップとを具備する放電加工方法である。これにより、請求項1の発明と同様な効果が生じる。
【0018】
請求項10の発明は、請求項9の発明において、加工してできたスラッジ又は混入された磁性体微粒子(6)を旋回させて、加工液に旋回流(U)を発生させるステップをさらに具備する放電加工方法である。これにより、加工点周辺の加工液に流れを与え、スラッジを攪拌・排出させることにより、スラッジによる加工効率低下を抑制し、加工の高速化を図ることができる。
【0019】
請求項11の発明は、磁性体材料からなる軸状電極(1)を、所定の一軸(O1)周りに旋回運動させるように、前記一軸(O1)に対して円周方向に所定間隔で配設された前記複数の電磁石(3)を順次個別に励磁するステップと、パルス電源ユニットにより、前記軸状電極(1)と被加工物(4)との間に間歇的な電圧パルスを印加して繰り返し放電を発生させるステップと、被加工物(4)に所定形状の穴又は所定形状のキャビティを加工するステップとを具備する放電加工方法である。これにより、請求項1の発明と同様な効果が生じる。
【0020】
請求項12の発明は、請求項11の発明において、加工してできたスラッジ又は混入された磁性体微粒子(6)を旋回させて、加工液に旋回流(U)を発生させるステップをさらに具備する放電加工方法である。これにより、加工点周辺の加工液に流れを与え、スラッジを攪拌・排出させることにより、スラッジによる加工効率低下を抑制し、加工の高速化を図ることができる。
【0021】
請求項13の発明は、請求項11又は12の発明において、前記複数の電磁石(3)を被加工物(4)の上面側に設置し、被加工物(4)の下面側に複数の補助電磁石(3’)を設置して、孔が貫通するまでは上面側の電磁石(1)で前記スラッジ又は磁性体微粒子(6)を上方に排出し、貫通した後には下面側の複数の補助電磁石(3’)で下方に排出するステップをさらに具備する放電加工方法である。これにより、孔の抜け際ではスラッジが排出できなくて加工が停滞することが分かっているため、この切り替え制御は加工高速化に非常に有効となる。
【0022】
請求項14の発明は、請求項10、12、又は、13のいずれか1項に記載の発明において、複数の前記電磁石(3)を順次吸引するように励磁して、前記スラッジ又は磁性体微粒子(6)が旋回するようにしたことを特徴とする。
【0023】
請求項15の発明は、請求項10、12、又は、13のいずれか1項に記載の発明において、複数の前記電磁石(3)に、それぞれ、所定の位相差を有するサイン波からなる作動電圧を順次与え、前記スラッジ又は磁性体微粒子(6)が旋回するようにしたことを特徴とする。
【0024】
なお、上記に付した符号は、後述する実施形態に記載の具体的実施態様との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は、第1実施形態を示す平面図であり、(b)は、第1実施形態の軸状電極の動きを説明する説明図であり、(c)は、第1実施形態の電磁石の作動を説明する説明図である。
【図2】第1実施形態による所望形状創成の一例である。
【図3】円錐状の加工面を形成する場合の一実施形態である。
【図4】ラッパ状の加工面を形成する場合の一実施形態である。
【図5】(a)、(b)は、軸状電極1が旋回するように電磁石3を励磁する、他の実施形態を示す説明図である。
【図6】(a)は、第2実施形態を示す平面図であり、(b)は、第2実施形態を示す正面断面図であり、(c)は、第2実施形態の軸状電極の動きを説明する説明図であり、(d)は、4個の電磁石3に、所定の位相差を有するサイン波からなる作動電圧を順次与えた場合の説明図である。
【図7】(a)は、第3実施形態を示す平面図であり、(b)は、第3実施形態を示す正面図であり、(c)、(d)は、第3実施形態のスラッジ又は磁性体微粒子6を旋回させて、加工液に旋回流Uが発生する状況を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。各実施態様について、同一構成の部分には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0027】
(第1実施形態)
図1(a)は、第1実施形態を示す平面図であり、(b)は、第1実施形態の軸状電極の動きを説明する説明図であり、(c)は、第1実施形態の電磁石の作動を説明する説明図である。
第1実施形態は、放電加工における所望形状創成を行うものであり、特に、断面が複雑な形状の小径孔の加工や、3次元形状の孔を安価に明けることが可能とするものである。なお、放電加工とは、加工液(純水)中の電極と加工物の間にアーク放電を発生させる事で加工物を溶融し、またその熱により加工液が気化爆発することで溶融物を除去する加工法である。以下、断面が正8角形の形状の孔を明ける場合を、一例として例示して説明するが、これに限定されるものではない。図2は、第1実施形態による所望形状創成の一例である。
【0028】
軸状電極1は、一例として本実施形態では先端部をもつ円筒体である。軸状電極1は磁性体の材料を用いる。軸状電極としてはワイヤー放電加工に用いられるワイヤーも含まれる。
電極ガイド2は、目的の孔形状と同じ断面形状の孔が明いたもので、内壁5に対して背後(外側方向)に電磁石3が配置されている。電極ガイドは電磁石と別体に設けられるだけでなく、電極ガイド2は、電磁石3の端面に形成しても良い。この場合は、電極ガイド2は、電磁石3の端面の集合体が相当する。図1(a)に示すように、放射状に電磁石3が設置され、平坦な電磁石3の端面が八方から寄せ合わさって、正八角形の孔を形成している。この場合、電極ガイド2は、電磁石3の端面(内壁面5)が8面合わさった端面が相当する。もちろん、八角形の孔を有する、電磁石とは別体の非磁性体電極ガイド2を設けても良い。
【0029】
図1(a)に示すように、電磁石3は、所定の一軸O1に対して円周方向に、所定間隔で複数配置されている。図1(c)に示すように、その一つの電磁石3を作動させることにより、軸状電極1を、作動した電磁石3に吸着させる。その次にとなりの電磁石3を作動させることにより、軸状電極1はとなりの電磁石3に吸着する。図1(b)に示すように、これを順次繰り返すことにより、軸状電極1は電極ガイド内壁5(電磁石の内壁面)に吸着しながら、内壁に添って移動する。軸状電極1は、図1(c)のM部に示すように、被加工物4に電極ガイド内壁5(電磁石の内壁面)に倣った形状の孔が放電加工される。孔は貫通孔、又は、有底穴であっても良い。所定の一軸O1は、所定間隔で複数配置された電磁石3の設置平面に垂直な軸であれば任意の軸であってよい。所望形状に中心軸が存在する場合には、その中心軸にすればよいが、任意の軸であっても良い。通常は、軸状電極1が電磁石に励磁されていない初期状態のときの軸状電極1の軸とする。
【0030】
このように軸状電極1を電極ガイド内壁に沿って走査しながら加工を行うことで、断面が複雑な形状の孔を明けることができる。図2に示したような2次元での形状は、様々考えられる。本実施形態で、電極ガイドの内壁面5の形状を工夫することにより、3次元での曲面を放電加工することも可能である。図3は、円錐状の加工面を形成する場合の一実施形態である。電極ガイド2(電磁石3の内壁面であってもよい)の軸を所定の一軸O1として、所定の一軸O1対して円周方向に所定間隔で複数の電磁石を配設し、電極ガイド内壁面5を、軸O1に対して円錐面とする。この円錐面に倣うようにして軸状電極1を旋回させると、図3に見られるように倒置された円錐面が被加工物に放電加工により形成される。軸状電極1の軸をX−Y−Z平面のZ軸に対して平行に旋回させ、電磁石3で軸状電極1を図3のように、円錐状の内壁面5に吸着させて曲げた上で、この円錐面に倣うようにして軸状電極1を旋回させる。軸状電極1と被加工物4との間で放電加工させると、円錐面形状の孔を加工することができる。
【0031】
この場合、Z軸に平行に軸状電極1をチャックしたが、これに限定されるとことなく、3軸方向に変更可能な工具ホルダで軸状電極1をチャックして、軸状電極1を曲がらないように軸O1回りに姿勢制御して、電極ガイド内壁面5に倣わせても良い。
本実施形態では、Z軸に平行に軸状電極1をチャックして、電極ガイド内壁面5に吸着させ、図4のN部のように曲げた上で、電極ガイド内壁面5に倣うようにしたので、極めて簡単な制御で、ラッパ状の加工面を形成することができ、3次元形状の孔を安価に明けることができるのである。
【0032】
図4は、ラッパ状の加工面を形成する場合の一実施形態である。
この場合には、被加工物4の下面近傍に軸状電極1を囲むように補助電磁石3’が複数配置されており、孔が貫通した段階で、補助電磁石3’を作動させることにより、軸状電極1の先端が補助電磁石3’に引き寄せられる。複数の補助電磁石3’を順次作動させることにより、軸状電極1を意図的に振れまわすことで、出口側の孔径を拡大することができる。図4の場合は、図3の場合と異なり、電極ガイド内壁面5は円筒面であり、補助電極3’は、軸状電極1の先端が補助電磁石3’に引き寄せられるに設置されている。
【0033】
以上の説明においては、軸状電極1を、複数の前記電磁石3が順次吸引するように励磁して、電極ガイド2の内壁面5に沿って軸状電極1が旋回するようにした。軸状電極1が旋回するように電磁石3を励磁する方法はこれに限るものではない。
【0034】
図5(a)、(b)は、軸状電極1が旋回するように電磁石3を励磁する、他の実施形態を示す説明図である。図5(a)の場合、電磁石3は4本であるので、図5(b)に示すように、90度の位相差のあるサイン波からなる作動電圧を順次与え、電極ガイド2の内壁面5に沿って軸状電極1を旋回させる。このように、軸状電極1を、複数の電磁石3に、それぞれ、所定の位相差θを有するサイン波からなる作動電圧を順次与え、電極ガイド2の内壁面5に沿って軸状電極1を旋回させるようにすることができる。図1(a)の配置の場合に適用すれば、位相差を45度にして、順次電磁石A〜Hにサイン波からなる作動電圧を与えればよい。位相差は通常は各電磁石間で等位相差とするが、加工形状によっては必ずしも等位相差とする必要は無い。
【0035】
本実施形態の特徴は、以下のとおりである。
(1)小径でも加工が容易
本実施形態は、加工孔の形状が電極側面形状に左右されないため、孔加工で一般に使用される円柱状の電極を用いることが可能である。そのため、小径の加工孔も加工可能である。
(2)エッジを有する形状も加工可能
図2に示すエッジ(角部)を有する形状を加工したい場合、ガイド内壁にエッジ形状を有する孔をもたせ、それに沿わせて電極を走査するため、確実にエッジ形状を加工できる。
【0036】
(3)3次元形状の加工も可能
3次元形状の孔を作るには、ガイド内壁を傾かせ、その内壁に電極を沿わせて,電極を傾かせることで形成可能である。また、下方側に配置した電磁石により、電極をしならせてラッパ形状のテーパを作ることで,同形状のテーパを形成することができる。
【0037】
(第2実施形態)
次に、形状が円形の場合であって、微細孔加工に用いた第2実施形態について説明する。図6(a)は、第2実施形態を示す平面図であり、(b)は、第2実施形態を示す正面断面図であり、(c)は、第2実施形態の軸状電極の動きを説明する説明図であり、(d)は、4個の電磁石3に、所定の位相差を有するサイン波からなる作動電圧を順次与えた場合の説明図である。
【0038】
燃料噴射弁、バルブ弁などでは、孔径が40μm〜300μm程度の微細孔加工を対象として放電加工を行うことがある。これまでの微細孔加工では、通常、目的の孔径に応じた円柱状の電極(電極径は孔径の10〜20μm小さい)を用いて加工を行うが、孔径が小さいと電極も細くなり曲がりやすくなる。このため、曲がらないようにするために電極をガイドする機構が必須となる。
【0039】
電極をガイドする方法として、通常シャープペンの芯とガイドように、電極径+数μm大きい孔が明いたガイドを用い、その中に電極を通して、ガイドする。しかし、この方法では電極とガイド間にクリアランスがあるため、クリアランス内で電極が不均一に振れ回る可能性があり、その分加工孔径がばらついてしまうという問題が生じていた。本実施形態においては、このような問題にも対処することができ、ガイドの孔の内壁面5に電極を引き寄せ、内壁面5に電極を沿わせることで、加工精度を向上させるようにしたものである。本実施形態は、電極ガイドに形状を倣わせることを、クリアランス内で電極が不均一に振れ回らないように規制する目的で適用した場合の実施形態である。
【0040】
本実施形態は、軸状電極1を電極ガイド2に沿わせるようにするために、軸状電極1に磁性体の材料を用い、磁力により電極位置をコントロールするものである。
図6(a)のように、電極ガイド2の外側に電磁石3を配置したものを使用する。電極ガイド2の外側に電磁石3が所定の一軸O1に対して放射方向に複数配置されている。図6(c)を参照して、作動を説明すると、その一つの電磁石3を作動させると、軸状電極1は作動した電磁石に吸着する。次にとなりの電磁石3を作動させることにより、電極はとなりの電磁石3に吸着する。これをA〜Hの電磁石3に順次繰り返すことにより、軸状電極1は電極ガイド2の内壁面5に吸着しながら、内壁面5に添って回転運動をすることができる。
これにより、軸状電極1の振れ回りは、電極ガイド2の内壁面5の径以内に限定されて一定となり、加工孔径のばらつきを防止することができる。
【0041】
図6(d)は、4個の電磁石3に、90度の位相差を有するサイン波からなる作動電圧を順次与えた場合の実施形態である。
この場合にも、電極ガイド2は非磁性体の材料を用い、その周りに電磁石3をそれぞれの一方の極が四方から軸状電極1に向かうように配置する。4つの電磁石3の作動位相を90度ずつ順番にずらして作動電圧をサイン波で与える。これで軸状電極1を中心として旋回するように磁力を与えられる。このように磁力を付与すれば、軸状電極1は電極ガイド2の内壁面5に沿ってふれ回るため、電極ガイド2の内壁面5の径以内に限定されて一定となり、加工孔径のばらつきを防止することができる。
【0042】
第2実施形態では、電極ガイド2は電磁石3と別体に設けられていたが、電極ガイドを別体とすることなく、電極ガイドを、電磁石3の突き合わされた端面に形成しても良い。
【0043】
以上説明した、第1、2実施形態を方法の発明として実施することもできる。
すなわち、磁性体材料からなる軸状電極1を、電極ガイド2の内壁面5に沿って、所定の一軸O1周りに旋回運動させるように、前記一軸O1に対して円周方向に所定間隔で配設された前記複数の電磁石3を順次個別に励磁するステップと、パルス電源ユニットにより、前記軸状電極1と被加工物4との間に間歇的な電圧パルスを印加して繰り返し放電を発生させるステップと、被加工物4に所定形状の穴又は所定形状のキャビティを加工するステップとを具備する放電加工方法も本願発明の実施形態である。さらに、本願発明の実施形態としては、電極ガイド2の内壁面5に沿ってなる構成がなくても、円形などは比較的高速の定速で旋回を行ったり、形状の一部分だけ軸状電極1の移動速度を変更するなどすればある程度の所望形状加工が可能となるものである。
【0044】
(第3実施形態)
放電加工とは,加工液(純水)中の電極と加工物の間にアーク放電を発生させる事で加工物を溶融し、またその熱により加工液が気化爆発することで溶融物を除去する加工法である。その溶融物は加工部付近に微小なスラッジとして存在する。加工が進行するにつれてスラッジが発生するため、電極と加工物の間に多量に堆積する。そのためスラッジが電極と加工物の間に鎖状につながって通電してしまい、放電が発生せず、加工が進まなくなることがある。また、スラッジが偏在することにより、放電がスラッジの密度の高い部分に集中してしまい、同一箇所に放電が折り重なって発生するため、加工後の面粗さが悪化してしまうという問題点が発生する。このような問題点に対応すべく、従来は次のような解決策を講じてきた。
【0045】
(1)加工点に流れを与える。
加工点外部から、加工液をかけ流すことにより、加工液に流れを与えて、加工液とともにスラッジを加工点から排出する方法である。これは、特に微細孔加工では、加工孔底面まで流れを付与しにくいため、排出性は良くない。また電極を回転する事で流れを与える方法も一般的であるが、通常2000rpm程度の回転しかできず排出力は弱い。
(2)電極引き上げ動作を付加する。
加工中に、定期的に電極を加工開始点付近まで引き上げ、その時のポンピング作用により、加工点の加工液に負圧を発生させることで加工液に流れを発生させて、スラッジを排出する方法である。引き上げ動作中は加工がなされないため、その分加工時間は増大してしまう。
【0046】
本実施形態では、放電加工における所望形状創成を行うと同時に、さらに、上記問題点に見られるようなスラッジによる排出性能や加工効率低下を改善することを目的としたものである。
【0047】
すなわち、磁性体材料からなる軸状電極1を、電極ガイド2の内壁面5に沿って、所定の一軸O1周りに旋回運動させるように、前記一軸O1に対して円周方向に所定間隔で配設された前記複数の電磁石3を順次個別に励磁するステップと、パルス電源ユニットにより、前記軸状電極1と被加工物4との間に間歇的な電圧パルスを印加して繰り返し放電を発生させるステップと、被加工物4に所定形状の穴又は所定形状のキャビティを加工するステップとを具備する放電加工方法において、加工してできたスラッジ又は混入された磁性体微粒子6を旋回させて、加工液に旋回流Uを発生させるステップをさらに具備させたものである。
【0048】
図7(a)は、第3実施形態を示す平面図であり、(b)は、第3実施形態を示す正面図であり、(c)、(d)は、第3実施形態のスラッジ又は磁性体微粒子6を旋回させて、加工液に旋回流Uが発生する状況を説明する説明図である。
【0049】
図7(a)〜(d)を参照して、本実施形態を説明する。
軸状電極1は、第1実施形態と同様に、本実施形態で先端部をもつ円筒体である。軸状電極としてはワイヤー放電加工に用いられるワイヤーも含まれる。軸状電極1は、磁性体の材料を用いる。なお、軸状電極1が非磁性体であっても被加工物4が磁性体ならば、加工液に旋回流Uを発生させることができ、スラッジの排出が可能である。軸状電極1が非磁性体の場合は、磁性体材料からなる軸状電極1は、所定の一軸O1周りに旋回運動せず、加工液にのみ旋回流Uを引き起こすことになる。
【0050】
図7(a)に示すように、放射状に電磁石3が設置され、平坦な電磁石3の端面が四方から寄せ合わさっている。電磁石3は、所定の一軸O1に対して円周方向に、所定間隔で複数配置されている。図7(c)に示すように、その一つの電磁石3を作動させることにより、軸状電極1が電磁石3に吸着するとともに、加工してできたスラッジ又は混入された磁性体微粒子6も上方に吸着する。その次にとなりの電磁石3を作動させることにより、スラッジ等はとなりの電磁石3に吸着する。これを順次繰り返すことにより、図7(d)に示すように、加工液に旋回流Uが発生する。
【0051】
本実施形態は、加工点周辺の加工液に流れを与え、スラッジを攪拌・排出させることにより、スラッジによる加工効率低下を抑制し、加工の高速化を図る方法である。流れを与える方法としては磁力を用いる。磁力付与構造としては、磁力は電磁石3によって付与する。電磁石3は、被加工物4の上面近傍に、それぞれの一方の極が四方から軸状電極1に向かって配置されている。被加工物4の下面近傍に軸状電極1を囲むように電磁石が配置してもよく、被加工物4の上面近傍と下面近傍の両方に軸状電極1を囲むように電磁石が配置してもよい。
【0052】
磁力付与の方法としては大きく3つ存在する。第1の方法は、加工物上面近傍あるいは下面の4つの電磁石の作動位相を90度ずつ順番にずらして作動電圧をサイン波で与える。これで電極を中心として旋回するように磁力を与えられる。第2の方法は、第1の方法と同様に電磁石を作動させるが、周期的に磁力付与を停止する。第3の方法は、第1の方法と同様に電磁石を作動するが、周期的に磁力を逆方向に付与する。第2、第3の方法を用いると乱流が発生するため、スラッジはより拡散し、スラッジの偏在を抑制する事が可能となる。
【0053】
これらの磁力を利用して加工液に旋回流を作るには、次のように2つの旋回流生成方法が存在する。1つ目は加工物に磁性体を用いる方法である。加工してできたスラッジは磁化するため磁力でスラッジが旋回し、旋回流が生まれる。
もう1つは、加工液に磁性体の微粒子を混入させる方法である。これも同様に磁力で微粒子が旋回する事で旋回流を生む。
【0054】
また、上面側に設置された電磁石の場合、スラッジは旋回しながら上方に向かい、下面側に設置された電磁石では旋回しながら下方に向かう。これは孔が貫通するまでは上面側の電磁石でスラッジを上方に排出し、貫通した後には下方に排出するために用いる。
通常、孔の抜け際ではスラッジが排出できなくて加工が停滞することが分かっているため、この切り替え制御は加工高速化に非常に有効になる。
【0055】
本実施形態では、加工してできたスラッジ又は混入された磁性体微粒子6を旋回させて、加工液に旋回流Uを発生さる際に、磁力を用いる事で(その応答速度の高さから)、理論上最大60000rpm程度での旋回流を生むことができる。このため、排出・攪拌力は著しく上昇し、従来技術のように加工時間が増加することなく、加工効率を上げることができる。
本実施形態において、孔径は40μm〜300μm程度の微細孔加工を対象としている。また、本実施形態で発生するスラッジの粒径は1〜3μm程度である。仮に、粒径1μmのスラッジが3回転旋回した後に、回転数60000rpmに達して排出されると仮定した場合、スラッジ周辺に必要な磁束密度は0.26Tである。
【0056】
第3実施形態は、所定の一軸O1周りに、加工液内の磁性体微粒子6を旋回運動させるように、前記一軸O1に対して円周方向に所定間隔で配設された前記複数の電磁石3を順次個別に励磁するステップと、パルス電源ユニットにより、前記軸状電極1と被加工物4との間に間歇的な電圧パルスを印加して繰り返し放電を発生させるステップと、被加工物4に穴又はキャビティを加工するステップと、加工してできた磁性体微粒子6又は混入された磁性体微粒子6を旋回させて、加工液に旋回流Uを発生させるステップを具備する放電加工方法に変形可能である。この場合には、軸状電極は、磁性体でも、非磁性体であってもよく、電極ガイドは不要である。
【符号の説明】
【0057】
1 軸状電極
2 電極ガイド
3 電磁石
4 被加工物
5 内壁面
6 スラッジ、磁性体微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体材料からなる軸状電極(1)と、
該軸状電極(1)をガイドさせる電極ガイド(2)と、
所定の一軸(O1)に対して円周方向に所定間隔で配設された複数の電磁石(3)と、
前記軸状電極(1)と被加工物(4)との間に間歇的な電圧パルスを印加して繰り返し放電を発生するパルス電源ユニットと、を具備する、
被加工物(4)に所定形状の穴又は所定形状のキャビティを加工する放電加工装置において、
前記軸状電極(1)を、前記電極ガイド(2)の内壁面(5)に沿って倣わせて、前記一軸(O1)周りの旋回運動させるように、前記複数の電磁石(3)を順次個別に励磁することを特徴とする放電加工装置。
【請求項2】
前記電極ガイド(2)の内壁面(5)が円筒面であって、孔径が40μm〜300μmの微細孔加工を行うことを特徴とする請求項1に記載の放電加工装置。
【請求項3】
前記電極ガイド(2)の内壁面(5)が前記電磁石(3)によって形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の放電加工装置。
【請求項4】
前記電極ガイド(2)の内壁面(5)が前記電磁石(3)とは別体の非磁性体ガイドから構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の放電加工装置。
【請求項5】
前記電極ガイド(2)の内壁面(5)が3次元曲面で構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の放電加工装置。
【請求項6】
前記電磁石(3)と前記電極ガイド(2)を被加工物(4)の上面に設置し、被加工物(4)の下面にもさらに複数の補助電磁石(3’)を設置し、前記補助電磁石(3’)が前記軸状電極(1)の先端を吸引して被加工物(4)にラッパ状の孔を加工したことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の放電加工装置。
【請求項7】
前記軸状電極(1)を、複数の前記電磁石(3)が順次吸引するように励磁して、前記電極ガイド(2)の内壁面(5)に沿って前記軸状電極(1)が旋回するようにしたことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の放電加工装置。
【請求項8】
前記軸状電極(1)を、複数の前記電磁石(3)に、それぞれ、所定の位相差を有するサイン波からなる作動電圧を順次与え、前記電極ガイド(2)の内壁面(5)に沿って前記軸状電極(1)が旋回するようにしたことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の放電加工装置。
【請求項9】
磁性体材料からなる軸状電極(1)を、電極ガイド(2)の内壁面(5)に沿って、所定の一軸(O1)周りに旋回運動させるように、前記一軸(O1)に対して円周方向に所定間隔で配設された前記複数の電磁石(3)を順次個別に励磁するステップと、
パルス電源ユニットにより、前記軸状電極(1)と被加工物(4)との間に間歇的な電圧パルスを印加して繰り返し放電を発生させるステップと、
被加工物(4)に所定形状の穴又は所定形状のキャビティを加工するステップと、
を具備する放電加工方法。
【請求項10】
加工してできたスラッジ又は混入された磁性体微粒子(6)を旋回させて、加工液に旋回流(U)を発生させるステップをさらに具備する請求項9に記載の放電加工方法。
【請求項11】
磁性体材料からなる軸状電極(1)を、所定の一軸(O1)周りに旋回運動させるように、前記一軸(O1)に対して円周方向に所定間隔で配設された前記複数の電磁石(3)を順次個別に励磁するステップと、
パルス電源ユニットにより、前記軸状電極(1)と被加工物(4)との間に間歇的な電圧パルスを印加して繰り返し放電を発生させるステップと、
被加工物(4)に所定形状の穴又は所定形状のキャビティを加工するステップと、
を具備する放電加工方法。
【請求項12】
加工してできたスラッジ又は混入された磁性体微粒子(6)を旋回させて、加工液に旋回流(U)を発生させるステップをさらに具備する請求項11に記載の放電加工方法。
【請求項13】
前記複数の電磁石(3)を被加工物(4)の上面側に設置し、被加工物(4)の下面側に複数の補助電磁石(3’)を設置して、孔が貫通するまでは上面側の電磁石(1)で前記スラッジ又は磁性体微粒子(6)を上方に排出し、貫通した後には下面側の複数の補助電磁石(3’)で下方に排出するステップをさらに具備する請求項11又は12に記載の放電加工方法。
【請求項14】
複数の前記電磁石(3)を順次吸引するように励磁して、前記スラッジ又は磁性体微粒子(6)が旋回するようにしたことを特徴とする請求項10、12、又は、13のいずれか1項に記載の放電加工装置。
【請求項15】
複数の前記電磁石(3)に、それぞれ、所定の位相差を有するサイン波からなる作動電圧を順次与え、前記スラッジ又は磁性体微粒子(6)が旋回するようにしたことを特徴とする請求項10、12、又は、13のいずれか1項に記載の放電加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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