説明

形状記憶複合材料から成る製品、その製造方法および記憶形状の再現方法

本発明は形状記憶複合材料(12)から製造される物体(10)に関し、この形状記憶複合材料は、形状記憶ポリマー(14)およびこの形状記憶ポリマーに埋め込まれた磁性物質(16)とを含み、この形状記憶ポリマー(14)は、熱機械的プログラミングの後で、温度が低下されて一時的な形状から永続的形状への形状遷移を完遂することができる状態となる。また本発明は、プログラムされた物体(10)の製造方法および記憶された形状を再現する方法に関する。物体(10)は少なくとも2つの、直接的または間接的に相互に接続された断片(18、20)を備え、これらの断片は異なる表面−体積比(O/V)によって互いに異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶複合材料から成る製品に関する。この形状記憶複合材料は形状記憶ポリマーおよび、これに埋め込まれた磁気材料を含み、この形状記憶ポリマーは熱機械的プログラミングにより、一時的形状から誘発されてその永続的な形状を示す。本発明は、更にプログラムされた製品の製造のための熱機械的方法、およびこのようにプログラムされた製品の記憶された形状の復元を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、いわゆる形状記憶ポリマーまたはSMPs(Shape Memory Polymers)が知られており、この形状記憶ポリマーは適切な刺激による誘導によって、事前のプログラミングに対応して、一時的形状から永続的な形状への形状遷移を示す。もっともしばしば行われるものは、熱的な刺激による形状記憶効果である。すなわち、特定のスイッチ温度(Schalttemperatur)を越える加熱を行うと、ポリマー材料がエントロピー弾性により駆動され、復元が生じる。形状記憶ポリマーは、一般的にポリマーネットワークであり、このポリマーネットワークでは化学的(共有結合的)または物理的(非共有結合的)な架橋部が永続的な形状を決定する。このプログラミングでは、一時的な形状を固定するために、1つのスイッチセグメントで形成される相(スイッチ相)の遷移温度より高い温度で、ポリマー材料が変形され、これに続いて変形力を維持しながら、この温度以下に冷却される。再びスイッチ温度より高い温度に加熱すると、相転移が起こり、元の永続的形状が再現される。(スイッチ温度Tswは、遷移温度Ttransとは異なり、機械的な動作に依存するので、これら2つの温度は互いに僅かに異なっていてよい。)
【0003】
永続的な形状の他に1つの一時的な形状を取ることができる、この2形状プラスチック(デュアルシェイプポリマー、“dual shape polymer”)の他に、最近AB−ポリマーネットワーク(いわゆる3形状プラスチックまたはトリプルシェイプポリマー、“triple-shape plymer”と呼ばれる)も発表されており、このAB−ポリマーネットワークは異なるスイッチセグメントから形成される、異なる遷移温度およびスイッチ温度を持つ2つの相を備え、そしてこれによって、永続的な形状の他に2つの一時的な形状を「形状記憶」することができる(例えば、ベリン氏等の論文、Bellin et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 2006 103(48):18043-18047、または国際出願公開公報WO99/42528A)。この3形状プラスチックは、基本的に少なくとも2つの混合可能でない、分離された相を備え、各々の相はそれぞれ1つの一時的形状を固定するようになっている。ここで、この永続的形状は、ポリマーネットワークの共有結合的架橋部によって固定され、これに対し2つの一時的形状は熱機械的プログラミングプロセスによって定められる。熱的に誘導される2つの互いに連続した形状遷移を完遂する能力、すなわち第1の一時的形状から、第2の一時的形状への遷移、およびこれから永続的形状への遷移は、複雑な動作を可能とし、そして多様な応用可能性をもたらし、例えば医学分野において応用できる。
【0004】
更に、磁気的な刺激によって形状遷移が引き起こされることが知られている。そこでは、形状記憶複合材料が用いられている。この形状記憶複合材料には形状記憶ポリマーの基質、およびこの形状記憶ポリマーに埋め込まれた磁性粒子が含まれる。形状記憶ポリマーには熱的刺激が可能なSMPで、熱機械的プログラミングの後で熱的に誘導されて、形状遷移を完遂する能力を持ったものが用いられる。交流磁場の作用により、磁性粒子が誘導加熱され、そしてこれによって周囲のSMPが過熱され、このSMPがそのスイッチ温度に到達して、事前にプログラムされた形状から永続的な形状への遷移が引き起こされる。
【0005】
例えば、モーア氏等の論文(Mohr et al., Proc. Nat. Sci. USA, 2006, 103(10):3540-3545)には、これに相当する、磁性ナノ粒子が埋め込まれた形状記憶ポリマーからなる複合材料が記載されている。この論文では、表面−体積比(O/V、“Oberflachen-Volumen-Verhaltnis”)および与えられた磁場で到達可能な最高材料温度Tmaxが記載されており、特にこの到達可能な最高材料温度がO/Vの増加につれて減少するという知見が記載されている。
【0006】
国際出願公開公報WO2005/042142A2には、形状記憶複合材料が記載されており、この形状記憶複合材料は形状記憶ポリマー基質、およびこの形状記憶ポリマー基質に埋め込まれた磁性および/または金属コロイドを含んでいる。外部磁場によって、コロイド粒子の誘導加熱が引き起こされ、そしてこれによって周囲のポリマー材料が加熱され、この加熱により物理的構造変化、とりわけ緩和プロセスが誘発される。この緩和プロセスは幾何形状の変化そして最終的には薬理作用のある薬剤の放出をもたらす。米国出願公開第US2005/0212630A1号公報にも形状記憶複合材が記載されており、この形状記憶複合材は形状記憶ポリマー基質およびこの形状記憶ポリマー基質に埋め込まれた磁性粒子を含んでいる。これらの材料系も、従って、磁気的に誘発される形状遷移を行うことができる。
【0007】
このように、交流磁場によって熱的に誘発される形状記憶効果の制御の可能性が開かれたことは、とりわけ医学的な応用に有用である。この医学的応用においては、従来の外部からの熱の導入は生理的に耐えられるものではなかった。しかしながら、多くの応用では複雑な形状変化が必要であり、とりわけ連続的に多数の形状を順次取るような形状変化もまた必要である。現状では、これは磁気的な刺激の原理では実現できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は磁気的に刺激可能な形状記憶効果を持つ、2つ以上の磁気的に誘発される形状遷移を完遂することができる物体を提供することである。この物体は更に、出来る限り簡単に、そして一様の材質から製造されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は請求項1の特徴を持った物体によって解決される。本発明による物体は、1つの形状記憶複合材料から製造され、この形状記憶複合材料は形状記憶ポリマーおよび少なくとも1つのこの形状記憶ポリマーに埋め込まれた磁性物質を含む。形状記憶ポリマーとしては従来の、熱的に刺激可能な形状記憶効果を持つSMPが用いられる。すなわち、温度により誘発されて、1つの熱機械的にプログラムされた一時的形状から、永続的な形状への少なくとも1つの形状遷移を完遂することができる。これに対し磁性物質においては、ただ交流磁場を作用させることによって、この磁性物質が加熱される能力があることだけが重要となる。この磁性物質はしたがって交流磁場による誘導によって加熱することができ、ポリマー材料をそのスイッチ温度以上へ加熱することが可能であり、これによって形状復元が誘発される。この物体は、少なくとも2つの、間接的または直接的に結合された断片を備え、これらの断片は異なる表面−体積比O/Vによって、互いに異なっているということを特徴とする。本発明は、とりわけ物体の特別な幾何学的形状を示し、異なるO/Vを持った形状記憶複合材料から成る幾何学的物体が、与えられた交流磁場で異なった材料温度となる(図9)ということを利用している。特に、幾何学的物体の到達可能な最高材料温度は、その表面が体積に対して大きいほど、小さくなる。これは、小さなO/Vを持った物体に対して、周囲への熱の移動が相対的に大きくなるということによる。本発明による、異なるO/Vを持った物体内での多数の断片の存在によって、周囲との相互作用の下にある構造部分の熱輸送プロセスを利用して、最も小さなO/Vを持った断片が適切な交流磁場において形状復元(切替)に必要な材料温度に到達し、そして大きなO/Vを持った断片は到達しないようにすることに成功している。更なる磁場強度の増加および/または周波数の増大によって、大きなO/Vを持った断片も形状復元に必要な材料温度に漸く到達し、事前にプログラムされた形状遷移を完遂する。このようにして、周囲の温度を上げることなく、多数の形状を次々に再現させることができる。この際、外部磁場は連続して増大され、これにより個々の断片の形状遷移は互いに別々に時間を置いて行うことができる。周囲温度の上昇による形状変化の場合とは逆に、本発明では、場所的に離れた物体の断片が互いに分離されて動作され、これに続いて他の断片がそれらのO/Vの順に動作される。これより、プログラム可能な一時的形状の数は、結局異なる表面−体積比を持った断片の総数のみによって決定される。
【0010】
本発明の利点は、物体が一様の複合材料から、一体に製造することが可能であるということであり、すなわち異なるO/Vを持った断片の全てが、同じ材料から出来るということである。考え得る他の方法と異なり、連続した形状変化の列が複数の断片の異なる材料により実現されること、例えば磁性物質の異なる濃度によって、または異なるスイッチ温度を持った異なる形状記憶ポリマーによって実現されることは、本発明によれば、一体型で一様な材質で容易に製造可能であり、これは射出成形またはこれと同様の方法で行われる。
【0011】
この際、本発明の範囲において断片(または部分断片)の概念は、物体の目で区別可能な部分領域と解釈され、境界は任意に存在しているわけではなく、物体の幾何学的な実際の形状によって決定される。とりわけ、この断片は、1つの断片のO/Vから他の断片のO/Vへの境界面での遷移が瞬発的に起こる、または少なくとも物体の全長に関して急峻に起こることを特徴とする。ここで、「急峻(steil)」とは2つの隣り合う表面−体積比の間の遷移が、物体の全長の最大10%の長さに渡ると解釈される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によれば、物体の少なくとも2つの断片は、それぞれ少なくとも1つの空間方向に1つの一定の材料強度を備える。この物体が平面形状の場合、異なる表面−体積比は、断片の異なる材料厚さのみによって実現される。この方法の代替または追加として、2つの断片がそれぞれ、少なくとも1つの方向に関して、特に断片の長さ方向で一定のO/Vを持つと有利である。1つの断片内に一定な表面−体積比が存在することにより、所定の磁場に物体を曝すことによって、局部的に均質に周囲への熱分散が行われ、これによってこの断片内での一様な材料温度が得られる。これにより、この材料温度が形状記憶ポリマーのスイッチ温度を超える場合は、協調して進行する形状復元が断片全体で実現される。
【0013】
好ましくは、この物体の異なる断片の表面−体積比は少なくとも係数で1.2倍異なっており、とりわけ係数で1.5倍異なっている。少なくとも係数で2倍異なっていると、更に有利である。このようにして各々の断片を動作させるのに必要な、磁場強度および/または磁場周波数の十分に大きな差を確保するすることができる。同じ理由から、与えられた磁場において、少なくとも2つの断片の到達可能な材料温度差が少なくとも10K、とりわけ好ましくは少なくとも15K、更に有利なものは少なくとも20Kの差となるように、これらの断片の表面−体積比が選択される。
【0014】
本発明の更に有利な実施形態では、物体の断片が互いに直接的には結合されておらず、中間に設けられた、熱的に絶縁する断片を介して結合される。この断片は例えば出来る限り大きな表面−体積比およびこれによる周囲への大きな熱伝導率によって特徴づけられ、この熱的絶縁断片O/Vは、少なくとも2つの断片のうちどちらかのより大きなO/Vをもつ断片のO/Vと同等であり、このO/Vより、とりわけ少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%大きい。
【0015】
熱的に誘発される形状記憶遷移と表面−体積比O/Vとの関係は図10および11によって与えられ、一方では温度に対する伸長が示され(図10)、もう一方では与えられた磁場で最大到達可能な温度TmaxのO/Vへの依存性が、ナノ粒子含有率1.5;5.0;7.5および10重量%の複合材においてO/Vに関して示されている(図11)。異なるO/Vを用いることによって、これによる異なる温度および形状記憶効果の開始が実現される。更にTmax対O/Vの図で、出来る限り大きな増加率の特性曲線の有利さが明瞭であるが、これはこのように与えられた温度間隔で、O/Vの差が最も小さくなる(図11の補助線を参照)ようにすることができ、または、与えられたO/Vで、設定可能な温度間隔を出来る限り大きくすることができるからである。大きな増加率を持った特性曲線は粒子材料の変更またはナノ粒子の含有率の増加により実現することができる(図11)。
【0016】
更に加えて有利な点は、形状記憶効果の復元が出来る限り瞬発的にそして比較的小さな温度間隔で完遂され、これにより異なる構成断片を別々に制御するための表面−体積比の差を出来る限り小さくできることである。図12には、10重量%の粒子を含む熱可塑性樹脂からなる複合材および5重量%の粒子を含むポリマーネットワークからなる複合材の伸長の温度に対する変化が示されている。ネットワークでの復元は実質的に瞬発的に行われる。構成部品の個々の断片を別々に制御するための、構成部品のO/Vの必要な差がこれによってより少なくなる。
【0017】
本発明の更なる態様はプログラムされた物体の製造方法であり、この方法は以下のステップを含む。
a)前述の本発明に対応した物体を永続的な形状で提供するステップ。
b)この物体の第1の断片の、形状記憶複合材料のスイッチ温度より高い材料温度での変形、およびこれに続く、スイッチ温度より低い温度での冷却ステップ。
c)この物体の第2の断片の、形状記憶複合材料のスイッチ温度より高い材料温度での変形、およびこれに続く、スイッチ温度より低い温度への冷却ステップ。
【0018】
ここでステップb)およびc)は任意の順序で次々に実施するか、または同時に実施することもまた可能である。ここで必要な材料温度は熱的、または交流磁場を用いた相互作用によって得られる。順次的な実施では、まず大きなO/Vを持った部分断片を変形し、そしてこの後冷却し、そしてこれに続けてこのステップを小さなO/Vを持った断片で行うが、これにより最初に処理した断片のプログラミングが解消されることが無いようにできるという利点がある。異なるO/Vを持った断片の加熱を別々に行うことができ、それぞれの加熱が既に実施されたプログラミングを解消しないのであれば、プログラミングステップ(b)および(c)を任意の順序で行うことが可能である。
【0019】
上記で説明した方法の他に、これらの同時的または順次的な個々の断片の変形は、スイッチ温度より低い温度でもまた「低温伸長(“kaltes Verstrecken”)」によって行うことが出来、これにより物体は遷移温度より低い温度で変形を受ける。低温伸長によりプログラムされることが出来る断片の選択は、自由選択できる。このように2つの断片および物体のこうした2つの一時的形状(TP1とTP2)は低温伸長を用いてプログラムすることができる。代替方法として、物体の断片の1つはまた同様に、(a)または(b)により熱機械的にプログラムされ(TP1)、そしてもう1つの断片は低温伸長(TP2)によってプログラムされる。低温伸長によってプログラムされた一時的形状(TP1)のプラグラミングが部分的加熱によって解消されないことが保証されている限りにおいて、まず加熱され、そしてそれから(a)または(b)によるプログラミングを実施することもできる。
【0020】
このプログラム方法の更なる変形として、スイッチ遷移がガラス遷移である材料で、例えば室温等の、スイッチ温度より低い温度で、適切な軟化剤がポリマー材料に添加され(例えば可塑剤または可塑剤の溶液に浸漬されることにより)、このスイッチ温度は周囲温度より低い温度に低下し、そして断片は同時的または順次に周囲温度において変形することができる。これに続いて、この可塑剤は、例えば適合した溶剤を用いるかまたは真空にすることによって、再度材料から除去され、これによりプログラムされた一時的形状が固定される。ここでもまた、物体の種々の断片に対して、異なるプログラミング方法の組み合わせが可能であり、例えば1つの断片は可塑剤に浸漬されてプログラムされ、そして他の1つの断片は単独に加熱される。なおここでもまた再度注意すべきことは、1つの断片のプログラミングは他の1つの断片のプログラミングを解消しないことである。
【0021】
本発明の更なる態様は、上述した方法によってプログラムされた物体の記憶された形状を再現するための方法に関し、以下のステップを持つ。
(a)第1の表面−体積比(O/V)を持つ物体の第1の断片を、形状記憶複合材料のスイッチ温度より高い温度に加熱するのに適した第1の交流磁場にこの物体を暴露し、ここでこの第1の断片は形状遷移を完遂し、そしてこの物体は第1の一時的形状から第2の一時的形状へ遷移するステップ。
(b)この物体を、第1の断片の第1の表面−体積比(O/V)より大きな、第2の表面−体積比(O/V)を持つ物体の第2の断片を形状記憶複合材料のスイッチ温度より高い温度に加熱するのに適した第2の交流磁場に暴露し、ここでこの断片は形状遷移を完遂し、そしてこの物体は第2の一時的形状から永続的な形状へ遷移するステップ。
【0022】
この際、第1の交流磁場から第2の交流磁場への移行は、磁場強度および/または磁場周波数を段階的にまたは連続的に増加することによって行われる。
【0023】
他の実施形態では、この磁場はステップ(a)の後に同様に中断(遮断)することもできる。このようにして得られた一時的形状は第2の交流磁場が、ステップ(b)と同様に印加されるまで安定して維持される。
【0024】
更に他の本発明の好ましい実施形態は、その他の、従属項に記載の特徴で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
以下に本発明の実施形態を図を参照して説明する。

【図1】本発明による物体の、第1の有利な実施形態の例である。
【図2】本発明による物体の、第2の有利な実施形態の例である。
【図3】5重量%の磁性ナノ粒子を含むSMP複合材料ネットワークの(a)熱的な特性と(b)機械的−物理的特性の変化の温度依存を示す。
【図4】1つの交流磁場において到達可能な試料物体の最高材料温度Tmaxの、試料物体の表面−体積比に依存した、実験的に得られた関係を示す。
【図5】図A〜Dは図2に示す物体のプログラミングプロセスのステップと、磁気的に誘発される形状遷移を再現するステップを示す。
【図6】図2に示す1つの物体の、異なるO/Vを持つ2つの試料断片の復元角度の磁場強度への依存性を示す。
【図7】異なるO/Vを持つ2つの試料物体への磁気的に誘発される形状記憶効果の測定のための実験セットアップを示す。
【図8】図7に示す試料物体の復元角度の結果を磁場強度の関数で示す。
【図9】5重量%のナノ粒子を含む複合材料の異なるO/V(1.3;1.6;2.3;4.3)のものに対して、19.25kA/mの磁場強度での材料温度の時間経過を示す。
【図10】5重量%の磁性粒子を含む複合材料の伸長の、材料温度への依存性を示す。
【図11】19.25kA/mの磁場強度における、磁性粒子の含有率の異なる複合材料での、到達可能な最高材料温度TmaxのO/Vへの依存性を示す。
【図12】10重量%の磁性粒子を含む熱可塑性樹脂の形状記憶ポリマーと10重量%の磁性粒子を含むポリマーネットワークとからなる複合材料の伸長の変化の、材料温度への依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明による物体の1つの実施形態例を示す。この物体は、適切なプログラミング後に、2つの磁気的に誘発可能な形状遷移を完遂することができる。全体が参照番号10で示されている物体は、好ましくは一体に製造された形状記憶複合材料12であり、この形状記憶複合材料12は、形状記憶ポリマー13およびこれに埋め込まれた磁性物質16を含む。
【0027】
形状記憶ポリマーとしては、熱的に誘発できる形状記憶効果(SMP)を持ったポリマーネットワークが用いられる。この架橋形成は共有結合によって実現されているか、または物理的相互作用、例えば静電気的効果によって実現されていてもよい。架橋部の他に、このポリマーネットワークは少なくとも1種類のスイッチセグメントを含み、このスイッチセグメントは材料に依存する、結晶化温度またはガラス転移温度のような遷移温度を備える。形状記憶効果を備えるポリマーネットワークは多くの文献に記載されている。基本的に本発明は特殊な材料に全く限定されていない。例えば、このポリマーネットワークは1つのスイッチセグメントを備え、このスイッチセグメントはポリエステル、とりわけポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニール、ポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリ(パラ−ジオキサノン)、その他のものからなる群から選択される。同様に、このポリマーネットワークが、前記のグループまたは他のものからなる2つ以上の異なるスイッチセグメントを備えることも可能である。この際、少なくとも1つのスイッチセグメントは、好ましくはそのスイッチ温度がそれぞれの使用に適した範囲にあるように選択される。
【0028】
この形状記憶ポリマーは、他に加水分解で分解可能な基、とりわけエステル基、アミド基、無水物基、炭酸塩基、エーテル基、オルソエーテル基、またはこれらの組み合わせを備えていてよい。このようにして生分解可能な材料が得られ、この材料はとりわけ生物医学分野での応用に有利に用いることができる。また、生分解可能な形状記憶ポリマーも文献で十分に知られている。本発明は、特別なこれらのグループの中のものに全く限定されるものではない。
【0029】
磁性物質16に関しては、これらが粒子の形状で存在し、特にマイクロ粒子またはナノ粒子の形状であることが望ましい。ここでのマイクロ粒子は平均粒子直径が1から999μmの範囲であり、ナノ粒子は平均粒子直径が1から999nmの範囲であると定義される。これらの定義はしたがって、磁性物質16の粉末形状のコンシステンシー(Konsistenz)を包含するものである。材料的にはこの磁性物質16は、交流磁場で相互作用を行い、粒子を加熱することに適したものであれば、どのような磁性物質であってよい。とりわけ、この磁性物質は金属であってもよく、例えば、Ni、Fe、および/またはCoである。この他、適した物では合金であり、例えばNi−Si、Fe−Pt、Ni−Pd、および/またはCo−Pdである。更に磁性物質16として金属酸化物を用いることができ、特にNi−Zn−Fe−O、Ba−Co−Fe−Oおよび/またはFe−Oを用いることができる。この他、マグネタイトまたは酸化鉄も適用でき、これらにおいては鉄原子は少なくとも部分的にCo、Ni、Mn、Zn、Mg、Cu、Cr、Cdおよび/またはGaで置換されている。同様にフェライトも適しており、特にNi−Zn−フェライトおよび/またはSr−フェライトが適している。また同様に、前述の物質の混合物も可能である。好ましくは、ポリマー基質に均一に分散する、すなわちポリマー基質との可能な限り均一な混合物を生成するような物質が用いられる。特に、この特性がない場合は、磁性物質16の粒子は形状記憶ポリマーとの混合を改善する物質の被覆層を備えるとよい。被覆層の物質としてはまず有機ポリマーが挙げられる。
【0030】
本発明による物体10は少なくとも2つの断片を備え、ここで示す例では比較的小さなO/Vを持つ1つの断片18と、比較的大きなO/Vを持つ1つの断片20とを備える。この物体は、2つの断片の異なる直径をもつ、全体としては円柱形状となるか、または平面状の形状で異なる材質厚を持つ。図1に示す物体10は、断片18と20の2つの表面体積比の間の瞬発的な遷移を行い、この物体10は同時に2つの断片18および20の間の視認可能な境界面を定めている。この代替としては、2つの表面体積比の間の緩やかな移行であってもよく、この際遷移領域の長さは、最大でも物体10の全長の10%になるように、急峻に選択されるとよい。これに加えて物体10は異なるO/Vを持つ2つ以上の断片を備えてよく、これによって2つ以上の形状遷移をプログラムし、この形状遷移を引き起こすことができる。
【0031】
本発明の好ましい実施形態の物体10によれば、この物体10は2つの隣接する断片の間の熱伝導を減少させ、または殆ど遮断するように形成されている。このような実施形態の例が図2に示されている。ここでは、同じ素子は、図1と同一の参照番号で示されている。ここで示した例では、2つの断片18および20が互いに直接接続されているのではなく、中間に設けられた断熱用の断片22を介して接続されることにより、熱伝導は遮断されている。この断片は、物体10の他の部分と同様、好ましくは同じ複合材料12から生成され、一体的な製造が可能である。熱伝導を抑制するため、断熱用の断片22は、一方では隣接する断片18および20と僅かな接続面積を備え、さらに加えて出来る限り大きな表面体積比を持つ。特に、断熱用の断片22のO/Vは、少なくともこれらの断片のうち大きなO/Vを持つ断片と同等か、または好ましくはこれを超えるものである。これが、図示された例では断片20であり、ここでは断熱用の断片22のO/Vは、その小さな材料厚のために断片20より大きい。
【0032】
図示されていない、断片18と20の間の熱伝導の抑制の他の代替方法の可能性は、断片18と20の間に非常に小さな熱伝導率の物質からなる断熱用の断片を設けることである。この代替方法は、しかしながら明らかに高い製造コストをもたらすので、図2による第1の実施形態の方が好ましい。
【0033】
希望する多重の形状効果を実現するためには、ポリマー基質14の形状記憶特性が、複合材料12の熱特性と全体的に一体化されなければならない。形状記憶ポリマー14の側では、この複合材料が出来るかぎり狭いスイッチ領域を備えると有利である。すなわち比較的小さな温度間隔で大きな機械的振る舞い(復元)を示すと有利である。これは例えば、図3に示す、ポリ(ε−カプロラクトン)ジメタクリレートからなるポリマーネットワークであり、この下側の図では伸長εの百分率の変化とこの一次微分が温度に対して示されている。上側には示差走査熱量測定図(Differenzkalorimetriediagram、DSC)が表示されている。この示差走査熱量測定図は半結晶状態のポリ(ε−カプロラクトン)の融点が約52℃であることを示している。ここで説明した、磁気的動作の際のO/V依存性を示す系には、しかしながら、ガラス遷移Tも考えられる。重要なことは、この系が伸長の大きな一次微分値に対応する、できるかぎり瞬発的な変化をその機械的振る舞いで示すことである。融解およびガラス遷移の領域が狭いことは、このような系の指標ではあるが、しかしながら絶対に必要ということではない。複合材料12の熱的特性は、とりわけ用いられている磁性物質16の種類によって決定される。この際、複合材料12の熱的特性は、好ましくは、表面体積比に依存して到達可能な最大材料温度Tmaxが出来るかぎり大きな変化を示すように選択される。形状記憶複合材料12の熱伝導率、交流磁場における磁性物質16の加熱温度の他に、この際の周囲の媒体への熱伝達が重要である。
【0034】
試料物体の、1つの磁場での到達可能な最高材料温度Tmaxの表面体積比依存性が1つの試料材質で調べられた。材質の試料は1つの形状記憶複合材料から製造された。この複合材料は形状記憶ポリマーとして、1つのTPU−ポリエーテル(Noveon社のTecoflex(登録商標) EG 72)と、磁性物質として、SiO基質(AdNano(登録商標) MagSilica (50、Degussa 株式会社))の酸化鉄(II)−ナノ粒子から成っている。これらの試料物体は円柱形状であり、直径と高さが異なり、したがって表面−体積比が異なっている。これらの試料物体は、静止大気中で14kA/mの強度と253kHzの周波数の磁場に暴露され、平衡状態に調整された後に試料物体温度が測定された。この結果が図4に示されており、ここでは到達可能な最高材料温度TmaxがO/Vに対して記載されている。予想されていたように、表面積の体積に対する比の増加につれて、Tmaxは減少している。たとえば、O/Vが3の試料物体は、約60℃の最高温度を示し、O/Vが13.5の試料物体は漸く35℃の最高温度を示している。これに加えて、到達可能な最高材料温度Tmaxの、用いられている試料物体の質量への依存性があるかどうか調べられた。この調査では、45mgから320mgまでの範囲での分析では依存性は示されなかった。試料質量が50mgと250mgのものは、殆ど同じO/Vの場合は、殆ど同じTmaxを示した。
【0035】
プログラムされた物体の製造方法が、図2の物体10を例にして図5Aおよび図5Bに示されている。まず図5Aのように、物体10がその永続的形状PFで提供される。用いられている形状記憶ポリマー14がポリマーネットワークの場合は、この永続的形状は、既にモノマーまたはマクロモノマーの重合の際に形成されており、この場合は永続的形状PFは生成された架橋部位によって固定される。成形の前に既に重合されている、熱可塑性樹脂の場合は、この永続的形状PFは、適合した成形工具におけるポリマー融液の硬化、例えば射出成形処理によって実現される。これら双方の場合で、永続的形状は、後になってから機械的(材料除去)または熱機械的加工により変化されることが可能である。
【0036】
これに続く、物体10のプログラミングは、図5Aおよび図5Bに示すように、たとえば次のように行われる。物体10はまずスイッチ温度より高い温度まで加熱され、そしてこの温度で変形される。これに続いて、スイッチ温度より低い温度まで冷却され、この際物体10に形状強制が行われる。この結果、第1の一時的形状TF1が固定される。ここで示す例では、両方の断片18、20の変形が、上昇した温度で同時に起こる。他の方法では、この両方の断片18、20は同様に、各々が互いに別々に加熱され、変形され、そして続いて固定される。この場合、まず大きなO/Vを持つ断片20の変形がスイッチ温度より高い温度で起こり、そしてこの後冷却され、この際第2の一時的形状TF2が固定される。これに続いて、小さなO/Vを持つ断片18の変形がスイッチ温度より高い温度で起こり、そしてこの後冷却され、この際第1の一時的形状TF1が形成される。プログラミングに際しては、1つの断片のプログラミングが他のもう1つの断片のプログラミングを解消しないように注意する。とりわけ、永続的形状への復帰に際しては、物体の1つの断片のO/Vは、他のもう1つの断片のO/Vを跨いではならない。
【0037】
上記の熱機械的プログラミングの代替方法では、このプログラミングは低温伸長によっても、またはスイッチがガラス遷移である物質では、柔軟剤のようなものを一時的な投入することによっても行うことができ、スイッチ温度は周囲温度以下に低くなる。様々な断片18、20に対して、様々なプログラミング方法を同様に適用することができる。
【0038】
プログラムされた物体の記憶形状の再現を図5Bから図5Dを参照して説明する。第1の一時的形状TF1から出発する。ここでは両方の断片18および20はこれらの変形された形状に固定されている(図5B)。物体10は第1の磁場Mに暴露されるが、この磁場強度および/または周波数は、小さなO/Vを持つ断片18を形状記憶ポリマーのスイッチ温度より高い温度まで加熱するのに適合している。この際、断片18の元々の形状への形状復元が起こり、この場合物体10は、その第1の一時的形状TF1から第2の一時的形状TF2に移行される(図5C)。物体10が強い磁場に暴露されていない限り、または周囲温度がスイッチ温度より高い温度である限り、第2の一時的形状TF2は安定である。永続的形状PFを同様に再度発現するためには、その第2の一時的形状TF2にある物体10は、1つの第2の磁場Mに暴露され、この磁場強度および/または周波数は、大きなO/Vを持つ断片20も同様にスイッチ温度までまたはスイッチ温度より高い温度に加熱する。この際、断片20は、その元々の形状に復元し、ここで物体10はその第2の一時的形状TF2から永続的形状PFに遷移する(図5D)。このステップでは、これに対応した断片18の加熱も同様に行われるが、この断片18はしかしながらすでにその永続的形状となっているため、この物体10はここでは形状変化しない。このため、物体10の全体形状は、最後の形状変化のスイッチングの際にも、すなわち最も大きなO/Vを持つ断片の形状変化のスイッチングの際にも、この上昇した温度が、最初にスイッチされた小さいO/Vを持つ断片の利用に対し悪影響を与えないよう、そして構造部分全体の安定性が維持されるように選択されなければならない。
【0039】
PCLポリマーネットワークおよび磁性ナノ粒子からなる複合材料の、磁気誘発可能な多形状効果
【0040】
熱的に架橋したPCL−ジメタクリレート(10kD)および5重量%のナノ粒子(AdNano(登録商標) MagSilica 50、Degussa Advanced Nanomaterials社)からなる1つの複合材料が製造された。この材料から、テフロン(登録商標)の型への鋳込みによって平面状の物体(永続的形状)が製造された。この試料物体は、実質的には図2に示されたものに対応し、異なる幾何形状の2つの矩形体(断片18、20)を含み、ここでこの第1の断片18は0.8m−1のO/Vを備え、第2の断片は2.8m−1のO/Vを備えていた。2つの断片18、20は、断熱用の断片22として機能する1mmの厚さのブリッジにより相互に結合されていた。80℃で試料端部を直角に曲げ、そしてこれに続いて冷却することにより、図5Bに示したものに対応する第1の一時的形状TF1のプログラミングが行われた。これに続いて、14kA/mと254kHzの磁場強度の磁場で、25℃の周囲温度の大気中において、復元が行われた。この際、最初に0.8m−1の小さなO/Vを持つ断片18の復元が起こる(図5Cに対応)。TF1からTF2への復元には、矩形の断片18でのスイッチ温度に達して数分間維持することが必要であった。この際、他の断片20には変化のないままであった。これに続いて磁場強度が19.3kA/mに上げられ、この際に大きなO/Vを持つ断片20の復元も同様に行われた。この際に、永続的形状PF(図5D)に対応する平面状物体を再度得ることができた。
【0041】
磁場中での復元におけるO/Vの影響の定量化
【0042】
磁気的に誘発される形状記憶効果の、幾何形状、とりわけ表面−体積比への依存性の分析のために、このように製造された試料物体は、周囲温度80℃で両側共90°の角度に変形され、そして25℃まで冷却されて固定された(プログラムされた)。このようにして一時的な形状にある試料物体は高周波数の磁場コイルの中に投入された。この磁場強度は40秒毎に0.2kA/mずつ増加された。復元はビデオテープに記録された。図6には、様々なO/Vを持つ試料物体の復元角度が磁場強度に対して記載されている。大きなO/Vを持つ断片(丸記号)がまだ一時的な形状を示しているのに対して、小さなO/Vの断片(四角形の記号)が既に復元していることが明瞭に分かる。更に磁場強度を上げることによって漸く、大きなO/Vの断片はその元々の形状に戻る。
【0043】
PPDL−PCLの成形物体の例での、磁場中での復元におけるO/Vの影響の定量化
【0044】
磁気的に誘発される形状記憶効果の、幾何形状、とりわけ表面−体積比への依存性の分析のために、ポリペンタデカラクトン(PPDL)とポリ−(ε−カプロラクトン)(PCL)の共重合体および10重量%のナノ粒子(AdNano (登録商標)MagSilica 50、Degussa Advanced Nanomaterials社、50重量%から60重量%の鉄(III)酸化物をSiO基質に含む)からなら複合材料が製造された。標準試料物体(EN ISO 527−2 1BBに基づく)が射出成形によって製造され、これは1mmまたは2mmの材料厚で、これによりO/Vはそれぞれ3.1または2.1となった。これに対応した試料物体24と26が図7に示されており、左側にこれらの永続的状態が示されている。60℃の周囲温度で、これらの物体は約110°の鋭角に変形され、そして冷却によって固定された(プログラムされた)。このようにして一時的な形状にあるこれらの試料物体24’と26’が図7の右側に示されている。これに続いて、高周波の磁場中で、2つのプログラムされた試料24’と26’に形状記憶効果が誘発され、この際これらの試料は、磁場のインダクタ中心にある試料保持体に固定されて置かれた。それぞれ5分間磁場を印加し、それぞれの場合の復元角度を計測した。完全な復元は復元角度0°に対応する。この際磁場強度は段階的に増加され、その都度復元量が求められた。この結果が図8に示されている。ここには、O/Vが大きい場合(試料物体24、1mm)、磁場強度が小さいと復元がほとんどなく、そして大きな磁場強度において、復元が僅かにあることが示されている。これは、大きなO/Vを持つ試料物体24に対しては、調べられた最大の磁場強度においてさえ復元に必要な材料温度に到達しなかったことを意味している。これに対し小さなO/V(試料物体26、2mm)においては、約15kA/mの磁場強度からは、約20°の角度に達する復元が得られている。比較として行われた熱的に誘発された復元では、60°においては同様に完全な復元は示されなかった。
【符号の説明】
【0045】
参照番号/略称
10 物体
12 形状記憶複合材料
14 形状記憶ポリマー
16 磁性物質
18 第1の断片
20 第2の断片
22 断熱用の断片
24 試料物体の永続的形状
24’ 試料物体の一時的形状
26 試料物体の永続的形状
26’ 試料物体の一時的形状

PF 永続的形状
TF1 第1の一時的形状
TF2 第2の一時的形状
O/V 表面−体積比






【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶複合材料(12)から製造される物体(10)であって、
前記形状記憶複合材料は、形状記憶ポリマー(14)と、
この形状記憶ポリマーに埋め込まれた磁性物質(16)とを含み、
前記形状記憶ポリマー(14)は、熱機械的プログラミングの後で、温度が低下されて一時的な形状から永続的形状への形状遷移を完遂することができる状態となり、
前記物体(10)は少なくとも2つの、直接的または間接的に相互に接続された断片(18、20)を備え、前記断片は異なる表面−体積比(O/V)によって互いに異なっていることを特徴とする物体(10)。
【請求項2】
請求項1に記載の物体(10)において、
前記少なくとも2つの断片(18、20)の表面−体積比の間の遷移が、これらの境界で瞬発的に、すなわち前記物体(10)の全長に関して急峻に進行することを特徴とする物体(10)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の物体(10)において、
前記少なくとも2つの断片(18、20)はそれぞれ、少なくとも1つの空間方向に1つの一定の材料強度を有し、および/またはそれぞれ、少なくとも1つの方向において、とりわけ前記断片(18、20)の長さ方向で、一定のO/Vを有することを特徴とする物体(10)。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の物体(10)において、
前記少なくとも2つの断片(18、20)の表面−体積比は、少なくとも係数で1.2倍異なっており、とりわけ係数で1.5倍異なっており、好ましくは少なくとも係数で2倍異なっていることを特徴とする物体(10)。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の物体(10)において、
与えられた磁場において、前記少なくとも2つの断片は、到達可能な材料温度(Tmax)の差が少なくとも10K、とりわけ好ましくは少なくとも15K、好ましくは少なくとも20Kとなるように、前記少なくとも2つの断片(18、20)の表面−体積比が選択されていることを特徴とする物体(10)。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の物体(10)において、
前記少なくとも2つの断片(18、20)は、熱的絶縁断片(22)によって、とりわけこれらの2つの断片(18、20)のどちらかで、少なくとも大きな表面−体積比O/Vをもつ断片と同等の表面−体積比O/Vの断片によって相互に結合されていることを特徴とする物体(10)。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の物体(10)において、
前記磁性物質(16)は、粒子の形状で存在し、とりわけ平均粒子直径が1から999μmの範囲のマイクロ粒子の形状であり、または平均粒子直径が1から999nmの範囲のナノ粒子の形状であることを特徴とする物体(10)。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の物体(10)において、
前記磁性物質(16)は、金属、とりわけNi、Fe、およびCo、合金、とりわけNi−Si、Fe−Pt、Ni−Pd、およびCo−Pdであり、金属酸化物、とりわけNi−Zn−Fe−O、Ba−Co−Fe−OおよびFe−Oであり、マグネタイトまたは酸化鉄であって、これらで鉄原子が少なくとも部分的にCo、Ni、Mn、Zn、Mg、Cu、Cr、Cdおよび/またはGaで置換されているもの、フェライト、とりわけNi−Zn−フェライトおよびSr−フェライトを含むグループから選択された、少なくとも1つの成分であることを特徴とする物体(10)。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の物体(10)において、
前記磁性物質(16)の粒子は前記形状記憶ポリマー(14)との混合を改善する物質の被覆層を備えることを特徴とする物体(10)。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の物体(10)において、
前記形状記憶ポリマー(14)は物理的または共有結合的に架橋したポリマーネットワークを含み、前記形状記憶ポリマー(14)は、少なくとも1つのスイッチセグメントを備え、前記スイッチセグメントはポリエステル、とりわけポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニール、ポリスチロール、ポリオキシメチレン、ポリ(パラ−ジオキサノン)よりなる群から選択されていることを特徴とする物体(10)
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の物体(10)において、
前記形状記憶ポリマー(14)は、加水分解により分解可能な基、とりわけエステル基、アミド基、無水物基、炭酸塩基、エーテル基および/またはオルソエーテル基を含むことを特徴とする物体(10)。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の物体(10)において、
前記磁性物質(16)は、前記形状記憶ポリマー(14)に均一に分布していることを特徴とする物体(10)。
【請求項13】
プログラムされた物体(10)を製造する方法であって、以下のステップ、
a)請求項1乃至12のいずれか1項に記載の物体を永続的な形状で提供するステップと、
b)前記物体(10)の第1の断片(18)の、前記形状記憶複合材料(12)のスイッチ温度より高い材料温度での変形、およびこれに続く、前記スイッチ温度より低い温度での冷却ステップと、
c)前記物体(10)の第2の断片(20)の、前記形状記憶複合材料(12)のスイッチ温度より高い材料温度での変形、およびこれに続く、前記スイッチ温度より低い温度での冷却ステップとを含み、
前記ステップ(b)および(c)は任意の順序で、または同時に実施可能であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載のプログラムされた物体(10)の記憶された形状を再現する方法であって、以下のステップ、
(a)第1の交流磁場に前記物体(10)を暴露し、前記第1の交流磁場は、第1の表面−体積比(O/V)を持つ前記物体(10)の第1の断片(18)を前記形状記憶複合材料(12)のスイッチ温度より高い温度に加熱し、ここで前記第1の断片(18)は形状遷移を完遂し、そして前記物体(10)は第1の一時的形状(TF1)から第2の一時的形状(TF2)へ遷移するステップと、
(b)前記物体(10)を第2の交流磁場に暴露し、前記第2の交流磁場は、前記第1の断片(18)の前記第1の表面−体積比(O/V)より大きな、第2の表面−体積比(O/V)を持つ前記物体(10)の第2の断片(20)を、前記形状記憶複合材料(12)の前記スイッチ温度より高い温度に加熱するのに適合しており、ここで前記断片(20)は形状遷移を完遂し、そして前記物体(10)は前記第2の一時的形状(TF2)から前記永続的な形状(PF)へ遷移するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
前記第1の交流磁場から前記第2の交流磁場への移行は、磁場強度および/または磁場周波数を段階的にまたは連続的に増加することによって行われることを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−506726(P2011−506726A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538638(P2010−538638)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067582
【国際公開番号】WO2009/077515
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(509238292)ゲーカーエスエスフォルシュングスツェントゥルム ゲーストハハト ゲーエムベーハー (4)
【Fターム(参考)】