説明

形質膜ATPアーゼの診断及び治療への使用

本発明は、ATP2B遺伝子によってコードされた蛋白質を提供し、アルツハイマー病患者の特異的脳領域におけるATP2B蛋白質をコードする遺伝子の異なる発現を開示する。この発見に基づいて、本発明は、対象におけるアルツハイマー病を診断又は予測するための、又は対象がアルツハイマー病を発症する危険性が増加しているかどうかを測定するための方法を提供する。さらに、本発明は、ATP2B遺伝子及びその対応する遺伝子産物を使用して、アルツハイマー病及び関連神経変性疾患を治療又は予防するための治療及び予防方法を提供する。神経変性疾患の調節剤をスクリーニングする方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における神経変性疾患の進行を診断、予測及びモニターする方法に関する。さらに、治療の管理方法及び神経変性疾患の調節剤のスクリーニング方法を提供する。本発明はまた、医薬組成物、キットの使用、組換え動物モデル及び前記組換え動物モデルの使用を開示する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)は、患者の生命を非常に衰弱させる影響を与える。さらに、これらの疾患は、健康、社会及び経済に多大な負担を与える。ADは、最も一般的な神経変性疾患で、認知症全症例の約70%を占め、65歳以上の人口の約10%及び85歳以上の45%近くに影響を及ぼす、年齢に関連したおそらく最も重篤な神経変性疾患である(Vickers他、Progress in Neurobiology 2000、60:139〜165;Walsh及びSelkoe、Neuron 2004、44:181〜193)。現在、その症例の総数は、米国、ヨーロッパ及び日本で1200万と概算されている。この状況は、先進国における高齢者の人口増加に伴って益々悪くなるのは避けられないであろう。AD患者の脳に生じる神経病理学的特徴は、アミロイド−β蛋白質からなる老人斑、及び異常な繊維構造の出現と共に生じる細胞骨格の著しい変化及び神経原線維濃縮体の形成である。
【0003】
アミロイド−β蛋白質は、様々な種類の蛋白質分解酵素によってアミロイド前駆蛋白質(APP)が切断されることによって生じる(Selkoe及びKopan、Annu Rev Neurosci 2003、26:565〜597;Ling他、Int J Biochem Cell Biol 2003、35:1505〜1535)。AD患者の脳では、2種類の斑、びまん性老人斑及び神経突起斑を検出することができる。これらは主に大脳皮質及び海馬に見いだされる。脳内における毒性Aβ沈着の生成は、AD経過の極早期に開始し、AD病変に至るその後の破壊的過程において重要な役割を担うと考えられている。ADのその他の病理学的特徴は、神経原線維濃縮体(NFT)及び異常神経突起で、神経網糸と呼ばれる(Braak及びBraak、J Neural Transm 1998、53:127〜140)。NFTはニューロンの内側に出現し、化学的に変更したタウから構成され、互いの周りに巻き付いた対らせん線維を形成する。NFTの形成と並行して、ニューロンの損失を認めることができる(Johnson及びJenkins,J Alzheimers Dis 1996、1:38〜58;Johnson及びHartigan、J Alzheimers Dis 1999、1:329〜351)。神経原線維濃縮体の出現及びその数の増加は、ADの臨床的重症度とよく相関する(Schmitt他、Neurology 2000、55:370〜376)。ADは、記憶形成の早期欠如に関連し、最終的には高度認知機能を完全に蝕む進行性の疾患である。認知障害には、とりわけ記憶障害、失語症、失認及び実行機能の欠如が含まれる。ADの病理発生の特徴は、変性過程に対する特定の脳領域及び神経細胞亜集団の選択的脆弱性である。具体的に、側頭葉領域及び海馬は、早期から影響を受け、疾患進行中により激しく影響を受ける。その一方で、前頭皮質、後頭皮質及び小脳内のニューロンはほとんどが完全なままであり、神経変性から保護される(Terry他、Annals of Neurology 1981、10:184〜92)。
【0004】
現在、ADの治療法はなく、ADの進行を止める効果的な治療法もなく、生前に高確率でADと診断する方法さえもない。個体がADを発症しやすくするいくつかの危険因子が同定されており、その中で最も際だっているのはアポリポ蛋白質E遺伝子(ApoE)の既存の3種の異なる対立遺伝子(イプシロン2、3及び4)のうちの対立遺伝子エプシロン4である(Strittmatter他、Proc Natl Acad ScI USA 1993、90:1977〜81;Roses、Ann NY Acad Sci 1998、855:738〜43)。染色体21上のアミロイド前駆体蛋白質(APP)、染色体14上のプレセニリン−1及び染色体1上のプレセニリン−2の遺伝子の遺伝的欠損が関与する早期発症型ADは希な例であるが、一般的な形態である晩期発症型孤発性ADの病因は今までのところわかっていない。神経変性疾患の晩期発症の複雑な病理発生は、治療薬及び診断薬の開発に大変な難題となっている。潜在的な薬剤標的及び診断マーカーの集団を拡張することが重要である。
【発明の開示】
【0005】
したがって、本発明の目的は、神経疾患の病理発生の見識を提供し、とりわけこれらの疾患の診断および治療法の開発に適した方法、材料、薬剤、組成物及び動物モデルを提供することである。この目的は、独立した請求項の特徴によって説明された。下位請求項は、本発明の好ましい実施形態を限定する。
【0006】
本発明は、ヒトアルツハイマー病の脳試料における形質膜のカルシウムポンプ(形質膜Ca2+−ATPアーゼ又はATP2B又はPMCA)をコードする遺伝子及びそれらの蛋白質の無調節な、差異的発現の検出に基づいている。
【0007】
PMCAは、あらゆる真核細胞の細胞基質からCa2+を排除する原因となる。これらは、Na/Ca2+交換体と共に、静止細胞内Ca2+濃度の長期調節に関与する主要な形質膜輸送系である。PMCAは、反応周期中にアスパルチルリン酸中間体が形成されることが特徴のP型の主要なイオン輸送性ATPアーゼファミリーに属する。哺乳類のPMCAは、4種類の別々の遺伝子によってコードされ、他のアイソフォーム変種は、主要な遺伝子転写物の選択的RNAスプライシングによって生じる。様々なPMCAアイソフォーム及びスプライシング変種の発現は、発生、組織及び細胞特異的な方法で調節されており、これらのポンプは、特定の細胞及び組織の生理学的必要性に機能的に適合していることを示唆している。選択的スプライシングは、形質膜Ca2+ポンプ蛋白質の2種類の主要な位置、第1細胞内ループ及びCOOH末端に影響を及ぼす。これら2種類の領域は、ポンプの主要な調節ドメインに対応する。第1細胞基質ループでは、影響を受ける領域は推定G蛋白質結合配列とリン脂質感受性部位の間に入り込んでおり、COOH末端では、スプライシングは、カルモジュリンによるポンプ調節、リン酸化、及びPDZドメイン含有アンカー蛋白質及びシグナル伝達蛋白質との差異的相互作用に影響を及ぼす。難聴及び運動失調などの疾患を引き起こすPMCA変異を有するマウス並びに遺伝子操作されたPMCA「ノックアウト」マウスの対応する表現型の確認はさらに、細胞性Ca2+調節における各Ca2+ポンプアイソフォームの特異的且つ必須的な役割の概念を支持する(Strehler & Zacharias、Physiological Reviews 2001、81:21〜50)。ヒト形質膜カルシウムATPアーゼアイソフォーム1(ATP2B1又はPMCA1)の遺伝子の完全な構造は、1993年に解明された(Hilfiker他、Journal Biological Chemistry 1993、268:19717〜19725)。この蛋白質は、DNAの100キロベース(kb)を超える範囲に及ぶ21個のエキソンによってコードされる。35kbを超えるイントロンが翻訳開始コドンを含有するエキソンから5′非翻訳エキソン1を分離する。推定プロモーター全体及び5′隣接領域は、CpGアイランド内に入り込んでおり、数多くのSp1因子結合配列の存在及びTATAボックスの欠如が特徴である。そのmRNAは組織のあらゆるところに分布しているので、これらの結果はhPMCA1遺伝子がハウスキーピング型であることを示唆している。
【0008】
Staffuer他は、選択的スプライシングの選択肢及び7種の組織(大脳皮質、骨格筋及び心筋、胃、肝臓、肺及び腎臓)における、現在公知の4種のヒト形質膜カルシウムポンプ(PMCA)遺伝子の転写物の定量的組織分布を分析した。遺伝子1及び4のmRNAは、全組織において同量で存在することが発見されたが、その一方で、遺伝子2及び3の転写物は、組織特異的に発現しており、すなわち、それらの量は胎児骨格筋及び脳において最高であった。選択的スプライシングは、PMCA転写物内の2種の主要な調節部位(部位A及びC)、アミノ末端リン脂質応答領域に隣接した領域及びカルボキシル末端カルモジュリン結合ドメイン内の領域それぞれにおいて生じることが発見された。ヒト遺伝子では今までに記載されていない新規スプライシング変種が、hPMCA3及び4の部位A並びにhPMCA1、2及び3の部位Cで検出された。遺伝子全てについて、一般的なスプライシング変種は両スプライシング部位で発見された。部位Aで一般的なスプライシング変種の特徴は、小さなエキソン(hPMCA1、39塩基対(bp);hPMCA2、42bp;hPMCA3、42bp;hPMCA4、36bp)を含むことである。部位Cで一般的なスプライシング変種では、1個のエキソン(hPMCA1、154bp;hPMCA2、227bp、hPMCA、164bp;hPMCA4、178bp)がmRNAでは排除される。全遺伝子は通常、全組織でこれらの主要なスプライシング変種を発現し、そこでは対応するアイソフォームが存在する。PMCA2及びPMCA3の転写物ではエキソンが追加されて使用されることによって、PMCA1及び3では単一の選択的スプライシング164塩基対エキソンにおいて内部スプライシング部位が追加されて使用されることによって、部位Cでのスプライシングの複雑さが増大することが発見された(Stauffer他、Journal Biological Chemistry 1993、268:25993〜26003)。
【0009】
Stauffer他によってPMCAアイソフォームの発現が調べられた組織の中で、大脳皮質で転写物の複雑性が最も高いことが発見され、すなわち、大脳皮質は遺伝子全4種及び実質的に全ての選択的スプライシングの選択肢の産物を含有していた。遺伝子2のmRNAは、大脳皮質内においてのみかなりの量で検出された(全mRNAの20%)が、遺伝子3のmRNAは、胎児骨格筋及び大脳皮質にほとんど例外なく存在した(全転写物の6%)(Stauffer他、JBC 1993、268:25993〜26003)。一般的に、大脳皮質は、これら遺伝子それぞれの転写物を非常に高い相対量で含有することが発見された。PMCA1は、より豊富なアイソフォームであると考えられ、平均比率はPMCA4に対して1:0.67である(Stauffer他、JBC 1993、268、25993〜26003)。
【0010】
形質膜Ca2+ATPアーゼ(PMCA)ポンプアイソフォーム2、3及び1aは、成体ラットの小脳において大量に発現するが、新生仔では最小限にとどまる。25mM KClはL型Ca2+チャンネルを活性化し、細胞基質Ca2+を著しく増加させる。培地中のCa2+濃度の変化は、ポンプの発現に影響を及ぼした。
【0011】
PMCA1は、細胞内カルシウムレベルを活性化閾値未満に減少させる機能とは別に、ラット褐色細胞腫由来細胞において神経突起伸長の機能を果たすことが示された(Brandt他、PNAS 1996、93:13843〜13848)。アンチセンスRNAを使用することによってPC6細胞においてPMCA1の産生を阻害すると、神経細胞の分化を指示する神経成長因子(NGF)に応答して神経突起を伸長する能力が損なわれる。形質膜Ca2+−ATPアーゼを欠如した細胞では、神経突起の伸長不能はα1−インテグリン発現を下方制御した結果であることが示された。
【0012】
Brini及び共同研究者等は、チャイニーズハムスターの卵巣細胞で形質膜Ca2+ポンプの4種の基本的アイソフォーム及び2種のC末端切断型スプライシング変種PMCA4CII(4a)及び3CII(3a)を過剰発現させることによって、ニューロン特異的アイソフォームPMCA2及び3が、遍在性アイソフォームPMCA1及び4よりもCa2+のホメオスタシスを調節するのに有効であることを示した(Brini他、Journal Biological Chemistry 2001、278:24500〜24508)。4種の基本的なポンプ変種は全て、天然の細胞内環境においてCa2+のホメオスタシスに影響を及ぼした。小胞体における[Ca2+]レベル並びに、イノシトール1,4,5−トリリン酸による小胞体貯蔵の放出によって細胞基質及びミトコンドリアにおいて生じる[Ca2+]過渡応答の高さは、ポンプの過剰発現によっていずれも減少した。偏在的に発現するアイソフォーム1及び4よりも、ニューロン特異的PMCA2及びPMCA3による影響の方が大きかった。意外なことに、細胞基質及び細胞器官におけるCa2+のホメオスタシスへの影響では、切断型PMCA3及びPMCA4の効果は、完全長変種と同じであった。特に、PMCA4CII(4a)は、カルモジュリンに対する親和性は非常に低いにもかかわらず、PMCA4CI(4b)と同じ効果であった。この結果は、カルモジュリンの利用性はインビボにおけるPMCAポンプの変更に重要ではない可能性があることを示している(Brini他、Journal Biological Chemistry 2001、278:24500〜24508)。
【0013】
本明細書及び特許請求の範囲で使用した単数形「a」、「an」及び「the」は、特に指示しなければ複数の内容を含む。たとえば、「細胞(a cell)」はまた、複数の細胞意味する、などである。本明細書及び特許請求の範囲で使用した「及び/又は(and/or)」という用語は、この用語の前後の語句を2者択一か、又は組み合わせて考慮することを意味する。たとえば、「レベル及び/又は活性の測定」という表現は、レベルのみ、又は活性のみ、或いはレベル及び活性の両方を測定することを意味する。本明細書では「レベル」という用語は、mRNAなどの転写物、又は蛋白質若しくはポリペプチドなどの翻訳産物の範囲、又は量の測定値、又は濃度を含むものとする。本明細書では、「活性」という用語は、転写産物又は翻訳産物が生物学的作用をもたらす能力の測定値、或いは生物学的に活性のある分子のレベルの測定値として理解される。「活性」という用語はまた、酵素活性又は生物学的活性及び/又は薬理活性を意味し、これはイオンチャンネル又はイオンチャンネルサブユニットの結合、拮抗、抑制、遮断、中和又は封鎖を意味し、イオンチャンネル又はイオンチャンネルサブユニットの活性化、作動化(agonization)、上方制御も意味する。「生物学的活性」は、限定はしないが、イオンの膜貫通輸送及び/又は膜貫通イオン流及び/又はそれらの調節を含む。「薬理活性」は、限定はしないが、イオンチャンネル又はイオンチャンネルサブユニットがリガンド、化合物、薬剤、調節剤及び/又は他のイオンチャンネルサブユニットに結合する能力を含む。本明細書では、「レベル」及び/又は「活性」という用語はさらに、遺伝子発現レベル又は遺伝子活性を意味する。遺伝子発現とは、遺伝子に含有される情報を転写及び翻訳によって利用し、遺伝子産物を産生することと定義することができる。「調節異常」とは、遺伝子発現の上方制御又は下方制御を意味する。遺伝子産物は、RNA若しくは蛋白質を含み、遺伝子の発現の結果である。遺伝子産物の量は、遺伝子がどのような活性であるかを測定するために使用することができる。本明細書及び特許請求の範囲で使用した「遺伝子」という用語は、コーディング領域(エキソン)及び非コーディング領域(たとえば、プロモーター又はエンハンサー、イントロン、リーダー及びトレーラー配列などの非コーディング調節因子)の両方を含む。「ORF」という用語は、「オープンリーディングフレーム」の頭字語で、少なくとも1個のリーディングフレーム内に停止コドンを持たず、そのため、潜在的にアミノ酸の配列に翻訳されることができる核酸配列のことである。「調節因子」は、非誘導性プロモーター、エンハンサー、オペレーター及び遺伝子発現を実行し調節するその他の因子を含む。本明細書では、「断片」という用語は、たとえば、選択的スプライシングされた、又は切断された、そうでなければ切断された転写産物又は翻訳産物を含むことを意味する。本明細書では、「誘導体」という用語は、変異した、若しくはRNA編集された、若しくは化学的修飾された、そうでなければ改変された転写産物、又は変異した、若しくは化学的修飾された、そうでなければ改変された翻訳産物を意味する。明確にする目的のために、たとえば、誘導体転写物は、核酸配列中に、1個以上のヌクレオチド欠失、挿入、又は交換などの改変を有する転写物のことである。誘導体翻訳産物は、たとえば、改変リン酸化、又はグリコシル化、又はアセチル化、又は脂質化などのプロセスによって、或いは改変されたシグナルペプチド切断又はその他の種類の成熟切断によって生成され得る。これらのプロセスは、翻訳後に生じることが可能である。本発明及び特許請求の範囲で使用した「調節剤」という用語は、遺伝子又は遺伝子の転写産物又は遺伝子の翻訳産物のレベル及び/又は活性を変更又は改変することができる分子のことである。「調節剤」は、遺伝子の転写産物又は翻訳産物の生物学的活性を変更又は改変できることが好ましい。たとえば、前記調節は、生物学的活性及び/又は薬理活性における、酵素活性における増加又は減少、結合特性における変化、或いは遺伝子の前記翻訳産物の生物学的、機能的、又は免疫学的特性のその他の任意の変更又は改変であってよい。「調節剤」とは、増強するか、又は阻害して、そうしてイオンチャンネルサブユニット又はイオンチャンネルの機能特性を「調節」し、イオンチャンネル又はイオンチャンネルサブユニットの結合、拮抗、抑制、遮断、中和又は封鎖を「調節」し、活性化、作動化及び上方制御を「調節」する能力を有する分子を意味する。「調節」はまた、細胞の生物学的活性に影響を及ぼす能力を意味するために使用される。「薬剤」、「試薬」又は「化合物」という用語は、細胞、組織、体液に対して、又は生体系若しくは試験した測定系内において、正若しくは負の生物学的効果を有する物質、化学物質、組成物又は抽出物を意味する。これらは、標的のアゴニスト、アンタゴニスト、部分的アゴニスト又は逆アゴニストであることができる。このような薬剤、試薬又は化合物は核酸、天然若しくは合成のペプチド若しくは蛋白質複合体、又は融合蛋白質であってよい。これらはまた、抗体、有機若しくは非有機の分子若しくは組成物、小分子、薬物及び前記薬剤のいずれかの組み合わせであってよい。これらは、試験、診断又は治療目的で使用することができる。「オリゴヌクレオチドプライマー」又は「プライマー」という用語は、相補的塩基対のハイブリダイゼーションによって所与の標的ポリヌクレオチドとアニールすることができ、ポリメラーゼによって伸長することができる短い核酸配列のことである。これらは、特定の配列に特異的であるように選択されてよく、又は無作為に選択されてよく、たとえば、これらは混合物中に可能な配列全てをもたらす。本明細書で使用したプライマーの長さは、10ヌクレオチドから80ヌクレオチドで変化することができる。「プローブ」は、本明細書で説明し、開示した核酸配列又はそれらに相補的な配列の短い核酸配列である。これらは、所与の配列の完全長配列、又は断片、誘導体、アイソフォーム又は変種を含むことができる。「プローブ」とアッセイした試料との間のハイブリダイゼーション複合体を同定することによって、その試料内のその他の類似配列の存在を検出することが可能である。本明細書では、「相同体又は相同性」は、ヌクレオチド又はペプチド配列の他のヌクレオチド又はペプチド配列に対する関係を説明するために当業界で使用される用語で、比較した前記配列の間の同一性及び/又は類似性の程度によって決定される。当業界では、「同一性」及び「類似性」という用語は、問題とする配列と好ましくは同種のその他の配列(核酸又は蛋白質配列)との互いの一致によって測定されるポリペプチド又はポリヌクレオチド配列の関係の程度を意味する。「同一性」及び「類似性」を計算して決定する好ましいコンピュータープログラム法には、限定はしないがGCG BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(Altschul他、J.Mol.Biol.1990、215:403〜410;Altschul他、Nucleic Acids Res.1997、25:3389〜3402;Devereux他、Nucleic Acids Res.1984、12:387)、BLASTN2.0(Gish W.、http://blast.wustl.edu、1996〜2002)、FASTA(Pearson及びLipmanm、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988、85:2444〜2448)、及び最長の重複を有する1対のコンティグを決定し整列させるGCG GelMerge(Wilbur及びLipman、SIAM J.Appl.Math.1984、44:557〜567;Needleman及びWunsch、J.Mol.Biol.1970、48:443〜453)が含まれる。本明細書では、「変種」という用語は、本発明で開示したポリペプチド及び蛋白質に関して、N末端及び/又はC末端で、及び/又は本発明の天然のポリペプチド又は蛋白質の天然のアミノ酸配列内で、1種以上のアミノ酸が添加及び/又は置換及び/又は欠失及び/又は挿入されているが、本質的な特性は維持している任意のポリペプチド又は蛋白質のことである。さらに、「変種」という用語は、ポリペプチド又は蛋白質の任意の短い又は長い種を含む。「変種」はまた、ATP2B蛋白質のアミノ酸配列、特にATP2B1、配列番号1と少なくとも約80%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約90%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも約95%の配列同一性を備えた配列を含む。「変種」は、たとえば、保存性の高い領域において保存的アミノ酸置換を有する蛋白質を含む。本発明の「蛋白質及びポリペプチド」は、ATP2B蛋白質のアミノ酸配列、配列番号1、ATP2B1を含む蛋白質の変種、アイソフォーム、断片及び化学的誘導体を含む。コドンが選択的塩基配列によって他のコドンに置換されているが、DNA配列によって翻訳されたアミノ酸配列は変化しないままである配列変種も含まれる。当業界で公知のこの現象は、特異的アミノ酸に翻訳される一連のコドンの重複性と呼ぶ。機能性に影響を及ぼさないようなアミノ酸の交換、たとえば、リジンに対してアルギニン、ロイシンに対してバリン、グルタミンに対してアスパラギンの交換も含まれる。天然から単離することができる、又は組換え及び/又は合成手段によって生成することができる蛋白質及びポリペプチドも含むことができる。天然の蛋白質又はポリペプチドとは、天然に生じる切断型又は分泌型、天然に生じる変種(たとえば、スプライシング変種)及び天然に生じる対立形質変種のことである。本明細書では、「単離された」という用語は、変化した、及び/又は天然の環境から取り出された、すなわち細胞から、又はそれらが通常生じる生体から単離された、及び天然では関連していることがわかっている共存成分から分離するか、又は本質的に精製された分子又は物質を意味するものと考えられる。この概念はさらに、このような分子をコードする配列を自然の状態では結合しないポリヌクレオチドに人工的に結合させることができたり、このような分子を組換え及び/又は合成手段によって生成することができたりすることを意味する。前記の目的のために、このような配列を生きた、又は生きていない生物に当業界で公知の方法によって導入することができるとしても、またこのような配列が前記生物にまだ存在するとしても、それらはまだ単離されたと見なされる。本発明では、「危険性」、「感受性」及び「素因」という用語は同等で、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病の発症の可能性に関して使用される。
【0014】
「AD」という用語は、アルツハイマー病を意味する。本明細書では、「AD型神経病理学」、「AD病理学」とは、本発明で説明したような、及び従来技術の文献から通常知られているような、神経病理学的、神経生理学的、組織病理学的及び臨床的特徴、徴候及び症状を意味する(Iqbal、Swaab、Winblad及びWisniewski、Alzheimer’s Disease and Related Disorders(Etiology, Pathogenesis and Therapeutics)、Wiley & Sons、New York、Weinheim、Toronto、1999;Scinto及びDaffner、Early Diagnosis of Alzheimer’s Disease、Humana Press、Totowa、New Jersey、2000;Mayeux及びChristen、Epidemiology of Alzheimer’s Disease:From Gene to Prevention、Springer Press、Berlin、Heidelberg、New York、1999;Younkin、Tanzi及びChristen、Presenilins及びAlzheimer’s Disease、Springer Press、Berlin、Heidelberg、New York、1998参照)。「Braak段階」又は「Braak段階付け」という用語は、Braak及びBraakによって提案された基準による脳の分類のことである(Braak及びBraak、Acta Neuropathology 1991、82:239〜259、Braak及びBraak、J Neural Transm 1998、53:127〜140)。神経原線維濃縮体及び神経網糸の分布に基づいて、ADの神経病理学的進行を6段階(段階0から6)に分ける。本発明では、低いBraak段階(0〜3)は、アルツハイマー病の徴候を患っていないと考えられる人を表すことができ(「対照」)、Braak段階4から6は、既にアルツハイマー病に罹患した人(「AD患者」)を表すことができる。「対照」から得られた値は、「公知の健康状態」を表す「参照値」であり、「AD患者」から得られた値は、「公知の疾患状態」を表す「参照値」である。Braak段階が高ければ、ADの徴候及び症状を示す可能性又はADの徴候及び症状を発症する危険性が高くなる。神経病理学的に評価するために、すなわち、ADの病理学的変化が認知症の裏に潜む原因である可能性を判断するために、Braak H.によって推奨されている(www.alzforum.org)。
【0015】
本発明による神経変性疾患又は障害には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮側索硬化症、ピック病、前頭側頭骨認知症、進行性核性麻痺、皮質基底核変性症、脳血管性認知症、多系統萎縮症、嗜銀性顆粒認知症及びその他のタウ蛋白症並びに軽度認知障害が含まれる。神経変性プロセスが関与する他の病状は、たとえば、虚血発作、加齢黄斑変性、ナルコレプシー、運動ニューロン疾患、プリオン病、外傷性神経損傷及び修復、並びに多発性硬化症がある。
【0016】
本発明は、アルツハイマー病患者の脳領域において、互いに比較して、及び/又は同じ年齢の対照の前頭皮質、側頭皮質及び海馬それぞれの組織試料と比較して、ヒト形質膜カルシウムATPアーゼ(ATP2B又はPMCA)遺伝子発現、好ましくはヒト形質膜カルシウムATPアーゼアイソフォーム1(ATP2B1又はPMCA1)の同定、発現差異、調節異常を開示する。このような調節異常は、同じ年齢の健康な対照から得られた試料では観察されない。本発明は、ATP2B1の遺伝子発現がADに冒された脳では変化し、調節が異常になっており、ATP2B1 mRNAレベルが減少し、前頭皮質と比較して側頭皮質で下方制御されており、或いは側頭皮質又は海馬と比較して前頭皮質では上昇しているか、又は上方制御されていることを開示する。さらに、本発明は、ATP2B1発現が、ATP2B1のレベルがAD患者の側頭皮質及び前頭皮質では下方制御されているAD患者の前頭皮質及び側頭皮質と比較して、健康な同じ年齢の対照対象者の前頭皮質と側頭皮質との間では異なることを開示する。同じ年齢の健康な対照から得られた試料を互いに比較すると、このような調節異常は認められない。この調節異常は、おそらくADに冒された脳におけるATP2B1の病理学的変更に関連するのであろう。
【0017】
今までのところ、特にADにおけるATP2B1遺伝子発現の調節異常と神経変性疾患の病理との間の関連を示す実験は記載されていない。同様に、ATP2B1遺伝子又は蛋白質の変異が前記疾患に関連することは記載されていない。本発明で開示したように、ATP2B1遺伝子及び蛋白質をこのような疾患に結びつけることは、特に前記疾患の診断及び治療のために新しい方法をもたらす。
【0018】
本発明は、AD患者の特定の脳領域におけるATP2B1をコードする遺伝子の調節異常を開示する。下側頭葉、嗅内皮質、海馬及び扁桃体内のニューロンは、ADでは変性プロセスを受ける(Terry他、Annals of Neurology 1981、10:184〜192)。これらの脳領域は主に、学習及び記憶機能の処理に関与し、ADにおいてニューロン損失及び変性に対する選択的脆弱性を示す。対照的に、前頭皮質、後頭皮質及び小脳内のニューロンは概ね完全なままであり、神経変性プロセスから保護される。AD患者及び健康で同じ年齢の対照個人の前頭皮質(F)、側頭皮質(T)及び海馬(H)の脳組織を本明細書で開示した実施例のために使用した。結果として、ATP2B1及びその対応する転写物及び/又は翻訳産物は、ADで通常認められる領域選択的神経変性において原因となる役割を担っている。或いは、ATP2B1は残存する生きた神経細胞に神経保護機能を与えることができる。これらの開示に基づいて、本発明は、診断評価及び予後、並びに神経変性疾患、特にADの素因の同定のために有用である。さらに、本発明は、このような疾患の治療を受ける患者の診断的モニター方法を提供する。
【0019】
一態様では、本発明は、対象における神経変性疾患を診断又は予測する方法、又は対象の前記疾患を発症する危険性が増大しているかどうか測定する方法、或いは神経変性疾患を有する対象に施された治療の効果をモニターする方法に着目する。この方法は、前記対象から得られた試料中における(i)形質膜カルシウムATPアーゼ(ATP2B1)をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)形質膜カルシウムATPアーゼ(ATP2B1)をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写産物又は翻訳産物の断片、若しくは誘導体、若しくは変種のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性の全部を測定すること、並びに前記レベル、発現及び/又は前記活性を公知の疾患状態(患者)を表す参照値、及び/又は公知の健康状態(対照)を表す参照値、及び/又は公知のBraak段階を表す参照値と比較すること、並びに前記レベル、発現及び/又は活性が公知の健康状態を表す参照値と比較して変化しているかどうか、変更しているかどうか、及び/又は公知の疾患状態を表す参照値と類似又は同等かどうか、及び/又は前記対象が神経変性疾患を有すること、又は前記対象が前記疾患の徴候及び症状を発症する危険性が増大していることの指標である公知のBraak段階を表す参照値と比較して類似であるかどうかを分析すること、それによって前記対象における前記神経変性疾患を診断又は予測すること、或いは前記対象の前記神経変性疾患を発症する危険性が増大しているかどうかを決定することを含む。「対象における」という表現は、患者を苦しめる疾患に関係する限りでは、開示した方法の結果を意味し、すなわち、前記疾患が対象の「中」にあることを意味する。
【0020】
本発明はまた、本発明で開示したような、核酸配列、又は断片、又はそれらの変種に特有のプライマー及びプローブの構築及び使用に関する。オリゴヌクレオチドプライマー及び/又はプローブは、蛍光、生物発光、磁気又は放射活性物質で特異的に標識することができる。本発明はさらに、前記特異的オリゴヌクレオチドプライマーを適切に組み合わせて使用した、前記核酸配列、又はそれらの断片及び変種の検出及び産生に関する。当業界で周知の方法であるPCR分析は、核酸を含有する試料から前記遺伝子特異的核酸配列を増幅するために、前記プライマーを組み合わせて実施することができる。このような試料は、健康な対象又は病気の対象又は限定されたBraak段階の対象のいずれかから得ることができる。増幅が特定の核酸産物を生じるか生じないか、及び長さが異なる断片を得ることができるかできないかは、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の指標となり得る。こうして、本発明は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病に関連することができる調査対象の核酸配列を含む所与の試料における遺伝子変異及び一塩基多形の検出に有用な、核酸配列、オリゴヌクレオチドプライマー、及び長さが少なくとも10塩基から全体のコーディング及び遺伝子配列までのプローブを提供する。この特徴は、迅速なDNAをベースにした診断試験、好ましくはキットの形式の開発おいてまた利用される。
【0021】
他の態様では、本発明は、対象における神経変性疾患の進行をモニターする方法に着目する。前記対象から得られた試料中における(i)形質膜カルシウムATPアーゼ(ATP2B1)をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)形質膜カルシウムATPアーゼ(ATP2B1)をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写産物又は翻訳産物の断片、若しくは誘導体、若しくは変種のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性の全部を測定する。前記レベル、発現及び/又は前記活性は、公知の疾患又は健康状態又は公知のBraak段階を表す参照値と比較される。それによって、前記対象における前記神経変性疾患の進行がモニターされる。
【0022】
さらに他の態様では、本発明は、前記疾患について治療する対象から得られた試料中における(i)形質膜カルシウムATPアーゼ(ATP2B1)をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)形質膜カルシウムATPアーゼ(ATP2B1)をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写産物又は翻訳産物の断片、若しくは誘導体、若しくは変種のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性の全部を測定することを含む、神経変性疾患の治療を評価する方法に着目する。前記レベル、発現若しくは前記活性、又は前記レベル、発現及び前記活性の全部は、公知の疾患又は健康状態又は公知のBraak段階を表す参照値と比較され、それによって、前記神経変性疾患の治療を評価する。
【0023】
本明細書で特許請求した方法、キット、組換え動物、分子、アッセイ及び本発明の使用の好ましい実施形態では、形質膜のカルシウムポンプをコードする前記ATP2B遺伝子は、形質膜カルシウムATPアーゼ(ATP2B又はPMCA)、ATP2B蛋白質をコードする遺伝子である。さらに好ましい実施形態では、前記ATP2B遺伝子は、形質膜カルシウムATPアーゼアイソフォーム1若しくは2若しくは3若しくは4をコードし、変種1若しくは2若しくは3若しくは4とも呼ばれる。前記ATP2B遺伝子は、形質膜カルシウムATPアーゼアイソフォーム1(ATP2B1若しくはPMCA1)又は変種1をコードすることが好ましい。このATP2Bアイソフォーム1は、配列番号1の蛋白質、ATP2B1をコードするATP2B1遺伝子(遺伝子バンクアクセッション番号L14561)によって表される。前記蛋白質のアミノ酸配列は、遺伝子バンクアクセッション番号J04027、M95541、M95542、AK024895、AK027053、S49852及びいくつかのESTから構築されたcDNAコンセンサス配列に対応する配列番号2、ATP2B1 cDNAに対応するmRNA配列から推定される(図10参照)。本発明では、ATP2B1はまた、配列番号1の蛋白質をコードする配列番号2の核酸配列を意味する。本発明では、ATP2B1はまた、ヒトATP2B1のコーディング配列(cds)を表す核酸配列の配列番号4を意味する。本発明では、前記配列は、本明細書で使用された用語のように「単離」されている。さらに、本発明では、前記ATP2B又はATP2B1蛋白質をコードする遺伝子はまた、一般的にATP2B1遺伝子又は簡単にATP2B1と呼ばれる。さらに、ATP2B又はATP2B1の蛋白質はまた、一般的にATP2B1蛋白質又は簡単にATP2B1と呼ばれる。
【0024】
本明細書で特許請求した方法、キット、組換え動物、分子、アッセイ及び本発明の使用のさらに好ましい実施形態では、前記神経変性疾患又は障害はアルツハイマー病(AD)であり、前記対象はアルツハイマー病の徴候及び症状に罹っている。
【0025】
分析し、測定する試料は脳組織又はその他の組織を含む群、或いは体細胞を含む群から選択されることが好ましい。この試料はまた、脳脊髄液又は唾液、尿、糞便、血液、血清血漿、又は粘液を含むその他の体液を含むことができる。好ましくは、本発明による神経変性疾患の診断、予後、進行のモニター又は治療の評価方法は、ex corpre(体の一部)で実施することができ、「インビトロ」で実行され、このような方法は、試料、たとえば、対象若しくは患者から除去、収集、又は単離された体液又は細胞に関連することが好ましい。
【0026】
他の好ましい実施形態では、前記参照値は、(i)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記神経変性疾患に罹患していない対象から得られた試料(対照試料、対照)或いは神経変性疾患、特にアルツハイマー病に罹患した対象から得られた、又は限定されたBraak段階の人から得られた試料(患者試料、患者)における前記転写産物又は翻訳産物の断片、又は誘導体、又は変種のレベル、発現又は活性、或いは前記レベル及び前記活性の両方の値である。
【0027】
好ましい実施形態では、公知の健康状態を表す参照値(対照試料)に対して、前記対象から得られた試料細胞又は組織、又は体液(患者試料)におけるATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物及び/又はATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物及び/又はそれらの断片、又は誘導体、又は変種のレベル、発現及び/又は活性の変更、変化したレベル、発現及び/又は活性が、神経変性疾患、特にADの診断、又は予後、又は罹患する危険性の増加を示す。
【0028】
さらに好ましい実施形態では、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の公知の疾患状態を表す参照値と比較して、前記対象から得られた試料細胞、又は組織、又は体液(患者試料)から得られた試料細胞又は組織、又は体液におけるATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物及び/又はATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物及び/又はそれらの断片、若しくは誘導体、若しくは変種が同等又は類似のレベル、発現及び/又は活性であることは、前記神経変性疾患の診断、又は予後、又は疾患になる危険性の増加の指標となる。
【0029】
他のさらに好ましい実施形態では、ADの徴候及び症状を発症する高い危険性を反映する公知のBraak段階を表す参照値と比較して、対象から得られた試料細胞、又は組織、又は体液におけるATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物及び/又はATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物及び/又はそれらの断片、若しくは誘導体、若しくは変種が同等又は類似のレベル及び/又は活性であることは、ADの診断、又は予後、又は疾患になる危険性の増加の指標となる。
【0030】
好ましい実施形態では、ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物のレベルの測定は、対象の試料から抽出したRNAの逆転写によって得られたcDNAから前記遺伝子特異的配列を増幅するためにプライマーの組み合わせを用いた定量的PCR分析を使用して、対象から得られた試料で実施した。プライマーの組み合わせ(配列番号5、配列番号6)は、本発明の実施例(iv)に挙げるが、本発明で開示したような配列から生じたその他のプライマーも使用することができる。前記遺伝子に特異的なプローブを用いてノザンブロット又はリボヌクレアーゼ保護アッセイ(RPA)をまた適用することができる。さらに、チップをベースとしたマイクロアレイ技術によって転写産物を測定することが好ましいであろう。これらの技術は当業者には公知である(Sambrook及びRussell、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、2001;Schena M.、Microarray Biochip Technology、Eaton Publishing、Natick、MA、2000)。免疫アッセイの一例は、特許出願国際公開第02/14543号で開示し、記載されたような酵素活性の検出及び測定である。
【0031】
さらに、ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は前記翻訳産物の断片、若しくは誘導体、若しくは変種のレベル及び/又は活性、及び/又は前記翻訳産物、及び/又はそれらの断片、若しくは誘導体、若しくは変種の活性レベルは、免疫アッセイ、活性アッセイ、及び/又は結合アッセイを使用して検出できる。これらのアッセイは、前記蛋白質分子と抗蛋白質抗体との間の結合量を、抗蛋白質抗体又はこの抗蛋白質抗体に結合する第2抗体のいずれかに結合させた酵素的、色素原、放射活性、磁気、又は発光標識を使用することによって測定することができる。さらに、その他の親和性の高いリガンドを使用してよい。使用することができる免疫アッセイには、たとえば、ELISA、ウェスタンブロット及び当業者に公知のその他の技術が含まれる(Harlow及びLane、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1999及びEdwards R、Immunodiagnostics:A Practical Approach、Oxford University Press、Oxford;England、1999)。これらの検出技術は全てまた、マイクロアレイ、蛋白質アレイ、抗体マイクロアレイ、組織マイクロアレイ、電子バイオチップ又は蛋白質チップをベースにした様式で使用することができる(Schena M.、Microarray Biochip Technology、Eaton Publishing、Natick、MA、2000)。
【0032】
好ましい実施形態では、前記疾患の進行をモニターするために、前記対象から期間中採取した一連の試料における(i)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写産物又は翻訳産物の断片、若しくは誘導体、若しくは変種のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル及び前記活性の全てを比較する。さらに好ましい実施形態では、前記対象は治療を受けた後で、前記試料の収集を1回以上回行う。さらに他の好ましい実施形態では、前記レベル及び/又は活性は、前記対象の前記治療の前後に測定する。
【0033】
他の態様では、本発明は、対象における神経変性疾患、特にADを診断若しくは予測するため、又は対象が神経変性疾患、特にADを発症する傾向若しくは素因を測定するため、又は神経変性疾患、特にADを有する対象に施した治療の効果をモニターするためのキットの使用に着目し、前記キットは、
(a)(i)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物及び/又はそれらの断片、誘導体、変種を選択的に検出する試薬、(ii)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物及び/又はそれらの断片、誘導体、変種を選択的に検出する試薬からなる群から選択された少なくとも1種の試薬、及び
(b)−前記対象から得られた試料におけるATP2B1をコードする遺伝子の前記転写産物及び/又は前記翻訳産物のレベル、発現又は活性、又は前記レベル、発現及び前記活性の全部を測定すること、
−前記転写産物及び/又は前記翻訳産物の前記レベル及び/又は前記活性及び/又は発現を、公知の疾患状態(患者)を表す参照値及び/又は公知の健康状態(対照)を表す参照値及び/又は公知のBraak段階を表す参照値と比較すること、及び
−前記レベル及び/又は前記活性及び/又は発現が公知の健康状態を表す参照値と比較して変化しているかどうか、及び/又は公知の疾患状態を表す参照値又は公知のBraak段階を表す参照値と類似しているか、又は同等であるかどうかを分析すること、及び
−神経変性疾患、特にADを診断するか、又は予測すること、又は前記対象がこのような疾患を発症する傾向又は素因を測定することによって、神経変性疾患、特にADを診断、又は予測するため、及び/又は対象がこのような疾患を発症する傾向又は素因を測定するため、又は治療の効果をモニターするための指示書を含み、公知の健康状態(対照)を表す参照値と比較して前記転写産物及び/又は前記翻訳産物のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル及び前記活性の両方が変化又は変更していること、及び/又は前記転写産物及び/又は前記翻訳産物のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル及び前記活性の両方が公知の疾患状態(患者試料)、好ましくはADの疾患状態(AD患者)を表す参照値、及び/又は公知のBraak段階を表す参照値と類似しているか、又は同等であることが、神経変性疾患、特にADの診断若しくは予後、又はこのような疾患を発症する傾向又は素因の増加、ADの徴候及び症状を発症する危険性の高さを示す。本発明によるこのキットは、神経変性疾患、特にADを発症する危険性がある個体対象の同定に特に有用である。
【0034】
ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物及び/又は翻訳産物を選択的に検出する試薬は、様々な長さの配列、配列の断片、抗体、アプタマー、siRNA、ミクロRNA、リボザイムであることができる。
【0035】
他の態様では、本発明は、対象における神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断又は予測する方法、及び対象がこのような疾患を発症する傾向又は素因を測定する方法、及び神経変性疾患、特にADを有する対象に施された治療の効果をモニターする方法におけるキットの使用に着目する。
【0036】
したがって、本発明によるキットは、疾患の経過において不可逆的な障害を負う前に、疾患発症前の早期予防措置又は治療行為を行うことを認めた個体対象を標的とするための手段として役立つことができる。さらに、好ましい実施形態では、本発明で着目したキットは、対象における神経変性疾患、特にADの進行のモニター、並びに前記対象のこのような疾患の治療的処置の成功又は失敗のモニターに有用である。
【0037】
他の態様では、本発明は、(i)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、又は誘導体、又は変種のレベル、又は活性、又は前記レベル及び前記活性の両方に直接的又は間接的に影響を及ぼす1種以上の薬剤の治療有効量又は予防有効量を対象に投与することを含む、前記対象における神経変性疾患、特にADの治療又は予防の方法に着目する。前記薬剤は、小分子を含んでよく、ペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチドも含んでよい。前記ペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチドは、ATP2B1蛋白質、又はそれらの断片、又は誘導体、又は変種をコードする遺伝子の翻訳産物のアミノ酸配列を含む。本発明による、神経変性疾患、特にADを治療又は予防するための薬剤はまた、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、又はポリヌクレオチドから構成されてよい。前記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列をセンス方向又はアンチセンス方向のいずれかで含むことができる。
【0038】
好ましい実施形態では、この方法は、前記1種以上の薬剤を投与するために、それ自体公知の遺伝治療法及び/又はアンチセンス核酸技術を適用することを含む。一般的に、遺伝子治療はいくつかの取り組み、すなわち、変異遺伝子の分子置換、治療蛋白質の合成をもたらす新規遺伝子の追加、及び組換え発現法又は薬剤による内在性細胞遺伝子発現の変更を含む。遺伝子輸送技術は、詳細に記載されており(たとえば、Behr、Ace Chem Res 1993、26:274〜278及びMulligan、Science 1993、260:926〜931参照)、DNAの細胞への機械的微量注入などの直接遺伝子輸送技術並びに生物ベクター(組換えウイルス、特にレトロウイルスなど)又はリポソームモデルを使用した間接的技術、又はポリカチオンによるDNA共沈殿によるトランスフェクションに基づいた技術、化学物質(溶媒、界面活性剤、ポリマー、酵素)又は物理的手段(機械的、浸透圧、熱、電気ショック)による細胞膜貫通が含まれる。生後の中枢神経系への遺伝子輸送は詳細に述べられている(たとえば、Wolff、Curr Opin Neurobiol 1993、3:743〜748参照)。
【0039】
特に、本発明は、アンチセンス核酸治療によって、すなわち、アンチセンス核酸又はそれらの誘導体をある種の重要な細胞に導入することによって不適切に発現した遺伝子、又は欠陥のある遺伝子を下方制御することによって、神経変性疾患を治療又は予防する方法に着目する(たとえば、Gillespie、DN&P 1992、5:389〜395;Agrawal及びAkhtar、Trends Biotechnol 1995、13:197〜199;Crooke、Biotechnology 1992、10:882〜6参照)。ハイブリダイゼーション戦略だけでなく、リボザイム、すなわち酵素として作用するRNA分子を適用して、疾患の情報を携えたRNAを破壊することも記載されている(例えば、Barinaga、Science 1993、262:1512〜1514参照)。好ましい実施形態では、治療する対象はヒトであり、治療用アンチセンス核酸又はそれらの誘導体は、ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物を対象とする。対象の中枢神経系、好ましくは脳の細胞をこのような方法で治療することが好ましい。細胞貫通は、アンチセンス核酸及びそれらの誘導体の担体粒子への結合などの公知の戦略、又は前記の技術によって実施することができる。標的治療用オリゴデオキシヌクレオチドを投与する戦略は、当業者には公知の戦略である(例えば、Wickstrom、Trends Biotechnol 1992、10:281〜287参照)。場合によっては、送達は局所適用するだけで実施できることがある。他の取り組みは、アンチセンスRNAの細胞内発現を対象とする。この戦略では、標的核酸の一領域に相補的なRNAの合成を対象とする組換え遺伝子を用いて、細胞をex vivoで形質転換する。細胞内で発現したアンチセンスRNAの治療的使用は、操作としては遺伝子治療と同じである。別名RNA干渉(RNAi)として知られる、最近開発された2本鎖RNAの使用による遺伝子細胞内発現の調節方法は、核酸治療のもう1つの効果的な取り組みとなり得る(Hannon、Nature 2002、418:244〜251)。
【0040】
さらに好ましい実施形態では、この方法は、ドナー細胞、又は移植拒絶を最小限に抑えるか、又は減少させるために好ましくは処理されたドナー細胞を、前記対象の中枢神経系、好ましくは脳に移植することを含み、前記ドナー細胞は、1種以上の前記薬剤をコードする少なくとも1個の導入遺伝子を挿入することによって遺伝的に変更されている。前記導入遺伝子を、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって輸送することができる。この導入遺伝子は、導入遺伝子をコードするDNAの非ウイルス性物理的形質移入によって、特にマイクロインジェクションによってドナー細胞に挿入することができる。導入遺伝子の挿入はまた、エレクトロポレーション、化学物質媒介形質移入、特にリン酸カルシウム形質移入又はリポソーム媒介形質移入によって実施することができる(Mc Celland及びPardee、Expression Genetics:Accelerated and High−Throughput Methods、Eaton Publishing、Natick、MA、1999参照)。
【0041】
好ましい実施形態では、神経変性疾患、特にADを治療及び予防する前記薬剤は、前記対象、好ましくはヒトに、対象細胞を前記対象に導入することを含む方法によって投与することができる治療用蛋白質であり、前記対象細胞は、前記治療用蛋白質をコードするDNA区域を挿入するためにインビトロで処理されており、前記対象細胞は、前記治療用蛋白質の治療有効量を前記対象においてインビボで発現する。前記DNA区域を、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって、インビトロで前記細胞に挿入することができる。
【0042】
本発明による治療法には、既に記載した細胞及び遺伝子治療法のいずれかの組み合わせた、治療用クローニング、移植及び胚性幹細胞又は胚性生殖細胞及び成人神経幹細胞を使用した幹細胞治療の適用が含まれる。幹細胞は、全能性又は多分化能性であってよい。これらはまた、器官特異的であってよい。疾患のある、及び/又は障害のある脳細胞又は組織の修復戦略には、(i)成人組織からドナー細胞を採取することが含まれる。これらの細胞の核を、遺伝物質を除去した非受精卵細胞に移植する。胚性幹細胞は、体細胞核輸送を受けた細胞の胚盤胞段階から単離される。次に、分化因子を使用して、この幹細胞を分化した細胞型、好ましくは神経細胞の制御された発達を導く(Lanza他、Nature Medicine 1999、9:975〜977)か、又は(ii)中枢神経系若しくは骨髄(間葉幹細胞)から単離された成人幹細胞をインビトロ増殖及びその後の移植のために精製するか、又は(iii)内在性神経幹細胞の機能的ニューロンへの増殖、移動及び分化を直接誘導する(Peterson DA、Curr.Opin.Pharmacol.2002、2:34〜42)。成人脳の胚中心は神経障害又は機能不全がないので、成人神経幹細胞は、障害を受けた、又は疾患のある脳組織を修復するために非常に有望である(Colman A、Drug Discovery World 2001、7:66〜71)。
【0043】
好ましい実施形態では、本発明による治療又は予防のための対象は、ヒト、非ヒト実験動物、たとえば、マウス又はラット、家畜、又は非ヒト霊長類であることができる。非ヒト実験動物は、神経変性疾患のための動物モデル、例えば、AD型神経病理を有するトランスジェニックマウス及び/又はノックアウトマウスであることができる。
【0044】
他の態様では、本発明は、(i)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、又は誘導体、又は変種からなる群から選択された少なくとも1種の物質の薬剤、選択的アンタゴニスト又はアゴニスト又は活性、若しくは、レベル、又は前記活性及び前記レベルの両方、及び/又は発現の調節剤に着目し、前記薬剤、選択的アンタゴニスト又はアゴニスト、又は前記調節剤は、神経変性疾患、特にADの治療において潜在的活性を有する。
【0045】
他の態様では、本発明は、前記調節剤及び好ましくは医薬担体を含む医薬組成物に着目する。前記担体とは、一緒に調節剤を投与する希釈剤、補助剤、賦形剤又は媒体を意味する。
【0046】
他の態様では、本発明は、医薬組成物で使用するための(i)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、又は誘導体、又は変種からなる群から選択された少なくとも1種の物質の活性、若しくはレベル、若しくは発現又は前記活性及び前記レベルの両方の調節剤に着目する。
【0047】
他の態様では、本発明は、神経変性疾患、特にADを治療又は予防するための薬剤の製造における(i)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、又は誘導体、又は変種からなる群から選択された少なくとも1種の物質の薬剤、抗体、選択的アンタゴニスト又はアゴニスト、又は活性、若しくはレベル、又は前記活性及び前記レベルの両方、及び/又は発現の調節剤の使用を提供する。前記抗体は、配列番号1を有するATP2B1をコードする遺伝子の翻訳産物である免疫源に特異的に免疫反応性であることできる。一態様では、本発明はまた、前記医薬組成物の治療又は予防有効量が充填された1個以上の容器を含むキットを提供する。
【0048】
他の態様では、本発明は、天然ATP2B1遺伝子転写制御要素ではない転写要素の制御下に、配列番号1を有するATP2B1蛋白質をコードする非天然ATP2B1遺伝子配列、又はそれらの断片、又は誘導体、又は変種を含む遺伝子操作された組換え非ヒト動物に着目する。前記組換え非ヒト動物の作製には、(i)前記遺伝子配列及び選択可能なマーカー配列を含有する遺伝子標的構築物を提供すること、及び(ii)前記標的構築物を非ヒト動物の幹細胞に導入すること、及び(iii)前記非ヒト動物幹細胞を非ヒト胚に導入すること、及び(iv)前記胚を偽妊娠非ヒト動物に移植すること、及び(v)前記胚を出産予定日まで成長させること、及び(vi)ゲノムが両対立遺伝子中に前記遺伝子配列の変更を含む遺伝子改変非ヒト動物を同定すること、及び(vii)ゲノムが前記内在性遺伝子の変更を含む遺伝子改変非ヒト動物を得るために段階(vi)の遺伝子改変非ヒト動物を飼育することが含まれ、前記遺伝子は発現が不適切であるか、低いか、又は過剰であり、前記破壊又は改変によって、ADに関連した徴候及び症状である神経変性疾患の徴候及び症状を発症する素因を示す、前記非ヒト動物を生じる。このような動物を作製及び構築するための戦略及び技術は、当業者には公知である(例えば、Capecchi、Science 1989、244:1288〜1292及びHogan他、Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1994及びJackson及びAbbott、Mouse Genetics and Transgenics:A Practical Approach、Oxford University Press、Oxford、England、1999参照)。神経変性疾患、特にアルツハイマー病を研究するための試験動物又は対照動物のような遺伝子操作、組換え非ヒト動物を使用することは好ましい。このような動物は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断薬及び治療薬の開発における化合物、薬剤及び調節剤のスクリーニング、試験及び評価に有用であり得る。スクリーニング法におけるこのような遺伝子改変動物の使用を本発明で開示する。
【0049】
他の態様では、本発明は、配列番号1を有するATP2B1蛋白質をコードする遺伝子配列、又はそれらの断片、又は誘導体、又は変種の発現が不適切であるか、低いか、又は過剰であるか、又は破壊されているか、又は神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療するための診断薬及び治療薬の開発において化合物、薬剤及び調節剤をスクリーニング、試験及び評価するために他の方法で改変されている細胞を使用する。スクリーニング法におけるこのような細胞の使用を本発明で開示する。
【0050】
他の態様では、本発明は、(i)配列番号1を有するATP2B1蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)配列番号1を有するATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)配列番号1を有するATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、又は誘導体、又は変種からなる群から選択された1種以上の物質の発現及び/又はレベル及び/又は活性を改変する能力を有する、神経変性疾患、特にAD、又は関連疾患及び障害の治療に使用するための薬剤、調節剤、選択的アンタゴニスト又はアゴニストをスクリーニングする方法に着目する。このスクリーニング法は、(a)細胞を試験化合物と接触させること、及び(b)(i)から(iv)で列挙した1種以上の物質の活性及び/又はレベル、又は活性及びレベルの両方、及び/又は発現を測定すること、及び(c)前記試験化合物と接触していない対照細胞において前記物質の活性及び/又はレベル、又は活性及びレベルの両方、及び/又は発現を測定すること、及び(d)段階(b)及び(c)の細胞における物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現を比較することを含み、接触した細胞における前記細胞の活性及び/又はレベル及び/又は発現の改変が、前記試験化合物が神経変性疾患及び障害の治療に使用するための薬剤、調節剤、選択的アンタゴニスト又はアゴニストであることを示す。前記細胞は、本発明で開示したような細胞であってよい。
【0051】
他の一態様では、本発明は、(a)試験化合物を神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の徴候及び症状を発症しやすい、又は既に発症しており、本発明で開示したような動物モデルであってよい非ヒト試験動物に投与すること、及び(b)(i)から(iv)で列挙した1種以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、及び(c)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の徴候及び症状を同様に発症しやすい、又は既に発症しており、このような試験化合物を投与されていない非ヒト対照動物における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、及び(d)段階(b)及び(c)の動物におけるこの物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を比較し、非ヒト試験動物における物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の改変が、前記試験化合物が神経変性疾患及び障害の治療に使用するための薬剤、調節剤、選択的アンタゴニスト又はアゴニストであることを示すことを含む、薬剤、調節剤又は選択的アンタゴニスト若しくはアゴニストが(i)配列番号1を有するATP2B1蛋白質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)配列番号1を有するATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)配列番号1を有するATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、又は誘導体、又は変種からなる群から選択された1種以上の物質の発現及び/又はレベル及び/又は活性を改変する能力を有する、神経変性疾患、特にAD又は関連疾患及び障害の治療で使用するための薬剤、調節剤、選択的アンタゴニスト又はアゴニストのスクリーニング方法に着目する。
【0052】
他の実施形態では、本発明は、(i)前記のスクリーニング法の方法によって神経変性疾患の調節剤を同定する段階、及び(ii)調節剤を医薬担体と混合する段階を含む医薬品の製造方法を提供する。しかし、前記調節剤はまた、その他の種類のスクリーニング法及び測定法によって同定することができる。
【0053】
他の態様では、本発明は、リガンドと配列番号1を有するATP2B1蛋白質、又はそれらの断片、又は誘導体、又は変種との間の結合を阻害する化合物を試験する、好ましくは複数の化合物をスクリーニングする測定法を提供する。前記スクリーニングアッセイは、(i)配列番号1を有する前記ATP2B1蛋白質、又はそれらの断片、又は誘導体、又は変種の液体懸濁物を複数の容器に添加する段階、及び(ii)前記阻害についてスクリーニングする1種以上の化合物を前記複数の容器に添加する段階、及び(iii)検出可能な、好ましくは蛍光標識されたリガンドを前記容器に添加する段階、及び(iv)前記ATP2B1蛋白質、又はそれらの前記断片、又は誘導体又は変種及び前記化合物以上の化合物、及び前記検出可能な、好ましくは蛍光標識されたリガンドをインキュベートする段階、及び(v)前記ATP2B1蛋白質、又はそれらの前記断片、又は誘導体、又は変種に関連した好ましくは蛍光の量を測定する段階、及び(vi)1種または複数の前記化合物による前記リガンドの前記ATP2B1蛋白質、又はそれらの前記断片、又は誘導体、又は変種への結合の阻害の程度を測定する段階を含む。リガンドと前記ATP2B1翻訳産物との間の結合の阻害を測定するために、対応する蛋白リポソームを作製するように、前記ATP2B1翻訳産物、又はその断片、又は誘導体、又は変種を人工的リポソームに再構成することが好ましい可能性がある。界面活性剤からリポソームへのATP2B1翻訳産物の再構成方法は、詳細に記載されている(Schwarz他、Biochemistry 1999、38:9456〜9464;Krivosheev及びUsanov、Biochemistry−Moscow 1997、62:1064〜1073)。いくつかの態様では、蛍光標識リガンドを使用する代わりに、当業者には公知の任意のその他の検出可能な標識、例えば、放射活性標識を使用し、それに応じて検出することが好ましい。前記方法は、新規化合物を同定するため、並びに、ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の遺伝子産物、又はその断片、又は誘導体、又は変種に対するリガンドの結合を阻害する能力が改善されたか、又は他の場合では最適化された化合物を評価するために有用であり得る。担体粒子の使用に基づいたこの場合の蛍光結合アッセイの一例は、特許出願国際公開00/52451号に開示され記載されている。他の例は、特許国際公開02/01226号に記載されたような競合アッセイ法である。本発明のスクリーニングアッセイのために好ましいシグナル検出法は、以下の特許出願、国際公開96/13744号、国際公開98/16814号、国際公開98/23942号、国際公開99/17086号、国際公開99/34195号、国際公開00/66985号、国際公開01/59436号、国際公開01/59416号に記載されている。
【0054】
他の一実施形態では、本発明は、(i)前記の阻害結合アッセイによってリガンドとATP2B1をコードする遺伝子の遺伝子生成物との間の結合の阻害剤としての化合物を同定する段階、及び(ii)この化合物を医薬担体と混合する段階を含む医薬品の製造方法を提供する。しかし、前記化合物はまた、その他の種類のスクリーニング法によって同定することができる。
【0055】
他の態様では、本発明は、前記化合物の配列番号1を有するATP2B1蛋白質、又はそれらの断片、又は誘導体、又は変種への結合を阻害する程度を測定するために化合物を試験する、好ましくは複数の化合物をスクリーニングする測定法に着目する。前記スクリーニングアッセイは、(i)前記ATP2B1蛋白質、又はそれらの断片、又は誘導体、又は変種の液体懸濁液を複数の容器に添加すること、及び(ii)前記結合についてスクリーニングする、検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物以上の検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物を前記複数の容器に添加すること、及び(iii)前記ATP2B1蛋白質、又はそれらの前記断片、又は誘導体又は変種及び前記検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物又は検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物類をインキュベートすること、及び(iv)前記ATP2B1蛋白質、又はそれらの前記断片、又は誘導体、又は変種に関連した好ましくは蛍光の量を測定すること、及び(v)前記ATP2B1蛋白質、又はそれらの前記断片、又は誘導体、又は変種に対する1種以上の前記化合物による結合の程度を測定することを含む。この種の測定法では、蛍光標識を使用することが好ましい可能性がある。しかし、その他の種類の検出可能な標識も使用することができる。この種の測定法ではまた、本発明で説明したように、ATP2B1翻訳産物又はその断片、又は誘導体、又は変種を人工リポソームに再構成することが好ましい可能性がある。前記測定方法は、新規化合物を同定するため、並びに、ATP2B1蛋白質、又はその断片、又は誘導体、又は変種に結合する能力が改善されたか、又はその他の場合では最適化された化合物を評価するために有用であり得る。
【0056】
他の一実施形態では、本発明は、(i)前記の阻害結合アッセイによってATP2B1をコードする遺伝子の遺伝子生成物への結合剤としての化合物を同定する段階、及び(ii)この化合物を医薬担体と混合する段階を含む医薬品の製造方法を提供する。しかし、前記化合物はまた、その他の種類のスクリーニング法によって同定することができる。
【0057】
他の実施形態では、本発明は、本明細書で特許請求したスクリーニング方法による方法のいずれかによって得ることができる薬剤を提供する。他の一実施形態では、本発明は、本明細書で特許請求したスクリーニング方法による方法のいずれかによって得ることができる医薬品を提供する。
【0058】
本発明は、配列番号1の蛋白質分子の使用に着目し、ATP2B1の前記蛋白質分子は神経変性疾患、特にアルツハイマー病を検出するための診断標的としての、ATP2B1をコードする遺伝子、又はその断片、又は誘導体、又は変種の翻訳産物である。
【0059】
本発明はさらに、配列番号1の蛋白質分子の使用に着目し、ATP2B1の前記蛋白質分子は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を予防、又は治療、又は改善する試薬又は化合物のためのスクリーニング標的として、ATP2B1をコードする遺伝子の翻訳産物又はその断片、又は誘導体、又は変種である。
【0060】
本発明は、免疫原に対して特異的に免疫反応性である抗体に着目し、前記免疫原はATP2B1蛋白質、配列番号1をコードする遺伝子の翻訳産物、又はその断片、又は誘導体、又は変種である。この免疫原は、前記遺伝子の翻訳産物の免疫原又は抗原エピトープ又は部分を含むことができ、翻訳産物の前記免疫原又は抗原部分はポリペプチドであり、前記ポリペプチドは、動物において抗体応答を惹起し、前記ポリペプチドは前記抗体によって免疫特異的に結合される。抗体の作製方法は当業界では周知である(Harlow他、Antibodies、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1988参照)。本発明で使用した「抗体」という用語は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、リコンビナトリアル、抗イディオタイプ、ヒト化、又は一本鎖抗体、並びにそれらの断片などの当業界で公知の抗体の全形態を包含する(Dubel及びBreitling、Recombinant Antibodies、Wiley−Liss、New York、NY、1999参照)。本発明の抗体は、例えば、酵素免疫測定法(例えば、酵素結合免疫吸着測定法、ELISA)、放射性免疫測定法、化学ルミネセンス免疫測定法、ウェスタンブロット、免疫沈殿及び抗体マイクロアレイなどの従来技術をベースにした様々な診断方法及び治療方法において有用である(Harlow及びLane、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1999及びEdwards R.、Immunodiagnostics:A Practical Approach、Oxford University Press、Oxford、England、1999参照)。これらの方法は、ATP2B1遺伝子の翻訳産物、又はそれらの断片、又は誘導体、又は変種の検出を含む。
【0061】
本発明の好ましい実施形態では、前記抗体は、前記細胞の前記抗体による免疫細胞化学的染色を含む、対象から得られた試料における細胞の病理学的状態の検出に使用することができ、公知の健康状態を表す細胞と比較して、前記細胞における染色の変化の程度、又は変化した染色パターンが前記細胞の病理学的状態を示す。この病理学的状態は、神経変性疾患、特にADに関与することが好ましい。細胞の免疫細胞化学的染色は、当業界で周知のいくつかの様々な実験方法によって実施することができる。しかし、抗体結合を検出するための自動化方法を適用することが好ましく、細胞の染色の程度の測定、又は細胞の細胞又は細胞内染色パターンの測定、又は細胞表面上又は細胞器官及び細胞内のその他の細胞内構造物中の抗原の形態学的分布は、米国特許第6150173号に記載された方法によって実施される。
【0062】
本発明のその他の特徴及び利点は、例示するのみであって、いかなる方法であってもこの開示の残部を制限するものではない以下の図面の説明及び実施例から明らかであろう。
【0063】
図1は、蛍光ディファレンシャルディスプレイスクリーニングにおいて、ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子、ATP2B1の発現差異の初期の同定を示した図である。この図は、大量調製用蛍光ディファレンシャルディスプレイゲルの切り取ったものを示す。健康な対照対象者2人及びAD患者6人の前頭皮質(F)及び側頭皮質(T)のPCR産物を変性ポリアクリルアミドゲルに2連で添加した(左から右へ)。対応する1塩基アンカーオリゴヌクレオチド及び特異的Cy3標識ランダムプライマーで個々のcDNAを増幅することによって、PCR産物が得られた。矢印は、健康な対照と比較して、AD患者の前頭皮質及び側頭皮質から得られたATP2B1遺伝子の転写産物のシグナルの強度に有意な差が存在する移動位置を示す。この発現差異は、AD患者の前頭皮質と比較して、及び健康な対照対象者の側頭皮質と比較して、側頭皮質中のヒトATP2B1遺伝子転写が下方制御されていることを反映している。健康な非AD対照対象者の側頭皮質及び前頭皮質から得られたシグナルを互いに比較して、シグナル強度の差、すなわち、発現レベルの変更は検出できない。
【0064】
図2および3は、定量RT−PCR分析を用いたAD脳組織におけるATP2B1をコードするATP2B1遺伝子の発現差異の証拠を示した図である。AD患者の前頭皮質(F)及び側頭皮質(T)(図2a)および前頭皮質(F)及び海馬(H)(図3a)から収集したRNA試料からのRT−PCR産物の定量は、LightCycler高速熱サイクリング技術によって実施した。同様に、健康な、同じ年齢の対照個体の試料を比較した(前頭皮質及び側頭皮質については図2b、前頭皮質及び海馬については図3b)。データは、遺伝子発現レベルに有意な差を示さない一連の標準遺伝子の結合平均値に対して正規化した。前記一連の標準遺伝子は、サイクロフィリンB、リボソーム蛋白質S9、トランスフェリン受容体、GAPDH及びベータアクチンから構成された。この図は、蛍光で測定された増幅物質の量に対してサイクル数をプロットすることによって増幅の動力学を示す。反応の対数増殖期における正常対照個体の前頭皮質及び側頭皮質の両方、及び正常対照個体の前頭皮質及び海馬それぞれのATP2B1 cDNAの増幅動力学は近接している(図2b及び3b、矢印)が、アルツハイマー病では(図2a及び図3a、矢印)対応する曲線に有意な分離があることに注意すると、それぞれ分析した脳領域におけるATP2B1をコードする遺伝子ATP2B1の発現差異が示され、前頭皮質に対して側頭皮質、及び前頭皮質に対して海馬それぞれにおける、ヒトATP2B1遺伝子、又はその断片、又は誘導体、又は変種の転写産物の調節異常、好ましくは下方制御が示される。
【0065】
図4は、98%信頼度での中央値の統計学的方法を使用して、対照とAD期を比較することによって、ATP2B1の絶対的mRNA発現の分析を示した図である。このデータは、Braak段階0から1、Braak段階0から2、又はBraak段階0から3のいずれかの対象を含む限定対照群によって計算され、Braak段階2から6、Braak段階3から6及びBraak段階4から6それぞれを含む限定されたAD患者群について計算されたデータと比較された。さらに、Braak段階0から1、Braak段階2から3、及びBraak段階4から6いずれかの対象を含む3種の群それぞれを互いに比較した。AD患者の前頭皮質(F)及び下前頭皮質(T)及び対照の前頭皮質(F)及び下前頭皮質(T)を互いに比較すると有意差が検出された。前記の差は、対照者の側頭皮質及び前頭皮質に対するAD患者の側頭皮質及び前頭皮質におけるATP2B1の下方制御及びAD患者の前頭皮質と比較した側頭皮質におけるATP2B1の下方制御を反映している。前記有意差は、Braak段階3でも観察された。
【0066】
図5は、配列番号1、ATP2B蛋白質ATP2B1のアミノ酸配列を示した図である。完全長ヒトATP2B1蛋白質は、1176個のアミノ酸を含む。
【0067】
図6は、配列番号2、ゲノムデータベースmRNA及びEST(図10)から構築された、5178個のヌクレオチドを含むヒトATP2B1 cDNAのヌクレオチド配列を示した図である。
【0068】
図7は、配列番号3、ディファレンシャルディスプレイ及びその後のクローニングによって同定され、得られたATP2B1 cDNA断片644bpのヌクレオチド配列(5’から3’方向の配列)を示した図である。
【0069】
図8は、配列番号4のヌクレオチド配列、3351個のヌクレオチドを含み、配列番号2のヌクレオチド182から3712を有するヒトATP2B1遺伝子のコーディング配列(cds)を示した図である。
【0070】
図9は、配列番号3の640塩基対に対するヒトATP2B1 cDNAのヌクレオチド配列、配列番号2の配列整列の概略を示した図である。
【0071】
図10は、配列番号2及びゲノムデータベース配列断片からのATP2B1のコーディング配列(cds)の整列の概略図で、コンセンサスcDNA配列、遺伝子バンクmRNA及びEST配列断片に基づいて得られた、延長修正コンセンサス配列からなる。対応するアクセッション番号は、左側に示す。
【0072】
図11は、ATP2B1をコードするcDNA配列、配列番号2、同定されたcDNA断片配列、配列番号3、ATP2B1転写レベルプロファイリングに使用した両プライマー配列(プライマーA、プライマーB)及びATP2B1のコーディング配列(cds)、配列番号4の整列を示した概略図である。配列位置は、右側に示す。
【0073】
図12に、本明細書で内部参照番号P010、P011、P012、P014、P016、P017、P019、P038、P040、P041、P042、P046、P047、P048、P049によって識別したAD患者15人及び本明細書で内部参照番号C005、C008、C011、C012、C014、C025、C026、C027、C029、C030、C031、C032、C033、C034、C035、C036、C038、C039、C041、C042、DE02、DE03、DE05、DE07で識別した同じ年齢の対照固体25人の前頭皮質に対する側頭皮質におけるATP2B1遺伝子発現レベルを示した。側頭皮質での上方制御については、示した値は本明細書で記載した式(以下参照)によって計算され、前頭皮質における上方制御の場合は、計算値は逆方向にそれぞれ示される。棒グラフは、様々なBraak段階(0から6)における、前頭皮質に対する側頭皮質の個々の自然体数値、ln(IT/IF)及び側頭皮質に対する前頭皮質制御因子の自然体数値、ln(IF/IT)を視覚化する。
【0074】
図13に、本明細書では内部参照番号P010、P011、P012、P014、P016、P019(0.16から0.70倍)で識別したAD患者6人及び本明細書では内部参照番号C004、C008(0.58から0.80倍)で識別した健康な、同じ年齢の対照固体2人の、ATP2B1をコードするATP2B遺伝子について、前頭皮質に対する海馬での遺伝子発現レベルを示した。示した値は、本明細書で説明した式によって計算された(以下参照)。散布図は、対照試料(黒丸)及びAD患者試料(三角)における前頭皮質に対する海馬の制御比の個々の対数値、log(HC/IF比)を視覚化する。
【0075】
図14は、ヤギポリクローナル抗ATP2B1(抗PMCA1)抗血清(緑色のシグナル)(拡大率10×)で免疫標識した対照供与者(対照T)及びアルツハイマー患者(患者T)の下側頭回の画分でデジタル撮影した顕微鏡写真を例示した図である(倍率10×)。ATP2B1の全体的免疫反応は、大脳皮質(CT)及び白質(WM)において認められた。図14A及び14Eは、ニューロン特異的マーカーNeuNに対する抗体で染色したニューロン(ニューロン核及び細胞体)の免疫反応性を示す。図14B及び14Fは、抗ATP2B1ヤギポリクローナル抗血清による免疫染色から得られたシグナルを示す。図14Cは、写真14A、14Bの混合及びDAPI染色から得られた写真を示し、図14Gは、写真14E、14F及びDAPI染色から得られた写真を示し、色はNeuN(赤)、ATP2B1(緑)から検出された免疫シグナル及びDAPI(青)による核染色を指定する。ATP2B1の免疫反応は、ほとんどのニューロン(細胞質、形質膜)で検出され、その上星状膠細胞及びいくつかの乏突起膠細胞で弱く検出されるが、小膠細胞では検出されなかった。本明細書で例示したデータは、ATP2B1蛋白質の神経免疫反応の強度及び量のレベルは、正常人の下側頭皮質(図14C及び14B)と比較して、及び患者及び対照両方の前頭皮質(図15G、15F及び図15C、15B)と比較して、患者の下側頭皮質(図14G及び14F)では減少していることを明らかに示す。さらに、対照の画分と比較して、星状膠細胞ATP2B1免疫反応は患者の前頭及び側頭標本の両方で減少している。
【0076】
図15は、ヤギポリクローナル抗ATP2B1(抗PMCA1)抗血清(緑色のシグナル)で免疫標識した対照提供者(対照F)及びアルツハイマー患者(患者F)の前頭皮質の画分からデジタル撮影した顕微鏡写真を例示した図である(倍率10×)。ATP2B1の全体的免疫反応は、大脳皮質(CT)及び白質(WM)において認められた。図15A及び15Eは、ニューロン特異的マーカーNeuNに対する抗体で染色したニューロン(ニューロン核及び細胞体)の免疫反応性を示す。図15B及び15Fは、抗ATP2B1ヤギポリクローナル抗血清による免疫染色から得られたシグナルを示す。図15Cは、写真15A、15Bの混合及びDAPI染色から得られた写真を示し、図15Gは、写真15E、15F及びDAPI染色から得られた写真を示し、色はNeuN(赤)、ATP2B1(緑)から検出された免疫シグナル及びDAPI(青)による核染色を指定する。ATP2B1の免疫反応は、ほとんどのニューロン(細胞質、形質膜)で検出され、その上星状膠細胞及びいくつかの乏突起膠細胞で弱く検出されるが、小膠細胞では検出されなかった。本明細書で例示したデータは、患者の前頭皮質(図15G及び15F)のATP2B1蛋白質の神経免疫反応の強度及び量のレベルが、正常人の前頭皮質(図15C及び15B)と比較して同等か又は類似しているが、対照並びに患者の前頭皮質では、患者の側頭皮質(図14G及び14F)と比較して上昇していることを明らかに示す。さらに、対照の画分と比較して、星状膠細胞ATP2B1免疫反応は患者の前頭及び側頭標本の両方で減少している。
【実施例1】
【0077】
(i)AD患者の脳組織分析
AD患者及び同じ年齢の対照対象者の脳組織を平均して死後6日以内に収集し、すぐにドライアイス上で凍結した。組織病理学的に診断を確定するために、各組織の切片試料をパラホルムアルデヒドで固定した。発現差異分析用の脳領域を確認し、RNA抽出を実施するまで−80℃で保存した。
【0078】
(ii)全mRNAの単離
RNeasyキット(Qiagen)を使用し、製造者のプロトコールに従って、全RNAを死後脳組織から抽出した。正確なRNA濃度及びRNA品質は、Agilent 2100 Bioanalyzer(Aglient Technologies)を使用してDNA LabChipシステムで測定した。調製したRNAをさらに品質検査するために、すなわち、部分分解の除去及びDNA汚染の検査のために、特異的に設計したイントロンのGAPDHオリゴヌクレオチド及び参考対照としてのゲノムDNAを使用して、製造者(Roche)によって供給されたプロトコールに記載されたように、LightCycler技術で融解曲線を作製した。
【0079】
(iii)cDNA合成及び蛍光ディファレンシャルディスプレイ(FDD)による差異的に発現した遺伝子の同定:
様々な組織における遺伝子発現の変化を同定するために、変更し、改善したディファレンシャルディスプレイ(DD)スクリーニング法を使用した。元のDDスクリーニング法は、当業者には公知である(Liang及びPardee、Science 1995、267:1186〜7)。この技術は、2種のRNA集団を比較し、1集団では発現するが、その他の集団では発現しない遺伝子のクローンをもたらす。いくつかの試料を同時に分析し、上方制御遺伝子及び下方制御遺伝子の両方を同じ実験で同定することができる。DD法におけるいくつかの段階の調節及び改良、並びに技術的変数の変更、例えば、重複性の増加、全RNAの逆転写用の最適試薬及び条件の評価、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の最適化及びそれらの産物の分離によって、再現性が高く、感受性の高い結果を可能にする技術が開発された。適用された改変DD技術は、Kammer他(Nucleic Acids Research 1999、27:2211〜2218)によって詳細に記載された。特異的に設計された一連の64個のランダムプライマーは、可能なRNA種全ての統計学的総合分析を実施するために開発された(標準設定)。さらに、この方法は、蛍光標識プライマーの使用をベースにした調製用DDスラブゲル技術を創出するために変更された。本発明では、アルツハイマー病患者及び同じ年齢の対照対象者から注意深く選択された死後脳組織(前頭皮質及び側頭皮質)のRNA集団を比較した。DD分析用の開始物質として、前記(ii)で説明したように抽出した全RNAを使用した。それぞれのRNAの同量0.05μgを、各dNTP0.5mM、Sensiscript逆転写酵素1μl及び1×RT緩衝液(Qiagen)、RNアーゼ阻害剤(Qiagen)10U及び1塩基アンカーオリゴヌクレオチドHI11A、TH11G又はHT11Cのいずれか1μMを含有する反応液20μl中で、cDNAに転写した(Liang他、Nucleic Acids Research 1994、22:5763〜5764;Zhao他、Biotechniques 1995、18:842〜850)。逆転写は、37℃60分、最終変性段階93℃5分で実施した。Cy3標識ランダムプライマー(1μM)のいずれか1種、1×GeneAmp PCR緩衝液(Applied Biosystems)、MgCl2(Applied Biosystems)1.5mM、dNTP−Mix(dATP、dGTP、dCTP、dTTP Amersham Pharmacia Biotech)2μM、5%DMSO(Sigma)、AmpliTaq DNAポリメラーゼ(Applied Biosystems)1Uと共に対応する1塩基アンカーオリゴヌクレオチド(1μM)を使用して、最終量20μlで、得られた各cDNA 2μlにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。PCR条件は以下のように設定した:94℃30秒で変性、1℃/秒で40℃に冷却、40℃4分でプライマーの低厳密性アニーリング、1℃/秒で72℃まで加熱、72℃1分で伸長を1回。この手順の後、高厳密性サイクルを39回行った:94℃30秒、1℃/秒で60℃に冷却、60℃2分、1℃/秒で72℃まで加熱、72℃で1分。最後のサイクルに72℃5分の1段階を付け加えた(PCRサイクラー:Multi Cycler PCT 200、MJ Research)。DNA添加緩衝液8μlをPCR産物調製物20μlに添加し、5分間変性し、ゲルに添加するまで氷上で保持した。それぞれ3.5μlを、厚さ0.4mm、6%アクリルアミド(Long Ranger)/尿素7Mの配列決定ゲルで、スラブゲルシステム(Hitach Genetic Systems)によって、2000V、60W、30mAで1時間40分分離した。電気泳動が完了した後、ゲルをFMBIO II蛍光スキャナー(Hitachi Genetic Systems)で、適切なFMBIO II Analysis 8.0ソフトウェアを使用して調べた。全範囲写真を印刷し、差異的に発現したバンドに印を付け、ゲルから切り出し、1.5ml容器に移し、滅菌水200μlを注ぎ、抽出するまで−20℃で保持した。
【0080】
DD産物の溶出及び再増幅:H2O200μl中で10分間煮沸し、氷上で冷却し、エタノール(Merck)及びグリコーゲン/酢酸ナトリウム(Merck)を−20℃で一晩使用することによって上清液から沈殿させ、その後4℃で13000rpmで25分間遠心することによって、異なるバンドをゲルから抽出した。ペレットを氷冷エタノール(80%)で2回洗浄し、10mM Tris pH8.3(Merck)に再懸濁し、0.025μm VSWP膜(Milipore)で10%グリセロール(Merck)に対して室温で1時間透析した。得られた調製物を鋳型として使用して、DD PCR(前記参照)で使用したような対応するプライマー対を含有するPCR混合物25μl中において、初回の94℃5分、その後94℃45秒、60℃45秒、1℃/秒で上昇させて70℃で45秒を15回、そして72℃5分1回の最終段階以外は同一条件下で、高厳密性サイクル15回によって増幅した。
【0081】
DD産物のクローニング及び配列決定:再増幅したcDNAをDNA LabChipシステム(Agilent 2100 Bioanalyzer、Agilent Technologies)で分析して、pCR−Blunt II−TOPOベクターに連結して、製造者の指示に従ってE.coli Top10F’細胞に形質転換した(Zero Blunt TOPO PCRクローニングキット、Invitrogen)。クローニングされたcDNA断片は市販の配列決定施設によって配列決定された。ATP2B1蛋白質をコードするATP2B遺伝子のこのような1FDD実験の結果を図1に示す。
【0082】
(iv)定量RT−PCRによる発現差異の確認。
【0083】
側頭皮質対前頭皮質及び海馬対前頭皮質における異なるATP2B1遺伝子発現の肯定的な裏付けは、LightCycler技術(Roche)を使用して実施した。この技術は、ポリメラーゼ連鎖反応の高速熱サイクリング並びに増幅中の蛍光シグナルのリアルタイム測定が特徴で、したがって、終点値よりも速度論を使用することによってRT−PCR産物の精度の高い測定が可能である。AD患者及び健康な同じ年齢の対照個体の側頭皮質、AD患者及び健康な同じ年齢の対照個体の前頭皮質、AD患者及び健康な同じ年齢の対照個体の海馬のATP2B1 cDNAの割合並びにAD患者及び健康な同じ年齢の対照個体の側頭皮質及び前頭皮質のATP2B1 cDNAの割合並びにAD患者及び健康な同じ年齢の対照個体の海馬及び前頭皮質のATP2B1 cDNAの割合それぞれを測定した(相対的定量)。
【0084】
前頭皮質組織(F)及び下側頭皮質組織(T)の間のATP2B1のmRNA発現プロファイリングは、Braak段階当たり4個から9個までの組織で分析した。Braak3の病状を有する提供者1名では品質の高い組織が欠如していたので、さらにBraak2の病状を有する提供者1名の組織を含め、Braak6の病状を有する提供者1名では品質の高い組織が欠如していたので、さらにBraak5の病状を有する提供者1名の組織試料を含めた。
【0085】
プロファイリング分析のために、2種類の一般的な取り組みを適用した。ADの生理学的状態におけるATP2B、ATP2B1それぞれの関係の複雑な概観に関与する、下側頭皮質に対する前頭皮質並びにAD患者に対する対照の両相対的プロファイリング研究を以下に詳細に示す。
【0086】
1)対照及びAD患者それぞれの前頭皮質組織及び下側頭皮質組織の間のmRNA発現の相対比較。この取り組みによって、同定した遺伝子ATP2B1が変性に対して脆弱性の低い組織(前頭皮質)の保護に関係するのか、又は脆弱性の高い組織(下側頭皮質)における変性過程に関係するか、若しくは増強するのかの確認が可能になった。
【0087】
まず、ATP2B1をコードする遺伝子の特異的プライマーを用いたPCRの効率を測定するために、標準曲線を作製した。
【0088】
プライマーA、配列番号5、5’−GATCACGCTGAAAGGGAGTTG−3’及びプライマーB、配列番号6、5’−TTAGAGCCCCCTGAATGGAAC−3’。
【0089】
PCR増幅(95℃1秒、56℃5秒、及び72℃5秒)を、LightCycler−FastStart DNA Master SYBR Green I mix(FastStart Taq DNAポリメラーゼ、反応緩衝液、dUTPの代わりにdUTPを含むdNTPmix、SYBR Green I色素及びMgCl 1mM、Rocheを含有する)、プライマー0.5μM、cDNA希釈系列(最終濃度、ヒト全脳cDNA、40、20、10、5、1及び0.5ng、Clontech)2μl、及び使用したプライマーに応じて、さらにMgCl 3mMを含有する20μl量中で実施した。融解曲線分析では、約84.3℃に単一ピークがあることが明らかで、プライマーの2量体は認められなかった。PCR産物の品質及び大きさは、DNA LabChipシステム(Agilent 2100 Bioanalyzer、Aglient Technologies)を使用して測定した。試料の電気泳動図では、ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の予測された大きさの124bpに単一のピークが認められた。
【0090】
定量用の参照標準物として選択した一連の参照遺伝子のPCR効率を測定するために、類似の方法でPCRプロトコールを適用した。本発明では、このような5種の参照遺伝子の平均値を測定した。(1)サイクロフィリンB、MgCl(3mMの代わりに1mMをさらに添加した)以外は特異的プライマー、配列番号7、5’−ACTGAAGCACTACGGGCCTG−3’及び配列番号8、5’−AGCCGTTGGTGTCITTGCC−3’を使用。融解曲線分析では、約87℃に単一ピークがあることが明らかで、プライマーの2量体は認められなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予測した大きさ(62bp)の1本の単一バンドを示した。(2)リボソーム蛋白質S9(RPS9)、特異的プライマー、配列番号9、5’−GGTCAAATTTACCCTGGCCA−3’及び配列番号10、5’−TCTCATCAAGCGTCAGCAGTTC−3’を使用(MgCl 3mMの代わりにさらに1mMを添加した)。融解曲線分析では、約85℃に単一ピークがあることが明らかで、プライマーの2量体は認められなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予測した大きさ(62bp)の1本の単一バンドを示した。(3)ベータアクチン、特異的プライマー、配列番号11、5’−TGGAACGGTGAAGGTGACA−3’及び配列番号12、5’−GGCAAGGGACTTCCTGTAA−3’を使用。融解曲線分析では、約87℃に単一ピークがあることが明らかで、プライマーの2量体は認められなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予測した大きさ(142bp)の1本の単一バンドを示した。(4)GAPDH、特異的プライマー、配列番号13、5’−CGTCATGGGTGTGAACCATG−3’及び配列番号14、5’−GCTAAGCAGπGGTGGTGCAG−3’を使用。融解曲線分析では、約83℃に単一ピークがあることが明らかで、プライマーの2量体は認められなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予測した大きさ(81bp)の1本の単一バンドを示した。(5)トランスフェリン受容体TRR、特異的プライマー、配列番号15、5’−GTCGCTGGTCAGTTCGTGATT−3’及び配列番号16、5’−AGCAGTTGGCTGTTGTACCTCTC−3’を使用。融解曲線分析では、約83℃に単一ピークがあることが明らかで、プライマーの2量体は認められなかった。PCR産物のアガロースゲル分析は、予測した大きさ(80bp)の1本の単一バンドを示した。
【0091】
値を計算するために、最初にcDNA濃度の対数をATP2B1蛋白質をコードする遺伝子及び5種の参照標準遺伝子のサイクル数閾値Cに対してプロットした。標準曲線の勾配及び切片(すなわち、直線回帰)を全遺伝子について計算した。第2段階で、AD患者及び健康な対照個体の前頭皮質からの、AD患者及び健康な対照個体の側頭皮質からの、AD患者及び健康な対照個体の海馬からのcDNA並びにAD患者及び健康な対照個体の前頭皮質及び側頭皮質からの、及びAD患者及び健康な対照個体の前頭皮質及び海馬のからのcDNAそれぞれを並行して分析し、シクロフィリンBに対して正規化した。C値を測定して、対応する標準曲線を使用して全脳cDNA ngに変換した。
【0092】
10∧((C値−切片)/勾配) [全脳cDNA ng]
側頭皮質及び前頭皮質ATP2B1 cDNAの値、海馬及び前頭皮質ATP2B1 cDNAの値、及びAD患者(P)及び対照個体(C)の前頭皮質ATP2B1 cDNAの値、及びAD患者(P)及び対照個体(C)の側頭皮質ATP2B1 cDNAの値それぞれは、サイクロフィリンBに対して正規化し、下式に従ってその比を計算した。
【0093】
【数1】

【0094】
第3段階では、各個体の脳試料について参照標準遺伝子の発現レベルの、対照者に対するAD患者の側頭皮質比、対照者に対するAD患者の前頭皮質比、及びAD患者及び対照者の前頭に対する側頭比及びAD患者及び対照者の前頭に対する海馬比それぞれの平均値の測定するために、並行して一連の参照標準遺伝子を分析した。サイクロフィリンBは段階2及び段階3で分析され、1遺伝子のもう1つの遺伝子に対する比が別の測定でも一定のままであったので、単一遺伝子のみを正規化する代わりに、一連の参照標準遺伝子の平均値に対してATP2B1蛋白質をコードする遺伝子の値を正規化することが可能である。この計算は、ハウスキーピング遺伝子の平均値からのサイクロフィリンBの偏差で、前記で示したそれぞれの比を除することによって、実施することができる。ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子のこのような定量的RT−PCR分析の結果を図2、3及び12、13に示す。
【0095】
2)対照とAD患者との間のmRNA発現の比較。
【0096】
この分析のために、異なる時点、異なる実験間のリアルタイム定量的PCR(Lightcycler法)の絶対値は、標準物質を使用しない定量的比較に使用するために十分一貫性があることがわかった。100種を上回る組織でのqPCR実験のいずれにおいても、サイクロフィリンを正規化のための標準物として使用した。その他の中でも、それは我々の正規化実験では最も一貫して発現したハウスキーピング遺伝子であることが分かった。したがって、サイクロフィリンで得られた値を使用することによって、概念の証明が実施された。
【0097】
第1の分析では、3種の異なる提供者の前頭皮質及び下側頭皮質のqPCR実験のサイクロフィリン値を使用した。各組織の同一のcDNA調製物を分析実験全てにおいて使用した。この分析内では、データが小数であるので、値の正規分布は実現しなかった。したがって、中央値及び98%信頼度の方法を適用した。この分析によって、絶対値比較用の中央値では8.7%の中程度の偏差があり、相対値比較用の中央値では6.6%の中程度の偏差があることが明らかになった。
【0098】
第2の分析では、2種の異なる提供者それぞれの前頭皮質及び下側頭皮質組織のqPCR実験のサイクロフィリン値を使用したが、様々な時点の様々なcDNA調製物を使用した。この分析によって、絶対値比較用の中央値では29.2%の中程度の偏差があり、相対比較用の中央値では17.6%の中程度の偏差があることが明らかになった。この分析から、qPCR実験の絶対値は使用することはできるが、中央値での中程度の偏差はさらに考慮すべきであると結論づけられた。ATP2B1の絶対値の詳細な分析を実施した。したがって、ATP2B1の絶対レベルは、サイクロフィリンによる相対的正規化の後に使用された。中央値並びに98%信頼度は、対照群(Braak0〜Braak3)及び患者群(Braak4〜Braak6)それぞれについて計算された。同様の分析を実施して、対照群(Braak0〜Braak2)及び患者群(Braak3〜Braak6)を再評価し、対照群(Braak0〜Braak1)及び患者群(Braak2〜Braak6)を再評価した。後者の分析は、対照とAD患者との間のmRNA発現差の早期開始を確認することが目的であった。この分析を他の観点から考える場合、遺伝子発現制御の傾向並びに差の早期開始を確認するために、Braak段階0〜1、Braak段階2〜3及びBraak段階4〜5を含む3種の群それぞれを互いに比較した。前述した前記分析を図4に示す。
【0099】
(v)免疫組織化学
ヒト脳におけるATP2B1の免疫蛍光染色では、様々なBraak段階のアルツハイマー病であることが臨床的に診断され、神経病理学的に裏付けられた患者並びに同じ年齢のアルツハイマーではない対照個体を含む提供者の死後の新鮮な凍結前頭及び側頭前脳標本を、クリオスタット(Leica CM3050S)を使用して厚さ14μmに切断した。この組織切片を室温で空気乾燥し、アセトンで10分間固定した。PBSで洗浄後、この切片をブロッキング緩衝液(正常ウマ血清10%、Triton X−100 0.2%、TBS溶液)で30分間予備インキュベートして、次に抗ATP2B1ヤギポリクローナル抗血清(ブロッキング緩衝液で1:8に希釈、Santa Cruz、sc−16488)で4℃で一晩インキュベートした。0.1% Triton X−100/PBSで3回洗浄した後、この切片をFITC結合ロバ抗ヤギIgG抗血清(Dianova、705−096−147、1%BSA/PBSで1:150に希釈)で室温で2時間インキュベートし、次いでPBSで再度洗浄した。ニューロン細胞の染色は、ニューロン特異的マーカーNeuNに対するマウスモノクローナル抗体(Chemicon、MAB377、1:200に希釈)及びCy3結合ロバ抗マウス第2抗体(Dianova、115−166−150、1:600に希釈)を使用して前述のように実施した。核染色は、この切片をPBSに溶かしたDAPI 5μMで3分間インキュベートすることによって実施した。ヒト脳におけるリポフスチンの自己蛍光を阻止するために、この切片を70%エタノールに溶かしたSudan Black B 1%で室温で2〜10分間処理し、次いで70%エタノール、蒸留水及びPBSに次々と浸漬した。この切片に「Vectashield」封入剤(Vector Laboratories、Burlingame、CA)によってカバーガラスで覆った。暗視野落射蛍光及び明視野位相差照明条件を使用して顕微鏡画像を得た(IX81、Plympus Optical)。顕微鏡画像は、PCO SensiCamでデジタル撮影して、適切なソフトウェア(AnalySiS、Olympus Optical)(図14及び15参照)を使用して分析した。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】蛍光ディファレンシャルディスプレイスクリーニングにおいて、ATP2B1蛋白質をコードする遺伝子、ATP2B1の発現差異の初期の同定を示した図である。
【図2】定量RT−PCR分析を用いたAD脳組織におけるATP2B1をコードするATP2B1遺伝子の発現差異の証拠を示した図である。
【図3】定量RT−PCR分析を用いたAD脳組織におけるATP2B1をコードするATP2B1遺伝子の発現差異の証拠を示した図である。
【図4】98%信頼度での中央値の統計学的方法を使用して、対照とAD期を比較することによって、ATP2B1の絶対的mRNA発現の分析を示した図である。
【図5】配列番号1、ATP2B蛋白質ATP2B1のアミノ酸配列を示した図である。
【図6−1】配列番号2、ゲノムデータベースmRNA及びEST(図10)から構築された、5178個のヌクレオチドを含むヒトATP2B1 cDNAのヌクレオチド配列を示した図である。
【図6−2】配列番号2、ゲノムデータベースmRNA及びEST(図10)から構築された、5178個のヌクレオチドを含むヒトATP2B1 cDNAのヌクレオチド配列を示した図である。
【図6−3】配列番号2、ゲノムデータベースmRNA及びEST(図10)から構築された、5178個のヌクレオチドを含むヒトATP2B1 cDNAのヌクレオチド配列を示した図である。
【図7】配列番号3、ディファレンシャルディスプレイ及びその後のクローニングによって同定され、得られたATP2B1 cDNA断片644bpのヌクレオチド配列(5’から3’方向の配列)を示した図である。
【図8−1】配列番号4のヌクレオチド配列、3351個のヌクレオチドを含み、配列番号2のヌクレオチド182から3712を有するヒトATP2B1遺伝子のコーディング配列(cds)を示した図である。
【図8−2】配列番号4のヌクレオチド配列、3351個のヌクレオチドを含み、配列番号2のヌクレオチド182から3712を有するヒトATP2B1遺伝子のコーディング配列(cds)を示した図である。
【図9】配列番号3の640塩基対に対するヒトATP2B1 cDNAのヌクレオチド配列、配列番号2の配列整列の概略を示した図である。
【図10】配列番号2及びゲノムデータベース配列断片からのATP2B1のコーディング配列(cds)の整列の概略図である。
【図11】ATP2B1をコードするcDNA配列、配列番号2、同定されたcDNA断片配列、配列番号3、ATP2B1転写レベルプロファイリングに使用した両プライマー配列(プライマーA、プライマーB)及びATP2B1のコーディング配列(cds)、配列番号4の整列を示した概略図である。配列位置は、右側に示す。
【図12】本明細書では内部参照番号P010、P011、P012、P014、P016、P017、P019、P038、P040、P041、P042、P046、P047、P048、P049によって識別したAD患者15人及び本明細書では内部参照番号C005、C008、C011、C012、C014、C025、C026、C027、C029、C030、C031、C032、C033、C034、C035、C036、C038、C039、C041、C042、DE02、DE03、DE05、DE07で識別した同じ年齢の対照固体25人の前頭皮質に対する側頭皮質におけるATP2B1遺伝子発現レベルを示した図である。
【図13】本明細書では内部参照番号P010、P011、P012、P014、P016、P019(0.16から0.70倍)で識別したAD患者6人及び本明細書では内部参照番号C004、C008(0.58から0.80倍)で識別した健康な、同じ年齢の対照固体2人の、ATP2B1をコードするATP2B遺伝子について、前頭皮質に対する海馬での遺伝子発現レベルを示した図である。
【図14】ヤギポリクローナル抗ATP2B1(抗PMCA1)抗血清(緑色のシグナル)(拡大率10×)で免疫標識した対照供与者(対照T)及びアルツハイマー患者(患者T)の下側頭回の画分でデジタル撮影した顕微鏡写真を例示した図である(倍率10×)。
【図15】ヤギポリクローナル抗ATP2B1(抗PMCA1)抗血清(緑色のシグナル)で免疫標識した対照提供者(対照F)及びアルツハイマー患者(患者F)の前頭皮質の画分からデジタル撮影した顕微鏡写真を例示した図である(倍率10×)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるアルツハイマー病を診断又は予測するか、或いは前記対象が前記疾患を発症する危険性が増大しているかどうかを測定するか、或いは前記疾患を有する対象に施す治療の効果をモニターする方法であって、
前記対象から得られた試料中における
(i)配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼをコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(ii)配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼをコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iii)前記転写産物又は翻訳産物の断片、又は誘導体、又は変種
のレベル及び/又は活性を測定すること、及び前記レベル及び/又は前記活性を公知の疾患状態を表す参照値、及び/又は公知の健康状態を表す参照値と比較すること、及び前記レベル及び/又は前記活性が公知の健康状態を表す参照値と比較して変化しており、及び/又は公知の疾患状態を表す参照値と同じか又は等しい場合、それによって前記対象におけるアルツハイマー病を診断又は予測すること、又は前記対象が前記疾患を発症する危険性が増大しているかどうかを決定することを含む、方法。
【請求項2】
(i)配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼをコードする遺伝子の転写産物、及び/又はその断片、誘導体、又は変種を検出する試薬、及び/又は(ii)配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼをコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又はその断片、誘導体、若しくは変種を検出する試薬からなる群から選択された少なくとも1種の試薬を含む、アルツハイマー病を診断若しくは予測するため、又は対象がこのような疾患を発症する素因を決定するため、又はアルツハイマー病を有する対象に施した治療の効果をモニターするためのキットの請求項1に記載の方法における使用。
【請求項3】
配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼをコードする非天然遺伝子配列又はその断片、誘導体、又は変種を含む組換え非ヒト動物であって、前記動物は
(i)前記遺伝子配列及び選択可能なマーカー配列を含む遺伝子標的構築物を提供すること、及び
(ii)前記標的構築物を非ヒト動物の幹細胞に導入すること、及び
(iii)前記非ヒト動物幹細胞を非ヒト胚に導入すること、及び
(iv)前記胚を偽妊娠非ヒト動物に移植すること、及び
(v)前記胚を出産予定日まで成長させること、及び
(vi)ゲノムの両対立遺伝子に前記遺伝子配列の変更を含む遺伝子改変非ヒト動物を同定すること、及び
(vii)ゲノムが前記内在性遺伝子の変更を含む遺伝子改変非ヒト動物を得るために段階(vi)の遺伝子改変非ヒト動物を飼育すること、この場合前記破壊が前記非ヒト動物に、徴候及び症状がアルツハイマー病に関連している神経変性疾患の徴候及び症状を発症する素因を示す結果をもたらす、
によって得ることができる組換非ヒト動物。
【請求項4】
アルツハイマー病の治療に有用な診断薬及び治療薬の開発において、化合物、薬剤及び調節剤をスクリーニング、試験及び評価するための非ヒト試験動物及び/又は対照動物としての請求項3に記載の組換え非ヒト動物の使用。
【請求項5】
(i)配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼをコードする遺伝子、及び/又は
(ii)配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼをコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼをコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)から(iii)の断片、又は誘導体、又は変種
からなる群から選択された1種以上の物質の発現又はレベル又は活性を改変する能力を有する、アルツハイマー病又は関連疾患の治療に使用するための薬剤、調節剤又は選択的アンタゴニスト又はアゴニストを同定するためのスクリーニング方法であって、
前記方法が、
(a)試験化合物と細胞を接触させる段階と、
(b)(i)から(iv)で列挙した1種以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する段階と、
(c)前記試験化合物と接触していない対照細胞において、(i)から(iv)で列挙した1種以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する段階と、
を含み、ならびに
段階(b)及び(c)の細胞における物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現を比較する段階とを含み、この場合接触した細胞における物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の改変が、試験化合物がアルツハイマー病又は関連疾患の治療で使用するための薬剤、調節剤又は選択的アンタゴニスト又はアゴニストであることを示唆する、スクリーニング方法。
【請求項6】
(i)配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼをコードする前記遺伝子、及び/又は
(ii)配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼをコードする前記遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼをコードする前記遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)から(iii)の断片、又は誘導体、又は変種
からなる群から選択された1種以上の物質の発現又はレベル又は活性を改変する能力を有する、アルツハイマー病又は関連疾患の治療に使用するための薬剤、調節剤又は選択的アンタゴニスト又はアゴニストを同定するためのスクリーニング方法であって、
前記方法が、
(a)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の徴候を発症しやすい、又は既に発症している非ヒト試験動物に試験化合物を投与する段階と、
(b)(i)から(iv)で列挙した1種以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する段階と、
(c)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の徴候を発症しやすい、又は既に発症しており、このような試験化合物を投与されていない非ヒト対照動物において、(i)から(iv)で列挙した1種以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定する段階と、
(d)段階(b)及び(c)の動物における物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を比較する段階とを含み、この場合非ヒト試験動物における物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の改変が、試験化合物がアルツハイマー病又は関連疾患の治療で使用するための薬剤、調節剤又は選択的アンタゴニスト又はアゴニストであることを示唆する、スクリーニング方法。
【請求項7】
前記非ヒト試験動物及び/又は前記非ヒト対照動物が、天然の形質膜カルシウムATPアーゼ遺伝子転写制御因子ではない転写制御因子の制御下で、配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼ又はその断片、又は誘導体、又は変種を発現する組換え動物である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼ、又はその断片、又は誘導体、又は変種に対する前記化合物の前記結合を測定するために化合物を試験するための、好ましくは複数の化合物をスクリーニングするための方法であって、前記方法が
(i)前記形質膜カルシウムATPアーゼ、又はそれらの断片、又は誘導体、又は変種の液体懸濁液を複数の容器に添加する段階と、
(ii)結合についてスクリーニングすべき、検出可能な、特に蛍光標識された化合物以上の検出可能な、特に蛍光標識された化合物類を前記複数の容器に添加する段階と、
(iii)前記形質膜カルシウムATPアーゼ、又はそれらの前記断片、又は誘導体又は変種を前記検出可能な、特に蛍光標識された化合物又は検出可能な、特に蛍光標識された化合物類と共にインキュベートする段階と、
(iv)前記形質膜カルシウムATPアーゼ、又はそれらの前記断片、又は誘導体、又は変種に関連した好ましくは蛍光の量を測定する段階と、及び
(v)前記形質膜カルシウムATPアーゼ、又はそれらの前記断片、又は誘導体、又は変種に対する1種以上の前記化合物による結合を測定する段階とを含む、方法。
【請求項9】
アルツハイマー病を検出するための診断標的としての、形質膜カルシウムATPアーゼをコードする遺伝子の翻訳産物、又はその断片、又は誘導体、又は変種である、配列番号1の蛋白質分子の使用。
【請求項10】
アルツハイマー病を予防、又は治療、又は改善するための試薬又は化合物のスクリーニング標的としての、形質膜カルシウムATPアーゼをコードする遺伝子の翻訳産物、又はその断片、又は誘導体、又は変種である、配列番号1の蛋白質分子の使用。
【請求項11】
対象から得られた試料における細胞の病理学的状態を検出するための、配列番号1を有する形質膜カルシウムATPアーゼの蛋白質分子、又はその断片、又は誘導体、又は変種と特異的に免疫反応する抗体の使用であって、前記抗体による前記細胞の免疫細胞化学的染色を含み、この場合公知の健康状態を表す細胞と比較して、前記細胞における染色程度の変化、又は染色パターンの変化がアルツハイマー病に関連した前記細胞の病理学的状態を示す、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2008−508893(P2008−508893A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525296(P2007−525296)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【国際出願番号】PCT/EP2005/053896
【国際公開番号】WO2006/015976
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(506375738)エボテツク・ニユーロサイエンシーズ・ゲー・エム・ベー・ハー (5)
【Fターム(参考)】