説明

後続の塗膜および該当する塗工済み基材に対し良好な接着特性を持つ光硬化性アクリル樹脂塗膜組成物

耐摩耗性光硬化アクリル樹脂塗膜でその上に堆積される塗膜に対し良好な接着性をもたらし、さらに耐摩耗性アクリル樹脂塗膜組成物から得られる塗膜を塗工した基材を含み後続の良好な接着性を備えたハードコートされた物品、とりわけ眼鏡レンズのような光学物品をもたらすことができる、耐摩耗性光硬化アクリル樹脂塗膜。前記組成物は適切な量の少なくとも1つの化合物で5から7つのアクリル基を持つもの、少なくとも1つの化合物で3から4つのアクリレート基を持つもの、少なくとも1つの化合物で2つのアクリレート基を持つもの、少なくとも1つのジエポキシ化合物、少なくとも1つのエポキシシランの加水分解物、および少なくとも1つの非重合性エーテル化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はその上に堆積される後続の塗膜に対し良好な接着特性をもたらす耐摩耗性光硬化アクリル樹脂塗膜組成物、およびとりわけ眼鏡レンズのような光学物品で上の耐摩耗性アクリル樹脂塗膜組成物から得られる塗膜を塗布された基材を含むハードコートされた物品に関係する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズのようなレンズ基材の少なくとも1つの主表面に幾つかの塗膜を塗布することによりレンズに付加的または改善された光学的または機械的特性を与えることは技術的には一般的なことである。これらの塗膜は通常機能性塗膜と称せられる。
【0003】
かくして、通常は有機材料でできたレンズ基材の少なくとも一方の主表面にレンズ基材面から始めて、耐摩耗および/または耐スクラッチ塗膜(ハードコート)、反射防止塗膜および汚れ防止トップコートを塗工するのは常套手段である。
【0004】
耐摩耗および/または耐スクラッチ塗膜の上に堆積される塗膜は、それがどの様な堆積方法であれ、良好な接着性を持っていなくてはならない。
技術的には、光硬化性アクリル樹脂塗膜、とりわけ耐摩耗性塗膜として用いられるUV硬化アクリル樹脂塗膜がよく知られている。
一般的にアクリル塗膜の興味ある点は短時間で重合が可能であるということである。
【0005】
しかしながら、これらUV硬化性アクリル樹脂塗膜に関連する問題点はその上に堆積される後続塗膜との良好な接着を得ることが難しいことである。
この問題はとりわけ後続塗膜がスピンまたはディップコートにより塗工されるゾル/ゲル反射防止塗膜組成物である場合には致命的である。
【0006】
現在市販されているUV硬化性塗膜は濡れ特性において良から非常に劣るまでの範囲におよび、このため後続塗膜が塗工される前に何らかの表面処理が用いられない限りその表面にスピンコートされた塗膜に対しては劣悪な接着性を示してしまう。
アクリル樹脂塗膜は周知されている。例えば、米国特許 US6100313には良好な着色性および耐摩耗性を同時に備えるUV硬化耐摩耗性塗膜組成物が記載されている。
【0007】
この特許において記載される塗膜組成物は揮発性物質をほとんど含まずかつエポキシ官能性アルコキシシラン、グリシジルエーテル類, アリルエーテル類, およびビニルエーテル類から成る群から選択された重合性エーテルおよび前記の重合性エーテルとは別の、エチレン性不飽和モノマーの加水分解生成物を固形主成分の重量で少なくとも10%含む。
【0008】
米国特許US6780232およびUS7037585でもエポキシ官能性アルコキシシランの加水分解生成物、加水分解されていないエポキシ官能性アルコキシシラン、エチレン基的に不飽和なモノマーを含む類似のUV硬化塗膜組成物が記載されている。エチレン性不飽和モノマーは通常アクリレートモノマーである。必要とされるアクリレートには 2を超えないアクリレート官能基がある。
【0009】
これらの特許に提起されている技術的問題点の主なものは着色性のハードコートを得ることである。
後続して塗工される塗膜の接着問題につながる特定の具体的な問題には言及していない。
したがってこの様な問題点を解決できる光硬化性の、好ましくはUV硬化性の耐摩耗性組成物が未だに必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第1の目的は光硬化性の、好ましくはUV硬化性の耐摩耗性塗膜組成物で良好な耐摩耗性および広範の基材に対してその前処理の有無に拘わらず、とりわけPC素材(LexanTM タイプのようなビスフェノールAのポリカーボネート)に対して接着性を持つものを提供することである。
【0011】
本発明の第2の目的は一旦硬化するとその上に堆積される後続の塗膜に対し、さらにはとりわけゾル/ゲル反射防止塗膜を含むゾル/ゲル塗膜に対して石鹸洗い、苛性処理、コロナまたはプラズマによる前処理のような追加的な前処理段階を必要とせずに良好な接着性をもたらす光硬化性の、好ましくはUV硬化性の耐摩耗性塗膜組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の目的の少なくとも1つを達成するために、発明者は特定のアクリレート、エポキシ化合物、加水分解シラノール類、および非重合性エーテル化合物を組合せかつこれらそれぞれの量を慎重に調整することにより特定の組成物を見いだした。
【0013】
この塗膜組成物は次のものを含む:
− 5から7つのアクリレート基を持ち、重量で15から30部の少なくとも1つのモノマー化合物A;
− 3から4つのアクリレート基を持つモノマーまたはオリゴマーから選択され、重量で7から20部の少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマー化合物A’;
− 2つのアクリレート基を持ち、重量で10から25部の少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマー化合物A”;
− 少なくとも2つのエポキシ基を持ちかつ加水分解性基または水酸基を持つケイ素原子を全く含まない、重量で2から10部の少なくとも1つの化合物B;
− 加水分解によりシラノール基を生じる官能基を2から6つ持っている、重量で1から 7部のエポキシシランの加水分解物C;
− 重量で20から60部の少なくとも1つの非重合性エーテル化合物D;
− 有効量のカチオン重合光開始剤;
− 有効量のラジカル重合開始剤。
本発明はさらにその上に上記の組成物を塗布し硬化して得ることができた硬化した耐摩耗塗膜を備えた透明な基材を含む物品に関係する。
【0014】
本発明はさらに本発明による硬化耐摩耗性塗膜およびその上に堆積された少なくとも1つの後続塗膜を持つ物品に関係する。
【0015】
本発明の他の目的、機能および長所は以下の詳細な記述により明らかになる。しかしながら、詳細な記述および特定の実施例は本発明の特定の実施態様を示す一方で実例としてのみ提示されているものであることは、この詳細な記述から本発明の精神と範囲内で種々の変更および修正が当業者には明らかになることから当然である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
用語「備える」(”comprise”もしくは“comprises”および“comprising”のような全ての文法的な変形)、「持つ」(”have”もしくは“has”および“haveing”のような全ての文法的な変形)、「包含する」(”contain”もしくは“contains”および“containing”のような全ての文法的な変形)、「含む」(”include”もしくは“includes”および“including”のような全ての文法的な変形)は制約のない関連した動詞である。これらは記載された特徴、整数、手順またはその要素またはグループを規定するために用いられるが、追加的な1つ以上の特徴、整数、手順またはその要素またはグループを排除するものではない。結果として、1つ以上の手順または要素を「備える」、「持つ」、「包含する」または「含む」方法、または方法の手順はこれらの1つ以上の手順または要素を所有するが、これらの1つ以上の手順または要素のみを所有することに限定されない。
【0017】
別途指示がない限り、原料、反応条件、その他の量に言及してここに用いられている数または表現は全ての場合に用語「約」で修飾されているものと解釈されるべきである。
ここに、用語「レンズ」は有機または無機ガラスレンズを意味し、1つ以上の種々の性質の塗膜を塗布されている場合のレンズ基材を含む。
【0018】
光学物品が1つ以上の表面塗膜を備える場合、「光学物品の上に層を堆積する」という表現は層が光学物品の最外側塗膜上に堆積されることを意味する。
「アクリレート」という用語はメタクリレート化合物を包含しない。
【0019】
本発明による耐摩耗性UV硬化塗膜組成物は以下に定義するモノマー類 A、A’、A”、B、C および D の混合物を含みかつ好ましくはこれらから成り、以下のそれぞれの量で用いられる:
− 5から7つのアクリレート基を持ち、重量で15から30部の少なくとも1つのモノマー化合物 A;
− 3から 4つのアクリレート基を持つモノマーまたはオリゴマーから選択され、重量で7から20部の少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマー化合物 A’;
− 2つのアクリレート基を持ち、重量で10から25部の少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマー化合物A”;
− 少なくとも2つのエポキシ基を持ちかつ加水分解性基または水酸基を持つケイ素原子を全く含まない、重量で2から10部の少なくとも1つの化合物B;
− 加水分解によりシラノール基を生じる官能基を2から6つ持っているエポキシシランの加水分解物で、重量で1から7部の化合物C;
− 重量で20から60部の少なくとも1つの非重合性エーテル化合物D;
− 有効量のカチオン重合光開始剤;
− 有効量のラジカル重合開始剤。
【0020】
UV硬化耐摩耗性塗膜組成物は重量で15から30部のアクリレート基を5から7つ持つ少なくとも1つのモノマー化合物Aを含む。
モノマー化合物 Aは5官能基アクリレート類、6官能基アクリレート類、7官能基アクリレート類から選択できる。
化合物Aは5つのアクリレート基を持つことが好ましい。
この様なモノマー類の例は:ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ペンタアクリレートエステル類である。
【0021】
UV硬化耐摩耗性塗膜は重量で7から20部の3から4つのアクリレート基を持つ少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマー化合物A’を含む。
3官能基アクリレートの例としては次のものがある:トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート。
【0022】
4官能基アクリレート類の例としては次のものがある:ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート。
発明者は化合物AおよびA’が主張する比率で共存することによりひび割れが限定的(または皆無)である傾向と共に耐摩耗性が良好な硬化した塗膜組成物が得られることを見いだした。
【0023】
塗膜組成物に化合物A が多すぎると、すなわち重量で30部より多ければ、できた硬化塗膜はひび割れを被りやすく、このことは塗膜組成物内の化合物A’が重量で7部未満の場合でも同様である。化合物A’は3および4官能基アクリレート類の混合物を含むことが好ましい。
化合物A’は3および4官能基アクリレート類の混合物から成ることがより好ましい。
3および4官能基アクリレート類は同比率で用いられることが好ましい。通常化合物A’はペンタエリスリトールのトリおよびテトラアクリレート類の混合物である。
【0024】
UV硬化耐摩耗性塗膜組成物は重量で10から25部、好ましくは18から22部の2つのアクリレート基を持つオリゴマーまたはモノマー化合物A”を含む。2官能基アクリレート類の代表的な例は1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレートである。
【0025】
化合物A”は少なくとも 1つのポリオキシアルキレングリコールジアクリレートを含むことが好ましい。
化合物A”はすなわち特性を調整するための反応性希釈剤として用いられる。
これらの粘性は低いが、架橋性能が化合物AおよびA’に比べて低いことにより耐摩耗特性を下げる可能性がある。これらは上で要求された範囲内の、低い濃度で用いることが勧められている。
化合物A”はある程度まで、最終的な耐摩耗性硬化塗膜に着色性をもたらすことに寄与することが見いだされている。
【0026】
追加的なモノマー類、例えばモノアクリレート化合物を加える場合もあるが、硬化性組成物の耐摩耗特性を減少させないために少量である。塗膜組成物はモノアクリレート化合物を組成物の全重量に対し重量で 5%未満しか含まないことが好ましく、重量で 2%未満がより好ましく、0%がさらに良い。
【0027】
使用できる単官能基アクリレート類の例には次のものがある:2−エトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、イソボルニルアクリレート、ラウリルアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート。
本発明による組成物に用いられるエポキシ化合物 Bは少なくとも2つのエポキシ基を含む化合物である。
これらは4つを超えて含まないことが好ましく、3つのエポキシ基を超えないことがよりよく、2つのエポキシ基を超えない、すなわち2つだけのエポキシ基であることがなおよりよい。
【0028】
エポキシ基を持つ化合物の具体的な例にはビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラック型エポキシ樹脂類、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリスフェノールメタントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルが含まれる。
【0029】
脂環式エポキシ基を持つ化合物の具体的な例には 2,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジピン酸、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサノン−メタ−ジオキサン、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、および EHPE−3150(DAICEL CHEMIALC INDUSTRIES社製造による脂環式エポキシ樹脂)、ビスフェノールF エポキシ(Ciba−Geigy社によるPY306、GY281)、エポキシフェノールノボラック(Ciba−Geigy社によるPY307)、脂環式ジエポキシカルボキシレート(Ciba−Geigy社によるCY−179)、3,4 エポキシシクロヘキシルメチル−3,4 エポキシシクロヘキサン カルボン酸塩(Union Carbide社のUVR−6105およびUVR6110)、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジピン酸塩(Union Carbide社のUVR−6128)が含まれる。
【0030】
エポキシ化合物Bの量は耐摩耗塗膜組成物内の重量で2から10部の範囲で、重量で2から5部が好ましい。
化合物Bはエポキシ基以外には組成物内に存在する他の重合可能な官能基および塗膜のポリマーマトリックスに連結しているそれと反応できる他の反応性官能基を含まないことが好ましい。換言すれば、好適なエポキシ化合物Bは「純粋な」エポキシ化合物類である。
【0031】
化合物A、A’、A”およびBはこれらそれぞれが表す重合性官能基以外には組成物内に存在する他の重合性官能基と反応できる付加的な反応性官能基を持たないことが好ましい。
耐摩耗性硬化組成物は重量で1から7部の化合物Cを含みこれは以降で記述するように特定のエポキシシランの加水分解物である。
エポキシシランは加水分解物の形を取っているにも拘わらず、エポキシシランの量は慣例的にこれが加水分解する前の初期の前駆物質(通常はエポキシアルコキシシラン)の重量として定義される。
【0032】
本発明の塗膜組成物に使用されるエポキシシラン(類)には2から6つの官能基があり加水分解によりシラノール基を生じる。
前記エポキシシランは次の化学式を持つことが好ましい:
【化1】

ここにR基類は、同一または異なる場合があるが、炭素原子によりSi原子に連結した1価の有機基でさらに少なくとも1つの、好ましくは1つのエポキシ官能基を含む;X基類は、同一または異なる場合があるが、加水分解性の基である;Y はエポキシ基を含まない1価の有機基でかつ炭素原子によりSi原子に連結している;nおよびmはn=1または2、かつn+m=1または2となるような整数である。
【0033】
好適なR基類は次のような化学式VおよびVIを持つ:
【化2】

ここにRはアルキル基で、メチル基または水素原子が好ましく、水素原子がより好ましい;aおよびcは1から6の範囲の整数でさらにbは0、1または2を表す。
最も好適なエポキシシラン類は化学式Iにおいて、n=1、m=0およびXがC〜Cのアルコキシ基、好ましくはOCHのものである。
【0034】
多くのエポキシ官能基アルコキシシラン類が加水分解前駆物質として好適で、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−メチル−ジイソプロペノキシシラン、および γ−グリシドキシエトキシプロピルメチルジメトキシシランのようなエポキシジアルコキシシラン類;グリシドキシメチル−トリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチル−トリプロポキシシラン、グリシドキシメチル−トリブトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチル−トリプロポキシシラン、β−グリシドキシエチル−トリブトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン,α−グリシドキシエチル−トリエトキシシラン、α−グリシドキシエチル−トリプロポキシシラン、α−グリシドキシエチルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−トリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−トリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、β−グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピル−トリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピル−トリプロポキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、α−グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピル−トリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピル−トリプロポキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシブチル−トリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチル−トリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチル−トリプロポキシシラン、δ−グリシドキシブチル−トリブトキシシラン、δ−グリシドキシブチル−トリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチル−トリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチル−トリプロポキシシラン、γ−プロポキシブチル−トリブトキシシラン、δ−グリシドキシブチル−トリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチル−トリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチル−トリプロポキシシラン、α−グリシドキシブチル−トリメトキシシラン、α−グリシドキシブチル−トリエトキシシラン、α−グリシドキシブチル−トリプロポキシシラン、α−グリシドキシブチル−トリブトキシシラン、(3、4−エポキシシクロヘキシル)−メチル−トリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−トリエトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−トリプロポキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)−メチル−トリブトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル−トリエトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル−トリエトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル−トリプロポキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチル−トリブトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピル−トリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピル−トリエトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピル−トリプロポキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピル−トリブトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチル−トリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシ)ブチル−トリエトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)−ブチル−トリプロポキシシラン、および(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチル−トリブトキシシラン、のようなエポキシトリアルコキシシランが含まれる。
【0035】
エポキシシラン類は γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランおよび 2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランから成る群またはこれら2つ以上の混合物の内から選択されることが好ましい。
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)が好んで使用される。
【0036】
この発明の1つの態様によると、加水分解によりシラノール基を発生する2から6つの官能基を持つエポキシシランは組成物の他の成分に混合される前に加水分解される。
加水分解は技術的に知られているように、水の存在下で酸性触媒(塩酸、酢酸)を使用して実施される。
【0037】
アルコキシ基の加水分解により結合していたアルコールを遊離してシラノール基を形成しこれは自然に凝縮する。アルコキシシランは化学量論量の水と反応して加水分解性の基、通常はアルコキシ基を加水分解することが好ましい。
【0038】
耐摩耗性硬化組成物は重量で 20から 60部の非重合性エーテル化合物D を含む。
非重合性エーテル化合物はアルコールエーテル化合物であることが好ましい。
アルコールエーテル化合物は少なくとも1つのグリコールエーテルを含む。
【0039】
グリコールエーテルの少なくとも1つは1−メトキシ−2−プロパノールおよび 2−メトキシ−1−プロパノールの混合物を含むことが好ましい。これらの化合物はDowanol PMTMの名称でDow Chemical社から市販されている。一般にグリコールエーテル類は低い表面張力を示す。
化合物Dは基材および後に塗布される塗膜に対する接着性の改善に寄与することが見いだされている。
【0040】
本発明による光硬化耐摩耗性塗膜組成物は少なくとも1つのカチオン重合光開始剤を含む。「カチオン重合光開始剤」とは適切な放射線により照射された際にカチオン重合を引き起こすことができる光開始剤を意味する。
【0041】
カチオン光開始剤の例にはジアゾニウム塩、スルホニウム塩およびヨードニウム塩のようなオニウム塩類が含まれる。芳香族オニウム塩がとりわけ好まれる。同様に好まれるのはフェロセン誘導体のような鉄−アレーン錯体、およびアリールシラノール−アルミニウム錯体および類似のものである。
【0042】
市販されているカチオン光開始剤の例にはCYRACURE UVI−6970、CYRACURETM UVI−6974、およびCYRACURETM UVI−6990(それぞれは米国Dow Chemical社により製造)、IRGACURETM 264(Ciba Specialty Chemicals社により製造)、およびCIT−1682(日本曹達により製造)がある。
【0043】
UV硬化耐摩耗性塗膜組成物内のカチオン光開始剤の量(固形成分として)は重量で通常約0.01から約15%の範囲で、重量で0.1から5%が好ましい(組成物中のエポキシ基を含むモノマーの重量に対し)。
カチオン光開始剤に加え、ハードコート組成物もまた1つ以上のラジカル開始剤を含み、1つ以上のラジカル光開始剤であることが好ましい。
【0044】
この様なラジカル光開始剤の例にはDAROCURE 1173、IRGACURE 184、IRGACURE 500、IRGACURE 651、IRGACURE 819 および IRGACURE 907(それぞれはCiba Specialty Chemicals 社により製造)が含まれる。ハードコート剤組成物内のラジカル光開始剤の量(固形成分として)はエチレンとして不飽和のモノマー類、とりわけアクリレートモノマーの重量に対し、例えば重量で約0.5から約5%の範囲である。
【0045】
耐摩耗性塗膜組成物は染料、界面活性剤のような追加的な添加物を含む場合もある。
好適な界面活性剤の1つはモノカルビノール端末のポリジメチルシロキサンで、これは1次加水分解基を含みUV硬化耐摩耗性塗膜組成物および塗布される全ての後続塗膜の両方のエポキシ類およびシラノールと反応して最高の塗膜間接着を得る。
【0046】
界面活性剤の例としては商品名SilwetTMとして市販されているものがある。
部分重合を達成するために使用されるカチオン重合開始剤は、好ましくはUV照射により光活性化される。
通常、重合を達成するためにハードコートに加えられるエネルギーは2.65から3.05J/cmの範囲である(紫外線−B)。
【0047】
照射は一般に5秒から30秒の範囲の時間の間加えられ、15から18秒が好ましい。
硬化塗膜の厚みは必要とされる特定用途に適合されるが2から20ミクロンの範囲が好ましく、5μmから15μmがより好ましく、8から10ミクロンがさらに良く、一般的には8.5から9.5μmである。
【0048】
本発明によるUV硬化耐摩耗性塗膜組成物を表面に塗布される基材は無機ガラスまたは有機ガラス製の場合があるが、有機ガラスが好ましい。有機ガラス基材は現在有機眼鏡レンズに使用されているどの様な材料でもよく、例えば、熱可塑性ポリカーボネート類およびポリウレタン類のような熱可塑性材料でも、または熱硬化性(架橋した)材料の:直鎖または枝分かれした脂肪族または芳香族のポリオール類のアリルカルボネート類のようなアリル誘導体を重合して得られるエチレングリコールビス(炭酸アリル)、ジエチレングリコールビス(炭酸2−メチル)、ジエチレングリコールビス(炭酸アリル)、エチレングリコールビス(炭酸2−クロロアリル)、トリエチレングリコールビス(炭酸アリル)、1,3−プロパンジオールビス(炭酸アリル)、プロピレングリコールビス(炭酸2−エチルアリル)、1,3−ブテンジオールビス(炭酸アリル)、1,4−ブテンジオールビス(炭酸2−ブロモアリル)、ジプロピレングリコールビス(炭酸アリル)、トリメチレングリコールビス(炭酸2−エチルアリル)、ペンタメチレングリコールビス(炭酸アリル)、イソプロピレンビスフェノールAビス(炭酸アリル)のようなもの、ポリ(メタ)アクリレート類および共重合体をベースとした基材で、メチル(メタ)アクリレートおよびエチル(メタ)アクリレートのようなアルキルメタクリレート類、とりわけC〜Cアルキルメタクリレート類を重合して得られる基材のようなもの、ビスフェノールA、ポリエトキシ化芳香族(メタ)アクリレート類から誘導される(メタ)アクリル重合体および共重合体を含む基材でポリエトキシ化ビスフェノレートジ(メタ)アクリレート類、ポリチオ(メタ)アクリレート類のようなもの、熱硬化性ポリウレタン類、ポリチオウレタン類、ポリエポキシド類、ポリエピスルフィド類のようなもの、同様にこれらの共重合体類およびこれらの混合物、のいずれであってもよい。(メタ)アクリレートとは、メタアクリレートまたはアクリレートを意味している。
【0049】
とりわけ推奨される基材はPC(ポリカーボネート)でできた基材である(EssilorレンズのAIRWEARTM基材)。
他に推奨できる基材はチオ(メタ)アクリルモノマー類を重合して得られた基材でフランス特許出願FR2734827に開示されているようなものおよびポリチオウレタン素材でできた基材である。
基材は上記モノマー類の混合物を重合することによっても得られることは明らかである。
【0050】
基材は眼鏡レンズであることが好ましい。
独創的なハードコートは直接基材の処理済みまたは未処理の何れの裸の表面にも、または事前に耐衝撃および/または接着性促進プライマー塗膜のような機能性塗膜を塗工されている表面にも塗布することができ、その厚みは通常0.5から3ミクロンの範囲で、0.8から1.2ミクロンが好ましい。
【0051】
このような耐衝撃プライマー塗膜は技術的に既知であり例えばWO0050928、EP1651986、EP404111、EP0680492に開示され、ここに本願に引用して本明細書とする。
耐摩耗性硬化塗膜組成物にはその上に堆積される後続の塗膜に対し、その後続塗膜がどの様な性質であれ、かつ好ましいことに液体組成物から得られた後続塗膜に対して、良好な接着特性を与える特徴を持つ。
【0052】
後続塗膜には、ゾル−ゲル反射防止塗膜、エポキシ類またはシラノール類を含む他のUV硬化性塗膜、古典的な熱硬化ポリシロキサンハードコートまたは遊離ヒドロキシル基を含む全ての塗膜が含まれるが、これらに限定されるものではない。
とりわけ良好な接着特性がゾル/ゲル処理により得られる後続塗膜、しかも好ましいことに反射防止スタックに含まれるそれに対して見いだされている。
技術的に周知の通り、このような塗膜は、ゾルを形成するように部分的に濃縮されたアルコキシシランまたは金属アルコキシドのような加水分解性の基を含む前駆物質を加水分解して得られる。
【0053】
一般的に、前駆物質は1つ以上のエポキシアルコキシシラン類でもよい。
本発明による耐摩耗硬化性塗膜の化合物Bについて前述したように、前駆物質は同一のエポキシシラン類の間で選択することができる。
エポキシシラン加水分解物はコロイド状のフィラーを含むことが好ましい。
本発明による耐摩耗性塗膜組成物と最高の接着特性を示す反射防止スタックについては米国特許出願第20060275627号に記載され、ここにその内容を本願に引用して本明細書とする。
【0054】
本発明による耐摩耗性塗膜に隣接するゾル/ゲル反射防止塗膜の第1層目は高屈折率または中屈折率層で作られ、屈折率n25 がそれぞれ1.70から2および1.50から1.80であり第1の硬化性組成物の硬化によるものであることが好ましく、次のものを含む:
(i)有機−無機ハイブリッドのマトリックスで、エポキシまたは(メタ)アクリロキシ基およびシラノール基に加水分解できる少なくとも 2つの官能基を含む少なくとも1つの前駆物質組成物の加水分解および濃縮によりできたもの、および
(ii)少なくとも1つのコロイド状金属酸化物または少なくとも1つのカルコゲニドまたはこれらの化合物の混合物を直径1から100nmの粒子、そして好ましくは2から50nmの形の粒子。
【0055】
とりわけ都合のよい方法では、高または中屈折率層内に分散された無機微粒子は次の群から選択された少なくとも1つの酸化物またはコロイド状カルコゲニドを含む:TiO、ZnO、ZnS、ZnTe、CdS、CdSe、IrO、WO、Fe、FeTiO、BaTi、SrTiO、ZrTiO、MoO、Co、SnO、ビスマスをベースとした三元酸化物、MoS、RuO、Sb、BaTi、MgO、CaTiO、V、Mn、CeO、Nb、RuS、およびこれらの化合物の混合物。高屈折率層はさらにシリカ SiOを含む場合がある。
【0056】
高屈折率層内に分散している金属酸化物はルチルの形態の酸化チタン複合物であることが好ましい。
別の好適な特徴によると、高または中屈折率層内に分散した無機微粒子はTiO、SnO、ZrOおよび SiOに基づく複合構造を持っている。このような微粒子は日本国特許出願JP−11310755に記載されている。
【0057】
日本国特許出願JP−2000−204301に記載されているようなコア/シェル構造を持ち、コアがルチルの形のTiO、SnOおよびシェルがZrOおよびSiOの混合物である複合材料の形の金属酸化物微粒子は本発明の文脈からとりわけ推奨されている。
反射防止塗膜の第1層の厚みは10から200nmの範囲、好ましくは80から150nmであることが好ましい。
【0058】
後続の手順において、反射防止塗膜の他の層、もしも反射防止塗膜が2層塗膜ならば低屈折率層(屈折率 1.38から1.44)で好ましくは厚みが40から150nmのものを、またはもしも反射防止塗膜が3層スタックならば高屈折率塗膜に続けて低屈折率層を塗布するようなこともできる。
本発明は以下の実施例によりさらに説明される。これらの実施例は本発明を説明するためのものであり本発明の領域を制限するものと解釈すべきではない。
【0059】
<実施例>
<実験用>
次のような組成物を準備する:
それぞれの成分の量は重量部で表現されている。
GLYMOは単独で加水分解されそれから他の成分の混合物に加えられる。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
<堆積の一般的な手順>
<1)耐摩耗性塗膜の塗膜および硬化>
耐摩耗性塗膜組成物はポリカーボネート(PC)レンズ上に次のような条件で塗布される:製品の凸面側に反射防止塗膜を真空蒸着したハードコートした手持ちの半完成ポリカーボネートレンズを面仕上げした後、耐摩耗性塗膜を凹面側にスピンコートしさらに下に記載するようにUV硬化した:
塗布:耐摩耗性塗膜を回転するレンズの凹面側に4秒の間回転速度1200rpmで塗布する。塗布の後レンズは 1秒未満で1300rpmまで加速し1300rpmで4秒の間回転する。
UV硬化条件:耐摩耗性塗膜を Fusion system社の H+バルブ付のLesco社「EZ−CUREUV」硬化モジュールを用いて、約15秒の照射時間で硬化し、液体塗膜の100%不飽和に対し平均14,2%の不飽和モノマーを残した。得られた厚みは組成物1から3および組成物T、UおよびV については8から10ミクロンの範囲であった。
次いでレンズは反射防止塗膜のスピンコートに先立ち放冷された。
【0063】
<2)反射防止塗膜の堆積および硬化手順>
スピンによる反射防止ゾル/ゲル塗膜はAIOスピンコート装置を用いて塗工され装置内の赤外線ヒーターを用いてタックフリー状態まで硬化された。
塗工されたレンズはDIMAコンベアオーブン内で130℃で20分間の最終硬化を受けた。
詳細な堆積処理工程は以下に示す。
【0064】
<2.1−反射防止溶液の準備工程>
<2.1.1−高屈折率(HI)ゾル/ゲル塗膜溶液(溶液1)>
90.45g のグリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Sivento社)をビーカー内に計量しかき混ぜた。20.66gの 0.1N酸を溶液に滴下して加えた。
全ての酸を加え終えてから、加水分解物をさらに15分間かき混ぜた。640gの CCIC社のTiO コロイド OptolakeTM 1120Z(11RU−7.A8)(重量で20%の乾燥物質を伴う)のコロイドを計量し、160gのメタノールをコロイド溶液に加え室温で15分間かき混ぜた。
800gのコロイド−メタノール溶液を加水分解したグリシドキシプロピルトリメトキシシランに加えた。
【0065】
溶液を室温で24時間かき混ぜた。9.14g の99%アセチルアセトン酸アルミニウム([CHCOCH−C(O−)CHAl、Sigma Aldrich社)を計量し溶液に加えた。79.75gのメタノールを混合物に加えた。
溶液のかき混ぜを室温でさらに1時間続け、次いで乾燥抽出物を測定した。
値は20%に相当した。
【0066】
希釈剤はイソプロパノール(Carlo−Erba社)であった。計量して溶液に加える溶媒の量は乾燥抽出物の6%に対応しなくてはならない。この新しい6%溶液を5時間かき混ぜ、多孔度3μmのカートリッジを通してろ過し、次いで−18℃のフリーザー内に保管した。
堆積に関しては、この溶液1mLをレンズ上にスピンコートして堆積した。
【0067】
<2.1.2−低屈折率(LI)ゾル/ゲル溶液(溶液2)>
8.1gのフルオロシラン(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル−1−トリエトキシシラン:C141913Si 、Roth−Sochiel 社)を 65.6gのテトラエトキシシラン(Si(OC、Keyser Mackay 社)と共に混合した。混合物を15分間かき混ぜた。次いで26.3gの0.1N塩酸(0.1N、HCl、Panrec社)を加えた。加水分解物を24時間室温でかき混ぜた。737.7gの2−メチル−2−ブタノール(CC(CHOH 、Sigma Aldrich 社)、316.2gの2−ブタノン(CCOCH、Carlo−Erba 社)および0.28gの触媒(Polycat−SA−1/10 、Air products 社)を加えた。溶液を2時間かき混ぜ、多孔度0.1μmのカートリッジを通してろ過し、次いで−18℃のフリーザー内に保管した。
堆積に関しては、この溶液1mLをレンズ上にスピンコートして堆積した。
【0068】
<2.2−2つの反射防止層の堆積工程>
耐摩耗性塗膜を伴った1)の結果によるレンズ基材を速度が調整できる回転支持具に固定した。
0.5から 5mLの範囲の容量の(HI)溶液を0.3秒で基材の中心に堆積した。
【0069】
次いで支持具の回転速度を1750〜2300回転/分に調整することにより、スピンによる高屈折率材料のフィルムを塗膜した基材を得た(スピン時間:15秒)。
このように塗工した基材に次いで赤外線による前処理を16秒間おこなうことにより塗工された基材表面の温度を80 から90℃にした。
【0070】
塗工した基材を次いで室温以下の温度の空気流により10から50秒間冷却し、次いで 0.5および 5mLの範囲の容量の(LI)溶液を0.3秒で塗工した基材上に堆積し、次いで支持具の回転速度を 1900〜2000回転/分に固定することにより、スピンによる低屈折率材料フィルムの塗膜を得た(スピン時間:15秒)。
【0071】
かくして本発明に基づく耐摩耗性塗膜および反射防止スタックを塗工した基材が得られ、これは連続的に耐摩耗性塗膜、高屈折率材料のフィルムおよび低屈折率材料のフィルムから構成され、次いでこれは8秒間の赤外線による加熱前処理を受けた。実施した前焼付けは各段階とも同一で:レンズ表面を赤外線(IR)装置で加熱することでなされた。出力450Wの赤外線セラミック素材をレンズ表面近くに設置した。レンズ表面の温度は25℃から前焼付け段階の終わりには70〜80℃までになった。
冷却はレンズ表面上に室温の空気流れを向けることでなされた。
【0072】
<最終熱処理>
本発明による耐摩耗性塗膜および反射防止スタックを塗工した光学ガラスは次いで DIMA コンベアオーブン内で130℃で20分間の最終熱処理を受けた。
条件を下の表3に要約する。
【0073】
【表3】

【0074】
<3−試験>
クロスハッチ接着試験を硬化塗膜(ドライ)および沸騰水に30分曝した後の塗工レンズ(ウェット)に実施した。レンズは0を完全な接着として、0から5で評価した。
【0075】
転写塗膜のドライ接着性は ASTM D3359−93 によるクロス−ハッチ接着試験を用いて測定し、カミソリで1mm間隔の5本の線の系列を、続いて第2系列の1mm間隔の5本の線を第1系列と直角に塗膜を貫通して切り込み、25ヶの正方形から成るクロスハッチパターンを形成する。空気流をクロスハッチパターンに吹きつけ、けがき中にできたゴミをすべて除いたのち、透明のセロハンテープ(3M SCOTCHTMNo 600)をクロスハッチパターンの上に貼り、強く押しつけ、次いで塗膜表面に直角方向に速やかに引きはなす。新しいテープの貼り付けおよび剥がしをさらに2回繰り返した。接着性は次のように評価される。(0 が最高の接着で、1〜4 が中間で、さらに5は最も劣る接着である):
【0076】
【表4】

【0077】
<耐久性試験(ひっかきおよび剥がし試験)>
実施例のレンズは以下に特定する条件の下で QUV S&P(ひっかきおよび剥がし試験)と呼ばれる耐久性試験を受けた:
試験は Q PANELTM 装置、モデル QUV で実施した。
レンズを45℃および水で飽和した雰囲気のチャンバー内に2時間放置した(レンズ表面に水が凝縮)。次いで水の凝縮を止めさらにレンズにUV放射(0.75W/m/mm)を45℃で2時間受けさせた。次いでレンズを放射無しで新たな水の凝縮と共に45℃で3時間放置した。そして最後に、レンズに凝縮無しで、UV放射(0.75W/m/mm)を45℃で3時間受けさせた。
【0078】
上の試験を数回繰り返した。機械的な力をこのレンズに10時間毎に作用させた。試験は機械的な力により反射防止スタックに目視できる劣化が引き起こされた時点で停止された。
【0079】
実施した機械的試験は次の通りである:
眼鏡商から入手できる合成マイクロファイバーの布は光学レンズを拭くために使用した。この布は、ポリアミドおよび NylonTM のフィラメントから構成され、次の最小寸法を持っていなくてはならない:30mmx30mm、厚みは0.35mmから0.45mmで最小繊維密度は10000/cmである。このような布の例の1つは KANEBOU 社製の商品名 Savina MinimaxTM である。
【0080】
布を脱イオン水に少なくとも2分間浸し、水で充満させた。次いで布を回収し3層に重ねて折りたたみレンズの中央域に置いた。次いで直径が6.5から7mmの消しゴムを布の中心に当てる。5±1Nの力をこの消しゴムに加え30mmの距離におよぶ前進−後退の動きを毎秒1サイクル(1回の往復動)実行させた(動きの中点はレンズの中心に集めた)。
合計25サイクルを実施し、次いでレンズを軸まわりに90°回転した。さらに25サイクルを実施した。
【0081】
次いでレンズを裸眼で目視により検査した。
黒い背景に置き、レンズの反射を検査した。
反射ビーム源は200ルックス光源であった。
反射防止スタックが剥離した部分は光って見えた。
機械的な力を受けたことによりレンズの中央域内の直径20mm内のレンズの表面が5%を超えて剥離したならレンズは反射防止に明らかな劣化があると見なされる。
この場合レンズは試験に不合格となる。不合格までの時間が書き留められ結果表に記録される。
【0082】
<実施例1および比較実施例1〜4>
4つの市販UV耐摩耗性塗膜、および耐摩耗性UV硬化塗膜組成物No3(発明品)がポリカーボネートレンズに塗布され多層ゾル−ゲル反射防止塗膜がこれに続いて前述の塗工手順に記載したように塗布された。
【0083】
【表5】

次いで得られたレンズの接着特性を評価した。
【0084】
【表6】

【0085】
比較 3に関しては、濡れ性が劣ったため接着性を測定できなかった。
<実施例2から3および比較実施例5から7:>
【0086】
【表7】

【0087】
これらの実施例は有意な改善(ひっかき&剥離試験で80時間)を得るためには成分C(加水分解性の基を持つエポキシシランの加水分解物)および非重合性エーテルグリコールエーテル(成分 D)が主張する比率で存在することが必要であることを証明している。
【0088】
<実施例4および比較実施例8から11>
ポリカーボネートレンズに先ずこれら塗膜のそれぞれを塗膜し、続いて EP614957の実施例3に記載された熱硬化性ポリシロキサン塗膜組成物を厚み3.5から4.0μm にディップコートし、75℃で15分間硬化し続いて伝熱オーブンを用いて100℃で3時間の最終硬化をすることにより実施例1から4と同一の市販の耐摩耗性塗膜を発明品(塗膜組成物3)とを比較した。
【0089】
次いでそれぞれのグループのレンズを外観について比較しさらにUV硬化性塗膜に対するオルガノシラン塗膜の接着性をドライおよび沸騰水に30分曝した後の両方で試験した。
【0090】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐摩耗性光硬化塗膜組成物で次のものを含む:
5から7つのアクリレート基を持ち、重量で15から30部の少なくとも1つのモノマー化合物 A;
3から4つのアクリレート基を持つモノマーまたはオリゴマーから選択され、重量で7から20部の少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマー化合物 A’;
2つのアクリレート基を持ち、重量で10から25部の少なくとも1つのモノマーまたはオリゴマー化合物A”;
少なくとも2つのエポキシ基を持ちかつ加水分解性基または水酸基を持つケイ素原子を全く含まない、重量で2から10部の少なくとも1つの化合物B;
加水分解によりシラノール基を生じる官能基を2から6つ持っているエポキシシランの加水分解物で、重量で1から7部の化合物C;
重量で20から60部の少なくとも1つの非重合性エーテル化合物D;
有効量のカチオン重合光開始剤;
有効量のラジカル重合開始剤。
【請求項2】
化合物A、A’およびA”の合計重量が前記塗膜組成物内の重合性化合物の合計重量の少なくとも80%を占める、請求項1に記載の硬化性塗膜組成物。
【請求項3】
化合物A が5つのアクリル酸基を持つ、請求項1に記載の硬化性塗膜組成物。
【請求項4】
化合物A’が少なくとも1つのポリオキシアルキレングリコールジアクリレートを含む、請求項1に記載の硬化性塗膜組成物。
【請求項5】
非重合性エーテル化合物Dがアルコールエーテル化合物で、これが少なくとも1つのグリコールエーテルを含むことが好ましい、請求項1に記載の硬化性塗膜組成物。
【請求項6】
非重合性エーテル化合物Dを重量で35から55部含む、請求項1〜5のいずれかに記載の硬化性塗膜組成物。
【請求項7】
前記エポキシシランが次の化学式を持つ、請求項1に記載の硬化性塗膜組成物:
【化1】

ここに R基類は、同一または異なる場合があるが、炭素原子によりSi原子に連結した1価の有機基でさらに少なくとも1つの、好ましくは1つのエポキシ官能基を含む;X基類は、同一または異なる場合があるが、加水分解性の基で、好ましくはC〜Cアルコキシ基、さらに好ましくは−OCHである;Y はエポキシ基を含まない1価の有機基でかつ炭素原子によりSi原子に連結している;nおよび mはn=1または2、かつn+m=1または2となるような整数である;n=1 および m=0 が好ましい。
【請求項8】
R基類が次のような化学式VおよびVIを持つ、請求項7に記載の硬化性塗膜組成物:
【化2】

ここにRはアルキル基または水素原子;aおよびcは1から6の範囲の整数でさらにb は0、1または2を表す。
【請求項9】
透明な基材および、請求項1〜8のいずれかに記載の耐摩耗性光硬化塗膜組成物の硬化による耐摩耗性塗膜組成物をその上に含む、物品。
【請求項10】
硬化した耐摩耗性塗膜組成物の上に堆積されかつこれに接着している後続塗膜を持つ、請求項9に記載の物品。
【請求項11】
前記の後続塗膜がゾル/ゲル処理を用いて得られかつ反射防止スタックに含まれている、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
前記の後続塗膜を塗布する前に、硬化した耐摩耗性塗膜組成物上に前処理工程が実施されていない、請求項10または11に記載の物品。
【請求項13】
後続の塗膜がエポキシシランの加水分解物およびコロイド状フィラーを含む、請求項10に記載の物品。
【請求項14】
前記の後続塗膜の厚みが10から200nm、好ましくは80から150nmの範囲である、請求項10に記載の物品。
【請求項15】
さらに眼鏡レンズと定義された、請求項10に記載の物品。

【公表番号】特表2011−522941(P2011−522941A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512962(P2011−512962)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057102
【国際公開番号】WO2009/150154
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】