説明

徐放性組成物およびその製造法

【課題】徐放性を有する生体内分解性ポリマーを、生理活性物質を内包させるためのマイクロカプセル等の基材として用いた徐放性製剤及びその製造法の提供。
【解決手段】乳酸からなる重合体生体内分解性ポリマー中から低分子量の乳酸重合体、特に重量平均分子量が5000以下のものの含量を低減させることにより、生理活性物質を高含量で取り込むことができ、かつその初期過剰放出を抑制して長期にわたる安定した放出速度を実現できる乳酸重合体及び製造法とそれを用いた徐放性製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質の徐放性製剤、その製造法および医薬などとしての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
徐放性を有する生体内分解性ポリマーは、例えば生理活性物質を内包させるためのマイクロカプセル等の基材として有用である。この様な生体内分解性ポリマーとして、ポリ乳酸、乳酸とグリコール酸との共重合体を含むもの等(特許文献1等)が有用であることが知られている。
これら生体内分解性ポリマーは従来の合成法によって作られたものをそのまま用いていたが、合成されたものそのままでは末端カルボキシル基量が少ないために徐放性基材としての有用性に乏しいことが判ってきた。そこで、上記の如き生体内分解性ポリマーであって高分子量のものを加水分解処理し、重量平均分子量を適当なものとした後に徐放性製剤用基材として使用することが検討された。
しかしながら、加水分解処理、水洗して得られたものは、適当な重量平均分子量と末端カルボキシル基量を有するものであっても、初期バーストを起こしやすく徐放性基材としては不適当なものであった。そのため、その改良が要望されている現状にある。
特許文献2には、生理活性ペプチドまたはその塩と末端に遊離のカルボキシル基を有する生体内分解性ポリマーとからなる徐放性製剤およびその製造法が開示されている。
特許文献3〜7には、別途調製したペプチド、タンパク質のパモ酸塩等の水不溶性塩を含んでなる生体内分解性ポリマーを基剤とした組成物またはその製造法が開示されている。
特許文献8には、cetrorelix(LH−RHアンタゴニスト)のエンボン酸塩(パモ酸塩)およびその製造法が開示されていると同時に、このパモ酸塩を生体内分解性ポリマーに封入してもそのペプチドの放出性はパモ酸塩単独での場合と同様であることが記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−269094号公報
【特許文献2】特開平7−97334号公報
【特許文献3】GB2209937号公報
【特許文献4】GB2234169号公報
【特許文献5】GB2234896号公報
【特許文献6】GB2257909号公報
【特許文献7】EP626170A2号公報
【特許文献8】WO95/15767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生理活性物質を高含量で含有し、かつその初期過剰放出を抑制して長期にわたる安定した放出速度を実現できる新規組成物およびその製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記した如き状況に鑑み鋭意研究を行った結果、生体内分解性ポリマー中から低分子量の乳酸重合体、特に重量平均分子量が5000以下のものの含量を低減させることにより、初期過剰放出を起こし難い、乳酸重合体またはその塩を製造することに成功し、そしてこの乳酸重合体またはその塩を含有せしめた徐放性製剤が、予想外にも生理活性物質を高含量で取り込むことができ、かつその初期過剰放出を抑制して長期にわたる安定した放出速度を実現できることを見いだした。
さらに、本発明者らは、組成物を形成させる際に生理活性物質とヒドロキシナフトエ酸を共存させることにより生理活性物質を高含量で組成物中に取り込み、さらに乳酸重合体またはその塩の中に両者を封入した場合は、乳酸重合体またはその塩が存在しない条件下で調製した生理活性物質とヒドロキシナフトエ酸から形成される組成物からの生理活性物質の放出速度とは異なる速度で生理活性物質が放出され、その放出速度が生体内分解性ポリマーの特性やヒドロキシナフトエ酸の添加量によって制御可能であり、高含量においても確実に初期過剰放出を抑制して、非常な長期にわたる持続放出を実現させることができることを見いだした。
本発明者らは、これらの知見に基づいて、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)(1)組成物全体に対して約14%(w/w)〜約24%(w/w)の生理活性物質またはその塩、(2)3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から成る群から選ばれるヒドロキシナフトエ酸またはその塩および(3)分子量5000以下の重合体含有量が約5重量%以下である、重量平均分子量15000〜50000の乳酸重合体またはその塩を含有し、該ヒドロキシナフトエ酸またはその塩と該生理活性物質またはその塩のモル比が3対4ないし4対3である徐放性組成物。
(2)乳酸重合体が、重量平均分子量が15000〜30000のものである上記(1)記載の徐放性組成物。
(3)生理活性物質がLH-RH誘導体である上記(1)記載の徐放性組成物。
(4)LH-RH誘導体が式
5-oxo-Pro-His-Trp-Ser-Tyr-Y-Leu-Arg-Pro-Z
[式中、YはDLeu、DAla、DTrp、DSer(tBu)、D2NalまたはDHis(ImBzl)を示し、ZはNH-C2H5またはGly-NH2を示す。]で表されるペプチドまたはその塩である上記(3)記載の徐放性組成物。
(5)生理活性物質またはその塩が式
5-oxo-Pro-His-Trp-Ser-Tyr-DLeu-Leu-Arg-Pro-NH-C2H5で表されるLH-RH誘導体またはその酢酸塩であり、ヒドロキシナフトエ酸が3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸または1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸である上記(1)記載の徐放性組成物。
(6)上記(1)記載の徐放性組成物を含有してなる医薬。
(7)上記(3)記載の徐放性組成物を含有してなる前立腺癌、前立腺肥大症、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮線維腫、思春期早発症、月経困難症もしくは乳癌の予防、治療剤または避妊剤。
(8)上記(3)記載の徐放性組成物を含有してなる閉経前乳癌術後再発予防剤。
(9)哺乳動物に対して、上記(3)記載の徐放性組成物の有効量を投与することを特徴とする前立腺癌、前立腺肥大症、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮線維腫、思春期早発症、月経困難症もしくは乳癌の予防、治療方法または避妊方法。
(10)哺乳動物に対して、上記(3)記載の徐放性組成物の有効量を投与することを特徴とする閉経前乳癌術後再発予防方法。
(11)生理活性物質またはその塩、および分子量5000以下の重合体含有量が約5重量%以下である、重量平均分子量15000〜50000の乳酸重合体またはその塩を含有してなる徐放性組成物。
(12)生理活性物質またはその塩、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩、および分子量5000以下の重合体含有量が約5重量%以下である、重量平均分子量15000〜50000の乳酸重合体またはその塩を含有してなる徐放性組成物。
(13)(1)組成物全体に対して約3%(w/w)〜約24%(w/w)の生理活性物質またはその塩、(2)分子量5000以下の重合体含有量が約5重量%以下である、重量平均分子量15000〜50000の乳酸重合体またはその塩を含有する上記(11)記載の徐放性組成物。
(14)乳酸重合体が、分子量3000以下の重合体含有量が約1.5重量%以下のものである上記(11)〜(13)のいずれか1項に記載の徐放性組成物。
(15)乳酸重合体が、分子量1000以下の重合体含有量が約0.1重量%以下のものである上記(11)〜(13)のいずれか1項に記載の徐放性組成物。
(16)乳酸重合体が、重量平均分子量が15000〜40000のものである上記(11)〜(15)のいずれか1項に記載の徐放性組成物。
(17)乳酸重合体が、重量平均分子量が17000〜26000のものである上記(11)〜(15)のいずれか1項に記載の徐放性組成物。
(18)ヒドロキシナフトエ酸が3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸または1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸である上記(12)記載の徐放性組成物。
(19)生理活性物質が生理活性ペプチドである上記(11)または(13)記載の徐放性組成物。
(20)生理活性物質が生理活性ペプチドである上記(12)記載の徐放性組成物。
(21)生理活性物質がLH-RH誘導体である上記(19)記載の徐放性組成物。
(22)生理活性物質がLH-RH誘導体である上記(20)記載の徐放性組成物。
(23)LH-RH誘導体が式
5-oxo-Pro-His-Trp-Ser-Tyr-Y-Leu-Arg-Pro-Z
[式中、YはDLeu、DAla、DTrp、DSer(tBu)、D2NalまたはDHis(ImBzl)を示し、ZはNH-C2H5またはGly-NH2を示す。]で表されるペプチドまたはその塩である上記(21)または(22)記載の徐放性組成物。
(24)徐放性組成物中、LH-RH誘導体またはその塩が3%(w/w)から24%(w/w)含有される上記(21)記載の徐放性組成物。
(25)ヒドロキシナフトエ酸またはその塩とLH-RH誘導体またはその塩のモル比が3対4ないし4対3である上記(22)記載の徐放性組成物。
(26)徐放性組成物中、LH-RH誘導体またはその塩が14%(w/w)から24%(w/w)含有される上記(22)記載の徐放性組成物。
(27)注射用である上記(11)〜(13)のいずれか1項に記載の徐放性組成物。
(28)生理活性物質またはその塩、および分子量5000以下の重合体含有量が約5重量%以下である、重量平均分子量15000〜50000の乳酸重合体またはその塩の混合液から溶媒を除去することを特徴とする上記(11)記載の徐放性組成物の製造法。
(29)生理活性物質またはその塩、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩、および分子量5000以下の重合体含有量が約5重量%以下である、重量平均分子量15000〜50000の乳酸重合体またはその塩の混合液から溶媒を除去することを特徴とする上記(12)記載の徐放性組成物の製造法。
(30)ヒドロキシナフトエ酸またはその塩、および分子量5000以下の重合体含有量が約5重量%以下である、重量平均分子量15000〜50000の乳酸重合体またはその塩を含有する有機溶媒溶液に生理活性物質またはその塩を混合、分散し、次いで有機溶媒を除去することを特徴とする上記(29)記載の徐放性組成物の製造法。
(31)生理活性物質またはその塩が生理活性物質またはその塩を含有する水溶液である上記(30)記載の徐放性組成物の製造法。
(32)生理活性物質の塩が遊離塩基または酸との塩である上記(30)記載の製造法。
(33)上記(11)〜(13)のいずれか1項に記載の徐放性組成物を含有してなる医薬。
(34)上記(21)または(22)記載の徐放性組成物を含有してなる前立腺癌、前立腺肥大症、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮線維腫、思春期早発症、月経困難症もしくは乳癌の予防、治療剤または避妊剤。
(35)上記(21)または(22)記載の徐放性組成物を含有してなる閉経前乳癌術後再発予防剤。
(36)哺乳動物に対して、上記(21)または(22)記載の徐放性組成物の有効量を投与することを特徴とする前立腺癌、前立腺肥大症、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮線維腫、思春期早発症、月経困難症もしくは乳癌の予防、治療方法または避妊方法。
(37)哺乳動物に対して、上記(21)または(22)記載の徐放性組成物の有効量を投与することを特徴とする閉経前乳癌術後再発予防方法などを提供する。
【0007】
さらに、本発明は、
(38)ヒドロキシナフトエ酸またはその塩の配合量が生理活性ペプチドまたはその塩1モルに対して約1〜約7モル、好ましくは約1〜約2モルである上記(12)記載の徐放性組成物、
(39)生理活性物質またはその塩を含む液を内水相とし、乳酸重合体またはその塩およびヒドロキシナフトエ酸またはその塩を含む溶液を油相とするW/O型乳化物を製造し、次いで溶媒を除去することを特徴とする上記(29)記載の徐放性組成物の製造法、
(40)ヒドロキシナフトエ酸またはその塩を含む液を内水相とし、生理活性物質またはその塩および乳酸重合体またはその塩を含む溶液を油相とするW/O型乳化物を製造し、次いで溶媒を除去することを特徴とする上記(29)記載の徐放性組成物の製造法、および
(41)溶媒の除去法が水中乾燥法である上記(39)または(40)記載の徐放性組成物の製造法などを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の徐放性組成物は、生理活性物質を高含量で含有し、かつその初期過剰放出を抑制し長期にわたる安定した放出速度を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で用いられる生理活性物質は、薬理学的に有用なものであれば特に限定を受けないが、非ペプチド化合物でもペプチド化合物でもよい。非ペプチド化合物としては、アゴニスト、アンタゴニスト、酵素阻害作用を有する化合物などがあげられる。また、ペプチド化合物としては、例えば、生理活性ペプチドが好ましく、分子量約300〜約40,000、好ましくは約400〜約30,000、さらに好ましくは約500〜約20,000の生理活性ペプチドなどが好適である
該生理活性ペプチドとしては、例えば、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH−RH)、インスリン、ソマトスタチン、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン(GH−RH)、プロラクチン、エリスロポイエチン、副腎皮質ホルモン、メラノサイト刺激ホルモン、甲状腺ホルモン放出ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、バソプレシン、オキシトシン、カルシトニン、ガストリン、セクレチン、パンクレオザイミン、コレシストキニン、アンジオテンシン、ヒト胎盤ラクトーゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、エンケファリン、エンドルフィン、キョウトルフィン、タフトシン、サイモポイエチン、サイモシン、サイモチムリン、胸腺液性因子、血中胸腺因子、腫瘍壊死因子、コロニー誘導因子、モチリン、デイノルフィン、ボンベシン、ニューロテンシン、セルレイン、ブラジキニン、心房性ナトリウム排泄増加因子、神経成長因子、細胞増殖因子、神経栄養因子、エンドセリン拮抗作用を有するペプチド類などおよびその誘導体、さらにはこれらのフラグメントまたはフラグメントの誘導体などが挙げられる。
本発明で用いられる生理活性物質はそれ自身であっても、薬理学的に許容される塩であってもよい。
このような塩としては、該生理活性物質がアミノ基等の塩基性基を有する場合、無機酸(無機の遊離酸とも称する)(例、炭酸、重炭酸、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等)、有機酸(有機の遊離酸とも称する)(例、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等)などとの塩が挙げられる。
生理活性物質がカルボキシル基等の酸性基を有する場合、無機塩基(無機の遊離塩基とも称する)(例、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属など)や有機塩基(有機の遊離塩基とも称する)(例、トリエチルアミン等の有機アミン類、アルギニン等の塩基性アミノ酸類等)などとの塩が挙げられる。また、生理活性ペプチドは金属錯体化合物(例、銅錯体、亜鉛錯体等)を形成していてもよい。
【0010】
該生理活性ペプチドの好ましい例としては、LH−RH誘導体であって、ホルモン依存性疾患、特に性ホルモン依存性癌(例、前立腺癌、子宮癌、乳癌、下垂体腫瘍など)、前立腺肥大症、子宮内膜症、子宮筋腫、思春期早発症、月経困難症、無月経症、月経前症候群、多房性卵巣症候群等の性ホルモン依存性の疾患および避妊(もしくは、その休薬後のリバウンド効果を利用した場合には、不妊症)、閉経前乳癌術後再発に有効なLH−RH誘導体またはその塩が挙げられる。さらに性ホルモン非依存性であるがLH−RH感受性である良性または悪性腫瘍などに有効なLH−RH誘導体またはその塩も挙げられる。
LH−RH誘導体またはその塩の具体例としては、例えば、トリートメント ウイズ GnRH アナログ:コントラバーシス アンド パースペクテイブ(Treatment with GnRH analogs: Controversies and perspectives)[パルテノン バブリッシング グループ(株)(The Parthenon Publishing Group Ltd.)発行1996年]、特表平3−503165号公報、特開平3−101695号、同7−97334号および同8−259460号公報などに記載されているペプチド類が挙げられる。
【0011】
LH−RH誘導体としては、LH−RHアゴニストまたはLH−RHアンタゴニストが挙げられるが、LH−RHアンタゴニストとしては、例えば、一般式〔I〕
X-D2Nal-D4ClPhe-D3Pal-Ser-A-B-Leu-C-Pro-DAlaNH2
〔式中、XはN(4H2-furoyl)GlyまたはNAcを、AはNMeTyr、Tyr、Aph(Atz)、NMeAph(Atz)から選ばれる残基を、BはDLys(Nic)、DCit、DLys(AzaglyNic)、DLys(AzaglyFur)、DhArg(Et2)、DAph(Atz)およびDhCi から選ばれる残基を、CはLys(Nisp)、ArgまたはhArg(Et2)をそれぞれ示す〕で表わされる生理活性ペプチドまたはその塩などが用いられる。
LH−RHアゴニストとしては、例えば、一般式〔II〕
5-oxo-Pro-His-Trp-Ser-Tyr-Y-Leu-Arg-Pro-Z
〔式中、YはDLeu、DAla、DTrp、DSer(tBu)、D2NalおよびDHis(ImBzl)から選ばれる残基を、ZはNH-C2H5またはGly-NH2をそれぞれ示す〕で表わされる生理活性ペプチドまたはその塩などが用いられる。特に、YがDLeuで、ZがNH-C2H5であるペプチド(即ち、5-oxo-Pro-His-Trp-Ser-Tyr-DLeu-Leu-Arg-Pro-NH-C2H5で表されるペプチドA;リュープロレリン)またはその塩(例、酢酸塩)が好適である。
これらのペプチドは、上記文献あるいは公報記載の方法あるいはこれに準じる方法で製造することができる。
【0012】
本明細書中で使用される略号の意味は次のとおりである。
略号 名称
N(4H2-furoyl)Gly: N-テトラヒドロフロイルグリシン残基
NAc : N-アセチル基
D2Nal : D-3-(2-ナフチル)アラニン残基
D4ClPhe : D-3-(4-クロロ)フェニルアラニン残基
D3Pal : D-3-(3-ピリジル)アラニン残基
NMeTyr : N-メチルチロシン残基
Aph(Atz) : N-[5'-(3'-アミノ-1'H-1',2',4'-トリアゾリル)]フェニル
アラニン残基
NMeAph(Atz) : N-メチル-[5'-(3'-アミノ-1'H-1',2',4'-トリアゾリル)]
フェニルアラニン残基
DLys(Nic) : D-(e-N-ニコチノイル)リシン残基
Dcit : D-シトルリン残基
DLys(AzaglyNic) : D-(アザグリシルニコチノイル)リシン残基
DLys(AzaglyFur) : D-(アザグリシルフラニル)リシン残基
DhArg(Et2) : D-(N,N'-ジエチル)ホモアルギニン残基
DAph(Atz) : D-N-[5'-(3'-アミノ-1'H-1',2',4'-トリアゾリル)]
フェニルアラニン残基
DhCi : D-ホモシトルリン残基
Lys(Nisp) : (e-N-イソプロピル)リシン残基
hArg(Et2) : (N,N'-ジエチル)ホモアルギニン残基
その他アミノ酸に関し、略号で表示する場合、IUPAC-IUBコミッション・オブ・バイオケミカル・ノーメンクレーチュアー(Commission on Biochemical Nomenclature) (ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(European Journal of Biochemistry)第138巻、9〜37頁(1984年))による略号または該当分野における慣用略号に基づくものとし、また、アミノ酸に関して光学異性体がありうる場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
【0013】
本発明に用いられるヒドロキシナフトエ酸は、ナフタレンの異なる炭素に1つの水酸基と1つのカルボキシル基が結合したものである。従って、カルボキシル基の位置がナフタレン環の1位と2位であるそれぞれに対して水酸基の位置が異なる合計14種の異性体が存在する。そしてこの中の任意の異性体を用いてよく、またこれらの任意の割合の混合物を用いてもよい。後述するが、酸解離定数の大きなものが好ましく、あるいはpKa(pKa=−log10Ka、Kaは酸解離定数を表す)の小さいものが好ましい。そして微水溶性のものが好ましい。
また、アルコール類(例えば、エタノール、メタノール等)に可溶であるものが好ましい。「アルコール類に可溶」とは例えばメタノールに対して10g/L以上であることを意味する。
上記のヒドロキシナフトエ酸異性体のpKaとしては、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の値( pKa=2.708、化学便覧 基礎編II、日本化学会、昭和44年9月25日発行)のみが知られているが、ヒドロキシ安息香酸の3種の異性体のpKaを比較することによって有用な知見が得られる。すなわちm−ヒドロキシ安息香酸とp−ヒドロキシ安息香酸のpKaが4以上であるのに対してo−ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸)のpKa(=2.754)は極端に小さい。従って、上記14種の異性体のなかでも、ナフタレン環の隣接する炭素原子にカルボキシル基と水酸基が結合した、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸および2−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸が好ましい。さらには、ナフタレンの3位の炭素に水酸基が、2位の炭素にカルボキシル基が結合した3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が好適である。
ヒドロキシナフトエ酸は塩であってもよい。塩としては、例えば、無機塩基(例、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属など)や有機塩基(例、トリエチルアミン等の有機アミン類、アルギニン等の塩基性アミノ酸類等)などとの塩、または遷移金属(例,亜鉛,鉄,銅など)との塩および錯塩などが挙げられる。
【0014】
以下に、生理活性物質のヒドロキシナフトエ酸塩の調製方法を例示する。
(1)ヒドロキシナフトエ酸の含水有機溶媒溶液を弱塩基性イオン交換カラムに通して吸着させ、そして飽和させる。次いで含水有機溶媒を通して過剰のヒドロキシナフトエ酸を除去した後に生理活性物質またはその塩の含水有機溶媒溶液を通してイオン交換を行わせて、得られた流出液から溶媒を除去すればよい。該含水有機溶媒中の有機溶媒としては、アルコール類(例、メタノール、エタノール等)、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどが用いられる。塩を析出させるための溶媒を除去する方法は、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法が用いられる。例えば、ロータリーエヴァポレーターなどを用いて真空度を調節しながら溶媒を蒸発させる方法などが挙げられる。
(2)予め、強塩基性イオン交換カラムの交換イオンを水酸化物イオンに交換しておき、これに生理活性物質またはその塩の含水有機溶媒溶液を通してそれらの塩基性基を水酸化型に換える。回収した流出液に当量以下のヒドロキシナフトエ酸を加えて溶解し、次いで濃縮して析出した塩を、必要な場合には水洗して、乾燥すればよい。
【0015】
本発明に用いられる乳酸重合体(以下、本発明の乳酸重合体と略記する場合がある)は、乳酸のみから成る重合体、或いは乳酸とその他のモノマー(例えばグリコール酸等)との共重合体を含み、通常分子量5000以下の重合体含有量が約5重量%以下、好ましくは分子量5000以下の重合体含有量が約5重量%以下であり且つ分子量3000以下の重合体含有量が約1.5重量%以下、更に好ましくは分子量5000以下の重合体含有量が約5重量%以下、分子量3000以下の重合体含有量が約1.5重量%以下であり且つ分子量1000以下の重合体含有量が約0.1重量%以下のものである。
また、本発明の乳酸重合体の重量平均分子量は通常15000〜50000、好ましくは15000〜30000、より好ましくは17000〜26000、特に好ましくは17500〜25500である。
さらに、本発明の徐放性製剤にヒドロキシナフトエ酸が含まれない場合は、本発明の乳酸重合体の重量平均分子量は通常15000〜50000、好ましくは15000〜40000である。
【0016】
本発明の乳酸重合体の原料となる高分子量の乳酸重合体は、市販品でも公知の方法で重合したものでもよく、その重量平均分子量は通常15000〜500000、好ましくは30000〜100000である。公知の重合方法としては、例えば、乳酸及び要すればグリコール酸とを縮合重合させる方法、例えばラクチドを、要すればグリコリドと共に、例えばジエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、オクチル酸スズ等のルイス酸又は金属塩等の触媒を用いて開環重合させる方法、上記方法に更にカルボキシル基が保護されたヒドロキシカルボン酸誘導体を存在させてラクチドを開環重合させる方法(例えば特許国際公開WO00/35990等)、その他ラクチドに加熱下で触媒を添加して開環重合させる方法(例えばJ. Med. Chem, 16, 897(1973)等)、例えばラクチドとグリコリドとを共重合させる方法等が挙げられる。
重合形態としては、ラクチド等を溶融させて重合反応に付すバルク重合、ラクチド等を適当な溶媒に溶解して重合反応に付す溶液重合が挙げられるが、中でも溶液重合によって得られる重合体を本発明の乳酸重合体の原料として使用することが工業生産上好ましい。
溶液重合においてラクチドを溶解する溶媒としては、例えばベンゼン,トルエン,キシレン等の芳香族炭化水素類、デカリン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0017】
上記の如くして得られた高分子量の乳酸重合体を加水分解するには、自体公知の加水分解方法が用いられ、例えば該高分子量の乳酸重合体を適当な溶媒に溶解した後、水及び要すれば酸を加えて反応させればよい。
高分子量の乳酸重合体を溶解する溶媒としては、乳酸重合体の10重量倍以下の量で該重合体を溶解し得るものであればよく、具体的には、例えばクロロホルム,ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、例えばトルエン,o−キシレン,m−キシレン,p−キシレン等の芳香族炭化水素、例えばテトラヒドロフラン等の環状エーテル、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。尚、高分子量の乳酸重合体の重合時に、高分子量の乳酸重合体の加水分解で使用できる溶媒を用いた場合には、重合した高分子量の乳酸重合体を単離せず、重合及び加水分解の操作を連続して行うことができる。
【0018】
高分子量乳酸重合体を溶解する溶媒の使用量は、溶質である乳酸重合体に対して通常0.1〜100倍、好ましくは1〜10倍である。
添加する水の量は、高分子量乳酸重合体に対して通常0.001〜1倍重量、好ましくは0.01〜0.1倍重量である。
必要に応じて添加する酸としては、例えば塩酸,硫酸,硝酸等の無機酸、例えば乳酸,酢酸,トリフルオロ酢酸等の有機酸等が挙げられ、好ましくは乳酸が挙げられる。
添加する酸の量は、高分子量乳酸重合体に対して通常0〜10倍重量、好ましくは0.1〜1倍重量である
加水分解反応温度は、通常0〜150℃、好ましくは20〜80℃である。
加水分解反応時間は、高分子量の乳酸重合体の重量平均分子量及び反応温度によっても異なり、通常10分〜100時間、好ましくは1〜20時間である。
加水分解処理の終了時期は、加水分解生成物の重量平均分子量に基づいて判断する。即ち、加水分解処理中に適宜サンプリングを行い、サンプル中の加水分解生成物の重量平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、当該分子量が約15000〜50000、好ましくは約15000〜30000、より好ましくは約17000〜26000、特に好ましくは17500〜25500となっていることが確認できたら加水分解処理を停止させる。
【0019】
上記の如く高分子量の乳酸重合体を加水分解する操作に付すことにより得られる、加水分解生成物を含有する溶液から、そこに含有される目的の乳酸重合体を析出させる方法としては、該加水分解生成物含有溶液を、そこに含有される目的の乳酸重合体を析出させ得る溶媒と接触させる方法等が挙げられる。
加水分解生成物含有溶液の好ましい態様としては、例えばクロロホルム,ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、例えばトルエン,o−キシレン,m−キシレン,p−キシレン等の芳香族炭化水素、例えばテトラヒドロフラン等の環状エーテル、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド等ジクロロメタンやキシレン等の高分子量乳酸重合体を溶解する溶媒に、重量平均分子量15000〜50000、好ましくは15000〜30000、より好ましくは17000〜26000、特に好ましくは17500〜25500の乳酸重合体が約10〜50wt%溶解しているもの等が挙げられる。本発明の徐放性製剤にヒドロキシナフトエ酸が含まれない場合は、重量平均分子量15000〜50000、好ましくは15000〜40000の乳酸重合体が約10〜50wt%溶解しているもの等が挙げられる。
加水分解生成物含有溶液中に含有される目的の乳酸重合体を析出させ得る溶媒としては、例えばメタノール,エタノール等のアルコール類、例えばイソプロピルエーテル等の鎖状エーテル類、例えばヘキサン等の脂肪族炭化水素、水等が挙げられる。
【0020】
目的とする乳酸重合体を析出させ得る溶媒の使用量は、加水分解生成物含有溶液の溶媒に対して通常0.1〜100倍重量、好ましくは1〜10倍重量である。
この様な各溶媒の種類と使用量の組み合わせの好ましい具体例としては、例えば溶質の1〜5倍重量のジクロロメタンを溶媒として用いられている加水分解生成物含有溶液に、溶解度を低下させる溶媒としてイソプロピルエーテルを、該ジクロロメタンに対して2〜10倍重量使用する態様等が挙げられる。
目的の乳酸重合体溶質を析出させ得る溶媒を加水分解生成物含有溶液に接触させる際の、溶媒の温度は、通常−20〜60℃、好ましくは0〜40℃であり、加水分解生成物含有溶液の温度は通常0〜40℃、好ましくは10〜30℃である。
溶媒と加水分解生成物含有溶液とを接触させる方法としては、加水分解生成物含有溶液を溶媒中に一度に加える方法、加水分解生成物含有溶液を溶媒中に滴下する方法、溶媒を加水分解生成物含有溶液中に一度に加える方法、或いは溶媒を加水分解生成物含有溶液中に滴下する方法等が挙げられる。
上記のようにして得られた本発明の乳酸重合体は、末端カルボキシル基量が徐放性製剤用基材として好ましい範囲にあるため、徐放性製剤用基材として好ましいものである。
【0021】
本発明の組成物における生理活性物質の重量比は、生理活性物質の種類、所望の薬理効果および効果の持続期間などによって異なるが、組成物全体に対して、生理活性ペプチドまたはその塩の場合、約0.001〜約50重量%、好ましくは約0.02〜約40重量%、より好ましくは約0.1〜約30重量%、さらに好ましくは約0.1〜約24重量%、最も好ましくは約3〜約24重量%であり、非ペプチド性生理活性物質またはその塩の場合、約0.01〜約80重量%、好ましくは約0.1〜約50重量%である。
本発明のヒドロキシナフトエ酸またはその塩を含有する組成物における生理活性物質の重量比は、生理活性物質の種類、所望の薬理効果および効果の持続期間などによって異なるが、生理活性物質またはその塩とヒドロキシナフトエ酸またはその塩と乳酸重合体またはその塩の三者を含有する徐放性組成物の場合、その三者の和に対して、例えば生理活性ペプチドまたはその塩の場合、約0.001〜約50重量%、好ましくは約0.02〜約40重量%、より好ましくは約0.1〜約30重量%、最も好ましくは約14〜約24重量%であり、非ペプチド性生理活性物質またはその塩の場合、約0.01〜約80重量%、好ましくは約0.1〜約50重量%である。
生理活性物質のヒドロキシナフトエ酸塩を含む場合でも同様な重量比である。生理活性ペプチド(仮に(A)と称する)とヒドロキシナフトエ酸(仮に(B)と称する)との塩を含有してなる徐放性組成物の場合、(A)と(B)との塩の和に対して、(A)の重量比は通常約5〜約90重量%、好ましくは約10〜約85重量%、より好ましくは約15〜約80重量%、特に好ましくは約30〜約80重量%である。
生理活性物質またはその塩とヒドロキシナフトエ酸またはその塩と乳酸重合体またはその塩の三者を含有する徐放性組成物の場合、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩の配合量は、好ましくは、生理活性物質またはその塩1モルに対して、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩が約1/2〜約2モル、約3/4〜約4/3モル、特に好ましくは約4/5〜約6/5モルである。
【0022】
本発明の組成物の設計を、生理活性物質、ヒドロキシナフトエ酸および乳酸重合体の三者を含有する徐放性組成物について、生理活性物質が塩基性である場合を例に用いて以下に述べる。この場合、組成物中には塩基として生理活性物質が、酸としてヒドロキシナフトエ酸が共存しており、それらが遊離体あるいは塩として組成物中に配合された場合のいずれにおいても、組成物製造時のある時点において含水状態あるいは微量の水の存在下でおのおの解離平衡が成り立っている。微水溶性のヒドロキシナフトエ酸が生理活性物質と形成する塩は、該生理活性物質の特性にもよるが微水溶性と考えられるため、解離平衡はこのような微水溶性塩形成の側に傾く。
塩基性の生理活性物質を高含量に含む組成物を製造するには、上記解離平衡から考えて、生理活性物質のほとんどをプロトン化して上記微水溶性塩にすることが望ましい。このためには、少なくとも生理活性物質またはその塩と当量に近いヒドロキシナフトエ酸またはその塩を配合するのが望ましい。
次に、組成物中に包含された生理活性物質の徐放機構を以下に述べる。生理活性物質は上記の配合組成ではほとんどがプロトン化されて、対イオンを伴った状態で存在している。対イオンは、主にヒドロキシナフトエ酸(好ましくはヒドロキシナフトエ酸)である。組成物が生体中に投与された後は、乳酸重合体の分解によって経時的にそのオリゴマーおよびモノマーが生成し始めるが、該ポリマーが乳酸−グリコール酸重合体である場合は、生成するオリゴマー(乳酸−グリコール酸オリゴマー)およびモノマー(乳酸またはグリコール酸)は必ず1個のカルボキシル基を有しており、これらも生理活性物質の対イオンになり得る。生理活性物質の放出は電荷の移動を伴わない、すなわち対イオンを伴った塩として行われるが、移動可能な対イオン種としては上記のようにヒドロキシナフトエ酸、乳酸−グリコール酸オリゴマー(移動可能な程度の分子量の)およびモノマー(乳酸またはグリコール酸)があげられる。
【0023】
複数の酸が共存する場合には、その組成比にもよるが一般的に強酸の塩が優先的に生ずる。ヒドロキシナフトエ酸のpKaは、例えば、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のそれは2.708(化学便覧 基礎編II、日本化学会、昭和44年9月25日発行)である。一方、乳酸−グリコール酸オリゴマーのカルボキシル基のそれは知られていないが、乳酸またはグリコール酸のpKa(=3.86または3.83)を基礎に、「置換基導入による自由エネルギー変化は加成則で近似可能」との原理に従って計算できる。解離定数に対する置換基の寄与は求められており利用することができる(Table 4.1 in "pKa Prediction for Organic Acid and Bases", D.D.Perrin, B.Dempsey and E.P.Serjeant, 1981)。ヒドロキシル基とエステル結合に対してはそれぞれ、
ΔpKa(OH)=−0.90
ΔpKa(エステル結合)=−1.7
なので、乳酸−グリコール酸オリゴマーのカルボキシル基のpKaは、解離基に最も近いエステル結合の寄与を考慮して、
pKa = pKa(乳酸またはグリコール酸)−ΔpKa(OH)+ΔpKa(エステル結合)=3.06または3.03と求められる。従って、ヒドロキシナフトエ酸は乳酸(pKa=3.86)、グリコール酸(pKa=3.83)、さらには乳酸−グリコール酸オリゴマーよりも強い酸であるから、上記組成物中ではヒドロキシナフトエ酸と生理活性物質との塩が優先的に生成していると考えられ、その塩の特性が、組成物中からの生理活性物質の徐放特性を支配的に決定すると考えられる。該生理活性物質としては上記の生理活性物質などがあげられる。
ここにおいて、ヒドロキシナフトエ酸が生理活性物質と形成する塩が微水溶性であって水不溶性でないことが徐放機構に好影響をあたえる。すなわち、上記酸解離定数の考察で明らかにしたように移動可能な生理活性物質の塩としては、放出の初期には上記乳酸−グリコール酸オリゴマーおよびモノマーよりも強酸であるヒドロキシナフトエ酸の塩が優勢に存在する結果、その塩の溶解性、体組織への分配性が、生理活性物質の放出速度の決定因子となるため、ヒドロキシナフトエ酸の配合量で薬物の初期放出パターンを調節し得る。その後、ヒドロキシナフトエ酸の減少および乳酸重合体の加水分解によって生ずるオリゴマーおよびモノマーの増大に伴い、オリゴマーおよびモノマーを対イオンとする生理活性物質の放出機構が徐々に優勢となり、ヒドロキシナフトエ酸が事実上該「組成物」から消失した場合でも安定な生理活性物質の放出が保たれる。また、徐放性組成物の製造時の生理活性物質の取り込み効率をあげること、および取り込まれた生理活性物質の投与後の初期過剰放出を抑制しうることも説明できる。
生理活性ペプチドのヒドロキシナフトエ酸塩を含む徐放性組成物におけるヒドロキシナフトエ酸の役割も上記の機構により説明可能である。
【0024】
本明細書における「水不溶性」とは、該物質を40℃以下の温度で、蒸留水中で4時間攪拌したときに、その溶液1L中に溶解する物質の質量が25mg以下の場合をいう。
本明細書における「微水溶性」とは、上記質量が25mgより大きく、5g以下の場合をいう。該物質が生理活性物質の塩である場合は、上記操作において溶解する生理活性物質の質量をもって上記定義を適用する。
本明細書における徐放性組成物の形態は特に限定されないが、微粒子の形態が好ましく、マイクロスフェア(乳酸重合体を含む徐放性組成物の場合はマイクロカプセルとも称する)の形態が特に好ましい。また、本明細書におけるマイクロスフェアとは、溶液に分散させることができる注射可能な球状の微粒子のことをいう。その形態の確認は、例えば、走査型電子顕微鏡による観察で行うことができる。
【0025】
以下に、本発明の生理活性物質またはその塩および本発明の乳酸重合体またはその塩を含有する徐放性組成物(例えば、マイクロカプセル)の製造法を例示する。
以下の製造工程中、必要に応じて、薬物保持剤(例えば、ゼラチン、サリチル酸など)を自体公知の方法により添加してもよい。
(I)水中乾燥法
(i)O/W法
本方法においては、まず本発明の乳酸重合体(以下、本発明の生体内分解性ポリマーと記載する場合がある。)の有機溶媒溶液を作製する。本発明の徐放性製剤の製造の際に使用する有機溶媒は、沸点が120℃以下であることが好ましい。
該有機溶媒としては、例えば、ハロゲン化炭化水素(例、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、エーテル類(例、エチルエーテル、イソプロピルエーテル等)、脂肪酸エステル(例、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、芳香族炭化水素(例、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、アルコール類(例えば、エタノール、メタノール等)、アセトニトリルなどが用いられる。なかでもハロゲン化炭化水素が好ましく、特にジクロロメタンが好適である。また、これらは適宜の割合で混合して用いてもよい。その場合は、ハロゲン化炭化水素とアルコール類との混液が好ましく、特にジクロロメタンとエタノールとの混液が好適である。
【0026】
本発明の生体内分解性ポリマーの有機溶媒溶液中の濃度は、本発明の生体内分解性ポリマーの分子量、有機溶媒の種類によって異なるが、例えば、ジクロロメタンを有機溶媒として用いた場合、一般的には約0.5〜約70重量%、より好ましくは約1〜約60重量%、特に好ましくは約2〜約50重量%から選ばれる。
また、ジクロロメタンとの混有機溶媒としてエタノールを用いた場合の両者の比率は,一般的には約0.01〜約50%(v/v)、より好ましくは約0.05〜約40%(v/v)、特に好ましくは約0.1〜約30%(v/v)から選ばれる。
このようにして得られた本発明の生体内分解性ポリマーの有機溶媒溶液中に、生理活性物質を添加し、溶解あるいは分散させる。この際、生理活性物質の添加量は、生理活性物質:本発明の生体内分解性ポリマーの重量比の上限が約1:1まで、好ましくは約1:2までとなるようにする。
【0027】
次いで,得られた生理活性物質又はその塩及び本発明の生体内分解性ポリマーから成る組成物を含む有機溶媒溶液を水相中に加え、O(油相)/W(水相)エマルションを形成させた後、油相中の溶媒を蒸発させ、マイクロカプセルを調製する。この際の水相体積は、一般的には油相体積の約1倍〜約10,000倍、より好ましくは約5倍〜約5,000倍、特に好ましくは約10倍〜約2,000倍から選ばれる。
上記の外水相中には乳化剤を加えてもよい。該乳化剤は、一般に安定なO/Wエマルションを形成できるものであればいずれでもよい。具体的には、例えば、アニオン性界面活性剤(オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル〔ツイーン(Tween)80、ツイーン(Tween)60、アトラスパウダー社〕、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体〔HCO-60、HCO-50、日光ケミカルズ〕など)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、レシチン、ゼラチン、ヒアルロン酸などが用いられる。これらの中の1種類か、いくつかを組み合わせて使用してもよい。使用の際の濃度は、好ましくは約0.01〜10重量%の範囲で、さらに好ましくは約0.05〜約5重量%の範囲で用いられる。
【0028】
上記の外水相中には浸透圧調節剤を加えてもよい。該浸透圧調節剤としては、水溶液とした場合に浸透圧を示すものであればよい。
該浸透圧調節剤としては、例えば、多価アルコール類、一価アルコール類、単糖類、二糖類、オリゴ糖およびアミノ酸類またはそれらの誘導体などがあげられる。
上記の多価アルコール類としては、例えば、グリセリン等の三価アルコール類、アラビトール,キシリトール,アドニトール等の五価アルコール類、マンニトール,ソルビトール,ズルシトール等の六価アルコール類などが用いられる。なかでも、六価アルコール類が好ましく、特にマンニトールが好適である。
上記の一価アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどがあげられ、このうちエタノールが好ましい。
上記の単糖類としては、例えば、アラビノース,キシロース,リボース,2ーデオキシリボース等の五炭糖類、ブドウ糖,果糖,ガラクトース,マンノース,ソルボース,ラムノース,フコース等の六炭糖類が用いられ、このうち六炭糖類が好ましい。
上記のオリゴ糖としては、例えば、マルトトリオース,ラフィノース糖等の三糖類、スタキオース等の四糖類などが用いられ、このうち三糖類が好ましい。
【0029】
上記の単糖類、二糖類およびオリゴ糖の誘導体としては、例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、グルクロン酸、ガラクツロン酸などが用いられる。
上記のアミノ酸類としては、L−体のものであればいずれも用いることができ、例えば、グリシン、ロイシン、アルギニンなどがあげられる。このうちL−アルギニンが好ましい。
これらの浸透圧調節剤は単独で使用しても、混合して使用してもよい。
これらの浸透圧調節剤は、外水相の浸透圧が生理食塩水の浸透圧の約1/50〜約5倍、好ましくは約1/25〜約3倍となる濃度で用いられる。浸透圧調節剤としてマンニトールを用いた場合、0.5%〜1.5%の濃度が好ましい。
有機溶媒を除去する方法としては、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法が用いられる。例えば、プロペラ型撹拌機またはマグネチックスターラーなどで撹拌しながら常圧もしくは徐々に減圧にして有機溶媒を蒸発させる方法、ロータリーエヴァポレーターなどを用いて真空度を調節しながら有機溶媒を蒸発させる方法などがあげられる。
このようにして得られたマイクロカプセルは遠心分離または濾過して分取した後、マイクロカプセルの表面に付着している遊離の生理活性物質、乳化剤などを蒸留水で数回繰り返し洗浄し、再び蒸留水などに分散して凍結乾燥する。
【0030】
製造工程中、粒子同士の凝集を防ぐために凝集防止剤を加えてもよい。該凝集防止剤としては、例えば、マンニトール,ラクトース,ブドウ糖,デンプン類(例、コーンスターチ等)などの水溶性多糖、グリシンなどのアミノ酸、フィブリン,コラーゲンなどのタンパク質などが用いられる。なかでも、マンニトールが好適である。
マンニトール等の凝集防止剤の添加量は、マイクロカプセル全体に対して、通常0〜約24重量%である。
また、凍結乾燥後、必要であれば、減圧下マイクロカプセル同士が融着しない条件下で加温してマイクロカプセル中の水分および有機溶媒の除去を行ってもよい。好ましくは、毎分10〜20℃の昇温速度の条件下で示差走査熱量計で求めた生体内分解性ポリマーの中間点ガラス転移温度付近あるいは若干高い温度で加温する。より好ましくは生体内分解性ポリマーの中間点ガラス転移温度付近あるいはこれより約30℃高い温度範囲内で加温する。とりわけ,生体内分解性ポリマーとして乳酸-グリコール酸重合体を用いる場合には好ましくはその中間点ガラス転移温度付近から中間点ガラス転移温度より10℃高い温度範囲,さらに好ましくは、中間点ガラス転移温度付近から中間点ガラス転移温度より5℃高い温度範囲で加温する。
加温時間はマイクロカプセルの量などによって異なるものの、一般的にはマイクロカプセル自体が所定の温度に達した後、約12時間〜約168時間、好ましくは約24時間〜約120時間、特に好ましくは約48時間〜約96時間である。
加温方法は、マイクロカプセルの集合が均一に加温できる方法であれば特に限定されない。
該加温乾燥方法としては、例えば、恒温槽、流動槽、移動槽またはキルン中で加温乾燥する方法、マイクロ波で加温乾燥する方法などが用いられる。なかでも恒温槽中で加温乾燥する方法が好ましい。
【0031】
(ii)W/O/W法
まず、本発明の生体内分解性ポリマーの有機溶媒溶液を作る。
該有機溶媒としては、例えば、ハロゲン化炭化水素(例、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、エーテル類(例、エチルエーテル、イソプロピルエーテル等)、脂肪酸エステル(例、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、芳香族炭化水素(例、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、アルコール類(例えば、エタノール、メタノール等)、アセトニトリルなどが用いられる。なかでも、ハロゲン化炭化水素が好ましく、特にジクロロメタンが好適である。これらは適宜の割合で混合して用いてもよい。その場合は、ハロゲン化炭化水素とアルコール類の混液が好ましく、特にジクロロメタンとエタノールとの混液が好適である。
本発明の生体内分解性ポリマーの有機溶媒溶液中の濃度はその分子量、有機溶媒の種類によって異なるが、例えば、ジクロロメタンを有機溶媒として用いた場合、一般的には約0.5〜約70重量%、より好ましくは約1〜約60重量%、特に好ましくは約2〜約50重量%から選ばれる。
【0032】
次いで、本発明の生体内分解性ポリマーの有機溶媒溶液(油相)に生理活性物質またはその塩の溶液〔該溶媒としては、水、水とアルコール類(例、メタノール、エタノール等)の混液〕を添加する。この混合物をホモジナイザーまたは超音波等の公知の方法で乳化し、W/Oエマルションを形成させる。
混合する油相の体積は内水相の体積に対し、約1〜約1000倍、好ましくは約2〜100倍、より好ましくは約3〜10倍である。
得られたW/Oエマルションの粘度範囲は一般的には約12〜25℃で、約10〜10,000cpで、好ましくは約100〜5,000cpである。特に好ましくは約500〜2,000cpである。
次いで,得られた生理活性物質および本発明の生体内分解性ポリマーから成るW/Oエマルションを水相中に加え、W(内水相)/O(油相)/ W(外水相)エマルションを形成させた後、油相中の溶媒を蒸発させ、マイクロカプセルを調製する。この際の外水相体積は一般的には油相体積の約1倍〜約10,000倍、より好ましくは約5倍〜約5,000倍、特に好ましくは約10倍〜約2,000倍から選ばれる。
上記の外水相中に加えてもよい乳化剤や浸透圧調節剤、およびその後の調製法は上記(I)(i)項に記載と同様である。
【0033】
(II)相分離法
本法によってマイクロカプセルを製造する場合には,上記(I)の水中乾燥法に記載した生理活性物質及び本発明の生体内分解性ポリマーから成る組成物を含む有機溶媒溶液にコアセルベーション剤を撹拌下徐々に加えてマイクロカプセルを析出,固化させる。該コアセルベーション剤は油相体積の約0.01〜1,000倍、好ましくは約0.05〜500倍、特に好ましくは約0.1〜200倍から選ばれる。
コアセルベーション剤としては、有機溶媒と混和する高分子系,鉱物油系または植物油系の化合物等で本発明の生体内分解性ポリマーを溶解しないものであれば特に限定はされない。具体的には、例えば、シリコン油,ゴマ油,大豆油,コーン油,綿実油,ココナッツ油,アマニ油,鉱物油,n-ヘキサン,n-ヘプタンなどが用いられる。これらは2種類以上混合して使用してもよい。
このようにして得られたマイクロカプセルを分取した後、ヘプタン等で繰り返し洗浄して生理活性物質及び本発明の生体内分解性ポリマーからなる組成物以外のコアセルベーション剤等を除去し、減圧乾燥する。もしくは、上記(I)(i)の水中乾燥法で記載と同様の方法で洗浄を行った後に凍結乾燥、さらには加温乾燥する。
【0034】
(III)噴霧乾燥法
本法によってマイクロカプセルを製造する場合には,上記(I)の水中乾燥法に記載した生理活性物質及び本発明の生体内分解性ポリマーの2者から成る組成物を含有する有機溶媒溶液または分散液をノズルを用いてスプレードライヤー(噴霧乾燥器)の乾燥室内に噴霧し、極めて短時間内に微粒化液滴内の有機溶媒を揮発させ、マイクロカプセルを調製する。該ノズルとしては、例えば、二流体ノズル型,圧力ノズル型,回転ディスク型等がある。この後、必要であれば、上記(I)の水中乾燥法で記載と同様の方法で洗浄を行った後に凍結乾燥、さらには加温乾燥してもよい。
上記のマイクロカプセル以外の剤形としてマイクロカプセルの製造法(I)の水中乾燥法に記載した生理活性物質及び本発明の生体内分解性ポリマーから成る組成物を含む有機溶媒溶液または分散液を、例えば、ロータリーエヴァポレーターなどを用いて真空度を調節しながら有機溶媒および水を蒸発させて乾固した後、ジェットミルなどで粉砕して微粒子(マイクロパーティクル)としてもよい。
さらには、粉砕した微粒子をマイクロカプセルの製造法(I)の水中乾燥法で記載と同様の方法で洗浄を行った後に凍結乾燥、さらには加温乾燥してもよい。
【0035】
以下に、本発明の生理活性物質またはその塩、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩および本発明の乳酸重合体またはその塩を含有する徐放性組成物(例えば、マイクロカプセル)の製造法を例示するが、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩を含まない場合も同様にして製造することができる。
(I)水中乾燥法
(i)O/W法
本方法においては、まずヒドロキシナフトエ酸またはその塩および乳酸重合体またはその塩の有機溶媒溶液を作製する。本発明の徐放性製剤の製造の際に使用する有機溶媒は、沸点が120℃以下であることが好ましい。
該有機溶媒としては、例えば、ハロゲン化炭化水素(例、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、エーテル類(例、エチルエーテル、イソプロピルエーテル等)、脂肪酸エステル(例、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、芳香族炭化水素(例、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、アルコール類(例えば、エタノール、メタノール等)、アセトニトリルなどが用いられる。乳酸重合体またはその塩の有機溶媒としてはなかでもジクロロメタンが好ましい。
ヒドロキシナフトエ酸またはその塩の有機溶媒としてはアルコール類が好ましい。それぞれ別個に溶解した後に混合してもよいし、これらは適宜の割合で混合された有機溶媒中に2者を溶解して用いてもよい。なかでも、ハロゲン化炭化水素とアルコール類との混液が好ましく、特にジクロロメタンとエタノールとの混液が好適である。
ジクロロメタンとの混有機溶媒としてエタノールを用いた場合におけるジクロロメタンとエタノールとの混有機溶媒中のエタノールの含有率は,一般的には約0.01〜約50%(v/v)、より好ましくは約0.05〜約40%(v/v) 、特に好ましくは約0.1〜約30%(v/v)から選ばれる。
乳酸重合体の有機溶媒溶液中の濃度は、乳酸重合体の分子量、有機溶媒の種類によって異なるが、例えば、ジクロロメタンを有機溶媒として用いた場合、一般的には約0.5〜約70重量% 、より好ましくは約1〜約60重量% 、特に好ましくは約2〜約50重量%から選ばれる。
ヒドロキシナフトエ酸またはその塩の有機溶媒中の濃度は、例えばジクロロメタンとエタノールの混液を有機溶媒として用いた場合、一般的には約0.01〜約10重量%、より好ましくは約0.1〜約5重量%、特に好ましくは約0.5〜約3重量%から選ばれる。
【0036】
このようにして得られたヒドロキシナフトエ酸またはその塩および乳酸重合体の有機溶媒溶液中に、生理活性物質またはその塩を添加し、溶解あるいは分散させる。次いで、得られた生理活性物質またはその塩、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩および乳酸重合体またはその塩から成る組成物を含む有機溶媒溶液を水相中に加え、O(油相)/W(水相)エマルションを形成させた後、油相中の溶媒を揮散ないしは水相中に拡散させ、マイクロカプセルを調製する。この際の水相体積は、一般的には油相体積の約1倍〜約10,000倍、より好ましくは約5倍〜約5,000倍、特に好ましくは約10倍〜約2,000倍から選ばれる。
上記の外水相中には乳化剤を加えてもよい。該乳化剤は、一般に安定なO/Wエマルションを形成できるものであればいずれでもよい。具体的には、例えば、アニオン性界面活性剤(オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル〔ツイーン(Tween)80、ツイーン(Tween)60、アトラスパウダー社〕、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体〔HCO−60、HCO−50、日光ケミカルズ〕など)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、レシチン、ゼラチン、ヒアルロン酸などが用いられる。これらの中の1種類か、いくつかを組み合わせて使用してもよい。使用の際の濃度は、好ましくは約0.01〜10重量%の範囲で、さらに好ましくは約0.05〜約5重量%の範囲で用いられる。
【0037】
上記の外水相中には浸透圧調節剤を加えてもよい。該浸透圧調節剤としては、水溶液とした場合に浸透圧を示すものであればよい。
該浸透圧調節剤としては、例えば、多価アルコール類、一価アルコール類、単糖類、二糖類、オリゴ糖およびアミノ酸類またはそれらの誘導体などが挙げられる。
上記の多価アルコール類としては、例えば、グリセリン等の三価アルコール類、アラビトール,キシリトール,アドニトール等の五価アルコール類、マンニトール,ソルビトール,ズルシトール等の六価アルコール類などが用いられる。なかでも、六価アルコール類が好ましく、特にマンニトールが好適である。
上記の一価アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられ、このうちエタノールが好ましい。
上記の単糖類としては、例えば、アラビノース,キシロース,リボース,2−デオキシリボース等の五炭糖類、ブドウ糖,果糖,ガラクトース,マンオース,ソルボース,ラムノース,フコース等の六炭糖類が用いられ、このうち六炭糖類が好ましい。
上記のオリゴ糖としては、例えば、マルトトリオース,ラフィノース糖等の三糖類、スタキオース等の四糖類などが用いられ、このうち三糖類が好ましい。
上記の単糖類、二糖類およびオリゴ糖の誘導体としては、例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、グルクロン酸、ガラクツロン酸などが用いられる。
上記のアミノ酸類としては、L−体のものであればいずれも用いることができ、例えば、グリシン、ロイシン、アルギニンなどが挙げられる。このうちL−アルギニンが好ましい。
これらの浸透圧調節剤は単独で使用しても、混合して使用してもよい。
これらの浸透圧調節剤は、外水相の浸透圧が生理食塩水の浸透圧の約1/50〜約5倍、好ましくは約1/25〜約3倍となる濃度で用いられる。浸透圧調節剤としてマンニトールを用いた場合、0.5%〜1.5%の濃度が好ましい。
【0038】
有機溶媒を除去する方法としては、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法が用いられる。例えば、プロペラ型撹拌機またはマグネチックスターラーや超音波発生装置などで撹拌しながら常圧もしくは徐々に減圧にして有機溶媒を蒸発させる方法、ロータリーエヴァポレーターなどを用いて真空度を調節しながら有機溶媒を蒸発させる方法、透析膜を用いて徐々に有機溶媒を除去する方法などが挙げられる。
このようにして得られたマイクロカプセルは遠心分離または濾過して分取した後、マイクロカプセルの表面に付着している遊離の生理活性物質またはその塩、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩、薬物保持物質、乳化剤などを蒸留水で数回繰り返し洗浄し、再び蒸留水などに分散して凍結乾燥する。
製造工程中、粒子同士の凝集を防ぐために凝集防止剤を加えてもよい。該凝集防止剤としては、例えば、マンニトール,ラクトース,ブドウ糖,デンプン類(例、コーンスターチ等)などの水溶性多糖、グリシンなどのアミノ酸、フィブリン,コラーゲンなどのタンパク質などが用いられる。なかでも、マンニトールが好適である。
マンニトール等の凝集防止剤の添加量は、マイクロカプセル全体に対して、通常0〜約24重量%である。
【0039】
また、凍結乾燥後、必要であれば、減圧下マイクロカプセルが同士が融着しない条件内で加温してマイクロカプセル中の水分および有機溶媒の除去を行ってもよい。好ましくは、毎分10〜20℃の昇温速度の条件下で示差走査熱量計で求めた乳酸重合体の中間点ガラス転移温度付近あるいは若干高い温度で加温する。より好ましくは乳酸重合体の中間点ガラス転移温度付近あるいはこれより約30℃高い温度範囲内で加温する。とりわけ,乳酸重合体として乳酸−グリコール酸重合体を用いる場合には好ましくはその中間点ガラス転移温度付近から中間点ガラス転移温度より10℃高い温度範囲,さらに好ましくは、中間点ガラス転移温度付近から中間点ガラス転移温度より5℃高い温度範囲で加温する。
加温時間はマイクロカプセルの量などによって異なるものの、一般的にはマイクロカプセル自体が所定の温度に達した後、約12時間〜約168時間、好ましくは約24時間〜約120時間、特に好ましくは約48時間〜約96時間である。
加温方法は、マイクロカプセルの集合が均一に加温できる方法であれば特に限定されない。
該加温乾燥方法としては、例えば、恒温槽、流動槽、移動槽またはキルン中で加温乾燥する方法、マイクロ波で加温乾燥する方法などが用いられる。このなかで恒温槽中で加温乾燥する方法が好ましい。
【0040】
(ii)W/O/W法(1)
まず、乳酸重合体またはその塩の有機溶媒溶液を調製する。
該有機溶媒ならびに乳酸重合体またはその塩の有機溶媒溶液中の濃度は、上記(I)(i)項に記載と同様である。また混有機溶媒を用いる場合には、その両者の比率は、上記(I)(i)項に記載と同様である。
このようにして得られた乳酸重合体またはその塩の有機溶媒溶液中に、生理活性物質またはその塩を添加し、溶解あるいは分散させる。次いで、得られた生理活性物質またはその塩と乳酸重合体またはその塩からなる組成物を含む有機溶媒溶液(油相)にヒドロキシナフトエ酸またはその塩の溶液〔該溶媒としては、水、アルコール類(例、メタノール、エタノール等)の水溶液、ピリジン水溶液、ジメチルアセトアミド水溶液等)〕を添加する。この混合物をホモジナイザーまたは超音波等の公知の方法で乳化し、W/Oエマルションを形成させる。
次いで、得られた生理活性物質またはその塩、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩および乳酸重合体またはその塩から成るW/Oエマルションを水相中に加え、W(内水相)/O(油相)/ W(外水相)エマルションを形成させた後、油相中の溶媒を揮散させ、マイクロカプセルを調製する。この際の外水相体積は一般的には油相体積の約1倍〜約10,000倍、より好ましくは約5倍〜約5,000倍、特に好ましくは約10倍〜約2,000倍から選ばれる。
上記の外水相中に加えてもよい乳化剤や浸透圧調節剤、およびその後の調製法は上記(I)(i)項に記載と同様である。
【0041】
(iii)W/O/W法(2)
まず、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩と乳酸重合体またはその塩の有機溶媒溶液を作成し、そうして得られた有機溶媒溶液を油相と称する。該作成法は、上記(I)(i)項に記載と同様である。あるいは、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩と乳酸重合体をそれぞれ別々に有機溶媒溶液として作成し、その後に混合してもよい。乳酸重合体の有機溶媒溶液中の濃度は、乳酸重合体の分子量、有機溶媒の種類によって異なるが、例えば、ジクロロメタンを有機溶媒として用いた場合、一般的には約0.5〜約70重量% 、より好ましくは約1〜約60重量% 、特に好ましくは約2〜約50重量%から選ばれる。
次に生理活性物質またはその塩の溶液または分散液〔該溶媒としては、水、水とアルコール類(例、メタノール、エタノール等)などとの混液〕を作成する。
生理活性物質またはその塩の添加濃度は一般的には0.001mg/ml〜10g/ml、より好ましくは0.1mg/ml〜5g/mlで更に好ましくは10mg/ml〜3g/mlである。
生理活性物質の塩としては上記該生理活性物質がアミノ基等の塩基性基を有する場合、無機酸(無機の遊離酸とも称する)(例、炭酸、重炭酸、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等)、有機酸(有機の遊離酸とも称する)(例、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等)などとの塩が挙げられる。
生理活性物質がカルボキシル基等の酸性基を有する場合、無機塩基(無機の遊離塩基とも称する)(例、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属など)や有機塩基(有機の遊離塩基とも称する)(例、トリエチルアミン等の有機アミン類、アルギニン等の塩基性アミノ酸類等)などとの塩が挙げられる。また、生理活性ペプチドは金属錯体化合物(例、銅錯体、亜鉛錯体等)を形成していてもよい。生理活性物質がLHRH誘導体の場合、特に酢酸を添加することが好ましい。
溶解補助剤、安定化剤として公知のものを用いてもよい。生理活性物質や添加剤の溶解あるいは分散には活性が失われない程度に加熱、振とう、撹拌などを行ってもよく、そうして得られた水溶液を内水相と称する。
【0042】
上記により得られた内水相と油相とをホモジナイザーまたは超音波等の公知の方法で乳化し、W/Oエマルションを形成させる。
混合する油相の体積は内水相の体積に対し、約1〜約1000倍、好ましくは約2〜100倍、より好ましくは約3〜10倍である。
得られたW/Oエマルションの粘度範囲は一般的には約12〜25℃で、約10〜10,000cpで、好ましくは約100〜5,000cpである。さらに好ましくは約500〜2,000cpである。
次いで、得られた生理活性物質またはその塩、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩および乳酸重合体またはその塩から成るW/Oエマルションを水相中に加え、W(内水相)/O(油相)/W(外水相)エマルションを形成させた後、油相中の溶媒を揮散ないしは外水相中に拡散させ、マイクロカプセルを調製する。この際の外水相体積は一般的には油相体積の約1倍〜約10,000倍、より好ましくは約5倍〜約5,000倍、特に好ましくは約10倍〜約2,000倍から選ばれる。
上記の外水相中に加えてもよい乳化剤や浸透圧調節剤、およびその後の調製法は上記(I)(i)項に記載と同様である。
【0043】
(II)相分離法
本法によってマイクロカプセルを製造する場合には,上記(I)の水中乾燥法に記載した生理活性物質またはその塩、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩および乳酸重合体またはその塩の3者から成る組成物を含む有機溶媒溶液にコアセルベーション剤を撹拌下徐々に加えてマイクロカプセルを析出,固化させる。該コアセルベーション剤は油相体積の約0.01〜1,000倍、好ましくは約0.05〜500倍、特に好ましくは約0.1〜200倍から選ばれる。
コアセルベーション剤としては、有機溶媒と混和する高分子系,鉱物油系または植物油系の化合物等で生理活性物質またはその塩のヒドロキシナフトエ酸またはその塩および乳酸重合体またはその塩の複合体を溶解しないものであれば特に限定はされない。具体的には、例えば、シリコン油、ゴマ油、大豆油、コーン油、綿実油、ココナッツ油、アマニ油、鉱物油、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどが用いられる。これらは2種類以上混合して使用してもよい。
このようにして得られたマイクロカプセルを分取した後、ヘプタン等で繰り返し洗浄して生理活性物質またはその塩、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩および乳酸重合体またはその塩からなる組成物以外のコアセルベーション剤等を除去し、減圧乾燥する。もしくは、上記(I)(i)の水中乾燥法で記載と同様の方法で洗浄を行った後に凍結乾燥、さらには加温乾燥する。
【0044】
(III)噴霧乾燥法
本法によってマイクロカプセルを製造する場合には,上記(I)の水中乾燥法に記載した生理活性物質またはその塩、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩および乳酸重合体またはその塩の3者を含有する有機溶媒溶液をノズルを用いてスプレードライヤー(噴霧乾燥器)の乾燥室内に噴霧し、極めて短時間内に微粒化液滴内の有機溶媒を揮発させ、マイクロカプセルを調製する。該ノズルとしては、例えば、二流体ノズル型,圧力ノズル型,回転ディスク型等がある。この後、必要であれば、上記(I)の水中乾燥法で記載と同様の方法で洗浄を行った後に凍結乾燥、さらには加温乾燥してもよい。
上記のマイクロカプセル以外の剤形としてマイクロカプセルの製造法(I)の水中乾燥法に記載した生理活性物質またはその塩、ヒドロキシナフトエ酸またはその塩および乳酸重合体またはその塩を含む有機溶媒溶液を例えばロータリーエヴァポレーターなどを用いて真空度を調節しながら有機溶媒および水を蒸発させて乾固した後、ジェットミルなどで粉砕して微粉末(マイクロパーティクルとも称する)としてもよい。
さらには、粉砕した微粉末をマイクロカプセルの製造法(I)の水中乾燥法で記載と同様の方法で洗浄を行った後に凍結乾燥、さらには加温乾燥してもよい。
ここで得られるマイクロカプセルまたは微粉末は使用する乳酸重合体または乳酸−グリコール酸重合体の分解速度に対応した薬物放出が達成できる。
次に、本発明の生理活性物質のヒドロキシナフトエ酸塩を含む徐放性組成物の製造法について例示する。 本製造法においては生理活性物質として、生理活性ペプチドが好ましく用いられる。
【0045】
(IV)2ステップ法
生理活性物質またはその塩を上記の生理活性物質の配合量の定義で示した重量比率になるようにヒドロキシナフトエ酸またはその塩の有機溶媒溶液に加え、生理活性物質のヒドロキシナフトエ酸塩を含有する有機溶媒溶液を作る。
該有機溶媒としては、上記(I)(i)に記載と同様である。また混有機溶媒を用いる場合には、その両者の比率は、上記(I)(i)項に記載と同様である。
生理活性物質のヒドロキシナフトエ酸塩を含有する組成物を析出させるための有機溶媒を除去する方法は、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法が用いられる。例えば、ロータリーエヴァポレーターなどを用いて真空度を調節しながら有機溶媒を蒸発させる方法などが挙げられる。
このようにして得られた生理活性物質のヒドロキシナフトエ酸塩を含有する組成物の有機溶媒溶液を再度作り、徐放性組成物(マイクロスフェアまたは微粒子)を作製することができる。
該有機溶媒としては、例えば、ハロゲン化炭化水素(例、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、エーテル類(例、エチルエーテル、イソプロピルエーテル等)、脂肪酸エステル(例、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、芳香族炭化水素(例、ベンゼン、トルエン、キシレン等)などが用いられる。これらは適宜の割合で混合して用いてもよい。なかでも、ハロゲン化炭化水素が好ましく、特にジクロロメタンが好適である。
次いで、得られた生理活性物質のヒドロキシナフトエ酸塩を含有する組成物を含む有機溶媒溶液を水相中に加え、O(油相)/W(水相)エマルションを形成させた後、油相中の溶媒を蒸発させ、マイクロスフェアを調製する。この際の水相体積は、一般的には、油相体積の約1倍〜約10,000倍、より好ましくは約5倍〜約5,000倍、特に好ましくは約10倍〜約2,000倍から選ばれる。
【0046】
上記の外水相中に加えてもよい乳化剤や浸透圧調節剤、およびその後の調製法は上記(I)(i)項に記載と同様である。
有機溶媒を除去する方法としては、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法が用いられる。例えば、プロペラ型撹拌機またはマグネチックスターラーなどで撹拌しながら、常圧もしくは徐々に減圧にして有機溶媒を蒸発させる方法、ロータリーエバポレーターなどを用いて真空度を調節しながら有機溶媒を蒸発させる方法などが挙げられる。
このようにして得られたマイクロスフェアは遠心分離または濾過して分取した後、マイクロスフェアの表面に付着している遊離の生理活性物質、ヒドロキシナフトエ酸、乳化剤などを蒸留水で数回繰り返し洗浄し、再び蒸留水などに分散して凍結乾燥する。
製造工程中、粒子同士の凝集を防ぐために凝集防止剤を加えてもよい。該凝集防止剤としては、例えば、マンニトール、ラクトース、ブドウ糖、デンプン類(例、コーンスターチ等)などの水溶性多糖、グリシンなどのアミノ酸、フィブリン、コラーゲンなどのタンパク質などが挙げられる。なかでも、マンニトールが好ましい。
また、凍結乾燥後、必要であれば、減圧下マイクロスフェアが同士が融着しない条件内で加温してマイクロスフェア中の水分および有機溶媒の除去をさらに行ってもよい。
加温時間はマイクロスフェアの量などによって異なるものの、一般的にはマイクロスフェア自体が所定の温度に達した後、約12時間〜約168時間、好ましくは約24時間〜約120時間、特に好ましくは約48時間〜約96時間である。
加温方法は、マイクロスフェアの集合が均一に加温できる方法であれば特に限定されない。
該加温乾燥方法としては、例えば、恒温槽、流動槽、移動槽またはキルン中で加温乾燥する方法、マイクロ波で加温乾燥する方法などが用いられる。このなかで恒温槽中で加温乾燥する方法が好ましい。得られたマイクロスフェアは比較的均一な球状の形態をしており、注射投与時の抵抗が少なく、針つまりを起こしにくい。また、細い注射針を使うことができるため、注射時の患者の苦痛が軽減される。
【0047】
(V)1ステップ法
生理活性物質またはその塩を上記の生理活性物質の配合量の定義で示した重量比率になるようにヒドロキシナフトエ酸またはその塩の有機溶媒溶液に加え、生理活性物質のヒドロキシナフトエ酸塩を含有する有機溶媒溶液を作り、徐放性製剤(マイクロスフェアまたは微粒子)を作製する。
該有機溶媒としては、上記(I)(i)に記載と同様である。また混有機溶媒を用いる場合には、その両者の比率は、上記(I)(i)項に記載と同様である。
次いで、生理活性物質のヒドロキシナフトエ酸塩を含有する有機溶媒溶液を水相中に加え、O(油相)/W(水相)エマルションを形成させた後、油相中の溶媒を蒸発させ、マイクロスフェアを調製する。この際の水相体積は、一般的には油相体積の約1倍〜約10,000倍、より好ましくは約5倍〜約5,000倍、特に好ましくは約10倍〜約2,000倍から選ばれる。
上記の外水相中に加えてもよい乳化剤や浸透圧調節剤、およびその後の調製法は上記(IV)項に記載と同様である。
【0048】
本発明の徐放性組成物は、マイクロスフェア、マイクロカプセル、微粉末(マイクロパーティクル)など何れの形態であってもよいが、マイクロカプセルが好適である。
本発明の徐放性組成物は、そのまままたはこれらを原料物質として種々の剤形に製剤化し、筋肉内、皮下、臓器などへの注射剤または埋め込み剤、鼻腔、直腸、子宮などへの経粘膜剤、経口剤(例、カプセル剤(例、硬カプセル剤、軟カプセル剤等)、顆粒剤、散剤等の固形製剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等の液剤等)などとして投与することができる。
例えば、本発明の徐放性組成物を注射剤とするには、これらを分散剤(例、ツイーン(Tween)80,HCO−60等の界面活性剤、ヒアルロン酸ナトリウム,カルボキシメチルセルロース,アルギン酸ナトリウム等の多糖類など)、保存剤(例、メチルパラベン、プロピルパラベンなど)、等張化剤(例、塩化ナトリウム,マンニトール,ソルビトール,ブドウ糖,プロリンなど)等と共に水性懸濁剤とするか、ゴマ油、コーン油などの植物油と共に分散して油性懸濁剤として実際に使用できる徐放性注射剤とすることができる。
【0049】
本発明の徐放性組成物の粒子径は、懸濁注射剤として使用する場合には、その分散度、通針性を満足する範囲であればよく、例えば、平均粒子径として約0.1〜300μm、好ましくは約0.5〜150μmの範囲、さらに好ましくは約1から100μmの範囲である。
本発明の徐放性組成物を無菌製剤にするには、製造全工程を無菌にする方法、ガンマ線で滅菌する方法、防腐剤を添加する方法等が挙げられるが、特に限定されない。
本発明の徐放性組成物は、低毒性であるので、哺乳動物(例、ヒト、牛、豚、犬、ネコ、マウス、ラット、ウサギ等)に対して安全な医薬などとして用いることができる。
本発明の徐放性組成物の投与量は、主薬である生理活性物質の種類と含量、剤形、生理活性物質放出の持続時間、対象疾病、対象動物などによって種々異なるが、生理活性物質の有効量であればよい。主薬である生理活性物質の1回当たりの投与量としては、例えば、徐放性製剤が6カ月製剤である場合、好ましくは、成人1人当たり約0.01mg〜10mg/kg体重の範囲,さらに好ましくは約0.05mg〜5mg/kg体重の範囲から適宜選ぶことができる。
1回当たりの徐放性組成物の投与量は、成人1人当たり好ましくは、約0.05mg〜50mg/kg体重の範囲、さらに好ましくは約0.1mg〜30mg/kg体重の範囲から適宜選ぶことができる。
投与回数は、数週間に1回、1か月に1回、または数か月(例、3ヵ月、4ヵ月、6ヵ月など)に1回等、主薬である生理活性物質の種類と含量、剤形、生理活性物質放出の持続時間、対象疾病、対象動物などによって適宜選ぶことができる。
本発明の徐放性組成物は、含有する生理活性物質の種類に応じて、種々の疾患などの予防・治療剤として用いることができるが、例えば、生理活性物質が、LH−RH誘導体である場合には、ホルモン依存性疾患、特に性ホルモン依存性癌(例、前立腺癌、子宮癌、乳癌、下垂体腫瘍など)、前立腺肥大症、子宮内膜症、子宮筋腫、思春期早発症、月経困難症、無月経症、月経前症候群、多房性卵巣症候群等の性ホルモン依存性の疾患の予防・治療剤、閉経前乳癌術後再発予防剤、アルツハイマー病や免疫不全等の疾患の予防・治療剤、および避妊(もしくは、その休薬後のリバウンド効果を利用した場合には、不妊症の予防・治療)剤などとして用いることができる。さらに、性ホルモン非依存性であるがLH−RH感受性である良性または悪性腫瘍などの予防・治療剤としても用いることができる。
したがって、哺乳動物に本願治療・予防剤を有効量投与することにより、ホルモン依存性疾患、特に性ホルモン依存性癌(例、前立腺癌、子宮癌、乳癌、下垂体腫瘍など)、前立腺肥大症、子宮内膜症、子宮筋腫、思春期早発症、月経困難症、無月経症、月経前症候群、多房性卵巣症候群等の性ホルモン依存性の疾患の予防・治療または避妊をすることができ、さらに閉経前乳癌術後再発予防することができる。
【0050】
以下、実施例・参考例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
以下の実施例・参考例における重量平均分子量及び各重合体含有量は、単分散ポリスチレンを基準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量及びそれらから算出した各重合体含有量である。また、測定は全て高速GPC装置(東ソー(株)製;HLC−8120GPC)で行い、カラムはSuperH4000×2及びSuperH2000(何れも東ソー(株)製)を使用し、移動相としてテトラヒドロフランを流速0.6mL/minで使用した。尚、検出方法は示差屈折率によるものである。
参考例A1
【0051】
高分子量乳酸重合体の合成
脱水キシレン230mLに1.0mol/Lジエチル亜鉛ヘキサン溶液4.1mL、乳酸tert−ブチル1.35g及びDL−ラクチド230gを加え、120〜130℃で約2時間重合反応させた。反応終了後、反応液にジクロロメタン120mLを注入し、トリフルオロ酢酸230mLを加え脱保護反応させた。反応終了後、反応液にジクロロメタン300mLを加えた後、該反応液をイソプロピルエーテル2800mL中に注ぎ、目的物を沈殿させ、次いでジクロロメタン/イソプロピルエーテルで再沈殿操作を繰り返し、重量平均分子量約40000の乳酸重合体を得た。
参考例B1
【0052】
参考例A1で得られた重合体をジクロロメタン600mLに溶解し、該溶液の液性が中性となるまで水洗した後、90%乳酸水溶液70gを添加し、40℃で反応させた。反応液中に溶解している重合体の重量平均分子量が約20,000となったところで室温まで冷却し、ジクロロメタン600mLを注入して反応を停止させ、反応液の液性が中性となるまで水洗した。水洗後、反応液を濃縮、乾燥させて乳酸重合体を得た。得られた乳酸重合体の末端カルボキシル基は重合体1g当たり約80μmolであり、分子量5000以下の重合体含有量は7.29重量%であった。
参考例C1
【0053】
参考例A1で得られた重合体をジクロロメタン600mLに溶解し、該溶液の液性が中性となるまで水洗した後、90%乳酸水溶液70gを添加し、40℃で反応させた。反応液中に溶解している重合体の重量平均分子量が約20,000となったところで室温まで冷却し、ジクロロメタン600mLを注入して反応を停止させ、反応液の液性が中性となるまで水洗した後、反応液をイソプロピルエーテル2800mL中に滴下し、目的とする乳酸重合体を沈殿させた。デカンテーションにより得られた沈殿物をジクロロメタン600mLに溶解した後、溶液を濃縮、乾燥して乳酸重合体160gを得た。得られた乳酸重合体の末端カルボキシル基量は重合体1g当たり約70μmolであった。また、使用した高分子量乳酸重合体の重量平均分子量、加水分解処理後の乳酸重合体の重量平均分子量、得られた目的の乳酸重合体の重量平均分子量及びその分子量分画を表1に示す。
参考例C2〜6
【0054】
参考例C1と同様な操作を行い、本発明の乳酸重合体を得た。使用した高分子量乳酸重合体の重量平均分子量、加水分解処理後の乳酸重合体の重量平均分子量、得られた目的の乳酸重合体の重量平均分子量及びその分子量分画を表1に併せて示す。
【表1】

表1から明らかな如く、本発明の方法によって得られた本発明の乳酸重合体は、分子量5000以下の重合体含有量が約5重量%以下であり、分子量3000以下の重合体含有量が約1.5重量%以下であり、また分子量1000以下の重合体含有量が約0.1重量%以下であることが分かる。
(実施例A)ヒドロキシナフトエ酸を含有する組成物
実施例A1
【0055】
DL−乳酸重合体(重量平均分子量22,500、ラベル化定量法によるカルボキシル基量66.7μmol/g)144.4gをジクロロメタン111.7gで溶解した溶液と、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸7.5gをジクロロメタン175.1gおよびエタノール13.5gで溶解した溶液147.2gを混合して28.7℃に調節した。この有機溶媒溶液から274.4gを量り取り、ペプチドAの酢酸塩24.89gを23.47gの蒸留水に溶解して54.5℃に加温した水溶液と混合して5分間撹拌して粗乳化した後ホモジナイザーを用い、10,046rpm、5分間の条件にて乳化しW/Oエマルションを形成した。次いでこのW/Oエマルションを15.0℃に冷却後に、予め15.0℃に調節しておいた0.1%(w/w)ポリビニルアルコール(EG−40、日本合成化学製)水溶液25リットル中に3分26秒で注入し、 HOMOMIC LINE FLOW(特殊機化製)を用いて7,000rpmで攪拌しW/O/Wエマルションとした。このW/O/Wエマルションを約15℃で30分間温度調整し、その後2時間30分温度調整しないで撹拌してジクロロメタンおよびエタノールを揮散ないしは外水相中に拡散させ、油相を固化させた後、75μmの目開きの篩いを用いて篩過し、次いで遠心機(H−600S, 国産遠心器製)を用いて2,000rpmで連続的にマイクロカプセルを沈降させて捕集した。捕集されたマイクロカプセルは少量の蒸留水に再分散し、90μmの目開きの篩いを用いて篩過した後マンニトール15.4gを添加して溶解した後凍結乾燥して粉末として得られた。マイクロカプセル粉末の質量回収量は101.6gで回収率としては72.7%であり、ペプチドA含量は15.88%、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸含量は2.82%であった。
実験例A1
【0056】
実施例A1に記載のマイクロカプセル約45mgを0.3mlの分散媒(0.15 mgのカルボキシメチルセルロース,0.3mgのポリソルベート80,15mgのマンニトールを溶解した蒸留水)に分散して7週齢雄性SDラットの背部皮下に22G注射針で投与した。投与から所定時間後にラットを屠殺して投与部位に残存するマイクロカプセルを取り出し、この中のペプチドAを定量してその初期含量で除して求めた残存率を表2に示す。
【表2】

表2から明らかなように、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を添加して製造した実施例A1のマイクロカプセルは、約125gのスケールで製造しても生理活性物質を高含量に含むことができ、生理活性物質の初期の過剰放出を非常によく抑止する効果を併せ持つことがわかる。そして、このマイクロカプセルは非常に長期にわたって生理活性物質を一定速度で放出させることを実現している。
(実施例B)ヒドロキシナフトエ酸を含有しない組成物
実施例B1
【0057】
DL−乳酸重合体(重量平均分子量18,300、ラベル化定量法によるカルボキシル基量86μmol/g)4.00gをジクロロメタン6.77gで溶解した溶液を調整した。この有機溶媒溶液全量を量り取り、ペプチドAの酢酸塩1.04gを0.92gの蒸留水に溶解して60℃に加温した水溶液と混合し、ホモジナイザーを用い、25,000rpm、約20秒間の条件にて乳化しW/Oエマルションを形成した。次いでこのW/Oエマルションを予め18.0℃に調節しておいた0.1%(w/w)ポリビニルアルコール(EG−40、日本合成化学製)水溶液1リットル中に約20秒間で注入し、 ホモミキサーを用いて7,000rpmで攪拌しW/O/Wエマルションとした。このW/O/Wエマルションを3時間室温で撹拌してジクロロメタンおよびエタノールを揮散ないしは外水相中に拡散させ、油相を固化させた後、75μmの篩を用いて篩過し、次いで精製水で洗浄して遠心機(05PR−22;HITACHI)を用いて2,500rpm、5分間でマイクロカプセルを沈降させて捕集した。捕集されたマイクロカプセルは少量の蒸留水に再分散し、マンニトール0.50gを添加して溶解した後凍結乾燥して粉末として得られた。マイクロカプセル粉末の質量回収量は2.12gで回収率としては38.2%であり、ペプチドA含量は(12.98)%であった。
実施例B2
【0058】
DL−乳酸重合体(重量平均分子量18,300、ラベル化定量法によるカルボキシル基量86μmol/g)4.40gをジクロロメタン7.40gで溶解した溶液を調整した。この有機溶媒溶液全量を量り取り、ペプチドAの酢酸塩0.60gを0.552gの蒸留水に溶解して60℃に加温した水溶液と混合し、ホモジナイザーを用い、25,000rpm、約20秒間の条件にて乳化しW/Oエマルションを形成した。次いでこのW/Oエマルションを予め18.0℃に調節しておいた0.1%(w/w)ポリビニルアルコール(EG−40、日本合成化学製)水溶液1リットル中に約20秒間で注入し、 ホモミキサーを用いて7,000rpmで攪拌しW/O/Wエマルションとした。このW/O/Wエマルションを3時間室温で撹拌してジクロロメタンおよびエタノールを揮散ないしは外水相中に拡散させ、油相を固化させた後、75μmの篩を用いて篩過し、次いで精製水で洗浄して遠心機(05PR−22;HITACHI)を用いて2,500rpm、5分間でマイクロカプセルを沈降させて捕集した。捕集されたマイクロカプセルは少量の蒸留水に再分散し、マンニトール0.50gを添加して溶解した後凍結乾燥し、その後48時間約50℃にて真空乾燥して粉末として得られた。マイクロカプセル粉末の質量回収量は3.04gで回収率としては55.3%であり、ペプチドA含量は9.21%であった。
実施例B3
【0059】
DL−乳酸重合体(重量平均分子量21,900、ラベル化定量法によるカルボキシル基量75.8μmol/g)8.10gをジクロロメタン14.15gで溶解した溶液を調整した。この有機溶媒溶液全量を量り取り、ペプチドAの酢酸塩0.93gを0.95gの蒸留水に溶解して60℃に加温した水溶液と混合し、ホモジナイザーを用い、25,000rpm、約20秒間の条件にて乳化しW/Oエマルションを形成した。次いでこのW/Oエマルションを予め18.0℃に調節しておいた0.1%(w/w)ポリビニルアルコール(EG−40、日本合成化学製)水溶液1リットル中に約20秒間で注入し、 ホモミキサーを用いて7,000rpmで攪拌しW/O/Wエマルションとした。このW/O/Wエマルションを3時間室温で撹拌してジクロロメタンおよびエタノールを揮散ないしは外水相中に拡散させ、油相を固化させた後、75μmの篩を用いて篩過し、次いで精製水で洗浄して遠心機(05PR−22;HITACHI)を用いて2,500rpm、5分間でマイクロカプセルを沈降させて捕集した。捕集されたマイクロカプセルは少量の蒸留水に再分散し、マンニトール1.00gを添加して溶解した後凍結乾燥し、その後30時間約50℃にて真空乾燥して粉末として得られた。マイクロカプセル粉末の質量回収量は5.44gで回収率としては54.17%であり、ペプチドA含量は8.03%であった。
実施例B4
【0060】
DL−乳酸重合体(重量平均分子量21,400、ラベル化定量法によるカルボキシル基量76.1μmol/g)205.5gをジクロロメタン354.3gで溶解した溶液を0.2μmのフィルター(EMFLOW,DFA4201FRP)で加圧ろ過し、28.8℃に調節した。この有機溶媒溶液380.4gを量り取り、ペプチドAの酢酸塩16.11gを16.22gの蒸留水に溶解して55.4℃に加温した水溶液と混合して1分間撹拌して粗乳化した後ミニミキサーを用い、10,150rpm、2分間の条件にて乳化しW/Oエマルションを形成した。次いでこのW/Oエマルションを18℃に冷却後に、予め18.7℃に調節しておいた0.1%(w/w)ポリビニルアルコール(EG−40、日本合成化学製)水溶液25リットル中に3分10秒で注入し、 HOMOMIC LINE FLOW(特殊機化製)を用いて7,001rpmで攪拌しW/O/Wエマルションとした。このW/O/Wエマルションを約18.5℃で30分間温度調整し、その後2時間30分温度調整しないで撹拌してジクロロメタンおよびエタノールを揮散ないしは外水相中に拡散させ、油相を固化させた後、75μmの目開きの篩いを用いて篩過し、次いで遠心機(H−600S, 国産遠心器製)を用いて2,000rpmで連続的にマイクロカプセルを沈降させて捕集した。捕集されたマイクロカプセルは少量の蒸留水に再分散し、90μmの目開きの篩いを用いて篩過した後マンニトール18.85gを添加して溶解した後凍結乾燥して粉末として得られた。マイクロカプセル粉末の質量回収量は117.6gで回収率としては68.54%であり、ペプチドA含量は7.76%であった。
実施例B5
【0061】
DL−乳酸重合体(重量平均分子量28,800、ラベル化定量法によるカルボキシル基量78.1μmol/g)4.80gをジクロロメタン7.8gで溶解した溶液を調整した。この有機溶媒溶液から全量を量り取り、ペプチドAの酢酸塩1.20gを1.2gの蒸留水に溶解した水溶液と混合し、ホモジナイザーを用い、25,000rpm、約20秒間の条件にて乳化しW/Oエマルションを形成した。次いでこのW/Oエマルションを予め15.0℃に調節しておいた0.1%(w/w)ポリビニルアルコール(EG−40、日本合成化学製)水溶液1.2リットル中に約20秒間で注入し、ホモミキサーを用いて7,000rpmで攪拌しW/O/Wエマルションとした。このW/O/Wエマルションを3時間室温で撹拌してジクロロメタンおよびエタノールを揮散ないしは外水相中に拡散させ、油相を固化させた後、75μmの篩を用いて篩過し、次いで精製水で洗浄して遠心機(05PR−22;HITACHI)を用いて2,200rpm、5分間でマイクロカプセルを沈降させて捕集した。捕集されたマイクロカプセルは少量の蒸留水に再分散し、マンニトール0.30gを添加して溶解した後凍結乾燥し、粉末として得られた。マイクロカプセル粉末の質量回収量は3.42gで回収率としては53.56%であり、ペプチドA含量は11.08%であった。
実験例B1
【0062】
実施例B1に記載のマイクロカプセル約69mgを0.3mlの分散媒(0.15 mgのカルボキシメチルセルロース,0.3mgのポリソルベート80,15mgのマンニトールを溶解した蒸留水)に分散して7週齢雄性SDラットの背部皮下に22G注射針で投与した。投与から所定時間後にラットを屠殺して投与部位に残存するマイクロカプセルを取り出し、この中のペプチドAを定量してその初期含量で除して求めた残存率を表3に示す。
【表3】

表3から明らかなように、ペプチドAを過剰に処方して製造した実施例B1のマイクロカプセルは、生理活性物質を高含量に含むことができ、生理活性物質の初期の過剰放出もよく抑止する結果となった。そして、同一処方の他のロットからこのマイクロカプセルは非常に長期にわたって生理活性物質を一定速度で放出させることを実現している。
実験例B2
【0063】
実施例B2に記載のマイクロカプセル約73mgを0.3mlの分散媒(0.15 mgのカルボキシメチルセルロース,0.3mgのポリソルベート80,15mgのマンニトールを溶解した蒸留水)に分散して7週齢雄性SDラットの背部皮下に22G注射針で投与した。投与から所定時間後にラットを屠殺して投与部位に残存するマイクロカプセルを取り出し、この中のペプチドAを定量してその初期含量で除して求めた残存率を表4に示す。
【表4】

表4から明らかなように、ペプチドAのみを処方して製造した実施例B2のマイクロカプセルは、生理活性物質を含むことができ、生理活性物質の初期放出もよく抑止しており、長期に渡りほぼ一定速度で薬物を放出している。
実験例B3
【0064】
実施例B3に記載のマイクロカプセル約112mgを0.3mlの分散媒(0.15mgのカルボキシメチルセルロース,0.3mgのポリソルベート80,15mgのマンニトールを溶解した蒸留水)に分散して7週齢雄性SDラットの背部皮下に22G注射針で投与した。投与から所定時間後にラットを屠殺して投与部位に残存するマイクロカプセルを取り出し、この中のペプチドAを定量してその初期含量で除して求めた残存率を表5に示す。
【表5】

表5から明らかなように、ペプチドAのみを処方して製造した実施例B3のマイクロカプセルは、生理活性物質を含むことができ、生理活性物質の初期放出もよく抑止しており、長期に渡りほぼ一定速度で薬物を放出している。
実験例B4
【0065】
実施例B4に記載のマイクロカプセル約116mgを0.3mlの分散媒(0.15mgのカルボキシメチルセルロース,0.3mgのポリソルベート80,15mgのマンニトールを溶解した蒸留水)に分散して7週齢雄性SDラットの背部皮下に22G注射針で投与した。投与から所定時間後にラットを屠殺して投与部位に残存するマイクロカプセルを取り出し、この中のペプチドAを定量してその初期含量で除して求めた残存率を表6に示す。
【表6】

表6から明らかなように、ペプチドAのみを処方して製造した実施例B4のマイクロカプセルは、生理活性物質を含むことができ、生理活性物質の初期放出もよく抑止しており、長期に渡りほぼ一定速度で薬物を放出している。
実験例B5
【0066】
実施例B5に記載のマイクロカプセル約48.7mgを0.3mlの分散媒(0.15mgのカルボキシメチルセルロース,0.3mgのポリソルベート80,15mgのマンニトールを溶解した蒸留水)に分散して7週齢雄性SDラットの背部皮下に22G注射針で投与した。投与から所定時間後にラットを屠殺して投与部位に残存するマイクロカプセルを取り出し、この中のペプチドAを定量してその初期含量で除して求めた残存率を表7に示す。
【表7】

表7から明らかなように、ペプチドAのみを処方して製造した実施例B5のマイクロカプセルは、生理活性物質を含むことができ、生理活性物質の初期の過剰放出も適度に抑止した。また、このマイクロカプセルは非常に長期にわたって生理活性物質を一定速度で放出させることを実現した。
参考例C7
【0067】
DL−乳酸重合体(重量平均分子量21,900)206.6gをジクロロメタン354.8gで溶解した溶液を約30℃に温調した。この溶液381.5gを量り取り、酢酸リュープロレリン15.8gを16.6gの酢酸水溶液(氷酢酸0.6gを蒸留水31.75gに溶解)に溶解して約55℃に加温した水溶液と混合し、ミニミキサー(特殊機化製)を用いて乳化しW/O乳化物を形成した(回転数約10,000rpm)。次いでこのW/O乳化物を約18℃に冷却後、予め約18℃に温調しておいた0.1%(w/w)ポリビニルアルコール(EG−40、日本合成化学製)+1%マンニトール水溶液25リットル中に注入し、 HOMOMIC LINE FLOW(特殊機化製)を用いて二次乳化しW/O/W乳化物とした(タービン回転数約7,000rpm、循環ポンプ回転数約2000rpm)。このW/O/W乳化物を約3時間水中乾燥し、75μmの標準篩を用いて篩過し、次いで遠心機(H−600S, 国産遠心器製)を用いて連続的にマイクロスフィアを沈降させて捕集した(回転数約2,000rpm、流量約600ml/min)。捕集されたマイクロスフェアは少量の蒸留水に再分散し、90μmの標準篩を用いて篩過した後、マンニトール18.9gを添加し、凍結乾燥機(TRIOMASTER,共和真空製)で凍結乾燥して粉末(マイクロマイクロスフェア末)を得た。得られたマイクロスフェアの酢酸リュープロレリン含量は8.2%であり、回収率も約75%であった。
酢酸の添加により良好にW/Oエマルションを得ることができ、外水相にマンニトールを添加することにより、得られたマイクロカプセルの分散性を改善することができる。
実験例C1
【0068】
参考例C7で得られたマイクロカプセル約110mgを0.3mlの分散媒(0.15mgのカルボキシメチルセルロース,0.3mgのポリソルベート80,15mgのマンニトールを溶解した蒸留水)に分散して7週齢雄性SDラットの背部皮下に22G注射針で投与した。投与から所定時間後にラットを屠殺して投与部位に残存するマイクロカプセルを取り出し、この中のペプチドAを定量してその初期含量で除して求めた残存率を表8に示す。
【表8】

表8から明らかなように、ペプチドAのみを処方して製造した参考例C7のマイクロカプセルは、生理活性物質を高いトラップ効率で含むことができ、分散性も良好であり、生理活性物質の初期の過剰放出も抑止した。また、このマイクロカプセルは非常に長期にわたって生理活性物質を一定速度で放出している。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上記載したごとく、本発明によれば、生理活性物質を高含量で含有し、かつその初期過剰放出を抑制し長期にわたる安定した放出速度を実現することができる徐放性組成物の提供が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質またはその塩、および分子量5000以下の重合体含有量が5重量%以下である、重量平均分子量15000〜50000の乳酸重合体またはその塩を含有し、ヒドロキシナフトエ酸を含有せず、パモ酸またはその塩を含有しない徐放性組成物。
【請求項2】
(1)組成物全体に対して3重量%〜24重量%の生理活性物質またはその塩、(2)分子量5000以下の重合体含有量が5重量%以下である、重量平均分子量15000〜50000の乳酸重合体またはその塩を含有する請求項1記載の徐放性組成物。
【請求項3】
乳酸重合体が、分子量3000以下の重合体含有量が1.5重量%以下のものである請求項1または2記載の徐放性組成物。
【請求項4】
乳酸重合体が、分子量1000以下の重合体含有量が0.1重量%以下のものである請求項1または2記載の徐放性組成物。
【請求項5】
乳酸重合体が、重量平均分子量が15000〜40000のものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の徐放性組成物。
【請求項6】
乳酸重合体が、重量平均分子量が17000〜26000のものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の徐放性組成物。
【請求項7】
乳酸重合体が、乳酸のみからなる重合体である請求項1または2記載の徐放性組成物。
【請求項8】
生理活性物質が生理活性ペプチドである請求項1または2記載の徐放性組成物。
【請求項9】
生理活性物質がLH-RH誘導体である請求項8記載の徐放性組成物。
【請求項10】
LH-RH誘導体が式
5-oxo-Pro-His-Trp-Ser-Tyr-Y-Leu-Arg-Pro-Z
[式中、YはDLeu、DAla、DTrp、DSer(tBu)、D2NalまたはDHis(ImBzl)を示し、ZはNH-C2H5またはGly-NH2を示す。]で表されるペプチドまたはその塩である請求項9記載の徐放性組成物。
【請求項11】
徐放性組成物中、LH-RH誘導体またはその塩が3重量%から24重量%含有される請求項9記載の徐放性組成物。
【請求項12】
パモ酸またはその塩がパモ酸塩である請求項1記載の徐放性組成物。
【請求項13】
注射用である請求項1または2記載の徐放性組成物。
【請求項14】
請求項1または2記載の徐放性組成物を含有してなる医薬。
【請求項15】
請求項9記載の徐放性組成物を含有してなる前立腺癌、前立腺肥大症、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮線維腫、思春期早発症、月経困難症もしくは乳癌の予防、治療剤または避妊剤。
【請求項16】
請求項9記載の徐放性組成物を含有してなる閉経前乳癌術後再発予防剤。
【請求項17】
生理活性物質またはその塩、および分子量5000以下の重合体含有量が5重量%以下である、重量平均分子量15000〜50000の乳酸重合体またはその塩の混合液から溶媒を除去することを特徴とする請求項1記載の徐放性組成物の製造法。

【公開番号】特開2010−189428(P2010−189428A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101265(P2010−101265)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【分割の表示】特願2004−117981(P2004−117981)の分割
【原出願日】平成14年6月28日(2002.6.28)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】