説明

徐放性製剤の製造法

【課題】生理活性ポリペプチドの取り込み率を高め、投与後初期の漏出を抑制し、かつ長期間にわたり一定した放出速度を示す徐放性製剤およびその製造法を提供する。
【解決手段】生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液に生理活性ポリペプチドを分散させ成形することによる徐放性製剤およびその製造法。該徐放性製剤としては、0.1〜300μmの微粒子であり、注射剤であることが好ましい。該生体内分解性高分子重合物としては、脂肪族ポリエステル、特にα−ヒドロキシカルボン酸重合物であることが好ましい。該生理活性ポリペプチドとしては、ホルモン類(特に、インスリン、成長ホルモン)、サイトカイン(特に、インターフェロン)であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内分解性高分子重合物の金属塩と生理活性ポリペプチドとを含んでなる徐放性製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生理活性ポリペプチドまたはその誘導体は、生体において種々の薬理作用を示すことが知られており、このうちいくつかについては遺伝子工学、細胞工学の手法の発達により大腸菌、酵母、動物細胞あるいはハムスターなどの生体を用いて大量に生産され、医薬品としての応用が図られている。しかしながら、これらの生理活性ポリペプチドは一般的に生体内での半減期が短いために、頻回投与が必要であり、注射に伴う患者の肉体的負担は無視できないものがある。この問題を解決するために生理活性ポリペプチドを含有する徐放製剤を開発する種々の試みがなされている。
特許文献1および特許文献2には、水溶性生理活性ポリペプチド、生体内分解性高分子重合物及び脂肪酸塩を有機溶媒に溶解し、o/w型エマルションとすることにより水溶性生理活性ペプチドの取り込み率を高めた徐放性製剤の製造法が開示されている。
【特許文献1】特開平4−46116号公報
【特許文献2】特開平6−65063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記のように生理活性ポリペプチドの生理活性を保持しながら徐放性製剤を製造する種々の試みがなされているものの、生体内分解性高分子重合物への生理活性ポリペプチドの取り込み率、投与後初期の漏出抑制、長時間にわたる生理活性ポリペプチドの一定した放出速度などの点で、まだ臨床上満足すべき徐放性製剤は得られていない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは前記の問題点を解決するため鋭意研究を行ったところ、あらかじめ金属塩とした生体内分解性高分子重合物の有機溶媒液に生理活性ポリペプチドを分散させ、成形すると、予想外にも生理活性ポリペプチドの取り込み率が飛躍的に向上し、投与後初期の漏出が抑制され、かつ長期間にわたり一定した放出速度を示すなど徐放性製剤として優れた性質を有するものが得られることを見出した。これらの知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち、本発明は
(1)生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液に生理活性ポリペプチドを分散させ、成形することを特徴とする徐放性製剤の製造法、
(2)金属塩が多価金属塩である前記(1)記載の製造法、
(3)金属塩が亜鉛塩またはカルシウム塩である前記(1)記載の製造法、
(4)有機溶媒液中の有機溶媒がハロゲン化炭化水素およびアセトニトリルあるいはアルコール類との混合溶液である前記(1)記載の製造法、
(5)ハロゲン化炭化水素とアセトニトリルあるいはアルコール類との体積比が約40:1〜約1:1である前記(4)記載の製造法、
(6)生理活性ポリペプチドがホルモンである前記(1)記載の製造法、
(7)ホルモンがインスリンである前記(6)記載の製造法、
(8)ホルモンが成長ホルモンである前記(6)記載の製造法、
(9)生理活性ポリペプチドがサイトカインである前記(1)記載の製造法、
(10)サイトカインがインターフェロンである前記(9)記載の製造法、
(11)生体内分解性高分子重合物が脂肪族ポリエステルである前記(1)記載の製造法、
(12)脂肪族ポリエステルがα−ヒドロキシカルボン酸重合物である前記(11)記載の製造法、
(13)脂肪族ポリエステルが乳酸−グリコール酸共重合物である前記(11)記載の製造法、
(14)乳酸−グリコール酸共重合物の乳酸/グリコール酸組成比(モル%)が約100/0〜約40/60で、重量平均分子量が約3000〜約20000である前記(13)記載の製造法、
(15)徐放性製剤が微粒子である前記(1)記載の製造法、
(16)微粒子の平均粒子径が約0.1〜約300μmである前記(15)記載の製造法、
(17)徐放性製剤が注射剤である前記(1)記載の製造法、
(18)生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液に生理活性ポリペプチドを分散させた分散液、
(19)脂肪酸の金属塩を実質上含まない前記(18)記載の分散液、
(20)前記(1)記載の製造法により製造される徐放性製剤、
(21)生体内分解性高分子重合物の金属塩の金属含量が約0.01〜約10%(w/w)である前記(20)記載の徐放性製剤、
(22)生理活性ポリペプチドの含量が約0.001〜約30%(w/w)である前記(20)記載の徐放性製剤、及び
(23)生体内分解性高分子重合物の亜鉛塩を含む有機溶媒液に成長ホルモンを分散させ、成型することにより得られる前記(20)記載の徐放性製剤等に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、生理活性ポリペプチドの取り込み率を高め、投与後初期の漏出を抑制し、かつ長期間にわたり一定した放出速度を示す徐放性製剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明において生体内分解性高分子重合物としては、水に難溶または不溶である重合物、例えば脂肪族ポリエステル〔例、α−ヒドロキシカルボン酸類(例、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、バリン酸、ロイシン酸等)、ヒドロキシジカルボン酸類(例、リンゴ酸等)、ヒドロキシトリカルボン酸(例、クエン酸等)等の1種以上から合成された重合物、共重合物あるいはこれらの混合物〕、ポリ−α−シアノアクリル酸エステル(例、ポリ−α−シアノアクリル酸メチルエステル、ポリ−α−シアノアクリル酸エチルエステル、ポリ−α−シアノアクリル酸ブチルエステル等)、ポリアミノ酸(例、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸等)あるいはこれらの混合物が用いられる。これら生体内分解性高分子重合物の重合の形式はランダム、ブロック、グラフトの何れでもよい。生体内分解性高分子重合物は、好ましくは脂肪族ポリエステル〔例、α−ヒドロキシカルボン酸類(例、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸等)、ヒドロキシジカルボン酸類(例、リンゴ酸等)、ヒドロキシトリカルボン酸(例、クエン酸等)等の1種以上から合成された重合物、共重合物、あるいはこれらの混合物〕である。
【0007】
前記した脂肪族ポリエステル中、α−ヒドロキシカルボン酸類の1種以上から合成された重合物、共重合物が確実な生体内分解性および生体適合性の観点から好ましい。脂肪族ポリエステルは、特に好ましくはα−ヒドロキシカルボン酸類の2種以上から製造される共重合物である。また、これらの共重合物は混合して使用されてもよい。
前記α−ヒドロキシカルボン酸類は、該α−ヒドロキシカルボン酸類がキラル化合物である場合、D−体、L−体およびD,L−体の何れでもよいが、D−体/L−体(モル%)が約75/25〜約25/75の範囲のものが好ましい。さらに好ましくは、D−体/L−体(モル%)が約60/40〜約30/70の範囲のα−ヒドロキシカルボン酸である。
前記α−ヒドロキシカルボン酸類の重合物の例としては、例えば乳酸の重合物等(以下、ポリ乳酸と称することもある)が用いられる。
前記α−ヒドロキシカルボン酸類の共重合物の例としては、例えばグリコール酸と他のα−ヒドロキシカルボン酸類との共重合物が挙げられ、該α−ヒドロキシカルボン酸としては乳酸、2−ヒドロキシ酪酸が好ましい。
α−ヒドロキシカルボン酸類の共重合物は、好ましくは乳酸−グリコール酸共重合物または2−ヒドロキシ酪酸−グリコール酸共重合物である。
α−ヒドロキシカルボン酸類の共重合物は、特に好ましくは乳酸−グリコール酸共重合物である。
【0008】
前記ポリ乳酸としては、D−体、L−体およびこれらの混合物の何れでもよいが、D−体/L−体(モル%)が約75/25〜約20/80の範囲のものが好ましい。さらに好ましくは、D−体/L−体(モル%)が約60/40〜約25/75の範囲のポリ乳酸である。特に好ましくは、D−体/L−体(モル%)が約55/45〜約25/75の範囲のポリ乳酸である。
該ポリ乳酸は、重量平均分子量が約1,500〜約10,000のものが好ましく、さらに好ましくは、重量平均分子量が約2,000〜約8,000である。特に好ましくは、重量平均分子量が約3,000〜約6,000の範囲のポリ乳酸である。また、ポリ乳酸の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、好ましくは約1.2〜約4.0であり、特に好ましくは、約1.5〜約3.5である。
ポリ乳酸は、自体公知の製造法、例えば特開昭61−28521号公報に記載の方法(例えば無触媒下の脱水重縮合反応や無機固体酸触媒下での脱水重縮合反応による製造方法)に従って製造できる。該ポリ乳酸は無触媒脱水重縮合で製造されたものが好ましい。
【0009】
該乳酸−グリコール酸共重合物において、その組成比(乳酸/グリコール酸、モル%)は、約100/0〜約40/60が好ましい、さらに好ましくは約90/10〜約45/55である。該組成比は、特に好ましくは約60/40〜約40/60である。前記グリコール酸と乳酸の共重合物の重量平均分子量は、約3,000〜約20,000が好ましく、さらに好ましくは約4,000〜約15,000である。また、乳酸−グリコール酸共重合物の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、約1.2〜約4.0が好ましい。さらに好ましくは、約1.5〜約3.5である。
乳酸−グリコール酸共重合物は、自体公知の製造法、例えば特開昭61−28521号公報に記載の方法(例えば無触媒下の脱水重縮合反応や無機固体酸触媒下での脱水重縮合反応による製造方法)に従って製造できる。該共重合物は無触媒脱水重縮合で製造されたものが好ましい。
【0010】
本発明において、組成比および重量平均分子量の異なる2種の乳酸−グリコール酸共重合物を任意の割合で混合して用いてもよい。このような例としては、例えば組成比(乳酸/グリコール酸)(モル%)が約75/25で重量平均分子量が約6,000の乳酸−グリコール酸共重合物と、組成比(乳酸/グリコール酸)(モル%)が約50/50で重量平均分子量が約4,000の乳酸−グリコール酸共重合物との混合物などが用いられる。混合する際の重量比は、好ましくは約25/75〜約75/25である。
【0011】
2−ヒドロキシ酪酸−グリコール酸共重合物において、その組成比はグリコール酸が約10〜約75モル%、残りが2−ヒドロキシ酪酸である場合が好ましく、さらに好ましくはグリコール酸が約20〜約75モル%である場合、特に好ましくはグリコール酸が約30〜約70モル%である場合である。2−ヒドロキシ酪酸−グリコール酸共重合物の重量平均分子量は、好ましくは約2,000〜約30,000であり、さらに好ましくは約3,000〜約20,000である。重量平均分子量は、特に好ましくは約4,000〜約15,000である。2−ヒドロキシ酪酸−グリコール酸共重合物の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、好ましくは約1.2〜約4.0であり、特に好ましくは約1.5〜約3.5である。
2−ヒドロキシ酪酸−グリコール酸共重合物は、公知の製造法、例えば特開昭61−28521号公報に記載の方法(例えば無触媒下の脱水重縮合反応や無機固体酸触媒下での脱水重縮合反応による製造方法)に従って製造される。該共重合物は、無触媒脱水重縮合で製造されたものが好ましい。
【0012】
前記グリコール酸共重合物(例、乳酸−グリコール酸共重合物、2−ヒドロキシ酪酸−グリコール酸共重合物等)は、さらにポリ乳酸と混合して使用してもよい。グリコール酸共重合物とポリ乳酸を混合して使用する場合、その混合比(グリコール酸共重合物/ポリ乳酸、重量%)は、例えば約10/90〜約90/10である。該混合比は、好ましくは約20/80〜約80/20である場合、さらに好ましくは約30/70〜約70/30である場合である。
【0013】
本明細書中、重量平均分子量及び数平均分子量とは、重量平均分子量が120,000、52,000、22,000、9,200、5,050、2,950、1,050、580、162の9種類のポリスチレンを基準物質としてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量および数平均分子量を意味する。測定は、GPCカラムKF804L x 2(昭和電工製)、RIモニターL−3300(日立製作所製)を使用し、移動相としてクロロホルムを用いることにより行った。
【0014】
本発明において、無触媒脱水重縮合で製造される生体内分解性高分子重合物は、末端に遊離のカルボキシル基を有する。
末端に遊離のカルボキシル基を有する生体内分解性高分子重合物とは、末端基定量法による数平均分子量と、分子量既知の標準ポリスチレンを用いたGPC測定法による数平均分子量とがほぼ一致する重合物である。
【0015】
末端基定量法による数平均分子量は、以下のようにして算出される。
約1g〜3gの生体内分解性高分子重合物をアセトン(25ml)とメタノール(5ml)との混合溶媒に溶解し、室温(約0〜約30℃)で撹拌下、フェノールフタレインを指示薬としてこの溶液中のカルボキシル基を0.05Nアルコール性水酸化カリウム溶液で速やかに滴定し、次式により末端基定量による数平均分子量を算出した。
末端基定量法による数平均分子量=20000 A/B
A:生体内分解性高分子重合物の質量(g)
B:滴定終点までに添加した0.05Nアルコール性水酸化カリウム溶液(ml)
例えば1種類以上のα−ヒドロキシ酸類から無触媒脱水重縮合法で製造され、末端に遊離のカルボキシル基を有する生体内分解性重合物では、GPC測定法による数平均分子量と末端基定量法による数平均分子量とがほぼ一致する。これに対し、α−ヒドロキシ酸の環状二量体から触媒を用いて開環重合法で製造され、末端に遊離カルボキシル基を本質的には有しない生体内分解性重合物では、末端基定量法による数平均分子量がGPC測定法による数平均分子量を大きく上回る。この相違によって、末端に遊離のカルボキシル基を有する生体内分解性重合物は、末端に遊離カルボキシル基を有しない生体内分解性重合物と明確に区別することができる。
【0016】
末端基定量法による数平均分子量が絶対値であるのに対し、GPC測定法による数平均分子量は各種分析、解析条件(例えば移動相の種類,カラムの種類,基準物質,スライス幅の選択,ベースラインの選択等)によって変動する相対値であるため、一義的な数値化は困難であるが、例えばGPC測定法による数平均分子量と末端基定量法による数平均分子量とがほぼ一致するとは、末端基定量法による数平均分子量がGPC測定法による数平均分子量の約0.5倍〜約2倍の範囲内であることをいう。好ましくは、約0.8倍〜約1.5倍の範囲内であることをいう。また、末端基定量法による数平均分子量がGPC測定法による数平均分子量を大きく上回るとは、末端基定量法による数平均分子量がGPC測定法による数平均分子量の約2倍を越える場合をいう。
本発明においては、GPC測定法による数平均分子量と末端基定量法による数平均分子量とがほぼ一致する重合物が好ましい。
【0017】
生体内分解性高分子重合物を金属塩にするために用いられる金属塩は、生体に悪影響をおよぼさない金属塩であれば特に限定されない。金属塩としては、例えばアルカリ金属(例、ナトリウム、カリウム等)などの単価金属、あるいはアルカリ土類金属(例、カルシウム、マグネシウム等)、亜鉛(II価)、鉄(II価、III価)、銅(II価)、スズ(II価、IV価)、アルミニウム(II価、III価)等の多価金属と無機酸あるいは有機酸などとの塩が用いられる。
金属は、好ましくは多価金属である、さらに好ましくはアルカリ土類金属、亜鉛である。金属の特に好ましい具体例としては、例えばカルシウム、亜鉛等が挙げられる。
【0018】
無機酸としては、例えばハロゲン化水素(例、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸等)、硫酸、硝酸、チオシアン酸等が用いられる。
有機酸としては、例えば脂肪族カルボン酸、芳香族酸等が用いられる。脂肪族カルボン酸は、好ましくは炭素数1ないし9の脂肪族カルボン酸、例えば脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸などが用いられる。脂肪族カルボン酸は、飽和あるいは不飽和のいずれであってもよい。
脂肪族モノカルボン酸としては、例えば炭素数1ないし9の飽和脂肪族モノカルボン酸(例、炭酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸等)および炭素数2ないし9の不飽和脂肪族モノカルボン酸(例、アクリル酸、プロピオール酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等)などが用いられる。
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば炭素数2ないし9の飽和脂肪族ジカルボン酸(例、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸等)および炭素数2ないし9の不飽和脂肪族ジカルボン酸(例、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸等)などが用いられる。
脂肪族トリカルボン酸としては、例えば炭素数2ないし9の飽和脂肪族トリカルボン酸(例、トリカルバリル酸、1,2,3−ブタントリカルボン酸等)などが用いられる。
【0019】
前記した脂肪族カルボン酸は、水酸基を1ないし2個有していてもよく、このような例としては、例えばグリコール酸、乳酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。
脂肪族カルボン酸は、好ましくは脂肪族モノカルボン酸である。脂肪族カルボン酸は、さらに好ましくは炭素数2ないし9の脂肪族モノカルボン酸、特に好ましくは炭素数2ないし3の飽和脂肪族モノカルボン酸である。脂肪族カルボン酸の特に好ましい具体例としては、例えば酢酸等が挙げられる。
芳香族酸としては、例えば安息香酸、サリチル酸、フェノールスルホン酸などが用いられる。
また、生体内分解性高分子重合物を金属塩にするためには、金属化合物として多価金属(前記と同様)のアセチルアセトナート、金属酸化物を用いてもよい。好ましくは、亜鉛アセチルアセトナート、酸化亜鉛である。
【0020】
生体内分解性高分子重合物を金属塩にするために用いられる金属塩は、多価金属と無機酸または有機酸との塩(以下、多価金属塩と略称する)が好ましい。
多価金属塩の具体例を挙げれば、例えば亜鉛と無機酸との塩〔例、ハロゲン化亜鉛(塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、フッ化亜鉛等)、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、チオシアン酸亜鉛等〕、亜鉛と有機酸との塩〔例、脂肪族カルボン酸亜鉛塩(例、炭酸亜鉛、酢酸亜鉛、グリコール酸亜鉛、乳酸亜鉛、酒石酸亜鉛等)、芳香族亜鉛塩(例、安息香酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、フェノールスルホン酸亜鉛等)等〕などが用いられる。カルシウムと無機酸との塩〔例、ハロゲン化カルシウム(塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、フッ化カルシウム等)、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、チオシアン酸カルシウム等〕、カルシウムと有機酸との塩〔例、脂肪族カルボン酸カルシウム塩(例、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等)、芳香族カルシウム塩(例、安息香酸カルシウム、サリチル酸カルシウム等)等〕などが用いられる。
多価金属塩は、好ましくは酢酸亜鉛、酢酸カルシウム等が用いられる。
【0021】
本発明において生理活性ポリペプチドとしては、好ましくは分子量約1,000〜約50,000、さらに好ましくは分子量約5,000〜約40,000の生理活性ポリペプチドが用いられる。
生理活性ポリペプチドの活性として代表的なものとしては、ホルモン作用が挙げられる。また該生理活性ポリペプチドは天然物、合成物、半合成物のいずれでもよく、さらにそれらの誘導体でもよい。該生理活性ポリペプチドの作用機作は、作動性あるいは拮抗性のいずれでもよい。
本発明の生理活性ポリペプチドとしては、例えばペプチドホルモン、サイトカイン、遊血因子、各種増殖因子、酵素などが用いられる。
【0022】
ホルモンとしては、例えばインスリン、成長ホルモン、ナトリウム利尿ペプチド、ガストリン、プロラクチン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、ヒト絨毛ゴナドトロピン(HCG)、モチリンなどが用いられる。ホルモンは、好ましくはインスリン及び成長ホルモンなどである。
サイトカインとしては、例えばリンホカイン、モノカインなどが用いられる。リンホカインとしては、例えばインターフェロン(アルファ、ベータ、ガンマ)、インターロイキン(IL−2〜IL−12)などが用いられる。モノカインとしては、例えばインターロイキン−1(IL−1)、腫瘍壊死因子などが用いられる。サイトカインは、好ましくはリンホカインなどであり、更に好ましくはインターフェロンなどである。サイトカインは、特に好ましくはインターフェロンアルファなどである。
【0023】
造血因子としては、例えばエリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、トロンボポエチン、血小板増殖刺激因子、メガカリオサイトポテンシエーターなどが用いられる。
各種増殖因子としては、例えば塩基性あるいは酸性の繊維芽細胞増殖因子(FGF)あるいはこれらのファミリー(例、FGF−9など)、神経細胞増殖因子(NGF)あるいはこれらのファミリー、インスリン様成長因子(例、IGF−1,IGF−2など)、骨増殖に関与する因子(BMP)あるいはこれらのファミリーなどが用いられる。
酵素としては、例えばスーパーオキシドディスミュターゼ(SOD)、ティシュープラスミノーゲンアクティベーター(TPA)、カリクレインなどが用いられる。
【0024】
本発明において、生理活性ポリペプチドが金属を含有する場合、その金属含有量は0.1%以下が好ましく、さらに好ましくは0.01%以下、特に好ましくは0.001%以下であって実質的に金属を含まない生理活性ポリペプチドが最適である。たとえば結晶性インスリンは通常亜鉛、ニッケル、コバルト、カドミウムなどの少量の重金属を含んでいる。0.4%(w/w)亜鉛を含んでいるインスリンは6量体で存在し、それ自身で安定に存在し、生体内分解性高分子重合物の金属塩との相互作用が弱められると考えられる。
必要な場合には、生理活性ポリペプチドに含有されている金属を前もって除去しておいてもよく、金属を除去する方法としては公知の方法が用いられる。例えばインスリンの塩酸酸性水溶液を、水あるいは酢酸アンモニウム塩溶液に対して透析したのち凍結乾燥することによりアモルファス状態で金属が最小限のインスリンが得られる。
本発明においては、生体内分解性高分子重合体の金属塩以外の添加物は金属塩を形成していないことが望ましく、特に脂肪酸の金属塩を実質上含まないことがより好ましい。
【0025】
本発明においては、生体内分解性高分子重合体の金属塩は、例えば生体内分解性高分子重合物の有機溶媒溶液に金属塩の水溶液あるいは固体の金属塩を乳化、分散することによりw/oあるいはo/w型乳化物(エマルション)、または金属塩を含有する生体内分解性高分子重合物の有機溶媒溶液あるいは懸濁液を調製し、それらを水洗、乾燥することによって、あるいはそれらを水中乾燥法、相分離法、噴霧乾燥法あるいはこれらに準ずる方法に付し、次いで洗浄、乾燥することにより製造される。この製造過程において生体内分解性高分子重合物と塩を形成しない金属塩を除去しておくのがよい。
前記有機溶媒液中の有機溶媒は、沸点が120℃以下であることが好ましい。該有機溶媒としては、例えばハロゲン化炭化水素(例、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等)、アルコール類(例、エタノール、メタノール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等)、アセトニトリル等が挙げられる。これらは適宜の割合で混合して用いてもよい。有機溶媒を単独で用いる場合、例えばジクロロメタン、アセトニトリル等が好ましい。有機溶媒を混合溶媒として用いる場合、例えばハロゲン化炭化水素(例、ジクロロメタン等)およびアセトニトリルあるいはアルコール類(例、メタノール、エタノール等)の組み合わせが好ましい。特に、ジクロロメタンとアセトニトリルとの組み合わせが汎用される。ハロゲン化炭化水素とアセトニトリルあるいはアルコール類との混合比(体積比)は約40:1〜約1:1であり、好ましくは約20:1〜約1:1である。
生体内分解性高分子重合物の金属塩中の金属含量は、好ましくは約0.01〜約10%(w/w)、さらに好ましくは約0.05〜約7%(w/w)、特に好ましくは約0.1〜約5%(w/w)である。なお、生体内分解性高分子重合物の金属塩中の金属含量は、例えば原子吸光法等の方法により定量される。
以下に、生体内分解性高分子重合物の金属塩の製造法、例えば水中乾燥法、相分離法、噴霧乾燥法などについて記述する。
【0026】
(A)水中乾燥法(w/o/w法)
本法においては、まず生体内分解性高分子重合物を有機溶媒に溶かして有機溶媒液(以下、油相と称することもある)を製造する。この際、有機溶媒液中の生体内分解性高分子重合物の濃度は、生体内分解性高分子重合物の分子量、有機溶媒の種類によって異なるが、例えば約0.01〜約90%(w/w)、さらに好ましくは約0.1〜約80%(w/w)、特に好ましくは約1〜約70%(w/w)である。内水相として、金属塩を水に溶かした水溶液を使用する。金属塩の濃度は、各金属塩の水に対する溶解度によって異なるが、例えば約10〜約90%(w/v)、好ましくは約20〜約80%(w/v)である。 前記した金属塩の水溶液を、生体内分解性高分子重合物の有機溶媒液に乳化、分散し、w/o型エマルションを製造する。金属塩の水溶液と生体内分解性高分子重合物有機溶媒液との比率(容量比)は、約1:1,000〜約1:1、好ましくは約1:100〜約1:2、特に好ましくは約1:50〜約1:3である。乳化方法は公知の乳化操作により行われる。乳化操作は、例えばタービン型撹拌機、ホモジナイザー等を用いて行われる。ついで、このようにして調製されたw/o型エマルションをさらに水相(外水相)中に加えて、w/o/w型エマルションを形成させた後、油相溶媒を蒸発させ生体内分解性高分子重合物の金属塩を製造する。この際の外水相体積は、例えば油相体積の約1〜約10,000倍から選ばれる。さらに好ましくは、約2〜約5,000倍、特に好ましくは、約5〜約2,000倍から選ばれる。溶媒を除去する方法は、公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、例えばプロペラ型撹拌機あるいはマグネチックスターラーなどで撹拌しながら常圧もしくは徐々に減圧して溶媒を蒸発させる方法、ロータリーエバポレーターなどを用いて真空度を調節しながら溶媒を蒸発させる方法などが用いられる。
【0027】
前記外水相中に乳化剤を加えてもよい。該乳化剤は、一般的に安定なw/o/w型エマルションを形成できるものであれば何れでもよい。具体的には、例えばアニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、レシチン、ゼラチン、ヒアルロン酸などが用いられる。該乳化剤は、好ましくはポリビニルアルコールが用いられる。該乳化剤は、1種類または2種以上を組み合わせて使用してもよい。使用の際の濃度は、外水相に対し約0.001〜約20%(w/w)の範囲から適宜選択できる。さらに好ましくは約0.01〜約10%(w/w)、特に好ましくは約0.05%〜約5%(w/w)の範囲で用いられる。
【0028】
また、外水相中に内水相で用いた金属塩と同一または異なった金属塩を加えてもよい。この際、外水相中の金属塩の濃度が約0.01〜約20%(w/w)、特に約0.1〜約10%(w/w)となるように脂肪酸金属塩を添加することが好ましい。外水相中の金属塩の濃度を変えることにより、内水相で用いた金属塩が、生体内分解性高分子重合物から外水相へ溶出するのを防ぐこともできる。このようにして得られた生体内分解性高分子重合物の金属塩を遠心分離あるいは濾過して分取した後、生体内分解性高分子重合物の金属塩の表面に付着している乳化剤などを蒸留水で数回繰り返し洗浄し、再び蒸留水などに分散して凍結乾燥する。
【0029】
(B)水中乾燥法(o/w法)
本法においては、まず前記(A)と同様にして生体内分解性高分子重合物の有機溶媒液を製造する。ついで、生体内分解性高分子重合物の有機溶媒液中に金属塩を添加、分散または溶解させる。この際、金属塩の添加量は、金属塩:生体内分解性高分子重合物の重量比が約5:1〜約1:100、好ましくは約2:1〜約1:50、さらに好ましくは約1:1〜約1:10となるようにする。
このようにして調製された有機溶媒液をさらに水相中に加えて、タービン型撹拌機などを用いてo/w型エマルションを形成させた後、前記(A)と同様にして油相溶媒を蒸発させ、生体内分解性高分子重合物の金属塩を製造する。この際の水相体積は、例えば油相体積の約1倍〜約10,000倍、さらに好ましくは、約2倍〜約5,000倍から選ばれる。特に好ましくは、約5倍〜約2,000倍から選ばれる。前記水相中に、前記(A)と同様に乳化剤を加えてもよい。水相中に、前記(A)と同様に油相中に添加、分散または溶解した金属塩と同一または異なった金属塩を加えてもよい。このようにして得られた生体内分解性高分子重合物の金属塩は、前記(A)と同様にして分取、洗浄、凍結乾燥する。
【0030】
(C)相分離法(コアセルベーション法)
本法により生体内分解性高分子重合物の金属塩を製造する場合には、前記(A)に記載したw/o型エマルションあるいは(B)に記載した金属塩を含む生体内分解性高分子重合物の有機溶媒液にコアセルベーション剤を撹拌下徐々に加え、生体内分解性高分子重合物の金属塩を析出、固化させる。該コアセルベーション剤は、w/o型エマルションあるいは生体内分解性高分子重合物の有機溶媒溶液の体積の約0.01倍〜約1,000倍の体積量が加えられる。さらに好ましくは、約0.05倍〜約500倍の体積量である。特に好ましくは、約0.1倍〜約200倍の体積量である。コアセルベーション剤としては、生体内分解性高分子重合物を溶かす有機溶媒と混和する高分子系、鉱物油系または植物油系の化合物で、高分子重合物を溶解しないものであればよい。具体的には、例えばシリコン油、ゴマ油、大豆油、コーン油、綿実油、ココナッツ油、アマニ油、鉱物油、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどが用いられる。これらは2種以上混合して用いてもよい。このようにして得られた生体内分解性高分子重合物の金属塩を濾過して分取した後、ヘプタン等により繰り返し洗浄し、コアセルベーション剤を除去する。さらに、前記(A)と同様にして洗浄を行い、ついで凍結乾燥する。
【0031】
水中乾燥法およびコアセルベーション法での生体内分解性高分子重合物の金属塩の製造では、粒子同士の凝集を防ぐために凝集防止剤を加えてもよい。該凝集防止剤としては、例えばマンニトール、ラクトース、ブドウ糖、デンプン類(例、コーンスターチ等)、ヒアルロン酸あるいはこれのアルカリ金属塩などの水溶性多糖、グリシン、フィブリン、コラーゲン等の蛋白質、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等の無機塩類などが適量用いられる。
【0032】
(D)噴霧乾燥法
本法によって生体内分解性高分子重合物の金属塩を製造する場合には、金属塩の水溶液と生体内分解性高分子重合物の有機溶媒液とのw/o型エマルションあるいは金属塩を含有する生体内分解性高分子重合物の有機溶媒液あるいは懸濁液を、ノズルを用いてスプレードライヤー(噴霧乾燥器)の乾燥室内へ噴霧し、極めて短時間に微粒化液滴内の有機溶媒を揮発させ、微粒状の生体内分解性高分子重合物の金属塩を調製する。該ノズルとしては、例えば二流体ノズル型、圧力ノズル型、回転ディスク型等がある。この際、所望によってw/o型エマルションあるいは金属塩を含有する生体内分解性高分子重合物の有機溶媒液あるいは懸濁液と同時に、生体内分解性高分子重合物の金属塩の凝集防止を目的として前記凝集防止剤の水溶液を別ノズルより噴霧することも有効である。このようにして得られた生体内分解性高分子重合物の金属塩は、前記(A)と同様にして洗浄し、必要であれば加温・減圧下、水分および有機溶媒の除去をさらに行う。
【0033】
本発明の徐放性製剤は、生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液に生理活性ポリペプチドを分散させ、成形することによって製造される。本発明の製造法としては、例えば前記(A)水中乾燥法(w/o/w法)、(B)水中乾燥法(o/w法)、(C)相分離法(コアセルベーション法)および(D)噴霧乾燥法に準じた方法などが用いられる。前記有機溶媒液中の有機溶媒は、沸点が120℃以下であることが好ましい。該有機溶媒としては、例えばハロゲン化炭化水素(例、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等)、アルコール類(例、エタノール、メタノール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等)、アセトニトリル等が挙げられる。これらは適宜の割合で混合して用いてもよい。有機溶媒を単独で用いる場合、例えばジクロロメタン、アセトニトリル等が好ましい。有機溶媒を混合溶媒として用いる場合、例えばハロゲン化炭化水素(例、ジクロロメタン等)およびアセトニトリルあるいはアルコール類(例、メタノール、エタノール等)の組み合わせが好ましい。特に、ジクロロメタンとアセトニトリルとの組み合わせが汎用される。ハロゲン化炭化水素とアセトニトリルあるいはアルコール類との混合比(体積比)は約40:1〜約1:1であり、好ましくは約20:1〜約1:1である。以下に、徐放性製剤として、例えばマイクロカプセルを製造する場合の製造方法について記述する。
(a)水中乾燥法(w/o/w法)
本法によれば、まず前記(A)に準じた方法で生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液を製造する。この際、生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液中の濃度は、生体内分解性高分子重合物の金属塩の種類、分子量、有機溶媒の種類によって異なるが、例えば約0.01〜約80%(w/w)、さらに好ましくは約0.1〜約70%(w/w)、特に好ましくは約1〜約60%(w/w)である。内水相として生理活性ポリペプチドの水溶液を使用する。生理活性ポリペプチドの水溶液中での濃度は、例えば約0.1%(w/v)〜約500%(w/v)である。好ましくは約1%(w/v)〜約400%(w/v)、特に好ましくは約10%(w/v)〜約300%(w/v)である。この際、該水溶液中にpH調節剤(例、酢酸、塩酸、水酸化ナトリウム等)、安定化剤(例、血清アルブミン、ゼラチン、硫酸プロタミン等)、保存剤(例、パラオキシ安息香酸類等)等を加えてもよい。このようにして得られた水溶液を生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液中に乳化、分散しw/o型エマルションを製造する。
【0034】
生理活性ポリペプチドの水溶液と生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液との比率(容量比)は約1:1,000〜約1:1、好ましくは約1:100〜約1:5、特に好ましくは約1:50〜約1:5である。ついで、このようにして調製されたw/o型エマルションをさらに外水相中に加えて、w/o/w型エマルションを形成させた後、油相中の溶媒を蒸発させマイクロカプセルを調製する。該外水相中に乳化剤を加えてもよい。該乳化剤は、一般的に安定なw/o/w型エマルションを形成できるものであれば何れでもよい。具体的には、例えばアニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、レシチン、ゼラチン、ヒアルロン酸などが用いられる。該乳化剤は、好ましくはポリビニルアルコールが用いられる。該乳化剤は、1種類または2種以上を組み合わせて使用してもよい。使用の際の濃度は、外水相に対し約0.001〜約20%(w/w)の範囲から適宜選択できる。さらに好ましくは約0.01〜約10%(w/w)、特に好ましくは約0.05%〜約5%(w/w)の範囲で用いられる。また、外水相中に内水相で用いた金属塩と同一または異なった金属塩を加えてもよい。この際、外水相中の金属塩の濃度が約0.01〜約20%(w/w)、特に約0.1〜約10%(w/w)となるように脂肪酸金属塩を添加することが好ましい。外水相中の金属塩の濃度を変えることにより、内水相で用いた金属塩が、生体内分解性高分子重合物から外水相へ溶出するのを防ぐこともできる。
【0035】
このようにして得られたマイクロカプセルは、遠心分離あるいは濾過して分取した後、マイクロカプセルの表面に付着している乳化剤などを蒸留水で数回繰り返し洗浄し、再び蒸留水などに分散して凍結乾燥する。その後、必要であれば、減圧下加温してマイクロカプセル中の水分および有機溶媒の除去をさらに行う。加温条件としては、生体内分解性高分子重合物のガラス転移温度以上で、マイクロカプセルの各粒子が互いに付着しない程度の温度で加熱乾燥する。好ましくは、生体内分解性高分子重合物のガラス転移温度からガラス転移温度より約30℃高い温度の範囲で加熱乾燥する。ここにおいて、ガラス転移温度とは、示差走査熱量計を用い、加温速度毎分10ないし20℃で昇温した際に得られる中間点ガラス転移温度をいう。
【0036】
(b)水中乾燥法(o/w法)
本法においては、まず前記(A)に準じた方法で生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液を製造する。この際、生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液中での濃度は、前記(a)と同様な濃度が用いられる。次いで得られた生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液に生理活性ポリペプチドを加え、溶解または分散させ生体内分解性高分子重合物の金属塩と生理活性ポリペプチドとの有機溶媒液または懸濁液を製造する。この時、生理活性ポリペプチドが生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液に溶解しない、すなわち混濁するような場合、生理活性ポリペプチドはあらかじめ有機溶媒中に分散させておく方が好ましい。該有機溶媒中には、例えば安定化剤(例、血清アルブミン、ゼラチン、硫酸プロタミン等)を加えてもよい。生理活性ポリペプチドを有機溶媒中に均一に分散させるには、外部物理的エネルギーを加える必要がある。その方法とは、例えば超音波照射、タービン型撹拌器、ホモジナイザー等が挙げられる。このときの生理活性ポリペプチドの有機溶媒中での粒子サイズとしては、約0.01〜約100μm、好ましくは約0.5〜約50μm、さらに好ましくは約0.1〜約10μmであることが望まれる。また、このときの生理活性ポリペプチドの有機溶媒中での濃度は約1〜約50%、好ましくは約2〜約20%である。このような処理を行うことで、有機溶媒中における生理活性ポリペプチドの粒子サイズをそろえることができ、生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液中に均一に分散させることが可能となる。また、生理活性ポリペプチドは、生体内分解性高分子重合物の金属塩とは独立して有機溶媒に分散させてもよい。この場合、用いる有機溶媒は生体内分解性高分子重合物の金属塩を溶解した有機溶媒と同一の組成でもよいし異なっていてもよい。例えば、生体内分解性高分子重合物の金属塩をジクロロメタンに溶解し、生理活性ポリペプチドをアセトニトリルに分散させ、両者を混合してもよい。この際、生理活性ポリペプチドと生体内分解性高分子重合物の金属塩との比率(重量比)は、例えば約1:1000〜約1:1、好ましくは約1:200〜約1:5、特に好ましくは約1:100〜約1:5である。ついで、このようにして調製された生体内分解性高分子重合物の金属塩と生理活性ポリペプチドとの有機溶媒液をさらに水相中に加えて、o/w型エマルションを形成させた後、油相中の溶媒を蒸発させマイクロカプセルを製造する。このようにして得られたマイクロカプセルは前記(a)と同様にして分取、洗浄し、凍結乾燥する。その後、必要であれば、前記(a)と同様にして減圧下加温してマイクロカプセル中の水分および有機溶媒の除去をさらに行う。
【0037】
(c)相分離法
本法によりマイクロカプセルを製造する場合には、前記(a)のw/o型エマルションあるいは前記(b)の生体内分解性高分子重合物の金属塩と生理活性ポリペプチドとを含む有機溶媒液に前記(C)と同様な方法でコアセルベーション剤を撹拌下徐々に加え、マイクロカプセルを析出、固化させる。このようにして得られたマイクロカプセルは前記(C)と同様にして分取、洗浄し、コアセルベーション剤および遊離生理活性ポリペプチドを除去する。その後、必要であれば、前記(a)と同様にして減圧下加温してマイクロカプセル中の水分および有機溶媒の除去をさらに行う。水中乾燥法および相分離法での製造では、粒子同士の凝集を防ぐために前記(C)と同様に凝集防止剤を加えてもよい。
【0038】
(d)噴霧乾燥法
本法によってマイクロカプセルを製造する場合には、前記(a)のw/o型エマルションあるいは前記(b)の生体内分解性高分子重合物の金属塩と生理活性ポリペプチドとを含む有機溶媒液を、前記(D)と同様にして噴霧しマイクロカプセルを製造する。このようにして得られたマイクロカプセルは、必要であれば、前記(a)と同様にして減圧下加温してマイクロカプセル中の水分および有機溶媒の除去をさらに行う。
【0039】
本発明において、生体内分解性高分子重合物の金属塩への生理活性ポリペプチドの取り込み率は約50%以上であることが望ましい。
本発明の徐放性製剤に含まれる生理活性ポリペプチドの含量は、例えば約0.001〜約30%(w/w)、好ましくは、約0.02〜約20%(w/w)、さらに好ましくは約0.1〜約10%(w/w)、特に好ましくは、約0.5〜約5%(w/w)である。
本発明の徐放性製剤は、例えば前記で得られたマイクロカプセルをそのままで、あるいはこのマイクロカプセルを原料物質として種々の剤形、例えば非経口剤(例、筋肉内、皮下、臓器などへの注射剤または埋め込み剤、鼻腔、直腸、子宮などへの経粘膜剤等)、経口剤(例、カプセル剤(例、硬カプセル剤、軟カプセル剤等)、顆粒剤、散剤等の固形製剤、懸濁剤等の液剤等)などとして投与することができる。
本発明の徐放性製剤は、特に注射剤であることが好ましい。前記方法で得られたマイクロカプセルを注射剤とするには、マイクロカプセルを分散剤(例、Tween 80、HCO−60等の界面活性剤、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等の多糖類、硫酸プロタミン、ポリエチレングリコール400など)、保存剤(例、メチルパラベン、プロピルパラベンなど)、等張化剤(例、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、ブドウ糖など)、局所麻酔剤(塩酸キシロカイン、クロロブタノールなど)等と共に水性懸濁剤とするか、ゴマ油、コーン油などの植物油あるいはこれにレシチンなどのリン脂質を混合したもの、あるいは中鎖脂肪酸トリグリセリド(例、ミグリオール812等)と共に分散して油性懸濁剤として徐放性注射剤とする。
【0040】
徐放性製剤が例えばマイクロカプセルである場合、微粒子であることが特に好ましい。マイクロカプセルの粒子径は、懸濁注射剤として使用する場合にはその分散度、通針性を満足する範囲であればよく、例えば、平均粒子径として約0.1〜約300μmの範囲が挙げられる。粒子径は、好ましくは、約1〜約150μm、さらに好ましくは、約2〜約100μmの範囲の粒子径である。
前記したマイクロカプセルを無菌製剤にするには、製造全工程を無菌にする方法、ガンマ線で滅菌する方法、防腐剤を添加する方法等が挙げられるが、特に限定されない。
【0041】
徐放性製剤は、低毒性で哺乳動物(例、ヒト、牛、豚、犬、ネコ、マウス、ラット、ウサギ等)に対して安全に用いることができる。
徐放性製剤の適応は、使用する生理活性ポリペプチドにより異なる。徐放性製剤は、該生理活性ポリペプチドが、例えばインスリンである場合には、糖尿病など、成長ホルモンである場合には成長ホルモン分泌不全症およびターナー症候群など、インターフェロン−アルファである場合には、ウイルス性肝炎(例、C型肝炎、HBe抗原陽性活動性肝炎など)、癌(例、腎癌、多発性骨髄腫など)など、エリスロポエチンの場合には貧血(例、腎透析時貧血など)など、G−CSFの場合には好中球減少症(例、制ガン剤治療時)、感染症など、IL−2の場合には癌(例、血管内皮腫など)など、FGFの場合には消化管潰瘍など、FGF−9の場合には血小板減少症など、NGFの場合には老人性痴呆、神経病(ニューロパシー)など、TPAの場合には血栓症など、腫瘍壊死因子の場合には癌などの治療または予防に有効である。
【0042】
徐放性製剤の投与量は、生理活性ポリペプチドの種類と含量、放出の持続時間、対象疾病、対象動物などによって種々異なるが、該生理活性ポリペプチドの有効濃度が体内で保持される量であればよい。該生理活性ポリペプチドの投与量としては、例えば徐放性製剤が1週間型製剤である場合、好ましくは、成人1人当たり約0.0001〜約10mg/kg体重の範囲から適宜選ぶことができる。さらに好ましくは約0.0005〜約1mg/kg体重の範囲から適宜選ぶことができる。投与回数は、1週間に1回、2週間に1回等、該生理活性ポリペプチドの種類と含量、剤型、放出の持続時間、対象疾病、対象動物などによって適宜選ぶことができる。
徐放性製剤の有効成分である生理活性ポリペプチドが、例えばインスリンである場合には、糖尿病の成人に対する投与量は、有効成分として通常、約0.001〜約1mg/kg体重、好ましくは約0.01〜約0.2mg/kg体重の範囲から適宜選び、1週間に1回投与するのがよい。また、成長ホルモンである場合には、下垂体性小人症の患者に対する投与量は、有効成分として通常、約0.004mg〜約4mg/kg体重、好ましくは約0.04mg〜約0.8mg/kg体重の範囲から適宜選び、1週間に1回投与することが好ましい。あるいは約0.008mg〜約8mg/kg体重、好ましくは約0.08mg〜約1.6mg/kg体重の範囲から適宜選び、2週間に1回投与することが好ましい。
徐放性製剤は、常温あるいは冷所に保存することが好ましい。徐放性製剤は、冷所に保存することがさらに好ましい。ここでいう常温あるいは冷所とは、日本薬局方において定義されるものである。すなわち、常温とは15〜25℃を、冷所とは15℃以下を意味する。
【実施例】
【0043】
以下に参考例、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
参考例1
乳酸−グリコール酸共重合物〔乳酸/グリコール酸=50/50(モル%)、重量平均分子量6000〕4gをジクロロメタン4mlに溶解した。この溶液に438mg/mlの酢酸亜鉛水溶液1mlを添加し、小型ホモジナイザーで混合しw/o型エマルションを得た。このエマルションをあらかじめ18℃に調節しておいた0.1%(w/v)ポリビニルアルコール(PVA)水溶液800mlに注入しタービン型ホモミキサーを使用してw/o/w型エマルションを得た。この後、w/o/w型エマルションを室温で撹拌しつつジクロロメタンを揮散させて乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩を得た。得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩を遠心分離操作(約1000rpm)により分取し上清を捨てた。次いで蒸留水600mlにて2回洗浄後、凍結乾燥して粉末状の乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩を得た。この乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩の亜鉛含量を原子吸光法により測定したところ1.36%(w/w)であった。
【0044】
参考例2
乳酸−グリコール酸共重合物〔乳酸/グリコール酸=50/50(モル%)、重量平均分子量10000〕4gをジクロロメタン4mlに溶解した。この溶液に292mg/mlの酢酸亜鉛水溶液1.5mlを添加し小型ホモジナイザーで混合しw/o型エマルションを得た。このエマルションを参考例1と同様に処理し、粉末状の乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩を得た。この乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩の亜鉛含量を原子吸光法により測定したところ1.1%(w/w)であった。
【0045】
参考例3
乳酸−グリコール酸共重合物〔乳酸/グリコール酸=50/50(モル%)、重量平均分子量15000〕4gをジクロロメタン4mlに溶解した。この溶液に292mg/mlの酢酸亜鉛水溶液1.5mlを添加し小型ホモジナイザーで混合しw/o型エマルションを得た。このエマルションを参考例1と同様に処理し、粉末状の乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩を得た。この乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩の亜鉛含量を原子吸光法により測定したところ0.99%であった。
【0046】
参考例4
組み換え型ヒトインスリン(和光純薬製、亜鉛含量0.35%)1gを0.01N塩酸溶液200mlに溶解した。この溶液を分子量分画6000の半透膜〔スペクトラポア(SpectraporTM)7 MWCO 1000、スペクトラムメディカルインダストリーズ社製、米国〕を用い0.01N塩酸溶液10L中で3回透析した。さらに、30Lの0.2M酢酸アンモニウム水溶液にて1回、30Lの0.02M酢酸アンモニウム水溶液にて1回、30Lの蒸留水にて1回ずつ透析をした後、凍結乾燥した。得られた凍結乾燥インスリン粉末中の亜鉛含量は0.0001%(w/w)以下であった。
【0047】
参考例5
乳酸−グリコール酸共重合物〔乳酸/グリコール酸=50/50(モル%)、重量平均分子量6000〕8gをジクロロメタン8mlに溶解した。この溶液に292mg/mlの酢酸亜鉛水溶液1.5mlを添加し、小型ホモジナイザーで混合して、w/o型エマルションを得た。このエマルションをあらかじめ18℃に調節しておいた0.1%(w/v)ポリビニルアルコール水溶液1800mlに注入し、タービン型ホモミキサーを使用してw/o/w型エマルションを得た。このエマルションを参考例1と同様に処理し、粉末状の乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩を得た。この乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩の亜鉛含量を原子吸光法により測定したところ、1.15%であった。
【0048】
参考例6
乳酸−グリコール酸共重合物〔乳酸/グリコール酸=50/50(モル%)、重量平均分子量6000〕8gをジクロロメタン8mlに溶解した。この溶液に292mg/mlの酢酸亜鉛水溶液1.5mlを添加し、小型ホモジナイザーで混合して、w/o型エマルションを得た。このエマルションを参考例4と同様に処理し、粉末状の乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩を得た。この乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩の亜鉛含量を原子吸光法により測定したところ、1.24%であった。
【0049】
参考例7
乳酸−グリコール酸共重合物〔乳酸/グリコール酸=50/50(モル%)、重量平均分子量15000〕8gをジクロロメタン8mlに溶解した。この溶液に292mg/mlの酢酸亜鉛水溶液1.2mlを添加し、小型ホモジナイザーで混合して、w/o型エマルションを得た。このエマルションを参考例4と同様に処理し、粉末状の乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩を得た。この乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩の亜鉛含量を原子吸光法により測定したところ、0.96%であった。
【0050】
参考例8
乳酸−グリコール酸共重合物〔乳酸/グリコール酸=50/50(モル%)、重量平均分子量8000〕8gをジクロロメタン8mlに溶解した。この溶液に292mg/mlの酢酸亜鉛水溶液1.5mlを添加し、小型ホモジナイザーで混合して、w/o型エマルションを得た。このエマルションをあらかじめ18℃に調節しておいた0.1%(w/v)ポリビニルアルコール水溶液1800mlに注入し、タービン型ホモミキサーを使用してw/o/w型エマルションを得た。この後、w/o/w型エマルションを室温にて撹拌しつつ、ジクロロメタンを揮散させて、乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩を得た。得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩を遠心分離操作(約1000rpm)により分取し、上清を捨てた。ついで蒸留水1200mlで2回洗浄した。以上の操作をもう1度繰り返して得られたものと、先に調整したものを混合した後、凍結乾燥して粉末状の乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩11.8gを得た。この乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩の亜鉛含量を原子吸光法により測定したところ1.19%(w/w)であった。
【0051】
実施例1
参考例1で得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩900mgをジクロロメタン1mlに溶解した。この溶液に参考例4で得られたZn不含インスリン凍結乾燥粉末100mgを添加しボルテックスミキサーにて混合し、小型ホモジナイザーで混合して、インスリンと乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩とを含む有機溶媒溶液を得た。この有機溶媒溶液をあらかじめ18℃に調節しておいた0.1%(w/v)ポリビニルアルコール(PVA)水溶液800mlに注入しタービン型ホモミキサーを使用してo/w型エマルションとした。このo/w型エマルションを室温で撹拌しつつジクロロメタンを揮散させ、マイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルを遠心分離操作(約1000rpm)により分取し上清を捨てた。次いで蒸留水600mlにて2回洗浄後、凍結乾燥して粉末状のインスリン含有マイクロカプセル520mgを得た。
【0052】
実施例2
参考例2で得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩900mgをジクロロメタン1mlに溶解した。この溶液に参考例4で得られたZn不含インスリン凍結乾燥粉末100mgを添加し、実施例1と同様に処理して粉末状のインスリン含有マイクロカプセル450mgを得た。
【0053】
実施例3
参考例3で得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩900mgをジクロロメタン1.5mlに溶解した。この溶液に参考例4で得られたZn不含インスリン凍結乾燥粉末100mgを添加し、実施例1と同様に処理して粉末状のインスリン含有マイクロカプセル503mgを得た。
【0054】
実施例4
参考例1で得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩950mgをジクロロメタン1.5mlに溶解した。この溶液中にヒト成長ホルモン(ジェノトロピンTM 16IU/アンプル、住友製薬株式会社製)の8本(128IU)の粉末を添加し実施例1と同様に処理し、成長ホルモン含有マイクロカプセル500mgを得た。
【0055】
実施例5
参考例5で得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩950mgをジクロロメタン1.5mlに溶解した。この溶液にヒト成長ホルモン凍結乾燥粉末50mgを添加し、実施例1と同様に処理して粉末状の成長ホルモン含有マイクロカプセル517mgを得た。
【0056】
実施例6
参考例3で得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩950mgをジクロロメタン3mlに溶解した。この溶液にヒト成長ホルモン凍結乾燥粉末50mgを添加し、実施例1と同様に処理して粉末状の成長ホルモン含有マイクロカプセル415mgを得た。
【0057】
実施例7
参考例6で得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩475mgと乳酸−グリコール酸共重合物〔乳酸/グリコール酸=50/50(モル%)、重量平均分子量6000〕475mgをジクロロメタン−エタノール混合溶媒〔ジクロロメタン/エタノール=2/1(容積比)〕1.5mlに溶解した。この溶液にヒト成長ホルモン凍結乾燥粉末50mgを添加し、実施例1と同様に処理して粉末状の成長ホルモン含有マイクロカプセル249mgを得た。
【0058】
実施例8
参考例7で得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩475mgと乳酸−グリコール酸共重合物〔乳酸/グリコール酸=50/50(モル%)、重量平均分子量15000〕475mgをジクロロメタン−エタノール混合溶媒〔ジクロロメタン/エタノール=2/1(容積比)〕3mlに溶解した。この溶液にヒト成長ホルモン凍結乾燥粉末50mgを添加し、実施例1と同様にして粉末状の成長ホルモン含有マイクロカプセル447mgを得た。
【0059】
実施例9
参考例8で得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩2.12gをジクロロメタン3.45mlに溶解した。次に、参考例4で得られた亜鉛不含インスリン凍結乾燥粉末160mgをジクロロメタン2mlに添加し、5分間の超音波照射を行い、インスリン懸濁液を調製した。この懸濁液に、先に得られた乳酸−グリコール酸共重合物のジクロロメタン溶液(乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩として1.84gを含有する量)を添加し、ボルテックスミキサーにて混合後、小型ホモジナイザーで混合してインスリンと乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩とを含む有機溶媒溶液を得た。この有機溶媒溶液をあらかじめ18℃に調製しておいた1.4%酢酸亜鉛二水和物含有0.1%(w/v)ポリビニルアルコール水溶液2000mlに注入し、タービン型ホモジナイザーを使用してo/w型エマルションとした。このo/w型エマルションを室温にて撹拌しつつジクロロメタンを揮散させ、マイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルを遠心分離操作(約1000rpm)により分取し、上清を捨てた。次いで蒸留水1200mlで2回洗浄した後、マンニトール250mgを添加し、凍結乾燥して粉末状のインスリン含有マイクロカプセル1.53gを得た。
【0060】
実施例10
参考例8で得られた乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩1.06gをジクロロメタン/アセトニトリルの混合溶液(容積比10/1)2.3mlに溶解した。次に、参考例4で得られた亜鉛不含インスリン凍結乾燥粉末80mgをジクロロメタン/アセトニトリルの混合液(容積比10/1)1mlに添加し、5分間の超音波照射を行い、インスリン懸濁液を調製した。この懸濁液に、先に得られた乳酸−グリコール酸共重合物のジクロロメタン溶液(乳酸−グリコール酸尿重合物の亜鉛塩として0.92gを含有する量)を添加し、ボルテックスミキサーにて混合後、小型ホモジナイザーで混合してインスリンと乳酸−グリコール酸共重合物の亜鉛塩とを含む有機溶媒液を得た。この有機溶媒液をあらかじめ18℃に調製しておいた0.7%酢酸亜鉛二水和物含有0.1%(w/v)ポリビニルアルコール水溶液1000mlに注入し、タービン型ホモジナイザーを使用してo/w型エマルションとした。このo/w型エマルションを室温にて撹拌しつつジクロロメタンを揮散させ、マイクロカプセルを得た。得られたマイクロカプセルを遠心分離操作(約1000rpm)により分取し、上清を捨てた。次いで蒸留水600mlで2回洗浄した後、マンニトール100mgを添加し、凍結乾燥して粉末状のインスリン含有マイクロカプセル0.734gを得た。
【0061】
実験例1
実施例1で得られたインスリン含有マイクロカプセル147mgを分散媒〔マンニトール 5%(w/v),カルボキシメチルセルロース 0.5%(w/v),ツイーン(Tween)20 0.1%(w/v),酢酸でpH6.8に調整〕1.75mlに分散した。得られた分散液0.5ml(インスリン100Uを含有)をエーテル麻酔下にてストレプトゾトシン感作高血糖誘発ラットの背部皮下に投与した。尾静脈より経時的に採血し血清を分取した。得られた血清中のインスリン濃度を2抗体サンドイッチ法を応用した酵素免疫測定法にて定量した。対照として、インスリン溶液および市販のインスリン徐放剤であるノボリンTMU(ノボノルディスク社製、デンマーク)(それぞれインスリン100U相当を含有)を投与した。その結果、〔表1〕に示すようにインスリン・亜鉛含有マイクロカプセル投与群のインスリン血清中濃度はインスリン溶液およびノボリンTMUに比べ有意に持続し、本発明の製造法により製造された徐放性製剤の優れた徐放性持続効果が確認された。
【0062】
【表1】

【0063】
実験例2
実施例6で得られた成長ホルモン含有マイクロカプセル261mgを分散媒1.75mlに分散した。得られた分散液0.5ml(成長ホルモン3mgを含有)をエーテル麻酔下にてラットの背部皮下に投与した。尾静脈より経時的に採決し、血清を分取した。得られた血清中の成長ホルモン濃度をラジオイムノアッセイ(AbビーズHGH、栄研化学株式会社製)にて定量した。対照として成長ホルモン溶液(成長ホルモン3mgを含有)を投与した。その結果、〔表2〕に示すように成長ホルモン・亜鉛含有マイクロカプセル投与群の成長ホルモン血清中濃度は成長ホルモン溶液投与群に比べて有意に持続し、本発明の製造法により製造された徐放性製剤の優れた徐放性持続効果が確認された。
【0064】
実験例3
実施例7で得られた成長ホルモン含有マイクロカプセル211mgを分散媒1.75mlに分散した。得られた分散液0.5ml(成長ホルモン3mgを含有)をエーテル麻酔下にてラットの背部皮下に投与した。尾静脈より経時的に採血し、血清を分取した。得られた血清中の成長ホルモン濃度をラジオイムノアッセイ(AbビーズHGH、栄研化学株式会社製)にて定量した。その結果、〔表2〕に示すように成長ホルモン・亜鉛含有マイクロカプセル投与群の成長ホルモン血清濃度は成長ホルモン溶液投与群に比べて投与後初期の漏出を著しく抑制し、かつ有意に持続し、本発明の製造法により製造された徐放性製剤の優れた徐放性持続効果が確認された。
【0065】
【表2】

【0066】
実験例4
実施例9で得られたインスリン含有マイクロカプセル236.6mgを分散媒1.75mlに分散した。得られた分散液0.5ml(インスリン100Uを含む)をエーテル麻酔下にてラットの背部皮下に投与した。尾静脈より経時的に採血し、血清を分取した。得られた血清中のインスリン濃度をエンザイム−イムノアッセイにて定量した。その結果、〔表3〕に示すようにインスリン・亜鉛含有マイクロカプセル投与群のインスリン血清中濃度はインスリン溶液投与群に比べ、投与後初期の漏出を著しく抑制し、かつ有意に持続し、本発明の製造法により製造された徐放性製剤の優れた徐放性持続効果が確認された。
【0067】
実験例5
実施例10で得られたインスリン含有マイクロカプセル216.4mgを分散媒1.75mlに分散した。得られた分散液0.5ml(インスリン100Uを含有)をエーテル麻酔下にてラットの背部皮下に投与した。尾静脈より経時的に採血し、血清を分取した。得られた血清中のインスリン濃度をエンザイム−イムノアッセイにて定量した。その結果、〔表3〕に示すようにインスリン・亜鉛含有マイクロカプセル投与群に比べ、投与後初期の漏出を著しく抑制し、かつ有意に持続し、本発明の製造法により製造された徐放性製剤の優れた徐放性持続効果が確認された。
【0068】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液に生理活性ポリペプチドを分散させ、成形することを特徴とする徐放性製剤の製造法。
【請求項2】
金属塩が多価金属塩である請求項1記載の製造法。
【請求項3】
金属塩が亜鉛塩またはカルシウム塩である請求項1記載の製造法。
【請求項4】
有機溶媒液中の有機溶媒がハロゲン化炭化水素およびアセトニトリルあるいはアルコール類との混合溶液である請求項1記載の製造法。
【請求項5】
ハロゲン化炭化水素とアセトニトリルあるいはアルコール類との体積比が約40:1〜約1:1である請求項4記載の製造法。
【請求項6】
生理活性ポリペプチドがホルモンである請求項1記載の製造法。
【請求項7】
ホルモンがインスリンである請求項6記載の製造法。
【請求項8】
ホルモンが成長ホルモンである請求項6記載の製造法。
【請求項9】
生理活性ポリペプチドがサイトカインである請求項1記載の製造法。
【請求項10】
サイトカインがインターフェロンである請求項9記載の製造法。
【請求項11】
生体内分解性高分子重合物が脂肪族ポリエステルである請求項1記載の製造法。
【請求項12】
脂肪族ポリエステルがα−ヒドロキシカルボン酸重合物である請求項11記載の製造法。
【請求項13】
脂肪族ポリエステルが乳酸−グリコール酸共重合物である請求項11記載の製造法。
【請求項14】
乳酸−グリコール酸共重合物の乳酸/グリコール酸組成比(モル%)が約100/0〜約40/60で、重量平均分子量が約3000〜約20000である請求項13記載の製造法。
【請求項15】
徐放性製剤が微粒子である請求項1記載の製造法。
【請求項16】
微粒子の平均粒子径が約0.1〜約300μmである請求項15記載の製造法。
【請求項17】
徐放性製剤が注射剤である請求項1記載の製造法。
【請求項18】
生体内分解性高分子重合物の金属塩の有機溶媒液に生理活性ポリペプチドを分散させた分散液。
【請求項19】
脂肪酸の金属塩を実質上含まない請求項18記載の分散液。
【請求項20】
請求項1記載の製造法により製造される徐放性製剤。
【請求項21】
生体内分解性高分子重合物の金属塩の金属含量が約0.01〜約10%(w/w)である請求項20記載の徐放性製剤。
【請求項22】
生理活性ポリペプチドの含量が約0.001〜約30%(w/w)である請求項20記載の徐放性製剤。
【請求項23】
生体内分解性高分子重合物の亜鉛塩を含む有機溶媒液に成長ホルモンを分散させ、成型することにより得られる請求項20記載の徐放性製剤。

【公開番号】特開2008−273982(P2008−273982A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142682(P2008−142682)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【分割の表示】特願平8−167032の分割
【原出願日】平成8年6月27日(1996.6.27)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】