説明

復水処理剤

【課題】 ボイラ装置に発生する腐食を抑制するにあたり、皮膜形成剤とpH調整剤を適正量供給することができる1液型の復水処理剤を提供すること。
【解決手段】 給水を加熱して蒸気を生成するボイラ2と、このボイラ2へ給水を供給する給水部3と、前記ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気供給部5と、前記負荷機器4で使用した蒸気を復水として前記給水部3へ供給する復水供給部6とを備えたボイラ装置1に供給して、前記ボイラ装置1に発生する腐食を抑制するために用いられる復水処理剤であって、炭素数10〜18の脂肪酸またはそのアミン塩と、中和性アミンとを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ装置の腐食抑制用の復水処理剤に関し、特にボイラで発生した蒸気が凝縮して得られる復水をボイラ用の給水として再利用するボイラ装置に発生する腐食を抑制するために用いられる復水処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラからの蒸気が凝縮して得られる復水をボイラ用の給水として再利用するボイラ装置は、復水を回収して給水系に混合するための復水配管,給水をボイラへ供給するための給水配管およびボイラで発生した蒸気を負荷装置等へ供給するための蒸気配管として、主として鋼管を利用している。このため、かかるボイラ装置においては、運転期間の長期化に伴って、復水配管や蒸気配管内に腐食が生じる場合がある。
【0003】
復水配管等の腐食は、主に復水や給水中の炭酸ガスや溶存酸素の影響により生じる。炭酸ガスを原因とする腐食は、ボイラ装置内において、炭酸水素イオンなどのMアルカリ成分を含む給水の熱分解により生成する炭酸ガスが復水に溶解し、復水のpHを低下させることにより生じるものであり、復水と接触している配管の内面部分に均等に進行して配管の減肉をもたらす。また、溶存酸素を原因とする腐食は、給水中に含まれる溶存酸素が蒸気とともに各配管に供給されること等により生じるものである。
【0004】
従来から、ボイラ装置においては、上記各原因に基づく腐食を効果的に抑制するため、復水処理剤として皮膜形成剤とpH調整剤とを併用している。かかる2種類の薬剤を用いてボイラ装置を運転する場合、それぞれの薬剤を別々の薬注装置を用いて個別に供給する方法があるが、かかる方法では、別々の薬注装置を配設する必要があるためボイラ装置自体が高価になる,各薬剤の供給作業や在庫をそれぞれ個別に管理する必要があるため、ボイラ装置の運転に伴う管理作業も複雑になる等の問題点がある。
【0005】
そこで、ボイラ装置にモルホリン脂肪酸塩の水分散液を供給し、該モルホリン脂肪酸塩を脂肪酸(皮膜形成剤)とモルホリン(pH調整剤)に熱分解させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−85114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1記載の方法では、給水中の溶存酸素濃度が増えたときに、復水配管内や蒸気配管内での皮膜形成を促進させるため、皮膜基準でモルホリン脂肪酸塩を供給した場合、ボイラ水中の薬剤濃度が高くなり、キャリーオーバーによって、蒸気の品質が低下してしまう不都合があることが判明した。一方、給水中のMアルカリ成分濃度が増えたときに、復水配管内や蒸気配管内での中和を促進させるため、pH基準でモルホリン脂肪酸塩を供給した場合、ボイラ水中の脂肪酸濃度が高くなり、キャリーオーバーによって、蒸気の品質が低下してしまう不都合があることが判明した。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ボイラ装置に発生する腐食を抑制するにあたり、皮膜形成剤とpH調整剤とを適正量供給することができる1液型の復水処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 給水を加熱して蒸気を生成するボイラと、このボイラへ給水を供給する給水部と、前記ボイラで生成した蒸気を負荷機器へ供給する蒸気供給部と、前記負荷機器で使用した蒸気を復水として前記給水部へ供給する復水供給部とを備えたボイラ装置に供給して、前記ボイラ装置に発生する腐食を抑制するために用いられる復水処理剤であって、炭素数10〜18の脂肪酸またはそのアミン塩と、中和性アミンとを含有することを特徴とする復水処理剤、
〔2〕 炭素数10〜18の脂肪酸が、酪酸,カプロン酸,カプリル酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミスチリン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸,リシノレン酸,アラキジン酸,エイコセン酸,ベヘン酸,エルシン酸およびリグノセリン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕記載の復水処理剤、
〔3〕 炭素数10〜18の脂肪酸のアミン塩が該脂肪酸のモルホリン塩である、前記〔1〕または〔2〕記載の復水処理剤、
〔4〕 中和性アミンが、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール,シクロヘキシルアミン,ジシクロヘキシルアミン,ジエタノールアミン,ジエチルアミノエタノール,ジエチルヒドロキシルアミン,2−ジメチルアミノエタノール,ジメチルイソプロパノールアミン,3−メトキシ−n−プロピルアミン,2−アミノエタノール,モルホリンおよび1−アミノ−2−プロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の復水処理剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ボイラ装置に発生する腐食を抑制するにあたり、炭素数10〜18の脂肪酸またはそのアミン塩と中和性アミンとを含有する1液型の復水処理剤をボイラ装置へ供給するので、皮膜形成剤(脂肪酸)とpH調整剤(中和性アミン,脂肪酸のアミン塩が熱分解して形成されるアミン成分)を適正量供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1を参照して、本発明を適用したボイラ装置の一例を説明する。図1において、ボイラ装置1は、給水を加熱して蒸気を生成するボイラ2と、このボイラ2へ給水を供給する給水装置3(給水部の一例)と、ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4等へ供給する蒸気供給装置5(蒸気供給部の一例)と、負荷機器4で使用した蒸気を復水として給水装置3へ供給する復水配管6(復水供給部の一例)と、復水処理剤を給水装置3へ供給する薬剤供給装置7とを主に備えている。
【0012】
給水装置3は、ボイラ2へ給水するために、補給水の注水路8と、この注水路8からの補給水を貯留する給水タンク9と、この給水タンク9に貯留された給水をボイラ2へ供給する給水配管10とを主に備えている。また、給水配管10は、給水をボイラ2へ送り出す給水ポンプ11を備えている。
【0013】
蒸気供給装置5は、蒸気ヘッダ12と、ボイラ2で生成した蒸気を蒸気ヘッダ12へ供給する蒸気供給管13と、蒸気ヘッダ12から分岐する各種の蒸気配管14,15,16を主に備えている。蒸気ヘッダ12は、ボイラ2で発生した蒸気を各種の負荷機器に分配する母管である。また、第一蒸気配管14,第二蒸気配管15および第三蒸気配管16は、それぞれ負荷機器4や図示しない他の負荷機器に接続されている。
【0014】
負荷機器4は、ボイラ2からの蒸気を用いて所要の熱交換するもの,すなわちボイラ装置1における負荷装置であり、蒸気供給装置5の下流側に接続されている。
【0015】
薬剤供給装置7は、復水処理剤を貯蔵し、この復水処理剤を蒸気供給装置5へ供給する薬剤タンク17と、蒸気ヘッダ12へ連絡する薬剤供給路18を主に備えている。薬剤供給路18は、薬剤タンク17内の復水処理剤を蒸気ヘッダ12に対して供給する薬注ポンプ19を備えている。
【0016】
薬剤タンク17内に貯蔵されている復水処理剤は、炭素数10〜18の脂肪酸またはそのアミン塩と中和性アミンとを含有する水分散液である。この復水処理剤は、上記各成分を純水に加え、混合および分散して調製される。
【0017】
炭素数10〜18の脂肪酸としては、例えば、酪酸,カプロン酸,カプリル酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミスチリン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸,リシノレン酸,アラキジン酸,エイコセン酸,ベヘン酸,エルシン酸,リグノセリン酸等を例示することができる。これらは単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0018】
炭素数10〜18の脂肪酸のアミン塩としては、例えば、酪酸,カプロン酸,カプリル酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミスチリン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸,リシノレン酸,アラキジン酸,エイコセン酸,ベヘン酸,エルシン酸,リグノセリン酸等から選ばれる脂肪酸のモルホリン塩を例示することができる。これらは単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0019】
中和性アミンは気化性に優れるものであれば特に限定されず、例えば、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール,シクロヘキシルアミン,ジシクロヘキシルアミン,ジエタノールアミン,ジエチルアミノエタノール,ジエチルヒドロキシルアミン,2−ジメチルアミノエタノール,ジメチルイソプロパノールアミン,3−メトキシ−n−プロピルアミン,2−アミノエタノール,モルホリン,または1−アミノ−2−プロパノール等を例示することができる。これらは単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0020】
上記脂肪酸またはそのアミン塩(以下、「A成分」いう場合がある)と中和性アミン(以下、「B成分」という場合がある)の配合割合(重量比)としては、B成分がA成分より多ければ特に限定されず、通常は、A成分:B成分=1:1.1〜1:1000が好ましく、1:1.3〜1:500がより好ましい。A成分に比べてB成分を多く配合することで、ボイラ装置1へ復水処理剤を供給する場合において、皮膜基準およびpH基準のうち、いずれか一の基準を満たすのに必要な量の復水処理剤を供給したとき、他の基準に対しても適正量の復水処理剤を供給することができる。
【0021】
つぎに、ボイラ装置1の運転方法を説明し、あわせてボイラ装置1の腐食抑制方法を説明する。ボイラ装置1を運転する場合は、注水路8から給水タンク9へ補給水を供給し、この補給水をボイラ2への給水として給水タンク9に貯留する。そして、給水ポンプ11を作動させ、給水タンク9に貯留された給水を給水配管10を通じてボイラ2へ供給する。
【0022】
ボイラ2へ供給された給水は、ボイラ水としてボイラ2内に貯留される。そして、ボイラ2に貯留されたボイラ水は、加熱されて徐々に蒸気になる。生成した蒸気は、蒸気供給管13を通じて蒸気ヘッダ12へ送られ、第一蒸気配管14,第二蒸気配管15および第三蒸気配管16を通じて負荷機器4等へ供給される。負荷機器4へ供給された蒸気は、負荷機器4を通過して復水配管6へ流れ、そこで潜熱を失って一部が凝縮水に変わり、スチームトラップ(図示省略)において蒸気と水とが分離されて高温の復水となる。このように生成した復水は、復水配管6を通じて給水タンク9へ回収される。給水タンク9へ回収された復水は、そこで、注水路8からの補給水と混合され、ボイラ2への給水として再利用される。
【0023】
上述したボイラ装置1の運転中において、薬剤供給装置7の薬注ポンプ19を作動させ、薬剤タンク17内に貯蔵されている復水処理剤を薬剤供給路18を通じて蒸気ヘッダ12へ供給する。蒸気ヘッダ12へ供給された復水処理剤が上述した脂肪酸と中和性アミンを含有する場合、脂肪酸は蒸気ヘッダ12においてボイラ2からの蒸気に混合され、第一蒸気配管14,第二蒸気配管15および第三蒸気配管16および復水配管6に供給される。そして、これらの配管に供給された脂肪酸は、配管の内周面に防食性の皮膜を形成し、腐食を抑制する。一方、中和性アミンは蒸気ヘッダ12において蒸気に混合され、第一蒸気配管14,第二蒸気配管15および第三蒸気配管16および復水配管6に供給される。そして、これらの配管に供給された中和性アミンは、蒸気や復水中に含まれる炭酸ガスを中和してpHをアルカリ性側に調整し、各配管のpHの影響による腐食を抑制する。
【0024】
また、蒸気ヘッダ12へ供給された復水処理剤が脂肪酸のアミン塩と中和性アミンを含有する場合、脂肪酸のアミン塩は蒸気ヘッダ12においてボイラ2からの蒸気に混合され、その熱により脂肪酸とアミン成分に分解され、第一蒸気配管14,第二蒸気配管15および第三蒸気配管16および復水配管6に供給される。この場合、脂肪酸は上述した場合と同様に皮膜形成剤として作用し、アミン成分は上述した中和性アミンと同様の作用を奏する。すなわち、脂肪酸のアミン塩と中和性アミンを含有する復水処理剤を用いた場合、ボイラ装置内において脂肪酸が皮膜形成剤として作用し、アミン成分と中和性アミンがpH調整剤として作用する。
【0025】
そして、上述したように、脂肪酸と中和性アミン(脂肪酸のアミン塩が熱分解して生じるアミン成分も含む)のうち、各配管に対する供給量は相対的に中和性アミンの方が多い。このため、皮膜基準およびpH基準のうち、いずれか一の基準を満たすのに必要な量の復水処理剤をボイラ装置1へ供給したとき、他の基準に対しても適正量の復水処理剤を供給することができる。
【0026】
以上、上述した実施形態では、復水処理剤を蒸気ヘッダ12へ供給する場合について説明したが、本発明では、蒸気供給部5のうち蒸気供給管13や第一蒸気配管14等、および給水配管10にも供給することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、ボイラで発生した蒸気が凝縮して得られる復水をボイラ用の給水として再利用するボイラ装置の腐食抑制用の復水処理剤として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用したボイラ装置の一例を示す概略構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水を加熱して蒸気を生成するボイラと、このボイラへ給水を供給する給水部と、前記ボイラで生成した蒸気を負荷機器へ供給する蒸気供給部と、前記負荷機器で使用した蒸気を復水として前記給水部へ供給する復水供給部とを備えたボイラ装置に供給して、前記ボイラ装置に発生する腐食を抑制するために用いられる復水処理剤であって、
炭素数10〜18の脂肪酸またはそのアミン塩と、中和性アミンとを含有することを特徴とする復水処理剤。
【請求項2】
炭素数10〜18の脂肪酸が、酪酸,カプロン酸,カプリル酸,カプリン酸,ラウリン酸,ミスチリン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸,リシノレン酸,アラキジン酸,エイコセン酸,ベヘン酸,エルシン酸およびリグノセリン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の復水処理剤。
【請求項3】
炭素数10〜18の脂肪酸のアミン塩が該脂肪酸のモルホリン塩である、請求項1または2記載の復水処理剤。
【請求項4】
中和性アミンが、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール,シクロヘキシルアミン,ジシクロヘキシルアミン,ジエタノールアミン,ジエチルアミノエタノール,ジエチルヒドロキシルアミン,2−ジメチルアミノエタノール,ジメチルイソプロパノールアミン,3−メトキシ−n−プロピルアミン,2−アミノエタノール,モルホリンおよび1−アミノ−2−プロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の復水処理剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−156700(P2008−156700A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346449(P2006−346449)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】