説明

復水脱塩方法及び復水脱塩装置

【課題】カチオン樹脂とアニオン交換樹脂から溶出するTOC由来の硫酸イオン及び硝酸イオン濃度の低い、高純度な処理水質を得ることが可能な復水脱塩方法及び装置の提供。
【解決手段】沸騰水型原子力発電プラントの復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する復水脱塩方法において、
平均粒径値が450〜600μmであり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂と、
強塩基性1型ガウス粒径分布ポーラス型アニオン交換樹脂とが均一に混合された混床を有し、前記混床は、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなり、該混床に復水を接触させて復水の脱塩処理を行うことを特徴とする復水脱塩方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型(以下、BWRと記す)原子力発電プラントの復水をイオン交換樹脂によって脱塩処理する復水脱塩方法に関し、特に、カチオン交換樹脂から溶出する有機性不純物由来の硫酸イオン濃度とアニオン交換樹脂から溶出する有機性不純物由来の硝酸イオン濃度とが共に低い、高純度な処理水質を長期間に渡り安定的に得ることができる復水脱塩方法及び復水脱塩装置に関する。
【背景技術】
【0002】
BWR原子力発電プラントでは、原子炉において発生した蒸気で発電した後に、海水で該蒸気を冷却し、その復水を、イオン交換樹脂を用いた復水脱塩装置で処理し、原子炉に給水している。この復水には、復水系統内に流入した海水成分、プラント構成材料より生成した鉄酸化物を主体とした懸濁性腐食生成物(以下、クラッドと称す)やイオン性不純物などが混入する可能性がある。この復水中の不純物を除去し、高純度な処理水質を得るために、原子力発電プラントには、復水をイオン交換樹脂によって脱塩処理する復水脱塩装置が設けられている。復水脱塩装置において使用するイオン交換樹脂としては、陽イオンを吸着するカチオン交換樹脂と陰イオンを吸着するアニオン交換樹脂があり、これらをカチオン交換樹脂:アニオン交換樹脂体積比で、通常、1:2から3:1の範囲で使用し、混合した状態で使用している。使用するイオン交換樹脂の粒径分布は、直径が350〜1200μmの範囲に存在し、平均値が700〜800μm程度の、いわゆるガウス分布のものが広く使用されている。
【0003】
イオン交換樹脂は、被処理水の通水によりイオン負荷が増加し、交換容量が徐々に減少するため、ある程度使用した時点で薬品による通薬再生を実施している。この際、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の比重差を利用して上向流により逆洗分離している。この分離効率を高めるために、粒径分布を均一にしたゲル型イオン交換樹脂が市販され、復水脱塩装置で広く使用されている。これは、ガウス分布のイオン交換樹脂の場合、比重の軽いアニオン交換樹脂の大粒径のものと、比重の重い小粒径のカチオン交換樹脂の分離が十分ではないため、この分離性能を向上させるために均一粒径化したものである。これらの理由から、従来、復水脱塩装置で使用されているイオン交換樹脂は、均一粒径樹脂同士の組み合わせを使用するか、若しくは、通薬再生頻度の低い復水脱塩装置では従来から使用されているとおりのガウス分布樹脂同士の組み合わせにより使用されている。
【0004】
原子力発電プラントの復水脱塩装置で使用しているイオン交換樹脂は、上流側より流入するNaClに代表される海水成分などのイオン成分の除去能力は高いが、カチオン交換樹脂からポリスチレンスルホン酸を主体とする有機性不純物(以下、TOCと称す)が溶出してしまい、またアニオン交換樹脂からもトリメチルアミンなどのTOCが溶出してしまう問題がある。カチオン交換樹脂から溶出したTOCは、原子炉内に持ち込まれると硫酸イオンを生成し、またアニオン交換樹脂から溶出したTOCは硝酸イオンを生成するため、原子炉水質を低下させる原因となる。
従って、原子炉水質を高純度にするためには、イオン交換樹脂が充填されている脱塩塔から溶出するTOCのリーク量を少なくする必要がある。
【0005】
これらを解決する方法としては、特許文献1(特開平11−352283号公報)に開示されているように、架橋度が通常使用されている8%〜10%の範囲のものよりも高い12〜16%の強酸性ゲル型カチオン交換樹脂を適用する方法、特許文献2(特開2001−314855号公報)に開示されているように、アニオン交換樹脂をイオン交換樹脂床下層部に配してカチオン交換樹脂から溶出するTOCを吸着する方法、特許文献3(特開平8−224579号公報)に開示されているように、強酸性ゲル型カチオン交換樹脂と粒径分布がガウス分布のポーラス型アニオン交換樹脂との混床を形成する方法、特許文献4(特開2007−64646号公報)に開示されているように、高架橋度均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂とガウス分布ゲル型アニオン交換樹脂との混床を形成する方法、などが提案されている。
【特許文献1】特開平11−352283号公報
【特許文献2】特開2001−314855号公報
【特許文献3】特開平8−224579号公報
【特許文献4】特開2007−64646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、架橋度の高い強酸性ゲル型カチオン交換樹脂を使用しても、長期間の使用により酸化劣化が進行してTOCの溶出は徐々に増加するため、使用開始初期に比べて水質の低下は避けられない。
【0007】
また、アニオン交換樹脂をイオン交換樹脂床下層部に配する方法では、カチオン交換樹脂より溶出するTOCが主としてマイナスに帯電しているポリスチレンスルホン酸であるため、ある程度は低減できるが、逆にアニオン交換樹脂より溶出するトリメチルアミンなどプラスに帯電しているTOCはカチオン交換樹脂で除去されず、それが脱塩塔からリークし、原子炉内で分解されて硝酸イオンなどが生成するため、やはり水質低下を引き起こす。
【0008】
また、ポーラス型アニオン交換樹脂は、マクロポアを有するためTOCの吸着能力は高いが、ガウス分布のカチオン交換樹脂との組み合わせでは完全に混床を得ることはできず、上層部にはアニオン交換樹脂が主として存在し、下層部にはカチオン交換樹脂が主として存在することとなり、アニオン交換樹脂でのカチオン交換樹脂溶出有機物を効率よく除去することはできない。また、粒径を調整した均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂とガウス分布ゲル型アニオン交換樹脂の組み合わせでは、ガウス分布のアニオン交換樹脂のTOC除去能力が低いため、良好な水質を得ることはできない。
【0009】
また、復水脱塩装置は前述の通り、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を混床にて使用している。これは、カチオン交換樹脂でのイオン交換反応とアニオン交換樹脂のイオン交換反応とを同時に進行させることで、発生する水素イオンと水酸イオンとから水を生じさせ、イオン交換反応を行わせ易くするものである。通常は、イオン交換樹脂分離混合塔若しくは脱塩塔にてカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を空気により混合し、通水に供している。しかし、ガウス粒径分布、若しくは均一粒径分布のいずれにおいても完全に混合することは難しく、特に均一粒径樹脂同士の組み合わせの場合、分離操作の向上を目的としたものであるため、より混合しにくい。ガウス粒径分布樹脂同士の場合は、均一粒径樹脂よりは混合しやすいが理想的に混合することは難しく、また、分離混合塔にて混合しても、その後の操作で脱塩塔に移送する際に分離してしまう可能性があり、この組み合わせでも理想的に混合することは難しい。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、BWR原子力発電プラントの復水脱塩装置による復水処理において、カチオン樹脂とアニオン交換樹脂から溶出するTOC由来の硫酸イオン及び硝酸イオン濃度の低い、高純度な処理水質を得ることが可能な復水脱塩方法及び装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、BWR原子力発電プラントの復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する復水脱塩方法において、
平均粒径値が450〜600μmであり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂と、
強塩基性1型ガウス粒径分布ポーラス型アニオン交換樹脂とが均一に混合された混床を有し、前記混床は、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなり、該混床に復水を接触させて復水の脱塩処理を行うことを特徴とする復水脱塩方法を提供する。
【0012】
本発明の復水脱塩方法において、カチオン交換樹脂として、架橋度が10%〜16%の範囲のカチオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0013】
本発明の復水脱塩方法において、カチオン交換樹脂として、架橋度が14%〜15%の範囲のカチオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0014】
本発明の復水脱塩方法において、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混合物を脱塩塔に充填し、該脱塩塔に形成された混床の上から下までの床高方向にわたり、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなる脱塩塔を用いて復水の脱塩処理を行うことが好ましい。
【0015】
本発明の復水脱塩方法において、カチオン交換樹脂として、架橋度が10〜16%の範囲であり、該カチオン交換樹脂の平均粒径値が450〜600μmの範囲であり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂を用いて混床を形成し、脱塩塔上層部から下層部までの床高方向にわたり、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなる脱塩塔を用いて復水を処理することが好ましい。
【0016】
また本発明は、復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する沸騰水型原子力発電プラントの復水脱塩装置において、
平均粒径値が450〜600μmであり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂と、
強塩基性1型ガウス粒径分布ポーラス型アニオン交換樹脂とが均一に混合された混床を有し、前記混床は、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなり、該混床に復水を接触させて脱塩処理することを特徴とする復水脱塩装置を提供する。
【0017】
本発明の復水脱塩装置において、カチオン交換樹脂として、架橋度が10%〜16%の範囲のカチオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0018】
本発明の復水脱塩装置において、カチオン交換樹脂として、架橋度が14%〜15%の範囲のカチオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0019】
本発明の復水脱塩装置において、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混合物を脱塩塔に充填し、該脱塩塔に形成された混床の上から下までの床高方向にわたり、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなる脱塩塔を有することが好ましい。
【0020】
本発明の復水脱塩装置において、カチオン交換樹脂として、架橋度が10〜16%の範囲であり、該カチオン交換樹脂の平均粒径値が450〜600μmの範囲であり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂を用いて混床を形成し、脱塩塔上層部から下層部までの床高方向にわたり、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなる脱塩塔を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、平均粒径値が450〜600μmであり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂と、強塩基性1型ガウス粒径分布ポーラス型アニオン交換樹脂とが均一に混合された混床を用いることによって、この混床は、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合され、ほぼ理想的な混床となり、その混合状態を長期間保持することができるので、この混床を脱塩塔に充填した際に、この脱塩塔は下層部にもアニオン交換樹脂が十分に存在することとなる。これらにより、カチオン交換樹脂より発生したTOCはポーラス型アニオン交換樹脂により除去され、ポーラス型アニオン交換樹脂より発生したTOCはカチオン交換樹脂により除去されることとなり、復水脱塩装置からのTOCのリーク量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。
図1は、BWR原子力発電プラントの一例を示す概略フロー構成図である。図1中、符号1は原子炉、2及び3はタービン、4は湿分分離器、5は復水器、6は復水ろ過装置、7は復水脱塩装置、8は原子炉浄化系を表している。
【0023】
このBWR原子力発電プラントでは、原子炉1で蒸気を発生させ、その蒸気でタービン2,3を回転させて発電する。タービン3から出た蒸気は、復水器5で冷却して水に戻し、浄化設備である復水ろ過器6及び復水脱塩装置7で浄化し、原子炉1に給水している。
【0024】
図2は、本発明の復水脱塩装置の一実施形態を示す概略フロー構成図である。図2中、符号7は復水脱塩装置、10は脱塩塔、11はイオン交換樹脂の混床、12は樹脂ストレーナ、13は再循環ポンプを表している。この復水脱塩装置7は、2000〜7000m/hの流量の復水を3〜10塔の脱塩塔10で処理している。1つの脱塩塔10には、処理流量により2000〜15000Lのイオン交換樹脂が充填されて混床11が形成されている。混床11の床高は、90〜200cmの範囲とされ、通常は100cm程度である。また、通水線流速は50〜200m/hの範囲とされ、通常は100m/h程度である。
【0025】
図3は、本実施形態における脱塩塔10内の混床11を示す概略断面図である。本実施形態の脱塩処理装置7では、脱塩塔10内に、
平均粒径値が450〜600μmであり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂と、
強塩基性1型ガウス粒径分布ポーラス型アニオン交換樹脂とが均一に混合された混床11を充填してなり、該混床11に復水を接触させて復水の脱塩処理を行うことを特徴としている。この混床11は、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されている。
【0026】
本発明において、「アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内」とは、前記混床を作製するカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂との合計量に対するアニオン交換樹脂の体積比を「設計基準値」とし、実際に作製した混床について各部の混合物についてアニオン交換樹脂の体積比を実測した場合、そのアニオン交換樹脂の実測値(存在比)が混床全域にわたって設計基準値±5%以内(体積比)となるような混合状態を指す。
【0027】
図4に実際の復水脱塩装置の混床高である1mでの混床内のカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の分布の実例を示す。この混床は、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを体積比で2:1にて混合しており、理想的にはアニオン交換樹脂の比率が33.3%(設計基準値)となる。カチオン交換樹脂は、アニオン交換樹脂に比べ比重が大きいため、混床の下層部では、アニオン交換樹脂の比率が小さく上層部ではアニオン交換樹脂の比率が大きいことが、図4中の従来技術(ケース2及びケース3)からわかる。一方、本発明に係るケース1は、平均粒径が545μmの均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂Monosphere545Cとガウス分布ゲル型アニオン交換樹脂SBR-Cを用いた場合、理想的な比率である33.3±5%の範囲(28.5〜38.5%)に入っている。
【0028】
本発明で用いる平均粒径値が450〜600μmの範囲であり平均粒径値±100μmの範囲の樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性ゲル型均一粒径カチオン交換樹脂と、ガウス分布アニオン交換樹脂とが均一に混合された混床は、両者が均一に混合し、しかも長期に亘って両者が分離しにくい「ほぼ理想的な混床」を形成することが可能である。ほぼ理想的な混床を形成する条件として、下記の条件が挙げられる。
(1)平均粒径値が450〜600μmであり平均粒径値±100μmの範囲の樹脂粒存在率が95%以上となるような強酸性ゲル型均一粒径カチオン交換樹脂とガウス分布アニオン交換樹脂にて混床を形成すること。
カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の分離・混合特性は、樹脂粒の終末速度により決まる。従って、この観点からも定義することとする。ここで、終末速度とはイオン交換樹脂粒が水中で沈降する際、時間が経過するとその速度は一定となり、水の粘度や粘性係数、イオン交換樹脂の粒径や比重で決まる値であり、これが異なるほど分離しやすく、近い値ほど分離しにくくなる。
【0029】
平均粒径が約650μmの均一粒径カチオン交換樹脂の終末速度は0.025m/s程度で、平均粒径が約590μmの均一粒径アニオン交換樹脂の終末速度は0.013m/s程度であり、これらの樹脂は非常に分離しやすい。一方、粒径分布が350〜1180μmで平均径が約700μmのガウス分布アニオン交換樹脂の終末速度は0.020m/s程度で、平均粒径が545μmの均一粒径カチオン交換樹脂の終末速度は0.022m/s程度であり、これら交換樹脂の組み合わせでは、両方の交換樹脂がほぼ理想的に混合する。従って、次の記載を「ほぼ理想的な混床」の条件として加えるものとする。
(2)カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の終末速度の差が0.005m/s以下であること。
【0030】
通常、復水脱塩装置で使用しているイオン交換樹脂は、その粒径分布が420〜1180μmに分布するいわゆるガウス分布で、カチオン交換樹脂の比重は1.2程度でアニオン交換樹脂の比重は1.08程度である。復水脱塩装置のイオン交換樹脂塔はカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂が混合された、いわゆる混床状態にて使用されるが、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂には比重差があると共に、ある程度使用した後には逆洗操作にて両樹脂を分離した上で薬品による通薬再生操作が行われるため、分離効率を高めるために若干カチオン交換樹脂の平均粒径の方が大きくなっている。通薬再生後の使用前には空気による撹拌混合操作を行い両樹脂を混合するが、完全混合状態とは言い難く理想的な状態ではない。
【0031】
本発明においては、均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂とガウス分布1型ポーラス型アニオン交換樹脂を使用することで、理想的な混合状態を得ることを可能としている。特に、カチオン交換樹脂の平均粒径を450〜600μmとすることで、一般的な平均粒径が700μm程度のガウス分布アニオン交換樹脂を用いた場合に、理想的な混合状態が得られ、これらにより、カチオン交換樹脂より発生したTOCはアニオン交換樹脂により、またアニオン交換樹脂により発生したTOCはカチオン交換樹脂により、それぞれ除去することができ、復水脱塩装置からのTOCのリーク量を低減することができる。
【0032】
本発明に使用する均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂の架橋度は、10%〜16%の範囲であることが好ましく、14%〜15%の範囲であることがより好ましい。
なお、本発明においてイオン交換樹脂の「架橋度」とは、スチレンと架橋剤であるジビニルベンゼン(DVB)とを原料として樹脂コポリマーを製造する際、架橋剤であるDVBが全原料中に占める質量比率のことを指す。
架橋度は、イオン交換樹脂の特性を大きく支配する因子であり、一般に高架橋度樹脂は交換容量が大きいものの、再生効率が悪く、低架橋度樹脂はその逆の特性を有しているため、メリット・デメリットを考慮して通常は標準的な架橋度である8%もしくは10%の強酸性ゲル型カチオン交換樹脂が用いられている。しかし、BWR原子力発電プラントでは通薬再生を実施せずに運用する非再生運用となっており、再生特性はデメリットとならないため、耐酸化性に優れる高架橋度カチオン交換樹脂が復水脱塩装置で用いられている。
【0033】
本発明において使用する均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂としては、ダウケミカル日本株式会社より販売されているMonosphere575CやMonosphere545Cなどが挙げられる。
【0034】
本発明において使用するガウス分布1型ポーラス型アニオン交換樹脂としては、ダウケミカル社より販売されているMSAや三菱化学社より販売されているPA312、ロームアンドハース日本社より販売されているIRA900などを適用してもよい。またカチオン交換樹脂については、通常使用されているイオン交換樹脂を水篩などの操作により粒径分布を調整して使用してもよい。
【0035】
ここで、ポーラス型アニオン交換樹脂とゲル型アニオン交換樹脂の特徴について説明する。粒状イオン交換樹脂には、製造方法に由来して、大別して2種類のイオン交換樹脂がある。スチレンとジビニルベンゼンを懸濁重合させてコポリマーを作り、これに官能基を導入した透明なゲル型イオン交換樹脂と、懸濁重合の際に水に不溶でスチレンなどを良く溶解する有機溶媒を加えて重合後に除去することで製造されるマクロポアを有するポーラス型イオン交換樹脂とである。それらの判別方法は非常に容易であり、透明球はゲル型樹脂、不透明球はポーラス型樹脂として判別できる。目視以外にも、実体顕微鏡を利用し、透過光にて観察したとき光が透過して樹脂粒全体が観察可能なのがゲル型樹脂、透過光をあてたとき乱反射して黒色状に見えるのがポーラス型樹脂である。
【0036】
ゲル型イオン交換樹脂の平均孔径は数Å、比表面積が1m/g未満であるのに対して、ポーラス型樹脂の平均孔径は数十〜数百Å、比表面積も数十〜数百m/g程度と大きく異なっている。
【0037】
ナトリウムイオンや塩素イオンなど、通常のイオンを吸着するにはゲル型樹脂の構造でも何ら問題はないが、有機物などイオンと比較して高分子量の物質に対してはゲル型樹脂とポーラス型樹脂で構造に起因する除去特性の違いがある。
【0038】
アニオン交換樹脂は第四級アンモニウム基を有しているため樹脂母体は正に帯電している。そのため、負に帯電している有機物に対する吸着が期待されている。特に、カチオン交換樹脂からは母体構造の酸化劣化により分子量が数百から数万のポリスチレンスルホン酸が溶出する。これはマイナスの電荷を有しているためアニオン交換樹脂での吸着が期待されるが、ゲル型樹脂の場合、平均孔径が数Åと小さいため、樹脂粒表面での吸着能力しかなく、表面積も1m/g未満と小さいため、除去能力は低い。
【0039】
一方、ポーラス型樹脂の平均孔径は数十〜数百Å、比表面積も数十〜数百m/g程度とゲル型樹脂に対して二桁以上大きいため、樹脂粒表面で吸着し、樹脂粒内部への取り込みも容易であるといえる。
【0040】
BWR原子力発電プラントにおいては、原子炉構成材料の腐食を抑制し健全性を維持するために原子炉水質を高純度に維持することが求められている。原子炉水中の主たる不純物は硫酸イオンであり、この発生源は復水脱塩装置で使用されているカチオン交換樹脂からのTOCである。特に、復水脱塩装置出口水は原子炉に供給されると原子炉内での蒸発により不純物濃度が50〜100倍に濃縮されることから、復水装置出口水中のTOCを極僅かでも低減することに大きなメリットがある。
【0041】
原子炉水中の硫酸イオン濃度は、復水脱塩装置で使用しているイオン交換樹脂が新品の場合、概ね1μg/L程度であり、経年使用と共にカチオン交換樹脂の酸化劣化が進行しカチオン交換樹脂から溶出する有機性不純物が増加し、イオン交換樹脂寿命末期には5μg/L程度にまで上昇するため、イオン交換樹脂の交換を行っている。
【0042】
従って、復水脱塩装置からのTOCのリーク量を低減できれば、原子炉水中の硫酸イオン濃度を低減することが可能であり原子炉構成材料の健全性を維持できると共に、イオン交換樹脂の寿命を長くすることが出来、経済的に有利であることに加え、発生する放射性廃棄物量を低減できることから、非常にメリットがある。
更に、原子炉構成材料健全性維持のために、原子炉水質を更に高純度にすることが近年求められている。そのために種々の対策が検討されているが、本発明はこの観点で非常に有効な方法である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
均一粒径樹脂とガウス分布樹脂を用い、次の3つの組み合わせにて樹脂の混合試験を行い、従来技術と本発明の比較試験を行った。尚、使用したイオン交換樹脂は、いずれもダウケミカル日本株式会社より販売されているものである。均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂Monosphere545Cは、平均粒径が約545μmの均一粒径樹脂であり、HCR-W2とSBR-Cはガウス分布の粒径分布である。Monosphere550Aは平均粒径が約590μmの均一粒径樹脂である。
【0045】
<ケース1>:(本発明)
均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂Monosphere545C+ガウス分布ゲル型アニオン交換樹脂SBR-Cの混床。
【0046】
<ケース2>:(従来技術1)
均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂Monosphere545C+均一粒径ゲル型アニオン交換樹脂Monosphere550Aの混床。
【0047】
<ケース3>:(従来技術2)
ガウス分布ゲル型カチオン交換樹脂HCR-W2+ガウス分布ゲル型アニオン交換樹脂SBR-Cの混床。
【0048】
内径50mmのカラムに、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を体積比で2/1にて混床高が100cmになるよう充填し、SV20にて5分間空気スクラビングを行う混合操作を実施した後、イオン交換樹脂床上部より5cmずつ樹脂を採取し、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混合状況を確認した。その結果を図4に示す。
【0049】
この図4からわかるように、本発明に係るケース1の組み合わせによれば、混床の上部から下部までほぼ均一にカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とが混合されていることがわかり、ほぼ理想的な混床であると言え、これで、より高純度な処理水質が得られると言える。
【0050】
[実施例2]
均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂Monosphere545Cとガウス分布ポーラス型アニオン交換樹脂MSAを用い、次に示すケース4〜ケース8のイオン交換樹脂床を形成し、それぞれについて通水試験を行い、溶出するTOC濃度を測定した。
【0051】
<ケース4>
カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを完全混合状態とした本発明に係る混床からなるイオン交換樹脂床。
【0052】
<ケース5>
上層部にアニオン交換樹脂、下層部にカチオン交換樹脂を配した2層分離状態のイオン交換樹脂床。
【0053】
<ケース6>
上層部にカチオン交換樹脂、下層部にアニオン交換樹脂を配した2層分離状態のイオン交換樹脂床。
【0054】
<ケース7>
ガウス分布ゲル型カチオン交換樹脂HCR-W2+ガウス分布ゲル型アニオン交換樹脂SBR-Cの完全混合状態の混床からなるイオン交換樹脂床。
【0055】
<ケース8>
均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂Monosphere545C+ガウス分布ゲル型アニオン交換樹脂SBR-Cの完全混合状態の混床からなるイオン交換樹脂床。
【0056】
試験は内径25mmのカラムにカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を体積比2/1にて充填し上記4ケースのイオン交換樹脂床を形成し、通水線流速120m/hにて、温度45℃、導電率0.006mS/mの純水を通水し、処理水中の不純物濃度を測定した。カチオン交換樹脂から溶出するTOCは主としてポリスチレンスルホン酸、アニオン交換樹脂から溶出するTOCは主としてトリメチルアミンであることから、処理水に紫外線を照射して有機物を酸化分解し、生成する硫酸イオンと硝酸イオン濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果から、ケース5では下層部にカチオン交換樹脂のみが存在するため硫酸イオンが最も多く検出され、またケース6では逆にアニオン交換樹脂のみが存在するため硝酸イオンが最も多く検出された。
従来技術のケース7と、本発明に係るケース4とを比較すると、従来技術であるケース7では硫酸イオンが比較的高い濃度で検出されているのに対して、本発明では硫酸・硝酸のいずれのイオンも低い濃度であることがわかる。
また、非ポーラス型のアニオン交換樹脂を用いたケース8と本発明に係るケース4とを比較すると、本発明に係るケース4は硫酸イオン濃度が低い値であることがわかる。以上のことから、本発明は最も優れた技術であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】BWR原子力発電プラントの一例を示す概略フロー構成図である。
【図2】本発明の復水脱塩装置の一実施形態を示す概略フロー構成図である。
【図3】本実施形態における脱塩塔内のイオン交換樹脂床を示す概略構成図である。
【図4】実施例1の結果を示し、作製した混床におけるアニオン交換樹脂存在率の混床高さ分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1…原子炉、2,3…タービン、4…湿分分離器、5…復水器、6…復水ろ過装置、7…復水脱塩装置、8…原子炉浄化系、10…脱塩塔、11…混床、12…樹脂ストレーナ、13…再循環ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子力発電プラントの復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する復水脱塩方法において、
平均粒径値が450〜600μmであり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂と、
強塩基性1型ガウス粒径分布ポーラス型アニオン交換樹脂とが均一に混合された混床を有し、前記混床は、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなり、該混床に復水を接触させて復水の脱塩処理を行うことを特徴とする復水脱塩方法。
【請求項2】
カチオン交換樹脂として、架橋度が10%〜16%の範囲のカチオン交換樹脂を用いることを特徴とする請求項1に記載の復水脱塩方法。
【請求項3】
カチオン交換樹脂として、架橋度が14%〜15%の範囲のカチオン交換樹脂を用いることを特徴とする請求項1に記載の復水脱塩方法。
【請求項4】
カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混合物を脱塩塔に充填し、該脱塩塔に形成された混床の上から下までの床高方向にわたり、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなる脱塩塔を用いて復水の脱塩処理を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の復水脱塩方法。
【請求項5】
カチオン交換樹脂として、架橋度が10〜16%の範囲であり、該カチオン交換樹脂の平均粒径値が450〜600μmの範囲であり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂を用いて混床を形成し、脱塩塔上層部から下層部までの床高方向にわたり、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなる脱塩塔を用いて復水を処理することを特徴とする請求項4に記載の復水脱塩方法。
【請求項6】
復水をイオン交換樹脂で脱塩処理する沸騰水型原子力発電プラントの復水脱塩装置において、
平均粒径値が450〜600μmであり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂と、
強塩基性1型ガウス粒径分布ポーラス型アニオン交換樹脂とが均一に混合された混床を有し、前記混床は、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなり、該混床に復水を接触させて脱塩処理することを特徴とする復水脱塩装置。
【請求項7】
カチオン交換樹脂として、架橋度が10%〜16%の範囲のカチオン交換樹脂を用いることを特徴とする請求項6に記載の復水脱塩装置。
【請求項8】
カチオン交換樹脂として、架橋度が14%〜15%の範囲のカチオン交換樹脂を用いることを特徴とする請求項6に記載の復水脱塩装置。
【請求項9】
カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混合物を脱塩塔に充填し、該脱塩塔に形成された混床の上から下までの床高方向にわたり、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなる脱塩塔を有することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の復水脱塩装置。
【請求項10】
カチオン交換樹脂として、架橋度が10〜16%の範囲であり、該カチオン交換樹脂の平均粒径値が450〜600μmの範囲であり、平均粒径値±100μmの範囲に樹脂粒存在率が95%以上ある強酸性均一粒径ゲル型カチオン交換樹脂を用いて混床を形成し、脱塩塔上層部から下層部までの床高方向にわたり、前記アニオン交換樹脂の存在比が混床全域にわたって設計基準値±5%以内となるように均一に混合されてなる脱塩塔を有することを特徴とする請求項9に記載の復水脱塩装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−281874(P2009−281874A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134408(P2008−134408)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】