復調方法とその装置とそのユニット、距離測定装置、およびデータ受信装置
【課題】I信号とQ信号との利得差による精度低下を防止できる復調方法とその装置とそのユニット、距離測定装置、およびデータ受信装置を提供する。
【解決手段】受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備えた。
【解決手段】受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばI信号とQ信号とによる復調により信号の位相を取得するような復調方法とその装置とそのユニット、距離測定装置、およびデータ受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波や光などの電磁波を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調し、復調後の振幅から位相を求める技術が提供されている。このように位相を求めることで、位相差を利用した距離測定や、位相の多値デジタル変換を利用したデータ通信等を行うことができる。
【0003】
ここで、復調にI信号とQ信号とを利用する場合、I信号とQ信号との利得差が生じてしまう。このため、上記利得差に対して何らかの手当てをしないと正確な位相が求められないという問題がある。正確な位相が求められなければ、例えば距離測定で測定誤差が大きくなり、またデータ通信で一度に通信できるデータ量が少なくなる。このため、I信号とQ信号との利得差をなくすことが好ましかった。
【0004】
一方、I信号とQ信号との利得差による誤差を補正できるものとして、実データを座標毎にグループ化し、それぞれで楕円方程式の振幅と中心座標のパラメータを推定し、このパラメータに基づいて誤差の補正を自動的に行う移動通信端末機が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、このような方法では、アルゴリズムが複雑になり、また温度変化や経時変化に対してパラメータの推定精度が低下する問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開平7−327059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上述の問題に鑑み、I信号とQ信号との利得差による精度低下を防止できる復調方法とその装置とそのユニット、距離測定装置、およびデータ受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調方法であって、受信信号を第1位相で復調して第1復調信号を取得する第1復調信号取得工程と、前記受信信号の位相を前記第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト工程と、前記受信信号を前記第2位相で復調して第2復調信号を取得する第2復調信号取得工程と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成工程とを行う復調方法であることを特徴とする。
【0009】
またこの発明は、受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備えた復調装置であることを特徴とする。
【0010】
またこの発明は、受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、前記合成手段を、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを加算して2で除算する構成にすることができる。
【0011】
またこの発明は、受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、前記合成手段を、前記第1復調信号におけるI信号をQ信号で除算した第1演算信号と、第2復調信号におけるI信号をQ信号で除算した第2演算信号とを用いて、前記第1演算信号を前記第2演算信号で除算し−1を乗算して得た値の平方根を求める構成にすることができる。
【0012】
またこの発明は、受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、前記合成手段を、I信号の処理系統でのゲインとQ信号の処理系統でのゲインの違いを前記第1復調信号と前記第2復調信号とによりキャンセルする構成にすることができる。
【0013】
またこの発明の態様として、前記位相シフト手段を、受信信号の位相を90度の位相にシフトする構成とすることができる。
【0014】
またこの発明は、前記復調装置と、応答要求信号を送信する信号送信手段と、該応答要求信号に応答した非接触ICタグの応答信号を受信してこの受信信号による前記合成信号に基づいて前記非接触ICタグまでの距離を位相差により推定する距離推定手段とを備えた距離測定装置とすることができる。
【0015】
またこの発明は、前記復調装置と、前記位相シフト手段でシフトした位相の角度の半分だけ前記合成信号の位相を前記第1位相側へシフトして復元信号とする復元手段と、該復元信号を多値デジタル復調してデータ化するデータ化手段とを備えたデータ受信装置とすることができる。
【0016】
またこの発明は、受信信号を入力させる受信信号入力端子と、該受信信号入力端子から入力された受信信号の位相を象限の異なる位相に切り替える位相切替手段と、基準信号を入力させる基準信号入力端子と、前記基準信号および前記受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調手段と、復調したI信号を出力するI信号出力端子と、復調したQ信号を出力するQ信号出力端子とを備えた復調ユニットであることを特徴する。
【発明の効果】
【0017】
この発明により、I信号とQ信号との利得差による精度低下を防止できる復調方法とその装置とそのユニット、距離測定装置、およびデータ受信装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は、距離測定装置1のブロック図を示す。
距離測定装置1は、PLL部3、発振器4、変調部5、電力増幅部6、送信アンテナ7、コントローラ部9、復調ユニット10、受信アンテナ11、距離推定部12、および増幅器13,14で構成されている。
【0019】
復調ユニット10は、1つのICチップとしてユニット化されており、位相シフト部21、位相切替部22、BPF(Band−Pass Filter)23、および直交復調器24,25で構成されている。そして、位相シフト部21の前段に基準信号入力端子10aが設けられ、位相切替部22の前段に受信信号入力端子10bが設けられ、直交復調器24の後段にI信号出力端子10dが設けられ、直交復調器25の後段にQ信号出力端子10eが設けられている。また、位相切替部22の前段には、切り替え制御用の制御信号を入力させる制御信号入力端子10cが設けられている。
【0020】
各構成について説明すると、コントローラ部9が通信制御も含めた各種制御を実行し、PLL部3は発振する周波数の切り替えを行い、この切り替えられた周波数の基準信号を発振器4が変調部5、位相シフト部21、および直交復調器24,25に入力する。
【0021】
変調部5は、コントローラ部9から送信データを受け取り、この送信データを基準信号で変調して送信信号を作成し、この送信信号を電力増幅部6に入力する。
電力増幅部6は、受け取った送信信号を増幅して送信アンテナ7に送り、この送信アンテナ7が送信信号を送信する。
【0022】
受信アンテナ11は、距離測定の対象物である非接触ICタグが前記送信信号に応答した応答信号を受信信号として受信し、位相切替部22に受信信号を入力する。
位相切替部22は、距離推定部12の制御に従って、受信信号にディレイをかけて位相を90°遅らす処理を行う。従って、前記受信信号をBPF23に入力するに際して、そのままの位相である0°の位相で入力し、また、受信信号にディレイをかけて位相を90°遅らせた90°の位相で入力する。
【0023】
BPF23は、入力された0°や90°の位相の受信信号から不要帯域のノイズ成分を除去し、直交復調器24,25に入力する。
【0024】
直交復調器24は、発振器4から受け取った基準信号と、BPF23から受け取った受信信号とのI成分(同相成分:Inphase component)の位相差を周波数変換して増幅器13に入力する。
【0025】
直交復調器25は、位相シフト部21を介して発振器4から受け取った90°位相シフトされた基準信号と、BPF23から受け取った受信信号とのQ成分(直交成分:Quadrature component)の位相差を周波数変換して増幅器14に入力する。
【0026】
位相シフト部21は、発振器4から受けとった基準信号の位相を常に90°シフトして直交復調器25に入力する。
【0027】
増幅器13,14は、低域通過フィルタ(LPF:Low−Pass Filter)や高域通過フィルタ(HPF: High−Pass Filter)等のフィルタで構成されており、直交復調器24,25からそれぞれ入力されたI信号およびQ信号を増幅して距離推定部12に入力する。
【0028】
距離推定部12は、受信したI信号とQ信号から位相を算出して比較し、距離を推定する。この距離の推定に際して、利得差αを低減する第1の方法として、0°の受信信号と、位相切替部22でシフトされた90°の受信信号とを加算して2で除算した平均信号を作成することでノイズを除去する処理も実行する。
なお、上記第1の方法の代わりに、利得差αを消去する第2の方法として、0°の受信信号におけるI信号をQ信号で除算した第1演算信号と、位相切替部22でシフトされた90°の受信信号におけるI信号をQ信号で除算した第2演算信号とを用いて、前記第1演算信号を前記第2演算信号で除算し−1を乗算して得た値の平方根を求めることでノイズを除去する処理を実行する構成にしてもよい。
【0029】
図2は、受信信号の位相と90°位相シフトした信号の位相と平均位相との関係を示す説明図であり、図3は、Q信号が大きい場合に平均位相を取ることでI信号とQ信号との利得差による影響を防止することを説明する説明図である。
【0030】
図2に示すように、受信アンテナ11(図1参照)で受信した位相0°の受信信号の初期位相A1が第1象限E1に位置していたとすると、位相切替部22(図1参照)によって受信信号の位相を90°シフトしたシフト信号のシフト位相B1は第2象限E2に位置する。初期位相A1とシフト位相B1とを加算して2で除算することにより平均を取った平均位相C1は、初期位相A1とシフト位相B1の中間に位置する。
【0031】
図3に示すように、例えばQ信号がI信号より大きい場合を考えると、本来であれば初期位相A1となるべきものがI信号とQ信号との利得差によって+側に変化して初期位相A2となる。一方、初期位相A2の位相を90°シフトしたシフト位相B2は、初期位相A2とは逆の象限である第2象限E2に位置しているため、本来のシフト位相B1より−側に変化している。そうすると、初期位相A2とシフト位相B2とを加算して2で除算した平均位相C2は、+側の変化と−側の変化が相殺されて本来の平均位相C1とほぼ同一となり、I信号とQ信号の利得差による影響を回避できる。
【0032】
このように平均位相C2が平均位相C1とほぼ同一となってI信号とQ信号の利得差をキャンセルできることについて説明する。
まず、利得差αの影響を低減できる第1の方法について、以下に数式1から5を用いて説明する。
【0033】
前記初期位相A1の位相をφ0deg、前記初期位相A2の位相をφ’0deg、前記シフト位相B1の位相をφ90deg、前記シフト位相B2の位相をφ’90degとすると、次に示す数式1〜4で求められる。
【0034】
【数1】
【0035】
【数2】
【0036】
【数3】
【0037】
【数4】
そうすると、平均位相C2の位相φAVEは、次に示す数式5で求められる。
【0038】
【数5】
【0039】
次に、I信号とQ信号の利得差であるαの影響を消去できる第2の方法を、以下に数式6から11を用いて説明する。
まず、Q/IをI信号系統とQ信号系統に利得差がない場合のIとQの比の真値とすると、この比であるRは、次の数式6に示すように定義できる。
【0040】
【数6】
I信号系統の利得に対するQ信号系統の利得の割合をα(未知数)とし、位相切替部22において受信信号に対する位相シフト量が0°である場合のQ信号とI信号の振幅比の観測値をR0degとすると、次の数式7が得られる。
【0041】
【数7】
また、位相切替部22において受信信号に対する位相シフト量が90°である場合のQ信号とI信号の振幅比の観測値をR90degとすると、次の数式8が得られる。
【0042】
【数8】
これらの数式に基づいて、R0deg,R90degからRを得る式にαを含まない式が次のように求められる。
まず、上述の数式7と数式8の両辺をそれぞれ割り算すると、次の数式9が得られる。
【0043】
【数9】
したがって、真の値であるRは、次の数式10で求められる。
【0044】
【数10】
そうすると、真の位相であるθは次の数式11で求められる。
【0045】
【数11】
この方式でθを求めることで、I信号系統の利得に対するQ信号系統の利得の割合の影響を受けず、位相が高精度に求められることになる。従って、距離測定装置1によってθをもとに算出される距離の精度が向上する。また、θに関する誤差が無くなるので、多値位相変調方式のデータ受信装置に応用した場合に、多値位相変調方式における信号点配置を位相平面上で高密度にすることができ、データ通信速度を向上させることができる。
【0046】
図4は距離測定装置1の距離測定動作のフローチャートを示し、図5は非接触ICタグ30までの距離を測定する際の信号の流れを示すイメージ図であり、図6は信号を復調する際のイメージ図を示す。
【0047】
距離測定装置1のコントローラ部9は、リーダライタ(R/W)として機能する距離測定装置1から非接触ICタグ30に対して応答を要求するR/W要求信号33(図5参照)を出力する(ステップS1)。このとき、R/W要求信号33の周波数fを第1周波数f1(図6参照)に固定して送信する。
【0048】
コントローラ部9は、第1周波数f1にて非接触ICタグ30にCW(コンティニュアスウェイブ)を送信する(ステップS2)。このCWは、信号の載ってない連続したサイン波である。このとき、このCWを受けた非接触ICタグ30は、第1周波数f1でタグ応答信号35を送信する。
【0049】
距離測定装置1は、第1周波数f1での非接触ICタグ30の応答信号を受信アンテナ11で受信する(ステップS3)。そして、この第1周波数f1での受信信号を第1周波数f1での基準信号41(図5参照)により復調し、データを取り込む(ステップS4)。
【0050】
距離測定装置1は、距離推定部12の制御によって位相切替部22を0°から90°に切り替え、切り替え後の第1周波数f1’(図6参照)の受信信号を復調し、データを取り込む(ステップS5)。このとき、非接触ICタグ30が第1周波数f1で信号送信を行うワンフレームの処理内で、距離測定装置1の位相切替部22が位相の切り替えを行う。つまり、非接触ICタグ30から見て1つの信号を送信している間に、距離測定装置1は0°の位相でのデータ取り込みと90°の位相でのデータ取り込みの2通りのデータ取り込みを行う。
【0051】
距離測定装置1は、予め定められた一定時間が経過するまで待機し(ステップS6:NO)、一定時間が経過すると(ステップS6:YES)、全周波数について終了したか確認する(ステップS7)。
【0052】
全周波数(本実施の形態では第1周波数f1から第3周波数f3までの3つの周波数)について終了してなかった場合(ステップS7:NO)、周波数fを次の周波数(例えば第2周波数f2)に切り替え、ステップS1に処理を戻す。
【0053】
全周波数について終了していた場合(ステップS7:YES)、距離推定部12は、各周波数のI信号とQ信号のデータより位相を算出する(ステップS9)。このとき、各周波数fについて、0°の位相で取得した周波数fを復調したデータと、90°の位相で取得した周波数f’を復調したデータを加算して2で除算した平均位相のデータをそれぞれ算出する。
【0054】
そして、距離推定部12は、求めた平均位相から距離を計算し(ステップS10)、処理を終了する。
【0055】
以上の構成および動作により、I信号とQ信号の利得差による影響を殆ど受けることのない距離測定を実現できる。従って、高精度の距離測定を実現することができる。
【0056】
具体的には、従来であれば図7(A)に示すように上下3°程度の位相誤差が出ていたため、数十cm以上(最大80cm)程度の誤差が出ていたが、上述の距離測定装置1により、図7(B)に示すように上下0.04°程度の位相誤差となり、測定距離の誤差を数cm程度にまで激減させることができる。特に、従来最も誤差が大きかった±45°、±135°の位相で誤差を最小にすることができる。
【0057】
また、この距離測定装置1は、I信号とQ信号との利得差を事前に測定する必要がなく、綿密な事前調査等を行うことなく容易に使用することができる。
【0058】
また、90°位相をシフトすることでI信号とQ信号との利得差をその都度適切にキャンセルでき、温度変化や経時変化等による影響を受けることなく常時精度良く復調を行うことができ、常時精度良く距離測定を行える。
【0059】
なお、上述した距離測定装置1は、図8に示すように、位相切替部22を発振器4と位相シフト部21の間に備える構成にしてもよい。この場合でも、上述した実施例と同一の効果を得ることができる。
【0060】
また、距離推定部12の代わりに、図9に示すようにデータ復号部29を備えて受信データ復号装置28を構成しても良い。この場合、データ復号部29では、0°の受信信号と、位相切替部22でシフトされた90°の受信信号とを加算して2で除算した平均信号を作成し、この平均信号をさらに45°I信号側へ戻すことでノイズを除去して信号を復元する処理も実行すると良い。そして、このノイズ除去を行った復元信号に対して多値位相変調方式の多値デジタル復調を実行しデータ化し、このデータを記憶部に一時記憶するとよい。これにより、I信号とQ信号との利得差による影響の少ない受信データ復号装置28を提供することができる。そして、上記利得差による影響が少ないことから、一信号に含まれるビット数の数を増やすことができ、かつビット数を増やしても精度良く復調することができる。従って、多量のデータを一括送信して通信速度を向上させることができる。
【0061】
また、図8および図9に仮想線で示すように、距離推定部12や受信データ復号装置28の後段に表示部27を備えても良い。この場合、利得差αをもとに距離測定装置1や受信データ復号装置28の回路内部に発生したゲインのアンバランスを自己診断することができ、この自己診断の結果を表示部27に表示することができる。
【0062】
詳述すると、上述した数式7と数式8の両辺をそれぞれ掛け算して得られる方程式を解くと、未知数であるαが次のように求められる。
【0063】
【数12】
このαの値を、本方式を用いた距離測定装置1または受信データ復号装置28が検出できるので、これらの装置が内部回路に発生したゲインのアンバランスを自己診断することが可能となる。
【0064】
また、距離測定装置1は、0°と90°の受信信号の平均を取った平均信号のレベルが小さい場合に、図10に示すように距離推定部12で平均信号Kの位相をシフト信号Lとなるよう45°シフトする構成にしてもよい。ここで、平均信号のレベルが小さい場合とは、整数を「n」とすると平均信号の位相が「±nπ/2」の範囲に入る場合とすることができる。これにより、I信号およびQ信号のレベルが大きくなり、量子化誤差やS/N比低下の影響を受けることでの位相精度の低下を改善することができる。特に、I信号とQ信号との利得差αが1である場合に高い効果を得ることができる。
【0065】
また、非接触ICタグ30が送信するワンフレームの信号で、位相が0°と90°の受信信号を取得したが、これにこだわらず、例えば非接触ICタグ30が第1周波数f1の信号を二回送信し、距離測定装置1が、一回目は0°の位相で処理し、二回目は位相を90°シフトして処理する構成にしてもよい。
【0066】
また、BPF23は、位相切替部22の後段に設けたが、位相切替部22の前段に設けても良い。
【0067】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の復調装置は、実施形態の距離測定装置1および受信データ復号装置28に対応し、
以下同様に、
信号送信手段は、送信アンテナ7に対応し、
合成手段および距離推定手段は、距離推定部12に対応し、
位相シフト手段および位相切替手段は、位相切替部22に対応し、
復調手段は、直交復調器24,25に対応し、
データ受信装置は、受信データ復号装置28に対応し、
復元手段およびデータ化手段は、データ復号部29に対応し、
応答要求信号は、R/W要求信号33に対応し、
受信信号は、タグ応答信号35に対応し、
異なる象限は、第2象限E2に対応し、
第1位相は、0°の位相に対応し、
第2位相は、90°の位相に対応し、
第1復調信号は、第1周波数f1を復調して得たデータに対応し、
第2復調信号は、第1周波数f1’を復調して得たデータに対応し、
第1復調信号取得工程は、ステップS4に対応し、
第2復調信号取得工程は、ステップS5に対応し、
位相シフト工程は、ステップS5に対応し、
合成工程は、ステップS9に対応し、
合成信号は、平均位相のデータに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】距離測定装置のブロック図。
【図2】位相の関係を示す説明図。
【図3】平均位相の効果を説明する説明図。
【図4】距離測定装置の距離測定動作を示すフローチャート。
【図5】距離を測定する際の信号の流れを示すイメージ図。
【図6】信号をI信号とQ信号とにより復調する際のイメージ図。
【図7】位相誤差の説明図。
【図8】他の構成の距離測定装置のブロック図。
【図9】受信データ復号装置のブロック図。
【図10】他の実施例の説明図。
【符号の説明】
【0069】
1…距離測定装置
7…送信アンテナ
10…復調ユニット
10a…基準信号入力端子
10b…受信信号入力端子
10d…I信号出力端子
10e…Q信号出力端子
12…距離推定部
22…位相切替部
24,25…直交復調器
28…受信データ復号装置
29…データ復号部
30…非接触ICタグ
33…R/W要求信号
35…タグ応答信号
E2…第2象限
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばI信号とQ信号とによる復調により信号の位相を取得するような復調方法とその装置とそのユニット、距離測定装置、およびデータ受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波や光などの電磁波を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調し、復調後の振幅から位相を求める技術が提供されている。このように位相を求めることで、位相差を利用した距離測定や、位相の多値デジタル変換を利用したデータ通信等を行うことができる。
【0003】
ここで、復調にI信号とQ信号とを利用する場合、I信号とQ信号との利得差が生じてしまう。このため、上記利得差に対して何らかの手当てをしないと正確な位相が求められないという問題がある。正確な位相が求められなければ、例えば距離測定で測定誤差が大きくなり、またデータ通信で一度に通信できるデータ量が少なくなる。このため、I信号とQ信号との利得差をなくすことが好ましかった。
【0004】
一方、I信号とQ信号との利得差による誤差を補正できるものとして、実データを座標毎にグループ化し、それぞれで楕円方程式の振幅と中心座標のパラメータを推定し、このパラメータに基づいて誤差の補正を自動的に行う移動通信端末機が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、このような方法では、アルゴリズムが複雑になり、また温度変化や経時変化に対してパラメータの推定精度が低下する問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開平7−327059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上述の問題に鑑み、I信号とQ信号との利得差による精度低下を防止できる復調方法とその装置とそのユニット、距離測定装置、およびデータ受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調方法であって、受信信号を第1位相で復調して第1復調信号を取得する第1復調信号取得工程と、前記受信信号の位相を前記第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト工程と、前記受信信号を前記第2位相で復調して第2復調信号を取得する第2復調信号取得工程と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成工程とを行う復調方法であることを特徴とする。
【0009】
またこの発明は、受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備えた復調装置であることを特徴とする。
【0010】
またこの発明は、受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、前記合成手段を、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを加算して2で除算する構成にすることができる。
【0011】
またこの発明は、受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、前記合成手段を、前記第1復調信号におけるI信号をQ信号で除算した第1演算信号と、第2復調信号におけるI信号をQ信号で除算した第2演算信号とを用いて、前記第1演算信号を前記第2演算信号で除算し−1を乗算して得た値の平方根を求める構成にすることができる。
【0012】
またこの発明は、受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、前記合成手段を、I信号の処理系統でのゲインとQ信号の処理系統でのゲインの違いを前記第1復調信号と前記第2復調信号とによりキャンセルする構成にすることができる。
【0013】
またこの発明の態様として、前記位相シフト手段を、受信信号の位相を90度の位相にシフトする構成とすることができる。
【0014】
またこの発明は、前記復調装置と、応答要求信号を送信する信号送信手段と、該応答要求信号に応答した非接触ICタグの応答信号を受信してこの受信信号による前記合成信号に基づいて前記非接触ICタグまでの距離を位相差により推定する距離推定手段とを備えた距離測定装置とすることができる。
【0015】
またこの発明は、前記復調装置と、前記位相シフト手段でシフトした位相の角度の半分だけ前記合成信号の位相を前記第1位相側へシフトして復元信号とする復元手段と、該復元信号を多値デジタル復調してデータ化するデータ化手段とを備えたデータ受信装置とすることができる。
【0016】
またこの発明は、受信信号を入力させる受信信号入力端子と、該受信信号入力端子から入力された受信信号の位相を象限の異なる位相に切り替える位相切替手段と、基準信号を入力させる基準信号入力端子と、前記基準信号および前記受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調手段と、復調したI信号を出力するI信号出力端子と、復調したQ信号を出力するQ信号出力端子とを備えた復調ユニットであることを特徴する。
【発明の効果】
【0017】
この発明により、I信号とQ信号との利得差による精度低下を防止できる復調方法とその装置とそのユニット、距離測定装置、およびデータ受信装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は、距離測定装置1のブロック図を示す。
距離測定装置1は、PLL部3、発振器4、変調部5、電力増幅部6、送信アンテナ7、コントローラ部9、復調ユニット10、受信アンテナ11、距離推定部12、および増幅器13,14で構成されている。
【0019】
復調ユニット10は、1つのICチップとしてユニット化されており、位相シフト部21、位相切替部22、BPF(Band−Pass Filter)23、および直交復調器24,25で構成されている。そして、位相シフト部21の前段に基準信号入力端子10aが設けられ、位相切替部22の前段に受信信号入力端子10bが設けられ、直交復調器24の後段にI信号出力端子10dが設けられ、直交復調器25の後段にQ信号出力端子10eが設けられている。また、位相切替部22の前段には、切り替え制御用の制御信号を入力させる制御信号入力端子10cが設けられている。
【0020】
各構成について説明すると、コントローラ部9が通信制御も含めた各種制御を実行し、PLL部3は発振する周波数の切り替えを行い、この切り替えられた周波数の基準信号を発振器4が変調部5、位相シフト部21、および直交復調器24,25に入力する。
【0021】
変調部5は、コントローラ部9から送信データを受け取り、この送信データを基準信号で変調して送信信号を作成し、この送信信号を電力増幅部6に入力する。
電力増幅部6は、受け取った送信信号を増幅して送信アンテナ7に送り、この送信アンテナ7が送信信号を送信する。
【0022】
受信アンテナ11は、距離測定の対象物である非接触ICタグが前記送信信号に応答した応答信号を受信信号として受信し、位相切替部22に受信信号を入力する。
位相切替部22は、距離推定部12の制御に従って、受信信号にディレイをかけて位相を90°遅らす処理を行う。従って、前記受信信号をBPF23に入力するに際して、そのままの位相である0°の位相で入力し、また、受信信号にディレイをかけて位相を90°遅らせた90°の位相で入力する。
【0023】
BPF23は、入力された0°や90°の位相の受信信号から不要帯域のノイズ成分を除去し、直交復調器24,25に入力する。
【0024】
直交復調器24は、発振器4から受け取った基準信号と、BPF23から受け取った受信信号とのI成分(同相成分:Inphase component)の位相差を周波数変換して増幅器13に入力する。
【0025】
直交復調器25は、位相シフト部21を介して発振器4から受け取った90°位相シフトされた基準信号と、BPF23から受け取った受信信号とのQ成分(直交成分:Quadrature component)の位相差を周波数変換して増幅器14に入力する。
【0026】
位相シフト部21は、発振器4から受けとった基準信号の位相を常に90°シフトして直交復調器25に入力する。
【0027】
増幅器13,14は、低域通過フィルタ(LPF:Low−Pass Filter)や高域通過フィルタ(HPF: High−Pass Filter)等のフィルタで構成されており、直交復調器24,25からそれぞれ入力されたI信号およびQ信号を増幅して距離推定部12に入力する。
【0028】
距離推定部12は、受信したI信号とQ信号から位相を算出して比較し、距離を推定する。この距離の推定に際して、利得差αを低減する第1の方法として、0°の受信信号と、位相切替部22でシフトされた90°の受信信号とを加算して2で除算した平均信号を作成することでノイズを除去する処理も実行する。
なお、上記第1の方法の代わりに、利得差αを消去する第2の方法として、0°の受信信号におけるI信号をQ信号で除算した第1演算信号と、位相切替部22でシフトされた90°の受信信号におけるI信号をQ信号で除算した第2演算信号とを用いて、前記第1演算信号を前記第2演算信号で除算し−1を乗算して得た値の平方根を求めることでノイズを除去する処理を実行する構成にしてもよい。
【0029】
図2は、受信信号の位相と90°位相シフトした信号の位相と平均位相との関係を示す説明図であり、図3は、Q信号が大きい場合に平均位相を取ることでI信号とQ信号との利得差による影響を防止することを説明する説明図である。
【0030】
図2に示すように、受信アンテナ11(図1参照)で受信した位相0°の受信信号の初期位相A1が第1象限E1に位置していたとすると、位相切替部22(図1参照)によって受信信号の位相を90°シフトしたシフト信号のシフト位相B1は第2象限E2に位置する。初期位相A1とシフト位相B1とを加算して2で除算することにより平均を取った平均位相C1は、初期位相A1とシフト位相B1の中間に位置する。
【0031】
図3に示すように、例えばQ信号がI信号より大きい場合を考えると、本来であれば初期位相A1となるべきものがI信号とQ信号との利得差によって+側に変化して初期位相A2となる。一方、初期位相A2の位相を90°シフトしたシフト位相B2は、初期位相A2とは逆の象限である第2象限E2に位置しているため、本来のシフト位相B1より−側に変化している。そうすると、初期位相A2とシフト位相B2とを加算して2で除算した平均位相C2は、+側の変化と−側の変化が相殺されて本来の平均位相C1とほぼ同一となり、I信号とQ信号の利得差による影響を回避できる。
【0032】
このように平均位相C2が平均位相C1とほぼ同一となってI信号とQ信号の利得差をキャンセルできることについて説明する。
まず、利得差αの影響を低減できる第1の方法について、以下に数式1から5を用いて説明する。
【0033】
前記初期位相A1の位相をφ0deg、前記初期位相A2の位相をφ’0deg、前記シフト位相B1の位相をφ90deg、前記シフト位相B2の位相をφ’90degとすると、次に示す数式1〜4で求められる。
【0034】
【数1】
【0035】
【数2】
【0036】
【数3】
【0037】
【数4】
そうすると、平均位相C2の位相φAVEは、次に示す数式5で求められる。
【0038】
【数5】
【0039】
次に、I信号とQ信号の利得差であるαの影響を消去できる第2の方法を、以下に数式6から11を用いて説明する。
まず、Q/IをI信号系統とQ信号系統に利得差がない場合のIとQの比の真値とすると、この比であるRは、次の数式6に示すように定義できる。
【0040】
【数6】
I信号系統の利得に対するQ信号系統の利得の割合をα(未知数)とし、位相切替部22において受信信号に対する位相シフト量が0°である場合のQ信号とI信号の振幅比の観測値をR0degとすると、次の数式7が得られる。
【0041】
【数7】
また、位相切替部22において受信信号に対する位相シフト量が90°である場合のQ信号とI信号の振幅比の観測値をR90degとすると、次の数式8が得られる。
【0042】
【数8】
これらの数式に基づいて、R0deg,R90degからRを得る式にαを含まない式が次のように求められる。
まず、上述の数式7と数式8の両辺をそれぞれ割り算すると、次の数式9が得られる。
【0043】
【数9】
したがって、真の値であるRは、次の数式10で求められる。
【0044】
【数10】
そうすると、真の位相であるθは次の数式11で求められる。
【0045】
【数11】
この方式でθを求めることで、I信号系統の利得に対するQ信号系統の利得の割合の影響を受けず、位相が高精度に求められることになる。従って、距離測定装置1によってθをもとに算出される距離の精度が向上する。また、θに関する誤差が無くなるので、多値位相変調方式のデータ受信装置に応用した場合に、多値位相変調方式における信号点配置を位相平面上で高密度にすることができ、データ通信速度を向上させることができる。
【0046】
図4は距離測定装置1の距離測定動作のフローチャートを示し、図5は非接触ICタグ30までの距離を測定する際の信号の流れを示すイメージ図であり、図6は信号を復調する際のイメージ図を示す。
【0047】
距離測定装置1のコントローラ部9は、リーダライタ(R/W)として機能する距離測定装置1から非接触ICタグ30に対して応答を要求するR/W要求信号33(図5参照)を出力する(ステップS1)。このとき、R/W要求信号33の周波数fを第1周波数f1(図6参照)に固定して送信する。
【0048】
コントローラ部9は、第1周波数f1にて非接触ICタグ30にCW(コンティニュアスウェイブ)を送信する(ステップS2)。このCWは、信号の載ってない連続したサイン波である。このとき、このCWを受けた非接触ICタグ30は、第1周波数f1でタグ応答信号35を送信する。
【0049】
距離測定装置1は、第1周波数f1での非接触ICタグ30の応答信号を受信アンテナ11で受信する(ステップS3)。そして、この第1周波数f1での受信信号を第1周波数f1での基準信号41(図5参照)により復調し、データを取り込む(ステップS4)。
【0050】
距離測定装置1は、距離推定部12の制御によって位相切替部22を0°から90°に切り替え、切り替え後の第1周波数f1’(図6参照)の受信信号を復調し、データを取り込む(ステップS5)。このとき、非接触ICタグ30が第1周波数f1で信号送信を行うワンフレームの処理内で、距離測定装置1の位相切替部22が位相の切り替えを行う。つまり、非接触ICタグ30から見て1つの信号を送信している間に、距離測定装置1は0°の位相でのデータ取り込みと90°の位相でのデータ取り込みの2通りのデータ取り込みを行う。
【0051】
距離測定装置1は、予め定められた一定時間が経過するまで待機し(ステップS6:NO)、一定時間が経過すると(ステップS6:YES)、全周波数について終了したか確認する(ステップS7)。
【0052】
全周波数(本実施の形態では第1周波数f1から第3周波数f3までの3つの周波数)について終了してなかった場合(ステップS7:NO)、周波数fを次の周波数(例えば第2周波数f2)に切り替え、ステップS1に処理を戻す。
【0053】
全周波数について終了していた場合(ステップS7:YES)、距離推定部12は、各周波数のI信号とQ信号のデータより位相を算出する(ステップS9)。このとき、各周波数fについて、0°の位相で取得した周波数fを復調したデータと、90°の位相で取得した周波数f’を復調したデータを加算して2で除算した平均位相のデータをそれぞれ算出する。
【0054】
そして、距離推定部12は、求めた平均位相から距離を計算し(ステップS10)、処理を終了する。
【0055】
以上の構成および動作により、I信号とQ信号の利得差による影響を殆ど受けることのない距離測定を実現できる。従って、高精度の距離測定を実現することができる。
【0056】
具体的には、従来であれば図7(A)に示すように上下3°程度の位相誤差が出ていたため、数十cm以上(最大80cm)程度の誤差が出ていたが、上述の距離測定装置1により、図7(B)に示すように上下0.04°程度の位相誤差となり、測定距離の誤差を数cm程度にまで激減させることができる。特に、従来最も誤差が大きかった±45°、±135°の位相で誤差を最小にすることができる。
【0057】
また、この距離測定装置1は、I信号とQ信号との利得差を事前に測定する必要がなく、綿密な事前調査等を行うことなく容易に使用することができる。
【0058】
また、90°位相をシフトすることでI信号とQ信号との利得差をその都度適切にキャンセルでき、温度変化や経時変化等による影響を受けることなく常時精度良く復調を行うことができ、常時精度良く距離測定を行える。
【0059】
なお、上述した距離測定装置1は、図8に示すように、位相切替部22を発振器4と位相シフト部21の間に備える構成にしてもよい。この場合でも、上述した実施例と同一の効果を得ることができる。
【0060】
また、距離推定部12の代わりに、図9に示すようにデータ復号部29を備えて受信データ復号装置28を構成しても良い。この場合、データ復号部29では、0°の受信信号と、位相切替部22でシフトされた90°の受信信号とを加算して2で除算した平均信号を作成し、この平均信号をさらに45°I信号側へ戻すことでノイズを除去して信号を復元する処理も実行すると良い。そして、このノイズ除去を行った復元信号に対して多値位相変調方式の多値デジタル復調を実行しデータ化し、このデータを記憶部に一時記憶するとよい。これにより、I信号とQ信号との利得差による影響の少ない受信データ復号装置28を提供することができる。そして、上記利得差による影響が少ないことから、一信号に含まれるビット数の数を増やすことができ、かつビット数を増やしても精度良く復調することができる。従って、多量のデータを一括送信して通信速度を向上させることができる。
【0061】
また、図8および図9に仮想線で示すように、距離推定部12や受信データ復号装置28の後段に表示部27を備えても良い。この場合、利得差αをもとに距離測定装置1や受信データ復号装置28の回路内部に発生したゲインのアンバランスを自己診断することができ、この自己診断の結果を表示部27に表示することができる。
【0062】
詳述すると、上述した数式7と数式8の両辺をそれぞれ掛け算して得られる方程式を解くと、未知数であるαが次のように求められる。
【0063】
【数12】
このαの値を、本方式を用いた距離測定装置1または受信データ復号装置28が検出できるので、これらの装置が内部回路に発生したゲインのアンバランスを自己診断することが可能となる。
【0064】
また、距離測定装置1は、0°と90°の受信信号の平均を取った平均信号のレベルが小さい場合に、図10に示すように距離推定部12で平均信号Kの位相をシフト信号Lとなるよう45°シフトする構成にしてもよい。ここで、平均信号のレベルが小さい場合とは、整数を「n」とすると平均信号の位相が「±nπ/2」の範囲に入る場合とすることができる。これにより、I信号およびQ信号のレベルが大きくなり、量子化誤差やS/N比低下の影響を受けることでの位相精度の低下を改善することができる。特に、I信号とQ信号との利得差αが1である場合に高い効果を得ることができる。
【0065】
また、非接触ICタグ30が送信するワンフレームの信号で、位相が0°と90°の受信信号を取得したが、これにこだわらず、例えば非接触ICタグ30が第1周波数f1の信号を二回送信し、距離測定装置1が、一回目は0°の位相で処理し、二回目は位相を90°シフトして処理する構成にしてもよい。
【0066】
また、BPF23は、位相切替部22の後段に設けたが、位相切替部22の前段に設けても良い。
【0067】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の復調装置は、実施形態の距離測定装置1および受信データ復号装置28に対応し、
以下同様に、
信号送信手段は、送信アンテナ7に対応し、
合成手段および距離推定手段は、距離推定部12に対応し、
位相シフト手段および位相切替手段は、位相切替部22に対応し、
復調手段は、直交復調器24,25に対応し、
データ受信装置は、受信データ復号装置28に対応し、
復元手段およびデータ化手段は、データ復号部29に対応し、
応答要求信号は、R/W要求信号33に対応し、
受信信号は、タグ応答信号35に対応し、
異なる象限は、第2象限E2に対応し、
第1位相は、0°の位相に対応し、
第2位相は、90°の位相に対応し、
第1復調信号は、第1周波数f1を復調して得たデータに対応し、
第2復調信号は、第1周波数f1’を復調して得たデータに対応し、
第1復調信号取得工程は、ステップS4に対応し、
第2復調信号取得工程は、ステップS5に対応し、
位相シフト工程は、ステップS5に対応し、
合成工程は、ステップS9に対応し、
合成信号は、平均位相のデータに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】距離測定装置のブロック図。
【図2】位相の関係を示す説明図。
【図3】平均位相の効果を説明する説明図。
【図4】距離測定装置の距離測定動作を示すフローチャート。
【図5】距離を測定する際の信号の流れを示すイメージ図。
【図6】信号をI信号とQ信号とにより復調する際のイメージ図。
【図7】位相誤差の説明図。
【図8】他の構成の距離測定装置のブロック図。
【図9】受信データ復号装置のブロック図。
【図10】他の実施例の説明図。
【符号の説明】
【0069】
1…距離測定装置
7…送信アンテナ
10…復調ユニット
10a…基準信号入力端子
10b…受信信号入力端子
10d…I信号出力端子
10e…Q信号出力端子
12…距離推定部
22…位相切替部
24,25…直交復調器
28…受信データ復号装置
29…データ復号部
30…非接触ICタグ
33…R/W要求信号
35…タグ応答信号
E2…第2象限
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調方法であって、
受信信号を第1位相で復調して第1復調信号を取得する第1復調信号取得工程と、
前記受信信号の位相を前記第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト工程と、
前記受信信号を前記第2位相で復調して第2復調信号を取得する第2復調信号取得工程と、
前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成工程とを行う
復調方法。
【請求項2】
受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、
受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、
第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、
前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備えた
復調装置。
【請求項3】
受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、
受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、
第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、
前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、
前記合成手段を、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを加算して2で除算する構成にした
復調装置。
【請求項4】
受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、
受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、
第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、
前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、
前記合成手段を、前記第1復調信号におけるI信号をQ信号で除算した第1演算信号と、第2復調信号におけるI信号をQ信号で除算した第2演算信号とを用いて、前記第1演算信号を前記第2演算信号で除算し−1を乗算して得た値の平方根を求める構成にした
復調装置。
【請求項5】
受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、
受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、
第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、
前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、
前記合成手段を、I信号の処理系統でのゲインとQ信号の処理系統でのゲインの違いを前記第1復調信号と前記第2復調信号とによりキャンセルする構成とした
復調装置。
【請求項6】
前記位相シフト手段を、受信信号の位相を90度の位相にシフトする構成とした
請求項2から5のいずれか1つに記載の復調装置。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか1つに記載の復調装置と、
応答要求信号を送信する信号送信手段と、
該応答要求信号に応答した非接触ICタグの応答信号を受信してこの受信信号による前記合成信号に基づいて前記非接触ICタグまでの距離を位相差により推定する距離推定手段とを備えた
距離測定装置。
【請求項8】
請求項2から6のいずれか1つに記載の復調装置と、
前記位相シフト手段でシフトした位相の角度の半分だけ前記合成信号の位相を前記第1位相側へシフトして復元信号とする復元手段と、
該復元信号を多値デジタル復調してデータ化するデータ化手段とを備えた
データ受信装置。
【請求項9】
受信信号を入力させる受信信号入力端子と、
該受信信号入力端子から入力された受信信号の位相を象限の異なる位相に切り替える位相切替手段と、
基準信号を入力させる基準信号入力端子と、
前記基準信号および前記受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調手段と、
復調したI信号を出力するI信号出力端子と、
復調したQ信号を出力するQ信号出力端子とを備えた
復調ユニット。
【請求項1】
受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調方法であって、
受信信号を第1位相で復調して第1復調信号を取得する第1復調信号取得工程と、
前記受信信号の位相を前記第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト工程と、
前記受信信号を前記第2位相で復調して第2復調信号を取得する第2復調信号取得工程と、
前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成工程とを行う
復調方法。
【請求項2】
受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、
受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、
第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、
前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備えた
復調装置。
【請求項3】
受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、
受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、
第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、
前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、
前記合成手段を、前記第1復調信号と前記第2復調信号とを加算して2で除算する構成にした
復調装置。
【請求項4】
受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、
受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、
第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、
前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、
前記合成手段を、前記第1復調信号におけるI信号をQ信号で除算した第1演算信号と、第2復調信号におけるI信号をQ信号で除算した第2演算信号とを用いて、前記第1演算信号を前記第2演算信号で除算し−1を乗算して得た値の平方根を求める構成にした
復調装置。
【請求項5】
受信した受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調装置であって、
受信信号の位相を第1位相と象限の異なる第2位相にシフトする位相シフト手段と、
第1位相の受信信号と第2位相の受信信号とをそれぞれ復調して第1復調信号と第2復調信号とを取得する復調手段と、
前記第1復調信号と前記第2復調信号とを合成して合成信号を取得する合成手段とを備え、
前記合成手段を、I信号の処理系統でのゲインとQ信号の処理系統でのゲインの違いを前記第1復調信号と前記第2復調信号とによりキャンセルする構成とした
復調装置。
【請求項6】
前記位相シフト手段を、受信信号の位相を90度の位相にシフトする構成とした
請求項2から5のいずれか1つに記載の復調装置。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか1つに記載の復調装置と、
応答要求信号を送信する信号送信手段と、
該応答要求信号に応答した非接触ICタグの応答信号を受信してこの受信信号による前記合成信号に基づいて前記非接触ICタグまでの距離を位相差により推定する距離推定手段とを備えた
距離測定装置。
【請求項8】
請求項2から6のいずれか1つに記載の復調装置と、
前記位相シフト手段でシフトした位相の角度の半分だけ前記合成信号の位相を前記第1位相側へシフトして復元信号とする復元手段と、
該復元信号を多値デジタル復調してデータ化するデータ化手段とを備えた
データ受信装置。
【請求項9】
受信信号を入力させる受信信号入力端子と、
該受信信号入力端子から入力された受信信号の位相を象限の異なる位相に切り替える位相切替手段と、
基準信号を入力させる基準信号入力端子と、
前記基準信号および前記受信信号を同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とにより復調する復調手段と、
復調したI信号を出力するI信号出力端子と、
復調したQ信号を出力するQ信号出力端子とを備えた
復調ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2007−243724(P2007−243724A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64684(P2006−64684)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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