説明

微多孔性フィルム及び電池用セパレータ

【課題】優れた突刺強度を有し、かつ透気度の良好な微多孔性フィルムを提供すること。
【解決手段】ポリプロピレンを含む微多孔性フィルムであって、重量平均分子量Mwが65万〜100万であり、かつペンタッド分率が90%〜95%である微多孔性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔性フィルム及び電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔性フィルム、特にポリオレフィン系微多孔性フィルムは、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料などに使用されており、特にリチウムイオン電池用セパレータとして使用されている。また近年、リチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの小型電子機器用途として使用されている一方で、ハイブリッド電気自動車などへの応用も図られている。
【0003】
ここで、ハイブリッド電気自動車用途に用いられるリチウムイオン電池には、短時間に多くのエネルギーを取り出すための、より高い出力特性が要求される。このような高い出力特性を実現するために、セパレータには高い透過性が求められている。
【0004】
また、ハイブリッド電気自動車用途に用いられるリチウムイオン電池は、一般に大型でかつ高エネルギー容量であるため、より高い安全性の確保が要求され、更には低コストであることが要求される。ここで言う安全性とは機械的強度のことである。リチウムイオン二次電池は高い出力密度、容量密度を持つ反面、電解液に有機溶媒を用いているために、短絡による発熱により電解液が分解し、最悪の場合は発火に至ることがある。このリチウムの樹枝状析出物(デンドライト)成長における内部短絡発生を防ぐためにセパレータには物理的強度が要求される。また、電池製造工程中に電極バリなどの異物が混入し微多孔性フィルムの突き破れ(短絡)が発生する場合があるが、十分な機械的強度を有する微多孔性フィルムであれば短絡が抑制されるため、電池不良率が低下し結果的に低コストとなる。
【0005】
よって、安全性と低コストを実現するためにはセパレータには十分な機械的強度が備わっていることが要求される。更に最近では、リチウムイオン電池の高容量化の要求が高まりからより薄い微多孔性フィルムが求められている。薄膜でも高い安全性、低コストを可能にするために高機械的強度の確保は重要な課題となっている。この機械的強度のトータルな指標として突刺強度が挙げられる。
【0006】
ここで、セパレータの製法としては乾式法と湿式法が知られている。乾式法では、樹脂を押し出した後に延伸多孔化する方法で微多孔性フィルムを得る。乾式法は抽出液を使用する湿式法と比較して、製造工程が簡便で安全性に優れ、且つ低コストなプロセスであるという点で優れている。
【0007】
一般的にセパレータの機械的強度と透過性とはトレードオフの関係にある。これらの特性を両立できるセパレータを得るための方法の一つとしては、原料のポリプロピレンとして、ペンタッド分率が高いものを用いることが知られている。例えば、特許文献1〜3では、95%以上と高いペンタッド分率のポリプロピレンを用いることが好ましいことが記載されている。しかしながら、これらの文献に開示されているセパレータであっても特に機械的強度の点で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−297297
【特許文献2】特開2000−63551
【特許文献3】特表2003−519723
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
セパレータの機械的強度を高めるための手法としては、重量平均分子量(Mw)が高いポリプロピレンを用いることが知られている。しかしながら、ポリプロピレンのMwが高いほど機械的強度が増すものの、溶融成形時の溶融粘度が大きくなり成形性が悪化するため、特に薄膜を成形する際に、フィルムの多孔化が困難であった。例えば、上記特許文献1〜3においては最高でもMw50万程度のポリプロピレンを用いている。
【0010】
そこで、本発明は、電池の高い出力特性に伴うイオン伝導性の向上、即ち良好な透気度と、突刺強度をバランス良く備え、特に薄膜で透気度と強度のバランスが優れ、リチウムイオン二次電池用セパレータとして高い安全性と実用性を有するポリオレフィン微多孔性フィルムを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前述の課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、従来は透過性及び強度が劣るとされていた低ペンタッド分率のポリプロピレンでも、重量平均分子量Mwを特定の範囲とすることで、上記課題を解決し得る微多孔性フィルムが得られることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]
ポリプロピレンを含む微多孔性フィルムであって、重量平均分子量Mwが65万〜100万であり、かつペンタッド分率が90%〜95%である微多孔性フィルム。
[2]
膜厚が10〜15μmである[1]記載の微多孔性フィルム。
[3]
上記[1]又は[2]記載の微多孔性フィルムを含む電池用セパレータ。
[4]
[1]または[2]記載の微多孔性フィルムの製造方法であって、以下の(A)〜(D)の各工程を含む製造方法:
(A)ポリプロピレンを含むフィルムを120℃以上160℃未満の温度で熱処理するアニール工程、
(B)前記アニール工程において熱処理されたフィルムを−20℃以上90℃未満の温度で延伸する冷延伸工程、
(C)前記冷延伸工程において延伸されたフィルムを90℃以上160℃未満の温度で延伸する熱延伸工程、
(D)前記熱延伸工程の後にアニール温度より0℃以上40℃未満高い温度で熱固定する熱固定工程。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、突刺強度が強く、且つ透気度の良好な、電池用セパレータとして好適な微多孔性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
従来、透過性の観点からペンタッド分率の高いポリマーが求められてきた。一方、ペンダット分率が低いポリマーは、透過性が劣るだけでなく、結晶性が低くなり弾性率が低下することから、強度も低下すると考えられてきた。
【0016】
ところが、ペンダット分率と重量平均分子量を特定の範囲とすることで、強度が飛躍的に向上し、透過性も良好な微多孔性フィルムが得られることが分かった。また、成形性を犠牲にすることなく、高強度かつ高透過性な膜が得られることが分かった。
【0017】
〔微多孔性フィルム〕
本実施形態の微多孔性フィルムは、ポリプロピレンを含む微多孔性フィルムであって、重量平均分子量Mwが65万〜100万であり、かつペンタッド分率が90%〜96%に調整されている。
【0018】
重量平均分子量が65万以上であると、フィルムの機械的強度が良好となり、分子量が100万以下であると、フィルム成形性が良好となる。本発明の重量平均分子量Mwは65万〜100万であり、70万〜90万がより好ましい。ここで、微多孔性フィルムの重量平均分子量を上記範囲に調整する方法としては、例えば、原料に重量平均分子量の高いポリプロピレンを用いること等が挙げられる。
【0019】
また、ペンタッド分率(mmmm%)は分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクティック連鎖の存在割合を示しており、プロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。ペンダット分率はポリプロピレンの立体規則性の指標であり、90%以上であると延伸時の開孔性が向上し良好な透過性を得ることが出来る。これは、結晶が形成され易いためであると考えられる。ペンタッド分率が95%以下であると、突刺強度が向上する。これは、結晶間をつなぐタイ分子が適度に形成され易く、結晶間のつながりが強くなることによると考えられる。ペンタッド分率は90〜95%であり、好ましくは92〜94%である。
【0020】
なお、後述する実施例に記載されている製造条件により、原料の重量平均分子量・ペンタッド分率を比較的損なわずに微多孔性フィルムを得ることができる。
【0021】
〔ポリプロピレン〕
本実施形態におけるポリプロピレンとは、プロピレンを単量体成分として含む重合体であり、本発明の特徴及び効果を損なわない範囲であれば、ホモポリマーでもコポリマーでもよい。
【0022】
ポリプロピレンがコポリマーである場合、ランダムコポリマーであってもよいし、ブロックコポリマーであってもよい。また、コポリマーである場合、共重合成分としては特に限定はなく、例えば、エチレン、ブテン、ヘキセン等が挙げられる。ポリプロピレンがコポリマーである場合、プロピレンの共重合割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0023】
また、ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、0.1〜5g/10分であることが好ましく、0.3〜3g/10分であることがより好ましい。MFRを0.1g/10分以上とすることで、成形加工時の樹脂の溶融粘度が生産性に適した値となる傾向にあり、一方、5g/10分未満とすることで、機械的強度が十分な範囲となり実用上問題が発生しにくい傾向にある。
【0024】
本実施形態におけるポリプロピレンは、上記の成分の他に本発明の特徴及び効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の付加的成分、例えば、オレフィン系エラストマー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤など)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、無機又は有機の充填材や強化材(ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等を含有してもよい。これらの付加的成分の総含有量は、ポリプロピレン100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0025】
〔微多孔性フィルムの製造方法〕
本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、ポリプロピレンを含むフィルム(以下、「原反フィルム」とも言う。)を、(A)120℃以上160℃未満の温度で熱処理するアニール工程、(B)前記アニール工程において熱処理されたフィルムを−20℃以上90℃未満の温度で延伸する冷延伸工程、(C)前記冷延伸工程において延伸されたフィルムを90℃以上160℃未満の温度で延伸する熱延伸工程、(D)前記熱延伸工程の後にアニール温度より0℃以上40℃未満高い温度で熱固定する熱固定工程とを含むことが好ましい。また、延伸倍率は、冷延伸工程では少なくとも一方向に1.05倍〜2.0倍、熱延伸工程では少なくとも一方向に1.05倍〜5.0倍とすることが好ましい。
【0026】
本実施形態におけるポリプロピレンを含む原反フィルムの製造方法としては、Tダイ押出成形、インフレーション成形、カレンダー成形、スカイフ法等のシート成形方法を採用し得る。中でも、本実施形態の微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点から、Tダイ押出成形が好ましい。
【0027】
一方、延伸工程においては、ロール、テンター、オートグラフ等により一軸方向及び/又は二軸方向に延伸する方法を採用し得る。特に、本実施形態の微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点から、ロールによる2段階以上の一軸延伸が好ましい。
【0028】
原反フィルムの製造方法において、押出し後のドロー比、即ち、フィルムの巻取速度(単位:m/分)をポリプロピレンの押出速度(ダイリップを通過する溶融樹脂の流れ方向の線速度。単位:m/分)で除した値は、好ましくは10〜500、より好ましくは50〜300、更に好ましくは100〜250である。また、原反フィルムを巻き取る際のフィルムの巻取速度は、好ましくは約2〜400m/分、より好ましくは10〜200m/分である。ドロー比を上記範囲とすることは、得られる微多孔性フィルムの透気性を向上させる観点から好適である。
【0029】
(アニール工程)
上記のようにして製造された原反フィルムには、後述する冷延伸工程の前に必要に応じて熱処理(アニール)を施すことが好ましい。アニールの方法としては、例えば、原反フィルムを加熱ロール上に接触させる方法、巻き取る前に加熱気相中に曝す方法、原反フィルムを芯体上に巻き取り加熱気相又は加熱液相中に曝す方法、並びにこれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。これらのアニールの条件は、例えば、120℃以上160℃未満の加熱温度で、10秒間〜100時間アニールすることが好ましい。加熱温度が120℃以上であると、得られる微多孔性フィルムの透気性が更に良好となる傾向にあり、160℃未満であると、原反フィルムを芯体上に巻き取った状態でアニールしてもフィルム同士が融着し難くなる傾向にある。より好ましい加熱温度の範囲は、130℃〜150℃である。
【0030】
(冷延伸工程)
次に、冷延伸工程について説明する。
冷延伸工程においては、ポリプロピレンを含むフィルムを、−20℃以上90℃未満の温度で延伸する。
冷延伸工程においては、上記のようにして原反フィルムに熱処理を施した後、好ましくは−20℃以上90℃未満に保持した状態で、少なくとも一方向に1.05倍〜2.0倍に冷延伸することが好ましい。
【0031】
冷延伸工程における冷延伸の延伸温度は、好ましくは−20℃以上90℃未満、より好ましくは0℃以上50℃以下の温度である。−20℃以上で延伸することにより、微多孔性フィルムが破断し難くなり、90℃未満で延伸することにより、得られる微多孔性フィルムの透気性がより良好となる。ここで、冷延伸の延伸温度は冷延伸工程におけるフィルムの表面温度を示す。また、フィルムの表面温度は、非接触系の熱電対を延伸ロール機内に設けることにより測定することができる。
【0032】
冷延伸工程における冷延伸の延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上2.0倍以下であり、より好ましくは1.2倍以上1.7倍以下である。延伸倍率が1.05倍以上であると、透気性の良好な微多孔性フィルムが得られる傾向にあり、2.0倍以下であると、膜厚が均一な微多孔性フィルムが得られる傾向にある。原反フィルムの冷延伸は、少なくとも一方向に行い、二方向に行ってもよいが、好ましくは、フィルムの押出し方向(以下「MD方向」とも言う。)にのみ一軸延伸を行う。
【0033】
本実施形態における冷延伸工程においては、原反フィルムを、0℃以上50℃以下の温度で、MD方向に1.1倍〜2.0倍に一軸延伸することが特に好ましい。
【0034】
(熱延伸工程)
次に、熱延伸工程について説明する。
熱延伸工程においては、前記冷延伸工程において延伸されたフィルムを90℃以上160℃未満の温度で延伸する。
熱延伸工程においては、上記のようにして冷延伸を行った後、フィルムを90℃以上160℃未満に保持した状態で、少なくとも一方向に1.05倍以上5.0倍以下に熱延伸することが好ましい。
【0035】
熱延伸の延伸温度は、好ましくは90℃以上160℃未満、より好ましくは120℃以上150℃以下の温度である。90℃以上で熱延伸すると、フィルムが破断し難くなり、160℃未満で熱延伸すると、得られる微多孔性フィルムの透気性が良好となる。ここで、熱延伸の延伸温度は熱延伸工程におけるフィルムの表面温度を示す。
【0036】
熱延伸工程における熱延伸の延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上5.0倍以下であり、より好ましくは1.1倍以上5.0倍以下、更に好ましくは2.0倍以上4.0倍以下である。熱延伸工程における延伸倍率が1.05倍以上であると、透気性の良好な微多孔性フィルムが得られる傾向にあり、5.0倍以下であると、膜厚が均一な微多孔性フィルムが得られる傾向にある。熱延伸は、少なくとも一方向に対して行い、二方向に行ってもよいが、好ましくは冷延伸の延伸方向と同じ方向に行い、より好ましくは冷延伸の延伸方向と同じ方向にのみ一軸延伸を行う。
【0037】
本実施形態における熱延伸工程においては、冷延伸工程により冷延伸されたフィルムを、100℃以上150℃以下の温度で、MD方向に2.0倍〜5.0倍に一軸延伸することが特に好ましい。
【0038】
本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法は、微多孔性フィルムに要求される良好な透気性や用途の観点から、冷延伸工程と熱延伸工程との2段階の延伸工程を含む。微多孔性フィルムの製造方法が延伸工程を1段階で行う方法である場合、得られる微多孔性フィルムは、要求される良好な透気性を満たし難くなる。なお、本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法は、上述の各延伸工程に加えて、更なる延伸工程を含んでもよい。
【0039】
(熱固定工程)
本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法は、熱延伸工程を経て得られた微多孔性フィルムに対して、好ましくはアニール温度より0℃以上40℃未満高い温度で熱処理を施す熱固定工程を含むことが好ましい。この熱固定の方法としては、熱固定後の微多孔性フィルムの長さが、熱固定前の微多孔性フィルムの長さに対して3〜50%減少する程度熱収縮させる方法(以下、この方法を「緩和」と言う。)、延伸方向の寸法が変化しないように熱固定する方法等が挙げられる。この熱固定によって寸法安定性のより一層良好な微多孔性フィルムとすることができる。
【0040】
熱固定温度は、120℃以上160℃以下であることが好ましく、130℃以上160℃以下であることがより好ましい。ここで、熱固定温度とは、熱固定工程における微多孔性フィルムの表面温度を示す。
【0041】
上記のように、ポリプロピレンを含むフィルムの製造工程、必要に応じて熱処理工程を経た後、冷延伸工程、熱延伸工程を経て、さらに必要に応じて熱固定工程を経る製造方法により、目的とする微多孔性フィルムを得ることができる。
【0042】
(透気度)
本実施形態における微多孔性フィルムの透気度は、10秒/100cc〜1000秒/100ccが好ましく、50秒/100cc〜500秒/100ccがより好ましく、より好ましくは100秒/100cc〜250秒/100ccが更に好ましい。透気度が1000秒/100cc以下であると、微多孔性フィルムが十分なイオン透過性を確保し得る。一方、透気度が10秒/100cc以上であると、欠陥のない、より均質な微多孔性フィルムが得られる。
【0043】
なお、微多孔性フィルムの透気度は、ポリプロピレンの組成、各延伸工程における延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調整することができる。例えば、透気度を高くするには、延伸倍率を高くしたり、熱固定における緩和倍率を低くすればよい。なお、本明細書において、微多孔性フィルムの透気度は、膜厚20μmに換算した値を用い、JIS P−8117に準拠し、ガーレー式透気度計を用いて測定される透気抵抗度を意味する。
【0044】
(突刺強度)
本実施形態における微多孔性フィルムの突刺強度は、350〜800gが好ましく、380〜700gがより好ましく、400〜650gが更に好ましい。350g以上であると、リチウムイオン電池用セパレータとして用いた場合、電池製造工程中に異物が混入したり、充電時にリチウムイオンデンドライトが成長した時に、微多孔性フィルムの突き破れを抑制することができ安全性、低コストに優れる。一方、突刺強度が800g以下であると、セパレータが適度な柔軟性を有し、電池の巻回性が良好となる。
【0045】
(気孔率)
本実施形態における微多孔性フィルムの気孔率は20%〜80%が好ましく、より好ましくは30%〜70%、更に好ましくは40%〜60%である。気孔率が20%以上であると、微多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた場合に、十分なイオン透過性を確保し得る傾向にある。一方、気孔率が80%以下であると、微多孔性フィルムが十分な機械強度を確保し得る傾向にある。
【0046】
なお、微多孔性フィルムの気孔率は、ポリプロピレンの組成、各延伸工程における延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより上述の範囲に調整することができる。例えば、気孔率を高くするには、原反フィルムを成形する際のドロー比を高くしたり、延伸倍率を高くしたりすればよい。また、微多孔性フィルムの気孔率は、そのフィルムから10cm×10cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積V(cm3)及び質量M(g)と、フィルムを構成する樹脂組成物Acの密度d(g/cm3)とから下記式を用いて算出される。
気孔率(%)={(V−M/d)/V}×100
【0047】
(膜厚)
本実施形態における微多孔性フィルムの膜厚は、好ましくは5〜40μm、より好ましくは10〜20μm、更に好ましくは10〜15μmである。
なお、本明細書中の各物性は、特に明記しない限り、以下の実施例に記載された方法に準じて測定することができる。
【実施例】
【0048】
次に、実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
なお、実施例及び比較例において使用した原材料及び各種特性の評価法については以下の通りである。
(1)重量平均分子量(Mw)
ポリプロピレン樹脂組成物における樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)から求めた。GPC測定は、東ソー社製のGPS装置(商品名「HLC−8121GPC/HT」)を用いて行った。カラムとして東ソー社製の商品名「TSKgel GMHHR−H(20)」(2本)を用い、移動相o−ジクロロベンゼン(o−DCB)、カラム温度155℃、流量1.0mL/分、試料濃度0.5mg/mL(o−DCB)、注入量500μL、試料溶解温度160℃、試料溶解時間3時間の条件で行った。分子量の校正は、ポリスチレンで行い、ポリスチレン換算分子量でMwを求めた。
【0050】
(2)ペンタッド分率(mmmm%)
微多孔性フィルムのペンタッド分率は、高分子分析ハンドブック(日本分析化学会編集)の記載に基づいて帰属した13C−NMRスペクトルから、ピーク高さ法によって算出した。13C−NMRスペクトルの測定は、日本電子(株)製ECS−400を使用して、微多孔性フィルムをo−ジクロロベンゼン−dに溶解させ、測定温度130℃、積算回数10000回の条件で行った。
【0051】
(3)膜厚(μm)
微多孔性フィルムの膜厚は、ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製、商品名「PEACOCK No.25」)を用いて測定した。
【0052】
(4)透気度(秒/100cc)
微多孔性フィルムの透気度は、JIS P−8117に準拠したガーレー式透気度計により測定した。なお、微多孔性フィルムの膜厚を20μmとした場合の値に換算した値を、微多孔性フィルムの透気度とした。
【0053】
(5)突刺し強度(g)
カトーテック製「KES−G5ハンディー圧縮試験器」(商標)を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突き刺し速度2mm/secの条件で突き刺し試験を行い、最大突き刺し荷重(g)を測定した。
【0054】
(6)気孔率(%)
微多孔性フィルムの気孔率は、微多孔性フィルムから10cm×10cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積V(cm3)及び質量M(g)と、フィルムを構成する樹脂組成物の密度d(g/cm3)とから下記式を用いて算出した。
気孔率(%)={(V−M/d)/V}×100
【0055】
尚、使用したポリプロピレンは以下の通りである。
(実施例1) プロピレンホモポリマー、Mw= 71万、ペンタッド分率 95%
(実施例2) プロピレンホモポリマー、Mw= 97万、ペンタッド分率 95%
(実施例3、5、6) プロピレンホモポリマー、Mw= 82万、ペンタッド分率 94%
(実施例4、7,8) プロピレンホモポリマー、Mw= 90万、ペンタッド分率 92%
(比較例1) プロピレンホモポリマー、Mw= 80万、ペンタッド分率 97%
(比較例2、7,8) プロピレンホモポリマー、Mw= 100万、ペンタッド分率 98%
(比較例3) プロピレンホモポリマー、Mw= 60万、ペンタッド分率 93%
(比較例4、9,10) プロピレンホモポリマー、Mw= 80万、ペンタッド分率 88%
(比較例5) プロピレンホモポリマー、Mw= 60万、ペンタッド分率 89%
(比較例6) プロピレンホモポリマー、Mw= 120万、ペンタッド分率 97%
【0056】
〔実施例1〕
ポリプロピレンを、口径20mm、L/D=30、220℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚4.0mmのTダイから押し出した。押し出した後の溶融したポリプロピレンに直ちに25℃の冷風を当て、次いで、95℃に冷却したキャストロールにドロー比150で巻き取り、原反フィルムを得た。
【0057】
得られた原反フィルムを芯体上に巻き取った状態で、150℃の温度で3時間アニール処理した後、25℃まで冷却し、原反フィルムを2枚重ね合わせ、25℃の温度でMD方向に1.2倍に一軸延伸(冷延伸工程)し、続いて、140℃の温度でMD方向に2.0倍に一軸延伸(熱延伸工程)し、更に、155℃の温度で熱固定を施し、微多孔性フィルムを得た。
得られた微多孔性フィルムについて、重量平均分子量、ペンタッド分率、分子量分布、膜厚、透気度、気孔率を測定し、結果を表1に示した。
【0058】
〔実施例2〕
原料にポリプロピレン(Mw=82万、ペンタッド分率94%)を用いて、240℃に設定した押出し機で成形したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0059】
〔実施例3〕
原料にポリプロピレン(Mw=82万、ペンタッド分率94%)を用いたこと以外は実施例2と同様に行った。
【0060】
〔実施例4〕
原料にポリプロピレン(Mw=90万、ペンタッド分率92%)を用いたこと以外は実施例2と同様に行った。
【0061】
〔実施例5〕
リップ厚3.0mmのTダイで成形したこと以外は実施例3と同様に行った。
【0062】
得られた微多孔性フィルムについて、重量平均分子量、ペンタッド分率、分子量分布、膜厚、透気度、気孔率を測定し、結果を表2に示した。
【0063】
〔実施例6〕
リップ厚2.0mmのTダイで成形したこと以外は実施例5と同様に行った。
【0064】
〔実施例7〕
リップ厚3.0mmのTダイで成形したこと以外は実施例4と同様に行い、結果を表2に示した。
【0065】
〔実施例8〕
リップ厚2.0mmのTダイで成形したこと以外は実施例7と同様に行った。
【0066】
〔比較例1〕
原料にポリプロピレン(Mw=80万、ペンタッド分率 97%)を用いたこと以外は実施例2と同様に行った。
【0067】
〔比較例2〕
原料にポリプロピレン(Mw=100万、ペンタッド分率98%)を用いたこと以外は実施例2と同様に行った。
【0068】
〔比較例3〕
原料にポリプロピレン(Mw=60万、ペンタッド分率93%)を用いたこと以外は実施例2と同様に行った。
【0069】
〔比較例4〕
原料にポリプロピレン(Mw=80万、ペンタッド分率88%)を用いたこと以外は実施例2と同様に行った。
【0070】
〔比較例5〕
原料にポリプロピレン(Mw=60万、ペンタッド分率89%)を用いたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0071】
〔比較例6〕
原料にポリプロピレン(Mw=120万、ペンタッド分率95%)を用いたこと以外は実施例2と同様に行ったところ、成膜時に破断し、原反フィルムを得ることが出来なかった。
【0072】
〔比較例7〕
リップ厚3.0mmのTダイで成形したこと以外は比較例2と同様に行った。
【0073】
得られた微多孔性フィルムについて、重量平均分子量、ペンタッド分率、分子量分布、膜厚、透気度、気孔率を測定し、結果を表2に示した。
【0074】
〔実施例8〕
リップ厚2.0mmのTダイで成形したこと以外は比較例6と同様に行った。
【0075】
〔比較例9〕
リップ厚3.0mmのTダイで成形したこと以外は比較例4と同様に行い結果を表2に示した。
【0076】
〔実施例10〕
リップ厚2.0mmのTダイで成形したこと以外は比較例8と同様に行った。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
表1に示すように実施例1〜4の微多孔性フィルムは、突刺強度が高く良好な透過性(低い透気度)を示した。
【0080】
これに対し、比較例1、2は、実施例と比較し、透気度が良好であるものの、突刺強度が劣る結果となった。一方、比較例3は突刺強度が良好であるものの、透気度が劣る結果であり、比較例4,5は透気度、突刺強度共に劣る結果となった。
また、実施例5〜8では膜厚が薄いにも関らず、突刺強度が良好で、透気度とのバランスの良い微多孔性フィルムが得られた。
一方で比較例6、7、9では、同等の膜厚である実施例と比較し、突刺強度が劣る結果であった。比較例8は、突刺強度は良好であるものの透気度が悪い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の微多孔性フィルムは、電池用セパレータ、より具体的には、リチウム二次電池用セパレータとしての産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンを含む微多孔性フィルムであって、重量平均分子量Mwが65万〜100万であり、かつペンタッド分率が90%〜95%である微多孔性フィルム。
【請求項2】
膜厚が10〜15μmである請求項1記載の微多孔性フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の微多孔性フィルムを含む電池用セパレータ。
【請求項4】
請求項1または2記載の微多孔性フィルムの製造方法であって、以下の(A)〜(D)の各工程を含む製造方法:
(A)ポリプロピレンを含むフィルムを120℃以上160℃未満の温度で熱処理するアニール工程、
(B)前記アニール工程において熱処理されたフィルムを−20℃以上90℃未満の温度で延伸する冷延伸工程、
(C)前記冷延伸工程において延伸されたフィルムを90℃以上160℃未満の温度で延伸する熱延伸工程、
(D)前記熱延伸工程の後にアニール温度より0℃以上40℃未満高い温度で熱固定する熱固定工程。

【公開番号】特開2013−23673(P2013−23673A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162820(P2011−162820)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】