説明

微小な金属接合部位の評価方法

【課題】評価信頼性が高くて比較的廉価にて提供でき、従来の画像検査方法等では評価不可能であった接合状態の良否評価も可能な、微小な金属接合部位の評価方法を提供することを課題とする。
【解決手段】接合された金属部材のうちの一方の接合部材の当該接合部位を所定温度まで加熱し、当該加熱点から他方の接合部材への熱伝導量を指標に、当該接合部位の接合状態の良否を評価する。熱伝導量を指標とする良否の評価は、加熱点を所定温度まで加熱し、加熱点の温度が加熱停止後に所定温度まで低下するまでの温度変移を、基準となる温度変移と比較することによりなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な金属接合部位の評価方法、より詳細には、主に電子部品のような小物の超音波接合、ハンダ付け接合等による金属接合部位の接合状態の良否を評価するための、微小な金属接合部位の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に金属間の接合方法は、接合材料同士が溶融して接合される融接と、接合材料は固体のままで、金属原子の拡散により接合される圧接と、接合材料は固体のままで、別のろう材を介して接合されるろう接、並びに、接着剤を介して接合される接着とに分類される。
【0003】
電子部品の接合について考えてみると、電子機器の高性能小型化に伴い、電子部品の小型化と高密度実装が進み、それに伴って信頼性の高い高度な接合技術が要求されているが、この電子部品のような小物部品の接合には、主にハンダ付け(ろう接に属する)、超音波溶接ないし抵抗溶接(共に圧接に属する)、あるいは、接着が用いられている。
【0004】
このうち超音波溶接は、接合すべき一対の金属製ワークをアンビル上にセットし(アンビル側のワークがアンビルに固定される。)、上側のワークにホーンを押し当てて加圧しながら超音波振動を発生させ、ホーン側ワークをホーンと同調させて振動させるものである。この振動によって接合界面の酸化皮膜や汚れが次第に取り除かれ、やがて結晶粒同士が原子間距離になるまで接近すると、強力な引力が働いて治金結合する。
【0005】
かかる微小な金属接合部位の良、不良を接合後に試験によって判断する方法としては、目視、画像処理、X線透過等による評価を行なう外観観察による方法や、通電試験、引張試験、熱分布等による評価を行なう非外観観察による方法がある。
【0006】
しかるに、上記目視による評価法(特開平7−190992号公報等)は、顕微鏡観察による方法であるため、熟練者による職人芸的な検査が期待できるが、個人差が大きく、品質の安定度や人員確保の点で問題がある。
【0007】
また、上記画像処理による評価法(特開2001−60605号公報等)は、コンピュータ画像処理により位置や外観形状から良否を判断する方法であって、自動化することはできるが、接合状態の良否を外観で評価することはかなり難しいという問題がある。
【0008】
更に、上記X線透過による評価法(特開平9−80000号公報等)は、X線透過により接合状態の良否を判断する方法であって、接合部位を直接観察することができるが、接合部位の良否を評価するためには、高い分解能が必要となる等の問題がある。
【0009】
また更に、上記通電試験による評価法(特開2006−35237号公報等)は、実際に通電動作試験を行なう方法で、信頼性は高いが、接合状態の良否を判断するには、原理的に大電流を流さないと評価できないので、現実的な方法とはいえない。
【0010】
また更に、上記引張試験による評価法(特開平7−235576号公報等)は、引張強度を試験する方法で、信頼性が高いが、破壊検査のため、全数検査ができないという問題がある。
【0011】
また更に、上記熱分布による評価法(特開2001−215187号公報等)は、非破壊で検査できるが、熱分布と接合状態の相関性や、光学的難易度が高く、コスト高となる等多くの問題がある。
【0012】
【特許文献1】特開平7−190992号公報
【特許文献2】特開2001−60605号公報
【特許文献3】特開平9−80000号公報
【特許文献4】特開2006−35237号公報
【特許文献5】特開平7−235576号公報
【特許文献6】特開2001−215187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、上記従来の接合された微小な金属接合部の良否評価のための方法には、品質安定性や信頼性に欠ける、評価が困難、全数検査が困難、コスト高となる、といった問題があった。
【0014】
そこで、本発明はこのような問題のない、即ち、評価信頼性が高くて比較的廉価にて提供でき、従来の画像検査方法等では評価不可能であった接合状態の良否評価も可能な、微小な金属接合部位の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、熱伝導量は接合部材間の接合密度や接合面積に比例すると考えられるところから、接合部位において、一方の接合部材から他方の接合部材へ移動する熱伝導量を演算し、その演算結果を分析すれば、接合部材間の合金構成状態、並びに、接合面積の評価指針として、換言すれば、当該接合状態の良否評価に利用できるであろうとの着眼から、本発明をなしたものである。
【0016】
即ち、上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、接合された金属部材のうちの一方の接合部材の当該接合部位を所定温度まで加熱し、当該加熱点から他方の接合部材への熱伝導量を指標に、当該接合部位の接合状態の良否を評価することを特徴とする微小な金属接合部位の評価方法を提唱する。
【0017】
好ましくは、前記熱伝導量を指標とする良否の評価は、前記加熱点を所定温度まで加熱し、前記加熱点の温度が加熱停止後に所定温度まで低下するまでの温度変移を、基準となる温度変移と比較することにより行なう。また、前記加熱点の加熱を半導体レーザーにより行ない、前記加熱点の表面温度の測定を赤外線センサで行なう。
【0018】
また好ましくは、前記加熱点の温度の測定は、温度と相関のある赤外線放射量を測定し、これを、前記加熱点の放射率の差異に起因する赤外線放射量の差異に基づいて補正することによって行ない、前記放射率を考慮しての前記加熱点の表面温度の補正は、前記加熱点の加熱開始から所定温度まで低下するまでの間、前記加熱点にその反射率測定のために別途赤外光を照射してその反射率を測定することによって行なう。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る微小な金属接合部位の評価方法は上記のとおり簡易なものであって、レーザー加熱時の吸収率の影響や赤外線放射量測定時の放射率の影響を無視できる方法を採用することにより、接合部位の表面状態の影響を受けることなく高精度の評価が可能であり、接合部の評価信頼性の大幅な向上に資するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る微小な金属接合部位の評価方法は、接合された金属部材のうちの一方の接合部材の当該接合部位を所定温度まで加熱し、加熱開始から加熱停止後の当該加熱点から他方の接合部材への熱伝導量を指標として、当該接合部位の接合状態の良否を評価することを特徴とする。
【0021】
本発明者は、本発明をなすに当たり、超音波接合した部位の接合状態が良の良品サンプルと、それが不良の不良品サンプルとを用意し、それぞれの接合部位(評価部位)を瞬時加熱し、当該加熱部の加熱開始から加熱停止後の温度変移を比較観察した。図1のグラフはその結果を概略的に示すもので、この試験の結果、不良品の場合は、良品の場合に比較して温度下降が遅く、緩やかな傾きとなることが判明した。
【0022】
このことは、接合面積(溶接面積)が十分でない不良品の場合は、加熱した側の接合部材から他方の接合部材への熱伝導量が少なく、良品の場合に比較して降温速度が遅くなることを意味する。
【0023】
図2において、一方の接合部材(第1接合部材1)上の一点をスポット的に加熱した場合、当該加熱点3の温度変移は、第1接合部材1から他方の接合部材(第2接合部材2)へ流れる熱量と相関がある。そこで、電子部品等の評価対象品のうちの1組の接合部材1、2の材質、寸法等が他の評価対象品の接合部材1、2と同一条件であれば、各評価対象品の接合部においてみられる熱伝導量の差は、接合面4の合金構成状態や接合面積、接合状態等の違いに起因して生じたものと考えることができる。
【0024】
この場合、第1接合部材1の加熱点3から第2接合部材2への熱伝導量△Qは、次の式から求めることができる。

【0025】
上記実験結果から、第1接合部材1から第2接合部材2への熱伝導量が基準のものより小の場合、即ち、接合面積不足等、接合状態が不良の場合は、所定温度まで加熱したところで加熱を停止させた後の温度下降は遅くなり、所定温度まで降温するのに時間がかかることが分かる。また、所定時間経過後の加熱点3における温度は、良品の場合よりも高くなることが理解される(図1参照)。換言すれば、当該接合部位における接合状態が良か不良かの評価は、この加熱停止後の温度下降(変移)状態を観察することによって行なうことができる。
【0026】
本発明に係る方法は、この加熱停止後の温度変移を観察するものであるが、本方法を実施するためには、加熱点3を所定温度まで昇温させるための熱の供給手段と温度測定手段とが必要となる。また、一箇所当りの評価速度向上のために、熱伝導量の測定、換言すれば温度変移の測定は短時間の内に行なう必要がある。そこで本発明においては、熱の供給手段として、非接触で高速にパワー可変とオンオフ制御を行なうことができる半導体レーザーを用い、また、温度の測定手段としては、非接触で高速に放射パワーの測定ができる、赤外線センサを用い、これで赤外線放射パワーを測定することが推奨される。
【0027】
ところで、本発明に係る方法を実施するに当っては、第1接合部材1の加熱点3を、均一且つ確実に所定温度まで昇温させる必要があるところ、半導体レーザーの場合は、加熱点3におけるレーザー吸収率の影響を大きく受けるために、この要請に応えることができないことが危惧される。即ち、加熱点3におけるレーザーの吸収率は、加熱点3の表面状態が平坦だと小さく、粗いと大きくなり、その吸収率は加熱点3の表面状態によって左右されるのである。
【0028】
ここで、加熱点3におけるレーザー吸収率をα、レーザーパワーをP、第1接合部材1の熱伝導率をK、レーザー照射範囲であるスポット径をdとすると、連続的にレーザーが照射されたときの加熱点3の表面温度Tは、近似的に、T=2αP/πKd
(安永暢男著「レーザーが変える加工技術」海文堂出版株式会社 第40頁参照)となる。この式から明らかなように、加熱点3のレーザー加熱時の表面温度Tは吸収率αが支配的、即ち、上記式中π、Kは定数、P、dは任意の規定値のため、表面温度Tは、加熱点3の表面状態(粗い、平滑等)の違いによる吸収率αに大きく影響され、吸収率αが増加するに伴って倍速的に高温となる。
【0029】
図3のグラフに示すように、実線で示す標準品サンプルの表面温度の時間変移を基準値とすると、吸収率αが小さい場合には、標準品サンプルの場合よりも表面温度変移が小さくなり(傾きが緩やかになり)、逆に、吸収率αが大きい場合には、表面温度変移が大きくなる(傾きが急になる)。
【0030】
ところで、赤外線センサにより測定された放射パワー値(この値によって表面温度を推測する)が規定値になったときにレーザー照射を止めると、理論上は、図3に示すように標準品サンプルと表面温度が同じになるはずが、実際には、図4のグラフに示すように、照射停止時の表面温度Tに誤差が生じる。この加熱温度(表面温度)誤差は、上述したように、加熱点3の表面状態に依存する吸収率αの影響によるものであるので、赤外線センサによる温度計測値は、この吸収率αを考慮して補正をする必要がある。
【0031】
物体の吸収率αは、同じ温度の当該物体の放射率εに等しく(キルヒホッフの法則)、また、赤外線放射パワーWと温度Tとの間には、
W=σTε (σ:ステファンボルツマン定数、ε:放射率)
の関係がある。これらの式から、赤外線放射パワーと放射率を計測することにより、加熱点3の補正された表面温度を演算することができる。
【0032】
但し、放射率εの測定は難しいので、本発明においては、測定可能な反射率ρから放射率εの算出を行なうこととする。即ち、吸収率αと反射率ρとの間にはα=1−ρの関係があるので、吸収率α=放射率εであれば、放射率ε=1−反射率ρの関係が成り立つ。従って、反射率ρを測定することによって、放射率εを算出することができる。
【0033】
本発明に係る方法においては、この反射率ρを測定するために、上記熱供給手段としての半導体レーザー5とは別に、反射率測定のための半導体レーザー6が用意され、それから半導体レーザー5と同時に加熱点3にレーザー光が照射される(図6参照)。そして、この半導体レーザー6からのレーザー光の反射率ρを、半導体レーザー5による加熱点3の加熱開始から所定温度に低下するまでの間、同時に測定する。このようにして得た反射率ρから放射率εを算出することにより、上記W=σTεの式から、補正された加熱点3の正しい表面温度Tを演算することができる。
【0034】
図5は、このようにして補正された実測値に基いて、図1のグラフをより忠実に示したものである。このグラフから、接合度(接合面積・状態)の良否は、演算により判別できることが分かる。
【0035】
この発明をある程度詳細にその最も好ましい実施形態について説明してきたが、この発明の精神と範囲に反することなしに広範に異なる実施形態を構成することができることは明白なので、この発明は添付請求の範囲において限定した以外はその特定の実施形態に制約されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】接合状態の適否により降温速度が異なることを示すグラフである。
【図2】加熱点からの熱の伝導を示す図である。
【図3】レーザー加熱点の実際の表面温度の時間変移を示すグラフである。
【図4】レーザー加熱点の計測された表面温度の時間変移を示すグラフである。
【図5】補正された実測値に基く図1のグラフに対応するグラフである。
【図6】本発明に係る方法を実施するための装置の要部を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0037】
1 第1接合部材
2 第2接合部材
3 加熱点
4 接合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合された金属部材のうちの一方の接合部材の当該接合部位を所定温度まで加熱し、当該加熱点から他方の接合部材への熱伝導量を指標に、当該接合部位の接合状態の良否を評価することを特徴とする微小な金属接合部位の評価方法。
【請求項2】
前記熱伝導量を指標とする良否の評価は、前記加熱点を所定温度まで加熱し、前記加熱点の温度が加熱停止後に所定温度まで低下するまでの温度変移を、基準となる温度変移と比較することによりなされる、請求項1に記載の微小な金属接合部位の評価方法。
【請求項3】
前記加熱点の加熱を半導体レーザーにより行ない、前記加熱点の表面温度の測定を赤外線センサで行なう請求項2に記載の微小な金属接合部位の評価方法。
【請求項4】
前記加熱点の温度の測定は、温度と相関のある赤外線放射量を測定し、これを、前記加熱点の赤外線放射率の差異に起因する赤外線放射量の差異に基づいて補正することによって行なう請求項3に記載の微小な金属接合部位の評価方法。
【請求項5】
前記放射率を考慮しての前記加熱点の表面温度の補正は、前記加熱点の加熱開始から所定温度まで低下するまでの間、前記加熱点にその反射率測定のために別途赤外光を照射してその反射率を測定することによって行なう請求項4に記載の微小な金属接合部位の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−145344(P2008−145344A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334713(P2006−334713)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(500304752)有限会社新工 (2)
【Fターム(参考)】