微小切欠材の寿命評価方法
【課題】微小な切欠きを有する微小切欠材の疲労寿命を精度よく予測可能な微小切欠材の寿命評価方法を提供する。
【解決手段】切欠き深さ、切欠き先端半径の異なる複数の試料を用いて疲労試験を行い、各試料のSN線図をそれぞれ作成し、他方、疲労試験で付与した公称応力に対して各試料の切欠き断面での応力分布σyを推定すると共に、特性距離x0を各試料ごとに求め、これらに基づき、切欠き底から特性距離x0までの平均応力である特性距離平均応力σaveをそれぞれ求め、求めた特性距離平均応力σaveと上記SN線図とから、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求めておき、この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の特性距離平均応力σaveを求めることで、上記微小切欠材の疲労寿命を予測する。
【解決手段】切欠き深さ、切欠き先端半径の異なる複数の試料を用いて疲労試験を行い、各試料のSN線図をそれぞれ作成し、他方、疲労試験で付与した公称応力に対して各試料の切欠き断面での応力分布σyを推定すると共に、特性距離x0を各試料ごとに求め、これらに基づき、切欠き底から特性距離x0までの平均応力である特性距離平均応力σaveをそれぞれ求め、求めた特性距離平均応力σaveと上記SN線図とから、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求めておき、この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の特性距離平均応力σaveを求めることで、上記微小切欠材の疲労寿命を予測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な切欠きを有する微小切欠材の疲労寿命を予測する方法に係り、特に、特性距離モデル(Critical Distance Model)を用いた微小切欠材の寿命評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機用ジェットエンジンでは、図16に示すように、ファン161で取り込んだ空気の一部を圧縮機162で圧縮して燃焼器163に送り込み、燃焼器163内で燃料を噴射、点火することで連続的に高温・高圧のガスを発生させ、このガスにより圧縮機162を駆動する高圧タービン164、ファン161を駆動する低圧タービン165を順次駆動させた後、ジェットノズル166からガスを高速度で後方に噴出することにより、ガスの噴流と反対方向への推進力を得ている。
【0003】
このような航空機用ジェットエンジン160では、ファン161の空気取入口から鳥や石などの異物(Foreign Object Debris)を吸い込んでしまうことがあり、この異物の吸い込みにより、ファン161のファンブレード167や圧縮機162の動静翼168に微小な傷(ニック/デント、スクラッチ)が発生しやすい。
【0004】
ファンブレード167や圧縮機162の動静翼168の損傷の第1要因は、高サイクル疲労によるものである。微小な傷を有するファンブレード167や圧縮機162の動静翼168では、その微小な傷に応力が集中してき裂が発生し、これが起点となってファンブレード167や動静翼168が破壊されてしまうおそれがある。
【0005】
したがって、このような破壊を防ぐため、微小な傷を有するファンブレード167や動静翼168の疲労強度(疲労寿命)を予測し、適切な検査を実施することで、健全性を確保する必要がある。
【0006】
従来、微小な傷(切欠き)を有するファンブレード167や動静翼168の疲労寿命を予測する方法としては、FEM(Finite Element Method;有限要素法)や、簡易計算式により切欠きの応力集中部(切欠き底)のピーク応力値を求め、これを基に、予め作成した平滑材のSN線図を用いて疲労寿命を予測する方法や、ピーク応力値と材料の疲労限度(疲労限応力振幅)とを比較し、疲労き裂が発生するか否か(補修や交換が必要であるかどうか)を判断する方法が知られている。
【0007】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Luca Susmel、「The Theory of critical distances:a review of its applications in fatigue」、Engineering Fracture Mechanics 75(2008)、p.1706−1724
【非特許文献2】D.Taylor、「The theory of critical distances」、Engineering Fracture Mechanics 75(2008)、p.1696−1705
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来方法では、切欠きの応力集中部(切欠き底)の応力集中係数が大きい場合、切欠き底のピーク応力値で疲労寿命(疲労強度)を予測すると、過度に安全側の評価結果となってしまう問題があった。
【0010】
すなわち、従来方法では、実際には運用に支障のない極微小の切欠きが発生した場合であっても、その切欠きの形状が応力集中係数の大きい形状(例えば、V字形状)であれば、評価指標であるピーク応力値が大きくなってしまい、その寿命を過度に短く予測してしまう問題があり、疲労寿命を精度よく予測することができなかった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、微小な切欠きを有する微小切欠材の疲労寿命を精度よく予測可能な微小切欠材の寿命評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、微小な切欠きを有する微小切欠材の疲労寿命を予測する方法であって、切欠き深さ、切欠き先端半径の異なる複数の試料を用いて疲労試験を行い、各試料のSN線図をそれぞれ作成し、他方、上記疲労試験で付与した公称応力に対して各試料の切欠き断面での応力分布σyを推定すると共に、数1に示す式(1)
【0013】
【数1】
【0014】
で定義される特性距離x0を各試料ごとに求め、これら試料断面での応力分布σyと特性距離x0に基づき、切欠き底から特性距離x0までの平均応力である特性距離平均応力σaveをそれぞれ求め、求めた特性距離平均応力σaveと上記SN線図とから、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求めておき、この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の特性距離平均応力σaveを求めることで、上記微小切欠材の疲労寿命を予測する微小切欠材の寿命評価方法である。
【0015】
上記疲労試験により、各試料の破断寿命Nfを求めると共に、SN線図を作成して疲労限応力振幅Δσwをそれぞれ求め、他方、各試料の切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数を求めると共に、上記切欠き断面での応力分布σyをそれぞれ決定し、得られた切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数、および試料断面での応力分布σyを基に、き裂進展則に基づき、疲労き裂進展寿命の解析を行うと共に、下限界応力拡大係数範囲ΔKthを求め、上記疲労限応力振幅Δσw、および上記下限界応力拡大係数範囲ΔKthを基に、式(1)より特性距離x0を各試料ごとに求めると共に、求めた特性距離x0と上記試料断面での応力分布σyとに基づき、切欠き底から特性距離x0までの平均応力である特性距離平均応力σaveを求めてもよい。
【0016】
上記疲労試験で得られた各試料の破断寿命Nfと、上記疲労き裂進展寿命の解析で得られた疲労き裂進展寿命Npとから、下式(2)
Ni=Nf−Np …(2)
より各試料の疲労き裂発生寿命Niを求め、これを基に、上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を求めてもよい。
【0017】
上記試料が、平滑丸棒の表面にスクラッチ型の切欠きが形成されたスクラッチ型丸棒試験片であるとよい。
【0018】
上記切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数は、平板のエッジにき裂が発生した場合における、応力集中があるときの応力拡大係数と、応力集中がないときの応力拡大係数との比をとり、その比に上記平滑丸棒にき裂が発生したときの応力拡大係数を掛けることで求めてもよい。
【0019】
切欠き先端半径を0.01mm以下としたときの特性距離平均応力σaveを求め、求めた特性距離平均応力σaveと、上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係とから、最小疲労き裂発生寿命を求めてもよい。
【0020】
上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求めた後、この関係を用いて、切欠き先端半径を0.01mm以下としたときのSN線図を切欠き深さごとに作成し、これを用いて、切欠き深さごとに最小疲労限応力振幅を求めると共に、切欠きのない平滑材における疲労限応力振幅Δσwとの比をとることで、疲労限応力振幅の最大減少率をそれぞれ求め、切欠き深さと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を求めておき、この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の切欠き深さから、疲労限応力振幅の最大減少率を求め、これを平滑材の疲労限応力振幅Δσwに掛け合わせることで、上記微小切欠材の最小疲労限応力振幅を求めてもよい。
【0021】
上記切欠き先端半径を0.01mm以下としたときのSN線図を用いて、任意のサイクル数における最小時間強度を切欠き深さごとに求めると共に切欠きのない平滑材における時間強度との比をとることで、時間強度の最大減少率をそれぞれ求め、切欠き深さに対する時間強度の最大減少率の関係を求めておき、この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の切欠き深さから、時間強度の最大減少率を求め、これを平滑材の時間強度に掛け合わせることで、上記微小切欠材の任意のサイクル数における最小時間強度を求めてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、微小切欠材の疲労寿命を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の微小切欠材の寿命評価方法のフローチャートである。
【図2】特性距離モデルを説明する図である。
【図3】図3(a)は本発明で用いた試料の平面図であり、図3(b)はそのA部拡大図、図3(c)はその切欠きの拡大図である。
【図4】本発明において、疲労試験で得られるSN線図である。
【図5】本発明において、切欠きが形成された丸棒の切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数を求める際の概念図である。
【図6】切欠き深さに対する応力拡大係数の関係の一例を示す図である。
【図7】xの座標系とrの座標系との関係を説明する図である。
【図8】本発明において、切欠き断面での応力分布、および特性距離平均応力の求め方を説明するための図である。
【図9】本発明において、下限界応力拡大係数範囲の求め方を説明するための図である。
【図10】本発明において、特性距離平均応力に対する疲労き裂発生寿命の関係を示す図である。
【図11】切欠き先端半径を小さくすると特性距離平均応力がある値に収束することを説明する図である。
【図12】切欠き先端半径を小さくすると疲労き裂発生寿命が最小疲労き裂発生寿命に収束することを説明する図である。
【図13】図10の関係を用いて求めた、切欠き深さごとのSN線図である。
【図14】図10の関係を用いて求めた、切欠き先端半径ごとのSN線図である。
【図15】本発明において求めた、切欠き深さと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を示す図である。
【図16】航空機用のジェットエンジンの概略断面図と、その一部拡大図である。
【図17】本発明の微小切欠材の寿命評価方法に用いる微小切欠材の寿命評価装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0025】
本発明の微小切欠材の寿命評価方法は、異物(Foreign Object Debris)の吸い込み等により微小な傷が発生した航空機用ジェットエンジンのファンブレード等の疲労寿命を予測する前段階として、微小な切欠きを有する微小切欠材の疲労寿命を評価する方法である。
【0026】
また、本発明の微小切欠材の寿命評価方法は、特性距離モデル(Critical Distance Model)を用い、切欠き底から特性距離(Critical Distance)までの平均応力、すなわち特性距離平均応力(Critical Distance Stress)を評価指標として、微小切欠材の疲労寿命を評価する方法である。
【0027】
まず、特性距離モデルについて簡単に説明する。
【0028】
図2に示すように、金属材料からなり、微小な切欠き22を有する微小切欠材21では、切欠き底Bに応力が集中する。そのため、微小切欠材21の切欠き断面での応力分布σyは、切欠き底Bで最も大きくなり、切欠き底Bから微小切欠材21内部に向かって、徐々に減少する。
【0029】
このことから、例えば、切欠き底Bのピーク応力値が同じであっても、微小切欠材21内部に向かって応力分布σyが緩やかに減少する場合と、急激に低下する場合とでは、微小切欠材21が受ける負担に差が生じ、疲労寿命にも差が生じることが分かる。具体的には、切欠き底Bのピーク応力値が同じであっても、微小切欠材21内部に向かって応力分布σyが急激に低下する方が、平均応力が小さくなるため、微小切欠材21が受ける負担が軽くなり、疲労寿命は長くなる。
【0030】
このように、微小切欠材21では、切欠き底Bの1点の応力で疲労強度は決まらず、微小切欠材21内部に向かって応力分布σyがどのように変化するかが重要な因子となる。従来の切欠き底のピーク応力値を評価指標として用いる方法では、切欠き底Bの1点の応力のみを考慮し、切欠き断面での応力分布σyを考慮していないため、微小切欠材21の正確な疲労寿命の評価ができなかったものと考えられる。
【0031】
本発明では、切欠き底Bから特性距離x0までの平均応力、すなわち特性距離平均応力σaveを、微小切欠材21の疲労寿命の評価指標として用いる。
【0032】
金属材料では、金属材料に含まれる不純物に起因して疲労破壊する。すなわち、金属材料では、高サイクル疲労において微小なき裂が発生し得る。この微小なき裂の最大長さ(平滑な金属材料が含みうる最大のき裂深さ)が、特性距離x0である。換言すれば、特性距離x0は、平滑材の疲労限応力振幅Δσw(これ以下の応力で何回荷重を繰り返しても疲労き裂が発生しないという限界応力)に対して、き裂が進展しない限界長さを意味する。
【0033】
したがって、特性距離x0は、平滑材における疲労限応力振幅Δσwと、き裂が進展しなくなる下限界応力拡大係数範囲ΔKthとから求めることができ、数2に示す式(1)
【0034】
【数2】
【0035】
で定義される。式(1)中の下限界応力拡大係数範囲ΔKth、疲労限応力振幅Δσwの具体的な求め方については後述する。
【0036】
そして、上述の金属材料が含みうる最大長さ(特性距離x0)のき裂が切欠き底Bに発生した場合の平均応力が、特性距離平均応力σaveである。特性距離平均応力σaveは、切欠き底Bから特性距離x0までの平均応力であるから、数3に示す式(3)
【0037】
【数3】
【0038】
で表される(図2参照)。
【0039】
本発明者は、特性距離モデルを用いた微小切欠材21の疲労寿命評価方法について検討を重ねた結果、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係が、切欠き深さや切欠き先端半径にかかわらず、1つのSN線図として作成できることを見出し、本発明に至った。
【0040】
図1は、本実施形態に係る微小切欠材の寿命評価方法のフローチャートである。
【0041】
図1に示すように、本実施形態に係る微小切欠材の寿命評価方法は、大きく2つのステップS101、S102に分けることができる。
【0042】
ステップS101では、疲労試験を行うと共に特性距離平均応力σaveの計算を行い、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求める。
【0043】
ステップS102では、ステップS101で求めた特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を基に、切欠き深さと疲労限応力振幅Δσwの最大減少率との関係を求め、この関係を用いて、疲労寿命を予測する微小切欠材21の切欠き深さdから、最小疲労限応力振幅を求める。
【0044】
以下、各ステップについて詳細に説明する。
【0045】
まず、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求める(ステップS101)に先立ち、切欠き深さd、切欠き先端半径ρの異なる複数の試料を準備する(ステップS1)。本実施形態で用いた試料を図3(a)〜(c)に示す。
【0046】
図3(a)〜(c)に示すように、試料31は、平滑丸棒の表面にスクラッチ型の切欠き22が形成されたスクラッチ型丸棒試験片である。切欠き22は、試料31の軸方向の中心に形成され、試料31の外周に一様に形成される。
【0047】
試料31の切欠き22の深さdは、1mm以下、望ましくは0.5mm以下である。これは、実際にファンブレード等に深さ1mm以上の大きな切欠きが発生した場合には、危険であるため無条件で交換、補修されるためである。本実施形態では、切欠き深さdをそれぞれ0.1mm、0.3mm、0.5mmとし、切欠き先端半径ρを0.05mmとした。また、切欠き深さd=0.3mmの試料31については、切欠き先端半径ρが0.2mmの試料31も作成した。
【0048】
試料31は金属材料からなる。本実施形態では、試料31として、チタン合金からなるものを用いた。図3(a)に示すように、本実施形態では、疲労試験が行いやすいように、両端部の径が大きくなるよう形成された試料31を用いたが、試料31の径は全長にわたり一定であっても問題ない。
【0049】
その後、各試料31について疲労試験を行い、各試料31の破断寿命Nfを求めると共に、各試料31についてSN線図を作成する(ステップS2)。作成したSN線図の一例を図4に示す。
【0050】
図4のSN線図を作成した後、このSN線図から各試料31の疲労限応力振幅Δσwを求める(ステップS3)。本実施形態では、繰返し数N(破断寿命Nf)=107サイクルにおける最大応力振幅を疲労限応力振幅Δσwとした。
【0051】
他方、試料31の切欠き底Bに発生するき裂の応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbarを求める(ステップS4)。この応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbarを求める際の概念図を図5に示す。
【0052】
図5に示すように、試料31の切欠き底Bに発生するき裂のK値(Knotch_semicircle_roundbar)を求める際には、まず、平板のエッジにき裂が発生した場合における、応力集中があるときの応力拡大係数Knotch_throughcrackと、応力集中がないときの応力拡大係数Kthroughcrackを求め、これらの比(Knotch_throughcrack/Kthroughcrack)をとる。さらに、この比に平滑丸棒にき裂が発生したときの応力拡大係数Ksemicircle_roundbarを掛け合わせることにより、応力集中があるとき、すなわち、切欠き底Bにき裂が発生したときの応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbarを求める。すなわち、切欠き底Bにき裂が発生したときの応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbarは、下式(4)
Knotch_semicircle_roundbar=(Knotch_throughcrack/Kthroughcrack)×Ksemicircle_roundbar …(4)
で表される。平滑丸棒にき裂が発生したときの応力拡大係数Ksemicircle_roundbarと、切欠き底Bにき裂が発生したときの応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbarの一例を、図6に示す。
【0053】
また、疲労試験で付与した公称応力(正味断面平均応力)σmに対して各試料31の切欠き断面での応力分布σyを推定する(ステップS5)。
【0054】
切欠き断面での応力分布σyは、数4に示す式(5)
【0055】
【数4】
【0056】
で表される。ここで、式(5)におけるrは、図7に示すように、xの座標系から−ρ/2だけx方向に移動した座標系を示しており、r=x+ρ/2で表される。また、A,Bは未知数であり、これら未知数A,Bを求める必要がある。
【0057】
未知数A,Bを求めるため、試料31における力のつりあい式(試料31は丸棒試試験片であるため、軸力のつりあい式)を導出する。
【0058】
図8に示すように、公称応力σmによる軸力Fは、F=σm・πR2となる。他方、切欠き断面での応力分布σyによる軸力Fは、数5に示す式(6)
【0059】
【数5】
【0060】
となる。よって、試料31における軸力のつりあい式は、数6に示す式(7)
【0061】
【数6】
【0062】
で表される。式(5)、(7)を用いて、未知数A,Bを求めると、未知数Aは数7に示す式(8)
【0063】
【数7】
【0064】
となり、未知数Bは下式(9)
B=Kt−A …(9)
となる。求めた未知数A,Bを式(5)に代入すれば、切欠き断面での応力分布σyが得られる。
【0065】
その後、ステップS4で求めた応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbar、およびステップS5で求めた切欠き断面での応力分布σyを基に、応力拡大係数範囲ΔKを求め、疲労き裂進展寿命Npの解析を行う(ステップS6)。疲労き裂進展寿命Npの解析は、従来より用いられている下式(10)
da/dN=C(ΔK)m …(10)
但し、C、m:材料定数
a:き裂深さ
N:サイクル数
da/dN:1サイクル当たりのき裂の伸び量
ΔK:応力拡大係数範囲
で表されるき裂進展則を用いる。式(10)において材料定数C,mは、試料31にチタン合金を用いているため、これに対応するよう、C=4.625×10-12(MPa)、m=3.295(m)とした。サイクル当たりのき裂の伸び量da/dNと応力拡大係数範囲ΔKとの関係の一例を図9に示す。
【0066】
図9より、き裂が進展しなくなる下限界応力拡大係数範囲ΔKthが得られる。疲労き裂進展寿命Npは、式(10)の常微分方程式を数値計算により、逐次、応力拡大係数範囲とき裂寸法を更新しながら計算する手法を用いて算定する。その初期条件は、初期のき裂深さを特性距離X0とし、き裂深さが、丸棒試験片の直径よりも大きくなった時点(き裂が貫通した時点)を解析終了時点(破断時点)とすることで疲労き裂進展寿命Npを算定する。
【0067】
疲労き裂進展寿命Npの解析を行った後、ステップS6で得られた疲労き裂進展寿命Npと、ステップS2で求めた破断寿命Nfとから、各試料31での疲労き裂発生寿命Niを求める(ステップS7)。
【0068】
破断寿命Nfは、疲労き裂発生寿命Niと疲労き裂進展寿命Npの和、すなわち下式(11)
Nf=Ni+Np …(11)
で表される。よって、疲労き裂発生寿命Niは、式(11)を変形して下式(2)
Ni=Nf−Np …(2)
で求めることができる。
【0069】
その後、ステップS3で得た疲労限応力振幅Δσwと、ステップS6で得た下限界応力拡大係数ΔKthとを用いて、数8に示す式(1)
【0070】
【数8】
【0071】
により、特性距離x0を各試料ごとに求め、得られた特性距離x0を基に、特性距離平均応力σaveをそれぞれ求める(ステップS8)。式(1)において材料定数Fは、チタン合金に対応する値(F=1.1215×2)とする。
【0072】
特性距離平均応力σaveは、切欠き底Bから特性距離x0まで範囲での合計の応力Pを、その断面積Sで割ったものであるから、数9に示す式(12)
【0073】
【数9】
【0074】
で求められる。この式(12)に、式(5)で表される切欠き断面での応力分布σyを代入して計算すると、特性距離平均応力σaveは、数10に示す式(13)
【0075】
【数10】
【0076】
となる。
【0077】
特性距離平均応力σaveが得られたら、その特性距離平均応力σaveと、ステップS7で求めた各試料の疲労き裂発生寿命Niとから、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を求める(ステップS9)。得られた特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を図10に示す。
【0078】
図10は、ステップS1で作成した全ての試料31(切欠き深さd=0.1mm、0.3mm、0.5mm、切欠き先端半径ρ=0.05mm、0.2mm)をプロットしたものである。このように、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係は、切欠き深さdや切欠き先端半径ρにかかわらず、1つのSN線図として作成することができる。
【0079】
図10において、疲労き裂発生寿命Niが105サイクル未満ある場合と、疲労き裂発生寿命Niが105サイクル以上である場合のデータを分けているのは、疲労き裂発生寿命Ni=105サイクルで傾きが変化していることを表すためである。
【0080】
図10の特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を予め作成しておけば、疲労寿命を予測する微小切欠材21の特性距離平均応力σaveを求めれば、微小切欠材21の疲労寿命(疲労き裂発生寿命Ni)を予測することが可能となる。
【0081】
さらに、切欠き先端半径ρを0.01mm以下、好ましくは0.001mm以下としたときの特性距離平均応力σaveを求め、求めた特性距離平均応力σaveと、図10の特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係とから、最小疲労き裂発生寿命を求める(ステップS10)。
【0082】
本発明者は、切欠き先端半径ρと疲労寿命の関係について検討を重ねた結果、切欠き先端半径ρをいくら小さくしても、特性距離平均応力σaveが上昇しなくなる領域が存在すること、すなわち、切欠き先端半径ρを小さくすると、特性距離平均応力σaveがある値に収束することを見出した。
【0083】
図11に示すように、切欠き先端半径ρが0.01mm以下の小さい値になると、特性距離平均応力σaveはある値に収束する。このため、図12に示すように、切欠き先端半径ρが0.01mm以下の小さい値になると、疲労き裂発生寿命Niがあるサイクル数に収束することになる。このサイクル数が最小疲労き裂発生寿命である。
【0084】
よって、切欠き深さdのみに依存した最小疲労き裂発生寿命を求めることができる。この最小疲労き裂発生寿命は、切欠き先端半径ρが0.01mm以下、すなわち、切欠き22が略V字形状である場合の疲労き裂発生寿命であるから、最も応力集中が高い状態での疲労き裂発生寿命であり、最も安全側の評価であるといえる。
【0085】
次に、ステップS9で求めた特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を用いて、切欠き深さdと疲労限応力振幅Δσwの最大減少率との関係を求めるステップ(ステップS102)について説明する。
【0086】
ステップS9で特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を求めた後、これを用いて、切欠き深さdごとにSN線図を作成する(ステップS11)。
【0087】
まず、一例として、切欠き先端半径ρが0.05mmである場合のSN線図を図13に示す。図13において、プロット(□、△、○:◇は平滑材)はステップS2の疲労試験における実験値であり、実線および破線はステップS11で作成したSN線図である。図13に示すように、作成したSN線図は実験値とよく一致しており、図10の関係から精度よくSN線図を作成できていることが分かる。図13のSN線図を作成する際は、図10より得た疲労き裂発生寿命Niに疲労き裂進展寿命Npを足し合わせて、破断寿命Nf(繰返し数N)を求めるとよい。
【0088】
また、図14に、切欠き深さd=0.3mmにおいて切欠き先端半径ρを0.2mm、0.05mmとしたときのSN線図を示す。図14に示すように、作成したSN線図(実線)は、実験値(□、△:◇は平滑材)とよく一致している。
【0089】
また、図14には、切欠き先端半径ρを0.01mm以下の小さい値にしたときのSN線図を併せて示す。このSN線図が、切欠き深さd=0.3mmにおける、最小強度を示すSN線図となる。
【0090】
これと同様に、各切欠き深さdについても、切欠き先端半径ρを0.01mm以下の小さい値にしたときのSN線図を作成する。
【0091】
その後、ステップS11で作成したSN線図(切欠き先端半径ρ≦0.01mm)を基に、切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を求める(ステップS12)。
【0092】
ここでは、サイクル数N=107回における時間強度、すなわち疲労限応力振幅Δσwについて検討する。時間強度とは、任意のサイクル数における最大応力振幅のことである。
【0093】
ステップS10で説明したように、切欠き先端半径ρを0.01mm以下と小さくすると、特性距離平均応力σaveはある値に収束し、この収束値を基に最小疲労き裂発生寿命を得ることができる。よって、切欠き先端半径ρを0.01mm以下としたときのSN線図を切欠き深さdごとに作成すれば、作成したSN線図を基に、切欠き深さdごとに最小疲労限応力振幅を求めることができ、これと平滑材の疲労限応力振幅Δσwとの比をとることで、切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率(無次元化疲労限度)との関係を求めることができる。
【0094】
より具体的には、まず、ステップS11で作成したSN線図(切欠き先端半径ρ≦0.01mm)より、サイクル数N=107回における最大応力振幅、すなわち最小疲労限応力振幅(最小時間強度)を、切欠き深さdごとに求める。
【0095】
その後、得られた切欠き深さdごとの最小疲労限応力振幅と、切欠き22のない平滑材における疲労限応力振幅Δσwとの比(微小切欠材21の最小疲労限応力振幅/平滑材の疲労限応力振幅Δσw)をとると、切欠き深さdごとに疲労限応力振幅の最大減少率(無次元化疲労限度)が得られる。
【0096】
得られた切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係のを図15に破線で示す。図15では、参考のため、ρ=0.05mmとしたときの切欠き深さdと疲労限応力振幅の減少率との関係(図13のSN線図に対応)を実線で示している。
【0097】
図15の関係(破線)を予め求めておくことにより、疲労寿命を予測する微小切欠材21の切欠き先端半径ρを計測せずとも、切欠き深さdのみを計測すれば、疲労限応力振幅の最大減少率を求めることが可能となる。
【0098】
さらに、得られた疲労限応力振幅の最大減少率を平滑材の疲労限応力振幅Δσwに掛け合わせると、微小切欠材21の最小疲労限応力振幅を求めることができる(ステップS13)。
【0099】
これにより、得られた最小疲労限応力振幅の値が、所定値(許容限界値)以下となったときに、交換または補修が必要であると判断することができる。
【0100】
上述のように、特性距離モデルを用いて微小切欠材21の疲労寿命を予測する際には、微小切欠材21の切欠き深さd、切欠き先端半径ρを計測する必要がある。しかし、実際には、切欠き深さdは容易に計測できるものの、切欠き先端半径ρを計測するのは非常に困難である。本発明では、切欠き深さdのみで微小切欠材21の最小疲労限応力振幅Δσwを予測することが可能となるため、実際に航空機用ジェットエンジンのファンブレード等の疲労寿命を予測する際に非常に有効である。
【0101】
本実施形態では、サイクル数N=107サイクルにおける最小時間強度(最小疲労限応力振幅)について説明したが、任意のサイクル数における最小時間強度(例えば、8万回強度など)も同様にして求めることができる。
【0102】
以上説明したように、本実施形態に係る微小切欠材の寿命評価方法では、切欠き深さd、切欠き先端半径ρの異なる複数の試料31を用いて疲労試験を行い、各試料31のSN線図をそれぞれ作成し、他方、疲労試験で付与した公称応力σmに対して各試料31の切欠き断面での応力分布σyを推定すると共に特性距離x0を求め、これに基づき、特性距離平均応力σaveをそれぞれ求め、求めた特性距離平均応力σaveと上記SN線図とから、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を求めておき、この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材21の特性距離平均応力σaveを求めることで、微小切欠材31の疲労き裂発生寿命Niを予測している。
【0103】
これにより、切欠き22の形態や、切欠き断面の応力分布σyを考慮して微小切欠材21の寿命(疲労き裂発生寿命Ni)を予測することが可能となるため、従来のように過度に安全側に寿命を評価してしまうことがなくなり、微小切欠材21の寿命を精度よく予測することが可能となる。
【0104】
また、本実施形態では、試料31として、平滑丸棒の表面にスクラッチ型の切欠きが形成されたスクラッチ型丸棒試験片を用いている。スクラッチ型の試料では、エッジに鋭い傷が形成されたニック型の試料や、凹みが形成されたデント型の試料と比較して、最も疲労強度が低くなるため、スクラッチ型の試料を用いることで、安全側の評価が可能となる。
【0105】
さらに、本実施形態では、切欠き先端半径ρを0.01mm以下としたときのSN線図を切欠き深さdごとに作成し、これを用いて、切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を求めている。
【0106】
本実施形態では、切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を予め求めているため、疲労寿命を予測する微小切欠材21の切欠き先端半径ρが計測できない場合であっても、切欠き深さdから、微小切欠材21の最小疲労限応力振幅を求めることが可能となり、交換や補修の必要性を知ることができる。
【0107】
本実施形態に係る微小切欠材の寿命評価方法は、例えば、図17に示す微小切欠材の寿命評価装置170により実現される。
【0108】
微小切欠材の寿命評価装置170は、試料31の切欠き深さd、切欠き先端半径ρ、疲労試験の結果等の解析データを入力する解析データ入力部171と、材料データを記憶する材料データ記憶部172と、解析条件を記憶する解析条件記憶部173と、入力部171に入力された解析データと材料データ記憶部173に記憶された材料データを基に、解析条件記憶部173に記憶された解析条件に従って、上述のステップS2〜S12で説明した解析を行う解析部174と、解析部174で得られた切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を記憶する解析結果記憶部175とを備える。
【0109】
また、微小切欠材の寿命評価装置170は、評価対象となる微小切欠き材の切欠き深さdを入力する評価対象データ入力部176と、微小切欠き材を実際に用いる際に必要な疲労限応力振幅である規格データを記憶する規格記憶部177と、評価対象データ入力部176で入力された切欠き深さdを基に、解析結果記憶部175に記憶された切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を用いて評価対象の微小切欠き材の最小疲労限応力振幅を求め、これが上記規格データを満足するか否かを出力する評価部178とを備える。
【0110】
入力部171、材料データ記憶部172、解析条件記憶部173、解析部174、解析結果記憶部175、評価対象データ入力部176、規格記憶部177、評価部178は、インターフェイス、メモリ、CPU、ソフトウェアなどを適宜組み合わせて実現される。
【0111】
微小切欠材の寿命評価装置170を用いて評価を行う際は、まず、入力部171より解析データを入力すると共に解析部174で解析し、予め解析結果記憶部175に解析結果(切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係)を記憶させておく。
【0112】
その上で、評価対象データ入力部176より評価対象となる微小切欠き材のデータ(切欠き深さd)を入力すると、評価部178において、入力された切欠き深さdに対応する疲労限応力振幅が求められると共に、求めた疲労限応力振幅が予め設定した規格データを満足するか否かが判断され、その結果が外部に出力される。
【符号の説明】
【0113】
21 微小切欠材
22 切欠き
31 試料
B 切欠き底
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な切欠きを有する微小切欠材の疲労寿命を予測する方法に係り、特に、特性距離モデル(Critical Distance Model)を用いた微小切欠材の寿命評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機用ジェットエンジンでは、図16に示すように、ファン161で取り込んだ空気の一部を圧縮機162で圧縮して燃焼器163に送り込み、燃焼器163内で燃料を噴射、点火することで連続的に高温・高圧のガスを発生させ、このガスにより圧縮機162を駆動する高圧タービン164、ファン161を駆動する低圧タービン165を順次駆動させた後、ジェットノズル166からガスを高速度で後方に噴出することにより、ガスの噴流と反対方向への推進力を得ている。
【0003】
このような航空機用ジェットエンジン160では、ファン161の空気取入口から鳥や石などの異物(Foreign Object Debris)を吸い込んでしまうことがあり、この異物の吸い込みにより、ファン161のファンブレード167や圧縮機162の動静翼168に微小な傷(ニック/デント、スクラッチ)が発生しやすい。
【0004】
ファンブレード167や圧縮機162の動静翼168の損傷の第1要因は、高サイクル疲労によるものである。微小な傷を有するファンブレード167や圧縮機162の動静翼168では、その微小な傷に応力が集中してき裂が発生し、これが起点となってファンブレード167や動静翼168が破壊されてしまうおそれがある。
【0005】
したがって、このような破壊を防ぐため、微小な傷を有するファンブレード167や動静翼168の疲労強度(疲労寿命)を予測し、適切な検査を実施することで、健全性を確保する必要がある。
【0006】
従来、微小な傷(切欠き)を有するファンブレード167や動静翼168の疲労寿命を予測する方法としては、FEM(Finite Element Method;有限要素法)や、簡易計算式により切欠きの応力集中部(切欠き底)のピーク応力値を求め、これを基に、予め作成した平滑材のSN線図を用いて疲労寿命を予測する方法や、ピーク応力値と材料の疲労限度(疲労限応力振幅)とを比較し、疲労き裂が発生するか否か(補修や交換が必要であるかどうか)を判断する方法が知られている。
【0007】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Luca Susmel、「The Theory of critical distances:a review of its applications in fatigue」、Engineering Fracture Mechanics 75(2008)、p.1706−1724
【非特許文献2】D.Taylor、「The theory of critical distances」、Engineering Fracture Mechanics 75(2008)、p.1696−1705
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来方法では、切欠きの応力集中部(切欠き底)の応力集中係数が大きい場合、切欠き底のピーク応力値で疲労寿命(疲労強度)を予測すると、過度に安全側の評価結果となってしまう問題があった。
【0010】
すなわち、従来方法では、実際には運用に支障のない極微小の切欠きが発生した場合であっても、その切欠きの形状が応力集中係数の大きい形状(例えば、V字形状)であれば、評価指標であるピーク応力値が大きくなってしまい、その寿命を過度に短く予測してしまう問題があり、疲労寿命を精度よく予測することができなかった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、微小な切欠きを有する微小切欠材の疲労寿命を精度よく予測可能な微小切欠材の寿命評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、微小な切欠きを有する微小切欠材の疲労寿命を予測する方法であって、切欠き深さ、切欠き先端半径の異なる複数の試料を用いて疲労試験を行い、各試料のSN線図をそれぞれ作成し、他方、上記疲労試験で付与した公称応力に対して各試料の切欠き断面での応力分布σyを推定すると共に、数1に示す式(1)
【0013】
【数1】
【0014】
で定義される特性距離x0を各試料ごとに求め、これら試料断面での応力分布σyと特性距離x0に基づき、切欠き底から特性距離x0までの平均応力である特性距離平均応力σaveをそれぞれ求め、求めた特性距離平均応力σaveと上記SN線図とから、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求めておき、この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の特性距離平均応力σaveを求めることで、上記微小切欠材の疲労寿命を予測する微小切欠材の寿命評価方法である。
【0015】
上記疲労試験により、各試料の破断寿命Nfを求めると共に、SN線図を作成して疲労限応力振幅Δσwをそれぞれ求め、他方、各試料の切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数を求めると共に、上記切欠き断面での応力分布σyをそれぞれ決定し、得られた切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数、および試料断面での応力分布σyを基に、き裂進展則に基づき、疲労き裂進展寿命の解析を行うと共に、下限界応力拡大係数範囲ΔKthを求め、上記疲労限応力振幅Δσw、および上記下限界応力拡大係数範囲ΔKthを基に、式(1)より特性距離x0を各試料ごとに求めると共に、求めた特性距離x0と上記試料断面での応力分布σyとに基づき、切欠き底から特性距離x0までの平均応力である特性距離平均応力σaveを求めてもよい。
【0016】
上記疲労試験で得られた各試料の破断寿命Nfと、上記疲労き裂進展寿命の解析で得られた疲労き裂進展寿命Npとから、下式(2)
Ni=Nf−Np …(2)
より各試料の疲労き裂発生寿命Niを求め、これを基に、上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を求めてもよい。
【0017】
上記試料が、平滑丸棒の表面にスクラッチ型の切欠きが形成されたスクラッチ型丸棒試験片であるとよい。
【0018】
上記切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数は、平板のエッジにき裂が発生した場合における、応力集中があるときの応力拡大係数と、応力集中がないときの応力拡大係数との比をとり、その比に上記平滑丸棒にき裂が発生したときの応力拡大係数を掛けることで求めてもよい。
【0019】
切欠き先端半径を0.01mm以下としたときの特性距離平均応力σaveを求め、求めた特性距離平均応力σaveと、上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係とから、最小疲労き裂発生寿命を求めてもよい。
【0020】
上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求めた後、この関係を用いて、切欠き先端半径を0.01mm以下としたときのSN線図を切欠き深さごとに作成し、これを用いて、切欠き深さごとに最小疲労限応力振幅を求めると共に、切欠きのない平滑材における疲労限応力振幅Δσwとの比をとることで、疲労限応力振幅の最大減少率をそれぞれ求め、切欠き深さと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を求めておき、この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の切欠き深さから、疲労限応力振幅の最大減少率を求め、これを平滑材の疲労限応力振幅Δσwに掛け合わせることで、上記微小切欠材の最小疲労限応力振幅を求めてもよい。
【0021】
上記切欠き先端半径を0.01mm以下としたときのSN線図を用いて、任意のサイクル数における最小時間強度を切欠き深さごとに求めると共に切欠きのない平滑材における時間強度との比をとることで、時間強度の最大減少率をそれぞれ求め、切欠き深さに対する時間強度の最大減少率の関係を求めておき、この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の切欠き深さから、時間強度の最大減少率を求め、これを平滑材の時間強度に掛け合わせることで、上記微小切欠材の任意のサイクル数における最小時間強度を求めてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、微小切欠材の疲労寿命を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の微小切欠材の寿命評価方法のフローチャートである。
【図2】特性距離モデルを説明する図である。
【図3】図3(a)は本発明で用いた試料の平面図であり、図3(b)はそのA部拡大図、図3(c)はその切欠きの拡大図である。
【図4】本発明において、疲労試験で得られるSN線図である。
【図5】本発明において、切欠きが形成された丸棒の切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数を求める際の概念図である。
【図6】切欠き深さに対する応力拡大係数の関係の一例を示す図である。
【図7】xの座標系とrの座標系との関係を説明する図である。
【図8】本発明において、切欠き断面での応力分布、および特性距離平均応力の求め方を説明するための図である。
【図9】本発明において、下限界応力拡大係数範囲の求め方を説明するための図である。
【図10】本発明において、特性距離平均応力に対する疲労き裂発生寿命の関係を示す図である。
【図11】切欠き先端半径を小さくすると特性距離平均応力がある値に収束することを説明する図である。
【図12】切欠き先端半径を小さくすると疲労き裂発生寿命が最小疲労き裂発生寿命に収束することを説明する図である。
【図13】図10の関係を用いて求めた、切欠き深さごとのSN線図である。
【図14】図10の関係を用いて求めた、切欠き先端半径ごとのSN線図である。
【図15】本発明において求めた、切欠き深さと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を示す図である。
【図16】航空機用のジェットエンジンの概略断面図と、その一部拡大図である。
【図17】本発明の微小切欠材の寿命評価方法に用いる微小切欠材の寿命評価装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0025】
本発明の微小切欠材の寿命評価方法は、異物(Foreign Object Debris)の吸い込み等により微小な傷が発生した航空機用ジェットエンジンのファンブレード等の疲労寿命を予測する前段階として、微小な切欠きを有する微小切欠材の疲労寿命を評価する方法である。
【0026】
また、本発明の微小切欠材の寿命評価方法は、特性距離モデル(Critical Distance Model)を用い、切欠き底から特性距離(Critical Distance)までの平均応力、すなわち特性距離平均応力(Critical Distance Stress)を評価指標として、微小切欠材の疲労寿命を評価する方法である。
【0027】
まず、特性距離モデルについて簡単に説明する。
【0028】
図2に示すように、金属材料からなり、微小な切欠き22を有する微小切欠材21では、切欠き底Bに応力が集中する。そのため、微小切欠材21の切欠き断面での応力分布σyは、切欠き底Bで最も大きくなり、切欠き底Bから微小切欠材21内部に向かって、徐々に減少する。
【0029】
このことから、例えば、切欠き底Bのピーク応力値が同じであっても、微小切欠材21内部に向かって応力分布σyが緩やかに減少する場合と、急激に低下する場合とでは、微小切欠材21が受ける負担に差が生じ、疲労寿命にも差が生じることが分かる。具体的には、切欠き底Bのピーク応力値が同じであっても、微小切欠材21内部に向かって応力分布σyが急激に低下する方が、平均応力が小さくなるため、微小切欠材21が受ける負担が軽くなり、疲労寿命は長くなる。
【0030】
このように、微小切欠材21では、切欠き底Bの1点の応力で疲労強度は決まらず、微小切欠材21内部に向かって応力分布σyがどのように変化するかが重要な因子となる。従来の切欠き底のピーク応力値を評価指標として用いる方法では、切欠き底Bの1点の応力のみを考慮し、切欠き断面での応力分布σyを考慮していないため、微小切欠材21の正確な疲労寿命の評価ができなかったものと考えられる。
【0031】
本発明では、切欠き底Bから特性距離x0までの平均応力、すなわち特性距離平均応力σaveを、微小切欠材21の疲労寿命の評価指標として用いる。
【0032】
金属材料では、金属材料に含まれる不純物に起因して疲労破壊する。すなわち、金属材料では、高サイクル疲労において微小なき裂が発生し得る。この微小なき裂の最大長さ(平滑な金属材料が含みうる最大のき裂深さ)が、特性距離x0である。換言すれば、特性距離x0は、平滑材の疲労限応力振幅Δσw(これ以下の応力で何回荷重を繰り返しても疲労き裂が発生しないという限界応力)に対して、き裂が進展しない限界長さを意味する。
【0033】
したがって、特性距離x0は、平滑材における疲労限応力振幅Δσwと、き裂が進展しなくなる下限界応力拡大係数範囲ΔKthとから求めることができ、数2に示す式(1)
【0034】
【数2】
【0035】
で定義される。式(1)中の下限界応力拡大係数範囲ΔKth、疲労限応力振幅Δσwの具体的な求め方については後述する。
【0036】
そして、上述の金属材料が含みうる最大長さ(特性距離x0)のき裂が切欠き底Bに発生した場合の平均応力が、特性距離平均応力σaveである。特性距離平均応力σaveは、切欠き底Bから特性距離x0までの平均応力であるから、数3に示す式(3)
【0037】
【数3】
【0038】
で表される(図2参照)。
【0039】
本発明者は、特性距離モデルを用いた微小切欠材21の疲労寿命評価方法について検討を重ねた結果、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係が、切欠き深さや切欠き先端半径にかかわらず、1つのSN線図として作成できることを見出し、本発明に至った。
【0040】
図1は、本実施形態に係る微小切欠材の寿命評価方法のフローチャートである。
【0041】
図1に示すように、本実施形態に係る微小切欠材の寿命評価方法は、大きく2つのステップS101、S102に分けることができる。
【0042】
ステップS101では、疲労試験を行うと共に特性距離平均応力σaveの計算を行い、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求める。
【0043】
ステップS102では、ステップS101で求めた特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を基に、切欠き深さと疲労限応力振幅Δσwの最大減少率との関係を求め、この関係を用いて、疲労寿命を予測する微小切欠材21の切欠き深さdから、最小疲労限応力振幅を求める。
【0044】
以下、各ステップについて詳細に説明する。
【0045】
まず、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求める(ステップS101)に先立ち、切欠き深さd、切欠き先端半径ρの異なる複数の試料を準備する(ステップS1)。本実施形態で用いた試料を図3(a)〜(c)に示す。
【0046】
図3(a)〜(c)に示すように、試料31は、平滑丸棒の表面にスクラッチ型の切欠き22が形成されたスクラッチ型丸棒試験片である。切欠き22は、試料31の軸方向の中心に形成され、試料31の外周に一様に形成される。
【0047】
試料31の切欠き22の深さdは、1mm以下、望ましくは0.5mm以下である。これは、実際にファンブレード等に深さ1mm以上の大きな切欠きが発生した場合には、危険であるため無条件で交換、補修されるためである。本実施形態では、切欠き深さdをそれぞれ0.1mm、0.3mm、0.5mmとし、切欠き先端半径ρを0.05mmとした。また、切欠き深さd=0.3mmの試料31については、切欠き先端半径ρが0.2mmの試料31も作成した。
【0048】
試料31は金属材料からなる。本実施形態では、試料31として、チタン合金からなるものを用いた。図3(a)に示すように、本実施形態では、疲労試験が行いやすいように、両端部の径が大きくなるよう形成された試料31を用いたが、試料31の径は全長にわたり一定であっても問題ない。
【0049】
その後、各試料31について疲労試験を行い、各試料31の破断寿命Nfを求めると共に、各試料31についてSN線図を作成する(ステップS2)。作成したSN線図の一例を図4に示す。
【0050】
図4のSN線図を作成した後、このSN線図から各試料31の疲労限応力振幅Δσwを求める(ステップS3)。本実施形態では、繰返し数N(破断寿命Nf)=107サイクルにおける最大応力振幅を疲労限応力振幅Δσwとした。
【0051】
他方、試料31の切欠き底Bに発生するき裂の応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbarを求める(ステップS4)。この応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbarを求める際の概念図を図5に示す。
【0052】
図5に示すように、試料31の切欠き底Bに発生するき裂のK値(Knotch_semicircle_roundbar)を求める際には、まず、平板のエッジにき裂が発生した場合における、応力集中があるときの応力拡大係数Knotch_throughcrackと、応力集中がないときの応力拡大係数Kthroughcrackを求め、これらの比(Knotch_throughcrack/Kthroughcrack)をとる。さらに、この比に平滑丸棒にき裂が発生したときの応力拡大係数Ksemicircle_roundbarを掛け合わせることにより、応力集中があるとき、すなわち、切欠き底Bにき裂が発生したときの応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbarを求める。すなわち、切欠き底Bにき裂が発生したときの応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbarは、下式(4)
Knotch_semicircle_roundbar=(Knotch_throughcrack/Kthroughcrack)×Ksemicircle_roundbar …(4)
で表される。平滑丸棒にき裂が発生したときの応力拡大係数Ksemicircle_roundbarと、切欠き底Bにき裂が発生したときの応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbarの一例を、図6に示す。
【0053】
また、疲労試験で付与した公称応力(正味断面平均応力)σmに対して各試料31の切欠き断面での応力分布σyを推定する(ステップS5)。
【0054】
切欠き断面での応力分布σyは、数4に示す式(5)
【0055】
【数4】
【0056】
で表される。ここで、式(5)におけるrは、図7に示すように、xの座標系から−ρ/2だけx方向に移動した座標系を示しており、r=x+ρ/2で表される。また、A,Bは未知数であり、これら未知数A,Bを求める必要がある。
【0057】
未知数A,Bを求めるため、試料31における力のつりあい式(試料31は丸棒試試験片であるため、軸力のつりあい式)を導出する。
【0058】
図8に示すように、公称応力σmによる軸力Fは、F=σm・πR2となる。他方、切欠き断面での応力分布σyによる軸力Fは、数5に示す式(6)
【0059】
【数5】
【0060】
となる。よって、試料31における軸力のつりあい式は、数6に示す式(7)
【0061】
【数6】
【0062】
で表される。式(5)、(7)を用いて、未知数A,Bを求めると、未知数Aは数7に示す式(8)
【0063】
【数7】
【0064】
となり、未知数Bは下式(9)
B=Kt−A …(9)
となる。求めた未知数A,Bを式(5)に代入すれば、切欠き断面での応力分布σyが得られる。
【0065】
その後、ステップS4で求めた応力拡大係数Knotch_semicircle_roundbar、およびステップS5で求めた切欠き断面での応力分布σyを基に、応力拡大係数範囲ΔKを求め、疲労き裂進展寿命Npの解析を行う(ステップS6)。疲労き裂進展寿命Npの解析は、従来より用いられている下式(10)
da/dN=C(ΔK)m …(10)
但し、C、m:材料定数
a:き裂深さ
N:サイクル数
da/dN:1サイクル当たりのき裂の伸び量
ΔK:応力拡大係数範囲
で表されるき裂進展則を用いる。式(10)において材料定数C,mは、試料31にチタン合金を用いているため、これに対応するよう、C=4.625×10-12(MPa)、m=3.295(m)とした。サイクル当たりのき裂の伸び量da/dNと応力拡大係数範囲ΔKとの関係の一例を図9に示す。
【0066】
図9より、き裂が進展しなくなる下限界応力拡大係数範囲ΔKthが得られる。疲労き裂進展寿命Npは、式(10)の常微分方程式を数値計算により、逐次、応力拡大係数範囲とき裂寸法を更新しながら計算する手法を用いて算定する。その初期条件は、初期のき裂深さを特性距離X0とし、き裂深さが、丸棒試験片の直径よりも大きくなった時点(き裂が貫通した時点)を解析終了時点(破断時点)とすることで疲労き裂進展寿命Npを算定する。
【0067】
疲労き裂進展寿命Npの解析を行った後、ステップS6で得られた疲労き裂進展寿命Npと、ステップS2で求めた破断寿命Nfとから、各試料31での疲労き裂発生寿命Niを求める(ステップS7)。
【0068】
破断寿命Nfは、疲労き裂発生寿命Niと疲労き裂進展寿命Npの和、すなわち下式(11)
Nf=Ni+Np …(11)
で表される。よって、疲労き裂発生寿命Niは、式(11)を変形して下式(2)
Ni=Nf−Np …(2)
で求めることができる。
【0069】
その後、ステップS3で得た疲労限応力振幅Δσwと、ステップS6で得た下限界応力拡大係数ΔKthとを用いて、数8に示す式(1)
【0070】
【数8】
【0071】
により、特性距離x0を各試料ごとに求め、得られた特性距離x0を基に、特性距離平均応力σaveをそれぞれ求める(ステップS8)。式(1)において材料定数Fは、チタン合金に対応する値(F=1.1215×2)とする。
【0072】
特性距離平均応力σaveは、切欠き底Bから特性距離x0まで範囲での合計の応力Pを、その断面積Sで割ったものであるから、数9に示す式(12)
【0073】
【数9】
【0074】
で求められる。この式(12)に、式(5)で表される切欠き断面での応力分布σyを代入して計算すると、特性距離平均応力σaveは、数10に示す式(13)
【0075】
【数10】
【0076】
となる。
【0077】
特性距離平均応力σaveが得られたら、その特性距離平均応力σaveと、ステップS7で求めた各試料の疲労き裂発生寿命Niとから、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を求める(ステップS9)。得られた特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を図10に示す。
【0078】
図10は、ステップS1で作成した全ての試料31(切欠き深さd=0.1mm、0.3mm、0.5mm、切欠き先端半径ρ=0.05mm、0.2mm)をプロットしたものである。このように、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係は、切欠き深さdや切欠き先端半径ρにかかわらず、1つのSN線図として作成することができる。
【0079】
図10において、疲労き裂発生寿命Niが105サイクル未満ある場合と、疲労き裂発生寿命Niが105サイクル以上である場合のデータを分けているのは、疲労き裂発生寿命Ni=105サイクルで傾きが変化していることを表すためである。
【0080】
図10の特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を予め作成しておけば、疲労寿命を予測する微小切欠材21の特性距離平均応力σaveを求めれば、微小切欠材21の疲労寿命(疲労き裂発生寿命Ni)を予測することが可能となる。
【0081】
さらに、切欠き先端半径ρを0.01mm以下、好ましくは0.001mm以下としたときの特性距離平均応力σaveを求め、求めた特性距離平均応力σaveと、図10の特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係とから、最小疲労き裂発生寿命を求める(ステップS10)。
【0082】
本発明者は、切欠き先端半径ρと疲労寿命の関係について検討を重ねた結果、切欠き先端半径ρをいくら小さくしても、特性距離平均応力σaveが上昇しなくなる領域が存在すること、すなわち、切欠き先端半径ρを小さくすると、特性距離平均応力σaveがある値に収束することを見出した。
【0083】
図11に示すように、切欠き先端半径ρが0.01mm以下の小さい値になると、特性距離平均応力σaveはある値に収束する。このため、図12に示すように、切欠き先端半径ρが0.01mm以下の小さい値になると、疲労き裂発生寿命Niがあるサイクル数に収束することになる。このサイクル数が最小疲労き裂発生寿命である。
【0084】
よって、切欠き深さdのみに依存した最小疲労き裂発生寿命を求めることができる。この最小疲労き裂発生寿命は、切欠き先端半径ρが0.01mm以下、すなわち、切欠き22が略V字形状である場合の疲労き裂発生寿命であるから、最も応力集中が高い状態での疲労き裂発生寿命であり、最も安全側の評価であるといえる。
【0085】
次に、ステップS9で求めた特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を用いて、切欠き深さdと疲労限応力振幅Δσwの最大減少率との関係を求めるステップ(ステップS102)について説明する。
【0086】
ステップS9で特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を求めた後、これを用いて、切欠き深さdごとにSN線図を作成する(ステップS11)。
【0087】
まず、一例として、切欠き先端半径ρが0.05mmである場合のSN線図を図13に示す。図13において、プロット(□、△、○:◇は平滑材)はステップS2の疲労試験における実験値であり、実線および破線はステップS11で作成したSN線図である。図13に示すように、作成したSN線図は実験値とよく一致しており、図10の関係から精度よくSN線図を作成できていることが分かる。図13のSN線図を作成する際は、図10より得た疲労き裂発生寿命Niに疲労き裂進展寿命Npを足し合わせて、破断寿命Nf(繰返し数N)を求めるとよい。
【0088】
また、図14に、切欠き深さd=0.3mmにおいて切欠き先端半径ρを0.2mm、0.05mmとしたときのSN線図を示す。図14に示すように、作成したSN線図(実線)は、実験値(□、△:◇は平滑材)とよく一致している。
【0089】
また、図14には、切欠き先端半径ρを0.01mm以下の小さい値にしたときのSN線図を併せて示す。このSN線図が、切欠き深さd=0.3mmにおける、最小強度を示すSN線図となる。
【0090】
これと同様に、各切欠き深さdについても、切欠き先端半径ρを0.01mm以下の小さい値にしたときのSN線図を作成する。
【0091】
その後、ステップS11で作成したSN線図(切欠き先端半径ρ≦0.01mm)を基に、切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を求める(ステップS12)。
【0092】
ここでは、サイクル数N=107回における時間強度、すなわち疲労限応力振幅Δσwについて検討する。時間強度とは、任意のサイクル数における最大応力振幅のことである。
【0093】
ステップS10で説明したように、切欠き先端半径ρを0.01mm以下と小さくすると、特性距離平均応力σaveはある値に収束し、この収束値を基に最小疲労き裂発生寿命を得ることができる。よって、切欠き先端半径ρを0.01mm以下としたときのSN線図を切欠き深さdごとに作成すれば、作成したSN線図を基に、切欠き深さdごとに最小疲労限応力振幅を求めることができ、これと平滑材の疲労限応力振幅Δσwとの比をとることで、切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率(無次元化疲労限度)との関係を求めることができる。
【0094】
より具体的には、まず、ステップS11で作成したSN線図(切欠き先端半径ρ≦0.01mm)より、サイクル数N=107回における最大応力振幅、すなわち最小疲労限応力振幅(最小時間強度)を、切欠き深さdごとに求める。
【0095】
その後、得られた切欠き深さdごとの最小疲労限応力振幅と、切欠き22のない平滑材における疲労限応力振幅Δσwとの比(微小切欠材21の最小疲労限応力振幅/平滑材の疲労限応力振幅Δσw)をとると、切欠き深さdごとに疲労限応力振幅の最大減少率(無次元化疲労限度)が得られる。
【0096】
得られた切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係のを図15に破線で示す。図15では、参考のため、ρ=0.05mmとしたときの切欠き深さdと疲労限応力振幅の減少率との関係(図13のSN線図に対応)を実線で示している。
【0097】
図15の関係(破線)を予め求めておくことにより、疲労寿命を予測する微小切欠材21の切欠き先端半径ρを計測せずとも、切欠き深さdのみを計測すれば、疲労限応力振幅の最大減少率を求めることが可能となる。
【0098】
さらに、得られた疲労限応力振幅の最大減少率を平滑材の疲労限応力振幅Δσwに掛け合わせると、微小切欠材21の最小疲労限応力振幅を求めることができる(ステップS13)。
【0099】
これにより、得られた最小疲労限応力振幅の値が、所定値(許容限界値)以下となったときに、交換または補修が必要であると判断することができる。
【0100】
上述のように、特性距離モデルを用いて微小切欠材21の疲労寿命を予測する際には、微小切欠材21の切欠き深さd、切欠き先端半径ρを計測する必要がある。しかし、実際には、切欠き深さdは容易に計測できるものの、切欠き先端半径ρを計測するのは非常に困難である。本発明では、切欠き深さdのみで微小切欠材21の最小疲労限応力振幅Δσwを予測することが可能となるため、実際に航空機用ジェットエンジンのファンブレード等の疲労寿命を予測する際に非常に有効である。
【0101】
本実施形態では、サイクル数N=107サイクルにおける最小時間強度(最小疲労限応力振幅)について説明したが、任意のサイクル数における最小時間強度(例えば、8万回強度など)も同様にして求めることができる。
【0102】
以上説明したように、本実施形態に係る微小切欠材の寿命評価方法では、切欠き深さd、切欠き先端半径ρの異なる複数の試料31を用いて疲労試験を行い、各試料31のSN線図をそれぞれ作成し、他方、疲労試験で付与した公称応力σmに対して各試料31の切欠き断面での応力分布σyを推定すると共に特性距離x0を求め、これに基づき、特性距離平均応力σaveをそれぞれ求め、求めた特性距離平均応力σaveと上記SN線図とから、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を求めておき、この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材21の特性距離平均応力σaveを求めることで、微小切欠材31の疲労き裂発生寿命Niを予測している。
【0103】
これにより、切欠き22の形態や、切欠き断面の応力分布σyを考慮して微小切欠材21の寿命(疲労き裂発生寿命Ni)を予測することが可能となるため、従来のように過度に安全側に寿命を評価してしまうことがなくなり、微小切欠材21の寿命を精度よく予測することが可能となる。
【0104】
また、本実施形態では、試料31として、平滑丸棒の表面にスクラッチ型の切欠きが形成されたスクラッチ型丸棒試験片を用いている。スクラッチ型の試料では、エッジに鋭い傷が形成されたニック型の試料や、凹みが形成されたデント型の試料と比較して、最も疲労強度が低くなるため、スクラッチ型の試料を用いることで、安全側の評価が可能となる。
【0105】
さらに、本実施形態では、切欠き先端半径ρを0.01mm以下としたときのSN線図を切欠き深さdごとに作成し、これを用いて、切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を求めている。
【0106】
本実施形態では、切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を予め求めているため、疲労寿命を予測する微小切欠材21の切欠き先端半径ρが計測できない場合であっても、切欠き深さdから、微小切欠材21の最小疲労限応力振幅を求めることが可能となり、交換や補修の必要性を知ることができる。
【0107】
本実施形態に係る微小切欠材の寿命評価方法は、例えば、図17に示す微小切欠材の寿命評価装置170により実現される。
【0108】
微小切欠材の寿命評価装置170は、試料31の切欠き深さd、切欠き先端半径ρ、疲労試験の結果等の解析データを入力する解析データ入力部171と、材料データを記憶する材料データ記憶部172と、解析条件を記憶する解析条件記憶部173と、入力部171に入力された解析データと材料データ記憶部173に記憶された材料データを基に、解析条件記憶部173に記憶された解析条件に従って、上述のステップS2〜S12で説明した解析を行う解析部174と、解析部174で得られた切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を記憶する解析結果記憶部175とを備える。
【0109】
また、微小切欠材の寿命評価装置170は、評価対象となる微小切欠き材の切欠き深さdを入力する評価対象データ入力部176と、微小切欠き材を実際に用いる際に必要な疲労限応力振幅である規格データを記憶する規格記憶部177と、評価対象データ入力部176で入力された切欠き深さdを基に、解析結果記憶部175に記憶された切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を用いて評価対象の微小切欠き材の最小疲労限応力振幅を求め、これが上記規格データを満足するか否かを出力する評価部178とを備える。
【0110】
入力部171、材料データ記憶部172、解析条件記憶部173、解析部174、解析結果記憶部175、評価対象データ入力部176、規格記憶部177、評価部178は、インターフェイス、メモリ、CPU、ソフトウェアなどを適宜組み合わせて実現される。
【0111】
微小切欠材の寿命評価装置170を用いて評価を行う際は、まず、入力部171より解析データを入力すると共に解析部174で解析し、予め解析結果記憶部175に解析結果(切欠き深さdと疲労限応力振幅の最大減少率との関係)を記憶させておく。
【0112】
その上で、評価対象データ入力部176より評価対象となる微小切欠き材のデータ(切欠き深さd)を入力すると、評価部178において、入力された切欠き深さdに対応する疲労限応力振幅が求められると共に、求めた疲労限応力振幅が予め設定した規格データを満足するか否かが判断され、その結果が外部に出力される。
【符号の説明】
【0113】
21 微小切欠材
22 切欠き
31 試料
B 切欠き底
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小な切欠きを有する微小切欠材の疲労寿命を予測する方法であって、
切欠き深さ、切欠き先端半径の異なる複数の試料を用いて疲労試験を行い、各試料のSN線図をそれぞれ作成し、他方、上記疲労試験で付与した公称応力に対して各試料の切欠き断面での応力分布σyを推定すると共に、数1に示す式(1)
【数1】
で定義される特性距離x0を各試料ごとに求め、これら試料断面での応力分布σyと特性距離x0に基づき、切欠き底から特性距離x0までの平均応力である特性距離平均応力σaveをそれぞれ求め、求めた特性距離平均応力σaveと上記SN線図とから、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求めておき、
この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の特性距離平均応力σaveを求めることで、上記微小切欠材の疲労寿命を予測することを特徴とする微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項2】
上記疲労試験により、各試料の破断寿命Nfを求めると共に、SN線図を作成して疲労限応力振幅Δσwをそれぞれ求め、
他方、各試料の切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数を求めると共に、上記切欠き断面での応力分布σyをそれぞれ決定し、
得られた切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数、および試料断面での応力分布σyを基に、き裂進展則に基づき、疲労き裂進展寿命の解析を行うと共に、下限界応力拡大係数範囲ΔKthを求め、
上記疲労限応力振幅Δσw、および上記下限界応力拡大係数範囲ΔKthを基に、式(1)より特性距離x0を各試料ごとに求めると共に、求めた特性距離x0と上記試料断面での応力分布σyとに基づき、切欠き底から特性距離x0までの平均応力である特性距離平均応力σaveを求める請求項1記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項3】
上記疲労試験で得られた各試料の破断寿命Nfと、上記疲労き裂進展寿命の解析で得られた疲労き裂進展寿命Npとから、下式(2)
Ni=Nf−Np …(2)
より各試料の疲労き裂発生寿命Niを求め、これを基に、上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を求める請求項2記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項4】
上記試料が、平滑丸棒の表面にスクラッチ型の切欠きが形成されたスクラッチ型丸棒試験片である請求項1〜3いずれかに記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項5】
上記切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数は、平板のエッジにき裂が発生した場合における、応力集中があるときの応力拡大係数と、応力集中がないときの応力拡大係数との比をとり、その比に上記平滑丸棒にき裂が発生したときの応力拡大係数を掛けることで求められる請求項4記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項6】
切欠き先端半径を0.01mm以下としたときの特性距離平均応力σaveを求め、求めた特性距離平均応力σaveと、上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係とから、最小疲労き裂発生寿命を求める請求項1〜5いずれかに記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項7】
上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求めた後、この関係を用いて、切欠き先端半径を0.01mm以下としたときのSN線図を切欠き深さごとに作成し、これを用いて、切欠き深さごとに最小疲労限応力振幅を求めると共に、切欠きのない平滑材における疲労限応力振幅Δσwとの比をとることで、疲労限応力振幅の最大減少率をそれぞれ求め、切欠き深さと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を求めておき、
この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の切欠き深さから、疲労限応力振幅の最大減少率を求め、これを平滑材の疲労限応力振幅Δσwに掛け合わせることで、上記微小切欠材の最小疲労限応力振幅を求める請求項1〜6いずれかに記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項8】
上記切欠き先端半径を0.01mm以下としたときのSN線図を用いて、任意のサイクル数における最小時間強度を切欠き深さごとに求めると共に切欠きのない平滑材における時間強度との比をとることで、時間強度の最大減少率をそれぞれ求め、切欠き深さに対する時間強度の最大減少率の関係を求めておき、
この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の切欠き深さから、時間強度の最大減少率を求め、これを平滑材の時間強度に掛け合わせることで、上記微小切欠材の任意のサイクル数における最小時間強度を求める請求項7記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項1】
微小な切欠きを有する微小切欠材の疲労寿命を予測する方法であって、
切欠き深さ、切欠き先端半径の異なる複数の試料を用いて疲労試験を行い、各試料のSN線図をそれぞれ作成し、他方、上記疲労試験で付与した公称応力に対して各試料の切欠き断面での応力分布σyを推定すると共に、数1に示す式(1)
【数1】
で定義される特性距離x0を各試料ごとに求め、これら試料断面での応力分布σyと特性距離x0に基づき、切欠き底から特性距離x0までの平均応力である特性距離平均応力σaveをそれぞれ求め、求めた特性距離平均応力σaveと上記SN線図とから、特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求めておき、
この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の特性距離平均応力σaveを求めることで、上記微小切欠材の疲労寿命を予測することを特徴とする微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項2】
上記疲労試験により、各試料の破断寿命Nfを求めると共に、SN線図を作成して疲労限応力振幅Δσwをそれぞれ求め、
他方、各試料の切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数を求めると共に、上記切欠き断面での応力分布σyをそれぞれ決定し、
得られた切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数、および試料断面での応力分布σyを基に、き裂進展則に基づき、疲労き裂進展寿命の解析を行うと共に、下限界応力拡大係数範囲ΔKthを求め、
上記疲労限応力振幅Δσw、および上記下限界応力拡大係数範囲ΔKthを基に、式(1)より特性距離x0を各試料ごとに求めると共に、求めた特性距離x0と上記試料断面での応力分布σyとに基づき、切欠き底から特性距離x0までの平均応力である特性距離平均応力σaveを求める請求項1記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項3】
上記疲労試験で得られた各試料の破断寿命Nfと、上記疲労き裂進展寿命の解析で得られた疲労き裂進展寿命Npとから、下式(2)
Ni=Nf−Np …(2)
より各試料の疲労き裂発生寿命Niを求め、これを基に、上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命Niの関係を求める請求項2記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項4】
上記試料が、平滑丸棒の表面にスクラッチ型の切欠きが形成されたスクラッチ型丸棒試験片である請求項1〜3いずれかに記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項5】
上記切欠き底にき裂が発生したときの応力拡大係数は、平板のエッジにき裂が発生した場合における、応力集中があるときの応力拡大係数と、応力集中がないときの応力拡大係数との比をとり、その比に上記平滑丸棒にき裂が発生したときの応力拡大係数を掛けることで求められる請求項4記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項6】
切欠き先端半径を0.01mm以下としたときの特性距離平均応力σaveを求め、求めた特性距離平均応力σaveと、上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係とから、最小疲労き裂発生寿命を求める請求項1〜5いずれかに記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項7】
上記特性距離平均応力σaveに対する疲労き裂発生寿命の関係を求めた後、この関係を用いて、切欠き先端半径を0.01mm以下としたときのSN線図を切欠き深さごとに作成し、これを用いて、切欠き深さごとに最小疲労限応力振幅を求めると共に、切欠きのない平滑材における疲労限応力振幅Δσwとの比をとることで、疲労限応力振幅の最大減少率をそれぞれ求め、切欠き深さと疲労限応力振幅の最大減少率との関係を求めておき、
この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の切欠き深さから、疲労限応力振幅の最大減少率を求め、これを平滑材の疲労限応力振幅Δσwに掛け合わせることで、上記微小切欠材の最小疲労限応力振幅を求める請求項1〜6いずれかに記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【請求項8】
上記切欠き先端半径を0.01mm以下としたときのSN線図を用いて、任意のサイクル数における最小時間強度を切欠き深さごとに求めると共に切欠きのない平滑材における時間強度との比をとることで、時間強度の最大減少率をそれぞれ求め、切欠き深さに対する時間強度の最大減少率の関係を求めておき、
この関係を用い、疲労寿命を予測する微小切欠材の切欠き深さから、時間強度の最大減少率を求め、これを平滑材の時間強度に掛け合わせることで、上記微小切欠材の任意のサイクル数における最小時間強度を求める請求項7記載の微小切欠材の寿命評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−175479(P2010−175479A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20685(P2009−20685)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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