説明

微小構造体、マイクロリアクタ、熱交換器、および微小構造体の製造方法

【課題】 製造が容易で、特定の部位の正確な温度制御が可能な微小構造体、マイクロリアクタ、熱交換器、および微小構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】 マイクロリアクタ1は、複数のパターン層13A〜13Cを積層して形成され、第1のパターン層13Aの第1の入口2aから第1の原料液Lを導入し、第2の入口2bから第2の原料液Lを導入すると、それらの原料液L,Lは、流路3aを流れて合流し、高温側反応部3cおよび低温側反応部3dを層流で移動する。2つの原料液L,Lは、それらの界面において反応する。高温側反応部3cでは高温域で反応し、低温側反応部3dでは低温域で反応する。反応が終了した反応液L,Lは、流路3bにより2つに分離され、出口2c,2dから排出される。真空の空洞部3eにより高温側反応部3cと低温側反応部3dとの熱伝導を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形方法によって製造される微小構造体、マイクロリアクタ、熱交換器、および微小構造体の製造方法に関し、特に、製造が容易で、特定の部位の正確な温度制御が可能な微小構造体、マイクロリアクタ、熱交換器、および微小構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、部品製造において、コンピュータで設計された複雑な3次元物体を短期間で形成する方法として積層造形方法が急速に普及している。この積層造形方法は、サイズが数cm以上の比較的大きな部品に適用されることが多かったが、近年においては、精密に加工して形成される微小構造体、例えば、微小ギアや微小光学部品、マイクロ流体素子等にもこの方法が適用されている。
【0003】
マイクロ流体素子は、マイクロ流体デバイス、マイクロ・フルイディック・デバイス、マイクロ・ファブリケイテッド・デバイス、ラブ・オン・チップ、又はマイクロ・トータル・アナリティカル・システム(μ−TAS)とも呼ばれるデバイスである。マイクロ流体素子は、合成、物理化学的処理、検出などの他の機能を有するマイクロ流体素子と一体化して、マイクロ化学システムを構築することもできる。マイクロ流体素子は、反応溶液の温度の均一性に優れ、温度追従性が良好で、反応時間を短縮でき、試料の量が少なくて済み、溶剤などの使用量を低減でき、デバイスの製造に要する資源やエネルギーが少なく、運転を省エネルギー化でき、廃棄物の量を低減できる等の特長があり、今後の発展が期待されている。
【0004】
また、マイクロ流体素子の一種であるマイクロリアクタは、通常の反応装置より数桁小さな微小反応場を持つ装置であり、その多くは直径が1mmからミクロンオーダーの流路を反応場とすることからマイクロチャンネルリアクタとも呼ばれる。このようなマイクロリアクタは、単位体積当たりの装置表面積が大きく、熱容量の減少による精密な温度制御が可能と考えられ、温度に敏感であり、接触面積に反応速度が支配的である触媒反応には、特に魅力的な装置として、各国で研究が進められている。
【0005】
また、マイクロリアクタは、そのサイズのために表面張力・粘性力・摩擦が流体の重力や慣性に比べて相対的に大きくなり、従来の流体とは異なる挙動を示すのが特徴である。その一つに、流路内の流れが層流であることが挙げられる。乱流とは異なり層流場では混合しにくいなどの欠点がある反面、設計によってはマクロな装置では実現できなかった新しい機能を持った流れ場を創出することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
一方で、解決すべき技術課題も多く、その問題の一つに、マイクロ流体素子の内部容量があまりにも小さいため、試料の定量的注入が困難であるなどの、従来の化学反応を単純にスケールダウンすることが難しく、人と機械の間の整合がとれないことがある。また、工業的に大量合成に用いるには、反応部が小さく、一回の合成可能量が少ないため、並列化によるスケールアップを行うなどの対策が必要となる。
【0007】
また、マイクロリアクタの工業的な使用を考えた場合、最終的に合成したい反応物を得るためには複数の反応を経る場合が多く、一つの基板上に複数の化学反応回路を形成することにより、目標反応物を得るようにマイクロリアクタを設計している。このような構成の従来のマイクロリアクタにおいて、温度調節すべき部分にヒータやペルチェ素子を設けることで実現している例もある(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
また、マイクロ流体素子において、基板上に樹脂層をコーティングし、その樹脂層をレーザ加工により流路を形成する工程を繰り返すことで、3次元的な流路をビルドアップするマイクロ流体素子の製造方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
【特許文献1】特開2002−326963号公報(図1)
【特許文献2】特開2002−58470号公報(段落0029)
【特許文献3】特開2004−167607号公報(段落0010,0011)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2に示されたような温度制御機構では、熱容量が小さく、熱伝導性が高いことが欠点となり、集積モジュール化を行う際には、部分的に加熱・冷却したとしても、リアクタ全体に熱伝導してしまうため、他の反応部に悪影響をもたらしてしまう。特に流路を2次元的に折曲した場合は、中央部の排熱がされにくいため、外周部との温度差が生じる。それを防ぐために、反応部位各箇所にヒータやペルチェ素子を配置して温度を制御することは非効率であり、マイクロリアクタの長所を半減させてしまうという問題がある。
【0011】
図8は、その問題点を示す図である。発熱反応を伴う高温側反応部103での反応に続いて低温側反応部104において低温で行う反応を実現しようとする場合、マイクロリアクタ100で実験系を構成すると、高温側反応部103と低温側反応部104が近接することにより、低温側反応部104の部分に高温側反応部104で発生した反応熱が伝導してしまい、温度制御が非常に困難となる。また、マイクロリアクタ100の外乱に対する温度の感受性が高いため、少々の外乱でマイクロリアクタ100内部の温度が大きく変化してしまうという問題がある。
【0012】
また、特許文献3に示されたマイクロ流体素子は、樹脂層をコーティングし、レーザー加工により流路を形成する工程を繰り返すため、製作が容易でないという問題がある。
【0013】
従って、本発明の目的は、製造が容易で、特定の部位の正確な温度制御が可能な微小構造体、マイクロリアクタ、熱交換器、および微小構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するため、凹部あるいは貫通穴を形成する第1の薄板と、前記凹部あるいは貫通穴の開口側を閉塞するように前記第1の薄板に接合されることによって真空の密閉空間、あるいは不活性ガスが封入された密閉空間を形成する第2の薄板とを備えたことを特徴とする微小構造体を提供する。
【0015】
上記密閉空間を真空に保持するか、不活性ガスを封入することにより、断熱機能を発揮し、これにより、特定部位が断熱され、特定部位の温度制御が可能となる。特定部位は、微小構造体の内部であっても表面であってもよい。
【0016】
第1の薄板は、1枚でもよいが、凹部を有する1枚と貫通穴を有する複数枚とを用いて深い凹部を形成してもよい。また、貫通穴を有する複数枚を用いて長い貫通穴を形成してもよい。第1の薄板が凹部を形成する場合は、第2の薄板は、凹部の開口側を閉塞する1枚でよい。第1の薄板が貫通穴を形成する場合は、第2の薄板は、貫通穴の両方の開口側を閉塞するために2枚必要となる。
【0017】
上記不活性ガスは、密閉空間を還流する熱交換媒体でもよい。これにより、熱交換機能を発揮し、特定部位の温度制御が可能となる。
【0018】
上記第1および第2の薄板は、常温接合によって接合されるのが好ましい。「常温接合」とは、室温で原子同士を直接接合することをいう。常温接合によれば、薄板の形状や厚みの変化が少なく、高精度な微小構造体が得られる。薄板の材料としては、Al,Ni,Cu等の金属やセラミックス,シリコン等の非金属を用いることができる。薄板を接合する前に、その表面に中性原子ビーム、イオンビーム等を照射して表面を清浄化するのが好ましい。清浄化により表面が活性化して強固な接合が得られる。
【0019】
本発明は、上記目的を達成するため、複数の薄板を積層して形成されたマイクロリアクタにおいて、複数の原料液が反応する反応部と、断熱、熱交換等の機能を有して前記反応部に所定の反応環境を付与する密閉空間とを備えたことを特徴とするマイクロリアクタを提供する。
【0020】
上記構成によれば、密閉空間によって付与された反応環境の下で複数の原料液が反応するので、特定部位としての反応部の温度制御が可能となる。
【0021】
反応部は、反応温度が異なる複数の反応部であり、密閉空間は、真空に保持され、複数の反応部間の熱伝導を遮断する断熱機能を有する構成としてもよい。
【0022】
この場合に、複数の反応部および密閉空間は、同一の薄板に形成されていてもよく、複数の反応部は、異なる薄板に設けられ、密閉空間は、複数の反応部が設けられた薄板間に位置する薄板に設けられていてもよい。
【0023】
複数の原料液が発熱反応する場合、密閉空間は、内部を還流する熱交換媒体が封入され、熱交換媒体によって反応部からの熱を放熱する熱交換機能を有する構成としてもよい。
【0024】
複数の原料液が吸熱反応する場合、密閉空間は、内部を還流する熱交換媒体が封入され、熱交換媒体によって反応部を加熱する熱交換機能を有する構成としてもよい。
【0025】
また、反応部および密閉空間は、それぞれ隣接する薄板に設けられた構成としてもよい。
【0026】
本発明は、上記目的を達成するため、凹部あるいは貫通穴を有する第1の薄板と、前記凹部あるいは貫通穴の開口側を閉塞するように前記第1の薄板に接合されることによって内部を循環する熱交換媒体が封入された密閉空間を形成する第2の薄板とを備えたことを特徴とする熱交換器を提供する。
【0027】
上記構成によれば、熱交換媒体が加熱されると、熱交換媒体が蒸気となって密閉空間の上方に移動し、外部に放熱することによって液化して密閉空間の下方に移動する。
【0028】
本発明は、上記目的を達成するため、薄板形成基板上に凹部あるいは貫通穴を有する第1の薄板と前記凹部あるいは貫通穴の開口側を閉塞することで密閉空間を形成する第2の薄板とを形成し、真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で前記第1および第2の薄膜を前記薄板形成基板からターゲット基板上に順次転写し接合することにより、真空の前記密閉空間、あるいは不活性ガスが封入された前記密閉空間を有する微小構造体を形成する微小構造体の製造方法を提供する。
【0029】
上記複数の薄板の形成は、電鋳により行ってもよく、半導体プロセスを用いて行ってもよい。電鋳の場合は、基板として金属製のものを用いる。半導体プロセスを用いる場合は、Siウェハ,ガラス基板,石英基板等を用いる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、製造が容易で、特定の部位の正確な温度制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るマイクロリアクタを示し、(a)は斜視図、(b)は分解斜視図、(c)は(a)のA−A線断面図である。このマイクロリアクタ1は、第1のパターン層13Aと第3のパターン層13Cとの間に、2つの原料液L,Lを反応させる平面流路パターンを有する第2のパターン層13Bを積層して構成した微小構造体である。
【0032】
第1のパターン層13Aは、2つの原料液L,Lをそれぞれ導入する第1および第2の入口2a,2bと、それらの原料液L,Lの反応により得られた反応液L’,L’を排出する第1および第2の出口2c,2dとを有する。
【0033】
第2のパターン層13Bは、入口2a,2bおよび出口2c,2dに対応して形成された貫通穴3f〜3iと、2つの原料液L,Lが高温域で反応する高温側反応部3cと、2つの原料液L,Lが低温域で反応する低温側反応部3dと、貫通穴3f,3gから高温側反応部3cに合流する流路3aと、低温側反応部3dから貫通穴部3h,3iに分岐する流路3bと、高温側反応部3cと低温側反応部3dとの間の熱伝導を遮断する密閉空間としての空洞部3e,3eとを備える。
【0034】
(第1の実施の形態の製造方法)
次に、第1の実施の形態に係るマイクロリアクタ1の製造方法について図2および図3を参照して説明する。図2は、図1に示すマイクロリアクタを構成するパターン層を有するドナー基板を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。図3は、接合装置を用いた転写工程を示す模式図であり、(a)はFAB処理工程を示す図、(b)はパターン層の接合工程を示す図、(c)はパターン層の剥離工程を示す図である。
【0035】
まず、図2に示すドナー基板10を形成する。基板11としてSiウェハを準備し、基板11の表面にポリイミドをスピンコート法により塗布し、これを最高温度350℃でベークして離型層12を形成する。次に、離型層12の上にスパッタリング法により数μm以下の薄板としてのSi薄膜を着膜する。次に、Si薄膜の表面にフォトレジストを塗布し、通常のフォトリソグラフィー法によりSi薄膜をエッチングし、目的の微小構造体の断面形状にパターニングして複数のパターン層13A〜13Cを得る。Si薄膜をエッチングした後、フォトレジストを剥離液にて除去する。以上のようにして、ドナー基板10が作製される。第2のパターン層13Bの貫通穴3f〜3i、流路3a,3b、および反応部3c,3dは、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)による高アスペクト比エッチング技術により形成する。
【0036】
次に、転写工程を行う。転写では最も下層となる第3のパターン層13Cより積層する。まず、図3(a)に示すように、真空槽21内の平面ステージ25にドナー基板10を固定し、対向ステージ26にターゲット基板27を固定する。真空槽21内を図示しない真空ポンプを駆動して排気口22から排気し、10−5Paの真空にする。次に、Ar中性ビームからなるFAB(Fast Atom Bombardment)をFAB源24Aからターゲット基板27に、FAB源24Bからドナー基板10の第3のパターン層13Cにそれぞれ照射し、表面を清浄化して活性化する。
【0037】
次に、図3(b)に示すように、垂直ステージ28を下降させ、平面ステージ25を水平のx方向、y方向、垂直のz軸周りのθ方向に移動させてターゲット基板27と第3のパターン層13Cとを位置合わせする。なお、位置合せ機構としては、ゴニオメータ機構やボールジョイント機構を用いることができる。
【0038】
次に、ターゲット基板27と第3のパターン層13Cとを接触させ、さらに荷重50kgf/cmで5分間押し付けてターゲット基板27と第3のパターン層13Cとを接合する。このとき、接合強度は、50〜100MPaである。
【0039】
次に、図3(c)に示すように、垂直ステージ28を上昇させると、ターゲット基板27上に第3のパターン層13Cが転写される。このように第3のパターン層13Cがドナー基板10側からターゲット基板27側に転写できるのは、第3のパターン層13Cと離型層12間の接着力よりも第3のパターン層13Cとターゲット基板27間の接着力の方が大きいからである。次に、第2および第1のパターン層13B,13AにFABを照射するため、平面ステージ25を移動させる。第3のパターン層13Cの裏面(離型層12に接触していた面)にFABを照射し、第2のパターン層13Bの表面にFABを照射する。第3のパターン層13Cと第2のパターン層13Bとの位置合わせを行った後、上述したように第3のパターン層13Cと第2のパターン層13Bとを接合する。最上層となる第1のパターン層13Aについても同様の動作を行う。3回の転写が行われると、図1に示すマイクロリアクタ1が得られる。空洞部3eは、真空に保持される。
【0040】
(第1の実施の形態の動作)
次に、第1の実施の形態に係るマイクロリアクタ1の動作について説明する。第1のパターン層13Aの第1の入口2aから第1の原料液Lを導入し、第2の入口2bから第2の原料液Lを導入すると、それらの原料液L,Lは、流路3aを層流で流れて合流し、高温側反応部3cおよび低温側反応部3dを層流で移動する。このとき、2つの原料液L,Lは、それらの界面において反応する。高温側反応部3cでは高温域で反応し、低温側反応部3dでは低温域で反応する。反応が終了した2つの反応液L,Lは、流路3bにより2つに分離され、第1および第2の出口2c,2dから排出される。ここで、真空の空洞部3eにより高温側反応部3cと低温側反応部3dとの熱伝導を遮断する。
【0041】
(第1の実施の形態の効果)
上述した第1の実施の形態によれば、以下の効果が得られる。
(イ)複数のパターン層13の接合を真空下で行うため、内部が真空の空洞部3eを有するマイクロリアクタ1を容易に作製することができる。
(ロ)空洞部3eにより高温側反応部3cと低温側反応部3dとの間の熱伝導を遮断することができるので、精度の高い反応を行うことができ、所望の生成物を得ることができる。
(ハ)パターン層13を清浄化して活性化した上で、十分な荷重をかけて転写を行っているため、高い転写率で薄膜を転写することができる。
【0042】
[第2の実施の形態]
図4は、本発明の第2の実施の形態に係るマイクロリアクタを示し、(a)は斜視図、(b)は分解斜視図である。このマイクロリアクタ30は、最上層の第1のパターン層30Aから最下層の第9のパターン層30Iの9層から構成され、第2のパターン層30Bおよび第6のパターン層30Fに反応部を有し、第3乃至第5のパターン層30C〜30Eにより形成された断熱部、および第7乃至第9のパターン層30G〜30Iにより形成された放熱部を有する。
【0043】
第1のパターン層30Aは、第1の原料液Lを導入する第1の入口31aと、第2の原料液Lを導入する第2の入口31bと、第3の原料液Lを導入する第3の入口31cとを有する。
【0044】
第2のパターン層30Bは、第1のパターン層30Aの第1乃至第3の入口31a〜31cに対応して設けられた第1,第2の導入穴32a,32bおよび貫通穴32cと、第1の原料液Lと第2の原料液Lとを第1の温度域で反応させる第1の反応部32eと、第1および第2の導入穴32a,32bから第1の反応部32eに合流する流路32dと、第1の反応部32eに流路32fによって接続され、第1の原料液Lと第2の原料液Lとを第2の温度域で反応させる第2の反応部32gと、第2の反応部32gに流路32hによって接続され、第2の反応部32gで反応した反応液を次工程に送り出す出口32iと、第1および第2の反応部32e,32g間の熱伝導を遮断する密閉空間としての空洞部32j,32kとを有する。
【0045】
第3のパターン層30Cは、第2のパターン層30Bにおいて生成した反応液の通路となる貫通穴33aと、第3の原料液Lの通路となる貫通穴33bとを有する。
【0046】
第4のパターン層30Dは、第3のパターン層30Cの貫通穴33a,33bに対応して設けたれた貫通穴34a,34bと、断熱部となる密閉空間としての空洞部34cとを有する。
【0047】
第5のパターン層30Eは、第4のパターン層30Dの貫通穴34a,34bに対応して設けられた貫通穴35a,35bを有する。
【0048】
第6のパターン層30Fは、第2のパターン層30Bにおいて生成した反応液を導入する導入穴36aと、導入穴36aに導入された反応液L’の流路36bと、第3の原料液Lを導入する第3の導入穴36cと、第3の原料液Lの流路36dと、第3の原料液Lと導入された反応液L’とを反応させる第3の反応部36eと、反応させた反応液を貫通穴36h,36iに分岐する流路36fとを有する。
【0049】
第7のパターン層30Gは、反応液の通路となる貫通穴37a,37bを有する。第8のパターン層30Hは、反応液の通路となる貫通穴38a,38bと、放熱部となる密閉空間としての空洞部38cとを有する。第9のパターン層30Iは、反応液L,Lの出口39a,39bを有する。
【0050】
(第2の実施の形態の製造方法)
次に、第2の実施の形態に係るマイクロリアクタ30の製造方法について図5を参照して説明する。図5は、接合装置を用いた転写工程を示す模式図であり、(a)はFAB処理工程を示す図、(b)はパターン層の接合工程を示す図、(c)はパターン層の剥離工程を示す図である。なお、同図では説明を簡略化するため、パターン層は3つのみ図示する。
【0051】
まず、第1の実施の形態と同様に複数のパターン層30A〜30Iを有するドナー基板10を準備する。次に、図5(a)に示すように、接合装置20の真空槽21内の平面ステージ25にドナー基板10を固定し、対向ステージ26にターゲット基板27を固定する。真空槽21内を排気口22から排気し、10−5Paの真空にする。次に、Ar中性ビームからなるFABをFAB源24A,24Bからターゲット基板27、およびドナー基板上のパターン層30A〜30Iにそれぞれ照射し、表面を清浄化して活性化する。
【0052】
次に、図5(b)に示すように、垂直ステージ28を下降させ、ターゲット基板27と第1のパターン層30Aとを接合する。次に、図5(c)に示すように、垂直ステージ28を上昇させると、ターゲット基板27上に第1のパターン層30Aが転写される。これと同様に、真空状態で第2乃至第8のパターン層30B〜30Hを第1のパターン層30A上に順次接合していく。第9のパターン層30Iを接合する際は真空槽21内にフロン(HFC−134a)等の熱交換媒体としての冷却媒体をガス挿入口29から供給し、第8のパターン層30Hの空洞部38c内に冷却媒体を充填する。9回の転写を行い、最後にターゲット基板27を選択エッチングなどで除去することで、図4(a)に示すマイクロリアクタ30が得られる。
【0053】
なお、上記転写は、表面清浄化に使用したガス以外の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。この場合は、図5のガス挿入口29から任意のガスを流入し、排気口22より真空ポンプにより排気することで、流入量と排気量を調節し、真空層21内の雰囲気成分および内部圧を制御する。
【0054】
(第2の実施の形態の動作)
次に、第2の実施の形態に係るマイクロリアクタ30の動作を説明する。第1のパターン層30Aの第1の入口31aから第1の原料液Lを導入し、第2の入口31bから第2の原料液Lを導入し、第3の入口31cから第3の原料液Lを導入すると、第1および第2の原料液L,Lは、第2のパターン層30Bの導入穴32a,32bおよび流路32dを通り第1の反応部32eにて第1の温度域で反応し、流路32fを通り第2の反応部32gにて第2の温度域で反応する。第1および第2の反応部32e,32gでは、原料液L,Lの界面で反応が行われる。
【0055】
第2の反応部32gで反応した第1の反応液L’は、貫通穴32i,33a,34a,35a,36a、および流路36bを通って第6のパターン層30Fの第3の反応部36eに流入する。一方、第3の入口31cから導入した第3の原料液Lは、貫通穴32c,33b,34b,35b,36c、および流路36dを通って第6のパターン層30Fの第3の反応部36eに流入する。
【0056】
第3の反応部36eでは、第1の反応液L’と第3の原料液Lとが第3の温度域で反応する。この反応で得られた第2の反応液L’,L’は、貫通穴36h,36i,38a,38bを介して第9のパターン層30Iの出口39a,39bから排出される。
【0057】
ここで、第2のパターン層30Bの空洞部32j,32kは、真空に保持されているので、第1の反応部32eと第2の反応部32g間の熱伝導を遮断する。また、第4のパターン層30Dの空洞部34cも真空に保持されているので、第2のパターン層30Bの反応部32e,32gと第6のパターン層30Fの第3の反応部36e間の熱伝導を遮断する。また、第8のパターン層30Hの空洞部38cは、冷却媒体が充填されているので、第6のパターン層30Fの第3の反応部36eからの熱を放熱する。
【0058】
(第2の実施の形態の効果)
上述した第2の実施の形態によれば、以下の効果が得られる。
(イ)空洞部32j,32k,34cによって各反応部32e,32g,36e間の熱伝導を遮断するとともに、空洞部38cによって反応部36eからの熱を放熱しているので、精度の高い反応を行うことができ、所望の生成物を得ることができる。
(ロ)複数のパターン層を積層するだけで、3つの反応部と断熱部と放熱部を有する3次元のマイクロリアクタ30を容易に製作することができる。
(ハ)空洞部に封入するガスを選択することによって、断熱、廃熱、発熱、蓄熱等を任意に行うことができる。
【0059】
[第3の実施の形態]
図6は、本発明の第3の実施の形態に係る熱交換器が適用されたIC冷却システムを示す要部断面図である。このIC冷却システムは、複数のピン72を有するIC70のICパッケージ外装71上に設けられた熱交換器60と、その上面に設けられ、熱交換器60からの熱を大気中に放熱するヒートシンク50とを備える。
【0060】
熱交換器60は、例えば、6層で構成される。第1のパターン層60Aは、冷却媒体を溜める冷媒溜りとなる凹部61aを有する。第2乃至第5のパターン層60B〜60Eは、冷却媒体(冷媒)が移動する貫通穴62a〜62d,63a〜63d,64a〜64d,65a〜65dが、上下の貫通穴と一部重複しながら徐々に放射状に拡がる位置に形成されている。第6のパターン層60Fは、熱交換器60の最上部に設けられ、冷媒溜りとなる凹部66a〜66dを有する。なお、凹部61a,66a〜66d、および貫通穴62a〜62d,63a〜63d,64a〜64d,65a〜65dにより密閉空間を形成する。
【0061】
(熱交換器の製造方法)
この熱交換器60は、各パターン層60A〜60Fを厚さ約15μmの金属(例えばCu)を電鋳によって形成し、その後はフロン雰囲気中で接合を行う以外は、第1の実施の形態と同様にパターン層60A〜60Fの接合を行う。この結果、凹部61a,66a〜66d、貫通穴62a〜62d,63a〜63d,64a〜64d,65a〜65dの中に、例えば、フロン(HFC−134a)が封入圧力10Paで封入される。
【0062】
(熱交換器の動作)
このIC冷却システムは、IC70が発生する熱が第1のパターン層60Aに伝達すると、冷媒溜り61a中の冷媒が加熱され、蒸気となって貫通穴62a〜62d,63a〜63d,64a〜64d,65a〜65d中を上昇して冷媒溜り66a〜66dに移動する。冷媒溜り66a〜66dに移動した冷媒は、第6のパターン層60Fに伝熱し、ヒートシンク50から大気中に熱を放散する。このとき、冷媒溜り66a〜66d中の冷媒は、液化して貫通穴62a〜62d,63a〜63d,64a〜64d,65a〜65d中を下降して冷媒溜り61aに移動する。このように冷媒は蒸発と液化を繰り返して密閉空間を還流する。
【0063】
(第3の実施の形態の効果)
上述した第3の実施の形態によれば、以下の効果が得られる。
(イ)複数のパターン層60A〜60Fを気体の冷媒中で積層するだけで、熱交換器を容易に作製することができる。
(ロ)IC70にヒートシンク50を直接付けるのではなく、熱交換器60を介することにより、熱交換器60による熱交換作用により冷却効果が飛躍的に向上する。
(ハ)熱交換器60をマイクロリアクタに使用すれば、より高度の冷却効果が期待できる。
(ニ)冷媒の種類を変えることにより、還流の起こる温度を任意に設定することができるため、これにより所望の温度制御を行うことができる。
【0064】
[第4の実施の形態]
図7は、本発明の第4の実施の形態に係る微小構造体を製作するためのドナー基板を示す。ドナー基板80は、基板81上に形成する離型層82を予めパターン層83よりも少し大きい形状のメサ形状にしてもよい。この構成によれば、パターン層を接合する際に離型層82がパターン層83に接触するのを避けて複雑な微小構造体を作製することが可能となる。また、ターゲット基板上に図2における第1層目となる構造をあらかじめ薄膜プロセスなどで形成し、第2層目となるパターン以降を接合して、積層工程を短縮して構造体を形成することも可能である。
【0065】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲内で種々に変形実施が可能である。例えば、各実施の形態の構成要素を本発明の要旨を変更しない範囲内で任意に組み合わせることは可能である。
【0066】
また、密閉空間を作製する転写工程において真空雰囲気下で接合を行わず、他のガス雰囲気下で行うことにより、密閉空間に他の成分ガスを任意の圧力で封入することが可能である。封入できるガスは、活性化した表面に対して不活性であれば何でもよく、特に希ガスはどの材料に対しても不活性であるため、材料を問わず封入することができる。また、中性原子ビーム源でも使用しているArガスを封入する場合は、中性原子ビーム源をガス流入口として代用することにより、ガス流入口を省略することができる。
【0067】
ターゲット基板およびドナー基板は、ウェハ状でもチップ状でもよく、この2種の基板は、同形状である必要もない。ドナー基板を垂直ステージ側に設けてもよい。
【0068】
上記実施の形態では、ドナー基板側でパターン層の接着力を調整したが、ドナー基板側とターゲット基板側の両方で行ってもよく、ターゲット基板側だけで行ってもよい。また、電鋳条件を制御して密着力が制御されたドナー基板を作製してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るマイクロリアクタを示し、(a)は斜視図、(b)は分解斜視図、(c)は(a)のA−A線断面図である。
【図2】図1に示すマイクロリアクタを構成するパターン層を有するドナー基板を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る接合装置を用いた転写工程を示す模式図であり、(a)はFAB処理工程を示す図、(b)はパターン層の接合工程を示す図、(c)はパターン層の剥離工程を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るマイクロリアクタを示し、(a)は斜視図、(b)は分解斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る接合装置を用いた転写工程を示す模式図であり、(a)はFAB処理工程を示す図、(b)はパターン層の接合工程を示す図、(c)はパターン層の剥離工程を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る熱交換器が適用されたIC冷却システムを示す要部断面図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態に係る微小構造体を製作するためのドナー基板を示し、断面図である。
【図8】従来のマイクロリアクタを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
1 マイクロリアクタ
2a,2b 入口
2c,2d 出口
3a,3b 流路
3c 高温側反応部
3d 低温側反応部
3e 空洞部
3f〜3i 貫通穴部
10ドナー基板
11 基板
12 離型層
13A〜13C パターン層
20 接合装置
21 真空槽
22 排気口
24A,24B FAB源
25 平面ステージ
26 対向ステージ
27 ターゲット基板
28 垂直ステージ
30 マイクロリアクタ
30G〜30I パターン層
31a〜31c 入口
32a,32b,36a,36c 導入穴
32c 貫通穴
32e,32g,36e 反応部
32d,32f,32h,36b,36d,36f 流路
32i,39a,39b 出口
32j,32k,34c,38c 空洞部
33a,33b,34a,34b,35a,35b,36h,36i,37a,37b,
38a,38b 貫通穴
50 ヒートシンク
60 熱交換器
60A〜60F パターン層
61a,66a〜66d 凹部
62a〜62d,63a〜63d,64a〜64d,65a〜65d 貫通穴
70 IC
71 ICパッケージ外装
72 ピン
80 ドナー基板
81 基板
82 離型層
83 パターン層
84 基板
85 離型層
86 パターン層
100 マイクロリアクタ
101 樹脂層
102 入口
103 高温側反応部
104 低温側反応部
105 出口
,L,L 原料液
’,L’,L’ 反応液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部あるいは貫通穴を形成する第1の薄板と、
前記凹部あるいは貫通穴の開口側を閉塞するように前記第1の薄板に接合されることによって真空の密閉空間、あるいは不活性ガスが封入された密閉空間を形成する第2の薄板とを備えたことを特徴とする微小構造体。
【請求項2】
前記不活性ガスは、前記密閉空間を還流する熱交換媒体であることを特徴とする請求項1に記載の微小構造体。
【請求項3】
前記第1および第2の薄板は、常温接合によって接合されたことを特徴とする請求項1に記載の微小構造体。
【請求項4】
複数の薄板を積層して形成されたマイクロリアクタにおいて、
複数の原料液が反応する反応部と、
断熱、熱交換等の機能を有して前記反応部に所定の反応環境を付与する密閉空間とを備えたことを特徴とするマイクロリアクタ。
【請求項5】
前記反応部は、反応温度が異なる複数の反応部であり、
前記密閉空間は、真空に保持され、前記複数の反応部間の熱伝導を遮断する断熱機能を有することを特徴とする請求項4に記載のマイクロリアクタ。
【請求項6】
前記複数の反応部および前記密閉空間は、同一の薄板に形成されたことを特徴とする請求項5に記載のマイクロリアクタ。
【請求項7】
前記複数の反応部は、異なる薄板に設けられ、
前記密閉空間は、前記複数の反応部が設けられた薄板間に位置する薄板に設けられたことを特徴とする請求項5に記載のマイクロリアクタ。
【請求項8】
前記反応部は、前記複数の原料液が発熱反応するものであり、
前記密閉空間は、内部を還流する熱交換媒体が封入され、前記熱交換媒体によって前記反応部からの熱を放熱する熱交換機能を有することを特徴とする請求項4に記載のマイクロリアクタ。
【請求項9】
前記反応部は、前記複数の原料液が吸熱反応するものであり、
前記密閉空間は、内部を還流する熱交換媒体が封入され、前記熱交換媒体によって前記反応部を加熱する熱交換機能を有することを特徴とする請求項4に記載のマイクロリアクタ。
【請求項10】
前記反応部および前記密閉空間は、それぞれ隣接する薄板に設けられたことを特徴とする請求項8又は9に記載のマイクロリアクタ。
【請求項11】
凹部あるいは貫通穴を有する第1の薄板と、
前記凹部あるいは貫通穴の開口側を閉塞するように前記第1の薄板に接合されることによって内部を循環する熱交換媒体が封入された密閉空間を形成する第2の薄板とを備えたことを特徴とする熱交換器。
【請求項12】
薄板形成基板上に凹部あるいは貫通穴を有する第1の薄板と前記凹部あるいは貫通穴の開口側を閉塞することで密閉空間を形成する第2の薄板とを形成し、
真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で前記第1および第2の薄膜を前記薄板形成基板からターゲット基板上に順次転写し接合することにより、真空の前記密閉空間、あるいは不活性ガスが封入された前記密閉空間を有する微小構造体を形成する微小構造体の製造方法。
【請求項13】
前記第1および第2の薄板の形成は、電鋳によって行うことを特徴とする請求項12に記載の微小構造体の製造方法。
【請求項14】
前記第1および第2の薄板の形成は、半導体プロセスを用いて行うことを特徴とする請求項12に記載の微小構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−187685(P2006−187685A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382121(P2004−382121)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成13年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)常温接合を用いた3次元ナノ構造・システム形成技術の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】