説明

微小流路、その製造方法及び用途

【課題】 強度が十分で、有機溶剤等に対して溶解や溶出のない微小流路を提供する。
【解決手段】 第1基体2と、ガラス組成物を焼成してなり、高さが10μm〜1mmで、100μm〜1mmの間隔をあけて第1基体2の上に設けられたリブ3A,3Bと、このリブ3A,3Bの間の上面を塞ぐようにリブ3A,3Bの上に設けられた第2基体4とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物を焼成したリブを備えた微小流路、この微小流路のリブを印刷、焼成により製造する微小流路の製造方法、及び、この微小流路を用いて構成したマイクロリアクターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーと称される技術がファインケミカル分野、バイオケミカル分野等で用いられるようになり、大きな発展を遂げている。マイクロリアクターはマイクロ、ナノスケールで複数の流路(チャンネル)を有する反応装置を一般に総称するが、このマイクロリアクターはスケール則を積極的に活用するものであり、サイズを縮小化することにより反応場(界面)の占める割合を体積当たりの比率に対して大きくすることで、迅速かつ効率の良い反応系を作るものである。
例えば、2種類の液体を同一の微小流路中に流すことで、界面で物質移動が起こることにより反応が生じるが、その際の反応装置としてマイクロリアクターが用いられる。又、マイクロリアクターは化学反応だけでなく、界面での物質移動により2種類以上の液体の混合や分離等にも用いられる。
【0003】
マイクロリアクターを作製する際には基材として、金属、ケイ素、セラミックス又は高分子材料等が用いられている。又、微小流路を作製する微細加工技術としてはX線リソグラフィー法、マイクロエッチング法や、マイクロ放電加工法、レーザー加工法、マイクロサンドブラスト及びマイクロ工具を用いた機械的マイクロ切削加工法などが一般的に知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】桝田雅美、マイクロ加工の現状と展望、精密工学会誌、社団法人精密工学会、発行2002年2月、巻数68、号数2、頁161〜頁166
【0004】
しかしながら、このような微細加工技術には幾つかの問題点が存在している。
例えば、X線リソグラフィー法やマイクロエッチング法などで基材を腐食させて微小流路を形成していく際、流路が深くなるにつれて侵食が横方向にも及ぶことで流路の断面が半球状乃至は台形になるため、設計どおりの流路を形成できないという問題があった。
又、マイクロ放電加工法等に代表される機械的マイクロ切削加工法で基材に流路を切削した場合、切削面の平滑度に限界があった。流路の平滑度に問題があると、設計時の流路と異なる問題や、水などの表面張力の高い液体を流す場合に気泡が除去できないため、切削面の微小なクラック中に残留する酸素に起因する副反応が生じる。
【0005】
一方、マイクロリアクターの基材として高分子材料(樹脂)を用いて射出成型法又は転写成型法によりマイクロリアクター用の微小流路を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−188662号公報
【0006】
上記した特許文献1の微小流路の製造方法では、樹脂の粘度を低下させる目的で二酸化炭素ガス等のガス状物質又は二酸化炭素超臨界流体等の超臨界状態の物質を溶解させた樹脂が用いられている。又、樹脂としてポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等が用いられている。
しかしながら、この微小流路の製造方法では、粘度を低下させるために前述したような特定の物質を樹脂に溶解させる必要があり、又、粘度を低下させた樹脂を用いて射出成型法又は転写成型法により微小流路を形成し、微小流路の体積のバラツキが少なくなるようにしているものの未だ十分ではない。又、樹脂中に含まれている安定剤や界面活性剤の微量成分の溶出も懸念される。
【0007】
他方、マイクロリアクターの基材としてセラミックスを用い、押出成型したもの又はグリーンシートを複数枚積層したものを焼結する櫛歯状の微細流路を備えたセラミックス焼結体の製造方法も知られている(例えば、特許文献2参照。)。ここで、使用されているセラミックス原料はβ分率、酸素量、平均粒径、結晶形等が限定された特定の窒化ケイ素質粉末である。
【特許文献2】特開2004−202813号公報
【0008】
しかしながら、上記した特許文献2の微小(微細)流路の製造方法では、焼結温度が、予備焼成時1650℃〜1850℃で、焼結時1850℃〜1900℃と高いものである。従って、基材としての有機高分子材料上にリブを形成することを想定すると、この焼成温度領域ではその殆どの有機高分子材料が不活性脱酸素ガス雰囲気であっても熱分解を起こす範囲であり、この方法は適用できない。更に、セラミックス製であることから耐熱衝撃性等に対して考慮されているものの未だ十分ではない。又、金属等の基材でも線膨張係数の差異から焼成終了後の冷却に伴い、金属−セラミックス界面での接着強度が著しく低下又は剥離が起こることは容易に推定される。
【0009】
又、ガラスの表面にリブに該当する部分だけを残し、溝部に該当する部分を全面的に切削してリブを作る方法は、プラズマディスプレイパネル等の製造方法として良く知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献3】特開平6−314542号公報
【0010】
上記した特許文献3の微小流路の製造方法では、切削部位の面積が大きいため、資源有効利用の見地からもエネルギーの見地からも環境負荷が大きい。又、この微小流路の製造方法で作られた基材をマイクロリアクターとして用いる場合には、切削が微粒のアルミナやダイヤモンド等を用いたサンドブラスト法によるため、上記の場合と同様に平滑度が問題となっている。この平滑度を是正するにはエッチングによる方法が有効であるが、フッ化水素等を使用する必要があり、更に、環境負荷が大きくなると同時に上記マイクロエッチング法等と同様の問題点が内在する。
【0011】
又、マイクロリアクターとして生体との反応や相互作用を把握する実験を行う際には、界面の影響が拡大されるため、ガラスに使われた鉛の影響が大きく拡大することが類推される。従って、鉛を含んでいないか、もしくは鉛含有率が低いガラス組成物を用いたものの提案が望まれている。
又、セラミックスや樹脂を使用したマイクロリアクターの場合、光学反応、特に紫外部の光を透過しないため、これを扱った反応ができないという問題もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、強度が十分で、有機溶剤等に対して溶解や溶出のない微小流路を提供すること、又、その微小流路を容易に製造することができる微小流路の製造方法を提供すること、更に、その微小流路を用いた反応等に悪影響を与えないマイクロリアクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下のような発明である。
(1)第1基体と、この第1基体と対向する第2基体と、ガラス組成物を焼成してなり、高さが10μm〜1mmで、100μm〜1mmの間隔をあけて前記第1基体と前記第2基体との間に設けられたリブとを備える微小流路。
(2)(1)に記載の微小流路の製造方法であって、ガラス組成物を含むペーストを用いた印刷により第1基体の上に前記ペーストを塗布して前記リブを形成する塗布工程と、前記第1基体に形成されたリブを乾燥させる乾燥工程と、乾燥した前記リブを焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする。
(3)(1)に記載の微小流路を用いて構成したことを特徴とするマイクロリアクター。
【発明の効果】
【0014】
本発明の微小流路によれば、第1基体と、この第1基体と対向する第2基体と、軟化点が300℃〜600℃のガラス組成物を焼成してなり、高さが100μm〜1mmで、100μm〜1mmの間隔をあけて前記第1基体と前記第2基体との間に設けられたリブとからなるので、第1基体あるいは第2基体として、リブを構成する材質とは異なる材料を使用することが可能となり、又、リブが強度的にも優れ、更にリブがガラスであることから有機溶剤に溶解せず、溶出するものがない。
なお、ガラス組成物を無鉛にすることにより、マイクロリアクターに適用した場合、生体との反応や相互作用を把握する上で、界面が鉛により影響されることがなく、マイクロリアクターとして最適である。
さらに、第1基体及び第2基体を平板にすることにより、切削加工した時に見られるバリ等の流路の障害となるものは少なく、流路は平滑であるため、安全に生成反応を促すことができる。
さらに、ガラス組成物の線膨張係数を75×10-7/℃以上にすることにより、リブにクラックが入ったり、リブが割れたりする可能性が低くなる。
さらに、リブが接続される第1基体及び第2基体に、リブとの親和性を持たせることにより、リブを構成するガラス組成物の線膨張係数は基体のそれと等しい程、リブの焼成工程、特に降温工程における剥離や破断等の現象が少なくなる。
さらに、第1基体及び第2基体のリブとの親和性は、リブとの接触角を100°以下にすることにより、ぬれ特性を改善できる。
次に、本発明の微小流路の製造方法によれば、ガラス組成物を含むペーストを用いた印刷により第1基体の上に前記ペーストを塗布して前記リブを形成する塗布工程と、前記第1基体に形成されたリブを乾燥させる乾燥工程と、乾燥した前記リブを焼成する焼成工程とを含むので、製造が容易であり、設計どおりの微小流路を容易に製造できる。
なお、塗布工程と乾燥工程とを複数回行うことにより、リブの高さを容易に調整することができ、設計どおりの微小流路を製造できる。
次に、本発明のマイクロリアクターによれば、上述した微小流路を用いて構成したので、有機溶剤に溶解せず、溶出する成分がなく、設計どおりの微小流路となり、平滑度にも優れ、又、光学反応等に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明の微小流路は、第1基体と、軟化点が300℃〜1400℃のガラス組成物を焼成してなり、高さが10μm〜1mmで、100μm〜1mmの間隔をあけて前記第1基体の上に設けられたリブと、このリブの間の上面を塞ぐように設けられた第2基体とを備えるものである。
【0017】
図1は本発明の微小流路の一例を示す外観斜視図、図2は図1に示した微小流路の分解斜視図である。
図1又は図2において、1は微小流路を示し、軟化点が1400℃以上の第1基体2と、この第1基体2上に設けられた、軟化点が300℃〜1400℃、好ましくは300℃〜600℃のガラス組成物を300℃〜1400℃、好ましくは300℃〜600℃の焼成温度で焼成したリブ3A,3Bと、このリブ3A,3B上面に配置された軟化点が1400℃以上の第2基体4とで構成されている。ここで、微小流路1の形状としては、例えば、幅(リブ3A,3Bの間隔)が100μm〜1mmで、高さ(リブ3A,3Bの高さ)が10μm〜1mm程度の空間からなるものである。
尚、リブ3A,3Bの幅は、1mmである。
【0018】
本発明の微小流路の底部に用いられる第1基体及び上部に用いられる第2基体を構成する材料(以下、平面材料ともいう。)は、リブを構成する低融点のガラス組成物と(リブ)親和性がある材料である。
親和性は、低融点のガラス組成物(以下、ガラス組成物という。)との接触角で把握されるが、溶融したガラス組成物と平面材料との接触角が100°以下、好ましくは0°〜45°であるならば良好な親和性を示す。
【0019】
この様な材料として、例えば、ガラス、石英、シリカ、Si/SiO2、マグネシア、ジルコニア、アルミナ、アパタイト、窒化ケイ素、及びチタン、アルミニウム、イットリウム、タングステンのような金属の酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、ケイ化物などのセラミックスを挙げることができる。この他、上記の要件(親和性)を満たすものである限り、金属、プラスチックなども用いることができる。この第1基体及び第2基体の形状としては、板状体が普通であるが、弧状体、球体、粒体などであってもよい。
【0020】
次に、第1基体上のリブに用いられるガラス組成物に必要な特性は、微粉化した材料が第1基材及び第2基材よりも軟化点が低いことに加えて、線熱膨張係数が75×10-7〜60×10-6、好ましくは75×10-7〜20×10-6であること、耐水性、耐アルカリに優れていること、鉛をガラス成分として含有しないことが好ましい。
ここで、軟化点の測定方法としてはJIS−R3104を採用した。
【0021】
前述の特性を満たすガラス組成物の成分としては、(1)ZnO−SiO2−B23系、(2)Bi23−SiO2−B23系、(3)Bi23−SiO2−B23−ZnO系、(4)BaO−SiO2−B23系、(5)V25−SiO2−B23系を挙げることができる。
そして、(1)〜(5)の成分系の好ましい組成範囲について、以下に例示する。
(1)ZnO−SiO2−B23系では、ZnO:15重量%〜60重量%、SiO2:5重量%〜55重量%、B23:5重量%〜35重量%を必須成分として含むもの。
(2)Bi23−SiO2−B23系では、Bi23:55重量%〜75重量%、SiO2:10重量%〜25重量%、B23:5重量%〜20重量%を必須成分として含むもの。
(3)Bi23−SiO2−B23−ZnO系では、Bi23:55重量%〜80重量%、SiO2:2重量%〜25重量%、B23:5重量%〜20重量%、ZnO系:5重量%〜20重量%を必須成分として含むもの。
(4)BaO−SiO2−B23系では、BaO:10重量%〜30重量%、SiO2:15重量%〜40重量%、B23:15重量%〜30重量%を必須成分として含むもの。
(5)V25−SiO2−B23系では、V25:1重量%〜20重量%、SiO2:30重量%〜55重量%、B23:15重量%〜25重量%を必須成分として含むもの。
【0022】
そして、鉛を含む場合、600℃以下の軟化点を有するガラスの組成は、PbO−SiO2−B23、PbO−SiO2−SnF2などに代表されるが、特にこの組成に拘わるものではない。
これらの組成において、ZnO、Bi23、BaO、V25成分は、従来の鉛含有ガラスに代替できる鉛不含(無鉛)ガラスの中核をなすものである。これらの成分が少なすぎると、得られるガラス組成物は軟化点が高くなりすぎ、しかも耐電圧が低下する欠点がある。又、多すぎると、耐薬品性が低下する。
【0023】
23成分は、ガラスの軟化点及び誘電率を適度に低下させる働きがある。この成分が少なすぎると、軟化点が高くなりすぎる。又、多すぎる場合は、耐薬品性が低下する不利がある。
SiO2成分は、ガラスの骨格となる成分であり、この成分が少なすぎる場合は、ガラス化が困難となるか、ガラス化できても得られるガラスは耐薬品性、耐電圧、透明性の乏しいものとなる。又、多すぎると、軟化点が600℃以下のガラス組成物を得ることは困難である。
【0024】
尚、本発明に用いるガラス組成物は、上記各ガラス成分の所定量以外に、更に必要に応じて、他のガラス成分を含有することもできる。この必要に応じて添加配合できるガラス成分及びその配合量は、得られるガラスの特性に悪影響を与えないもの及び範囲から適宜選択できる。このガラス成分の具体例としては、例えば、SnO、SnO2、WO3、MoO3、Al23、Tl23、La23、ZrO2等を例示することができる。これらは1種又は2種以上用いることができ、その添加配合量は、いずれも3重量%以内であるのが望ましい。これらの配合は接着強度や融着温度、耐薬品性の微調整に役立つ場合がある。
【0025】
次に、本発明の微小流路の製造方法について説明する。
本発明の微小流路の製造方法は、特定のガラス組成物からなるリブを第1基体上に印刷し、焼成して固化させる。
まず、リブの形成に当たって、ガラス組成物を粉末化する。この粉末化は常法に従うことができる。
例えば、ガラス粉末は、前述の成分組成となるように各原料化合物を混合し、得られる混合バッチを約1150℃〜1250℃で溶融し、融液状ガラスを水冷ロールに挟んで冷却してフレーク状ガラスとする。このガラスフレークをボールミル等の適当な粉砕機を用いて、湿式又は乾式粉砕することにより調製する。尚、湿式粉砕を水中で行う場合は、水分を濾去して得られるケーキ状物を低温で真空乾燥するのが特に望ましい。
このようにして得られるガラス組成物の粉末は、特に制限されるわけではないが、通常約0.1μm〜30μmの範囲の粒度を有しているのが望ましい。かかる粒度は公知の慣用されている方法に従って容易に調整することができる。又、上記方法に従って得られる粉末粒子は、更に必要に応じて分級して、上記範囲内の適当な粒度、より好ましくは約0.5μm〜10μmの範囲の粒度に調整することができる。
【0026】
リブを形成するガラス組成物は、通常、上述したガラス粉末を有機ヴィヒクルと混合して適当なペースト状形態に調整して使用する。ここで、用いる有機ヴィヒクルとしては、一般にこの種ガラスペーストに利用されている各種のもののいずれでもよく、これらは通常樹脂の溶剤溶液からなっている。
この有機ヴィヒクルの成分は、リブの焼成温度以下、通常600℃以下で熱分解するものであることが好ましい。該当樹脂としては、セルロース系樹脂及びアクリル系樹脂が好ましいものとして例示できる。このセルロース系樹脂には、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース等が含まれ、アクリル系樹脂には、例えば、ポリブチルアクリレート、ポリイソブチルメタクリレート等が含まれる。上記樹脂は、一般には調整されるガラスペースト組成物中にその1種を単独で又は2種以上を併用して、合計量が0.5重量%〜20重量%程度の範囲で配合するのがよい。又、このガラスペーストには、更に必要に応じて、公知の添加剤、例えば、沈澱防止剤、分散剤、平面材料(第1基体及び第2基体)との接着性向上剤等を適宜配合させることができる。
【0027】
上記樹脂の溶剤溶液を構成する溶剤も通常知られている各種のものでよく、特に限定されない。通常、樹脂の溶解性に優れ、粘稠性のオイルを形成し得るものが好ましい。これには中沸点及び高沸点のエステル系溶剤、エーテル系溶剤、石油系溶剤等が含まれる。具体的には、例えば、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤、ブチルカルビトール等のエーテル系溶剤、ナフサ、ミネラルターペン等の石油系溶剤等が例示できる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0028】
上記ガラスペーストの調製とこれを用いたガラスのリブの形成方法について詳述すると、まず、上記樹脂を比較的高沸点の溶剤に溶解したオイル中に、所定量のガラス組成物を、3本ロール、ボールミル、サンドミル等の分散機で分散させて、スラリー状乃至ペースト状物(ガラスペーストという。)を調製し、次いで、このガラスペーストを孔版印刷、例えば、ドクターブレード法、ロールコート法、スクリーン印刷法、テーブルコーター、リバースコーター、スプレー法等の各種方法に従い、第1基体上に印刷、塗布する。
【0029】
現状で精度との費用対効果に優れている塗布方法であり、孔版印刷であるスクリーン印刷を用いた方法に関して詳述すると、第1基体とスクリーンを固定した版上でスキージーを動かし、スクリーンから押出したガラスペーストを第1基体上に塗布、印刷する。その際にスキージーは手動又は自動で動かす印刷方法のどちらでも問題はない。又、連続して作製する際に用いられるスクリーンが回転して第1基体にペーストを印刷、塗布する方式でも問題はない。
スクリーンは金属製、プラスチック製、布製等が例示でき、その製造方法も繊維や細線を編み上げたもの、又は機械加工やレーザー照射による方法や化学的エッチングなどにより平板を加工したものがあるが、上記ガラスペーストが溶解しないならば特に拘わらない。又、このスクリーン上に形成されているペースト透過用の孔の形状は正方形、円形、六角形等があり、孔の大きさは60/inchメッシュ〜600/inchメッシュのものでよく、スクリーン表面にガラスペーストの塗れ性を改善するために物理的化学的表面処理がしてあると更に望ましい。
【0030】
スクリーンに印刷するパターンを作製する場合、平板に機械加工やレーザー照射や化学的エッチング等を施してメッシュを作製する方法や、予めスクリーンを作っておいてパターンを作製する際、スクリーンにフォトマスクやフォトエッチングを施す方法があるが、何れを用いてもよい。
適量のガラスペーストをスキージーでスクリーンに押しつけ、スクリーンの孔からガラスペーストを押し出すことでペーストを第1基体上に印刷、塗布する。
【0031】
第1基体への印刷による塗布量がリブの厚さを制御する。
従って、乾燥や焼成後体積変化が生じるため、リブの高さは、塗布量であるギャップ長と呼ばれるスクリーンと第1基体との間の距離と、スクリーンの厚さとの和に、ガラス組成毎の係数を掛けた数値として把握される。
スクリーンと第1基体との間の距離は0mm〜10mmの範囲が一般的であり、好ましくは0mm〜5mm以下である。10mmを越えると、この様なガラスペースト組成の場合にはペーストの表面張力と粘度の関係などにより乾燥中に形状が崩れやすくなり、垂直なリブを作ることが難しくなる。
この様な場合には、印刷と乾燥を交互に繰り返すことでリブの高さを高くすることも可能である。即ち、リブの高さも調整することができる。
【0032】
又、スクリーンと第1基体との距離を0(ゼロ)とし、スクリーンを第1基体に接触させることで第1基体に押し出されるガラスペーストの量は最少になる。この際のガラスペーストの量はスクリーン中に存在するものだけになり、リブの高さはスクリーンの厚さにすべて依存することになる。
リブの高さを制御する目的で、印刷と乾燥を交互に繰り返すことは、第1基体に限定するものではない。第1基体の上面と第2基体の下面とに印刷と乾燥を行い、後述の焼成工程でガラス成分を熔融させてリブ同士を接着することも可能である。
【0033】
ガラスペーストに樹脂の溶剤が入っている場合、印刷塗布後に樹脂の溶剤の気散が必要な場合に乾燥を行う。その際の温度は、高すぎると、溶剤の気散速度が速く、リブ内での気泡の成長や表面の平滑度を崩してしまう可能性があり、低すぎると、ペーストの粘度低下に伴う印刷精度の低下等があるため、その温度範囲は常温から溶剤の沸点よりも10℃低い温度以下まで、好ましくは沸点よりも25℃低い温度以下の範囲である。
乾燥雰囲気は通常の空気状態で問題は無いが着色や副反応防止の観点から脱酸素や脱水蒸気を行うと更に好ましい。又、産業安全の見地から爆発限界の回避や作業者保護のため、雰囲気を積極的に交換することが望ましく、乾燥効率も向上する。
【0034】
焼成は一般的な炉中で行うが、熱源は電気、ガス等特に拘わらず、均一性保持の観点から熱容量が大きいものが望ましい。又、乾燥の工程と同等な観点から焼成雰囲気が選択可能であり、雰囲気を積極的に交換できると更に望ましい。
焼成の際の温度はガラスペーストの軟化温度(300℃〜1400℃)まで温度を上げることでガラス成分を溶融させ、リブとして上下の第1基体、第2基体と接着させる。その際の温度上昇パターンは、一定昇温速度で軟化温度まで到達させてもよいが、更に好ましいのは適当なペースト状形態に調整する目的で有機ヴィヒクルを混合している場合にはそのヴィヒクルの熱分解終了温度よりも25℃程度高い温度で一定時間保持して分解を進めた後にガラス成分の溶融に入る方法である。
ヴィヒクルは熱分解に伴ってガス化して大気中に気散するため、ヴィヒクルの分解ガス化の途中でガラスの溶融が始まってしまうと、ヴィヒクル成分のガス化したものの気散経路が無くなるため、リブが濁ったり、リブにクラックが発生する原因となる。ヴィヒクル成分の分解温度は、セルロース系樹脂の場合で150℃〜200℃の範囲、アクリル系樹脂の場合で120℃〜220℃の範囲である。
保持時間は15分〜120分の範囲であり、好ましくは30分〜90分の範囲である。120分以上行っても、効果にそれ以上の改善は見られない。
又、ガラス成分は酸化物のためヴィヒクル成分の分解の主要因である酸化反応を積極的に誘起させ、分解温度において酸化物を一定量ガラスペースト中に混合すると更にリブ単体の強度及び接着強度や透明度に関して好ましい結果が得られる。その混合割合は1重量%〜10重量%の範囲、更に好ましくは3重量%〜10重量%の範囲であるが、10重量%を上回った場合には産業安全上の問題や設備の酸化による腐食等の問題が顕著になる。
【0035】
ガラスペーストの溶融温度やヴィヒクル成分の分解挙動を測定する測定法は各種あるが、簡便であり、ガラスの溶融温度とヴィヒクル成分の分解挙動を同時に測定できる方法としては熱分析方法の示差熱熱重量同時測定方式(TG/DTA)が望ましい。分解挙動ならば示差走査熱量測定方式(DSC)もあるが、ガス放出に伴う密閉セルの破裂や測定系の汚染などの問題がある。熱機械分析方式(TMA)は溶融に伴う力学物性挙動等の追跡に適しているが、分解挙動は全く測定できず、通常、固体試料を測定するためガラスペーストの様な粉体試料には対応できない。又、一度焼成固化させた試料は熱機械分析方式(TMA)での測定は可能であるが、相変化している可能性があり、焼成前の挙動を完全に把握できるかについては問題が残る。
【0036】
上部の第2基体は焼成の前に設置して昇温してもよいが、ヴィヒクル成分の分解に伴うガス放出はその表面積の比率から大半が上面で行われるので、ヴィヒクル成分の分解後に上部の第2基体を設置するのがリブ単体の強度及び接着強度や透明度に関して更に望ましい。
焼成は軟化温度で60分〜360分、好ましくは90分〜180分の範囲で行う。360分以上行っても効果にそれ以上の改善は見られない。
焼成終了後の常温までの冷却は4時間程度かけて放冷することが望ましく、更にガラスペーストも複数の成分の混合物であるため、各々が固化するための温度に温度差があり、それぞれの成分の固化に伴う結晶の析出でその結晶を大きく成長させるため、複数の温度維持状態を作って段階的に温度を下げることはリブ本体の強度や接着強度の観点から望ましい。
又、水や油等の冷媒に浸漬して急冷すると、リブにクラックが入ったり、リブが割れたりする可能性が高い。特に第1基体、第2基体が金属等に代表される様なものと、リブになるガラス組成物との線膨張係数が大きく異なる場合には更にその可能性が大きくなる。
【0037】
段階的に温度を下げる場合の一定保持温度の決定はガラスペースト試料の示差走査熱量測定方式(DSC)による降温測定が望ましい。一度焼成したガラスを粉砕して微粒化したものを試料として装置内で600℃以上に昇温した後、降温に伴う発吸熱挙動から固化温度が決定される。この固化温度よりも20℃〜0℃低い温度、好ましくは10℃〜5℃低い温度がよい。20℃以上となった場合には殆ど強度の向上等の効果に改善は認められない。保持時間は30分〜120分程度、好ましくは45分〜90分程度がよく、120分以上行っても効果にそれ以上の改善は認められない。
この様にしてガラスのリブを有する微小流路がガラスペーストの印刷及び焼成により作られる。
【0038】
次に、リブを有する微小流路の用途の一例であるマイクロリアクターについて詳述する。
【0039】
図3は本発明のマイクロリアクターの一例を示す外観斜視図、図4は図3に示したマイクロリアクターの分解斜視図、図5は本発明のマイクロリアクターの他の例を示す外観斜視図、図6は図5に示したマイクロリアクターの分解斜視図であり、図1及び図2と同一又は相当部分に同一符号を付してある。
これらの図において、5はマイクロリアクターを示し、第1基体2と、この第1基体2上に設けられたリブ3A,3B,3C,3X,3Y,3Zと、このリブ3A,3B,3C,3X,3Y,3Z上面に配置された第2基体4と、この第2基体4に取り付けられ、微小流路1内へ反応液や溶剤等を投入したり、微小流路1から混合物等を取り出すためのアセンブリ6A,6B,6Cとで構成されている。尚、リブ3Xは微小流路1を構成するリブ3A,3Bの端部を円弧状に連結し、リブ3Yは微小流路1を構成するリブ3B,3Cの端部を円弧状に連結し、リブ3Zは微小流路1を構成するリブ3C,3Aの端部を円弧状に連結している。
【0040】
マイクロリアクターは、界面で起こる液液、気液反応や混合、抽出、相分離等の単位操作において全体の体積を縮小することで、界面の占める割合を増大させ、効率の良い反応や単位操作を行うもので、反応基質や生成物の種類等は特に制限されない。
又、体積に占める表面積が極めて大きいことは温度分布が極めて均一になりやすく、混合や反応に伴う局所加熱の防止に大きく寄与する。
【0041】
例えば、前述しようにガラスペーストから作られるリブをY字状に第1基体であるガラス板表面上に作り、微小流路を備えたマイクロリアクターとした場合、2方向から異なる種類の物質又は溶液を流し、合流が起こることで反応や混合がマイクロ空間で行われる。その際の反応形態は、例えば、アルコールからアルデヒドやケトンへの酸化やオレフィンのエポキシ化に代表される酸化反応や、アルデヒドやケトンからのアルコールへの還元に代表される還元反応、C−アルキル化やホルミル化に代表される結合の生成やエポキシドの開裂や脱ホルミル、カルボキシルに代表される結合の切断反応やエピ化やシグマトロピー転移や水酸基からハロゲン基の転換に代表される官能基変換反応等があるが、反応の進行に伴い固体が析出したり、粘度が上昇しなければ、反応形態としては制限されない。
【0042】
又、図3及び図4に示すように、微小流路の出口側をY字状にすることによって、入口側の一方向から反応終了後の混合物である未精製溶液を流し、他の一方向から抽出溶媒を流すことで、合流した後の界面にて抽出が起こることで精製が可能となる。流す反応液としては相互に混合しない溶液の組み合わせが望ましく、例えば、水−ベンゼン、トルエン、キシレンや水−ジクロロメタン、四塩化炭素や水−酢酸エチル、酢酸メチルや水−ヘキサン、ヘプタンなどの組み合わせが好ましい。この何れかを反応液として抽出される物質は他方に可溶な成分を含んだ反応液が望ましい。
【0043】
例えば、酸クロライドや酸ブロマイドを用いてアルコールとのエステル化をベンゼン中で行う際に副生する塩酸ガスや脱塩酸剤としてアミンを用いて固定化された塩酸塩が水に可溶であるため好ましい。
これを入口の片方から流し、もう片方から水を流しこむことで界面において抽出が起こり、水中に取り込まれる。
又、逆に有機成分が含まれている水溶液と上記の有機性の抽出液を組み合わせることにより、有機層中に水溶液の有機成分を取り込むことが可能である。
単位操作終了後に水と有機溶媒の分離は反対側のY字部分で行われる。
又、Y字部分の真ん中に1つ流路を設けて3方向分離とすると、中間に界面の混合部が流れ込む、その際に中央の流路は他の流路に比べて断面積を1/3以下にすることが好ましく、更に好ましくは断面積を1/6〜1/4にする。これ以上大きくなると、流路の混合部以外の水又は有機溶媒の部分も流入してしまう。
【0044】
このようにY字状のマイクロリアクターは、前述の微小流路の製造方法と同様な製造方法により製造することができる。
尚、反応に使われる基質としては、フッ化水素や強アルカリに代表されるガラスを侵す組成以外であれば、特に限定されない。又、流体の移動に関しては、入口側を加圧又は出口側を減圧する方法、流路上に圧電素子を埋め込み振動させる方法などがある。
又、リブの作製中にリブを焼成するとき、リブに電極を差し込む方法やリブを2回に分けて作製し、最初のリブ作製後に電極をリブ上面に配置した後、再度リブを印刷、焼成する方法でリブ内に電極を埋め込み、電気浸透流を発生させることも可能である。又、この電極を用いて電気泳動流を駆動源とすることも可能である。
【0045】
これらの構成を複数組み合わせることで多段階の反応や単位操作を連続して行うことも可能である。又、反応液の一部を回収して、再度入口に戻す流路を作成することで、効率の良い反応を行うことも可能である。
又、第1基体及び第2基体としてガラスや透明のプラスチック等の他、更に第1基体を石英にすることで幅広い物性測定をすることができる。この光学特性に優れたものを平面材料として用いることで、光を透過させて各種の物性の測定を行うこともできる。
測定に用いられる波長帯は平面材料の光学特性によるものであり、紫外線や赤外線やレーザー光線などが用いられる。又、印刷、焼成により作製されたリブ側を同様に用いることも可能であり、その際にも上記の光を用いることが可能である。
【0046】
又、前述の電気浸透流や電気泳動流を用いるために電極をリブに埋め込むのと同様にリブに光ファイバーを埋め込むことも可能であり、これを光の光源と検出器への導入系とすることで光源や検出器とこの流路が離れていても分析が可能である。
使われる光ファイバーは、その太さがリブの高さ及び幅以下、焼成温度以上の融点を有しているならば、その形状や寸法、そして断面構造などは特に限定されない。
尚、図5及び図6に示す本発明のマイクロリアクターは、図3のY字形と比べて微小流路を長くすることで接触時間を長くするようにした例である。そして、微小流路を長くする方法はこの例に限定されるものではない。このマイクロリアクターも前述の微小流路の製造方法と同様な方法で製造することができる。
【実施例】
【0047】
[微小流路の製造]
(実施例1)
表1に示すガラス組成物を用い、常法に従って、5μm程度に粉末化した。
次いで、そのガラス組成物を有機ヴィヒクル成分と重量比1:1で混合し、自転・公転方式ミキサーで10分間攪拌しながら脱気も行い、均一に混合した。尚、このときに使用した有機ヴィヒクルはエチルセルロース粉末をブチルカルビトールアセテートに重量比で8:2に分散させたものである。
前述した混合後のガラスペーストは均一に白濁しており、その粘度をB型回転粘度計で測定したところ約800poiseであった。
表1に記載のガラス組成物の線膨張係数はASTMD696測定法により、又、軟化点はJIS−R3104測定法により求めたものである。
【0048】
次いで、通常の顕微鏡用に使用するソーダガラス板上にスクリーン印刷法を用いて前述のガラスペーストを印刷、塗布した。
その際、用いたスクリーンは50cm×30cmの中空アルミのスクリーン枠に保持されたポリエステル製の200メッシュ平行張りパターンで厚さ50μmのものを、焼付け角度45度に張って作成したものである。その後、目的のパターンをスクリーン上にジアゾ系感光剤により描画し、膜厚10μmで作製した。
又、印刷、塗布条件は、ソーダガラス板面に対して垂直(90°)としたとき、スキージの角度を70°、スキージ速度を150mm/秒、印刷圧を1.5kg/cm、スクリーン間隔を2mmの条件とした。尚、使用したスキージは硬度(ゴム硬度)70ショアで、厚さ9mmのポリウレタンゴムを、スクリーン印刷専用のアルミで作製した枠に固定したものである。
【0049】
印刷終了後に120℃で30分間高温槽(日陶科学(株)製高温槽NHK−170型)で乾燥を行った。その後、目的のリブ高さに応じて同じパターンで何回か重ね刷りを行った。今回のガラスペースト組成では印刷後と焼成後とでリブの高さが5割縮み、1回刷りでリブの高さは分解能1μmのマイクロゲージで測定した結果、約20μmであった。
従って、目的のリブとするために上側の第2基体にもリブを同様に印刷して乾燥させた。その後、下側の第1基体のリブ上に再度印刷を繰り返した後、前述の第2基体と張り合わせて焼成を行った。
【0050】
焼成条件は次のとおりである。
まず、120℃で30分高温槽で乾燥を行い、次いで400℃まで1分1℃の割合で昇温し、400℃で40分焼成を行った。次に、500℃まで同様に1分1℃の割合で昇温し、500℃で20分焼成を行った。次に、560℃まで同様に1分1℃の割合で昇温し、560℃で10分焼成を行った。その後、130℃/時間の降下速度で冷却して常温まで戻した。
得られた微小流路は、幅3mmでリブの高さが100μmである図1に示されるような微小流路である。
【0051】
(実施例2)〜(実施例5)
リブとして表1に記載の実施例2〜実施例5のガラス組成物を用いて、実施例1に準じてそれぞれの微小流路を製造した。
【0052】
【表1】

【0053】
[微小流路を用いたマイクロリアクター]
(実施例6)
実施例1と同様な方法で製造した幅3mm、高さ100μmで反応部長さ75mmのY字型微小流路を有するマイクロリアクターの片側よりアクリル酸クロライド0.91g(0.10mol)を塩化メチレンに希釈して全体を200mlとした溶液を、他の片側よりアリルアルコール0.54g(0.95mol)とトリエチルアミン11.2g(0.11mol)を塩化メチレンに希釈して全体を200mlとした溶液を同じ速度でマイクロリアクター内にポンプで流し込んだ。
マイクロリアクター内への送液速度は各々4ml/分として送液が50分で完結するものとし、反対側より排出される反応液をビーカーに回収した。マイクロリアクターは室温中(20℃)に置かれ、除熱等の処置は不要であった。
反応後の溶液をJIS K8001の5.1(2)項に記載の液体試料の外観に規定される比色液と対比した結果、その着色は10番(無色)相当であった。
【0054】
(比較例1)
500mlの3口フラスコに温度計、撹拌装置(撹拌シール付き)、等圧滴下ロートを取り付け、3口フラスコ内にはアクリル酸クロライド0.91g(0.10mol)を塩化メチレンに希釈して全体を200mlとしたものを予め仕込み、等圧滴下ロートにはアリルアルコール0.54g(0.95mol)とトリエチルアミン11.2g(0.11mol)を塩化メチレンに希釈して全体を200mlとした溶液を仕込んだ。
アリルアルコール及びトリエチルアミンの塩化メチレン溶液が実施例6と同等に50分で完結する様に滴下した。
3口フラスコを室温に保持した場合には反応及び希釈熱により昇温が起こり、溶媒の沸騰(約40℃)が確認された。反応液を20℃に保つには氷浴による冷却が必要であった。
又、氷浴した場合でも比較例1の反応後の溶液をJIS K8001の5.1(2)項に記載の液体試料の外観に規定される比色液と対比した結果、その着色は500番(赤みの黄色)相当であった。
【0055】
以上の様に微小流路を利用したマイクロリアクター(実施例6)を用いることでバッチ式の反応系(比較例1)に比較して除熱が効率よく行われるため、副生成物の少ない反応が可能であることを確認した。これは微少でも副反応の生成物が透明度などに大きく影響を与えることが懸念されるレンズ材料や有機系光ファイバー材料などの光学材料には極めて有利であることを示している。
【0056】
(実施例7)
実施例1と同様な方法で製造した幅3mm、高さ100μmで反応部長さ75mmのY字型マイクロリアクターの片側より、
【0057】
【化1】

【0058】
で表される4−メトキシ−2−キノロン0.306g(0.00175mol)をメタノールに希釈して全体量を150mlとしたものを、他の片側よりアクリル酸メチル3.01g(0.035mol)をメタノールに希釈して全体量を150mlとしたものを同じ速度でマイクロリアクター内にポンプで流し込んだ。マイクロリアクター内への送液速度は各々5ml/分として送液が30分で全てが反対側より排出される反応液をビーカーに回収した。マイクロリアクターは室温中(20℃)におかれ、除熱等の処置は不要であった。
反応部に高圧水銀ランプ(出力400W)で光を照射することにより、マイクロリアクターから排出された反応液中の[化1]の化合物のピークの消失がHPLCにより確認された。
溶媒を留去濃縮し、残さをメタノールで再結晶させ、下記[化2]のエキソ付加体304mgを得た。
【0059】
【化2】

【0060】
又、母液を展開液ジクロロメタン:メタノール(10:1)のシリカゲル分取薄層クロマトグラフィーで精製し、エキソ、エンド付加体の等量混合物を92mg得た。
エキソ付加体はm.p.227−229℃(DTA 10℃/分 N2フロー)でプロトンNMRのスペクトル帰属はδ1.99(1H,dt,J=11.0Hz,8.0Hz)、2.28(1H,dt,J=11.0Hz,3.5Hz)、3.38(1H,dd,J=8.0Hz,3.5Hz)、3.61(1H,dt,J=11.0Hz,8.0Hz)、2.95(3H,s)、3.81(3H,s)であった。
【0061】
(比較例2)
室温下で300mlの3口フラスコにガスの導入部及びラジエータ付き排出部及び実施例7と同じ高圧水銀ランプを取り付け、[化1]で表される4−メトキシ−2−キノロン0.306g(0.00175mol)とアクリル酸メチル3.01g(0.035mol)をメタノールに希釈して全体量を300mlとしたものを仕込んだ。
窒素導入下、マグネチックスターラーで撹拌しながら高圧水銀ランプを内部より照射し、1時間後に[化1]のピークの消失がHPLCにより確認された。
溶媒を留去濃縮し、残さをメタノールで再結晶させ、[化2]のエキソ付加体272mgを得た。又、母液を展開液ジクロロメタン:メタノール(10:1)のシリカゲル分取薄層クロマトグラフィーで精製し、エキソ、エンド付加体の等量混合物を86mg得た。
【0062】
以上の様に特定のガラス組成物で作製された微小流路を利用したマイクロリアクター(実施例7)を光反応に用いることでバッチ式の反応系(比較例2)に比較して効率よく光エネルギーが反応基質に照射されるため、効率の良い反応が可能となる。又、混合が完全に行われるためにアクリル酸メチルのホモポリマーが副成しないため、収率自体も向上することが明らかである。これは反応性の高いビニル系モノマーなどを重合させずに付加反応等に使用する際には極めて有利である。
【0063】
(実施例8)
実施例1と同様な方法で製造した幅3mm、高さ100μmで反応部長さ75mmのY字型マイクロリアクターの片側より、
【0064】
【化3】

【0065】
で表される2,2−ジメチル−4H−1,3ジオキシン−4−オン0.256g(0.002mol)をヘキセンに希釈して全体を10mlとした溶液を、他の片側よりシクロペンテン1.36g(0.020mol)をヘキセンに希釈して全体を10mlとした溶液を同じ速度でマイクロリアクター内にポンプで流し込んだ。マイクロリアクター内への送液速度は各々0.1ml/分として送液が100分で反対側より排出される反応液をビーカーに回収した。マイクロリアクターは室温中(20℃)におかれ、除熱等の処置は不要であった。
反応部に300nmの光をRayonet Photochemical Reactor, RPR3000Aで外部より300nmの光を照射することによりアルケンと光[2+2]付加体を形成させ、直ちに開環し、
【0066】
【化4】

【0067】
で表されるδ型のジケトンを与えるde Mayo反応が起きた。
得られた反応液を留去濃縮後蒸留して281mg(収率63%)の化合物を得た。得られた化合物はbp110℃(0.3mmHg)プロトンNMRのスペクトル帰属は、δ1.13(Me),1.14(Me),3.72(dd,J=6.0Hz,2.0Hz)であった。
【0068】
(比較例3)
50mlの3口フラスコにガスの導入部及びラジエータ付き排出部及び紫外線照射装置Rayonet Photochemical Reactor, RPR3000Aを取り付け、[化3]で表される2,2−ジメチル−4H−1,3ジオキシン−4−オン0.256g(0.002mol)とシクロペンテン1.36g(0.020mol)をヘキセンに希釈して全体を20mlとした溶液を仕込んだ。
窒素気流下マグネチックスターラーで撹拌しながら300nmの光を照射した。TLCで追跡すると、12時間後に2,2−ジメチル−4H−1,3ジオキシン−4−オンのスポットが消失したため、得られた反応液を留去濃縮後蒸留して211mg(収率54%)の化合物を得た。得られた化合物の特徴は実施例8と同等であった。
【0069】
以上の様に特定のガラス組成物で作成された微小流路を利用したマイクロリアクター(実施例8)を紫外光による反応に用いる場合、波長300nmで透過率30%の硼ケイ酸ガラス製の材料を用いてもバッチ式よりも効率の良いことが解る。更に、バッチ式の反応装置(比較例3)と比較して空気界面が極めて小さいため、着色防止などの目的で反応系に導入される窒素も不要であることが解る。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の微小流路の一例を示す外観斜視図である。
【図2】図1に示した微小流路の分解斜視図である。
【図3】本発明のマイクロリアクターの一例を示す外観斜視図である。
【図4】図3に示したマイクロリアクターの分解斜視図である。
【図5】本発明のマイクロリアクターの他の例を示す外観斜視図である。
【図6】図5に示したマイクロリアクターの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0071】
1 微小流路
2 第1基体
3A リブ
3B リブ
3C リブ
3X リブ
3Y リブ
3Z リブ
4 第2基体
5 マイクロリアクター
6A アセンブリ
6B アセンブリ
6C アセンブリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基体と、
この第1基体と対向する第2基体と、
ガラス組成物を焼成してなり、高さが10μm〜1mmで、100μm〜1mmの間隔をあけて前記第1基体と前記第2基体との間に設けられたリブと、
を備える微小流路。
【請求項2】
請求項1に記載の微小流路の製造方法であって、
ガラス組成物を含むペーストを用いた印刷により第1基体の上に前記ペーストを塗布して前記リブを形成する塗布工程と、
前記第1基体に形成されたリブを乾燥させる乾燥工程と、
乾燥した前記リブを焼成する焼成工程とを含む、
ことを特徴とする微小流路の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の微小流路を用いて構成した、
ことを特徴とするマイクロリアクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−255634(P2006−255634A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78679(P2005−78679)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】