説明

微小流路構造体およびそれを用いた微小粒子の製造方法

【課題】均一な大きさの微小粒子を安定して大量に生成させるための微小流路を有する微小流路構造体およびそれを用いた微小粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】連続相となる流体を導入するための連続相導入流路と、分散相となる流体を導入するための、前記連続相導入流路に合流する分散相導入流路と、前記分散相導入流路が前記連続相導入流路に合流する合流部において形成される前記分散相の微小粒子を含む流体を排出するための排出流路と、を有する微小流路構造体であって、前記微小流路構造体は石英ガラスからなり、少なくとも前記排出流路の壁面の表面粗さRaが10.0nm以上であることを特徴とする微小流路構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相溶しない流体を均一かつ大量に導入させ、分取・分離用カラム充填剤や、医薬品、含酵素カプセル、化粧品、香料、表示・記録材料、接着剤及び農薬等に利用されるマイクロカプセル等の微小粒子を均一な大きさで安定して大量に製造する際に用いられる微小流路構造体に関する。また、本発明は、該微小流路構造体を用いた微小粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、数cm角のガラス基板上に長さが数cm程度で、幅と深さがサブμmから数百μmの微小流路を有する微小流路構造体を用い、流体を微小流路へ導入することにより、化学反応を行わせる研究あるいは微小粒子の生成を行わせる研究が注目されている。このような微小流路では、微小流路中の微小空間が短い分子間距離および大きな比界面積を有していることにより、効率の良い化学反応を行なわせることができることが知られている(例えば、非特許文献1)。
また、界面張力の異なる2種類の液体を、交差部分が存在する流路に導入することにより粒径が極めて均一な微小粒子を作製できることが知られている(例えば、非特許文献2、特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
また、前述した微小流路の空間の特性を生かし、微小流路内での化学処理や微小流路内での微小粒子の生産を工業的に利用しようとする試みも行われている。この場合、微小流路の空間の小ささ故に、単一の微小流路では、単位時間当りの目的の生成物の生成量が少なくならざるを得ないが、多数の微小流路を並列に配置させることで、前記微小流路の特性を生かしたまま単位時間当たりの目的の生成物の生成量を増加させることができる(例えば、非特許文献3及び非特許文献4)。
【0004】
非特許文献3に示されるように、1本の微小流路を有する複数の微小流路基板を、反応溶液の入り口や反応生成物の出口などの共通部分を貫通した縦穴でつないで積層することなどが試みられている。このように、微小流路の空間の特徴を生かし、化学合成や微小粒子の生成を大量に行なうことは、最小単位である微小流路の密度を平面的に高めたり、あるいは基盤を立体的に積層して微小流路の数を増やすことで可能であると言われている。例えば、微小流路構造体を使って化学処理を行う、あるいは、微小粒子を製造するための化学プラントに用いられるマイクロ化学装置としては、多数の微小流路を集積した微小流路構造体が挙げられる。このようなマイクロ化学装置では、原料の供給と生成物の回収がシステム化されている(例えば特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、このような微小流路構造体を用いて、精密な化学反応や混合を起こさせたり、微粒子を生成させるシステムであっても、各々の微小流路での単位時間当りの目的物の生成量が少ないために微小流路構造体全体としての生成量を増加させることが難しいという課題があり、改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2975943号公報
【特許文献2】特許第3746766号公報
【特許文献3】特許第4032128号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.Hisamoto et.al.(H.ひさもと ら著)「Fast and high conversion phase−transfer synthesis exploiting the liquid−liquid interface formed in a microchannel chip」, Chem.Commun., 2662−2663頁, 2001年発行
【非特許文献2】西迫貴志ら、「マイクロチャネルにおける液中微小液滴生成」、第4回化学とマイクロシステム研究会講演予稿集、59頁、2001年発行
【非特許文献3】菊谷ら、「パイルアップマイクロリアクターによる高収量マイクロチャンネル内合成」、第3回化学とマイクロシステム研究会公演予稿集、9頁、2001年発行
【非特許文献4】A.Kawai et.al.「MASS−PRODUCTION SYSTEM OF NEARLY MONODISPERSE DIAMETER GEL PARTICLES USING DROPLETS FORMATION IN A MICROCHANNEL」,μ−TAS 2002 vol.1 368−370頁、 2002年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来の実情に鑑みて提案されたものであり、均一な大きさの微小粒子を安定して大量に生成させるための微小流路を有する微小流路構造体およびそれを用いた微小粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、連続相となる流体を導入するための連続相導入流路と、分散相となる流体を導入するための、前記連続相導入流路に合流する分散相導入流路と、前記分散相導入流路が前記連続相導入流路に合流する合流部において形成される前記分散相の微小粒子を含む流体を排出するための排出流路と、を有する微小流路構造体であって、前記微小流路構造体は石英ガラスからなり、少なくとも前記合流部における流路壁面の表面粗さRaが10.0nm以上であることにより、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明の微小流路構造体及び該微小粒子構造体を用いる微小粒子の製造方法により、微小粒子をより確実に、また均一な大きさで安定して大量に生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で作製した微小流路構造体の概略図である。
【図2】実施例1で作製した微小流路構造体の断面図である。
【図3】粗面化処理した微小流路構造体の観察写真である。
【図4】実施例1で作製した微小流路構造体を用いて作製した微小粒子を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施の形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
ここで、本発明でいう「微小流路」とは、流路の幅がサブミクロン〜1mm程度、流路の深さがサブミクロン〜1mm程度、流路の長さは特に制限はないが、数mm〜数cm程度を意味する。また、本発明における「流路」とは、上記の微小流路を含め、該微小流路よりも広い流路幅、該微小流路よりも深い流路深さ、該微小流路よりも長い流路長を有す
る流路をも含むものである。
また、本発明でいう微小粒子には、固体状の微小粒子の他にも微小液滴や微小液滴の表面だけが硬化した微小粒子や、非常に粘性が高い半固体状の微小粒子も含まれる。
【0013】
<微小流路構造体>
本発明の微小流路構造体(以下、微小流路基板ということもある。)は、連続相となる流体を導入するための連続相導入流路と、分散相となる流体を導入するための、前記連続相導入流路に合流する分散相導入流路と、前記分散相導入流路が前記連続相導入流路に合流する合流部において形成される前記分散相の微小粒子を含む流体を排出するための排出流路と、を有する微小流路構造体であって、前記微小流路構造体は石英ガラスからなり、少なくとも前記排出流路の壁面の表面粗さRaが10.0nm以上である。
また、本発明の微小粒子構造体の好ましい態様では、前記分散相導入流路は、幹流路と、前記幹流路から分岐して前記連続相導入流路に合流する複数の枝流路とを有する。
本発明の微小流路構造体は、分散相となる流体を導入するための導入口、連続相となる流体を導入するための導入口、及び分散相の流体と連続相の流体と生成した微小粒子とを含む流体を排出するための排出口を有していてもよい。
【0014】
前記分散相導入流路及び前記連続相導入流路の幅と深さは数〜数十μm程度であることが好ましく、前記排出流路の幅と深さは数十μm〜1mm程度であることが好ましい。分散相導入流路が幹流路と枝流路を有する場合には、幹流路の幅と深さが数十μm〜1mm程度であることが好ましく、枝流路の幅と深さが数〜数十μm程度であることが好ましい。
また、前記分散相導入流路、前記連続相導入流路、前記排出流路はそれぞれ異なる幅及び深さを有することが好ましい。前記分散相導入流路が幹流路と枝流路を有する場合には、幹流路の方が枝流路よりも幅が広く、深さが深い態様が好ましい。
本発明の微小流路構造体は、微小流路や貫通孔の形成加工が可能であって、耐薬品性に優れ、適度な剛性を備え、かつ微細な加工が可能である石英ガラスを材料として用いる。微小流路構造体の大きさや形状については特に限定はないが、厚みは数mm以下程度とすることが好ましい。
【0015】
本発明の微小流路構造体は、前記連続相導入流路、前記分散相導入流路、および前記排出流路のパターンが形成された石英ガラス基板を2枚以上貼り合せることにより構成されている態様が好ましく、前記連続相導入流路、前記分散相導入流路、および前記排出流路の下側のパターンが形成された第1の石英ガラス基板と、前記連続相導入流路、前記分散相導入流路、および前記排出流路の上側のパターンが形成された第2の石英ガラス基板とを互いに貼り合せることにより構成されている態様が特に好ましい。
なお、ここでいう上側及び下側とは、微小流路構造体に含まれる微小流路が略水平に存在する場合のときに用いられる用語であって重力方向の上下を意味するわけではない。すなわち、微小流路構造体に含まれる微小流路が水平方向と略垂直に存在する(微小流路構造体を水平方向と垂直に立てる)場合には、右側及び左側を意味する。
【0016】
本発明では、微小流路構造体のうち、少なくとも排出流路の壁面の表面粗さRaが10.0nm以上であることを規定しているが、これは、少なくとも排出流路の壁面がこのような性状を有していることにより、分散相である流体と排出流路の壁面との接触が低減し、分散相である流体に対する剪断力が効果的に働き、粒径が均一な微小粒子が生成するためである。この効果は、分散相である流体と連続相である流体を大きな流量で導入しても得られる。これにより、粒径が均一な微小粒子を大量に得ることができる。
この表面粗さRaが10.0nm未満であると、分散相である流体が排出流路壁面に付着しやすくなり、微小粒子の生成が困難になる。
上記の表面粗さRaを有する部位については、少なくとも微小流路構造体の排出流路の
壁面であれば本願発明の効果が奏されるが、分散相である流体と連続相である流体が合流する合流部分、特にその下流側であって、かつ、分散相導入流路側の壁面が上記の表面粗さRaを有していることが、本願発明の効果とよりよく結びつくと本願発明者らは推測している。そのような排出壁面の壁面では、分散相である流体が剪断力により分裂して微小粒子が生成する。
上記表面粗さRaは、13.0nm以上であることがより好ましく、15.0nm以上であることが特に好ましい。
【0017】
本発明において、微小流路構造体の排出流路の壁面を上記の表面粗さに調製すること(以下、粗面化ともいう)は、あらかじめ微小流路構造体を構成する石英ガラス基板に一般的なフォトリソグラフィーとウェットエッチング等により溝を形成し、さらに後述する粗面化のための処理剤を用いて処理することにより可能である。
石英ガラスはSiO2の純度が高く、不純物が少ないことから均一に溝を形成することが可能である。粗面化の工程としては、微小流路構造体を蓋基板と底基板の2枚の基板を用いて作製する場合には、各基板に溝を形成した後、蓋基板と底基板を張り合わせる前に流路となる溝を粗面化しても良いし、各基板を張り合わせた後、分散相導入流路の導入口、連続相導入流路の導入口及び排出流路の排出口のいずれか1以上から粗面化のための処理剤を導入し、処理を行っても良い。
各基板を張り合わせた後の処理では、流路内に処理剤が残存するので、適宜、処理後に送液や洗浄、焼処理などすることで、処理剤を除去することができる。
【0018】
粗面化のための処理剤としては、フッ化水素アンモニウムを含んだ薬剤や、リン酸水素二アンモニウムとフッ酸等の混合物など、流路内を粗面化できるものであれば特段の限定なく使用できる。このような処理剤を用いて処理を行うことで、少なくとも排出流路の壁面の表面粗さRaを上記範囲に調整できる。また表面粗さRaの値は、使用する処理剤の濃度や処理時間を適宜調整することによって、調整することができる。
上記のような処理を経ることにより、少なくとも排出流路の壁面の表面粗さを、生成させる微小粒子より細かく、また深くすることにより本願発明の効果が奏される。
また、本発明において表面粗さRaとは、走査型プローブ顕微鏡を用いて測定される算術平均粗さの値であり、本発明では面分析を採用し、20μm×20μmの範囲を測定する。
その算術平均粗さはJIS B0601(1994)で示される下記の式で算出する。粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さlだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次の式(1)によって求められる値をナノメートル(nm)で表したものである。
【数1】

本発明では、Raと同時に二乗平均平方根粗さRmsも同様の操作により測定した。本発明では、微小流路構造体の排出流路の壁面の二乗平均平方根粗さRmsが、15.0nm以上であることが好ましく、20.0nm以上であることがより好ましい。
なお、微小流路構造体における上記のRa等の値は、微小流路構造体が2枚の基板を接着等により張り合わせて形成されたものである場合には、接着面で基板を2枚に分離し、微小流路の壁面を測定すれば得られる。
【0019】
<微小粒子の製造方法>
本発明では、上記の微小流路構造体を用いた微小粒子を製造する方法も提供する。
本発明の微小粒子の製造方法は、微小流路構造体の前記連続相導入流路に連続相となる
流体を導入し、前記分散相導入流路に分散相となる流体を導入する工程を含む。
本発明の微小粒子の製造方法では、分散相となる流体を、微小粒子が生成する排出流路の一本につき1〜30cm/sec、より好ましくは3〜20cm/secとなるように導入することが好ましい。
また、本発明の微小粒子の製造方法では、連続相となる流体を、微小粒子が生成する排出流路の一本につき3〜50cm/sec、より好ましくは5〜40cm/secとなるように導入することが好ましい。
そして、本発明の微小粒子の製造方法では、分散相となる流体と連続相となる流体の流量の比(分散相/連続相)が0.1〜0.7、より好ましくは0.2〜0.5となるように各流体を微小粒子に導入することが好ましい。
【0020】
本発明の微小粒子の製造方法を用い、分散相となる流体として重合性モノマーを含む流体を用いた場合、粒径の揃った液滴の状態で微小粒子が生成する。
本発明の微小粒子の製造方法を用いた場合、平均粒径が10〜200μmの微小粒子が得られる。本発明でいう微小粒子の粒径とは、粒子の投影面積に相当する大きさの円の直径を意味し、微小粒子の平均粒径は光学式顕微鏡で撮影した画像中の粒子300個以上の粒径を単純に算術平均することにより求めることができる。
また、本発明の微小粒子の製造方法を用いた場合には、生成する微小粒子の分散が15%以下となる。なお、ここでいう分散とは、微小粒子の粒径の標準偏差を平均粒径で除算した値である。分散が15%以下の場合は、排出流路において微小粒子が均一に生成する。一方、分散が15%を超えるような場合には、不均一な粒径の微小粒子が生成したり、あるいは、分散相である流体が微小流路構造体の一部の排出流路の壁面を伝いながら層流となって流出することがある。
【0021】
また、本発明の微小粒子の製造方法では、連続相となる流体及び分散相となる流体のそれぞれが液体である場合には、前記連続相導入流路に連続相となる液体を導入し、前記分散相導入流路に分散相となる液体を導入する工程の前に、連続相となる液体と相溶性のある液体を、分散相導入流路および連続相導入流路の両方にそれぞれ導入する工程を含んでいてもよい。
分散相導入流路と連続相導入流路の両方に、連続相となる液体と相溶性のある液体を予め導入することにより、上記の特定の表面粗さRaを有する排出流路の壁面に連続相となる液体と相溶性のある液体が付着して濡れることで、分散相である液体の上記壁面への付着を防止する効果が高まる。これにより、分散相である液体と連続相である液体とが合流する時に、均一な液体交差状態を達成することができる。均一な液体交差状態とは、たとえば均一な微小粒子の形成や、規則的な分散相である液体と連続相である液体の交互送液流、均等な混合比での送液などを意味する。
連続相となる液体と相溶性のある液体とは、連続相となる液体と相互に親和性を有し、溶液を形成する液体をいう。このような液体として、分散相となる液体が後述するポリビニルアルコール水溶液などの水系媒体である場合には、界面活性剤を含む溶液が挙げられる。
【0022】
本発明における分散相とは、本発明の微小流路構造体を用いて作製される微小粒子を構成する液体やガスなどの流体からなり、そのような流体が液体である場合には、例えば、スチレンなどの重合性モノマー、ジビニルベンゼンなどの架橋剤、重合開始剤等のゲル製造用の原料を適当な溶媒に溶解したものが挙げられる。
ここで、分散相となる流体としては、微小粒子が効率的に生成するものであって、微小流路構造体に導入できるものであれば特に制限されず、その成分も特に制限されない。
【0023】
本発明における連続相とは、連続相導入流路から導入され、分散相である流体と合流した時に分散相である流体が分散する流体からなり、この連続相において微小粒子が生成す
る。このような連続相となる流体としては、該流体が液体である場合には、例えば、ポリビニルアルコールのゲル製造用の分散剤を水などの適当な溶媒に溶解した媒体が挙げられる。連続相となる流体としては、分散相となる流体と同様に、微小流路構造体に導入できるものであれば特に制限されない。また、微小粒子を形成させることができれば、その成分も特に制限されない。生成する微小粒子の組成の観点から見た場合は、微小粒子の最外層が有機相であれば連続相の最外層は水相となり、微小粒子の最外層が水相であれば連続相の最外層は有機相となる。
【0024】
さらに、分散相となる流体と連続相となる流体は、微小流路構造体においてこれらが合流した際に微小粒子が生成するために、実質的に交じり合わない、あるいは、相溶性がないことが好ましい。例えば、分散相となる流体として水系媒体を用いた場合には、連続相となる流体として、水に実質的に溶解しない酢酸ブチルのような有機化合物からなる流体が用いられる。また、連続相として水系媒体を用いた場合にはその逆となる。
【0025】
本発明の微小粒子構造体を、化学反応や微小粒子の生産以外の物理操作場としての用いる場合には、混合、抽出、溶解、吸収及び吸着など2以上の流体の界面を利用した物理操作や、液/液界面を形成する急激な発熱反応や、界面積の増大に応じて反応速度が向上するような反応に好適に用いられる。
また、本発明の微小粒子構造体を用いる微小粒子の製造方法で作製された微小粒子の用途の具体例としては、高速液体クロマトグラフィー用カラムの充填剤、シールロック剤などの接着剤、金属粒子の絶縁粒子、圧力測定フィルム、ノーカーボン(感圧複写)紙、トナー、熱膨張剤、熱媒体、調光ガラス、ギャップ剤(スペーサ)、サーモクロミック(感温液晶、感温染料)、磁気泳動カプセル、農薬、人工飼料、人工種子、芳香剤、マッサージクリーム、口紅、ビタミン類カプセル、活性炭、含酵素カプセル及びDDS(ドラッグデリバリーシステム)などのマイクロカプセルやゲルが挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、これらは本発明をなんら限定するものではない。
【0027】
<微小流路構造体の作製>
本発明で使用した微小流路構造体の概略図を図1に示した。
図1に示すように、本発明で使用した微小流路構造体は、分散相となる流体を導入するための分散相導入流路と、連続相となる流体を導入するための連続相導入流路(3)と、前記分散相導入流路が前記連続相導入流路に合流する合流部において形成される前記分散相となる流体からなる微小粒子を含む流体を排出するための排出流路とを備え、前記分散相導入流路は分散相となる流体を導入するための分散相導入口(4)を有し、前記連続相導入流路(3)は連続相となる流体を導入するための連続相導入口(2)を有し、前記排出流路は前記微粒子を含む流体を排出するための排出口(8)有している。そして、前記分散相導入流路は幹流路(5)と、前記幹流路から分岐して前記連続相導入流路に合流する複数の枝流路(10)とから成っており、前記排出流路は、前記複数の枝流路と前記排出流路との複数の合流部のうち、最も下流側に位置する合流部よりも上流側の第一の排出流路(9)と下流側の第二の排出流路(7)とからなる。
【0028】
本実施例で用いた微小流路構造体では、320本の前記枝流路(10)が、50μmの間隔で平行して前記幹流路(5)から分岐し、前記第一の排出流路(9)と合流している。前記幹流路(5)は、幅140μm、深さ60μm、長さ2.5mの微小流路であり、連続相導入流路(3)は、幅183μm、深さ60μm、長さ5mmの微小流路であり、前記第一の排出流路(9)は、深さ60μm、長さ16mmの微小流路であり、前記第二の排出流路(7)は、幅250μm、深さ60μm、長さ6mmの微小流路であり、前記
枝流路(10)は、幅15μm、深さ3.8μmである。また、前記第一の排出流路(9)の幅は、下流側に向かって、183μmから250μmへと次第に大きくなっている。
また、最も上流側に位置する枝流路(10)と最も下流側に位置する枝流路(10)の流路長が、1.0mmから3.0mmへと下流側に向かって次第に長くなっている。ここで、前記の上流側とは、前記分散相導入口(4)または前記連続相導入口(2)に近い側を意味し、前記の下流側とは前記排出口(8)に近い側を意味する。
【0029】
上記で説明した微小流路構造体は、図2に示す枝流路のみを1枚の基板に作製した蓋基板(12)と、幹流路、連続相導入流路、第一の排出流路及び第二の排出流路を1枚の基板に作製した底基板(13)とを貼り合わせて作製した。
蓋基板(12)と底基板(13)には、それぞれ70mm×30mm×1mm(厚さ)の石英ガラス基板を用いた。ここで作製された微小流路構造体には、上記の微小流路群を1単位とすると、合計で50単位が含まれており、その結果、微小流路構造体1つで合計16000本の枝流路が含まれている。
【0030】
また蓋基板、底基板のそれぞれに形成した微小流路は、一般的なフォトリソグラフィーとウェットエッチングにより形成した。そして、蓋基板と底基板を一般的な熱融着により接合した。また蓋基板には、連続相導入口(2)、分散相導入口(4)及び排出口(8)にあたる位置に予め直径1.5mmの穴を、機械的加工手段を用いて設けた。なお、微小流路構造体の製作方法はこれに限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>
上記で説明した微小流路構造体において、流路を形成した微小流路構造体の排出口に設けた穴からフロステック社製の石英ガラス用エッチング剤(フロストタイプ)QE−FL3Aをピペットで付着及び浸透させて30分放置した後水洗浄した。この操作により、第一及び第二の排出流路の壁面が粗面化された。
この粗面化処理した微小流路構造体に分散相であるトルエンの送液速度を240ml/h、連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液の送液速度を600ml/hで送液したところ、送液速度が共に安定した状態で、微小流路構造体の分散相であるトルエン及び連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液が交わる合流部にて、図4に示すような微小粒子(11)の生成が観察された。
図4に示すように、生成した微小粒子(11)を観察すると、微小粒子の平均粒径は20.1μm、粒径の分散度を示すCV値(%)は8.0%となり、粒径の揃った微小粒子(11)であった。ここで、CV値とは、粒径の標準偏差を平均粒径で除算した値である。
なお、粗面化された壁面の表面粗さの程度は、走査型プローブ顕微鏡NanoScope IIIa(Veeco製)を用い、微小流路構造体の分散相であるトルエンと連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液の合流部分、特にその下流側について20μm×20μmの範囲を走査して測定を行った。
上記フロストタイプのエッチング剤による処理を行う前(フォトリソグラフィーとウェットエッチングによる流路の形成後)のRaは0.4nm、Rmsは0.4nmであった。一方、上記フロストタイプのエッチング剤(QE−FL3A)により30分処理した後の表面粗さは、Ra=64.7nm、Rms=71.1nmであった。
【0032】
<実施例2>
実施例1で使用した微小流路構造体の製造において、第一の排出流路及び第二の排出流路を粗面化するためのフロステック社製の石英ガラス用エッチング剤(フロストタイプ)をQE−FLA3−1Pに変更したこと以外は実施例1と同様の操作により、実施例2の微小流路構造体を作製した。
なお、実施例1と同様の方法により測定された上記フロストタイプのエッチング剤(Q
E−FLA3−1P)により30分処理した後の表面粗さは、Ra=15.1nm、Rms=23.3nmであった。
この微小流路構造体に分散相であるトルエンの送液速度を420ml/h、連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液の送液速度を840ml/hで送液したところ、送液速度が共に安定した状態で、微小流路構造体の分散相であるトルエン及び連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液が交わる合流部にて、微小粒子の生成が観察された。
生成した微小粒子を観察すると、微小粒子の平均粒径は20.8μm、粒径の分散度を示すCV値(%)は9.5%となり、粒径の揃った微小粒子であった。
【0033】
<実施例3>
実施例1で使用した微小流路構造体の製造において、第一の排出流路及び第二の排出流路を粗面化するためのフロステック社製の石英ガラス用エッチング剤(フロストタイプ)をQE−FLA4−1Pに変更したこと以外は実施例1と同様の操作により、実施例3の微小流路構造体を作製した。
なお、実施例1と同様の方法により測定された上記フロストタイプのエッチング剤(QE−FLA4−1P)により30分処理した後の表面粗さは、Ra=26.6nm、Rms=31.9nmであった。
この微小流路構造体に分散相であるトルエンの送液速度を420ml/h、連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液の送液速度を840ml/hで送液したところ、送液速度が共に安定した状態で、微小流路構造体の分散相であるトルエン及び連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液が交わる合流部にて、微小粒子の生成が観察された。
生成した微小粒子を観察すると、微小粒子の平均粒径は18.7μm、粒径の分散度を示すCV値(%)は9.3%となり、粒径の揃った微小粒子であった。
【0034】
<実施例4>
実施例2で使用した微小流路構造体の製造において、枝流路の深さを5.3μm、幅を20μmとし、第一の排出流路の深さを91μmとし、第一の排出流路の幅を、下流側に向かって、245μmから312μmへと次第に大きくしたこと以外は実施例2と同じ構造、同じ表面粗さを有する微小流路構造体を作製した。
この微小流路構造体に分散相であるトルエンの送液速度を480ml/h、連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液の送液速度を960ml/hで送液したところ、送液速度が共に安定した状態で、微小流路構造体の分散相であるトルエン及び連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液が交わる合流部にて、微小粒子の生成が観察された。
生成した微小粒子を観察すると、微小粒子の平均粒径は28.4μm、粒径の分散度を示すCV値(%)は9.4%となり、粒径の揃った微小粒子であった。
【0035】
<比較例1>
実施例1で使用した微小流路構造体において、上記フロストタイプのエッチング剤による粗面化処理を行っていないこと以外は実施例1の同様の構造を有する微小流路構造体を作製した。表面粗さは、Ra=0.4nm、Rms=0.4nmであった。
この微小流路構造体に分散相であるトルエンの送液速度を120ml/h、連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液の送液速度を400ml/hで送液したところ、微小流路構造体の分散相であるトルエン及び連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液が交わる合流部にて、微小粒子の生成は確認されたものの、略均一の粒径ではなく大粒の粒子も生成した。
生成した微小粒子を観察すると、微小粒子の平均粒径は19.2μm、粒径の分散度を示すCV値(%)は16.5%となり、粒径が不揃いの粒子であった。
【0036】
<比較例2>
実施例4で作製した微小流路構造体において、上記フロストタイプのエッチング剤によ
り粗面化処理を行わなかったこと以外は、実施例4で用いた微小流路構造体と同様の構造を有する微小流路構造体を作製した。
この微小流路構造体に分散相であるトルエンの送液速度を120ml/h、連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液の送液速度を400ml/hで送液したところ、微小流路構造体の分散相であるトルエン及び連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液が交わる合流部にて、微小粒子の生成は確認されたものの、略均一の粒径ではなく大粒の粒子も生成した。
生成した微小粒子を観察すると、微小粒子の平均粒径は41.6μm、粒径の分散度を示すCV値(%)は15.1%となり、粒径が不揃いの粒子であった。
【0037】
<比較例3>
実施例1で使用した微小流路構造体において、材料を石英ガラスからテンパックスガラス(登録商標)に変え、枝流路の深さを7.3μm、幅を22μmとし、第一の排出流路の深さを138μmとし、第一の排出流路の幅を、下流側に向かって、339μmから406μmへと次第に大きくし、枝流路の数を100μm間隔で8000本に変え、さらに上記フロストタイプのエッチング剤による粗面化処理を行っていない微小流路構造体を作製した。微小流路となる溝を形成した後の表面粗さは、Ra=18.7nm、Rms=24.3nmであった。
この微小流路構造体に分散相であるトルエンの送液速度を150ml/h、連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液の送液速度を600ml/hで送液したところ、微小流路構造体の分散相であるトルエン及び連続相であるポリビニルアルコール2%水溶液が交わる合流部にて、微小粒子の生成は確認されたものの、略均一の粒径ではなく大粒の粒子も生成した。
生成した微小粒子を観察すると、微小粒子の平均粒径は63.0μm、粒径の分散度を示すCV値(%)は17.9%となり、粒径が不揃いの粒子であった。
【0038】
【表1】

【0039】
表1中、微粒子が生成する流路(排出流路)1本あたりの流体の送液速度について、その線速を求める場合には、流路の断面をほぼ半楕円であると近似計算して算出する。
【符号の説明】
【0040】
2:連続相導入口
3:連続相導入流路
4:分散相導入口
5:幹流路
7:第二の排出流路
8:排出口
9:第一の排出流路
10:枝流路
11:微小粒子
12:蓋基板
13:底基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続相となる流体を導入するための連続相導入流路と、
分散相となる流体を導入するための、前記連続相導入流路に合流する分散相導入流路と、
前記分散相導入流路が前記連続相導入流路に合流する合流部において形成される前記分散相の微小粒子を含む流体を排出するための排出流路と、を有する微小流路構造体であって、
前記微小流路構造体は石英ガラスからなり、少なくとも前記排出流路の壁面の表面粗さRaが10.0nm以上であることを特徴とする微小流路構造体。
【請求項2】
前記分散相導入流路は、幹流路と、前記幹流路から分岐して前記連続相導入流路に合流する複数の枝流路とを有することを特徴とする請求項1に記載の微小流路構造体。
【請求項3】
前記連続相導入流路、前記分散相導入流路、および前記排出流路のパターンが形成された石英ガラス基板を2枚以上貼り合せることにより構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の微小流路構造体。
【請求項4】
前記連続相導入流路、前記分散相導入流路、および前記排出流路の下側のパターンが形成された第1の石英ガラス基板と、前記連続相導入流路、前記分散相導入流路、および前記排出流路の上側のパターンが形成された第2の石英ガラス基板とを互いに貼り合せることにより構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の微小流路構造体。
【請求項5】
前記連続相導入流路が分散相となる流体を導入するための分散相導入口を有し、前記連続相導入流路が連続相となる流体を導入するための連続相導入口を有し、前記排出流路が前記微粒子を含む流体を排出するための排出口を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の微小流路構造体。
【請求項6】
前記分散相導入口、前記連続相導入口及び前記排出口からなる群から選ばれる1以上に、前記排出流路を粗面化するための処理剤を導入する工程を含むことを特徴とする、請求項5に記載の微小流路構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の微小流路構造体の前記連続相導入流路に連続相となる流体を導入し、前記分散相導入流路に分散相となる流体を導入する工程を含むことを特徴とする、微小粒子の製造方法。
【請求項8】
前記連続相となる流体及び前記分散相となる流体はそれぞれ液体であり、前記連続相導入流路に連続相となる液体を導入し、前記分散相導入流路に分散相となる液体を導入する工程の前に、連続相となる液体と相溶性のある液体を、前記分散相導入流路および前記連続相導入流路の両方に導入する工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の微小粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−139621(P2012−139621A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292717(P2010−292717)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】