説明

微小物質サンプリング装置、及びその使用方法

【課題】 本発明は、水中の微小物質を採取するための装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 本装置は、水中の微小物質を採取するための装置であり、第1の開口部、第1の開口部より狭い第2の開口部を有し、第1の開口部から第2の開口部に向けて次第に断面寸法が小さくなるように構成された第1のフィルター、第1の開口部に装着され、第1のフィルターよりも目の粗い第2のフィルター、及び、第2の開口部に装着され、開閉可能なコックが設けられた第1の筒状部材等が備えられている。例えば、微小物質が、アカフジツボのキプリス幼生である場合、第1のフィルターは140〜280μmのメッシュからなり、第2のフィルターは400〜600μmのメッシュからなることが好ましい。
本装置を用いることにより、水中の微小物質を効率よく採取することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の微小物質を採取するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水として海水を利用する火力・原子力発電所においては、海から海水を取り入れて復水器に供給する取水路や、復水器を通った海水を海へ放出するための放水路の内部に、フジツボ類、イガイ類、カキ類等の海洋生物が付着しやすい。このような海洋生物の付着量が多くなると、冷却水の流路が塞がれて、冷却能が低下するなどの不具合を招く恐れがある。そのため、塩素や過酸化水素製剤等を連続注入して付着を抑制したり、定期的に取水路や放水路を点検し、取水路や放水路に海洋生物が大量付着した場合には、機械を用いたりして、取水路や放水路に付着した海洋生物を除去している。
【0003】
取水路や放水路への海洋生物の付着を未然に防ぐためには、幼生が流入する時期において集中的に塩素を注入するなどの対策を実施することが有効である。しかしながら、取水路内や放水路内は流速が速く、管路、暗渠である場合が多いため、現在存在する手段(例えば、市販のプランクトンネット等)を用いて、取水路内や放水路内に存在する海洋生物の幼生を採取し、流入時期を調べることは困難であった。
【0004】
また、現在までに、海水に含まれる植物性プランクトンを観察するシステムが存在するが、このシステムは、特定の大きさのプランクトンを採取することができなかった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−172728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、特定の大きさの水中の微小物質を、効率よく採取するための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、姫路市妻鹿港内海域(兵庫県)、若狭湾伊根港内海域(京都府)、並びに、大崎発電所取水路及び桟橋前面海域(広島県)の海水を用いて、これらの海水に含まれる、特定の大きさの微小水生生物を採取することができるような様々な装置を作製し、その機能を検討した結果、本装置を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る微小物質サンプリング装置は、水中の微小物質を採取するための装置であって、第1の開口部と、前記第1の開口部より狭い第2の開口部を有し、前記第1の開口部から前記第2の開口部に向けて次第に断面寸法が小さくなるように構成された第1のフィルターと、前記第1の開口部に装着され、前記第1のフィルターよりも目の粗い第2のフィルターと、前記第2の開口部に装着され、開閉可能なコックが設けられた第1の筒状部材とを備えることを特徴とする。この微小物質サンプリング装置の使用方法は、前記第1の筒状部材に設けられたコックを閉じる工程と、前記第1のフィルターに前記第1の開口部から微小物質を含む液体を供給する工程と、前記第1のフィルターを液体中に浸して、前記第1のフィルターに捕捉された微小物質を前記第2の開口部付近に溜める工程と、前記微小物質サンプリング装置を液体中から取り出す工程と、前記コックを開いて、前記第2の開口部付近に溜めた微小物質を前記第2の開口部から排出する工程とを包含する。ここで、前記微小物質が、微小水生生物の幼生である場合、前記第1のフィルターが、20〜2000μmのメッシュからなり、前記第2のフィルターが、300〜2000μmのメッシュからなることが好ましい。例えば、前記微小物質が、フジツボ類のキプリス幼生である場合、前記第1のフィルターが、140〜280μmのメッシュからなり、前記第2のフィルターが、400〜600μmのメッシュからなることが好ましく、前記微小物質が、イガイ類のペディベリジャー幼生である場合、前記第1のフィルターが、120〜220μmのメッシュからなり、前記第2のフィルターが、350〜550μmのメッシュからなることが好ましく、前記微小物質が、クダウミヒドラ類のアクチヌラ幼生である場合、前記第1のフィルターが、200〜2000μmのメッシュからなり、前記第2のフィルターが、1000〜2000μmのメッシュからなることが好ましい。
【0008】
また、前記微小物質サンプリング装置は、第3の開口部と、前記第3の開口部より広い第4の開口部を有し、前記第3の開口部から前記第4の開口部に向けて次第に断面寸法が大きくなるように構成された漏斗状部材と、第5の開口部と第6の開口部を有する第2の筒状部材と、前記第2の筒状部材の開口部又は内部に設けられた第3のフィルターとをさらに備えていてもよく、前記第3の開口部は、前記第1の筒状部材を通じて前記第2の開口部に着脱可能であり、前記第5の開口部は、前記漏斗状部材を通じて前記第4の開口部に着脱可能であることを特徴とする。この微小物質サンプリング装置の使用方法は、前記第1の筒状部材に設けられたコックを閉じる工程と、前記第1のフィルターに前記第1の開口部から微小物質を含む液体を供給する工程と、前記第1のフィルターを液体中に浸して、前記第1のフィルターに捕捉された微小物質を前記第2の開口部付近に溜める工程と、前記微小物質サンプリング装置を液体中から取り出す工程と、前記コックを開いて、前記第2の開口部付近に溜めた微小物質を前記第2の開口部から排出する工程と、前記第1のフィルターの目合いと同じ目合いの第3のフィルター、又は、前記第1のフィルターの目合いよりも細かい第3のフィルターに、前記第2の開口部から排出した前記微小物質を含む液体を供給する工程と、前記第3のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程とを包含する。ここで、前記使用方法は、前記第3のフィルターの目合いよりも細かい目合いの第4のフィルターに、前記第3のフィルターを通過した液体を供給する工程と、前記第4のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程とを包含してもよい。
【0009】
さらに、前記微小物質サンプリング装置は、前記第2の筒状部材の開口部又は内部に複数のフィルターを備えていてもよいし、前記第5の開口部に第3のフィルターを備え、前記第6の開口部に第4のフィルターを備えていてもよい。ここで、前記微小物質が、微小水生生物の幼生である場合、前記第3のフィルターが、20〜300μmのメッシュからなることが好ましい。例えば、前記微小物質が、フジツボ類のキプリス幼生である場合、前記第3のフィルターが、140〜240μmのメッシュからなることが好ましく、前記微小物質が、イガイ類のペディベリジャー幼生である場合、前記第3のフィルターが、120〜220μmのメッシュからなることが好ましく、前記微小物質が、クダウミヒドラ類のアクチヌラ幼生である場合、前記第3のフィルターが、200〜300μmのメッシュからなることが好ましい。さらに、前記微小物質が、フジツボ類のキプリス幼生又はフジツボ類のノープリウス幼生である場合、前記第3のフィルターが、140〜240μmのメッシュからなり、前記第4のフィルターが、100〜140μmのメッシュからなることが好ましく、前記微小物質が、イガイ類のD型幼生、イガイ類のべリコンカ幼生、又はイガイ類のペディベリジャー幼生である場合、前記第3のフィルターが、120〜220μmのメッシュからなり、前記第4のフィルターが、20〜120μmのメッシュからなることが好ましい。
【0010】
また、前記微小物質サンプリング装置は、第7の開口部を有し、前記第7の開口部の辺縁と前記第1の開口部が着脱可能であって、前記第7の開口部の辺縁と前記第1の開口部が密着した場合に前記第1のフィルター、前記第1の筒状部材、及び前記漏斗状部材を内部に収容可能な容器と、前記容器に設けられ、前記容器内の液体を外部に流出させるための第1の流出口とをさらに備えていてもよく、前記第1の流出口は、前記第7の開口部の辺縁と前記第1の開口部が密着し、前記第1のフィルター、前記第1の筒状部材、前記漏斗状部材、並びに、前記第3のフィルター又は前記第3のフィルター及び前記第4のフィルターを備えた第2の筒状部材を前記容器内部に収容したとき、前記第1のフィルターの半分以上の高さになるように前記容器に設けられていることを特徴とする。この微小物質サンプリング装置の使用方法は、前記第1の筒状部材に設けられたコックを開く工程と、前記第1のフィルターに前記第1の開口部から微小物質を含む液体を供給する工程と、前記第1のフィルターを前記容器から取り出す工程と、前記第1のフィルターから前記第3のフィルターを取り外す工程と、前記第3のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程とを包含する。ここで、前記微小物質サンプリング装置は、前記第1の流出口に設けられ、前記容器内の液体を、前記容器の外部に排出する流量を調節する第1の手段を備えていてもよい。
【0011】
さらに、前記微小物質サンプリング装置は、前記容器に設けられ、前記容器内の液体を外部に流出させるための第2の流出口と、前記第2の流出口に設けられ、前記容器内の液体を、前記容器の外部に排出する流量を調節する第2の手段とを備えていてもよい。この微小物質サンプリング装置の使用方法は、前記第1の筒状部材に設けられたコックを開く工程と、前記第1のフィルターに前記第1の開口部から微小物質を含む液体を供給する工程と、前記第2の手段を用いて前記第2の流出口からの液体の流出量を調整することにより、前記容器に前記液体を所定量維持する工程と、前記第1のフィルターを前記容器から取り出す工程と、前記第1のフィルターから前記第3のフィルターを取り外す工程と、前記第3のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程とを包含する。なお、前記使用方法は、第4のフィルターに、前記第3のフィルターを通過した液体を供給する工程を包含し、前記筒状部材から前記第4のフィルターを取り外す工程と、前記第4のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程とを包含してもよい。
【0012】
また、前記微小物質サンプリング装置は、前記第2のフィルターに微小物質を含む液体を供給する供給手段と、前記供給手段に設けられ、前記第2のフィルターに供給する液体の流量を調節する第3の手段とを備えていてもよい。
【0013】
さらに、前記微小物質サンプリング装置は、前記第1の流出口、前記第2の流出口、又は前記第1の流出口及び前記第2の流出口の両方に装着され、前記第1のフィルターよりも目の細かい第5のフィルターを備えていてもよい。この微小物質サンプリング装置の使用方法は、第5のフィルターに、前記第1のフィルターを通過した液体、前記第3のフィルターを通過した液体、又は前記第4のフィルターを通過した液体を供給する工程と、前記第5のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程とを包含する。
【0014】
なお、前記使用方法において、ポンプを用いて、前記第1の開口部に微小物質を含む前記液体を供給してもよい。また、前記微小物質としては、例えば、フジツボ類のキプリス幼生、イガイ類のペディベリジャー幼生、クダウミヒドラ類のアクチヌラ幼生等が挙げられる。
【0015】
また、前記微小物質サンプリング装置において、前記漏斗状部材と前記第2の筒状部材とが、一体形成されていてもよい。
【0016】
さらに、本発明にかかる微小物質検出システムは、水中の微小物質を採取する微小物質サンプリング装置と、前記微小物質サンプリング装置により得られた微小物質を検出する微小物質検出装置とを備えることを特徴とする。ここで、前記微小物質検出システムにおいて、前記微小物質が水生生物である場合、前記微小物質検出装置は、前記水生生物に特異的に反応する抗体を用いて、前記水生生物を検出する手段を備えていてもよい。
【0017】
なお、前記水生生物としては、例えば、フジツボ類のキプリス幼生、イガイ類のペディベリジャー幼生、クダウミヒドラ類のアクチヌラ幼生等が挙げられる。また、前記微小物質検出システムは、前記微小物質サンプリング装置により得られた微小物質を破砕する微小物質破砕装置を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、水中の微小物質を効率よく採取するための装置を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0020】
==微小物質サンプリング装置==
本発明の微小物質サンプリング装置を用いて採取し得る物質は、水中に含まれる微小物質ならば何でもよく、例えば、水生生物、砂、化合物の結晶や繊維等である。ここで、水生生物としては、例えば、付着生物の幼生やその他の動植物プランクトン、魚類や無脊椎(むせきつい)動物の卵等の配偶子、稚魚等が挙げられる。具体的に、対象となる生物としては、魚類以外にも、フジツボ等の節足動物(昆虫、甲殻類)、ムラサキイガイ等の軟体動物(貝類)、ゴカイ等の環形動物、ヒドロ虫やクラゲ等の刺胞動物、などが挙げられ、幼生としては、例えば、フジツボ類(節足動物 甲殻類)のノープリウス幼生・キプリス幼生、エビ類(節足動物 甲殻類)のノープリウス幼生・ゾエア幼生・ミシス幼生、イガイ類やカキ類(軟体動物 二枚貝類)のD型幼生・ベリコンカ幼生・ペディベリジャー幼生、カンザシゴカイ類(環形動物 多毛類)のトロコフォア幼生・ネクトキータ幼生、ウニ類(棘皮動物 ウニ類)のプリズム幼生・プルテウス幼生、クラゲ類(刺胞動物)のプラヌラ幼生・エフィラ幼生、その他の動物プランクトンとしては、コペポーダ(カイアシ)類やミジンコ・ケンミジンコ類、鞭毛虫・アメーバ・太陽虫・繊毛虫等の原生動物、植物プランクトンとしては、珪藻、クロレラ等の微細藻類などが挙げられる。
【0021】
また、本発明の装置に供給する液体は、微小物質を含む液体であればよく、例えば、海水、河川水、湖水、沼水、地下水等である。
【0022】
以下、本発明にかかる微小物質をサンプリングするための装置(以下、「微小物質サンプリング装置」と称する)に関し、構成例を挙げて、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
(1)構成例1
図1は、本発明の一実施形態として説明する微小物質サンプリング装置の概略図である。
本実施形態の微小物質サンプリング装置100は、微小物質を採取するための微小物質採取装置10等を備える。微小物質採取装置10は、図1に示すように、微小物質を採取するための第1のフィルター11、第1のフィルターに装着された第2のフィルター12、第1のフィルター11の内部を開閉可能なコック14を設けた第1の筒状部材13等を備える。
【0024】
第1のフィルター11は、微小物質を含む液体を供給するための第1の開口部15と、第1のフィルターの内部の液体等を排出するための、第1の開口部15より狭い第2の開口部16とを有し、第1の開口部15から第2の開口部16に向けて次第に断面寸法が小さくなるように構成されている。第1のフィルター11の材質は、所望の微小物質を採取することができる材質で作製されていればよく、そのような材質としては、例えば、ナイロン、ポリエチレン、テトロン、ポリエステル、カーボン、テフロン、ポリプロピレン等の材質が挙げられる。また、第1のフィルター11の目合いは、所望の微小物質を採取することができる目合いであれば特に限定されない。
【0025】
第1のフィルター11の第1の開口部15には、第1のフィルター11よりも目の粗い第2のフィルター12を備えている。第2のフィルター12の形状は、第1のフィルター11の内部に収まる形状であれば、特に限定されない。第2のフィルター12の材質は、所望の微小物質を採取することができる材質で作製されていればよく、そのような材質としては、例えば、ナイロン、ポリエチレン、テトロン、ポリエステル、カーボン、テフロン、ポリプロピレン等が挙げられる。また、第2のフィルター12の目合いは、第1のフィルター11よりも粗く設計されている。例えば、微小物質がフジツボ類のキプリス幼生である場合、第1のフィルター11の目合いは140〜280μm、第2のフィルター12の目合いは400〜600μmであることが好ましく、イガイ類のペディベリジャー幼生である場合、第1のフィルター11の目合いは120〜220μm、第2のフィルター12の目合いは350〜550μmであることが好ましく、微小物質がクダウミヒドラ類(刺胞動物ヒドロ虫類)のアクチヌラ幼生である場合、第1のフィルター11の目合いは200〜300μm、第2のフィルター12の目合いは1000〜2000μmであることが好ましい。
【0026】
また、第1の開口部15から供給した微小物質を含む液体が、第1のフィルター11の第2の開口部16局部だけでなく、第1のフィルター11の内部全体に行き渡るように、第2の開口部16には、第1のフィルターの内部を開閉することができるコック14を設けた第1の筒状部材13を備える(例えば、図16を参照のこと)。ここで、第1の筒状部材13の形状は、第2の開口部16と連結することができる形状であれば、特に限定されない。第1の筒状部材13の材質は、第1の開口部15から供給した微小物質を含む液体が漏れなければよく、そのような材質としては、例えば、プラスチック、ガラス、ステンレス等が挙げられる。
【0027】
一般に、フジツボ類の場合、ノープリウス1〜3期幼生は前側角を含めた全幅約140〜340μm、フジツボ類キプリス幼生は体高約200〜400μm、イガイ類D型幼生は殻高約60〜110μm、イガイ類べリコンカ(ウンボ期)幼生は殻高約120〜170μm、イガイ類ペディベリジャー幼生は殻高約170〜340μm、カキ類D型幼生は殻高約60〜110μm、カキ類べリコンカ(ウンボ期)幼生は殻高約110〜240μm、カキ類ペディベリジャー幼生は殻高約240〜380μm、クダウミヒドラ類(刺胞動物ヒドロ虫類)アクチヌラ幼生は直径約1.5mm〜2.5mm、ミズクラゲ(刺胞動物鉢クラゲ類)プラヌラ幼生は短径約120〜360μm、ミズクラゲーエフィラ幼生は、触手を含めた直径約2〜3mm(体部径約1〜1.5mm)、フサコケムシ(コケムシ類)幼生は直径約300μm、ホヤ類(原索動物)タドポール型幼生は体部短径約150〜300μm、クルマエビ(節足動物 甲殻類)ノープリウス幼生は体幅約200〜300μm、クルマエビーゾエア幼生は体幅340〜400μm、クルマエビーミシス幼生は体幅480〜500μm、イセエビ(節足動物 甲殻類)孵化直後フィロゾーマ1期は体部短径約0.7mm、イセエビ(節足動物 甲殻類)フィロゾーマ11期(最終期)は体部短径約12mm、イセエビ(節足動物 甲殻類)プエルルス期幼生は体部短径約20mmであるといわれている。このように、微小水生生物は発生段階によってその大きさが異なる。本発明の微小物質サンプリング装置は、上記のような異なるサイズを有する第1のフィルター又は第2のフィルターを組み合わせることによって、同一生物間の中でも発生段階の異なる生物を区別して採取することができる。
【0028】
(2)構成例2
図2は、本発明の一実施形態として説明する微小物質サンプリング装置の概略図である。
本実施形態の微小物質サンプリング装置200は、微小物質を採取するための微小物質採取装置10、この微小物質採取装置から得られた微小物質を分離するための分離装置20等を備える。微小物質採取装置10は、微小物質を採取するための第1のフィルター11、第1のフィルターに装着された第2のフィルター12、第1のフィルター11の内部を開閉可能なコック14を設けた第1の筒状部材13等を備える。また、分離装置20は、漏斗状部材21、第2の筒状部材24、第3のフィルター25等を備える。
【0029】
微小物質採取装置10は、上記「(1)構成例1」に記載の通りである。
分離装置20は、第1の筒状部材13の下部から排出された液体に含まれる微小物質を採取する装置である。
【0030】
漏斗状部材21は、第1の筒状部材13の下部から排出された微小物質を含む液体を供給するための第3の開口部22と、この液体を排出するための第4の開口部23とを有し、第3の開口部22から第4の開口部23に向けて次第に断面寸法が大きくなるように構成されている。ここで、第3の開口部22は、第1の筒状部材13を通じて第2の開口部16に着脱できるように構成されている。漏斗状部材21の材質は特に限定されず、例えば、プラスチック、ガラス、ステンレス等である。
【0031】
第2の筒状部材24は、第5の開口部27と第6の開口部28とを有し、フィルターを固定するのに用いられる(例えば、図16を参照のこと)。例えば、第2の筒状部材24の開口部27,28又は内部には、第1のフィルターの目合いと同じ、又は、第1のフィルターの目合いよりも細かい第3のフィルター25を設けてもよい。あるいは、第2の筒状部材24には複数のフィルターを設けてもよく、例えば、第5の開口部27に、第2のフィルター12の目合いと同じ、又は、第2のフィルター12の目合いよりも細かい第3のフィルター25を設け、第2の筒状部材24の第6の開口部28に、第1のフィルターの目合いと同じ、又は、第1のフィルターの目合いよりも細かい第4のフィルター26を設けてもよい。第3のフィルター25及び第4のフィルター26の材質は、所望の微小物質を採取することができる材質で作製されていればよく、そのような材質としては、例えば、ナイロン、ポリエチレン、テトロン、ポリエステル、カーボン、テフロン、ポリプロピレン等が挙げられる。ここで、第2の筒状部材24の第5の開口部27に第3のフィルター25を装着する際、第3のフィルター25辺縁にゴムパッキン等を設けて、第5の開口部27と第3のフィルター25とを密着させることが好ましい。同様に、第2の筒状部材24の内部にフィルターを装着する際、そのフィルター辺縁にゴムパッキン等を設けて、第2の筒状部材24の内部とフィルターとを密着させることが好ましい。また、第2の筒状部材24の第6の開口部28に第4のフィルターを装着する際は、押さえリング29等を用いて第6の開口部28に第4のフィルター26を固定すればよい。この際、第4のフィルター26辺縁にゴムパッキン等を設けてもよい。
【0032】
第3のフィルター25のみを分離装置20に装着して微小物質を採取する際、フィルターの目合いは、例えば、微小物質がアカフジツボ、アメリカフジツボ、ヨーロッパフジツボ等のフジツボ類のキプリス幼生である場合、第1のフィルター11の目合いは140〜280μm、第2のフィルター12の目合いは400〜600μm、第3のフィルター25の目合いは140〜240μmであることが好ましく、ムラサキイガイ、ミドリイガイのペディベリジャー幼生である場合、第1のフィルター11の目合いは120〜220μm、第2のフィルター12の目合いは350〜550μm、第3のフィルター25の目合いは120〜220μmであることが好ましく、微小物質がベニクダウミヒドラ(刺胞動物ヒドロ虫類)のアクチヌラ幼生である場合、第1のフィルター11の目合いは200〜300μm、第2のフィルター12の目合いは1000〜2000μm、第3のフィルター25の目合いは200〜300μmであることが好ましい。特に、微小物質がアカフジツボのキプリス幼生である場合、第1のフィルター11の目合いは224μm、第2のフィルター12の目合いは400μm、第3のフィルター25の目合いは224μmであることが最も好ましい。
【0033】
また、第3のフィルター25及び第4のフィルター26を分離装置20に装着して微小物質を採取する際、フィルターの目合いは、例えば、第1のフィルター11の目合いを200μmに、第2のフィルター12の目合いを600μmに、第3のフィルター25の目合いを300μmに、第4のフィルター26の目合いを200μmにすれば、第3のフィルター25上には、300〜600μmの微小物質が、第4のフィルター26上には200〜300μmの微小物質を採取することが可能になる。
【0034】
例えば、アカフジツボのキプリス幼生とノープリウス1・2期幼生とを区別して採取する場合、第1のフィルター11の目合いを100μmに、第2のフィルター12の目合いを500μmに、第3のフィルター25の目合いを212μmに、第4のフィルター26の目合いを100μmにすれば、第3のフィルター25上には、アカフジツボのキプリス幼生が、第4のフィルター26上にはアカフジツボのノープリウス1・2期幼生を採取することができる。同様に、ムラサキイガイのD型幼生と、ムラサキイガイのべリコンカ幼生と、ムラサキイガイのペディベリジャー幼生とを区別して採取する場合、第1のフィルター11の目合いを20〜40μmに、第2のフィルター12の目合いを350μmに、第3のフィルター25の目合いを120μmに、第4のフィルター26の目合いを20〜40μmにすれば、第3のフィルター25上には、ムラサキイガイのペディベリジャー幼生が、第4のフィルター26上にはムラサキイガイのD型幼生とムラサキイガイのべリコンカ幼生を採取することができる。
【0035】
このように、第3のフィルター25及び第4のフィルター26を分離装置20に装着した、本発明の微小物質サンプリング装置を用いれば、サンプリング装置に導入した海水中に含まれる微小物質をさらに細かく分離することが可能となる。
【0036】
なお、さらに細かく分離したい場合には、第2の筒状部材24の第3のフィルター25と第4のフィルター26との間に、第3のフィルター25の目合いよりも細かく、かつ、第4のフィルター26の目合いよりも大きいフィルターを設ければよい(図12及び図13を参照のこと)。
【0037】
また、前記漏斗状部材と前記第2の筒状部材とが一体形成されていてもよい。ここで、一体形成された部材は、最初から1つのものとして形成されてもよく、別個に製造され、あとから一体になるように形成されてもよい。
【0038】
上記「(1)構成例1」に記載の通り、微小水生生物は発生段階によってその大きさが異なる。本発明の微小物質サンプリング装置は、上記のような異なるサイズを有する第1のフィルター、第2のフィルター、第3のフィルター、又は第4のフィルターを組み合わせることによって、同一生物間の中でも発生段階の異なる生物を区別して採取することができる。
【0039】
(3)構成例3
図3aは、本発明の一実施形態として説明する微小物質サンプリング装置の概略図である。
本実施形態の微小物質サンプリング装置300は、微小物質を採取するための微小物質採取装置10、この微小物質採取装置から得られた微小物質を分離するための分離装置20、容器30等を備える。微小物質採取装置10は、微小物質を採取するための第1のフィルター11、第1のフィルターに装着された第2のフィルター12、第1のフィルター11の内部を開閉可能なコック14を設けた第1の筒状部材13等を備える。分離装置20は、漏斗状部材21、第2の筒状部材24、第3のフィルター25等を備える。また、容器30は、容器30内の液体を外部に流出可能な第1の流出口31、第1の流出口31から流出する液体の流量を調節する第1の手段32等を備える。
【0040】
微小物質採取装置10は、上記「(1)構成例1」に記載の通りである。また、分離装置20は、上記「(2)構成例2」に記載の通りである。
【0041】
容器30は、第1のフィルター11を通過した液体等を貯留する器である。
容器30は、微小物質採取装置10及び分離装置20を収容することができる大きさを有する。また、容器30は、容器30の上部から微小物質採取装置10及び分離装置20を着脱することができる大きさの第7の開口部35を有し、容器30内の液体を外部に流出可能な第1の流出口31、第1の流出口31から流出する液体の流量を調節するための第1の手段32等を備える。ここで、第7の開口部35の辺縁と第1の開口部15とを密着させるようにして、微小物質採取装置10及び分離装置20を容器30に収容したときに、第1のフィルター11の半分以上の高さになるように、容器30に、第1の流出口31を設けることが好ましい。第1の手段32としては、弁等が挙げられ、容器30の外部に流出する液体の流量は、弁32の開閉によって調節することができる。
【0042】
第1のフィルター11は、第7の開口部35の辺縁と第1の開口部15とを密着させるようにして、容器30に固定される。ここで、第7の開口部35辺縁と第1の開口部15は、第7の開口部35辺縁に第1の開口部15を吊るす等して直接的に密着させてもよいし、第7の開口部35辺縁に器具を設け、その器具に第1の開口部15を吊るす等、間接的に密着させてもよい。
【0043】
また、容器30に、第2の流出口33を設けてもよい。さらに、第2の流出口33から流出する液体の流量を調節するための第2の手段34を設けてもよい。ここで、第2の手段34としては、弁等が挙げられ、容器30の外部に流出する液体の流量は、弁34の開閉によって調節することができる。さらに、容器30の外部に流出させる液体の量が多い場合は、容器30に複数の流出口や弁を設け、容器30の外部に流出する液体の流量を調節してもよい。
【0044】
ポンプ36は、供給口38から第2のフィルター12に微小物質を含む液体を供給するための供給手段の一例である。なお、海水利用プラントの場合は、プラント内の管路に水質検査用の採水弁から供給することもできる。第2のフィルター12に供給する微小物質を含む液体の流量を調節するための第3の手段37を設けてもよい。ここで、第3の手段37としては、弁等が挙げられ、容器30の内部に流入する液体の流量は、弁の開閉によって調節することができる。
【0045】
なお、上記弁32、34、37は、2方電磁弁が好ましいが、液体の流量を調節できるものであれば電磁弁でなくてもよい。また、弁にタイマーを設けてもよいし、コンピューター制御により弁を開閉させてもよい。
【0046】
さらに、第1の流出口31から流出する液体に含まれる微小物質をさらに採取するために、第1の流出口31、に第1のフィルターの目合いよりも細かい第5のフィルター39を備えてもよい。例えば、アカフジツボ、アメリカフジツボ、ヨーロッパフジツボのノープリウス1〜3期幼生を第5のフィルター39で採取する場合は、第1のフィルター11の目合いを250μmに、第2のフィルター12の目合いを400〜600μmに、第5のフィルター39の目合いを100μmにすればよく、ムラサキイガイのペディベリジャー幼生を第5のフィルター39で採取する場合は、第1のフィルター11の目合いを280μmに、第2のフィルター12の目合いを350〜550μmに、第5のフィルター39の目合いを120μmにすればよいし、クダウミヒドラ(刺胞動物ヒドロ虫類)のアクチヌラ幼生を第5のフィルター39で採取する場合は、第1のフィルター11の目合いを1000〜2000μmに、第2のフィルター12の目合いを1000〜2000μmに、第5のフィルター39の目合いを200〜300μmにすればよい。
【0047】
なお、第5のフィルター39の形状は、特に限定されない。また、第5のフィルター39の材質は、所望の微小物質を採取することができる材質で作製されていればよく、そのような材質としては、例えば、ナイロン、ナイロン、ポリエチレン、テトロン、ポリエステル、カーボン、テフロン、ポリプロピレン等が挙げられる。必要であれば、第2の流出口33や、第1の流出口31と第2の流出口33とを合流させた出口にも、同様の第5のフィルター39を備えてもよい(図3a、b)。
【0048】
以上のように、本発明の微小物質サンプリング装置は、異なる目合いのフィルター11、12、25、26、又は39を備えているため、各フィルターにおいて所望のサイズの微小物質を採取することができる。
【0049】
例えば、第3のフィルター25のみを分離装置20に装着した、本発明の微小物質サンプリング装置に海水を供給する場合、第1のフィルター11の目合いを400〜600μmに、第2のフィルター12の目合いを400〜600μmに、第3のフィルター25の目合いを212μmに、第5のフィルター39の目合いを100μmにすれば、第1及び第2のフィルターでは砂、大型藻類の断片、大型付着生物の脱皮殻、糞等を、第3のフィルターではアカフジツボのキプリス幼生及びノープリウス3〜6期幼生を、また、第5のフィルターではアカフジツボのノープリウス1・2期幼生を採取することができる。同様に、第1のフィルター11の目合いを120μmに、第2のフィルター12の目合いを350〜550μmに、第3のフィルター25の目合いを80μmに、第5のフィルター39の目合いを20〜40μmにすれば、第2のフィルターでは砂、大型藻類の断片、大型付着生物の脱皮殻、糞等を、第1のフィルターではムラサキイガイ・ミドリイガイのペディベリジャー幼生を、第3のフィルターではムラサキイガイ・ミドリイガイのベリコンカ幼生を、また、第5のフィルターではムラサキイガイ・ミドリイガイのD型幼生を、それぞれ分別して採取することができる。また、第1のフィルター11の目合いを200μmに、第2のフィルター12の目合いを1000〜2000μmに、第3のフィルター25の目合いを100μmに、第5のフィルター39の目合いを20〜40μmにすれば、第2のフィルターでは、ヒドロクラゲ類、大型藻類の断片、大型付着生物の脱皮殻等を、第1のフィルターではクダウミヒドラ(刺胞動物ヒドロ虫類)のアクチヌラ幼生を、第3のフィルターではアメリカフジツボ・ヨーロッパフジツボのノープリウス1〜3期幼生を、また、第5のフィルターでは二枚貝類D型幼生をほぼ分別して採取することができる。
【0050】
また、第3のフィルター25及び第4のフィルター26を分離装置20に装着した、本発明の微小物質サンプリング装置に海水を供給する場合、例えば、第1のフィルター11の目合いを140μmに、第2のフィルター12の目合いを420μmに、第3のフィルター25の目合いを210μmに、第4のフィルター26の目合いを140μmに、第5のフィルター39の目合いを70μmにすれば、第3のフィルター25上では、径300〜600μmの微小物質を採取することができ、第4のフィルター26上では径200〜300μmの微小物質を採取することができ、第5のフィルター39上では径100〜200μmの微小物質を採取することができる。
【0051】
例えば、マガキの幼生を発生段階ごと(D型幼生と、ベリコンカ幼生と、ペディベリジャー幼生)に選別して採取する場合、第1のフィルター11の目合いを80μmに、第2のフィルター12の目合いを400μmに、第3のフィルター25の目合いを170μmに、第4のフィルター26の目合いを80μmに、第5のフィルター39の目合いを30〜40μmにすれば、第3のフィルター25上には、ペディベリジャー幼生が、第4のフィルター26上にはベリコンカ幼生が、第5のフィルター39上ではD型幼生を採取することができる。
【0052】
このように、第3のフィルター25及び第4のフィルター26を分離装置20に装着した、本発明の微小物質サンプリング装置を用いれば、サンプリング装置に導入した海水中に含まれる微小物質をさらに細かく分離することができる。
【0053】
なお、上記以外の大きさの微小物質を採取したい場合には、第2の筒状部材24の第3のフィルター25と第4のフィルター26との間に、第3のフィルター25の目合いよりも細かく、かつ、第4のフィルター26の目合いよりも大きいフィルターを設ければよい(図12及び図13を参照のこと)。
【0054】
上記「(1)構成例1」に記載の通り、微小水生生物は発生段階によってその大きさが異なる。本発明の微小物質サンプリング装置は、上記のような異なるサイズを有する第1のフィルター、第2のフィルター、第3のフィルター、第4のフィルター、第5のフィルターを組み合わせることによって、同一生物間の中でも発生段階の異なる生物を区別して採取することができる。
【0055】
==微小物質サンプリング装置の使用方法==
以下、本発明の微小物質サンプリング装置を用いて微小物質をサンプリングする方法の一例として、微小水生生物をサンプリングする方法について説明する。なお、構成例1は図1、構成例2は図2、構成例3(構成例3−1及び構成例3−2)は図3aに基づいて説明する。
【0056】
(1)構成例1
まず、第1のフィルター11の第1の開口部15に、第2のフィルター12を装着し、コック14を閉栓する。
次に、第2のフィルター12に微小物質(水生生物)を含む液体を供給する。この際、ポンプ等の手段を用いて、第2のフィルター12に水生生物を含む液体を供給してもよい。あるいは、本発明の微小物質サンプリング装置自体を、水生生物を含む液体の中(例えば、海、河川、湖、水、地下水の中等)に浸水させ、図1の上方向に引くことによって第2のフィルター12に水生生物を含む液体を供給してもよい。
次に、第2のフィルター12を取り外し、第1のフィルター11を水生生物が生活する環境の液体に沈めたり、第1のフィルター11内部を水で洗い流したりすることによって、第1のフィルター11の内部に存在する水生生物等を第2の開口部16付近に溜める。
最後に、コック14を開栓し、第2の開口部16付近に溜めた水生生物を第1の筒状部材13の下部から排出する。第2の開口部16から排出された水生生物を回収するために、第1の筒状部材13の下部に水生生物を回収するための容器等を設けてもよい。容器には、適当な目合いのフィルター等を備えていてもよい(図17を参照のこと)。
【0057】
(2)構成例2
まず、第1のフィルター11の第1の開口部15に、第2のフィルター12を装着し、コック14を閉栓する。次に、第1の筒状部材13の下部に分離装置20を装着する。なお、分離装置20は、漏斗状部材21と第2の筒状部材24とが一体形成されていてもよいが、これらの部材が一体でない場合、漏斗状部材21に、第3のフィルター25のみを、又は、第3のフィルター25及び第4のフィルター26を備えた第2の筒状部材24を装着することによって予め組み立てておくことが好ましい。
【0058】
次に、第2のフィルター12に水生生物を含む液体を供給する。この際、ポンプ等の手段を用いて、第2のフィルター12に水生生物を含む液体を供給してもよい。あるいは、本発明の微小物質サンプリング装置自体を、水生生物を含む液体の中(例えば、海、河川、湖、水、地下水の中等)に浸水させ、図2の上方向に引くことによって第2のフィルター12に水生生物を含む液体を供給してもよい。
次に、第2のフィルター12を取り外し、コック14を開栓し、第1のフィルター11を水生生物が生活する環境の液体に沈めたり、第1のフィルター11内部を水で洗い流したりすることによって、第1のフィルター11の内部に存在する水生生物等を第1の筒状部材13の下部から排出し、第1の筒状部材13の下部から排出した水生生物を含む液体を、分離装置20に備えられた第3のフィルター25に供給する。
【0059】
あるいは、第2のフィルター12を取り外し、第1のフィルター11を水生生物が生活する環境の液体に沈めたり、第1のフィルター11内部を水で洗い流したりすることによって、第1のフィルター11の内部に存在する水生生物等を第2の開口部16付近に溜め、最後に、コック14を開栓し、第2の開口部16付近に溜めた水生生物を第1の筒状部材13の下部から排出し、第1の筒状部材13の下部から排出した水生生物を含む液体を、分離装置20に備えられた第3のフィルター25に供給してもよい。
分離装置20に第3のフィルター25のみが備えられている場合、第3のフィルター25上に捕捉された水生生物を回収するためには、以下の手法(図5操作3を参照のこと)を用いればよい。
【0060】
まず、微小物質採取装置10と分離装置20とを分離し、第3のフィルター25が装着された漏斗状部材21を上下にひっくり返す。次に、漏斗状部材21の下端に遠心管(例えば、市販の15ml遠心管等)等を装着し、第3のフィルター上部から水生生物を含まない液体(例えば、ろ過海水(目合い0.4μmのフィルターでろ過した海水))を注いで第3のフィルターを洗浄する。このようにして、第3のフィルター25上に捕捉された水生生物を回収すればよい。
一方、分離装置20に第3のフィルター25及び第4のフィルター26が備えられている場合、第4のフィルター26上に捕捉された水生生物を回収するためには、以下の手法(図10及び図11を参照のこと)を用いればよい。
【0061】
まず、微小物質採取装置10と分離装置20とを分離し、第3のフィルター25を取り外して、第4のフィルター26が装着された漏斗状部材21を上下にひっくり返す。次に、漏斗状部材21の下端に遠心管(例えば、市販の15ml遠心管等)等を装着し、第4のフィルター上部から水生生物を含まない液体(例えば、ろ過海水(目合い0.4μmのフィルターでろ過した海水))を注いで第4のフィルターを洗浄する。このようにして、第4のフィルター26上に捕捉された水生生物を回収すればよい。
【0062】
また、第2の筒状部材24の第3のフィルター25と第4のフィルター26との間に、目合いの異なるフィルターを設けた場合は、各フィルターをそれぞれ取り外して上下にひっくり返し、各フィルターの上部から、水生生物が生存できる液体(例えば、ろ過海水(目合い0.4μmのフィルターでろ過した海水))を注いで各フィルターを洗浄すればよい。洗浄液は、漏斗等を使用して遠心管等に洗浄液を集めてもよい。このようにして、各フィルター上に捕捉された水生生物を回収することができる。
【0063】
(3)構成例3
水生生物が脆弱である場合、物理的衝撃によって水生生物の形態が破壊されることがある。水生生物の形態が破壊されると、本発明の微小物質サンプリング装置によって採取した水生生物を検出(例えば、所望の水生生物の存在の有無を確認したり、所望の水生生物を同定したり、所望の水生生物の量を測定したりすること等)することができなくなってしまう。また、水生生物を生きたまま採取したい場合もある。このように脆弱な水生生物を採取する際、以下に述べる方法は、特に有効である。
【0064】
(i)構成例3−1
まず始めに、微小物質サンプリング装置300を準備する。容器30に設けられている第1の流出口31を閉栓し、容器30の容積全体の2/3になるくらいまで、容器30に供給口38から海水を入れる。
その一方で、微小物質採取装置10及び分離装置20を準備する。第1のフィルター11の第1の開口部15に、第2のフィルター12を装着し、コック14を開栓する。次に、第1の筒状部材13の下部に分離装置20を装着する。なお、分離装置20は、漏斗状部材21に、第3のフィルター25のみを、又は、第3のフィルター25及び第4のフィルター26を備えた第2の筒状部材24を装着することによって予め組み立てておくことが好ましい。最後に、容器30の内部に微小物質採取装置10及び分離装置20を収容し、これらの装置を容器30に固定する。
このようにして準備した微小物質サンプリング装置300を用いて、水生生物のサンプリングを開始する。
【0065】
まず、第2のフィルター12に水生生物を含む液体を供給する。この際、ポンプ36等(供給手段)を用いて、供給口38から第2のフィルター12に水生生物を含む液体を供給してもよい。また、第2のフィルター12に供給する水生生物を含む液体の流量を、弁37等(第3の手段)の開閉によって調節してもよい。
【0066】
容器30の内部の液体が、第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さになるまで貯留されたら、弁32(第1の手段)を開き、第1の流出口31から液体を排出する。この場合、第1の流出口31からの液体の排出量を調整しなくても、液体の高さが第1の流出口31の高さに保たれる。この際、第1の流出口31に第5のフィルター39を設け、第1の流出口31から排出された水生生物を含む液体を第5のフィルター39に供給してもよい。また、容器30の内部の液体が、第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さになるまで貯留されたら、弁34(第2の手段)を開き、第2の流出口33からも液体を排出してもよい。例えば、容器30の内部の液体の高さが第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さになるように、第2の流出口33からの液体の排出量を調整する。この際、第2の流出口33に第5のフィルター39を設け、第2の流出口33から排出された水生生物を含む液体を第5のフィルター39に供給してもよい。弁32(第1の手段)及び弁34(第2の手段)を適宜調節することによって、容器30の内部の液体を第1の流出口31と第2の流出口33と両方から排出してもよい(図3a、b)。
【0067】
あるいは、容器30の内部の液体が、第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さになるまで、貯留されたら、弁32(第1の手段)を閉じたまま、弁34(第2の手段)を開き、第2の流出口33から液体を排出する。この場合、容器30の内部の液体の高さが第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さになるように、供給口38からの第2のフィルター12に水生生物を含む液体の供給量と、第2の流出口33からの液体の排出量とを、弁34、37を用いて調整する。この際、第2の流出口33に第5のフィルター39を設け、第2の流出口33から排出された水生生物を含む液体を第5のフィルター39に供給してもよい。また、容器30に第1の流出口31がない場合も同様に、供給口38からの第2のフィルター12に水生生物を含む液体の供給量と、第2の流出口33からの液体の排出量とを、弁34、37を用いて調整すれば、容器30の内部の液体の高さが第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さに保つことができる。
なお、浮力によって分離装置20が浮き上がる場合は、分離装置20に適量のおもりをつければよい(図16を参照のこと)。
【0068】
次に、弁32(第1の手段)を閉じ、弁34(第2の手段)が設けられている場合は弁34も閉じて、第1のフィルター11の3分の2の高さくらいまで、容器30に液体を貯留する。また、弁32がない場合は、弁34を閉じて、第1のフィルター11の3分の2の高さくらいまで、容器30に液体を貯留する。その後、弁37(第3の手段)を閉じ、第2のフィルター12に水生生物を含む液体の供給を中止する。
【0069】
第2のフィルター12を取り外し、第1のフィルター11を上に持ち上げ、上下左右に揺すったり、第1のフィルター11の外側から水を掛けたりするなどして、第1のフィルター11の内部に存在する水生生物等を第1の筒状部材13の下部から排出し、第1の筒状部材13の下部から排出した水生生物を含む液体を、分離装置20に備えられた第3のフィルター25に供給する。
【0070】
なお、コック14を閉栓して上記操作を行っていた場合は、第2のフィルター12を取り外し、第1のフィルター11を上に持ち上げ、上下左右に揺すったり、第1のフィルター11の外側から水を掛けたりするなどして、第1のフィルター11の内部に存在する水生生物等を第2の開口部16付近に溜め、最後に、コック14を開栓し、第2の開口部16付近に溜めた水生生物を第1の筒状部材13の下部から排出し、第1の筒状部材13の下部から排出した水生生物を含む液体を、分離装置20に備えられた第3のフィルター25に供給すればよい。
【0071】
第3のフィルター25又は第4のフィルター26上に存在する水生生物を回収するためには、上記「(2)構成例2」手法を用いればよい。また、第2の筒状部材24の第3のフィルター25と第4のフィルター26との間に、目合いの異なるフィルターを設けた場合、各フィルター上に存在する水生生物を回収するためには、上記「(2)構成例2」手法を用いればよい。
【0072】
一般に、水生生物が脆弱である場合、物理的衝撃によって水生生物の形態が破壊されたり、水生生物が死んだりすることがある。例えば、第1のフィルター11の一部分に集中的に打ち付けられたりすると、その液体に含まれる水生生物が衝撃を受ける。なお、第2のフィルター12は目合いが大きいため、微小な水生生物には大きな衝撃はかからない。しかしながら、上記の方法のように、容器30に液体を貯留させれば、供給口38から導入された液体はフィルターを通過する前に一旦貯留した液体中に落ちるため、圧力が分散される。従って、第1のフィルター11の中に存在する水生生物や、容器30の中に存在する水生生物に衝撃を与えることを防ぎ、第3のフィルター25、又は第4のフィルター26で形態を維持した水生生物を採取することが可能になる。
【0073】
(ii)構成例3−2
以下の方法は、第3のフィルター、第4のフィルター、又は第5のフィルターで脆弱な水生生物を採取する際に有効である。
微小物質サンプリング装置300を準備する方法は、上記「(i)構成例3−1」に記載の通りである。
微小物質サンプリング装置300を準備した後、微小物質サンプリング装置300を用いて、水生生物のサンプリングを開始する。
【0074】
まず、第2のフィルター12に水生生物を含む液体を供給する。この際、第1のフィルター11の内部に水生生物を含む液体が常に満たされているように、ポンプ36等(供給手段)を用いて液体の供給量を調節することが望ましい。
容器30の内部の液体が、第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さになるまで貯留されたら、弁32(第1の手段)を開き、第1の流出口31から液体を排出する。この場合、第1の流出口31からの液体の排出量を調整しなくても、液体の高さが第1の流出口31の高さに保たれる。この際、第1の流出口31に第5のフィルター39を設け、第1の流出口31から排出された水生生物を含む液体を第5のフィルター39に供給してもよい。また、容器30の内部の液体が、第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さになるまで貯留されたら、弁34(第2の手段)を開き、第2の流出口33からも液体を排出してもよい。例えば、容器30の内部の液体の高さが第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さになるように、第2の流出口33からの液体の排出量を調整する。この際、第2の流出口33に第5のフィルター39を設け、第2の流出口33から排出された水生生物を含む液体を第5のフィルター39に供給してもよい。弁32(第1の手段)及び弁34(第2の手段)を適宜調節することによって、容器30の内部の液体を第1の流出口31と第2の流出口33と両方から排出してもよい(図3a、b)。
【0075】
あるいは、容器30の内部の液体が、第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さになるまで、貯留されたら、弁32(第1の手段)を閉じたまま、弁34(第2の手段)を開き、第2の流出口33から液体を排出する。この場合、容器30の内部の液体の高さが第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さになるように、供給口38からの第2のフィルター12に水生生物を含む液体の供給量と、第2の流出口33からの液体の排出量とを、弁34、37を用いて調整する。この際、第2の流出口33に第5のフィルター39を設け、第2の流出口33から排出された水生生物を含む液体を第5のフィルター39に供給してもよい。また、容器30に第1の流出口31がない場合も同様に、供給口38からの第2のフィルター12に水生生物を含む液体の供給量と、第2の流出口33からの液体の排出量とを、弁34、37を用いて調整すれば、容器30の内部の液体の高さが第1のフィルター11の半分以上が浸かる高さに保つことができる。
なお、浮力によって分離装置20が浮き上がる場合は、分離装置20に適量のおもりをつければよい(図16を参照のこと)。
【0076】
次に、上記「(i)構成例3−1」に記載のように、コック14が閉栓されている場合は、微小物質採取装置10及び分離装置20を軽く持ち上げ、手動でコック14を開栓する。コック14は、タイマーやコンピューター制御によって開栓してもよい。
【0077】
次に、弁32(第1の手段)を閉じ、弁34(第2の手段)が設けられている場合は弁34も閉じて、第1のフィルター11の3分の2の高さくらいまで、容器30に液体を貯留する。また、弁32がない場合は、弁34を閉じて、第1のフィルター11の3分の2の高さくらいまで、容器30に液体を貯留する。その後、弁37(第3の手段)を閉じ、第2のフィルター12に水生生物を含む液体の供給を中止する。
【0078】
第2のフィルター12を取り外し、第1のフィルター11を上に持ち上げ、上下左右に揺すったり、第1のフィルター11の外側から水を掛けたりするなどして、第1のフィルター11の内部に存在する水生生物等を第1の筒状部材13の下部から排出し、第1の筒状部材13の下部から排出した水生生物を含む液体を、分離装置20に備えられた第3のフィルター25に供給する。
【0079】
なお、コック14を閉栓して上記操作を行っていた場合は、第2のフィルター12を取り外し、第1のフィルター11を上に持ち上げ、上下左右に揺すったり、第1のフィルター11の外側から水を掛けたりするなどして、第1のフィルター11の内部に存在する水生生物等を第2の開口部16付近に溜め、最後に、コック14を開栓し、第2の開口部16付近に溜めた水生生物を第1の筒状部材13の下部から排出し、第1の筒状部材13の下部から排出した水生生物を含む液体を、分離装置20に備えられた第3のフィルター25に供給すればよい。
【0080】
第3のフィルター25又は第4のフィルター26上に存在する水生生物を回収するためには、上記「(2)構成例2」手法を用いればよい。また、第2の筒状部材24の第3のフィルター25と第4のフィルター26との間に、目合いの異なるフィルターを設けた場合、各フィルター上に存在する水生生物を回収するためには、上記「(2)構成例2」手法を用いればよい。
【0081】
上述の通り、一般に、水生生物が脆弱である場合、物理的衝撃によって水生生物の形態が破壊されたり、水生生物が死んだりすることがある。例えば、第1のフィルター11の一部分に集中的に打ち付けられたりすると、その液体に含まれる水生生物が衝撃を受ける。なお、第2のフィルター12は目合いが大きいため、微小な水生生物には大きな衝撃はかからない。しかしながら、上記の方法のように、容器30に液体を貯留させれば、供給口38から導入された液体はフィルターを通過する前に一旦貯留した液体中に落ちるため、圧力が分散される。従って、第1のフィルター11の中に存在する水生生物や、容器30の中に存在する水生生物に衝撃を与えることを防ぎ、第3のフィルター25、第4のフィルター26、又は第5のフィルター39で形態を維持した水生生物を採取することが可能になる。
【0082】
==微小物質検出システムの構成==
本発明の微小物質検出システムは、上記微小物質サンプリング装置を用いて採取した微小物質を検出するためのシステムである。
以下に、本発明にかかる微小物質の検出システム(以下、微小物質検出システムと称する)の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0083】
図4は本発明の一実施形態として説明する微小物質検出システム600の概略的な構成図である。
本実施形態の微小物質検出システム600は、微小物質サンプリング装置100、200、又は300、微小物質破砕装置400、微小物質検出装置500から構成されている。
【0084】
微小物質サンプリング装置100、200、及び300は、上記「微小物質サンプリング装置」に示す、水中の微小物質を採取する装置である。
微小物質破砕装置400は、微小物質サンプリング装置100、200、300によって採取された微小物質を、細かく破砕する装置である。ここで使用できる微小物質破砕装置400は、微小物質を細かく破砕することができれば何でもよく、例えば、ホモジナイザー及び電動ミキサー等を備えていてもよい。
微小物質検出装置500は、微小物質破砕装置400によって破砕した微小物質を、試薬等を用いて検出するための装置である。ここで使用できる微小物質検出装置500は特に限定されず、微小物質の種類に従い、適切に選択される。
【0085】
==微小物質の検出方法==
以下、上記微小物質検出システム600を用いて、微小物質サンプリング装置100、200、又は300において採取された微小物質を検出する方法について説明する。ここでは、一例として、水生生物を検出する方法について詳細に述べる。
【0086】
まず、微小物質サンプリング装置100、200、又は300において採取された水生生物を、微小物質破砕装置400に供給し、水生生物を破砕する(図5及び図6を参照のこと)。ここで、水生生物の破砕は、生理食塩水やリン酸バッファー中で、ホモジナイザーを用いて破砕することが好ましい。また、水生生物を破砕した後、さらに超音波処理を加えてもよい。
【0087】
次に、破砕した水生生物を、微小物質検出装置500に供給し、水生生物を検出する。水生生物は、所望の水生生物と反応するモノクローナル抗体もしくはそのフラグメント、又は、ポリクローナル抗体等を用いた免疫学的手法により検出することができる。免疫学的手法としては、EIA法、ELISA法、ラッテクス凝集法、イムノクロマト法、ウエスタンブロット法、免疫沈降法、イムノクロマト法、免疫センサー法等が挙げられる。このような免疫学的手法は、当業者に公知の手法を用いればよい。なお、免疫学的手法に用いられる抗体としては、水生生物がムラサキイガイ付着期幼生(ペディベリジャー幼生)である場合は寄託番号FERM P−20220等が、水生生物がアカフジツボ付着期幼生である場合は寄託番号FERM P−20278、寄託番号FERM P−20279、又は寄託番号FERM P−20281が、フジツボ類の付着期幼生である場合は寄託番号FERM P−20282等が挙げられる。また、マガキ付着期幼生とムラサキイガイ付着期幼生が混在する場合にも、寄託番号FERM P−20217と寄託番号FERM P−20220等を組み合わせることによって、両種を識別・検出することが可能である。
【0088】
なお、微小物質サンプリング装置100、200、又は300において採取された水生生物を、微小物質破砕装置400に供給しないで、微小物質検出装置500に直接供給してもよい。この場合、微小物質検出装置500において、所望の水生生物の細胞表面抗原に反応するモノクローナル抗体もしくはそのフラグメント、又はポリクローナル抗体を用いた免疫学的手法により検出することができる。免疫学的手法としては、免疫染色法、フローサイトメトリー等が挙げられる。このような免疫学的手法は、当業者に公知の手法を用いればよい。なお、免疫学的手法に用いられる抗体としては、水生生物がムラサキイガイ付着期幼生である場合は寄託番号FERM P−20220等が、水生生物がアカフジツボ付着期幼生である場合は寄託番号FERM P−20278、寄託番号FERM P−20279、又は寄託番号FERM P−20281が、フジツボ類の付着期幼生である場合は寄託番号FERM P−20282等が挙げられる。
【0089】
また、各種フジツボ類付着期幼生が混在する場合にも、各種付着期幼生に特有の自家蛍光発光パターンを利用した方法(特許第03972028号)により、種類の即時判別・検出が可能である。
【0090】
==本発明の検出システムを用いた応用例==
本発明の微小物質検出システム600を用いれば、所望の水生生物(例えば、ムラサキイガイ付着期幼生、アカフジツボ付着期幼生、フジツボ類の付着期幼生、マガキ付着期幼生、コペポーダ類等)を分離し、特異的に検出すること(例えば、所望の水生生物の存在の有無を確認したり、所望の水生生物を同定したり、所望の水生生物の量を測定したりすること等)が可能になる。具体的には、以下のような応用例が考えられる。
【0091】
例えば、ムラサキイガイ等の二枚貝類の場合、体外受精後、D型幼生からベリコンカ幼生を経て、さらにペディベリジャー幼生へと発生が進行し、発生とともに殻も徐々に大きくなっていくが、野外での繁殖時期には、D型幼生・ベリコンカ幼生・ペディベリジャー幼生が混在することが知られている。これまで、各発生段階の幼生の出現状況を発生段階ごとに調べるためには、D型幼生用の最も目合いの細かいネットで採集した後、顕微鏡で観察し、種と発生段階を形態で分類しながら計数するか、あるいは、目合いの異なるプランクトンネットで一々別々に採取することが必要であったため、観察作業又は採取作業が非常に猥雑であった。
【0092】
本装置の場合、前述のような目合いのネットを組み合わせることによって、特定種の幼生について、1回の採取作業で、発生段階ごとの選別・濃縮を同時に行うことが可能となる。したがって、目合いネットごとに濃縮・採取された幼生を観察・検出することによって、付着被害の原因となる生物が、繁殖し始めた状態か、繁殖盛期であるのか、繁殖が終わりつつあるのかを容易に把握し、早期に対策を実施することができる。同様にマガキ等の有用種の場合にも、海域における幼生の発生進行状況を把握することによって、最適な採苗時期を予測することが容易になる。
【0093】
さらに、水生生物の幼生を用いた室内試験を行う場合、発生段階の揃った生理状態の良好な試験個体を多数入手する必要がある。水生生物の場合、例えばイガイ類やエビ類(クルマエビ以外)・カニ類など、重要な有害種又は有用種でありながら幼生の室内飼育に長期間を要し飼育が困難な生物種も多いのが現状である。このような生物種を用いて化学物質や水質に関する生物試験を行う場合、野外で採集した多数の試料の中から、活発に遊泳している幼生を他種プランクトンと選別しながら、発生段階ごとに顕微鏡下で丹念にピックアップし集めるという非常に煩雑で困難な作業が必要であった。
そこで、本装置を用いることによって、発生段階の揃った生理状態の良好な幼生個体を、発生段階ごとに多数選別・採集し、生物試験に供することが容易となる。
【0094】
また、遺伝子解析を用いて二枚貝類やフジツボ類の幼生を検出する方法も多数研究されている(二枚貝類幼生;Marine Biology(2000)137:953−961等、フジツボ類幼生;Marine Biotechnology (2006)8:149−160、特開2007-189908等)。しかしながら、これらの方法では、付着期・付着前駆期幼生を選別していないため、発生初期幼生や卵も検出してしまい、付着予測は困難である。また、糞や組織片・脱皮殻等も検出され、生きた幼生のみを検出できないので、DNA抽出前にある程度選別しておくことが必要となる。
【0095】
そこで、検出前の試料の前処理過程として本装置を利用することによって、糞や脱皮殻及び初期幼生を排除し、付着期・付着前駆期幼生を選別採集することによって、精度の高い付着時期予測が可能となる。
【0096】
これら以外にも、本装置を用いることによって、イガイ類・フジツボ類等の付着被害の主な原因種について、野外海域における幼生の発生進行状況の詳細を把握し、早期の被害予防や効率的な対策を行うことが容易になる。また、クルマエビ以外のエビ類・カニ類、イワガキなど重要な有用生物種でありながら人工飼育に長期間を要し大量種苗生産が容易でない種類についても、発生段階が揃った生理状態の良好な幼生個体を、発生段階ごとに多数採集し、中間種苗として利用することができる。
【実施例】
【0097】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0098】
<実施例1:簡易式微小物質サンプリング装置を用いた幼生の選別試験(野外にて実施)>
図7に示す簡易式微小物質サンプリング装置を用いて、所望のプランクトンを採取するために、最も適切なプランクトンネットの目合いを検討した。
【0099】
1.試験日及び試験場所
試験日:平成18年12月11日
試験場所:姫路市妻鹿港内(兵庫県)
2.試験方法
図7に示すように、プラスチック容器(高さ34cm、直径23cm)の上部にプランクトンネットNGG45(目合い400μm)(図3aの12に相当)を装着したプランクトンネットNXX7(目合い200μm)(図3aの11に相当)を、プラスチック容器の下部にプランクトンネットNXX13(目合い100μm)(図3aの39に相当)を固定した。
次に、プランクトンネットNGG45の上部から、採水用水中ポンプを用いて妻鹿港内の海水を約600L流してろ過した。プランクトンネットNGG45、プランクトンネットNXX7、及びプランクトンネットNXX13に残った幼生をそれぞれ採取し、200MMg2+溶液に入れて(麻酔して)、幼生の発生段階を調べ、その幼生の数を計測した。
【0100】
3.結果
結果を表1に示す。
【表1】

【0101】
プランクトンネットNGG45(目合い400μm)には、紅藻類、緑藻類(切れ端)、及び貝殻片が残ったが、プランクトン類は認められなかった。一方、プランクトンネットNXX7(目合い200μm)には、アメリカ・ヨーロッパフジツボのキプリス幼生1個体、ノープリウス2〜3期4個体、ノープリウス4〜5期4個体が残った。また、プランクトンネットNXX13(目合い100μm)には、ノープリウス1期13個体、ノープリウス2〜3期180個体が残った。
これより、プランクトンネットNXX7(目合い200μm)において、ノープリウス1〜3期は90%以上ろ過されていることが示された。以上より、フジツボ類のキプリス幼生を採取するには、目合い200μm前後のプランクトンネットが適していることが明らかになった。
【0102】
<実施例2:試作した微小物質サンプリング装置を用いた、幼生の選別試験(野外にて実施)>
目合い280〜200μmのプランクトンネットを用いて、微小物質サンプリング装置を試作し、試作した微小物質サンプリング装置の性能及び有効性を検討した。なお、以下の実験では、姫路市妻鹿港内海域の海水だけでなく、若狭湾伊根港内海域及び大崎発電所桟橋前面海域の海水も用いた。
【0103】
1.試験日及び試験場所
試験日:平成19年2月19日、試験場所:姫路市妻鹿港内海域(兵庫県)
試験日:平成19年2月20日、試験場所:若狭湾伊根港内海域(京都府)
試験日:平成19年3月9日、試験場所:大崎発電所桟橋前面海域(広島県)
2.微小物質サンプリング装置(試作機)
図8に示すように、試作した微小物質サンプリング装置は、ハウジング(図3aにおいて容器30に相当)、幼生採取ネット(図3aにおいて第1のフィルター11に相当)、幼生分離装置(図3aにおいて微小物質分離装置20に相当)、分離ネット(図3aにおいて第3のフィルター25に相当)等を備えている。なお、具体的な設計図は、図9に示す通りである。
【0104】
ここで、ハウジング(写真1)、幼生採取ネット(写真2)、幼生分離装置(写真3及び4)、及び分離ネット(写真3及び4)の仕様及び材質は、以下の通りである。
ハウジング;
材質:ポリ塩化ビニル(PVC)六角(透明及び白色)((有)日本プラ加)、高さ×幅:70×34cm
幼生採取ネット;
材質(幼生採取用):目合い212μmのナイロンネット((株)田中三次郎商店)、直径30cm、高さ59cm(バルブ部を含む)
材質(ゴミ採取用):目合い400μmのナイロンネット((株)田中三次郎商店)、直径30cm、高さ26cm
幼生分離装置及び分離ネット;
材質(分離装置):ポリプロピレン(PP)プラスチック((有)日本プラ加)、高さ×幅:10×9cm
材質(分離ネット):目合い280、224、212、200μmのナイロンネット((株)田中三次郎商店)4種類
3.試験方法
操作手順は以下の通りである(図3a及び図5を参照のこと)。
操作1;まず、ロート(図3aにおいて漏斗状部材21に相当)と分離ネット(図3aにおいて第3のフィルター25に相当)(目合い280、224、212、200μmのナイロンネット)を結合して分離装置20を作製し、目合い212μmのナイロンネット(プランクトンネットNGG74)で作製した幼生採取ネット11の下部に、分離装置20を結合した。幼生採取ネット11の上部には、目合い400μmのナイロンネット(プランクトンネットNGG45)で作製したゴミ採取用ネット12をセットし、これをハウジング30に固定した。流出口31に、目合い100μmのナイロンネット(プランクトンネットNXX13)で作製したノープリウス採取ネット39をセットした。
【0105】
操作2;次に、ゴミ採取用ネット12の上部から、採水用水中ポンプ36を用いて、妻鹿港内海域、伊根港内海域、大崎発電所桟橋前面海域の海水をそれぞれ約600L流して、幼生採取ネット11に海水を満たした。この際、ハウジングに溜まった水の水位を、分離装置20の上部になるように、ハウジング30に設けられている排水バルブ34を開いて調節した。この状態で、海水を約500L(約20分)ろ過した。
ろ過終了後、ゴミ採取用ネット12を取り外し、排水バルブ34を閉じて海水をハウジング上部まで溜めて、幼生採取ネット11を海水に沈めて洗浄し、幼生採取ネット11を引き上げて、幼生採取ネット11内に存在する幼生を分離装置20に採取した。
【0106】
操作3;幼生採取ネット11と分離装置20を取り外した。
ゴミ採取用ネット12、幼生採取ネット11、及び分離ネット25に残った幼生をそれぞれ採取し、200MMg2+溶液に入れて(麻酔して)、幼生の発生段階を調べ、その幼生の数を計測した。
なお、分離ネット25に残った幼生は、分離装置20をひっくり返して15ml遠心管(Labcon社製)に装着し、遠心管を試験管ホルダーに固定し、ろ過海水(目合い0.5μm)で採取物を洗い落とすことによって、遠心管に集めた。
なお、実験を行った際の写真を図14に示す。
【0107】
4.結果
結果を表2〜4に示す。
【0108】
<姫路市妻鹿港内海域(兵庫県)>
【表2】

【0109】
妻鹿港内海域において上記試験を行なったところ、プランクトンネットNGG72(目合い224μm)、NGG74(目合い212μm)、NXX7(目合い200μm)にはアメリカ・ヨーロッパフジツボのキプリス幼生が、プランクトンネットNXX13(目合い100μm)にはノープリウス1〜3期が残った。この結果は、実施例1に示した簡易式微小物質サンプリング装置を使用して、アメリカ・ヨーロッパフジツボのキプリス幼生及びノープリウスを採取した結果と一致した。
【0110】
<大崎発電所桟橋前面海域(広島県)>
【表3】

【0111】
また、大崎発電所桟橋前面海域において上記試験を行なったところ、プランクトンネットNGG72(目合い224μm)、NGG74(目合い212μm)にはイワフジツボのキプリス幼生2個体が、プランクトンネットNXX13(目合い100μm)にはノープリウス1〜3期約40個体が残った。なお、イワフジツボのキプリス幼生は、BV励起光照射による特異的蛍光発光分析によって確認した。
【0112】
<若狭湾伊根港内海域(京都府)>
【表4】

【0113】
一方、伊根港内海域において上記試験を行なったところ、プランクトンネットNGG45(目合い400μm)及びプランクトンネットNGG60(目合い280μm)、NGG72(目合い224μm)、NGG74(目合い212μm)、NXX7(目合い200μm)にはヒラフジツボ類のキプリス幼生はほとんど見られなかった。また、プランクトンネットNXX13(目合い100μm)にはヒラフジツボ類のキプリス幼生が平均10個体残った。この結果は、ヒラフジツボ類のキプリス幼生のサイズが200μm以下であることを示す。なお、ヒラフジツボ類のキプリス幼生は、BV励起光照射による特異的蛍光発光分析によって確認した。
【0114】
以上の結果より、試作した微小物質サンプリング装置を用いれば、フジツボ類のキプリス幼生を選択的に採取できることが明らかになった。
【0115】
なお、珪藻類及び檮脚類(コペポーダ類)は、様々な大きさの個体からなる種類群であるが、その中でも150〜300μmの個体が非常に多いことが知られている。上記試験において、主にプランクトンネットNGG72(目合い224μm)、NGG74(目合い212μm)、NXX7(目合い200μm)に、多数の珪藻類(主にCoscinodiscus)及び檮脚類が残った。ここで、珪藻類(主にCoscinodiscus)はフジツボ類のキプリス幼生とサイズが類似していることが知られている。また、珪藻類の発生時期は、アカフジツボのキプリス幼生の発生時期よりも早いことが知られている。従って、珪藻類又はアカフジツボのキプリス幼生の発生時期のピークと、プランクトンネットの目合いと、を組み合わせることによって、所望の珪藻類及び檮脚類を採取することが可能になることが示唆された。
【0116】
<実施例3:微小物質サンプリング装置を用いた、80%エタノール固定後のアカフジツボのキプリス幼生の選別試験(室内にて実施)>
微小物質サンプリング装置を用いて、80%エタノール固定後のアカフジツボのキプリス幼生を選別するために、以下の実験を行なった。
【0117】
1.試験日及び試験場所
試験日:平成19年2月27日、試験場所:株式会社セシルリサーチ生物飼育室(兵庫県)
2.微小物質サンプリング装置
実施例2に示す微小物質サンプリング装置を用いた。
【0118】
3.試験方法(図5及び図15を参照のこと)
操作1:まず、ロート21と分離ネット25(目合い224μmのナイロンネット)を結合して分離装置20を作製し、目合い224μmのナイロンネット(プランクトンネットNGG72)で作製した幼生採取ネット11の下部に、分離装置20を結合した。幼生採取ネット11の上部には、目合い400μmのナイロンネット(プランクトンネットNGG45)で作製したゴミ採取用ネット12をセットし、これをハウジング30に固定した。流出口31に、目合い100μmのナイロンネット(プランクトンネットNXX13)で作製したノープリウス採取ネット39をセットした。
【0119】
操作2;次に、ゴミ採取用ネット12の上部から、採水用水中ポンプ36を用いて、アカフジツボの幼生(ノープリウス2〜3期222個体、ノープリウス4〜5期134個体、ノープリウス6期152個体、キプリス幼生146個体)を含むろ過海水(目合い0.4μm)を約600L流して、幼生採取ネット11に海水を満たした。この際、ハウジングに溜まった水の水位を、分離装置20の上部になるように、ハウジング30に設けられている排水バルブ34を開いて調節した。
ろ過終了後、ゴミ採取用ネット12を取り外し、排水バルブ34を閉じて海水をハウジング上部まで溜めて、幼生採取ネット11を海水に沈めて洗浄し、幼生採取ネット11を引き上げて、幼生採取ネット11内に存在する幼生を分離装置20に供給した。
【0120】
操作3;幼生採取ネット11と分離装置20を取り外した。
ゴミ採取用ネット12、幼生採取ネット11、及び分離ネット25に残った幼生をそれぞれ採取し、200MMg2+溶液に入れて(麻酔して)、幼生の発生段階を調べ、その幼生の数を計測した。
【0121】
なお、分離ネット25に残った幼生は、分離装置20をひっくり返して15ml遠心管(Labcon社製)に装着し、遠心管を試験管ホルダーに固定し、ろ過海水(目合い0.5μm)で採取物を洗い落とすことによって、遠心管に集めた。
【0122】
4.結果
結果を表5に示す。
【表5】

【0123】
上記試験を行なったところ、プランクトンネットNGG72(目合い224μm)にはアカフジツボのキプリス幼生146個体中120個体が、プランクトンネットNXX13(目合い100μm)にはノープリウス2〜3期222個体中203個体が残った。一方、プランクトンネットNXX13(目合い100μm)にはキプリス幼生、及びノープリウス後期は全く残らなかった。
【0124】
また、プランクトンネットNGG45(目合い400μm)にはノープリウス4〜5期134個体中120個体が、ノープリウス6期152個体中128個体が、さらにキプリス幼生146個体中19個体が残った。これより、ノープリウス後期は、400μmを越える個体が多く、ほとんどの個体がプランクトンネットNXX7(目合い224μm)、又はプランクトンネットNXX13(目合い100μm)に届かないことが示された(表1を参照のこと)。
【0125】
さらに、ノープリウス後期20個体の体長、体幅、及び体高を測定したところ、これらの個体の体長は約750μm、体幅は約520μm、また、体高は約360μmであった。これより、ノープリウス後期を採取する場合には、プランクトンネットの目合いを500〜600μm前後に設定すればよいことが分かった。
【0126】
<実施例4:微小物質サンプリング装置を用いて採取した幼生の検出>
微小物質サンプリング装置を用いて採取した幼生を検出するために、以下の実験を行った。なお、採取した幼生の検出には、イムノクロマト法を用いた。
【0127】
1.テストプレートの作製
まず、イムノクロマト法に用いる、テストプレートを作製した。なお、テストプレートは、a.試料滴下部、b.試料含有部、c.展開部、d.吸収パッド、e.測定項目記載位置、f.テストライン出現位置(試薬滴下部より約30mm)、g.コントロールライン出現位置(試薬滴下部より約38mm)からなる。
テストプレートのb.試料含有部に金コロイド標識抗アカフジツボモノクローナル抗体(寄託番号:FERM P−20281)を吸収させ、f.テストライン出現位置に抗アカフジツボモノクローナル抗体(寄託番号:FERM P−20281)を塗布した。また、テストプレートのg.コントロールライン出現位置に市販の抗マウスIgGモノクローナル抗体((株)フナコシ)を塗布した。
【0128】
2.微小物質サンプリング装置を用いて採取した幼生の検出
実施例2に記載の方法を用いて、微小物質サンプリング装置を用いて幼生を採取し、遠心管に集めた(図5を参照のこと)。
次に、簡易型ホモジナイザー((有)アイ・エス・オー及びアズワン(株))を用いて、遠心管内に存在する幼生を氷上にて破砕し、約5分間、その遠心管を静置した。作製したテストプレートのa.試料滴下部に、上清100μlを滴下し、約10分間テストプレートを静置した(図6を参照のこと)。
ここで、イムノクロマト法の原理としては、以下の通りである。テストプレートの試料滴下部に試料溶液(上清)を滴下すると、試薬含有部に含まれる金コロイド標識抗アカフジツボ抗体が溶解し、試料溶液中のアカフジツボキプリス幼生由来の抽出物と複合体を形成する。これらの複合体は展開部を毛細管現象により移動し、テストライン出現位置に固定化された抗アカフジツボ抗体に捕捉され、金コロイドによる赤紫色のラインが出現する。一方、試料溶液中のアカフジツボ幼生の有無に関わらず、余剰の金コロイド標識抗体が展開部をさらに移動し、コントロールライン出現位置に固定化された抗マウスIgG抗体に捕捉され、赤紫色のラインを形成する。このラインの有無により、試料溶液が展開部を正常に移動したことを確認できる。
【0129】
3.結果
図6の左側に示すように、アカフジツボのキプリス幼生が存在する場合は、f.テストライン出現位置に、赤紫色のラインが認められた。一方、図6の右側に示すように、アカフジツボのキプリス幼生が存在しない場合は、f.テストライン出現位置に、ラインは認められなかった。
【0130】
以上より、微小物質サンプリング装置を用いて採取したアカフジツボキプリス幼生は、本発明の検出方法を用いることによって同定できることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の一実施形態における微小物質サンプリング装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態における微小物質サンプリング装置の構成を示す模式図である。
【図3a】本発明の一実施形態における微小物質サンプリング装置の構成を示す模式図である。
【図3b】本発明の一実施形態における微小物質サンプリング装置の構成を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態における微小物質検出システムの構成を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態において、微小物質サンプリング装置の操作手順を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態において、試作した微小物質サンプリング装置を用いて採取した幼生の、検出操作手順及び検出結果を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態における、簡易式微小物質サンプリング装置の構成を示す模式図である。
【図8】本発明の一実施形態において、試作した微小物質サンプリング装置の写真である。
【図9】本発明の一実施形態において、試作した微小物質サンプリング装置の設計図である。
【図10】本発明の一実施形態において、試作した微小物質サンプリング装置の設計図である。
【図11】本発明の一実施形態において、試作した微小物質サンプリング装置の設計図である。
【図12】本発明の一実施形態において、試作した微小物質サンプリング装置の設計図である。
【図13】本発明の一実施形態において、試作した微小物質サンプリング装置の設計図である。
【図14】本発明の一実施形態において、試作した微小物質サンプリング装置を用いて実験した時の、現場の写真である。
【図15】本発明の一実施形態において、試作した微小物質サンプリング装置を用いて実験した時の、現場の写真である。
【図16】本発明の一実施形態において、試作した微小物質サンプリング装置の詳細を示す写真である。
【図17】本発明の一実施形態において、試作した微小物質サンプリング装置の詳細を示す写真である。
【符号の説明】
【0132】
10 微小物質採取装置 11 第1のフィルター
12 第2のフィルター 13 第1の筒状部材
14 コック 15 第1の開口部
16 第2の開口部
20 分離装置 21 漏斗状部材
22 第3の開口部 23 第4の開口部
24 第2の筒状部材 25 第3のフィルター
26 第4のフィルター 27 第5の開口部
28 第6の開口部 29 押さえリング
30 容器 31 第1の流出口
32 弁(第1の手段) 33 第2の流出口
34 弁(第2の手段) 35 第7の開口部
36 ポンプ(供給手段) 37 弁(第3の手段)
38 供給口 39 第5のフィルター
100 微小物質サンプリング装置
200 微小物質サンプリング装置
300 微小物質サンプリング装置
400 微小物質破砕装置
500 微小物質検出装置
600 微小物質検出システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の微小物質を採取するための装置であって、
第1の開口部と、前記第1の開口部より狭い第2の開口部を有し、前記第1の開口部から前記第2の開口部に向けて次第に断面寸法が小さくなるように構成された第1のフィルターと、
前記第1の開口部に装着され、前記第1のフィルターよりも目の粗い第2のフィルターと、
前記第2の開口部に装着され、開閉可能なコックが設けられた第1の筒状部材と、
を備えることを特徴とする微小物質サンプリング装置。
【請求項2】
前記微小物質が、微小水生生物の幼生であって、
前記第1のフィルターが、20〜2000μmのメッシュからなり、
前記第2のフィルターが、300〜2000μmのメッシュからなること、
を特徴とする請求項1に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項3】
前記微小物質が、フジツボ類のキプリス幼生であって、
前記第1のフィルターが、140〜280μmのメッシュからなり、
前記第2のフィルターが、400〜600μmのメッシュからなること、
を特徴とする請求項2に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項4】
前記微小物質が、イガイ類のペディベリジャー幼生であって、
前記第1のフィルターが、120〜220μmのメッシュからなり、
前記第2のフィルターが、350〜550μmのメッシュからなること、
を特徴とする請求項2に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項5】
前記微小物質が、クダウミヒドラ類のアクチヌラ幼生であって、
前記第1のフィルターが、200〜2000μmのメッシュからなり、
前記第2のフィルターが、1000〜2000μmのメッシュからなること、
を特徴とする請求項2に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項6】
第3の開口部と、前記第3の開口部より広い第4の開口部を有し、前記第3の開口部から前記第4の開口部に向けて次第に断面寸法が大きくなるように構成された漏斗状部材と、
第5の開口部と第6の開口部を有する第2の筒状部材と、
前記第2の筒状部材の開口部又は内部に設けられた第3のフィルターと、
を備え、
前記第3の開口部は、前記第1の筒状部材を通じて前記第2の開口部に着脱可能であり、
前記第5の開口部は、前記漏斗状部材を通じて前記第4の開口部に着脱可能であること、
を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項7】
前記第2の筒状部材の開口部又は内部に複数のフィルターを備えることを特徴とする請求項6に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項8】
前記第5の開口部に第3のフィルターを備え、前記第6の開口部に第4のフィルターを備えることを特徴とする請求項6又は7に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項9】
前記微小物質が、微小水生生物の幼生であって、
前記第3のフィルターが、20〜300μmのメッシュからなること、
を特徴とする請求項6に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項10】
前記微小物質が、フジツボ類のキプリス幼生であって、
前記第3のフィルターが、140〜240μmのメッシュからなること、
を特徴とする請求項9に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項11】
前記微小物質が、イガイ類のペディベリジャー幼生であって、
前記第3のフィルターが、120〜220μmのメッシュからなること、
を特徴とする請求項9に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項12】
前記微小物質が、クダウミヒドラ類のアクチヌラ幼生であって、
前記第3のフィルターが、200〜300μmのメッシュからなること、
を特徴とする請求項9に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項13】
前記微小物質が、フジツボ類のキプリス幼生又はフジツボ類のノープリウス幼生であって、
前記第3のフィルターが、140〜240μmのメッシュからなり、
前記第4のフィルターが、100〜140μmのメッシュからなること、
を特徴とする請求項9に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項14】
前記微小物質が、イガイ類のD型幼生、イガイ類のべリコンカ幼生、又はイガイ類のペディベリジャー幼生であって、
前記第3のフィルターが、120〜220μmのメッシュからなり、
前記第4のフィルターが、20〜120μmのメッシュからなること、
を特徴とする請求項9に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項15】
第7の開口部を有し、前記第7の開口部の辺縁と前記第1の開口部が着脱可能であって、前記第7の開口部の辺縁と前記第1の開口部が密着した場合に前記第1のフィルター、前記第1の筒状部材、及び前記漏斗状部材を内部に収容可能な容器と、
前記容器に設けられ、前記容器内の液体を外部に流出させるための第1の流出口と、
を備え、
前記第1の流出口は、前記第7の開口部の辺縁と前記第1の開口部が密着し、前記第1のフィルター、前記第1の筒状部材、前記漏斗状部材、並びに、前記第3のフィルター又は前記第3のフィルター及び前記第4のフィルターを備えた第2の筒状部材を前記容器内部に収容したとき、前記第1のフィルターの半分以上の高さになるように前記容器に設けられていること、
を特徴とする請求項6〜14のいずれか1項に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項16】
前記第1の流出口に設けられ、前記容器内の液体を、前記容器の外部に排出する流量を調節する第1の手段を備えることを特徴とする請求項15に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項17】
前記容器に設けられ、前記容器内の液体を外部に流出させるための第2の流出口と、
前記第2の流出口に設けられ、前記容器内の液体を、前記容器の外部に排出する流量を調節する第2の手段と、
を備えることを特徴とする請求項15又は16に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項18】
前記第2のフィルターに微小物質を含む液体を供給する供給手段と、
前記供給手段に設けられ、前記第2のフィルターに供給する液体の流量を調節する第3の手段と、
を備えることを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項19】
前記第1の流出口、前記第2の流出口、又は前記第1の流出口及び前記第2の流出口の両方に装着され、前記第1のフィルターよりも目の細かい第5のフィルターを備えることを特徴とする請求項15〜18のいずれか1項に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項20】
前記漏斗状部材と前記第2の筒状部材とが、一体形成されていることを特徴とする請求項6〜19のいずれか1項に記載の微小物質サンプリング装置。
【請求項21】
請求項1に記載の微小物質サンプリング装置を使用する方法であって、
前記第1の筒状部材に設けられたコックを閉じる工程と、
前記第1のフィルターに前記第1の開口部から微小物質を含む液体を供給する工程と、
前記第1のフィルターを液体中に浸して、前記第1のフィルターに捕捉された微小物質を前記第2の開口部付近に溜める工程と、
前記微小物質サンプリング装置を液体中から取り出す工程と、
前記コックを開いて、前記第2の開口部付近に溜めた微小物質を前記第2の開口部から排出する工程と、
を包含することを特徴とする使用方法。
【請求項22】
請求項6に記載の微小物質サンプリング装置を使用する方法であって、
前記第1の筒状部材に設けられたコックを閉じる工程と、
前記第1のフィルターに前記第1の開口部から微小物質を含む液体を供給する工程と、
前記第1のフィルターを液体中に浸して、前記第1のフィルターに捕捉された微小物質を前記第2の開口部付近に溜める工程と、
前記微小物質サンプリング装置を液体中から取り出す工程と、
前記コックを開いて、前記第2の開口部付近に溜めた微小物質を前記第2の開口部から排出する工程と、
前記第1のフィルターの目合いと同じ目合いの第3のフィルター、又は、前記第1のフィルターの目合いよりも細かい第3のフィルターに、前記第2の開口部から排出した前記微小物質を含む液体を供給する工程と、
前記第3のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程と、
を包含することを特徴とする使用方法。
【請求項23】
前記第3のフィルターの目合いよりも細かい目合いの第4のフィルターに、前記第3のフィルターを通過した液体を供給する工程と、
前記第4のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程と、
を包含することを特徴とする請求項22に記載の使用方法。
【請求項24】
請求項15に記載の微小物質サンプリング装置を使用する方法であって、
前記第1の筒状部材に設けられたコックを開く工程と、
前記第1のフィルターに前記第1の開口部から微小物質を含む液体を供給する工程と、
前記第1のフィルターを前記容器から取り出す工程と、
前記第1のフィルターから前記第3のフィルターを取り外す工程と、
前記第3のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程と、
を包含することを特徴とする使用方法。
【請求項25】
請求項17に記載の微小物質サンプリング装置を使用する方法であって、
前記第1の筒状部材に設けられたコックを開く工程と、
前記第1のフィルターに前記第1の開口部から微小物質を含む液体を供給する工程と、
前記第2の手段を用いて前記第2の流出口からの液体の流出量を調整することにより、前記容器に前記液体を所定量維持する工程と、
前記第1のフィルターを前記容器から取り出す工程と、
前記第1のフィルターから前記第3のフィルターを取り外す工程と、
前記第3のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程と、
を包含することを特徴とする使用方法。
【請求項26】
第4のフィルターに、前記第3のフィルターを通過した液体を供給する工程を包含し、
前記筒状部材から前記第4のフィルターを取り外す工程と、
前記第4のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程と、
を包含することを特徴とする請求項24又は25に記載の使用方法。
【請求項27】
第5のフィルターに、前記第1のフィルターを通過した液体、前記第3のフィルターを通過した液体、又は前記第4のフィルターを通過した液体を供給する工程と、
前記第5のフィルターに捕捉された微小物質を回収する工程と、
を包含することを特徴とする請求項26に記載の使用方法。
【請求項28】
ポンプを用いて、前記第1の開口部に微小物質を含む前記液体を供給することを特徴とする請求項21〜27のいずれか1項に記載の使用方法。
【請求項29】
前記微小物質が、フジツボ類のキプリス幼生、イガイ類のペディベリジャー幼生、又はクダウミヒドラ類のアクチヌラ幼生であることを特徴とする請求項21〜28のいずれか1項に記載の使用方法。
【請求項30】
水中の微小物質を採取する微小物質サンプリング装置と、
前記微小物質サンプリング装置により得られた微小物質を検出する微小物質検出装置と、
を備えることを特徴とする微小物質検出システム。
【請求項31】
前記微小物質が水生生物であって、
前記微小物質検出装置は、前記水生生物に特異的に反応する抗体を用いて、前記水生生物を検出する手段を備えること、
を特徴とする請求項30に記載の微小物質検出システム。
【請求項32】
前記水生生物が、フジツボ類のキプリス幼生、イガイ類のペディベリジャー幼生、又はクダウミヒドラ類のアクチヌラ幼生であることを特徴とする請求項31に記載の微小物質検出システム。
【請求項33】
さらに、前記微小物質サンプリング装置により得られた微小物質を破砕する微小物質破砕装置を備えることを特徴とする請求項30〜32のいずれか1項に記載の微小物質検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−244200(P2009−244200A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93462(P2008−93462)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(507030863)株式会社セシルリサーチ (11)
【Fターム(参考)】