説明

微弱放電発光計測装置

【課題】微弱な放電発光を感度良く安全に測定して、測定器を破壊させること無しに絶縁破壊直前の現象を取得する。
【解決手段】本発明は、計測対象である絶縁ガスを密閉し、かつ放電発光を測定する観測窓を有する圧力容器と、この圧力容器内に設置して、電源より電圧を印加して不平等電界を発生させる電源側電極及び接地側電極を有する電極系と、電源側電極と接地側電極の間に設置した固体絶縁物と、この固体絶縁物上の帯電を除去する帯電除去装置とを備えて、両電極間に電圧を印加して放電発光を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電力分野や電気絶縁、高電圧分野、あるいは放電物理を取り扱う分野で、微弱な放電発光を絶縁破壊をさせることなく感度よく安全に測定することが求められている。本発明は、新しい絶縁ガスや既存の絶縁ガスの絶縁破壊メカニズムを検討したり、絶縁破壊直前の放電現象を観測することにより機器の絶縁診断技術を考えるための放電発光像の観測に用いる微弱放電発光計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機器の高電圧化、コンパクト化が要求される中、高電界化が進み、機器の絶縁は厳しくなっている。機器の絶縁破壊を未然に防ぐ、あるいは絶縁破壊機構を詳細に検討するために、放電発光を観測することが行われるが、微弱でnsオーダの高速現象を感度よく測定することが望まれている(そのため、増幅器のゲインを上げて測定することが行われる)。
【0003】
図6は、特許文献1に記載の従来の部分放電検出装置を示す概略構成図である。測定対象とする電力ケーブルの絶縁材料などの試料を、暗所内に設置する。さらにこの暗所に設けられた観測窓に、発光測定装置(光電子増倍管)の発光測定部を隙間なく密着させ、この発光測定装置に、発光量を表示することができるカウンタを接続する。そして、試料に電圧を印加したときの発光量を測定する。この発光量は、発光測定装置にて放電光の波長に相当する波長300〜800nmの発光を検出すると同時に、カウンタに発光量が表示されるようになっている。
【0004】
絶縁破壊の前駆現象である部分放電は、微弱な発光であり、かつ高速の現象であるから、一般に目視では観測できない。そのため、光学装置を用いて、イメージインテンシファイヤでゲインを上げ、かつトリガ機能とゲート機能を利用して、あるタイミングの像を捕らえて観測される。絶縁破壊が絶対におこらないと仮定できれば、ゲインを最大限にして発光強度を増幅して観測できる。一方で、そのような状況で絶縁破壊が起こると破壊発光は非常に強く、測定器が壊れる恐れがあり、微弱高速放電現象を感度よく安全に測定することが困難であった。また、測定器の価格は非常に高価であるため、故障した際の経済的損失は大きい。このために、測定器の保護を考えると、これまで安心してゲインを上げた絶縁破壊電圧近傍の部分放電観測ができなかった。
【特許文献1】特開平11−231013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、微弱な放電発光を感度良く安全に測定して、測定器を破壊させること無しに絶縁破壊直前の現象を取得することを目的としている。
【0006】
また、本発明は、ガス絶縁物の絶縁耐力を調べ、あるいは絶縁破壊メカニズムを調べるだけでなく、ガス中の固体絶縁物の沿面放電、あるいは真空中の放電現象を調べることも可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の微弱放電発光計測装置は、計測対象である絶縁ガスを密閉し、かつ放電発光を測定する観測窓を有する圧力容器と、この圧力容器内に設置して、電源より電圧を印加して不平等電界を発生させる電源側電極及び接地側電極を有する電極系と、電源側電極と接地側電極の間に設置した固体絶縁物と、この固体絶縁物上の帯電を除去する帯電除去装置とを備えて、両電極間に電圧を印加して放電発光を測定する。
【0008】
絶縁ガスとして、空気、SF6、窒素、或いは二酸化炭素を用い、かつ、その圧力を正圧或いは負圧として測定する。電極系は、針対平板、棒対平板、針対球、棒対球、棒対棒、或いは針対針のいずれかの組み合わせとして不平等電界を形成する。電極間に電圧を印加する電源は、正と負極性のどちらか又は両方のインパルス電圧を発生し、或いは、正と負極性のどちらか又は両方の直流又は交流電圧を発生させる。固体絶縁物は、接地側電極に接触させ、或いは少し離して設置する。また、圧力容器内壁を覆う別の固体絶縁物を設ける。固体絶縁物及び別の固体絶縁物としてそれぞれ、エポキシ、テフロン(登録商標)、ナイロン(登録商標)、アクリルから成る板状、或いはポリアミド、ポリイミド、PETから成るフィルム状の有機絶縁物、或いは無機絶縁物を用いる。
【0009】
帯電除去装置は、電極間の固体絶縁物だけでなく、圧力容器内壁を覆う別の固体絶縁物上の帯電を除去する。この帯電除去装置は、インパルスや直流電圧の場合、印加電圧と反対の極性のコロナを発生させることにより、或いは、イオン発生器により帯電と逆極性のイオンを発生させることにより帯電を除去し、或いは、接地金属を絶縁物上に乗せて強制的に接地をとる。
【0010】
接地側電極に部分放電電流を測定できるように電流検出回路を取り付け、或いは、圧力容器内に放電信号検出センサを取り付け、かつ、この電流検出回路或いは放電信号検出センサからの信号を測定するトリガ信号発生回路は、トリガ信号として光学測定機器を動作させるための信号を発生する。トリガ信号発生回路は、光学測定機器の動作時間のタイミングを現象により変化させるタイミングコントローラを介して光学測定機器を動作させる。発光像を観測する光学測定機器として、イメージインテンシファイヤを持つCCDカメラ、ストリークカメラ、或いはフレーミングカメラを用いる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微弱放電発光の測定および絶縁破壊直前の発光を取得できるようになり、放電物理現象や絶縁破壊現象の解明、及び絶縁診断技術開発に貢献できる。また、高価な光学測定装置の保護が可能となり経済的損失を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、例示に基づき本発明を説明する。図1は、本発明に基づき構成される微弱放電発光計測装置の構成を示す図である。計測対象である絶縁ガスは、圧力容器内に密閉する。一般に、機器の絶縁異常は異物混入や製造不良で形成される高電界部により発生する。この高電界部の電界分布は平等でなく、不平等であるために、部分放電が発生する。絶縁ガスは、その圧力を変化できるような構造として、正圧だけでなく真空などの負圧としても測定できる。
【0013】
このような圧力容器内に、電源側電極及び接地側電極を有する電極系を設置する。この電極系は、不平等な高電界部を模擬するために、針対平板や棒対平板、針対球、棒対球あるいは棒対棒、針対針などの組み合わせとして、不平等電界を形成する。電極間のギャップは1cm以上である。なお、本発明は、絶縁破壊させることなく、部分放電を計測するものであり、電極系は、必ずしも一対でなくても良い。
【0014】
圧力容器は、少なくとも1組以上の対面する観測窓を有し、その観測窓を通して放電発光を観測する。このような不平等電界を形成する電極間に固体絶縁物を設置する。これによって、電圧を印加しても絶縁破壊を発生することなく、発光強度の強い部分放電発光像を測定することが可能となる。
【0015】
固体絶縁物は、接地側の電極に接触させても良いし、或いは少し離しても良いが、電源側の電極から放電進展の観測に影響しない位置に設置する。また、容器内壁を覆う別の固体絶縁物を設ける。電極間及び容器内壁の固体絶縁物は、エポキシや、テフロン(登録商標)、ナイロン(登録商標)、アクリルなどの板状、或いはポリアミド、ポリイミド、PETなどのフィルム状の有機絶縁物あるいは、ガラスなどの無機絶縁物を使用する。これら固体絶縁物は、そこに印加電圧が全て加わっても絶縁破壊しない厚さとすることが必要である。一般に固体絶縁物の絶縁耐力は1MV/cm以上であることが知られているから、1mmの厚さで100kVの電圧に耐えることができる。それ故に、使用する絶縁物の絶縁耐力に依存するが、数mm以上の厚みがあれば数100kVまでの電圧に耐えられる。
【0016】
電極間に電圧を印加する電源は、正と負極性のどちらかあるいは両方のインパルス電圧を発生できる。或いは、正と負極性のどちらかあるいは両方の直流や交流電圧を発生させる電源を使用することもできる。
【0017】
この装置内には、電極間及び容器内壁の固体絶縁物上の帯電を除去する装置を備えている。帯電除去装置は、インパルスや直流電圧の場合、印加電圧と反対の極性のコロナを発生させることにより、或いはイオン発生器により帯電と反対極性のイオンを帯電を中和するだけ発生させて帯電を除去する。或いは、接地金属を絶縁物上に乗せて強制的に接地をとることもできる。この除去装置の動作は、帯電状態を検出する帯電測定センサ(表面電位計)を内部に取り付け、その信号に基づき帯電除去装置用のコントローラを制御することや、ある回数経つと自動的に動作させる方式を選ぶことができる。
【0018】
また、図示の装置は、接地側電極に部分放電電流を測定できるように電流検出回路を取り付ける。或いは、圧力容器内に放電信号検出センサを取り付ける。この放電信号検出センサとしては、光電子増倍管を用いて放電発光の強度波形の時間変化を測定する。あるいは、放電放射電磁波測定用あるいは弾性波測定用のセンサやアンテナを取り付ける。
【0019】
トリガ信号発生回路は、電流検出回路或いは放電信号検出センサからの信号を測定し、かつ、これら信号をトリガ信号として光学測定機器を動作させるための信号を発生する。タイミングコントローラ(遅延回路)は、その時間コントロールにより、光学測定機器の動作時間のタイミングを現象により変化させる。発光像を観測する光学測定機器(カメラ)としては、イメージインテンシファイヤを持つCCDカメラやストリークカメラやフレーミングカメラなどを用いる。パソコンは、トリガ信号発生回路で測定した各種波形と、光学測定機器の取得結果を保存し、かつ、光学測定機器の動作条件を変更するためのソフトを動作させる。
【実施例】
【0020】
図2は、絶縁ガスとして大気を用いた場合の絶縁破壊を示す図である。(A)は固体絶縁物無しの場合を、(B)は電極間に固体絶縁物ありの場合を示している。固体絶縁物無しの場合は45kVでも絶縁破壊することがあったものが、電極間に固体絶縁物を配置することで、60kVでも繰り返し電圧印加しても絶縁破壊しなくなった。これによって、ゲインを上げて、かつ高い電圧を印加しても安全に発光を測定することができる。
【0021】
図3は、従来技術による放電データを示す図である。(A)はゲイン1の場合を、かつ(B)はゲイン30の場合を示している。いずれの場合も、印加電圧90kVであり、部分放電に留まっている。ゲイン1では発光像が暗く不明瞭でわかりづらいが、ゲインを上げると強度が上がり発光像が見やすくなるが絶縁破壊時の機器のダメージは大きくなる。観測感度の向上と絶縁破壊時の機器のダメージはトレードオフの関係である。(C)に示すように、印加電圧を5kV上昇させると絶縁破壊が発生し、破壊時にはゲイン1でも観測画面全体が強い光を受けており、ゲインをさらに上げていると装置が焼損する可能性があることがわかる。このように、ゲインをあげて明るく測定したいが、絶縁破壊すると装置は壊れることになるので、ゲインを上げた測定は困難となる。なお、今回の装置のゲイン設定値と増幅倍率の関係は図7のようになっており、ゲイン1では数10倍、ゲイン30では数100倍、ゲイン50では数1000倍の増倍である。
【0022】
図4及び図5は、徐々にゲインを上げた場合に観測される発光像を示している。図4の(A)(B)は、それぞれゲイン10,30の場合を示し、かつ図5の(A)(B)は、それぞれゲイン50,64の場合を示している。ゲインを上げると明るくはっきり発光像を観測できることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に基づき構成される微弱放電発光計測装置の構成を示す図である。
【図2】絶縁ガスとして大気を用いた場合の絶縁破壊を示す図である。
【図3】従来技術による放電データを示す図である。
【図4】徐々にゲインを上げた場合に観測される発光像を示す図である。
【図5】徐々にゲインを上げた場合に観測される発光像を示す図である。
【図6】特許文献1に記載の従来の部分放電検出装置を示す概略構成図である。
【図7】ゲイン設定値と増幅倍率の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象である絶縁ガスを密閉し、かつ放電発光を測定する観測窓を有する圧力容器と、
前記圧力容器内に設置して、電源より電圧を印加して不平等電界を発生させる電源側電極及び接地側電極を有する電極系と、
前記電源側電極と接地側電極の間に設置した固体絶縁物と、
前記固体絶縁物上の帯電を除去する帯電除去装置と、を備えて、
両電極間に電圧を印加して放電発光を測定する微弱放電発光計測装置。
【請求項2】
前記絶縁ガスは、その圧力を正圧或いは負圧として測定する請求項1に記載の微弱放電発光計測装置。
【請求項3】
前記電極系は、針対平板、棒対平板、針対球、棒対球、棒対棒、或いは針対針のいずれかの組み合わせとして不平等電界を形成する請求項1に記載の微弱放電発光計測装置。
【請求項4】
前記電極間に電圧を印加する電源は、正と負極性のどちらか又は両方のインパルス電圧を発生し、或いは、正と負極性のどちらか又は両方の直流又は交流電圧を発生させる請求項1に記載の微弱放電発光計測装置。
【請求項5】
前記固体絶縁物は、前記接地側電極に接触させ、或いは少し離して設置し、かつ、そこに印加電圧が全てかかっても絶縁破壊しない厚みにした請求項1に記載の微弱放電発光計測装置。
【請求項6】
前記圧力容器内壁を覆う別の固体絶縁物を設けた請求項5に記載の微弱放電発光計測装置。
【請求項7】
前記固体絶縁物及び前記別の固体絶縁物としてそれぞれ、エポキシ、テフロン(登録商標)、ナイロン(登録商標)、アクリルから成る板状、或いはポリアミド、ポリイミド、PETから成るフィルム状の有機絶縁物、或いは無機絶縁物を用いる請求項6に記載の微弱放電発光計測装置。
【請求項8】
前記帯電除去装置は、前記固体絶縁物だけでなく、前記別の固体絶縁物上の帯電を除去する請求項6に記載の微弱放電発光計測装置。
【請求項9】
前記帯電除去装置は、インパルスや直流電圧の場合、印加電圧と反対の極性のコロナを発生させることにより帯電を除去し、或いは、イオン発生器により帯電と逆極性のイオンを発生させることにより帯電を除去し、あるいは接地金属を絶縁物上に乗せて強制的に接地をとる請求項8に記載の微弱放電発光計測装置。
【請求項10】
前記接地側電極に部分放電電流を測定できるように電流検出回路を取り付け、或いは、圧力容器内に放電信号検出センサを取り付け、かつ、前記電流検出回路或いは前記放電信号検出センサからの信号を測定するトリガ信号発生回路は、トリガ信号として光学測定機器を動作させるための信号を発生する請求項1に記載の微弱放電発光計測装置。
【請求項11】
前記トリガ信号発生回路は、前記光学測定機器の動作時間のタイミングを現象により変化させるタイミングコントローラを介して光学測定機器を動作させる請求項10に記載の微弱放電発光計測装置。
【請求項12】
発光像を観測する光学測定機器として、イメージインテンシファイヤを持つCCDカメラ、ストリークカメラ、或いはフレーミングカメラを用いる請求項10に記載の微弱放電発光計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−300357(P2009−300357A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157586(P2008−157586)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】