説明

微生物による胃腸管への栄養素の温度誘導送達

本発明は、一般に健康と福祉の分野に関する。特に、本発明は、温度感受性微生物、及び体の特定の部位に化合物、例えば栄養素を送達する組成物の調製における媒体としての該温度感受性微生物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に健康と福祉の分野に関する。特に、本発明は、温度感受性微生物、及び体の特定の部位に化合物、例えば栄養素を送達する組成物の調製における媒体としての該温度感受性微生物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ある化合物を食品マトリックスに組み込むことは、これらの化合物の特異性、又は食品調製それ自体のため、今日の食品産業にとっては困難な場合がある。例えば、これらの化合物は、加工感受性であり、貯蔵又は送達中の安定性に乏しく、他の食品成分と相互作用して、例えば脂質酸化及び/若しくは変色し、食味に悪影響を与え、胃液において安定性に乏しく、並びに/又は腸で吸収されにくい可能性がある。
【0003】
これまで、タンパク複合体、野菜油、又はゲルビーズ等の栄養素送達媒体がいくつか開発されてきた。しかしながら、感湿性、食物マトリックス不適合、加工感受性、担体からの漏出、及び胃腸管での送達物の欠落又は不足により、それらの使用はある応用に限定されている。
【0004】
上に列挙した問題点を克服しつつ、体の特定の場所に感受性化合物、特に栄養素を安定して送達できる媒体は有用であろう。
【0005】
胃腸管は、生物が健康と福祉の維持のために利用する栄養化合物を摂取する主要な器官である。腸管には、Bacteroides、Clostridium、Fusobacterium、Eubacterium、Escherichia、Ruminococcus、Peptococcus、Pepstreptococcus、Lactobacillus、及びBifidobacterium等の、共生微生物又は相利微生物が定着しており、これら微生物の大きな役割の1つは、食物吸収の抑制及び促進、細胞増殖刺激、有害細菌の増殖抑制、免疫系の強化、いくつかの疾病の予防等の有益な働きを幅広く行うことである。
【0006】
過去に、プロバイオティクス微生物は、いくつかの菌株でヒトと動物の食物摂取において価値のある特性を示すことが発見されたため、大変注目された。プロバイオティクスは、個体の健康を促進する生きた微生物(細菌及び酵母)であると考えられる。
【0007】
最近、WO03053474において、腸の特定の部分に物質を直接送達するための細菌、すなわちLactobacilli、Bifidobacteria、Streptococci、Pediococci、Enterococci、Lactococci、Oenococci、Staphylococci、Bacteroidesの使用が開示された。この発明は、この目的を達成するために、胃液及び/又は胆汁に対する特異性を有し、これらに対する抵抗性を変更できる微生物の使用を開示した。
【0008】
しかしながら、胃液及び胆汁の組成は、年齢、健康状態、個体間及び種間での違いにより多様である。生物の幅広いスペクトルに対応して、腸の様々な場所に化合物に送達する新しいツールを開発する必要があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、消費後に体内で遊離される化合物、特に栄養素のための送達システムを当技術分野に提供するものである。加えて、本発明は加工感受性化合物を製品の生産及び貯蔵の間保護して、化合物が、例えば脂質酸化及び/又は変色を招く他の食品成分と相互作用を起こさないようにし、食味を向上させ、例えば食品と一緒に安全に消費できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは驚くことに、これらの目的が、独立請求項の主題によって成し遂げられることを見出した。
【0011】
従属クレームにより本発明を更に発展させる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】S.cerevisiae溶解突然変異体、及び野生型パン酵母(Levure Boulangere Bleue(LBB)、例えばLesaffre、Marcq en Baroeul、France)において、37℃での細胞溶解誘発時に、595nmの相対蛍光単位(RLU)で測定した細胞内アデニル酸キナーゼ(AK)の遊離を示す。
【図1B】K.marxianus溶解突然変異体、及び野生型(L46)において、37℃での細胞溶解誘発時に、595nmの相対蛍光単位(RLU)で測定した細胞内AK遊離を示す。
【図1C】S.pombe溶解突然変異体(Sp132)、及び野生型の対照(Sp968)において、37℃で595nmの相対蛍光単位(RLU)で測定した細胞内AKの遊離示す。
【図2】Saccharomyces cerevisiaeの野生型株、及び突然変異体株による模擬十二指腸液における非許容温度(37℃)での生細胞タイターと鉄遊離測定を示す。
【図3】胃と小腸の多コンパートメントモデルの概要図を示す。(a)胃のコンパートメント、(b)十二指腸のコンパートメント、(c)空腸のコンパートメント、(d)回腸のコンパートメント、(e)基本ユニット、(f)ガラス被覆、(g)柔軟壁、(h)回転ポンプ、(i)水浴、(j)蠕動ポンプ、(l、m)pH電極、(n、o)シリンジポンプ、(p)中空繊維装置。(Larrssonら(1997)Estimation of the bioavailability of phosphorus in cereals using a dynamic in vitro gastrointestinal model J.Sci.Food Agric.、第74巻:99〜106頁より)。
【図4】動的な胃腸管モデルでの、野生型又は細胞溶解突然変異体酵母を1.6%添加したプレーンヨーグルト消化後のS.cerevisiaeの生存割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、約32〜45℃の温度範囲にさらされた時、完全に又は少なくとも部分的に溶解し、体の一部、特に胃腸管に化合物、特に栄養素を送達するための組成物の調製において媒体として使用できる温度感受性微生物に関する。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、部分的な溶解とは、微生物の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、最も好ましくは少なくとも40%、理想的には温度感受性微生物の少なくとも95%が、37℃の温度に5分〜24時間さらされた後に溶解することを意味する。微生物が全て、37℃の温度に24時間未満の時間さらされた後に溶解することが特に好ましい。温度感受性微生物が全て、37℃の温度に5分〜24時間さらされた後に溶解する場合、完全な溶解が達成される。
【0015】
少なくとも部分的な溶解には、細胞壁又は細胞膜が透過性となり及び/又は弱体化し、送達された化合物が細胞から離れることができるが、細胞集団の一部分は存続できる条件も含む。
【0016】
微生物は、少なくとも5分間、約32〜45℃の範囲の温度にさらされた後に少なくとも部分的に溶解する場合、温度感受性と見なされる。
【0017】
このような溶解の試験は、当業者に知られる微生物用のいかなる種類の標準増殖培地において行ってもよい。例えば、YPDブロスを使用してもよい。実施例2にこのような試験を行う1つの例を挙げる。
【0018】
本発明の一実施形態は、約32〜45℃の温度範囲において少なくとも部分的に溶解する温度感受性微生物の、胃腸管に栄養素を送達するための組成物の調製における媒体としての使用である。
【0019】
この方法によれば、化合物のバイオアベイラビリティを改善しながら、体の特定領域、例えば胃腸管における、化合物、例えば栄養素の標的化遊離が可能となる。
【0020】
使用することができる微生物は、32〜45℃の温度範囲において少なくとも部分的に溶解する。食品への応用には、使用される微生物が食品等級であることが好ましい。ヒト又は動物での消費を承認されている場合、物質又は微生物は「食品等級」である。
【0021】
本発明の特に好ましい実施形態では、微生物は酵母であり、例えば低温誘導(lti)酵母、好ましくは半子嚢菌酵母種、Ascomycotina又はDeuteromycotinaからなる群から選択される食品等級の酵母である。
【0022】
酵母は、Debaryomyces、Kluyveromyces、Saccharomyces、Yarrowia、Zygosaccharomyces、Candida、Schizosaccharomyces、及びRhodotorulaからなる群から選択されることがより好ましい。
【0023】
例えば、酵母はSaccharomyces cerevisiae(パン酵母)又はKluyveromyces marxianusでもよい。
【0024】
菌株は、温度感受性S.cerevisiae菌株CNCM I−4000、CNCM I−4001、CNCM I−4002、CNCM I−4003、CNCM I−4004、CNCM I−4005、CNCM I−4006、CNCM I−4007、CNCM I−4165、CNCM I−4166、CNCM I−4167、及び/若しくはCNCM I−4168、並びに、温度感受性Kluyveromyces marxianus菌株CNCM I−4009、CNCM I−4010、CNCM I−4011、CNCM I−4160、CNCM I−4161、CNCM I−4162、CNCM I−4163、及び/若しくはCNCM I−4164、又はそれらの組合せが好ましい。
【0025】
菌株は全てブダペスト条約に従い寄託された。
【0026】
酵母は一般に、製品の食味を向上させ、生産が容易で、酵母の増殖培地にある、又は酵母が合成した化合物を効率的に蓄積するという長所を有する。
【0027】
ある状況下では、本発明の目的のために、低温誘導(lti)酵母の使用が更に好ましい場合もある。Lti酵母は、文献、例えば、欧州特許第0487878号、欧州特許第0663441号、又は欧州特許第1148121号に記述されている。Lti酵母は低温で増殖しないため、例えば、冷蔵温度では実質的に発酵が起こらないという長所を有する。
【0028】
あるいは、微生物はまた細菌であってもよく、特に乳酸菌からなる群から選ばれた細菌、特にLactobacilli及び/又はBifidobacteria、好ましくは、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus casei、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium animais、Bifidobacterium lactis、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium pseudocatenulatum、Bifidobacterium catenulatum、又はそれらの混合物、最も好ましくは、温度感受性細菌は、Lactobacillus johnsonii NCC533(CNCM I−1225)、Lactobacillus paracasei NCC2461(CNCM I−2116)、Lactobacillus rhamnosus NCC4007(CGMCC 1.3724)、Bifidobacterium adolescentis NCC251(CNCM I−2168)、Bifidobacterium longum NCC490(CNCM I−2170)、NCC2705(CNCM I−2618)及びNCC3001(ATCC BAA−999)、Bifidobacterium lactis NCC2818(CNCM I−3446)、Bifidobacterium breve NCC2950(CNCM I−3865)、NCC466(CNCM I−3914)菌株由来である。
【0029】
細菌は、多量に生産することが容易で、腸の中に既に自然に存在していることが多いため、体が外来種にさらされないという長所を有する。
【0030】
異なる微生物の混合物を使用してもよい。
【0031】
このような温度感受性微生物は、例えば自然淘汰によって同定してもよい。温度感受性微生物の同定を行い得る実験的アッセイの1つを、実施例1bに記述する。酵母は、例えば、pkc1遺伝子の突然変異により温度感受性にすることができる。
【0032】
あるいは、微生物を他の方法によって温度感受性にしてもよい。例えば、微生物を前処置してもよい。このような前処置は、微生物の生存能力を弱体化させて、全般的な増殖又は耐久能力を低下させることを含んでもよい。例えば、微生物を衝撃処置にかけること、例えば、熱、低温、又は低pH値若しくは高pH値のそれぞれの特定の条件にさらすこと、微生物をファージと一緒にインキュベートすること又は細胞を早期に溶解させる組換えコンストラクトを微生物に導入すること、細胞壁を損傷させる酵素処理を行うこと、プロファージを含有することが分かっている微生物を使用すること、微生物を増殖に好ましくない特定の発酵状件にかけること、SOS応答を誘発すること、又は制御レベル若しくは遺伝子発現レベルで損傷を受けた細胞内のタンパク質を修復する内因性保護ストレス応答システムを不活性化することによって適切な前処置を実施することにより、得られる微生物の生存能力及び/又は腸内の環境条件/変化に対する抵抗性が最終的に低下することになる。
【0033】
更に、温度感受性変異体は、例えば、細菌、又はS.cerevisiae、K.lactis若しくはS.pombe等の半子嚢菌酵母種から、従来の方法(化学薬品又は放射線による突然変異誘発)、及び、望ましくない突然変異の異系交配によって得ることができる。好ましい突然変異は、条件温度感受性細胞溶解表現型を有し、30℃よりも高温で、組み込まれた栄養素を遊離する。このような温度感受性変異体(cly1からcly8)は、文献(Hartwell,L.H.(1967)Macromolecule synthesis in temperature sensitive mutants of yeast J.Bact.第93巻:1662〜1670頁)に既に記述されている。
【0034】
適切な温度感受性Saccharomyces cerevisiae酵母を、遺伝的相補性群cly1、cly2、cly3、cly4、cly5、cly6、cly7、cly8、又はそれらの組合せからなる突然変異株から選択してもよい。
【0035】
温度感受性酵母には、極性増殖、隔壁形成、及び/又は細胞壁完全性の維持を制御する遺伝子に変化があると説明されることが多い。
【0036】
酵母がSaccharomyces cerevisiaeである場合、これらの遺伝子を、BCK1、CDC12、CDC15、CDC31、CDC24、GLC7、GPI7、HSF1、IQG1、KIC1、LST8、MID2、WSC1、MOT2、MPK1、MPT5、SSD1、MSS4、NUD1、PKC1、PMT2、PMT4、PPH22、PPZ1、PPZ2、RHO3及びRHO4、ROM1、ROM2、SRB1、SWI4、SWM1、TIF51A、TSC11、TOR1、TCO89、TAP42、TOR2、BIG1、TUS1、VIG9、WSC1、WSC2、WSC3、YPK1、YPK2、YPK1、YKR2、7つのヤプシン、並びにそれらの組合せからなる群から選択してもよい。
【0037】
酵母がSchizosaccharomyces pombeである場合、遺伝子を、ags1、bgs3、bgs4、cwg1、orb11、cps1、cwg1、cwg2、ehs1、PP2C、psu1、rgf1、rgf3、rho1、sid1、sid2、sid4、spg1及びmob1、並びにそれらの組合せからなる群から選択することが好ましい。
【0038】
温度感受性S.cerevisiae菌株の代表例の1つはcly5突然変異体である。S.cerevisiaeの標的遺伝子はプロテインキナーゼCをコードするPKC1である。ヌクレオチド2871のCからTへの塩基転位型突然変異は、アミノ酸958でのトレオニンからイソロイシンへの変化もたらす。変更されたポリペプチドにより、突然変異体は温度感受性となり、23〜25℃で増殖する場合、培地から栄養素(例えば鉄)を蓄積することができる。しかし37℃で、酵母細胞は分裂できず、ts突然変異が細胞壁の修復と増殖能力に干渉するため溶解する。したがって、適切な食品と一緒に摂取された栄養素に富む生突然変異細胞は、出芽の開始により体の中で溶解し、37℃で体に栄養素を送達する。
【0039】
lti−酵母(低温不活性)菌株が使用され、例えば、上述の方法のうちの1つによって温度感受性となった場合、このようなlti−酵母菌株は、冷蔵貯蔵条件下では発酵しないが、高温でのみ、例えば、室温又はそれ以上の温度で、lti−酵母菌株は増殖を開始するという長所を有することとなる。より高温、例えば35℃よりも高い温度では、lti−酵母菌株は溶解し、その有益な含有物を遊離することとなる。
【0040】
Lti酵母は当技術分野においてよく知られており、欧州特許第0,487,878号には、lti特性、言いかえれば冷蔵中にはあまり活性がないが、これらの温度で生存する特性(Ltiは語句「低温不活性」の頭文字である)を有する酵母菌株の、冷蔵保存後、オーブンで焼く製パンアイテム生産用の膨脹剤としての使用について記述されている。
【0041】
用語「lti」は、本明細書では、低温不活性、つまり、例えば、生地が凍らない14℃又はそれ以下の温度の生地中で生存しているが、実質的に不活性である、及び18℃までのマルトースを含む培地において実質的に不活性である特性を示す酵母を意味すると理解される。
【0042】
したがって本発明の一実施例において、温度感受性微生物は、lti酵母菌株、例えばSaccharomyces cerevisiae菌株CNCM I−4006、CNCM I−4007、CNCM I−4167、CNCM I−4168、CNCM I−4165、若しくはCNCM I−4166、又はKluyveromyces marxianus菌株CNCM I−4160、CNCM I−4161、CNCM I−4162、CNCM I−4163,若しくはCNCM I−4164である。
【0043】
本発明に記載の微生物により送達される化合物は、当技術分野においてよく知られた任意の方法で、微生物に組み込むことができる。
【0044】
栄養素を微生物、特に酵母に組み込む別の手段がある。酵母は生来、酵母の増殖環境に存在する分子を摂取して蓄積でき、又は酵母の代謝活性により前記栄養素を合成して蓄積できる。
【0045】
通常の培養条件下で微生物、特に酵母が蓄積、又は合成しない所望の物質を、例えば、微生物にランダム変異導入法を適用し微生物の遺伝子を変えて、所望の物質をより多く発現する突然変異体を選択することにより合成してもよい。しかし、組換え方法も適用して例えば、対応する遺伝子を内因性のプロモーターより強いプロモーターと連結させる、又は、対象の物質(複数可)をコードする遺伝子(複数可)を、プラスミドを用いて微生物に、又は微生物の染色体に導入することにより、内因性又は外因性の遺伝子の発現を増加させてもよく、場合によっては、対象の遺伝子(複数可)を発現させる強いプロモーターに連結させて、組換え微生物が所望の物質をより多く含むようにしてもよい。
【0046】
例えば、化合物は微生物自体によって、好ましくは微生物の自然な物質代謝の一部として合成されてもよい。
【0047】
微生物を、生物工学の方法、例えば発現ベクターを導入して改変し、微生物にベクターがコードする対象の化合物を生産させてもよい。同様に、微生物による化合物の天然合成を、例えばより強力なプロモーターを導入して増強してもよい。
【0048】
微生物は、また外来の化合物を蓄積してもよい。このような化合物は微生物を培養する増殖培地中に存在してもよい。例えば、酵母は通常、ミネラル及びビタミン等の多くの微量養素を蓄積する。このように、例えば、セレン酵母を容易に調製し、セレン不足を治療又は予防する食事構成を補うために使用してもよい。
【0049】
もちろん、対象の化合物を微生物に組み込むこれらの方法を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
したがって本発明の一実施形態では、化合物、好ましくは栄養素を、これら化合物に富む培地で微生物を増殖させることにより、微生物、好ましくは酵母に組み込む。
【0051】
その代わりに又はそれに加えて、微生物がそれ自体で化合物を微生物が合成してもよい。
【0052】
化合物は、微生物、可能ならば生物工学的改変後の微生物が合成できる、又は、増殖及び/若しくは培養中に微生物が摂取し得るいかなる化合物でもよい。
【0053】
しかしながら、化合物は栄養素であることが好ましい。
【0054】
栄養素は、生物の物質代謝(ヒト、ペット、コンパニオンアニマル及び家畜)において使用される化合物である。送達される栄養素は、細胞溶解微生物を消費する生物がそれ自身では合成することができない、又は、生物が合成できる量では不十分であり、環境から摂取しなければならない化合物であることが好ましい。生物が十分な量を合成できず、外部から得ねばならない栄養素は、生物にとって必須栄養素である。比較的大量に必要とされる栄養素は多量栄養素と呼ばれ、比較的少量で必要とされる栄養素は微量栄養素と呼ばれる。
【0055】
本発明の微生物は多量栄養素又は微量栄養素の両方を送達するために使用されてもよい。
【0056】
典型的には、栄養素は、ミネラル(好ましくは鉄、セレン、亜鉛、クロム、銅)、ビタミン(好ましくは葉酸、ナイアシン、ビタミンC)、植物ポリフェノール(好ましくはカテキン、クロロゲン酸、イソフラボン)、カロテノイド(好ましくはβ−カロテン、アスタキサンチン、ゼアキサンシン、リコピン)、アルカロイド(好ましくはカフェイン)、アミノ酸(好ましくはシステイン、必須アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、リジン、トレオニン、トリプトファン、メチオニン、ヒスチジン、バリン及びフェニルアラニン)、酸化防止剤、芳香化合物(好ましくはレモン油、橙皮油、タイム、ローズマリー油、オリガノ油)、脂質(好ましくは多価不飽和脂肪酸、長鎖多価不飽和脂肪酸、脂肪アミド、グリセロリン脂質、グリセリド)、酵素及び/又はコエンザイム(好ましくはコエンザイムQ10、β‐ガラクトシダーゼ)、非分泌異種タンパク質(好ましくはワクチン)、或いはその混合物からなる群から選択されてもよい。
【0057】
したがって、例えば、微生物は温度感受性lti酵母であり、送達される化合物は多量栄養素でもよい。
【0058】
あるいは、微生物は温度感受性lti酵母であり、送達される化合物は微量栄養素でもよい。
【0059】
微生物は温度感受性lti酵母であり、送達される化合物は、鉄、セレン、亜鉛、クロム、又は銅等のミネラル、例えば鉄でもよい。
【0060】
あるいは、微生物は温度感受性lti酵母であり、送達される化合物は、ビタミン、好ましくは葉酸、ナイアシン、又はビタミンCでもよい。
【0061】
更に、あるいは、微生物は温度感受性lti酵母であり、送達される化合物は、植物性ポリフェノール、好ましくはカテキン、クロロゲン酸、又はイソフラボンでもよい。
【0062】
更に、あるいは、微生物は温度感受性lti酵母であり、送達される化合物は、カロテノイド、好ましくはβ−カロテン、アスタキサンチン、ゼアキサンシン、又はリコペンでもよい。
【0063】
更に、あるいは、微生物は温度感受性lti酵母であり、送達される化合物はアルカロイド、例えばカフェインでもよい。
【0064】
微生物は、消費者に受け入れられる製品の形態で、例えば摂取可能な担体又は支持体それぞれの形態で、容易に投与される。
【0065】
本発明の使用によって調製された組成物はヒト又は動物による使用を意図したいかなる組成でもよい。
【0066】
組成物は、ヒト、ペット、コンパニオンアニマル及び/又は家畜による使用を意図することが好ましい。
【0067】
組成物は、食品成分、健康補助食品、栄養補助食品、飲料、動物用食品組成物、化粧品組成物、又は医薬組成物であってもよい。
【0068】
典型的な化粧品組成物には例えば、栄養美容補助食品、栄養化粧品、経口化粧品、栄養補助食品、経口補助食品、及び経口スキンケア及び/又はヘアケア製品等の美容補助食品がある。
【0069】
典型的な食品組成は、穀物バー、乳児用穀物、及び幼児用穀物等の穀物製品、又はチーズ、牛乳、発酵乳飲料、牛乳ベースの発酵製品、カード、アイスクリーム、ヨーグルト、粉乳等の冷蔵乳製品、並びに乳児用調合乳及び幼児用牛乳等の強化粉末飲料、飲料、スポーツ栄養及び飲料組成物、スープ、調理用製品、ペットフード、錠剤、液状細菌懸濁物、乾燥経口栄養補助食品、液状経口栄養補助食品、乾燥経管栄養用組成物及び/又は液状経管栄養用組成物からなる群から選択してもよい。
【0070】
このような組成物は、送達される物質(複数可)を既に含んでいる、又はこのような物質(複数可)を十分な量提供するように改変された微生物を選択することにより、調製してもよい。
【0071】
一旦、微生物を選択、及び場合により前処理すれば、前記微生物は上述の産物に、送達される物質の性質及びそれぞれの微生物に含まれる物質の量により、非液状組成物の場合、組成物の10〜1012cfu/g乾燥重量で、液状組成物の場合、組成物の10〜1012cfu/mlで含まれてもよい。
【0072】
その後、当技術分野において知られている方法により、化合物を含んだ微生物を、食品マトリックス、例えば、プロバイオティクスの食品マトリックスに組み込んでもよい。例えば発酵した白色基材に鉄酵母バイオマスを加えて、本発明において使用する微生物を含むヨーグルトを調製してもよい。乾燥穀物を乾燥粉末酵母と一緒に混合することにより、本発明において使用される微生物を含む乳児用穀物調製物を調製できる。
【0073】
組成物は更に、保護親水コロイド(ガム、タンパク質、化工デンプン等)、結合剤、皮膜剤、封入剤/材料、ウォール/シェル材料、マトリックス化合物、被覆剤、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチン等)、吸着剤、担体、賦形剤、共化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶剤)、流動化剤、矯味剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、酸化防止剤及び抗菌剤を含んでもよい。
【0074】
また、組成物は従来の医薬品添加物、佐剤、賦形剤、及び希釈剤を含んでもよく、これらには、水、あらゆる起原のゼラチン、植物ガム、リグニンスルホネート、タルク、砂糖、デンプン、アラビアゴム、植物油、ポリアルキレングリコール、香味剤、保存剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、滑沢剤、着色剤、湿潤剤、賦形剤等があるが、これらに限定されない。
【0075】
更に、組成物は経口又は経腸投与に適した有機又は無機の担体物質を、ビタミン、ミネラルの微量元素、及び他の微量養素と同様、USRDA等の政府機関省庁の推奨に従い含んでもよい。
【0076】
本発明の組成物はタンパク質源、脂肪源、及び/又は炭水化物源を含んでもよく、経口、経腸、非経口、又は局所使用を意図してもよい。
【0077】
組成物が脂肪源を含む場合、脂肪源は組成物のエネルギーの5%〜40%、例えばエネルギーの20%〜30%を提供することがより好ましい。DHAを加えてもよい。適切な脂肪プロフィールは、キャノーラ油、コーン油、及び高オレイン酸ひまわり油の混合物を使用して得てもよい。
【0078】
炭水化物源は、組成物のエネルギーの40%〜80%を提供することが好ましい。いかなる適切な炭水化物、例えばスクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、コーンシロップ固体、マルトデキストリン、及びそれらの混合物を使用してもよい。
【0079】
いかなる適切な食事性タンパク質、例えば、動物性タンパク質(乳タンパク質、食肉タンパク質、及び卵タンパク質等)、植物性タンパク質(ダイズタンパク質、小麦タンパク質、コメタンパク質、及びエンドウマメタンパク質)、遊離アミノ酸の混合物、又はそれらの組合せを使用してもよい。カゼイン及びホエイ等の乳タンパク質並びにダイズタンパク質が特に好ましい。
【0080】
本発明の組成物はまたプレバイオティクスを含んでもよい。
【0081】
「プレバイオティクス」は、腸の中のプロバイオティクスの増殖を促進する食物物質を意味する。プレバイオティクスは、それを摂取したヒトの胃及び/又は腸上部で分解されない、又は胃腸管で吸収されないが、胃腸のミクロフローラ、及び/又はプロバイオティクスによって発酵する。(Gibson及びRoberfroid(1995)Dietary Modulation of the Human Colonic Microbiota:Introducing the Concept of Prebiotics,J.Nutr.第125巻:1401〜1412頁)。
【0082】
「プロバイオティクス」は、宿主の健康又は福祉に有益な影響を有する微生物細胞調製物、又は微生物細胞の構成要素を意味する。(Salminen Sら(1999)Probiotics:how should they be defined.Trends Food Sci.Technol.第10巻:107〜10頁)。
【0083】
本発明の枠組みにおいて使用され得る微生物のうちのいくつかは、プロバイオティクスとして認められている。
【0084】
プレバイオティクスの存在により、温度感受性微生物が32℃より高温にさらされるまでは、その生存能力が高まる。
【0085】
本発明に従い使用され得るプレバイオティクスに特に制限はなく、プロバイオティクスの増殖を促進する食物を全て含む。それらはフルクトース、ガラクトース、マンノースを場合によっては含むオリゴ糖、食物繊維、特に可溶性繊維、大豆繊維、イヌリン、又はそれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。プレバイオティクスは、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、イソマルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖(XOS)、大豆オリゴ糖、グリコシルスクロース(GS)、ラクトスクロース(LS)、ラクツロース(LA)、パラチノースオリゴ糖(PAO)、マルトオリゴ糖(MOS)、ガム及び/又はそれらの加水分解物、ペクチン及び/又はそれらの加水分解物であることが好ましい。
【0086】
したがって、微生物と上記の産物を、個人の福祉の支援、並びに/又は疾病の治療及びに/若しくは予防のために利用してもよい。
【0087】
更に、本発明の使用により調製した組成物を、例えば生産及び貯蔵の間の栄養素の安定性を改善するために使用してもよい。
【0088】
またこれを使用して、送達される化合物、例えば栄養素が組成物の食味に与え得る悪影響を軽減してもよい。
【0089】
上述のように対象の化合物を微生物内に組み込むことにより、例えば食品マトリックスにおいて化合物と他の化合物との接触が避けられ、したがって望ましくない相互作用が防がれることになる。
【0090】
更に、本発明の教示を使用する場合、化合物の温度依存遊離により、好ましくは腸、又は消化管の特定の場所での、化合物、例えば栄養素の標的化遊離が可能となる。
【0091】
更に、本発明の使用により、送達される化合物のバイオアクセシビリティー及び/又はバイオアベイラビリティを改善できる。
【0092】
開示された本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された本発明の特徴を全て自由に組み合わせ得ることは、当業者には理解されるであろう。
【0093】
本発明の更なる利点及び特徴が、下記の例と図から明らかとなる。
【実施例】
【0094】
実施例1:細胞溶解酵母菌株の開発
a)Saccharomyces cerevisiae
Hartwell(Hartwell,L.H.(1967)Macromolecule synthesis in temperature sensitive mutants of yeast J.Bact.、第93巻:1662〜1670頁)によって記述された溶解突然変異体(cly1からcly8)(表1)を、現在ATCC(Rockville、Maryland、USA)に統合されたYeast Genetic Stock Centre(UCLA Berkeley)から得た。
【0095】
【表1】

【0096】
全ての栄養素要求性突然変異を異系交配するため、一連の栄養素要求性突然変異を含むこれら菌株を、接合型a型(X2180−1A)又はα形(X2180−1B)の野生型株(Thomas R.Manneyより寄贈)それぞれと連続的に戻し交配した。
【0097】
元の温度感受性cly突然変異を有する原栄養体分離体を、もう一方の接合型を有する代表例とホモ接合となるように二倍体に再構成した(表2)。
【0098】
【表2】

【0099】
二倍体cly4/lti及びcly8/lti二重突然変異体
細胞溶解(Cly)表現型と低温不活性(Lti)表現型を組み合わせるため、元の温度感受性cly4又はcly8突然変異を有する原栄養体の一倍体の分離体を、もう一方の接合型の低温不活性突然変異を有する一倍体の菌株と交配した。
【0100】
このような二倍体接合体を胞子形成させ、両方の突然変異を有する後代胞子を単離して、もう一方の接合型を有する単離物を再構成して、cly突然変異とlti突然変異をホモ接合で有する二倍体を作製した。このため、この二倍体は両方の(ClyとLti)表現型を示す。
【0101】
このシリーズの寄託菌株
DCL445 遺伝子型:a/α cly4/cly4 lti/lti(CNCM I−4167)
DCL448 遺伝子型:a/α cly4/cly4 lti/lti(CNCM I−4168)
DCL814 遺伝子型:a/α cly8/cly8 lti/lti(CNCM I−4165)
DCL869 遺伝子型:a/α cly8/cly8 lti/lti(CNCM I−4166)
【0102】
元の温度感受性cly突然変異を有する原栄養体の分離体を使用し、欧州特許第1 148 121号に記載の方法によって、四倍体を作製した。この特許の開示を本明細書に引用して援用する。
【0103】
細胞溶解(Cly)表現型と低温不活性(Lti)表現型を組み合わせるために、接合型とcly突然変異がホモ接合である二倍体化原栄養体の分離体を、欧州特許第1 148 121号に記載のように、ホモ接合の低温不活性突然変異を有し、もう一方の接合型がホモ接合である二倍体分離体と交配した。このような四倍体接合体を胞子形成させ、Cly表現型とLti表現型を示す二倍体分離体を単離して、もう一方の接合型を有する単離物を再構成して、cly突然変異とlti突然変異をホモ接合で有する四倍体を形成した。このためこの四倍体は両方の(ClyとLti)表現型を示す。(表3)
【0104】
【表3】

【0105】
b)Kluyveromyces marxianus
突然変異誘発:Kluyveromyces marxianus菌株L46(CNCM I−4008)(ネスレ菌株コレクションの天然単離物)を、5mlのYPD(1%Difcoバクト酵母エキス、2%Difcoバクトペプトン、2%グルコース)中、撹拌(200rpm)下、25℃で16時間前増殖させた。遠心分離で細胞を回収し、滅菌水で2度洗浄した。5mlの滅菌水に細胞を懸濁し、血球計算板(Assistent(Sondheim、Germany)のBurki−Turkチャンバー)を使用して菌体濃度を測定した。マイクロチューブに2x10細胞を含むアリコートを移した。細胞を遠心分離によって沈殿させ、pH7の100mMのリン酸ナトリウム緩衝液1ml中に懸濁させた。エチルメタンスルホネート(Sigma−Aldrich Chemie GmbH、Buchs、Switzerland)cat.#M−0880)30μlを加えて、撹拌下、30℃で1時間チューブを維持した。
【0106】
細胞を再び沈殿させ、1mlの水で1回洗浄し、1mlの5%チオ硫酸ナトリウム五水和物(Fluka、Buchs、Switzerland)cat.#72048で2回洗浄した。生存細胞をYPDプレート(1%Difcoバクト酵母エキス、2%Difcoバクトペプトン、2%グルコースを2%Difcoバクト寒天で凝固したもの)に広げ、コロニーを形成させた。新しいYPDプレートの上で上記を繰り返し、37℃でインキュベートし、実施例2に述べる細胞溶解分析のため、温度感受性クローン(37℃で増殖を示さない)を単離した(表4)。
【0107】
【表4】

【0108】
Kluyveromyces marxianus cly/lti二重突然変異体
細胞溶解(Cly)表現型と低温不活性(Lti)表現型を組み合わせるために、実施例1Bに記載のKluyveromyces marxianus細胞溶解菌株CNCM I−4009を、5mlのYPD(1%Difcoバクト酵母エキス、2%Difcoバクトペプトン、2%グルコース)中、撹拌(200rpm)下、25℃で16時間前増殖させた。遠心分離で細胞を回収し、滅菌水で2度洗浄した。5mlの滅菌水において細胞を懸濁し、血球計算板(Assistent(Sondheim、Germany)のBurki−Turkチャンバー)を使用して菌体濃度を測定した。マイクロチューブに2x10細胞を含むアリコートを移し、細胞を遠心分離によって沈殿させ、pH7の100mMのリン酸ナトリウム緩衝液1ml中に懸濁させた。エチルメタンスルホネート(Sigma−Aldrich Chemie GmbH、Buchs、Switzerland)cat.#M−0880)30μlを加えて、撹拌下、30℃で1時間チューブを維持した。細胞を再び沈殿させ、1mlの水で1回洗浄し、1mlの5%チオ硫酸ナトリウム五水和物(Fluka、Buchs、Switzerland)cat.#72048で2回洗浄した。チオ硫酸ナトリウムペンタハイドレード生存細胞をYPDプレート(1%Difcoバクト酵母エキス、2%Difcoバクトペプトン、2%グルコースを2%Difcoバクト寒天で凝固したもの)に広げ、コロニーを形成させた。新しいYPDプレートの上で上記を繰り返し、8℃でインキュベートし、低温不活性クローン(8℃、3週間では増殖を示さないが、25℃に移すと増殖を再開する)を単離し、37℃での細胞溶解と低温不活性との表現型の両方の存在を再度チェックした。
【0109】
このシリーズの寄託菌株
KM5−L3(CNCM I−4160)
KM5−L7(CNCM I−4161)
KM5−L15(CNCM I−4162)
KM5−L18(CNCM I−4163)
KM5−L23(CNCM I−4164)
c)Schizosaccharomyces pombe
【0110】
S.pombe野生型株968(接合型h90)はP.Munz(Universitat Bern、Berne、Switzerland)の厚意による寄贈であった。溶解菌株Sp132(mat h− cwg1−1 leu1−32)(Ribas、J.Cら(1991)Isolation and Characterization of Schizosaccharomyces pombe.Mutants Defective in Cell Wall(1−3)β−D−Glucan、J.Bact.第173巻:3456〜3462頁)は、J.C.Ribas、Universidad de Salamanca、Salamanca、Spainから厚意により受領した。
【0111】
実施例2:アデニル酸キナーゼ活性測定による細胞溶解表現型の検出
非許容温度での細胞溶解を評価するために、我々は市販のToxiLight分析(Cambrex Bio Science、Rockland、ME USA)を使用した。これは、溶解した細胞が遊離する上澄の細胞内アデニル酸キナーゼ(AK)を定量的に測定するものである。
【0112】
酵母菌株を40mlのYD培地(0.5%Difcoバクト酵母エキス、1.5%グルコース)において、600nmの吸光度(OD)が約0.5〜4.0となるまで、あらかじめ培養した。
【0113】
細胞を遠心分離で回収し、MV(0.67%Difcoアミノ酸不含酵母ニトロゲンベース、2%グルコース、2%コハク酸ナトリウム)中に、600nmのODが1.0となるように懸濁した。この懸濁液20mlを、100mlのエルレンマイヤーで、撹拌(120rpm)下37℃でインキュベートした。所望の時点で、培養物20μlを蛍光用96ウェルプレートに移し、遊離されたAKの量に比例した蛍光を565nmで読んだ。図1Aから1Cに、溶解菌株と対照菌株からの37℃でのAK遊離を示す。突然変異の違いにより、細胞溶解速度が異なり、消化管内の様々な場所における化合物の標的化遊離が可能となることは注目に値する。
【0114】
実施例3:バッチ発酵下でのS.cerevisiaeとK.marxianusでの鉄の蓄積
0.5%bacto酵母エキス(Difco)、1.5%グルコース(Merck)、及び5、10、15、20、又は25mMのクエン酸鉄(Sigma)を含む1Lで酵母を増殖させ、鉄に富むバイオマスを得た。25℃で3日後、細胞を回収し、冷蒸留水で3回洗浄して、組み込まれていない鉄塩を除去した。ICP−AES(誘導結合プラズマ原子分光分析)で灰における鉄の含有量を測定した。マッフル炉で550℃で8時間、有機物を破壊して灰を得た。表5に培地中での様々なクエン酸鉄濃度での増殖で組み込まれた鉄の値を示す。
【0115】
【表5】

【0116】
実施例4:擬似胃液におけるS.cerevisiae野生型株及び突然変異株による非許容条件(37℃)下の細胞溶解と鉄遊離
細胞溶解を誘発する37℃、炭素源の存在下で擬似胃液/十二指腸液における酵母から遊離した鉄を測定した(図2)。
【0117】
最初に、5gの鉄を含む酵母バイオマス(水含有量25%w/w)を0.23%ブタペプシン(Sigma)、0.5%NaCl、2%グルコースを含む、pH2の擬似胃液内80ml中に、撹拌下、37℃で30分間置いた。30分後、酵母細胞を遠心分離によってペレットとし、上澄を除去し、ICP−AESによって鉄の遊離測定に使用した。
【0118】
酵母ペレットに、pH7、0.2Mリン酸緩衝液に、0.27%パンクレアチン(Sigma)、0.54%胆汁抽出物(Sigma)、及び2%グルコースを含む擬似十二指腸溶液80mlを加え、試料を、撹拌下、37℃で24時間更にインキュベートした。
【0119】
試料のアリコートを、0分、30分、1時間、3時間、6時間、及び24時間後に採取し、生細胞タイターを測定した。遠心分離と0.45μmのシリンジフィルターでの濾過の後、上澄の遊離した鉄量を測定した。
【0120】
YPDプレート(1%Difcoバクト酵母エキス、2%Difcoバクトペプトン、2%グルコースを2%Difcoバクト寒天で凝固したもの)へのプレーティングと試料アリコートの系列希釈後に、生細胞タイターを測定した。
【0121】
実施例5:動的なインヴィトロ胃腸管モデル(TIM−1)中の酵母添加ヨーグルトの消化
モデルは、胃、十二指腸、空腸、及び回腸をシミュレートする、4つの連続したコンパートメント(図3)からなる。インヴィトロモデルの胃腸管については、詳細に記載されている(Minekusら(1995)A multicompartmental computer−controlled model simulating the stomach and the small intestine.Alternative to laboratory animals(ATLA)、第23巻:197〜209頁)。各コンパートメントはガラス被覆からなる2つの連続した基本ユニットで形成され、内部には柔軟壁がある。水は、水浴からガラス被覆内に給水され、柔軟壁の周囲を回り、ユニット内の温度と柔軟壁への圧力を制御する。水圧は、コンピュータで作動させる回転ポンプによって変化させる。これによって柔軟壁の圧縮と緩和を交互に行い、消化粥(chyme)を混合する。コンパートメントは、接続された3つのT字管からなる蠕動バルブポンプにより接続されており、ポンプ内部には別のチューブ状の柔軟壁がある。開位置では、柔軟壁を消化粥が通過するようになり、柔軟壁の外部に圧力を加えると、バルブは閉じる。バルブポンプの3つの部分を開閉の順序を調節して、蠕動ポンピングを作動させる。個々の蠕動サイクルの間に一定量の消化粥が移動する。蠕動周期はコンピュータにより決定され、消化粥の流速を制御できる。コンピュータに接続された圧力検出器で各コンパートメントの容積をモニターする。
【0122】
胃及び十二指腸のコンパートメントにはpH電極が装備されている。pH値は、胃に水又は1MのHClのいずれかを分泌するコンピュータによって、又は、シリンジポンプによって十二指腸に水若しくは1MのNaHCO3のいずれかを分泌することによって制御される。コンピュータ制御のシリンジポンプを使用して、胃の電解質及び酵素、胆汁及び膵液の分泌を調整する。空腸及び回腸のコンパートメントは、消化粥から消化産物と水を吸収し、消化粥中の電解質と胆汁酸塩の濃度を変更する中空繊維装置に結合されている。
【0123】
コンピュータプログラムは、動物又は健常者でのインビボ研究から得られたパラメーターとデータ、例えば胃と十二指腸のpH曲線、異なったコンパートメントへの分泌速度、小腸、胃、及び回腸送達物からの水分吸収等、を受理するよう設計されている。消化粥の移行制御のため、(Elashoffら(1982)Analysis of gastric juice emptying data、Gastroenterology、第83巻:1306〜1312頁)に記載のように、胃及び回腸送達のためのべき指数関数公式を使用する。
【0124】
実験の最初に、胃のコンパートメントに試験材料を投入した。試験食は、5.5%グルコースと1.6%の野生型、又は細胞溶解突然変異体の酵母細胞(乾燥重量)を添加した300gのHirz低脂肪プレーンヨーグルトで構成した。
【0125】
胃液、十二指腸液、及び回腸液を、シリンジを用いてコンパートメント内で直接で採取した。胃液及び十二指腸液は60分後、空腸及び回腸液は2時間及び4時間後に採取した。回腸の送達物を2、4、及び6時間後にビンに採取した。空腸及び回腸の透析液を、2、4、及び6時間後に採取し、容積を測定した。結果を図4に示す。
【0126】
野生型株は37℃で胃腸系において分裂したが、突然変異体は同じ条件で溶解した。動的インビトロシステムで6時間後に回収されたのは、細胞の43%だけであった。
【0127】
実施例6:鉄に富む酵母を含む栄養組成物の説明
ヨーグルトの組成
100g当たりのg数
乳脂肪 3.730
牛乳 89.010
脱脂粉乳 1.980
デンプン 0.240
砂糖 2.360
スターター 2.505
鉄に富む酵母 0.175
【0128】
白フレッシュチーズ
100g当たりのg数
牛乳SNF 14.1530
スクロース 7.4963
乳脂肪 2.3858
植物性脂肪 1.7641
乳酸培養物 0.0019
ビタミンD3 0.0003
水分 74.0236
鉄に富む酵母 0.1750
【0129】
乳児用調合乳
100g当たりのg数
タンパク質当量 1.40
カゼイン 0.6
乳清タンパク 0.8
炭水化物 7.0
ラクトース 1.3
ブドウ糖 0.2
マルトース 2.1
多糖類 3.5
脂質 3.6
飽和 1.4
モノ不飽和 1.7
ポリ不飽和 0.5
他 0.1
鉄に富む酵母 0.175
水 87.725

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体の一部分、特に胃腸管に化合物、特に栄養素を送達するための組成物の調製における、約32〜45℃の温度範囲において少なくとも部分的に溶解する温度感受性微生物の媒体としての使用。
【請求項2】
前記微生物が、
酵母、例えば低温誘導酵母、好ましくは、半子嚢菌酵母種Ascomycotina又はDeuteromycotinaからなる群から選択される食品等級酵母、より好ましくは、前記酵母がebaryomyces、Schizosaccharomyces、Kluyveromyces、Saccharomyces、Yarrowia、Zygosaccharomyces、Candida、及びRhodotorula、好ましくはSaccharomyces cerevisiae(パン酵母)、最も好ましくは、温度感受性S.cerevisiae菌株CNCM I−4000、CNCM I−4001、CNCM I−4002、CNCM I−4003、CNCM I−4004、CNCM I−4005、CNCM I−4006、CNCM I−4007、CNCM I−4165、CNCM I−4166、CNCM I−4167、及び/若しくはCNCM I−4168、又は温度感受性Kluyveromyces marxianus菌株CNCM I−4009、CNCM I−4010、CNCM I−4011、CNCM I−4160、CNCM I−4161、CNCM I−4162、CNCM I−4163、及び/若しくはCNCM I−4164からなる群から選択される酵母である、或いは
細菌、特に、乳酸菌、特にLactobacilli及び/又はBifidobacteria、より好ましくは、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus casei、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium animais、Bifidobacterium lactis、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium pseudocatenulatum、Bifidobacterium catenulatum、又はそれらの混合物、最も好ましくは、菌株Lactobacillus johnsonii NCC533(CNCM I−1225)、Lactobacillus paracasei NCC2461(CNCM I−2116)、Lactobacillus rhamnosus NCC4007(CGMCC 1.3724)、Bifidobacterium adolescentis NCC251(CNCM I−2168)、Bifidobacterium longum NCC490(CNCM I−2170)、NCC2705(CNCM I−2618)及びNCC3001(ATCC BAA−999)、Bifidobacterium lactis NCC2818(CNCM I−3446)、Bifidobacterium breve NCC2950(CNCM I−3865)、NCC 466(CNCM I−3914)、又はそれらの混合物由来の温度感受性細菌からなる群から選択される細菌
である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記温度感受性微生物が、自然淘汰から得られる、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記酵母がpkc1遺伝子の突然変異により温度感受性である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記温度感受性S.cerevisiae酵母が遺伝的相補性群cly1、cly2、cly3、cly4、cly5、cly6、cly7、cly8又はそれらの組合せからなる突然変異株の中から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記酵母がS.cerevisiaeであり、極性増殖、隔壁形成、及び/又は細胞壁完全性の維持を制御する遺伝子の変化により温度感受性であり、前記遺伝子が、BCK1、CDC12、CDC15、CDC31、CDC24、GLC7、GPI7、HSF1、IQG1、KIC1、LST8、MID2、WSC1、MOT2、MPK1、MPT5、SSD1、MSS4、NUD1、PKC1、PMT2、PMT4、PPH22、PPZ1、PPZ2、RHO3及びRHO4、ROM1、ROM2、SRB1、SWI4、SWM1、TIF51A、TSC11、TOR1、TCO89、TAP42、TOR2、BIG1、TUS1、VIG9、WSC1、WSC2、WSC3、YPK1、YPK2、YPK1、YKR2、7つのヤプシン、並びにそれらの組合せからなる群から選択されることが好ましく、並びに/又は前記酵母はS.pombeであり、極性増殖、隔壁形成、及び細胞壁完全性の維持を制御する遺伝子の変化により温度感受性であり、前記遺伝子がags1、bgs3、bgs4、cwg1、orb11、cps1、cwg1、cwg2、ehs1、PP2C、psu1、rgf1、rgf3、rho1、sid1、sid2、sid4、spg1及びmob1、並びにそれらの組合せからなる群から選択されることが好ましい、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記温度感受性微生物がlti酵母である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記栄養素が、ミネラル(好ましくは鉄、セレン、亜鉛、クロム、銅)、ビタミン(好ましくは葉酸、ナイアシン、ビタミンC)、植物ポリフェノール(好ましくはカテキン、クロロゲン酸、イソフラボン)、カロテノイド(好ましくはβ−カロテン、アスタキサンチン、ゼアキサンシン、リコピン)、アルカロイド(好ましくはカフェイン)、アミノ酸(好ましくはシステイン、必須アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、リジン、トレオニン、トリプトファン、メチオニン、ヒスチジン、バリン及びフェニルアラニン)、酸化防止剤、芳香化合物(好ましくはレモン油、橙皮油、タイム、ローズマリー油、オリガノ油)、脂質(好ましくは多価不飽和脂肪酸、長鎖多価不飽和脂肪酸、脂肪アミド、グリセロリン脂質、グリセリド)、酵素及び/又はコエンザイム(好ましくはコエンザイムQ10、β‐ガラクトシダーゼ)、非分泌異種タンパク質(好ましくはワクチン)、或いはその混合物からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記化合物、特に栄養素が、これらの化合物に富む培地で前記酵母を増殖させること、及び/又は前記酵母がそれ自体で前記化合物を合成することにより、前記酵母に組み込まれる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
化合物、特に栄養素の安定性の改善、及び/又は前記化合物、特に栄養素が食味に与える悪影響の軽減のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記化合物、特に栄養素と他の化合物との相互作用を制限するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
好ましくは腸又は消化管の特定の場所への化合物、特に栄養素の標的化遊離を可能とするための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
化合物、特に栄養素のバイオアクセシビリティー及び/又はバイオアベイラビリティを改善するための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
CNCM I−4000、CNCM I−4001、CNCM I−4002、CNCM I−4003、CNCM I−4004、CNCM I−4005、CNCM I−4006、CNCM I−4007、CNCM I−4165、CNCM I−4166、CNCM I−4167、CNCM I−4168、CNCM I−4009、CNCM I−4010、CNCM I−4011、CNCM I−4160、CNCM I−4161、CNCM I−4162、CNCM I−4163、及びCNCM I−4164からなる群から選択される酵母菌株。
【請求項15】
請求項14に記載の1つ又は複数の酵母菌株を含む食品組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−526486(P2011−526486A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515450(P2011−515450)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058259
【国際公開番号】WO2010/000776
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】