説明

微生物または生体分子の収容容器、およびその作成方法

【課題】微生物、核酸,ペプチド及び蛋白質等の生体分子を簡単にコンパクトに収納でき、常温常圧条件で安定して保存し、また配布することができる容器、またこれらの試料を保存しながら乾燥ができる容器、及びその作成方法を提供する。
【解決手段】表裏面を貫通して形成される格納部を備える基板と、前記格納部に脱着可能な状態で収容される、微生物または生体分子を保持可能な可撓性の支持体と、前記格納部の開口部を覆うように前記基板の表裏面に剥離可能に貼着される第1シート及び第2シートとを備えた、微生物または生体分子を収容可能な容器であって、前記格納部は、前記支持体を保持可能な保持部を備え、当該保持部は前記支持体の周縁部と当接可能な座部、および内周面から内方に突出する係止部を有しており、前記支持体は、前記保持部の座部と係止部の間に、その周縁を保持部内周面に摺動可能に密着させて保持されてなる、容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオ関連産業、ライフサイエンス産業、並びに医療産業等において好適に利用される、微生物、または核酸若しくは蛋白質などの生体分子の収納容器に関する。さらに本発明は当該容器の作成方法、及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遺伝的情報を伝える物質である核酸、例えば、リボ核酸(RNA)やデオキシリボ核酸(DNA)を長期的に安定して保存するには、これを水に溶かして水溶液とし、これをそのまま冷凍する方法が採られていた。しかし、この方法では、使用時に凍結溶液を解凍する工程が必要である。また、従来、RNAやDNA等の核酸の配布には、核酸を溶解した水溶液をマイクロチュ−ブ内に分注し、これを完全に乾燥させて、マイクロチュ−ブごと配布する方法が採られていた。しかし、この方法は、核酸水溶液の調製、マイクロチュ−ブ内への分注、および乾燥といった複数の工程を踏まなければならず、労力と時間がかかる。またマイクロチューブに収容するため、試料が複数ある場合には、容器が全体として嵩高くなるという問題がある。
【0003】
また、核酸に限らず、ペプチドや蛋白質などの生体分子試料、または微生物などの生物試料を長期保存したり配布する場合も、失活や死滅などの不都合なく安定に保存するために、冷凍や冷蔵の必要があり、上記核酸と同様の問題がある。
【0004】
近年、ライフサイエンス産業やバイオ産業が著しく進展する中、大量の生体分子試料や生物試料を迅速かつ効率的に取り扱うことが必要とされており、作業の簡素化や効率化、並びに、取扱い容器の小型化等が求められている。
【0005】
この要求のもと、上記従来の不都合を解消するため、所定の厚さを有するシート状の支持体にDNA水溶液を含浸させて乾燥させることによりDNAが付着させたDNA固定支持体が提案されている(特許文献1参照)。しかし、このDNA固定支持体は、DNAが密封されていないため、そのまま長期間保存しておくと、DNAの経時的変質や菌等による汚染が生じる可能性がある。
【特許文献1】特開2000−146958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、微生物や、核酸,ペプチドおよびタンパク質などの生体分子(試料)を簡単にコンパクトに収納でき、常温・常圧条件下で安定して保存し、また配布することができる容器、さらにこれらの試料を保存しながら乾燥させることができる容器、およびその作成方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、当該容器の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の目的は、下記の構成を有する容器またはキットによって達成することができる。
【0008】
(1)容器およびキット
項1.表裏面を貫通して形成される格納部を備える基板と、
前記格納部に脱着可能な状態で収容される、微生物または生体分子を保持可能な可撓性の支持体と、
前記格納部の開口部を覆うように前記基板の表裏面に剥離可能に貼着される第1シート及び第2シートとを備えた、微生物または生体分子を収容可能な容器であって、
−前記格納部は、前記支持体を保持可能な保持部を備え、当該保持部は前記支持体の周縁部と当接可能な座部、および内周面から内方に突出する係止部を有しており、
−前記支持体は、前記保持部の座部と係止部の間に、その周縁を保持部内周面に摺動可能に密着させて保持されてなる、
容器。
【0009】
項2.第1シート及び第2シートの少なくとも一方は、透湿性を備える素材からなるシートであるか、または少なくとも格納部の開口部を覆う部分が透湿性を備える素材からなるものである、項1記載の容器。
項3.支持体が、座部と間隙を開けて保持部に保持されてなる項1または2に記載する容器。
項4.格納部は、挿入口と排出口を備えており、
当該挿入口は、内方に向けて狭くなる略すり鉢形状を有している項1乃至3のいずれかに記載の容器。
項5.基板の片面または両面が格納部の外周縁に沿って突起してなる、項1乃至4のいずれかに記載の容器。
【0010】
項6.基板は、熱可塑性材料からなり、
係止部が、保持部の開口周縁を加熱体により押圧加熱して形成される項1乃至5のいずれかに記載の容器。
項7.支持体を収容した格納部を複数個備えた項1乃至6のいずれかに記載の容器。
項8.マルチウェルプレートである、項1乃至7のいずれかに記載の容器。
項9.第1シート及び第2シートから選択される少なくとも1つのシートに、基板に形成された格納部に対応して、当該格納部を区分するための分割線、または切り出し可能な切り出し線が形成されてなる、項1乃至8のいずれかに記載の容器。
【0011】
項10.項1乃至9のいずれかに記載する容器と、第1または第2シートの予備シートとして、当該容器の基板表面に積層して用いられる第3シートを組みあわせて含むキットであって、当該第3シートが透湿性を備える素材からなるシートであるか、または少なくとも格納部の開口部を覆う部分が透湿性を備える素材からなるシートであるキット。
【0012】
(2)容器の作成方法
また、本発明は、上記容器の作成方法に関する。
項11.下記の工程を有する項1乃至9のいずれかに記載する容器の作成方法:
(1) 支持体を保持可能な保持部と当該保持部に支持体の周縁部と当接可能な座部を有する格納部を備える、熱可塑性材料からなる基板を形成する工程、
(2) 微生物または生体分子を保持可能な可撓性の支持体を、前記基板の格納部の保持部に、座部上方の開口部から挿入嵌合し、座部に当接させるかまたは座部と間隔を開けて配置する工程、
(3) 保持部の開口周縁を加熱体により押圧加熱して、保持部に内周面から内方に突出する係止部を形成する工程、および
(4) 格納部の開口部を覆うように基板の表裏面に第1シート及び第2シートを剥離可能な状態で積層する工程。
項12.下記の工程を有する項1乃至9のいずれかに記載する容器の作成方法:
(1) 支持体を保持可能な保持部と当該保持部に支持体の周縁部と当接可能な座部を有する格納部を備える、熱可塑性材料からなる基板を形成する工程、
(2) 微生物または生体分子を保持可能な可撓性の支持体を、前記基板の格納部の保持部に、座部上方の開口部から挿入嵌合し、座部に当接させるかまたは座部と間隔を開けて配置する工程、
(3) 保持部の開口周縁を加熱体により押圧加熱して、保持部に内周面から内方に突出する係止部を形成する工程、
(4’) 基板の一面に第1シートまたは第2シートを剥離可能な状態で積層することにより、格納部の一方の開口部を閉塞する工程、
(5’) 支持体に、微生物または生体分子を付着させる工程、および
(6’) 基板の他面に第2シートまたは第1シートを剥離可能な状態で積層することにより、格納部の他方の開口部を閉塞する工程。
【0013】
(3)容器の使用方法
さらに、本発明は、上記容器の使用方法に関する。
【0014】
項13.格納部に微生物または生体分子を付着した支持体を収容してなる項1乃至9に記載する容器の使用方法であって、
(1) 格納部から上記支持体を取り出す工程を有する方法。
【0015】
項14.さらに下記(2)及び(3)の工程を有する、項13記載の方法:
(2) 上記工程(1)の前に、支持体が収容された格納部内に溶液を入れる工程、
(3) 上記工程(1)の後に、必要に応じて取り出した支持体を溶液と接触させて、支持体に付着した微生物または生体分子を溶出する工程。
【0016】
項15.工程(1)が、第1シート及び第2シートの少なくとも1つのシートの少なくとも1部を基板から剥離して、支持体を取り出す工程である、項14に記載の容器の使用方法。
【0017】
項16.工程(1)が、第2シートまたは第1シートと第2シートの少なくとも1部を基板から剥離して、格納部の保持部に収容された支持体を、格納部の排出口側に取り出す工程である、項14に記載する容器の使用方法。
【0018】
項16.格納部に微生物または生体分子を付着した支持体を収容してなる項1乃至9のいずれかに記載の容器の使用方法であって、
(a) 支持体が収容された格納部内に、溶液を入れる工程、及び
(b) 格納部内で、当該溶液中に支持体に付着した前記微生物または生体分子を溶出させる工程を有する方法。
【0019】
項17.格納部内に溶液を入れる工程が、第1シートまたは第2シートの1つのシートの少なくとも1部を基板から剥離して溶液を入れる工程である項16に記載の容器の使用方法。
【0020】
項18.(c) 格納部内に溶液を入れた後、基板から剥離したシートを再び基板に積層する工程を有する、項17に記載の容器の使用方法。
【0021】
項19.溶液が微生物または生体分子と反応する成分を含有するものであって、さらに、
(d) 格納部内で微生物または生体分子と上記成分との反応を行う工程を有する項18に記載の容器の使用方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の容器によれば、微生物、または核酸、ペプチドや蛋白質などの生体分子を、容器内の支持体に付着させることで、簡便に格納することができるため、格納に費やす時間や労力を大幅に軽減することができる。
【0023】
本発明の容器によれば、上記微生物または生体分子(核酸、ペプチドや蛋白質など)を密閉した状態で格納することができるため、不純物の混入の恐れがなく、これらの試料を長期にわたって安定して保存することができる。特にRNAなどはRNAaseなどの酵素混入によって分解され易い物質であるが、本発明の容器によれば、外部との好ましくない接触を防止することできるため、安定した状態で保管することが可能になる。
【0024】
本発明の容器によれば、従来のチューブ形態の容器に比べ、微生物や生体分子を微少量で収納し保存することが可能である。また本発明の容器はコンパクトでしかも微生物や生体分子を常温・常圧で保存することができるため、保存スペースをとらず、温度管理も不要なため取扱いが簡便である。また、微生物や生体分子の移動(配布、配送、運搬等の流通)にもスペースをとらず、温度管理も不要なため便利である。
【0025】
また、本発明の容器は、第1シートまたは第2シートのいずれか少なくとも一方に透湿性シートを用いることにより、微生物や生体分子などの試料を支持体に保持させ収容した状態で、そのまま乾燥に供するこことができる。このため本発明の容器によれば、微生物や生体分子などの試料を収容(保存や配布などの流通)しなから乾燥することができるため、別途乾燥させるための時間と労力とスペースをとらず、また乾燥に際して起こり得る夾雑物の混合を防止することができる。
【0026】
また、本発明の容器は、微生物や生体分子を支持体に保持させた状態で収容し、また使用に際しては当該支持体を簡単に容器外に取り出すことができるので、有用な試料を簡単にロスなく、しかも汚染を防止した状態で使用することができる。更に本発明の容器は、そのまま反応容器としても使用することができ、中に試薬や反応溶液をいれて容器内で微生物や生体分子を処理(反応、変性、洗浄、分離、増殖など)することも可能である。
【0027】
このような特徴を有する本発明の容器は、特に微生物や、核酸、ペプチドまたは蛋白質などの生体分子の大量処理が必要とされる分野に好適に利用され得るものであり、ライフサイエンス産業やバイオ産業の発展に大きく寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(1)容器
本発明の容器は、(i) 微生物または生体分子を収容するための容器、または(ii) 微生物または生体分子を収容した容器である。すなわち、本発明が対象とする容器には、(i) 微生物または生体分子を収容していない状態で製造および販売され、使用者側が所望の微生物または生体分子を入れて使用するタイプの容器、ならびに(ii)予め微生物または生体分子を収容した状態で製造および販売されるタイプの容器が含まれる。当該容器は、微生物または生体分子の収納、保存若しくは管理;微生物または生体分子を含む試料の乾燥;微生物または生体分子の移動(配布、配送、運搬等の流通);微生物または生体分子の処理(反応、変性、洗浄、分離、増殖など)のために好適に使用することができる。
【0029】
(a) 微生物または生体分子
本発明が対象とする微生物には、具体的には、大腸菌、枯草菌、乳酸菌、好熱性菌などの細菌やラン藻などの原核生物;酵母(例えばパン酵母、ビール酵母など)、カビ(アオカビなど)、藻類(例えば、緑藻、褐藻、紅藻など)などの真核生物;ウイルス(例えば、レトロウイルス、カゼウイルス、アデノウイルス、ノロウイルスなど);ならびに原虫(例えば、線虫など)などの微小な生物が含まれる。好ましくは細菌、藻類およびウイルスなどの微生物であり、より好ましくは細菌、特に大腸菌である。なお、これらは天然に存在するものであってもよいし、或いは、遺伝子組換技術を利用して製造されたものでもよい。
【0030】
本発明が対象とする生体分子には、(i)ヌクレオチドを構成成分として含む物質、(ii)アミノ酸を構成成分として含む物質、(iii)動物または植物細胞、および(iv)多糖類や脂質などの高分子有機物が含まれる。
【0031】
(i)には、リボヌクレオチドを構成成分とするRNA(リボ核酸)、デオキシリボヌクレオチドを構成成分とするDNA(デオキシリボ核酸)などの核酸、これら核酸の断片、およびこれら核酸またはその断片のアナログが含まれる。これらは長さや一本鎖および二本鎖の別を問わず、例えば、プライマー、プローブ、siRNAs(small interfering RNAs)などとして使用される比較的短鎖のオリゴまたはポリヌクレオチド;遺伝子(mRNAも含まれる)やプラスミドなどの長鎖のポリヌクレオチドも含まれる。核酸または核酸断片のアナログとしては、核酸または核酸断片に非核酸成分を結合させたもの、核酸または核酸断片を蛍光色素や同位元素等の標識剤で標識したもの(例えば蛍光色素や放射線同位体で標識されたプライマーやプローブ)、および核酸または核酸断片を構成するヌクレオチドの一部の化学構造を変化させたもの(例えば、ペプチド核酸など)等が含まれる。これらは、生物から得られる天然物であっても又はそれらの加工物であってもよく、或いは、遺伝子組換技術を利用して製造されたものでも、また化学的に合成されたものでもよい。
【0032】
(ii)としては、アミノ酸を構成成分とするペプチド、蛋白質およびこれらの誘導体を挙げることができる。ペプチドや蛋白質を構成するアミノ酸の種類や数は特に限定されず、蛋白質の立体構造も特に限定されない。
【0033】
蛋白質には、アミノ酸のみから構成される単純蛋白質、単純蛋白質に非タンパク物質が結合した複合蛋白質、複数個の単純蛋白質及び複合蛋白質がサブユニットとして会合した高分子物質も含まれる。単純蛋白質には、例えば、アルブミン、グロブリン、プロラミン、グルテリン、ヒストン、プロタミン、硬タンパク質などが含まれる。複合蛋白質には、例えば、ヘモグロビン等の色素蛋白質、糖質と結合した糖蛋白質、脂質と結合したリポ蛋白質、核酸と結合した核蛋白質、リンと結合したリン蛋白質、金属と結合した金属蛋白質等が含まれる。
【0034】
蛋白質の種類も限定されず、本発明が対象とする蛋白質には、例えば、分子の形状により分類される繊維状タンパク質(ケラチン、コラーゲン、フィブロインなど)や球状タンパク質;局在性により分類される細胞内タンパク質、膜タンパク質、分泌タンパク質、血液タンパク質;機能により分類される酵素タンパク質、ホルモンタンパク質、受容体タンパク質、免疫タンパク質(抗体など)、分子量マーカー蛋白質;がいずれも含まれる。
【0035】
蛋白質の誘導体には、単純蛋白質や複合蛋白質が一部分加水分解を受けたもの、熱により凝固したもの(凝固蛋白質)、上記蛋白質に非蛋白物質を結合させたもの(例えば、蛋白質を蛍光色素や同位元素等で標識したもの)、およびアミノ酸残基の側鎖の化学構造を変化させたもの等が含まれる。またペプチドの誘導体には、ペプチドに非ペプチドを結合させたもの(例えば、ペプチドを蛍光色素や同位元素等で標識したもの)、およびアミノ酸残基の側鎖の化学構造を変化させたもの等が含まれる。具体例としては、例えば、抗体と酵素を化学的に架橋して得られる抗体酵素複合体(例えば抗ジゴケシゲニン(DIG)-アルカリフォスファターゼ(AP)結合抗体)や抗体蛍光色素複合体等を挙げることができる。
【0036】
これらの蛋白質、ペプチド又はこれらの誘導体は、生物から得られる天然物又はそれらの加工物であってもよく、或いは、遺伝子組換技術を利用して製造されたものでも、また化学的に合成されたものでもよい。中でも、抗体、酵素、血液蛋白質、分子量マーカー蛋白質、抗体酵素複合体、抗体蛍光色素複合体を好適に例示することができる。
【0037】
(iii)としては、生物(動物または植物)から得られる天然の細胞、株化細胞、および組換え遺伝子を含む形質転換細胞が含まれる。動物細胞としては、遺伝子組換技術で汎用される各種の細胞(例えば、マウス繊維芽細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO、サルCOS細胞など)およびこれらの形質転換細胞を挙げることができる。また、植物細胞としては、遺伝子組換技術で汎用される各種の細胞およびこれらの形質転換細胞を挙げることができる。
【0038】
(iv)としては、生物が分泌する体液の構成成分であったり、体組織の構成成分であったりするものだけでなく、人為的に合成したり、化学修飾を施したものでもよい。具体的にはセルロース、でんぷん、オリゴ糖やステロール類、カテキン、ペンテン、リポ脂質、ステアリン酸などを例示することができる。
【0039】
以下、本明細書では、これらの微生物または生体分子を総称して「試料」ともいう。
【0040】
本発明の容器は、上記微生物または生体分子(試料)を付着するための支持体(A)、または上記微生物または生体分子(試料)が付着した支持体(A)を内部に備えるものである。当該支持体(A)は、基板(B)を挟んでその表裏面に剥離可能に積層された第1シート(C)及び第2シート(D)から構成される本発明の容器の、基板(B)に設けられた格納部(E)内の保持部に脱着可能な状態で収納されている。
【0041】
以下、説明の便宜上、図面に基づいて本発明を説明する。ただし、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0042】
本発明の容器の一態様を図1に示す。図1(A)は本発明の容器を上からみた平面概略図であり、図1(B)は本発明の容器を図1(A)のX−X線で切断した場合の縦断面図である。また図1(C)は本発明の容器の斜視図である。なお、図1には、容器の基板(B)から第1シート(C)の一部がめくれている状態を示す〔但し、図1(A)は、めくれ上がっている片の記載を省略している〕。図1において、Aは支持体、Bは基板、Cは第1シート、Dは第2シート、Eは格納部を示す。なお、格納部(E)は、前述するように基板(B)の表裏面を貫通して形成されるため、格納部は基板(B)の通孔部でもある。図1中、符号1は、格納部(E)内の支持体保持部(以下、単に「保持部」という)に形成された座部、符号2は保持部に形成された係止部、符号3は格納部(E)の挿入口、および符号4は格納部(E)の排出口を示す。
【0043】
なお、図1には、本発明の一実施態様として、24個の格納部を有するプレート状の容器(マルチウェルプレート)を示すが、格納部の数は特に制限されない。本発明の容器は、所望に応じて、1つ若しくは2〜3個、または6、12、48、96もしくは384個の格納部を有することもできる。
【0044】
(b) 支持体(A)
支持体(A)の素材は、上記微生物または生体分子(試料)を保持(付着、吸着、含浸)できる材質であれば特に限定されない。好ましくは特に水に不溶性な材質であり、更に好ましくは溶液を含浸保持でき、含浸した溶液を必要に応じて試料と共に放出することができる材質である。
【0045】
例えば、濾紙、日本紙等の紙類;天然繊維、半合成繊維、合成繊維、ガラス質を主な材質とするガラス繊維またはこれらの混合繊維からなる織物、不織布またはフェルトなどの繊維状素材を用いることができる。天然繊維の種類は特に問わず、綿、麻、絹および羊毛が含まれる。半合成繊維の種類も問わずセルロース、メチルセルロースなどのセルロース、およびそれらの誘導体が含まれる。合成樹脂の種類も問わず、例えばアクリル樹脂、ビニル樹脂、およびポリアミドが含まれる。中でも、セルロ−ス又はその誘導体は、試料の付着性並びに吸着性に優れ、またガラス繊維は、試料が吸着し易く、更に離脱し易いため、好適な素材として用いることができる。
【0046】
支持体(A)の形状は、適宜設定し得るが、例えば、円柱状、塊状、粒状、球状、およびチップ状等の立体形状;シート状やフィルム状等の平面形状が挙げられる。好ましくは円柱状または円形シート状である。通常、厚さ0.1〜2mm程度の平面形状で十分であるが、試料を多量に付着できる点からは、立体形状が好ましい。
【0047】
支持体(A)は、容器の格納部(E)(言い換えると、基板(B)に形成された貫通孔内)に収容できる大きさに調整される。具体的には、格納部(E)内の保持部に保持できる大きさである。かかる大きさ(直径)は、格納部(E)内の保持部の径に応じて適宜設定することができ、例えば1辺が0.1〜10mm程度の直方体に収まる程度(直径0.1〜10mm程度)、更には0.5〜5mm程度の直方体に収まる程度(直径0.5〜5mm程度)、更には1.5〜3mm程度の直方体に収まる程度(直径1.5〜3mm程度)の大きさとすることもできる。支持体の直径は、上記保持部の直径よりも若干(5〜15%程度)大きめに設定調整することが好ましい。
【0048】
支持体(A)の厚みは、基板(B)の厚みよりも薄いことが必要である。好ましくは、格納部(E)内の保持部の厚み(縦幅)よりも薄く、具体的には、当該保持部に形成される座部と係止部の間に保持できるような厚みを有することが好ましい。より具体的な厚みとしては、例えば0.1〜2mm程度の厚み、更には0.3〜1mm程度の厚みを挙げることができる。
【0049】
なお、支持体(A)は、変形可能なように可撓性を備えていることが好ましい。これにより、支持体の直径を、格納部(E)の保持部の直径よりも若干(5〜15%程度)大きめに設定した場合でも、当該支持体(A)の保持部への収納(挿入嵌合)や取り出しを簡単に行うことができる。例えば、支持体が格納部(E)内の保持部に、比較的安定に保持されている場合でも、支持体を人為的に変形させることによって、容易に取り出すことが可能になる。
【0050】
支持体(A)には、予め微生物または生体分子(試料)が保持(付着、吸着、含浸)されていてもよいし、また保持されていなくてもよい。また、支持体には、微生物または生体分子(試料)とともに試薬や溶剤が保持されていてもよい。また試薬や溶剤だけ保持されていてもよい。試料の保持方法、および試薬や溶剤については後述する。
【0051】
(c) 基板(B)
本発明において基板とは、全体として平らな形状を有する板状物を広く意味し、厚みや素材(材質)によって特に制限されるものではない。従って、基板という用語には、板およびプレートも含まれる。好ましくは2〜10mm、より好ましくは3〜5mmの厚みを有する板状物である。
【0052】
形状は長方形、正方形、円形、楕円形などを任意に選択することができるが、好ましくは四角形、より好ましくは長方形である。大きさも特に制限されないが、通常一辺が10〜150mmとなるような範囲から選択される。具体的には、長方形の場合、一辺が40〜150mm、それと隣接する他辺が40〜80mmとなる大きさを例示することができる。
【0053】
当該基板(B)は、耐水性を有する材料からなることが好ましい。より好ましい材料として、成形のしやすさから、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂(熱可塑性材料)を挙げることができる。ここでポリオレフィン樹脂には、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂およびポリプロピレン樹脂等が、またポリアミド樹脂には、ナイロン等が含まれる。中でも好ましくは、成形のしやすさと透明性に優れることから、ポリスチレン樹脂である。
【0054】
図1(B)に示すように、基板(B)には、特定形状を有する貫通孔が設けられており、ここが格納部(E)となる。当該格納部を形成する貫通孔の配置は特に制限されないが、整列して配列されていること好ましい。例えば、碁盤目状や直線状に並んでいることが好ましい。
【0055】
当該貫通孔部(孔部)の横断面形状は制限されない。通常、図1(A)に示すように、円形を挙げることができる。但し、楕円形、矩形または菱形であってもよい。なお、基板(B)の上面に形成された開口部(3)を「挿入口」といい、また基板(B)の下面(底面)に形成された開口部(4)を「排出口」という。
【0056】
当該孔部によって基板に形成された格納部(E)は、開口部(挿入口、排出口)の口径が、内部の孔径に比して広がった構造を有している。具体的には、格納部(E)の挿入口(3)側は、基板(B)に形成されたテーパー面によって略すり鉢状の形状を有しており、内部方向に孔径が狭くなっている。一方、格納部(E)の排出口(4)側は、段形状を有して内部方向に孔径が狭くなっている。かかる格納部(E)の内部には支持体を脱離可能に保持する保持部があり、当該保持部は、格納部の内周面から内方に突出した座部(1)と係止部(2)を備えている。なお、前記の支持体(A)は当該保持部の座部(1)と係止部(2)の間に、その周縁を保持部の内周面に密着させた状態で保持されている。但し、当該支持体の周縁は、保持部の内周面に完全に固定されているわけではなく、当該内周面を摺動させながら脱着することが可能な状態で仮固定されている。
【0057】
また、図1(B)では、基板(B)の下面(底面)は、格納部(E)の排出口(4)の外周縁に沿ってリング状に突起している。このリング状の突起を利用して、本発明の容器の各格納部を、他のチューブ容器の口部やマイクロプレートのウェルなどに固定することが可能となる。
【0058】
なお、保持部の内空直径は、特に制限されないが、直径0.1〜10mm程度、直径0.5〜5mm程度、直径1.5〜3mm程度を挙げることができる。挿入口(3)および排出口(4)の口径は、上記の保持部の直径より大きければよく、特に制限されないが、直径0.5〜15mm、直径1〜8mm、直径2〜5mmを挙げることができる。突縁によって形成されるリング外周の直径は、排出口(4)の直径よりも大きければよい。例えば、排出口の直径よりも0.5〜2mm程度、好ましくは0.8〜1.5mm程度大きければよい。
【0059】
かかる基板(B)は、後述するように、まず係止部のない格納部を備えた基板、すなわち支持体を保持可能な保持部と、支持体の周縁部が当接可能な座部(1)を当該保持部に有する格納部を備えた基板を、金型を用いて射出成形や圧縮成形(金型成形)することによって作成し、次いで、当該保持部に支持体(A)を挿入嵌合させた後、高温に加熱した金属棒などの加熱体(7)で、保持部の開口周縁(8)を押圧加熱することによって、保持部に内周面から内方に突出する係止部(2)を形成することによって作成することができる(図3参照)。
【0060】
(d) シート
本発明においてシートとは、全体として平らな形状を有する物(例えば、シート状物、板状物)を広く意味し、厚みや素材(材質)によって特に制限されるものではない。従って、シートという用語には、フィルムおよび積層シートも含まれる。またシートの構造としては、例えば、1層からなる単層構造、2以上の層からなる積層構造、架橋構造、コアシェル構造等を挙げることができる。
【0061】
上記基板(B)には、これを間に挟んで、上面に第1シート(C)および下面(底面)に第2シート(D)が剥離可能な状態で積層されている。第1シート(C)および第2シート(D)は、フィルム、または厚さ0.01〜5mm程度のシートであることが好ましい。
【0062】
第1シート(C)および第2シート(D)は、それぞれ上記第1シート(C)の挿入口(3)および排出口(4)をすべて覆うことができる大きさを有するものであることが好ましい。その形状(長方形、正方形、円形、楕円形)は特に制限されず、基板(B)の形状に応じて適宜選択することができる。
【0063】
第1シート(C)および第2シート(D)の素材(材質)は、特に制限されないが、例えば、前述するような熱可塑性樹脂、およびアルミニウムなどの金属を挙げることができる。
【0064】
これらのシートは、積層構造を有していてもよい。積層シートとしては、2以上の熱可塑性樹脂層を有する積層シート、又は1以上の熱可塑性樹脂層と1以上の金属層を有する積層シート等が挙げられる。前者の例として、ポリオレフィン樹脂層とポリアミド樹脂層からなる積層シートを挙げることができる。また後者の例として、ポリアミド樹脂層とアルミニウム層からなる積層シート、またはポリエステル層、アルミニウム層、およびポリエチレン層の3層からなる積層シートを挙げることができる。なお、シートとしてフィルム状のものを使用する場合は、柔軟性や蒸着性、熱融着性を有する材質のものを選択することができる。かかる材質としてはアルミニウムシートを挙げることができる。
【0065】
第1シート(C)または第2シート(D)は、基板(B)と接する側に接着層を有するものでもよい。なお、接着層は第1シート(C)または第2シート(D)の全面に形成されていても、また一部に形成されていてもよい。接着層は、これらのシート表面の一部または全部に接着剤を塗布して形成してもよいし、また接着性を有する樹脂で形成することもできる。接着性を有する樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂やポリオレフィン樹脂を挙げることができる。
【0066】
第1シート(C)または第2シート(D)の少なくとも1方、特に第1シート(C)は、基板(B)表面から脱着可能なシートであることが好ましい。脱着可能シートとしては、シートが脱着可能なように表面加工(表面処理)されているものを挙げることができる。特に、シートの表面がシリコン樹脂やウレタン樹脂からなるやわらかいゲルでコーティング加工されていることが好ましい。脱着可能シートの具体例としては、ウレタン樹脂でコートされたポリエチレンテレフタレート製のシート、またはシリコーンシールしたポリエチレンテレフタレート製のシートを例示することができる。
【0067】
第1シート(C)を、脱着可能なシートとすることにより、例えば、基板に形成された格納部(E)に、試料や各種溶液を導入するときには、第1シート(C)を基板(B)から一旦剥がし、次いで当該試料を導入した後には、再び第1シート(C)を基板(B)に再度積層して、格納部(E)を再び密閉することができる。このため、試料や各種溶液などの格納部(E)への導入又は取り出しが容易になる一方で、外部との好ましくない接触、例えば菌による汚染等を防止することができる。
【0068】
第1シート(C)または第2シート(D)は、本発明の効果を損なわないことを限度として、具体的には格納部(E)を汚染させるようなものでない限り、通気性または透湿性を有するものであってもよい。ここで透湿性とは、水並びに、生体高分子(酵素や核酸など)、ウイルス、細菌、真核細胞などの収納試料は通さずに、水蒸気を特異的に通すことのできる性質をいう。好ましくは、水蒸気の大きさ(4×10-10メートル)より大きく、かつ水や収納試料の大きさよりも小さい口径を有する貫通孔を多数備えているシートである。本発明で用いることのできる透湿性シートとして、具体的には、収納試料が生体高分子である場合、口径5×10-10〜5×10-9メートル程度の口径を有する貫通孔を多数備えているシート;収納試料がウイルスである場合、口径5×10-10〜1×10-8メートル程度の口径を有する貫通孔を多数備えているシート;収納試料が細菌である場合、口径5×10-10〜2×10-7メートル程度の口径を有する貫通孔を多数備えているシート;収納試料が真核細胞である場合、口径5×10-10〜1×10-6メートル未満程度の口径を有する貫通孔を多数備えているシートである。なお、水滴の大きさは約1×10-4メートルである。
【0069】
かかる透湿性シートとしては、再生セルロース、具体的にはセルロース透析膜として使用されているCell-Sep(Membrane Filtration Products INC.)を好適に例示することができる。当該再生セルロースの孔径は2.4×10-9〜5×10-9メートルであるため、生体高分子を含む試料全般を収納する場合の透湿性シートとして汎用することができる。また、試料が細菌類であれば、孔径2×10-7メートル程度のセルロース混合エステル製のメンブレン(例えば、アドバンテック社製)を使用することもできる。
【0070】
なお、第1シート(C)または第2シート(D)は、その全面が通気性または透湿性の素材からなるものである必要は必ずしもなく、少なくとも、基板(B)に積層貼着した場合に、格納部(E)の開口部を覆う部分が通気性または透湿性の素材からなるものであればよい。
【0071】
第1シート(C)または第2シート(D)の厚さは、特に制限されず、所望に応じて適宜設定することができる。通常、0.01〜5mm、好ましくは0.01〜3mm、より好ましくは0.01〜2mmを挙げることができる。
【0072】
図1に示す容器において、第1シート(C)として、具体的には、基板(B)と脱着可能なように、基板(B)との接触面側がウレタン樹脂またはシリコーン樹脂でコーティング加工されてなる、ポリエチレンテレフタレート樹脂製のシートを挙げることができる。また、第2シート(D)として、具体的には、基板(B)と熱融着可能なように、当該基板(B)との接触面側から順に熱可塑性樹脂層および金属層を有する積層シートである。ここで上記第1シート(C)または第2シート(D)のいずれか少なくとも1方のシートに代えて、通気性または透湿性を有するシート、または少なくとも格納部の開口部を覆う部分が通気性または透湿性を備える素材からなるシートを使用することもできる。また、当該第1シート(C)および第2シート(D)を備えた容器を提供する際に、当該容器に加えて、基板(B)に積層可能な通気性または透湿性を有するシートを附属品として組み合わせることもできる。この場合、第1シート(C)または第2シート(D)を基板(B)から剥がし、格納部(E)の保持部に試料を収容した後、第1シート(C)または第2シート(D)に代えて通気性または透湿性を有するシートで積層または貼着することにより、試料を乾燥させながら保存や配布流通をすることが可能となる。
【0073】
(e) 格納部および格納体
基板(B)に、上記第1シート(C)および第2シート(D)が剥離可能な状態で積層されると、基板(B)の挿入口(3)および排出口(4)の開口部が開口可能な状態で閉塞され、斯くして、基板(B)内の孔内に格納部(E)が形成される。従って、本発明の容器は、基板(B)に形成された貫通孔の数に応じて、格納部(E)を有することになる。また格納部(E)の配置は、基板(B)の貫通孔部の配置に対応して、碁盤目状または直線状に配置される(図1(A)参照)。
【0074】
格納部(E)には、通常は1つの格納部に対して1つの支持体が収納される。また必要に応じて、1つの格納部に対して2以上の支持体を収納することもできる。図1(B)に示すように、支持体(A)は、格納部(E)の保持部に収容される。具体的には、支持体(A)は、格納部(E)の保持部に形成された座部(1)と係止部(2)の間に、その周縁が保持部内周面に摺動可能に密着した状態で保持収容される。
【0075】
図2は、格納部(E)内における支持体(A)の収容状況をわかりやすくするために格納部内部を拡大した図である。格納部(E)内には、収容する支持体の周縁部と当接可能なように、内周面から内方に突出してなる座部(1)と係止部(2)が形成されている。その間に配置される支持体は、座部の上に据え置きされてもよいが、より多くの試料を支持体に付着または担持させるために、座部と間隔を開けた状態で、支持体の周縁が保持部の内周面に密着した状態で嵌合保持された状態で配置されることが好ましい。
【0076】
格納部(E)の保持部にこうした座部(1)と係止部(2)を設けることによって、容器を配布や運搬する場合でも、支持体(A)を安定に格納部(E)内、特に保持部内に保持することができる。一方、本発明で用いる支持体(A)は可撓性があるため、使用時には、支持体を保持部から、その内周面を摺動させながら容易に脱離させることができる。脱離方法としては、例えば、例えば、チップ等の先端を利用して支持体(A)の中心部を上(挿入口(3)側)から押さえ、下(排出口(4)側)に押し出す方法を挙げることができる(図4(C)参照)。
【0077】
本発明では、上記格納部(E)に支持体が収納されたものを、格納体(5)と称する。図1に示す容器は、格納部(E)に支持体が収納された格納体(5)を24個有している。
【0078】
なお、本発明の容器を構成するプレート(基板(B)、第1シート(C)、第2シート(D))には、格納体(5)を一個ずつまたは複数個毎に区分できるように、分割線(6)を設けることもできる。分割線(6)の形成方法は、特に制限されないが、必要に応じて切断できるように破線又は点線状の切り込みを設けることもできる。分割線(6)は、第1シート(C)だけ、または第2シート(D)だけに設けることもできるし、第1シート(C)と第2シート(D)の両方、または基板(B)、第1シート(C)および第2シート(D)の全てに設けることもできる。第1シート(C)だけ、第2シート(D)だけ、または第1シート(C)と第2シート(D)の両方に分割線を設けた場合は、必要な格納体(5)だけを対象として、その部分の第1シート(C)や第2シート(D)を剥がして試料を添加したり、支持体を取りだすことが可能であるため、他の格納体に収納された支持体を汚染させる心配がない。また、基板(B)、第1シート(C)および第2シート(D)の全てに分割線を設けた場合は、容器から必要な格納体だけを密閉した状態のままで切り出すことが可能である。
【0079】
本発明の容器には、本発明の効果を奏する範囲で、適宜他の構成を設けることも可能である。例えば、本発明の容器を形成する基板(B)、第1シート(C)及び第2シート(D)の少なくとも1つに、各種記号、番号、またはバーコードが印刷または刻印されてもよく、また印刷物が貼付されていてもよい。
【0080】
(2)容器の作成方法
上記の構成からなる本発明の容器は、下記の工程を通じて作成することができる。
(1) 支持体を保持可能な保持部と当該保持部に支持体の周縁部と当接可能な座部を有する格納部を備える、熱可塑性材料からなる基板を形成する工程、
(2) 微生物または生体分子を保持可能な可撓性の支持体を、前記基板の格納部の保持部に、座部上方の開口部から挿入嵌合し、座部に当接させるかまたは座部と間隔を開けて配置する工程、
(3) 保持部の開口周縁を加熱体により押圧加熱して、保持部に内周面から内方に突出する係止部を形成する工程、および
(4) 格納部の開口部を覆うように基板の表裏面に第1シート及び第2シートを剥離可能な状態で積層する工程。
【0081】
ここで支持体(A)は、微生物または生体分子(試料)を予め保持したものであってもよいし、また保持していないものであってもよい。かかる試料を保持した支持体(A)を収納した容器は、試料を予め保持した支持体(A)を用いて上記の工程(1)〜(4)を行って作成する他、下記の方法で作成することもできる。
【0082】
(1) 支持体を保持可能な保持部と当該保持部に支持体の周縁部と当接可能な座部を有する格納部を備える、熱可塑性材料からなる基板を形成する工程、
(2) 微生物または生体分子を保持可能な可撓性の支持体を、前記基板の格納部の保持部に、座部上方の開口部から挿入嵌合し、座部に当接させるかまたは座部と間隔を開けて配置する工程、
(3) 保持部の開口周縁を加熱体により押圧加熱して、保持部に内周面から内方に突出する係止部を形成する工程、
(4’) 基板の一面に第1シートまたは第2シートを剥離可能な状態で積層することにより、格納部の一方の開口部を閉塞する工程、
(5’) 支持体に、微生物または生体分子を付着させる工程、および
(6’) 基板の他面に第2シートまたは第1シートを剥離可能な状態で積層することにより、格納部の他方の開口部を閉塞する工程。
【0083】
また、試料を保持した支持体(A)を収納した容器は、試料を保持しない支持体(A)を用いて前記(1)〜(4)の工程を行って容器を作成した後、第1シート(C)を剥離して、格納部(E)に収納された支持体(A)に試料を付着し、次いで、第1シート(C)または別途附属のシート(例えば、と通気性または透湿性素材からなる第3シート)を再び積層する方法によっても作成することができる。
【0084】
(a) 格納部の形成、および保持部への支持体の収容
容器作成にあたり、格納部の形成、当該格納部内の保持部への支持体の収容は、上記の(1)〜(3)の工程により行うことができる(図3参照)。
【0085】
まず、格納部(E)の保持部に係止部(2)を有さない基板(B)を形成する。具体的には、支持体を保持可能な保持部と当該保持部に支持体の周縁部と当接可能な座部(1)を有する格納部を備える基板を、熱可塑性材料を用いて形成する(工程(1))(図3(A))。この格納部の保持部内に、微生物または生体分子を保持可能な可撓性の支持体(A)を、排出口(4)側から座部(1)に向けて挿入嵌合し、座部に当接させるかまたは座部と間隔を開けて配置する(工程(2))(図3(B))。次いで、保持部の開口周縁(8)を加熱体(7)により押圧加熱して、保持部に内周面から内方に突出する係止部(2)を形成する(工程(3))(図3(C)および(D))。加熱体(7)としては、高温に加熱した金属棒、金属板、金属リングなどを例示することができる。熱可塑性材料からなる基板(B)の保持部の開口周縁(8)は、加熱体により加熱しながら押圧されると、その部分が軟らかくなって内方側に押し出されて突出する。これが係止部(2)となる。
【0086】
多くの熱可塑性材料は熱の伝導性が悪く、加熱体を押し付けてもその接した部分のみが加熱され、可塑性となる。したがってすばやい加工を実施するためには加熱体の温度は、熱可塑性材料の成型温度より30℃程度高い温度であることが好ましい。例えば熱可塑性樹脂材料としてポリスチレンを用いた場合は、その成型温度(270±10℃)より30℃程度高い300±10℃、ポリプロピレンを用いた場合は、その成型温度(290±10℃)より30℃程度高い320±10℃程度を用いることが好ましい。なお、各種の熱可塑性材料の成型温度は当業界で公知であり、例えば「プラスチック読本第19版(プラスチックエージ社)」に記載されている。
【0087】
斯くして格納部における座部の設置ならびに係止部(1)の形成により、支持体(A)が格納部の保持部から脱落するのを防止することができる。
【0088】
(b) 第1シートおよび第2シートの積層
第1シート(C)及び第2シート(D)は、上記の支持体を収容した格納部を備えた基板(B)を間に挟んで、その両側に剥離可能な状態で積層される。これにより、基板(B)の格納部(E)の挿入口(3)および排出口(4)の開口が閉塞される。閉塞の態様は、制限されないが、格納部(E)内が汚染されない程度に、密閉されることが好ましい。密閉する方法及び手段は特に限定されないが、例えば、熱融着シール、超音波シール、加圧接着等を挙げることができる。
【0089】
なお、第1シート(C)は、基板(B)に対して脱着可能であることが好ましく、この方法として、加圧接着によって基板(B)に剥離可能な状態で積層する方法を挙げることができる。第2シート(D)は、熱融着シールまたは超音波シールによって、基板(B)に剥離可能な状態で積層されることが好ましい。これによって、排出口(4)を水密に閉塞することができる。熱融着する方法としては、電気ごてや熱プレス機等を利用して、第2シート(D)を構成する熱可塑性樹脂の融点以上に加熱して熱可塑性樹脂を溶融させる方法を挙げることができる。
【0090】
(c) 滅菌処理
本発明の容器は、少なくとも支持体を収容した格納部内が無菌状態であることが好ましい。本発明の容器が、試料を保持しない支持体を収納したものである場合、上記の方法で作成した容器は、必要に応じて密封可能な袋(ポリ袋など)に収容して密封し、慣用の滅菌手段(例えば、電子線滅菌、γ線滅菌、高圧蒸気滅菌など)で滅菌処理することができる。
【0091】
(d) 支持体への試料の付着
上記格納部内の支持体(A)には、予め微生物または生体分子(試料)を付着させて保持させておいてもよい。この場合、試料を支持体(A)に付着させる方法は、特に限定されないが、例えば、試料を含有する水溶液もしくは溶剤溶液を支持体(A)に塗布または含浸(浸漬または滴下)させた後、水もしくは溶剤を除去する方法を挙げることができる。
【0092】
水溶液または溶剤の種類は、支持体に付着させる試料の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、水溶液としては、微生物には5%スキムミルク水溶液、20%グリセロール溶液;核酸にはトリス-EDTA(TE)緩衝液;タンパク質にはリン酸緩衝液、グリセロール溶液等の通常pH7前後の中性域の緩衝液を挙げることができる。また、溶剤としては、グリセロール溶液などを挙げることができる。
【0093】
これらの水溶液または溶剤には、必要に応じて、他の成分を適宜添加してもよい。かかる他の成分には、例えば、微生物には 塩化ナトリウム、塩化マグネシウム;核酸には塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム;蛋白質にはトレハロース等が含まれる。
【0094】
これらの水溶液または溶剤には、試料の種類に応じて安定化剤を配合することもできる。これらの安定化剤としては、各試料に応じて当業界で公知のものを使用することができる。例えば、微生物の安定化剤としてはスキムミルク、グリセロール、培地、血清等を挙げることができる。好ましくはスキムミルクである。当該安定化剤の濃度は、微生物の種類等に応じて適宜設定し得るが、好ましくは5%〜30%程度であり、5〜20%程度が特に好ましい。核酸の安定化剤として、EDTAを挙げることができる。
【0095】
また、ペプチドや蛋白質の安定化剤として、二糖類を挙げることができる。二糖類には、例えば、スクロース、マルトース、トレハロース等が含まれる。中でもトレハロースが最も好ましい。かかる安定化剤の濃度は適宜設定し得るが、安定化剤の濃度が2%以上であるのが好ましく、特に10%以上であることが好ましい。
【0096】
水又は溶剤を除去する方法は特に限定されないが、例えば、脱水、加熱や乾燥等が挙げられる。より具体的には風乾,真空乾燥,凍結乾燥等が挙げられる。なお、乾燥や加熱は容器に支持体を格納した後、容器ごと、行っても良い。
【0097】
上記の付着方法以外の方法として、試料を付着したピンセットやチップなどを支持体と接触させることによって、支持体に試料を吸着又は付着させる方法;印刷技術を利用して試料を支持体に印字することで、支持体に試料を吸着又は付着させる方法;各種担体やリンカーを用いて試料を支持体に付着させる方法、を例示することができる。なお、吸着又は付着の際は、効率を上げるために、減圧、加圧又は遠心分離等の手段を適宜用いてもよい。
【0098】
(3)容器の使用方法(図4参照)
本発明の容器は、格納部(E)に収納された支持体(A)を、排出口(4)側から取り出して使用される。取りだし方法は、特に制限されないが、基板(B)から、第1シート(C)及び第2シート(D)を剥離して、基板(B)に形成された格納部(E)の挿入口(3)側から排出口(4)側に、支持体を押し出して取り出す方法を例示することができる(図4(C)参照)。このとき、容器の下に、容器の格納部に対応するように、例えば試験官、チューブ、またはマイクロプレートのウェルなど(図4(C)の符号9で示す)を配置しておくことにより、その中に支持体(A)を取り出すことができる。
【0099】
なお、使用に際して、第1シート(C)及び第2シート(D)は、これらの全面を剥離する必要はなく、取り出す所望の支持体(A)を収納した格納部(E)に対応する部分だけでよい。支持体(A)の押出し方法は、制限されないが、滅菌したピンセットやチップ(図4(C)の符号10で示す)等の先を利用して支持体の上を押す方法を挙げることができる。可撓性の支持体は、こうすることで保持部から容易に脱離することができる。
【0100】
本発明の容器が、予め試料を保持した支持体(A)を収納したものである場合、上記のように直ちに支持体を取り出すこともできるが、図4(B)に示すように、格納部に収納された支持体(A)に溶液(11)を滴下含浸させて、その後に支持体を取り出すこともできる。このとき、第1シート(C)を剥離して、支持体(A)に溶液を滴下した後、再び第1シート(C)を積層してもよい。当該溶液中に、試料と反応する成分を入れておくことで、格納部内で所望の反応を行うことができる(例えば、PCR反応、ハイブリダイゼーション、抗原−抗体反応など)。この場合、本発明の容器は、反応容器として使用される。また、当該溶液として培養液を用いることにより、格納部内で微生物や細胞の培養を行うことができる。この場合、本発明の容器は、培養容器として使用される。
【0101】
格納部に収納された支持体(A)への溶液の導入方法は、特に制限されないが、ピペットを用いて行う方法が例示される。
【0102】
本発明の容器が、試料を保持しない支持体(A)を収納したものである場合、当該容器は、使用者が、当該容器内の支持体(A)に自らの試料を導入して使用される。具体的には、第1シート(C)を基板(B)から剥離して、挿入口(3)から試料を含有する水溶液または溶剤溶液を滴下して支持体(A)に含浸させ、支持体に試料を保持させる。滴下する溶液の量は、適宜選択することができるが、通常1〜10μl、好ましくは1〜5μlである。
【0103】
斯くして支持体(A)に試料を保持させた後、再び第1シート(C)を基板(B)に積層する。こうすることで、雑菌の混入による汚染を防止することができる。こうして試料を収納した容器は、常温で保存および運搬可能であり、試料の保管や管理、ならびに試料の配布(デリバリー)に好適に用いることが出来る。
【0104】
なお、支持体(A)に保持させた試料は、支持体に任意の溶液を含浸させ、震盪、遠心分離、または撹拌を行うことによって回収することができる。
【0105】
上記は本発明容器の使用方法の一例であり、本発明の容器の使用方法は、これらに特に限定されない。
【0106】
例えば、本発明の容器は、保存(保管、貯蔵)、乾燥、或いは管理用の容器として使用することができる。特に第1シートまたは第2シートとして通気性または透湿性の素材からなるシートを用いた本発明の容器は、例えば、それをシリカゲル等の乾燥剤を入れた容器にさらに収納することで保存と乾燥を同時に行うことができ、乾燥保存用の容器として使用することができる。保存、乾燥、或いは管理等における条件は適宜設定することができる。例えば、温度も適宜設定することができ、常温に設定することもできる。また、圧力も適宜設定することができ、常圧に設定することもできる。例えば、本発明の容器を用いれば、RNAを常温常圧で4ヶ月程度保存させることも可能である。また、本発明の容器を、試料の整理や分類の手段として用いることもできるし、配布、配送、運搬等の試料の移動具と使用することもできる。本発明の容器は、小型化されているため、これらの保存や移動に場所を要しない。
【0107】
本発明の容器は、容器から格納体を1又は数個切り離して使用することもできる。
【0108】
また、本発明の格納容器は、各種検出手段や分析手段をセットしたキットの一部として使用することも可能である。
【0109】
また、本発明の容器は、前述するように反応容器また培養容器として利用することもできる。
【0110】
具体的には、試料がヌクレオチドを構成成分として含む物質の場合、第1シート(C)を剥離して、格納部(E)内にPCR溶液を導入した後、第1シート(C)を再び積層し、容器中でそのままPCR反応等を行ってもよい。更に、反応溶液に核酸又は核酸アナログを増幅するプライマーや検出用色素を入れておき、その色素の蛍光を測定することにより、リアルタイムPCR反応等を行うこともできる。
【0111】
試料がアミノ酸を構成成分として含む物質の場合、容器中でそのまま酵素反応、抗原−抗体反応、吸着反応、または電気化学反応を行うこともできる。さらに反応液に酵素の発色基質や蛍光基質、抗体などをいれておき、その色素の発色や蛍光などを測定することにより、リアルタイム酵素反応などを行うこともできる。また、本発明の容器は、プロテインチップ(又はプロテインアレイ)として用いることもできる。さらに格納部(E)内で溶液中に溶出した抗体蛋白質と標識抗原との抗原−抗体反応を行ったりして、各種スクリーニングや蛋白質構成、アミノ酸配列解析、糖鎖解析などを行うこともできる。
【0112】
試料が微生物の場合、容器中でそのまま反応、形質転換または培養を行うこともできる。本発明の容器は、収納容器、反応容器、または培養容器として使用することができる。例えば、本発明の格納部(E)内に、培養液を導入し、培養装置や恒温装置などの各種の装置に設置することもできる。
【0113】
また、本発明の容器は、マイクロプレートやディープウェルプレートとして用いることもできる。例えば、本発明の容器を96穴マイクロプレートとして用いて、サンプリング装置等の各種装置に設置することも可能である。これにより、従来要していた、マイクロチューブから96穴プレート、96穴プレートからマイクロチューブへの試料の移し替え作業を省略でき、作業の省力化や効率化、ならびに混入物の防止を図ることができる。また、例えば、本発明の容器をDNAチップ用の容器として用いて、格納部内で溶出させたDNAと蛍光プローブとのハイブリダイゼーションを行わせて、遺伝子発現頻度解析やスクリーニングを行ったりすることもできる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0115】
実施例1
(1)支持体の調製
セルロース製のろ紙(ワットマン社製、3M)を用い、円柱状(直径3mm、厚さ0.3mm)に切り抜き、支持体(A)とした。
(2)容器の調製
通孔部(貫通孔)24個を碁盤目状に有するポリスチレン樹脂基板(34.25×76×2.3mm)を金型成形によって作成した。その基板の1つの通孔部の断面を図3(A)に示す。この図に示すように、当該基板(B)に形成された通孔部(貫通孔)は横断面が円形の貫通孔であり、通孔部の開口部(挿入口(3)、排出口(4))の口径よりも内部の孔径が狭くなっている。なお、ここでは排出口(4)の口径を4mmとした。
【0116】
図3(A)に示すように、基板(B)の挿入口(3)側の内孔面は、基板に形成されたテーパー面によって略すり鉢状の形状を有しており、内部方向に孔径が狭くなっている。一方、基板(E)の排出口(4)側の内孔面は、2段の階段形状となって内部に向けて孔径が狭くなっている。段構造によって形成される基板(B)の通孔内部(保持部)の孔径(図中、符号aで示す)は上記支持体(A)の直径(3mm)の10%ほど小さい径2.7mmに設定した。
【0117】
挿入口(3)側の通孔内部の内周面に形成されたすり鉢状形態と、開口部b(4)側の通孔内部の内周面に形成された段状形状とにより、格納部には内方に突出した形状の座部(1)が形成される。
【0118】
斯くして調製した基板(B)の孔内に、基板の排出口(4)側から座部(1)に向けて、上記で作成した支持体(A)を挿入嵌合し、座部と間隔を開けて配置した(図3(B)参照)。なお、孔内の保持部の孔径(a)は2.7mmであるのに対して、そこに挿入する支持体(A)の直径は3mmと大きいため、支持体の周縁が当該通孔部の内周面に密接し、これにより座部(1)から浮いた状態で支持体(A)を保持することができる。
【0119】
次いで、300±10℃に加熱した円柱状の金属棒(7)を、排出口(4)側から孔内に挿入して、保持部の開口周縁(8)を押圧した。当該円柱の直径は、排出口(4)の孔径(4mm)より小さく、孔内の保持部の孔径(a)2.7mmより大きいため、保持部の開口周縁(8)が押圧加熱され、保持部に内周面から内方に突出する係止部(2)が形成される(図3(C)および(D)参照)。
【0120】
斯くして、座部(1)と係止部(2)の間に支持体(A)が、保持部の内周面に密着された状態で保持された格納部を有する基板が形成される(図3(D))。
【0121】
次いで、格納部(E)を有する基板(B)の排出口(4)側に、碁盤目状に形成した格納部の全てが覆われるように、ポリエステル層、アルミニウム層及び接着層(ポリエチレン層)の3層構造を有する積層フィルム(第2シート)を積層し、また基板(B)の挿入口(3)側に、開口部の全てが覆われるように、表面がウレタン樹脂でコーティングされたポリエチレンテレフタレート製の脱着可能なシート(第1シート)を、コーティング面を内側にして積層した。斯くして開口可能に閉塞した格納部(E)を有する容器を調製した。
【0122】
また第1シートとして上記のポリエチレンテレフタレート製に代えて、透湿性シートとして再生セルロース製のCell-Sep膜(Membrane Filtration Products INC.、孔径:2.4×10-9〜5×10-9メートル)、またはセルロース混合エステル製のメンブレン(アドバンテック社製、孔径2×10-7メートル)を使用して容器を調製した。前者は、生体高分子を含む試料全般を収容する容器、後者は細菌類を収容する容器であって、保存と同時に乾燥が可能な容器として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の容器の一実施態様である。(A)は容器を上から見た平面模試図、(B)は容器をX−Xで切断した縦断面図、(C)は容器の斜視図である。
【図2】本発明の容器の格納部(E)の部分を拡大した縦断面図である。
【図3】本発明の容器の製造工程の一部を示す図である。
【図4】本発明の容器の使用方法を順次示す図である。
【符号の説明】
【0124】
A:支持体
B:基板
C:第1シート
D:第2シート
E:格納部
1:格納部(保持部)に設けられた座部
2:格納部(保持部)に設けられた係止部
3:格納部の挿入口
4:格納部の排出口
5:格納体
6:分割線
7:加熱体
8:保持部の開口周縁
9:容器の下に配置した試験官、チューブ、またはマイクロプレートのウェル
10:チップ
11:滴下した溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏面を貫通して形成される格納部を備える基板と、
前記格納部に脱着可能な状態で収容される、微生物または生体分子を保持可能な可撓性の支持体と、
前記格納部の開口部を覆うように前記基板の表裏面に剥離可能に貼着される第1シート及び第2シートとを備えた、微生物または生体分子を収容可能な容器であって、
−前記格納部は、前記支持体を保持可能な保持部を備え、当該保持部は前記支持体の周縁部と当接可能な座部、および内周面から内方に突出する係止部を有しており、
−前記支持体は、前記保持部の座部と係止部の間に、その周縁を保持部内周面に摺動可能に密着させて保持されてなる、
容器。
【請求項2】
第1シートおよび第2シートの少なくとも一方は、透湿性を備える素材からなるシートであるか、または少なくとも格納部の開口部を覆う部分が透湿性を備える素材からなるものである、請求項1記載の容器。
【請求項3】
支持体が、座部と間隙を開けて保持部に保持されてなる請求項1または2に記載する容器。
【請求項4】
格納部は、挿入口と排出口を備えており、
当該挿入口は、内方に向けて狭くなる略すり鉢形状を有している請求項1乃至3のいずれかに記載の容器。
【請求項5】
基板の片面または両面が格納部の外周縁に沿って突起してなる、請求項1乃至4のいずれかに記載の容器。
【請求項6】
基板は、熱可塑性材料からなり、
係止部が、保持部の開口周縁を加熱体により押圧加熱して形成される請求項1乃至5のいずれかに記載の容器。
【請求項7】
支持体を収容した格納部を複数個備えた請求項1乃至6のいずれかに記載の容器。
【請求項8】
マルチウェルプレートである、請求項1乃至7のいずれかに記載の容器。
【請求項9】
第1シート及び第2シートから選択される少なくとも1つのシートに、基板に形成された格納部に対応して、当該格納部を区分するための分割線、または切り出し可能な切り出し線が形成されてなる、請求項1乃至8のいずれかに記載の容器。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載する容器と、第1または第2シートの予備シートとして、当該容器の基板表面に積層して用いられる第3シートとを組みあわせて含むキットであって、当該第3シートが透湿性を備える素材からなるシートであるか、または少なくとも基板の格納部の開口部を覆う部分が透湿性を備える素材からなるシートであるキット。
【請求項11】
下記の工程を有する請求項1乃至9のいずれかに記載する容器の作成方法:
(1) 支持体を保持可能な保持部と当該保持部に支持体の周縁部と当接可能な座部を有する格納部を備える、熱可塑性材料からなる基板を形成する工程、
(2) 微生物または生体分子を保持可能な可撓性の支持体を、前記基板の格納部の保持部に、座部上方の開口部から挿入嵌合し、座部に当接させるかまたは座部と間隔を開けて配置する工程、
(3) 保持部の開口周縁を加熱体により押圧加熱して、保持部に内周面から内方に突出する係止部を形成する工程、および
(4) 格納部の開口部を覆うように基板の表裏面に第1シート及び第2シートを剥離可能な状態で積層する工程。
【請求項12】
下記の工程を有する請求項1乃至9のいずれかに記載する容器の作成方法:
(1) 支持体を保持可能な保持部と当該保持部に支持体の周縁部と当接可能な座部を有する格納部を備える、熱可塑性材料からなる基板を形成する工程、
(2) 微生物または生体分子を保持可能な可撓性の支持体を、前記基板の格納部の保持部に、座部上方の開口部から挿入嵌合し、座部に当接させるかまたは座部と間隔を開けて配置する工程、
(3) 保持部の開口周縁を加熱体により押圧加熱して、保持部に内周面から内方に突出する係止部を形成する工程、
(4’) 基板の一面に第1シートまたは第2シートを剥離可能な状態で積層することにより、格納部の一方の開口部を閉塞する工程、
(5’) 支持体に、微生物または生体分子を付着させる工程、および
(6’) 基板の他面に第2シートまたは第1シートを剥離可能な状態で積層することにより、格納部の他方の開口部を閉塞する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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