説明

微生物成長のためのバイオマスの調整

本発明は栄養源としてリグノセルロースバイオマスを用いる微生物の工程の収率を改善する方法に関する。該方法はフェノール酸化酵素を含有する酵素組成物とリグノセルロースバイオマス含有組成物を調整することを含む。該調整される組成物は、工程におけるより速い微生物の成長速度をサポートすることができる。ある実施態様においては、ラッカーゼ組成物は、トウモロコシ及び/又はサトウキビのような、非木質植物から得られるものである。また、本発明は、リグノセルロースバイオマス中の阻害化合物に感受性のある微生物を培養する方法を含む。さらに、本発明は、調整リグノセルロースバイオマスにおける生産微生物を培養することにより産物を作る方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.関連出願の相互参照
本出願は、2007年1月3日出願の表題「Conditioning Biomass for Microbial Growth」である米国仮出願Ser. No. 60/878,616に基づき優先権を主張し、その全体が、引用により本明細書に取り込まれる。
【0002】
2.政府の援助
この研究の一部は、米国エネルギー部門で元請け契約第DE−AC36−99GO 10337号に基づきナショナル・リニューアブル・エナジー・ラボラトリーとの下請け契約第ZCO−30017−01号によって資金援助を受けている。従って、米国政府が本発明における一定の権利を有する。
【0003】
2.前書き
本発明は栄養源としてリグノセルロースバイオマスを用いる微生物の工程の収率を改善するための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
3.発明の背景技術
近年、燃料としてエタノールへのバイオマスの転換が大きく進歩してきた。今日までバイオマスから得られるエタノールの多くは、米国でのトウモロコシのグルコースの発酵及びブラジルでのサトウキビのスクロースに基づく。多くが、セルロース、ヘミセルロース、リグニンからなるバイオマスは重要な新たなエネルギー源として注目を浴びてきている。森林及び農業廃棄物は豊富で比較的安価である。この材料、少なくともその重要な一部は、液体燃料へ転換できるならば、これは、リサイクル及び資源の保存の問題を解決するために重要な貢献を担うであろう。
【0005】
エタノールは、木材、農作物のようなリグノセルロース物質から生産される。リグノセルロースの成分であるセルロース及びヘミセルロースは、単糖を放出するために加水分解され、それからエタノールへ発酵される。しかしながら、セルロース性材料を発酵可能な糖へ転換する経済的に採算のあう手段を開発することは困難である。エタノール及び他の物質の生産のためにリグノセルロースバイオマスの使用を研究することは広く行われており、例えば、Lin及びTanaka (2006 Appl. Microbiol. Biotechnol. 69:627−642)、及びSaha (2003, J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 30:279−291)を参照願いたい。
【0006】
リグノセルロースはデンプン及び糖よりもっと複雑な物質である。律速的及び困難な課題の一つはリグニンの除去である。さらに、植物の組織はサイズ及び器官について途方もなく異なる。ある植物細胞タイプは厚い細胞壁及び他の細胞から細胞を分離する中層のラメラの高い木質化を有する。これらの細胞壁は二次細胞壁(外側から内側へ分解される純粋セルロースの粒子とは反対に)を通して出て管腔表面から攻撃される。セルロース自身による強制的な拘束性に加えて、さらに、攻撃部位へのセルロース分解剤の拡散及び輸送による制限が強いられる。すなわち、セルロースの加水分解前に、セルロースを加水分解ができる及びより加水分解しやすい構造を有する繊維にするために、最も木質的な材料は前処理の対象となる。
【0007】
木材由来の加水分解物のエタノールへの発酵は、フラン類、有機酸、及び種々のフェノール化合物類のような、阻害物質の存在により、困難であると考えられてきた。そのような阻害物質は、リグニン分解及び木材における多糖複合体の加水分解の間に形成または放出される。毒性化合物の種類及びリグノセルロース加水分解物中のそれらの濃度は生材料及び加水分解に用いる操作条件の両方で決定される。そのような毒性化合物のよって糖の効率的利用及びエタノールの生産が著しい減少となる。
【0008】
生物学的、生理学的、化学的解毒作用方法は、トウヒバイオマス(Larsson他、1999, Appl. Biochem. Biotechnol. 77‐79, 91‐103)の加水分解物で試験されてきた。U.S. 7,067,303では、加水分解物におけるフラン類を消失するために菌類Coniochaeta ligniariaの使用を開示する。「過剰石灰処理(overliming)」として知られる通常使用する方法は、例えば水酸化カルシウム又はアンモニアカルシウムのようなアルカリで初期のpHを10−11に調整し、それから、例えば、硫酸又はリン酸のような酸でpHを5.0−6.0に調整する。アルカリで解毒を行う条件は有用な効果を最適化し、発酵糖の分解を最小限にするよう慎重に制御しなければならない。アルカリ解毒作用効果とカチオン及び条件の選択の影響の背景にある作用機序は余り解明されていない。(Nilvebrant他、2003, Appl Biochem Biotechnol. 105−108:615−28;Persson他、2002, J Agric Food Chem. 50(19):5318−25)過剰石灰処理はかなり効果的でありながら、後続の工程を通して存在する不溶性の沈殿が生じ、その結果、廃棄物が生じ、経費が増大する。
【0009】
各タイプの加水分解物は異なる割合の毒性を有し、各種の微生物、各菌種は阻害剤に対する異なる割合の耐性を有するので、解毒方法の有効性は多様である。それゆえ、異なる解毒方法は、異なる供給源および異なる微生物が用いられる場合、厳密に比較することができない。(Mussatto及びRoberto, 2004, Bioresour Technol. 93(1): 1‐10;Palmqvist及びHahn−Hagerdal, 2000, Bioresour Technol. 74:25−33; Palmqvist及びHahn− Hagerdal, 2000, Bioresour Technol. 74:17‐24)。
【0010】
研究の多くがエタノールの発酵のための木材の加水分解物を解毒する方向に焦点が絞られていたけれども、他のバイオテクノロジープロセスの原料としてリグノセルロースバイオマスの使用は比較的研究されていない。例えば、多様な産業界でのセルロース酵素への増大する需要により、例えば、トリコデルマ レーシ(Trichoderma reesei)のような菌類からセルラーゼの生産を増加する新規方法を求める明らかな要求が存在し、それにり、セルラーゼ酵素はより経済的な入手が可能となっている。
【0011】
エタノール生産のみに関しても、リグノセルロースを糖へ、さらに糖をエタノールへ転換する多様なアプローチの経済性及び効率性の改善という緊急の必要性がある。
【発明の概要】
【0012】
4.発明の趣旨
本発明は栄養源としてリグノセルロースバイオマスを用いる微生物の工程の収率を改善する方法に関する。特に本発明によって、微生物の成長のために調整されるリグノセルロースバイオマスを含む組成物の調製方法を提供する。そのような組成物は微生物工程のための原料成分として用いることができる。該方法は組成物中に存在する阻害性化合物を中和するために十分な時間フェノール酸化酵素を含有する酵素組成物とリグノセルロースバイオマス含有組成物が接触することを含む。該調整される組成物は、酵素組成物と接触していないリグノセルロースバイオマス組成物で得られた速度より速い生産微生物の菌株の成長速度をサポートすることができる。ある実施態様においては、酵素組成物はラッカーゼを含む。ある実施態様においては、リグノセルロースバイオマスはトウモロコシ及び/又はサトウキビのような、非木質植物に由来する。ある実施態様においては、酵素組成物はラッカーゼを含有し、リグノセルロースバイオマスは、トウモロコシ茎葉及びサトウキビバガスから選択される。
【0013】
また、本発明は、リグノセルロースバイオマス中に存在する特定の阻害性化合物に感受性を有する微生物の培養方法を含む。ある実施態様においては、リグノセルロースバイオマス含有組成物を微生物の成長のための組成物を調整するのに十分な時間フェノール酸化酵素含有酵素組成物と接触する。調整組成物をそれから微生物を培養するための原料の成分として用いる。あるいは、酵素組成物を工程に直接添加し、それにより、微生物がリグノセルロースバイオマス含有培養培地にて培養される。どちらにせよ、調整組成物における微生物の成長速度及び/又は微生物バイオマス収率は、該酵素組成物に接触していないリグノセルロースバイオマス含有組成物のものと比較して増加する。
【0014】
さらに本発明は栄養源としてリグノセルロースバイオマスを用いる微生物の産物を生産する方法を含む。一般的に、方法は、微生物成長のために調整されるリグノセルロースバイオマス含有組成物において産物を生産する微生物を培養することを含む。産物は微生物及び/又は調整組成物から回収できる。上述のように、組成物をフェノール酸化酵素での処理によって調整し、その結果、調整組成物から得られる微生物の成長速度は調整しない組成物の速度と比較して増加する。ある実施態様においては、培養微生物はトリコデルマ(Trichoderma)種及びその産物はセルラーゼ酵素である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
5.図の説明
【図1】ラッカーゼ処理による培養での成長。グラフは初期に2%トウモロコシ茎葉及び10gグルコース/リットル含有する培養培地にて3日間トリコデルマ レーシ(Trichoderma reesei)の培養に伴うグルコースの消費を示す。表示日数(1,2,3日)間トリコデルマ ピルリフェラム(Trichoderma piluliferum)ラッカーゼの表示濃度(0U/ml、0.125U/ml、0.25U/ml、0.5U/ml)で処理される培養培地を用いる多様な培養サンプルのグルコース濃度を異なる線及び凡例記号によって示す。対照培養はラッカーゼ(0U/ml)処理されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
6.発明の詳細な説明
本発明は栄養源としてリグノセルロースバイオマスを用いる微生物培養の性能に悪影響を与えるリグノセルロースバイオマス中の阻害物質の問題に取り組む。本発明は種々のタイプの工程における微生物の成長のための栄養源としてのリグノセルロースバイオマスの有用性を改善する方法に関する。
【0017】
本発明は、下記に定義するリグノセルロースバイオマスを一以上のフェノール酸化酵素を含有する酵素組成物で処理又は調整することに関与する。任意の論理、作用機序によって制限されることを意図せず、いくつかの阻害剤はリグニンの分解の間に放出されるフェノール化合物であり、本発明のフェノール酸化酵素は、そのようなフェノール化合物の酸化カップリングを触媒し、不溶性高分子化合物を形成すると考えられる。本発明におけるフェノール酸化酵素の使用は他の酵素によるバイオマスの分解を助けるための解毒剤としてのフェノール酸化酵素の使用と異なる。本発明によりもたらされる有用性は微生物成長の改善である。
【0018】
本発明の酵素組成物と接触した後、微生物成長用に調整されるリグノセルロースは、微生物処理に直接的に用いられ又はさらなる操作に処される。本発明の酵素組成物で処理することによって、原料成分としてリグノセルロースバイオマスを用いる時の生産微生物の生産能力の低減及び/又は遅い成長及び低収率の問題を緩和する。過剰石灰処理と比較して、本発明の方法を用いる場合、無駄が殆ど又は全くない。
【0019】
酵素組成物によって前処理をしていないリグノセルロースも前処理リグノセルロースも調整するのに用いることができる。セクション6.1で詳しく述べるように、広範囲の未処理リグノセルロースは、本発明で用いられる。本発明の酵素組成物は、前処理段階の程度を低減し、さらには前処理段階をバイパスするためにも効果的に用いられる。用語リグノセルロースバイオマスは未処理及び前処理リグノセルロース含有原料を含む。また、前処理リグノセルロースは本発明に用いることができる。特に、本発明はトウモロコシ茎葉及びサトウキビバガス又は加水分解物に相当するような非木質リグノセルロースバイオマスを調整するための、フェノール酸化酵素の使用を提供し、その結果、調製されるバイオマスは、より有用な微生物の成長をサポートする。ある本発明の態様においては、エタノール発酵用の木質加水分解物を処理するために白色腐朽菌(カワラタケ(Trametes versicolor))から単離される精製ラッカーゼ及び精製リグニンペルオキシダーゼの使用を除く。
【0020】
酵素組成物を用いるリグノセルロースバイオマスの処理はリグノセルロースバイオマスにおける阻害性フェノール化合物の濃度を減少するのに十分な期間行われる。処理を後続工程段階から分離して行うことができる。ある実施態様においては、酵素組成物を伴うリグノセルロースバイオマスの処理は、生産微生物の成長と同時に実施できる。別の実施態様おいては、処理を生産微生物の導入前に行う。他の実施態様においては、リグノセルロースが前処理された後に処理を行うことがきる。調整されるリグノセルロースバイオマス及び同様物を含有する組成物は将来の使用のために貯蔵できる。従って、本発明は微生物を培養するための原料を調製する方法の提供であり、本発明の酵素組成物で微生物の成長を調整されるリグノセルロースバイオマスは原料成分として使用できる。
【0021】
他の実施態様においては、酵素組成物を生産微生物の培養の間に直接加えることができる。酵素組成物を処理の間に一回で加えることができる。例えば、処理の初めに、阻害化合物が放出される時の段階に、生産微生物が培養に添加される時の段階に、又は生産微生物が最大に増殖する時の段階に加えるなどである。さらに別の実施態様おいては、酵素組成物を、酵素を自然に又は組み換え的に作成し、及び酵素を培地中に分泌する生産微生物の一以上の菌種によって生産することができる。
【0022】
酵素組成物は少なくとも一つのフェノール酸化酵素を含む。セクション6.2で詳しく記載するように、フェノール酸化酵素は菌類、好ましくは、糸状菌、及びより好ましくは、子嚢菌類(ascomycete fungus)により生産されるラッカーゼである。フェノール酸化酵素は種々の形態を有し、結晶型、固定化型、菌培養ろ過、菌細胞抽出液等が含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
調整されていないリグノセルロースの使用を除いて同様の工程と比較する場合、酵素組成物の使用は、工程の一以上の局面を改善する。例えば、生物反応器における微生物の成長の速度論又は処理の特定の段階での単位時間における微生物バイオマス中の収率を改善する。種々の実施態様おいては、意図される工程を、例えば、燃料、汎用化学品、精製化学製品、酵素、医薬品中間体等のような産物を生産するために用いる。それゆえ、また、本発明は、調整リグノセルロースバイオマスにおける所望の産物を生産する微生物を培養すること、及び工程から所望の産物を回収することを含む、所望の産物を生産する方法を含む。本発明が適用できる工程のタイプの詳しい説明はセクション6.3に記載する。
【0024】
本発明の詳細な説明を次のように小区分に分けて行うが、これは本発明の開示を明確にするためであり、本発明を限定する趣旨ではない。
【0025】
6.1リグノセルロースバイオマス
種々の植物バイオマスを本発明に用いることができる。最も豊富な植物バイオマスは木質及び非木質植物の葉及び茎におけるリグノセルロースである。リグノセルロースは、ヘミセルロース、及びペクチンを有する異種のより合われた、結晶化度の多様なセルロース鎖を構成し、リグニンに組み込まれている。典型的なセルロース内容物は植物乾燥重量中約35%から50%の範囲であり、ヘミセルロース及びリグニンは植物乾燥重量中20%から35%及び5%から30%それぞれ含有される。
【0026】
本明細書にて用いる用語「木質リグノセルロースバイオマス(woody lignocellulose)」は、木質植物の茎及び根のバルクを形成する二次木部組織である木材を含む植物中に存在するリグノセルロースをいう。二次木部は維管束形成層により形成され、単子葉植物以外の(i)針葉樹(マツ目(Coniferae))(ii)被子植物(被子植物門(Angiospermae))に見られる。多くの針葉樹林は背の高い木であり、これらの二次木部は、軟材として知られる。多くの非単子葉植物の被子植物は木であり、これらの二次木部は、硬材として知られる。また二次木部は、グネツム類及びイチョウ類のような裸子植物群のなかで見られ、ソテツ門の中ではそれほどでもないが見られる。
【0027】
木質植物由来のリグノセルロースは、果樹園の剪定、シャパラル、工場廃棄物(樹皮、小片、かんなくず、おがくず、及び類似物のような)、都市の廃棄物(捨てられた木材、木製パレット、木箱、木や芝の刈り込み等のような)、市街地の廃棄物(新聞及び廃棄される食料品のような)、伐採廃棄物及び森林間伐材(木の梢、大枝及び間引材料)、ポプラやハコヤナギのような短期輪作木質作物、及び産業用廃棄物(木のパルプ泥、パルプからの亜硫酸塩廃液のような)を含む。
【0028】
用語「非木質リグノセルロース(non−woody lignocellulose)」は単子葉植物及び特にイネ科ファミリーに属する草の種類に由来する植物バイオマスをいう。特に興味があるのは、稲作農業の廃棄物、つまり、種を収穫した後に残る穀物収穫用植物の一部である。非木質リグノセルロースバイオマスは、麦わら、オート麦のわら、稲わら、大麦わら、ライわら、亜麻のわら、サトウキビバガス、トウモロコシ茎葉、トウモロコシ茎、トウモロコシの穂軸、トウモロコシの皮、及び類似物を含むがこれらに限定されない。またこの定義内ではプレイリー草(例えば、大きなウシクサ、小さなウシクサ、インディアン草(Indian grass))、スイッチグラス、ガマグラス(gamagrass)及びフォックステイルグラスのような通常農業を目的として栽培されない草を含む。
【0029】
植物バイオマスと考えられる、及びリグノセルロースを含む他の農業用副産物は、穀物原料(テンサイパルプ、柑橘果実パルプ、種子の殻、及びその類似物のような)、セルロースの動物廃棄物、芝の切り落とし、および海草の商業的処理から流出する廃棄成分を含む。
【0030】
リグノセルロース含有植物原料は例えば、寸断、粉砕、すりつぶし、微粉砕、又は漬け込みによって物理的に改変される。また、リグノセルロース含有植物原料は、水に浸し、湯(言い換えると室温より高い温度、例えば、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、95℃、99℃及び大気圧又はそれを超えた圧力で)に浸し、蒸気又は過熱水にさらされ、蒸気爆発に処される。ある実施態様においては、リグノセルロース含有植物原料は酸及び/又はアルカリによる化学的な前処理をしない。
【0031】
本明細書において、用語「前処理(pretreatment)」又は「化学的前処理(chemical pretreatment)」は、互換可能に用いられ、リグノセルロースを一般的にセルラーゼ作用に耐性を有するその天然型から酵素加水分解が効果的である型に転換する処理段階をいう。本明細書において、用語「加水分解物(hydrolysate)」又はそれらの誘導体は、原料中のキシラン及びセルロースの少なくとも一部を溶解するために及び単糖を放出するために前処理されている任意の前述リグノセルロースをいう。前処理の非限定的な例としては、希釈硫酸または消石灰処理(言い換えると、水酸化カルシウムを形成するために水で酸化カルシウムを不活性化する)の実施または不実施下、蒸気爆発を含むが、これらに限定さない。
【0032】
本明細書に用いる用語「リグノセルロース(lignocellulose)」は、化学的前処理をしていない任意の前述リグノセルロース含有植物原料をいう。用語「リグノセルロースバイオマス(lignocellulose biomass)」は、天然の状態、物理的に修飾された(例えば、寸断、又は粉砕によって)状態、水又は蒸気処理された状態、又は化学前処理後の状態における任意の前述のリグノセルロース含有植物原料をいい、それは、微生物の成長のための有用な工業用原料となる。木質リグノセルロースバイオマス及び非木質リグノセルロースバイオマスは各々木質植物及び非木質植物から得られる。典型的に、リグノセルロースバイオマスは、工業用原料のようないくつかの栄養成分の一つとして組成物中に存在する。
【0033】
入手できる農業の副産物の中で、トウモロコシの茎葉は、米国において最も豊富な非木質リグノセルロースである。トウモロコシの茎葉は、穀物を収穫した後の茎、穂軸、さや、及び葉を含む。茎葉を回収することは、トウモロコシのコンバイン上のスプレッダー及び/又はチョッパーの電源を切り、便利な干草梱包装置によってくずを拾い上げることにより容易に行うことができる。トウモロコシの茎葉の約40%の乾燥部分はセルロースである。蒸気前処理は固体部分からヘミセルロースの大部分を除き、セルロースがより酵素的消化を受けやすいようにする。蒸気前処理の間の反応温度、時間、pHの異なる組合わせが適用される。例えば、200℃、5分、2%硫酸である。蒸気爆発済みの液体をサッカロミセス セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)を使用する発酵に用いてよい。ある実施態様においては、トウモロコシの茎葉を乾燥し生の形態で用いる。また、他の実施態様においては、酸洗浄及び/又は水に浸しているトウモロコシ茎葉を用いる。
【0034】
他の豊富な非木質リグノセルロースはサトウキビくず、例えばバガスであり、サトウキビの茎をサトウキビのしぼり汁を抽出するために粉砕後の繊維くずである。ブラジルではエタノール燃料をトウモロコシより有効な発酵炭水化物の供給源であるサトウキビから生産する。バガスは発酵処理を行うための燃料として用いられている。また、サトウキビのバガス及び/又はその加水分解物は、本発明の方法によって調整された後、微生物を成長するための栄養源として用いる。実施態様においては、サトウキビのバガスは、前処理されていない乾燥生状態である。他の実施態様においては、サトウキビのバガスは酸性洗浄及び/又は水に浸した状態で用いる。
【0035】
任意の上述リグノセルロースバイオマスを微生物の処理において直接用い、又は工業用原料のようなリグノセルロースバイオマス含有組成物を作るために用いてよい。ある実施態様においては、酸性又はアルカリ性前処理は微生物工程を阻害する化合物を発生するので化学的に前処理されていないリグノセルロースバイオマスが好ましい。
【0036】
6.2酵素組成物
本発明は、リグノセルロースバイオマスを調整するフェノール酸化酵素を少なくとも一つ含有する酵素組成物又はリグノセルロースバイオマスを含有する組成物の使用を提供する。本明細書にて用いる用語「フェノール酸化酵素(phenol oxidizing enzyme)」は、酸化還元反応、言い換えると電子供与体(通常フェノール化合物)から水に還元される酸素分子(電子受容体として作用)へ電子の移転であるが、それを触媒する機能を有する酵素をいう。そのような酵素の例は、ラッカーゼ(EC 1.10.3.2)、ビリルビンオキシダーゼ(EC 1.3.3.5)、フェノールオキシダーゼ(EC 1.14.18.1)、カテコールオキシダーゼ(EC 1.10.3.1)である。本発明のフェノール酸化酵素は、電子受容体として酸素分子又は過酸化水素をより特異的に用いながら、電子供与体として多様に異なるフェノール化合物を用いることができる。
【0037】
多くのフェノール酸化酵素は酸性のpH領域で最適pHを有し、一方、中性又はアルカリ性pH領域では不活性である。リグノセルロースバイオマスのpH領域内で最適pHに該当するフェノール酸化酵素を用いることが好ましい。フェノール酸化酵素は様々な菌類により生産されることが知られており、アスペルギルス属(Aspergillus)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ポドスポラ属(Podospora)、ボトリチス属(Botytis)、ヒラタケ属(Pleurotus)、トリコデルマ属(Trichoderma)、スタキボトリス属(Stachybotrys)、ツリガネタケ属(Fomes)、フレビア属(Phlebia)、シロアミタケ属(Trametes)、タマチョレイタケ属(Polyporus)、リゾクトニア属(Rhizoctonia)、及びシイタケ属(Lentinus)の種を含む。
【0038】
ある実施態様においては、トリコデルマ(Trichoderma)又はヒポクレア(Hypocrea)種によって生産されるフェノール酸化酵素を本発明の方法に用いてよい。トリコデルマ(Trichoderma)種であって、菌株及び天然の単離株、及びそのような種、菌株、単離株の誘導体は、トリコデルマ ピルリフェラム(Trichoderma piluliferum)、トリコデルマ レーシ(Trichoderma reesei)、トリコデルマ ロンギプラチアタム(Trichoderma longibrachiatum)を含む。トリコデルマ ピルリフェラム(Trichoderma piluliferum)は土壌サンプルから単離でき、J. Webster及びRifai、 M. A. 1969, Myco. Pap. 116:16に記載されている。また、US Pat. No.6,475,566(またヒポクレア ピルリフェラ(Hypocrea pilulifera)として知られている)も参照願いたい。ある実施態様においては、フェノール酸化酵素を、木材を基質として成長する任意の菌類によって生産する。ある実施態様においては、フェノールオキシダーゼを作る任意の子のう菌類を用いる。
【0039】
本発明のラッカーゼ遺伝子の供給源は植物、微生物、昆虫、又は哺乳類のラッカーゼでよい。ある実施態様においては、ラッカーゼは、菌類のラッカーゼである。例えば、ラッカーゼは糸状菌ラッカーゼでよく、例えば、アクレモニウム属(Acremonium)、ハラタケ属(Agaricus)、アメロスポリウム属(Amerosporium)、アントロディエルラ属(Antrodiella)、アルミラリア属(Armillaria)、アスペルギルス属(Aspergillus)、黒酵母属(Aureobasidium)、ビポラリス属(Bipolaris)、ヤケイロタケ属(Bjerkandera)、ミダレアミタケ属(Cerrena)、ケトミウム属(Chaetomium)、クリソスポリウム属(Chrysosporium)、コクリオボラス属(Cochliobolus)、ヒトヨタケ属(Coprinus)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、クリフォネクトリア属(Cryphonectria)、カーブラリア属(Curvularia)、シアツス属(Cyathus)、ニクウチワタケ属(Daedalea)、フィリバシジウム属(Filibasidium)、ツリガネタケ属(Fomes)、フザリウム属(Fusarium)、ゲオトリクム属(Geotrichum)、ジオクラディウム属(Giocladium)、ゴングロネラ属(Gongronella)、ハロサルフェイア属(Halosarpheia)、フミコーラ属(Humicola)、ヒポクレア属(Hypocrea)、チチタケ属(Lactarius)、シイタケ属(Lentinus)、マグナポルテ属(Magnaporthe)、モニリア属(Monilia)、モノシリウム属(Monocillium)、ムコール属(Mucor)、ミセリオフトラ属(Myceliophthora)、ネオカリマスティクスIX属(NeocallimastIX)、アカパンカビ属(Neurospora)、ペシロマイセス属(Paecilomyces)、カワキタケ属(Panus)、アオカビ属(Penicillium)、フェネロカエテ属(Phanerochaete)、フェリナス属(Phellinus)、フレビア属(Phlebia)、スギタケ属(Pholiota)、ピロミセス属(Piromyces)、ヒラタケ属(Pleurotus)、ポドスポラ属(Podospora)、ピクノポラス属(Pycnoporus)、ピリキュラリア属(Pyricularia)、スルメタケ属(Rigidoporus)、リゾクトニア属(Rhizoctonia)、スエヒロタケ属(Schizophyllum)、スクレロシウム属(Sclerotium)、スキタリジウム属(Scytalidium)、ソルダリア属(Sordaria)、スポロトリクス属(Sporotrichum)、スタゴノスポラ属(Stagonospora)、タラロミセス属(Talaromyces)、サーモアスカス属(Thermoascus)、チエラビラ属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、カワラタケ属(Trametes(タマチヨレイタケ属(Polyporus)))、ベルチシリウム属(Vereticiluum)、ザレリオン属(Zalerion)、ジシア属(Zythia)、トリコデルマ(Trichoderma)種のラッカーゼであり、又はカンジダ属(Candida)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、ピキア属(Pichia)、サッカロミセス(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、又はヤロイア(Yarrowia)種由来の酵母ラッカーゼである。より具体的には、ウシグソヒトヨタケ(Coprinus cinereus)、ミセリオフトラ サーモフィラ(Myceliophthora thermophila)、トレメテス ビソラ(Trametes villosa(ポリポラス ピンシタス(Polyporus pinsitus)))、リゾクトニア ソラニ(Rhizoctonia solani)、又はスキタリジウム サーモフィリム(Scytalidium thermophilum)ラッカーゼである。
【0040】
他の実施態様においては、ラッカーゼは植物ラッカーゼである。例えば、漆、マンゴ、ヤエナリ、桃、パイン、プルーン、又はプラタナスのラッカーゼである。さらに他の実施態様においては、ラッカーゼは昆虫のラッカーゼである。例えばラッカーゼは、カイコ属(Bombyx)、クロバエ属(Calliphora)、ディプロピテラ属(Diploptera)、ショウジョウバエ属(Drosophila)、キンバエ属(Lucilia)、スズメガ属(Manduca)、イエバエ属(Musca)、カブト属(Oryctes)、パピリオ属(Papilio)、フォーマ属(Phorma)、サシガメ属(Rhodnius)、ニクバエ属(Sarcophaga)、バッタ属(Schistocerca)、又はゴミムシダマシ属(Tenebrio)のラッカーゼである。
【0041】
さらに別の実施態様においては、ラッカーゼは微生物のラッカーゼが好ましい。ラッカーゼは、アセル属(Acer)、アセトバクター属(Acetobacter)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、アクチノミセス属(Actinomyces)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、アルスロバクター属(Arthrobacter)、アゾトバクタ−属(Azotobacter)、バシルス(Bacillus)、コマモナス属(Comamonas)、クロストリジウム属(Clostridium)、グルコノバクター属(Gluconobacter)、ハロバクテリウム属(Halobacterium)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、リゾビウム属(Rhizobium)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、ストレプトミセス属(Streptomyces)、大腸菌(E. coli)、シュードモナス属(Pseudomonas)、ウォリネラ属(Wolinella)、又はメチロトローフバクテリア(methylotrophic bacteria)のラッカーゼである。より具体的なラッカーゼはアゾスピリルム リポフェルム(Azospirillum lipoferum)ラッカーゼである。
【0042】
他の実施態様においては、スタキボトリス(Stachybotrys)種によって得られるフェノール酸化酵素が、本発明の方法にて用いられる。スタキボトリス(Stachybotrys)種、菌株及び天然単離株、及び種、菌種及び単離株の変異株は、特に、スタキボトリス パルビスポラ バル.ヒューズ(Stachybotrys parvispora var.hughes)MUCL 38996を含むスタキボトリス パルビスポラ(Stachybotrys parvispora)の菌種、特にスタキボトリス チャタラム(Stachybotrys chartarum)MUCL 38898;スタキボトリス パルビスポラ(S. parvispora)MUCL 9485;スタキボトリス チャタラム(S. chartarum)MUCL 30782;スタキボトリス カムパレンシス(S. kampalensis)MUCL 39090;スタキボトリス テオブロマエ(S. theobromae)MUCL 3929を含むスタキボトリス チャタラム(Stachybotrys chartarum)種の菌株、及びスタキボトリス ビスビ(S. bisbyi)、スタキボトリス シリンドロスポラ(S. cylindrospora)、スタキボトリス ディクロア(S. dichroa)、スタキボトリス オエナンテス(S. oenanthes)、及びスタキボトリス ニラゲリカ(S. nilagerica)種の菌種を含む。
【0043】
ラッカーゼ(ベンゼネジオール:酸素オキシドレダクターゼE.C.1.10.3.2)はフェノール成分の酸化を触媒する銅含有酵素である。ラッカーゼ仲介酸化は、フェノール性基質からアリールオキシラジカル中間体を作り、二量体から高分子に及ぶ反応産物を生成する。ある実施態様においては、本発明の酵素組成物は、U.S. Patent 6,426,410(またUS Pat. Nos.6,168,936、及び6,905,853参照)に記載のようにスタキボトリス(Stachybotrys)種のラッカーゼを含む。他の実施態様においては、本発明の酵素組成物は、 トリコデルマ ピルリフェラム(Trichoderma piluliferum)を含む。
【0044】
ラッカーゼ活性は、530nmで検出されるシリンガルダジン酸化(syringaldazine oxidation)、528nmにて光学的に検出される10−(2−ヒドロキシエチル)フェノキサジン(10−(2−hydroxyethyl)-phenoxazine)酸化(HEPO)、又は2,2´−アジノビスー(3−エチルベンズチアゾリンー6−スルホン酸)(2,2´-azinobis-(3- ethybenzthiazoline-6-sulfonic acid)酸化(ABTS)のような任意の周知の方法により検出できる。例えば、60μlのシリンガルダジン保存液(50%エタノール中0.28mM)と20μlのラッカーゼサンプルを0.8mlの前もって温めておいたブリトンーロビンソ(Britton−Robinson)緩衝液と混合し、20℃でインキュベートする。酸化は5分以上530nmで測定し、活性を1分間に酸化されるシリンガルダジンのμmoleを「SOU」として表す(「SOU」)。Childs他、(1975, Biochemical Journal 145:93−103)、及びBauer他、(1971, Analytical Chemistry 43: 421−425)を参照願いたい。
【0045】
ある実施態様においては、本発明のフェノール酸化酵素は、酵素のアミノ酸配列がわかる場合、周知の合成方法によって容易に作製することができる。
【0046】
他の実施態様においては、本発明のフェノール酸化酵素を、菌類、細菌類、及び植物を含むフェノール酸化酵素を生産する微生物の培養によって生産してよい。好ましくは、培養の間、フェノール酸化酵素生産生物は細胞外にフェノール酸化酵素を分泌する。このことによって、例えば、培養培地(例、ろ過又は遠心分離によって)から細胞集団を分離することにより、フェノール酸化酵素の回収、単離、及び精製を可能とする。得られる細胞の無い培養培地はもし必要なら、まず、濃縮(例、蒸留又は限外ろ過によって)して用いてよい。もし必要なら、フェノール酸化酵素を細胞の無い培地から精製し、例えば、カラムクロマトグラフィー又は結晶化のような従来の方法によって必要とする純度に単離してもよい。
【0047】
特定の実施態様においては、フェノール酸化酵素生産微生物は、フェノール酸化酵素及び/又はフェノール酸化酵素の生産をコードする遺伝子の発現を機能する異種の遺伝子の原料を含有する組み換え微生物である。異種の遺伝子の原料はフェノール酸化活性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む。核酸の一部に関して用いる場合、用語「異種の(heterologous)」は、自然界でお互いに同じ関係を有すると通常みられない二以上のサブシークエンスをその核酸が含むことを示す。
【0048】
本明細書にて用いる用語として「機能的に同等(Functionally equivalent)」は、実質的に同類のフェノール酸化活性又はセクション7の実施例のようにトリコデルマ ピルリフェラム(Trichoderma piluliferum)由来のラッカーゼ又はU.S. Patent 6,426,410に記載のスタキボトリス(Stachybotrys)種(またUS Pat.Nos. 6,168,936、及び6,905,853も参照)由来のラッカーゼとして少なくともひとつの化学的に特徴を有することができるポリペプチドをいう。本明細書にて用いる用語「化学的特徴(chemical characteristic)」は、酵素が作用する及び/又は触媒反応が酵素によって行われる時の基質又は化学官能性をいう。
【0049】
本明細書にて開示する例示のラッカーゼDNA及び蛋白質に加えて、本発明は、相同性及び実質的に相同性のあるフェノール酸化酵素の利用を含む。二つのポリペプチド又は核酸配列の文脈での用語「相同性の(identical)」は、最大一致の整列化である場合、次の「配列比較アルゴリズム(sequence comparison algorithms)」のひとつを用いて計算した時に同じである二つの配列中の残基をいう。比較配列のアライメントの最適化を、例えば、Smith及びWaterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局部的相同性アルゴリズムによって、Needleman及びWunsch, J. MoI. Biol. 48:443 (1970)の相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson及びLipman, Proc. Nat‘l Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の同一性方法の研究によって、これらのアルゴリズム(GAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA、the Wisconsin Genetics ソフトウェアパッケージ、Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, Wis.)の実施をコンピュータで計算することによって、又は外観検査によって、導くことができる。二つのフェノール酸化酵素が実質的に同一であるという他の表示は、第一酵素が第二酵素と免疫学的に交叉反応することである。典型的に、同類アミノ酸置換(conservative amino acid substitutions)によって異なる酵素は免疫学的に交叉反応する。つまり、例えば、二つの酵素が同類アミノ酸置換によってのみ異なる場合、フェノール酸化酵素は、実質的に第二フェノール酸化酵素と同一である。
【0050】
さらに、また本発明の方法は自然的に発生するフェノール酸化酵素と機能的に同等である蛋白質及びポリペプチドを含む。そのような同等なフェノール酸化酵素は、周知のフェノール酸化酵素のアミノ酸配列内でのアミノ酸残基の例えば欠損、添加、又は置換を含むことができる。アミノ酸置換を、関係する残基の極性、荷電性、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性という性質における同一性に基づいて行う。例えば、非極性(言い換えると、疎水性)アミノ酸残基はアラニン(Ala又はA)、ロイシン(Leu又はL)、イソロイシン(Ile又はI)、バリン(Val又はV)、プロリン(Pro又はP)、フェニルアラニン(Phe又はF)、トリプトファン(Trp又はW)、及びメチオニン(Met又はM)を含み、中性極性アミノ酸残基はグリシン(Gly又はG)、セリン(Ser又はS)、トレオニン(Thr又はT)、システイン(Cys又はC)、チロシン(Tyr又はY)、アスパラギン(Asn又はN)、及びグルタミン(Gln又はQ)を含み、正電荷を持つ(言い換えると、塩基性)アミノ酸残基はアルギニン(Arg又はR)、リジン(Lys又はK)、及びヒスチジン(His又はH)を含み、負電荷を持つ(言い換えると、酸性)アミノ酸残基はアスパラギン酸(Asp又はD)、及びグルタミン酸(Glu又はE)を含む。
【0051】
そのような置換が、分子機能に重要な領域の外側でなされ、依然として活性ポリペプチドであることは当業者にとって明らかのようだ。本発明の単離される核酸配列によりコードするポリペプチドの活性に必須なアミノ酸残基は、それ故、好ましくは、置換されないほうがよいのだが、部位特異的突然変異誘発法又はアラニンスキャンニング突然変異誘発法(例えばCunningham及びWells, 1989, Science244:1081−1085を参照)のような周知の方法に従って同定されてよい。
【0052】
また、酵素(例、酵素の一以上の領域が欠損するポリペプチド)を欠けた及び欠損する酵素遺伝子産物(例、シグナル配列、活性部位、又は基質結合部位)、機能的に同等なポリペプチド及び融合蛋白質(例、完全長又は欠けた及び欠損酵素、又は酵素の一以上の領域に相当するペプチド又はポリペプチドが関連性のない蛋白質に融合される蛋白質)は、本発明の範囲内である。そのような機能的に同等なペプチド及びポリペプチド(また、キメラ蛋白質又はポリペプチドという)は酵素遺伝子ヌクレオチド及びアミノ酸配列に基づいて、当業者は容易に設計できる。例となる融合蛋白質は、試薬を用いるエピトープに結合する親和性クロマトグラフィーによって酵素遺伝子産物の単離を促進するエピトープタグ融合蛋白質を含むが、これに限定されない。他の例となる融合蛋白質は、例えば、固相上に固定される融合蛋白質のように、任意のアミノ酸配列への融合を含み、それにより、酵素を維持し、反応後再使用可能となる。従って、本発明は、第二ポリペプチドに融合するフェノール酸化酵素の断片を含有する融合蛋白質を提供する。他の上述フェノール酸化酵素の修飾は、より有用な機能的に同等のポリペプチドを生産することであり、例えば、スケールアップのためや、特定のリグノセルロースバイオマスのpH環境等のためである。従って、本発明は機能的に同等なフェノール酸化酵素であるポリペプチドの使用を含む。
【0053】
本発明は、例えば一つのフェノール酸化酵素が組成物中の総蛋白質の約0.1%、0.25%、0.5%、0.75%、1%、2%、5%、10%、20%、40%、50%、75%、80%、90%、95%、99%であるように単離され、精製され、又は種々の濃度に濃縮される少なくとも一つのフェノール酸化酵素の触媒的に有用な量を含有している。例えば、ラッカーゼ活性を検出する方法は周知であり、例えば、酸化基質である2,2´−アジノビスー(3−エチルベンズチアゾリンー6−スルホン酸)(2,2´−azinobis−(3−ethybenzthiazoline−6−sulfonic acid)(「ABTS」)(Childs他、1975, Biochemical Journal 145:93−103を参照)又はシリンガルダジン(syringaldazine)(Bauer他、1971, Analytical Chemistry 43: 421−425参照)、又は2、6ジメトキシフェノール(2,6 dimethoxyphenol)の使用(Haars他、1981, European Journal of Forest Pathology, 11(1−2),67−76参照)、又はグアヤコール(guaiacol)の使用(Setti他、1999, Enzyme and Microbial Technology, 25(3−5),285−289参照)である。
【0054】
組成物中の酵素は、目的とするリグノセルロースバイオマスの使用に適する形態を有し、酵素添加剤、安定化剤、保存剤、プロテアーゼ阻害剤、界面活性剤、消泡剤等を含んでよい。酵素が何度も再利用される場合に限り、しばしばこれらの作用はコスト効率が良い。酵素の再利用のために、酵素が、大部分の工程から分離される必要がある。これは、例えば、脱水、ろ過、又は遠心分離によって単離される担体又は固相に酵素が吸着する場合に行うことができる。また、これは、基質が作られた酵素に接触する固相の表面のいたる所に流れる場合も行うことができる。従って、本発明は自由流動性可溶型だけでなく、固定型又は固相型も有するフェノール酸化酵素の使用を含む。
【0055】
他の実施態様においては、本発明のフェノール酸化酵素が上述のように種々の濃度で精製される蛋白質の形態で固定化される。アミン、カルボキシ、エポキシ、フェニル、又は酵素表面上のアミノ酸側鎖に共有結合できるアルカンのような官能基で通常修飾される例えば、ポリサッカライド、グラス、合成ポリマー、磁性粒子である固相への化学的及び物理的な酵素の結合に基づく任意の周知の酵素固定化方法を用いることができる。固相は多孔質であり、孔径は30から300nmの範囲である。多孔性担体へのイオン性及び非イオン性吸着は簡単であり、固定化の効果的な方法である。また、酵素をポリマー性ゲル、膜、又は界面活性剤安定化水溶性液滴を有するミセルに取り込み、封入できる。得られる酵素に適切な固定化方法の選択は酵素の特徴、工程の必要性、担体の特徴、及び安全性の問題で決定され、当業者によって決定できる。例えば、酵素固定化方法は、Methods of Enzymology,vol. 44、135、136、及び137,Academic Press, New Yorkに記載される。従って、本発明は、固相上に存在するフェノール酸化酵素を触媒的に活性化する一以上の固相を含む酵素組成物の使用を含む。
【0056】
さらに、本発明は、固体の形態であるフェノール酸化酵素を用いることを含む。酵素の固体を作る方法は周知であり、小球にすること(ろう状の原料に噴霧冷却)、抽出、凝集、顆粒化(不活性材料及びバインダーで希釈)を含むが、これらに限定されない。フェノール酸化酵素の固体含有固相酵素組成物は、粉体、錠剤、及びそれらの類似物の形態を含む。
【0057】
6.3 微生物の生産
本発明によれば、リグノセルロースバイオマス又はフェノール酸化酵素によって調整されるリグノセルロースバイオマス含有組成物は、種々のバイオテクノロジープロセスの栄養源として用いることができる。リグノセルロースバイオマスの調整は生産微生物の増殖割合を改善し、植物バイオマスから微生物バイオマスへの転換を加速化する。微生物バイオマスの蓄積の上に、他の実施態様においては、リグノセルロースバイオマスにおける微生物の成長の目的は、微生物によって作られる一以上の産物を得ることである。本発明の酵素組成物を用いる結果として、ある実施態様においては、工程での反応速度論が改善されるだけでなく、所望の産物の収量もまた増量される。本明細書に用いる用語「生産微生物(production microorganism)」は、微生物の工程で所望の産物を生産する又はそれ自身微生物の工程の所望の産物である微生物の種をいう。またその用語は工程で成長する微生物の子孫を含む。
【0058】
栄養源としてリグノセルロースバイオマスを用いる多くの微生物工程は、ヒドロラーゼ、酸化還元酵素、イソメラーゼ、リガーゼ、リアーゼ、又はトランスフェラーゼに限定されないが、そのような工業的に有用な酵素を生産する微生物の工程を含み、これらに限定されない工程を含む本発明の方法によって有利な効果がある。より好ましくは、酵素はセルラーゼ(エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、及びベータ‐グルコシダーゼ)、タンナーゼ、オキダーゼ、例えば、グルコースオキシダーゼ、グコアミラーゼ、フィターゼ、ベータ‐ガラクトシダーゼ、スクラーゼ、又はインベルターゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ、ラッカーゼ、ポリガラクツロナーゼ、カルボキシペプチダーゼ、カタラーゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、シクロデキストリングリコシルトランスフェラーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エステラーゼ、ハロペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、マンノシダーゼ、ペクチン分解酵素、ペルオキシダーゼ、キシロースイソメラーゼ及びキシラナーゼである。微生物培養によって生産される他の有用な産物は、クエン酸、イタコン酸、グルコン酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、酒石酸その他の有機酸を含み、トリプトファン、リジン、メチオニン、グルタミン酸、トレオニン、アラニン、フェニルアラニン、及びアスパラギン酸その他のアミノ酸を含み、プルランその他のポリサッカライド類を含み、脂肪、ヌクレオチド及びビタミンを含む。微生物培養によって生産される他の有用な産物はエタノールその他のアルコール類を含む。微生物培養によって生産される他の有用な産物は、エタノールを生産するために別の微生物によって連続的に用いる、又は微生物ベースの産物のあらゆる種類を生産するために発酵基質として用いるグルコースを含む。
【0059】
生産微生物は酵母を含む細菌類及び菌類を含むがこれらに限定されない。多くの子嚢菌(Ascomycete)、担子菌類(Basidiomycetes)、ペシロマイセス属(Paecilomyces)、及び不完全菌類(Deuteromycetes)はセルロース分解性酵素及び/又は木質分解能として知られており、栄養源としてリグノセルロースバイオマスに用いられる。そのような菌類は、ブルガリア属(Bulgaria)、ケトミウム属(Chaetomium)、及びビョウタケ属(Helotium)(子嚢菌(ascomycete))、コリオラス属(Coriolus)、フェネロカエテ属(Phanerochaete)、ポリア属(Poria)、スエヒロタケ属(Schizophyllum)、及びナミダタケ属(Serpula)(担子菌類(Basidiomycetes))、及びアスペルギルス属(Aspergillus)、クラドスポリウム属(Cladosporium)、フザリウム属(Fusarium)、ゲオトリクム属(Geotrichum)、ミリセシウム属(Myrothecium)、ペシロマイセス属(Paecilomyces)、アオカビ属(Penicillium)、及びトリコデルマ属(Trichoderma)(不完全菌類(Deuteromycetes))を含むが、これらに限定されない。栄養源としてリグノセルロースバイオマスに用いる種の例は、トリコデルマ(Trichoderma)種又はヒポクレア(Hypocrea)種を含むが、これらに限定されない。ある実施態様においては、トリコデルマ(Trichoderma)種は、トリコデルマ レーシ(Trichoderma reesei)である。
【0060】
いくつかの様々な微生物群はリグノセルロースバイオマスにて成長でき、(i)発酵性の嫌気性菌、典型的にはグラム陽性種(クロストリジウム(Clostridium)、ルミノコッカス(Ruminococcus)、及びカルディセルロシルプター(Caldicellulosiruptor))であるが、数種のグラム陰性種(ブチリビブリオ(Butyrivibrio)及びアセチビブリオ(Acetivibrio)、フィブロバクター(Fibrobacter))を含み、(ii)好気性グラム陽性菌(セルロモナス(Cellulomonas)及びサーモビフィダ(Thermobifida))、及び(iii)好気性滑走細菌(サイトファーガ(Cytophaga)及びスポロサイトファガ(Sporocytophaga))を含む。栄養素としてリグノセルロースを用いる細菌の例は、クロストジウム サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストジウム セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)、クロストジウム セルロボランス(Clostridium cellulovorans)、及びクロストジウム ジョスイ(Clostridium josui)を含むが、これらに限定されない。
【0061】
セルロース変換用微生物の開発を二つの戦略に基づいて実行する。自然のセルロース分解性に対する戦略は、収率及び耐性のような生産に関連性のある特徴を改善するために自然に発生するセルロース分解性微生物を含む。そのような微生物は本発明の生産微生物であり、クロストジウム サーモセラム(Clostridium thermocellum)、アカパンカビ(Neurospora crassa)、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)、ジゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)種、アスペルギルス(Aspergillus)種、及びペシロミセス(Paecilomyces)種を含むが、これらに限定されない。組み換えセルロース分解の手段は高い産物の収率及び耐性を有する非セルロース分解微生物を組み換えすることを含み、異種性のセルラーゼシステムの結果としてセルロースを利用することができるようになる。また、そのような微生物は本発明の生産微生物であり、サッカロミセス セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)、大腸菌(Escherichia coli)、及びザイモモナス モビリス(Zymomonas mobilis)を含むが、これらに限定されない。従って、本発明の方法をセルラーゼが自然に発現する微生物又は異種性のセルラーゼが発現する遺伝子組み換え微生物、及び栄養源としてセルロースの使用が可能である微生物の培養における成長速度論及び/又は収率を改善するために用いる。
【0062】
6.4本発明の方法
本発明は、リグノセルロースバイオマスを処理する方法又はフェノール酸化酵素を含有する酵素組成物を有するリグノセルロースバイオマス(他の栄養を含む工業用原料)を含有する組成物の提供であり、その結果、酵素組成物を処理していないリグノセルロースバイオマス又はリグノセルロースバイオマス含有組成物と比較して、該リグノセルロースバイオマス又は該組成物での生産微生物の成長速度が増加する。工程での生産微生物の成長速度の増加は、栄養消費、カタボライト蓄積、pH、細胞集団、細胞数等のような多くのパラメータによって評価されるが、パラメータはこれらに限定されない。本発明の種々の実施態様においては、酵素組成物での処理は、栄養源として用いるリグノセルロースバイオマスを含有する組成物での培養における微生物の初期の成長速度を増加する。
【0063】
ある実施態様においては、本発明はリグノセルロースバイオマス又はリグノセルロースバイオマス含有組成物の調整方法を提供する。方法はフェノール酸化酵素含有組成物とリグノセルロースバイオマス又はリグノセルロースバイオマス含有組成物との接触を含む。用語「接触する(contacting)」を次のように互換可能に本明細書にて用いる。即ち、へ導入する、と結合する、に添加する、と混合する、に渡す、とインキュベーションする、に注入する、に流す、等である。上述のようにフェノール酸化酵素の異なる形態を用いることを意図する。調整又は処理工程は、1時間から2、5、10、15、24、36、48、60、72時間、4、5、6、7日まで又はリグノセルロースバイオマスの阻害活性が、例えば、元の活性レベルの1%、2%、5%、10%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%以下という許容レベルに低減されるまでの範囲の時間に渡って行われる。また、接触の時間を調整組成物によりサポートされる微生物の成長速度を測定することにより決定する。例えば、元の速度の110%、120%、125%、130%、140%、150%、175%、200%、300%、400%、500%又は1000%である。
【0064】
好ましくは、接触段階を酵素が実質的活性又は最適活性を有する範囲内での温度下で行う。好ましくは、接触段階を酵素が実質的活性又は最適活性を有するpH範囲で行う。従って、本発明は、フェノール酸化酵素含有酵素組成物で微生物の成長をサポートするために処理または調整されているリグノセルロースバイオマスを含有する組成物を含む。そのような組成物を工業用原料として用い、又は工業用原料を作るための成分として用いてよい。調整されるリグノセルロースバイオマスを多様な微生物の工程に対する工業用原料として用いてよい。ある実施態様においては、リグノセルロースバイオマスは組成物中の唯一の栄養源又は唯一の炭素源である。ある実施態様においては、本発明は、フェノール酸化酵素を含有する酵素組成物をリグノセルロースバイオマス又はリグノセルロースバイオマス含有組成物と接触すること、及び他の栄養及び/又は工業用原料成分を調整リグノセルロースバイオマスに添加することを含む工業用原料を作る方法である。いくつかの実施態様においては、微生物工程における組成物の使用の前に、酵素組成物をリグノセルロースバイオマス含有組成物から除く。種々の実施態様においては、酵素濃度の範囲は工業用原料を調整するために用いる。例えば、0.0001g/lから約100g/l、例えば0.001g/l、0.1g/l、1g/l、10g/lまでであるが、これらに限定されない。種々の実施態様においては、処理または調整時間の範囲は例えば、15秒から約200時間まででよく、1分、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、5時間、10時間、24時間、36時間、72時間、又は96時間までであるが、これらに限定されない。種々の実施態様においては、処理または調整を例えば、約15℃から約100℃の温度範囲で行ってよく、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、又は処理、又は調整する場所の室温でもよく、これらに限定されない。種々の実施態様おいては、処理または調整を例えば、約pH2からpH10のpH範囲で行ってよく、pH3、pH4、pH5、pH6、pH7、pH8、又はpH9でもよいが、これらに限定されない。ある実施態様においては、pH4.5から6.5の範囲で方法を行う。他の実施態様においては、pHは約pH4.5からpH5.5である。
【0065】
さらに、本発明は、リグノセルロースバイオマス含有培養培地にて生産微生物を培養する方法を提供し、該方法は培養培地とフェノール酸化酵素含有酵素組成物を接触することを含む。他の実施態様においては、本発明は、微生物を成長するために調整リグノセルロースバイオマスの使用を提供する。さらに本発明は産物を生産する方法を提供し、該産物は、調整リグノセルロースバイオマス含有培養培地にて培養される生産微生物によって作られる。そのような方法はフェノール酸化酵素含有酵素組成物で処理する培養培地にて生産微生物を培養すること及び培地及び/又は微生物から産物を回収することを含む。
【0066】
所望の産物の生産のための微生物工程はバッチ、流加培養法、連続流方式(continuous−flow processes)を含む固体又は液体培養を含むことが意図される。培養を水溶性鉱物塩培地、有機成長因子、炭素源原料、エネルギー源原料、又はそれらの組み合わせ、及び用いる一以上の生産微生物の初期接種を含む培地にて行う。
【0067】
本発明は多様な工程のタイプ及び複雑な工程の異なる段階に適用できると考えられる。複雑な工程の例はリグノセルロースを糖へ転換し、糖からエタノールへ転換する工程であり、工程の異なる段階で異なる微生物を作用させることができる。
【0068】
リグノセルロースを燃料及び化学物質へ転換する過程は、次の工程を含む。即ち、(i)セルラーゼ生産、(ii)セルロース及びもし他の不溶性ポリサッカライドが存在する場合、その加水分解(糖化)、(iii)水溶性セルロース加水分解産物の発酵、及び(iv)水溶性ヘミセルロース加水分解産物の発酵である。リグノセルロースバイオマスの存在下、微生物の培養によってこれらの工程が実施される限り、本発明の酵素組成物又は調整リグノセルロースバイオマスが微生物の成長速度及び/又は各段階での収率を改善するために、一以上のこれらの各段階で使用できる。
【0069】
これら4段階は分離して行われるか又は多様な構造で統合されて行われる。同時糖化発酵(SSF)は、ヘミセルロース加水分解産物のセルラーゼ生産及び発酵を二つの追加的別々の工程段階で行い、セルロース加水分解産物の加水分解及び発酵を1工程段階に統合する。同時糖化共発酵(SSCF)は二つの工程段階を伴う。第一段階はセルラーゼ生産、第二段階はセルロース加水分解とセルロース及びヘミセルロース加水分解物の発酵である。統合バイオプロセッシング(consolidated bioprocessing)(CBP)において、セルラーゼ生産、加水分解、及びセルロース及びヘミセルロースの産物の発酵が結合している。本発明によると、また、酵素組成物を各段階の微生物成長速度及び/又は収率を改善するためにこれらの統合工程における一以上の段階に用いることができる。あるいは、調整リグノセルロースバイオマス(すでに本発明の酵素組成物で処理されている)をこれらの統合工程における一以上の段階に用いることができる。
【0070】
従って、本発明のある実施態様においては、一以上のフェノール酸化酵素含有酵素組成物をセルラーゼ生産工程において用いることができる。酵素組成物を栄養源としてリグノセルロースバイオマスを含有するセルラーゼをつくる生産微生物の培地に加えることができる。また、その方法は培地からセルラーゼを再生することも含んでもよい。
【0071】
別の実施態様においては、一以上のフェノール酸化酵素を含む酵素組成物をリグノセルロースバイオマス含有培養培地にて微生物を培養する工程に用いることができ、その微生物は二糖及び単糖を形成するためにセルロース及び他の不溶性ポリサッカライドを加水分解する。典型的な工程は二糖及び単糖を回収することを含んでもよい。
【0072】
さらに、他の実施態様においては、一以上のフェノール酸化酵素を含む酵素組成物をリグノセルロースバイオマス含有培養培地における微生物を培養する工程に用ことができ、微生物は糖(二糖及び単糖のような)をエタノール又は酢酸又は乳酸のような他の低分子量化学物質に転換できる。さらに別の実施態様においては、一以上のフェノール酸化酵素を含む酵素組成物をヘミセルロースからエタノール又は酢酸又は乳酸のような他の低分子量化学物質に転換できる微生物を培養する工程に用いることができる。
【0073】
それぞれ上記実施態様において、工程での直接的な酵素組成物使用の代わりに、生産微生物を培養するために用いるリグノセルロースバイオマス含有組成物を処理することができる。
【0074】
種々の実施態様においては、上述工程のいずれかで用いるリグノセルロースバイオマスは、木質植物由来リグノセルロース、非木質植物由来リグノセルロース、リグノセルロースの加水分解物、又はリグノセルロース及びその加水分解物の混合物である。
【0075】
本発明のある実施態様においては、エタノールを作るために発酵工程に用いるリグノセルロースバイオマスは木質加水分解物のような木質リグノセルロースバイオマスではない。本発明の他の実施態様においては、工程で用いるリグノセルロースバイオマスはヘミセルロース加水分解物ではない。ある実施態様においては、木質リグノセルロースバイオマスで増殖でき、エタノールを作ることができる生産微生物はサッカロミセス セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)菌種ではない。ある実施態様においては、工程で用いる酵素組成物は、カワラタケ(Trametes versicolor)のラッカーゼのような担子菌(basidiomycete)由来のラッカーゼを含まない。
【0076】
本発明の実施態様においては、酵素組成物を同時糖化発酵工程に用いる。さらに別の実施態様においては、酵素組成物を同時糖化共発酵工程に用いる。別の実施態様においては、酵素組成物は統合バイオプロセッシングに用いる。ある実施態様においては、リグノセルロースバイオマス処理に用いる酵素濃度は約0.001g/lから100g/lの範囲である。関連する実施態様においては、リグノセルロースバイオマス処理に用いる酵素濃度は少なくとも約60g/l、約30g/l、約1g/l、約0.6g/l、約0.3g/l、約0.01g/l、約0.006g/l、又は約0.003g/1である。
【実施例】
【0077】
7.実施例
本発明は次の実施例には限定されるものではなく、発明の典型例としてのみ提供される。次の実施例は本発明実施態様が充分に理解されるように記載される。しかしながら、実施例は本発明の広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0078】
実施例はトリコデルマ ピルリフェラム(Trichoderma piluliferum)ラッカーゼ、リグノセルロースバイオマスとしてトウモロコシ茎葉、及び生産微生物としてトリコデルマ レーシ(Trichoderma reesei)を用いる。
【0079】
7.1 トリコデルマ レーシ(Trichoderma reesei)酵素生産
トリコデルマ レーシ(Trichoderma reesei)RL−P37(Sheir−Neiss他in Appl. Microbiol. Biotechnology, 20 (1984) pp. 46−53参照)の接種を次のように調製した。振盪フラスコ中に(NH4)SO(4g)、KHPO (4.5g)、MgSO・7HO (1g)、CaCl・2HO(1g)、NaCl(0.01g)、Mazu DF 204 5 drops/L(0.2ml)を含み、pH 5.5にて適量897.5 mlsとした。滅菌後、100 mlの50%グルコース及び2.5 mlのトリコデルマ レーシ(T. reesei)微量要素液を加えた。トリコデルマ レーシ(T. reesei)微量要素液は1リットル当たり次のものを含んだ。クエン酸(無水)175g、FeSO・7HO(200g)、ZnSO・7HO(16g)、CuSO・5HO(3.2g)、MnSO・HO(1.4g)、HBO(ホウ酸)(0.8g)である。グルコースは10g/L濃度にて唯一の炭素源であった。培養は250mlフラスコ中50ml当たりRLP−37の約100万個の菌でインキュベートした。フラスコは26−28℃、150rpm、よい成長が得られるまで3から5日間でインキュベートした。培地中の成長は標準の方法にて時間に対するpH及びグルコースの濃度を測定することにより追うことができる。グルコースの消耗の前に、菌細胞を実験用フラスコに接種するために入れられる。
【0080】
この実験で二つのフラスコセットを準備し、各々フラスコは上記同様の培地と2%生トウモロコシ茎葉を含んだ。リグノセルロース含有トウモロコシ原料を寸断し、汚れ及び他の農場よりのごみを除くため洗浄され、空気乾燥した。外観は乾いた草の切れ端であった。この乾燥状態で培養フラスコに入れ、フラスコは培地を入れる前に内容物を滅菌するためにオートクレーブにかけられた。フラスコの一つのセットにトリコデルマ ピルリフェラム(Trichoderma piluliferum)の培養からラッカーゼを含む滅菌試料を加えた。ラッカーゼの三つの異なる濃度、すなわち、0.125 U/ml、0.25 U/ml、及び0.5 U/mlを用いた。
【0081】
上澄み液中フェノール酸化酵素活性の存在を酸素によるABTS(2,2´−アジノビスー(3−エチルベンズチアゾリンー6−スルホン酸))(2,2´−azinobis−(3− ethybenzthiazoline−6−sulfonic acid))の酸化に基づいて、次の試験手法を用いて測定した。ABTS(SIGMA, 0.2 ml, 4.5 mM HO)及びNaOAc(1.5 ml, 120 mM in HO, pH 5.0)をキュベットに混合した。最終溶液1.8mlになるように測定される(この実施例においては上清の希釈液)適切な調製液を添加することにより、反応を開始した。蛍光光度計を使用して、420nmで光学密度(OD)を記録して2秒ごと全体で14秒の間、ABTSの酸化によって生じる色を測定した。この実施例における1ABTS単位(1酵素単位又はEACU)は1分ごと(サンプルは希釈はされない)にOD420nmで測定されるODの変化として定義される。
【0082】
対照群のフラスコはラッカーゼを含んでいない。上記記載のように24時間培養した約100万個RLP−37で接種する前に、フラスコを1、2、又は3日間、30℃でインキュベートした。RLP−37を含む二つのセットのフラスコを100から250rpm、20から28℃、72時間まで振盪培養した。二つのセットの培養中のトリコデルマ レーシ(T. reesei)の成長を増殖中の菌がグルコースを消費すると次第に落ちてくる培養培地中のグルコース濃度を測ることによりモニターした。
【0083】
7.2結果
図1に実験結果を示す。グルコース濃度の減少が菌細胞の良い成長を示す。最も良い成長速度が、少なくとも2日間0.5U/mlラッカーゼによって調整されたリグノセルロースバイオマス(2%トウモロコシ茎葉)含有培養培地を含むフラスコ中に見られた。二つのフラスコ(2及び3日0.5U/mlで調整する)において、フラスコ中のグルコースすべてがトリコデルマ レーシ(T. reesei)培養の三日目で消費された。低ラッカーゼ量又は短い調整期間のときは遅い速度の成長である培地となった。50%以下のグルコースが、調整期間にかかわりなく0.25U/ml又は0.125U/mlで処理されるフラスコ中の真菌により消費された。ラッカーゼ処理されなかった対照群フラスコは最も遅い成長を示した。
【0084】
8.均等
本発明は、本発明の各々の態様のそれぞれを説明する具体的な実施態様によって範囲を限定されず、機能的に同等の方法及び成分は本発明の請求の範囲内である。実際に、本発明の種々の修飾が、本明細書に示し及び記載するものに加えられることは、一般的な実験に基づく前述の記載及び添付図面から当業者にとって明らかとなる。そのような修飾および均等は添付の特許請求の範囲に含まれるものである。
【0085】
本明細書によって引用されるすべての出版物、特許及び特許出願は、あたかも各々個々の出版物、特許又は特許出願が特別に及び個別に参考により本明細書に組み入れられているかのように、本明細書によって引用されるすべての出版物、特許及び特許出願は、同じ範囲を参考により本明細書に組み入れられる。
【0086】
本明細書の文献の引用又は考察は、これらが本発明の先行技術であるということを承認するものと解されてはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物成長のために調整されるリグノセルロースバイオマスを含む組成物を調製する方法であって、該方法が、リグノセルロースバイオマスを含有する組成物を提供すること、該組成物を調整するのに十分な期間に該組成物をフェノール酸化酵素を含有する酵素組成物と接触することを含み、該調整組成物中で培養される微生物の成長速度が該酵素組成物と接触していないリグノセルロースバイオマスを含有する組成物の速度と比較して増加していることを特徴とする、調製方法。
【請求項2】
微生物を培養する方法であって、該方法が、リグノセルロースバイオマスを含む組成物を微生物成長用に該組成物を調整するために十分な期間にフェノール酸化酵素を含有する酵素組成物と接触することを含み、及び該微生物を該調整される組成物中で培養することを含み、該調整組成物において培養される該微生物の成長速度が該酵素組成物と接触していないリグノセルロースバイオマスを含有する組成物の成長速度と比較して増加することを特徴とする、微生物培養方法。
【請求項3】
産物を生産する方法であって、該方法が、微生物成長用に調整されるリグノセルロースバイオマスを含有する組成物中で産物を生産する微生物を培養することを含み、及び該微生物及び/又は該調整される組成物から該産物を回収することを含み、該調整組成物が、該組成物を調整するために十分な期間フェノール酸化酵素を含有する酵素組成物に接触され、該調整される組成物にて培養される該微生物の成長速度が該酵素組成物と接触していないリグノセルロースバイオマス含有組成物の成長速度と比較して増加することを特徴とする、生産方法。
【請求項4】
該リグノセルロースバイオマスが化学的前処理をされてないリグノセルロースバイオマスを含有することを特徴とする、請求項1、2、又は3に記載の方法。
【請求項5】
該リグノセルロースバイオマスがリグノセルロースバイオマスの加水分解物を含むことを特徴とする、請求項1、2、又は3に記載の方法。
【請求項6】
該リグノセルロースバイオマスが非木質リグノセルロースバイオマスを含有することを特徴とする、請求項1、2、又は3に記載の方法。
【請求項7】
該非木質リグノセルロースバイオマスがトウモロコシ茎葉又はサトウキビバガスであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該フェノール酸化酵素がラッカーゼであることを特徴とする、請求項1、2、又は3に記載の方法。
【請求項9】
該ラッカーゼがスタキボトリス(Stachybotrys)種のラッカーゼ又はトリコデルマ(Trichoderma)種のラッカーゼであることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該微生物が、トリコデルマ(Trichoderma)種であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項11】
該産物が酵素であることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項12】
該酵素がセルラーゼであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
該リグノセルロースバイオマスが、化学的に前処理をされていないトウモロコシ茎葉であり、該酵素組成物が第一トリコデルマ(Trichoderma)種又はスタキボトリス(Stachybotrys)種により生産されるラッカーゼを含有し、及び該組成物で培養される該微生物が第二トリコデルマ(Trichoderma)種であることを特徴とする、請求項1,2、又は3に記載の方法。
【請求項14】
該第一トリコデルマ(Trichoderma)種がトリコデルマ ピルリフェラム(Trichoderma piluliferum)であり、該第二トリコデルマ(Trichoderma)種がトリコデルマ レーシ(Trichoderma reesei)であり、及び該産物が、セルラーゼであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−530733(P2010−530733A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544838(P2009−544838)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/025911
【国際公開番号】WO2008/085356
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(508377015)ダニスコ・ユーエス・インク、ジェネンコー・ディビジョン (31)
【Fターム(参考)】