説明

微生物検出方法及び装置

【課題】 微生物の検出のために、磁性微粒子を微生物に結合させ、その微生物・磁性微粒子複合体の発光を検出する技術において、簡易な手段によって効率的な検出を行うことができる方法及び装置を提供する。
【解決手段】 光ファイバー3の前端面31に、微生物と磁性微粒子が結合し、かつ発光酵素又は蛍光色素を標識された微生物・磁性微粒子複合体を磁気的に吸着させるために、光ファイバー前端面31に磁力を発生させる手段5,7発光酵素又は蛍光色素を発光させる手段、微生物・磁性微粒子複合体から発する光を同一の光ファイバー3を通して集光し、その光を検出する手段8を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を検出するための方法及びそのための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物を検出する技術はその重要性を増しており、特に、食品や飲料などにおいて、大腸菌等の各種の細菌を検出することが、食の安全、衛生管理の確保の面から欠くことのできないものである。従来、これらの微生物、特に細菌の検出は平板寒天培地上で生育させたコロニーの検出や各種の顕微鏡を用いた観察によってなされてきた。
近年になって、直径約1mm以下の磁性微粒子に予め抗体やレクチンのようなタンパクを固定させておき、それらによる微生物表面抗原との特異的な結合を利用して、検出しようとする微生物を結合させて、磁力によって目的の微生物を捕集することが、一部の生物分析化学において用いられるようになってきた。
また、微生物を発光させることで、その光から微生物の有無や微生物の量を検出する技術も開発されている。
例えば、特許文献1では、食品等の試料中における特定の大腸菌に磁性微粒子を結合させた後、これらの複合体を磁力によって捕集し、捕集したもののうちの当該特定大腸菌に蛍光分子を結合させ、その発する蛍光における特有の蛍光偏向度を検出することで、特定大腸菌の有無を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−211000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術においては、微生物の磁力による捕集と、微生物からの発光を集光して微生物を検出することがそれぞれ別の手段によってなされており、そのため、装置も各種必要になるとともに、各工程の操作においても時間がかかり効率的とはいえなかった。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、微生物の検出のために、磁性微粒子を微生物に結合させ、その微生物・磁性微粒子複合体を検出する技術において、簡易な手段によって効率的な検出を行うことができる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る微生物検出方法は、微生物と磁性微粒子を結合させる工程、微生物に発光酵素又は蛍光色素を標識する工程、光ファイバー前端面に磁力を発生させ、微生物と磁性微粒子が結合した微生物・磁性微粒子複合体を光ファイバー前端面に磁気的に吸着させる工程、微生物・磁性微粒子複合体の発光酵素又は蛍光色素を発光させ、その光を前記同一の光ファイバーを通して集光し、その光を検出する工程、を含むことを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、所定の微生物に磁性微粒子を結合させて微生物・磁性微粒子複合体を形成させ、また、微生物には発光酵素又は蛍光色素を標識する。
そして、光ファイバーの前端面に磁力を発生させることで、検出しようとする微生物と磁性微粒子との複合体を光ファイバー前端面に磁気的に吸着させ、目的とする微生物を選択的に捕集することができる。
さらに、光ファイバー前端面に吸着されている微生物・磁性微粒子複合体の発光酵素又は蛍光色素を発光させて、その光を同じ光ファイバーを通して集光し、その光を検出することで、検出対象の微生物の有無やその量を検出することができる。
その際、微生物・磁性微粒子複合体を磁力によって吸着させて捕集することと、微生物・磁性微粒子複合体からの集光は、同一の光ファイバーによってなされ、また、磁性微粒子の磁性体としての機能も光の検出工程において、そのまま微生物の保持のために用いられることから、効率的な微生物検出の工程とすることができる。
【0007】
また、本発明は、微生物と磁性微粒子の結合、及び微生物への発光酵素又は蛍光色素の標識は、抗体、レクチン、又はポリミキシンBを介してなされることを特徴とする。
本発明によれば、微生物と磁性微粒子との結合、及び微生物と発光酵素又は蛍光色素との結合は、抗体抗原反応による結合又はレクチンの糖鎖結合に基づく、特異的な結合を利用していることから、容易に目的とする微生物との間での磁性微粒子、発光酵素又は蛍光色素との複合体を形成できる。
そして、その複合体を、同一光ファイバーを用いた微生物の捕集と検出・定量に用いることができる。
【0008】
また、発光酵素の発光は、光ファイバー前端面に吸着された微生物・磁性微粒子複合体を、発光反応液に浸漬することでなされることを特徴とする。
本発明によれば、光ファイバー前端面に吸着された微生物・磁性微粒子複合体が、発光反応液に浸漬されるだけで、発光させられ、そのまま同一の光ファイバーを通して微生物・磁性微粒子複合体から発光する光を集光し、その光を検出することで、微生物の有無やその量を検出することができる。
【0009】
また、本発明は、蛍光色素の発光は、光ファイバー前端面に吸着された微生物・磁性微粒子複合体に励起光を照射することでなされることを特徴とする。
本発明によれば、光ファイバー前端面に吸着された微生物・磁性微粒子複合体に対して励起光を照射されることで、発光させられ、そのまま同一の光ファイバーを通して微生物・磁性微粒子複合体から発光する光を集光し、その光を検出することで、検出対象の微生物の有無やその量を検出することができる。
【0010】
また、本発明に係る微生物検出装置は、光ファイバー前端面に、微生物と磁性微粒子が結合し、かつ発光酵素又は蛍光色素を標識された微生物・磁性微粒子複合体を磁気的に吸着させるために、光ファイバー前端面に磁力を発生させる手段、発光酵素又は蛍光色素を発光させる手段、微生物・磁性微粒子複合体から発する光を前記同一の光ファイバーを通して集光し、その光を検出する手段を備えることを特徴とする。
本発明によれば、光ファイバー前端面に磁力を発生させ、そこに目的とする微生物に磁性微粒子を結合させた微生物・磁性微粒子複合体を吸着させ、そのままの状態で同じ光ファイバーを通して微生物・磁性微粒子複合体から発する光を集光し、その光を検出することで、検出対象の微生物の有無やその量を容易に検出することができる。
このように、微生物・磁性微粒子複合体の捕集とその後の光検出において、同一の光ファイバーと、磁性微粒子がともに機能することができる。
【0011】
また、光ファイバー前端面に磁力を発生させる手段が、光ファイバーの外周面に巻いた導電性コイルと、導電性コイルへの電力供給手段を備える場合は、光ファイバーの外周面に巻いた導電性コイルに通電することで、光ファイバー前端面に磁力を発生させることができる。このような簡易でコンパクトな構成によって、同じ光ファイバーに微生物・磁性微粒子複合体の選別捕集と集光との機能を持たせることができる。
【0012】
また、光ファイバーの前端近傍の外周面に、磁気遮蔽材を配置させる場合は、光ファイバーの前端近傍の外周面に、微生物・磁性微粒子複合体が磁力によって吸着されることを防止でき、光ファイバー前端面での微生物の検出に支障を来たすことを防止できる。
【0013】
また、光ファイバーに、微生物・磁性微粒子複合体から発する光を集光するとともに、微生物・磁性微粒子複合体へ励起光を照射する手段を備える場合は、同じ光ファイバーに、微生物・磁性微粒子複合体の選別捕集と集光との機能に加えて、励起光照射の機能までも持たせることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、目的とする微生物の検出のために、磁性微粒子を微生物に結合させ、その微生物・磁性微粒子複合体を捕集する技術において、簡易な手段によって効率的な微生物の検出を行うことができる方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における微生物・磁性微粒子複合体1の概念図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における微生物検出装置の概念図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における微生物検出方法の説明図である。
【図4】本発明の第2の実施形態における微生物検出装置の概念図である。
【図5】本発明における光ファイバーの斜視図である。
【図6】本発明における光ファイバーでの確認試験の結果を示す図である。
【図7】本発明における光ファイバーでの確認試験の説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態の実施例の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る微生物検出の方法及び装置について、添付の図面に基づいて説明する。なお、説明において、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
本実施形態において検出対象とする微生物は、細菌やウィルス等であって、磁性微粒子と結合できるものであればよいが、代表的には、食品、飲料中の大腸菌、ブドウ球菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌などの細菌である。一方、磁性微粒子としては、磁性体を主成分とする粒子であって、直径約1mm以下、好ましくは直径100μm以下、さらに好ましくは直径10μm以下のもので、市販のものであってもよい。例えば、磁性体の成分として、Fe、γ−Fe、Co−γ−Fe等がある。
【0017】
図1は、このような微生物、特には細菌Aと磁性微粒子B1を結合させるとともに、細菌Aに発光酵素C1を結合させた微生物・磁性微粒子複合体1を示している。
先ず、例えば食品や飲料中での特定の細菌Aを検出しようとする場合、食品が固形物であれば適宜の液を加えて液体化し、また、液体状のものであっても不純物が多いものであれば、それらを取り除いた上で水溶液にして試料とする。
こうした試料中において、磁性微粒子B1、発光酵素C1とそれらを細菌Aに結合させるための抗体等を加えることにより、仮に、検出しようとする細菌Aが存在した場合には、微生物・磁性微粒子複合体1が構成されるものである。
磁性微粒子B1には、検出対象である細菌Aの表面抗原aと相補性を有して、特異的に結合する第1抗体B2が固定化され、第1抗体結合磁性微粒子Bを構成している。
そこで、第1抗体結合磁性微粒子Bを検出対象の細菌Aと、抗原抗体反応によって結合させる。
次に、パーオキシダーゼ等の発光酵素C1と第2抗体C2とが結合した第2抗体・発光酵素複合体Cを、同様に抗原抗体反応によって細菌Aに結合させて、細菌Aに発光酵素C1を標識する。
【0018】
また、第1抗体、第2抗体においては、抗体に替えて、細菌Aの表面抗原aとの間で、糖鎖による特異的な結合活性をもつレクチンのようなタンパクであってもよい。
また、第1抗体が結合する表面抗原aと、第2抗体が結合する表面抗体aとは、同一細菌における別種類の表面抗原としてもよい。その場合、検出対象の細菌Aの表面抗原aが、磁性微粒子B1又は発光酵素C1のどちらかとの結合だけで飽和して、他との結合が不能となって、細菌Aの検出が阻害されることを防止できる。
また、第1抗体B2、第2抗体C2やこれに替わるレクチンでの結合は、それぞれが、1段階での結合に限らず、後記の実施例のように、多段階での結合にしてもよい。
また、発光酵素C1に替えて、市販の蛍光ナノ粒子等の蛍光色素を用いて、蛍光色素を標識した第2抗体C2を細菌Aと結合させてもよい。
【0019】
次に、このようにして、食品、飲料の水溶液試料中での細菌Aを検出するための、微生物検出装置2の第1実施形態について、図2,3によって説明する。
この実施形態は、検出する光の発光源として、発光酵素C1を用いた場合の装置構成である。
光ファイバー3の先端部に鉄管4を装着する。光ファイバー3は、特に制限はないが、前端面31に検出対象物を吸着させて捕集することから、ある程度直径が大きいものが望ましく、直径2mm〜20mmが好ましい。そのためには、ファイバー素線を束ねたバンドルファイバーが望ましい。
また、鉄管4の先端は、図示では光ファイバー3の前端面31まで達しているが、それより短くしてもよく、鉄管4先端は試料の水溶液中に浸漬されない長さに制限してもよい。
この鉄管4の上から、導線を巻回してコイル5を形成する。コイル5は一層でも多層に巻いてもよく、また長さについても、光ファイバー3の前端面31で必要な磁束密度を得ることができるように適宜設計できる。
コイル5は、電力供給手段7に接続されており、通電されたときに、コイル5と鉄管4によって磁界が形成されて、光ファイバー3の前端面31に磁力が生じる。
【0020】
また、光ファイバー3の先端部外周には、磁気遮蔽材6として珪素鋼の円筒が装着されている。これによって、例えば、大きな電力を印加して大きな磁力が生じる等によって、光ファイバー3の前端面31から外れた先端外周にも磁力が発生した場合であっても、微生物・磁性微粒子複合体1が前端面31以外の外周面に吸着されることを防止できる。もっとも、上記のような恐れがない場合には、この磁気遮蔽材6は必ずしも必要ではない。
光ファイバー3の後端は、光検出手段8に光学的に接続されている。光検出手段8としては、光電子増倍管(PMT)、フォトダイオード、フォトンカウンティング等の光検出デバイスであり、光ファイバー3からの光Lを受光し検出する。
光検出手段8によって検出された信号は、記録・判定手段9に送信されて、検出された強度等が記録される。また、一定の試験条件の下での検出した光強度と細菌Aの数量との対応関係を予め得ておき、その対応関係から、細菌Aの数量を判定することができる。
【0021】
次に、図2の装置を用いた細菌Aの検出の操作を図3によって説明する。
図3(A)図のように、試料水溶液中に磁性微粒子B1や発光酵素C1標識の抗体C2等を懸濁させた懸濁液Dにおいて、検出対象の細菌Aが存在している場合に限って、その細菌Aの表面抗原aによって、細菌A−磁性微粒子B1−発光酵素C1の3つを含む微生物・磁性微粒子複合体1が形成されている。なお、白丸で示しているには、対象外の微生物等である。
そこで、(B)図のように、光ファイバー3の先端を容器内の懸濁液Dに浸漬し、コイル5に電流を流す。そうすると、光ファイバー3の前端面31には磁力が発生し、磁性微粒子B1が磁力によって前端面31に吸着され、磁性微粒子B1を含んである微生物・磁性微粒子複合体1全体が、前端面31に吸着されることになる。
【0022】
次に、(C)図のとおり、コイル5に電流を流して前端面31に磁力が発生している光ファイバー3の先端部を、発光酵素C1に反応して発光させる、例えばルミノール反応液等の発光反応液Eに浸漬する。
光ファイバー3の前端面31に微生物・磁性微粒子複合体1が吸着されている場合には、その発光酵素C1と発光反応液Eとの反応によって、光Lを生じることから、図2に示す光検出手段8での検出が行われる。なお、光ファイバー3の前端面31には、細菌Aと結合していない磁性微粒子B1が吸着されている可能性があるが、その場合、発光酵素C1とは結合していないことから、発光することがなく、細菌Aと誤認することはない。
この図3(C)図での発光反応液Eを入れた容器と光ファイバー3の先端部は、暗環境とするためのダークボックス内に収納して、外部操作で光ファイバー3先端の発光反応液Eへの浸漬を行うことが、光検出のためには望ましい。
【0023】
次に、第2実施形態として、発光酵素C1に替えて蛍光色素を用いる場合の微生物検出装置2について、図4によって説明する。
蛍光色素の場合は、使用する蛍光色素に対して所定の波長の励起光を照射すると、蛍光色素が特定波長の蛍光を発する。
そのため、光ファイバー3の一部分は励起光源11からの励起光LAを通過させて、光ファイバー3の前端面31に吸着されている微生物・磁性微粒子複合体1における蛍光色素に励起光LAを照射する構成とされている。そして、蛍光色素から発光される蛍光LBは、光ファイバー3の他の部分を通って、出射されて光検出手段8で受光される。励起光LAと蛍光LBとを分離して、所定ルートに導くために、光路にはビームスプリッター10が配設されている。
装置の構成において、これら以外の点については、第1の実施形態の説明と同様である。
この第2実施形態においては、用いる蛍光色素の種類によって生じる蛍光の波長がかなり異なり、可視光の範囲を外れている場合、暗環境でなくとも光を検出するのに差し支えないこともある。
また、第2実施形態では、光ファイバー3を発光反応液の槽に移動させることなく、微生物・磁性微粒子複合体1を吸着した段階で、励起光LAを照射して検出操作が可能である。
もっとも、第1実施形態、第2実施形態とも、一旦、磁力によって微生物・磁性微粒子複合体1を吸着して採集した後に、微生物・磁性微粒子複合体1の洗浄を行い、再度、光ファイバー3の前端面31によって微生物・磁性微粒子複合体1を磁力で吸着し、その状態で、発光酵素又は蛍光色素を発光させて光検出を行ってもよい。
【実施例1】
【0024】
「確認試験」
図5に示すような光ファイバー装置によって、その前端面31に磁力を発生させて磁性微粒子を吸着できることを確かめた確認試験を説明する。
内径7 mm、外径12 mmの鉄管4を用意し、その中にバンドル光ファイバー3を先端部が突出する状態で挿入した。そして、それらを塩ビ製の管12(内径12mm外径14mm)に、同じく光ファイバー3の先端部が突出する状態で挿入した。
この塩ビ管12の外周にニクロム線(直径0.7mm)を約50回巻き、それを2重にした。
このニクロム線の各々の端を定電流電源のプラス、マイナス端に接続し、一定の直流電流を印加した。そして、光ファイバー3の前端面31での磁束密度をガウスメーター(GM-301、電子磁気工業製)で測定した。
測定した結果は、図6のとおりであって、光ファイバー3の前端面31において、所定の磁束密度が得られた。また、コイル1層巻きにおいても2層巻きにおいても、図示のとおり、実験範囲では印加電流と発生する磁場との間に比例関係が認められた。
【0025】
次に、微生物捕集にしばしば用いられる市販の磁性微粒子(Dynabeads M−280)を0.1Mのリン酸緩衝液(phosphatebuffer、pH 7.0)に懸濁し,この磁性微粒子の光ファイバー3の前端面31への吸着、解離が可能であることを実験的に確認した。
その際の概念図を図7に示す。
使用した懸濁液Dの濃度は2×10ビーズ/ml(1ml当たりの磁性微粒子の個数)であり、この懸濁液2mlを直径約20mmのビーカーに入れて、磁性微粒子B1が均一になるように攪拌し、静置後、すぐに光ファイバー3の前端面31が1mmほど液面下となるように懸濁液Dに浸漬した後、コイル5に電流を印加した。
その結果、50 mT(500 G)以上の磁場が光ファイバー前端面31にあれば、懸濁液中の磁性微粒子B1は光ファイバー前端面31にほぼ均一に集積してくることが分かった。しかも、この測定範囲内においては、磁性微粒子B1は、液中以外のファイバー部、鉄管4、塩ビ管12のいずれの部分にも集積してこなかった。
また、電流の供給を停止すると磁性微粒子B1はスムーズに解離した。なお、鉄管4には、残留磁化が残るが、解離には問題にならなかった。
【0026】
「実施例」
第1実施形態の具体例を、図8の概念図により、以下に説明する。
市販の牛挽肉50gに、0.1mMのMnSOと0.1 mMのMgClを含む50mMのリン酸緩衝液(pH7.0)500mlを加えて、ブレンダーで破砕後、遠心分離(1,000×g、1分)を行って得られた抽出液に大腸菌(Escherichia coliATCC 12740)を添加(104 cells/ml)する。これを食品から抽出した水溶液としてのモデル試料とする。
【0027】
次に、磁性微粒子であるダイナビーズR−280(Dynabeads R−280 Tosyl-activated)と抗生物質であるポリミキシンB(polymyxinB)との結合体(polymyxin B−conjugated Dynabeads R-280,Pol-R beads)を懸濁させた、同様のリン酸緩衝液1.0ml(2×10ビーズ/ml)を、上記のモデル試料1.0mlに加え、室温下で2時間攪拌する。なお、ConA−Rbeadsの詳細な調製方法は、製品添付のマニュアルに従った。
これによって、図8において、磁性微粒子B1としてのDynabeads R−280に結合しているB2としてのポリミキシンBが、特定の大腸菌Aの外膜(outermembrane)部P1と結合した複合体が形成される。
【0028】
次に、このように形成された複合体(以下「ビーズ」ともいう。)を磁石によって取得し、残渣は廃棄する。得られたビーズは、上記と同様のリン酸緩衝液で洗浄する。
次に、図8において、特定の上記大腸菌Aの表面抗原a2であるO127a抗原と結合する抗体C21としてのアンチO127aIgG (ラビット由来)を濃度4μg/mlで含む50mMのリン酸緩衝液(ブロッキング剤としての3%ウシ血清アルブミン,0.2%Tween20を含む)1.0mlに、上記の得られたビーズを懸濁させ、室温下で1時間攪拌する。なお、アンチO127aIgG (ラビット由来)溶液の調製については、本発明の発明者等による文献「Masuko, M., Kataoka, T., Sugiyama, N.,Uchiyama, S., Sugiyama, H., Tarui, K., Kamiya, K. & Kawai, T. (1992)Photochem Photobiol, 56, 107−111」に述べられているとおりである。
これによって、図8における、磁性微粒子B1−ポリミキシンB B2−大腸菌A−抗体C21までの複合体が形成される。
【0029】
次に、このように形成されたビーズを磁石によって取得し、溶液は廃棄する。そして、ビーズを50mMのリン酸緩衝液(pH7.0)で洗浄する。
次に、発光酵素C1としての市販のホースラディッシュ、パーオキシターゼが結合している抗体C22としてのアンチラビットIgG抗体の溶液(200倍希釈、緩衝液は50mMのリン酸緩衝液(ブロッキング剤としての3%ウシ血清アルブミン,0.2%Tween20を含む))に、得られたビーズを添加して、室温下で1時間攪拌する。なお、このような溶液の調製については、上記の文献「Masuko,M., Kataoka, T., Sugiyama, N., Uchiyama, S., Sugiyama, H., Tarui, K., Kamiya,K. & Kawai, T. (1992) Photochem Photobiol, 56, 107−111」に述べられているとおりである。
【0030】
これによって、図8における、磁性微粒子B1−ポリミキシンB B2−大腸菌A−抗体C21−抗体C22−発光酵素C1までの微生物・磁性微粒子複合体1が完成する。
次に、このように形成されたビーズを磁石によって取得し、50mMのリン酸緩衝液(pH7.0)で洗浄する。
それから、これを、発光反応液Eとしての市販のルミノール反応液(RP2106,GEHealthcare)2.0mlに懸濁させ、光ファイバー3の前端面31に吸着されたビーズにおけるパーオキシダーゼC1を発光させて、暗黒下において、図3(C)のとおりの光Lの測定を一定時間行う。その場合の発光反応液E中における概念図が図8のとおりである。
このように、微生物・磁性微粒子複合体1を光ファイバー3の前端面31に吸着、捕集した状態で、磁性微粒子を除去する等なく、光検出の際の微生物の保持のために、磁性体としての機能を維持させたままで、かつ同一の光ファイバーによって、細菌検出のための光測定を行うことができる。
【符号の説明】
【0031】
1‥微生物・磁性微粒子複合体、A‥細菌、a‥表面抗原、B‥第1抗体結合磁性微粒子、B1‥磁性微粒子、B2‥ポリミキシンB、C‥第2抗体・発光酵素複合体、C1‥発光酵素、C2‥第2抗体、D‥懸濁液、E‥発光反応液、L‥光、LA‥励起光、LB‥蛍光、2‥微生物検出装置、3‥光ファイバー、31‥光ファイバー前端面、4‥鉄管、5‥コイル、6‥磁気遮蔽材、7‥電力供給手段、8‥光検出手段、9‥記録・判定手段、10‥ビームスプリッター、11‥励起光源、12‥塩ビ管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物と磁性微粒子を結合させる工程、
前記微生物に発光酵素又は蛍光色素を標識する工程、
光ファイバー前端面に磁力を発生させ、前記微生物と前記磁性微粒子が結合した微生物・磁性微粒子複合体を前記光ファイバー前端面に磁気的に吸着させる工程、
前記微生物・磁性微粒子複合体の前記発光酵素又は前記蛍光色素を発光させ、その光を前記同一の光ファイバーを通して集光し、その光を検出する工程、
を含むことを特徴とする微生物検出方法。
【請求項2】
前記微生物と磁性微粒子の結合、及び前記微生物への発光酵素又は蛍光色素の標識は、抗体、レクチン、又はポリミキシンBを介してなされることを特徴とする請求項1に記載の微生物検出方法。
【請求項3】
前記発光酵素の発光は、前記光ファイバー前端面に吸着された前記微生物・磁性微粒子複合体を、発光反応液に浸漬することでなされることを特徴とする請求項1又は2に記載の微生物検出方法。
【請求項4】
前記蛍光色素の発光は、前記光ファイバー前端面に吸着された前記微生物・磁性微粒子複合体に励起光を照射することでなされることを特徴とする請求項1又は2に記載の微生物検出方法。
【請求項5】
光ファイバー前端面に、微生物と磁性微粒子が結合し、かつ発光酵素又は蛍光色素を標識された微生物・磁性微粒子複合体を磁気的に吸着させるために、前記光ファイバー前端面に磁力を発生させる手段、
前記発光酵素又は前記蛍光色素を発光させる手段、
前記微生物・磁性微粒子複合体から発する光を前記同一の光ファイバーを通して集光し、その光を検出する手段、
を備えることを特徴とする微生物検出装置。
【請求項6】
前記光ファイバー前端面に磁力を発生させる手段は、前記光ファイバーの外周面に巻いた導電性コイルと、前記導電性コイルへの電力供給手段を備えることを特徴とする請求項5に記載の微生物検出装置。
【請求項7】
前記光ファイバーの前端近傍の外周面には、磁気遮蔽材が配置されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の微生物検出装置。
【請求項8】
前記光ファイバーには、前記微生物・磁性微粒子複合体から発する光を集光するとともに、前記微生物・磁性微粒子複合体へ励起光を照射する手段を備えることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の微生物検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−279335(P2010−279335A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137526(P2009−137526)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】