説明

微生物用担体

【課題】生物反応により発生する気体が付着することにより浮かび上がることを防止すると共に、高い反応効率を実現可能な微生物用の担体を提供することを目的とする。
【解決手段】表面に微生物が固定化される微生物用担体1Aであって、多孔質物質を形成材料とする担体本体1と、担体本体1の中心部に配置された比重調整材2と、を有し、微生物用担体1Aのかさ比重は、微生物を用いた生物反応の原料を含む原料溶液の比重よりも大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を用いた反応系において微生物を担持する担体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素反応や微生物を用いた生物反応等を利用して、溶液状態の原料から物質の合成や分解を行う装置、所謂バイオリアクタに関する技術が盛んに開発されている。一般に生物反応は、化学反応と比べると反応速度は遅いが化学反応のように高温・高圧を必要としないため省エネルギー性に優れ、また反応設備を耐熱・耐圧とする必要がないという特長を有している。更には、反応に用いる生物種に応じて、特定の原料から目的とする生成物へ、副反応が少ない反応系を構築することができるという特長も備えていることから、工業的に有利な点が多く注目を浴びている。
【0003】
微生物を用いたバイオリアクタにおいては、反応効率を高めるためには、反応を触媒する微生物を反応装置内に高濃度で保持する技術が非常に重要となる。このような技術としては、従来、微生物に分解されにくい物質で形成した構造体(担体)で微生物を担持する方法が用いられてきた。このような方法を用いると、担体に微生物を高濃度に保持することができるため、微生物を保持した担体と、例えば水溶液中の原料とを接触させることにより、高効率な反応を実現することができる。
【0004】
このような担体として、大きくは、反応容器内部に固定される固定型と、反応容器内を自由に流動する流動型と、に分けることができる。これらを比較すると、固定された担体よりも流動する担体の方が、反応容器内で担体と原料との接触効率を高くすることが可能であるため、反応効率を高めやすいという利点がある。
【0005】
流動型の担体としては、微細な隙間(水路)を有するゲル状物質(例えばアルギン酸カルシウム)で担体を形成する際に、微生物を内包させて形成し、担体内部で高濃度の微生物濃度を実現する包埋型担体や、微生物を表面に付着する担体を別途形成し、該担体の表面で高濃度の微生物濃度を実現する付着型担体が知られている。
【0006】
このような、流動型の担体における共通の課題として、反応系中における良好な対流を維持することが挙げられる。そのために、担体は原料溶液に沈降する程度の比重であるとよい。担体がこのような比重を備えると、反応系の撹拌による担体の上昇と、自重による沈降とのバランスにより、系内を良好に対流し、反応効率を高めることができる。
【0007】
このように比重を調節した担体としては、例えば特許文献1に記載の付着型担体が挙げられる。特許文献1では、無機質粉粒体(比重>1)や無機質系微小中空ビーズ(比重<1)などの比重調整剤を配合した光硬化性樹脂を形成材料として用い、比重調整剤が内部に均一分散した球形の担体を形成している。
【特許文献1】特開2001−292765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記の付着型担体の一形態として、凹凸や微細孔を有し表面積が広い(例えばスポンジ状)形成材料を用いた担体が知られている。このような付着型担体では、微生物が付着可能な担体表面の面積が広いため、より高濃度に微生物を保持することができ高効率化を実現できる。また、このような担体では、担体同士の衝突により担体表面の微生物が剥離したとしても、凹凸や微細孔内により剥離を免れる微生物を確保しやすく、高濃度を維持しやすい。
【0009】
一方で、通常の生物反応においては、生成物として二酸化炭素やメタンガスなどの気体を生じることが多い。上記のようなスポンジ状物質を用いた担体の内部では、まず、発生する気体により微細孔内の原料溶液が置換される。更に、微細孔はこのような気体によって閉塞しやすく、その結果、溶液中でのみかけの比重が低下し、原料溶液に浮かび上がるという現象が起こりやすい。浮かび上がった担体は反応に有効に寄与しなくなる他、反応容器の液面付近に流出口が設けられている場合には、流出口を介して反応系外に流出(越流)してしまうという不具合を生じる。
【0010】
仮に、特許文献1に記載の製造方法でこのようなスポンジ状物質の担体を製造可能であるとすると、気泡が生じても浮かび上がらない程度に担体を重くすることができるが、他の課題が生じる。
【0011】
スポンジ状物質を用いた担体では、担体が備える微細孔内に原料溶液が浸透し、微細孔の表面に付着する微生物と反応する。原料溶液は、微細孔内の微生物と反応しながら内部に浸透するため、担体内では、担体表面付近が最も高く浸透するにしたがい低くなるという、原料濃度の濃度勾配が生じる。従って、反応効率を考えると担体表面に微生物を多く付着させる方が良い。
【0012】
しかしながら、特許文献1の製造方法では、比重調整剤が担体内に均一に分散するため、担体表面においても比重調整剤が配置されることとなる。すると、微細孔が形成されるべき箇所が比重調整剤と置き換わるために、微細孔が減少し担体の表面積が減少することとなる。その結果、担体表面の微生物濃度が低下するため、反応効率が低下してしまう。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、浮上を防止すると共に高い反応効率を実現可能な微生物用の担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明の微生物用担体は、表面に微生物が固定化される微生物用担体であって、複数の細孔が互いに連通した多孔質物質を形成材料とする担体本体と、前記担体本体の中心部に配置された比重調整材と、を有し、前記微生物用担体のかさ比重は、前記微生物を用いた生物反応の原料を含む原料溶液よりも大きいことを特徴とする。
【0015】
または、表面に微生物が固定化される微生物用担体であって、多孔質物質を形成材料とする担体本体と、前記担体本体の中心部を通って該担体本体を貫通する比重調整材と、を有し、前記微生物用担体のかさ比重は、前記微生物を用いた生物反応の原料を含む原料溶液の比重よりも大きいことを特徴とすることしても良い。
【0016】
これらの構成によれば、仮に担体本体の細孔の全てに微生物が生成する気体が充填したとしても、担体のかさ比重が原料溶液よりも大きいため、原料溶液上に完全に浮上してしまうことがない。また、比重調整材が担体本体の中心部付近に配置されているため、担体の表面近傍の微生物付着への影響を抑えることができる。従って、反応中の浮上を防止すると共に高い反応効率を実現する微生物用担体を提供することができる。
【0017】
本発明において「比重」とは、水に対する質量比である。また「かさ比重」とは、乾燥した担体の空気中での質量と、担体および微細孔と同体積とみなされる体積の水の質量との比を示す値であり、例えばJIS−Z8807「固体比重測定方法」の「8.かさ比重測定方法」で定められた方法を用いて測定できる値である。
【0018】
本発明においては、前記担体本体は、複数の前記多孔質物質の小片を前記比重調整材の周囲に付着させてなることが望ましい。
この構成によれば、容易に担体の中心部に比重調整材を配置した担体とすることができ、また、担体本体を形成する多孔質物質の小片の大きさを変更することで、容易にかさ比重を変更した担体とすることができる。
【0019】
本発明においては、前記比重調整材は、鉄またはステンレス鋼を形成材料とすることが望ましい。
この構成によれば、安価で比重の高い比重調整材を用いる事で、安価に性能の高い微生物用担体とすることができる。ここで「ステンレス鋼」とは、JIS−G0203「鋼鉄用語(製品および品質)」で定義される合金鋼である。
【0020】
本発明においては、前記比重調整材は、銅を形成材料とすることが望ましい。
生物反応では、生成物により原料溶液の水素イオン濃度(pH)が酸性になりやすい。銅は、酸に対して安定な物質であるため、比重調整材の腐食を防止することができ、連続使用が可能な微生物用担体とすることができる。
【0021】
本発明においては、前記比重調整材は、表面が樹脂被膜で覆われていることが望ましい。
この構成によれば、樹脂被膜により比重調整材の腐食を防止することができ、連続使用が可能な微生物用担体とすることができる。
【0022】
本発明においては、前記比重調整材は、非金属の無機固体材料を形成材料とすることとしても良い。
この構成によれば、比重調整材の形成材料が酸に対して安定な物質であるため、比重調整材の腐食を防止することができ、連続使用が可能な微生物用担体とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、反応中の浮上を防止すると共に高い反応効率を実現する微生物用担体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[第1実施形態]
以下、図1〜図4を参照しながら、本発明の実施形態に係る微生物用担体について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0025】
図1は、微生物用担体1Aを示す概略図である。本実施形態の微生物用担体1Aは、多孔質物質を形成材料として用いる担体本体1と、担体本体1の中心部に配置された比重調整材2とからなる。本実施形態の微生物用担体1Aは、1辺が略1cmの立方体形状を備えている。
【0026】
担体本体1は、多孔質な樹脂材料を形成材料として、1つの部材で形成されている。担体本体1の形成材料としては、例えばゴムスポンジ、ポリウレタンスポンジ、ポリエチレンフォームなどの樹脂多孔質体または樹脂発泡体が好適に用いられる。微生物担体1Aを用いる環境が、例えば排水処理施設の様に、屋外で太陽光に曝される場合には、耐候性を考慮して劣化(耐候劣化)しにくい材料を選択することが望ましい。本実施形態の担体本体1は、外形を立方体形状を備えているが、これに限るものではない。
【0027】
担体本体1が備える微細孔は担体表面に連通している。また、複数の微細孔同士は、互いに連通し、担体本体1の内部までつながっている事が望ましい。担体本体1の内部に独立して形成された気泡は、微生物の付着に寄与しないためである。
【0028】
比重調整材2は、担体本体1の中心部に配置され、微生物用担体1Aのかさ比重を調整する機能を備える。比重調整材2としては、大きい比重を有する金属材料が好ましく、例えば、鉄(比重:7.93)、ステンレス鋼(比重:約7.7〜8)、銅(比重:8.9)などを示すことができる。これらのうち、鉄やステンレス鋼は比較的安価な材料であるため、微生物担体1Aを用いたバイオリアクタのランニングコストを抑えることができる。また、生物反応では、生成物により原料溶液の水素イオン濃度(pH)が酸性になりやすいが、銅は酸に対して安定な物質であるため、比重調整材の腐食を防止することができ、連続使用が可能な微生物用担体とすることができる。
【0029】
また、比重の大きい金属としては鉛(比重:11.4)を挙げることが出来るが、鉛は酸性条件下で溶解し腐食するため、使用中に微生物用担体1Aの質量が変化するおそれがある。このような材料を比重調整材2の材料として用いる場合には、比重調整材の表面に樹脂被膜を形成し、酸性下での腐食を防止することが好ましい。樹脂被膜の形成材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの耐酸性を備える樹脂材料を用いることができる。更には、酸性下において腐食を起こしにくい非金属無機材料を用いることとしても良い。非金属無機材料としては、セラミックや岩石、鉱石などの固体材料を用いることができる。
【0030】
これら担体本体1と比重調整材2との体積比や、比重調整材2の材質を選択して、微生物用担体1Aのかさ比重が、微生物用担体1Aを用いて反応を行う原料溶液の比重よりも大きくなるように調整する。
【0031】
生物反応においては、生成物として二酸化炭素やメタンガスなどの気体を生じることが多く、発生する気体が微細孔内で閉塞すると、担体のかさ比重が低下し、原料溶液上に浮かび上がるという現象が起こりやすい。しかし、微生物用担体1Aのかさ比重を原料溶液の比重よりも大きくなるように調整すると、仮に担体本体1が備える微細孔の全てに、微生物が生成する気体が充填したとしても、微生物用担体1Aのかさ比重が原料溶液よりも大きいため、原料溶液に沈降することとなる。
【0032】
また、本発明の微生物用担体を反応に用いる場合、バイオリアクタ内の撹拌により生じる原料溶液の対流により、微生物用担体は押し流される。通常、このような対流は原料溶液の深さ方向にも生じるため、担体は、バイオリアクタの底面に沈む方向および液面に浮上する方向に力を受ける。対流によって生じる力は、バイオリアクタ内を撹拌する攪拌方式や撹拌速度などの撹拌条件に強く依存するため、微生物用担体のかさ比重は、このような対流を考慮し、微生物用担体が底部に沈降したままとならないようなかさ比重となるように調整する。
【0033】
このようにかさ比重を調整した微生物用担体を用いると、用いるバイオリアクタ内の撹拌による対流と相まって、原料溶液中で良好な対流を維持することができる。
【0034】
図2は、本発明の微生物用担体の特長を示す模式断面図である。図2(a)には、本実施形態の微生物用担体1Aを示し、図2(b)には、比較として比重調整材11が担体本体1内に均一に分散した微生物用担体10を示す。
【0035】
原料溶液は、内部に浸透する過程において微細孔内の微生物が原料を消費するため、担体表面付近の溶液濃度が最も高く、浸透するに従って溶液濃度が低くなるという濃度勾配が生じる。そのため、担体表面AR1では高濃度の原料溶液と反応するのに対し、担体の内部AR2では比較的低濃度の原料溶液と反応することになる。従って、反応を高効率に行うためには、高濃度の原料溶液と接する担体表面AR1の微生物濃度を高めることが望ましい。
【0036】
図2(a)に示す本実施形態の微生物用担体1Aでは、比重調整材2が担体本体1の中心部(内部AR2)に配置されているため、比重調整材2が担体表面AR1での微生物付着へ影響を及ぼすことがない。
【0037】
対して、図2(b)の微生物用担体10では、比重調整材11が均一に分散しているため、担体表面AR1に配置されることを妨げない構成となっている。したがって、一部の比重調整材11は、担体表面AR1に一部重なって配置されることとなる。このような、比重調整材11と担体表面AR1との重なり部11aでは、担体本体1の微細孔が形成されないため、高効率な反応が可能な担体表面AR1において表面積が低下し、微生物の付着量が低下する。従って、反応効率が低下してしまう。
【0038】
以上の様に、本実施形態の微生物用担体1Aでは、比重調整材2の配置位置を制御することにより、反応中の浮上を防止すると共に高い反応効率を実現することができる。
【0039】
図3には、微生物用担体の変形例を示す。図1の微生物用担体1Aは、担体本体1が1つの部材で形成されることとしたが、これに限らず、図3(a)に示す微生物用担体1Bのように、複数の担体小片(多孔質物質の小片)1aが比重調整材2の周囲に集積し、担体本体1として機能することとしても良い。
【0040】
このような微生物用担体1Bは、例えば、比重調整材2に接着剤を塗布し、多数の担体小片1a上を転がす、または多数の担体小片1aと共に撹拌する、といった方法により多数の担体小片1aを付着させ、比重調整材2の周囲に担体本体1を形成することで製造することができる。更に、接着剤による付着に限らず、熱融着によって付着させることもできる。
【0041】
このような方法で製造された微生物用担体1Bでは、容易に担体本体1の中心部に比重調整材2を配置することができる。また、担体小片1aの大きさを変更することで、容易にかさ比重を変更した担体とすることができる。
【0042】
また、図3(b)には、担体本体1を貫通する棒状の比重調整材3を備える微生物用担体1Cを示す。図では、立方体形状を備える担体本体1の1面の中心と、該面に対向する面の中心と、を通って、棒状の比重調整材3が担体本体1を貫通している。比重調整材3は、担体本体1の中心部を貫通して配置されている。
【0043】
微生物用担体1Cでは、担体表面の微細孔の一部を比重調整材3と置き換えることとなるが、図2(b)に示した微生物用担体10と異なり、配置が制御されている比重調整材3の両端部のみが担体表面と重なり、他の部分は担体内部に配置されている。そのため、担体表面における微細孔の減少を必要最小限に止めることができる。
【0044】
このような微生物用担体1Cは、例えば、担体本体1を切り出す前の板状の担体本体母材に複数の棒状の比重調整材母材を刺し通し、その後、比重調整母材とともに、担体本体母材を微生物用担体1Cの大きさに切り分けることで形成することができる。このような方法を用いると、多量の微生物用担体1Cを容易に形成することができる。
【0045】
図4には、本発明の微生物用担体を用いたバイオリアクタの模式図を示す。図4(a)は微生物用担体の対流が好適になされている場合の例を示し、図4(b)(c)には比較例を示す。
【0046】
本発明の微生物用担体をバイオリアクタでの反応に適応する場合、用いるバイオリアクタが備える設備や運転条件、用いる原料溶液の濃度等によって、反応系に好適な微生物用担体のかさ比重を選択するとよい。以下、図を用いて説明する。
【0047】
図に示すバイオリアクタ100は、原料溶液が満たされた反応容器100Aと、反応容器100A内を撹拌する攪拌器110と、攪拌器110を運転する回転モータ120を備えている。反応容器100A内には、原料溶液が含む原料と反応する微生物を担持する複数の微生物用担体1Aが投入されている。
【0048】
バイオリアクタ100は、原料溶液が、図中白矢印で示す方向に流れ続けており、反応容器100A内に流入する原料溶液が、一定時間反応容器内で反応した後に反応容器外に流出する、連続式のバイオリアクタとなっている。ここではバイオリアクタ100は、攪拌器110で内部を撹拌する撹拌式としたが、吹き込む気体で内部を撹拌する流動床式にも適用することができる。
【0049】
図4(a)は、バイオリアクタ100での反応に対し、微生物用担体1Aのかさ比重が好適に調整されている状態の模式図である。このような場合、微生物用担体1Aは、自重による沈降と撹拌で生じる対流による上昇とを繰り返し、反応容器100A内に漂い続ける。高濃度な微生物を担持する担体が反応容器内をまんべんなく循環するため、高効率な生物反応を起こすことができ、高効率な反応を実現することができる。
【0050】
図4(b)には、バイオリアクタ100での反応に対し、微生物用担体1Dが浮かんでしまい好適な対流がなされない状態の模式図を示す。本発明の微生物用担体は、かさ比重が原料溶液の比重よりも大きくなるように調整しているため、このような不具合は生じにくい。しかし例えば、微生物に酸素を供給するために原料溶液内に空気を吹き込む際に、浮上する空気に押し上げられて担体が浮かんでしまう様な運転条件ではこのような不具合が発生することが考えられる。このような状態では、浮き上がった微生物用担体1Dが、反応容器外に流出する原料溶液と共に流出するおそれが生じるため、微生物用担体1Dのかさ比重を大きくするように調整して再投入する。
【0051】
図4(c)には、バイオリアクタ100での反応に対し、微生物用担体1Eのかさ比重が大きすぎる状態の模式図を示す。かさ比重が大きすぎると、微生物用担体1Eが反応容器100A内の底部に沈んでしまい、停滞するおそれが生じる。このような場合には、対流を強くするために撹拌速度を上げるか、それでも改善しない場合には、比重調整材の量を減らした担体を調整して再投入する。
【0052】
微生物用担体のかさ比重について、適応するバイオリアクタの運転条件や反応条件に応じて上記のような調整を行うことで、良好な反応を行うことができる。
【0053】
以上のように、本実施形態の微生物用担体によれば、反応中の浮上を防止すると共に高い反応効率を実現することができる。本発明の微生物用担体を用いると、バイオリアクタ内において良好な反応状態を作り出し、高効率な反応を実現するバイオリアクタとすることができる。
【0054】
なお、本実施形態においては、各々の微生物用担体には比重調整材を1つ含むこととしたが、複数含むこととしても構わない。その場合は、高効率な反応が可能な担体表面に重ならないようにすることが望ましい。また、複数の比重調整材を用いる場合には、全てを同じ材質とする必要はなく、必要に応じて異なる材質の比重調整材を用いる事ができる。
【0055】
また、本実施形態においては、微生物用担体を、連続式のバイオリアクタに適用することとしたが、回分式(バッチ式)のバイオリアクタに適用することもできる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を示しながら、本発明を更に具体的に説明する。
【0058】
500mlビーカに、10%グルコース水溶液(以下、基質)300mlと、乾燥重量で100mgの凝集性微生物と、を入れ、更に、微生物用担体を投入した。微生物用担体は、一辺1cmのポリウレタンスポンジ製の担体本体を備え、内部に比重調整材として直径8mmの鉄球を封入したものを用いた。また本実施例では、凝集性微生物としてSaccharomyces cerevisiae KF−7株を用いた。
【0059】
上記ビーカにプロペラ式撹拌装置を取り付け、室温にて回転数30rpmで回転させ、ビーカ内部の基質を撹拌し反応を行った。撹拌中、上述した基質を150ml/hの流量でビーカ内に注入しながら、同時にビーカ内の基質を150ml/hの流量で吸い出し、撹拌停止まで反応を継続した。
【0060】
また、比較例として、内部に封入する比重調整材を直径4mmの鉄球とした微生物用担体を用い、他は上記実施例と同条件として反応を行った。
【0061】
結果、実施例では撹拌停止までの間、微生物担体は液面に浮かんで停滞することなく、また、ビーカの底に沈降し続けることなく、基質内を対流し良好に反応を行うことができた。一方、比較例では、反応開始から5時間程度で微生物用担体を構成するスポンジの空隙内にSaccharomyces cerevisiae KF−7株が放出したガスが満たされ、全ての微生物用担体が液面に浮上した。浮上後も反応を継続したが、微生物用担体での凝集性微生物の増殖は認められなかった。
【0062】
また、実施例および比較例で生成したエタノール量について、4時間を単位時間として、単位時間においてビーカ内から吸い出した基質に混入するエタノール量を測定した。この測定は、反応開始から12時間経過した後に複数回行った。結果、実施例では、いずれの測定においても、投入したグルコース量から化学量論的に算出される量と略等しい量のエタノールが生成していることが検出された。一方、比較例では、実施例に対して約10%の量のエタノールしか生成していなかった。
【0063】
以上の結果より、本発明の微生物用担体の有用性が確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の微生物用担体を示す概略図である。
【図2】本発明の微生物用担体の特長を示す模式断面図である。
【図3】本発明の微生物用担体の変形例である。
【図4】本発明の微生物用担体を用いたバイオリアクタの模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1A〜1E…微生物用担体、1…担体本体、2,3…比重調整材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微生物が固定化される微生物用担体であって、
多孔質物質を形成材料とする担体本体と、
前記担体本体の中心部に配置された比重調整材と、を有し、
前記微生物用担体のかさ比重は、前記微生物を用いた生物反応の原料を含む原料溶液の比重よりも大きいことを特徴とする微生物用担体。
【請求項2】
表面に微生物が固定化される微生物用担体であって、
多孔質物質を形成材料とする担体本体と、
前記担体本体の中心部を通って該担体本体を貫通する比重調整材と、を有し、
前記微生物用担体のかさ比重は、前記微生物を用いた生物反応の原料を含む原料溶液の比重よりも大きいことを特徴とする微生物用担体。
【請求項3】
前記担体本体は、複数の前記多孔質物質の小片を前記比重調整材の周囲に付着させてなることを特徴とする請求項1または2に記載の微生物用担体。
【請求項4】
前記比重調整材は、鉄またはステンレス鋼を形成材料とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の微生物用担体。
【請求項5】
前記比重調整材は、銅を形成材料とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の微生物用担体。
【請求項6】
前記比重調整材は、表面が樹脂被膜で覆われていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の微生物用担体。
【請求項7】
前記比重調整材は、非金属の無機固体材料を形成材料とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の微生物用担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−115155(P2010−115155A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291020(P2008−291020)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】