説明

微生物発電装置及び微生物発電装置用正極

【課題】エアーカソードを用いた微生物発電装置の発電効率を高める。
【解決手段】負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を備えた正極室とを有し、該正極室に酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電装置に用いられる正極。導電性基材と、該導電性基材に担持された、カーボンブラックと、白金、ニッケル、コバルト及び銀よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属触媒とを有し、該カーボンブラックに二酸化マンガンが担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の代謝反応を利用する発電装置に係り、特に、有機物を微生物に酸化分解させる際に得られる還元力を電気エネルギーとして取り出す微生物発電装置に関する。本発明は、また、この微生物発電装置に用いられる正極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に配慮した発電方法へのニーズが高まり、微生物発電の技術開発も進められている。微生物発電は、微生物が有機物を資化する際に得られる電気エネルギーを取り出すことにより発電する方法である。
【0003】
一般的に、微生物発電では負極が配置された負極室内に、微生物、微生物に資化される有機物、及び電子伝達媒体(電子メディエータ)を共存させる。電子メディエータは微生物体内に入り、微生物が有機物を酸化して発生する電子を受け取って負極に渡す。負極は外部抵抗(負荷)を介して正極と電気的に導通しており、負極に渡された電子は外部抵抗(負荷)を介して正極に移動し、正極と接する電子受容体に渡される。このような電子の移動により正極と負極との間に電流が流れる。
【0004】
微生物発電では、電子メディエータが微生物体から直接、電子を取り出すため、理論上のエネルギー変換効率は高い。しかし、実際のエネルギー変換効率は低く、発電効率の向上が求められている。そこで、発電効率を高めるため、電極の材料や構造、電子メディエータの種類、及び微生物種の選択等について様々な検討及び開発が行われている(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0005】
特許文献1には、正極室と負極室とを固体電解質よりなるアルカリイオン導電体で隔て、正極室内及び負極室内をリン酸緩衝液(バッファ)でpH7とし、正極室内のリン酸緩衝液(カソード液)に空気を吹き込んで発電を行うことが記載されている。
【0006】
特許文献2には、正極室と負極室とを区画する電解質膜に接するように、正極板として多孔質体を設置し、正極室に空気を流通させ、多孔質体の空隙中で空気と液とを接触させることが記載されている。(以下、このように正極室内に空気を流通させ、空気中の酸素を電子受容体として利用する正極を「エアーカソード」と称す場合がある。)
【0007】
エアーカソードを用いる微生物発電装置であれば、カソード液が不要で、また、正極室に単に空気を流通させるのみで良く、カソード液中への曝気の必要がないといった利点がある。
【0008】
特許文献2には、エアーカソードの電極反応促進用の触媒として、白金等の白金属元素が有効であると記載され、MnOも用いることができる旨の記載があるが、実施例において用いられる触媒は白金単独であり、MnOを用いた具体例はない。この特許文献2では、具体的には、白金を担持したファーネスブラック粒子をPTFE(テフロン(登録商標))バインダーで結着したものをエアーカソードとしている。
【特許文献1】特開2000−133326号公報
【特許文献2】特開2004−342412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
触媒を担持したエアーカソードであれば、触媒を用いないカソードに比べて、発電効率を向上させることができるが、その効果は十分とは言えず、更なる発電効率の向上が望まれる。特に、白金は高価であることから、その使用量を抑えた上で、高い発電効率を得ることが望まれる。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、エアーカソードを用いた微生物発電装置の発電効率を高めることができる正極と、この正極を用いた微生物発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)の微生物発電装置は、負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を備えた正極室と、該正極室に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給手段とを備えた微生物発電装置において、該正極が、二酸化マンガンを担持したカーボンブラックと、白金、ニッケル、コバルト及び銀よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属触媒とを、導電性基材に担持させてなることを特徴とする。
【0012】
請求項2の微生物発電装置は、請求項1において、前記導電性基材が、グラファイトペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス、ステンレスメッシュ、及びチタンメッシュよりなる群から選ばれることを特徴とする。
【0013】
請求項3の微生物発電装置は、請求項1又は2において、前記正極に含まれる二酸化マンガンと金属触媒との含有割合が二酸化マンガン:金属触媒=1:0.01〜1(重量比)であることを特徴とする。
【0014】
本発明(請求項4)の微生物発電装置用正極は、負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を備えた正極室とを有し、該正極室に酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電装置に用いられる正極において、導電性基材と、該導電性基材に担持された、カーボンブラックと、白金、ニッケル、コバルト及び銀よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属触媒とを有し、該カーボンブラックに二酸化マンガンが担持されていることを特徴とする。
【0015】
請求項5の微生物発電装置用正極は、請求項1において、前記導電性基材が、グラファイトペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス、ステンレスメッシュ、及びチタンメッシュよりなる群から選ばれることを特徴とする。
【0016】
請求項6の微生物発電装置用正極は、請求項4又は5において、正極中の前記二酸化マンガンと金属触媒との含有割合が二酸化マンガン:金属触媒=1:0.01〜1(重量比)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
二酸化マンガンを担持したカーボンブラックと、白金等の金属触媒とを、導電性基材に担持してなる正極であれば、二酸化マンガンと金属触媒との併用による優れた相乗効果で、高い発電効率を得ることができる。
この正極であれば、二酸化マンガンのみを担持したものに比べて、高い発電効率を得ることができ、また、白金等の金属触媒のみを担持した正極に比べて、白金等の金属触媒の担持量を低減した上で高い発電効率を得ることができることから、正極を安価なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の微生物発電装置及び微生物発電装置用正極の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
[微生物発電装置用正極]
まず、本発明の微生物発電装置用正極について説明する。
本発明の微生物発電装置用正極は、導電性基材と、該導電性基材に担持されたカーボンブラックと、白金、ニッケル、コバルト及び銀よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属触媒とを有し、該カーボンブラックに二酸化マンガンが担持されていることを特徴とする。
【0020】
<導電性基材>
導電性基材としては、導電性が高く、耐食性が高く、厚みが薄くても十分な導電性と耐食性、更には導電性基材としての機械的強度を得ることがあるものであれば良く、特に制限はないが、グラファイトペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス、ステンレスメッシュ、チタンメッシュ等を用いることができ、これらのうち、特に耐久性と加工のしやすさ等の点から、カーボンペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス等のカーボン基材が好ましく、とりわけカーボンペーパーが好ましい。なお、これらのカーボン基材はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で疎水化されたものであっても良い。
【0021】
導電性基材の厚さは、厚過ぎると酸素の透過が悪くなり、薄過ぎると、基材に必要な強度等の要求特性を満たすことができないことから、20〜1000μm程度であることが好ましい。
【0022】
<二酸化マンガン担持カーボンブラック>
二酸化マンガンを担持したカーボンブラックの作成法には特に制限はないが、例えば、次のような還元法又は酸化法で作成することができる。
【0023】
作成例1:カーボンブラックを0.01〜0.3N程度の過マンガン酸カリウム水溶液中で撹拌し、過酸化水素、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を添加して、過マンガン酸カリウムを還元し、過マンガン酸イオンの紫褐色が消失して、還元が終了したら、反応液を固液分離し、固形分を分取して60〜100℃で乾燥する。
【0024】
具体的には、CABOT製カーボンブラック「VulcanXC72」5gに3N過マンガン酸カリウム水溶液100mLを添加し、攪拌しながら5重量%H水溶液をゆっくり添加する。過マンガン酸イオンの紫褐色が消えた時点で溶液を10000rpmで15分遠心分離し、沈殿物を集め、80℃で乾燥させる。
【0025】
作成例2:カーボンブラックを0.1〜1N程度の硫酸マンガン水溶液中に入れ、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加してpH10〜14程度のアルカリとし、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加して、硫酸マンガンを酸化し、硫酸マンガンの薄赤色が消失して、酸化が終了したら、反応液を固液分離し、固形分を分取して60〜100℃で乾燥する。なお、硫酸マンガンの代りに塩化マンガン、硝酸マンガンを用いることもでき、また、これらの混合物を用いることもできる。
【0026】
具体的には、CABOT製カーボンブラック「VulcanXC72」5gに2N硫酸マンガン水溶液200mLを添加し、3NのNaOH水溶液でpH10に調整する。この液を攪拌しながら1重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液をゆっくり添加し、硫酸マンガンの薄赤色が消えた時点で溶液を10000rpmで15分遠心分離し、沈殿物を集め、80℃で乾燥させる。
【0027】
このようにして得られる二酸化マンガン担持カーボンブラックの二酸化マンガン担持量には特に制限はないが、少な過ぎるとこれを用いた正極の二酸化マンガン担持量が不足し、多過ぎると導電性が低下することから、カーボンブラックに対する二酸化マンガンの担持量として、10〜500重量%、特に30〜100重量%とすることが好ましい。この二酸化マンガン担持量は、上述の作成例1,2における二酸化マンガン源のマンガン化合物水溶液の濃度を制御することにより調整することができる。
【0028】
なお、二酸化マンガンを担持させるカーボンブラックの種類には特に制限はないが、その粒径が大き過ぎると比表面積が小さくなることにより、二酸化マンガンの担持効率が悪く、小さ過ぎると取り扱い性が悪くなることから、平均粒径で20〜1000nm程度であることが好ましい。
【0029】
<金属触媒>
金属触媒としては、白金、ニッケル、コバルト、銀等の1種又は2種以上を用いることができるが、これらのうち、特に触媒活性の面で白金を用いることが好ましい。
【0030】
なお、金属触媒の粒径は、大き過ぎると導電性基材への担持が困難であり、小さい程、重量当りの比表面積が大きくなり活性も高いことから、平均粒径で10nm以下であることが好ましい。
【0031】
この金属触媒は、金属粒子をカーボンブラック、活性炭等の担体に担持したものであっても良く、この場合、担体の平均粒径は0.01〜10μm程度であることが好ましく、また、担体と金属粒子との合計に対する金属の割合は5〜70重量%であることが好ましい。
【0032】
<二酸化マンガン担持カーボンブラックと金属触媒の導電性基材への担持方法>
二酸化マンガン担持カーボンブラックと金属触媒とを前述の導電性基材に担持する方法としては特に制限はないが、ナフィオン(デュポン株式会社製イオン交換樹脂(登録商標))溶液、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)溶液、特にナフィオン溶液をバインダーとして用いることが好ましく、例えば、3〜10重量%程度の濃度のナフィオン溶液に、前述の二酸化マンガン担持カーボンブラックと金属触媒とをこれらの合計で5〜20重量%程度の濃度に分散させた分散液中に導電性基材を浸漬し、或いはこの分散液を導電性基材に塗布し、その後20〜40℃で乾燥する方法が好ましい。
このようにナフィオンをバインダーとして用いることにより、発電効率に優れた正極を得ることができる。
【0033】
<導電性基材への二酸化マンガン担持カーボンブラックと金属触媒の担持量>
導電性基材への二酸化マンガン担持カーボンブラックと金属触媒の担持量は、少な過ぎるとこれらを導電性基材に担持することによる発電効率の向上効果を十分に得ることができず、多過ぎると電子伝導性、イオン透過性を低下させる。
【0034】
また、二酸化マンガンと金属触媒との併用による相乗効果を十分に得るためには、正極に含まれる二酸化マンガンと金属触媒の割合が適当な範囲内となるように調整することが好ましい。
【0035】
このような観点から、導電性基材に担持された正極に含まれる二酸化マンガン担持カーボンブラックの二酸化マンガンと金属触媒との割合が、二酸化マンガン:金属触媒(金属換算量)=1:0.01〜1(重量比)、好ましくは1:0.05〜0.2であり、導電性基材への二酸化マンガンの担持量が1〜10mg/cm、導電性基材への金属触媒(金属換算量)の担持量が0.01〜10mg/cmとなるようにすることが好ましい。
なお、正極のバインダーとしてのナフィオンの含有量(導電性基材へのナフィオンの付着量)は、二酸化マンガン担持カーボンブラックと金属触媒との合計に対して10〜100重量%であることが好ましい。
【0036】
導電性基材への二酸化マンガン及び金属触媒担持量、ナフィオン付着量は、前述の担持方法において、ナフィオン溶液のナフィオン濃度、これに二酸化マンガン担持カーボンブラックと金属触媒を添加して得られる分散液中の二酸化マンガン担持カーボンブラック濃度及び金属触媒濃度を調整することにより調整することができる。
【0037】
<二酸化マンガンと金属触媒による触媒作用>
本発明の正極を微生物発電装置のエアーカソードとして用いた場合、金属触媒は酸素分子の還元作用で電極反応を促進し、また、二酸化マンガンは、微生物発電装置に用いたイオン透過性非導電性膜の種類に応じて、それぞれ、次のような正極反応により、負極で生成した電子を二酸化マンガンの4価のマンガンが受け取ってそれ自体が還元を受け、この還元されたマンガンが通気によって、再度4価マンガンに再生されることで、電極反応を促進するものと考えられる。
【0038】
<イオン透過性非導電性膜としてカチオン透過膜を用いる場合>
MnO+2H+2e → Mn2++2OH
Mn2++O+HO → MnO2+2H
<イオン透過性非導電性膜としてアニオン透過膜を用いる場合>
MnO+2HO+2e → Mn2++4OH
Mn2++O+HO → MnO2+2H
【0039】
[微生物発電装置]
次に、上述のような本発明の微生物発電装置用正極を用いる微生物発電装置について、図面を参照して説明する。
【0040】
第2図は本発明の微生物発電装置の概略的な構成を示す模式的断面図である。
【0041】
槽体1内がイオン透過性非導電性膜(本実施の形態ではカチオン透過膜)2によって正極室3と負極室4とに区画されている。正極室3内にあっては、イオン透過性非導電性膜2に接するように、本発明の正極5が配置されている。
【0042】
負極室4内には、導電性多孔質材料よりなる負極6が配置されている。この負極6は、イオン透過性非導電性膜2に直に、又は1〜2層程度の微生物の膜を介して接しており、イオン透過性非導電性膜2がカチオン透過膜であれば、負極6からイオン透過性非導電性膜2にプロトン(H)が受け渡し可能となっている。
【0043】
正極室3内は、空室であり、ガス流入口7から空気などの酸素含有ガスが導入され、ガス流出口8から排ガスが流出する。負極室4内には負極溶液Lが存在しており、この負極溶液Lは循環往口9、循環配管10、循環用ポンプ11及び循環戻口12を介して循環される。
【0044】
上記のイオン透過性非導電性膜2のカチオン透過膜としては、後述する通り、カチオン交換膜が好適であるが、その他のものであってもよい。
【0045】
多孔質材料よりなる負極6に微生物が担持されている。負極室4には流入口4aから負極溶液Lを導入し、流出口から廃液を排出させる。なお、負極室4内は嫌気性とされる。
【0046】
本実施の形態では、正極室3内で生じた凝縮水が凝縮水流出口13、凝縮水配管14、凝縮水タンク15、配管16、弁17介して循環配管10に導入可能とされている。なお、配管16がポンプ11の吸込側に接続されているため、弁17を開くとタンク15内の凝縮水が配管16に吸引される。ただし、弁17の代わりにポンプを配管16に設けてもよい。タンク15は、不溶性物質を沈降分離させる作用も有する。
【0047】
正極5と負極6との間に生じた起電力により、端子20,22を介して外部抵抗21に電流が流れる。
【0048】
負極溶液LのpHが7〜9となるように、正極室3の凝縮水が負極溶液Lに対し添加される。この正極室凝縮水は、負極室6に直接に添加されてもよいが、循環水に添加することにより、負極室6内の全域を部分的な偏りなしにpH7〜9に保つことができる。なお、凝縮水は酸素を含む場合があるため、活性炭充填塔のような脱酸素装置によって凝縮水を脱酸素処理した後、負極溶液に添加するようにしてもよい。
【0049】
正極室3に酸素含有ガスを通気すると共に、必要に応じポンプ11を作動させて負極溶液Lを循環させることにより、負極室4内では、
(有機物)+HO→CO+H+e
なる反応が進行する。この電子eが負極6、端子22、外部抵抗21、端子20を経て正極5へ流れる。
【0050】
上記反応で生じたプロトンHは、イオン透過性非導電性膜2のカチオン透過膜を通って正極5に移動する。正極5では、
+4H+4e→2H
なる反応が進行するが、正極5に二酸化マンガンが担持されていることにより、前述の如く、
MnO+2H+2e → Mn2++2OH
Mn2++O+HO → MnO2+2H
の反応で、電子消費反応に寄与して電極反応が促進される。
【0051】
正極5において、O+4H+4e→2HOの反応で生成したHOは凝縮して凝縮水が生じる。この凝縮水には、イオン透過性非導電性膜2のカチオン透過膜を透過してきたK,Naなどが溶け込み、これにより凝縮水がpH9.5〜12.5程度の高アルカリ性となる。
【0052】
負極室4では、微生物による有機物及び水の分解反応によってCOが生成することにより、pHが低下しようとする。前述の通り、正極室5からの高アルカリ性の凝縮水が負極溶液Lに添加されることにより、負極溶液LのpHが7より低くなることが防止される。
【0053】
第1図は本発明の特に好ましい形態に係る微生物発電装置の概略的な断面図である。
【0054】
略直方体形状の槽体30内に2枚の板状のイオン透過性非導電性膜(本実施の形態ではカチオン透過膜)31,31が互いに平行に配置されることにより、該イオン透過性非導電性膜31,31同士の間に負極室32が形成され、該負極室32とそれぞれ該イオン透過性非導電性膜31を隔てて2個の正極室33,33が形成されている。
【0055】
負極室32内には、各イオン透過性非導電性膜31と直に、又は1層〜2層程度の生物膜を介して接するように、多孔質材料よりなる負極34が配置されている。負極34は、イオン透過性非導電性膜31に対し軽く(例えば0.1kg/cm以下の圧力で)押し付けられるのが好ましい。
【0056】
正極室33内には、イオン透過性非導電性膜31と接して本発明の正極35が配置されている。この正極35は、パッキン36に押圧されてイオン透過性非導電性膜31に押し付けられている。正極35とイオン透過性非導電性膜31との密着性を高めるために、両者を溶着したり、接着剤で接着してもよい。
【0057】
正極35と槽体30の側壁との間は、酸素含有ガスの流通スペースとなっている。
【0058】
この正極35及び負極34は、端子37,39を介して外部抵抗38に接続されている。
【0059】
負極室32には、流入口32aから負極溶液Lが導入され、流出口32bから廃液が流出する。負極室32内は嫌気性とされる。
【0060】
負極室32内の負極溶液は、循環往口41、循環配管42、循環ポンプ43及び循環戻口44を介して循環される。各正極室33には、ガス流入口51から酸素含有ガスが流入し、排ガスがガス流出口52から流出する。
【0061】
正極室33内の凝縮水は、凝縮水流出口53、配管54を介して凝縮水タンク55に導入され、貯留される。この凝縮水タンク55内の凝縮水は、配管56、弁57、循環配管42、ポンプ43を介して負極室32に供給可能とされている。
【0062】
配管56がポンプ43の吸込側に接続されているため、弁57を開くとタンク55内の凝縮水が配管50に吸引される。なお、弁57の代わりにポンプを配管56に設けてもよい。
【0063】
負極溶液のpHをpH計60で検出し、このpHが7〜9となるように制御器(図示略)によって弁57が制御される。
【0064】
この第1図の微生物発電装置においても、正極室33に酸素含有ガスを流通させ、負極室32に負極溶液を流通させ、好ましくは負極溶液を循環させることにより、正極35と負極34との間に電位差が生じ、外部抵抗38に電流が流れる。
【0065】
この発電運転に伴って、正極室33に高pHの凝縮水が生成し、タンク55に貯留される。微生物反応によりpHが低下しようとする負極室32に、正極室33で生じた高pHの凝縮水を該タンク55から添加することにより、負極室32内のpHを7〜9に維持する。
【0066】
なお、本発明の微生物発電装置では、イオン透過性非導電性膜としては、カチオン透過膜の代りにアニオン透過膜を用いることもできる。アニオン交換膜を用いた場合には、前述の如く、
MnO+2HO+2e → Mn2++4OH
Mn2++O+HO → MnO2+2H
の反応で生成したOHがイオン透過性非導電性膜であるアニオン透過膜を透過して正極から負極室へと移動する。
【0067】
次に、この微生物発電装置の微生物、負極溶液などのほか、イオン透過性非導電性膜、及び負極の好適な材料等について説明する。
【0068】
負極溶液L中に含有させることで電気エネルギーを産生させる微生物は、電子供与体としての機能を有するものであれば特に制限されない。例えば、Saccharomyces、Hansenula、Candida、Micrococcus、Staphylococcus、Streptococcus、Leuconostoa、Lactobacillus、Corynebacterium、Arthrobacter、Bacillus、Clostridium、Neisseria、Escherichia、Enterobacter、Serratia、Achromobacter、Alcaligenes、Flavobacterium、Acetobacter、Moraxella、Nitrosomonas、Nitorobacter、Thiobacillus、Gluconobacter、Pseudomonas、Xanthomonas、Vibrio、Comamonas及びProteus(Proteus vulgaris)の各属に属する細菌、糸状菌、酵母などを挙げることができる。このような微生物を含む汚泥として下水等の有機物含有水を処理する生物処理槽から得られる活性汚泥、下水の最初沈澱池からの流出水に含まれる微生物、嫌気性消化汚泥等を植種として負極室に供給し、微生物を負極に保持させることができる。発電効率を高くするためには、負極室内に保持される微生物量は高濃度であることが好ましく、例えば微生物濃度は1〜50g/Lであることが好ましい。
【0069】
負極溶液Lとしては、微生物又は細胞を保持し、かつ発電に必要な組成を有する溶液が用いられる。例えば、呼吸系の発電を行う場合は、負極側の溶液としては、ブイヨン培地、M9培地、L培地、Malt Extract、MY培地、硝化菌選択培地などの呼吸系の代謝を行うのに必要なエネルギー源や栄養素などの組成を有する培地が利用できる。また、下水、有機性産業排水、生ごみ等の有機性廃棄物を用いることができる。
【0070】
負極溶液L中には、微生物又は細胞からの電子の引き抜きをより容易とするために電子メディエーターを含有させてもよい。この電子メディエーターとしては、例えば、チオニン、ジメチルジスルホン化チオニン、ニューメチレンブルー、トルイジンブルー−O等のチオニン骨格を有する化合物、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン等の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン骨格を有する化合物、ブリリアントクレジルブルー、ガロシアニン、レソルフィン、アリザリンブリリアントブルー、フェノチアジノン、フェナジンエソスルフェート、サフラニン−O、ジクロロフェノールインドフェノール、フェロセン、ベンゾキノン、フタロシアニン、あるいはベンジルビオローゲン及びこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0071】
さらに、微生物の発電機能を増大させるような材料、例えばビタミンCのような抗酸化剤や、微生物中の特定の電子伝達系や物質伝達系のみを働かせる機能増大材料を溶解すると、さらに効率よく電力を得ることができるので好ましい。
【0072】
負極溶液Lは、必要に応じ、リン酸バッファを含有していてもよい。
【0073】
負極溶液Lは有機物を含むものである。この有機物としては、微生物によって分解されるものであれば特に制限はなく、例えば水溶性の有機物、水中に分散する有機物微粒子などが用いられる。負極溶液は、下水、食品工場排水などの有機性廃水であってもよい。負極溶液L中の有機物濃度は、発電効率を高くするために100〜10000mg/L程度の高濃度であることが好ましい。
【0074】
正極室に流通させる酸素含有ガスとしては、空気が好適である。正極室からの排ガスを、必要に応じ脱酸素処理した後、負極室に通気し、負極溶液Lからの溶存酸素のパージに用いてもよい。
【0075】
イオン透過性非導電性膜としては、非導電性、かつイオン透過性を有するものであればほとんどのものが使用できる。安価なものとしては、通水性の良い濾紙や織布、不織布のほか、精密濾過膜、限外濾過(UF)膜、逆浸透(RO)膜、プロトン選択性の高いカチオン交換膜、又はアニオン交換膜を好適に使用でき、例えばカチオン交換膜としてはデュポン株式会社製ナフィオン(登録商標)、株式会社アストム製のカチオン交換膜であるCMB膜等が使用できる。また、アニオン交換膜としては、アストム製アニオン交換膜やトクヤマ製アニオン型電解質膜などが好適である。イオン透過性非導電性膜は、薄くて丈夫であることが好ましく、通常、その膜厚は30〜300μm、特に30〜200μm程度であることが好ましい。
【0076】
負極は、多くの微生物を保持できるよう、表面積が大きく空隙が多く形成され通水性を有する多孔体が好ましい。具体的には、少なくとも表面が粗とされた導電性物質のシートや導電性物質をフェルト状その他の多孔性シートにした多孔性導電体(例えばグラファイトフェルト、発泡チタン、発泡ステンレス等)が挙げられる。
【0077】
このような多孔質の負極を直接に又は微生物層を介してカチオン透過体に当接させた場合、電子メディエータを用いることなく、微生物反応で生じた電子が負極に渡るようになり、電子メディエータを不要とすることができる。
【0078】
複数のシート状導電体を積層して負極としてもよい。この場合、同種の導電体シートを積層してもよく、異なる種類の導電体シート同士(例えばグラファイトフェルトと粗面を有するグラファイトシート)を積層してもよい。
【0079】
負極は全体の厚さが3mm以上40mm以下、特に5〜20mm程度であることが好ましい。積層シートによって負極を構成した場合、シート同士の合わせ面(積層面)に沿って液が流れるように、積層面を液の流入口と流出口とを結ぶ方向に配向させるのが好ましい。
【0080】
本発明では、負極室を複数の分室に分割し、各分室を直列接続することで各分室でのpH低下を抑制した上で負極室内の液のpHを調整するようにしてもよい。負極室を分割すれば、各分室での有機物分解量が小さくなる結果、炭酸ガスの生成量も小さくなるため、各分室でのpH低下を少なくできる。負極室を流れる液には、前段側の分室から後段側の分室へ流れる際にカソード凝縮水を添加すればよい。このようにすれば、前段側の分室でpHが低下した液のpHを上げて後段側の分室へ流入させることができ、負極室内の液のpHを上記範囲に調整することが容易になる。
【0081】
本発明では、正極室凝縮水とは別の、NaOH水溶液などのアルカリを負極室に添加するアルカリ添加手段を設けてもよい。このアルカリは、負極室に添加されてもよく、循環配管に添加されてもよく、凝縮水タンクに添加されてもよく、負極室に導入される負極溶液に添加されてもよい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
説明の便宜上、まず比較例を挙げる。
【0083】
[比較例1]
以下の手順に従って、第2図に示す微生物発電装置を作製した。
CABOT製カーボンブラック「VulcanXC72」5gに0.3N過マンガン酸カリウム水溶液100mLを添加し、攪拌しながら5重量%H水溶液をゆっくり添加した。過マンガン酸イオンの紫褐色が消えた時点で溶液を10000rpmで15分遠心分離し、沈殿物を集め、80℃で乾燥させた。得られた二酸化マンガン担持カーボンブラックのカーボンブラックに対する二酸化マンガン担持量は45重量%であった。
乾燥物0.5gを10mLの5重量%ナフィオン(登録商標)溶液(デュポン社製)に分散させ、厚さ約30μmのカーボンペーパー(東洋カーボン社製、200cm)に塗布し、50℃で乾燥させ、正極とした。
これをアストム社製カチオン交換膜(厚さ150μm)に密着させ、125メッシュのステンレス金網、5mm厚ポリエチレン製ハニカムの順に積層して5mm厚さの正極室に設置した。
カチオン交換膜の反対面には10mm厚さのグラファイトフェルトを密着させ、負極とした。負極室には種菌として下水処理場の生物処理槽から採取した活性汚泥10mLを添加して培養し、負極を構成するグラファイトフェルト表面に微生物を付着させた。負極室内の微生物濃度は約1,150mg/Lであった。
【0084】
正極室には、空気を0.1L/minにて通気した。負極室には、3,000mg/Lの濃度の酢酸ナトリウムと、10mMの濃度のリン酸バッファと、塩化アンモニウム500mg/Lとを含む原液を10mL/minの流量で通液した。
このようにして運転を開始した結果、4日後には、外部抵抗2Ωのとき、290mVの電圧が得られた。従って、発生電流は145mAと算出され、電力は負極容積あたり、240W/mであった。また、回路開放電圧は0.61Vであった。
このときの電流・電圧曲線を作成して正極性能を調べ、結果を第3図に示した。
【0085】
[実施例1]
比較例1と同様にして作成した二酸化マンガン担持カーボンブラックの乾燥物0.5gと市販の白金触媒TEC10V50E(田中貴金属製、VULCAN(登録商標)XC72(Cabot社製のカーボンブラック、登録商標)を担体として、Ptを担持したもの、Pt含有量50重量%)0.1gを、比較例1で用いたものと同様のナフィオン溶液10mLに分散させ、厚さ約30μmのカーボンペーパー(東洋カーボン製)に塗布し、50℃で乾燥させ、正極とした。この正極の二酸化マンガン担持量は導電性基材であるカーボンペーパーに対して5mg/cm、白金担持量は導電性基材であるカーボンペーパーに対して0.4mg/cm、二酸化マンガンと白金との重量比は1:0.08である。また、ナフィオンの付着量は、二酸化マンガンと白金触媒の合計に対して約80重量%である。
正極として、このように作成した正極を用いた他は比較例1と同様にして作製した微生物発電装置にて、比較例1と同様の条件で発電した結果、外部抵抗2Ωで電圧320mV、発生電流160mAとなり、負極容積あたりの発生電力は293W/mであった。また、回路開放電圧は0.67Vとなり、過電圧が低下していることが示された。
【0086】
[比較例2]
実施例1において、二酸化マンガン担持カーボンブラック及び白金触媒を用いなかったこと以外は同様にして正極を作成し、同様に微生物発電装置を組み立て、同様にその発電効率を調べ、結果を表1に示した。
【0087】
[比較例3]
実施例1において、二酸化マンガン担持カーボンブラックを用いなかったこと以外は同様にして正極を作成し、同様に微生物発電装置を組み立て、同様にその発電効率を調べ、結果を表1に示した。
【0088】
[比較例4]
比較例3において、白金触媒の使用量を0.2g(白金量はその50%)としたこと以外は同様にして正極を作成し、同様に微生物発電装置を組み立て、同様にその発電効率を調べ、結果を表1に示した。
【0089】
【表1】

【0090】
表1より、次のことが明らかである。
正極にMnOを担持することにより発電効率が向上するが十分ではなく、また、Ptの担持で発電効率の向上効果が得られるものの、十分な効果を得るためには多量のPtが必要である。
これに対して、MnOとPtとの併用により、少ないPt担持量で高い発電効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施形態に係る微生物発電装置の断面模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る微生物発電装置の断面模式図である。
【図3】比較例1における電流・電圧曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0092】
1,30 槽体
2,31 イオン透過性非導電性膜
3,33 正極室
4,32 負極室
5,35 正極
6,34 負極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を備えた正極室と、
該正極室に酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給手段と
を備えた微生物発電装置において、
該正極が、二酸化マンガンを担持したカーボンブラックと、白金、ニッケル、コバルト及び銀よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属触媒とを、導電性基材に担持させてなることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項2】
請求項1において、前記導電性基材が、グラファイトペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス、ステンレスメッシュ、及びチタンメッシュよりなる群から選ばれることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記正極に含まれる二酸化マンガンと金属触媒との含有割合が二酸化マンガン:金属触媒=1:0.01〜1(重量比)であることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項4】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を備えた正極室とを有し、該正極室に酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電装置に用いられる正極において、
導電性基材と、該導電性基材に担持された、カーボンブラックと、白金、ニッケル、コバルト及び銀よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属触媒とを有し、
該カーボンブラックに二酸化マンガンが担持されていることを特徴とする微生物発電装置用正極。
【請求項5】
請求項4において、前記導電性基材が、グラファイトペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス、ステンレスメッシュ、及びチタンメッシュよりなる群から選ばれることを特徴とする微生物発電装置用正極。
【請求項6】
請求項4又は5において、正極中の前記二酸化マンガンと金属触媒との含有割合が二酸化マンガン:金属触媒=1:0.01〜1(重量比)であることを特徴とする微生物発電装置用正極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−295488(P2009−295488A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149430(P2008−149430)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】