説明

微粉シリカおよびその製造方法

【課題】表面シラノール基を多く含有し、球形の結晶である微粉シリカとその製造方法の提供。
【解決手段】ケイ酸アルカリと解離水とを混合してケイ酸アルカリ水溶液とする混合工程(P11)と、混合工程(P11)の後、ケイ酸アルカリ水溶液からケイ酸化合物を析出させる析出工程(P12)と、ケイ酸化合物を乾燥させて微粉シリカとする乾燥工程(P14)とを具備する微粉シリカの製造方法および前記製造方法により得られる微粉シリカ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粉シリカおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィラーとしての合成シリカおよびその塩類は、ホワイトカーボンと称され、これらのうち特に、沈降シリカ(含水ケイ酸)は、ゴム業界において白色補強充填剤として、カーボンブラックに次ぐ重要な資材である。このような沈降シリカは、その機能的粉体特性により、農薬、製紙、合成樹脂、塗料、接着剤等多岐にわたる分野において使用されている。
合成シリカおよびその塩類の製造方法は、乾式法と湿式法とに分けられる。当該湿式法としては、例えば、ゲル法、沈降法等が挙げられる。
上記の沈降法では、一般的に、水ガラスと酸とを、アルカリ性または酸性条件下で反応させて、シリカの一次粒子を生成させ、これを二次元的または三次元的に凝集させた後に、ろ過、乾燥、粉砕して、沈降シリカを得る。このようにして得られる沈降シリカの物性は、反応温度、pH、塩濃度等により変化する。
【0003】
一方、近年、社会生活の向上とともに、ソフトドリンク、ミネラルウォーター等の飲料水の消費量が拡大し、これに伴って飲料水の容器として使用されたビンが、多量に廃棄されている。ビンガラスの原料としては、一般的に、ソーダ石灰ガラス(Na2O・CaO・SiO2)が多く用いられている。ソーダ石灰ガラスには、70〜73質量%程度のSiO2が含有されている。従って、このような資源からなるビンガラスを再利用することは、環境リサイクルの面から望まれている。
また、容器・包装リサイクル法等が施行されたことから、現在では、廃棄ビンを廃棄ガラスとして再利用するリサイクルが広く行われている。このような廃棄ビンがリサイクルされる際は、廃機ビンは、形状、色、ガラス成分等に基づいて分別される。そして、透明ガラスと褐色ガラスのみがガラス容器として再利用されている。その一方で、褐色以外の着色ガラスには、現状では、ほとんど再利用の道がない。
【0004】
このような問題を解決する手段として、透明、着色のガラス容器を問わず、ガラス廃棄物から二酸化ケイ素を抽出する方法が、特許文献1に記載されている。
上記特許文献1のガラス廃棄物からの二酸化ケイ素の抽出方法は、ケイ酸アルカリが生じるように、粉砕したガラス状物質と水酸化物とを融解させる融解工程と、ケイ酸アルカリ水溶液が生じるように、ケイ酸アルカリを水に溶解させる溶解工程と、不溶物を分離する分離工程と、分離後のケイ酸アルカリ水溶液に酸を添加してケイ酸を析出させる析出工程と、二酸化ケイ素を生じさせるように、ケイ酸を乾燥させる乾燥工程とを具備する。
【0005】
【特許文献1】特開2003−12319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の二酸化ケイ素の抽出方法には、以下の問題点がある。
まず、上記融解工程において、溶融温度は400〜600℃と高温で非常に危険である。また、上記析出工程では、酸(例えば塩酸)を添加後、煮沸して、水分を減少させてケイ酸の析出の進行を促さなければならない。さらに、ガラスから二酸化ケイ素を製造するまでの工程数が多く、高コストである。
【0007】
さらに、上記特許文献1に記載の方法で得られた二酸化ケイ素は、含有する表面シラノール基が少なく、このため形状が球形でないと推測される。
シリカは、通常、例えば、ゴム組成物と混合される場合、ゴム組成物に含有されるシランカップリング剤と結合するために、表面シラノール基を多く有することが求められている。
また、シリカは、形状が球形であることによって、一般的に、流動性が良好となることが知られている。
したがって、本発明の第1の目的は、表面シラノール基を多く含有し、球形の結晶の微粉シリカとその製造方法を提供することにある。
そして、本発明の第2の目的は、ケイ酸アルカリを原料として、容易にケイ酸化合物を製造することができるケイ酸化合物の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の第3の目的は、固体ガラスを原料として、上記の微粉シリカの製造方法に用いるためのケイ酸化合物を製造する方法において、固体ガラスとアルカリとを溶融する溶融工程を必要とせず、工程数が少ない製造方法で製造することができるケイ酸化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するため、表面シラノール基を多く含有し、球形の結晶である微粉シリカ、その製造方法および原料となるケイ酸化合物の製造方法について鋭意研究した結果、ケイ酸アルカリと解離水とを混合してケイ酸アルカリ水溶液とし、その後、当該ケイ酸アルカリ水溶液からケイ酸化合物を析出させることが可能であること、およびこのケイ酸化合物を用いて微粉シリカを製造することが可能であること、さらに、得られた微粉シリカは、表面シラノール基を多く含有し、球形の結晶であることを見出した。
また、本発明者は、ケイ酸アルカリと酸とを反応させて得られるケイ酸化合物を解離水と混合することによって、ケイ酸化合物に対してさらに表面シラノール基を導入し、表面シラノール基が増加したケイ酸化合物を製造することができることを見出した。
さらに、本発明者は、粉砕ガラスをアルカリ水溶液と比較的低温で加熱して反応させることによって、ケイ酸化合物の原料であるケイ酸アルカリを、安全にかつ容易に、製造することが可能であることを見出した。
本発明者は、この知見に基づき、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(7)を提供する。
(1)ケイ酸アルカリと解離水とを混合してケイ酸アルカリ水溶液とする混合工程と、
前記ケイ酸アルカリ水溶液からケイ酸化合物を析出させる析出工程とを具備するケイ酸化合物の製造方法。
(2)前記析出工程において、酸を加える前記(1)に記載のケイ酸化合物の製造方法。
(3)ケイ酸アルカリと酸とを反応させてケイ酸化合物を析出させる析出工程と、
前記ケイ酸化合物を解離水と混合して、表面シラノール基が増加したケイ酸化合物を得る混合工程とを具備するケイ酸化合物の製造方法。
【0010】
(4)前記ケイ酸アルカリが、水ガラスである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のケイ酸化合物の製造方法。
(5)前記ケイ酸アルカリが、固体ガラスを粉砕して粉砕ガラスとする粉砕工程と、
前記粉砕ガラスをアルカリ水溶液と混合して粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物とする混合工程と、
前記粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物を加熱してケイ酸アルカリとする加熱工程とを具備する製造方法によって製造される上記(1)〜(3)のいずれかに記載のケイ酸化合物の製造方法。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のケイ酸化合物の製造方法により得られるケイ酸化合物を乾燥させて微粉シリカとする乾燥工程を具備する微粉シリカの製造方法。
(7)上記(6)に記載の微粉シリカの製造方法によって製造される微粉シリカ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の微粉シリカは、表面シラノール基を多く含有し、球形の結晶である。本発明の微粉シリカは、ゴムの補強充填剤のほか、多様な製品の素材として利用が可能である。
また、本発明の微粉シリカの製造方法によれば、表面シラノール基を多く含有し、球形の結晶の微粉シリカを提供することができる。
そして、本発明のケイ酸化合物の製造方法は、解離水を使用することにより、ケイ酸化合物により多くのシラノール基を導入することができる。従って、当該ケイ酸化合物を原料として製造される微粉シリカは、表面シラノール基を多く含有し、球形の結晶となることができる。
また、本発明のケイ酸化合物の製造方法は、解離水を使用することによって、ケイ酸アルカリ水溶液からケイ酸化合物を析出させる際、または、ケイ酸化合物を解離水と混合する際、室温で実施することができ、工程数が少なく、経済的である。
さらに、本発明のケイ酸化合物の製造方法は、ケイ酸化合物の原料となるケイ酸アルカリを、粉砕ガラスとアルカリ水溶液とを比較的低温で加熱・反応させて製造することができる。したがって、本発明のケイ酸化合物の製造方法は、その工程の中で、より安全で、より容易に固体ガラスからケイ酸アルカリを再生させて、これをケイ酸化合物の原料とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の微粉シリカの製造方法の実施形態の一例を示す工程図である。図1において、工程図の各工程には、符号としてP11〜P15が付与されている。
図2は、微粉シリカの原料となるケイ酸アルカリを固体ガラスから製造する製造方法の実施形態の一例を示す工程図である。図2において、工程図の各工程には、符号としてP21〜P28が付与されている。
【0013】
まず、本発明のケイ酸化合物の製造方法について図1を用いて説明する。
本発明のケイ酸化合物の製造方法は、ケイ酸アルカリと解離水とを混合してケイ酸アルカリ水溶液とする混合工程(P11)と、
前記ケイ酸アルカリ水溶液からケイ酸化合物を析出させる析出工程(P12)とを具備する。
【0014】
使用されるケイ酸アルカリとしては、例えば、水ガラス、固体ガラスから製造されるケイ酸アルカリ等が好適に挙げられる。
【0015】
以下に、固体ガラスからケイ酸アルカリを製造する工程について図2を用いて説明する。
図2は、本発明のケイ酸化合物の製造方法の実施形態の一例として、固体ガラスを原料としてケイ酸アルカリを製造する工程(P21〜P28)を示す。
【0016】
ケイ酸アルカリは、固体ガラスを粉砕して粉砕ガラスとする粉砕工程(P22)と、
前記粉砕ガラスをアルカリ水溶液と混合して粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物とする混合工程(P24)と、
前記粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物を加熱してケイ酸アルカリとする加熱工程(P25)とを具備する製造方法によって製造される。
【0017】
固体ガラスは、二酸化ケイ素を主成分とするものであれば特に限定されない。例えば、一般的に現在大量に使用されているビンガラスや板ガラス等を使用するのが好ましい態様の一つである。
固体ガラスは、未使用または廃棄ガラスを使用することができる。中でも、廃棄ガラスを使用することがリサイクルの面から好ましい。
廃棄ガラスを使用する場合は、紙のラベル等は剥がすなどしてガラスのみの状態で使用することが好ましい。
【0018】
固体ガラスを粉砕するとき、固体ガラスの色は、制限がなく、無色透明、着色のどちらも使用できる。着色ガラスの色としては、例えば、赤、青、緑、褐色等が挙げられる。
また、固体ガラスは、粉砕されるとき、1種類の色で分別されている状態でも、または2種類以上の色が混ざった状態でも使用可能である。2種類以上の色が混ざった状態で使用することがコスト的な面から好ましい態様の一つである。なぜなら、2種類以上の色の固体ガラスを粉砕して得られる粉砕ガラスは、その径がミクロンオーダーになると、色が乳白色となり、特に問題を生じないからである。
【0019】
粉砕工程(P22)の前に、固体ガラスを破砕する破砕工程(P21)とを具備するのが好ましい態様の一つである。また、粉砕工程(P22)の後に、粉砕ガラスを分級する分級工程(P23)を具備するのが好ましい態様の一つである。
【0020】
固体ガラスを破砕する方法は、公知の方法によることができる。具体的には、例えば、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー等で粗く破砕する方法が挙げられる。中でも、ロールクラッシャー等で破砕するのが好ましい態様の一つである。
【0021】
破砕された固体ガラスを粉砕する方法は、公知の方法によることができる。具体的には、例えば、チューブミル、ボールミル等によって粉砕することが挙げられる。中でも、ボールミル等で粉砕するのが好ましい態様の一つである。
【0022】
粉砕ガラスは、粉砕後、粒径をそろえるために、分級するのが好ましい態様の一つである。
分級された粉砕ガラスの直径は、好ましくは1〜500μmであり、より好ましくは1〜100μmである。
粉砕シリカの大きさを調整することによって、用途・目的等に応じた大きさの微粉シリカを製造することが可能である。
【0023】
次に、混合工程において、粉砕ガラスをアルカリ水溶液と混合して粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物とする(P24)。
アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
アルカリ水溶液に使用される水としては、水道水、蒸留水、後述する解離水等が挙げられる。中でも、解離水がより好ましい。
【0024】
アルカリ水溶液の濃度は、好ましくは5〜25モル/リットル、より好ましくは10〜25モル/リットルである。
アルカリ水溶液の使用量は、粉砕ガラス100質量部に対して、好ましくは80〜500質量部、より好ましくは150〜300質量部である。
粉砕ガラスは、例えば、一般的に使用される混合機で、アルカリ水溶液と混合され粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物とすることができる。
【0025】
次に、加熱工程において、粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物を加熱してケイ酸アルカリとする(P25)。
粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物の温度は、好ましくは100〜300℃であり、より好ましくは120〜200℃である。
このような粉砕ガラスにアルカリ水溶液を加え、これを400℃以上というような高温ではなく、上記のような比較的低い温度で加熱することにより、ケイ酸アルカリとすることが可能であり、安全である。
【0026】
加熱は、かくはんしながら行うことができる。
加熱工程では、反応液の粘度上昇を防ぐために、水を追加することができる。使用される水の具体例は、水道水、蒸留水、解離水等が挙げられる。中でも、解離水が好ましい。
追加される水の量は、反応液をかくはんすることが可能な程度に加えればよい。
【0027】
反応終了後、更に水(好ましくは、解離水)を加え、約50〜110℃、より好ましくは約70〜90℃の液温でろ過して(P25からP28に直接進むルート)、ケイ酸アルカリを得るのが好ましい態様の一つである。ろ過後に得られるろ液とろ物とが、どちらもケイ酸アルカリを含む場合、ろ液とろ物とのいずれかまたは両方を、本発明のケイ酸化合物の製造方法で使用される原料とすることができる。ろ液がケイ酸アルカリを含む場合は、液体のまま使用することができる。
ろ過方法(P28)は、例えば、セントル等のフィルターを使用して、ろ過することができる。
【0028】
一方、上記のような加熱工程(P25)からろ過工程(P28)へ直接進む工程のほかに、加熱工程(P25)から、スラリー化工程(P26)、混合工程(P27)、そしてろ過工程(P28)に進む工程が、好ましい態様の一つとして挙げられる。
このような場合、前記加熱工程(P25)は、粉砕ガラス−アルカリ水溶液を加熱しながら脱水して、行うことが好ましい。
脱水するときの圧力は、好ましくは常圧以下であり、より好ましくは0.05〜0.15MPaである。
【0029】
脱水は、留去される水分が、粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物中に含有される水分全量に対して、3〜10質量%となるまで行うことが好ましい態様の一つである。
脱水は、例えば、ロータリーキルン等の乾燥キルンで行うことができる。
加熱は、例えば、かくはんしながら、粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物中の水分を留去して行うことができる。
【0030】
このように製造されたケイ酸アルカリは、加熱工程(P25)の後、更に、水を加えてスラリーとするスラリー化工程(P26)と、スラリーを混合する混合工程(P27)と、スラリーをろ過するろ過工程(P28)とを具備する精製方法によって精製することができる。
【0031】
まず、スラリー化工程において、脱水されたケイ酸アルカリに、更に、水を加えてスラリーとする(P26)。
使用される水は、蒸留水、水道水、解離水等が挙げられる。中でも、解離水が好ましい。
水の使用量は、脱水後のケイ酸アルカリ100質量部に対して、好ましくは100〜800質量部、より好ましくは100〜600質量部である。
水を加えてスラリーとする工程は、例えば、ロータリーキルン等の乾燥キルンを用いて行うことができる。
【0032】
次いで、混合工程において、スラリーは混合される(P27)。
この混合工程(P27)は、例えば、混合機を用いて行うことができる。
混合されたスラリーは、加熱されることが好ましい。
加熱温度は、好ましくは約50〜110℃、より好ましくは約70〜90℃である。
【0033】
次に、ろ過工程において、混合されたスラリーは、ろ過される(P28)。
ろ過方法は、例えば、セントル等のフィルターを使用して、ろ過することができる。
ろ過工程で得られるろ液とろ物とが、どちらもケイ酸アルカリを含む場合、ろ液とろ物とのいずれかまたは両方を、本発明のケイ酸化合物の製造方法で使用される原料とすることができる。ろ液がケイ酸アルカリを含む場合は、液体のまま使用することができる。
【0034】
以上の工程によって、固体ガラスからケイ酸アルカリを製造する。
上記の方法によって製造されるケイ酸アルカリがろ過工程(P28)でろ物として得られる場合は、ケイ酸アルカリは、その内部において、固体ガラス由来の立体的なシロキサン結合が略保持されることが多い。
【0035】
次に、水ガラスについて説明する。
水ガラスは、ケイ酸アルカリの濃厚水溶液であり、例えば、Na2O・nSiO2(n=2〜4)で表される。アルカリとしては、例えば、Na2OまたはK2Oが用いられる。
具体的な水ガラスとしては、例えば、固形分30〜60質量%のケイ酸ナトリウム水溶液が好ましく挙げられる。
【0036】
以下に、解離水について説明する。
解離水は、解離度が14未満の水であり、公知のものを使用することができる。
ケイ酸アルカリと解離水とを混合してケイ酸アルカリ水溶液とする混合工程(図1のP11)において、解離水を用いることによって、ケイ酸化合物の一次粒子を形成させ、さらに凝集させて、ケイ酸アルカリ水溶液からケイ酸化合物を析出させることができる。
また、混合工程(P11)において解離水を用いることにより、最終的に、特異的に表面シラノール基を多く含有し、球形の結晶の微粉シリカを製造することができる。
【0037】
水の解離度は、通常、25℃・常圧下で、14p(IP)と一定である。
解離水は、その解離度が13.8〜12.0p(IP)であることが好ましく、13.7〜12.5p(IP)であることがより好ましく、13.5〜12.7p(IP)であることがさらに好ましい。
【0038】
解離水の解離度は、解離水における水のイオン積(IP)として表される。解離水における水のイオン積(IP)を表す式(1)、および解離水の解離度p(IP)を表す式(2)を、以下にそれぞれ示す。
【0039】
IP=[H3][OH] (1)
【0040】
p(IP)=−log(IP)=−log[H3][OH] (2)
【0041】
解離水は、pH8〜12であることが好ましい。
解離水の温度は、好ましくは10〜80℃、より好ましくは20〜60℃である。
解離水の解離度は、一般的に、温度によって変化する。ケイ酸アルカリ水溶液からケイ酸化合物を室温で析出させる場合、解離水は、室温付近で、上記の解離度を安定的に保持できるものが好ましい。
【0042】
水から解離水を製造する方法は、一般的な方法によって製造することが可能である。例えば、電気透析、電気分解、高温高圧、放射線、高磁場等の物理的手法によって製造することが好ましく、電気分解によって製造することがより好ましい。
【0043】
電気分解によって製造された解離水は、長時間解離度を安定に保つことが可能である。例えば、電気分解による解離水は、25℃、常圧において、解離度13.5p(IP)を、約48時間以上、一定に保つことができる。
電気分解によって解離水を製造する場合は、例えば、蒸留脱イオン水等の溶媒と、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の溶質との電解質を電気分解し、陰極室で生成した陰極水を用いることが好ましい。
電気分解に使用される装置は、公知の装置を用いることができる。
【0044】
解離水の使用量は、ケイ酸アルカリ100質量部に対して、好ましくは100〜900質量部、より好ましくは300〜700質量部である。
ケイ酸アルカリ水溶液のpHは、好ましくは7〜13、より好ましくは8〜12である。
混合工程(P11)は、例えば、公知の混合機を使用して行うことができる。
【0045】
次いで、析出工程において、前記ケイ酸アルカリ水溶液からケイ酸化合物を析出させる(P12)。
【0046】
ケイ酸アルカリ水溶液からケイ酸化合物を析出させる析出方法は、特に限定されず、例えば、ケイ酸アルカリ水溶液を、放置して、静置して、かくはんしながら、または流動させながら析出させる方法等が挙げられる。中でも、静置して析出させる方法等が好ましい。
ケイ酸アルカリ水溶液を静置してケイ酸化合物を析出させる場合、静置時間は、好ましくは約2〜40時間、より好ましくは約4〜24時間である。
静置するときの条件としては、室温、常圧であるのが好ましい態様の一つである。
ケイ酸アルカリ水溶液をかくはんさせ、または流動させながらケイ酸化合物を析出させる場合は、かくはんまたは流動は、遅い速度で行うことが好ましい。
【0047】
また、析出工程(P12)においては、酸を加えることが好ましい態様の一つである。酸を添加することによって、ケイ酸化合物の析出を早めることができるからである。
使用される酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等が好ましく、硫酸がより好ましい。
酸の使用量としては、ケイ酸アルカリ水溶液が、中性になるように加えることが好ましい。
酸を添加する方法は、例えば、かくはんしながら滴下する方法等が挙げられる。
酸を添加するときの温度は、10〜60℃が好ましい。
酸を希釈する水は、例えば、水道水、蒸留水、解離水等が挙げられる。
析出工程(P12)は、例えば、公知の混合機を使用して行うことができる。析出工程(P12)は、混合工程(P11)で使用された混合機で行うことも可能である。
【0048】
次に、ケイ酸アルカリと酸とを反応させてケイ酸化合物を析出させる析出工程と、前記ケイ酸化合物を解離水と混合して、表面シラノール基が増加したケイ酸化合物とする混合工程とを具備するケイ酸化合物の製造方法について説明する。
このようにケイ酸化合物を解離水と混合することによって、ケイ酸化合物に対してさらに表面シラノール基を導入し、表面シラノール基がより増加したケイ酸化合物とすることができる。
【0049】
ケイ酸アルカリと酸とを反応させてケイ酸化合物を析出させる析出工程は、一般的に知られている方法に従って行えばよい。
析出工程で使用されるケイ酸アルカリは、例えば、水ガラス、上記のような固体ガラスとアルカリとを反応させて得られるケイ酸アルカリ等が挙げられる。中でも、水ガラスが好ましい態様の一つである。
また、使用される酸は、上記と同様であり、硫酸等が好ましい。酸は、反応液が中性になる程度の量で使用されることが好ましい。
酸をケイ酸アルカリに添加する方法は、例えば、かくはんしながら滴下する方法等が挙げられる。このときの反応液の温度は、10〜60℃が好ましい。
【0050】
ケイ酸アルカリとして水ガラスを使用する場合、得られるケイ酸化合物が適度に造粒し、好適な粒径となるためには、通常用いられる方法によればよく、例えば、酸を2段階に分けて加える方法を挙げることが好適な態様の一つである。
具体的には、例えば、まず、1段階目に0.05〜0.2モル/リットルの希硫酸水溶液を加えた後、2段階目に98質量%硫酸を徐々に加えることが好ましい。
【0051】
1段階目の希硫酸水溶液の使用量は、水ガラス100質量部に対して、好ましくは100〜900質量部、より好ましくは300〜700質量部である。
1段階目の硫酸の使用量は、水ガラス100質量部に対して、好ましくは2〜16質量部、より好ましくは4〜13質量部である。
酸を希釈するときの使用される水は、例えば、水道水、蒸留水、解離水等が挙げられる。
【0052】
酸をケイ酸アルカリに添加した後は、反応液を、放置して、静置して、かくはんしながら、または流動させながらケイ酸化合物を析出させること等が好ましい態様の一つである。中でも、静置して析出させる方法等が好ましい。
反応液を静置してケイ酸化合物を析出させる場合、静置時間は、好ましくは約2〜40時間、より好ましくは約4〜24時間である。
静置するときの条件は、常圧で、0〜20℃が好ましい。
反応液を流動させながらケイ酸化合物を析出させる場合は、流動は、遅い速度で行うことが好ましい態様の一つである。
【0053】
上記のように製造されたケイ酸化合物は、混合工程において、解離水と混合されて、表面シラノール基が増加したケイ酸化合物となる。
混合工程で使用される解離水は、上記と同様である。
解離水の使用量は、ケイ酸化合物100質量部に対して、好ましくは100〜900質量部、より好ましくは300〜700質量部である。
混合方法は、特に限定されない。
【0054】
使用されるケイ酸化合物のほかに、一般的に知られているシリカを解離水と混合して、表面シラノール基をより多く含有するケイ酸化合物とすることができる。シリカとしては、例えば、シリカゾル;シリカゲル;フュームドシリカ等の微粉末シリカ;多孔質シリカ等が挙げられる。
【0055】
このように製造されるケイ酸化合物は、次いで、ろ過工程において、ケイ酸アルカリ水溶液、または、表面シラノール基が増加したケイ酸化合物を含む混合液からろ過されることが好ましい(P13)。
ろ過方法は、例えば、セントル等のフィルターを使用して、ろ過するのが好ましい態様の一つである。
【0056】
次いで、ろ過されたケイ酸化合物は、乾燥工程において、乾燥されて微粉シリカとなる(P14)。
乾燥方法は、例えば、乾燥機で乾燥、または、風乾させることができる。
乾燥温度は、好ましくは室温から400℃であり、より好ましくは60〜120℃である。
【0057】
乾燥工程(P14)において、ケイ酸化合物は、ケイ酸化合物の表面に結合した水が乾燥されて、パウダー状となり、微粉シリカとなる。
このようにして得られる微粉シリカは、表面シラノール基を多く含有する。微粉シリカが、表面シラノール基を多く含有する場合、その形状は球形であり、流動性が良好である。
【0058】
次に、乾燥された微粉シリカは、凝集をほぐして均一の粒径とするため、粉砕機等で粉砕する粉砕工程(P15)を経ることが好ましい態様の一つである。
粉砕機としては、例えば、ボールミル等を使用することができる。
【0059】
本発明の微粉シリカの製造方法によって得られる微粉シリカは、その形状が球状である場合、その粒径は好ましくは5〜50μm、より好ましくは10〜20μmである。
【0060】
本発明の微粉シリカの製造方法によって得られる微粉シリカは、補強充填剤、農薬の担体、新聞紙の填料、合成樹脂の配合剤、塗料・接着剤・印刷インキ等の増粘剤、練り歯磨きの配合剤等として好適に用いられる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例、比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0062】
(実施例1)
廃棄ビンをチューブミルで微粉砕し、20μm程度の微粉末ガラスを得た。微粉末ガラス100gに水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製、以下同様)の35質量%水溶液286gを加え、水を留去しながら、約150℃まで加熱し、濃縮した。この濃縮物に水道水500gを加え、約70〜80℃でかくはんした後、スラリー状の反応物をろ過した。得られたろ物を解離水(解離度13、pH10.5、水温約20℃)500gに入れて、かくはんし、静置した。24時間後、生成したゲル状化合物をろ過し、室温で乾燥して、微粉シリカ(微粉シリカ1)約65gを得た。
得られた微粉シリカ1について、赤外線吸収分光法により測定された赤外線吸収スペクトルは、3500cm−1付近にヒドロキシ基の強い吸収を示した(図3参照)。
微粉シリカ1を電子顕微鏡で観察すると、その形は球状で、表面に多くの凹凸が認められた。微粉シリカ1の粒径は、約15μmであった(図4参照)。
【0063】
(実施例2)
固形分52質量%のケイ酸ナトリウム溶液の水ガラス(和光純薬工業社製、以下同様)20gを、水道水で希釈された0.1モル/リットルの希硫酸水溶液100gにかくはんしながら溶解し、次いで、かくはんしながら98質量%硫酸2.0ミリリットルを徐々に加えて、かくはんを継続したところ、反応液がゲル状となった。これを約5℃で2時間静置した後、解離水(解離度13、pH10.5、水温約20℃)150gを加えて、かくはんし、ろ過し、解離水150gで洗浄し、室温で乾燥して、微粉シリカ(微粉シリカ2)約16gを得た。
微粉シリカ2について、赤外線吸収分光法により測定された赤外線吸収スペクトルは、3500cm−1付近にヒドロキシ基の吸収を示した(図5参照)。
微粉シリカ2を電子顕微鏡で観察すると、その結晶は球状で、表面に多くの凹凸が認められた。微粉シリカ2の粒径は、約10μmであった(図6参照)。
【0064】
(比較例1)
実施例1の解離水を水道水に代えて実施したところ、反応液はゲル状にはならず、ケイ酸化合物を得ることはできなかった。
【0065】
(比較例2)
実施例2の解離水をすべて水道水に代えて実施したところ、微粉シリカ3が得られた。
微粉シリカ3について、赤外線吸収分光法により測定された赤外線吸収スペクトルを、図7に示す。
微粉シリカ3を電子顕微鏡で観察すると、その形は球状ではなく、表面に多くの凹凸が認められ、大きさが不ぞろいであった(図8参照)。
【0066】
(実施例3)
固形分52質量%のケイ酸ナトリウム溶液の水ガラス20gを解離水100gに溶解した。これに42質量%硫酸12gを30〜40℃で4時間かけて滴下し、反応液が中性になるまで中和した。一夜放置後、ろ過、水洗、乾燥して、微粉シリカ(微粉シリカ4)を16g得た。
微粉シリカ4について、赤外線吸収分光法により測定された赤外線吸収スペクトルは、3500cm−1付近にヒドロキシ基の吸収を示した。
また、微粉シリカ4を電子顕微鏡で観察したところ、その結晶は球状であり、表面に多数の凹凸が認められた。微粉シリカ4の粒径は、約10μmであった。
【0067】
(比較例3)
実施例3の解離水を水道水に代えて実施し、微粉シリカ(微粉シリカ5)を16g得た。
微粉シリカ5を電子顕微鏡で観察したところ、微粉シリカ3と同様にその形状が球形ではなく、大きさが不ぞろいであった。
【0068】
(実施例4)
実施例1と同一の方法で得た微粉末ガラス100gに、水酸化ナトリウム100gおよび解離水100gを加え、120〜140℃で1時間加熱した。この間、反応液の粘度上昇を防ぐために解離水100gを追加した。その後、解離水300gを追加し、70℃でろ過して、ろ物とろ液とに分けた。ろ物は、解離水100gで洗浄し、洗浄後の洗浄液とろ液とを併せた液に、30.5質量%硫酸290gを徐々に滴下し、反応液が中性になるまで中和し、析出した結晶をろ過、水洗、乾燥して微粉シリカ(微粉シリカ6)を75g得た。
微粉シリカ6について、赤外線吸収分光法により測定された赤外線吸収スペクトルは、3500cm−1付近にヒドロキシ基の吸収を示した。
また、微粉シリカ6を電子顕微鏡で観察すると、その結晶は球状であり、表面には多数の凹凸が認められた。微粉シリカ6の粒径は、約10μmであった。
【0069】
(比較例4)
実施例4の解離水を水道水に代えて実施し、微粉シリカ(微粉シリカ7)を70g得た。
微粉シリカ7は、微粉シリカ3と同様に、その形状が球形ではなく、大きさが不ぞろいであった。
【0070】
微粉シリカ1と微粉シリカ2との赤外線吸収スペクトル(図3、図5)において、3500cm−1付近に観測されるヒドロキシ基の吸収と比較すると、微粉シリカ1の吸収は、微粉シリカ2の吸収より大きいので、微粉シリカ1の方が、含有している表面シラノール基が多いと考えられる。
微粉シリカ3の赤外線吸収スペクトル(図7)において、約1400〜1600cm−1および1800〜2000cm−1に、連続した細かいピークが確認され、このことから、微粉シリカ3はポリマーになっていると考えられる。
微粉シリカ1、2、4および6は、すべて表面に凹凸が認められ、多孔質であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、本発明の微粉シリカの製造方法に係る実施形態の一例を示す工程図である。
【図2】図2は、本発明のケイ酸化合物の製造方法の実施形態の一例として、固体ガラスを原料としてケイ酸アルカリを製造する工程を示す工程図である。
【図3】図3は、実施例1で得られた微粉シリカ1について、赤外線吸収分光法により測定された赤外線吸収スペクトルを示すチャートである。
【図4】図4は、実施例1で得られた微粉シリカ1を、電子顕微鏡を用いて倍率2000倍に拡大して観察した画像である。
【図5】図5は、実施例2で得られた微粉シリカ2について、赤外線吸収分光法により測定された赤外線吸収スペクトルを示すチャートである。
【図6】図6は、実施例2で得られた微粉シリカ2を、電子顕微鏡を用いて倍率1000倍に拡大して観察した画像である。
【図7】図7は、比較例2で得られた微粉シリカ3について、赤外線吸収分光法により測定された赤外線吸収スペクトルを示すチャートである。
【図8】図8は、比較例2で得られた微粉シリカ3を、電子顕微鏡を用いて倍率1000倍に拡大して観察した画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸アルカリと解離水とを混合してケイ酸アルカリ水溶液とする混合工程と、
前記ケイ酸アルカリ水溶液からケイ酸化合物を析出させる析出工程とを具備するケイ酸化合物の製造方法。
【請求項2】
前記析出工程において、酸を加える請求項1に記載のケイ酸化合物の製造方法。
【請求項3】
ケイ酸アルカリと酸とを反応させてケイ酸化合物を析出させる析出工程と、
前記ケイ酸化合物を解離水と混合して、表面シラノール基が増加したケイ酸化合物を得る混合工程とを具備するケイ酸化合物の製造方法。
【請求項4】
前記ケイ酸アルカリが、水ガラスである請求項1〜3のいずれかに記載のケイ酸化合物の製造方法。
【請求項5】
前記ケイ酸アルカリが、固体ガラスを粉砕して粉砕ガラスとする粉砕工程と、
前記粉砕ガラスをアルカリ水溶液と混合して粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物とする混合工程と、
前記粉砕ガラス−アルカリ水溶液混合物を加熱してケイ酸アルカリとする加熱工程とを具備する製造方法によって製造される請求項1〜3のいずれかに記載のケイ酸化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のケイ酸化合物の製造方法により得られるケイ酸化合物を乾燥させて微粉シリカとする乾燥工程を具備する微粉シリカの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の微粉シリカの製造方法によって製造される微粉シリカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−52098(P2006−52098A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233326(P2004−233326)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(504305485)古賀商事株式会社 (1)
【出願人】(504305496)
【Fターム(参考)】