説明

微粒子作製装置

【課題】直径100nm以下のサイズのナノ粒子を安定して確実に作製できる微粒子作製装置を提供すること。
【解決手段】流体を供給する供給手段1と、該流体中に物質を混合させる混合手段2と、物質が混合した流体をノズル11から噴射して断熱膨張させる噴射手段3とを備える微粒子作製装置であって、ノズル11におけるノズル内面を絶縁体で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を供給する供給手段と、該流体中に物質を混合させる混合手段と、物質が混合した流体をノズルから噴射して断熱膨張させる噴射手段とを備える微粒子作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物や天然物などの物質の中には、難水溶性のものが多数存在する。特に、薬物の約4割が難水溶性であると言われており、これらの薬物を微粒子化させて比表面積を増加させることによって、溶解速度を向上させることが求められている。
物質の微粒子を作製するための従来の製造装置としては、例えば、超臨界法(RESS)、ミセル化法、微細化(粉砕)法等を採用した種々の装置が知られている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/046670号
【非特許文献1】錦野哲著、「Drug Delivery System」、24−5、2009、p.492−498
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、いずれの方法に係る装置も直径100nm以下のサイズの微粒子(以下、このサイズの微粒子をナノ粒子と定義する)を安定して確実に製造できるようになるには至っていない。これは、ナノ粒子を一旦は製造できたとしても、製造したナノ粒子がその分散状態を維持できずに再凝集してしまうことが原因となっている。尚、この再凝集を防ぐために、例えばナノ粒子の表面を界面活性剤等の添加剤で被覆したりすることも考えられるが、その添加剤が人体に対してなんらかの不利な影響を及ぼすものである場合、医薬品や食品の製造に、このナノ粒子を使用することが出来ない。
【0005】
本発明の目的は、直径100nm以下のサイズのナノ粒子を安定して確実に作製できる微粒子作製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の微粒子作製装置に係る第1特徴構成は、流体を供給する供給手段と、該流体中に物質を混合させる混合手段と、物質が混合した流体をノズルから噴射して断熱膨張させる噴射手段とを備える微粒子作製装置であって、該ノズルにおけるノズル内面を絶縁体で構成する点にある。
【0007】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、物質が噴射手段におけるノズル内部の流路を通過するときに、ノズル内面との摩擦により静電気を帯びるため、ナノ粒子もまたこの静電気を帯びることとなる。これらのナノ粒子は互いに同じ符号の静電気を帯びるため、静電気力(斥力)によってナノ粒子同士が互いに反発し合い、再凝集化が防止される。従って、界面活性剤などの添加剤を特に使用しなくとも再凝集化を防止することができ、結果として平均粒子径が100nm以下のナノ粒子を安定して作製することができる。
【0008】
第2特徴構成は、前記ノズルの長さが20mm〜600mmである点にある。
【0009】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、ノズルの長さを20mm〜600mmとすることによって、物質とノズル内面との間に摩擦が生じ易くなり、より確実に物質に静電気を帯びさせることができる。
【0010】
第3特徴構成は、前記流体が液化二酸化炭素である点にある。
【0011】
〔作用及び効果〕
液化二酸化炭素は、超臨界状態を含む気体状態の二酸化炭素より密度が高く、より多くの物質を分散し、混和し、あるいは溶解させることができるため、効率的にナノ粒子を作製することができる。さらに、液化二酸化炭素は無害であり、たとえ人体に吸収されたとしても何ら悪影響を及ぼすことがないため、医薬品や食品などを製造する際に有効である。また、液化二酸化炭素は室温付近以下と、温度を低く保てるため、高温を嫌う医薬品や食品の製造にナノ粒子を用いる場合にも使用することができる。
【0012】
第4特徴構成は、前記ノズルを温める加温手段を備える点にある。
【0013】
〔作用及び効果〕
ノズルから流体を噴射して断熱膨張させると、ノズルの温度が低下して結露が発生し、この結露が凍結して、ノズルにおける流路が閉塞する場合がある。しかし、本構成によれば、加温手段によってノズルを温めることによって、ノズルの温度低下を防止して結露の発生を抑えることができ、その結果、結露に起因する、ノズルにおける流路の閉塞を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の微粒子作製装置を概念的に示した図である。
【図2】本発明の微粒子作製装置のその他の実施形態を概念的に示した図である。
【図3】本発明の微粒子作製装置を用いて作製したセサミンのナノ粒子の電子顕微鏡写真(SEM)を示した図である。
【図4】ナノ粒子化する前のセサミン原料の電子顕微鏡写真(SEM)を示した図である。
【図5】本発明の微粒子作製装置を用いて作製したナプロキセンのナノ粒子の電子顕微鏡写真(SEM)を示した図である。
【図6】セサミンのナノ粒子及び原料の粉末X線解析(PXRD)の解析パターンを示した図である。
【図7】セサミンのナノ粒子及び原料の溶出パターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の微粒子作製装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔実施形態〕
図1に示すように、本発明に係る微粒子作製装置は、流体を供給する供給手段と、該流体中に物質を混合させる混合手段と、該物質が混合した流体をノズルから噴射して断熱膨張させる噴射手段と、作製した微粒子を回収する回収手段とを備えて構成されている。
【0016】
[供給手段]
供給手段1は、流体を貯蔵する流体貯蔵容器5、流体を混合手段2に移送する供給ポンプ6、及び流体の流量を調節するための一次バルブ7を備えて構成されている。流体貯蔵容器5と後述する混合手段2とが配管8を介して接続されており、配管8の途中に供給ポンプ6と一次バルブ7とが設けられている。一次バルブ7を開くと、流体貯蔵容器5内の流体が、供給ポンプ6によって配管8内を移送されて、混合手段2の耐圧容器(図示せず)に供給される。
【0017】
本発明に適用可能な流体としては、物質を分散させ、混和させ、あるいは溶解させることができる流体であれば特に制限されるものではないが、より密度が高くて物質を分散、混合、あるいは溶解させ易く、尚且つ人体に対する影響がほとんどない流体が望ましい。そのような流体としては、例えば、超臨界二酸化炭素などの超臨界流体や、液化二酸化炭素などが挙げられるが、特に液化二酸化炭素が好ましい。
【0018】
[混合手段]
混合手段2は、所定圧力下で物質を流体中に分散させ、混和させ、あるいは溶解させるための耐圧容器(図示せず)と、物質の分散、混和、あるいは溶解後の流体を濾過するためのフィルタ(図示せず)とを備えて構成されている。物質は耐圧容器において流体に分散、混和、あるいは溶解されるが、その一部が分散、混和あるいは溶解しきれていなかったとしてもフィルタによって除去されるため、後述する下流側の配管12やノズル11の流路が分散、混和、あるいは溶解しきれなかった物質によって閉塞する虞がない。
【0019】
[噴射手段]
噴射手段3は、流量調節用の二次バルブ10と、濾過後の流体を噴射するノズル11とを備えて構成されている。混合手段2とノズル11とが配管12を介して接続されており、配管12の途中に二次バルブ10が設けられている。二次バルブ10を開くと、混合手段2の図示しないフィルタで濾過された流体が配管12内を移送されて、ノズル11に供給される。
【0020】
ノズル11の内部には、流体が流れる図示しない流路が形成されている。ノズル11自体の材質は、絶縁体や導電体など特に限定されず、少なくともノズル11の内面(流路)が絶縁体で構成されていれば良い。このノズル11の内面に適用可能な絶縁体としては、例えば、ガラスや合成樹脂など挙げることができる。尚、合成樹脂としては特に、高い機械的強度を有し、且つ加工性にも優れるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が好ましい。
【0021】
また、例えばノズル11の内面の内径は、20μm〜100μmであり、好ましくは25μm〜65μmであり、さらに好ましくは40μm〜60μmである。また、ノズルの長さは、20mm〜600mmであり、好ましくは30mm〜400mmであり、さらに好ましくは50mm〜200mmである。
【0022】
[回収手段]
回収手段4は、ノズル11の前方周囲を覆う回収室13を備えて構成され、回収室13内には、作製されたナノ粒子を入れるためのガラス瓶14や、図2に示すようにナノ粒子を付着させるためのマイカ製又はX線回折用の基板15等を配置することができる。また回収室13を密閉可能に構成し、必要に応じて窒素等の不活性ガスを封入するようにしても良い。
【0023】
[加温手段]
ノズル11から流体を噴射して断熱膨張させると、ノズル11の温度が低下して結露が発生し、この結露が凍結して、流路が閉塞される場合がある。これを防ぐために、ノズル11の先端を加温するヒータ等の加温手段(図示せず)を設けるようにしても良い。加温手段を有すると、大気中に水分の多い場所においても、微粒子作製装置を使用することができる。また、長時間噴射を続けると、ノズル11の温度が過度に下がり、ドライアイスがノズル11の周囲に付着しやすくなる。これを放置していると閉塞の原因になってしまうため、加温手段によってノズル11を温めることによって、ノズル11の温度低下を防止して、ドライアイスの付着を防ぎ、ノズル11における流路の閉塞を防止することができる。
なお、加温手段はノズル11だけでなく、噴射手段3全体や混合手段2を加温しても構わない。
【0024】
[ナノ粒子の作製方法]
上記のように構成された装置を使用して、ナノ粒子を作製するにあたっては、次のようにして行う。
【0025】
先ず、一定量の物質を混合手段2の図示しない耐圧容器に投入し、一次バルブ7を開けて、所定の圧力(例えば、10MPa)になるまで流体を供給して物質を分散、混和、あるいは溶解させる。
【0026】
そして、二次バルブ10を開けて、物質を分散、混和、あるいは溶解させた流体をノズル11から回収室13内に噴霧する。この際、ノズル11から噴霧された流体は、その体積が急激に膨張するためにジュール・トムソン効果によって急激な温度降下が生じ、物質の流体に対する溶解度が急激に低下して物質が析出する。この析出過程が非常に短時間で生じるため、粒度分布幅の狭いナノ粒子が作製される。
【0027】
作製したナノ粒子は、回収室13内に予め設置したガラス瓶14等において回収される。
本発明においては、物質がノズル11の流路を通過するときに、ノズル内面との摩擦により静電気を帯びるため、ナノ粒子もまたこの静電気を帯びることとなる。これらのナノ粒子は互いに同じ符号の静電気を帯びているため、静電気力(斥力)によってナノ粒子同士が互いに反発し合い、再凝集化が防止される。そのため、本発明によれば、界面活性剤などの添加剤を特に使用しなくとも再凝集化を防止することができ、結果として平均粒子径が100nm以下のナノ粒子を安定して作製することができる。
【実施例】
【0028】
セサミン(sesamin)、及びナプロキセン(naproxen)の2種類の化合物のそれぞれについて以下のようにしてナノ粒子を作製した。
【0029】
セサミンを6.4mg秤量し、内容積1mLのサンプルフォルダ(孔径10μmのフィルタでシールされている耐圧容器)に入れ、流体として液化二酸化炭素を室温下で10MPaになるまで注入してセサミンを溶解させた。
【0030】
そして、二次バルブを開けて、内径50μmで流路長さ100mmのPEEKシールドガラス製ノズル(流路を備える内側部分がPEEKで構成され、その内側部分の外周がガラスで覆われているノズル)から、セサミンを溶解した液化二酸化炭素溶液を回収室内に噴霧して断熱膨張させ、これにより微粒子を作製した。また、ナプロキセンを6.0mg秤量して、上記と同様の操作で微粒子を作製した。
【0031】
作製したセサミン及びナプロキセンのそれぞれの微粒子を、マイカ製の基板上に付着させてスパッタリング法により白金(Pt)でコーティングした。尚、このスパッタリング法によるコーティングは必要に応じて行うようにして良い。
【0032】
白金でコーティングしたセサミン及びナプロキセンのそれぞれの微粒子について、電子顕微鏡(SEM)によって粒子径を調べた。また、セサミンの微粒子については、粉末X線回折(PXRD)によって1次粒子径と結晶状態を調べた。
【0033】
図3(a),(b)に示すように、セサミンについては平均粒径50nm以下のサイズのナノ粒子が作製された。また、図5(a),(b)に示すように、ナプロキセンについても、直径50nm程度のサイズを持つナノ粒子が作製された。また、いずれのナノ粒子も凝集しておらず、分散状態の良いナノ粒子が作製されることが分かった。
【0034】
次に、作製したセサミンのナノ粒子の結晶状態を調べるため、粉末X線解析(PXRD)を行った。尚、比較例として、セサミン原料についても粉末X線解析(PXRD)を行った。
【0035】
図6に示すように、セサミン原料(0.4mg)の粉末X線解析では、はっきりとシャープなピークが15度付近に観測されたのに対し、セサミンのナノ粒子(0.4mg)の粉末X線解析には、はっきりとしたピークが見られなかった。これは、セサミンのナノ粒子の多くが、セサミン原料とは異なり、非晶質(アモルファス)の形態をとっていることを示唆するものであった。
【0036】
尚、得られたPXRDのピークからScherrerの式を用いてセサミン原料の一次粒子径を計算したところ、190nm〜370nmと算出された。
【0037】
次いで、セサミンのナノ粒子及び原料について溶出試験を行った。
セサミンのナノ粒子及び原料をそれぞれ0.5mgずつガラス瓶に入れた後、同時に5mLずつ水を加えて測定波長285nmにおける吸光度を測定した。
【0038】
図7に示すように、セサミンのナノ粒子は、水を注入してすぐに略全てが溶解するのに対し、セサミンの原料では全てが溶解するのに少なくとも数十時間を要した。即ち、ナノ粒子化したセサミンは、原料に比べて、飛躍的に速い速度で水に溶解することが確認された。
【0039】
従って、本発明によれば、粒子の結晶化状態に関わらず、ナノ粒子化による薬剤単位重量当たりの比表面積の増加により、元来難水溶性であるはずの薬剤の水への溶解速度が著しく向上することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る微粒子作製装置は、天然物や薬物などの種々の物質のナノ粒子を作製するために用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 供給手段
2 混合手段
3 噴射手段
4 回収手段
5 流体貯蔵容器
6 供給ポンプ
7 一次バルブ
8 配管
10 二次バルブ
11 ノズル
12 配管
13 回収室
14 ガラス瓶
15 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を供給する供給手段と、該流体中に物質を混合させる混合手段と、物質が混合した流体をノズルから噴射して断熱膨張させる噴射手段とを備える微粒子作製装置であって、
該ノズルにおけるノズル内面を絶縁体で構成する微粒子作製装置。
【請求項2】
前記ノズルの長さが20mm〜600mmである請求項1に記載の微粒子作製装置。
【請求項3】
前記流体が液化二酸化炭素である請求項1又は2に記載の微粒子作製装置。
【請求項4】
前記ノズルを温める加温手段を備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の微粒子作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−107065(P2013−107065A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256525(P2011−256525)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】