説明

微粒子分散体の製造方法及びそれを使用して製造された金属又は金属化合物の微粒子分散体並びにそれを分散媒置換した微粒子分散液

【課題】小さい体積分布メジアン径(D50)に分散可能で、分散性、分散安定性等が良好な、金属、合金又は金属化合物の微粒子分散体の製造方法を提供することにあり、また、その製造方法を使用して製造された微粒子分散体、更には、その微粒子分散体に対して溶媒置換を施した微粒子分散液を提供することにある。
【解決手段】金属、合金又は金属化合物の気体を、低蒸気圧液体に接触させることによって、金属、合金又は金属化合物の微粒子が該低蒸気圧液体に体積分布メジアン径(D50)100nm以下で分散された分散体を製造する方法であって、該低蒸気圧液体中に脂肪酸を溶解させておくことを特徴とする微粒子分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子分散体の製造方法に関し、更に詳しくは、特定の方法で金属の気体又は金属化合物の分散液を製造する際に、分散媒に特定の化合物を溶解させておくことにより、小粒径の微粒子の分散性、分散安定性等が大幅に改善された微粒子分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属又は該金属化合物の微粒子分散液は、IC基板、半導体素子等の配線、半導体モジュールの層間接続、透明導電膜の形成、金属と非金属との接合、液のコロイド色を利用した色フィルター等に広く用いられている。
【0003】
金属又は該金属化合物の微粒子分散液の製造方法としては、金酸塩等の酸化状態の金属化合物の水溶液を、還元剤で還元して金属微粒子の分散液を得る方法が従来から広く知られている。しかしながら、このような化学的方法では、還元されずに残留した物質や還元反応による不純物が含有された微粒子分散液しか調製できず、その用途が限定されたものとなっていた。また、この方法に関しては、使用する還元剤の種類、使用する物質の純度、保護コロイドの有無、調製時のpHや温度等を変化させることによって、分散性を向上させる方法が多く検討されているが、何れも充分な分散安定性を得られるまでには至っていなかった。
【0004】
以上のような化学的方法とは異なり、スパークエロージョン法、ガス中蒸発法、真空蒸着法等の物理的方法が知られている。
【0005】
スパークエロージョン法は、分散させたい金属等を電極として用い、分散媒中で電極間に放電を発生させることによって、微粒子分散液を製造する方法である。しかしながら、この方法では、分散媒中に電気良導体である界面活性剤を含有させておくことが難しいため、微粒子の凝集を抑制することができない等の場合があった。
【0006】
ガス中蒸発法は、0.1〜30Torr(mmHg)(1.3×10Pa〜4×10Pa)の不活性気体の存在下に、分散させたい金属又は金属化合物の蒸気を発生させ、気相中で微粒子を生成させ、生成した直後に、それを溶媒に捕集して微粒子分散液を製造する方法である(特許文献1参照)。また、不活性気体中に常温で液体である有機物の気体を共存させておくことによって、その有機物中に分散された微粒子を得て、その後溶媒交換等をして微粒子分散液を製造する方法も知られている。
【0007】
しかしながら、これらガス中蒸発法では、平均粒径をそろえることが困難であった。すなわち、発生した金属又は金属化合物の蒸気は、不活性気体原子との衝突によって冷却されて微粒子を形成するが、発生した微粒子は再び不活性気体中で会合しクラスターを形成しやすい等の、気体と気体との接触に起因する問題点があった。
【0008】
真空蒸着法は、界面活性剤等で表面が覆われた油の表面に金属等を蒸着させ、金属原子等が凝集して微粒子が形成されると同時に、その微粒子を界面活性剤等で保護して微粒子同士の会合を防止し、微粒子が油中に分散された分散体を得る方法である(特許文献2参照)。この方法では、微粒子が直接液体中に生成するので、上記ガス中蒸発法で問題となる、気体と気体との接触に起因する問題点、微粒子同士の会合等は生じ難い。
【0009】
しかしながら、真空蒸着法における上記界面活性剤や分散剤等の溶解させておく化合物については、殆ど研究がなされておらず、特許文献2で界面活性剤として用いられているコハク酸イミドポリアミンでは、微粒子同士が界面活性剤により保護される前に会合し、クラスターを形成してしまう等の問題点が依然としてあった。従って、比較的優れた方法である真空蒸着法を用いても、金属、合金又は金属化合物の微粒子分散液に、充分な分散性や分散安定性を付与するまでには至っていなかった。
【0010】
【特許文献1】特開2002−121606号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/099941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、極めて小さな粒径で分散が可能で、分散性、分散安定性、高濃度分散性等が良好な、金属、合金又は金属化合物の微粒子分散体の製造方法を提供することにあり、また、その製造方法を使用して製造された微粒子分散体、更には、その微粒子分散体に対して溶媒置換を施した微粒子分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、金属の気体又は金属化合物の分散体を特定の方法で製造するに際し、分散媒に特定の化合物を溶解させておくことにより、分散性等が改善されることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、金属、合金又は金属化合物の気体を低蒸気圧液体に接触させることによって、金属、合金又は金属化合物の微粒子が該低蒸気圧液体に体積分布メジアン径(D50)100nm以下で分散された分散体を製造する方法であって、該低蒸気圧液体中に脂肪酸を溶解させておくことを特徴とする微粒子分散体の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記製造方法を使用して製造された金属、合金又は金属化合物の微粒子分散体を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記の「金属、合金又は金属化合物の微粒子分散体」中の低蒸気圧液体を、他の分散媒に置換したものであることを特徴とする金属、合金又は金属化合物の微粒子分散液を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、極めて小さな体積分布メジアン径(D50)を有する微粒子にまで分散が可能であり、また、小粒径に分散しても、分散性に優れ、微粒子の凝集がなく、分散安定性にも優れた「金属、合金又は金属化合物の微粒子分散体」を提供することができる。また、得られた微粒子分散体を溶媒置換することによって、分散性に優れた「金属、合金又は金属化合物の微粒子分散液」を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の実施の具体的形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で任意に変形できるものである。
【0018】
本発明は、金属の気体、合金の気体又は金属化合物の気体(以下、「金属類の気体」と略記する)を、低蒸気圧液体に接触させることによって、該金属、該合金又は該金属化合物の微粒子が該低蒸気圧液体に分散された分散体を製造する方法に関するものである。「合金の気体」とは、複数の金属の混合気体をも含むものである。
【0019】
本発明の方法で分散される「金属、合金又は金属化合物」(以下、「金属類」と略記する)としては、加熱等によって気体になるものであれば特に限定はない。本発明の製造方法で微粒子となる金属類としては、微粒子状態で非結晶粒子となるものが、分散媒に分散した場合に光散乱が低いため透明性が高くなる点、良好な分散性を達成できる点、低温で融解する点等から好ましい。具体的には、例えば、Ag、Cu、Sn、Pd、In、Au、Zn、Bi、Fe、鉛、Ni、Al、Pt等の金属若しくはそれらを含む合金、又は、それらの酸化物、窒化物等の金属化合物が特に好ましいものとして挙げられる。
【0020】
金属類を気体にする方法は特に限定はされず、公知の加熱方法で金属類を加熱する。加熱温度も気体状態にできるために充分な温度であれば特に限定はなく、また、金属類の種類によっても異なるが、200〜2000℃が好ましく、400〜1800℃がより好ましく、600〜1600℃が特に好ましく、800〜1400℃が更に好ましい。
【0021】
本発明においては、金属類の気体を、後述する低蒸気圧液体に接触させて分散体を形成させるが、その際、金属類の気体中に、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性気体;分散媒、分散助剤等の有機物気体等を共存させることを排除するものではないが、分子を液体に接触させて、液相界面で分散状態を作る本発明の作用原理から、それらを共存させる必要性はない。好ましくは、上記不活性気体を共存させない方がよい。
【0022】
金属類の気体を、後述する低蒸気圧液体に接触させて分散体を形成させる際の圧力は特に限定はないが、10−1Pa以下であることが好ましい。
【0023】
これらの点で、0.1〜30Torr(mmHg)(1.3×10Pa〜4×10Pa)の圧力下で、不活性気体との相互作用によって、金属類の蒸気を凝集させて、気体中で微粒子を生成させる、前記したガス中蒸発法とは、本発明は全く異なる技術思想によるものである。
【0024】
本発明において、上記圧力は10−1Pa以下であることが好ましく、10−2Pa以下であることが特に好ましい。また、10−4Pa以上であることが好ましく、10−3Pa以上であることが特に好ましい。圧力が大きすぎる、すなわち真空度が悪いと、加熱温度を高くする必要がある点、そこに介在する気体の影響がでて微粒子が変質する点等の問題が生じる場合がある。圧力が小さすぎる、すなわち真空度を不必要に高くすると、低蒸気圧液体が揮発したり、生産性が落ちたり、真空ポンプに負荷がかかりすぎたりする場合がある。
【0025】
本発明においては、「金属の気体、合金の気体又は金属化合物の気体」(金属類の気体)を、低蒸気圧液体に接触させることによって、それを該低蒸気圧液体中に分散させる。「低蒸気圧液体」とは、分散時の温度で低蒸気圧であって、10−3Paで実質的に揮発しない液体をいう。低蒸気圧でないと、蒸発して「金属の気体、合金の気体又は金属化合物の気体」と気体同士で相互作用をして分散性に悪影響を与える場合がある。その蒸気圧は、好ましくは、25℃で、10−10Pa〜10−5Pa、特に好ましくは、25℃で、10−8Pa〜10−6Paである。かかる低蒸気圧液体の1気圧での沸点は特に限定はないが、上記と同じ理由で、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、220℃以上が特に好ましく、240℃以上が更に好ましい。
【0026】
具体的には、例えば、アルキルナフタレン、エチレンオレフィン共重合体等の脂肪族及び/又は芳香族炭化水素類;アルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、ポリアルキルフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;シリコーン油、ポリアルキルシロキサン等のシロキサン化合物類;フルオロカーボン油類;多価アルコール類等が挙げられる。ここで、上記アルキル基としては特に限定はないが、炭素数4〜24個のものが好ましく、8〜22個のものがより好ましく、12〜20個のものが特に好ましい。また、「脂肪族及び/又は芳香族炭化水素類」である場合には、炭素数の合計が14以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、25以上であることが特に好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して用いられる。また、低蒸気圧液体として、市販の拡散ポンプ油も好ましく用いられる。
【0027】
本発明の微粒子分散体の製造方法においては、気体を低蒸気圧液体に接触させることによって、その気体が固体の微粒子になって上記該低蒸気圧液体に分散されるが、その際、該低蒸気圧液体中に脂肪酸を溶解させておくことを特徴とする。脂肪酸を溶解させておくことによって、体積分布メジアン径(D50)の小さい分散粒子を形成させることができ、また、小粒径でも分散性、分散安定性、高濃度分散性等が優れた分散体を得ることができる。
【0028】
脂肪酸は、カルボキシル基を有し鎖状構造をもつものであれば特に限定はなく、直鎖構造のものも側鎖を有するものも含まれ、また、飽和脂肪酸も不飽和脂肪酸も含まれる。また、本発明の効果を損なわない範囲で置換基を有していてもよい。特に限定はないが、低蒸気圧液体への溶解性が良好等の点から不飽和脂肪酸が特に好ましい。
【0029】
本発明の微粒子分散体の製造方法において用いられる脂肪酸の炭素数は特に限定はないが、カルボン酸の炭素数も入れて11以上が、金属類の気体を低蒸気圧液体に接触させて分散体を形成させる際に蒸発し難い点、低蒸気圧液体への溶解性の点等から好ましい。炭素数の上限は、飽和脂肪酸の場合には17以下が、低蒸気圧液体に対する溶解性、溶解安定性の点等から好ましい。不飽和脂肪酸の場合には炭素数25以下が同様の点から好ましく、20以下が特に好ましい。
【0030】
本発明においては、上記低蒸気圧液体中に上記脂肪酸を溶解させておくが、その濃度は特に限定はなく適宜調節可能であるが、低蒸気圧液体100質量部に対して、脂肪酸0.3〜50質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましく、3〜10質量部が特に好ましい。脂肪酸が少なすぎると、分散性が不足し、良好に分散できない場合があり、一方、多すぎると分散体の粘度が高くなり過ぎ、回転ドラムの回転による「新しい低蒸気圧液体の膜」ができにくくなる場合がある。
【0031】
本発明の微粒子分散体の製造方法によると、金属類の気体が液体の界面に蒸着され液中に取り込まれ、体積分布メジアン径(D50)が100nm以下の微粒子が生成するものであり、そこで使用される脂肪酸は、液中への取り込み、液中での微粒子の生成、微粒子の体積分布メジアン径(D50)の制御、微粒子同士の会合の抑制等に直接関与していると考えられる。従って、かかる役割・効果が極めて特殊であるので、一般的な微粒子の分散性改良に用いられる界面活性剤、添加剤、分散剤等の知見・技術は殆ど役に立たない。すなわち、他の微粒子分散液の製造方法において知られている分散のために用いられる化合物の本発明への単なる転用はできない。また、公知の分散剤の本発明への単なる転用もできない。
【0032】
また、微粒子が磁性紛(強磁性体紛)であることは、その微粒子が結晶性を有する程度に大きいということであり、そのような結晶性粒子若しくはそこまで大きい微粒子の分散技術は、本発明の、極めて小さい粒子に分散できる技術には応用できないものである。
【0033】
本発明の微粒子分散体の製造方法を用いると、体積分布メジアン径(D50)100nm以下で分散された分散体を極めて分散性よく安定に製造できる。また、10nm以下でも安定に分散でき、更には、2nm以下でも分散できる。従って、本発明の製造方法を使用して得られる微粒子分散体中の微粒子の体積分布メジアン径(D50)は、通常1〜100nm、好ましくは2〜50nm、より好ましくは3〜20nm、特に好ましくは4〜15nm、更に好ましくは5〜10nmである。体積分布メジアン径(D50)は小さいほど本発明の効果を発揮し易いので好ましい。
【0034】
本発明における「体積分布メジアン径(D50)」は、(株)日立ハイテクノロジーズ社製、走査型電子顕微鏡S−4800に、同社製STEMオプションパーツを取り付け、走査透過電子顕微鏡(以下、「STEM」と略記する)として使用し、専用の明視野STEM試料台を取り付け、20万倍のSTEM写真を撮り、下記のソフトウェアに取り込み、写真上で任意に数百個から2千個程度の微粒子を選び、それぞれの直径を測定し、体積基準の分布から体積で50%累積粒子径として求めた。
【0035】
STEMに供する測定試料は、微粒子分散液を、トルエンで適宜希釈調製し、コロジオン膜貼付メッシュに滴下して調製した。また、STEM写真から体積基準の粒径分布や体積分布メジアン径(D50)を求めるときには、(株)マウンテック社製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「Mac−View Ver.4」を用いた。
【0036】
金属類の微粒子の形状は特に限定されず、球状、棒状、板状、不定形等何れでもよい。また、微粒子の結晶構造も特に限定はないが、非結晶であることが、分散体及び後述する分散液の透明性が高くなる点で好ましい。従って、本発明の製造方法は非結晶微粒子の形成に好適である。
【0037】
本発明の製造方法によって製造された微粒子分散体中の微粒子の濃度は特に限定はないが、微粒子分散体100質量部に対して、1〜90質量部が好ましく、10〜80質量部がより好ましく、20〜70質量部が特に好ましい。本発明を使用すれば、高濃度の微粒子分散体が得られる。
【0038】
本発明の微粒子分散体の製造方法について、図1に示す製造装置を例に更に詳しく説明する。ただし、図1は、本発明に用いられる具体的装置の一例であり、本発明は図1に示す装置を用いたものには限定されない。
【0039】
図1において、チャンバー(1)は、固定軸(2)の回りに回転するドラム状であり、固定軸(2)を通してチャンバー(1)の内部が高真空に排気される構造になっている。チャンバー(1)には、脂肪酸が溶解された低蒸気圧液体(3)が入れてあり、ドラム状のチャンバー(1)の回転によって、チャンバー(1)の内壁に、脂肪酸が溶解された低蒸気圧液体(3)の膜(4)が形成される。チャンバー(1)の内部には、金属類(5)を入れる容器(6)が固定されている。金属類(5)は、抵抗線に電流を流す等して所定温度まで加熱され、気体となってチャンバー(1)の中に放出される。
【0040】
チャンバー(1)の外壁は、水流(8)で全体が冷却されている。加熱された「金属類(5)」から真空中に放出された原子(9)は、脂肪酸が溶解された低蒸気圧液体(3)の膜(4)の表面から取り込まれ、微粒子(10)が形成される。次いで、かかる微粒子(10)が分散された低蒸気圧液体(3)は、チャンバー(1)の回転に伴ってチャンバー(1)の底部にある低蒸気圧液体(3)の中に輸送され、同時に、新しい「低蒸気圧液体(3)の膜(4)」がチャンバー(1)の上部に供給される。
【0041】
この過程を継続することによって、チャンバー(1)の底部にある低蒸気圧液体(3)は、金属類(5)が高濃度に分散した分散体になっていく。
【0042】
本発明においては、金属の気体、合金の気体又は金属化合物の気体が、脂肪酸が溶解された低蒸気圧液体中に直接取り込まれることによって微粒子分散体が製造される。本発明は、以下の作用・原理には限定されないが、以下のように考えられる。すなわち、金属の気体、合金の気体又は金属化合物の気体は、気相で凝集せずに直接低蒸気圧液体中に取り込まれ、低蒸気圧液体中で凝集が起こり、ある程度の体積分布メジアン径(D50)を有するようになった時点で、その凝集粒子は脂肪酸によって取り囲まれ、ナノ微粒子として安定化するものと考えられる。その際、脂肪酸は、凝集粒子をより素早く包み込み、互いの会合をより強く抑制し、ナノ微粒子としてより安定化させるものと考えられる。
【0043】
本発明の製造方法を使用して得られた微粒子分散体は、分散媒に上記低蒸気圧液体が用いられているが、分散媒に上記低蒸気圧液体が用いられていると、その後の用途にとって不適当な場合は、かかる「金属類の微粒子分散体」中の低蒸気圧液体を、他の分散媒に置換して、「金属類の微粒子分散液」を調製することが好ましい。すなわち、上記低蒸気圧液体は分散性の観点から好適なものが使用されるが、その後、その微粒子が用いられる用途に応じて好適な「他の分散媒」に置換されることが好ましい。
【0044】
「他の分散媒」としては特に限定はなく、分散液の用途に応じて選択できる。具体的には、例えば、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルペンタン、ノルマルヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル等のエーテル類;プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコール系分散媒類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、2−エチル−1−ヘキサノール等の1価アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール等の2価のアルコール類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノイソプロパノール、3−ジエチルアミノ−1−プロパノール、2−ジメチルアミノ−2−プロパノール、2−メチルアミノエタノール、4−ジメチルアミノ−1−ブタノール等のアミノ基含有アルコール類等を挙げることができる。これらは単独でも、2種以上混合して使用してもよい。
【0045】
低蒸気圧液体を、他の分散媒に置換する方法としては、公知の溶媒置換・分散媒置換の方法が用いられる。本発明で得られた微粒子は分散媒を置換しても、分散媒置換中も、その後の分散液保存中も安定に分散状態を保つことができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
低蒸気圧液体としてライオン拡散ポンプ油(A)(ライオン社製)380gを用い、それに脂肪酸として10−ウンデセン酸(CH=CH(CHCOOH)を20g添加し攪拌した。ライオン拡散ポンプ油(A)は、炭素数12〜16個のアルキル基を有するアルキルナフタレンである。また、10−ウンデセン酸は炭素数11の不飽和脂肪酸である。
【0048】
図1に示す装置を用いて分散液を製造した。容器(6)内に、銀(Ag)粒(徳力本店社製:純度99.99%)を20g入れ、回転ドラム式のチャンバー(1)内に上記液体を入れた。真空ポンプで吸引することによって、チャンバー(1)内の圧力を、10−3Paに到達させた。次いで、チャンバー(1)を水流(7)で冷却させながら回転させ、容器(6)の下部に設けたヒーターに電流を流し、銀(Ag)が溶解・蒸発するまで、その電流値を上昇させた。
【0049】
銀(Ag)粒は溶解し、銀(Ag)の気体は、分散媒面(10−ウンデセン酸が溶解された低蒸気圧液体(3)の膜(4)の表面)に接触し、10−ウンデセン酸に取り込まれることで、銀(Ag)微粒子分散体が形成された。
【0050】
図2に示すSTEM写真、図3に示す粒径分布から、2〜9nm程度の粒子が凝集することなく分散されていることが確認できた。体積分布メジアン径(D50)は5.4nmであった。
【0051】
実施例2
実施例1において、脂肪酸として、10−ウンデセン酸に代えて、オレイン酸(C17CH=CH(CHCOOH(cis))を用いた以外は実施例1と同様の方法で行なった。オレイン酸は炭素数17の不飽和脂肪酸である。
【0052】
図4に示すSTEM写真、図5に示す粒径分布から、3〜10nm程度の粒子が凝集することなく分散されていることが確認できた。体積分布メジアン径(D50)は5.2nmであった。
【0053】
得られた「銀(Ag)微粒子分散体」の分散媒である「低蒸気圧液体としてのライオン拡散ポンプ油(A)」を、常法に従って、トルエンに分散媒置換して、銀(Ag)の微粒子分散液を得た。STEM観察により、2〜15nm程度の粒子が凝集することなく分散されていることが確認できた。体積分布メジアン径(D50)もほぼ5.2nmであり、脂肪酸を用いると、分散媒置換を行っても分散性が悪くならず、分散維持性に優れていることも分かった。この微粒子分散液は、汎用溶媒であるトルエンが分散媒であるので、種々の用途に適用できるものである。
【0054】
実施例3
実施例1において、脂肪酸として、10−ウンデセン酸に代えて、エルカ酸を用いた以外は実施例1と同様の方法で行なった。エルカ酸は炭素数22の不飽和脂肪酸である。
【0055】
図6に示すSTEM写真、図7に示す粒径分布から、1〜10nm程度の粒子が凝集することなく分散されていることが確認できた。体積分布メジアン径(D50)は5.9nmであった。
【0056】
比較例1
実施例1において、10−ウンデセン酸に代えて、コハク酸イミドポリアミンを用いた以外は、実施例1と同様の方法で行なった。
【0057】
しかし、STEM観察で、粒子が互いに凝集していることを確認した。また、目視でも微粒子が沈降、堆積していることが観察でき、良好な分散体ができなかった。
【0058】
比較例2
実施例1において、10−ウンデセン酸に代えて、Disperbyk−102(ビックケミー社製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で行なった。Disperbyk−102は、酸性基を有するコポリマーである。
【0059】
しかし、STEM観察で、粒子が互いに凝集していることを確認した。また、目視でも微粒子が沈降、堆積していることが観察でき、良好な分散体ができなかった。
【0060】
上記結果から明らかなように、本発明の実施例1ないし実施例3では、何れも脂肪酸を用いたため、微粒子同士の会合が抑制され、良好な分散性と分散安定性を有する微粒子分散体を得ることができた。
【0061】
一方、脂肪酸を使用しないもの(比較例1及び比較例2)では、実施例1ないし実施例3に比べ、全て分散性、分散安定性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の微粒子分散体の製造方法を使用して得られた分散体、分散液は、IC基板、半導体素子等の配線、半導体モジュールの層間接続、透明導電膜の形成、金属と非金属との接合、液のコロイド色を利用した色フィルター等に広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の微粒子分散体の製造方法に使用される装置の一例の概略断面図である。
【図2】脂肪酸として10−ウンデセン酸を用いて実施例1で製造された銀(Ag)微粒子分散体中の微粒子のSTEM写真である(倍率、20万倍)。
【図3】脂肪酸として10−ウンデセン酸を用いて実施例1で製造された銀(Ag)微粒子分散体中の微粒子の体積基準の粒径分布である。
【図4】脂肪酸としてオレイン酸を用いて実施例2で製造された銀(Ag)微粒子分散体中の微粒子のSTEM写真である(倍率、20万倍)。
【図5】脂肪酸としてオレイン酸を用いて実施例2で製造された銀(Ag)微粒子分散体中の微粒子の体積基準の粒径分布である。
【図6】脂肪酸としてエルカ酸を用いて実施例3で製造された銀(Ag)微粒子分散体中の微粒子のSTEM写真である(倍率、20万倍)。
【図7】脂肪酸としてエルカ酸を用いて実施例3で製造された銀(Ag)微粒子分散体中の微粒子の体積基準の粒径分布である。
【符号の説明】
【0064】
1 チャンバー
2 固定軸
3 脂肪酸が溶解された低蒸気圧液体
4 脂肪酸が溶解された低蒸気圧液体の膜
5 金属、合金又は金属化合物(金属類)
6 容器
7 水流
8 回転方向
9 原子又は分子
10 「金属、合金又は金属化合物」の微粒子(金属類の微粒子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、合金又は金属化合物の気体を低蒸気圧液体に接触させることによって、金属、合金又は金属化合物の微粒子が該低蒸気圧液体に体積分布メジアン径(D50)100nm以下で分散された分散体を製造する方法であって、該低蒸気圧液体中に脂肪酸を溶解させておくことを特徴とする微粒子分散体の製造方法。
【請求項2】
上記脂肪酸が炭素数11以上のものである請求項1記載の微粒子分散体の製造方法。
【請求項3】
金属の気体又は金属化合物の気体の、該低蒸気圧液体への接触を、10−4Pa〜10−1Paの範囲の圧力下で行なう請求項1又は請求項2記載の微粒子分散体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の微粒子分散体の製造方法を使用して製造されたものであることを特徴とする微粒子分散体。
【請求項5】
請求項4記載の微粒子分散体中の低蒸気圧液体を、他の分散媒に置換したものであることを特徴とする、金属、合金又は金属化合物の微粒子分散液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−235544(P2009−235544A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85786(P2008−85786)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000183923)ザ・インクテック株式会社 (268)
【Fターム(参考)】