説明

微粒子製造装置

【課題】トナー等の粒度分布が広がる原因である吐出孔からの微粒子成分含有液の染み出しが発生するのを抑制することを課題とする。
【解決手段】トナー成分液14の液滴21を液柱共鳴液滴形成ユニット10の吐出面に開口した複数の吐出孔19から吐出する吐出動作を継続して行い、吐出した液滴を固化させることによりトナー粒子を製造するトナー製造装置において、複数の吐出孔から吐出された液滴を吐出面に向けて逆移動させる逆気流の発生を規制する整流板42を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子径分布が狭い多数の微粒子、特に電子写真、静電記録、静電印刷等における静電荷像を現像するために使用される静電荷像現像用トナー等の微粒子を製造するための微粒子製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真記録方法に基づく複写機、プリンタ、ファクシミリおよびそれらの複合機などの画像形成装置に使用される静電荷像現像用トナーの製造方法としては、従来は粉砕法が主流であったが、近年では重合法を採用することが多くなってきている。重合法とは、水系媒体中でトナー粒子を形成する工法であり、トナー粒子形成時あるいはその過程においてトナー原材料の重合反応を伴うことから、このように称される。重合法は、各種重合方法が実用化されており、懸濁重合、乳化凝集、ポリマー懸濁(ポリマー凝集)、エステル伸長反応等を利用したものが知られている。重合法により製造されたトナーは、重合トナーあるいはケミカルトナーなどと呼ばれる。
【0003】
重合法で得られたトナーは、総じて、粉砕法で得られたトナーに比べ、小粒径が得やすく、粒径分布が狭く、形状が球形に近いといった特徴を有する。これらの特徴は、電子写真方式で形成される画像として高画質を得やすいという効果をもたらす。しかしながら、重合過程に長時間を必要とし、さらに固化終了後に溶媒とトナー粒子とを分離し、その後洗浄乾燥を繰り返すという作業が必要となり、多くの時間、多量の水、多くのエネルギーを必要とするといった欠点がある。
【0004】
また、トナーの原材料成分を有機溶媒に溶解または分散した液体(トナー成分液)を、噴霧器(アトマイザ)などを用いて微小な液滴となるように放出し、これを乾燥させて微粒子状のトナーを得る、噴射造粒法と呼ばれるトナー製造方法が知られている(特許文献1〜4等)。このトナー製造方法によれば、水を用いる必要がないため、洗浄や乾燥に要する時間とエネルギーを大幅に削減でき、重合法の欠点を回避することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トナー等の微粒子を噴射造粒法で製造する場合、液滴吐出装置の吐出面に開口した複数の吐出孔からトナー成分液等の微粒子成分含有液(微粒子の原材料成分を溶媒に溶解または分散した液体)の液滴を吐出する吐出動作を継続し、吐出した液滴を固化させることにより微粒子を製造する。この場合、既存のインクジェット記録方式の技術を利用することで、液滴吐出装置の吐出孔から吐出される液滴の大きさを高精度に制御することができるので、微粒子の粒径を高精度に制御することが可能となる。
【0006】
ところが、液滴吐出装置の吐出面に開口した複数の吐出孔から微粒子成分含有液の液滴を吐出して微粒子を製造する場合、各吐出孔から吐出された液滴が狙いの吐出方向に向けて狙いの吐出速度で適切に吐出しないと、以下のような問題が発生する。
例えば、吐出後の液滴が固化する前に他の液滴と接触して一体化する合着と呼ばれる現象が発生する場合がある。このような合着が発生すると、合着した微粒子の粒径が所望の粒径よりも大きなものとなる。また、例えば、吐出後の液滴が固化する前に他の液滴と勢いよく衝突すると、液滴が砕けて、より微小な液滴に分裂する現象が発生する場合もある。この場合、分裂した微小液滴が固化して得られた微粒子の粒径は、所望の粒径よりも小さいものとなる。これらの現象が発生することにより、製造される微粒子の粒径分布が広がってしまう。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、液滴を吐出する吐出孔が開口した吐出面上に付着した汚れが、上述した合着や分裂を引き起こす主な原因の1つであることが判明した。詳しくは、従来の液滴吐出装置の吐出面には、過去の液滴吐出時に生じた微粒子成分含有液の汚れが堆積し、吐出孔から吐出された液滴がこの汚れに接触して当該液滴の吐出方向が狙いの吐出方向から外れるという現象が発生する。その結果、当該液滴が、隣接又は近接する吐出孔から吐出された液滴と接触してしまい、液滴の合着や分裂を引き起こすのである。
【0008】
このような液滴の合着や分裂を引き起こす吐出面の汚れが生じる原因は、吐出孔から微粒子成分含有液が吐出面上に染み出すことに起因する。具体的には、微粒子成分含有液の染み出しが生じると、吐出された液滴がその染み出した微粒子成分含有液による吐出面上の汚れに接触して、液滴の吐出方向が狙いの吐出方向から外れてしまい、正常な吐出ができなくなる。この場合、上述したように液滴の合着や分裂が引き起こされ、製造される微粒子の粒径分布が広がってしまう。
【0009】
また、このような微粒子成分含有液の染み出しが生じ、染み出した微粒子成分含有液の汚れが徐々に広がって周辺の吐出孔を巻き込むまでに成長すると、当該周辺の吐出孔を塞いで吐出停止を引き起こす場合もある。この場合、製造される微粒子の数が減少するので、微粒子の生産効率が下がる。また、この場合、塞がった吐出孔が連通した液室内の圧力が変化するので、この液室に連通した他の吐出孔の吐出状態、特に吐出速度に影響を及ぼす。吐出速度が変化すると、吐出動作が不安定になり、液滴の大きさの均一性と液滴の吐出方向性が失われる。このように、液滴の大きさの均一性が失われたり、液滴の吐出方向性が失われて合着や分裂が発生したりすると、製造される微粒子の粒度分布が広がってしまい、狭い粒径分布をもった微粒子の製造ができなくなる。
【0010】
以上のように、吐出孔から微粒子成分含有液が染み出す現象が発生すると、これに起因して、液滴の合着や分裂が発生したり、周辺の吐出孔が塞がって液室内の圧力変動が生じ、液滴の大きさの均一性と液滴の吐出方向性が失われたりして、製造される微粒子の粒度分布が広がってしまうという問題が発生する。
【0011】
そこで、本発明者らは、微粒子成分含有液の染み出しの発生原因について鋭意検討を重ね、微粒子成分含有液の染み出しの発生には、吐出孔の出口周辺に生じ得る乱気流が大きく影響していることを見出した。以下、この点について詳しく説明する。
複数の吐出孔それぞれから液滴を短い時間間隔で連続して吐出すると、各吐出孔から連続して吐出された液滴の列に沿って気流が発生する。一方、このような気流が発生することで、吐出孔出口周辺には、液滴の列に対して横方向からの気体の流入が発生する。このような気体の流入によって生じる気流は、液滴の列の周囲に、渦状の気流等を含む乱気流を生じさせる。このような乱気流が発生すると、その影響で、方向性を失った液滴や、液滴吐出時に生じ得るミストなどが、吐出方向とは反対方向に向かって移動(逆移動)することが、液滴観察実験によって確認された。
【0012】
このように逆移動する液滴やミストの中には、吐出面にまで到達して、そこに付着してしまうものも存在する。逆移動した液滴やミストが吐出面上の吐出孔出口あるいは吐出孔出口近傍に付着すると、その液滴やミストが当該吐出孔内に充填されている微粒子成分含有液と接触するなどして、当該吐出孔から微粒子成分含有液を染み出させる現象を引き起こす。これが原因で、微粒子成分含有液の染み出しが発生し、製造される微粒子の粒度分布が広がるという問題を生じさせる。
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、微粒子の粒度分布が広がる原因である吐出孔からの微粒子成分含有液の染み出しが発生するのを抑制できる微粒子製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、液滴が固化すると微粒子となる微粒子成分含有液の液滴を液滴吐出装置の吐出面に開口した複数の吐出孔から吐出する吐出動作を継続して行い、吐出した液滴を固化させることにより微粒子を製造する微粒子製造装置において、上記複数の吐出孔から吐出された液滴を上記吐出面に向けて逆移動させる逆気流の発生を規制する逆気流規制手段を有することを特徴とする。
本発明においては、吐出された液滴を吐出面に向けて逆移動させる逆気流の発生が規制されるので、このような逆気流に乗って逆移動する液滴等が吐出面に付着する機会を減少させることができる。よって、吐出面上の吐出孔出口あるいは吐出孔出口近傍に付着した液滴等によって引き起こされる微粒子成分含有液の染み出しを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上、本発明によれば、吐出孔からの微粒子成分含有液の染み出しを抑制できるので、微粒子成分含有液の染み出しに起因して発生する微粒子の粒径分布が広がるのを抑制できるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態で用いる液柱共鳴タイプの液滴吐出装置の液滴吐出部の内部構造の一部を拡大して示した模式図である。
【図2】同液滴吐出装置の液滴吐出部を吐出面側から見たときの底面図である。
【図3】同液滴吐出装置である液柱共鳴液滴形成ユニットの一部を模式的に示した断面図である。
【図4】(a)〜(d)は、同液柱共鳴液滴形成ユニットの吐出孔の断面形状として採用できる各種断面形状を例示した断面図である。
【図5】(a)〜(d)は、N=1、2、3の場合において、同液柱共鳴液滴形成ユニットの液柱共鳴液室内の液体に生じる速度分布と圧力分布の定在波の様子を説明するための説明図である。
【図6】(a)〜(c)は、N=4、5の場合において、同液柱共鳴液室内の液体に生じる速度分布と圧力分布の定在波の様子を説明するための説明図である。
【図7】(a)〜(d)は、同液柱共鳴液室で生じる液柱共鳴現象の様子を模式的に表した説明図である。
【図8】実施形態に係るトナー製造装置の一例を示す模式図である。
【図9】吐出された液滴を搬送する搬送気流として、液滴吐出方向に対して横方向に向かう気流を採用した例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る微粒子製造装置をトナーの製造に適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態のトナー製造装置は、液滴が固化するとトナー粒子(微粒子)となるトナー成分液(微粒子成分含有液)を液滴吐出装置の吐出面に開口した複数の吐出孔からトナー成分液の液滴を吐出する吐出動作を継続して行い、吐出した液滴を固化させることによりトナー粒子を得るものである。
【0018】
本実施形態のトナー製造方法に使用可能な液滴吐出装置は、吐出する液滴の粒径分布が狭いものが好ましいが、特に制限は無く、公知のものを用いることができる。液滴吐出装置としては、1流体ノズル、2流体ノズル、膜振動タイプの吐出手段、レイリー分裂タイプの吐出手段、液振動タイプの吐出手段、液柱共鳴タイプの吐出手段等が挙げられる。膜振動タイプの吐出手段は、例えば特開2008−292976号公報に開示されたものがある。また、レイリー分裂タイプの吐出手段としては、特許第4647506号公報に開示されたものがある。また、液振動タイプの吐出手段としては、特開2010−102195号公報に開示されたものがある。
【0019】
液滴の粒径分布が狭く、トナーの生産性を確保するためには、複数の吐出孔が形成された液柱共鳴液室内の液体に振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、該定在波の腹となる領域に形成された吐出孔から液体を吐出する液柱共鳴タイプの液滴吐出装置が好適である。本実施形態では、液柱共鳴タイプの液滴吐出装置を用いてトナーを製造する例について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態で用いる液柱共鳴タイプの液滴吐出装置の液滴吐出部11の一部を拡大して示した模式図である。
図2は、この液滴吐出装置の液滴吐出部を吐出面側から見たときの底面図である。
本実施形態の液滴吐出部11は液柱共鳴液室18を備えており、この液柱共鳴液室18は、長手方向(図中左右方向)両端の側壁部のうち一方の側壁部(開口側壁部)に設けられた連通路を介して液共通供給路17へと連通している。また、液柱共鳴液室18は、長手方向両端の側壁部間を連結する壁部のうち1つの壁部(図中下側の底壁部)に液滴21を吐出する複数の吐出孔19を備えている。また、液柱共鳴液室18における吐出孔19と対向する上壁部側には、液柱共鳴定在波を形成するために高周波振動を発生させる振動発生手段20が設けられている。この振動発生手段20は、図示しない高周波電源に接続されている。
【0021】
図3は、本実施形態の液滴吐出装置である液柱共鳴液滴形成ユニット10の一部を模式的に示した断面図である。なお、図3は、図1中上方又は下方から見たものである。
本実施形態において、液滴吐出部11から吐出される液体は、製造対象である微粒子の成分が溶解又は分散された状態の微粒子成分含有液である。本実施形態は、トナーを製造する例であるため、この微粒子成分含有液をトナー成分液と記して説明する。トナー成分液14は、図示しない液循環ポンプにより液供給管を通って、液柱共鳴液滴形成ユニット10の液共通供給路17内に流入し、各液滴吐出部11の液柱共鳴液室18へと補充される。
【0022】
液柱共鳴液室18内に充填されたトナー成分液14には、振動発生手段20によって発生する液柱共鳴定在波により圧力分布が形成される。そして、液柱共鳴定在波の腹となる領域(振幅が大きくて圧力変動が大きい領域)に配置されている吐出孔19から液滴21が吐出される。液柱共鳴による定在波の腹となる領域とは、定在波の節以外の領域を意味するものである。好ましくは、定在波の圧力変動が液を吐出するのに十分な大きさの振幅を有する領域であり、より好ましくは定在波の振幅が極大となる位置から極小となる位置に向かって±1/4波長の範囲である。定在波の腹となる領域であれば、本実施形態のように1つの液柱共鳴液室18内に複数の吐出孔19が形成されている構成であっても、それぞれからほぼ均一な大きさの液滴が吐出できる。液滴21の吐出によって液柱共鳴液室18内の液量が減少すると、液柱共鳴液室18内の液柱共鳴定在波の作用による吸引力が作用して、液共通供給路17から供給される液の流量が増加し、液柱共鳴液室18内に液が補充される。
【0023】
液滴吐出部11の液柱共鳴液室18は、駆動周波数において液体の共鳴周波数に影響を与えない程度の高い剛性を持つ金属、セラミックス、シリコンなどの材料によって形成されたフレームをそれぞれ接合して形成されている。また、図1に示すように、液柱共鳴液室18の長手方向両端の側壁部間の長さLは、後述するような液柱共鳴原理に基づいて決定される。また、図3に示すように、液柱共鳴液室18の短手方向両端の側壁間の長さ(幅)Wは、液柱共鳴に余分な周波数を与えないように、液柱共鳴液室18の長さLの2分の1より小さいことが望ましい。
【0024】
液柱共鳴液室18は、生産性を向上させるために、1つの液柱共鳴液滴形成ユニット10に対して複数配置されている方が好ましいので、本実施形態では1つの液柱共鳴液滴形成ユニット10に対して複数の液柱共鳴液室18が配置された構成を採用している。1つの液柱共鳴液滴形成ユニット10に対して設ける液柱共鳴液室18の数には特に限定はないが、100〜2000個の液柱共鳴液室18が備えられた1つの液柱共鳴液滴形成ユニット10であれば、操作性と生産性の両立が実現でき、好適である。本実施形態では、1つの液共通供給路17に対して複数の液柱共鳴液室18が連通した構成となっている。
【0025】
また、液滴吐出部11における振動発生手段20は、所定の周波数で駆動できるものであれば特に制限はないが、本実施形態のように圧電体20Aに弾性板20Bを貼り付けた構造のものが好ましい。弾性板20Bは、圧電体20Aが接液しないように液柱共鳴液室18から圧電体20Aを隔離するように設けられる。圧電体20Aは、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電セラミックスが挙げられるが、一般に変位量が小さいため積層して使用されることが多い。この他にも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電高分子や、水晶、LiNbO、LiTaO、KNbO等の単結晶などが挙げられる。更に、振動発生手段20は、液柱共鳴液室18ごとに個別に制御できるように配置されていることが望ましい。例えば、液柱共鳴液室の配置にあわせて1つの圧電体材料を複数の圧電体に分断し、各圧電体でそれぞれの液柱共鳴液室を個別制御できるような構成が好ましい。
【0026】
吐出孔19の出口側直径は、1[μm]以上40[μm]以下の範囲であることが望ましい。
1[μm]より小さいと、形成される液滴が非常に小さくなるため、トナーを得ることができない場合がある。特に、トナーの構成成分として顔料などの固形微粒子が含有されている場合には、この固形微粒子が吐出孔19を閉塞させるおそれがあり、トナーの生産性を低下させるおそれがある。一方、40[μm]より大きい場合、液滴の直径が大きいため、これを乾燥固化させて、3[μm]以上6[μm]以下のトナー粒子径を得ようとすると、有機溶媒でトナー組成を非常に希薄な液に希釈する必要がある。この場合、一定量のトナーを得るために乾燥エネルギーが大量に必要となってしまい、不都合となる。
【0027】
また、本実施形態では、複数の吐出孔19が配列された吐出孔の列(図1参照)が、図3に示すように、液柱共鳴液室18内の幅方向(図3中左右方向)に複数並列配置されている。このような構成により、一度の吐出動作によって、より多くの液滴を吐出することができるので、生産効率が高まる。吐出孔19の配置によって液柱共鳴周波数が変動するため、液柱共鳴周波数は液滴の吐出を確認しながら適宜決定するのが望ましい。
【0028】
図4(a)〜(d)は、吐出孔19の断面形状として採用できる各種断面形状を例示した断面図である。
本実施形態においては、吐出孔19の断面形状が、図1に示すように、出口側に向けて径が小さくなるようなテーパー形状である場合を例示しているが、この断面形状は適宜選択することができる。
図4(a)に示す吐出孔19の断面形状は、吐出孔19の入口側から出口側に向かってラウンド形状(湾曲形状)を持ちながら径が狭くなる断面形状である。この断面形状は、吐出孔19が形成される液柱共鳴液室18の底壁部を構成する吐出孔用薄膜41が振動した際、吐出孔19の出口付近で液にかかる圧力が最大となるため、吐出の安定化に際して好ましい形状である。
図4(b)に示す吐出孔19の断面形状は、吐出孔19の入口側から出口側に向かって一定の角度を持って径が狭くなるようなテーパー形状をもった断面形状であり、本実施形態が採用しているものである。この断面形状においては、テーパー形状となっていることで、図4(a)に示した断面形状のものと同様、吐出孔用薄膜41が振動したときの吐出孔19の出口付近で液にかかる圧力を高めることができる。テーパー角24は適宜変更することができるが60°よりも大きく90°以下の範囲であるのが好ましい。ノズル角度24が60°以下の場合、液に圧力がかかりにくく、さらに薄膜41の加工も困難となるからである。一方、ノズル角度24が90°である場合、図4(c)に示したような断面形状となるが、吐出孔19の出口付近に圧力がかかりにくくなるので、テーパー角24の好適な角度範囲としては90°が最大値となる。テーパー角24が90°よりも大きいと、吐出孔19の出口付近に圧力がかからなくなるため、液滴吐出が非常に不安定化する。
図4(d)に示す吐出孔19の断面形状は、図4(a)に示した断面形状と図4(c)に示した断面形状とを組み合わせた形状である。このように段階的に断面形状を変更しても構わない。
【0029】
本実施形態では、吐出された液滴の合着や分裂が発生したり、吐出孔の閉塞により液室内の圧力変動が生じて液滴の大きさの均一性と液滴の吐出方向性が失われたりして、製造される微粒子の粒度分布が広がるという問題を引き起こす原因である、吐出孔19からのトナー成分液の染み出しを抑制するために、図1及び図2に示すように、整流板42を設けている。この整流板42は、各吐出孔19から吐出された液滴を吐出面に向けて逆移動させる逆気流の発生を規制する逆気流規制手段として設けられている。
【0030】
整流板42は、各吐出孔19から吐出された液滴を通過させる開口43を備えており、吐出孔19の出口が開口した吐出面に対向配置されている。この整流板42は、図2に示すように、整流板固定用孔44が設けられている。この整流板固定用孔44に液柱共鳴液滴形成ユニット10の底面に設けられた図示しない固定用ピンが挿入されて、整流板42が液柱共鳴液滴形成ユニット10に固定されている。本実施形態では、整流板42を吐出面に平行となるように対向配置しているが、必ずしも平行である必要はない。このような整流板42を設けることで、各吐出孔19から吐出された液滴や吐出時に発生したミスト(以下「液滴等」という。)を吐出面に向けて上昇させる逆気流が整流板42よりも鉛直方向下方で発生しても、その逆気流は整流板42に堰き止められる。その結果、吐出孔19の出口周辺に生じる逆気流の勢いが軽減され、逆気流に乗って吐出面に付着してしまう液滴等を少なく抑えることができる。
【0031】
また、整流板42を入れると、整流板42と吐出面との間に、水平方向に沿った気流が流れる流路が形成されることにより、水平方向に沿った気流と吐出方向に向かう気流とが分離され、吐出孔19の周辺に渦が発生しにくくなる。よって、このような渦に起因して生じる逆気流が発生しにくくなり、逆気流に乗って吐出面に付着してしまう液滴等を少なく抑えることができる。
【0032】
本実施形態のように整流板42を設けても、その整流板42よりも下方の領域では、逆気流が発生する場合がある。しかしながら、この領域に逆気流が発生したとしても、その逆気流に乗って上昇した液滴等は、整流板42に遮られて吐出面まで到達しない。よって、この場合でも、逆気流に乗って吐出面に付着してしまう液滴等を少なく抑えることができる。
【0033】
次に、液柱共鳴液滴形成ユニット10による液滴形成のメカニズムについて説明する。
まず、図1に示した液滴吐出部11内の液柱共鳴液室18において生じる液柱共鳴現象の原理について説明する。
液柱共鳴液室内のトナー成分液の音速を「c」とし、振動発生手段20から媒質であるトナー成分液に与えられた駆動周波数を「f」とすると、液体の共鳴が発生する波長λは、下記の式(1)より算出することができる。
λ = c/f ・・・(1)
【0034】
本実施形態では、液共通供給路17と連通するための連通路が形成された液柱共鳴液室18の側壁部(開口側壁部)が、連通路が形成されていない反対側の側壁部(閉口側壁部)と等価であると考えることができる。この場合、液柱共鳴液室18の長手方向長さLが、波長λの4分の1の偶数倍に一致するときに、振動発生手段20の振動によって液柱共鳴液室18内の液体に共鳴振動が最も効率的に発生する。このような液柱共鳴が最も効率的に発生する液柱共鳴最適条件は、下記の式(2)によって表すことができる。なお、上記の式(2)に示す液柱共鳴最適条件は、液柱共鳴液室18の長手方向両側壁部が完全に開放された状態でも、同様に成り立つものである。
L = (N/4)×λ ・・・(2)
【0035】
一方、液柱共鳴液室18の長手方向両側壁部のうちの一方が開放された状態で、他方が閉じた状態である場合には、液柱共鳴液室18の長手方向長さLが波長λの4分の1の奇数倍に一致するときに液柱共鳴が最も効率的に形成される。つまり、この場合の液柱共鳴最適条件は、上記式(2)中の「N」を奇数で表現したものとなる。
【0036】
最も液柱共鳴効率の高い駆動周波数fは、上記式(1)と上記式(2)より、下記の式(3)のようになる。しかしながら、実際には、液体が共鳴を減衰させる粘性を有するので無限に振動が増幅されるわけではなく、Q値を持ち、後述する式(4)及び式(5)に示すように、上記式(3)に示した最も効率の高い駆動周波数fの近傍の周波数でも共鳴は発生する。
f = N×c/(4L) ・・・(3)
【0037】
図5(a)〜(d)は、N=1、2、3の場合において、液柱共鳴液室18内の液体に生じる速度分布と圧力分布の定在波の様子を説明するための説明図である。
ただし、図5(a)は、N=1の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部の一方が開放された状態で、他方が閉じた状態である場合の例であり、図5(b)は、N=2の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部がいずれも閉じた状態である場合の例であり、図5(c)は、N=2の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部がいずれも開放された状態である場合の例であり、図5(d)は、N=3の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部の一方が開放された状態で、他方が閉じた状態である場合の例である。
【0038】
また、図6(a)〜(c)は、N=4、5の場合において、液柱共鳴液室18内の液体に生じる速度分布と圧力分布の定在波の様子を説明するための説明図である。
ただし、図6(a)は、N=4の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部がいずれも閉じた状態である場合の例であり、図6(b)は、N=4の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部がいずれも開放された状態である場合の例であり、図6(c)は、N=5の場合であって、液柱共鳴液室18の長手方向両端部の一方が開放された状態で、他方が閉じた状態である場合の例である。
【0039】
図5及び図6において、実線が速度の定在波、点線が圧力の定在波である。また、液柱共鳴液室18内の液体に生じる波は実際には疎密波(縦波)であるが、図5及び図6では、これを正弦波(余弦波)の形で表記している。例えば、図5(a)の速度分布を見ると、閉じている閉口側壁部で速度分布の振幅がゼロとなり、開口している開口側壁部で振幅が最大となることが直感的に理解でき、わかりやすいので、ここでは正弦波表記とした。なお、長手方向両側壁部の開閉状態(開放端と固定端との組み合わせパターン)によって定在波パターンは異なるため、図5及び図6では、説明のため、本実施形態の液柱共鳴液室18とは整合しない開放端と固定端との組み合わせパターンも併記した。
【0040】
詳しくは後述するが、吐出孔19の開口や、液柱共鳴液室18と液共通供給路17とを連通させる連通路の開口の状態によって、端部条件が決まる。音響学においては、開放端(開口端)では、長手方向の媒質(液)の移動速度が極大となり、圧力はゼロとなる。一方、固定端(閉口端)においては、逆に媒質の移動速度がゼロとなり、圧力が極大となる。固定端(閉口端)は音響的に硬い壁として考え、波が完全に反射することを前提に、端部が理想的に完全に閉口もしくは開口している場合は、波の重ね合わせによって図5及び図6に示したような定在波が発生するものと考える。本実施形態の液柱共鳴液室18のように吐出孔19や連通路などの開口が存在していると、その吐出孔19の数や吐出孔19の位置、連通路の大きさや位置などによっても、定在波パターンが変動する。そのため、上記式(3)から求められる理想の共鳴周波数からズレた位置に実際の共鳴周波数が現れる。ただし、このようなズレがあっても、実際の吐出状況を確認しながら駆動周波数を適宜調整すればよいので、問題ない。
【0041】
液体の音速cとして1200[m/s]を用い、液柱共鳴液室18の長手方向長さLが1.85[mm]であって、長手方向両端に壁部が存在し、両端が固定端であるモデルと等価のN=2の共鳴モードの場合、上記式(2)より、液柱共鳴液室18内の液体に最も効率に液柱共鳴を生じさせる理想の共鳴周波数は324[kHz]と導かれる。一方、液体の音速cとして1200[m/s]を用い、液柱共鳴液室18の長手方向長さLが1.85[mm]であって、両端に壁部が存在し、両端が固定端であるモデルと等価のN=4の共鳴モードの場合、上記式(2)より、液柱共鳴液室18内の液体に最も効率に液柱共鳴を生じさせる理想の共鳴周波数は648[kHz]と導かれる。このように、同じ構成の液柱共鳴液室18においても、より高次の共鳴を利用することが可能である。
【0042】
本実施形態の液柱共鳴液室18では、長手方向両端が閉口端と等価になるような構成であるか、吐出孔19の開口の影響で音響的に軟らかい壁として説明できる構成であることが、共鳴周波数を高めるためには好ましいが、それに限らず、例えば長手方向両端が開放端と等価になるような構成を採用してもよい。ここでの吐出孔19の開口の影響とは、音響インピーダンスが小さくなり、特にコンプライアンス成分が大きくなることを意味する。本実施形態の液柱共鳴液室18に設けられる吐出孔19は、図1に示すように、その全体が長手方向一端側(液共通供給路17とは逆側)に寄せて配置されているので、当該一端側は、吐出孔19の開口の影響により開放端(開口端)とみなすこともできる。その結果、図5(b)や図6(a)のような液柱共鳴液室18の長手方向両端壁部を閉口端と等価な構成とする場合、両端が固定端である共鳴モードだけでなく、一端が開放端で他端が固定端である共鳴モードも利用することが可能である。
【0043】
また、吐出孔19の数、吐出孔19の配置、吐出孔19の断面形状も、駆動周波数を決定する因子となり、駆動周波数はこれに応じて適宜決定することができる。例えば、吐出孔19の配置を長手方向一端側へ寄せるほど、当該長手方向端部において液柱共鳴液室18の壁部による拘束が緩くなる。よって、吐出孔19の配置を長手方向一端側へ寄せるほど、当該長手方向端部がほぼ開口端に近い状態になり、駆動周波数が高くなるように変更される。また、例えば、吐出孔19の数を多くすると、吐出孔19の配置が寄せられた長手方向一端において液柱共鳴液室18の壁部による拘束が緩くなり、当該長手方向端部がほぼ開口端に近い状態になって駆動周波数が高くなるように変更される。そのほかにも、例えば、吐出孔19の断面形状を変更したり、吐出孔19の寸法を変更したりする場合にも、駆動周波数を変更する必要がある。
【0044】
このように決定される駆動周波数で振動発生手段20に交流電圧を与えたとき、その電圧変動に応じて振動発生手段20の圧電体20Aが変形し、これにより弾性板20Bが変位する。その結果、駆動周波数に対応した振動が液柱共鳴液室18内の液体に加えられ、液柱共鳴液室18内の液体には液柱共鳴定在波が発生する。ただし、液柱共鳴定在波が最も効率よく発生する駆動周波数の近い周波数であれば、液柱共鳴定在波は発生する。具体的には、液共通供給路17側の長手方向壁部と液共通供給路17に最も近くに配置された吐出孔との距離をLeとしたとき、このLeと液柱共鳴液室の長手方向両壁部間の長さLとを用いて、液柱共鳴定在波を発生させる駆動周波数fの範囲は、例えば、下記の式(4)及び(5)によって定義することができる。これらの式(4)及び(5)によって決定される範囲内の駆動周波数fを主成分とした駆動波形を用いて振動発生手段20を振動させることで、液柱共鳴を誘起して液滴を吐出孔19から適切に吐出することが可能である。ただし、LとLeとの比がLe/L>0.6であることが好ましい。
N×c/(4L) ≦ f ≦ N×c/(4Le) ・・・(4)
N×c/(4L) ≦ f ≦ (N+1)×c/(4Le) ・・・(5)
【0045】
以上説明した液柱共鳴現象の原理を用いて、本実施形態では、図1に示す液柱共鳴液室18において液柱共鳴圧力定在波を形成し、液柱共鳴液室18に配置された吐出孔19から連続的な液滴吐出を生じさせるのである。そのため、圧力の定在波が最も大きく変動する位置に吐出孔19を配置すると、吐出効率が高くなり、駆動電圧をより低く抑えることができる点で好ましい。
【0046】
また、吐出孔19は1つの液柱共鳴液室18に1つでも構わないが、上述したように1つの液柱共鳴液室18に対して複数個配置することが生産性の観点から好ましい。具体的には、2〜100個の間であることが好ましい。100個を超えると、それぞれの吐出孔19から液滴を適切に吐出させようとすると、振動発生手段20に与える駆動電圧を高く設定する必要が生じ、振動発生手段20の圧電体20Aの挙動が不安定となりやすい。
【0047】
また、1つの液柱共鳴液室18に対して複数の吐出孔19を形成する場合、吐出孔間のピッチは、20[μm]以上であるのが好ましい。吐出孔間のピッチが20[μm]より小さい場合、隣り合う吐出孔からそれぞれ吐出された液滴同士が接触して大きな液滴となってしまう確率が高くなり、トナーの粒径分布が悪化する可能性が高まるからである。
【0048】
次に、液柱共鳴液滴形成ユニット10における液滴吐出部11内の液柱共鳴液室18で生じる液柱共鳴現象の様子について説明する。
図7(a)〜(d)は、液柱共鳴液室18で生じる液柱共鳴現象の様子を模式的に表した説明図である。
図7における液柱共鳴液室18内に記した実線は、液柱共鳴液室18の長手方向の任意の測定位置における速度をプロットして得た速度分布を示すものであり、図中左側の閉口側壁部側から図中右側の開口側壁部へ向かう方向をプラスとし、その逆方向をマイナスとしている。また、図7における液柱共鳴液室18内に記した点線は、液柱共鳴液室18の長手方向の任意の測定位置における圧力値をプロットして得た圧力分布を示すものであり、大気圧に対して正圧をプラスとし、負圧をマイナスとしている。
【0049】
本実施形態において、図1に示したように、液滴吐出部11内の液柱共鳴液室18の底面から、液共通供給路17と連通する連通路の下端までの高さh1(=約80[μm])は、連通口の高さh2(=約40[μm])の約2倍に設定されている。そのため、本実施形態の液柱共鳴液室18は、長手方向両端がほぼ固定端であるのと近似的に考えることができる。図7(a)〜(d)は、このような考えの下で、速度分布及び圧力分布の時間的な変化を示している。
【0050】
図7(a)は、液滴吐出時における液柱共鳴液室18内の圧力波形と速度波形を示している。このとき、液柱共鳴液室18内における閉口側壁部側の液体部分、すなわち、吐出孔19が設けられている液室領域内の液体部分(吐出孔付近の液体)は、圧力が極大となる。これにより、メニスカス圧が増大して各吐出孔19から液体が迫り出す。その後、図7(b)に示すように、吐出孔19付近の液体の圧力は小さくなり、負圧の方向へと移行することで、吐出孔19から液滴21が吐出される。
【0051】
その後、図7(c)に示すように、吐出孔19付近の液体の圧力は極小になる。このときから、液共通供給路17から液柱共鳴液室18へのトナー成分液14の補充が始まる。そして、図7(d)に示すように、吐出孔19付近の液体の圧力は、今度は徐々に大きくなり、正圧の方向へと移行する。この時点で、トナー成分液14の補充が終了し、再び、液柱共鳴液室18の吐出孔19付近の液体の圧力は、図7(a)に示すように、その圧力が極大となる。
【0052】
このように、液柱共鳴液室18内における吐出孔19付近の液体には、振動発生手段20の高周波駆動によって液柱共鳴による定在波が発生し、また圧力が最も大きく変動する位置となる液柱共鳴による定在波の腹に相当する箇所に吐出孔19が配置されていることから、当該腹の周期に応じて液滴21が吐出孔19から連続的に吐出される。
【0053】
図8は、本実施形態に係るトナー製造方法を実施するトナー製造装置の一例を示す模式図である。
このトナー製造装置は、主に、上述した液柱共鳴液滴形成ユニット10と、乾燥捕集ユニット60と、トナー成分液補充ユニット30とから構成されている。
【0054】
トナー成分液補充ユニット30は、トナー成分液14を貯留したトナー成分液タンク31を備えている。トナー成分液タンク31は、トナー成分液供給流路32を介して液柱共鳴液滴形成ユニット10に接続されている。トナー成分液供給流路32には、トナー成分液供給流路32内のトナー成分液14を圧送する液循環ポンプ33が接続されており、液循環ポンプ33の駆動により、トナー成分液タンク31内のトナー成分液14はトナー成分液供給流路32を通じて液柱共鳴液滴形成ユニット10へと供給される。
【0055】
また、トナー成分液タンク31は、液戻り管34を介して液柱共鳴液滴形成ユニット10に接続されている。トナー成分液供給流路32から液柱共鳴液滴形成ユニット10へ供給されたトナー成分液14のうち、液柱共鳴液滴形成ユニット10の液柱共鳴液室18へ補充されなかったものは、液循環ポンプ33の駆動により、液戻り管34を通じてトナー成分液タンク31へ戻される。
【0056】
本実施形態において、トナー成分液供給流路32には圧力測定器P1が設けられており、乾燥捕集ユニット60には圧力測定器P2が設けられている。液柱共鳴液滴形成ユニット10への送液圧力および乾燥捕集ユニット60内の圧力はこれらの圧力測定器P1,P2の測定結果に基づいて管理される。このとき、圧力測定器P1の圧力が圧力測定器P2の圧力よりも大きい関係であると、トナー成分液14が吐出孔19から染み出すおそれがある。逆に、圧力測定器P1の圧力が圧力測定器P2の圧力よりも小さい関係であると、液柱共鳴液滴形成ユニット10内に気体が入り込んで吐出が停止してしまうおそれがある。したがって、圧力測定器P1の圧力と圧力測定器P2の圧力とはほぼ等しい関係であるのが望ましい。
【0057】
乾燥捕集ユニット60には、チャンバ61が設けられており、このチャンバ61内に液柱共鳴液滴形成ユニット10が設置される。チャンバ61内には、搬送気流導入口64から下降気流(搬送気流)101が送り込まれ、液柱共鳴液滴形成ユニット10から吐出された液滴21は、重力だけでなく、この下降気流101によっても、下方に向けて搬送される。チャンバ61内を下方へ搬送された液滴は、その搬送中に乾燥固化し、捕集用出口65から排出されて、固化粒子捕集手段62へと送り込まれ、捕集される。固化粒子捕集手段62で捕集された粒子は、その後、必要に応じて二次乾燥処理を行う乾燥手段63に送られる。
【0058】
吐出された液滴同士が乾燥前に接触すると、液滴同士が合体して一つの大きな粒子になってしまう合着と呼ばれる現象が発生し、トナー粒径分布が広がってしまう。そのため、粒径分布の狭いトナー粒子を得るためには、吐出された液滴どうしの距離を確保する必要がある。しかしながら、吐出された液滴は、一定の初速度を持っているが、空気抵抗によって徐々に失速する。そのため、失速した液滴に対して後から吐出された液滴が追いついてしまうことがあり、合着が発生するおそれがある。このような合着現象は定常的に発生するため、この粒子を捕集すると、粒径分布はひどく悪化することとなる。このような合着現象を防ぐため、本実施形態では、下降気流101によって液滴の速度低下を防ぎ、液滴同士が接触しないようにしている。
【0059】
本実施形態における搬送気流(下降気流101)の向きは下方に向いているが、図9に示すように、液滴吐出方向に対して横方向に向かう搬送気流101を採用することもできる。ただし、この場合には、吐出孔19から搬送気流101によって搬送される液滴の軌跡が重ならないように搬送気流101を形成することが望まれる。搬送気流の向きは、液滴吐出方向に対して横方向でなくても、液滴吐出方向に対して斜め方向であってもよいが、吐出された液滴が離れるような角度を持っていることが望まれる。
【0060】
また、本実施形態では、下降気流101によって合着の防止と固化粒子捕集手段62への搬送の両方を実現しているが、合着の防止を行うための第1気流と、固化粒子捕集手段62へと搬送するための第2気流とを別々に形成してもよい。この場合、第1気流の流速は吐出時における液滴の移動速度と同じかそれ以上であることが望ましい。吐出時の液滴移動速度より第1気流の流速が遅いと、第1気流本来の目的である液滴同士の接触を防止する機能を十分に果たせない可能性がある。第1気流のその他の特性については、液滴同士が接触しないような条件を適宜追加してもよく、第2気流の特性と必ずしも同じである必要はない。例えば、第1気流に液滴の固化を促進させるような化学物質を混入させたり、液滴の固化を促進させるように物理的な作用を施したりしてもよい。
【0061】
本実施形態の下降気流101は、例えば、層流、旋回流、乱流などであっても構わない。下降気流101を構成する気体の種類は特に限定は無く、空気であっても窒素等の不燃性気体を用いたものでもよい。また、下降気流101の温度は適宜調整可能であり、生産時において変動の無いことが望ましい。また、チャンバ61内に下降気流101の気流状態を変えるような手段を設けても構わない。また、下降気流101は、液滴同士の接触を防止すだけでなく、チャンバ61の内壁に付着することを防止することに用いても良い。
【0062】
図8で示すように、本実施形態では、固化粒子捕集手段62によって捕集されたトナー粒子に含まれる残留溶剤量が多い場合には、これを低減するために必要に応じて、乾燥手段63によって二次乾燥が行われる。二次乾燥としては、流動床乾燥や真空乾燥のような一般的な公知の乾燥手段を用いることができる。有機溶剤がトナー中に残留すると、耐熱保存性や定着性、帯電特性等のトナー特性が経時で変動するだけでなく、画像形成動作時の加熱定着の際に有機溶剤が揮発するため、画像形成装置内の各種機器へ悪影響を及ぼす可能性が高まり、充分な乾燥を実施すること事が望まれる。
【0063】
以下、本実施形態で製造するトナーについて説明する。
本実施形態で製造するトナーは、少なくとも樹脂、着色剤およびワックスを含有し、必要に応じて、帯電調整剤、添加剤およびその他の成分を含有する。
【0064】
まず、本実施形態で用いるトナー成分液について説明する。
トナー成分液は上述したトナー成分が溶媒に溶解又は分散させた液体状態であるか、または吐出させる条件下で液体であれば溶媒を含まなくてもよく、トナー成分の一部またはすべてが溶融した状態で混合され液体状態を呈しているものである。トナー材料としては、上記のトナー成分液を調整することができれば、公知の電子写真用トナーと同じ物が使用できる。このようなトナー成分液を液柱共鳴液滴形成ユニット10から微小液滴となるように吐出し、その微小液滴を乾燥固化したものを固化粒子捕集手段62で捕集することで、目的とするトナー粒子を作製する。
【0065】
上記樹脂としては、少なくとも結着樹脂が挙げられる。
上記結着樹脂としては、特に制限はなく、通常使用される樹脂を適宜選択して使用することができるが、例えば、スチレン系単量体、アクリル系単量体、メタクリル系単量体等のビニル重合体、これらの単量体又は2種類以上からなる共重合体、ポリエステル系重合体、ポリオール樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、石油系樹脂、などが挙げられる。
【0066】
結着樹脂の性状としては溶媒に溶解することが望ましく、この特徴を除けば従来公知の性能を持っていることが望ましい。
結着樹脂のGPC(ゲルパーメンテーションクロマトグラフィ)による分子量分布で、分子量3千〜5万の領域に少なくとも1つのピークが存在するのが、トナーの定着性、耐オフセット性の点で好ましく、また、THF可溶分としては、分子量10万以下の成分が60〜100[%]となるような結着樹脂も好ましく、分子量5千〜2万の領域に少なくとも1つのピークが存在する結着樹脂がより好ましい。結着樹脂の酸価が0.1〜50[mgKOH/g]を有する樹脂を60[質量%]以上有するものが好ましい。
本実施形態において、トナー組成物の結着樹脂成分の酸価は、JIS K−0070に準じて測定したものである。
【0067】
本実施形態で使用できる磁性体としては、電子写真トナーに用いられる公知のものを使用することができる。例えば、(1)マグネタイト、マグヘマイト、フェライトの如き磁性酸化鉄、及び他の金属酸化物を含む酸化鉄、(2)鉄、コバルト、ニッケル等の金属、又は、これらの金属とアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、錫、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウム等の金属との合金、及び(3)これらの混合物、などが用いられる。上記磁性体は、着色剤としても使用することができる。上記磁性体の使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、磁性体10〜200質量部が好ましく、20〜150質量部がより好ましい。これらの磁性体の個数平均粒径としては、0.1〜2[μm]が好ましく、0.1〜0.5[μm]がより好ましい。上記個数平均径は、透過電子顕微鏡により拡大撮影した写真をデジタイザー等で測定することにより求めることができる。
【0068】
上記着色剤としては、特に制限はなく、通常使用される樹脂を適宜選択して使用することができる。
上記着色剤の含有量としては、トナーに対して1〜15[質量%]が好ましく、3〜10[質量%]がより好ましい。本実施形態に係るトナーで用いる着色剤は、樹脂と複合化されたマスターバッチとして用いることもできる。マスターバッチは顔料を予め分散させるためのものであり、顔料の充分な分散が得られていれば用いなくても良い。マスターバッチは一般的に顔料と樹脂とを高せん断をかけることで樹脂中に顔料を硬度に分散させたものである。マスターバッチの製造またはマスターバッチとともに混練されるバインダー樹脂としては、従来公知のものを使用することができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0069】
上記マスターバッチの使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましい。マスターバッチ製造時に顔料の分散性を高めるために分散剤を用いてもよい。顔料分散性の点で、結着樹脂との相溶性が高いことが好ましく、公知のものを用いることができ、具体的な市販品としては、「アジスパーPB821」、「アジスパーPB822」(味の素ファインテクノ社製)、「Disperbyk−2001」(ビックケミー社製)、「EFKA−4010」(EFKA社製)、などが挙げられる。
【0070】
上記分散剤は、トナー中に、着色剤に対して0.1〜10[質量%]の割合で配合することが好ましい。配合割合が0.1[質量%]未満であると、顔料分散性が不十分となることがあり、10[質量%]より多いと、高湿下での帯電性が低下することがある。上記分散剤の添加量は、着色剤100質量部に対して1〜200質量部であることが好ましく、5〜80質量部であることがより好ましい。1質量部未満であると分散能が低くなることがあり、200質量部を超えると帯電性が低下することがある。
【0071】
本実施形態で用いるトナー成分液は、結着樹脂、着色剤とともにワックスを含有する。
ワックスとしては、特に制限はなく、通常使用されるものを適宜選択して使用することができ、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、サゾールワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス、酸化ポリエチレンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合体、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう等の植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックス、オゾケライト、セレシン、ペテロラタム等の鉱物系ワックス、モンタン酸エステルワックス、カスターワックスの等の脂肪酸エステルを主成分とするワックス類、脱酸カルナバワックスの等の脂肪酸エステルを一部又は全部を脱酸化したもの、などが挙げられる。
【0072】
上記ワックスの融点としては、定着性と耐オフセット性のバランスを取るために、70〜140[℃]であることが好ましく、70〜120[℃]であることがより好ましい。70[℃]未満では耐ブロッキング性が低下することがあり、140[℃]を超えると耐オフセット効果が発現しにくくなることがある。上記ワックスの総含有量としては、結着樹脂100質量部に対し、0.2〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましい。本実施形態では、DSC(ディファレンシャルスキャニングカロリメトリー)において測定されるワックスの吸熱ピークの最大ピークのピークトップの温度をもってワックスの融点とする。上記ワックス又はトナーのDSC測定機器としては、高精度の内熱式入力補償型の示差走査熱量計で測定することが好ましい。測定方法としては、ASTM D3418−82に準じて行う。本実施形態に用いられるDSC曲線は、1回昇温、降温させ前履歴を取った後、温度速度10[℃/min]で、昇温させた時に測定されるものを用いる。
【0073】
本実施形態に係るトナーには、他の添加剤として、潜像担持体やキャリアの保護、クリーニング性の向上、熱特性・電気特性・物理特性の調整、抵抗調整、軟化点調整、定着率向上等を目的として、各種金属石けん、フッ素系界面活性剤、フタル酸ジオクチルや、導電性付与剤として酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化アンチモン等や、酸化チタン、酸化アルミニウム、アルミナ等の無機微粉体などを必要に応じて添加することができる。これらの無機微粉体は、必要に応じて疎水化してもよい。また、ポリテトラフルオロエチレン、ステアリン酸亜鉛、ポリフッ化ビニリデン等の滑剤、酸化セシウム、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウム等の研磨剤、ケーキング防止剤、更に、トナー粒子と逆極性の白色微粒子及び黒色微粒子とを、現像性向上剤として少量用いることもできる。
【0074】
これらの添加剤は、帯電量コントロール等の目的で、その表面をシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シランカップリング剤、官能基を有するシランカップリング剤、その他の有機ケイ素化合物等の処理剤、又は種々の処理剤で処理することも好ましい。上記添加剤としては、無機微粒子を好ましく用いることができる。上記無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、等公知のものを使用できる。
【0075】
この他、高分子系微粒子たとえばソープフリー乳化重合や懸濁重合、分散重合によって得られるポリスチレン、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステル共重合体やシリコーン、ベンゾグアナミン、ナイロンなどの重縮合系、熱硬化性樹脂による重合体粒子が挙げられる。
【0076】
このような外添剤は、表面処理剤により、疎水性を上げ、高湿度下においても外添剤自身の劣化を防止することができる。上記表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、シリル化剤、フッ化アルキル基を有するシランカップリング剤、有機チタネート系カップリング剤、アルミニウム系のカップリング剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、などが好適に挙げられる。
【0077】
上記外添剤の一次粒子径としては、5[nm]〜2[μm]であることが好ましく、5[nm]〜500[nm]であることがより好ましい。また、BET法による比表面積としては、20〜500[m/g]であることが好ましい。この無機微粒子の使用割合としては、トナーの0.01〜5[重量%]であることが好ましく、0.01〜2.0[重量%]であることがより好ましい。
【0078】
静電潜像担持体や一次転写媒体に残存する転写後の現像剤を除去するためのクリーニング性向上剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸等の脂肪酸金属塩、ポリメチルメタクリレート微粒子、ポリスチレン微粒子等のソープフリー乳化重合によって製造されたポリマー微粒子、などを挙げることかできる。ポリマー微粒子は比較的粒度分布が狭く、体積平均粒径が0.01から1[μm]のものが好ましい。
【0079】
〔実施例〕
以下、本発明の一実施例について説明する。
本実施例で使用したトナー成分液の処方を以下に示す。なお、液滴吐出条件は、上述した実施形態で説明した通りである。
まず、着色剤としての、カーボンブラックの分散液を調製した。カーボンブラック(RegaL400:Cabot社製)17質量部、顔料分散剤3質量部を、酢酸エチル80質量部に、攪拌羽を有するミキサーを使用して一次分散させた。この顔料分散剤としては、アジスパーPB821(味の素ファインテクノ社製)を使用した。得られた一次分散液を、ビーズミル(アシザワファインテック社製LMZ型、ジルコニアビーズ径0.3[mm])を用いて強力なせん断力により細かく分散し、5[μm]以上の凝集体を完全に除去した二次分散液を調製した。
【0080】
次にワックス分散液を調整した。カルナバワックス18質量部、ワックス分散剤2質量部を、酢酸エチル80質量部に、攪拌羽を有するミキサーを使用して一次分散させた。この一次分散液を攪拌しながら80[℃]まで昇温し、カルナバワックスを溶解した後、室温まで液温を下げ、最大径が3[μm]以下となるようワックス粒子を析出させた。ワックス分散剤としては、ポリエチレンワックスにスチレン−アクリル酸ブチル共重合体をグラフト化したものを使用した。得られた分散液を、更にビーズミル(アシザワファインテック社製LMZ型、ジルコニアビーズ径0.3[mm])を用いて強力なせん断力により細かく分散し、最大径が1[μm]以下なるよう調整した。
【0081】
次に、結着樹脂としての樹脂、上記着色剤分散液及び上記ワックス分散液を添加した下記組成からなるトナー成分液を調製した。結着樹脂としてのポリエステル樹脂100質量部、上記着色剤分散液30質量部、ワックス分散液30質量部を、酢酸エチル840質量部を、攪拌羽を有するミキサーを使用して10分間攪拌を行い、均一に分散させた。溶媒希釈によるショックで顔料やワックス粒子が凝集することはなかった。
【0082】
次に、本実施例で使用したトナー製造装置の条件について説明する。なお、このトナー製造装置の構成は、実施形態で説明した通りである。
本実施形態の液柱共鳴液滴形成ユニット10において、液柱共鳴液室18の長手方向両端間の長さLは1.85[mm]、N=2の共鳴モードであって、当該長手方向に沿って並んだ第1〜第4の吐出孔19がN=2モードでの圧力定在波の腹の位置に配置されている。駆動信号発生源は、NF社ファンクションジェネレーターWF1973を用い、ポリエチレン被覆のリード線で振動発生手段20に接続した。駆動周波数は液共鳴周波数に合わせて340[kHz]とした。また、振動発生手段20の圧電体20Aとしては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を用いた。
【0083】
本実施例における液柱共鳴液滴形成ユニット10の吐出面の近傍に配置した整流板42は、板厚が200[μm]で、開口43の外周縁である整流板42の内縁部から整流板42の外縁部までの最短距離が10mmである。
【0084】
本実施形態の乾燥捕集ユニット60において、チャンバ61の内径はφ400[mm]、高さは2000[mm]の円筒形で垂直に固定されており、上端部と下端部が絞られた形状であって、上端の搬送気流導入口の径はφ50[mm]、下端の搬送気流出口の径はφ50[mm]である。液柱共鳴液滴形成ユニット10はチャンバ61内の上端より300[mm]の高さでチャンバ61の水平方向中央に配置されている。搬送気流(下降気流101)は10.0[m/s]、40[℃]の窒素とした。固化粒子捕集手段62としては、サイクロン捕集機を用いた。
【0085】
上述のトナー製造装置を用いて、作成したトナー成分液を吐出させ、チャンバ61内で乾燥固化したトナー粒子をサイクロン捕集機で捕集した。吐出に使用した吐出孔19の数は192[個]だった。各4個ずつの吐出孔19を持つ48個の液柱共鳴液室18に吐出開始信号を与え、吐出を行った。振動発生手段20に与えられる駆動信号は、340[kHz]の正弦波信号で、振動発生手段20の圧電体20Aにかかるピークツーピーク電圧が10[V]となるように設定した。トナー成分液14は、濃度が10%(10%質量部)の液を用いた。
【0086】
本実施例により製造されるトナーの評価を、以下のようにして行った。
本実施例のトナー製造装置を用いて、作成したトナー成分液14を吐出させ、その液滴をチャンバ61内で乾燥固化して得たトナー粒子をサイクロン捕集機で捕集して、トナー貯蔵容器に収容した。吐出動作開始から、5分経過後と、60分経過後に、トナー貯蔵容器よりトナーを取り出し、各経過時間ごとのトナーを収集した。そして、それぞれのトナーについて、そのトナー粒径分布を、フロー式粒子像解析装置(シスメックス社 FPIA−3000)を用い、下記に示す測定条件にて測定した。以上のようなトナーの製造と測定を3回繰り返し、その平均値で評価を行った。
【0087】
フロー式粒子像解析装置(Flow Particle Image Analyzer)による測定は、フィルターを通して微細なごみを取り除き、その結果として10−3[cm]の水中に測定範囲(例えば、円相当径0.60[μm]以上159.21[μm]未満)の粒子数が20個以下の水10[ml]中にノニオン系界面活性剤(好ましくは和光純薬社製コンタミノンN)を数滴加え、更に、測定試料を5[mg]加え、超音波分散器STM社製UH−50で20[kHz]、50[W]/10[cm]の条件で1分間分散処理を行い、さらに、合計5分間の分散処理を行い測定試料の粒子濃度が4000〜8000[個/10−3・cm](測定円相当径範囲の粒子を対象として)の試料分散液を用いて、0.60[μm]以上159.21[μm]未満の円相当径を有する粒子の粒度分布を測定する。
【0088】
試料分散液は、フラットで偏平な透明フローセル(厚み約200[μm])の流路(流れ方向に沿って広がっている)を通過させる。フローセルの厚みに対して交差して通過する光路を形成するために、ストロボとCCDカメラが、フローセルに対して、相互に反対側に位置するように装着される。試料分散液が流れている間に、ストロボ光がフローセルを流れている粒子の画像を得るために1/30秒間隔で照射され、その結果、それぞれの粒子は、フローセルに平行な一定範囲を有する2次元画像として撮影される。それぞれの粒子の2次元画像の面積から、同一の面積を有する円の直径を円相当径として算出する。
【0089】
約1分間で、1200個以上の粒子の円相当径を測定することができ、円相当径分布に基づく数及び規定された円相当径を有する粒子の割合(個数%)を測定できる。結果(頻度%及び累積%)は、0.06〜400[μm]の範囲を226チャンネル(1オクターブに対し30チャンネルに分割)に分割して得ることができる。実際の測定では、円相当径が0.60[μm]以上159.21[μm]未満の範囲で粒子の測定を行う。
【0090】
本実施例において、この測定の結果、得られたトナー粒子の体積平均粒径(Dv)の平均(3回測定の平均。以下同様。)は、5.3[μm]で、個数平均粒径(Dn)の平均は、5.1[μm]であり、Dv/Dnの平均は1.04であった。以上の結果、実施例によるトナー製造方法によれば、狭い粒径分布をもったトナーを安定して生産でき、また、その生産効率も高いことが確認された。
【0091】
本実施例では、上述したトナー製造方法のほか、吐出面とこれに平行に配置された整流板42との距離(整流板垂直距離)、整流板42の内縁部(開口43の外縁部)と当該内縁部に最も近接した吐出孔との水平方向距離(整流板水平距離)、吐出時に振動発生手段20の圧電体20Aに印加する駆動信号(正弦波)のピークツーピーク(peak-to-peak)電圧の値(駆動電圧)、を適宜変更し、それぞれについて、上述した評価を行った。下記の表1に、それらの条件及び評価結果を示す。なお、比較例1及び比較例2として、整流板42を設置しない場合についても、評価を行った。
【0092】
【表1】

【0093】
本実施例の評価において、吐出安定性は、それぞれの条件において10分間の吐出動作を継続し、その時点で吐出が継続している吐出孔の数について全吐出孔数に対する割合(%)に基づいて4段階(二重丸、一重丸、三角、バツ)評価したものである。当該割合(%)と各評価段階との関係は下記の表2に示すとおりである。
また、本実施例の評価において、粒度分布は、捕集されたトナーのDv/Dnの平均値に基づいて4段階(二重丸、一重丸、三角、バツ)評価したものである。Dv/Dnの平均値と各評価段階との関係は下記の表2に示すとおりである。
【0094】
【表2】

【0095】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
液滴が固化すると微粒子となるトナー成分液14等の微粒子成分含有液の液滴21を液柱共鳴液滴形成ユニット10等の液滴吐出装置の吐出面に開口した複数の吐出孔19から吐出する吐出動作を継続して行い、吐出した液滴21を固化させることによりトナー粒子等の微粒子を製造するトナー製造装置等の微粒子製造装置において、上記複数の吐出孔19から吐出された液滴21を上記吐出面に向けて逆移動させる逆気流の発生を規制する整流板42等の逆気流規制手段を有することを特徴とする。
これによれば、上述したとおり、吐出された液滴21を吐出面に向けて上昇(逆移動)させる逆気流の発生が規制されるので、このような逆気流に乗って逆移動する液滴等が吐出面に付着する機会を減少させることができる。よって、吐出面上の吐出孔出口あるいは吐出孔出口近傍に付着した液滴等によって引き起こされる微粒子成分含有液の染み出しが抑制され、これに起因して、液滴の合着や分裂が発生したり、周辺の吐出孔が塞がって液室内の圧力変動が生じ、液滴の大きさの均一性と液滴の吐出方向性が失われたりして、製造される微粒子の粒度分布が広がってしまうという問題が軽減される。
【0096】
(態様B)
上記態様Aにおいて、上記逆気流規制手段は、上記複数の吐出孔19から吐出された液滴21を通過させる開口43を備えた整流板42を上記吐出面に対向配置して、上記複数の吐出孔の出口周辺に生じ得る乱気流の発生を規制することを特徴とする。
これによれば、吐出された液滴21を吐出面に向けて上昇(逆移動)させる逆気流の発生を、簡易な構成で効果的に規制することができる。
【0097】
(態様C)
上記態様A又はBにおいて、上記液滴吐出装置は、該液滴吐出装置内の液柱共鳴液室18内に振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、該定在波の腹となる領域に形成された該液柱共鳴液室18の吐出孔19から該液柱共鳴液室内の微粒子成分含有液の液滴21を吐出するものであることを特徴とする。
これによれば、高い周波数での液体の連続的な液滴吐出が実現でき、極めて高い生産性が期待できる。
【符号の説明】
【0098】
10 液柱共鳴液滴形成ユニット
11 液滴吐出部
14 トナー成分液
19 吐出孔
21 液滴
30 トナー成分液補充ユニット
31 トナー成分液タンク
32 トナー成分液供給流路
33 液循環ポンプ
34 液戻り管
41 薄膜
42 整流板
43 開口
44 整流板固定用孔
60 乾燥捕集ユニット
61 チャンバ
62 固化粒子捕集手段
63 乾燥手段
64 搬送気流導入口
65 捕集用出口
101 下降気流
【先行技術文献】
【特許文献】
【0099】
【特許文献1】特許第3786034号公報
【特許文献2】特許第3786035号公報
【特許文献3】特開昭57−201248号公報
【特許文献4】特開2006−293320号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴が固化すると微粒子となる微粒子成分含有液の液滴を液滴吐出装置の吐出面に開口した複数の吐出孔から吐出する吐出動作を継続して行い、吐出した液滴を固化させることにより微粒子を製造する微粒子製造装置において、
上記複数の吐出孔から吐出された液滴を上記吐出面に向けて逆移動させる逆気流の発生を規制する逆気流規制手段を有することを特徴とする微粒子製造装置。
【請求項2】
請求項1の微粒子製造装置において、
上記逆気流規制手段は、上記複数の吐出孔から吐出された液滴を通過させる開口を備えた整流板を上記吐出面に対向配置して、上記複数の吐出孔の出口周辺に生じ得る乱気流の発生を規制することを特徴とする微粒子製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2の微粒子製造装置において、
上記液滴吐出装置は、該液滴吐出装置内の液柱共鳴液室内に振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、該定在波の腹となる領域に形成された該液柱共鳴液室の吐出孔から該液柱共鳴液室内の微粒子成分含有液の液滴を吐出するものであることを特徴とする微粒子製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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