説明

微細多孔性高分子膜の製造方法及び該方法で製造された微細多孔性高分子膜

本発明は、高分子材料を提供する段階と、前記高分子材料を溶融する段階と、前記溶融された高分子材料を、エアーナイフを用いて冷却及び結晶化して前駆体フィルムを形成する段階と、前記前駆体フィルムを延伸する段階と、前記延伸された前駆体フィルムを熱処理する段階と、前記熱処理された前駆体フィルムを低温で1次延伸する段階と、前記1次延伸されたフィルムを高温で2次延伸して予備膜を形成する段階と、前記予備膜を熱固定して微細多孔性高分子膜を形成する段階と、を備えた微細多孔性高分子膜の製造方法及び該方法で製造された微細多孔性高分子膜に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細多孔性高分子膜の製造方法、及び該方法で製造された微細多孔性高分子膜に関し、特に、エアーナイフ及び2軸延伸装置を用いた溶融延伸及び2軸延伸で製造された微細多孔性高分子膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細多孔性膜は、医療用透析、環境ろ過、食品精製などの多様な分野で広く用いられている。最近は、微細多孔性膜がリチウム二次電池(リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池など)の分離膜として広く用いられている。特に、リチウムポリマー電池に用いられる微細多孔性膜は、正極及び負極分離膜の役割だけでなく、イオン伝導の媒介体、すなわち、電解質の役割も担う。このように電池の分離膜及び電解質として用いられる微細多孔性膜は、主にポリオレフィン系樹脂を用いて製造され得る。ポリエチレン及びポリプロピレンのような結晶化度が高いポリオレフィン系樹脂は、リチウム二次電池の分離膜として使われる場合、引張り強度、剛性及び衝撃強度が向上するだけでなく、イオン透過度が大きく向上され得る。
【0003】
前記ポリオレフィン系樹脂を用いた微細多孔性膜の製造方法は、前駆体フィルムを用いて製造できるが、かかる前駆体フィルムを用いた微細多孔性膜の製造方法には、溶融延伸法(Melt Casting and Stretching:1相)、熱誘導相分離法(2相)、相転換法(3相)が含まれる。特に、ドライ製造方法に基づいて溶媒を使用せずに高分子のみを原料として使用して延伸のみを用いるMSS方式、及び、ウェット製造方法に基づいて高分子と溶媒と抽出剤とを必ず使用する熱誘導相分離方式が有用である。
【0004】
前記ドライ製造方法のうち、1軸延伸によって微細気孔を与えるドライ製造(以下、“ドライ1軸延伸法”という)は、生産工程が簡単で量産が可能であるため最も経済的であり、機械方向(MD)引張り強度を向上させることができるため長所があり、また、有機溶媒を使用しないため環境に優しい。しかし、この製造方法は、1軸延伸による高分子鎖の単方向配向により、TD(製品幅方向)の引張り強度が低いという短所がある。
【0005】
一方、前記ウェット製造方法は、溶媒を用いて微細多孔性複合膜を製造する方法であって、このようなウェット製造方法は、有機溶媒を使用するため、環境問題を引き起こす。さらに、かかるウェット製造方法は、相分離のために使われる溶媒の残存及びこれによって決定される気孔サイズの限界により、高いイオン伝導度を期待できないという問題がある。
【0006】
従って、ドライ1軸延伸法のように環境に優しくて経済的であり、第1の多孔性高分子と第2のゲル化高分子と可塑剤とを用いた3重膜構造のように、機械的強度及びイオン伝導度を同時に満たす微細多孔性複合膜が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、外部空気による強制冷却によって高い巻き取り速度が与えられる微細多孔性高分子膜及びその製造方法を提供することである。
【0008】
また本発明の目的は、薄膜フィルムが容易に成形され、フィルムの揺れが最小化されて寸法安定性が向上した微細多孔性膜及びその製造方法を提供することである。
【0009】
また本発明の目的は、従来の1軸ドライ延伸を用いることによって生じるMD方向の強度よりも顕著に弱いTD強度を補強するために、2軸ドライ延伸が可能な微細多孔性膜及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、高分子材料を提供する段階と、前記高分子材料を溶融する段階と、前記溶融された高分子材料を、エアーナイフを用いて冷却及び結晶化して前駆体フィルムを形成する段階と、前記前駆体フィルムを延伸する段階と、前記延伸された前駆体フィルムを熱処理する段階と、前記熱処理された前駆体フィルムを低温で1次延伸する段階と、前記1次延伸されたフィルムを高温で2次延伸して予備膜を形成する段階と、前記予備膜を熱固定して微細多孔性高分子膜を形成する段階と、を備えた微細多孔性高分子膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細多孔性高分子膜の製造方法が、弱いTD強度を向上させてMD及びTDの双方向の機械的強度を向上させることができる。また、本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、外部空気による強制冷却が可能であるため、高い巻き取り速度を与えることができ、また、配向度を高めることができる。さらに、本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、薄膜フィルムの形成を容易とし、フィルムの揺れを最小化して寸法安定性を向上させることができる。加えて、延伸及び高温延伸段階で高分子鎖をMD方向及びTD方向に配向させることができるため、膜のMD方向及びTD方向の双方向機械的強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る微細多孔性高分子膜の製造方法における前駆体フィルムの延伸段階に使用され得る2軸延伸装置を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明に係る微細多孔性高分子膜の製造方法における高温熱処理された前駆体フィルムの1次延伸段階で1軸ドライ延伸に使用され得る1軸延伸装置を示す模式図である。
【図3】図3は、実施例5の引張り強度を示すグラフである。
【図4】図4は、比較例1の引張り強度を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1の膜の気孔径を示す写真である。
【図6】図6は、実施例2の膜の気孔径を示す写真である。
【図7】図7は、実施例3の膜の気孔径を示す写真である。
【図8】図8は、比較例1の膜の気孔径を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一の側面は、微細多孔性高分子膜の製造方法を含み、該製造方法は、高分子材料を提供する段階と、前記高分子材料を溶融する段階と、前記溶融された高分子材料を、エアーナイフを用いて冷却及び結晶化して前駆体フィルムを形成する段階と、前記前駆体フィルムを延伸する段階と、前記延伸された前駆体フィルムを熱処理する段階と、前記熱処理された前駆体フィルムを低温で1次延伸する段階と、前記1次延伸されたフィルムを2次延伸して予備膜を形成する段階と、前記予備膜を熱固定して微細多孔性高分子膜を形成する段階と、を備える。
【0014】
上記側面において、前記前駆体フィルムを延伸する段階を、2軸延伸装置を用いて実施し得る。
【0015】
この側面において、前記予備膜を形成する段階は、前記1次延伸されたフィルムを機械方向に1軸ドライ延伸してスリット状の気孔を調製する段階と、前記スリット状の気孔を有するフィルムを1軸ドライ延伸方向の機械方向と垂直に横断する方向に2軸ドライ延伸して、前記スリット状の気孔が0.05〜1μmの径を有する球形気孔に拡張して前記予備膜を形成する段階と、を含み得る。
【0016】
上記側面において、前記スリット状の気孔を調製する段階を、チャンバと、該チャンバの外側に配置され、延伸ロールに前記前駆体フィルムを供給する供給ロールと、前記チャンバの両外側に所定間隔で互いに離れて配置され、前記供給ロールから前記チャンバ内へと前記前駆体フィルムを供給する複数の延伸ロールと、前記チャンバの外側に配置され、前記延伸ロールを通過した前記前駆体フィルムを巻き取るワインダーと、から形成された1軸ドライ延伸装置を用いて実施し得る。
【0017】
上記側面において、前記予備膜の形成段階を、2軸延伸装置を用いて実施し得る。
【0018】
本発明の別の側面は、気孔径が0.05〜1μmであり、空隙率が30〜70%であり、引張り強度が400〜3,000kgf/cm2であり、厚さが10〜50μmである微細多孔性高分子膜を提供する。
【0019】
上記側面において、前記微細多孔性高分子膜は、超高分子量ポリエチレン、高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、高結晶性ポリプロピレン及びポリエチレン−プロピレン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種以上を含み得る。
【0020】
上記側面において、前記微細多孔性高分子膜は、リチウム電池に使用され得る。
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、高分子材料を提供する段階を含む。
【0023】
前記高分子材料は、当業界で使用される材料であれば特に限定されないが、超高分子量ポリエチレン、高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、高結晶性ポリプロピレン及びポリエチレン−プロピレン共重合体から選択される少なくとも1種以上を含み得る。
【0024】
また、前記高分子材料が2種以上の成分を含む場合、ヘンシェルミキサー、バンブリミキサー及びプラネタリーミキサーから選択される少なくとも1種以上を用いて混合してもよい。このとき、後の工程で気孔を製造するために添加剤が含まれていてもよい。前記添加剤は、当業界で公知の物質ならば、特に限定されない。
【0025】
本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、前記高分子材料を溶融する段階を含む。
【0026】
前記溶融段階は、当業界で用いられる方法であれば、特に限定されないが、シングルスクリューまたはツインスクリュー押出器を用いて、190〜250℃で実施され得る。
【0027】
本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、前記溶融された高分子材料を、エアーナイフを用いて冷却及び結晶化して前駆体フィルムを形成する段階を含む。
【0028】
前記溶融された高分子材料は、メルトポンプを用いて所定量ずつ供給され得る。前記溶融された高分子材料が、Tダイを用いて押出され、一字型のエアーナイフを用いて噴射される冷たい空気により強制に冷却されつつ結晶化されることによって、前駆体フィルムが形成される。この時、前記前駆体フィルムが所定速度でテイクアップロールによって引っ張られることによって、薄膜化される。また、前記エアーナイフから噴射される空気の温度は、−20℃〜40℃であることが望ましい。−20℃未満の空気が噴射されると、前記溶融された高分子材料だけでなくTダイも同時に冷却されるため、高分子材料を安定して押出することが困難となる。一方、−20℃を超える空気が噴出されると、急速冷却の効果が低下し、テイクアップロールに接触される前に膜が完全に冷却されないため、前駆体フィルムを形成する段階で形成された膜にシワが生じて安定した膜の形成が困難となる。
【0029】
前駆体フィルムを形成する段階で形成されたフィルムは、エアーナイフを使用することでMD方向での高い巻き取り速度が与えられ、これにより、高分子鎖の配向が極大化される。また、このフィルムは、薄膜成形性が向上すると同時に、約±1μmの厚さ偏差を有する厚さ均一性に優れる。
【0030】
本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、前記前駆体フィルムを延伸する段階を含む。
【0031】
前記前駆体フィルムを延伸する段階では、2軸延伸装置を用い得る。該2軸延伸装置を使用することにより、前駆体フィルムの高分子鎖の配向がMD及びTDの両方向に配向されることが可能となり、これによって膜の強度が向上する。
【0032】
図1は、前記前駆体フィルムを延伸する段階で使用される2軸延伸装置を示す模式図である。
【0033】
図1を参照すると、2軸延伸装置は、前記前駆体フィルムが巻き取られる第1巻き取り軸(図示せず)と、前記第1巻き取り軸から提供された前駆体フィルムが回動されるチェーン10と、前記前駆体フィルムを固定させつつ所定間隔を隔てて離れて配置された複数のクリップ20と、前記チェーンを通過した前駆体フィルムを巻き取る第2巻き取り軸(図示せず)と、前記第1及び第2巻き取り軸を回転させるモータ(図示せず)とを備えている。
【0034】
クリップ20は、チェーン10内のA、B、C地点に配置されることができ、A地点は300〜700mm、B地点は300〜1,000mm、C地点は300〜1、500mmの範囲であり得る。また、A(チェーン開始地点)とBとの間のD区間は、200〜400mm、BとCとの間のE区間は、1,000〜2,000mm、Cとチェーン終結地点との間のF区間は、2,700〜3,700mmの範囲内であり得る。
【0035】
また、前記2軸延伸装置のラインスピードは5〜20m/分とすることができ、上下熱風強制循環方式を用いて温度制御(有効区域で最大温度:200℃±1)を行うことができる。
【0036】
引き続き、前駆体フィルムの高分子鎖の配向がMD及びTDの両方向に配向されて前駆体フィルムの強度を向上させる段階を、さらに含むことができる。
【0037】
本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、前記延伸された前駆体フィルムを熱処理する段階を含む。前記熱処理段階は、前記延伸された前駆体フィルムの結晶化度及び弾性復元率を高めるために実施され、前記延伸された前駆体フィルムの融点以下の温度で実施され得る。前記熱処理は、当業界で用いられる方法であれば特に限定されないが、乾燥オーブンまたはホットプレートが使用され得る。
【0038】
本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、前記熱処理された前駆体フィルムを低温で1次延伸する段階を含む。この1次延伸段階では、ロールまたはその他の延伸装置を用いて室温以下の温度で1軸ドライ延伸を実施することが望ましい。
【0039】
前記1軸ドライ延伸を行うと、前駆体フィルムに均一に形成された高分子結晶構造が瞬間的な応力によって破壊され、これにより、気孔が形成される開始点である微細クラックが生成される。ここで、1軸ドライ延伸では、延伸比率があまりにも低い場合、前駆体フィルムを均一に延伸させ難いため、所定比率以上に前駆体フィルムを延伸させなければならない。前駆体フィルムの厚さが40μmであると、約50%未満の延伸比率では延伸される部分と延伸されない部分とが形成され得るため、低温延伸では50%以上の延伸比率とが確保されなければならない。しかし、あまりにも高い延伸比率(200%以上)で低温延されると、前駆体フィルムが破裂し得るため、適切な延伸比率が要求される。
【0040】
本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、前記低温延伸された前駆体フィルムを高温で2軸ドライ延伸して予備膜を形成する段階を含む。
【0041】
この方法において、微細多孔性高分子膜の形成は、前記第1延伸された前駆体フィルムをMD方向に1軸ドライ延伸してスリット状の気孔を形成する段階と、前記スリット状の気孔を有するフィルムを、1軸ドライ延伸方向と垂直なTD方向に2軸ドライ延伸して予備膜を形成し、これにより前記スリット状の気孔を0.05〜1μmの孔径を有する球形気孔へと拡張してする段階と、を含む。
【0042】
前記スリット状の気孔を形成する段において、前記1次ドライ延伸は、高温で1軸ドライ延伸を行う段階であり得る。
【0043】
高温での1軸ドライ延伸では、1次延伸で形成された微細クラックが拡張され、これにより、気孔の平均径が0.05〜0.1μm、空隙率が30%以上のスリット状の気孔が発達する。
【0044】
この時、1次延伸された前駆体フィルムの厚さが延伸比率の増大に反比例して減少し得る。例えば、32μmの厚さを有する前駆体フィルムを約300%まで高温で1軸ドライ延伸した場合、厚さ20μmの微細多孔性高分子膜が最終製品として形成され得る。すなわち、高分子膜がより薄い厚さでより多くの空隙率と気孔径とを有するため、本発明に係る微細多孔性高分子膜を液体及びガスが通過し易くなり、通過速度を制御することも容易となる。
【0045】
図2は、1軸ドライ延伸を行う1軸延伸装置を示す模式図である。
【0046】
図2を参照すると、1軸延伸装置200は、チャンバ210と、前記チャンバ210の外部に配置され、フィルムを延伸ロールに供給する供給ロール220と、前記チャンバ210の外部の両側に所定間隔を隔てて離れて配置され、前記供給ロール220から前記チャンバ210内へとフィルムを供給する複数の延伸ロール230と、前記チャンバ210の外部に配置され、延伸ロールを通過したフィルムを巻き取るワインダー240とから形成されている。
【0047】
前記1軸延伸装置の延伸ロール230は、フィルムをさらによく固定するために補助ロール231を備えている。チャンバ210は、フィルムが延伸ロール230を通ってチャンバ210内に供給され、該チャンバ210から除去されるように、微細スリットを有している。さらに、チャンバ210の内圧は、外部空気の流入を防止するために正圧に維持される必要があるため、ヒータと強制循環ファン(図示せず)と、吸気及び排気口などが設けられ得る。
【0048】
チャンバ210の内部は、延伸ロール230に配置されたフィルムにより段が形成されて得る。かかる段ごとに温度均一性を保持させるために、高温空気の通路が前記チャンバの前後に備えられている。延伸ロール230がチャンバ210の外部に配置されているため、別途の冷却装置が不要であり、チャンバ210の内部の空気の流れが妨害されないことから、工程の効率性及び温度均一度を向上させることができる。
【0049】
前記1軸延伸装置を用いる場合、表1に示すように、装置の温度均一度によってフィルムの厚さ、ガス透過度、熱収縮率及び外観に差が発生する。このとき、設定温度は110℃であり、提供された前駆体フィルムの厚さは27μmである。
【表1】

【0050】
表1から明らかに、温度均一度が0〜±3である場合、全ての特性に優れたフィルムが提供され得る。
【0051】
前記1軸ドライ延伸の後、前記1軸ドライ延伸の方向と垂直方向に、前記2軸延伸が実施される。このとき、前記2軸延伸は、高温での2軸ドライ延伸であり得る。前記2軸ドライ延伸は、延伸比率を5〜100%、好ましくは50〜100%として実施することができる。前記2軸延伸において、高温での前記1軸ドライ延伸で得られたスリット状の気孔が球形気孔に形成され、さらに気孔径及び空隙率が増大して、気孔の平均径が0.1〜0.2μm、空隙率が30〜70%となる。前記2軸延伸後の微細多孔性高分子膜の厚さは、高温での1軸ドライ延伸後の厚さと同様である。これは、前記2軸延伸での増加された延伸比率が、厚さが薄くならずに気孔の拡張または新たな気孔の形成に寄与するためである。高温での1軸ドライ延伸後に追加して実施される2軸ドライ延伸により、優れた気孔径及び空隙率を達成することが可能となる。これにより、2軸ドライ延伸で得られたフィルムが、高温での1軸ドライ延伸で得られたフィルムと比較して、液体及びガスが通過され易く、通過速度もより容易に制御することが可能となる。
【0052】
前記2軸延伸は、前記前駆体フィルムを延伸する段階で使用される2軸延伸装置(図1)を使用して実施され得る。前記2軸延伸装置のE区間では、前駆体フィルムの2軸延伸が行われる。
【0053】
予備膜を形成する段階で気孔が形成される場合には、高分子結晶の構造的特性によって最適な気孔構造を確保することができる。より詳細には、多段階延伸段階を適用することができ、この段階は、1次延伸で形成された微細亀裂を高温で物理的に拡張させて気孔のサイズを増大させる1軸及び2軸ドライ延伸段階を含んでおり、これにより、最適な気孔構造を確保することができる。
【0054】
本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、前記予備膜を熱固定して微細多孔性高分子膜を形成する段階を含む。特に、微細多孔性高分子膜を形成する段階は、前記微細多孔性高分子膜の溶融点以下の温度で、引張り強度がかけられた状態で所定時間行い得る。
【0055】
また、本発明は、上記方法を用いて製造された微細多孔性高分子膜を提供する。前記微細多孔性高分子膜は、気孔径が0.05〜1μmであり、空隙率が30〜70%であり、引張り強度が400〜3,000kgf/cm2あり、厚さが10〜50μmであり得る。前記膜の特性が前述した範囲を満たすと、ガス及び液体透過度が高くなり、様々な分野に適用し得る。
【0056】
また、前記微細多孔性高分子膜は、超高分子量ポリエチレン、高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、高結晶性ポリプロピレン及びポリエチレン−プロピレン共重合体から選択される少なくとも1種以上を含み得る。
【0057】
本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、外部空気による強制冷却が可能であり、これにより、高い巻き取り速度が与えられ得る。また本発明の微細多孔性高分子膜の製造方法は、薄膜フィルムの成形に有利であり、フィルムの揺れを最小化して寸法安定性を向上させることができる。
【0058】
本発明の微細多孔性高分子膜は、リチウム電池に使用され得る。
【0059】
以下、実施例を通じて微細多孔性高分子膜をさらに詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0060】
製造例1、比較製造例1及び比較製造例2:微細多孔性高分子膜の前駆体フィルムの製造
【0061】
<製造例1>
超高分子量ポリエチレン(重量平均分子量:2,500,000)5重量%、高密度ポリエチレン(重量平均分子量:400,000)90重量%、イルガノックス1010の3重量%、ポリエチレンワックス2重量%を室温で1時間、ヘンシェルミキサーを用いて配合して高分子材料を調製した。前記高分子材料を、ツインスクリュー押出機を使用して220℃で溶融させ、メルトポンプを通じて所定量の溶融樹脂をT−ダイに供給して吐出させた。続いて、吐出された溶融樹脂を一字型のエアーナイフから噴射される冷たい空気により強制に冷却しつつ所定速度でテイクアップロールにより引っ張って薄膜化して、前駆体フィルムを製造した。このとき、噴射されたエアーの温度は−20℃であった。
【0062】
<比較製造例1>
超高分子量ポリエチレン(重量平均分子量:2,500,000)5重量%、高密度ポリエチレン(重量平均分子量:400,000)90重量%、イルガノックス1010の3重量%、ポリエチレンワックス2重量%を室温で1時間、ヘンシェルミキサーを用いて配合して高分子材料を調製した。前記高分子材料を、ツインスクリュー押出機を使用して220℃で溶融させ、メルトポンプを通じて所定量の溶融樹脂をT−ダイに供給して吐出させた。吐出された溶融樹脂を自然冷却しつつ冷却ロールにより引っ張って、前駆体フィルムを形成した。このとき、T−ダイの温度は200℃であり、T−ダイのリップ−ギャップは0.9mmであった。ロールは、80〜130℃の温度範囲で、サーボモータにより精密に速度を制御した。
【0063】
<比較製造例2>
超高分子量ポリエチレン(重量平均分子量:2,500,000)5重量%、高密度ポリエチレン(重量平均分子量:400,000)90重量%、イルガノックス1010の3重量%、ポリエチレンワックス2重量%を室温で1時間、ヘンシェルミキサーを用いて配合して高分子材料を調製した。前記高分子材料を、ツインスクリューを使用して220℃温度で溶融させ、メルトポンプを通じて所定量の溶融樹脂を直径50mmの円形T−ダイに供給してチューブ形状に溶融樹脂を吐出させた後、円形エアーリングを使用して強制冷却させつつ引っ張って、前駆体フィルムを形成した。このとき、T−ダイの温度は200℃であった。
【0064】
試験例1:微細多孔性高分子膜の前駆体フィルムの特性評価
製造例1、比較製造例1及び比較製造例2の製造工程中で、T−ダイから吐出された溶融樹脂の線速度(m/min)と冷却ロールの回転速度との比(m/min)であるドロー比の最大値を測定した。
【0065】
また製造例1、比較例1及び比較例2の前駆体フィルムの最小成形可能厚さと、厚さ偏差、結晶化度を測定した。結果を表2に示す。
【表2】

【0066】
表2から明らかに、製造例1は、最大ドロー比が100であり、最小成形可能厚さが5μmであり、厚さ偏差が±1μmであり、結晶化度が20〜60%であった。これは、外部空気により溶融樹脂を強制冷却させ、薄膜化が行われる空間で継続的な空気の循環がなされたため、同じ冷却条件を形成でき、T−ダイとテイクアップロールとの間隔を十分に狭めたことで得られた結果である。すなわち、外部空気とフィルムとがぶつかって発生するフィルムの揺れを最小化し、前駆体フィルムの寸法安定性を高めることができた。
【0067】
しかし、比較例1のように冷却ロールキャスティング法を用いた場合、ドロー比は1〜10とし得る。ドロー比が1未満であると、T−ダイから吐出される量がさらに多くなり、フィルムの成形自体が困難となり、10を超過すると、自然冷却されたフィルムであるため十分に冷却されず、溶融樹脂の粘度が高く、均一な厚さのフィルムを成形するのに限界がある。このような理由で、比較例1は製造例1よりも最小成形可能厚さが厚くて、厚さ偏差が大きい。
【0068】
また比較例2は、前駆体フィルムチューブ内に空気が存在して円形T−ダイから吐出された樹脂を膨らませる役割を担うため、あまりにも高い巻き取り比では、成形されたフィルムの寸法安定性が低下する。また、内部の空気が溶融樹脂の熱を冷却することによって継続的に加熱されるため、悪影響を及ぼす。このような理由で、比較例2は製造例1よりも最小成形可能厚さが厚くて、厚さ偏差が大きい。
【0069】
実施例1〜5、比較例1:微細多孔性高分子膜の製造
製造例1で製造された前駆体フィルムを、図1の2軸延伸装置を使用してMD及びTD双方向に延伸した。このとき、MD延伸比を固定してTD延伸比を変化させた。これによる前駆体フィルムの厚さ変化を、表3に示す。前駆体フィルムに、熱処理を行い、室温で1次延伸し、図2の1軸ドライ延伸装置(設定温度:110℃)でMD方向に300%まで1軸ドライ延伸と、表3に示された延伸比率でTD方向に2軸ドライ延伸とを含む2次延伸を行い、前駆体フィルムの融点よりも低い温度で熱固定して、微細多孔性高分子膜を形成した。
【表3】

【0070】
試験例2:微細多孔性高分子膜の特性評価
実施例1〜3、比較例1の引張り強度を測定した。結果を表4に示す。また、実施例5と比較例1の結果を、図3及び図4に示す。
【表4】

【0071】
表4、図3及び図4から明らかに、溶融押出後に比較例1の1軸延伸したときよりも2軸延伸したときに、TD引張り強度が大きい。さらに、TD延伸比率が高いほどTD引張り強度が増大することが分かる。
【0072】
試験例3:微細多孔性高分子膜の気孔径及空隙率の測定
実施例1〜実施例3、比較例1の膜の気孔径及び空隙率を測定した。結果を表5に示し、これらのSEM写真を図5〜図8に示す。
【表5】

【0073】
表5、図5〜図8から明らかに、高温での2軸延伸比が増加するほど、スリット状の気孔が、同心円に近い形態に変化し、空隙率が増加することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料を提供する段階と、
前記高分子材料を溶融する段階と、
前記溶融された高分子材料を、エアーナイフを用いて冷却及び結晶化して前駆体フィルムを形成する段階と、
前記前駆体フィルムを延伸する段階と、
前記延伸された前駆体フィルムを熱処理する段階と、
前記熱処理された前駆体フィルムを低温で1次延伸する段階と、
前記1次延伸されたフィルムを高温で2次延伸して予備膜を形成する段階と、
前記予備膜を熱固定して微細多孔性高分子膜を形成する段階と、
を備えた微細多孔性高分子膜の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体フィルムを延伸する段階を、2軸延伸装置を用いて実施する請求項1に記載の微細多孔性高分子膜の製造方法。
【請求項3】
前記予備膜を形成する段階は、
前記1次延伸されたフィルムを機械方向に1軸ドライ延伸してスリット状の気孔を調製する段階と、
前記スリット状の気孔を有するフィルムを1軸ドライ延伸方向の機械方向と垂直方向に2軸ドライ延伸して、前記スリット状の気孔が0.05〜1μmの径を有する球形気孔に拡張して前記予備膜を形成する段階と、を含む請求項1に記載の微細多孔性高分子膜の製造方法。
【請求項4】
前記スリット状の気孔を調製する段階を、
チャンバと、
該チャンバの外側に配置され、延伸ロールに前記前駆体フィルムを供給する供給ロールと、
前記チャンバの両外側に所定間隔で互いに離れて配置され、前記供給ロールから前記チャンバ内へと前記前駆体フィルムを供給する複数の延伸ロールと、
前記チャンバの外側に配置され、前記延伸ロールを通過した前記前駆体フィルムを巻き取るワインダーと、
から形成された1軸ドライ延伸装置を用いて実施する請求項3に記載の微細多孔性高分子膜の製造方法。
【請求項5】
前記予備膜を形成する段階を、2軸延伸装置を用いて実施する請求項3に記載の微細多孔性高分子膜の製造方法。
【請求項6】
気孔径が0.05〜1μmであり、空隙率が30〜70%であり、引張り強度が400〜3,000kgf/cm2であり、厚さが10〜50μmである微細多孔性高分子膜。
【請求項7】
超高分子量ポリエチレン、高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、高結晶性ポリプロピレン及びポリエチレン−プロピレン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種以上を含む請求項6に記載の微細多孔性高分子膜。
【請求項8】
リチウム電池に使用される請求項6に記載の微細多孔性高分子膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−515647(P2012−515647A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547826(P2011−547826)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【国際出願番号】PCT/KR2010/002010
【国際公開番号】WO2010/120056
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511177857)シーエス テック カンパニー リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】CS TECH CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】1720−46,Taejang 2−dong,Wonju−si,Gangwon−do 220−962(KR)
【Fターム(参考)】