説明

微細流体混入液体燃料の製造装置

【課題】エジェクター式の微細流体発生装置により混入流体を微細化して、微細流体を液体燃料中に混入することができる微細流体混入液体燃料の製造装置を提供する。
【解決手段】液体燃料中に微細流体を混入分散させた微細流体混入液体燃料の製造装置において、液体燃料中に微細流体を混入分散させるエジェクター式の微細流体発生装置6と、さらに液体燃料を加圧してエジェクター式の微細流体発生装置6へ送液するポンプ11を備え、エジェクター式の微細流体発生装置6がポンプ11で加圧された液体燃料を導入する液体燃料流路とともに、液体燃料に混入させる混入流体を導入する混入流体導入流路と、液体燃料中に混入流体を微細化し分散させる微細流体発生空間および微細流体混合室を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気、酸素などの気体及び/又は水などの液体からなる流体を微細化して得られた微細流体を液体燃料中に混入、分散させて改質した微細流体混入液体燃料の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排出ガス中のNOx、黒煙、PM(粒子状物質)を低減するために、燃料油と水又は水溶液を混合し乳化したエマルジョン燃料が提案されている。
【0003】
エマルジョン燃料は、エマルジョン内の水滴粒子がエンジン内で瞬時に発生する高温の燃焼温度を下げ、NOxの発生を抑えることや、エマルジョン燃料の運動量効果によってエンジン内で分散することで、燃料と空気との混合が促進されて完全燃焼に近づくことにより黒煙やPMを低減できると言われている。
【0004】
エマルジョン燃料の生成方法として、例えば特許文献1や特許文献2には、燃料油、水、界面活性剤を高速の攪拌式ミキサーで混合する方法や、送液ラインに設けた数箇所の各隔壁に小孔が形成されており、燃料油と水の混合液を昇圧ポンプで圧送することにより、小孔で高圧かつ高速で噴出しながら微細な水エマルジョン燃料を得るという方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、液体の分子クラスターを微細化して、高品質なエマルジョン燃料を低コストで大量に製造する燃料改質方法が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献4に記載されているように、多孔質体のシラス多孔質ガラス膜を用いて、単分散、すなわち分布の幅が狭い粒径をもつ水滴粒子を燃料油中に分散させる方法が開示されている。
【0007】
また、例えば特許文献5に記載されているような空気、酸素ガス等の気体を水道水、河川水、その他の液体に溶解させて、水質を浄化し、水環境を蘇生するための微細気泡発生方法及び装置がある。
【0008】
さらに、例えば特許文献6や特許文献7に記載されているように、燃料油中に微細気泡を導入して、気泡が破裂するときの衝撃波によって、燃料分子のクラスター構造を微細化する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平07−024284号公報
【特許文献2】特開2002−159832号公報
【特許文献3】特開2001−348581号公報
【特許文献4】特開2006−182890号公報
【特許文献5】特開2003−181259号公報
【特許文献6】特開2006−177261号公報
【特許文献7】特開2006−214310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のエマルジョン燃料の生成方法のうち、攪拌式ではエマルジョンの油中水滴粒子の大きさの均一性に信頼性と再現性を保障することは困難で、この方法によるエマルジョン燃料をエンジンに使用すると安定した燃焼が得られない。また、送液ラインに設けた各隔壁の直径が0.5mm〜2mm程度の小孔に通過させて微細な水滴粒子を得るために、昇圧ポンプの送圧力が5MPa〜15MPaと非常に高圧で、装置の構造的な安全面や耐久性で非常にリスクが高い。
【0010】
また、燃料油中に微細気泡を導入する方式では、装置の複雑さ、使用動力量ならびに微細孔の目詰まりなどの問題から、期待できる効果が得られず、実用化に至っていない。
【0011】
そこで、本発明は、エジェクター式の微細流体発生装置により気体及び/又は液体(以下「混入流体」という)を微細化して、微細流体を液体燃料中に混入することができる微細流体混入液体燃料の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、液体燃料中に微細流体を混入分散させた微細流体混入液体燃料の製造装置において、液体燃料中に微細流体を混入分散させるエジェクター式の微細流体発生装置と、液体燃料を加圧して前記エジェクター式の微細流体発生装置へ送液するポンプを備え、前記エジェクター式の微細流体発生装置がポンプで加圧された液体燃料を導入する液体燃料流路とともに液体燃料に混入させる混入流体を導入する混入流体導入流路と、液体燃料流路から吐出する液体燃料中に混入流体導入流路から吐出する混入流体を微細化し分散させる微細流体発生空間および微細流体発生空間で発生した微細流体を混合する微細流体混合室を有することを特徴とする。
【0013】
液体燃料、及び前記微細流体混合室からの微細流体混入液体燃料が溜められるとともに、前記エジェクター式の微細流体発生装置へ送液して循環させる微細液体混入液体燃料貯留タンクを設けることにより、微細流体の混入量を増やすことができる。
【0014】
本発明の微細流体混入燃料の製造装置に適用可能な液体燃料は、自動車、船舶、動力機械、発電機等のディーゼルエンジン用の軽油、バイオディーゼル油(BDF)、自動車、小型船舶、発電等のガソリンエンジン用のガソリン、さらに暖房、大型船舶、発電のボイラー用の重油、自動車、発電のエタノールエンジン用のエタノールや航空機用の灯油などが挙げられる。
【0015】
液体燃料に微細化して混入させる混入流体として、気体には空気、酸素、オゾンあるいは水素、液体として水、液体燃料以外の燃料油が挙げられる。また、液体燃料に気体および液体を共に微細化して混入することもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、混入流体を微細化した状態で液体燃料に混入して、エンジンの燃焼を促進させることにより、出力の増加、エンジンの低燃費化、ならびにエンジンから排出される有害汚染物質の低減を同時に達成することができる。
【0017】
本発明は、液体燃料送液配管中にエジェクター式の微細流体発生装置を設置することで、液体燃料の高速噴流が生み出すキャビテーションを伴う剥離域の乱流およびせん断作用により、微細流体が分散した微細流体混入液体燃料を低エネルギー、低コストで簡単に生成することが可能である。
【0018】
本発明では、エジェクター式の微細流体発生装置が超小型で、しかも小動力であるので、実車への搭載が可能となり、エンジンの燃焼改善、すなわち燃料消費率ならびに排気ガス特性を同時に改善し、省エネと二酸化炭素(温暖化ガス)削減により、環境負荷低減に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明による燃料製造装置について実施例により説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は本発明の燃料製造装置の一実施例を示す概略図であり、本実施例は燃料タンクから導入された燃料を直接エンジンに送液する方式のものである。
【0021】
燃料タンクより送られた燃料は、燃料導入管1より燃料ポンプ11に直接送られる。燃料ポンプ11が送液を開始しエンジンが始動すると、燃料はエジェクター式の微細流体発生装置6へ送られ、微細流体発生装置6において混入流体が導入され、燃料中に微細流体が分散した微細流体混入液体燃料となり、送液管10を通してエンジンへと送られる。
【0022】
図2はエジェクター式の微細流体発生装置6の構造を示し、(a)は縦断面図、(b)は液体燃料導入側から見た導入部の形態を示す平面図、(c)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面図、(d)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面拡大図である。
【0023】
図2において、微細流体発生装置6は、燃料ポンプ11で加圧された液体燃料を導入する液体燃料流路21とともに混入流体を導入する混入流体導入孔23aを備えた混入流体導入流路23と、液体燃料中に混入流体を微細化し分散させる微細流体発生空間22aおよび微細流体混合室22を有する。
【0024】
液体燃料流入孔21aと微細流体発生空間22aとは、複数本(この場合は3本)の液体燃料流路21で連通しており、微細流体発生空間22aは、液体燃料流路21に交わる形で設けられた液体燃料誘導溝21cを有している。液体燃料誘導溝21cを設けることにより、液体燃料流出孔21bから微細流体発生空間22aに吐出された液体は、混入流体導入孔23aを有する吐出面にキャビテーションを伴う剥離域が発生することで、導入した混入流体を均一かつ微細化することができる。
【0025】
混入流体導入孔23aと、微細流体発生装置6の側面に接続される混入流体導入管24は、微細流体発生装置6内に設けられる混入流体導入流路23によって連通し、混入流体の導入量は混入流体導入管24に設けられた混入流体導入量調整弁8により自在に調整することができる。
【0026】
本発明で使用するエジェクター式の微細流体発生装置は、加圧液体燃料を微細流体発生空間に高速で噴出させ、その出口付近に生じるキャビテーションを伴う剥離域の乱流作用により、混入した流体が空気の場合10μm以下の微細気泡、水の場合10μm以下の微細液滴に微細化することができる。
【0027】
図3は混入流体が複数種(この場合は2種で気体:空気、液体:水)の場合のエジェクター式の微細流体発生装置6の別実施例の構造を示し、(a)は縦断面図、(b)は液体燃料導入側から見た導入部の形態を示す平面図、(c)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面図、(d)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面拡大図である。図2に示す微細流体発生装置6と同一の部材には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0028】
混入流体導入孔23aと、微細流体発生装置6の側面に接続される複数本の混入流体導入管24から、混入流体として複数種の流体、例えば気体(空気)、液体(水)が個別に微細流体発生空間22aに吐出される。
【0029】
図4はエジェクター式の微細流体発生装置6のさらに別の実施例の構造を示し、(a)は縦断面図、(b)は液体燃料導入側から見た導入部の形態を示す平面図、(c)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面図、(d)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面拡大図である。図3に示す微細流体発生装置6と同一の部材には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0030】
図3では複数種の混入流体を入れるため、混入流体と同数の混入流体導入流路23及び混入流体導入孔23aを設けたが、本実施例では混入流体が複数種の場合でも混入流体導入流路23及び混入流体導入孔23aは図2同様に一箇所しか設けず、微細流体発生装置6の側面に接続される混入流体導入管24を複数に分岐させた構造としたものである。分岐した混入流体導入管24のそれぞれに気体、液体を導入し、混入流体導入流路23を通して複数種の混入流体を同時に混入流体導入孔23aから微細流体発生空間22aに同時に吐出させることができる。
【実施例2】
【0031】
図5は本発明の燃料製造装置の別実施例を示す概略図である。本実施例は、導かれた燃料を微細液体混入液体燃料貯留タンク3において、循環させながら微細流体混入液体燃料3aを生成することができる。
【0032】
燃料タンクより送られた燃料は、燃料導入管1より微細流体混入液体燃料貯留タンク3へ送られる。この時、微細流体混入液体燃料貯留タンク3の液面は、定水位弁2によって一定に保たれる。燃料ポンプ11が送液を開始しエンジンが始動すると、微細流体混入液体燃料貯留タンク3の燃料は循環ポンプ4によりエジェクター式の微細流体発生装置6へ送られ、微細流体発生装置6において混入流体が導入され、燃料中に微細流体が分散した微細流体混入液体燃料3aを生成し、微細流体混入液体燃料貯留タンク3へ吐出される。
【0033】
微細流体混入液体燃料貯留タンク3の微細流体混入液体燃料3aは、循環ポンプ4およびエジェクター式の微細流体発生装置6により循環しているので、微細流体の混入量を容易に増やすことができ、生成された微細流体混入液体燃料3aは、燃料ポンプ11によって、エンジンへ送られる。微細流体発生装置6には、混入流体導入管9が接続され、逆止弁7、混入流体導入量調整弁8が設けられる。
【0034】
<試験結果>
エジェクター式の微細流体発生装置の最低作動流量は約30cc/minであり、供試機関の実験に必要な液体燃料の消費量6〜40cc/minと比較して、小流量の場合は5倍程度多い。そのため、微細流体混入液体燃料貯留タンクを設け、実験に必要な微細液体混入液体燃料を供試機関へ導く。さらに、微細流体混入液体燃料貯留タンクを設けた場合、微細流体混入液体燃料は微細流体発生装置を介して循環しているので、循環時間を延ばすことで、微細流体の混入量を容易に増やすことができる。液体燃料(軽油)に流体(空気)を混入すると、混入流体の混入前は透明な薄緑色であるが、混入後は微細に分散され乳白色になる。
【0035】
本試験は液体燃料として軽油を使用し、混入流体として空気を微細化しマイクロバブルとして混入した例である。
【0036】
実験装置はディーゼル機関総合性能試験装置であり、水冷渦電流式動力計:1Φ200V、最大吸収出力:30PS/6800rpm、最大吸収トルク:17.9kgf・m、腕の長さ:0.3581m、荷重検出方式:台秤方式である。
【0037】
表1に供試機関の仕様を示す。
【0038】
供試機関は水冷式単気筒直噴ディーゼル機関(クボタMB改造)である。
【表1】

【0039】
図6及び図7はエンジン回転速度1000rpm一定におけるマイクロバブル混入燃料が機関性能に及ぼす影響を示す図である。
【0040】
エンジン回転速度を1000rpmで一定にして、負荷を大気補正の正味(軸)平均有効圧力Pmec(0.1MPa毎)におけるエンジンの総合性能を測定し、さらに排気ガス分析を比較実験した。排気ガス分析方式はダイレクト方式、同一サンプリング、5成分同時分析で行った。
【0041】
左縦軸又は右縦軸は、正味燃料消費率(BSFC)、充填効率(ηc)、エンジン騒音(Noise)、黒煙濃度(Smoke)、排気ガスの温度(Teg)、正味炭化水素濃度(BSHC)、正味一酸化炭素濃度(BSCO)、正味窒素酸化物濃度(BSNOx)、吸気側基準空気過剰率(λs)、ならびに排気ガス側基準空気過剰率(λe)を示す。
【0042】
正味燃料消費率(BSFC)は平均14%の低減率を示した。これは、マイクロバブルの混入により燃焼が促進され、短時間で燃焼が完結して、膨張比の増加のため有効ストロークが向上したためと考えられる。マイクロバブルの混入によって、充填効率の上昇による吸気側基準空気過剰率(λs)の上昇、ならびに軽油中の含有酸素濃度の向上による排気ガス側基準空気過剰率(λe)が向上している事実からも、燃焼改善に寄与していることが理解できる。
【0043】
さらに、マイクロバブルの混入により、軽油の粘度の低下、噴霧液滴の微粒化による混合気形成の促進と着火遅れ時間の短縮、含有酸素量と含有ラジカル量の増大などの物理的および化学的効果が燃費向上につながったと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の燃料製造装置の一実施例の概略図である。
【図2】エジェクター式の微細流体発生装置の構造を示し、(a)は縦断面図、(b)は液体燃料導入側から見た導入部の形態を示す平面図、(c)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面図、(d)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面拡大図である。
【図3】混入流体が複数種の場合のエジェクター式の微細流体発生装置の構造を示し、(a)縦断面図、(b)は液体燃料導入側から見た導入部の形態を示す平面図、(c)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面図、(d)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面拡大図である。
【図4】エジェクター式の微細流体発生装置6のさらに別の実施例の構造を示し、(a)は縦断面図、(b)は液体燃料導入側から見た導入部の形態を示す平面図、(c)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面図、(d)は微細流体混入液体燃料吐出口側から見た底面拡大図である。
【図5】本発明の燃料製造装置の別実施例の概略図である。
【図6】マイクロバブル混入燃料が機関性能に及ぼす影響を示すグラフである。
【図7】マイクロバブル混入燃料が機関性能に及ぼす影響を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
1:燃料導入管
2:定水位弁
3:微細流体混入液体燃料貯留タンク
3a:微細流体混入液体燃料
4:循環ポンプ
5:配管
6:微細流体発生装置
7:逆止弁
8:混入流体導入量調整弁
9:混入流体導入管
10:送液管
11:燃料ポンプ
21:液体燃料流路
21a:液体燃料流入孔
21b:液体燃料流出孔
21c:液体燃料誘導溝
22:微細流体混合室
22a:微細流体発生空間
23:混入流体導入流路
23a:混入流体導入孔
24:混入流体導入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料中に微細流体を混入分散させた微細流体混入液体燃料の製造装置において、
液体燃料中に微細流体を混入分散させるエジェクター式の微細流体発生装置と、液体燃料を加圧して前記エジェクター式の微細流体発生装置へ送液するポンプを備え、前記エジェクター式の微細流体発生装置がポンプで加圧された液体燃料を導入する液体燃料流路とともに液体燃料に混入させる混入流体を導入する混入流体導入流路と、液体燃料流路から吐出する液体燃料中に混入流体導入流路から吐出する混入流体を微細化し分散させる微細流体発生空間および微細流体発生空間で発生した微細流体を混合する微細流体混合室を有することを特徴とする微細流体混入液体燃料の製造装置。
【請求項2】
液体燃料、及び前記微細流体混合室からの微細流体混入液体燃料が溜められるとともに、前記エジェクター式の微細流体発生装置へ送液して循環させる微細液体混入液体燃料貯留タンクを備えたことを特徴とする請求項1記載の微細流体混入液体燃料の製造装置。
【請求項3】
混入流体導入流路に導入される混入流体が気体および/又は液体であることを特徴とする請求項1又は2記載の微細流体混入液体燃料の製造装置。
【請求項4】
混入流体が空気および/又は水であることを特徴とする請求項3記載の微細流体混入液体燃料の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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