説明

微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体およびその製造方法

【課題】微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体および該糸状繊維集合体を簡便で効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体であって、該微細繊維状セルロースの繊維径が2〜1000nmであることを特徴とする。また、微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液を有機溶媒中に注入し、ゲル化した部分を延伸し、有機溶媒中で糸状に成形する微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体および該糸状繊維集合体を効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物質をナノメートルサイズの大きさにすることによりバルクや分子レベルとは異なる物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。一方で、石油資源の代替および環境意識の高まりから再生産可能な天然繊維の応用にも注目が集まっている。
天然繊維の中でもセルロース繊維、とりわけ木材由来のセルロース繊維(パルプ)は主に紙製品として幅広く使用されている。しかしながらセルロース繊維を糸状繊維集合体に成形する技術に関してはあまり知られていない。
【0003】
セルロース繊維は弾性率が高く、熱膨張率の低いセルロース結晶の集合体であり、セルロース繊維を高分子とコンポジット化することによって耐熱寸法安定性が向上する。
セルロース繊維を機械的に粉砕し、その繊維幅を300nm以下とした微細繊維状セルロースがあるが微細繊維状セルロースを糸状繊維集合体化する技術についてはほとんど開示がない。
【0004】
具体的には特許文献1〜3に、セルロース繊維を微細繊維化する技術が開示されているが、微細繊維状セルロースを糸状繊維集合体化する技術については開示がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−100801号公報
【特許文献2】特開2008−169497号公報
【特許文献3】特許第3036354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液を有機溶媒中に注入し、ゲル化させて糸状に有機溶媒から延伸・引上げることで微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、微細繊維状セルロースから成る水系懸濁液からいかにして糸状繊維集合体を製造するかを検討し、かかる知見に基づき本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下の各発明を包含する。
(1)微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体であって、該微細繊維状セルロースの繊維径が2〜1000nmである糸状繊維集合体。
【0009】
(2)前記糸状繊維集合体の直径が0.01〜10mmである(1)に記載の微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体。
【0010】
(3)繊維径が2〜1000nmである微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液を有機溶媒中に注入し、ゲル化した部分を延伸し、有機溶媒中で糸状に成形する微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体の製造方法。
【0011】
(4)前記有機溶媒がアルコール類である(3)に記載の微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体の製造方法。
【0012】
(5)前記有機溶媒がメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、エチレングリコールから選択される少なくとも1種である(3)または(4)に記載の微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体および該糸状繊維集合体を非常に簡便に、効率よく生産できる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体の写真である。
【図2】本発明による微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体の走査型電子顕微鏡写真である(250倍)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における微細繊維状セルロースは通常製紙用途で用いるパルプ繊維よりもはるかに径の小さいセルロース繊維あるいは棒状粒子である。微細繊維状セルロースは結晶状態のセルロース分子の集合体であり、その結晶構造はI型(平行鎖)である。微細繊維状セルロースの径は電子顕微鏡で観察して2nm〜1000nmであることが必要であり、より好ましくは2nm〜500nm、さらに好ましくは4nm〜300nmである。繊維の径が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しなくなるおそれがある。1000nmを超えると微細繊維とは言えず、通常のパルプに含まれる繊維にすぎないため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が得られないおそれがある。
【0016】
また、微細繊維状セルロースの繊維長は1μm〜1000μmが好ましく、5μm〜500μmがさらに好ましく、10μm〜300μmが特に好ましい。繊維長が1μm未満であると糸状に成形できないおそれがある。繊維長が1000μmを超えると粘度が高すぎて、生産性が悪くなるおそれがある。
微細繊維状セルロースを含む糸状繊維集合体の繊維長と繊維径の比である軸比(=繊維長/繊維径)は50〜5000が好ましく、より好ましくは100〜4000であり、さらに好ましくは300〜3000である。軸比が50未満であると糸状繊維集合体として成形できないおそれがある。軸比が5000を超えると粘度が高く、生産性が悪くなるおそれがある。
【0017】
ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。また、微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維径の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、該懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。径の大きい繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の径に応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。この際、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定した場合に少なくとも軸に対し、20本以上の繊維が軸と交差するような試料および観察条件(倍率等)とする。この条件を満足する観察画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。こうして最低3枚の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で観察し、各々2つの軸の交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(最低20本×2×3=120本の繊維径)。
【0018】
微細繊維状セルロースの製造方法には特に制限はないが、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーなどの機械的作用を利用する湿式粉砕でセルロース系繊維を細くする方法が好ましい。また、TEMPO酸化、オゾン処理、酵素処理などの化学的処理を施してから微細化してもかまわない。微細化するセルロース系繊維としては特に限定されないが、植物由来のセルロース、動物由来のセルロース、バクテリア由来のセルロースなどが挙げられる。より具体的には、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等の木材系製紙用パルプ、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻や麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、木粉、竹粉、ホヤや海草などから単離されるセルロースなどが挙げられる。これらの中でも木材系製紙用パルプや非木材系パルプが入手のし易さという点で好ましい。
【0019】
本発明においては、上記微細繊維状セルロースを水に懸濁させた水系懸濁液を有機溶媒中に注入される。ここで使用できる有機溶媒としては、特に限定されないが、アルコール類が好ましい。アルコール類は微細繊維状セルロースが懸濁している水をすばやく脱水し、微細繊維状セルロースが一瞬のうちにゲル化し、該ゲルを有機溶媒中で延伸することにより糸状繊維集合体に形成することができる。
本発明において使用可能である有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ジプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテルなどのグライム類、1,2−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの2価アルコール類、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。これらのなかでも、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、エチレングリコールが、脱水性と凝集性に優れるため糸状繊維集合体に成形し易い。これらの有機溶媒は2種類以上混合して使用してもかまわない。
【0020】
本発明による微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体の直径としては0.01〜10mmが好ましく、0.03〜8mmがさらに好ましく、0.05〜6mmが特に好ましい。直径が0.01mm未満の糸状繊維集合体を得ようとすると、生産性が極端に低下してしまい、好ましくない。逆に、直径が10mmを超えると糸状に成形するのが困難となり、好ましくない。
微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体の長さは特に制限はないが、1m以上が好ましく、10m以上がさらに好ましく、1000m以上が特に好ましい。長さが1m未満であると、糸として使用するのが困難となるため好ましくない。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を更に詳しく説明するために実施例を挙げるが、いうまでもなく本発明はこれらに限定されるものではない。また、例中の部および%は特に断らない限り、それぞれ質量部および質量%を示す。
【0022】
<セルロース水系懸濁液Aの作製方法>
LBKPパルプ(王子製紙社製:水分53.0%、フリーネス600mLcsf)をパルプ濃度が2.5%になるように水を加えてディスインテグレーターで解繊した。
得られたパルプ懸濁液に対して石臼型分散機(商品名:「スーパーマスコロイダー」、増幸産業社製)を用いて2回処理を行った。さらにこれを高圧衝突型分散機(商品名:「アルティマイザー」、スギノマシン社製)で10回処理し、セルロース水系懸濁液を得た。最後に水系懸濁液のパルプ濃度を2%に調整した。この微細繊維状セルロースの平均繊維径は250nmであった。
【0023】
<セルロース水系懸濁液Bの作製方法>
LBKPパルプ(王子製紙社製:水分53.0%、フリーネス600mLcsf)をパルプ濃度が2.5%になるように水を加えてディスインテグレーターで解繊した。
得られたパルプ懸濁液に対して石臼型分散機(商品名:「スーパーマスコロイダー」、増幸産業社製)を用いて2回処理を行った。さらにこれを高圧衝突型分散機(商品名:「アルティマイザー」、スギノマシン社製)で20回処理し、セルロース水系懸濁液を得た。最後に水系懸濁液のパルプ濃度を2%に調整した。この微細繊維状セルロースの平均繊維径は40nmであった。
【0024】
<セルロース水系懸濁液Cの作製方法>
LBKPパルプ(王子製紙社製:水分53.0%、フリーネス600mLcsf)をパルプ濃度が2.5%になるように水を加えてディスインテグレーターで解繊した。
得られたパルプ懸濁液に対して石臼型分散機(商品名:「スーパーマスコロイダー」、増幸産業社製)を用いて2回処理を行った。さらにこれを高圧衝突型分散機(商品名:「アルティマイザー」、スギノマシン社製)で50回処理し、セルロース水系懸濁液を得た。最後に水系懸濁液のパルプ濃度を2%に調整し、20kHz超音波処理を行った。この微細繊維状セルロースの平均繊維径は10nmであった。
【0025】
<実施例1>
上記のセルロース水系懸濁液Aをメタノール中に注射器で注入し、ゲル化させて形成した糸状繊維集合体を延伸・引き上げて本発明の微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体を得た。
【0026】
<実施例2〜5>
実施例1において、メタノールの替わりに、それぞれ、エタノール、2−プロパノール、2−ブタンジオール、エチレングリコールとしたこと以外は実施例1と同様にして微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体を得た。
【0027】
<実施例6>
上記のセルロース水系懸濁液Bをメタノール中に注射器で注入し、ゲル化させて形成した糸状繊維集合体を延伸・引き上げて本発明の微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体を得た。
【0028】
<実施例7>
上記のセルロース水系懸濁液Cをメタノール中に注射器で注入し、ゲル化させて形成した糸状繊維集合体を延伸・引き上げて本発明の微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体を得た。
実施例1〜7の繊維は繊維径1〜3mmであり、手で引っ張っても切れない繊維であった。
【0029】
<比較例1>
ディスインテグレーターで解繊したLBKPパルプ(王子製紙社製、フリーネス600mLcsf、繊維径20μm)の2%水系懸濁液をメタノール中に注射器で注入し、ゲル化させたが糸状繊維は製造できなかった。
【0030】
本発明によれば、新たに微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体が得られ、かつその製造方法は簡便で効率のよいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体であって、該微細繊維状セルロースの繊維径が2〜1000nmであることを特徴とする糸状繊維集合体。
【請求項2】
前記糸状繊維集合体の直径が0.01〜10mmであることを特徴とする請求項1に記載の微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体。
【請求項3】
繊維径が2〜1000nmである微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液を有機溶媒中に注入し、ゲル化した部分を延伸し、有機溶媒中で糸状に成形することを特徴とする微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒がアルコール類であることを特徴とする請求項3に記載の微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒がメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、エチレングリコールから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の微細繊維状セルロースから成る糸状繊維集合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−246823(P2011−246823A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117884(P2010−117884)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】