説明

微結晶酸化チタンの製造方法

本発明は、水系プロセスによる15nmより小さい結晶サイズを有するルチル型の微結晶二酸化チタンの製造方法、及び該方法により得られるケイ素をドープされた二酸化チタン生成物に関する。上記二酸化チタン生成物の製造方法の少なくとも一工程で、ケイ素含有化合物を用いて小結晶サイズを有する上記二酸化チタン生成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、15nm未満の結晶サイズを有するルチル型の微細な微結晶二酸化チタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的には、微結晶二酸化チタンは、顔料二酸化チタンのサイズの5〜10分の1の結晶サイズを有する二酸化チタンTiOを指す。典型的には、微結晶二酸化チタンの結晶サイズは、およそ10nm〜100nm程度であり、可視光の高透過という光学特性を生じる。他方で、透明二酸化チタンにより、紫外線は良好にフィルタリング(すなわち吸収)され、反射される。したがって、微結晶二酸化チタンは、種々の用途、例えば紫外線防護及び優れた透明性が必要とされる日焼け止め剤に用いられる。これらの用途に関しては、ルチル型の微結晶二酸化チタンを用いて最良の結果が達成される。ルチル型の二酸化チタン結晶の利点は、アナターゼ型と比較した場合により広範な紫外線防護が提供されることである。
【0003】
微結晶二酸化チタンは、制御された小結晶サイズ、小さい結晶サイズ分布及び適切な結晶形態を獲得するための、さらに粒子の固まり易さを防止するための、かつその分散性を改良するための、特別な課題に関連した方法により製造される。さらに、製造工程に関する要件は、典型的には経済的効率性、並びに生態学的に許容可能な物質及び工程ステップの使用である。
【0004】
微結晶二酸化チタンを製造するためには、気相法及び水性沈殿から出発する方法のような種々の方法がある。典型的には、気相法では、二酸化チタンの結晶化工程においてアナターゼが最初に形成されるが、これは、結晶成長の初期段階でアナターゼが熱力学的により安定な構造形態であるためである。これはしばしば、形成されるより小さな結晶のため、より大きな比表面積のアナターゼ型二酸化チタンを生じる。これは、高反応速度を有する気相反応に関して特に言えることであり、すなわち、短い反応時間はルチル型の実際の結晶成長には十分でない。この方法を用いて、ルチル型結晶は、反応温度を十分に上げることにより製造することができ、温度が高いほどルチル型を熱力学的により好都合にする。しかしながら、結晶サイズはこのような高反応温度により強力に増大され、10nmのサイズはもはや獲得され得ない。
【0005】
特許文献1は、TiOの製造のための気相合成を開示するが、この場合、揮発されるべきTiClに匹敵するドーパントがTiOの物理学的特性の変化のために用いられる。SiClはアナターゼ型の量を最大にし、その粒子サイズを最小にさせて、したがって最終生成物の比表面積を増大することができる可能なドーパントとして言及されている。しかしながら、TiClの取扱いは非常に難しい。それは、気相中で非常に反応性でありかつクロロ化合物を形成し易い。さらに、不純物は全て、燃焼ステップにおいて二酸化チタン結晶に入り込むため、気相反応に関する純度要件は高い。アナターゼ相及びその比表面積の制御がこの文献に提示されているが、ルチル型の割合は17%より低いままである。
【0006】
特許文献2は、主に集塊の防止のためにSiO前駆体を用いて、したがって過剰サイズを有する粒子の量を低減し、比表面積を増大する、プラズマで実行される気相合成を開示する。
【0007】
本出願人の特許である特許文献3は、100nm未満の結晶サイズを有するルチル型の微結晶二酸化チタンの製造のための水系プロセスを開示する。該プロセスにおいて、固体二酸化チタン水和物は先ず、塩基、好ましくは水酸化ナトリウム溶液で処理されて、アルカリ性pHに達する。その後、塩基で処理された析出物が、8g/l〜25g/lに調整された最終濃度を有する塩酸で酸性にされる。塩基及び酸処理によって得られる析出物は、好ましくは4〜6のpHに中和される。この工程を用いて、99.5%のルチル型の比率及び典型的にはおよそ25nm程度の結晶サイズを有する二酸化チタンが得られ、15nmという低い値の結晶サイズが工程パラメーターの適切な選択により得られる。
【0008】
特許文献4は、液相法による樹枝状又は星状TiOの製造を開示する。pHを中性値に調整するために二酸化チタン水和物の水性分散液に塩基が付加され、その後、90℃〜100℃の温度に混合物を加熱する。得られた生成物は水中にさらに分散され、1〜4:1というHCl対TiOのモル比で塩酸と混合される。分散液は85℃〜100℃で数時間熟成されて、樹枝状又は星状TiO微小粒子を生じる。これらの生成物粒子は、例えば、水中で二酸化チタン生成物をスラリーにして、このようにして得られた溶液に水溶性ケイ素塩を添加することにより酸化ケイ素又はオキシ水和物で被覆され得る。二酸化チタン粒子の表面に堆積されたコーティングは、生成物の分散性及び分散液の安定性を改良する。
【0009】
微結晶酸化チタンは、例えば非特許文献1に記載されているようにオキシ塩化チタン(titanium oxichloride)の熱加水分解により、又は特許文献5に開示されているように中和により、例えばオキシ塩化チタン及び溶媒の混合物を60℃に加熱し、NaOHを付加し、このようにして得られた生成物を焼成することによっても製造され得る。これらの工程の欠点は、典型的には、オキシ塩化物(oxychloride)溶液に関する出発物質である四塩化チタンは、気化し易いため、さらに希釈中に冷却する必要があるため、取扱いが難しい、という事実である。さらに、このタイプの方法の使用は、典型的には、腐蝕問題、安全性リスク及び相対的に高い製造コストに関連する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,698,177号
【特許文献2】欧州特許第1514846号
【特許文献3】欧州特許第0444798号
【特許文献4】米国特許第5,536,448号
【特許文献5】欧州特許第1443023号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Bekkerman, L.I.;Dobrovol’skii, I.P.;Ivakin, A.A. Effects of the composition of titanium(IV) solutions and precipitation conditions on the structure of the solid phase. Russ. J. Inorg. Chem. 1976, 21, 223-226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、可視光の優れた透過性及び紫外線を抑制する能力を有するルチル型の微結晶二酸化チタンを提供することである。別の目的は、安全かつ工業的に実現可能な方法によりルチル型の微結晶二酸化チタンを製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、微結晶二酸化チタンの製造のための請求項1に記載の方法、及び請求項1に記載の方法により製造される請求項12に記載の生成物を提供する。
【0014】
本発明者らは、形成される非常に小さい結晶サイズの二酸化チタン生成物が、水系産業工程でルチル型の二酸化チタン生成物の製造方法に水ガラスを添加することにより得られる、ということを見出した。さらに、用途のための要件を満たしている所望の特性を有する最終生成物は、該方法の適切な段階における塩酸の濃度の最適調整により得られる。
【0015】
得られる生成物は非常に透明で、優れた紫外線防護を提供し、したがって、化粧品産業における、及び木材防腐剤等のようなコーティングのために用いられる種々のワニス中の、紫外線遮蔽構成成分として適したものとなる。本発明による生成物は、紫外線範囲の付随的フィルタリングと組合せて、可視光の範囲で優れた透明性を必要とする用途に特に適している。例えば、LEDライトのような光エレクトロニクスは、ルチル型の二酸化チタンの高屈折率及び優れた透明性が重要な特徴である他の適切な用途として言及され得る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明方法において、チタンを含有する物質は既知の手法で適切な形態に転化されて、二酸化チタン製造のための出発物質を生じる。チタンを含有する上記の物質は、チタン鉄鉱、その濃縮形態又は二酸化チタンの別の不純原料であり、チタンを含有する出発物質の製造を可能にし得る。二酸化チタンのための上記出発物質は、好ましくは、チタン鉄鉱から製造される。好ましくは、二酸化チタンのための上記出発物質は、実質的には二酸化チタン水和物を含む。
【0017】
二酸化チタンのための上記出発物質は、好ましくは、硫酸塩法によりチタン鉄鉱から得られる洗浄固体二酸化チタン水和物析出物である。さらに好ましくは、上記出発物質は、特許文献3に記載されているようにチタン鉄鉱、その濃縮形態又は二酸化チタンの別の不純原料から製造される。
【0018】
二酸化チタンのための上記出発物質は、沈殿されるか又は再結晶化され得る任意の商業的プロセスからのチタン化合物、好ましくはオキシ塩化チタンでもあり得る。最も好ましくは、上記オキシ塩化チタンは、チタン酸ナトリウムから製造される。
【0019】
本発明の方法により得られる二酸化チタン生成物は、製造工程のために選択され、結晶サイズに影響を及ぼすパラメーターによって、好ましくは15nm未満、さらに好ましくは12nm未満、最も好ましくは11nm未満の結晶サイズを有する微結晶である。
【0020】
微結晶二酸化チタン、好ましくはルチル型の二酸化チタンの結晶サイズ及び結晶型は、本発明方法により制御され得る。二酸化チタン生成物において、ルチル結晶型の割合は、好ましくは70%より多く、さらに好ましくは90%より多く、最も好ましくは99%より多く、例えば99.5%である。ルチル型のパーセンテージは、ケイ素及び塩酸の併用付加により、所望の用途に従って制御される。本質的に、ケイ素の実質的付加及び低塩酸濃度はルチルのパーセンテージを約70%にするが、一方、より低いケイ素付加及びより高いHCl濃度は、ルチルのパーセンテージを99.5%より高くする。
【0021】
本発明の第一の態様によれば、微結晶二酸化チタン生成物は、水系プロセスにより製造される。好ましくは、この場合、工程溶液は主に、水性混合物又は溶液である。さらに好ましくは、種々の段階で沈殿する固体物質も含有する水性スラリーが用いられる。典型的なマルチステッププロセスの少なくとも一工程において、上記の小結晶サイズを有する二酸化チタン生成物を提供するためにケイ素含有化合物が用いられる。上記のケイ素含有化合物の付加は、ルチル型の二酸化チタンの結晶の成長を抑制し、したがって最終的な微結晶二酸化チタン生成物を生じる。
【0022】
本発明の第一の観点の第一の好ましい実施形態によれば、二酸化チタン出発物質は、先ず塩基で処理されて、アルカリ性pH値を生じる。その場合、二酸化チタン出発物質は水中でスラリーにされ、したがって、250g/l〜450g/lの稠密度を有するスラリーを生じる。上記の塩基は、このスラリーに付加される。上記塩基は、好ましくは水酸化ナトリウムの水溶液であり、処理は高温で実行される。塩基の濃度は、好ましくは、約300g〜350gのNaOH/水1lの当量を生じるよう調整される。高温は、好ましくは約60℃以上である。スラリーは、好ましくはこの温度で1時間より長く撹拌される。
【0023】
二酸化チタン出発物質が硫酸塩法の中間体、例えば二酸化チタン水和物である場合、塩酸中で可溶性であるチタン酸ナトリウムを生じるための塩基による上記処理は、好ましくは約95℃又はそれより高い温度で、好ましくは2時間実行される。処理は、蒸気により間接的に加熱される撹拌反応器中で実施され得る。塩基処理後の中間体のpHは、好ましくは11より高い。
【0024】
塩基処理後に得られるチタン析出物は、好ましくは依然として熱いまま、すなわち温水で、好ましくは60℃未満の水で洗浄され、濾過される。洗浄の目的は、硫酸イオンを含有しない析出物を得ることであり、したがって、既知であるように、塩化バリウム試験を用いて洗浄結果の検査を可能にする。その後、硫酸塩を有さないかつナトリウムを含有する析出物は水中でスラリーにされて、100g/l〜250g/l、好ましくは170g/l〜210g/lの範囲の二酸化チタン濃度を有するスラリーを生じる。
【0025】
ケイ素含有化合物は、塩基で処理されたこの析出物、すなわち中間体に添加される。上記ケイ素化合物は、好ましくは、水溶液として、好ましくは高温で、好ましくは50℃より高い温度で、撹拌しながら添加される。TiOの結晶化中の処理下で溶液中のアジュバントとして出来るだけ均一に分布させるために、上記ケイ素化合物が水溶性形態であることが必要である。したがって起きる反応の均質性を制御することができ、したがって、非常に均一な品質の二酸化チタン生成物が得られる。ケイ素化合物は、典型的にはアルカリ性条件下で可溶性形態であり、したがって、溶液のpHは9.8より高くなくてはならない。
【0026】
好ましくは、本発明のケイ素化合物は、実質的に水溶性ケイ酸塩、さらに好ましくは水ガラスである。「水ガラス」という用語は、ケイ酸ナトリウムの濃縮溶液を指し、水中で容易に可溶性であるオルトケイ酸ナトリウム(NaSiO)及びメタケイ酸ナトリウム(NaSiO)(CAS番号6834−92−0)を実質的に包含する。付加されるべきケイ素化合物は、好ましくは、水溶液の形態である。工程に付加されるべき水ガラス溶液の濃度は、60g/lより高いSiOである。
【0027】
塩基処理及びケイ素含有化合物の付加後、析出物又はそのスラリーは塩酸で処理され、その最終濃度は、ルチル型の所望量及び工程に関する経済的要件によって、15g/l〜65g/l、好ましくは30g/l〜50g/l、さらに好ましくは30g/l〜40g/lの範囲内の所望の値に調整される。酸として、濃塩酸(37重量%)が好ましく用いられる。HCl濃度は滴定により制御され、必要な場合、再調整される。酸添加後、スラリーの温度は、好ましくは80℃〜100℃の範囲に上げられ、この温度で、スラリーは、好ましくは20分〜180分間撹拌しながら沸騰される。塩酸を添加する時間は、バッチサイズによって変わる。ケイ素の添加は、結晶サイズを低減するが、他方で、アナターゼ型の形成を容易にすることが判明した。これは、酸濃度を調整することにより相殺されて、高比率のルチル型を含有する最終生成物を生じる。
【0028】
好ましくは、ケイ素含有化合物は、酸処理後にも添加され得る。この場合、ケイ素はルチル形成を防止し、二酸化チタンの光活性を低減すること、すなわち、例えば化粧品用途において望ましい特性であるその光安定性を改良することが見出されている。他方、アナターゼ型は、例えば、高光活性及び低光安定性を有する、優れたかつ有効な光触媒の製造のためにより好ましいと考えられる。したがって、結果は、改良された品質及びより高い抵抗性を有する二酸化チタン生成物である。さらに、洗浄生成物は依然として、二酸化チタンの結晶サイズの成長を伴わずに、炉中で高温に加熱され得る。この熱処理は、実質的には、最終生成物の比表面積を低減し、熱安定性を改良する。既知であるように、生成物の分散特性は、実質的に、より低い比表面積により増大される。より良好な熱安定性(温度を上げても、物理学的又は化学的変化が生成物中に起きないということを意味する)は、例えば、温度が高い場合の種々の触媒的用途における好ましい特性である。二酸化チタンの小結晶サイズは、このような場合に有益である。
【0029】
ケイ素含有化合物はまた、洗浄生成物に、すなわち、既知であるように、二酸化チタンの特性が種々の用途に、より適するように調整され得る「コーティング工程」で、添加され得る。例えば、二酸化チタンの光安定性及び分散性は、このようにして調整され得る。
【0030】
スラリーは、塩基処理、ケイ素含有化合物の添加、又は任意のさらなる添加の後に、及び酸処理の後に中和される。中和は、好ましくは水酸化ナトリウムを用いて実施される。水酸化ナトリウム溶液の濃度は、典型的には少なくとも200g/l、好ましくは200g/l〜400g/lである。この状況では、中性という用語は、4〜6、好ましくは5〜6のpH値を指す。中和スラリーは、好ましくは、その量によって、10分〜60分の間混合される。添加されたケイ素は、中和により形成されている二酸化チタン上に付着される。
【0031】
中和後、析出物、すなわち完成二酸化チタン生成物は、濾過され、水で洗浄され、それ自体既知の方法で、好ましくは95℃〜110℃で乾燥される。この生成物は、既知の方法で、例えば焼成により、さらに処理され得る。
【0032】
酸処理前に、本発明に従って付加されるべきケイ素化合物の量は、(TiOを基として、SiOとして表されて)好ましくは0.5重量%〜10重量%、好ましくは2重量%〜3重量%、さらに好ましくは2重量%〜2.5重量%である。ケイ素は最終生成物中にほぼ完全に組み入れられ、すなわち、最終生成物中のケイ素の量は製造工程に添加されるものに対応する、ということが見出され得る。ケイ素処理工程が酸処理後に実施される場合、この工程で添加されるべき量は、(TiOを基として、SiOとして表されて)好ましくは40重量%未満、好ましくは2重量%〜39重量%、好ましくは10重量%〜30重量%である。
【0033】
本発明の第一の観点の第二の実施形態によれば、塩基性溶液、好ましくは水酸化ナトリウム溶液が調製され、ケイ素化合物が添加される。この混合物に、二酸化チタン出発物質がさらに添加され、上記物質は好ましくは実質的にオキシ塩化チタン、さらに好ましくはその水溶液である。混合物のpHは、塩基で4〜7の範囲に調整され、その後、形成された析出物、すなわち二酸化チタン生成物が濾過され、乾燥される。
【0034】
塩基性溶液、好ましくは水酸化ナトリウム溶液の濃度は、例えば200g/l〜400g/lの範囲であり得る。塩基性溶液は、好ましくは約60℃に加熱され得る。pHの調整前に、混合物は、好ましくは90℃より低い値に加熱され得る。
【0035】
オキシ塩化チタンは、好ましくはTiOとして表される150g/l〜300g/lの範囲のTi濃度を有する市販のオキシ塩化チタン溶液である。オキシ塩化チタン溶液中に存在する塩酸に関して、混合物の塩酸濃度は、20g/l〜25g/lの値に上げることができ、この濃度で、混合物は好ましくは中和前に1時間未満、沸騰され得る。
【0036】
好ましくは、ケイ素含有化合物は、実質的には水溶性ケイ酸塩、好ましくは水ガラスである。添加されるべきケイ素化合物は、好ましくは、水溶液の形態である。さらに好ましくは、プロセスに添加されるべき水ガラス溶液の濃度は、SiOの60g/lより高い。
【0037】
この実施形態では、ケイ素含有化合物は、TiOを基として0.5重量%〜5重量%、好ましくは1重量%〜2.5重量%、さらに好ましくは1.5重量%〜2重量%の量で、(SiOとして表される)該化合物を含む最終生成物を提供するために添加される。
【0038】
この実施形態の利点は、より小さな結晶サイズでも、最初に記載されたバージョンにおけるよりも少ないケイ素添加により得られ、すなわち、所望の小結晶サイズがより容易に得られるという点である。
【0039】
本発明の第二の観点によれば、塩基溶液、好ましくは水酸化ナトリウム溶液が調製され得る。二酸化チタン出発物質、好ましくは実質的にオキシ塩化チタンが、さらに上記溶液に、好ましくは水溶液として添加され得る。混合物のpHは、塩基で4〜7の値に調整され、その後、このように形成された析出物、すなわち二酸化チタン生成物が濾過され、乾燥される。
【0040】
用いられる塩基溶液の濃度は、例えば300g/l〜800g/lの範囲であり得る。塩基溶液は、好ましくは約60℃に加熱され得る。pHの調整前に、混合物は、好ましくは90℃より低い温度に加熱され得る。
【0041】
オキシ塩化チタンは、好ましくはTiOとして表されて150g/l〜300g/lの範囲のTi濃度を有する市販のオキシ塩化チタン溶液である。オキシ塩化チタン溶液中に存在する塩酸に関して、混合物の塩酸濃度は、20g/l〜25g/lの値に上げることができ、この濃度で、混合物は好ましくは中和前に1時間未満、沸騰され得る。
【0042】
この方法を用いて、10nmの結晶サイズを有する微結晶二酸化チタン生成物が得られ、生成物中のルチルの割合は、70%より高く、好ましくは90%より高く、最も好ましくは99%より高い。
【0043】
本発明の第三の観点によれば、微結晶二酸化チタン生成物は上記の方法により得られ、生成物の結晶サイズは、15nmより低い値に低減される。形成されるこの生成物は、好ましくはルチル型であり、70%より高い、好ましくは90%より高い、最も好ましくは99%より高いルチルパーセンテージを有する。生成物は、それが製造方法によって変わり、好ましくは、二酸化チタン生成物の一部として、そして従来型のものではないが、例えば既知であるように完成二酸化チタン生成物の外表面上に堆積されるSiOコーティングとして、多量のケイ素を、その構造中に含有することを特徴とする。ケイ素化合物での任意のコーティング処理前の、構造中のケイ素の量は、(TiOを基として、SiOとして表されて)0.5重量%〜10重量%、好ましくは2重量%〜3重量%、さらに好ましくは2重量%〜2.5重量%である。
【0044】
ここで、実施例を用いて本発明を例証するが、本発明はそれらに限定されない。
【実施例】
【0045】
比較例1
亜硫酸塩法による二酸化チタンの製造は、濃縮チタン鉄鉱と硫酸との反応で開始する。形成された固体反応ケークを、水及び酸廃液により溶解する。不純物を除去し、硫酸鉄を結晶化により分離する。チタンを含有する溶液を濃縮し、二酸化チタン水和物を加水分解により沈殿させる。この沈殿塊を数段階で洗浄して、塩を遊離させる。
【0046】
特許文献3によれば、約10トンのこの洗浄二酸化チタン水和物沈殿塊(TiOとして表される)が提供され、水中でスラリーにされて、300g/l〜400g/lの稠密度を生じるが、350g/lが所望の値である。このようにして得られたスラリーを、60℃で700g/lの濃度を有する水溶液としてのNaOH 15トンの付加により、11より高いpH値の強塩基性にする。スラリーの温度を95℃に上げて、その後、この温度で2時間、混合物を撹拌する。この処理中、二酸化チタン水和物塊はアルカリと反応して固体のチタン酸ナトリウムを生じ、その後、塩化バリウムが析出する際に濾液中に硫酸塩が見い出されなくなるまで、温水でスラリーを洗浄することにより硫酸イオンを除去する。
【0047】
硫酸塩を含有しないナトリウム含有濾液ケークを水中でスラリーにして、二酸化チタンとして表される、約180g/lの濃度を有するスラリーを生じ、その後、絶えず撹拌しながら70℃に加熱する。その後、濃塩酸(37重量%)の添加により、スラリーの酸含量を所望の値(この場合、25g/l)に調整する。HCl濃度を滴定により制御し、必要な場合は再調整する。スラリーの温度をさらに90℃に上げて、この温度で、スラリーを撹拌しながら120分間沸騰させる。
【0048】
塩酸処理後、スラリーを約60℃に冷却させて、その後、300g/lの水酸化ナトリウムで中和してpH値を5.5とする。スラリーを30分間撹拌し、その後、濾過し、水で洗浄して、析出物を105℃で乾燥させる。生成物のルチルのパーセンテージ(R%)、ルチル及びアナターゼ相の平均結晶サイズ、並びにSiO含量を確定する。得られた結果を、以下の表1に示す。
【0049】
実施例2〜12
酸化チタン及びチタンオキシ水和物を実施例1に記載したように調製し、その後、実施例1に記載したように、実質的には特許文献3に従って、塩基でチタンオキシ水和物を処理する。
【0050】
その後、硫酸塩を含有しないナトリウム含有濾液ケークを水中でスラリーにして、二酸化チタンとして表される、約180g/lの濃度を有するスラリーを生じる。63g/lのSiO含量を有する水ガラスの付加によりスラリーのSiO含量を所望の値に調整し、絶えず撹拌しながらスラリーを70℃に加熱する。水ガラスの所望量を、表1に示す。実施例2〜6において、水ガラス中に存在するSiOの添加をTiOを基として2重量%で一定に保持する、一方、塩酸濃度を25g/l〜55g/lの間で変更する。実施例7〜9を、SiOの2.5%添加で実行するが、一方、塩酸の濃度を変更する。実施例10〜12を、それぞれSiOの3%添加で実行する。
【0051】
その後、濃塩酸(37重量%)の付加により、スラリーの酸含量を表1に示した所望の値に調整する。HCl濃度を滴定により制御し、必要な場合は再調整する。スラリーの温度をさらに90℃に上げて、この温度で、スラリーを撹拌しながら120分間沸騰させる。
【0052】
塩酸処理後、スラリーを約60℃に冷却させて、その後、300g/lの水酸化ナトリウムで中和してpH値を5.5とする。スラリーを30分間撹拌し、その後、濾過し、水で洗浄して、析出物を105℃で乾燥させる。生成物のルチルのパーセンテージ(R%)、ルチル及びアナターゼ相の平均結晶サイズをX線回折(nm)により確定し、生成物のSiO含量をTiOと比較した重量%で確定する。
【0053】
得られた結果を、以下の表1に示す。
【0054】
表1に示した結果は、結晶サイズ減少に及ぼすSiOの影響、及びルチル形成に及ぼす塩酸濃度の影響、塩酸濃度増大に伴って増大するルチルのパーセンテージを、明らかに示す。
【0055】
ルチルのパーセンテージ及び該相の結晶サイズを、既知の手法でX線回折法により確定した。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例13〜16
実施例1に従って製造したナトリウムを含有するフィルターケークとしての約114gのTiOを、水中でスラリーにして、約186g/l(二酸化チタンとして算定)の濃度を有するスラリーを得る。63g/lのSiO含量を有する水ガラスをスラリーに付加して、TiOを基として2.5重量%のSiO濃度を得る。スラリーを、絶えず撹拌しながら70℃に加熱する。
【0058】
その後、濃塩酸を1分間のうちにスラリーに付加して、約65g/lの塩酸濃度を得る。スラリーの温度をさらに90℃に上げて、この温度で、スラリーを撹拌しながら120分間沸騰させる。塩酸処理後、溶液を約60℃に冷却させる。
【0059】
所望量のSiOを水ガラスの形態で添加し、その後、水酸化ナトリウムで中和して、pH値を5.3とする。スラリーを30分間撹拌し、その後、スラリーを濾過して、水で洗浄する。ケークを回転炉中で240℃で120分間乾燥させ、550℃で90分間焼成する。しかしながら、実施例13からの試料は焼成されなかった。
【0060】
結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2の結果は、塩酸とともに沸騰後に付加されたSiOが、乾燥及び焼成のようなその後の処理ステップでのルチル形成及び結晶成長を防止することを示す。
【0063】
実施例17
実施例1に従って製造したナトリウムを含有するフィルターケークとしての5100gのTiOを、水中でスラリーにして、約183g/lの二酸化チタン濃度を有するスラリーを得る。
【0064】
63g/lのSiOを含有する水ガラスをスラリーに付加して、TiOの2.2重量%のSiO濃度を得る。スラリーを、絶えず撹拌しながら70℃に加熱する。その後、濃塩酸を約15分間のうちにスラリーに添加して、44.1g/lのHCl濃度を得る。スラリーの温度をさらに90℃に上げて、この温度で、スラリーを撹拌しながら120分間沸騰させる。HCl処理後、溶液を約60℃に冷却する。TiOを基として、20重量%のSiOと等価の15.9リットルの水ガラスを添加し、その後、水酸化ナトリウムで中和して、pHを5.5とする。スラリーを30分間撹拌し、その後、析出物を濾過し、水で洗浄する(洗浄水の量はチタンの量の約10倍である)。ケークを水中でスラリーにして、噴霧乾燥させる(Gea Niro A/S(番号092−1203−00))。生成物から測定されるルチルのパーセンテージは約99.5重量%で、ルチルの平均結晶サイズは10nmであり、そしてSiO含量は11.08%である。
【0065】
実施例18及び19
実施例17に記載したように調製した噴霧乾燥生成物を、650℃において回転ドラム炉中で焼成し、その後、生成物をスラリーにして、400g/lの稠密度を得る。スラリーを2つの部分に分ける。一方の部分(実施例18)に、グリセロールをTiOの20重量%の量で付加する。混合物を45分間撹拌し、噴霧乾燥させる。他方の部分(実施例19)に、グリセロールをTiOの13重量%の量で付加する。混合物を45分間撹拌し、噴霧乾燥させる。
【0066】
生成物の以下のパラメーターを測定した:
【0067】
【表3】

【0068】
窒素吸着を用いたBET法により知られているように、比表面積を測定した。
【0069】
実施例20
実施例1に従って製造したナトリウムを含有するフィルターケークとしての5100gのTiOを、水中でスラリーにして、203g/lの二酸化チタン濃度を有するスラリーを得る。63g/lのSiOを含有する水ガラスをスラリーに付加して、TiOを基にして2.2重量%のSiO濃度を得る。スラリーを、絶えず撹拌しながら70℃に加熱する。その後、濃塩酸を約15分間のうちにスラリーに付加して、36g/lのHCl濃度を得る。スラリーの温度をさらに90℃に上げて、この温度で、スラリーを撹拌しながら45分間沸騰させる。HCl処理後、溶液を約60℃に冷却させる。TiOを基にして、25重量%のSiOと同等の19.5リットルの水ガラスを30分間のうちに付加する。温度を、75℃以上の値に下げる。75℃で45分間撹拌後、水酸化ナトリウムでpH値を9.5に上げる。75℃で45分間さらに撹拌後、硫酸(30重量%)で中和して、pH値を4.5とする。スラリーを30分間撹拌し、その後、pHを制御し、必要な場合は調整する。冷蒸留水を付加して、温度を約60℃に下げる。必要な場合は、60℃でpHを4.5〜4.7の範囲に調整する。5mlのスラリーを取り、実験室規模のMoore濾過装置(吸引フィルター)を用いて、濾過し、洗浄する。少量を105℃で乾燥させる。
【0070】
生成物の以下のパラメーターを分析した:
【0071】
【表4】

【0072】
実施例21
市販のオキシ塩化チタン(Kronos製)を、TiOとして算定される205g/lのTi含量を有するチタン源として用い、HCl含量は321g/lである。HCl処理で、HCl含量を20g/l〜25g/lとする。
【0073】
342g/lの濃度を有する水酸化ナトリウム溶液0.800リットルを、60℃に加熱する。63g/lのSiO含量を有する水ガラス4.5mlを添加する。チタンオキシ塩化物1.068リットルを、5分間のうちに溶液に付加する。5分間撹拌し、1℃/分の速度で80℃に加熱した後、絶えず混合しながら、混合物をこの温度で30分間沸騰させる。水酸化ナトリウムでpHを調整して、その値を6とし、30分間混合させる。析出物を濾過し、105℃で乾燥させる。分析した生成物のR%は99.5重量%より高く、ルチルの結晶サイズは5nmである。
【0074】
実施例22
市販のオキシ塩化チタンを、TiOとして算定される205g/lのTi含量を有する実施例21と同様のチタン源として用い、HCl含量は321g/lである。HCl処理で、HCl含量を12g/lとする。
【0075】
760g/lの濃度を有する水酸化ナトリウム溶液0.494リットルを、60℃に加熱する。オキシ塩化チタン1.068リットルを、5分間のうちに溶液に添加する。5分間撹拌し、1℃/分の速度で80℃に加熱した後、絶えず混合しながら、混合物をこの温度で30分間沸騰させる。水酸化ナトリウムでpHを調整して、その値を6とし、30分間混合させる。析出物を濾過し、105℃で乾燥させる。分析した生成物のR%は99.5重量%より高く、ルチルの結晶サイズは10nmである。このようにして製造される二酸化チタンの結晶サイズは小さいが、しかしそれは、ケイ素化合物、例えば実施例21に記載したような水ガラスの付加によりさらに低減させることができ、したがって本実施例で得られる結果と比較して、結晶サイズを半分に低減し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系プロセスによる15nmより小さい結晶サイズを有するルチル型の微結晶二酸化チタンの製造方法であって、該方法の少なくとも一工程において、ケイ素含有化合物を用いて小結晶サイズを有する前記二酸化チタン生成物を得ることを特徴とする方法。
【請求項2】
a)二酸化チタン出発物質を塩基で処理してアルカリ性pH値を得る工程、及び
b)前記ケイ素含有化合物を工程a)で得られた析出物に添加する工程;及び
c)工程b)で得られた前記析出物を、15g/l〜65g/lの範囲の最終濃度に調整された塩酸で処理する工程、及び
d)工程c)で得られた前記析出物を中和する工程、
を包含することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二酸化チタン出発物質が二酸化チタン水和物を実質的に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ケイ素含有化合物を、TiOの0.5重量%〜10重量%、好ましくは2〜3重量%、さらに好ましくは2重量%〜2.5重量%の範囲の、SiOとして算定される前記化合物の含量を有する最終生成物を生じる量で添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程c)において、塩酸の前記最終濃度を、15〜65g/l、好ましくは30g/l〜50g/l、さらに好ましくは30g/l〜40g/lであるよう調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法において、前記塩酸処理工程c)の後、中和工程d)の前に、前記ケイ素含有化合物を添加することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
SiOとして算定される前記最終生成物中の、前記塩酸処理工程c)後、及び前記中和工程d)前に添加されるべき前記ケイ素化合物の量が、TiOの40重量%より低い、好ましくは2重量%〜39重量%、さらに好ましくは10重量%〜30重量%であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
a)前記ケイ素化合物を塩基性溶液に添加すること、及び
b)二酸化チタン出発物質を工程a)の前記溶液に添加すること、及び
c)工程b)で得られた前記混合物のpHを4〜7に調整すること、及び
d)このように形成された前記析出物を濾過及び乾燥させること、
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記チタン出発物質がオキシ塩化チタンを実質的に含むことを特徴とする請求項1又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記ケイ素化合物を、TiOの0.5重量%〜5重量%、好ましくは1重量%〜2.5重量%、さらに好ましくは1.5重量%〜2重量%の範囲の、SiOとして算定される前記化合物の含量を有する最終生成物を生じる量で添加することを特徴とする請求項1、8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記ケイ素化合物が水溶性ケイ酸塩、好ましくは水ガラスを含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
15nmより小さい結晶サイズを有する請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法により製造された微結晶二酸化チタン生成物。
【請求項13】
結晶形態のルチルの割合が70%より多い、好ましくは90%より多い、さらに好ましくは99%より多いことを特徴とする請求項12に記載の生成物。
【請求項14】
前記生成物の構造が、ケイ素化合物でのコーティング処理前に、TiOを基としてSiOとして算定される、0.5重量%〜10重量%、好ましくは2重量%〜3重量%、さらに好ましくは2重量%〜2.5重量%のケイ素を含むことを特徴とする請求項12又は13に記載の生成物。

【公表番号】特表2011−527282(P2011−527282A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517184(P2011−517184)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050587
【国際公開番号】WO2010/004086
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(510041821)
【Fターム(参考)】